IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 石原産業株式会社の特許一覧

特許7617446表面被覆無機粒子及びその製造方法並びにそれを分散した有機溶媒分散体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】表面被覆無機粒子及びその製造方法並びにそれを分散した有機溶媒分散体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/12 20060101AFI20250110BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20250110BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20250110BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20250110BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20250110BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20250110BHJP
【FI】
C09C3/12
C09C1/36
C09D17/00
C09C3/08
C09D201/00
C09D7/62
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022507168
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021008927
(87)【国際公開番号】W WO2021182378
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020040631
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】滝本 理人
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209025(JP,A)
【文献】特開2012-121933(JP,A)
【文献】特開2005-220243(JP,A)
【文献】特表2015-531734(JP,A)
【文献】特開2008-31309(JP,A)
【文献】特開2006-68258(JP,A)
【文献】特開2008-174624(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/12
C09C 1/36
C09D 17/00
C09C 3/08
C09D 201/00
C09D 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、無機粒子表面に被覆した表面被覆無機粒子。
【請求項2】
前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、更にエーテル結合を有する化合物である、請求項1に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項3】
前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、エチレングリコール鎖(重合数n=2~10)、プロピレングリコール鎖(重合数n=2~10)又は5~6員環状基を有する化合物である、請求項1又は請求項2に記載の表面被覆無機粒子。
【請求項4】
前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、5~6員環状基を有する(メタ)アクリレート類又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類である、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項5】
前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート又はメトキシジプロピレングリコールアクリレートである、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項6】
前記反応物中のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10となる、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項7】
前記反応物が、炭素数3~100の低分子シリケート化合物及び/又はその加水分解生成物である、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項8】
前記無機粒子が、無機コア粒子とその表面に被覆された無機化合物で構成される、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の表面被覆無機粒子。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の無機粒子又は請求項8に記載の無機コア粒子が、酸化チタン粒子である、表面被覆無機粒子。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した、表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の表面被覆無機粒子と、有機溶媒と、樹脂とを含む塗料組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の有機溶媒分散体と、樹脂とを含む塗料組成物。
【請求項13】
水性溶媒中で無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とを混合して、無機粒子の表面にアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆する第一の工程と、
次いで、前記水性溶媒を有機溶媒に置換した後、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合して、前記の無機粒子の表面に被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、前記無機粒子の表面に被覆する第二の工程と、
を含む表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項14】
前記第二の工程において、水性溶媒に界面活性剤と有機溶媒を混合して無機粒子を有機溶媒に移行させて前記水性溶媒の有機溶媒置換を行った後、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合する、請求項13に記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項15】
無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物とを混合して、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を前記無機粒子の表面に被覆する、表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項16】
前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10とする、請求項13乃至請求項15のいずれかに記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項13又は請求項14に記載の第二の工程で得た有機溶媒分散体に貧溶媒を添加し固液分離して、表面被覆無機粒子を回収する第三の工程と、
次いで、前記の回収した表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散させる第四の工程と、
を含む表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項18】
有機溶媒中で、無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物とを混合して、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を無機粒子の表面に被覆して前記有機溶媒に分散させる、表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項19】
前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10とする、請求項18に記載の有機溶媒分散体の製造方法。
