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特許7617395画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F27D 21/00 20060101AFI20250110BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20250110BHJP
   G06T 5/70 20240101ALI20250110BHJP
   G06T 7/38 20170101ALI20250110BHJP
   C10B 29/06 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
F27D21/00 Q
G01N21/88 J
G06T5/70
G06T7/38
C10B29/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021024820
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022126952
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】小杉 聡史
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200528(JP,A)
【文献】特表2018-523222(JP,A)
【文献】特開2016-050209(JP,A)
【文献】特開昭60-244821(JP,A)
【文献】特開平03-105195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 21/00
G01N 21/88
G06T 5/70
G06T 7/38
C10B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理装置であって、
前記炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、
前記時間代表値画像の各画素値と、前記時間代表値画像において前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、
前記フィルタ配列を用いて、前記撮像装置により撮像される画像を補正する補正処理部と、
を有する、画像処理装置。
【請求項2】
前記フィルタ生成部は、前記時間代表値画像の各画素値それぞれについて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値を画素値で除した値を配列したフィルタ配列を生成する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記フィルタ生成部は、前記時間代表値画像の各画素値それぞれについて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値から画素値を減じた値を配列したフィルタ配列を生成する、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像を分類する複数のクラスそれぞれについて、前記フィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を予め設定するフィルタ補正係数設定部を有し、
前記補正処理部は、
前記撮像装置により撮像される画像が属するクラスを特定し、
前記特定されたクラスに対応するフィルタ補正係数に基づき前記フィルタ配列を補正した補正フィルタ配列を用いて、前記画像を補正する、請求項1~3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
炉内部を観察するための炉壁観察画像を生成する画像処理装置であって、
前記炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の斜視画像の各々の少なくとも一部の領域を正視画像にそれぞれ変換して得られた複数の炉壁正視画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる炉壁正視時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、
前記炉壁正視時間代表値画像の各画素値と、前記炉壁正視時間代表値画像において前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、
前記フィルタ配列を用いて前記炉壁正視画像を補正し、補正炉壁正視画像を生成する補正処理部と、
を有する、画像処理装置。
【請求項6】
前記補正処理部により補正された複数の前記補正炉壁正視画像に対し、互いに重複する部分を含む2つの前記補正炉壁正視画像である第1の補正炉壁正視画像と第2の補正炉壁正視画像とを連結するためのフレーム間移動量を、テンプレートマッチング処理によりそれぞれ算出するフレーム間移動量算出部と、
前記フレーム間移動量に基づき前記第1の補正炉壁正視画像と前記第2の補正炉壁正視画像とを連結して前記炉壁観察画像を生成する炉壁観察画像生成部と、
を有する、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記炉壁正視画像を分類する複数のクラスそれぞれについて、前記フィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を予め設定するフィルタ補正係数設定部を有し、
前記補正処理部は、
前記炉壁正視画像が属するクラスを特定し、
前記特定されたクラスに対応するフィルタ補正係数に基づき前記フィルタ配列を補正した補正フィルタ配列を用いて、前記炉壁正視画像を補正して、前記補正炉壁正視画像を生成する、請求項5または6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理方法であって、
前記炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成し、
前記時間代表値画像の各画素値と、前記時間代表値画像において前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成し、
前記フィルタ配列を用いて、前記撮像装置により撮像される画像を補正する、
ことを含む、画像処理方法。
【請求項9】
炉内部を撮像した画像を画像処理するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、
前記時間代表値画像の各画素値と、前記時間代表値画像において前記撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、前記撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、
前記フィルタ配列を用いて、前記撮像装置により撮像される画像を補正する補正処理部として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理装置、画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の炭化室をはじめとする高温の炉室においては、炉壁が耐火物で構成されており、耐火物の劣化状況を的確に把握することはコークス炉などの炉操業管理上重要である。特に、コークス炉の炭化室は、過酷な条件下で通常30年以上の長期間にわたって連続操業される。炭化室を構成する耐火煉瓦は、熱的、化学的及び機械的要因によって徐々に劣化する。このため、炉壁の損傷や付着カーボン不良に起因するコークスの押し詰まりが生じ、発生した押し詰まりによってさらなる炉壁の損傷、生産スケジュール遅延、復旧作業のための作業負荷増大を招く。したがって、炭化室内の、特に炉壁を構成する耐火煉瓦の劣化状況を常時把握しておくことは、コークス炉操業管理上極めて重要である。
【0003】
コークス炉の炭化室の炉壁を観察するための方法として、例えば特許文献1には、コークス炉炭化室の窯口よりカメラを内部に挿入し、内壁の撮像をもとに炉壁状況を観察するに際し、カメラの視野を斜めとし、炉壁を斜視像として順次撮影して、カメラで少なくとも炉長方向のほぼ全域を撮影し、斜視像の撮像位置情報(炉長方向位置)と、斜視像を正面像に変換した画像情報をもとに、炭化室内の炉壁状況を観察する、コークス炉炭化室の内壁観察方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、炭化室の両壁面を、これらの法線方向に対して傾斜した方向から各別のカメラにより撮像し、これらの壁面の斜視画像として与えられる画像データを参照して、両壁面に発生している損傷の種類を認識する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、レーザ距離計が計測したコークス炉炭化室の内壁面までの距離に応じた出力電圧を信号変換器によって音声帯域信号に周波数変調し、ビデオカメラが撮影した内壁面の画像とともに記録することにより、内壁面の画像と撮像位置の窯幅とを対応付ける技術が開示されている。
【0005】
このように、熱対策したカメラを炉内に挿入し、炉壁を撮影した映像を用いて炭化室の炉壁を観察することで、炉内中心部においても炉壁を観察することができ、作業員にとっても確認作業を安全に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-105195号公報
【文献】特開2001-3058号公報
【文献】特開2001-11465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コークスの押出しは十数分に1回という高い頻度で行われ、カメラ等は高温の炭化室内に挿入される。コークスの押出し毎に炭化室を観察する場合、炭化室内で発煙し、カメラが煙にさらされることがある。このため、押出機を炭化室内に挿入する度にカメラは徐々に汚れ、カメラの観察窓に付着した汚れにより撮像画像の鮮明さが失われる。カメラの観察窓の清掃は、通常、炉の点検時など限られた場合にのみ行われることから、カメラの観察窓に汚れが付着したままコークスの押出し毎の撮影が続けられており、撮像画像が不鮮明になることがある。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、撮像画像に映り込む撮像装置の観察窓の汚れによって生じる不鮮明さを軽減し、より鮮明な炉内画像を得ることが可能な、画像処理装置、画像処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理装置であって、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、フィルタ配列を用いて、撮像装置により撮像される画像を補正する補正処理部と、を有する、画像処理装置が提供される。
【0010】
フィルタ生成部は、時間代表値画像の各画素値それぞれについて、撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値を画素値で除した値を配列したフィルタ配列を生成してもよい。
【0011】
あるいは、フィルタ生成部は、時間代表値画像の各画素値それぞれについて、撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値から画素値を減じた値を配列したフィルタ配列を生成してもよい。
【0012】
