(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電動油圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04B 9/02 20060101AFI20250110BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
F04B9/02 A
H02K7/14 B
(21)【出願番号】P 2024083277
(22)【出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-269375(JP,A)
【文献】特開昭58-027894(JP,A)
【文献】特開2005-002900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 9/02
H02K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプケースを有し、ポンプ回転要素を用いて作動油を吸入・吐出するポンプ本体部と、
前記ポンプケースに結合されたモータケース及び、永久磁石を用いたモータロータを含む、電動モータ部と、
一端側に前記ポンプ回転要素が固定され、他端側に前記モータロータが固定されて、前記ポンプ回転要素と前記モータロータとを同軸で一体的に回転させる回転軸と、
前記ポンプケースの前記他端側の端部にて前記回転軸の外周と前記ポンプケースの内周との隙間を封止するオイルシールと、を備え、
前記回転軸は、磁性体の鋼材で構成され前記ポンプ回転要素が固定されたポンプ側回転軸と、磁性体の鋼材で構成され前記モータロータが固定されたモータ側回転軸とが、非磁性体の部材で構成されたジョイントを介して同軸に結合され
、
前記ジョイントは、前記非磁性体の部材の表面に形成された非磁性体のメッキ層を有することを特徴とする、電動油圧ポンプ。
【請求項2】
前記非磁性体のメッキ層は、クロムメッキ層又はニッケルメッキ層であることを特徴とする、
請求項1に記載の電動油圧ポンプ。
【請求項3】
前記ジョイントを介して向かい合う、前記ポンプ側回転軸の端部と前記モータ側回転軸の端部との間隙は、前記モータ側回転軸の前記端部の軸径に対し10%以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の電動油圧ポンプ。
【請求項4】
前記ジョイントは、略短軸状の部材で、前記一端側に、断面が所定形状の第1の先端部を有するとともに、前記他端側に、断面が所定形状の第2の先端部を有し、
前記ポンプ側回転軸は、前記他端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第1の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第1の嵌合孔を有し、
前記モータ側回転軸は、前記一端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第2の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第2の嵌合孔を有し、
前記回転軸は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合し、前記第2の先端部が前記第2の嵌合孔に嵌合することにより、形成されたものであることを特徴とする
請求項1に記載の電動油圧ポンプ。
【請求項5】
前記ポンプ側回転軸は、両側が前記ポンプ回転要素から突出し、前記ポンプ回転要素より前記一端側に設けられた第1の軸受と、前記ポンプ回転要素より前記他端側に設けられた第2の軸受とを介して、前記ポンプケースにより回転可能に支持され、
前記第1の軸受と前記第2の軸受は、前記オイルシールより前記一端側に設けられたことを特徴とする
請求項1に記載の電動油圧ポンプ。
【請求項6】
ポンプケースを有し、ポンプ回転要素を用いて作動油を吸入・吐出するポンプ本体部と、
前記ポンプケースに結合されたモータケース及び、永久磁石を用いたモータロータを含む、電動モータ部と、
一端側に前記ポンプ回転要素が固定され、他端側に前記モータロータが固定されて、前記ポンプ回転要素と前記モータロータとを同軸で一体的に回転させる回転軸と、
前記ポンプケースの前記他端側の端部にて前記回転軸の外周と前記ポンプケースの内周との隙間を封止するオイルシールと、を備え、
前記回転軸は、磁性体の鋼材で構成され前記ポンプ回転要素が固定されたポンプ側回転軸と、磁性体の鋼材で構成され前記モータロータが固定されたモータ側回転軸とが、非磁性体の部材で構成されたジョイントを介して同軸に結合され、
