(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】プレス装置及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20250110BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20250110BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B21D22/26 D
B21D24/04 A
B21D5/01 C
(21)【出願番号】P 2021039876
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】米林 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亨
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-184024(JP,A)
【文献】実開昭51-049089(JP,U)
【文献】国際公開第2017/131193(WO,A1)
【文献】特開2021-028080(JP,A)
【文献】特開2004-154786(JP,A)
【文献】特開昭48-076775(JP,A)
【文献】特開2015-139818(JP,A)
【文献】特開2010-149184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 24/04
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板である素材にプレス加工を施すためのプレス装置であって、
パンチ頂面と、前記パンチ頂面に連続するパンチ肩と、前記パンチ肩から下方に延びるパンチ側面と、を有するパンチと、
前記パンチ頂面に対向するように前記パンチの上方に配置され、昇降可能に構成されるパッドと、
前記パンチの上方且つ前記パッドの側方に配置され、昇降可能に構成され、前記パンチ肩に対応する第1ダイ肩と、前記パンチ側面に対応して前記第1ダイ肩から下方に延びるダイ側面と、第2ダイ肩を介して前記ダイ側面の下端に接続されるダイ下面と、を有するダイと、
前記パンチの側方且つ前記ダイの下方に配置され、昇降可能に構成され、前記ダイ下面に対向するホルダ上面を有するホルダと、
を備え、
前記パッドの下面は、前記パンチ頂面に対応する形状を有し、
前記ダイ下面は、前記第2ダイ肩から離れるにつれて下降する傾斜面を含み、
前記ホルダ上面は、前記プレス装置によるプレス加工の開始時点において、前記パンチ頂面よりも下方であって、前記ダイが下死点に到達したときの前記ダイ下面の位置よりも上方に配置されており、前記ダイ下面の前記傾斜面に対応して前記パンチから離れるにつれて下降する傾斜面を含む、プレス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス装置であって、
前記ホルダ上面の前記傾斜面が水平面となす角度は、10°以上、且つ55°以下である、プレス装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプレス装置であって、
前記ホルダの昇降ストロークは、5.0mm以上、且つ25.0mm以下である、プレス装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のプレス装置であって、
前記ホルダ上面に負荷される鉛直方向の荷重は、当該荷重をF[kN]、前記素材の引張強さをTS[MPa]、前記素材の板厚をt[mm]、前記素材のうち前記ダイ下面と前記ホルダ上面とで挟持される部分の長手方向の長さをL[mm]としたとき、以下の条件式を満たすように設定される、プレス装置。
0.04≦Z≦0.45
ただし、Z=F/(TS×t×L)
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のプレス装置であって、
前記第2ダイ肩は、前記ダイの横断面視で、前記素材の板厚以上、且つ当該板厚の4倍以下の曲率半径を有する円弧状をなす、プレス装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のプレス装置であって、さらに、
前記ホルダ上面上に設けられ、前記素材を挟持する前記ダイ下面と前記ホルダ上面との間隔を調整するディスタンスブロック、
を備える、プレス装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のプレス装置を用いたプレス成形品の製造方法であって、
金属板である素材を準備する工程と、
前記パンチ頂面上に前記素材を載置し、前記パッド及び前記ダイを降下させる工程と、
前記パッドが前記パンチ頂面上の前記素材を押さえた後、前記ダイが下死点に到達する前に、前記ダイ下面と前記ホルダ上面とで前記素材の端部を挟持する工程と、
前記ダイを前記下死点に到達させ、前記第1ダイ肩及び前記ダイ側面と、前記パンチ肩及び前記パンチ側面とによって前記素材をプレスする工程と、
を備え、
前記素材の前記端部は、前記ダイの降下に伴って前記ダイ下面と前記ホルダ上面との間から前記傾斜面に沿って引き出され、前記ダイが前記下死点に到達した状態で前記ダイ側面と前記パンチ側面との間に位置する、製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法であって、
前記ダイが前記下死点に到達した状態で、前記ホルダ上面は、前記プレス装置の幅方向においてプレスされた前記素材よりも外側に位置する、製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の製造方法であって、
準備される前記素材は、前記第2ダイ肩に対応する位置で凹曲げされている、製造方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載の製造方法であって、
準備される前記素材は、前記パンチ肩に対応する位置で凸曲げされている、製造方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記パンチは、前記パンチ頂面に溝部又は段部を有し、
準備される前記素材には、前記パンチ頂面の前記溝部又は前記段部に対応する溝部又は段部が形成されている、製造方法。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記素材の加工硬化指数は、0.04以下である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス装置、及びこれを用いたプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体等を構成する部品として、プレス成形品が使用されている。プレス成形品は、金属板をプレス加工することによって製造される。より具体的には、ダイ及びパンチで構成される金型を用い、素材としての金属板に絞り加工や曲げ加工を施すことにより、プレス成形品が製造される。
【0003】
金属板のプレス加工では、金型によって成形されたプレス成形品を離型するとスプリングバックが生じる。すなわち、プレス加工中に金型によって金属板が曲げられるとき、曲げ部では、曲げ外側に引張応力が生じ、曲げ内側に圧縮応力が生じるが、成形が終了してプレス成形品を金型から取り外すと、材料の弾性回復が発生する。これにより、プレス成形品の曲げ部では、プレス加工中の応力の方向と反転した方向の応力が生じる。このスプリングバックによる反転応力が成形終了時点の応力と足し合わされることにより、プレス成形品の曲げ部では、曲げ外側に圧縮応力が残留し、曲げ内側に引張応力が残留する。
【0004】
自動車用の部品として使用されるプレス成形品では、曲げ内側の引張残留応力が小さいことが好ましい。例えば、サスペンションメンバ等といった自動車の足回り部品では、自動車の発進時、走行中、又は制動時に曲げ部において比較的大きな応力が繰り返し発生するため、曲げ内側に残留する引張応力が大きいほど曲げ部の疲労強度が低下する。
【0005】
繰り返し負荷で生じる疲労破壊に抗するため、自動車用の部品としてのプレス成形品を製造する際には、適切な材料や板厚が採用される。また、車両の軽量化ニーズにこたえるため、素材である金属板の高強度化及び薄肉化が進んでいる。しかしながら、素材を薄肉化すると、当該素材から製造されるプレス成形品に対する繰り返し負荷が高くなる。そのため、軽量化(素材の薄肉化)と疲労強度とを両立するためには、プレス成形品の曲げ部において曲げ内側に残留する引張応力を低減する必要がある。
【0006】
プレス成形品から引張の残留応力を除去するための手段として、熱処理や、ショットピーニング、超音波振動子による打撃処理等が知られている。しかしながら、これらの処理は、プレス加工工程と別の工程で行う必要があるため、プレス成形品の製造にかかる工数及びコストを増加させる。また、ショットピーニングにおいては、プレス成形品の曲げ部のみを処理することが困難であることに加え、プレス成形品の表面荒れを生じさせるという問題もある。そのため、プレス成形品の引張残留応力は、プレス加工工程において低減されることが好ましい。
【0007】
例えば、特許文献1には、引張残留応力の低減を図るため、素材である金属板に対していわゆるしごき加工を施す技術が開示されている。特許文献1では、ダイとパンチとのクリアランスが金属板の板厚以上、且つ板厚の1.02倍以下に設定されている。特許文献1によれば、このようにクリアランスを設定することにより、金属板において、曲げを開始する前から金型の肩部に接触している部分の残留応力が、当該肩部に最後に接触する部分の残留応力よりも小さくなるため、プレス成形品の疲労特性を向上することができる。
【0008】
特許文献2には、ダイ及びパンチに加え、パンチ頂面に対向するパッドを備えるプレス装置が開示されている。このプレス装置では、ダイが降下し、ダイ及びパンチ肩が金属板をプレスして金属板に曲げ部を形成した後、パンチ頂面に向かってパッドが降下する。パンチ頂面には凹部が形成されており、この凹部が金属板の下方に空間を形成するため、降下したパッドが金属板をプレスすると、金属板の材料がパンチ頂面の凹部側へと流入する。特許文献2によれば、このような材料の流入により、曲げ部の曲げ内側に引張方向の力が負荷されて圧縮応力が低減され、離型後のスプリングバック量が減少する。よって、曲げ内側の引張残留応力を低減することができる。
【0009】
特許文献3~5には、離型後のスプリングバック量の減少を図るため、プレス成形品自体の形状を工夫する技術が開示されている。特許文献3~5では、概略ハット形状の横断面を有するプレス成形品において、凹凸又は段差が縦壁部に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-316215号公報
【文献】国際公開第2017/131042号
【文献】特開2004-314123号公報
【文献】特開2006-272378号公報
【文献】特開2017-196646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、金属板をプレス加工してプレス成形品を製造したとき、プレス成形品の曲げ部では、曲げ外側に圧縮応力が残留し、曲げ内側に引張応力が残留する。より優れた疲労特性を有すプレス成形品を得るためには、曲げ内側の引張残留応力を低減する必要がある。また、プレス成形品の製造工数及び製造コスト等の増大を防止する観点から、曲げ内側の引張残留応力は、プレス加工工程において低減されることが好ましい。
【0012】