【請求項20】
請求項10に記載の表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体又は請求項11若しくは請求項12に記載の塗料組成物を基材に塗布又はスプレーする、表面被覆無機粒子層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆無機粒子及びその製造方法並びにそれを分散した有機溶媒分散体及びその製造方法、更にはそれを含有した塗料組成物、表面被覆無機粒子層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物、金属窒化物、金属などの種々の無機粒子は、顔料、紫外線遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、可視光透過剤、フィラー、ハードコート剤、屈折率調整剤などいろいろな用途に用いられている。その際、分散媒への分散性を高めたり、遮蔽性、透過性などの機能を高めたりするために、有機化合物で表面被覆されて用いられることがある。例えば、特許文献1は、無機物質と、(i)四級シランカップリング剤及び/又は(ii)シランカップリング剤と、疎水化剤とを含む被覆層を有する金属酸化物コア粒子を開示しており、シランカップリング剤としてアミノシランカップリング剤を具体的に用いて、有効なUV吸収特性、低減された光活性、改善された皮膚への感触を示すことを記載している。
また、特許文献2は、一級若しくは二級アミノ基とアルコキシシリル基とを含有するアミノシラン化合物(a)と、少なくとも2つの不飽和二重結合を有する化合物(b)とを反応させてなるアルコキシシリル基と不飽和二重結合とを有する化合物(c)を、アルコキシシリル基と反応しうる官能基を表面に有する金属酸化物粒子(d)と反応させることを特徴とする重合性粒子の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-531734号公報
【文献】特開2005-220243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1では、アミノシランカップリング剤を含む被覆層を有することにより、表面被覆粒子の分散媒への分散性などが当時のレベルよりも改良されるものの、現状では、更なる改良が求められている。また、特許文献2に記載の有機無機複合体粒子をコーティング剤に使用した場合、透明性、耐擦傷性、硬度、耐溶剤性、密着性が当時のレベルよりも良好な硬化塗膜を製造することができるものの、現状では、透明性、屈折性が更に改良された有機溶媒分散体や塗膜が提供可能な、新規な表面被覆粒子の開発が希求されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、有機化合物を被覆した無機粒子の有機溶媒への分散性を改善するため、鋭意研究したところ、アミノ基を有するシリケート化合物を分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物と反応させた生成物を無機粒子の表面に被覆させると、有機溶媒中での所望の分散性が得られること、また、得られた表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体や塗膜は透明性、屈折性に優れたものにできることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、無機粒子表面に被覆した表面被覆無機粒子、
(2) 前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、更にエーテル結合を有する化合物である、(1)に記載の表面被覆無機粒子、
(3) 前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、エチレングリコール鎖(重合数n=2~10)、プロピレングリコール鎖(重合数n=2~10)又は5~6員環状基を有する化合物である、(1)又は(2)に記載の表面被覆無機粒子、
(4) 前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、5~6員環状基を有する(メタ)アクリレート類又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類である、(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子、
(5) 前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物が、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート又はメトキシジプロピレングリコールアクリレートである、(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子、
(6) 前記反応物中のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10となる、(1)乃至(5)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子、
(7) 前記反応物が、炭素数3~100の低分子シリケート化合物及び/又はその加水分解生成物である、(1)乃至(6)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子、
(8) 前記無機粒子が、無機コア粒子とその表面に被覆された無機化合物で構成される、(1)乃至(7)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子、
(9) (1)乃至(7)のいずれかに記載の無機粒子又は(8)に記載の無機コア粒子が、酸化チタン粒子である、表面被覆無機粒子、
(10) (1)乃至(9)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した、表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体、
(11) (1)乃至(9)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子と、有機溶媒と、樹脂とを含む塗料組成物、
(12) (10)に記載の有機溶媒分散体と、樹脂とを含む塗料組成物、
(13) 水性溶媒中で無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とを混合して、無機粒子の表面にアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆する第一の工程と、
次いで、前記水性溶媒を有機溶媒に置換した後、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合して、前記の無機粒子の表面に被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、前記無機粒子の表面に被覆する第二の工程と、
を含む表面被覆無機粒子の製造方法、
(14) 前記第二の工程において、水性溶媒に界面活性剤と有機溶媒を混合して無機粒子を有機溶媒に移行させて前記水性溶媒の有機溶媒置換を行った後、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合する、(13)に記載の表面被覆無機粒子の製造方法、
(15) 無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物とを混合して、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を前記無機粒子の表面に被覆する、表面被覆無機粒子の製造方法、
(16) 前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10とする、(13)乃至(15)のいずれかに記載の表面被覆無機粒子の製造方法。
(17) (13)又は(14)に記載の第二の工程で得た有機溶媒分散体に貧溶媒を添加し固液分離して、表面被覆無機粒子を回収する第三の工程と、
次いで、前記の回収した表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散させる第四の工程と、
を含む表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体の製造方法、