また、画像を分類する複数のクラスそれぞれについて、フィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を予め設定するフィルタ補正係数設定部を有し、補正処理部は、撮像装置により撮像される画像が属するクラスを特定し、特定されたクラスに対応するフィルタ補正係数に基づきフィルタ配列を補正した補正フィルタ配列を用いて、画像を補正してもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、炉内部を観察するための炉壁観察画像を生成する画像処理装置であって、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の斜視画像の各々の少なくとも一部の領域を正視画像にそれぞれ変換して得られた複数の炉壁正視画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる炉壁正視時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、炉壁正視時間代表値画像の各画素値と、炉壁正視時間代表値画像において撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、フィルタ配列を用いて炉壁正視画像を補正し、補正炉壁正視画像を生成する補正処理部と、を有する、画像処理装置が提供される。
【0014】
画像処理装置は、補正処理部により補正された複数の補正炉壁正視画像に対し、互いに重複する部分を含む2つの補正炉壁正視画像である第1の補正炉壁正視画像と第2の補正炉壁正視画像とを連結するためのフレーム間移動量を、テンプレートマッチング処理によりそれぞれ算出するフレーム間移動量算出部と、フレーム間移動量に基づき第1の補正炉壁正視画像と第2の補正炉壁正視画像とを連結して炉壁観察画像を生成する炉壁観察画像生成部と、を有してもよい。
【0015】
また、画像処理装置は、炉壁正視画像を分類する複数のクラスそれぞれについて、フィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を予め設定するフィルタ補正係数設定部を有し、補正処理部は、炉壁正視画像が属するクラスを特定し、特定されたクラスに対応するフィルタ補正係数に基づきフィルタ配列を補正した補正フィルタ配列を用いて、炉壁正視を補正して、補正炉壁正視画像を生成してもよい。
【0016】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理方法であって、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成し、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成し、フィルタ配列を用いて、撮像装置により撮像される画像を補正する、ことを含む、画像処理方法が提供される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、炉内部を撮像した画像を画像処理するためのプログラムであって、コンピュータを、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する時間代表値画像生成部と、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成するフィルタ生成部と、フィルタ配列を用いて、撮像装置により撮像される画像を補正する補正処理部として機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を用いて撮像画像を補正するため、撮像画像に映り込む撮像装置の観察窓の汚れによって生じる不鮮明さを軽減し、より鮮明な炉内画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る炉壁観察装置の一構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る画像処理装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図3】同実施形態に係る画像処理方法の全体の流れを示すフローチャートである。
図4】時間平均画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
図5】フィルタ生成処理の一例である、乗算フィルタの生成処理を示すフローチャートである。
図6】フィルタ生成処理の一例である、加算フィルタの生成処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態に係る画像処理装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図8】同実施形態に係る画像処理方法の全体の流れを示すフローチャートである。
図9】左右領域算出処理の一例を示すフローチャートである。
図10】時間平均画像の一例を示す模式図である。
図11】時間平均画像におけるテンプレートマッチング処理を説明する説明図である。
図12】フィルタ生成処理の一例を示すフローチャートである。
図13】フレーム間移動量算出処理の一例を示すフローチャートである。
図14】炉壁斜視画像を透視変換して炉壁正視画像とする処理を説明する説明図である。
図15】現フレームにおける探索領域とテンプレート画像A2との関係を示す説明図である。
図16】フレーム間移動量推定処理の一例を示すフローチャートである。
図17】炉壁観察画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
図18】炉壁観察画像生成処理を説明する説明図である。
図19】フィルタ配列を補正するためのフィルタ補正係数を決定するためのフィルタ補正係数決定処理の一例を示すフローチャートである。
図20図3に示した第1の実施形態に係る画像処理方法において、フィルタ配列の補正を行う場合の画像処理方法を示すフローチャートである。
図21】フィルタ補正係数選択処理の一例を示すフローチャートである。
図22】時間平均画像の一例を示す画像である。
図23図22に示す時間平均画像から生成されたフィルタ配列により、当該時間平均画像を補正する前の画像と補正後の画像とを示す画像である。
図24図22に示す時間平均画像から生成されたフィルタ配列により、新たに取得された炉内部の画像を補正する前の画像と補正後の画像とを示す画像である。
図25】本発明の各実施形態に係る画像処理装置として機能する情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
[1.第1の実施形態]
[1-1.コークス炉の炭化室の観察]
まず、図1に基づいて、コークス炉の炭化室の炉壁画像を取得する炉壁観察装置の一構成例を説明する。図1は、本実施形態に係る炉壁観察装置の一構成例を示す模式図である。
【0022】
コークス炉1は、コークスを生成するための窯炉である。コークス炉1の炉体の上部には炭化室と燃焼室とが交互に配列され、下部には蓄熱室が設けられる。コークスは、蓄熱室でそれぞれ予熱された燃焼ガスと燃焼用空気とを燃焼室で燃焼させ、発生した熱によって炭化室に装入された石炭を乾留することによって生成される。
【0023】
図1は、コークス炉1の炭化室10の内部を炭化室幅方向(X方向)から見た状態を示している。炭化室10は炭化室幅方向に対向する2つの炉壁11により構成されており、図1には紙面奥側にある1つの炉壁11のみが示されている。炭化室10に装入された石炭を乾留して生成されたコークスは、押出ラムビーム20の一端に設けられている押出ラム21が押出方向(Y方向)に移動されることにより炭化室10のコークス排出側へ押し出され、炭化室10から排出される。
【0024】
図1の押出ラムビーム20には、炭化室10の幅中央に、高さ方向(Z方向)に並列された2つの撮像装置31、33が設けられている。撮像装置31、33は、炭化室10の炉壁11の炉壁画像を取得する炉壁観察装置として機能する。撮像装置31、33は、炭化室10内の高温環境にも耐え得るように、冷却機構または耐熱機構を備えている。図1に示す撮像装置31、33は、コークス排出側と反対側の押出機側を撮像方向として、押出ラムビーム20が押出機側からコークス排出側に移動される際に、または、コークス排出側から押出機側に移動される際に、順次炉壁11の画像を撮像する。これにより、コークスの押出毎に炭化室10内を観察することができる。撮像装置31、33により取得された画像は、後述する画像処理装置へ出力される。
【0025】
なお、図1では2つの撮像装置31、33が設置されているが、本発明はかかる例に限定されず、撮像装置は1つでもよく、3つ以上でもよい。また、撮像装置31、33は、押出ラムビーム20以外の、炭化室10内を押出方向に沿って移動可能な移動機構に設けてもよい。
【0026】
[1-2.画像処理装置]
図1に示した撮像装置31、33により取得された画像は、本実施形態に係る画像処理装置50へ出力される。本実施形態に係る画像処理装置50は、コークス炉1の炭化室10内部の炉壁11を撮像した画像を画像処理し、画像に映り込む撮像装置31、33の観察窓の汚れを軽減してより鮮明な炉内画像を提供するための装置である。
【0027】
図2に、本実施形態に係る画像処理装置50の一構成例を示す。本実施形態に係る画像処理装置50は、図2に示すように、時間代表値画像生成部51と、フィルタ生成部53と、補正処理部55とを有する。
【0028】
時間代表値画像生成部51は、炉内部を移動する撮像装置31、33により順次撮像された炉壁11の複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する。撮像装置31、33により撮像された炉壁の画像は、例えば記憶部(図示せず。)に記録されている。時間代表値画像生成部51は、1回のコークスの押出しにおいて取得された複数の画像を用いて、時間代表値画像を生成する。時間代表値画像は、複数の画像における同一画素位置の画素値の代表値によって、撮像装置31、33により撮像される画像の輝度分布を表す画像である。画素値の代表値とは、画素値の中心的傾向を示す値であり、例えば、平均値、中央値、最頻値等である。時間代表値画像生成部51は、生成した時間代表値画像を、フィルタ生成部53へ出力する。
【0029】
フィルタ生成部53は、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置31、33による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成する。フィルタ配列は、撮像装置31、33の観察窓の汚れ等の外乱の影響により、不鮮明となった撮像装置31、33の撮像画像を復元するために用いられる。
【0030】
炉内部は全体的に高温であるため、撮像装置31、33の観察窓に汚れがなければ、時間代表値画像は、いずれの画素位置の画素値もほぼ同一の値となる。しかし、撮像装置31、33の観察窓に部分的に汚れがあれば、時間代表値画像の汚れ位置の画素値は、健全な(すなわち、撮像装置31、33の観察窓に汚れのない)位置の画素値より小さくなる。したがって、時間代表値画像内の画素値の最大値(以下、「最大輝度値」ともいう。)は、時間代表値画像の汚れ位置に汚れがなかった場合の画素値にほぼ等しい。また、仮に全く汚れのない位置が時間代表値画像内になかったとしても、時間代表値画像内の最大輝度値は、健全であった場合の輝度値に最も近いと考えられる。つまり、時間代表値画像内の最大輝度値は、撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値といえる。そこで、フィルタ生成部53は、撮像装置31、33の観察窓の汚れ等の外乱による光量変化に対する画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を、時間代表値画像の各画素値と最大輝度値とに基づき生成する。フィルタ生成処理の詳細については後述する。フィルタ生成部53は、生成したフィルタ配列を、補正処理部55へ出力する。
