(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】加工装置、金属製部材の製造方法、及び金属製部材
(51)【国際特許分類】
B21D 28/24 20060101AFI20250110BHJP
B21D 28/34 20060101ALI20250110BHJP
B21D 28/04 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B21D28/24 C
B21D28/34 C
B21D28/34 D
B21D28/04 Z
(21)【出願番号】P 2023570809
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2022045768
(87)【国際公開番号】W WO2023127479
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2021213916
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】乘田 克哉
(72)【発明者】
【氏名】西島 進之助
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175105(JP,A)
【文献】特開昭63-278617(JP,A)
【文献】特開2020-175421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/24
B21D 28/34
B21D 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材である金属板の板厚方向の一方側と他方側とに配置されるパンチ及びダイを備え、前記パンチと前記ダイとが接近するように前記パンチ及び前記ダイの少なくとも一方を前記板厚方向に移動させることで前記金属板をせん断加工する加工装置であって、
前記パンチ及び前記ダイの各々は、端面と側面とを有し、
前記パンチ及び前記ダイは、前記パンチの端面と前記ダイの端面とが平面視において重ならないように配置され、
前記パンチの側面及び前記ダイの側面の少なくとも一方は、表面が前記金属板の方向を向くように傾斜し、かつ、前記パンチ及び前記ダイの他方と平面視において重なるように形成された傾斜部を含み、
前記傾斜部の表面と前記板厚方向とのなす角度が15°以上であ
り、
前記パンチの側面及び前記ダイの側面の少なくとも一方は、前記傾斜部に加え、前記傾斜部に連続し、前記板厚方向において前記金属板に近い方の端部に形成され、表面が前記板厚方向と略平行な先端部を含む、加工装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の加工装置であって、
前記先端部の前記板厚方向の寸法が、前記金属板の板厚の50%以下である、加工装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の加工装置であって、
前記傾斜部の表面と前記板厚方向とのなす角度が15~60°である、加工装置。
【請求項4】
請求項
1又は2のいずれか一項に記載の加工装置を用いて、表面にめっき層を有する金属板をせん断加工する工程を備える、金属製部材の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の金属製部材の製造方法であって、
前記表面にめっき層を有する金属板は、めっき鋼板である、金属製部材の製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の金属製部材の製造方法であって、
前記めっき層がZn系めっき層である、金属製部材の製造方法。
【請求項7】
表面にめっき層を有する金属板からなる金属製部材であって、
端面に、板厚方向の寸法が板厚の60%以上であり、前記板厚方向とのなす角度が15°以上である一つの傾斜面を有し、
前記傾斜面は、前記板厚方向と平行な断面において直線状の形状を有し、
前記傾斜面の少なくとも一部は、前記めっき層で覆われている、金属製部材。
【請求項8】
請求項
7に記載の金属製部材であって、
前記傾斜面を有する端面は、被加工材である表面めっき金属板をせん断加工することによって形成されたものであり、
前記傾斜面の少なくとも一部を覆う前記めっき層は、前記被加工材に由来するものである、金属製部材。
【請求項9】
請求項
7又は8に記載の金属製部材であって、
前記傾斜面に連続し、前記板厚方向において前記傾斜面によって前記金属製部材の寸法が大きくなる側の端部に形成され、せん断面及び破断面の少なくとも一方を含む切断面を有する、金属製部材。
【請求項10】
請求項
9に記載の金属製部材であって、
前記切断面は、前記せん断面及び前記破断面の両方を含み、
前記破断面は、前記めっき層で覆われていない、金属製部材。
【請求項11】
請求項
7又は8に記載の金属製部材であって、
前記表面にめっき層を有する金属板は、めっき鋼板である、金属製部材。
【請求項12】
請求項
11に記載の金属製部材であって、
前記めっき層がZn系めっき層である、金属製部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置、金属製部材の製造方法、及び金属製部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用や建材用の鋼製部材は、プレス加工によって製造されることが多い。鋼製部材に耐食性が要求される場合、素材である冷延鋼板又は熱延鋼板をプレス加工した後、塗装やめっきを施すことが行われている。しかし、プレス加工後に塗装工程やめっき工程を設けると、作業時間やコストが増加する。
【0003】
この課題の解決のため、めっき鋼板を素材としてプレス加工することが考えられる。しかし、めっき鋼板に対して打抜き加工等の切断を伴うプレス加工を行った場合、切断端面ではめっき層が分断されて鋼素地が露出する。切断端面に鋼素地が露出したままでは、切断端面から腐食が生じる。したがって、鋼素地が露出した切断端面に対してめっきを行う工程が必要となり、作業時間やコストが増加する。
