(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】プレコートめっき鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20250110BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20250110BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B32B15/08 G
B32B15/082 Z
B05D7/14 J
(21)【出願番号】P 2021051408
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平井 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-168273(JP,A)
【文献】特開2012-121323(JP,A)
【文献】特開2005-089848(JP,A)
【文献】特開2016-094011(JP,A)
【文献】特開平07-034260(JP,A)
【文献】特開2009-202487(JP,A)
【文献】特開2000-282258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、
前記めっき層上に位置する着色皮膜層と、
を備え、
前記めっき層は、ビッカース硬度が100~800Hvであり、
前記着色皮膜層の厚みは、1~10μmであり、
前記着色皮膜層は、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分と、樹脂粒子と、を含有
し、
前記着色皮膜層は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度が、10~70Hvである、プレコートめっき鋼板。
【請求項2】
前記着色皮膜層は、前記造膜成分として、前記樹脂粒子の素材である樹脂と同種の樹脂を含有する、請求項1に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項3】
鋼板の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、
前記めっき層上に位置する着色皮膜層と、
を備え、
前記めっき層は、ビッカース硬度が100~800Hvであり、
前記着色皮膜層の厚みは、1~10μmであり、
前記着色皮膜層は、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分と、樹脂粒子と、を含有し、
前記着色皮膜層は、前記造膜成分として、前記樹脂粒子の素材である樹脂と同種の樹脂を含有する、プレコートめっき鋼板。
【請求項4】
前記着色皮膜層は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度が、10~70Hvである、請求項
3に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項5】
前記着色皮膜層における前記樹脂粒子の含有量は、前記造膜成分と前記樹脂粒子との合計含有量に対して、5~50質量%である、請求項1
~4の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項6】
前記樹脂粒子の平均粒子径は、1~15μmである、請求項1
~5の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項7】
前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂粒子であり、前記造膜成分は、アクリル系樹脂である、請求項1~
6の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板である、請求項1~
7の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項9】
前記めっき層は、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物であるめっき層である、請求項1~
8の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項10】
前記めっき層の付着量は、前記鋼板の両面での合計で30~600g/m
2である、請求項
8又は9に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項11】
前記着色皮膜層は、着色顔料として、アルミ顔料、カーボンブラック又はTiO
2の少なくとも何れかを含有する、請求項1~
10の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項12】
前記着色皮膜層は、防錆顔料を更に含有する、請求項1~
11の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【請求項13】
前記めっき層と、前記着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、請求項1~