本開示は、プレス成形品の曲げ部において曲げ内側に生じる引張残留応力をプレス加工工程で低減することができる新たなプレス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係るプレス装置は、金属板である素材にプレス加工を施すためのプレス装置である。プレス装置は、パンチと、パッドと、ダイと、ホルダと、を備える。パンチは、パンチ頂面と、パンチ肩と、パンチ側面と、を有する。パンチ肩は、パンチ頂面に連続する。パンチ側面は、パンチ肩から下方に延びる。パッドは、パンチ頂面に対向するようにパンチの上方に配置される。パッドは、昇降可能に構成される。ダイは、パンチの上方且つパッドの側方に配置される。ダイは、昇降可能に構成される。ダイは、第1ダイ肩と、ダイ側面と、ダイ下面と、を有する。第1ダイ肩は、パンチ肩に対応する。ダイ側面は、パンチ側面に対応して第1ダイ肩から下方に延びる。ダイ下面は、第2ダイ肩を介してダイ側面の下端に接続される。ホルダは、パンチの側方且つダイの下方に配置される。ホルダは、昇降可能に構成される。ホルダは、ホルダ上面を有する。ホルダ上面は、ダイ下面に対向する。ダイ下面は、傾斜面を含む。ダイ下面の傾斜面は、第2ダイ肩から離れるにつれて下降する。ホルダ上面は、プレス装置によるプレス加工の開始時点において、パンチ頂面よりも下方であって、ダイが下死点に到達したときのダイ下面の位置よりも上方に配置されている。ホルダ上面は、傾斜面を含む。ホルダ上面の傾斜面は、ダイ下面の傾斜面に対応してパンチから離れるにつれて下降する。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るプレス装置によれば、プレス成形品の曲げ部において曲げ内側に生じる引張残留応力をプレス加工工程で低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るプレス装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2B】
図2Bは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2C】
図2Cは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2D】
図2Dは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2E】
図2Eは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2F】
図2Fは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2G】
図2Gは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2H】
図2Hは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2I】
図2Iは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2J】
図2Jは、第1実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るプレス装置及びプレス成形品の製造方法について、素材の端部を挟持した状態でホルダが降下する距離と、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の引張残留応力との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るプレス装置及びプレス成形品の製造方法について、成形完了時における第2ダイ肩のR止まりから素材の端までの上下方向の距離と、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の引張残留応力との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係るプレス装置及びプレス成形品の製造方法について、ホルダ荷重の無次元化数Zと、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の残留応力との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係るプレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、第1実施例に係るプレス成形品の概略構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第2実施例の解析結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第3実施例の解析結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、従来のプレス成形品の曲げ部において曲げ周方向に発生する応力について、成形終了時点で生じた板厚方向の応力分布、及びスプリングバック後の板厚方向の残留応力分布を示すグラフである。
【
図11】
図11は、本発明者等の知見に関し、プレス成形品の曲げ部において曲げ周方向に発生する応力について、成形終了時点で生じた板厚方向の応力分布、及びスプリングバック後の板厚方向の残留応力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、プレス成形品の曲げ部に生じる応力の分布を確認するため、市販のソフトウェア(LS-DYNA ver971 rev7.12,ANSYS社製)を用い、プレス加工のCAE解析を実施した。解析条件は以下の通りである。
・素材の引張強さ:980MPa
・素材の板厚:3.0mm
・曲げR(曲げ内側の曲率半径):4.0mm
・プレス成形品(加工後)の形状:2つの縦壁と、縦壁同士を接続する天板とからなる形状(フランジなし)
【0017】
プレス成形品の曲げ部において曲げ周方向に発生する応力について、成形終了時点での板厚方向の応力分布、及びスプリングバック後の板厚方向の残留応力分布を
図10に示す。
図10では、プレス成形品の曲げ部において、曲げ内側のR頂点(Rの中央)から曲げ外側のR頂点に向かう線上で発生した応力(曲げ周方向の応力)を示している。
図10からわかるように、成形終了時点において、プレス成形品の曲げ部では、曲げ外側に引張応力が生じ、曲げ内側に圧縮応力が生じている。一方、スプリングバック後は、プレス成形品の曲げ部において、曲げ外側に圧縮残留応力が生じ、曲げ内側に引張残留応力が生じている。
【0018】
本発明者等は、スプリングバック後のプレス成形品の曲げ部では、曲げ外側の領域だけでなく、曲げ内側の領域のうち中立軸(板厚中心)近傍で圧縮の残留応力が生じていることに注目し、プレス加工中に板厚全体にわたって曲げ部に張力を与えることを着想した。本発明者等は、曲げ部に張力を与えることにより、曲げ内側の領域において、成形終了時点での圧縮応力を低減することができ、それに伴ってスプリングバック後の引張残留応力も低減すると考えた。
【0019】
張力を付与した状態で素材を曲げること以外は上記と同様の条件でCAE解析を行ったところ、
図11に示す応力分布が得られた。
図11からわかるように、張力を付与した状態でプレス成形品の曲げ部を形成した場合、成形終了時点における曲げ内側の圧縮応力が低減し、スプリングバック後における曲げ内側の引張の残留応力が減少し、さらに圧縮の残留応力となった。そこで、本発明者等は、張力を付与した状態で素材を曲げることができる新たなプレス装置の構成を検討し、実施形態に係るプレス装置を完成させた。
【0020】
実施形態に係るプレス装置は、金属板である素材にプレス加工を施すためのプレス装置である。プレス装置は、パンチと、パッドと、ダイと、ホルダと、を備える。パンチは、パンチ頂面と、パンチ肩と、パンチ側面と、を有する。パンチ肩は、パンチ頂面に連続する。パンチ側面は、パンチ肩から下方に延びる。パッドは、パンチ頂面に対向するようにパンチの上方に配置される。パッドは、昇降可能に構成される。ダイは、パンチの上方且つパッドの側方に配置される。ダイは、昇降可能に構成される。ダイは、第1ダイ肩と、ダイ側面と、ダイ下面と、を有する。第1ダイ肩は、パンチ肩に対応する。ダイ側面は、パンチ側面に対応して第1ダイ肩から下方に延びる。ダイ下面は、第2ダイ肩を介してダイ側面の下端に接続される。ホルダは、パンチの側方且つダイの下方に配置される。ホルダは、昇降可能に構成される。ホルダは、ホルダ上面を有する。ホルダ上面は、ダイ下面に対向する。ダイ下面は、傾斜面を含む。ダイ下面の傾斜面は、第2ダイ肩から離れるにつれて下降する。ホルダ上面は、プレス装置によるプレス加工の開始時点において、パンチ頂面よりも下方であって、ダイが下死点に到達したときのダイ下面の位置よりも上方に配置されている。ホルダ上面は、傾斜面を含む。ホルダ上面の傾斜面は、ダイ下面の傾斜面に対応してパンチから離れるにつれて下降する(第1の構成)。
【0021】
第1の構成によるプレス装置を用いてプレス加工を行う際、金属板である素材をパンチ頂面上に載置し、パッド及びダイを降下させて、パッド及びダイをこの順でパンチ頂面上の素材に接触させる。すなわち、まず、パッドによってパンチ頂面上の素材を上方から押さえた後、ダイを下死点に到達させる。ダイが下死点に到達したとき、第1ダイ肩及びダイ側面とパンチ肩及びパンチ側面との間で素材がプレスされる。
【0022】
ここで、ダイ側面の下端には、第2ダイ肩を介してダイ下面が接続されている。つまり、パンチ肩及びパンチ側面に対応する第1ダイ肩及びダイ側面よりも下方に、ダイ下面が設けられている。一方、ダイの下方に設けられたホルダの上面は、ダイが下死点に到達したときのダイ下面の位置よりも上方、且つパンチ頂面よりも下方に配置されている。そのため、ダイが降下したとき、ダイ下面は、第1ダイ肩及びダイ側面に先行して素材に接触し、ホルダ上面とともに素材の端部を挟持する。素材は前もってパッドで押さえられているため、ダイ下面とホルダ上面とが素材の端部を挟持することにより、素材に対して張力が付与される。その後、ダイがさらに降下すると、張力が付与された状態の素材に第1ダイ肩及びダイ側面が接触し、第1ダイ肩及びダイ側面とパンチ肩及びパンチ側面とによって曲げ部が形成される。
【0023】
このように、第1の構成によるプレス装置によれば、張力を付与した状態で素材を曲げ、プレス成形品を製造することができる。よって、プレス成形品の曲げ部において、曲げ内側に生じる引張残留応力を低減することができる。
【0024】
第1の構成によるプレス装置でプレス成形品が製造されるとき、ダイ下面及びホルダ上面に挟持された素材の端部は、ダイ及びホルダの降下に伴い、ダイ下面及びホルダ上面に設けられた傾斜面に沿って引き出される。すなわち、パンチ及びダイによる素材の成形が進むにつれて、ダイ下面及びホルダ上面に挟持される素材の表面積が減少する。これにより、ダイ下面及びホルダ上面から素材に作用する単位面積当たりの荷重が徐々に大きくなるため、素材に付与される張力を成形後期で増加させることができる。
【0025】
ホルダ上面の傾斜面が水平面となす角度は、10°以上、且つ55°以下であることが好ましい(第2の構成)。
【0026】
ダイが降下し、ダイ下面がホルダ上面とともに素材の端部を挟持したとき、ホルダ上面には、その傾斜面に対して垂直な荷重が負荷される。ホルダ上面の傾斜面が急峻である場合、ホルダ上面に対する荷重の水平成分が増大する。また、ホルダ上面の傾斜面が急峻になるほどホルダの幅(水平方向の寸法)が小さくなり、ホルダの強度が低下する。そこで、第2の構成では、ホルダ上面の傾斜面が水平面となす角度を55°以下に制限している。これにより、ホルダ上面に対する荷重の水平成分を抑制できるとともに、ホルダの幅を確保することができる。よって、ホルダの破損等を生じにくくすることができる。
【0027】
プレス加工中、ダイ下面とホルダ上面とが素材の端部を挟持することにより、ダイ下面及びホルダ上面の傾斜面、並びにダイ下面に隣接する第2ダイ肩に沿って素材の端部が曲げられる。ダイ下面の傾斜面、及びこれに対応するホルダ上面の傾斜面が過度に緩やかである場合、素材の曲げ癖が大きくなり、当該素材から製造されるプレス成形品の寸法精度に影響が生じる。これに対して、第2の構成では、ホルダ上面の傾斜面が水平面となす角度が10°以上に確保されている。そのため、ダイ下面及びホルダ上面による挟持に起因して発生する素材の曲げ癖を軽減することができ、プレス成形品を精度よく製造することができる。