【0004】
特開2017-87294号公報には、ダイとパンチとの間のクリアランスが表面処理鋼板の板厚の1~20%であり、かつ、ダイ又はパンチの少なくともいずれか一方の肩部に、表面処理鋼板の板厚の0.12倍以上の曲率半径が付与された金型を用いて切断加工する切断加工方法が開示されている。
【0005】
特開2009-287082号公報には、ダイ、ポンチ及びダイ押えからなる金型を用いて亜鉛系めっき鋼板を切断加工するに当たり、製品鋼板側となるダイ及びポンチのいずれか一方の肩に上記鋼板板厚の0.10~0.50倍の曲率半径の丸みをもたせ、他方の肩とダイ押えの肩を直角とすると共に、ダイとダイ押えの側面を揃えて、ダイとポンチとの間のクリアランスを上記鋼板板厚の1.0%以下として切断加工を施す切断加工方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-87294号公報
【文献】特開2009-287082号公報
【文献】特開2020ー32437号公報
【文献】特開2006-263755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2017-87294号公報の加工条件では、クリアランスが狭い条件では破断面の発生を抑制し、せん断面の長さを拡大することができるものの、得られたせん断面に対して形成されるめっき層は狭い面積に限定される。一方、クリアランスが広い条件では慣用条件に比べるとせん断面の長さは拡大するものの、一定量の破断面は発生する。そのため、めっき層で被覆できていないせん断面や、破断面において腐食が生じる場合がある。
【0008】
特開2009-287082号公報の加工条件では、破断面の発生を抑制し、せん断面の長さを拡大することができるものの、得られたせん断面に対して形成されるめっき層は狭い面積に限定される。
【0009】
本発明の課題は、切断端面の耐食性に優れた金属製部材を製造することができる加工装置、切断端面の耐食性に優れた金属製部材の製造方法、及び切断端面の耐食性に優れた金属製部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態による加工装置は、被加工材である金属板の板厚方向の一方側と他方側とに配置されるパンチ及びダイを備え、前記パンチと前記ダイとが接近するように前記パンチ及び前記ダイの少なくとも一方を前記板厚方向に移動させることで前記金属板をせん断加工する加工装置であって、前記パンチ及び前記ダイの各々は、端面と側面とを有し、前記パンチ及び前記ダイは、前記パンチの端面と前記ダイの端面とが平面視において重ならないように配置され、前記パンチの側面及び前記ダイの側面の少なくとも一方は、表面が前記金属板の方向を向くように傾斜し、かつ、前記パンチ及び前記ダイの他方と平面視において重なるように形成された傾斜部を含み、前記傾斜部の表面と前記板厚方向とのなす角度が15°以上である。
【0011】
本発明の一実施形態による金属製部材の製造方法は、上記の加工装置を用いて、表面にめっき層を有する金属板をせん断加工する工程を備える。
【0012】
本発明の一実施形態による金属製部材は、表面にめっき層を有する金属板からなる金属製部材であって、端面に、板厚方向の寸法が板厚の60%以上であり、前記板厚方向とのなす角度が15°以上である一つの傾斜面を有し、前記傾斜面の少なくとも一部は、前記めっき層で覆われている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による加工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の加工装置による金属板のせん断加工を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による金属製部材の斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態による加工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図5の加工装置による金属板のせん断加工を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態による金属製部材の斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3の実施形態による加工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、
図9の加工装置による金属板のせん断加工を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第4の実施形態による加工装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態による金属製部材の斜視図である。
【
図13】
図13は、有限要素法によって計算された、加工途中の金属板内の応力の分布を示す等高線図である。
【
図15】
図15は、角度θ及び高さHと、打抜き限界押込み量との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、加工後の金属板の断面写真、及び端面の元素分析結果である。
【
図17】
図17は、角度θ及び高さHと、めっき残存率との関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、加工後の金属板の断面写真、及び端面の元素分析結果である。
【
図20】
図20は、角度θ及び高さHと、めっき残存率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0016】
[第1の実施形態]
[加工装置]