12の何れか1項に記載のプレコートめっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコートめっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などに、従来の成形加工後に塗装されていたポスト塗装製品に代わって、亜鉛系めっき鋼板の表層に有機樹脂被膜を被覆した有機樹脂被覆めっき鋼板(プレコート鋼板とも呼ばれる。)が使用されるようになってきた。このプレコート鋼板は、防錆処理を施した鋼板やめっき鋼板に対し、着色した有機皮膜を被覆したものであり、美麗さを有しながら、加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。この有機樹脂被覆めっき鋼板は、プレス加工された後、更なる塗装などが施されずに、家電、建材、自動車等の材料として用いられる場合が多い。そのため、このような有機樹脂被覆めっき鋼板は、加工時に美麗さを失わないように、耐疵付き性に優れることが求められる。そのため、プレコート鋼板の耐疵付き性をはじめとする諸特性を向上させるために、従来様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、金属板の少なくとも片面に、所定の平均粒子径を有する2種類の粒子と、着色顔料とを含有させた着色塗膜を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術は、膜厚が2~10μmの着色皮膜中に、平均粒子径が5~50nmの球状シリカ粒子を含有させることで、所定の鉛筆硬度で示される耐疵付き性を得るものであるが、金属等のより硬い物質が接触することによる引っ掻き疵への耐性は十分ではなく、未だ改良の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、加工性を保持しつつ、更なる耐疵付き性の向上を実現させることが可能な、プレコートめっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、プレコートめっき鋼板に用いられるめっきの硬度を適切な範囲とするとともに、皮膜の軟化温度を適切な範囲とすることで、耐疵付き性を更に向上させることが可能なのではないかとの着想を得て、本発明を完成させるに至った。
かかる着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
(1)鋼板の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき層上に位置する着色皮膜層と、を備え、前記めっき層は、ビッカース硬度が100~800Hvであり、前記着色皮膜層の厚みは、1~10μmであり、前記着色皮膜層は、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分と、樹脂粒子と、を含有し、前記着色皮膜層は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度が、10~70Hvである、プレコートめっき鋼板。
(2)前記着色皮膜層は、前記造膜成分として、前記樹脂粒子の素材である樹脂と同種の樹脂を含有する、(1)に記載のプレコートめっき鋼板。
(3)鋼板の表面にめっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき層上に位置する着色皮膜層と、を備え、前記めっき層は、ビッカース硬度が100~800Hvであり、前記着色皮膜層の厚みは、1~10μmであり、前記着色皮膜層は、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分と、樹脂粒子と、を含有し、前記着色皮膜層は、前記造膜成分として、前記樹脂粒子の素材である樹脂と同種の樹脂を含有する、プレコートめっき鋼板。
(4)前記着色皮膜層は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度が、10~70Hvである、(3)に記載のプレコートめっき鋼板。
(5)前記着色皮膜層における前記樹脂粒子の含有量は、前記造膜成分と前記樹脂粒子との合計含有量に対して、5~50質量%である、(1)~(4)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(6)前記樹脂粒子の平均粒子径は、1~15μmである、(1)~(5)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(7)前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂粒子であり、前記造膜成分は、アクリル系樹脂である、(1)~(6)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(8)前記めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板である、(1)~(7)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(9)前記めっき層は、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物であるめっき層である、(1)~(8)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(10)前記めっき層の付着量は、前記鋼板の両面での合計で30~600g/m2である、(8)又は(9)に記載のプレコートめっき鋼板。
(11)前記着色皮膜層は、着色顔料として、アルミ顔料、カーボンブラック又はTiO2の少なくとも何れかを含有する、(1)~(10)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(12)前記着色皮膜層は、防錆顔料を更に含有する、(1)~(11)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