【0028】
ホルダの昇降ストロークは、5.0mm以上、且つ25.0mm以下であることが好ましい(第3の構成)。
【0029】
上記プレス装置では、ダイ下面及びホルダ上面によって素材の端部が挟持された状態で、ダイとともにホルダが降下する。素材の端部がダイ下面及びホルダ上面で挟持される時間が長いほど、素材に対する張力を増すことができる。ただし、素材に対する張力が過大である場合、例えばパンチ肩やパンチ側面の位置で、プレス加工中の素材、又は製造されるプレス成形品に割れが生じる可能性がある。一方、素材に対する張力が過小である場合、製造されるプレス成形品の曲げ部において、曲げ内側に生じる引張残留応力が効果的に低減されない可能性がある。そのため、第3の構成では、ホルダの昇降ストロークを5.0mm、且つ25.0mm以下に設定し、素材の端部がダイ下面及びホルダ上面で挟持される時間を適切に確保している。これにより、素材又はプレス成形品において、張力の付与による割れの発生を抑制することができ、また、引張残留応力の低減効果を有効に発揮させることができる。
【0030】
ホルダ上面に負荷される鉛直方向の荷重は、当該荷重をF[kN]、素材の引張強さをTS[MPa]、素材の板厚をt[mm]、素材のうちダイ下面とホルダ上面とで挟持される部分の長手方向の長さをL[mm]としたとき、以下の条件式を満たすように設定されることが好ましい(第4の構成)。
0.04≦Z≦0.45
ただし、Z=F/(TS×t×L)
【0031】
第4の構成によれば、ホルダ上面に負荷される鉛直方向の荷重、つまりホルダの昇降ストロークと同じ方向の荷重が所定の条件式を満たすように設定される。これにより、ホルダ上面に対し、ダイ下面からの荷重が過不足なく適切に負荷される。そのため、ダイが素材の反力に負け、ダイ下面とホルダ上面とによる素材の端部の挟持が困難になったり、付与される張力が増大し、例えばパンチ肩やパンチ側面の位置で、素材又はプレス成形品に割れが生じたりするのを抑制することができる。
【0032】
第2ダイ肩は、ダイの横断面視で、素材の板厚以上、且つ当該板厚の4倍以下の曲率半径を有する円弧状をなすことが好ましい(第5の構成)。
【0033】
プレス加工中、ダイ下面とホルダ上面との間で素材が挟持されるのに対し、ダイ下面に隣接する第2ダイ肩とホルダ上面との間では、素材は挟持されない。すなわち、ホルダ上面のうち、ダイ下面に対向する部分は素材に接触する一方、第2ダイ肩に対向する部分は素材に接触しない。第5の構成では、第2ダイ肩の曲率半径を素材の板厚の4倍以下に制限しているため、素材に対するホルダ上面の接触面積を確保することができる。そのため、プレス加工中の素材に対して十分に張力を付与することができ、プレス成形品の曲げ部において、曲げ内側に残留する引張応力を効果的に低減することができる。
【0034】
また、第5の構成では、第2ダイ肩において素材の板厚以上の曲率半径が確保されている。そのため、ダイ下面及びホルダ上面によって素材の端部が挟持されたとき、第2ダイ肩の位置で素材が不必要に大きく変形しない。よって、プレス加工中の素材において第2ダイ肩の位置で割れが生じたり、第2ダイ肩での曲げ癖がプレス成形品に残ったりするのを抑制することができる。
【0035】
上記プレス装置は、さらに、ディスタンスブロックを備えていてもよい。ディスタンスブロックは、ホルダ上面上に設けられる。ディスタンスブロックは、素材を挟持するダイ下面とホルダ上面との間隔を調整することができる(第6の構成)。
【0036】
第6の構成によれば、ホルダ上面にディスタンスブロックが設けられている。このディスタンスブロックにより、ダイ及びホルダの降下が進み、ダイ下面とホルダ上面との間から素材の端部が引き出されたとき、ホルダ上面がダイ下面に衝突するのを防止することができる。
【0037】
実施形態に係る製造方法は、上記プレス装置を用いたプレス成形品の製造方法である。この製造方法は、金属板である素材を準備する工程と、パンチ頂面上に素材を載置し、パッド及びダイを降下させる工程と、パッドがパンチ頂面上の素材を押さえた後、ダイが下死点に到達する前に、ダイ下面とホルダ上面とで素材の端部を挟持する工程と、ダイを下死点に到達させ、第1ダイ肩及びダイ側面と、パンチ肩及びパンチ側面とによって素材をプレスする工程と、を備える。素材の端部は、ダイの降下に伴ってダイ下面とホルダ上面との間から傾斜面に沿って引き出され、ダイが下死点に到達した状態でダイ側面とパンチ側面との間に位置する(第7の構成)。
【0038】
上記製造方法において、ダイが下死点に到達した状態で、ホルダ上面は、プレス装置の幅方向においてプレスされた素材よりも外側に位置することが好ましい(第8の構成)。
【0039】
第8の構成によれば、ダイが下死点に到達した状態では、プレス装置の幅方向において、ホルダ上面がプレス後の素材よりも外側に位置付けられる。すなわち、ダイが下死点に到達すると、ダイ下面とホルダ上面との間から素材が抜け、ダイ上面及びホルダ上面による素材の挟持が自然に解除される。そのため、素材の挟持を解除するための複雑なロッキング機構等をプレス装置に設ける必要がない。よって、プレス装置を簡易な構成とすることができる。
【0040】
上記製造方法において、準備される素材は、第2ダイ肩に対応する位置で凹曲げされていることが好ましい(第9の構成)。
【0041】
第9の構成によれば、プレス加工前の素材が第2ダイ肩に対応する位置で予め凹曲げされている。これにより、プレス加工時において、第2ダイ肩に連続するダイ下面と、ホルダ上面とで素材が挟持されやすくなる。よって、素材に対して、より効果的に張力を作用させることができる。
【0042】
上記製造方法において、準備される素材は、パンチ肩に対応する位置で凸曲げされていることが好ましい(第10の構成)。
【0043】
上記製造方法において、パンチは、パンチ頂面に溝部又は段部を有することができる。この場合、準備される素材には、パンチ頂面の溝部又は段部に対応する溝部又は段部が形成されていることが好ましい(第11の構成)。
【0044】
第10又は第11の構成によれば、素材がパンチに沿うように予成形されている。これにより、プレス加工時において、パンチ上の素材をパッドで、より確実に押さえられるようになる。よって、ダイ下面とホルダ上面とで素材の端部が挟持されたとき、素材に対して、より効果的に張力を作用させることができる。
【0045】
上記製造方法において、素材の加工硬化指数は、好ましくは0.04以下である(第12の構成)。
【0046】
第12の構成によれば、素材の加工硬化指数が0.04以下と十分に小さいため、プレス加工時における素材の加工硬化が生じにくくなる。この場合、プレス加工時に素材に発生する応力が小さくなり、結果としてスプリングバックによる応力も小さくなる。よって、プレス加工時の応力とスプリングバックによる応力との合算であるプレス成形品の残留応力をさらに低減させることができる。
【0047】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0048】
<第1実施形態>
[プレス装置の構成]
図1は、本実施形態に係るプレス装置100の概略構成を示す断面図である。プレス装置100は、金属板である素材にプレス加工を施し、例えば自動車の足回り部品であるプレス成形品を製造するために用いられる。自動車の足回り部品としては、例えば、アッパーアーム、ロアアーム、又はトレールリンク等といったアーム部品の他、サスペンションメンバやトーションビーム等が挙げられる。
【0049】
図1を参照して、プレス装置100は、パンチ10と、ダイ20L,20Rと、パッド30と、ホルダ40L,40Rとを備えている。プレス装置100は、パンチホルダ50と、ベッド60と、ダイホルダ70と、スライド80と、クッション90と、をさらに備える。パンチ10及びダイ20L,20Rは、
図1の紙面と交差する方向に延びている。以下、説明の便宜上、プレス装置100及びその構成部品に関しては、パンチ10及びダイ20L,20Rが延びる方向を長手方向といい、パンチ10とダイ20L,20Rとが接近及び離間する方向(
図1の紙面における上下方向)を上下方向(鉛直方向)という。当該長手方向及び上下方向からなる平面に対して垂直な方向、すなわちパンチ10及びダイ20L,20Rを横切る方向を左右方向又は幅方向という。また、プレス装置100及びその構成部品に関し、長手方向に垂直な平面で切断した断面を横断面という。
【0050】
パンチ10は、パンチホルダ50を介し、プレス装置100の本体の一部であるベッド60に支持されている。すなわち、ベッド60の上面にパンチホルダ50が固定され、このパンチホルダ50上にパンチ10が配置されている。ベッド60とパンチホルダ50との間には、上下方向におけるパンチ10の位置を調整するため、プレート状のスペーサが挿入されていてもよい。
【0051】
パンチ10は、パンチ頂面11と、左右のパンチ肩12L,12Rと、左右のパンチ側面13L、13Rとを有する。本実施形態において、パンチ頂面11には、長手方向に延びる溝部111が形成されている。溝部111は、長手方向において、パンチ頂面11の全体にわたって延びていてもよいし、パンチ頂面11の一部に設けられていてもよい。パンチ頂面11の左側には、パンチ肩12L及びパンチ側面13Lが設けられている。パンチ頂面11の右側には、パンチ肩12R及びパンチ側面13Rが設けられている。
【0052】
パンチ肩12L,12Rは、パンチ頂面11に連続して設けられる。より詳細には、パンチ肩12Lは、パンチ頂面11の左側縁に連続し、パンチ肩12Rは、パンチ頂面11の右側縁に連続する。パンチ肩12L,12Rの各々は、パンチ10の横断面視で実質的に円弧状をなす。パンチ肩12L,12Rは、それぞれ、パンチ頂面11とパンチ側面13L、13Rとの間の稜線部(コーナー)である。以下、実質的に円弧状というときは、真円の一部を構成する曲線だけでなく、楕円曲線、スプライン曲線等の滑らかな曲線も含む。また、真円の一部を構成する曲線以外の滑らかな曲線の場合の曲率半径は、横断面で切断したときに、曲線の両端、及び曲線の中点の3点を通る円の半径で定義する。
【0053】
パンチ側面13Lは、パンチ10の横断面視で、左のパンチ肩12Lから下方に延びている。パンチ側面13Rは、パンチ10の横断面視で、右のパンチ肩12Rから下方に延びている。パンチ側面13L,13Rの各々は、下端部が上端部よりも幅方向において外側に位置するように、長手方向に平行な鉛直面に対して傾斜する。パンチ側面13L,13Rが、長手方向に平行な鉛直面となす角度(鋭角側)θL,θRは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。パンチ側面13Lの角度θL及びパンチ側面13Rの角度θRは、好ましくは20°以下である。なお、パンチ側面13L,13Rが長手方向に平行な鉛直面となす角度(鋭角側)θL,θRとは、上下方向と幅方向からなる平面で切断した断面において、パンチ側面13L,13Rと鉛直方向とがなす角度(鋭角側)を意味する。
【0054】
ダイ20L,20Rは、パンチ10の上方、且つ後述するパッド30の側方に配置される。ダイ20Lは、パンチ10の上方において、パッド30の左側に配置されている。ダイ20Rは、パンチ10の上方において、パッド30の右側に配置されている。ダイ20L,20Rは、昇降可能に構成されている。
【0055】
左右のダイ20L,20Rの各々は、ダイホルダ70を介し、スライド80に取り付けられている。すなわち、スライド80の下面にダイホルダ70が固定され、ダイホルダ70の下面にダイ20L,20Rが固定されている。上下方向におけるダイ20L,20Rの位置を調整するため、スライド80とダイホルダ70との間にはプレート状のスペーサが挿入されていてもよい。スライド80は、例えば、プレス装置100に設けられた機械式又は油圧式機構等(図示略)により、パンチ10に対して昇降可能に構成されている。スライド80の昇降に伴い、ダイ20L,20Rもパンチ10に対して昇降する。
【0056】
