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  • 特許-直流電気炉および固体原料の溶解方法 図1
  • 特許-直流電気炉および固体原料の溶解方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】直流電気炉および固体原料の溶解方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/10 20060101AFI20250110BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20250110BHJP
   F27B 3/28 20060101ALI20250110BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20250110BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20250110BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250110BHJP
   C22B 34/32 20060101ALI20250110BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
F27B3/10
F27B3/08
F27B3/28
F27D11/08 A
F27D11/08 G
F27D21/00 Z
C22B7/00 F
C22B34/32
C22B47/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021097413
(22)【出願日】2021-06-10
(65)【公開番号】P2022189065
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】井本 健夫
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 強
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-003882(JP,A)
【文献】特開平07-286218(JP,A)
【文献】特開昭61-105093(JP,A)
【文献】特開平01-097394(JP,A)
【文献】特開平09-061065(JP,A)
【文献】特開平06-201266(JP,A)
【文献】特開平05-013166(JP,A)
【文献】特開平04-203887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/10
F27B 3/08
F27B 3/28
F27D 11/08
F27D 21/00
C22B 7/00
C22B 34/32
C22B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電気炉であって、
炉内に装入される溶解または未溶解の原料よりも高い位置で、上部電極からのアークに対して磁場を発生させる少なくとも1対の直流磁場発生装置を有し、
前記直流電気炉の側面に水冷パネルが設置されており、前記直流磁場発生装置が前記水冷パネル内に配置されていることを特徴とする直流電気炉。
【請求項2】
請求項に記載の直流電気炉を用いた固体原料の溶解方法であって、
前記上部電極と下部電極との間でアークを形成し、前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって、前記溶解または未溶解の原料に前記アークが照射する位置を変えながら前記原料の溶解を行うことを特徴とする固体原料の溶解方法。
【請求項3】
前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって、前記アークが照射する位置を直線状に往復するように周期的に移動させるか、若しくは炉内中心から任意の半径の円内を周期的に移動させながら前記原料の溶解を行うことを特徴とする請求項2に記載の固体原料の溶解方法。
【請求項4】
炉内観察を実施しながら、前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって溶鋼表面に到達するアークを前記未溶解の原料に照射するように制御して前記原料の溶解を行うことを特徴とする請求項2に記載の固体原料の溶解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流アークによる加熱機能を有し、加熱時の未溶解部位の加熱効率向上、酸化物の還元効率向上や耐火物のダメージ軽減を実現し、効率的な操業が可能な直流電気炉およびそれを用いた固体原料の溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電気炉は、単数の電極本数で操業でき、アークの発生により生じる高温スポットと炉壁との距離が長いことなどの特長を有することから、各種金属の溶解や還元プロセスに広く利用されている。