(18) 有機溶媒中で、無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物とを混合して、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を無機粒子の表面に被覆して前記有機溶媒に分散させる、表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体の製造方法、
(19) 前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10とする、(18)に記載の有機溶媒分散体の製造方法。
(20) (10)に記載の表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体又は(11)若しくは(12)に記載の塗料組成物を基材に塗布又はスプレーする、表面被覆無機粒子層の製造方法、
などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、無機粒子の有機溶媒への分散性を充分に改善することができ、それにより無機粒子が持つ機能や性能を充分に発揮させることができる。
また、本発明により得られた表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体や塗膜は、従来の表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体や塗膜よりも優れた透明性、屈折性を提供することも可能である。
また、本発明の表面被覆無機粒子やその有機溶媒分散体を簡便な方法により製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、無機粒子表面に被覆した表面被覆無機粒子である。
【0009】
無機粒子は、特に限定されないが、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化鉄、酸化ケイ素などの金属酸化物粒子、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムなどの金属複合酸化物粒子、窒化チタン、酸窒化チタン、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウムなどの金属窒化物、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの金属炭化物などの金属化合物粒子、金属銅、銀、金などの金属粒子が挙げられる。無機粒子の平均粒子径は、用途に応じて適宜設計することができ、1nm~50μm(すなわち、1nm以上50μm以下)の範囲であることが好ましく、より好ましくは2nm~5μm(すなわち、2nm以上5μm以下)であり、更に好ましくは3nm~500nm(すなわち、3nm以上500nm以下)であり、最も好ましくは3nm~100nm(すなわち、3nm以上100nm以下)である。平均粒子径は、無機粒子の電子顕微鏡写真から100個の最長の直線部分を測定して、これらの測定値を個数平均して求めた数値である。
【0010】
無機粒子としては、無機粒子自体で構成されていてもよく、又は、無機コア粒子とその表面に被覆された無機化合物で構成されていてもよい。無機コア粒子として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの前記の無機粒子が挙げられ、その粒子表面が、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ジルコニウムなどの酸化物や水酸化物などの無機化合物で被覆されたものが好ましい。無機粒子が無機粒子自体で構成されている場合、該無機粒子は酸化チタン粒子であることが好ましい。無機粒子が無機コア粒子とその表面に被覆された無機化合物で構成されている場合、該無機コア粒子が、酸化チタン粒子であることが好ましい。無機化合物での被覆とは、無機コア粒子の表面に無機化合物が吸着したり、析出したりして、無機コア粒子の表面に無機化合物が存在した状態をいう。無機化合物での被覆は、無機粒子の表面の少なくとも一部に無機化合物が存在した状態であればよい。無機化合物の被覆量は、無機粒子100質量部に対して、0.1~50質量部(すなわち、0.1質量部以上50質量部以下)が好ましく、0.5~40質量部(すなわち、0.5質量部以上40質量部以下)がより好ましく、1~30質量部(すなわち、1質量部以上30質量部以下)が更に好ましい。酸化チタンの無機コア粒子の表面に、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ジルコニウムなどの酸化物や水酸化物などの無機化合物で被覆されたものが好ましく、二酸化チタン顔料、酸化チタン微粒子などに用いることができる。二酸化チタン顔料として用いる場合は、平均粒子径0.1μm~0.5μm(すなわち、0.1μm以上0.5μm以下)が好ましく、0.15μm~0.4μm(すなわち、0.15μm以上0.4μm以下)がより好ましく、0.2μm~0.3μm(0.2μm以上0.3μm以下)が更に好ましい。酸化チタン微粒子として用いる場合は、平均粒子径1nm~100nm(すなわち、1nm以上100nm以下)が好ましく、2nm~80nm(すなわち、2nm以上80nm以下)がより好ましく、3nm~50nm(すなわち、3nm以上50nm以下)が更に好ましい。
【0011】
無機粒子の表面に被覆される反応物は、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応で得られる。このような反応は、マイケル付加反応といい、分子内にC=C結合を一つ有するモノα,β-不飽和カルボニル化合物(すなわち、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物)に対してアミノ基を有するシリケート化合物を付加させる反応である。このようなことから、該反応物をマイケル付加物ということがある。該反応物は、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物にアミノ基を介してシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物が付加した化合物であると理解される。マイケル付加反応は、無機粒子の存在下で行うのが好ましく、生成したマイケル付加物を無機粒子の表面に被覆することができる。前記のマイケル付加反応は、シリケート化合物及び/又はその加水分解生成物が有するアミノ基(NH)のうち、アミノ基の水素が残らない反応、すなわちアミノ基の水素2個がα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物2モルに付加されてアミノ基の水素が残らない反応でもよいが、アミノ基の水素(NH)が残る反応、すなわちアミノ基の水素1個がα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物1モルに付加されアミノ基の水素1個が残る反応が好ましい。このため、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとすると、0.8≦a/b≦10となるようなモル比での反応が好ましく、1≦a/b≦10がより好ましく、1≦a/b≦8が更に好ましく、1≦a/b≦6が最も好ましい。
【0012】
アミノ基を有するシリケート化合物としては、具体的に-C-Si(OH)のシラノール化合物、-C-Si(OR)のアルコキシシラン化合物、-C-Si(OR)R´3-xのアルキルアルコキシシラン化合物(xは1~3(すなわち、1以上3以下)の整数)などを含み、下記一般式(1)で示されるアルコキシ基などの加水分解性基を含むものがより好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
上記一般式(1)中、xは1~3(すなわち、1以上3以下)の整数を表し、yは0~2(すなわち、0以上2以下)の整数を表し、zは0~1(すなわち、0又は1)の整数を表す。ただし、x+y+z=3である。R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4(すなわち、1以上4以下)のアルキル基を表す。
【0015】
アミノ基を有するシリケート化合物として、具体的には、アミノ基含有アルコキシシランやアミノ基含有ジ(アルコキシシラン)が挙げられ、前者としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-(トリメトキシシリルプロピル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(トリエトキシシリルプロピル)アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(トリメトキシシリルプロピル)アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-(トリエトキシシリルプロピル)アミノエチル-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどが例示される。また、後者としては、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンなどが例示され、それらの加水分解生成物を調製して用いることができる。