図1は、本発明の第1の実施形態による加工装置20の構成を模式的に示す断面図である。加工装置20は、金属板のせん断加工に用いる金型である。加工装置20は、これに限定されないが、表面にめっき層を有する金属板(以下「表面めっき金属板」という場合がある。)のせん断加工に特に好適に用いることができる。せん断加工は、これに限定されないが、穴あけ加工、打抜き加工、及び切断加工等を含む。
【0017】
加工装置20は、パンチ21、ダイ22、及び板押え23を備えている。パンチ21及びダイ22は、被加工材である金属板10の板厚方向の一方側と他方側とに配置される。加工装置20は、図示しないプレス機により、パンチ21とダイ22とが接近するように、パンチ21及びダイ22の少なくとも一方を板厚方向に移動させることで、金属板10をせん断加工する。板押え23は、金属板10を間に挟んでダイ22と対向するように配置され、金属板10をせん断加工する際に金属板10に反りが生じること及びパンチ21の引き抜き時にパンチ21への食い付きが生じることを抑制する。
【0018】
以下、板厚方向と平行な方向をz方向と呼ぶ場合があり、z方向に垂直な平面をxy平面と呼ぶ場合がある。また、板厚方向の寸法を「高さ」と呼ぶ場合がある。
【0019】
パンチ21は、端面211と、これに連続する側面212とを有している。ダイ22も同様に、端面221と、これに連続する側面222とを有している。端面211は、加工時に側面212よりも先に金属板10と接触し、端面221は、加工時に側面222よりも先に金属板10と接触する。
【0020】
端面211及び端面221は、板厚方向と垂直な面であることが好ましい。すなわち、端面211及び端面221は、金属板10と平行であることが好ましい。
【0021】
端面211の輪郭と端面221の輪郭との間には、平面視において所定の大きさのクリアランスCLが設けられている。これによって、パンチ21及びダイ22は、端面211と端面221とが平面視において重ならないように配置されている。ここで「平面視」とは、板厚方向の一方側から対象物を真っ直ぐに見ることを意味する。端面211と端面221とが「平面視において重ならない」とは、端面211と端面221とを板厚方向と垂直な平面(xy平面)に投影したとき、端面211と端面221とが重ならないことを意味する。
【0022】
この構成によれば、端面211と端面221との間の板厚方向の距離がゼロ以下になるまで、パンチ21とダイ22とを接近させることができる。これによって、金属板10をより確実に分断させることができる。また金属板10が分断された際に、パンチ21とダイ22とが衝突するのを抑制することができる。
【0023】
端面211及び端面221は、平面視において重ならない限り、任意の形状とすることができる。端面211の平面形状(xy平面の形状)は例えば、円形、楕円形、矩形等である。端面221の平面形状は例えば、円形の穴が空いた形状、楕円形の穴が空いた形状、矩形の穴が空いた形状等である。端面221の平面形状は、クリアランスCLが一定となるように形成されていることが好ましい。
【0024】
端面211の平面形状は、好ましくは円形である。端面221の平面形状は、好ましくは円形の穴が空いた形状である。円形の場合、周方向で材料が拘束されているため均一な変形を与えることができる。これによって、表面めっき金属板をせん断加工した場合、端面に優れた耐食性を付与することができる。
【0025】
端面211の大きさ(面積)は、特に限定されない。ただし、端面211が小さすぎると、加工時の荷重に耐えられずに破損する場合がある。端面211の大きさは、好ましくは外径10mmの円相当(面積約78mm2)以上である。一方、端面211が大きすぎると、後述する傾斜部212aによって金属板10を押圧するために必要な荷重が増大するため、より性能の高いプレス機を用いる必要が生じる場合がある。
【0026】
パンチ21及びダイ22は、中実でも中空でもよい。パンチ21及びダイ22は、好ましくは中実である。パンチ21及びダイ22には、後述する傾斜部212aによって金属板10を押圧する際に圧縮応力が付与される。そのため、パンチ21及びダイ22は、その応力に耐え得るだけの強度を有していることが好ましい。
【0027】
パンチ21の側面212は、表面が金属板10の方向を向くように傾斜し、かつ、ダイ22と平面視において重なるように形成された傾斜部212aを含んでいる。
【0028】
ここで、「表面が金属板10の方向を向くように傾斜」するとは、傾斜部212aの表面から外側へ向かう法線が金属板10側へ向いていることを意味する。より具体的には、金属板10から見てパンチ21が配置されている側をz方向のプラス、ダイ22が配置されている側をz方向のマイナスとしたとき、傾斜部212aの表面から外側へ向かう法線のz方向の成分がマイナスであることを意味する。
【0029】
また、傾斜部212aがダイ22と「平面視において重なる」とは、傾斜部212aとダイ22とを板厚方向と垂直な平面(xy平面)に投影したとき、傾斜部212aとダイ22とが重なることを意味する。このとき、傾斜部212aの全体がダイ22と重なっている必要はなく、傾斜部212aの少なくとも一部がダイ22と重なっていればよい。
【0030】
この構成によれば、パンチ21とダイ22とを接近させたとき、傾斜部212aとダイ22とによって金属板10が挟まれ、金属板10に圧縮応力が加わる。この圧縮応力によって、金属板10が特定の形状に変形する。この形状については後述する。
【0031】
傾斜部212aの表面と板厚方向のなす角度θは、15°以上である。角度θの好ましい範囲については後述する。
【0032】
傾斜部212aの高さHTは、金属板10の板厚との関係では、好ましくは金属板10の板厚の60%以上である。傾斜部212aの高さHTは、好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは3mm以上であり、さらに好ましくは5mm以上である。
【0033】