前記ジョイントは、略短軸状の部材で、前記一端側に、断面が所定形状の第1の先端部を有するとともに、前記他端側に、断面が所定形状の第2の先端部を有し、
前記ポンプ側回転軸は、前記他端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第1の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第1の嵌合孔を有し、
前記モータ側回転軸は、前記一端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第2の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第2の嵌合孔を有し、
前記回転軸は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合し、前記第2の先端部が前記第2の嵌合孔に嵌合することにより、形成されたものであり、
前記ポンプ側回転軸は、両側が前記ポンプ回転要素から突出し、前記ポンプ回転要素より前記一端側に設けられた第1の軸受と、前記ポンプ回転要素より前記他端側に設けられた第2の軸受とを介して、前記ポンプケースにより回転可能に支持され、
前記第2の軸受は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合している部分における前記ポンプ側回転軸の外周側に配置されたことを特徴とする電動油圧ポンプ。
【請求項7】
前記ポンプ本体部は、容量可変型ベーンポンプであることを特徴とする
請求項1に記載の電動油圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動油圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧ポンプの小型化の要求に伴って、電動機と油圧ポンプをポンプ駆動軸とモータ出力軸を一体とした回転軸で駆動する構成が提案されている。また、油圧ポンプの省電力化の要求に伴って、モータロータに永久磁石を採用したモータが採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、内接歯車ポンプのインナーロータの駆動軸と電動モータの出力軸が一体化された油圧ポンプを開示している。また、特許文献2は、内接歯車ポンプのインナーロータの駆動軸と永久磁石モータの出力軸が一体化された油圧ポンプを開示している。また、特許文献3は、ベーンポンプの回転軸と電動モータの出力軸を同軸に結合した油圧ポンプを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-67214
【文献】特開2013-169136
【文献】特開2019-206919
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電動機として永久磁石を用いるモータを使用し、ポンプ駆動軸とモータ出力軸を一体としている場合、磁石の磁力により回転軸の表面が僅かに磁化し、回転軸の作動油との接触部分においても弱い磁力が発生する可能性がある。一方、油圧ポンプを通過する作動油には、微細な鉄粉が含まれることがあり、また、油圧ポンプの初期運転段階に生ずる鉄粉が作動油に混入することもある。このような鉄粉が、磁力により回転軸に付着、滞留し塊となって、摺動部に噛み込んで摺動部の摩耗を生ずる問題があった。
【0006】
この回転軸の磁化の問題への対応策として、特許文献2は、回転軸を非磁性金属製とすることを提案している。しかし、回転軸全体を非磁性金属製、例えば、アルミニウム製やステンレス鋼製とすることは、強度、加工性、コストの点で問題があった。また、従来の磁性体の鋼材の加工ノウハウを必ずしも利用できないという問題もあった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、同軸に結合した回転軸と永久磁石モータを採用した電動油圧ポンプにおいて、強度、加工性、コストに優れ、作動油中の鉄粉の回転軸への付着問題を解決できる電動油圧ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、本発明の電動油圧ポンプは、ポンプケースを有し、ポンプ回転要素を用いて作動油を吸入・吐出するポンプ本体部と、前記ポンプケースに結合されたモータケース及び、永久磁石を用いたモータロータを含む、電動モータ部と、一端側に前記ポンプ回転要素が固定され、他端側に前記モータロータが固定されて、前記ポンプ回転要素と前記モータロータとを同軸で一体的に回転させる回転軸と、前記ポンプケースの前記他端側の端部にて前記回転軸の外周と前記ポンプケースの内周との隙間を封止するオイルシールと、を含む、電動油圧ポンプであって、前記回転軸は、磁性体の鋼材で構成され前記ポンプ回転要素が固定されたポンプ側回転軸と、磁性体の鋼材で構成され前記モータロータが固定されたモータ側回転軸が、非磁性体の部材で構成されたジョイントを介して同軸に結合されて形成され、前記ジョイントは、前記非磁性体の部材の表面に形成された非磁性体のメッキ層を有する。