(13)前記めっき層と、前記着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、(1)~(12)の何れか1つに記載のプレコートめっき鋼板。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、加工性を保持しつつ、更なる耐疵付き性の向上を実現させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の実施形態に係るプレコートめっき鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
【
図1B】同実施形態に係るプレコートめっき鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(プレコートめっき鋼板について)
以下では、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の実施形態に係るプレコートめっき鋼板について、詳細に説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態に係るプレコートめっき鋼板の構造を模式的に示した説明図である。
【0013】
図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1は、基材となる鋼板10と、鋼板10の表面に設けられためっき層20と、めっき層20の面上に位置する着色皮膜層30と、を有している。また、
図1Aに示したように、めっき層20と、着色皮膜層30と、の間に、化成処理皮膜層40を更に有していることが好ましい。
【0014】
また、かかるめっき層20、着色皮膜層30及び化成処理皮膜層40は、
図1Bに模式的に示したように、鋼板10の両面に設けられていても良い。
【0015】
<鋼板10について>
基材として用いられる鋼板については、特に限定されるものではなく、プレコートめっき鋼板1に求められる機械的強度等に応じて、各種の鋼板を用いることが可能である。このような鋼板10として、例えば、Alキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼板を挙げることができる。
【0016】
また、本実施形態に係る鋼板10の厚みについても、特に限定されるものではなく、プレコートめっき鋼板1に求められる機械的強度等に応じて適宜設定すればよく、例えば0.2mm~10.0mm程度とすることができる。
【0017】
<めっき層20について>
本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1が有するめっき層20は、JIS Z2244:2009に規定されたビッカース硬度(なお、試験荷重はめっき層の厚みに応じて設定する。)が100~800Hvであるめっき層である。めっき層20がかかる硬度を有することで、めっき層20の上方に位置する着色皮膜層30の硬さがめっき層20に影響され、より優れた耐疵付き性を発現するようになる。
【0018】
めっき層20のビッカース硬度が100Hv未満である場合には、めっき層20の硬度が不十分であり、上記のような効果を発現させることができない。めっき層20のビッカース硬度は、好ましくは110Hv以上であり、より好ましくは120Hv以上である。
【0019】
一方、めっき層20のビッカース硬度が800Hvを超える場合には、加工性に劣るため、好ましくない。めっき層20のビッカース硬度は、好ましくは600Hv以下であり、より好ましくは500Hv以下である。
【0020】
上記のようなビッカース硬度を実現可能なものであれば、めっき種については特に限定されるものではない。ただし、亜鉛系めっきを用いることで、上記のようなビッカース硬度を、より容易に実現させることが可能となる。かかる亜鉛系めっきとしては、例えば、亜鉛-ニッケル合金めっき、合金化溶融亜鉛めっき、アルミニウム-亜鉛合金めっき、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、亜鉛-バナジウム複合めっき、亜鉛-ジルコニウム複合めっき等が挙げられる。
【0021】
このような亜鉛系めっきの中でも、特に、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきが好ましく、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物である、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっきがより好ましい。
【0022】
[Al:4~22質量%]
Alの含有量を4質量%以上22質量%以下とすることで、本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1の耐食性が向上する。Alの含有量が4質量%未満である場合には、耐食性が低下する可能性がある。Alの含有量は、好ましくは5質量%以上である。一方、Alの含有量が22質量%を超える場合には、めっき層20の耐食性向上効果が飽和する可能性がある。Alの含有量は、好ましくは16質量%以下である。
【0023】
[Mg:1~10質量%]
Mgの含有量を1質量%以上10質量%以下とすることで、本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1の耐食性が向上する。Mgの含有量が1質量%未満である場合には、プレコートめっき鋼板10の耐食性向上効果が不十分となる可能性がある。Mgの含有量は、好ましくは2質量%以上である。一方、Mgの含有量が10質量%を超える場合には、めっき浴でのドロス発生が著しくなり、安定的に溶融めっき鋼板を製造するのが困難となる可能性がある。Mgの含有量は、好ましくは5質量%以下である。