【0003】
この装置の操業上の課題としては、主に炉底に配置される電極と、加熱対象である溶解材の上部に配置された電極との間で発生するアークが、溶解材の未溶解部位の中で特に電極に近い部位に集中して照射され、常に安定的にアークの形成を維持することが困難であることが挙げられる。そこで、このような課題を解決する方法として、移動テーブル上に磁場発生コイルを設置して、アークを安定的に炉内の中心位置に制御する手段が特許文献1に開示されており、同様の目的で、炉底電極を特殊な構造とした直流電気炉が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-332679号公報
【文献】特開平5-13166号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】K.Trivediら、Applied Spectroscopy Vol.42(1998),1025-1032
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、電磁場の印加される方向が一方向に限られ、また、炉の周囲も含む広い範囲に電磁場を形成させるための大規模な電源発生装置が必要である。さらに、炉体周囲にも強い磁場空間が形成されるために、周辺機器で誤作動が生じる可能性があったり、操業オペレータの安全管理装置などが必要であったりするなどの種々な課題がある。
【0007】
本発明は上述の問題点を鑑み、安価な設備コストで、フレキシブルなアーク制御が可能な直流電気炉およびそれを用いた固体原料の溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、まず、磁場を発生させることによってアークの位置を簡単に制御する方法について鋭意検討を行った。ここで、アーク放電は電荷を帯びたプラズマで形成されるため、実験室的には電磁誘導の原理によってその方向を変更させることが可能であることが知られており、非特許文献1において、プラズマへの磁場印加による制御が可能であることも報告されている。そこで本発明者らはこれらの知見に基づき、直流電気炉の操業に自由度を持たせる手段としてのアークプラズマに対する磁場の応用として、以下の発明に至った。
【0009】
本発明は以下の通りである。
(1)
直流電気炉であって、
炉内に装入される溶解または未溶解の原料よりも高い位置で、上部電極からのアークに対して磁場を発生させる少なくとも1対の直流磁場発生装置を有し、
前記直流電気炉の側面に水冷パネルが設置されており、前記直流磁場発生装置が前記水冷パネル内に配置されていることを特徴とする直流電気炉。
(2)
上記(1)に記載の直流電気炉を用いた固体原料の溶解方法であって、
前記上部電極と下部電極との間でアークを形成し、前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって、前記溶解または未溶解の原料に前記アークが照射する位置を変えながら前記原料の溶解を行うことを特徴とする固体原料の溶解方法。
(3)
前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって、前記アークが照射する位置を直線状に往復するように周期的に移動させるか、若しくは炉内中心から任意の半径の円内を周期的に移動させながら前記原料の溶解を行うことを特徴とする上記(2)に記載の固体原料の溶解方法。
(4)
炉内観察を実施しながら、前記少なくとも1対の直流磁場発生装置から磁場を発生させることによって溶鋼表面に到達するアークを前記未溶解の原料に照射するように制御して前記原料の溶解を行うことを特徴とする上記(2)に記載の固体原料の溶解方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価な設備コストで、フレキシブルなアーク制御が可能な直流電気炉およびそれを用いた固体原料の溶解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る直流電気炉の概要を説明するための図である。