左側のダイ20Lは、第1ダイ肩21Lと、ダイ側面22Lと、第2ダイ肩23Lと、ダイ下面24Lとを有する。第1ダイ肩21Lは、左側のパンチ肩12Lに対応して設けられる。すなわち、第1ダイ肩21Lは、ダイ20Lが下死点まで降下したとき、パンチ肩12Lとの間で素材をプレスすることができる位置及び形状を有する。第1ダイ肩21Lは、パンチ肩12Lと同様、ダイ20Lの横断面視で実質的に円弧状をなす。第1ダイ肩21L及びパンチ肩12Lの曲率半径は、目的のプレス成形品に応じ、適宜決定することができる。
【0057】
ダイ側面22Lは、ダイ20Lの横断面視で、第1ダイ肩21Lから下方に延びている。ダイ側面22Lは、左側のパンチ側面13Lに対応して設けられる。すなわち、ダイ側面22Lは、ダイ20Lが下死点まで降下したとき、パンチ側面13Lとの間で素材をプレスすることができる位置及び形状を有する。ダイ側面22Lは、パンチ側面13Lと同様、下端部が上端部よりも幅方向において外側に位置するように、長手方向に平行な鉛直面に対して傾斜する。ダイ側面22Lが、長手方向に平行な鉛直面に対してなす角度(鋭角側)は、パンチ側面13Lが、長手方向に平行な鉛直面に対してなす角度θLと実質的に等しい。
【0058】
第2ダイ肩23Lは、ダイ側面22Lの下端に連続して設けられる。第2ダイ肩23Lは、ダイ20Lの横断面視で実質的に円弧状をなす。第2ダイ肩23Lは、プレス加工に供される素材の板厚以上の曲率半径RLを有することが好ましい。第2ダイ肩23Lの曲率半径RLは、好ましくは素材の板厚の4倍以下である。
【0059】
第2ダイ肩23Lは、ダイ側面22Lとダイ下面24Lとの間の稜線部(コーナー)である。ダイ下面24Lは、第2ダイ肩23Lを介してダイ側面22Lの下端に接続されている。ダイ下面24Lは、水平面に対して傾斜する傾斜面241Lを含んでいる。傾斜面241Lは、第2ダイ肩23Lに接続され、第2ダイ肩23Lから離れるにつれて下降する。すなわち、傾斜面241Lは、第2ダイ肩23Lから幅方向の外側に向かって下降する。傾斜面241Lは、幅方向外側の端部が幅方向内側の端部よりも下方に位置する傾斜面である。本実施形態の例では、ダイ下面24Lの全体が傾斜面241Lとなっている。
【0060】
右側のダイ20Rは、左側のダイ20Lと同様に、第1ダイ肩21Rと、ダイ側面22Rと、第2ダイ肩23Rと、ダイ下面24Rとを有する。ただし、右側のダイ20Rにおけるダイ肩21R,23R、ダイ側面22R、及びダイ下面24Rの形状は、左側のダイ20Lにおけるダイ肩21L,23R、ダイ側面22、及びダイ下面24Lの形状と同一でなくてもよい。すなわち、プレス装置100において、左右のダイ20L,20Rは、対称な形状を有していてもよいが、非対称な形状を有していてもよい。
【0061】
右側のダイ20Rにおいて、第1ダイ肩21Rは、右側のパンチ肩12Rに対応して設けられる。すなわち、第1ダイ肩21Rは、ダイ20Rが下死点まで降下したとき、パンチ肩12Rとの間で素材をプレスすることができる位置及び形状を有する。第1ダイ肩21Rは、パンチ肩12Rと同様、ダイ20Rの横断面視で実質的に円弧状をなす。第1ダイ肩21R及びパンチ肩12Rの曲率半径は、目的のプレス成形品に応じ、適宜決定することができる。
【0062】
ダイ側面22Rは、ダイ20Rの横断面視で、第1ダイ肩21Rから下方に延びている。ダイ側面22Rは、右側のパンチ側面13Rに対応して設けられる。すなわち、ダイ側面22Rは、ダイ20Rが下死点まで降下したとき、パンチ側面13Rとの間で素材をプレスすることができる位置及び形状を有する。ダイ側面22Rは、パンチ側面13Rと同様、下端部が上端部よりも幅方向において外側に位置するように、長手方向に平行な鉛直面に対して傾斜する。ダイ側面22Rが、長手方向に平行な鉛直面に対してなす角度(鋭角側)は、パンチ側面13Rが、長手方向に平行な鉛直面に対してなす角度θRと実質的に等しい。
【0063】
第2ダイ肩23Rは、ダイ側面22Rの下端に連続して設けられる。第2ダイ肩23Rは、ダイ20Rの横断面視で実質的に円弧状をなす。第2ダイ肩23Rは、プレス加工に供される素材の板厚以上の曲率半径RRを有することが好ましい。第2ダイ肩23Rの曲率半径RRは、好ましくは素材の板厚の4倍以下である。
【0064】
第2ダイ肩23Rは、ダイ側面22Rとダイ下面24Rとの間の稜線部(コーナー)である。ダイ下面24Rは、第2ダイ肩23Rを介してダイ側面22Rの下端に接続されている。ダイ下面24Rは、水平面に対して傾斜する傾斜面241Rを含んでいる。傾斜面241Rは、第2ダイ肩23Rに接続され、第2ダイ肩23Rから離れるにつれて下降する。すなわち、傾斜面241Rは、第2ダイ肩23Rから幅方向の外側に向かって下降する。傾斜面241Rは、幅方向外側の端部が幅方向内側の端部よりも下方に位置する傾斜面である。本実施形態の例では、ダイ下面24Rの全体が傾斜面241Rとなっている。
【0065】
パッド30は、パンチ10の上方、且つ左右のダイ20L,20Rの間に配置されている。パッド30は、パンチ頂面11に対向するように配置される。より詳細には、パッド30の本体31の下面がパンチ頂面11に対向する。パッド本体31の下面は、パンチ頂面11に対応する形状を有する。本実施形態の例において、パッド本体31の下面には、パンチ頂面11の溝部111に対応して、長手方向に延びる凸部311が設けられている。
【0066】
パッド30は、昇降可能に構成されている。パッド30は、ダイホルダ70を介してスライド80に取り付けられていることにより、パンチ10に対して昇降可能となっている。パッド本体31は、伸縮可能な支持部材32により、ダイホルダ70に弾性的に支持されている。支持部材32は、例えば、ばね又は流体圧シリンダ等で構成されている。支持部材32が伸長状態にある場合、パッド本体31の下面は、少なくとも第1ダイ肩21L,21R及びダイ側面22L,22Rよりも下方に位置する。
【0067】
ホルダ40L,40Rは、パンチ10の側方、且つダイ20L,20Rの下方に配置されている。より具体的には、パンチ10の左側、且つダイ下面24Lの直下にホルダ40Lが配置され、パンチ10の右側、且つダイ下面24Rの直下にホルダ40Rが配置されている。
【0068】
ホルダ40L,40Rは、昇降可能に構成されている。ホルダ40L,40Rの昇降ストロークは、それぞれ、5.0mm以上、且つ25.0mm以下に設定されていることが好ましい。ホルダ40L,40Rは、クッション90によって支持されている。
【0069】
クッション90は、左右のクッションピン91L,91Rと、クッション本体92とを有する。クッションピン91L,91Rは、それぞれ、ベッド60を貫通して上下に延び、ホルダ40L,40Rの下面に取り付けられている。クッション本体92は、例えば、ベッド60の下方に配置される。クッション本体92は、一般的なプレス装置のダイクッションと同様、クッションピン91L,91Rを昇降させる機構(例えば、油圧式機構)を有する。クッションピン91L,91Rの昇降に伴い、ホルダ40L,40Rがベッド60に対して昇降する。ホルダ40L,40Rは、クッション本体92及びクッションピン91L,91Rにより、対応するダイ20L,20Rに対して圧力を発生させる。
【0070】
左側のホルダ40Lは、ホルダ上面41Lを有する。ホルダ上面41Lは、左側のダイ下面24Lに対向する。ホルダ上面41Lは、ダイ下面24Lの傾斜面241Lに対応して、水平面に対して傾斜する傾斜面411Lを含んでいる。傾斜面411Lは、パンチ10から離れるにつれて下降する。すなわち、傾斜面411Lは、幅方向外側の端部が幅方向内側の端部よりも下方に位置する傾斜面である。本実施形態の例では、ホルダ上面41Lの全体が傾斜面411Lとなっている。
【0071】
本実施形態において、ホルダ上面41Lは、幅方向において第2ダイ肩23Lよりも外側に配置されている。すなわち、ホルダ上面41Lは、ダイ下面24Lに対向する一方、第2ダイ肩23Lには対向していない。しかしながら、第2ダイ肩23Lに対向する位置にホルダ上面41Lの一部が配置されていてもよい。より具体的には、第2ダイ肩23Lに対向する位置に傾斜面411Lの一部を配置することもできる。
【0072】
幅方向において、ホルダ上面41Lのパンチ10側の端部の位置は、ダイ下面24Lの第2ダイ肩23L側の端部の位置と実質的に一致していることが好ましい。ただし、加工誤差や、組付け時におけるダイ20Lとホルダ40Lとの幅方向の位置ずれ等が考えられるため、幅方向において、ホルダ上面41Lのパンチ10側の端部の位置を、ダイ下面24Lの第2ダイ肩23L側の端部の位置と一致させたい場合であっても、第2ダイ肩23Lに対向する位置にホルダ上面41Lの一部を配置することができる。
【0073】
傾斜面411Lが水平面となす角度(鋭角側)ψLは、10°以上であることが好ましい。傾斜面411Lの角度ψLは、55°以下であることが好ましい。傾斜面411Lの角度ψLは、ダイ下面24Lの傾斜面241Lが水平面に対してなす角度と実質的に同一である。
【0074】
右側のホルダ40Rは、ホルダ上面41Rを有する。ホルダ上面41Rは、右側のダイ下面24Rに対向する。ホルダ上面41Rは、ダイ下面24Rの傾斜面241Rに対応して、水平面に対して傾斜する傾斜面411Rを含んでいる。傾斜面411Rは、パンチ10から離れるにつれて下降する。すなわち、傾斜面411Rは、幅方向外側の端部が幅方向内側の端部よりも下方に位置する傾斜面である。本実施形態の例では、ホルダ上面41Rの全体が傾斜面411Rとなっている。
【0075】
本実施形態において、ホルダ上面41Rは、幅方向において第2ダイ肩23Rよりも外側に配置されている。すなわち、ホルダ上面41Rは、ダイ下面24Rに対向する一方、第2ダイ肩23Rには対向していない。しかしながら、第2ダイ肩23Rに対向する位置にホルダ上面41Rの一部が配置されていてもよい。より具体的には、第2ダイ肩23Rに対向する位置に傾斜面411Rの一部を配置することもできる。
【0076】
幅方向において、ホルダ上面41Rのパンチ10側の端部の位置は、ダイ下面24Rの第2ダイ肩23R側の端部の位置と実質的に一致していることが好ましい。ただし、加工誤差や、組付け時におけるダイ20Rとホルダ40Rとの幅方向の位置ずれ等が考えられるため、幅方向において、ホルダ上面41Rのパンチ10側の端部の位置を、ダイ下面24Rの第2ダイ肩23R側の端部の位置と一致させたい場合であっても、第2ダイ肩23Rに対向する位置にホルダ上面41Rの一部を配置することができる。
【0077】
傾斜面411Rが水平面となす角度(鋭角側)ψRは、10°以上であることが好ましい。傾斜面411Rの角度ψRは、55°以下であることが好ましい。傾斜面411Rの角度ψRは、ダイ下面24Rの傾斜面241Rが水平面に対してなす角度と実質的に同一である。ただし、左右のホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rの角度ψL,ψRは、必ずしも同一でなくてもよい。
【0078】
本実施形態において、プレス装置100は、ディスタンスブロック42L,42Rを備える。ディスタンスブロック42Lは、左側のホルダ上面41L上に設けられ、ダイ下面24Lとホルダ上面41Lとの間隔を調整する。ディスタンスブロック42Lは、ホルダ上面41L上において、幅方向の外側縁寄りに配置される。ディスタンスブロック42Rは、右側のホルダ上面41R上に設けられ、ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとの間隔を調整する。ディスタンスブロック42Rは、ホルダ上面41R上において、幅方向の外側縁寄りに配置される。ディスタンスブロック42L,42Rの各厚みは、好ましくは、プレス加工に供される素材の板厚の0.9倍以上、且つ1.1倍以下である。
【0079】
左側のホルダ上面41L上には、複数のディスタンスブロック42Lがバランスのよいピッチで長手方向に配列されていることが好ましい。同様に、右側のホルダ上面41R上には、複数のディスタンスブロック42Rがバランスのよいピッチで長手方向に配列されていることが好ましい。この場合、個々のディスタンスブロック42L,42Rの長手方向の長さは、例えば、20.0mm~60.0mm程度とすることができる。
【0080】