【0024】
[Si:0.0001~2.0000質量%]
Siの含有量を0.0001質量%以上2.0000質量%以下とすることで、めっき層20の密着性を担保することが可能となる。Siの含有量が2.0000質量%を超える場合には、めっき層20の密着性向上効果が飽和する可能性がある。Siの含有量は、より好ましくは1.6000質量%以下である。
【0025】
更に、本実施形態に係るめっき層20では、残部のZnの一部に換えて、Fe、Sb、Pb等の元素を単独又は複合で1質量%以下含有してもよい。
【0026】
上記のような化学成分を有するめっき層20が設けられためっき鋼板として、例えば、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき層を有するめっき鋼板のような、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっき鋼板(例えば、日本製鉄株式会社製「スーパーダイマ(登録商標)」)等を挙げることができる。
【0027】
以上説明したような本実施形態に係るめっき層20は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、準備した鋼板10の表面に対して、洗浄、脱脂等の前処理を必要に応じて実施する。その後、必要に応じて前処理を実施した鋼板を、所望の化学成分を有する溶融めっき浴に浸漬させ、かかるめっき浴から鋼板を引き上げる。かかるめっき操作に際して、コイルの連続めっき法、あるいは、切板単体のめっき法のいずれによってめっきを行ってもよい。
【0028】
溶融めっき浴の温度は、組成によって異なるが、例えば、400~500℃の範囲が好ましい。
【0029】
また、上記のようなめっきの付着量は、鋼板の引き上げ速度や、めっき浴の上方に設けられたワイピングノズルより噴出するワイピングガスの流量や、流速調整などにより制御することが可能である。めっきの付着量は、鋼板の両面での合計で、30~600g/m2である(すなわち、片面あたり、15~300g/m2である)ことが好ましい。付着量が30g/m2未満の場合、耐食性が低下するので好ましくない。付着量が600g/m2超の場合、鋼板に付着した溶融金属の垂れが発生して、溶融めっき層の表面を平滑にすることができなくなるため好ましくない。上記のような付着量でめっき層20を設けることで、上記のようなビッカース硬度を、より確実に実現することが可能となる。めっき層20の付着量は、より好ましくは、鋼板の両面での合計で、40~550g/m2である。溶融めっき層の付着量を調整した後、鋼板を冷却する。この際、冷却条件は、特に限定する必要はない。
【0030】
<着色皮膜層30について>
着色皮膜層30は、着色顔料を有することで、所望の色に着色された皮膜層である。かかる着色皮膜層30は、
図1A及び
図1Bに模式的に示したように、ガラス転移点Tgが30℃以上である造膜成分301と、樹脂粒子303と、を含有する。上記のようなガラス転移点Tgを有する造膜成分301により、着色皮膜層30は適切な硬度を有するようになり、プレコートめっき鋼板1の耐疵つき性(特に、引っ掻き疵への耐性)を向上させることができる。また、着色皮膜層30が樹脂粒子303を含有することで、樹脂粒子303が有する靭性、展延性により、着色皮膜層30に加えられた衝撃を緩和することができ、着色皮膜層30の耐疵付き性(特に、引っ掻き疵への耐性)を向上させることができる。また、仮に着色皮膜層30に疵が付いたとしても、疵がめっき層20に到達することを防止することができ、プレコートめっき鋼板1の耐食性を保持することが可能となる。
【0031】
造膜成分301のガラス転移点Tgが30℃未満である場合には、着色皮膜層30の硬度が不十分となり、所望の耐疵付き性を発現させることができない。造膜成分301のガラス転移点Tgは、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。一方、ガラス転移点Tgの上限値は、特に規定するものではないが、70℃を超える場合には、加工性が低下する可能性がある。そのため、造膜成分301のガラス転移点Tgは、70℃以下であることが好ましい。なお、かかるガラス転移点Tgは、例えば、TMA(熱機械分析)により、測定対象である皮膜の表面から皮膜厚み方向に針を刺し、一定の温度変化をさせて、測定対象物の熱膨張変化を測定する方法や、DMA(動的粘弾性測定)により、基材から剥離した測定対象である皮膜に対して、周期的な変形を与えながら一定の温度変化をさせて、粘弾性を分析する方法等により特定することが可能である。
【0032】
樹脂粒子303は、有機樹脂を素材として用いることで製造された、粒子状の物質である。着色皮膜層30がかかる樹脂粒子303を含有することで、先だって言及したように、樹脂粒子303が有する靭性、展延性によって、着色皮膜層30に加えられた衝撃を緩和することができる。また、仮に着色皮膜層30に疵が付いたとしても、疵がめっき層20に到達することを防止することができる。
【0033】
本実施形態に係るプレコートめっき鋼板1において、かかる着色皮膜層30の厚みは、1~10μmである。着色皮膜層30の厚みが1μm未満である場合には、所望の耐疵付き性を発現させることができない。着色皮膜層30の厚みは、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方、着色皮膜層30の厚みが10μmを超える場合には、コストがかかる上に、ワキ等の塗膜欠陥が発生することがあり、安定した外観を得ることが難しくなる可能性がある。着色皮膜層30の厚みは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下である。
【0034】