パンチ21の側面212は、傾斜部212aに加え、傾斜部212aに連続し、板厚方向において金属板10に近い方の端部に形成され、表面が板厚方向と略平行な先端部212bを含んでいる。先端部212bの表面と板厚方向とのなす角度は、好ましくは5.0°以下であり、好ましくは3.0°以下であり、さらに好ましくは1.0°以下であり、さらに好ましくは0.5°以下である。
【0034】
先端部212bによって、金属板10により大きなせん断応力を加えることができる。これによって、金属板10をより確実に分断することができる。ただし、クリアランスCLの大きさや金属板10の材質によっては、先端部212bがない場合であっても金属板10を分断することができる。そのため、側面212が先端部212bを含むことは必須ではなく、側面212は先端部212bを含んでいなくてもよい。
【0035】
また、先端部212bが存在することによってクリアランスCLの大きさが明確になるため、パンチ21とダイ22との位置合わせをより確実に行うことができる。先端部212bが存在すれば、先端部212bの高さHが僅かであってもこの効果が得られる。高さHの下限は、金属板10の板厚との関係では、好ましくは金属板10の板厚の1%であり、さらに好ましくは2%であり、さらに好ましくは3%である。高さHの下限は、好ましくは0.03mmであり、さらに好ましくは0.06mmであり、さらに好ましくは0.09mmである。
【0036】
一方、先端部212bの高さHが大きすぎると、傾斜部212aが金属板10に接触する前に金属板10が分断される場合がある。また、高さHが小さいほど、金属板10が分断されるタイミングが遅くなる傾向がある。詳細は後述するが、表面めっき金属板をせん断加工した場合、金属板10が分断されるタイミングが遅いほど、端面に優れた耐食性を付与することができる。
【0037】
そのため、製造される金属製部材に優れた耐食性を付与するという観点からは、先端部212bの高さHは小さいほど好ましい。高さHの上限は、金属板10の板厚との関係では、好ましくは金属板10の板厚の50%であり、さらに好ましくは40%であり、さらに好ましくは30%である。高さHの上限は、好ましくは1.6mmであり、さらに好ましくは1.2mmであり、さらに好ましくは0.8mmである。
【0038】
ダイ22の側面222は、板厚方向と略平行である。ダイ22の側面222は、パンチ21の側面212の傾斜部212aのように傾斜した部分を含んでいない。
【0039】
[金属製部材の製造方法]
次に、金属製部材の製造方法を説明する。本実施形態による金属製部材の製造方法は、加工装置20を用いて表面めっき金属板をせん断加工する工程を備えている。
【0040】
表面めっき金属板の母材は、これらに限定されないが、鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等である。本実施形態による製造方法は、表面めっき金属板の母材が鋼である場合、すなわち、表面めっき金属板がめっき鋼板である場合に特に好適である。鋼は錆が生じやすく、本実施形態によって耐食性を付与するメリットが大きいためである。めっき鋼板は、例えば、Zn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板等である。
【0041】
表面めっき金属板は、より好ましくはZn系めっき鋼板である。Zn系めっきは、母材である鋼板に対し、犠牲防食の作用を有する。そのため、せん断加工による切断端面の母材露出部からの腐食を抑制することができ、製造される金属製部材の耐食性をより高くすることができる。Zn系めっきは、これらに限定されないが、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、Zn-Ni系めっき、Zn-Al系めっき、Zn-Mg系めっき、Zn-Al-Mg系めっき等が挙げられる。
【0042】
表面めっき金属板の板厚は、好ましくは0.2~9mmである。板厚が厚すぎると、せん断加工後に破断面の割合が大きくなり、耐食性向上効果が小さくなる場合がある。表面めっき鋼板の板厚の上限は、より好ましくは6mmである。一方、板厚が十分に薄い場合には、端面に錆が生じても目立たないため、耐食性を向上させるメリットが小さい。表面めっき鋼板の板厚の下限は、より好ましくは1.0mmである。
【0043】
表面めっき金属板のめっき層の厚さは、好ましくは15μm以上である。めっき層が薄すぎると、端面に被覆できるめっき層が枯渇し、端面に耐食性を付与できない場合がある。表面めっき金属板のめっき層の厚さの下限は、さらに好ましくは30μmである。表面めっき金属板のめっき層の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば150μmである。
【0044】
図1及び
図2を参照して、加工装置20を用いて金属板10(表面めっき金属板)をせん断加工する工程を説明する。加工装置20の構成の説明において述べたとおり、パンチ21及びダイ22を、金属板10の板厚方向の一方側と他方側とに配置する。図示しないプレス機により、パンチ21とダイ22とが接近するように、パンチ21及びダイ22の少なくとも一方を板厚方向に移動させる。このとき、
図2に示すように、パンチ21の傾斜部212aによって、金属板10に傾斜面111が形成される。
【0045】
その後、パンチ21とダイ22とをさらに接近させることによって、金属板10が第1部分11と第2部分12とに分断される。このとき、第1部分11の端面には、傾斜面111に連続して切断面112が形成される。切断面112は、せん断面と破断面とを含む。ただし加工条件によっては、切断面112がせん断面及び破断面のいずれか一方のみになる場合や、切断面112自体が形成されない場合もある。
【0046】
本実施形態では、傾斜面111を有する第1部分11が製品(金属製部材)となる。傾斜面111は、表面めっき金属板である金属板10の表面が変形して形成された面であるため、少なくとも一部にめっき層を有する。傾斜面111は、パンチ21との摺動等によってめっき層が部分的に剥がれる場合もあるが、それでもせん断面や破断面と比較してめっき層で覆われている割合が高い。また、傾斜面111を覆うめっき層の厚さは、表面めっき金属板のめっき層の厚さから、大幅には減少しない。