【0031】
補正処理部55は、フィルタ配列を用いて、撮像装置31、33により撮像される炉内部の画像を補正する。撮像装置31、33により取得された炉内部の画像をフィルタ配列によって補正することにより、撮像装置31、33の観察窓の汚れ等の外乱により減少した画素値が復元される。これにより、撮像装置31、33により取得された炉内部の画像がより鮮明な画像となる。
【0032】
[1-3.画像処理方法]
次に、図3図6に基づいて、本実施形態に係る画像処理装置50による画像処理方法について、詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る画像処理方法の全体の流れを示すフローチャートである。フローチャート中の各処理の詳細については、図4図6を用いて説明する。以下では、時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値として、時間代表値画像の最大輝度値を用いる場合を説明する。また、以下では、1つの撮像装置(例えば撮像装置31)により取得された複数の画像から、画像を補正するフィルタ配列を生成し、フィルタ配列を用いて当該撮像装置によって撮像される画像を補正する場合について説明する。複数の撮像装置により炭化室内の画像を取得可能な場合には、以下に説明する画像処理方法を、撮像装置毎に実施すればよい。
【0033】
(S1:時間代表値画像生成処理)
まず、時間代表値画像生成部51は、炉内部を移動する撮像装置(例えば撮像装置31)により順次撮像された炉壁11の複数の画像から、同一画素位置の画素ごとに画素値の代表値を算出し、算出した各代表値を画素値として持つ各画素から構成される時間代表値画像を生成する(S1)。撮像装置により撮像された炉壁の画像は、例えば記憶部(図示せず。)に記録されている。時間代表値画像生成部51は、1回のコークスの押出しにおいて取得された複数の画像を用いて、例えば平均値、中央値、最頻値等の画素値の中心的傾向を示す値によって表される時間代表値画像を生成する。
【0034】
図4は、時間代表値画像生成処理の一例である時間平均画像生成処理の例を示すフローチャートである。時間平均画像生成処理は、代表値として平均値を用いた時間代表値画像である時間平均画像を生成する処理である。図4に示すように、時間代表値画像生成部51は、まず、時間平均画像の画素値を格納する2次元配列である時間平均画像用配列の各要素及びフレームの数をカウントするカウンタを初期値に設定する(S11)。なお、フレームは、1回のコークスの押出しにおいて順次取得される各画像を意味する。時間平均画像用配列の各要素は、フレームを構成する各画素に一対一で対応しており、初期値として、例えば「0」の値が格納される。ステップS11の後、時間代表値画像生成部51は、記憶部等に記録されている、撮像装置により撮像された炉壁の画像(フレーム)の読み込み(取得)を開始する(S12)。ステップS12では、フレームは、時系列順に(例えば、押出機側からコークス排出側に向かって順に)読み込まれる。
【0035】
時間代表値画像生成部51は、ステップS12にてフレームの読み込みを実行し、フレームの読み込みに成功したか否かを判定する(S13)。フレーム読み込みが成功した場合には(S13:YES)、当該フレームの各画素値を、各画素に対応する時間平均画像用配列の要素へ加算する(S14)。すなわち、新たにフレームが読み込まれる度に、その読み込まれたフレームを構成する各画素の画素値が、それぞれ対応する時間平均画像用配列の各要素に加算される。そして、時間代表値画像生成部51は、カウンタの値に1を加算して(S15)、ステップS12の処理に戻り、次のフレームを読み込む。ステップS12~S15の処理は、すべてのフレームの読み込みが完了するまで繰り返し実行される。
【0036】
一方、ステップS13にてフレームを読み込めなかった場合には(S13:NO)、最終フレームまで読み込みが完了したことから、その時点において時間平均画像用配列の各要素に格納されている画素値(すなわち各フレームの同一画素位置の画素値を合計した値)をそれぞれカウンタの値で除算し、時間平均画像を生成する(S16)。カウンタの値は、読み込まれたフレームの数に相当する。こうして、押出機側からコークス排出側への1回の移動において取得された画像の平均画像である時間平均画像が生成される。時間代表値画像生成部51は、生成した時間代表値画像を、フィルタ生成部53へ出力する。
【0037】
(S3:フィルタ生成処理)
次いで、フィルタ生成部53は、時間代表値画像の各画素値と最大輝度値とに基づいて、フィルタ配列を生成する(S3)。フィルタ配列は、撮像装置の観察窓の汚れ等の外乱の影響により、不鮮明となった撮像装置の撮像画像を復元するために用いられる。フィルタ配列は、撮像装置の観察窓の汚れ等の外乱による光量変化に対する画素値の変化を補正するものである。具体的なフィルタ配列としては、例えば、時間代表値画像の最大輝度値を時間代表値画像の画素値で除した値からなる乗算フィルタ、時間代表値画像の最大輝度値から時間代表値画像の画素値を減じた値からなる加算フィルタ等が用いられる。以下、フィルタ配列生成処理の具体例について、図5図6に基づき説明する。
【0038】
(a)乗算フィルタの生成処理
まず、図5に基づいて、本実施形態に係るフィルタ生成処理の一例である、乗算フィルタの生成処理について説明する。図5は、乗算フィルタの生成処理を示すフローチャートである。図5に示す処理では、時間代表値画像として、時間平均画像を用いている。
【0039】
まず、フィルタ生成部53は、画素値を変換する画素値変換領域を定めるマスク用配列を生成する(S31a)。画素値変換領域は、画像中においてフィルタ配列による補正を行う領域である。撮像装置により撮像された炉内部の画像には、炉壁部分以外の領域も含まれていることもあり、炉壁部分以外の領域は不要な場合もある。そこで、画像中の必要な領域を画素値変換領域として設定してもよい。画素値変換領域は、例えばユーザから指定された領域としてもよく、予め設定された画像中の領域としてもよい。設定された画素値変換領域に基づき、マスク用配列が生成される。
【0040】
次いで、フィルタ生成部53は、時間平均画像の画素値変換領域において、最大輝度値を求める(S32a)。最大輝度値を有する画素は、その位置では確実に観察窓に汚れが付着していない(健全である)画素、あるいは、健全であった場合の画素値に最も近い画素と考えられる。そこで、フィルタ生成部53は、図3のステップS1にて生成された時間代表値画像の画素値変換領域内において、最大輝度値を有する画素を特定し、最大輝度値を取得する。そして、フィルタ生成部53は、時間平均画像全体の各画素の画素値を最大輝度値で除算し、一時配列に格納する(S33a)。ここで、一時配列は、時間平均画像を構成する各画素に一対一で対応する要素を持つ。
【0041】
その後、フィルタ生成部53は、時間平均画像を構成する画素のうちマスク用配列により定まる画素値変換領域以外の領域の画素に対応する一時配列の要素の値を「1」に置換した後(S34a)、一次配列の各要素の値の逆数を求めて乗算フィルタを生成する(S35a)。ステップS34aの処理は、ステップS35aで逆数を求める際に、演算が不可能となることを防止するために行われる。ステップS35aにて生成された乗算フィルタは、下記式(1)で表される。
【0042】
【数1】
【0043】
なお、撮像画像がカラー(例えばRGB画像)である場合には、画素値の加減乗除等の演算は、色(例えば「R」、「G」、「B」)ごとに別個に行われる。
【0044】
撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がなければ、炉内部は全体的に高温であるため、時間代表値画像のすべての画素位置の画素値は最大輝度値にほぼ等しいはずである。ここで、汚れ付着による光量変化に対する画素値の変化に比例関係があると仮定すると、汚れ位置の画素値は、健全な位置の画素値(ここでは最大輝度値と仮定する。)に比べて下記式(2)だけ減少していることになる。
【0045】
【数2】
【0046】
乗算フィルタは、上記式(2)の画素値減分割合の逆数によって表されたものである。したがって、撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がある場合は、その位置の画素値を上記式(1)により表される乗算フィルタにより補正(乗算)すれば、その外乱により減少した画素値が復元される。一方で、撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がない場合、その位置の画素値は補正する必要がないが、その位置の画素値は最大輝度値にほぼ等しい。このため、上記式(1)により表される乗算フィルタの値はほぼ1となり、この乗算フィルタによって補正(乗算)しても補正したことにならない。
【0047】
(b)加算フィルタの生成処理
次に、図6に基づいて、本実施形態に係るフィルタ生成処理の一例である、加算フィルタの生成処理について説明する。なお、上記の乗算フィルタの代わりに加算フィルタを用いる場合に、加算フィルタの生成処理は実行される。図6は、加算フィルタの生成処理を示すフローチャートである。図6に示す処理においても、時間代表値画像として、時間平均画像を用いている。
【0048】
まず、フィルタ生成部53は、画素値を変換する画素値変換領域を定めるマスク用配列を生成する(S31b)。ステップS31bの処理は、図5のステップS31aと同様に行えばよい。
【0049】
次いで、フィルタ生成部53は、時間平均画像の画素値変換領域において、最大輝度値を求める(S32b)。ステップS32bの処理は、図5のステップS32aと同様に行えばよい。
【0050】
そして、フィルタ生成部53は、最大輝度値から時間平均画像の各画素値を減算した値をフィルタ配列に格納した後(S33b)、時間平均画像を構成する画素のうちマスク用配列により定まる画素値変換領域以外の領域の画素に対応するフィルタ配列の要素の値を「0」に置換する(S34b)。こうして、加算フィルタが生成される。ステップS34bにて生成された加算フィルタは、下記式(3)で表される。
【0051】
【数3】
【0052】
撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がなければ、炉内部は全体的に高温であるため、時間代表値画像のすべての画素位置の画素値は最大輝度値にほぼ等しいはずである。ここで、汚れ付着による光量変化に対する画素値の変化に加法性があると仮定すると、汚れ位置の画素値は、健全な位置の画素値(ここでは最大輝度値と仮定する。)に比べて下記式(4)だけ減少していることになる。
【0053】
【数4】
【0054】
加算フィルタは、上記式(4)の画素値減分を復元させるものとして用いられる。撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がある場合は、その位置の画素値を上記式(3)により表される加算フィルタにより補正(加算)すれば、その外乱により減少した画素値が復元される。一方で、撮像装置の観察窓に汚れ等の外乱がない場合、その位置の画素値は補正する必要がないが、その位置の画素値は最大輝度値にほぼ等しい。このため、上記式(3)により表される加算フィルタの値はほぼ0となり、この加算フィルタによって補正(加算)しても補正したことにならない。
【0055】
フィルタ生成部53は、図5または図6に示した処理によってフィルタ配列を生成し、生成したフィルタ配列を補正処理部55へ出力する。