(2)前記非磁性体のメッキ層は、クロムメッキ層又はニッケルメッキ層であってもよい。このクロムメッキ層又はニッケルメッキ層は、具体的には硬質クロムメッキ層や高P~中Pタイプのニッケルメッキ層であってもよい。
(3)前記ジョイントを介して向かい合う、前記ポンプ側回転軸の端部と前記モータ側回転軸の端部との間隙は、前記モータ側回転軸の前記端部の軸径に対し10%以上であってもよい。
(4)前記ジョイントは、略短軸状の部材で、前記一端側に、断面が所定形状の第1の先端部を有するとともに、前記他端側に、断面が所定形状の第2の先端部を有し、前記ポンプ側回転軸は、前記他端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第1の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第1の嵌合孔を有し、前記モータ側回転軸は、前記一端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第2の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第2の嵌合孔を有し、前記回転軸は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合し、前記第2の先端部が前記第2の嵌合孔に嵌合することにより、形成されたものであってもよい。
(5)前記ポンプ側回転軸は、両側が前記ポンプ回転要素から突出し、前記ポンプ回転要素より前記一端側に設けられた第1の軸受と、前記ポンプ回転要素より前記他端側に設けられた第2の軸受とを介して、前記ポンプケースにより回転可能に支持され、前記第1の軸受と前記第2の軸受は、前記オイルシールより前記一端側に設けられた、ものであってもよい。
(6)ポンプケースを有し、ポンプ回転要素を用いて作動油を吸入・吐出するポンプ本体部と、前記ポンプケースに結合されたモータケース及び、永久磁石を用いたモータロータを含む、電動モータ部と、一端側に前記ポンプ回転要素が固定され、他端側に前記モータロータが固定されて、前記ポンプ回転要素と前記モータロータとを同軸で一体的に回転させる回転軸と、前記ポンプケースの前記他端側の端部にて前記回転軸の外周と前記ポンプケースの内周との隙間を封止するオイルシールと、を備え、前記回転軸は、磁性体の鋼材で構成され前記ポンプ回転要素が固定されたポンプ側回転軸と、磁性体の鋼材で構成され前記モータロータが固定されたモータ側回転軸とが、非磁性体の部材で構成されたジョイントを介して同軸に結合され、前記ジョイントは、略短軸状の部材で、前記一端側に、断面が所定形状の第1の先端部を有するとともに、前記他端側に、断面が所定形状の第2の先端部を有し、前記ポンプ側回転軸は、前記他端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第1の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第1の嵌合孔を有し、前記モータ側回転軸は、前記一端側の端面から中心軸に沿って穿設され断面が前記第2の先端部に嵌合して軸回転を伝達する形状の第2の嵌合孔を有し、前記回転軸は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合し、前記第2の先端部が前記第2の嵌合孔に嵌合することにより、形成されたものであり、前記ポンプ側回転軸は、両側が前記ポンプ回転要素から突出し、前記ポンプ回転要素より前記一端側に設けられた第1の軸受と、前記ポンプ回転要素より前記他端側に設けられた第2の軸受とを介して、前記ポンプケースにより回転可能に支持され、前記第2の軸受は、前記第1の先端部が前記第1の嵌合孔に嵌合している部分における前記ポンプ側回転軸の外周側に配置された、ものであってもよい。