【0047】
せん断面は、金属板10の表面のめっき層が回り込むことによってめっき層で覆われている場合もあるが、めっき層で覆われていない場合もある。破断面は、通常はめっき層で覆われていない。
【0048】
本実施形態による加工装置20、及び本実施形態による金属製部材の製造方法によれば、製造される金属製部材の端面が傾斜面を含むようにすることによって、めっき層によって覆われた端面の割合を大きくすることができる。これによって、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【0049】
パンチ21の傾斜部212aの表面と板厚方向のなす角度θ(
図1)は、15°以上である。角度θが大きいほど、金属板10が分断されるタイミングが遅くなる傾向がある。「金属板10が分断されるタイミングが遅くなる」とは、パンチ21とダイ22とがより接近しなければ金属板10が分断されないことを意味する。金属板10が分断されるタイミングが遅いほど、切断面112の高さが小さくなり、金属板10の板厚に対する傾斜面111の高さの割合が大きくなる。そのため、角度θが大きいほど、めっき層によって覆われた端面の割合を大きくすることができる。角度θの下限は、好ましくは20°であり、さらに好ましくは30°である。
【0050】
一方、角度θが大きいほど、傾斜面111を形成するために必要な荷重が大きくなる。また、角度θは傾斜面111の傾斜角度と一致するが、角度θが大きくなることは、形成される傾斜面111のxy平面への投影面積が大きくなることを意味する。角度θの上限は、好ましくは60°であり、さらに好ましくは50°であり、さらに好ましくは45°である。
【0051】
加工装置20の構成の説明において述べたとおり、パンチ21の先端部212bの高さHが小さいほど、金属板10が分断されるタイミングが遅くなる傾向がある。金属板10が分断されるタイミングが遅いほど、切断面112の高さが小さくなり、金属板10の板厚に対する傾斜面111の高さの割合が大きくなる。そのため、高さHが小さいほど、めっき層によって覆われた端面の割合を大きくすることができる
【0052】
[金属製部材]
上述のとおり、本実施形態による金属製部材の製造方法では、
図2の第1部分11が製品(金属製部材)となる。第1部分11は、金属板10から第2部分12が打ち抜かれた後の残りの部分である。以下では、第1部分11を金属製部材11と呼ぶ。
【0053】
図3は、金属製部材11の斜視図であり、
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図3では、金属製部材11の穴の輪郭が円形である場合を図示しているが、これは例示である。加工装置20の構成の説明においても述べたとおり、パンチ21の端面211及びダイ22の端面221は任意の平面形状であってよい。そのため、金属製部材11の穴の輪郭も任意の形状であってよい。
【0054】
金属製部材11は、端面に一つの傾斜面111を有している。金属製部材11はさらに、傾斜面111に連続し、板厚方向において傾斜面111によって金属製部材11の寸法が大きくなる側の端部に形成された切断面112を有している。
図4に示すように、切断面112は、表面が板厚方向と略平行なせん断面112aと、破断面112bとを含んでいる。せん断面112aと破断面112bとは、傾斜面111に近い側からこの順番で形成されている。
【0055】
金属製部材11は、端面以外の表面がめっき層10aで覆われている。金属製部材11の端面のうち、傾斜面111の少なくとも一部はめっき層10aで覆われている。せん断面112aは、めっき層10aで覆われている場合と、覆われていない場合とがある。破断面112bは、通常はめっき層10aで覆われていない。
図4では、一例として、傾斜面111の全体及びせん断面112aの一部がめっき層10aで覆われ、せん断面112aの残りの部分及び破断面112bで母材が露出している場合を図示している。
【0056】
傾斜面111の高さHtは、板厚Tの60%以上である。板厚Tに対する高さHtの割合が大きいほど、端面の耐食性が高くなる。高さHtの下限は、好ましくは板厚Tの70%であり、さらに好ましくは80%であり、さらに好ましくは90%である。傾斜面111の高さHtを大きくするためには例えば、パンチ21(
図1)の傾斜部212aの表面と板厚方向のなす角度θを大きくしたり、パンチ21の先端部212bの高さHを小さくしたりすればよい。
【0057】
金属製部材11の端面は、全面が傾斜面111であってもよい。すなわち、金属製部材11は、切断面112を有していなくてもよい。一方、金属製部材11が切断面112を有している場合、金属製部材11をより安定的に製造することができる。切断面112の高さの下限は、好ましくは板厚Tの3%であり、さらに好ましくは5%である。
【0058】
切断面112の一部がめっき層10aで覆われていない場合であっても、傾斜面111の少なくとも一部がめっき層10aによって覆われていることにより、金属製部材11は、良好な耐食性を有する。特に、表面めっき金属板がZn系めっき鋼板の場合、Zn系めっき層が母材である鋼板に対し犠牲防食の作用を有するため、母材が露出している割合がある程度大きくても耐食性を確保することができる。
【0059】
傾斜面111と板厚方向とがなす角度θは、15°以上である。角度θの下限は、好ましくは20°であり、さらに好ましくは30°である。角度θの上限は、好ましくは60°であり、さらに好ましくは50°であり、さらに好ましくは45°である。
【0060】
傾斜面111と板厚方向とがなす角度θは、パンチ21(
図1)の形状によって制御することができる。傾斜面111と板厚方向とがなす角度θは、傾斜部212aが板厚方向となす角度θと一致する。
【0061】