【0056】
(S5:補正処理)
図3の説明に戻り、ステップS3にてフィルタ配列が生成されると、補正処理部55により、フィルタ配列を用いて炉内部の画像が補正される。
【0057】
例えば、フィルタ配列として上記式(1)により表される乗算フィルタを用いた場合には、補正後の画像の各画素の値は、下記式(5-1)で表される。また、フィルタ配列として上記式(3)により表される加算フィルタを用いた場合には、補正後の画像の各画素の値は、下記式(5-2)で表される。
【0058】
【数5】
【0059】
このように、撮像装置により取得された炉内部の画像をフィルタ配列によって補正することにより、撮像装置の観察窓の汚れ等の外乱により減少した画素値が復元される。これにより、撮像画像により取得された炉内部の画像をより鮮明にすることができる。
【0060】
以上、第1の実施形態に係る画像処理装置50と、これを用いた画像処理方法とについて説明した。本実施形態によれば、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成し、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値(例えば、最大輝度値)とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成し、フィルタ配列を用いて撮像装置により撮像される画像を補正する。これにより、撮像装置の観察窓の汚れ等の外乱により減少した画素値が復元され、撮像画像により取得された炉内部の画像をより鮮明にすることができる。
【0061】
[2.第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るコークス炉の炉内部を撮像した画像を画像処理する画像処理装置100、及び、これを用いた画像処理方法について説明する。
【0062】
[2-1.画像処理装置]
本実施形態に係る画像処理装置100は、コークス炉1の炭化室10内部の炉壁11の斜視画像を透視変換して得られた複数の炉壁正視画像を、上記第1の実施形態にて説明したフィルタ配列によって補正した後、連結して、炉壁観察画像を生成する装置である。
【0063】
撮像装置31、33にて取得された画像は、撮像装置31、33を炉壁11に正対させて設置する等して撮影方向を炉壁11の正面に向けることで得られる正視画像ではなく、撮影方向を押出方向として撮像装置31、33を設置すること等によって斜視の状態で炉壁11を撮像して得られる斜視画像である。また、撮像装置31、33を炭化室10の押出方向に移動させながら取得された各斜視画像においては、各斜視画像の撮像時の撮像装置31、33の位置から離れた部分ほど不明瞭になるため、各斜視画像に写っている炉壁11全体を明瞭に確認することは難しい。しかし、各斜視画像を撮像したときの押出方向の位置近傍での炉壁11は、各斜視画像から明瞭に確認することができる。
【0064】
そこで、本実施形態に係る画像処理装置100は、撮像装置31、33により撮像された斜視画像から炉壁を明瞭に確認できる部分を抽出するとともに、抽出した部分画像(炉壁斜視画像)を透視変換して炉壁正視画像を生成する。そして、画像処理装置100は、生成した炉壁正視画像に基づいて複数の炉壁正視画像を連結するためのフレーム間移動量を求め、求めたフレーム間移動量を用いて複数の炉壁正視画像を連結して、炉壁11全体を表す炉壁観察画像を生成する。
【0065】
このように、本実施形態に係る画像処理装置100では、押出方向における撮像装置31、33の位置情報を用いずに、フレーム間移動量を取得された炉壁斜視画像に基づき算出し、算出したフレーム間移動量を用いて炉壁正視画像を連結して炉壁観察画像を生成する。これにより、撮像装置31、33の移動時の振動等による撮像装置31、33の視野の微妙なずれの影響を受けることなく、より正確で滑らかに炉壁11全体を表す画像を得ることができる。また、炉壁観察画像を構成する炉壁正視画像がフィルタ配列によって補正されることから、より鮮明な炉壁観察画像を生成することができる。
【0066】
図7に、本実施形態に係る画像処理装置100の一構成例を示す。本実施形態に係る画像処理装置100は、図7に示すように、画像取得部110と、前処理部120と、フレーム間移動量算出部130と、フレーム間移動量推定部140と、炉壁観察画像生成部150と、フィルタ生成部160とを有する。
【0067】
画像取得部110は、撮像装置31、33により撮像された炉壁斜視画像Ipを、記憶装置300の撮像画像記憶部310から取得する。撮像画像記憶部310は、撮像装置31、33により撮像された炉壁斜視画像Ipを記憶する記憶部であり、例えばサーバ等により構成された記憶装置300に設けられる。なお、記憶装置300は画像処理装置100が備えていてもよい。
【0068】
撮像装置31、33は、押出機側からコークス排出側への1回の移動において、炉壁11を連続的に撮像する。これにより、撮像装置31、33は、炉壁11を斜視状態で撮像した複数の炉壁斜視画像Ip(フレーム)からなる、例えば炉壁11全体等の炉壁11の撮像対象部分を撮像した動画を得る。各炉壁斜視画像Ipには炉壁11の一部が写っており、炉壁斜視画像Ipに写っている炉壁11の一部は、他の炉壁斜視画像Ipに写っている炉壁11の一部と重複する部分を含んでいる。なお、少なくとも撮像順に連続する2つの炉壁斜視画像Ipが重複する部分を有していればよく、1または複数のフレームを挟んだ不連続の2つの炉壁斜視画像Ipが重複する部分を有していてもよい。
【0069】
撮像装置31、33により撮像された複数の炉壁斜視画像Ipは、撮像画像記憶部310に順次記録される。具体的には、撮像装置31、33と記憶装置300とが無線または有線により通信可能に接続されることで、撮像装置31、33から記憶装置300に送信される。画像取得部110は、撮像画像記憶部310から取得した炉壁斜視画像Ipを、前処理部120、フレーム間移動量算出部130及び炉壁観察画像生成部150へ出力する。
【0070】
前処理部120は、撮像装置31、33を押出機側からコークス排出側へ移動させる間に当該撮像装置31、33により撮像された複数の炉壁斜視画像Ipから、それぞれ炉壁正視画像Isを生成するために必要な前処理を行う。前処理部120は、画像取得部110から炉壁斜視画像Ipを受け取ると、炉壁斜視画像Ipそれぞれにおいて、撮像された炭化室10の2つの炉壁11を表す部分を適切に切り出すための処理を行う。具体的には、前処理部120は、炉壁斜視画像Ipから、炭化室10の左右2つの炉壁11を表す領域(以下、炉壁の「右領域」、「左領域」、あるいはまとめて「左右領域」ともいう。)を特定するための対称軸C(図7の対称軸C)を求める。前処理部120により対称軸Cを求める処理の詳細は後述する。前処理部120は、求めた対称軸Cを設定するための情報を、フレーム間移動量算出部130及び炉壁観察画像生成部150へ出力する。
【0071】
フレーム間移動量算出部130は、前処理部120による前処理結果を用いて複数の炉壁正視画像Isを取得する。そして、フレーム間移動量算出部130は、得られた複数の炉壁正視画像Isに対し、重複する部分を含む2つの炉壁正視画像Isである第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとについて、テンプレートマッチング処理により、第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとのフレーム間移動量Lをそれぞれ算出する。フレーム間移動量Lは、第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとのずれ量を表す。フレーム間移動量Lは、後述する炉壁観察画像生成処理により第1の炉壁正視画像Is及び第2の炉壁正視画像Isからそれぞれ切り出された部分を連結する位置を決定するために用いられる。フレーム間移動量算出部130は、算出したフレーム間移動量Lを、フレーム間移動量推定部140及び炉壁観察画像生成部150へ出力する。
【0072】
フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量算出部130にて算出されたフレーム間移動量Lを補正するためのフレーム間移動量推定値Eを算出する。フレーム間移動量Lは、撮影画像に写り込んだ煙等のノイズの影響により、正しく算出できない場合もある。フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量算出部130にて算出されたフレーム間移動量Lが閾値の範囲外である場合に尤もらしい値に補正するための補正値として、フレーム間移動量推定値Eを算出する。フレーム間移動量推定部140は、算出したフレーム間移動量推定値Eを、炉壁観察画像生成部150へ出力する。
【0073】
炉壁観察画像生成部150は、炉壁正視画像Isを連結して炉壁観察画像Iを生成する。炉壁観察画像生成部150は、フレーム間移動量算出部130にて算出されたフレーム間移動量Lが予め設定された閾値の範囲内である場合には、フレーム間移動量に基づき第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとを連結する。一方、炉壁観察画像生成部150は、フレーム間移動量算出部130にて算出されたフレーム間移動量Lが閾値の範囲外である場合には、フレーム間移動量推定部140により算出されたフレーム間移動量推定値Eに基づき第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとを連結する。
【0074】
炉壁観察画像生成部150は、すべての炉壁正視画像Isについて、第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとの間のフレーム間移動量Lを適切に設定し、これらを連結することで、炉壁観察画像Iを生成する。炉壁観察画像生成部150は、生成した炉壁観察画像Iを、画像処理装置100と通信可能に接続された表示装置500へ出力してもよい。あるいは、炉壁観察画像生成部150は、生成した炉壁観察画像Iを、記憶装置300の炉壁観察画像記憶部320に記録してもよい。
【0075】
フィルタ生成部160は、フレーム間移動量算出部130及び炉壁観察画像生成部150において、炉壁正視画像を補正するために用いるフィルタ配列を生成する。フィルタ配列は、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値とに基づいて、撮像装置31、33による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのものである。フィルタ生成部160によるフィルタ生成処理についての詳細は後述する。
【0076】
以上、本実施形態に係る画像処理装置100について説明した。なお、本実施形態に係る画像処理装置100では、炉壁斜視画像Ipから炉壁正視画像Isへの変換は、フレーム間移動量算出部130及びフレーム間移動量推定部140でそれぞれ行われているが、本発明は係る例に限定されない。例えば、フレーム間移動量算出部130で生成された炉壁正視画像Isをフレーム間移動量推定部140に渡すなど、特定の1つの機能部で生成された炉壁正視画像Isを他の機能部に渡すように構成してもよい。
【0077】
[2-2.画像処理方法]
以下、図8図18に基づいて、本実施形態に係る画像処理装置100による画像処理方法について、詳細に説明する。図8は、本実施形態に係る画像処理方法の全体の流れを示すフローチャートである。フローチャート中の各処理の詳細については、図9図18を用いて説明する。なお、以下では、押出機側からコークス排出側への1回の移動において、1つの撮像装置(例えば撮像装置31)により取得された複数の炉壁斜視画像Ipから1つの炉壁観察画像Iを得る場合について説明する。複数の撮像装置により炭化室内の画像を取得可能な場合には、以下に説明する画像処理方法を、撮像装置毎に実施すればよい。