【0016】
分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物は、分子内に、C=C結合を一つ有するモノα,β-不飽和カルボニル化合物であれば、特に制限はなく、下記一般式(2)で示される骨格を有するものが好ましい。また、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物は、分子内に更にエーテル結合を有する化合物であることがより好ましく、エーテル結合を有する化合物として、重合数n=2~10(すなわち、2以上10以下)のエチレングリコール鎖、重合数n=2~10(すなわち、2以上10以下)のプロピレングリコール鎖又は5~6員環状基(すなわち、5又は6員環状基)を有する化合物がより好ましく、5~6員環状基を有する(メタ)アクリレート類又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類が更に好ましい。「(メタ)アクリレート」との表示は、アクリレート及び/又はメタクリレート(メタアクリレートと称することもある)を意味する。
【0017】
【化2】
【0018】
上記一般式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~4(すなわち、1以上4以下)のアルキル基を表す。
【0019】
分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物としては、具体的に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの5~6員環状基を有する(メタ)アクリレート類;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどの水酸基含有の(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどのN置換型(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレート類;などが挙げられる。更に、上記したような化合物の他、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル化マレイン酸変性ポリブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、5~6員環状基を有する(メタ)アクリレート類又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類が好ましく、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート又はメトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレートが更に好ましく、更に好ましいものの中でも、アクリレートであるテトラヒドロフルフリルアクリレート(以下、「THF-A」と記載することもある)、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、「メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート」又は「MTG-A」と記載することもある)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(以下、「130A」と記載することもある)又はメトキシジプロピレングリコールアクリレート(以下、「メトキシジプロピレングルコールアクリレート」又は「DPM-A」と記載することもある)が最も好ましい。
【0020】
前記の反応物を無機粒子の表面に被覆しているとは、反応物が無機粒子の表面に吸着したり、析出したり、反応したりして、反応物若しくは、その反応物の一部分が変形した状態(例えば、アルコキシ基が分解し、アルキル基と水酸基に分離し、水酸基によって無機粒子に吸着した状態(-Si-OH-)、該反応物が加水分解した状態などで無機粒子の表面に存在している状態)で存在していることをいう。反応物は、炭素数3~100(すなわち、3以上100以下)の低分子シリケート化合物及び/又はその加水分解生成物が好ましく、炭素数3~50(すなわち、3以上50以下)がより好ましく、炭素数3~40(すなわち、3以上40以下)が更に好ましい。
【0021】
反応物の被覆は、無機粒子の表面の少なくとも一部に存在している状態であればよく、無機粒子を有機溶媒に充分に分散させるためには、可能な限り緻密に被覆するのが好ましい。被覆量は、無機粒子100質量部に対して、0.1~50質量部(すなわち、0.1質量部以上40質量部以下)が好ましく、0.5~40質量部(すなわち、0.5質量部以上40質量部以下)がより好ましく、1~30質量部(すなわち、1質量部以上30質量部以下)が更に好ましい。
【0022】
次に、前記の表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体について説明する。本願では、前記の表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体を有機溶媒分散体と称するが、該有機溶媒は適宜選択することができ、具体的にはトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカンなどの炭化水素系溶媒;メタノール、EtOH(エタノール)、ブタノール、IPA(イソプロピルアルコール)、ノルマルプロピルアルコール、2-ブタノール、TBA(ターシャリーブタノール)、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)などのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ―ブチルラクトンなどのエステル系容媒;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、MTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)、ブチルカルビトールなどのエーテル系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、PGME(1-メトキシ-2-プロパノール、すなわちプロピレングリコールモノメチルエーテル)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル系溶媒;DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DEF(N,N-ジエチルホルムアミド)、DMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)、NMP(N-メチルピロリドン)などのアミド系溶媒;などから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの溶媒の中でも、アルコール系溶媒又はグリコールエーテル系溶媒を使用するのが好ましく、その中でも、メタノール、エタノール、ブタノール、IPA(イソプロピルアルコール)又はPGME(1-メトキシ-2-プロパノール、すなわちプロピレングリコールモノメチルエーテル)を使用するのが更に好ましい。表面被覆無機粒子の含有量は、有機溶媒の質量100質量部に対して、0.1~95質量部(すなわち、0.1質量部以上95質量部以下)が好ましく、10~90質量部(すなわち、10質量部以上90質量部以下)がより好ましく、15~90質量部(すなわち、15質量部以上90質量部以下)が更に好ましい。
【0023】
次に、前記の表面被覆無機粒子と、有機溶媒と、樹脂とを含む塗料組成物、又は、前記の有機溶媒分散体と、樹脂とを含む塗料組成物について説明する。有機溶媒としては前記のものを用いることができる。樹脂としては、どのような樹脂でも用いることができ、例えば、低極性非水溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型などを制限なく用いることができる。また、樹脂種としては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース-アセテート-ブチレート(CAB)、セルロース-アセテート-プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。樹脂の配合量は、表面被覆無機粒子100重量部に対し0.5~100質量部程度の範囲が好ましく、より好ましい範囲は1~50質量部程度であり、2~25質量部程度であれば更に好ましい。