ディスタンスブロック42L,42Rの素材は、ダイ20L,20R及びホルダ40L,40Rの素材よりも低い強度を有するものであることが好ましい。そのため、本実施形態では、ディスタンスブロック42L,42Rをホルダ40L,40Rと別体の部材としている。しかしながら、ディスタンスブロック42L,42Rは、ホルダ40L,40Rと一体形成されたものであってもよい。
【0081】
[プレス成形品の製造方法]
以下、上記のように構成されたプレス装置100を用い、プレス成形品を製造する方法について
図2A~
図2Jを参照しつつ説明する。
図2A~
図2Jは、プレス成形品の製造方法を説明するための模式図である。本実施形態に係るプレス成形品の製造方法は、素材を準備する工程と、この素材にプレス加工を施す工程とを備えている。
【0082】
(準備工程)
図2Aを参照して、プレス成形品を製造するに際し、まず、素材Mを準備する。素材Mは、金属板であり、典型的には鋼板である。素材Mの板厚tは、例えば、2.0mm以上、且つ8.0mm以下である。素材Mは、例えば、270MPa以上、且つ1180MPa以下の引張強さを有する。製造されるプレス成形品が自動車の足回り部品のうちアーム部品である場合、素材Mの引張強さは、通常、590MPa以上である。
【0083】
素材Mの加工硬化指数は、0.04以下であることが好ましい。また、素材Mは、降伏応力YSと引張強さTSとの比率(降伏比)YR=YS/TSが0.95以上のものであることが好ましい。加工硬化指数は、素材Mの加工硬化のしやすさを示す指標であり、その値が大きいほど加工硬化がしやすい材料であることを意味する。加工硬化指数(n値)は、JIS G 0202:2013において定義され、例えば、JIS Z 2253:2011で規定される方法によって測定される。降伏比YRは、n値と逆相関となる値であるため、n値が大きくなるほど低下する。
【0084】
(プレス加工工程)
次に、準備した素材Mに対し、プレス装置100によってプレス加工を施す。プレス加工工程は、ダイ20L,20R及びパッド30を降下させる工程(a)と、ダイ20L,20Rとホルダ40L,40Rとで素材Mを挟持する工程(b)と、ダイ20L,20R及びパッド30と、パンチ10とで素材Mをプレスする工程(c)とを含む。以下、プレス加工工程についてより具体的に説明する。
【0085】
工程(a)
図2Bに示すように、プレス装置100によるプレス加工を開始する際、ダイ20L,20R及びパッド30は上死点に位置する。プレス加工の開始時点では、ホルダ上面41L,41Rは、パンチ頂面11よりも下方に配置されている。また、プレス加工の開始時点で、ホルダ上面41L,41Rは、ダイ20L,20Rが下死点に到達したときのダイ下面24L,24Rの位置よりも上方に配置されている。
【0086】
ダイ20L,20R及びパッド30を上死点に位置させた状態で、素材Mをパンチ頂面11上に載置する。ホルダ上面41L,41Rは、この時点ではパンチ頂面11よりも下方に配置されているため、パンチ頂面11上の素材Mに接触しない。パンチ頂面11上に素材Mを載置した後、スライド80を降下させることにより、スライド80に取り付けられたダイ20L,20R及びパッド30を素材Mに向かって降下させる。パッド30は、ダイ20L,20Rに先行してパンチ頂面11上の素材Mに接触する。
【0087】
図2Cを参照して、パッド30は、パンチ頂面11上の素材Mを押さえる。より詳細には、支持部材32を介してスライド80に支持されたパッド本体31により、パンチ頂面11上の素材Mのうち幅方向の中央部分が上方から押さえられる。
【0088】
図2Dを参照して、パッド本体31によって素材Mが押さえられた後、スライド80はさらに降下する。このとき、支持部材32が縮むことにより、素材Mを押さえた状態のパッド本体31に対してダイ20L,20Rが相対的に降下する。これにより、素材Mのうち幅方向の両端部(左右端部)がダイ下面24L,24Rで押し下げられ、素材Mがパンチ肩12L,12Rに沿って曲がり始める。
【0089】
工程(b)
図2Eを参照して、ダイ20L,20Rをさらに降下させると、素材Mの左右端部がホルダ上面41L,41Rに接触する。素材Mの左端部は、パッド30がパンチ頂面11上の素材Mを押さえた後、ダイ20Lが下死点に到達する前に、ホルダ上面41Lとダイ下面24Lとで挟持される。素材Mの右端部は、パッド30がパンチ頂面11上の素材Mを押さえた後、ダイ20Rが下死点に到達する前に、ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとで挟持される。素材Mの左右端部は、ダイ下面24L,24Rの傾斜面241L,241Rと、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rとによって挟まれる。
【0090】
ホルダ40L,40Rは、クッション90により、ダイ20L,20R及び素材Mに対して圧力を発生させることができる。ダイ20L,20R及び素材Mからホルダ上面41L,41Rに負荷される鉛直方向の荷重は、クッション90によるホルダ40L,40Rの圧力を調整することによって設定することができる。
【0091】
ホルダ上面41Lに負荷される鉛直方向(ホルダ40Lの昇降ストロークと同じ方向)の荷重FL[kN]は、以下の条件式(1)を満たすように設定されることが好ましい。ホルダ上面41Rに負荷される鉛直方向(ホルダ40Rの昇降ストロークと同じ方向)の荷重FR[kN]は、以下の条件式(2)を満たすように設定されることが好ましい。荷重FL,FRは、プレス加工工程中、条件式(1)及び(2)を満たす範囲で変動してもよい。
0.04≦ZL≦0.45 ・・・(1)
ただし、ZL=FL/(TS×t×LL)
0.04≦ZR≦0.45 ・・・(2)
ただし、ZR=FR/(TS×t×LR)
【0092】
条件式(1)及び(2)において、TSは、素材Mの引張強さ[MPa]、tは、素材Mの板厚[mm]、LLは、素材Mのうちダイ下面24Lとホルダ上面41Lとで挟持される部分の長手方向の長さ[mm]、LRは、素材Mのうちダイ下面24Rとホルダ上面41Rとで挟持される部分の長手方向の長さ[mm]である。長さLLは、ダイ下面24L及びホルダ上面41Lが素材Mの左端部を挟持し始めた時点での、長手方向における素材Mの左端部の長さである。長さLRは、ダイ下面24R及びホルダ上面41Rが素材Mの右端部を挟持し始めた時点での、長手方向における素材Mの右端部の長さである。
【0093】
図2Fを参照して、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで素材Mの左右端部が挟持された後、ダイ20L,20Rをさらに降下させる。これにより、ホルダ40L,40R及びクッションピン91L,91Rも降下する。ダイ20L及びホルダ40Lの降下に伴い、ダイ下面24Lとホルダ上面41Lとの間から素材Mの左端部が傾斜面241L,411Lに沿ってパンチ10側に引き出される。同様に、ダイ20R及びホルダ40Rに伴い、ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとの間から素材Mの右端部が傾斜面241R,411Rに沿ってパンチ10側に引き出される。
【0094】
工程(c)
図2Gを参照して、ダイ20L,20Rを最終的に下死点に到達させ、第1ダイ肩21L,21R及びダイ側面22L,22Rと、パンチ肩12L,12R及びパンチ側面13L,13Rとによって素材Mをプレスする。また、素材Mは、パッド本体31とパンチ頂面11とによってプレスされる。ダイ20L,20Rの一部がパンチ頂面11の一部に対応している場合は、ダイ20L,20Rとパンチ頂面11との間でも素材Mがプレスされる。これにより、素材Mからプレス成形品が製造される。
【0095】
ダイ20Lが下死点に到達した状態では、素材Mの左端部は、ダイ下面24Lとホルダ上面41Lとの間から完全に引き出され、ダイ側面22Lとパンチ側面13Lとの間に位置する。ダイ20Rが下死点に到達した状態では、素材Mの右端部は、ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとの間から完全に引き出され、ダイ側面22Rとパンチ側面13Rとの間に位置する。本実施形態の例では、ダイ20L,20Rが下死点に到達した状態で、ホルダ上面41L,41Rがプレスされた素材Mよりも幅方向において外側に位置付けられている。
【0096】
図2H及び
図2Iを参照して、ダイ下面24Lとホルダ上面41Lとが素材Mの左端部を挟持した状態でホルダ40Lが降下する距離D1は、2.0mm以上、且つ10.0mm以下であることが好ましい。ダイ下面24Lとホルダ上面41Lとの間から素材Mの左端部が完全に引き出された後は、ダイ20L及びホルダ40Lを速やかに下死点に到達させることが好ましい。ダイ20L及びホルダ40Lが下死点に到達した時点において、ダイ側面22Lとパンチ側面13Lとの間の素材Mの下端と、第2ダイ肩23LのR止まり(上側)との上下方向における距離D2は、例えば4.5mm以下とされる。最も好ましくは、距離D2が実質的に0mmである。
【0097】
図示を省略するが、同様に、ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとが素材Mの右端部を挟持した状態でホルダ40Rが降下する距離は、2.0mm以上、且つ10.0mm以下であることが好ましい。ダイ下面24Rとホルダ上面41Rとの間から素材Mの右端部が完全に引き出された後は、ダイ20R及びホルダ40Rを速やかに下死点に到達させることが好ましい。ダイ20L及びホルダ40Lが下死点に到達した時点において、ダイ側面22Rとパンチ側面13Rとの間の素材Mの下端と、第2ダイ肩23RのR止まり(上側)との上下方向における距離は、例えば4.5mm以下とされる。最も好ましくは、当該距離が実質的に0mmである。
【0098】
図2Jは、製造されたプレス成形品200を部分的に示す斜視図である。プレス成形品200は、天板201と、左右の縦壁202L,202Rと、左右の曲げ部203L,203Rとを有する。天板201には、長手方向に延びる溝部204が形成されている。左の縦壁202Lの上端は、左の曲げ部203Lを介し、天板201の左側縁に接続されている。右の縦壁202Rの上端は、右の曲げ部203Rを介し、天板201の右側縁に接続されている。縦壁202L,202Rの下端は、それぞれ自由端である。曲げ部203L,203Rの各々は、プレス成形品200の横断面視で実質的に円弧状をなす。
【0099】
[効果]
本実施形態に係るプレス装置100では、プレス加工の開始時点で、ホルダ上面41L,41Rがパンチ頂面11よりも下方、且つダイ20L,20Rが下死点に到達したときのダイ下面24L,24Rの位置よりも上方に配置されている。そのため、ダイ20L,20Rが下死点に到達し、第1ダイ肩21L,21Rが素材Mをプレスする前に、ダイ下面24L,24Rが素材Mに接触し、ホルダ上面41L,41Rとともに、パッド30で押さえられた素材Mの左右端部を挟持する。これにより、素材Mのうち、プレス成形品200の曲げ部203L,203Rとなる部分に張力を付与することができる。このように、素材Mに張力を付与した状態で成形を行うことにより、素材Mから製造されたプレス成形品200の曲げ部203L,203Rにおいて、曲げ内側に生じる引張残留応力を低減することができる。
【0100】
本実施形態において、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで挟持された素材Mの左右端部は、ダイ20L,20R及びホルダ40L,40Rの降下に伴い、傾斜面241L,241R,411L,411Rに沿って引き出される。そのため、ダイ20L,20Rが下死点に近づくにつれて、素材Mのうち、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで挟持される部分の表面積が減少し、素材Mに作用する単位面積当たりの荷重が大きくなる。よって、成形終了に向けて、素材Mに付与される張力を徐々に増加させることができる。これにより、プレス成形品200の曲げ部203L,203Rにおいて、曲げ内側に生じる引張残留応力を効果的に低減することができる。