【0078】
(S10:炉壁斜視画像取得処理)
本実施形態に係る画像処理方法は、図8に示すように、まず、画像取得部110は、記憶装置300の撮像画像記憶部310に記録された複数の炉壁斜視画像Ipを取得する(S0)。例えば押出機側からコークス排出側への1回の移動において、撮像装置(例えば撮像装置31)は複数の炉壁斜視画像Ipを取得する。炉壁斜視画像Ipは、動画を構成するフレームともいえる。画像取得部110は、1回の押出ラムビーム20の移動時に撮像装置(例えば撮像装置31)が炉壁11を連続的に撮像して得られた複数の炉壁斜視画像Ip(フレーム)を、撮像画像記憶部310から取得する。画像取得部110は、取得した複数の炉壁斜視画像Ipを、前処理部120へ出力する。
【0079】
(前処理)
次いで、前処理部120は、時間平均画像生成処理(S10)及び左右領域算出処理(S20)を前処理として実施する。
【0080】
撮像装置31、33が押出方向に正確に正対していれば、炉壁11は炉壁斜視画像Ipの縦の中心軸に炭化室窯口の中心があるように撮影されるため、炉壁斜視画像Ipにおける炉壁11の右領域及び左領域を予め設定することができる。しかし、撮像装置31、33を正確に押出方向に正対させることはハードウェア的に難しい。そこで、本実施形態では、前処理部120によって時間平均画像生成処理及び左右領域算出処理を実施することで、炉壁斜視画像Ipの縦の中心軸と炭化室窯口の中心とが多少ずれていてもソフトウェア的にそのずれを吸収する。
【0081】
(S10:時間平均画像生成処理)
時間平均画像生成処理では、左右領域算出処理にて用いる時間平均画像が生成される。左右領域算出処理にて左右領域を同定するために、ある特定の炉壁斜視画像Ipを用いずに時間平均画像を用いるのは、時間平均画像の炭化室窯口付近の部分画像の左右対称性が、ある特定の炉壁斜視画像Ipのそれよりも高いからである。ある特定の炉壁斜視画像Ipの炭化室窯口付近の部分画像には、火の粉などの炉壁以外の映り込みや、左右対称でない目地などの映り込みがある。このため、ある特定の炉壁斜視画像Ipの炭化室窯口付近の部分画像は、後述する左右領域算出処理における左右反転画像(テンプレート画像A1)を用いたマッチングによる対称軸推定に用いるには適さない場合がある。そこで、本実施形態では、時間平均画像を生成して、後述の左右領域算出処理を実施する。ステップS10の時間平均画像生成処理は、例えば図4に示した処理を前処理部120が実施すればよい。
【0082】
(S20:左右領域算出処理)
次いで、前処理部120は、左右領域算出処理を実施する。左右領域算出処理では、各炉壁斜視画像Ip(フレーム)から、炭化室10の左右2つの炉壁11を表す領域(以下、炉壁の「右領域」、「左領域」、あるいはまとめて「左右領域」ともいう。)を特定する。左右領域算出処理の一例を図9に示す。
【0083】
前処理部120は、まず、ステップS10の時間平均画像生成処理にて得られた時間平均画像から、テンプレート画像A1となる部分領域A0を設定し、切り取る(S201)。時間平均画像Iaには、例えば図10に示すように、撮像された炭化室10内の左右2つの炉壁11R、11Lが表れている。また、炭化室の炉底13、及び、炭化室10の押出機側にある炭化室窯口15も表れることもある。このような時間平均画像Iaに対し、図11上側に示すように時間平均画像Iaの部分領域A0を左右反転して、テンプレート画像A1とする。テンプレート画像A1となる時間平均画像Iaの部分領域A0は、時間平均画像Iaよりも小さいサイズの、ユーザが任意に設定可能な炉壁の一部分を含む領域である。
【0084】
テンプレート画像A1は、炭化室窯口15の像が含まれるように設定される。例えば、図11上側に示すように、テンプレート画像A1の幅は、時間平均画像Iaの幅Wから、時間平均画像Iaの左端及び右端からそれぞれ長さx1だけ幅Wを小さくした幅に設定される。長さx1は、時間平均画像Iaの幅Wと炭化室窯口15の中央付近位置との対応関係から予め求めることができる。なお、テンプレート画像A1の高さは、左右領域算出処理にほとんど影響しないことから適宜設定すればよい。
【0085】
次いで、前処理部120は、ステップS201にて時間平均画像Iaから切り取られた部分領域A0を左右反転させて、図11右側に示すようなテンプレート画像A1とする(S203)。
【0086】
そして、前処理部120は、テンプレート画像A1が合致する画像領域を特定するテンプレートマッチング処理を行う(S205)。
【0087】
テンプレートマッチング処理は、探索対象画像中において、テンプレート画像と最も類似度の高い画像領域を求める画像処理方法である。具体的には、探索対象画像のサイズがN[ピクセル]×M[ピクセル]、テンプレート画像のサイズがn[ピクセル]×m[ピクセル](0<n≦N,0<m≦M)であるとき、テンプレートマッチング処理により、(N-n+1)×(M-m+1)の2次元配列がテンプレートマッチング結果Rとして得られる。テンプレートマッチング結果Rの(i,j)要素(0≦i<N-n+1,0≦j<M-m+1)には、探索対象画像の画像領域(画像サイズ:n×m、左上頂点の画素位置(i,j))とテンプレート画像との類似度を表す数値が格納される。テンプレートマッチング結果Rの各要素において最も類似度の高い数値が格納されている要素が(ig,jh)要素(0≦ig<N-n+1,0≦jh<M-m+1)であれば、探索対象画像において左上頂点の画素位置が(ig,jh)であって画像サイズがn×mである画像領域が、テンプレート画像との類似度が最も高い画像領域として得られる。
【0088】
前処理部120は、テンプレートマッチング処理によって得られた、時間平均画像Iaにおいてテンプレート画像A1との類似度が最も高い画像領域の位置から、時間平均画像Iaを幅方向に分割したときに左右領域が対称となる対称軸Cを決定する(S207)。例えば図11下側に示すように、対称軸Cの位置xは、x=(s+W-x1)/2で表される。
【0089】
なお、長さsは、時間平均画像Ia内においてテンプレート画像A1が合致する画像領域の位置が特定されたときの、時間平均画像Iaの幅方向の一端(例えば左端)からテンプレート画像A1が合致する画像領域の一端までの長さである。
【0090】
ステップS207にて決定された対称軸Cは、炉壁斜視画像Ip(フレーム)を左右領域に分割する際に用いられる。このように対称軸Cを求めることで、炉壁斜視画像Ip(フレーム)をより正確に左領域と右領域とに区分することができる。また、時間平均画像Iaから切り取られた部分領域A0を左右反転させてテンプレート画像A1とし、テンプレートマッチング処理を実施することで、簡便なアルゴリズムで対称軸Cを推定することができる。
【0091】
(S25:フィルタ生成処理)
図8の説明に戻り、時間平均画像生成処理(S10)及び左右領域算出処理(S20)を終えると、フィルタ生成部160は、フィルタ生成処理を実施する(S25)。図12は、フィルタ生成処理の一例である乗算フィルタ生成処理を示すフローチャートである。
【0092】
図12に示すように、まず、フィルタ生成部160は、ステップS10にて生成された時間平均画像を左領域と右領域とに分割する(S251)。そして、フィルタ生成部160は、左領域と右領域とをそれぞれを透視変換し、各領域の正視画像を得る(S252)。
【0093】
次いで、フィルタ生成部160は、左領域及び右領域の正視画像それぞれにおいて、画素値変換領域を定めるマスク用配列を生成する(S253)。画素値変換領域は、右領域と左領域との正視画像中それぞれにおいてフィルタ配列による補正を行う領域である。画素値変換領域は、例えばユーザから指定された領域としてもよく、予め設定された正視画像中の領域としてもよい。設定された画素値変換領域に基づき、マスク用配列が生成される。
【0094】
そして、フィルタ生成部160は、左領域及び右領域の正視画像それぞれの画素値変換領域において、撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値として最大輝度値を求める(S254)。最大輝度値を有する画素は、その位置では確実に観察窓に汚れが付着していない(健全である)画素、あるいは、健全であった場合の画素値に最も近い画素と考えられる。そこで、フィルタ生成部160は、ステップS253にて生成された時間平均画像の画素値変換領域内において、最大輝度値を有する画素を特定し、最大輝度値を取得する。そして、フィルタ生成部160は、左領域及び右領域の正視画像それぞれの各画素の画素値を最大輝度値で除算し、一時配列に格納する(S255)。ここで、一時配列は、時間平均画像を構成する各画素に一対一で対応する要素を持つ。
【0095】
その後、フィルタ生成部160は、時間平均画像を構成する画素のうちマスク用配列により定まる画素値変換領域以外の領域の画素に対応する一時配列の要素の値を「1」に置換した後(S256)、一次配列の各要素の値の逆数を求めて乗算フィルタを生成する(S257)。ステップS256の処理は、ステップS257で逆数を求める際に、演算が不可能となることを防止するために行われる。ステップS257にて生成された乗算フィルタは、上記式(1)のように表される。
【0096】
なお、図12に示すフィルタ生成処理では、フィルタ配列として、時間代表値画像の最大輝度値を時間代表値画像の画素値で除した値からなる乗算フィルタを生成する処理について説明したが、本発明は係る例に限定されない。フィルタ配列として、例えば、第1の実施形態において説明した、時間代表値画像の最大輝度値から時間代表値画像の画素値を減じた値からなる加算フィルタを生成してもよい。
【0097】
また、図12に示すフィルタ生成処理では、時間平均画像の左領域及び右領域を透視変換した正視画像からフィルタ配列を生成したが、本発明は係る例に限定されない。例えば、図12のステップS251にて生成された透視変換前の時間平均画像の左領域及び右領域(すなわち、斜視画像)に基づき、フィルタ配列を生成してもよい。
【0098】
(S30:フレーム間移動量算出処理)
図8の説明に戻り、フィルタ生成処理(S25)を終えると、フレーム間移動量算出部130は、フレーム間移動量算出処理を実施する(S30)。図13は、フレーム間移動量算出処理の一例を示すフローチャートである。
【0099】
図13に示すように、フレーム間移動量算出部130は、まず、算出されるフレーム間移動量Lを格納するための2次元配列である移動量格納配列を初期値に設定する(S301)。初期値として、例えば「0」の値が格納される。移動量格納配列は、炉壁斜視画像Ipを分割した左領域用と右領域用とが用意される。
【0100】
上述したように、フレーム間移動量Lは、第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとのずれ量である。すなわち、フレーム間移動量Lは、同一の画像サイズを有する第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとが重ね合わせられた状態から、これらの炉壁正視画像Isに重複して写っている炉壁の部分がぴったり重なるように第2の炉壁正視画像Isを移動させる量である。フレーム間移動量Lは、2つの炉壁正視画像Isのずれを表す量であることから、画素数で表すことができる。炉壁正視画像Isの左右方向は、炭化室の押出方向に一致するため、フレーム間移動量Lは、第2の炉壁正視画像Isを第1の炉壁正視画像Isから相対的に左右にずらす画素数により表される。移動量格納配列には、少なくとも左右方向の移動量が格納されればよいが、上下方向の移動量も格納してもよい。左右方向の移動量及び上下方向の移動量を格納する場合には、移動量格納配列のサイズは、総フレーム数×2となる。