傾斜面111の少なくとも一部を覆うめっき層10aは、被加工材に由来するものである。そのため、傾斜面111の少なくとも一部を覆うめっき層10aは、端面以外の表面を覆うめっき層10aと完全に同一の成分を有している。
【0062】
傾斜面111のうち、表面がめっき層10aで覆われている領域の割合は、好ましくは60%以上である。傾斜面111の全体がめっき層10aで覆われていることがさらに好ましい。
【0063】
傾斜面111aを覆うめっき層10aの厚さは、好ましくは、端面以外の表面を覆うめっき層10aの厚さの25~90%である。
【0064】
図4では、金属製部材の端面に傾斜面111と切断面112が形成され、切断面112がせん断面112aと破断面112bとを含む場合を図示したが、切断面112は、せん断面112a及び破断面112bの一方を含んでいなくてもよい。また、上述のとおり、金属製部材11は、切断面112を有していなくてもよい。
【0065】
以上、本発明の第1の実施形態による加工装置20、金属製部材の製造方法、及び金属製部材11について説明した。本実施形態によれば、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【0066】
[第2の実施形態]
[加工装置]
図5は、本発明の第2の実施形態による加工装置30の構成を模式的に示す断面図である。加工装置30は、第1の実施形態による加工装置20(
図1)と比較して、パンチ及びダイの構成が異なっている。加工装置30は、加工装置20のパンチ21に代えてパンチ31を備え、加工装置20のダイ22に代えてダイ32を備えている。
【0067】
パンチ31は、端面311と、これに連続する側面312とを有している。ダイ32も同様に、端面321と、これに連続する側面322とを有している。本実施形態においても、端面311の輪郭と端面321の輪郭との間には、平面視において所定の大きさのクリアランスCLが設けられている。これによって、パンチ31及びダイ32は、端面311と端面321とが平面視において重ならないように配置されている。
【0068】
パンチ31の側面312は、板厚方向と略平行である。
【0069】
ダイ32の側面322は、表面が金属板10の方向を向くように傾斜し、かつ、パンチ31と平面視において重なるように形成された傾斜部322aを含んでいる。
【0070】
ここで、「表面が金属板10の方向を向くように傾斜」するとは、より具体的には、金属板10から見てパンチ31が配置されている側をz方向のプラス、ダイ32が配置されている側をz方向のマイナスとしたとき、傾斜部322aの表面から外側へ向かう法線のz方向の成分がプラスであることを意味する。
【0071】
また、傾斜部322aがパンチ31と「平面視において重なる」とは、傾斜部322aとパンチ31とを板厚方向と垂直な平面(xy平面)に投影したとき、傾斜部322aとパンチ31とが重なることを意味する。このとき、傾斜部322aの全体がパンチ31と重なっている必要はなく、傾斜部322aの少なくとも一部がパンチ31と重なっていればよい。
【0072】
この構成によって、パンチ31とダイ32とを接近させたとき、傾斜部322aとパンチ31とによって金属板10が挟まれ、金属板10に圧縮応力が加わる。この圧縮応力によって、金属板10が特定の形状に変形する。
【0073】
傾斜部322aの表面と板厚方向とがなす角度θ、及び傾斜部322aの高さHTについては、第1の実施形態の場合と同様である。
【0074】
ダイ32の側面322は、傾斜部322aに加え、傾斜部322aに連続し、板厚方向において金属板10に近い方の端部に形成され、表面が板厚方向と略平行な先端部322bを含んでいる。先端部322bの高さHについては、第1の実施形態の場合と同様である。また第1の実施形態と同様に、側面322は、先端部322bを含んでいなくてもよい。
【0075】
[金属製部材の製造方法]
次に、金属製部材の製造方法を説明する。本実施形態による金属製部材の製造方法は、加工装置30を用いて表面めっき金属板をせん断加工する工程を備えている。
【0076】
図5及び
図6を参照して、加工装置30を用いて金属板10(表面めっき金属板)をせん断加工する工程を説明する。パンチ31及びダイ32を、金属板10の板厚方向の一方側と他方側とに配置する。図示しないプレス機により、パンチ31とダイ32とが接近するように、パンチ31及びダイ32の少なくとも一方を板厚方向に移動させる。このとき、
図6に示すように、ダイ32の傾斜部322aによって、金属板10に傾斜面141が形成される。
【0077】
その後、パンチ31とダイ32とをさらに接近させることによって、金属板10が第1部分13と第2部分14とに分断される。このとき、第2部分14の端面には、傾斜面141に連続して切断面142が形成される。切断面142は、せん断面と破断面とを含む。ただし加工条件によっては、切断面142がせん断面及び破断面のいずれか一方のみになる場合や、切断面142自体が形成されない場合もある。
【0078】
本実施形態では、第2部分14が製品(金属製部材)となる。
【0079】
本実施形態による加工装置30、及び本実施形態による金属製部材の製造方法によれば、製造される金属製部材の端面が傾斜面141を含むようにすることによって、めっき層によって覆われた端面の割合を大きくすることができる。これによって、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【0080】
[金属製部材]
上述のとおり、本実施形態による金属製部材の製造方法では、
図6の第2部分14が製品(金属製部材)となる。第2部分14は、金属板10から打ち抜かれた部分である。以下では、第2部分14を金属製部材14と呼ぶ。
【0081】
図7は、金属製部材14の斜視図であり、
図8は、
図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図7では、金属製部材14の輪郭が円形である場合を図示しているが、これは例示である。金属製部材14の輪郭は任意の形状であってよい。