【0101】
例えば、絞り成形によって金属板である素材からプレス成形品を製造する場合、成形初期より、水平な下面を有するダイと、水平な上面を有するホルダとによって素材の幅方向の端部が挟持される。この場合、成形初期から素材に対して張力が付与される。しかしながら、絞り成形では、成形終了時点でもダイとホルダとで素材の端部が挟持されている。そのため、製造されるプレス成形品は、天板と、天板の左右側縁に接続される縦壁と、各縦壁の下端から幅方向の外側に突出するフランジとを有する形状、つまり横断面視で概略ハット形状となる。絞り成形を利用してフランジがないプレス成形品を製造するには、パンチ、ダイ、及びホルダによって素材を概略ハット形状に一旦成形した後、左右の縦壁で成形後の素材をトリムする必要がある。しかしながら、一般に、素材のトリムは板厚方向に対して平行に行われるため、例えば、鉛直面に対して傾斜する左右の縦壁をトリムする場合、複雑なカム機構等を備える寄せ抜き型のトリム刃が必要となる。この場合、トリム刃の設計工数の増大や、トリム刃の製造費用の高騰といった問題が生じる。また、縦壁をトリムすることにより、材料の歩留まりが低下するという問題もある。
【0102】
一方、本実施形態において、素材Mの左右端部は、成形初期からではなく、成形途中からダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで挟持される。ただし、素材Mの左右端部は、ダイ20L,20Rが下死点に到達した状態では、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとの間から完全に引き出され、ダイ側面22L,22Rとパンチ側面13L,13Rとの間でプレスされる。そのため、素材Mに張力を付与しながら曲げることができ、且つ、フランジがないプレス成形品200を直接成形することができる。よって、絞り成形を利用する場合のようなトリム刃の設計工数や製造費用等は不要であり、材料の歩留まりを低下も防止することができる。
【0103】
本実施形態において、ホルダ上面41L,41Rは、ダイ20L,20Rが下死点に到達した状態で、プレス後の素材Mよりも幅方向の外側に位置付けられる。すなわち、素材Mの左右端部は、ダイ20L,20Rが下死点に到達したとき、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとの間から自然に引き出される。よって、ダイ下面24L,24R及びホルダ上面41L,41Rによる素材Mの挟持を解除するための複雑なロッキング機構等をプレス装置100に設ける必要がない。よって、プレス装置100を簡易な構成とすることができる。
【0104】
一般的なプレス加工では、素材の位置ずれが問題となることがある。例えば、左右のパンチ側面の高さが異なる場合、左右のダイのうち、パンチ側面の高さが大きい側のダイが先に素材に接触するため、素材の位置ずれが生じやすい。パイロットピン等を用いて素材の位置決めを行う場合、素材の位置ずれが生じると、素材においてパイロットピン用の孔の周縁部が変形する。一方、本実施形態に係るプレス装置100は、まず、パッド30が素材Mの幅方向の中央部を押さえるように構成されている。パンチ頂面11上の素材Mをパッド30で押さえた後で、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとによって素材Mの左右端部を挟持することにより、プレス加工中の素材Mの位置ずれを防止することができる。よって、プレス成形品200を精度よく製造することができる。
【0105】
本実施形態において、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rが水平面となす角度ψL,ψRは、それぞれ、好ましくは10°以上である。ここで、水平面とは、ホルダ40L,40Rが昇降する方向(上下方向)に対して垂直な平面である。角度ψL,ψRを10°以上とすることより、ホルダ上面41L,41Rの幅、及びホルダ40L,40Rの強度を確保することができる。また、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411R、ダイ下面24L,24Rの傾斜面241L,241R、及び第2ダイ肩23L,23Rに沿って曲げられる素材Mの曲げ癖を低減することができる。そのため、プレス成形品200を精度よく製造することができる。なお、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rが水平面となす角度ψL,ψRとは、上下方向と幅方向からなる平面で切断した断面において、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rと幅方向とがなす角度(鋭角側)を意味する。
【0106】
本実施形態において、ホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rが水平面となす角度ψL,ψRは、それぞれ、好ましくは55°以下である。これにより、傾斜面411L,411Rが急峻になりすぎず、傾斜面411L,411Rに対して垂直に負荷される荷重の水平成分を抑制することができる。よって、ホルダ40L,40Rや、ホルダ40L,40Rを支持するクッションピン91L,91Rの破損等を生じにくくすることができる。
【0107】
本実施形態では、素材Mの成形後期において、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで素材Mの左右端部が挟持され、ホルダ40L,40Rが降下する。このホルダ40L,40Rが各々降下する距離(昇降ストローク)は、5.0mm以上に設定されていることが好ましい。ホルダ40L,40Rの各昇降ストロークを5.0mm以上とすることにより、素材Mの左右端部の挟持時間を確保し、素材Mに付与される張力を増すことができる。そのため、プレス成形品200の曲げ部203L,203Rにおいて、曲げ内側に生じる引張残留応力を効果的に低減することができる。
【0108】
また、ホルダ40L,40Rが各々降下する距離(昇降ストローク)は、25.0mm以下に設定されていることが好ましい。ホルダ40L,40Rの各昇降ストロークを25.0mm以下とすることにより、素材Mに過剰な張力が付与されるのを防止することができる。そのため、素材M又はプレス成形品において、割れ等が発生するのを抑制することができる。
【0109】
素材Mに適切な張力を付与するため、厳密には、素材Mの左右端部を挟持した状態でホルダ40L,40Rが降下する距離D1を調整することが好ましい。
図3は、素材Mの端部を挟持した状態でホルダ40L又は40Rが降下する距離D1と、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の引張残留応力との関係を示すグラフである。
図3、並びに後述する
図4及び
図5のグラフは、引張強さ:980MPa、板厚:3.0mmの素材Mを曲げR(曲げ内側の曲率半径):4.0mmで曲げ、フランジのないプレス成形品を成形するプレス加工について、市販のソフトウェア(LS-DYNA ver971 rev7.12,ANSYS社製)を用いてCAE解析を行ったときに得られた結果から作成されている。
【0110】
図3に示すように、距離D1が2.0mm以上となると、プレス成形品の曲げ部において、曲げ内側に残留する引張応力が低減する。そのため、素材Mの端部を挟持した状態でのホルダ40L,40Rの降下距離D1は、2.0mm以上であることが好ましい。距離D1が大きくなるほど、素材Mの端部の挟持時間が長くなるため、曲げ内側の引張残留応力は低減される。ただし、距離D1が10.0mmを超えると、素材Mに付与される張力が過剰となり、曲げ部又は縦壁に割れ等が発生する可能性がある。よって、素材Mの端部を挟持した状態でのホルダ40L,40Rの降下距離D1は、10.0mm以下であることが好ましい。距離D1を2.0mm以上、且つ10.0mm以下とすることにより、素材Mに適切な張力を付与することができる。
【0111】
本実施形態では、ダイ20L,20Rが下死点に到達したとき、ダイ側面22L,22Rとパンチ側面13L,13Rとの間に位置する素材Mの下端と、第2ダイ肩23L,23RのR止まり(上側)との上下方向における各距離D2は、例えば4.5mm以下に設定されている。これにより、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとの間から素材Mの左右端部が完全に引き出され、素材Mに対する張力が減少した後、素材Mの成形を速やかに完了させることができる。
【0112】
図4は、成形完了時における第2ダイ肩23L又は23RのR止まり(上側)から素材Mの端までの上下方向の距離D2と、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の引張残留応力との関係を示すグラフである。
図4に示すように、第2ダイ肩23L,23RのR止まりから素材Mまでの距離D2が大きくなるほど、プレス成形品の曲げ部の曲げ内側における残留応力が大きくなる。曲げ内側の残留応力を有効に低減するためには、距離D2は、4.5mm以下であることが好ましい。最も好ましくは、距離D2が0mmである。距離D2を小さくすることにより、パンチ10及びダイ20L,20Rを含む金型を小型化し、金型の製造等にかかる費用を低減することもできる。
【0113】
本実施形態において、左のホルダ上面41Lに負荷される鉛直方向の荷重FLは、上記条件式(1)を満たすように設定されることが好ましい。また、右のホルダ上面41Rに負荷される鉛直方向の荷重FRは、好ましくは上記条件式(2)を満たすように設定される。このように荷重FL,FRを設定することにより、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで素材Mの左右端部をより確実に挟持することができ、素材Mに対して適切な張力を付与することができる。
【0114】
図5は、ホルダ荷重の無次元化数Z=F/(TS×t×L)と、プレス成形品の曲げ部における曲げ内側の残留応力との関係を示すグラフである。
図5では、ホルダ上面41Lに負荷される荷重F
Lと右のホルダ上面41Rに負荷される荷重F
Rとを区別せず、ホルダ荷重F[kN]と表記する。また、素材Mのうちダイ下面24Lとホルダ上面41Lとで挟持される部分の長手方向の長さL
L、及び素材Mのうちダイ下面24Rとホルダ上面41Rとで挟持される部分の長手方向の長さL
Rを区別せず、素材Mの挟持部分の長さL[mm]と表記する。TSは、素材Mの引張強さ[MPa]、tは、素材Mの板厚[mm]である。
【0115】
図5を参照して、ホルダ荷重Fの無次元化数Zが0.04以上である場合、ダイ20L,20Rが素材Mの反力に負けることなく、ダイ下面24L,24Rがホルダ上面41L,41Rとともに素材Mの左右端部を確実に挟持するため、素材Mに対して張力が有効に付与される。そのため、プレス成形品の曲げ部において、曲げ内側に残留する引張応力が低減する。無次元化数Zが大きくなるほど、素材Mに対する張力が増加し、曲げ内側の引張残留応力を低減することができる。ただし、無次元化数Zが0.45を超える場合、素材Mに対する張力が過大となり、曲げ部又は縦壁に割れ等が生じる可能性がある。よって、上記条件式(1)及び(2)の通り、ホルダ荷重Fの無次元化数Zは、0.04以上、且つ0.45以下であることが好ましい。
【0116】
本実施形態において、ダイ下面24L,24Rは、ホルダ上面41L,41Rとともに素材Mの左右端部を挟持する一方、ダイ下面24L,24Rに隣接する第2ダイ肩23L,23Rは、素材Mの挟持に実質的に寄与しない。第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRが大き過ぎると、素材Mの挟持部分が減少する。そのため、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRは、素材Mの板厚tの4倍以下であることが好ましい。これにより、素材Mがダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで十分に挟持されるため、プレス成形品200の曲げ部203L,203Rにおいて、曲げ内側の引張り残留応力を効果的に低減することができる。