図2】本発明の実施形態に係る直流電気炉を上部から見た概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る直流電気炉の概要を示す図であり、図2は、直流電気炉の上部から見た概要であり、直流磁場発生装置を設けた直流電気炉におけるアーク制御のメカニズムを説明するための図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る直流電気炉は、耐火物1とその上部の側面位置に水冷パネル2とを配置した構造である。そして、炉底に設けられた下部電極5を正極とし、水冷パネル2の高さ位置に設置した黒鉛性の上部電極6を負極としており、下部電極5と上部電極6との間に直流電源7によって電流を通電させ、プラズマアーク8を発生させることができる。炉内にスクラップを装入してプラズマアーク8を発生させることによって、スクラップが溶解して溶鋼が生成される。なお、図1はスクラップの溶解途中での様子を示しており、炉内には溶鋼3と未溶解スクラップ4とが混在した状態で、プラズマアーク8にて炉内の溶鋼3と未溶解スクラップ4とが加熱されている。
【0014】
また、水冷パネル2内には、最大磁場が0.5Tの直流磁場発生装置9が設けられ、図2に示すように、直流磁場発生装置9aから反対側の直流磁場発生装置9bに向けて(y軸方向へ)図2に示されるような磁場11を発生させている。また、x軸方向にも同様に、直流磁場発生装置9cから反対側の直流磁場発生装置9dに向けて同様に磁場11を発生させることができる。図2の例では、直流磁場発生装置9a、9bと直流磁場発生装置9c、9dとの2対の直流磁場発生装置が設けられている。また、磁場は逆方向へ発生させることができ、さらに2対の直流磁場発生装置を同時に稼働させることもできる。このように本実施形態では、溶鋼3と未溶解スクラップ4よりも高い位置で、磁場11を形成させている。
【0015】
ここで、プラズマアーク8は直流電磁流体であるため、右ねじの法則(アンペールの法則)により、プラズマアーク8による磁場10も発生している。そこで、図2に示すように直流磁場発生装置9により発生する磁場11が磁場10によって加減され、電磁力14がプラズマアーク8に作用する。ここで電磁力14の大きさ及び向きは、フレミングの法則に従い、電流と磁束密度とのベクトル積で求められる。また、下部電極5を負極とし、上部電極6を正極とした場合は、電磁力14の向きは逆向きになるが、同様な制御は可能である。
【0016】
直流電気炉でのスクラップの溶解中は、未溶解のスクラップなどに起因してプラズマ通過位置の不安定性が問題となるが、本実施形態では、プラズマアークへの電磁力作用の効果によって未溶解部位にプラズマ照射位置を制御することができ、一ヶ所への長時間にわたる強加熱条件によって炉体が損傷するのを回避しつつ、効率的にスクラップを溶解させて溶解時間を短縮させることができる。例えば1対の直流磁場発生装置9a,9bを用いて磁場を発生させることによってプラズマアーク8をx軸方向へ制御することができ、電極に近い部位に集中してアークが照射されることを防止することができる。また、直流磁場発生装置を少なくとも1対設置するだけで済むため、安価な設備コストで効率的にスクラップを溶解させることができる。
【0017】
なお、1対の直流磁場発生装置9a,9bを用いて磁場を発生させて、未溶解スクラップを効率的に溶解させるとともに、炉体の損傷を防止できるが、より効率良くスクラップを溶解させるために、図2に示すように2対の直流磁場発生装置を設け、2つの独立した電磁力を制御することによってプラズマアークの照射位置を二次元の任意の位置に制御できるようにしてもよい。この場合、電磁力の大きさは、直流磁場発生装置からの磁束密度(B)の大きさを制御することによって制御が可能であり、電磁力の向きは、2対の直流磁場発生装置で、それぞれx方向、y方向の電磁力の大きさの比を制御することによってプラズマアークでの電磁力の向きを制御できる。これにより、例えばアークの照射位置を円形に周期的に変化させたり、直線状に周期的に変化させたりすることによって、広範囲にプラズマアークを溶鋼または未溶解スクラップに照射させ、より効率よくスクラップを溶解させることができる。なお、3対以上の直流磁場発生装置を設けてもよいが、その分のコストの割には効果が限定的である。
【0018】
また、直流電気炉に複数の光ファイバーを用いた炉内観察装置(図示しない)を設け、炉内観察によってサイズの大きな未溶解スクラップにプラズマアークを直接照射するよう電磁力の向き及び大きさを制御してもよい。これにより、炉内観察で未溶解スクラップを狙うことによって未溶解スクラップを中心にプラズマアークが照射されるため、より効率よくスクラップを溶解させることができる。また、炉内観察によって炉壁の耐火物が損傷しない範囲で、未溶解スクラップにプラズマアークを直接照射するよう電磁力の向き及び大きさを制御してもよい。
【0019】
さらに、図1に示した例では、水冷パネル2内に直流磁場発生装置が設けられており、連続鋳造で用いられる直流電磁ブレーキと同様にメンテナンスが簡易な方式を採用しているが、水冷パネルを用いない直流電気炉の場合には、操業に支障の無いように直流磁場発生装置を耐火物へ埋め込むなどすることで、本実施形態と同様な作用を享受することが可能である。