【0082】
金属製部材14は、端面に一つの傾斜面141を有している。金属製部材14はさらに、傾斜面141に連続し、板厚方向において傾斜面141によって金属製部材14の寸法が大きくなる側の端部に形成された切断面142を有している。
図8に示すように、切断面142は、表面が板厚方向と略平行なせん断面142aと、破断面142bとを含んでいる。せん断面142aと破断面142bとは、傾斜面141に近い側からこの順番で形成されている。
【0083】
金属製部材14は、金属製部材11(
図4)と同様に、端面以外の表面がめっき層10aで覆われている。金属製部材14の端面のうち、傾斜面141の少なくとも一部がめっき層10aで覆われている。せん断面142aは、めっき層10aで覆われている場合と、覆われていない場合とがある。破断面142bは、通常はめっき層10aで覆われていない。
図8では、一例として、傾斜面141の全体及びせん断面142aの一部がめっき層10aで覆われ、せん断面142aの残りの部分及び破断面142bで母材が露出している場合を図示している。
【0084】
傾斜面141の高さHt、切断面142の高さ、傾斜面141と板厚方向とがなす角度θ等については、第1の実施形態の場合と同様である。傾斜面141の高さHt、切断面142の高さ、傾斜面141と板厚方向とがなす角度θは、ダイ32(
図5)の形状によって制御することができる。また、第1の実施形態と同様に、切断面142はせん断面142a及び破断面142bの一方を含んでいなくてもよく、金属製部材14は切断面142を有していなくてもよい。
【0085】
以上、本発明の第2の実施形態による加工装置30、金属製部材の製造方法、及び金属製部材14について説明した。第1の実施形態による加工装置20(
図1)では、パンチ21の側面212に傾斜部212aが設けられているのに対し、第2の実施形態による加工装置30(
図5)では、ダイ32の側面322に傾斜部322aが設けられている。第1の実施形態では第1部分11(
図2)に傾斜面111が形成されるのに対し、第2の実施形態では第2部分14(
図6)に傾斜面141が形成される。しかしいずれの場合であっても、端面の耐食性に関しては同様の効果が得られる。
【0086】
すなわち、耐食性に優れた端面を有する金属製部材を製造するためには、パンチの側面及びダイの側面の少なくとも一方が傾斜部を含んでいればよい。この傾斜部は、表面が金属板の方向を向くように傾斜し、かつ、パンチ及びダイの他方と平面視において重なるように形成されていればよい。
【0087】
[第3の実施形態]
図9は、本発明の第3の実施形態による加工装置40の構成を模式的に示す断面図である。加工装置40は、第1の実施形態による加工装置20(
図1)と比較して、ダイの構成が異なっている。加工装置40は、加工装置20のダイ22に代えてダイ32を備えている。ダイ32は、第2実施形態による加工装置30(
図5)のものと同じである。
【0088】
本実施形態においても、パンチ21の端面の輪郭とダイ32の端面の輪郭との間には、平面視において所定の大きさのクリアランスCLが設けられている。これによって、パンチ21及びダイ32は、互いの端面が平面視において重ならないように配置されている。
【0089】
本実施形態では、パンチ21の側面及びダイ32の側面の両方に傾斜部が設けられている。
図10に示すように、金属板10は、傾斜面111を有する第1部分11と、傾斜面141を有する第2部分14とに分断される。本実施形態では、第1部分11及び第2部分14の両方が製品(金属製部材)になる。
【0090】
以上、本発明の第3の実施形態による加工装置、金属製部材の製造方法、及び金属製部材について説明した。本実施形態によっても、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【0091】
[第4の実施形態]
[加工装置]
図11は、本発明の第4の実施形態による加工装置50の構成を模式的に示す断面図である。加工装置50は、第1の実施形態による加工装置20(
図1)と比較して、パンチ及びダイの構成が異なっている。加工装置50は、加工装置20のパンチ21に代えてパンチ51を備え、加工装置20のダイ22に代えてダイ52を備えている。
【0092】
パンチ51は、端面511と、これに連続する側面512とを有している。ダイ52も同様に、端面521と、これに連続する側面522とを有している。端面511の輪郭と端面521の輪郭との間には、平面視において所定の大きさのクリアランスCLが設けられている。これによって、パンチ51及びダイ52は、互いの端面が平面視において重ならないように配置されている。
【0093】
パンチ51の側面512は、第1の実施形態の場合と同様に、傾斜部512aと先端部512bとを含んでいる。ダイ52の側面522は、板厚方向と略平行である。
【0094】
加工装置50のパンチ51及びダイ52と、加工装置20(
図1)のパンチ21及びダイ22とは、その平面形状が異なっている。
【0095】
図12は、加工装置50によって製造される金属製部材15の斜視図である。金属製部材15は、金属板を板厚方向と垂直な方向の一つ(y方向)に沿って切断したものである。金属製部材15は、傾斜面151と、切断面152とを有している。
【0096】
傾斜面151及び切断面152は、平面形状(xy平面の形状)が異なる他は、金属製部材11(
図3)の傾斜面111及び切断面112と同様である。そのため本実施形態によっても、切断端面の耐食性に優れた金属製部材が得られる。
【0097】
図3及び
図4では、製造される金属製部材が、金属板から所定の形状が打ち抜かれた後の残りの部分である場合(
図3)、及び金属板から打ち抜かれた部分である場合(
図7)を例示した。これに加えて、本実施形態のように、金属板を切断して金属製部材とする場合であっても、先に説明した実施形態と同様の効果が得られる。なお、金属板10を切断する線は、直線でなくてもよい。
【0098】