【0117】
本実施形態において、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRは、素材Mの板厚t以上であることが好ましい。これにより、プレス加工中の素材Mにおいて、第2ダイ肩23L,23Rの位置で割れ等が生じるのを防止することができる。また、素材Mから製造されたプレス成形品200において、第2ダイ肩23L,23Rでの曲げ癖が残るのを抑制することができる。
【0118】
本実施形態において、ホルダ上面41L,41R上には、ディスタンスブロック42L,42Rが設けられている。このディスタンスブロック42L,42Rにより、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとの間から素材Mの左右端部が引き出されたとき、ホルダ上面41L,41Rがダイ下面24L,24Rに衝突するのを防止することができる。また、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとの間から素材Mの左右端部が完全に引き出された後も、ディスタンスブロック42L,42Rがダイ20L,20Rに押されることにより、ホルダ40L,40Rをダイ20L,20Rとともに降下させることができる。
【0119】
本実施形態において、ディスタンスブロック42L,42Rの各厚みは、素材Mの板厚tの1.1倍以下であることが好ましい。これにより、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで素材Mの左右端部をより確実に挟持することができ、素材Mに対して効果的に張力を付与することができる。素材Mに対する張力が過大になるのを防止するため、ディスタンスブロック42L,42Rの各厚みは、素材Mの板厚tの0.9倍以上であることが好ましい。
【0120】
ディスタンスブロック42L,42Rの素材は、ダイ20L,20R及びホルダ40L,40Rの素材よりも低い強度を有するものであることが好ましい。この場合、ディスタンスブロック42L,42Rがダイ20L,20Rとホルダ40L,40Rとの間の緩衝材として機能するため、ダイ20L,20R及びホルダ40L,40Rの変形を防止することができる。よって、製造されるプレス成形品200について、ダイ20L,20R又はホルダ40L,40Rの変形による寸法精度の低下を防止することができる。
【0121】
プレス成形品200の残留応力は、素材Mをプレス成形品200に成形するときの応力と、プレス成形品200を離型したときのスプリングバックによる反転応力を足し合わせた結果である。成形時に素材Mに発生する応力が小さければ、スプリングバックによる応力も小さくなり、プレス成形品200の残留応力が低減する。そこで、本実施形態に係るプレス成形品200の製造方法では、好ましくは、加工硬化指数が0.04以下の素材Mを使用する。素材Mの加工硬化指数が0.04以下であれば、素材Mの加工硬化が生じにくく、成形時に素材Mに発生する応力も小さくなる。よって、プレス成形品200の残留応力を低減させることができる。
【0122】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態と同一のプレス装置100を用い、第1実施形態と概ね同様の方法でプレス成形品200を製造する。ただし、本実施形態では、準備される素材Mの形状が第1実施形態と異なる。
【0123】
図6は、ダイ20L,20Rが上死点に位置するときのプレス装置100の横断面図であり、本実施形態において準備された素材Mをパンチ頂面11上に載置した状態を示す。
図6に示すように、本実施形態では、素材Mは、パンチ頂面11上に載置されたとき、このパンチ頂面11及び左右のパンチ肩12L,12Rに沿うような形状に予め成形されている。より具体的には、素材Mには、パンチ頂面11の溝部111に対応する溝部M1が形成されている。また、素材Mは、パンチ肩12L,12Rに部分的に沿うように、パンチ肩12L,12Rの各々に対応する位置M2で凸曲げされている。
【0124】
さらに、素材Mは、左右の第2ダイ肩23L,23Rの各々に対応する位置M3で、予め凹曲げされている。言い換えると、素材Mがパンチ頂面11上に載置されたとき、ダイ下面24L,24Rとホルダ上面41L,41Rとで挟持される予定の左右端部が若干跳ね上がるように、素材Mが曲げられている。
【0125】
図6に示す例では、素材Mがパンチ頂面11上に載置された状態で、素材Mの左端部は、ホルダ上面41Lの傾斜面411Lと実質的に平行となっている。また、素材Mがパンチ頂面11上に載置された状態で、素材Mの右端部は、ホルダ上面41Rの傾斜面411Rと実質的に平行となっている。ただし、素材Mの左右端部は、必ずしも傾斜面411L,411Rと平行でなくてもよい。例えば、素材Mの左右端部が水平面となす角度は、傾斜面411L,411Rが水平面となす角度ψ
L,ψ
Rから±10°程度ずれていてもよい。
【0126】
本実施形態では、パンチ頂面11の溝部111及びパンチ肩12L,12Rに沿うような形状に素材Mが予成形されている。そのため、素材Mがパンチ10に馴染みやすく、プレス加工を行う際、パンチ10とパッド30との間で素材Mをより確実に押さえることができる。また、第2ダイ肩23L,23Rに対応する部分で素材Mが予め曲げられていることにより、第2ダイ肩23L,23Rに隣接するダイ下面24L,24Rと、ホルダ上面41L,41Rとで素材Mを容易に挟持することができる。よって、素材Mに対してより効果的に張力を作用させることができる。その結果、プレス成形品200の曲げ部203L,203Rにおいて(
図2J)、曲げ内側に生じる引張残留応力の低減効果をさらに向上させることができる。
【0127】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0128】
例えば、上記各実施形態に係るプレス装置100は、左右のホルダ40L,40Rを備えている。しかしながら、プレス装置100は、ホルダ40L,40Rのうち一方のみを備えていてもよい。すなわち、プレス成形品200の左右の曲げ部203L,203Rのうち、一方はホルダによる張力を付与しながら形成し、他方はホルダによる張力を付与せずに形成することができる。例えば、プレス成形品200の左右の曲げ部203L,203Rのうち、一方では、曲げ内側の引張残留応力を低下させ、優れた疲労特性を得る必要があるのに対し、他方では優れた疲労特性が不要である場合、優れた疲労特性が必要な側のみにホルダによる張力を付与すればよい。ホルダ40L,40Rの一方のみをプレス装置100に設ける場合、プレス装置100の製造費用等を抑えることができる。
【0129】
上記各実施形態に係るプレス装置100では、ホルダ上面41L,41Rの全体が傾斜面411L,411Rとなっている。しかしながら、ホルダ上面41L,41Rの一部が傾斜面411L,411Rであってもよい。例えば、ホルダ上面41L,41Rにおいて、幅方向の外側部分を水平面とし、この水平面よりも幅方向において内側に位置する部分(パンチ10側の部分)を傾斜面411L,411Rとすることもできる。この場合、ディスタンスブロック42L,42Rは、水平面上に配置されていてもよい。
【0130】
上記各実施形態に係るプレス装置100において、ホルダ40L,40Rは、クッション90によって昇降可能となっている。しかしながら、ホルダ40L,40Rを昇降させる機構は、クッション90に限定されるものではない。例えば、ばねや流体圧シリンダ等といった伸縮可能な支持部材により、ホルダ40L,40Rを支持することもできる。この場合、ダイ20L,20Rからホルダ上面41L,41Rに荷重が負荷されたとき、支持部材が縮み、ホルダ40L,40Rが降下する。ホルダ上面41L,41Rから荷重が取り除かれると、支持部材が伸び、ホルダ40L,40Rが上昇する。
【0131】
上記各実施形態に係るプレス装置100では、パンチ頂面11に溝部111が形成されている。しかしながら、パンチ頂面11には、溝部111に代えて段部(段差)が設けられていてもよい。この段部は、長手方向において、パンチ頂面11の全体にわたって延びていてもよいし、パンチ頂面11の一部に設けられていてもよい。パンチ頂面11に段部が設けられている場合、パッド30の下面にもこれに対応する段部が設けられる。パンチ頂面11に段部が設けられている場合、プレス成形品200の天板201には、パンチ頂面11の段部に対応する段部が形成される。プレス加工前の素材Mには、パンチ頂面11の段部に対応する段部を予め形成することもできる。
【0132】
ただし、パンチ頂面11及びプレス成形品200の天板201は、溝部又は段部を有するものでなくてもよい。パンチ頂面11及びプレス成形品200の天板201は、全体として平坦な形状であってもよい。
【0133】
プレス成形品200の全体形状は、使用目的等に応じ、適宜選択することができる。例えば、プレス成形品200は、天板201側から見て(平面視で)直線状であってもよいし、左又は右に湾曲する形状であってもよいし、上又は下に湾曲する形状(幅方向から見て湾曲する形状)であってもよい。プレス成形品200は、平面視で、直線部と湾曲部とを2種以上組み合わせた形状であってもよい。また、プレス成形品200は、幅方向から見て、直線部と湾曲部とを2種以上組み合わせた形状であってもよい。さらに、プレス成形品200は、例えば、平面視で三叉形状や四叉形状等、概略コの字状の断面を有する部分が複数に枝分かれするような形状を有していてもよい。
【0134】
プレス成形品200は、全体にわたり一様な横断面形状を有するものである必要はない。概略コの字状の横断面を少なくとも一部に有するプレス成形品であれば、上記各実施形態に係るプレス装置及び製造方法を適用することができる。
【0135】
プレス成形品200の天板201には、1つ以上の貫通孔が形成されていてもよい。この貫通孔は、単なる丸孔であってもよいし、バーリング加工によって形成された孔縁端が突出した形状の孔(バーリング孔)であってもよい。
【0136】
上記第2実施形態では、プレス装置100によるプレス加工前の素材Mに対し、予成形を施している。第2実施形態では、素材Mに対し、パンチ頂面11の溝部111に対応する溝部M1の形成、パンチ肩12L,12Rに対応する位置M2での凸曲げ、第2ダイ肩23L,23Rに対応する位置M3での凹曲げが施されている。しかしながら、第2実施形態において、溝部M1の形成、パンチ肩12L,12Rに対応する位置M2での凸曲げ、及び第2ダイ肩23L,23Rに対応する位置M3での凹曲げのうち、いずれか1つ又は2つを素材Mに施すこともできる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
[第1実施例]
本開示による効果を確認するため、
図1に示すプレス装置100により、引張強さTS=980MPa、板厚t=3.0mmの素材(鋼板)を
図7に示すプレス成形品300に成形するプレス加工について、CAE解析を実施した。プレス成形品300は、天板301、左右の縦壁302、及び左右の曲げ部303を有する。天板301には、溝部304が形成されている。各縦壁302の下端は、自由端となっている。すなわち、各縦壁302の下端にフランジは設けられていない。天板301の幅は80.0mm、縦壁302の高さは25.0mmである。また、曲げ部303の曲げR(曲げ内側の曲率半径)は4.0mmとした。プレス成形品300は、平面視で湾曲している。プレス成形品300の湾曲内側の湾曲Rは、250.0mmとした。湾曲外側の湾曲Rは、湾曲内側の湾曲Rと天板301の幅とを足し合わせ、330.0mmとなる。なお、これらの寸法は、プレス成形品300の内側(曲げ部303の曲げ内側の表面)における寸法である。
【0139】