なお、かかる着色皮膜層30の厚みは、塗膜の断面観察や電磁膜厚計等の利用により測定できる。その他に、単位面積当りに付着した塗膜の質量を、塗膜の比重又は組成物の乾燥後比重で除算して算出してもよい。断面観察により厚みを測定する場合は、任意の複数の位置(例えば、10箇所)で厚みを測定し、得られた複数の厚みの平均値を、着色皮膜層30の厚みとすればよい。
【0035】
かかる着色皮膜層30は、表層から皮膜の厚みの4分の3の押し込み深さで測定したビッカース硬度(試験荷重は、所望の押し込み深さを実現可能な大きさを、着色皮膜層30の硬さに応じて設定する。)が、10~70Hvとなることが好ましい。かかるビッカース硬度は、ユニバーサル硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定される。樹脂粒子303が存在している位置、存在していない位置を問わずに、任意の10箇所で、上記のような押し込み深さ条件で皮膜表面から硬度を測定し、得られた10個の測定値の平均を算出する。着色皮膜層30が上記のようなビッカース硬度を有することで、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。着色皮膜層30が示す上記のビッカース硬度は、より好ましくは15~65Hvである。
【0036】
本実施形態に係る着色皮膜層30において、樹脂粒子303の含有量は、造膜成分301と樹脂粒子303との合計含有量に対して、5~50質量%であることが好ましい。樹脂粒子303の含有量が上記のような範囲となることで、上記のようなビッカース硬度をより実現しやすくなるとともに、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。着色皮膜層30における樹脂粒子303の含有量は、より好ましくは10~45質量%である。
【0037】
ここで、本実施形態に係る着色皮膜層30において、樹脂粒子303のバインダーとして機能する造膜成分301は、樹脂粒子303の素材である樹脂と同種の樹脂であることが好ましい。このような造膜成分301を用いることで、造膜成分301と樹脂粒子303との親和性をより向上させることが可能となり、着色皮膜層30の耐疵付き性をより向上させることが可能となる。
【0038】
また、樹脂粒子303の素材となる樹脂は、特に限定されるものではなく、各種の有機樹脂からなる粒子を用いることが可能であるが、アクリル系樹脂からなる樹脂粒子を用いることが好ましい。樹脂粒子303として、かかるアクリル系樹脂粒子を用いることで、上記のようなビッカース硬度をより安価に実現しやすくなる。
【0039】
なお、樹脂粒子303の代わりに、シリカやセラミックスに代表されるような無機化合物からなる無機粒子を用いることも考えうる。しかしながら、無機粒子は脆い粒子であるため、上記のような樹脂粒子303を用いることによる効果を、得ることができない。
【0040】
本実施形態において、樹脂粒子303の平均粒子径は、1~15μmであることが好ましい。樹脂粒子303が上記のような平均粒子径を有することで、プレコートめっき鋼板の耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。
【0041】
ここで、平均粒子径は、粒径の積算分布曲線において、粒径の小さい方から50質量%となる粒子径をいい、動的光散乱法やレーザー回折法等の公知の測定手法により測定することが可能である。また、既に着色皮膜層30に埋め込まれている樹脂粒子303の平均粒子径は、例えば断面からの直接観察により測定することが可能である。断面観察の方法としては特に制限はないが、常温乾燥型エポキシ樹脂中に塗装金属板を塗膜厚み方向と垂直に埋め込み、その埋め込み面を機械研磨した後に、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察する方法や、FIB(集束イオンビ-ム)装置を用いて、塗装金属板から塗膜の垂直断面が見えるように厚さ50nm~100nmの観察用試料を切り出し、塗膜断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察する方法等が使用可能である。
【0042】
なお、着色皮膜層30が含有する着色顔料については、特に限定されるものではなく、着色皮膜層30に求める色合いに応じて、公知の各種の顔料を適宜用いることが可能である。このような着色顔料として、例えば、アルミ顔料、カーボンブラック、TiO2等を挙げることができる。また、その含有量についても、適宜設定すればよく、例えば、3~60質量%程度とすればよい。
【0043】
かかる着色皮膜層30は、上記のような着色皮膜層30を構成する成分を含む塗料組成物を塗布したあと、150℃以上300℃未満の温度で焼き付け、硬化乾燥させることで、形成することが可能である。焼き付け温度が150℃未満である場合には、焼付硬化が不十分で、塗膜の耐食性や耐疵付き性が低下する可能性があり、焼き付け温度が300℃以上である場合には、樹脂成分の熱劣化が起こり、加工性が低下する可能性がある。
【0044】
なお、上記のような塗料組成物の塗布は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。
【0045】
また、着色皮膜層30は、上記の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、防錆顔料、表面修飾した金属粉やガラス粉、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等の添加剤や、希釈溶剤等を、更に含むことができる。
【0046】