【0024】
樹脂として具体的には、例えばアロニックス(登録商標)シリーズのB-309、B-310、M-430、M-406、M-460、M-1100(東亞合成社製);ライトアクリレート(登録商標)シリーズのMTG-A、DPM-A、THF-A、IB-XA、HOA-HH(N)、1,6HX-A、1,9ND-A、PE-3A、PE-4A(共栄社化学社製);エポライト(商品名)シリーズの40E、4000、3002(N)(共栄社化学社製);NKエステル(登録商標)シリーズのA-TMM-3、A-9550、A-DPH(新中村化学社製);KAYARAD(登録商標)シリーズのDPHA、DPEA-12、DPCA-60(日本化薬社製)などが挙げられる。
【0025】
前記の有機溶媒分散体又は塗料組成物は、基材上に塗布又はスプレーして表面被覆無機粒子の層とし、必要に応じて硬化することができる。表面被覆無機粒子として酸化チタン微粒子を用いた場合、硬度が高く可視光透過性の高い酸化チタン層を形成することができ、ハードコート、高屈折率層、紫外線遮蔽層として用いることができる。基材は特に制限はなく、ガラス、プラスチック、セラミック、金属などを用いることができる。膜厚などは適宜設定することができる。
【0026】
表面被覆無機粒子は、無機粒子の存在下、好ましくは無機粒子を含む有機溶媒又は水性溶媒の存在下において、予め調製したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を混合して、その反応物を無機粒子の表面に被覆させることができる。この混合は、室温で混合し撹拌するだけでもよいが、熱をかけると被覆はより早く進行する。室温から150℃の範囲で10分から20時間で行うのが好ましい。分散させながら混合すると被覆は更に進行するので好ましい。分散させながら行う際には、公知の分散機を使用することができる。具体的には、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。被覆は、反応物が有するアルコキシ基を加水分解することによっても進行するが、この加水分解反応に一定量の水分が必要であり、シリケートの加水分解性基に対して0.5~1.5当量(すなわち、0.5当量以上1.5当量以下)添加する。また、加水分解反応を促進させるために、触媒として酸やアルカリを添加してもよい。このようにして、表面被覆無機粒子を製造できるとともに、表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体も製造することができる。別の方法として、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を予め、無溶媒系で混合して部分的な反応を起こさせてから、無機粒子とともに、有機溶媒中に添加することによっても、表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体を製造することができる。
【0027】
また、別の方法として、表面被覆無機粒子は、無機粒子の存在下、好ましくは無機粒子を含む有機溶媒又は水性溶媒において、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物とを混合し反応させて、その反応物を無機粒子の表面に被覆させることができる。この混合は、前記と同じように室温で混合し撹拌するだけでもよいが、熱をかけると反応はより早く進行する。室温から150℃の範囲で10分から20時間で行うのが好ましい。分散させながら混合すると被覆は更に進行するので好ましい。分散させながら行う際には、公知の分散機を使用することができる。具体的には、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。被覆は、反応物が有するアルコキシ基を加水分解することによっても進行するが、この加水分解反応に一定量の水分が必要であり、シリケートの加水分解性基に対して0.5~1.5当量(すなわち、0.5当量以上1.5当量以下)添加する。また、加水分解反応を促進させるために、触媒として酸やアルカリを添加してもよい。このようにして、表面被覆無機粒子を製造できるとともに、表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体も製造することができる。
【0028】
本発明では、上記の方法でも製造できるが、より高度の表面被覆無機粒子を製造するためには、次の第一の工程と第二の工程を備えるのが好ましい。
(第一の工程)
水性溶媒中で無機粒子と、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とを混合して、無機粒子の表面にアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆する工程である。
(第二の工程)
次いで、前記の水性溶媒を有機溶媒に置換した後、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合して、前記の無機粒子の表面に被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、無機粒子の表面に被覆する工程である。
【0029】
まず、第一の工程において、水性溶媒中で無機粒子とアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とを混合して、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を無機粒子の表面に吸着したり、析出したり、反応したりして無機粒子の表面に被覆することができる。必要に応じてpHを調整したり、シリケート化合物を加水分解したりしてもよい。水性溶媒は、水又は水に溶解する有機溶媒を含んでいてもよい。水性溶媒中で、無機粒子とアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とを混合する際に、通常の懸濁機又は分散機を用いて無機粒子を懸濁又は分散させた分散液を調製するのが好ましい。無機粒子を水性溶媒に通常の懸濁機又は分散機を用いて予め懸濁又は分散させてもよく、その水性分散液にアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を混合することもできる。水性溶媒中の無機粒子の含有量は適宜設定することができる。この混合は、前記と同じように室温で混合し撹拌するだけでもよいが、熱をかけると反応はより早く進行する。室温~加熱還流温度の範囲で10分~20時間で行うのが好ましい。分散させながら混合すると被覆は更に進行するので好ましい。分散させながら行う際には、公知の分散機を使用することができる。具体的には、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。被覆は、反応物が有するアルコキシ基を加水分解することによっても進行するが、この加水分解反応に一定量の水分が必要であり、シリケートの加水分解性基に対して0.5~1.5当量(すなわち、0.5当量以上1.5当量以下)添加する。また、加水分解反応を促進させるために、触媒として酸やアルカリを添加してもよい。なお、懸濁液も分散液も、微粒子が液体中で分散している状態を表すが、一般には、懸濁液の方が分散液よりも微粒子が沈降し易いと理解されている。しかし、本明細書中では便宜上、懸濁液と分散液を特に区別せず、懸濁液も分散液と呼ぶ。
【0030】