CAE解析では、市販のソフトウェア(LS-DYNA ver971 rev7.12,ANSYS社製)を用い、曲げ内側の残留応力として、成形解析及びスプリングバック解析を行って曲げ部303の曲げ内側の表面の残留応力(最大主応力)の最大値を評価した。残留応力の値は正であれば引張であり、負であれば圧縮である。CAE解析では、板厚方向に分割された各要素のうち、曲げ内側の表面にある要素における値を曲げ内側の表面の値として採用した。解析の結果を表1に示す。
【0140】
【0141】
表1において、比較例1は、一般的なパッド曲げ成形によってプレス成形品300を成形したときの結果である。すなわち、比較例1では、パッド30で素材を押さえた状態で、パンチ10及びダイ20L,20Rによって素材をプレス成形したが、ダイ20L,20Rとホルダ40L,40Rとによる素材の挟持を行っていない。比較例1では、プレス成形が終了し、スプリングバックが生じた後、プレス成形品300の曲げ部303の曲げ内側の表面には、580MPaの残留応力が生じた。
【0142】
実施例1-1~1-18は、本開示に係る方法によってプレス成形品300を成形したときの結果である。すなわち、実施例1-1~1-18では、成形途中から、ダイ20L,20Rとホルダ40L,40Rとによって素材の幅方向の端部を挟持し、素材に対して張力を付与している。実施例1-1~1-11,1-13,1-16~1-18では、プレス成形が終了し、スプリングバックが生じた後、プレス成形品300の曲げ部303の曲げ内側の表面における残留応力の値は、比較例1よりも小さくなっていた。よって、成形途中から素材に張力を付与することにより、曲げ部303の曲げ内側において引張残留応力の低減効果が得られることを確認することができた。
【0143】
実施例1-12,1-14,1-15では、プレス成形中の素材の板厚減少率が20%以上となった。CAE解析で素材の板厚減少率が20%以上の場合、実際のプレス成形では素材又はプレス成形品に割れが生じることが多いため、実施例1-12,1-14,1-15では、残留応力の計算を行わなかった。
【0144】
(ホルダの昇降ストローク)
実施例1-12では、ホルダストローク(ホルダ40L,40Rの昇降ストローク)が30.0mmである。この実施例1-12では、ホルダストロークが大きいことにより、素材の板厚減少率が20%以上となったと考えられる。一方、ホルダストロークが25.0mmである実施例1-2では、素材の板厚減少率は20%未満であった。この結果より、素材又はプレス成形品の割れを発生しにくくし、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるためには、ホルダ40L,40Rの昇降ストロークは、25.0mm以下であることが好ましい。
【0145】
実施例1-11では、ホルダストロークが3.0mmとなっている。この実施例1-11では、曲げ部303の曲げ内側の残留応力が547MPaであり、引張残留応力の低減効果が小さい。一方、ホルダストロークが5.0mmである実施例1-3では、実施例1-11と比較し、引張残留応力が有意に低減された。ホルダストロークが5.0mmよりも大きい実施例1-1,1-2,1-4~1-10等でも、実施例1-11と比較すると引張残留応力の低減効果が大きくなった。この結果より、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるためには、ホルダ40L,40Rの昇降ストロークは、5.0mm以上であることが好ましい。
【0146】
(ホルダ荷重)
実施例1-14では、ホルダ荷重Fの無次元化数Zが0.50であり、ホルダ荷重Fが大きい。この実施例1-14では、ホルダ荷重Fが大きいことにより、素材の板厚減少率が20%以上となったと考えられる。一方、ホルダ荷重Fの無次元化数Zが0.45である実施例1-4では、素材の板厚減少率は20%未満であった。この結果より、素材又はプレス成形品の割れを発生しにくくし、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるためには、ホルダ荷重Fの無次元化数Zは、0.45以下であることが好ましい。
【0147】
実施例1-13では、ホルダ荷重Fの無次元化数Zが0.01であり、ホルダ荷重Fが不足している。そのため、実施例1-13では、曲げ部303の曲げ内側の残留応力が538MPaとなり、引張残留応力の低減効果が小さくなった。一方、ホルダ荷重Fの無次元化数Zが0.04である実施例1-5では、実施例1-13と比較し、引張残留応力が有意に低減された。無次元化数Zが0.04よりも大きい実施例1-1~1-4,1-6~1-10等でも、実施例1-13と比較すると引張残留応力の低減効果が大きくなった。この結果より、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるためには、ホルダ荷重Fの無次元化数Zは、0.04以上であることが好ましい。
【0148】
(第2ダイ肩の曲率半径)
実施例1-15では、第2ダイ肩23L,23Rの曲げR(曲率半径RL,RR)が2.0mmであり、素材の板厚tの0.67倍となっている。実施例1-15では、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRが小さいことにより、素材の板厚減少率が20%以上となったと考えられる。一方、第2ダイ肩23L,23Rの曲げRが素材の板厚tと等しい実施例1-8では、素材の板厚減少率は20%未満であった。よって、素材又はプレス成形品の割れを発生しにくくし、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるためには、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRは、素材の板厚t以上であることが好ましい。
【0149】
実施例1-16では、第2ダイ肩23L,23Rの曲げRが15.0mmであり、素材の板厚tの5倍となっている。実施例1-16では、曲げ部303の曲げ内側の残留応力が563MPaであり、引張残留応力の低減効果が小さい。一方、第2ダイ肩23L,23Rの曲げRが素材の板厚tの4倍である実施例1-9では、実施例1-16と比較し、引張残留応力が有意に低減された。曲げRが板厚tの4倍未満である実施例1-1~1-8,1-10等でも、実施例1-16と比較すると引張残留応力の低減効果が大きくなった。この結果より、本開示における引張残留応力の低減効果を有効に発揮させるため、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRは、素材の板厚tの5倍未満であることが好ましい。より好ましくは、第2ダイ肩23L,23Rの曲率半径RL,RRは、素材の板厚tの4倍以下である。
【0150】
(ホルダの面角度)
実施例1-17では、曲げ部303の曲げ内側の残留応力が103MPaとなっており、比較例1と比べて引張残留応力が顕著に低減されている。しかしながら、実施例1-17では、ダイ下面24L,24Rの傾斜面241L,241R及びホルダ上面41L,41Rの傾斜面411L,411Rが水平面となす角度ψL,ψR(ホルダの面角度ψ)が7°と小さいため、素材が第2ダイ肩23L,23Rを通過したときの曲げ癖が大きくなった。一方、ホルダの面角度ψが10°である実施例1-6では、実施例1-17と比較して曲げ癖は小さくなった。よって、プレス成形時の曲げ癖の発生を抑制するためには、傾斜面241L,241R,411L,411Rの角度ψL,ψRは、7°よりも大きいことが好ましい。より好ましくは、角度ψL,ψRは、10°以上である。
【0151】
実施例1-18では、曲げ部303の曲げ内側の残留応力が414MPaとなっており、比較例1と比べて引張残留応力が顕著に低減されている。しかしながら、実施例1-18では、ホルダの面角度ψが60°と大きいため、ホルダ上面41L,41Rに対する荷重の水平成分が大きくなる。そのため、ホルダ40L,40Rやクッションピン91L,91Rの変形又は破損が懸念される。一方、実施例1-7のようにホルダの面角度ψが55°であれば、ホルダ上面41L,41Rに対する荷重の水平成分がある程度低減され、ホルダ40L,40Rやクッションピン91L,91Rの変形又は破損が発生しにくいと考えられる。よって、傾斜面241L,241R,411L,411Rの角度ψL,ψRは、60°未満であることが好ましい。より好ましくは、角度ψL,ψRは、55°以下である。
【0152】
[第2実施例]
素材を予成形することの効果を確認するため、第1実施例と同様のソフトウェアを用い、CAE解析を実施した。本実施例では、引張強さTS=980MPa、板厚t=3.0mmの素材(鋼板)をフランジなしのプレス成形品に成形するプレス加工に関する解析を実施した。解析の結果を
図8に示す。
【0153】
図8における比較例2は、第1実施例における比較例1と同様、一般的なパッド曲げ成形によってプレス成形品を成形するものである。一方、実施例2-1~2-3は、
図1に示すプレス装置100により、ホルダ40L,40Rを用いて素材に張力を付与しながら、プレス成形品を成形するものである。実施例2-1では、金属板である素材を予成形せず、そのままプレス成形に使用した。実施例2-2では、予め、パンチ頂面11の溝部111に対応する溝部を素材に形成した。実施例2-3では、実施例2-2の予成形に加え、さらに、パンチ肩12L,12Rに対応する位置で凸曲げし、且つ、第2ダイ肩23L,23Rに対応する位置で凹曲げする予成形を素材に施した。なお、実施例2-3における予成形は、第1実施例の実施例1-10(表1)において素材に施した予成形と同様のものである。
【0154】
図8に示すように、素材を予成形せずにプレス成形を行った実施例2-1でも、比較例2と比べて、曲げ部の曲げ内側の残留応力がおよそ半分に低減されている。素材を予成形してプレス成形を行った実施例2-2及び実施例2-3では、曲げ部の曲げ内側の残留応力が実施例2-1よりもさらに低減されている。よって、素材の予成形を行うことにより、引張残留応力の低減効果をより向上させることができる。
【0155】
[第3実施例]
素材の加工硬化指数(n値)に基づく効果を確認するため、第1実施例と同様のソフトウェアを用い、CAE解析を実施した。本実施例では、第2実施例と同様、引張強さTS=980MPa、板厚t=3.0mmの素材(鋼板)をフランジなしのプレス成形品に成形するプレス加工に関する解析を実施した。解析の結果を
図9に示す。
【0156】
図9における比較例3は、第1実施例における比較例1と同様、一般的なパッド曲げ成形によってプレス成形品を成形するものである。比較例3で用いた素材のn値は、0.08である。一方、実施例3-1及び実施例3-2は、
図1に示すプレス装置100により、素材をプレス成形品に成形するものである。実施例3-1で用いた素材のn値は、比較例3と同様、0.08であり、実施例3-2で用いた素材のn値は0.04である。比較例3及び実施例3-1で用いた素材の降伏比YR=降伏応力YS/引張強さTSは0.88であり、実施例3-2で用いた素材の降伏比YRは0.95である。
【0157】
図9に示すように、実施例3-1及び実施例3-2のいずれも、比較例3と比べて、曲げ部の曲げ内側の引張残留応力が低減されている。ただし、素材のn値が小さい実施例3-2では、実施例3-1よりも引張残留応力の低減効果が良好となっている。この結果より、引張残留応力の低減効果を向上させるためには、素材のn値は小さい方が好ましいといえる。素材のn値は、0.04以下であることが好ましい。また、素材の降伏比YRは、0.95以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0158】
100:プレス装置
10:パンチ
11:パンチ頂面
12L,12R:パンチ肩
13L,13R:パンチ側面
20L,20R:ダイ
21L,21R:第1ダイ肩
22L,22R:ダイ側面
23L,23R:第2ダイ肩
24L,24R:ダイ下面
241L,241R:傾斜面
30:パッド
40L,40R:ホルダ
41L,41R:ホルダ上面
411L,411R:傾斜面
42L,42R:ディスタンスブロック