ここで、防錆顔料を含有させる場合、その含有量は、例えば、1~15質量%とすることが好ましい。また、用いる防錆顔料は特に限定されるものではなく、公知の各種の防錆顔料を用いることが可能である。
【0047】
<化成処理皮膜層40について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層40は、めっき層20と、着色皮膜層30との間に位置しうる皮膜層であり、めっき層20の表面に付着した油分などの不純物及び表面酸化物を、公知の脱脂工程及び洗浄工程で取り除いた後、化成処理により形成される層である。
【0048】
本実施形態に係る化成処理皮膜層40の詳細な構成については、特に限定されるものではなく、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、バナジウム化合物、並びに、タンニン又はタンニン酸からなる群より選択される何れか一つ以上を含有してもよい。これら物質を含有することで、更に、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、及び、めっき面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0049】
特に、化成処理皮膜層40が、シランカップリング剤、又は、ジルコニウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、皮膜層40内に架橋構造を形成し、めっき表面との結合についても強化するため、皮膜の密着性やバリア性を更に向上させることが可能となる。
【0050】
また、化成処理皮膜層40が、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、又は、バナジウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、インヒビターとして機能し、めっきや鋼表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0051】
以下では、上記のような化成処理皮膜層40が含みうる各構成成分の詳細について、例を挙げながら説明する。
【0052】
[樹脂]
樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等といった、公知の有機樹脂を使用することができる。プレコートめっき鋼板用めっき鋼板との密着性を更に高めるためには、分子鎖中に強制部位や極性官能基をもつ樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)の少なくとも一つを使用することが好ましい。樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
化成処理皮膜層40における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上85質量%以下が好ましい。樹脂の含有量は、より好ましくは0質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以上40質量%以下である。樹脂の含有量が、85質量%を超える場合には、その他の皮膜構成成分の割合が低下して、耐食性以外の皮膜として求められる性能が低下する場合がある。
【0054】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(メチルジメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(メチルジエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシランカップリング剤の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。シランカップリング剤の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、シランカップリング剤の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。上記に例示したようなシランカップリング剤は、1種で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
[ジルコニウム化合物]
ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモ二ウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム等を挙げることができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のジルコニウム化合物の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。ジルコニウム化合物の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、ジルコニウム化合物の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。かかるジルコニウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
[シリカ]