次に、第二の工程において、前記の水性溶媒を有機溶媒に置換し、前記の無機粒子を有機溶媒に懸濁又は分散させる。置換方法は、遠心分離、デカンテーション、フラッシングなどの従来公知の方法で行うことができる。好ましい方法としては、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆した無機粒子を含む前記の水性溶媒に界面活性剤と有機溶媒を混合し、無機粒子を沈殿させ、必要に応じて固液分離した後、無機粒子を有機溶媒に移行させる。界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)が好ましく、水中で解離したとき陰イオンとなり、第一の工程で被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を中和するなどして、無機粒子を凝集沈殿させる。界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩(ROSO )、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩(RO(CHCHO)SO )、アルキルベンゼンスルホン酸塩(RCHCHCSO )、モノアルキルリン酸塩(ROPO(OH)O)などが挙げられるが、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホサクシネートが好ましい。上記のRは炭素数12~15(すなわち、12以上15以下)のアルキル鎖を表し、mは1~150(すなわち、1以上150以下)の整数であり、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種である。固液分離は、従来公知の方法を用いることができ、遠心分離、ろ過、限外ろ過などの方法を用いることができ、余剰のシリケート化合物、界面活性剤などを除去することができ、必要に応じて洗浄してもよい。更に、沈殿した無機粒子を固液分離により回収した後、80~200℃(すなわち、80℃以上200℃以下)の温度で加熱処理(乾燥)すると、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物が無機粒子の表面により強固に被覆されるためより好ましい。より好ましい温度は100~160℃(すなわち、100℃以上160℃以下)である。次いで、固液分離した無機粒子又は加熱処理した無機粒子は、懸濁機又は分散機を用いて、有機溶媒に懸濁又は分散させて分散体とする。無機粒子の含有量は適宜設定することができる。有機溶媒としては前記のものを適宜用いることができる。有機溶媒中には水は含有していない状態が好ましく、水の含有量は1質量%以下とするのがよい。
【0031】
次に、前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆した無機粒子を有機溶媒に分散させた後、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合し反応させて、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を、無機粒子の表面に被覆する。
【0032】
前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物を被覆した無機粒子の有機溶媒分散体に、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物を混合すると、この化合物が無機粒子の表面に被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と反応して、生成した反応物が無機粒子の表面に被覆される。無機粒子の表面に被覆したアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物とα,β-不飽和カルボニル化合物とが結合して、無機粒子の表面に炭素数の長いアルキル鎖を有するシリケート化合物が合成できる。反応させるα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物としては、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物であって、分子内に更にエーテル結合を有する化合物であることが好ましく、エーテル結合を有する化合物として、重合数n=2~10(すなわち、2以上10以下)のエチレングリコール鎖、重合数n=2~10(すなわち、2以上10以下)のプロピレングリコール鎖又は5~6員環状基を有する化合物がより好ましく、5~6員環状基(すなわち、5又は6員環状基)を有する(メタ)アクリレート類又はアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類が更に好ましい。
【0033】
α,β-不飽和カルボニル基を有する化合物の混合は、前記と同じように室温で混合し撹拌するだけでもよいが、熱をかけると反応はより早く進行する。室温から加熱還流温度の範囲で10分から20時間で行うのが好ましい。分散させながら混合すると被覆は更に進行するので好ましい。分散させながら行う際には、公知の分散機を使用することができる。具体的には、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機などが挙げられる。このようにして、表面被覆無機粒子を製造できるとともに、表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散した分散体も製造することができる。前記のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたとき、0.8≦a/b≦10とするのが好ましく、1≦a/b≦10とするのがより好ましく、更に好ましくは1≦a/b≦8であり、最も好ましくは1≦a/b≦6である。
【0034】
本発明では、より高度の有機溶媒分散体を製造するためには、次の第三の工程と第四の工程を備えるのが好ましい。
(第三の工程)
第二の工程で得た有機溶媒分散体に貧溶媒を添加し固液分離して、表面被覆無機粒子を回収する工程である。
(第四の工程)
次いで、前記の回収した表面被覆無機粒子を有機溶媒に分散させる工程である。
【0035】
第三の工程において、前記の第二の工程で製造した表面被覆無機粒子が懸濁した有機溶媒に貧溶媒を添加し固液分離し、表面被覆無機粒子を回収する。固液分離は、従来公知の方法を用いることができ、遠心分離、ろ過、限外ろ過などの方法を用いて、表面被覆無機粒子を回収する。表面被覆無機粒子が分散した有機溶媒に、貧溶媒を混合すると表面被覆無機粒子が凝集し沈殿するため、固液分離が容易になる。貧溶媒としては、適宜選択することができ、アルコールなどの極性溶媒やヘキサン、ベンゼン、石油エーテルなどの無極性溶媒を用いてもよい。貧溶媒の添加量は、表面被覆無機粒子が凝集する程度であれば適宜設定することができる。凝集した表面被覆無機粒子は、固液分離し、有機溶媒、貧溶媒と分離することができ、余剰の化合物などを除去することができ、必要に応じて洗浄し、乾燥してもよい。乾燥温度は適宜設定することができ、80~200℃(すなわち、80℃以上200℃以下)の温度で行うのが好ましく、より好ましい温度は100~160℃(すなわち、100℃以上160℃以下)である。
【0036】
第四の工程において、回収した表面被覆無機粒子を有機溶媒と混合して、有機溶媒に分散させる。前記の第三の工程の後、固液分離した表面被覆無機粒子(固液分離した後乾燥した無機粒子を含む)を有機溶媒に懸濁又は分散させて、有機溶媒分散体を製造することができる。有機溶媒は前記のものを用いることができ、また、懸濁又は分散させる手段は公知の懸濁機又は分散機を用いることができる。
【0037】
前記のようにして製造した表面被覆無機粒子と有機溶媒を混合すると、有機溶媒分散体を製造することができる。また、表面被覆無機粒子と、前記の有機溶媒と、樹脂とを混合したり、前記の有機溶媒分散体に樹脂を混合したりして、塗料組成物を製造することができる。混合には、公知の懸濁機又は分散機を用いることができる。有機溶媒分散体や塗料組成物には、分散剤等の添加剤を適宜添加してもよい。このようにして製造した表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体又は塗料組成物を基材に塗布又はスプレーして、表面被覆無機粒子層を製造することができる。基材は特に制限はなく、ガラス、プラスチック、セラミック、金属などを用いることができる。基材上に表面被覆無機粒子の層を形成し、必要に応じて硬化することができる。硬化は、適宜従来の方法で行うことができ、50~200℃(すなわち、50℃以上200℃以下)の温度で乾燥するのが好ましく、80~150℃(すなわち、80℃以上150℃以下)の温度での乾燥がより好ましい。硬化時間は、適宜設定することができる。また、膜厚なども適宜設定することができる。
【実施例
【0038】
以下に実施例と比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-903、以下「KBM-903」と記載)0.48g、イオン交換水29.76g、酢酸0.16gを混合して得た水溶液に、酸化チタン1.6g(石原産業社製:TTO-51A)、0.05mmジルコニアビーズ98gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い上澄みを回収し、3-アミノプロピルトリメトキシシランが処理された酸化チタン水性分散液(TiO濃度5%)を得た。
【0040】
次に、得られた水性分散液80gにトルエン40gに溶解させたジオクチルソジウムスルホサクシネート(シグマアルドリッチジャパン社製:以下「DSS」と記載)3.76gを入れ、一晩放置後、溶媒置換した。ディーンスターク装置を取り付け、オイルバス温度140℃で4時間脱水加熱し、3-アミノプロピルトリメトキシシランが処理された酸化チタンのトルエン分散体(TiO濃度10%に調整)を得た。