(7)前記ポンプは、容量可変型ベーンポンプであってもよい。なお、本発明の電動油圧ポンプは、容量可変型ベーンポンプに限られず、ポンプ回転要素を用いて作動油を吸引吐出するものであればいずれにも適用でき、例えば、容量固定型ベーンポンプ、容量可変型・固定型ピストンポンプ、容量可変型・固定型ギアポンプなどにも適用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電動油圧ポンプによれば、前記回転軸は、磁性体の鋼材で構成され前記ポンプ回転要素が固定されたポンプ側回転軸と、磁性体の鋼材で構成され前記モータロータが固定されたモータ側回転軸が、非磁性体の部材で構成されたジョイントを介して同軸に結合されて形成される。この構成により、強度、加工性、コストに優れた鋼材の回転軸を使用しつつ、永久磁石からの磁界によるモータ側回転軸側からの磁化を、非磁性体の部材で構成されたジョイントで遮断できる。その結果、ポンプ側回転軸の磁化を抑制できるので、回転軸への鉄粉の付着を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る電動油圧ポンプを示す縦断面図である。
【
図2】
図1の電動油圧ポンプのA-A断面図である。
【
図3】
図1の電動油圧ポンプのジョイント部分を示す部分拡大図で、(a)が縦断面図、(b)がB-B断面図、(c)がC-C断面図である。
【
図4】第2の実施形態に係る電動油圧ポンプを示す縦断面図である。
【
図5】
図4の電動油圧ポンプのジョイント部分を示す部分拡大図で、(a)が縦断面図、(b)がD-D断面図、(c)がE-E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動油圧ポンプ100を示す縦断面図で、
図2はそのA-A断面図である。本実施形態の電動油圧ポンプ100では、ポンプ側回転軸131とモータ側回転軸132とを、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼(SUS303、304等)の部材であるジョイント133を介して同軸的に結合して回転軸130が形成される。
【0012】
本実施形態の電動油圧ポンプ100は、ポンプ本体部110と、電動モータ部120と、回転軸130と、オイルシール140とを含む。
【0013】
ポンプ本体部110は、ポンプケース111を有し、ポンプ回転要素であるポンプロータ112を用いて作動油を吸入・吐出する装置で、本実施形態では可変容量型ベーンポンプを構成している。
【0014】
ポンプケース111は、ポンプケース本体111aとポンプ蓋111bを結合して構成され、ポンプ本体部110の外殻を成す。ポンプケース111の内部空間111cには、ポンプロータ112、カムリング113及び後述するポンプ側回転軸131が収容されている。
【0015】
ポンプロータ112は、
図2に示すように、略円盤状の部材である。ポンプロータ112は、中心の軸孔112aを貫通するポンプ側回転軸131に固定され、ポンプ側回転軸131と一体的に回転するようになっている。ポンプロータ112の外周面には、径方向に形成された複数のスリット112bが円周方向等間隔に配列されている。それぞれのスリット112bには、ベーン114が径方向に進退可能に収容されている。
【0016】
カムリング113は、略円環状の部材で、ポンプロータ112を包囲するようにポンプケース111の内部空間111cに配置されている。カムリング113及びポンプロータ112の軸方向両端は、内部空間111cに固定されたサイドプレート115、116(
図1参照)によって封止されている。このため、ポンプロータ112が回転するとベーン114が遠心力によってカムリング113の内周面に当接し、隣り合う一対のベーン114、114、ポンプロータ112、カムリング113及びサイドプレート115、116で区切られた複数の圧縮室117が形成される。
【0017】
ここで、カムリング113は、ポンプロータ112及びポンプ側回転軸131に対して偏心した位置に設定されているので、ポンプロータ112の外周とカムリング113の内周との距離は、周方向位置により異なる。したがって、ポンプロータ112が回転すると、個々の圧縮室117の体積は、半周に亘って拡大し、半周に亘って縮小する。サイドプレート115における、圧縮室117の体積が拡大する位置には、外部から圧縮室117へ作動油を吸入するための吸入口115a(
図1参照)が設けられている。また圧縮室117の体積が縮小する位置には、圧縮室117で圧縮された作動油を外部へ排出するための吐出口115b(
図1参照)が設けられている。なお、内部空間111cにおけるカムリング113の位置偏心量は、最大吐出量調整ネジ118により調整され、偏心量の拘束力は、圧力調整ネジ119によって調整される。
【0018】
なお、