【0101】
フレーム間移動量算出部130は、炉壁斜視画像Ip(フレーム)の読み込みを開始する(S303)。フレームは、時系列順に(例えば、押出機側からコークス排出側に向かって順に)読み込まれる。
【0102】
フレーム間移動量算出部130は、ステップS303にてフレームの読み込みを実行し、フレームの読み込みに成功したか否かを判定する(S305)。ステップS305にてフレームを読み込めなかった場合には、最終フレームまで読み込みが完了したことから、図13に示す処理を終了する。ステップS305にてフレーム読み込みが成功すると、フレーム間移動量算出部130は、左右領域算出処理にて決定された対称軸Cを用いて、当該フレームを左領域と右領域とに分割する(S307)。
【0103】
次いで、フレーム間移動量算出部130は、フレームの左領域と右領域それぞれを透視変換し、各領域の正視画像を得る(S309)。撮像装置により撮像して得られたフレームは、図14左側に示すように炉壁11L、11Rを斜視した状態で得た炉壁斜視画像Ipである。本実施形態に係る画像処理方法では、炉壁11L、11Rの状態をより詳細に確認できるように、炉壁11L、11Rを正視した状態での炉壁観察画像Iを得る。そこで、ステップS309では、炉壁斜視画像Ipを透視変換して炉壁正視画像Isとする。例えば、図14左側のフレーム(炉壁斜視画像)Ipにおいて炉壁11Rを含む矩形状の右領域IpRは、図14右側に示すような透視変換後の炉壁正視画像Isにおいては、台形状の領域IsRとなる。フレーム(炉壁斜視画像)Ipにおける右領域IpRの4つの頂点ABCDは、炉壁正視画像Isにおける右領域IsRの4つの頂点abcdに対応する。
【0104】
そして、フレーム間移動量算出部130は、ステップS309にて得られた左領域及び右領域の炉壁正視画像Isを鮮明な画像とするために、図8のステップS25にて生成されたフィルタ配列により、炉壁正視画像Isを補正する(S310)。炉壁正視画像Isの補正は、第1の実施形態にて示した上記式(5-1)のように行えばよい。
【0105】
次いで、フレーム間移動量算出部130は、ステップS310にて補正された左領域及び右領域の炉壁正視画像Isから、テンプレートマッチング処理を行うための探索領域を設定する(S311)。探索領域は、ユーザにより、例えば図15に示すように、炉壁正視画像Isにおいて、炉壁が明瞭に確認できる部分に適宜設定される。探索領域のサイズは、テンプレートマッチング処理の精度を高めるためにはなるべく大きく設定するのがよい。一方で、炉壁正視画像Is全体を探索領域とするとテンプレートマッチング処理に時間がかかり、テンプレートマッチング処理によって得られるテンプレートマッチング結果Rのサイズも大きくなる。したがって、探索領域は、なるべくサイズを大きくしつつ、炉壁正視画像Isにおいて炉壁が明瞭に確認できる部分に設定するのがよい。
【0106】
さらに、フレーム間移動量算出部130は、設定した探索領域に前処理を施す(S313)。前処理としては、例えば、探索領域内の画像に対して平滑化処理を実施してもよい。また、前処理として、例えば、探索領域内の画像から緑画素成分を抽出した画像を生成してもよい。炉壁正視画像Isに表れている炉壁は全体的に赤く、のっぺりとしてぼやけている。このような画像でテンプレートマッチング処理を行った場合、許容される程度の精度でテンプレートマッチング結果Rを得ることはできるが、特徴部分をより明確にした画像を用いれば、より高い精度でテンプレートマッチング結果Rを得ることができる。炉壁の画像において、炉壁の目地等の特徴部分は緑画素成分に現れている。そこで、前処理として、探索領域内の画像から緑画素成分を抽出した画像を用意することで、より精度よくテンプレートマッチング処理を実施することができる。
【0107】
その後、フレーム間移動量算出部130は、ステップS303にて読み込まれたi番目のフレーム(iは正の整数。以下、「現フレーム」ともいう。)が最初のフレームであるか否かを判定する(S315)。現フレームが最初のフレームである場合には、現フレームとマッチングさせるフレームが存在しない。このため、フレーム間移動量算出部130は、炉壁正視画像Isの前処理を施した探索領域からテンプレート画像A2を切り出し(S321)、ステップS303からの処理を実施する。
【0108】
ステップS321にて切り出されるテンプレート画像A2は、現フレームとしてステップS319までの処理を終え、次のステップS303からの処理では前フレームとなるフレームに基づく画像である。具体的には、テンプレート画像A2は、前フレームとなるフレームを透視変換した炉壁正視画像Is内の前処理済み探索領域から切り出される。テンプレート画像A2は、上述の左右領域算出処理にて設定されたテンプレート画像A1とは別途設定される。テンプレート画像A2は、すべてのフレームの炉壁正視画像Isにおいて予め規定された位置に設定され、例えば探索領域の中央に設定される。
【0109】
一方、ステップS303にて読み込んだ現フレームが最初のフレームではない場合には、フレーム間移動量算出部130は、現フレームの左右領域の炉壁正視画像Isに対して前処理を施した探索領域それぞれにおいて、現フレームの1つ前に読み込こまれたi-1番目のフレーム(前フレーム)に基づくテンプレート画像A2とのテンプレートマッチング処理を行い、フレーム間移動量Lを算出する(S317)。テンプレートマッチング処理は、ステップS311にて炉壁正視画像Isに設定された探索領域に対して前処理(S313)を施した画像内を、ステップS321にて切り出された前フレームのテンプレート画像A2を平行移動させて行われる。すなわち、ステップS317では、前フレームの炉壁正視画像Is(第1の炉壁正視画像Is)のテンプレート画像A2が、次に読み込まれた現フレームの炉壁正視画像Is(第2の炉壁正視画像Is)に設定された探索領域内において合致する領域を特定する。
【0110】
テンプレートマッチング処理では、前フレームのテンプレート画像A2と、現フレームの探索領域から切り出したテンプレート画像A2と同一サイズの画像との類似度が算出される。画像の類似度は、例えば画素値の差の二乗和(Sum of Squared Difference;SSD)あるいは画素値の差の絶対値の和(Sum of Absolute Difference;SAD)等で表すことができる。これらの値が最小である探索領域の画像が、前フレームのテンプレート画像A2と最も類似することになる。
【0111】
テンプレートマッチング処理により得られたテンプレートマッチング結果Rは、上述したように、探索対象画像とテンプレート画像との類似度を表す数値が格納された2次元配列データである。
【0112】
前フレームのテンプレート画像A2の中央が現フレームの探索領域の中央と一致するように設定される場合、仮に、現フレームの炉壁正視画像Isが前フレームの炉壁正視画像Isと同一の画像であれば(すなわち、第1の炉壁正視画像Isと第2の炉壁正視画像Isとにずれがなければ)、テンプレートマッチング結果Rにおいて、最も類似度の高い部分は、テンプレートマッチング結果Rの中央に表れる。一方、同一の炉壁部分が現フレームの炉壁正視画像Is及び前フレームの炉壁正視画像Isの中で異なる位置に映り込んでいれば、テンプレートマッチング結果Rにおいて類似度の高い部分は、テンプレートマッチング結果Rの中央からずれた位置に表れる。
【0113】
したがって、テンプレートマッチング結果Rの中央位置から、最も類似度の高い配列要素位置までの相対位置を求めることで、現フレームの炉壁正視画像Isが前フレームの炉壁正視画像Isから移動したフレーム間移動量Lを求めることができる。これにより、例えば図15に示すように、前フレームにおけるテンプレート画像A2に対応する部分が、現フレームにおいてフレーム間移動量Lだけ移動したことを把握できる。
【0114】
フレーム間移動量算出部130は、得られたテンプレートマッチング結果Rに基づき算出されたフレーム間移動量Lを、ステップS301にて用意した移動量格納配列に格納する(S319)。そして、次のテンプレートマッチング処理のために、現フレームの炉壁正視画像Is内の前処理済み探索領域からテンプレート画像A2を切り出し(S321)、ステップS303からの処理を実施する。ステップS303~S321の処理は、読み込むフレームがなくなるまで繰り返し実施される。図13に示す処理を終えると、例えば押出機側からコークス排出側への1回の移動において取得された複数のフレームにおいて、2つのフレーム間の移動量(フレーム間移動量L)が得られる。
【0115】
(S40:フレーム間移動量推定処理)
図8の説明に戻り、フレーム間移動量算出処理(S30)を終えると、フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量推定処理を実施する(S40)。図16は、フレーム間移動量推定処理の一例を示すフローチャートである。
【0116】
フレーム間移動量推定部140は、まず、算出されるフレーム間移動量推定値Eを格納するための推定移動量格納配列を初期値に設定する(S401)。初期値として、例えば「0」の値が格納される。推定移動量格納配列は、総フレーム分のフレーム間移動量推定値Eを格納可能なサイズに設定され、左領域用と右領域用とが用意される。
【0117】
また、フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量Lから平均及び標準偏差を算出する(S403)。このとき、フレーム間移動量推定部140は、すべてのフレーム間移動量Lのうち、予め設定された基準範囲内のフレーム間移動量Lのみを用いて平均及び標準偏差を算出してもよい。想定される値から外れているフレーム間移動量Lを用いずに平均及び標準偏差を算出することで、ノイズ等の影響を除くことができる。
【0118】
なお、図16では、後続の処理にて利用される平均及び標準偏差を算出しているが、本発明は係る例に限定されない。ステップS403では、フレーム間移動量推定部140は、算出されたフレーム間移動量Lが想定される値から外れている場合に、フレーム間移動量Lの代わりにフレーム間移動量Lの尤もらしい値(すなわち、フレーム間移動量推定値E)を設定するために必要な値を算出する。したがって、フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量Lの平均及び標準偏差以外の値を算出してもよく、必ずしもフレーム間移動量Lの平均または標準偏差を算出しなくともよい。
【0119】
そして、フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量Lが想定される値から外れているか否かを判定するための閾値を設定する(S405)。閾値は、操業上の経験に基づき設定されればよい。例えば、フレーム間移動量推定部140は、フレーム間移動量Lの正規分布における2σの値(すなわち、平均±2×標準偏差)を閾値としてもよい。
【0120】
次いで、フレーム間移動量推定部140は、移動量格納配列に格納されたフレーム間移動量Lの読み込み数をカウントするためのインデックスiを1に設定し(S407)、フレーム間移動量Lを時系列順に(例えば、押出機側からコークス排出側に向かって順に)読み込む。フレーム間移動量推定部140は、インデックスiが総フレーム以上であれば、すべてのフレーム間移動量Lについて後述のステップS409~S417の処理を終えたため、図16に示す処理を終了する。
【0121】