【0041】
次に、得られたトルエン分散体10gに1-メトキシ-2-プロパノール、すなわちプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下「PGME」と記載)を10g加えた後、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート0.183g(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)MTG-A、以下「MTG-A」と記載)とトリエチルアミン(富士フィルム和光純薬社製)0.339gを入れ、65℃で24時間撹拌した。撹拌終了後、石油エーテル(貧溶媒)を40g入れ、遠心分離により沈殿物を回収した。その沈殿物にPGMEを加え分散させてPGME分散体1を得た。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1において、MTG-Aに代えてメトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)130A、以下「130A」と記載)0.183gを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、PGME分散体2を得た。
【0043】
〔実施例3〕
実施例1において、MTG-Aの添加量を0.061gとし、PGMEの代わりにN,N-ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」と記載)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、DMAc分散体3を得た。
【0044】
〔実施例4〕
KBM-903を0.225g、MTG-Aを0.275g、PGMEを37.5g混合して得た溶液に、酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体4を得た。
【0045】
〔実施例5〕
KBM-903を0.235g、メトキシジプロピレングルコールアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)DPM-A)を0.265g、PGMEを37.5g混合して得た溶液に、酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体5を得た。
【0046】
〔実施例6〕
KBM-903を0.135g、130Aを0.365g、PGMEを37.5g混合して得た溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体6を得た。
【0047】
〔実施例7〕
KBM-903を0.213g、130Aを0.287g、PGMEを37.5g混合して得た溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体7を得た。
【0048】
〔実施例8〕
KBM-903を0.427g、MTG-Aを0.173g、DMAcを37.4g混合した溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、DMAc分散体8を得た。
【0049】
〔実施例9〕
KBM-903を0.316g、130Aを0.284g、DMAcを37.4g混合して得た溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、DMAc分散体9を得た。
【0050】
〔実施例10〕
KBM-903を0.414g、130Aを0.186g、DMAcを37.4g混合して得た溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、DMAc分散体10を得た。
【0051】
〔実施例11〕
KBM-903を0.316g、130Aを0.284g、DMAcを37.4g混合して得た溶液に酸化ジルコニウム2g(第一稀元素化学工業社製:UEP-100)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、DMAc分散体11を得た。
【0052】
〔比較例1〕
3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-903)を0.6g、DMAcを37.4g混合し、その混合した溶液に酸化チタン2g(石原産業社製:TTO-51A)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収したが、酸化チタンは全量沈殿した状態であった。
【0053】
〔参考例1〕
実施例1において調製した3-アミノプロピルトリメトキシシランが処理された酸化チタン水分散体(TiO濃度5%)を分散性評価の基準としての参考試料として用いた。
【0054】
実施例1~実施例11、参考例1において、粒度分布を測定した。
【0055】
〔粒度分布測定〕
動的光散乱式(DLS:Dynamic Light Scattering)粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製:Nanotrac(登録商標) Wave2 UZ152)を用いて、分散体中での無機粒子の粒度分布を測定し、累積粒度分布D10、D50、D90を計測した。その結果を表1に示す。なお、表1中に記載したa/bは、前記したように、反応物中のアミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物のアミノ基をaモル、前記のα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物をbモルとしたときのアミノ基とα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物のモル比を表す。なお、実施例1~3では、「溶媒置換」が行われているため、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物の仕込み量とα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物の仕込み量から得られるa/bと、実際のa/bとの間にはズレがある。そのため、実施例1~3のa/bは、各々得られた有機溶媒分散体を熱重量分析し、質量減少量から計算した計算値を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~11の分散体において、粒度分布のD50の値は40nm付近以下であり、参考例1の水性分散体のD50と比べても大差ないことから、参考例1の水性分散体と同様に、有機溶媒中でも充分に分散していることがわかった。
【0058】
〔実施例12〕
KBM-903を0.445g、130Aを1.225g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体12を得た。
【0059】
〔実施例13〕
KBM-903を0.716g、130Aを0.964g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体13を得た。
【0060】
〔実施例14〕
KBM-903を0.885g、130Aを0.795g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体14を得た。
【0061】
〔実施例15〕
KBM-903を1.092g、130Aを0.558g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体15を得た。
【0062】
〔実施例16〕
KBM-903を1.324g、130Aを0.356g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体16を得た。
【0063】
〔実施例17〕
KBM-903を1.079g、130Aを0.601g、PGMEを21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体17を得た。
【0064】
〔実施例18〕
KBM-903を0.885g、130Aを0.795g、PGMEを21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体18を得た。
【0065】
〔実施例19〕
KBM-903を1.092g、130Aを0.558g、PGMEを21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体19を得た。