シリカとしては、例えば、日産化学株式会社製の「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」、株式会社ADEKA製の「アデライトAT-20Q」等の市販のシリカゲル、又は、日本アエロジル株式会社製のアエロジル#300等の粉末シリカを用いることができる。シリカは、必要とされるプレコートめっき鋼板の性能に応じて、適宜選択することができる。化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシリカの添加量は、1~40g/Lとすることが好ましい。シリカの添加量が1g/L未満である場合には、皮膜層の加工密着性が低下する可能性があり、シリカの添加量が40g/Lを超える場合には、加工密着性及び耐食性の効果が飽和する可能性が高いことから、不経済である。
【0057】
[リン酸及びその塩]
リン酸及びその塩としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びそれらの塩、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びそれらの塩、フィチン酸等の有機リン酸類及びそれらの塩等が挙げられる。なお、リン酸の塩として、アンモニウム塩以外の塩としては、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Zn、Fe等との金属塩が挙げられる。リン酸及びその塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
なお、リン酸及びその塩の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。リン酸及びその塩の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコートめっき鋼板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。リン酸及びその塩の含有量は、より好ましくは、1質量%以上10質量%以下である。
【0059】
[フッ化物]
フッ化物としては、例えば、ジルコンフッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、チタンフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸等を挙げることができる。かかるフッ化物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
なお、フッ化物の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましい。フッ化物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコートめっき鋼板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。フッ化物の含有量は、より好ましくは、1質量%以上10質量%以下である。
【0061】
[バナジウム化合物]
バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2~4価に還元したバナジウム化合物、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、オキシ蓚酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、硫酸バナジウム、二塩化バナジウム、酸化バナジウム等の酸化数4~2価のバナジウム化合物等を挙げることができる。かかるバナジウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
なお、バナジウム化合物の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましい。バナジウム化合物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコートめっき鋼板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。バナジウム化合物の含有量は、より好ましくは、1質量%以上10質量%以下である。
【0063】
[タンニン又はタンニン酸]
タンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニン、縮合タンニンのいずれも用いることができる。タンニン及びタンニン酸の例としては、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等を挙げることができる。化成処理皮膜40を形成するための化成処理剤中のタンニン又はタンニン酸の添加量は、2~80g/Lとすることができる。タンニン又はタンニン酸の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、タンニン又はタンニン酸の添加量の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜の凝集力が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。
【0064】
また、化成処理皮膜40を形成するための化成処理剤中には、性能が損なわれない範囲内で、pH調整のために酸、アルカリ等を添加してもよい。
【0065】
上記のような各種の成分を含有する化成処理剤は、めっき層20の片面又は両面上に塗布されたのち、乾燥されて化成処理皮膜層40を形成する。本実施形態に係るプレコートめっき鋼板では、片面あたり10~1000mg/m2の化成処理皮膜層40をめっき層20上に形成することが好ましい。化成処理皮膜層40の付着量は、より好ましくは20~800mg/m2であり、最も好ましくは50~600mg/m2である。なお、かかる付着量に対応する化成処理皮膜層40の膜厚は、化成処理剤に含まれる成分にもよるが、概ね0.01~1μm程度となる。
【0066】