一方、インデックスiが総フレーム未満の場合、フレーム間移動量推定部140は、移動量格納配列のi番目に格納されたフレーム間移動量Lを読み込み、i番目のフレーム間移動量LがステップS405にて設定された閾値の範囲内であるか否かを判定する(S411)。ステップS411にてi番目のフレーム間移動量Lが閾値の範囲内であると判定された場合には、フレーム間移動量算出部130により算出されたフレーム間移動量Lは適切であると考えられる。したがって、フレーム間移動量推定部140は、推定移動量格納配列のi番目に当該フレーム間移動量Lを格納する(S413)。
【0122】
一方、ステップS411にてi番目のフレーム間移動量Lが閾値の範囲外であると判定された場合には、フレーム間移動量算出部130により算出されたフレーム間移動量Lは想定から外れた不適切な値と考えられる。したがって、フレーム間移動量推定部140は、推定移動量格納配列のi番目にフレーム間移動量Lとして尤もらしい値を格納する(S415)。尤もらしい値としては、例えば、フレーム間移動量Lの平均値や中央値等の、フレーム間移動量Lから統計的に求められる統計値等がある。
【0123】
ステップS413またはS415の処理を終えると、フレーム間移動量推定部140は、インデックスiに1を加算して(S417)、ステップS409からの処理を繰り返し実施する。
【0124】
(S50:炉壁観察画像生成処理)
図8の説明に戻り、フレーム間移動量推定処理(S40)を終えると、炉壁観察画像生成部150は、炉壁観察画像生成処理を実施する(S50)。図17は、炉壁観察画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
【0125】
炉壁観察画像生成部150は、まず、生成される炉壁観察画像Iを構成する各フレームの画像(連結用画像F)の画素値を格納する2次元配列である炉壁観察画像用配列の各要素、及び、前フレームの連結用画像Fからの現フレームの連結用画像Fの移動量を表す平行移動量変数に、初期値を設定する(S501)。それぞれ初期値として、例えば「0」の値が格納される。炉壁観察画像用配列の各要素及び平行移動量変数は、左領域用と右領域用とが用意される。
【0126】
次いで、炉壁観察画像生成部150は、フレームの読み込み数をカウントするためのインデックスiを0に設定し(S503)、インデックスiが総フレーム未満であるか否かを判定する(S505)。インデックスiが総フレーム以上であれば、すべてのフレームについて後述のステップS507~S519の処理を終え、炉壁観察画像Iが生成されたため、図17に示す処理を終了する。
【0127】
一方、インデックスiが総フレーム未満の場合、炉壁観察画像生成部150は、フレームを読み込み(S507)、平行移動量変数に、対応する推定移動量格納配列の値を加算する(S509)。そして、炉壁観察画像生成部150は、フレーム間移動量算出処理で行ったように、対称軸Cを用いて当該フレームを左領域と右領域とに分割し(S511)、フレームの左領域と右領域それぞれを透視変換し、各領域の正視画像を得る(S513)。さらに、炉壁観察画像生成部150は、図8のステップS25にて生成されたフィルタ配列により、画像を鮮明化するため、フレームの左領域と右領域それぞれの正視画像を補正する(S514)。正視画像の補正は、第1の実施形態にて示した上記式(5-1)のように行えばよい。
【0128】
炉壁観察画像生成部150は、補正された炉壁正視画像Isから、炉壁観察画像Iを構成する連結用画像Fを切り出す(S515)。例えば、図18左側に示すように、炉壁正視画像Isから連結用画像Fが切り出される。連結用画像Fの領域は、炉壁正視画像Isにおいて炉壁を明瞭に確認できる領域に予め設定されている。炉壁正視画像Isから連結用画像Fを切り出す位置及びサイズは各フレームにおいて同一とする。
【0129】
その後、炉壁観察画像生成部150は、切り出した連結用画像Fを、平行移動量変数の値だけ、炉壁観察画像Iに表れる炉壁の炉長方向に沿って移動させ、炉壁観察画像用配列の該当部分に格納する(S517)。例えば、図18右側に示すように、連結用画像Fは、炉壁観察画像Iに表れる炉壁の炉長方向の対応する位置で、前フレームの連結用画像Fと連結される。
【0130】
ステップS517の処理を終えると、炉壁観察画像生成部150は、インデックスiに1を加算し(S519)、ステップS505からの処理を繰り返す。こうして連結用画像Fが連結されていき、1つの炉壁観察画像Iが生成される。
【0131】
以上、第2の実施形態に係る画像処理装置100と、これを用いた画像処理方法とについて説明した。本実施形態によれば、炉内部を移動する撮像装置が炉壁を順次撮像した複数の斜視画像の各々の少なくとも一部の領域を正視画像にそれぞれ変換して得られた複数の炉壁正視画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる炉壁正視時間代表値画像を生成し、炉壁正視時間代表値画像の各画素値と、撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値(例えば、最大輝度値)とに基づいて、撮像装置による画像撮像時の外乱による画素値の変化を補正するためのフィルタ配列を生成し、フィルタ配列を用いて炉壁正視画像を補正し、補正炉壁正視画像を生成する。これにより、炉壁を撮像する撮像装置の位置情報を用いずに、鮮明で滑らかな炉壁全体を表す炉壁観察画像を得ることができる。
【0132】
[3.変形例(フィルタ配列の補正)]
通常の操業状態のもとでの撮像装置により炉内部を撮影した場合であれば、撮像された画像の全体輝度は、コークスの押出し毎にほとんど変化しない。しかし、例えば、耐火物劣化により生じた燃焼ガス流入口の破損によるガス流量低下等のような不具合によって炭化室内温度が通常より低くなり、炉壁の熱放射による光量が減少する。このような状況では、撮像装置の露出調整範囲外となって、撮像された画像全体が暗くなる場合がある。このとき、撮像装置の観察窓に付着した汚れと光量との比例関係あるいは加法性が成立しなくなることも考え得る。例えば、フィルタ配列によって画像を補正した結果、汚れ部分が過剰に補正されてしまい、汚れ部分が寧ろ白っぽくなる場合もある。
【0133】
そこで、このような条件下であっても、フィルタ配列を適切に設定するため、例えば、撮影条件を時間代表値画像の最大輝度値と輝度値の分散値とにより予めクラスタリングし、クラスに応じてフィルタ配列を補正してもよい。
【0134】
図19に、フィルタ配列を補正するためのフィルタ補正係数を決定するためのフィルタ補正係数決定処理の一例を示す。かかる処理は、上記各実施形態において、画像処理装置50、100に、画像を分類する複数のクラスそれぞれについて、フィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を予め設定するフィルタ補正係数設定部を追加することにより実施し得る。
【0135】
フィルタ補正係数決定処理では、図19に示すように、まず、フィルタ補正係数設定部は、コークスの押出し毎に取得された複数の時間代表値画像をクラスタリングする(S40a)。時間代表値画像は、過去の処理において既に生成されたものを蓄積しておいたものを使用してもよい。フィルタ補正係数設定部は、例えば、時間代表値画像の最大輝度値と輝度値の分散値とに基づき、時間代表値画像をクラスタリングしてもよい。なお、時間代表値画像の分散値は、画素値変換領域内の画素値から求められる。分散値は、汚れによる輝度変化の幅を代表する値であり、最大輝度値とは別の観点で全体輝度(汚れ具合の分布)を計る指標となる。全体輝度が低い場合であっても汚れによる光量低下の幅が狭い場合には、比例や加法性が近似的に成立すると考えられるので、最大輝度値と分散値の双方の値に応じてクラスタリングするとよい。
【0136】
ステップS40aにて時間代表値画像がクラスタリングされると、フィルタ補正係数設定部は、各クラスそれぞれについて、フィルタ配列を補正するためのフィルタ補正係数を決定する(S40b)。フィルタ補正係数は、例えば、クラス毎に設定されたフィルタ補正係数により補正されたフィルタ配列を用いて画像を補正したときの画像の鮮明さを指標として、決定してもよい。具体的には、フィルタ補正係数を一旦仮に決めて、フィルタ配列を補正して画像に適用して、ユーザによって画像の良し悪しを判断し、良好な画像が得られるフィルタ補正係数を探索することにより設定してもよい。フィルタ補正係数は、例えば0.5~1.5までの間で0.1刻みで変化させた値としてもよい。
【0137】
図19に示したフィルタ補正係数決定処理で決定されたクラスとフィルタ補正係数との関係は、例えば画像処理装置50、100に設けられる記憶部(図示せず。)に保持しておいてもよい。
【0138】
図20は、図3に示した第1の実施形態に係る画像処理方法において、フィルタ配列の補正を行う場合の処理を示すフローチャートである。なお、図20の説明において、図3と同様に行われる処理については、詳細な説明を省略する。
【0139】
(S1:時間代表値画像生成処理)
まず、時間代表値画像生成部51は、炉内部を移動する撮像装置(例えば撮像装置31)により順次撮像された炉壁11の複数の画像から、同一画素位置の画素値の代表値からなる時間代表値画像を生成する(S1)。時間代表値画像生成処理は、図3のステップS1と同様に行えばよい。時間代表値画像生成部51は、生成した時間代表値画像を、フィルタ生成部53へ出力する。
【0140】
(S3:フィルタ生成処理)
次いで、フィルタ生成部53は、時間代表値画像の各画素値と、時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値とに基づいて、フィルタ配列を生成する(S3)。時間代表値画像において撮像装置31、33による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い健全な画素位置の画素値として、例えば、時間代表値画像の最大輝度値を用いることができる。フィルタ生成処理は、図3のステップS3と同様に行えばよい。フィルタ生成部53は、図5または図6に示した処理によってフィルタ配列を生成し、生成したフィルタ配列を補正処理部55へ出力する。
【0141】
(S4:フィルタ補正係数選択処理)
ステップS3にてフィルタ配列が生成されると、補正処理部55は、まず、画像を補正するためのフィルタ補正係数を選択する(S4)。フィルタ補正係数選択処理は、例えば図21に示すように行ってもよい。図21は、フィルタ補正係数選択処理の一例を示すフローチャートである。
【0142】
まず、補正処理部55は、撮像装置により撮像された画像の時間代表値画像の最大輝度値と輝度値の分散値とを算出する(S41)。次いで、補正処理部55は、ステップS41にて算出した最大輝度値と輝度値の分散値とに基づき、当該時間代表値画像が属するクラスを求める(S42)。そして、補正処理部55は、例えば図19に示した処理にて予め取得されている画像のクラスとフィルタ補正係数との関係に基づき、ステップS42にて求めたクラスに対応するフィルタ補正係数を選択する(S43)。このようにして、時間代表値画像に適用するフィルタ配列を補正するフィルタ補正係数を選択することができる。
【0143】
(S5:補正処理)
図20の説明に戻り、ステップS4にてフィルタ補正係数を選択すると、補正処理部55は、選択されたクラスに対応するフィルタ補正係数に基づきフィルタ配列を補正した補正フィルタ配列を用いて、炉内部の画像を補正する(S5)。
【0144】
例えば、フィルタ配列として上記式(1)により表される乗算フィルタを用いた場合には、補正後の画像の各画素の値は、下記式(6-1)で表される。下記式(6-1)は、f[i,j]が1である画素位置は、フィルタ配列によって輝度を補正しなくてよい位置(画素値変換領域外の位置または最大輝度値の位置)にあたるので、フィルタ補正係数によってp[i,j]が変化しないようにしている。なお、Ccorrectionは、フィルタ補正係数である。また、フィルタ配列として上記式(3)により表される加算フィルタを用いた場合には、補正後の画像の各画素の値は、下記式(6-2)で表される。