【0020】
また、本実施形態では、スクラップを溶解する例について説明したが、その他の固体金属の溶解や、鉄鉱石や還元率90%以上の還元鉄(DRI)、マンガン鉱石、クロム鉱石などの金属酸化物の還元プロセスでの固体原料の溶解方法にも同様に適用でき、スラグからの燐酸還元など各種操業に対しても同様の効果が得られる。
【実施例
【0021】
次に、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0022】
本発明の効果を検証するために、図1に示すような直流電気炉であって、内径600mm、溶解量800kgの直流電気炉(トランス容量:500kVA)を用い、サイズ50~200mmのスクラップを装入し、上方の黒鉛電極(上部電極6:負極)に電圧を印加して、炉内の未溶解スクラップおよび溶解中または溶解後の溶鉄を介し、炉底に設けた電極(下部電極5:正極)までのルートに電流を通過させる方式にて溶鋼の試験製造を実施した。なお、以下のいずれの実験においても溶解処理の終了後の温度は1610~1630℃とし、溶解時間が50分以内であれば、本発明の効果が得られたと評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
発明例1では、炉内観察を実施せず、また、直流電気炉に設置された2対の直流磁場発生装置の中の1対(直流磁場発生装置9c,9d)の電源をオフにして実験を行った。なお、1対での直流磁場発生装置を用いた操業を行う前に、事前に電磁力とアーク電流との特性を調査しており、この調査結果に基づいて、アーク照射位置が炉内中心から往復150mmの領域を5秒の周期で周期的に移動させて通常よりも長い移動部位にアーク照射させながらスクラップの溶解を行った。その結果、本実験の目標溶解時間である50分以内での溶解処理を実施することができた。
【0025】
発明例2は、2対の直流磁場発生装置を用いるが炉内観察を実施しなかった例である。予め調査した電磁力とアーク電流との特性に基づいて、アーク照射位置が炉内中心から半径150mmの円内を5秒の周期で周期的に移動させて通常よりも広い面積にアーク照射させながらスクラップの溶解を行った。その結果、発明例1よりも短時間の溶解処理を実施することができた。
【0026】
発明例3は、2対の直流磁場発生装置を用い、さらに炉内観察を実施しながら、溶鋼表面に到達するプラズマアークを、大きな未溶解スクラップに照射制御してスクラップの溶解を行った。その結果、溶解時間は32分と極めて短時間での溶解を実施することができた。
【0027】
発明例4は、2対の直流磁場発生装置を用い、さらに炉内観察を実施した例であるが、炉壁のダメージ回避を目的に、炉内観察状況に従って炉壁にアークが衝突しない範囲で発明例3と同様に大きな未溶解スクラップに照射制御してスクラップの溶解を行った。その結果、発明例3よりはやや長時間の溶解時間を必要としたが、溶解終了後の耐火物ダメージが極めて軽微で、チャージ間に実施する補修作業を大幅に軽減できた。
【0028】
一方、比較例では、すべての直流磁場発生装置の電源をオフにして電磁力を印加しない条件でスクラップの溶解を行った。この例では、主に中心部のみプラズマアークが照射されたことより、周辺の未溶解スクラップにはプラズマアークが到達しなかったことから伝熱効率が低く、また、ときおりスパーク状のアーク放電が炉壁付近の未溶解部分に到達して耐火物へのアタックも発生した。その結果、長時間のアーク照射操業となり、溶解時間は目標値よりも大幅に長い71分で、かつ、耐火物ダメージも大きな操業となった。
【0029】
以上のように小型の直流電気炉によって本発明の効果を確認することができたが、例えば、炉径が7~10mで、トランス容量が100~400MVA、150~350t規模の大型直流電気炉の場合には、直流磁場発生装置からは0.1Tを超える磁場を発生できれば、充分に本発明の効果を享受できるものと算定され、大規模製鉄プロセスにも本発明が有効に活用できるものと評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、スクラップの溶解などによる溶鋼の製造や、鉄、マンガン、クロムなどの金属酸化物の還元プロセスなどの操業において、溶解時間を短縮するとともに、耐火物のダメージをも軽減し、また、酸化物の還元処理などにおいても同様に、従来の直流電気炉よりも効率よく実施でき、工業的価値が大きい。
【符号の説明】
【0031】
1 耐火物
2 水冷パネル
3 溶鋼
4 未溶解スクラップ
5 下部電極
6 上部電極
7 直流電源
8 プラズマアーク
9 直流磁場発生装置
10、11 磁場
12 電磁力
図1
図2