以上、本実施形態に係る着色皮膜層30及び化成処理皮膜層40を、それぞれの膜を形成するのに用いた塗料組成物及び化成処理剤により説明した。通常、これらの処理剤、組成物をめっき鋼板に塗布した場合、これらの成分と、形成される皮膜の成分組成とは、通常異なっている。例えば化成処理剤では、めっき鋼板との反応、化成処理剤中の揮発成分の揮発等によって、化成処理剤と塗布した後の化成処理皮膜との組成は異なってしまっており、形成された化成処理皮膜層の組成を特定することは、通常、技術的に困難である。また、そのような化成処理皮膜層の組成を機器分析等によって特定することも、現実には技術的に困難である。このことは、着色皮膜層においても同様である。それ故、本実施形態においては、塗料組成物及び化成処理剤の組成を特定することにより、形成される着色皮膜層30及び化成処理皮膜層40を特定している。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係るプレコートめっき鋼板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係るプレコートめっき鋼板の一例にすぎず、本発明に係るプレコートめっき鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0068】
(1)めっき鋼板
以下の表1に示す、A1~A11の11種類の金属板を準備した。めっきを施した金属板の基材には、板厚0.7mmの鋼板を使用した。更に、これら金属板に対して、クロメートフリー系化成処理(CT-E300/日本パーカライジング社製)を60mg/m2施しためっき鋼板も準備した。化成処理に用いた処理液は、その成分としてシランカップリング剤を含有するものであり、かかる化成処理により形成される皮膜層は、化成処理皮膜層として機能する。なお、化成処理の有無は、以下の表6に記載した。
【0069】
【0070】
(2)着色塗料の調整
着色皮膜層の形成に用いる着色塗料を調製した。
バインダー樹脂として、以下の表2に示す樹脂を用意した。各樹脂溶液に対し、硬化剤としてメラミン系硬化剤を、固形分割合で15質量%添加した。更に、以下の表3に示す粒子を準備し、以下の表6に示した所定粒径・所定量で添加した。また、着色顔料として、以下の表4に示したアルミ顔料、酸化チタン、カーボンブラック(CB)を準備し、以下の表6に示した所定量で添加した。また、防錆顔料として、以下の表5に示す化合物を準備し、以下の表6に示した所定量で添加し、着色塗料を調製した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
(3)サンプル作製
上記のようにして調製した着色塗料を、乾燥膜厚が以下の表6に示した膜厚になるように、バーコータを用いてめっき鋼板に塗布し、60秒で最高到達板温度(PMT)が200℃になるように加熱して、着色皮膜層を形成した。
【0076】
【0077】
(4)サンプルの評価
上記方法により作製した各サンプルについて、以下のような基準に基づき性能を評価した。得られた評価結果を、以下の表7にあわせて示した。
【0078】
<外観>
作製したサンプルの外観を以下の基準により評価し、評点2以上を合格とし、評点1を不合格とした。
評価基準
3:均一な着色皮膜外観を有している。
2:着色皮膜外観がやや不均一である。
1:ワキ発生等により、着色皮膜外観が不均一である。
【0079】
<耐引っ掻き疵性>
以下のようなコインスクラッチ試験により、耐引っ掻き疵性を評価した。作製したサンプルの塗装面に対し、硬貨を45度の角度で傾けた状態で接触させ、荷重を100g、500g、1000gと変化させてスクラッチした。各荷重で付けた疵を以下のような基準で評価し、全ての荷重において評点2以上となる場合を合格とした。
評価基準
5:塗膜剥離及び光沢変化は認められない。
4:塗膜剥離は認められないが、僅かに光沢変化が認められる。
3:僅かに塗膜剥離が認められ、光沢変化が認められる。
2:部分的に塗膜剥離が認められ、光沢変化が認められる。
1:塗膜が完全に剥離している。
【0080】
<加工性>
以下のような基準に基づき、加工性を評価した。作製したサンプルに、塗装面を外側にして180°折り曲げ加工を施し、折り曲げ部外側を下記の評価基準で評価した。折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0.7mmのスペーサーを間に挟んで実施した。評点2以上を合格とし、評点1を不合格とした。
評価基準
5:塗膜に亀裂は認められない。
4:塗膜に極僅かの亀裂が認められる。
3:塗膜に僅かの亀裂が認められる。
2:塗膜に亀裂が認められる。
1:塗膜全体に著しい亀裂が認められる。
【0081】
<耐食性>
参考性能として、以下のような基準に基づき、耐食性を評価した。試験板の端面をテープシールした後、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験(SST)を72時間行い、錆発生状況を観察し、下記の評価基準で評価した。
評価基準
4:錆発生面積が1%未満。
3:錆発生面積が1%以上、3%未満
2:錆発生面積が3%以上、5%未満
1:錆発生面積が5%以上
【0082】
【0083】
上記表7から明らかなように、本発明の実施例に対応するプレコート鋼板は、優れた外観、耐引っ掻き疵性及び加工性を兼ね備えていることがわかる。一方、本発明の比較例に対応するプレコート鋼板は、外観、耐引っ掻き疵性、又は、加工性の何れかの性能が劣ることがわかる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
1 プレコートめっき鋼板
10 鋼板
20 めっき層
30 着色皮膜層
40 化成処理皮膜層
301 造膜成分
303 樹脂粒子