【0145】
【数6】
【0146】
このように、撮像装置により取得された炉内部の画像を補正するフィルタ配列を、画像に適したフィルタ補正係数により補正し、補正されたフィルタ配列を用いて画像を補正することにより、より適切に撮像画像により取得された炉内部の画像をより鮮明にすることができる。
【0147】
なお、上記説明では、第1の実施形態に係る画像処理方法においてフィルタ配列を補正する場合について説明したが、第2の実施形態に係る画像処理方法に対しても同様にフィルタ配列をフィルタ補正係数により補正してもよい。
【0148】
[4.適用例]
図22図24に基づき、第1の実施形態に係る画像処理方法による炉内部の画像の補正の効果を説明する。
【0149】
まず、図22は、時間代表値画像生成部51により、撮像装置により順次撮像された炉壁11の複数の画像から時間代表値画像として生成された、時間平均画像の一例である。図22において左右の白い部分が炉壁であり、中央奥の黒い部分はコークス炉炭化室の窯口である。
【0150】
図23は、図22に示す時間平均画像から生成されたフィルタ配列により、当該時間平均画像を補正する前の画像と補正後の画像とを示す。図23に示すように、フィルタ配列による補正前の時間平均画像は、撮像装置の観察窓の汚れの影響で、特に上下の炉壁境界部分が暗くなっている。フィルタ配列を用いて時間平均画像を補正すると、時間平均画像の炉壁を表す白い部分は均一な明るさとなる。
【0151】
図24に、図22に示す時間平均画像から生成されたフィルタ配列により、新たに取得された炉内部の画像を補正する前の画像と補正後の画像とを示す。図24に示すように、フィルタ配列による補正前の画像は、撮像装置の観察窓の汚れの影響で、上下の炉壁境界部分Pbが暗くなっている。一方、フィルタ配列を用いて画像を補正すると、画像の炉壁を表す白い部分は全体的に明るく鮮明となり、上下の炉壁境界部分Pbの炉壁の状態も明確に把握することができる。
【0152】
第2の実施形態に係る画像処理方法においても、同様の効果が得られる。このように、本発明の各実施形態に係る画像処理方法を用いることで、炉内部の画像を鮮明化することができる。
【0153】
[5.ハードウェア構成]
図25に基づいて、本実施形態に係る画像処理装置50、100のハードウェア構成について説明する。図25は、本実施形態に係る画像処理装置50、100として機能する情報処理装置900のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0154】
情報処理装置900は、プロセッサ(図25ではCPU901)と、ROM903と、RAM905とを含む。また、情報処理装置900は、バス907と、入力I/F909と、出力I/F911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを含む。
【0155】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能する。CPU901は、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体925に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置900内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムあるいは演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラム、あるいは、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0156】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0157】
入力I/F909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等の、ユーザが操作する操作手段である入力装置921からの入力を受け付けるインタフェースである。入力I/F909は、例えば、ユーザが入力装置921を用いて入力した情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等として構成されている。入力装置921は、例えば、赤外線あるいはその他の電波を利用したリモートコントロール装置、あるいは、情報処理装置900の操作に対応したPDA等の外部機器927であってもよい。情報処理装置900のユーザは、入力装置921を操作し、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0158】
出力I/F911は、入力された情報を、ユーザに対して視覚的または聴覚的に通知可能な出力装置923へ出力するインタフェースである。出力装置923は、例えば、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプ等の表示装置であってもよい。あるいは、出力装置923は、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置や、プリンター、移動通信端末、ファクシミリ等であってもよい。出力I/F911は、出力装置923に対して、例えば、情報処理装置900により実行された各種処理にて得られた処理結果を出力するよう指示する。具体的には、出力I/F911は、表示装置に対して情報処理装置900による処理結果を、テキストまたはイメージで表示するよう指示する。また、出力I/F911は、音声出力装置に対し、再生指示を受けた音声データ等のオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力するよう指示する。
【0159】
ストレージ装置913は、情報処理装置900の記憶部の1つであり、データ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイスまたは光磁気記憶デバイス等により構成される。ストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラム、プログラムの実行により生成された各種データ、及び、外部から取得した各種データ等を格納する。
【0160】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置900に内蔵あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されているリムーバブル記録媒体925に記録されている情報を読み出し、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されているリムーバブル記録媒体925に情報を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体925は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスクまたは半導体メモリ等である。具体的には、リムーバブル記録媒体925は、CDメディア、DVDメディア、Blu-ray(登録商標)メディア、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体925は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0161】
接続ポート917は、機器を情報処理装置900に直接接続するためのポートである。接続ポート917は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS-232Cポート等である。情報処理装置900は、接続ポート917に接続された外部機器927から、直接各種データを取得したり外部機器927に各種データを提供したりすることができる。
【0162】
通信装置919は、例えば、通信網929に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網929は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成されている。例えば、通信網929は、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等である。
【0163】
以上、情報処理装置900のハードウェア構成の一例を示した。上述の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されてもよく、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されてもよい。情報処理装置900のハードウェア構成は、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて適宜変更可能である。
【0164】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0165】
例えば、上記第1の実施形態及び第2の実施形態では、撮像装置の観察窓に汚れが付着するとその位置の輝度値が下がることから、画素値変換領域内で最大輝度値を有する画素の位置を、汚れが確実にない画素位置として特定している(図5のステップS32a、図12のS254)。しかし、本発明は係る例に限定されず、最大輝度値以外の統計値を用いて、汚れが確実にない画素位置、すなわち撮像装置による画像撮像時の外乱が生じていない確率が最も高い画素位置を特定してもよい。例えば、平均が高ければ分散も大きくなる傾向があることに着目して、動画(撮像装置が順次撮像して得られる複数の画像)の中で同一の画素位置の時間方向の分散値(輝度値時間分散)を用いて、汚れが確実にない画素位置を特定してもよい。この場合、輝度値時間分散が最大となる画素位置が、汚れが確実にない画素位置となる。上記式(1)~式(4)において、時間平均画像の最大輝度値の代わりに、当該画素位置の輝度値時間分散が最大となる画素位置の画素値を用いることで、フィルタ配列を生成することができる。
【符号の説明】
【0166】
1 コークス炉
10 炭化室
11、11L、11R 炉壁
13 炉底
15 炭化室窯口
20 押出ラムビーム
21 押出ラム
31、33 撮像装置
50、100 画像処理装置
51 時間代表値画像生成部
53、160 フィルタ生成部
55 補正処理部
110 画像取得部
120 前処理部
130 フレーム間移動量算出部
140 フレーム間移動量推定部
150 炉壁観察画像生成部
300 記憶装置
310 撮像画像記憶部
320 炉壁観察画像記憶部
500 表示装置
900 情報処理装置
907 バス
913 ストレージ装置
915 ドライブ
917 接続ポート
919 通信装置
921 入力装置
923 出力装置
925 リムーバブル記録媒体
927 外部機器
929 通信網
A0 部分領域
A1、A2 テンプレート画像
C 対称軸
E フレーム間移動量推定値
Ia 時間平均画像
Ip 炉壁斜視画像(フレーム)
IpR 炉壁斜視画像の右領域
Is 炉壁正視画像
Is 第1の炉壁正視画像
Is 第2の炉壁正視画像
IsR 炉壁正視画像の右領域
I 炉壁観察画像
F 連結用画像
L フレーム間移動量
R テンプレートマッチング結果
W 時間平均画像の幅
図1
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図25