上記の実施形態では、パンチ51の側面512に傾斜部512aが形成されている場合を説明したが、パンチ51の側面512に代えて、又はパンチ51の側面512に加えて、ダイ52の側面522が傾斜部を含んでいてもよい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0100】
加工装置20(
図1)の構成に準じた加工装置を使用して、金属板の打抜き加工を行った。パンチ21の端面211の形状を直径10.0mmの円形とし、クリアランスCLを0.05mm(ダイ22の穴の直径が10.1mm)とした。角度θを15°、30°、及び45°に、高さHを0.1mm、0.4mm、及び0.8mmにそれぞれ変えながら試作を行った。被加工材は、降伏強さ366MPa、引張強さ454MPa、伸び31%、板厚3.2mm、めっき付着量275g/m
2のZn-Al-Mg系めっき鋼板とした。
【0101】
比較例として、直径10.0mmの円柱状のパンチと、直径10.8mmの円柱状の穴を有するダイとを用いて、金属板の打抜き加工を行った。
【0102】
図13は、有限要素法によって計算された、加工途中の金属板内の応力の分布を示す等高線図である。
図13に示すように、実施例の加工装置では、傾斜部で押圧される領域が高応力状態となり、ダイの肩部から傾斜部と平行に応力集中領域が発生する。
【0103】
図14は、金属板の破断直前の断面写真である。
図14から、実施例の加工装置で加工した場合、比較例の加工装置で加工した場合よりも、クラックの発生するタイミングが遅い(すなわち、パンチをより深くまで押込まないとクラックが発生しない)ことがわかる。
【0104】
図15は、角度θ及び高さHと、打抜き限界押込み量との関係を示すグラフである。打抜き限界押込み量とは、金属板が破断する直前のパンチの押込み量であり、打抜き限界押込み量が大きいほど、金属板が破断するタイミングが遅いことを意味する。
図15から、角度θが大きいほど、また、高さHが小さいほど、打抜き限界押込み量が大きくなることがわかる。
【0105】
図16は、加工後の金属板の断面写真、及び端面の元素分析結果である。
図16中の「Hp」は、めっき層が残存している端面の高さ(以下「めっき残存高さHp」という。)を意味する。めっき残存高さHpは、金属板の端面をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で測定し、端面のZn、Feの分布を調べることによって決定した。傾斜部の角度θが30°のパンチで加工した金属板では、傾斜面の下端付近にめっき層が剥離している箇所があった。傾斜部の角度θが45°のパンチで加工した金属板では、傾斜面の下端まで断続的ではあるがめっき層が残存していた。
【0106】
図17は、角度θ及び高さHと、めっき残存率との関係を示すグラフである。めっき残存率とは、めっき残存高さHpを板厚で割った値である。
図17から、角度θが大きいほど、また、高さHが小さいほど、めっき残存率が大きくなる傾向があることが分かる。なお、比較例の加工装置で加工した金属板のめっき残存率は、最大で20%であった。
【0107】
図18は、大気暴露試験前後の金属板の写真である。大気暴露試験は、金属板を半分に切断し、評価面(打抜き加工によって形成された端面)以外の端面に防錆塗料を塗布した後、金属板を屋外に設置することで行った。比較例の加工装置で加工した金属板は、暴露開始後3週間の時点で、破断面に発生した赤錆の領域が広く目立っていた。これに対し、実施例の加工装置で加工した金属板は、高さHが0.4mmの場合は暴露開始後3週間、高さHが0.1mmの場合は暴露開始後8週間の時点で、それぞれ赤錆がわずかに発生したが、領域が狭く目視では確認しにくい程度であった。
【0108】
次に、加工装置50(
図11)の構成に準じた加工装置を使用して、金属板を直線状に切断するせん断加工を行った。パンチ51の端面511とダイ52の端面521とのクリアランスCLを0.05mmとした。角度θを15°、30°、及び45°、高さHを0.1mm、0.4mm、及び0.8mmにそれぞれ変えながら試作を行った。被加工材は、打抜き加工のときと同じZn-Al-Mg系めっき鋼板を使用した。比較例として、側面が垂直のせん断金型(クリアランスは0.4mm)を用いて、金属板を直線状に切断するせん断加工を行った。
【0109】
図19は、加工後の金属板の断面写真、及び端面の元素分析結果である。傾斜部の角度θが45°のパンチで加工した金属板では、傾斜面の下端までめっき層が残存していた。
【0110】
図20は、角度θ及び高さHと、めっき残存率との関係を示すグラフである。なお、比較例の加工装置で加工した金属板のめっき残存率は、最大で18%であった。
【0111】
図21は、大気暴露試験前後の金属板の写真である。比較例の加工装置で加工した金属板は、暴露開始後6週間の時点で、破断面に赤錆が発生した。これに対し、実施例の加工装置で加工した金属板では、暴露開始後6週間の時点では赤錆が発生しなかった。
【0112】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示にすぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、発明の範囲内で、上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0113】
10 金属板
11 第1部分(金属製部材)
111 傾斜面
112 切断面
112a せん断面
112b 破断面
12 第2部分
13 第1部分
14 第2部分(金属製部材)
141 傾斜面
142 切断面
142a せん断面
142b 破断面
15 金属製部材
20、30、40、50 加工装置
21、31、51 パンチ
211、311、511 端面
212、312、512 側面
212a、512a 傾斜部
212b、512b 先端部
22、32、52 ダイ
221、321、521 端面
222、322、522 側面
322a 傾斜部
322b 先端部