【0066】
〔実施例20〕
KBM-903を0.789g、メトキシジプロピレングルコールアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)DPM-A、以下「DPM-A」と記載)を0.891g、PGMEを21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体20を得た。
【0067】
〔実施例21〕
KBM-903を0.959g、DPM-Aを0.721g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体21を得た。
【0068】
〔実施例22〕
KBM-903を0.959g、DPM-Aを0.721g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-51N)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体22を得た。
【0069】
〔実施例23〕
KBM-903を1.221g、DPM-Aを0.459g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体23を得た。
【0070】
〔実施例24〕
KBM-903を1.063g、テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)THF-A、以下「THF-A」と記載)を0.617g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体24を得た。
【0071】
〔実施例25〕
KBM-903を0.927g、MTG-Aを0.753g、PGMEを21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体25を得た。
【0072】
〔実施例26〕
KBM-903を0.883g、DPM-Aを0.797g、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGMEA分散体26を得た。
【0073】
〔実施例27〕
KBM-903を0.959g、DPM-Aを0.721g、エタノール(EtOH)を21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、エタノール分散体27を得た。
【0074】
〔実施例28〕
KBM-903を0.959g、DPM-Aを0.721g、イソプロピルアルコール(IPA)を21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、イソプロピルアルコール分散体28を得た。
【0075】
〔実施例29〕
KBM-903を0.883g、DPM-Aを0.797g、メチルエチルケトン(MEK)を21.92g混合した後、この溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、メチルエチルケトン分散体29を得た。
【0076】
〔比較例2〕
KBM-903を1.030g、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)1,6HX-A)を0.650g、PGMを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収したが、酸化チタンは全量沈殿した状態であった。
【0077】
〔比較例3〕
KBM-903を0.539g、PEG600#ジアクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート(商標登録)14EG-A)を1.141g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収したが、酸化チタンは全量沈殿した状態であった。
【0078】
〔比較例4〕
KBM-903を1.083g、トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成社製:アロニックス(商標登録)M-309)を0.650g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収したが、酸化チタンは全量沈殿した状態であった。
【0079】
実施例12~実施例29及び比較例2~4における分散状態を表2に記載した。分散状態が良好な場合を〇、分散はしていたが固形分として5%以上の濃度割れがあった場合を△、分散しない場合を×と表記して表2に示した。なお、表2中のα,β-不飽和カルボニル化合物としては、実施例12~実施例29では分子内に、C=C結合を一つ有しているモノα,β-不飽和カルボニル化合物(すなわち、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物)を用い、比較例2~4では分子内に、C=C結合を2~3個有するその他のジ又はトリ不飽和カルボニル化合物を用いた。
【0080】
〔塗料調製1〕
実施例12~16及び実施例22で得た各二酸化チタン微粒子(TTO-51N)含有有機溶媒分散体を4g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成社製:M-405)を0.25g、ウレタンアクリレート(東亞合成社製:M-1200)を0.25g、IRGACURE(登録商標)-184を0.025g、ジアセトンアルコールを0.4g、レベリング剤(信越化学工業社製:KY-1203)を0.04g混合し、膜の屈折率が1.8~1.82となるように、各硬化性コーティング組成物を調製した。
【0081】
〔塗料調製2〕
実施例17~21、23~29及び比較例2~4で得た各二酸化チタン微粒子(TTO-V5)含有有機溶媒分散体を4g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成社製:M-405)を0.21g、ウレタンアクリレート(東亞合成社製:M-1200)を0.21g、IRGACURE(登録商標)-184を0.021g、ジアセトンアルコールを0.4g、レベリング剤(信越化学工業社製:KY-1203)を0.04g混合し、膜の屈折率が1.8~1.82になるように、各硬化性コーティング組成物を調製した。
【0082】
〔被膜の屈折率等の測定〕
上記の調製された硬化性コーティング組成物毎に、塗料調製したコーティング液としてガラス基板に塗布し、150℃で5分間、予備乾燥した後、高圧水銀灯を照射して硬化させ、該硬化性コーティング組成物毎に3個の膜厚を代えた被膜を形成した。得られた被膜のヘーズをヘーズメーター(NDH-7000 日本電色工業社製)にて測定し、被膜の膜厚及び測定波長589nmでの屈折率をエリプソメーター(SmartSE 堀場製作所製)で測定した。膜厚とHAZE値をプロットし、直線近似で膜厚3μmのHAZE値を算出し、表2にあわせて示した。
【0083】
【表2】
【0084】
〔参考例A〕
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-803、以下「KBM-803」と記載)を0.827g、DPM-Aを0.853g、PGMEを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。なお、KBM-803とDPM-Aとのモル比は1:1である。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGME分散体Aを得た。分散状態を前記と同様に測定したところ、該状態は△であった。また、膜厚3μmのHAZE値を算出したところ、1.43であった。
【0085】
〔参考例B〕
KBM-803を0.827g、DPM-Aを0.853g、PGMEAを21.92g混合して得た溶液に酸化チタン8.4g(石原産業社製:TTO-V5)と、0.1mmジルコニアビーズ65gを入れ、ビーズミルで分散処理した。なお、KBM-803とDPM-Aとのモル比は1:1である。ビーズ除去後、遠心分離を行い、上澄みを回収し、PGMEA分散体Bを得た。分散状態を前記と同様に測定したところ、該状態は〇であった。また、膜厚3μmのHAZE値を算出したところ、1.19であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、アミノ基を有するシリケート化合物及び/又はその加水分解生成物と、分子内に一つのα,β-不飽和カルボニル基を有する化合物との反応物を被覆した表面被覆無機粒子であって、無機粒子の有機溶媒への分散性を充分に改善することができ、それにより無機粒子が持つ機能や性能を充分に発揮させることができる。また、得られた表面被覆無機粒子の有機溶媒分散体や塗膜は透明性、屈折性に優れたものとすることが可能である。