図1に示すように、ポンプケース本体111aの他端部(電動モータ部120側端部)の壁には、回転軸130を貫通させる貫通孔111dが設けられ、ポンプ蓋111bの内部空間111c側中心部には、ポンプ側回転軸131の一端部を収容する止り穴111eが設けられている。止り穴111eの内周には、第1の軸受である、軟質金属からなるブッシュ状の滑り軸受141が設けられる。一方、貫通孔111dの内周には、第2の軸受けである滑り軸受142が設けられる。これらの軸受は、ポンプ側回転軸131を回転可能に支持している。また、貫通孔111dの滑り軸受142より他端側(電動モータ部120側)には、後述するモータ側回転軸132を支持するためのボール軸受143が設けられている。
【0019】
電動モータ部120は、
図1に示すように、前記ポンプケース111に結合されたモータケース121及び、永久磁石123aを用いたモータロータ123を含む。本実施形態では、永久磁石123aをモータロータ123の中に埋め込んだIPMモータを構成している。
【0020】
モータケース121は、モータケース本体121aとモータ蓋121bを結合して構成され、電動モータ部120の外殻を成す。モータケース121の内部空間121cには、ステータ122、モータロータ123、及び後述するモータ側回転軸132が収容されている。モータケース本体121aは、両端側が開口した略円筒状の部材である。モータケース本体121aの他端側(ポンプ本体部110と反対側)は、モータ蓋121bで封止され、一端側(ポンプ本体部110側)は、ポンプケース本体111aと結合されている。これにより、モータケース121とポンプケース111が一体的なケーシングを形成している。モータ蓋121bには、その中央部の内部空間121c側に軸受保持部121dが設けられている。軸受保持部121dには、モータ側回転軸132の他端側(ポンプ本体部110と反対側)を支持するためのボール軸受144が嵌め込まれている。
【0021】
ステータ122は、モータケース本体121aの内周側に保持されている。ステータ122には、軸方向視で円環状のステータコア(図示省略)の内周側に設けられた櫛歯状の各歯に巻線(図示省略)が巻装される。ステータ122は、回転磁界を形成するものである。モータロータ123は、ステータ122の内周側に所定の空気間隔を開けて配置された略円盤状ないし円柱状の部材である。モータロータ123の内部の外周近傍には、周方向に一定間隔で永久磁石123aが埋め込まれている。モータロータ123は、中心の軸孔123bを貫通するモータ側回転軸132に固定され、モータ側回転軸132と一体的に回転できるようになっている。
【0022】
回転軸130は、ポンプロータ(ポンプ回転要素)112とモータロータ123とを同軸で一体的に回転させる部材である。回転軸130の一端側には、ポンプロータ112が固定され、他端側には、モータロータ123が固定されている。本実施形態では、回転軸130は、
図3に拡大して示すように、ポンプ側回転軸131とモータ側回転軸132がジョイント133を介して同軸に結合されて形成されている。
【0023】
ポンプ側回転軸131は、磁性を有する鋼材(たとえばSCM材)で形成されている。このポンプ側回転軸131は、ポンプロータ112(
図1参照)の軸孔112aに挿入・嵌合されて、ポンプロータ112と一体的に回転するように構成されている。ポンプ側回転軸131は、他端側(電動モータ側)に第1の嵌合孔131aを有する。第1の嵌合孔131aは、断面がインボリュートスプライン形状であり、ポンプ側回転軸131の他端側(電動モータ側)端面から中心軸に沿って穿設されている。この第1の嵌合孔131aは、後述するジョイント133の第1の先端部133aに嵌合して軸回転を伝達するように構成されている。
図1に示すように、ポンプ側回転軸131は、ポンプロータ112から一端側と他端側(
図1における左右方向)に突出する突出部分を有する。一端側の突出部分は、ポンプ蓋111bに保持された滑り軸受141に回転可能に支持されている。また、他端側の突出部分は、ポンプケース本体111aの貫通孔111dに設けられた滑り軸受142により回転可能に支持されている。なお、滑り軸受142は、ポンプ側回転軸131の外周側であって、ジョイント133の第1の先端部133aと第1の嵌合孔131aとの嵌合部分に配置されている。この構成により、ポンプ側回転軸131とジョイント133との結合部におけるポンプ側回転軸131の軸ブレが低減でき、回転時の振動を低減できる。
【0024】
モータ側回転軸132は、磁性を有する鋼材(たとえばSC材)で形成されている。このモータ側回転軸132は、モータロータ123の軸孔123bに挿入・嵌合されて、モータロータ123と一体的に回転するように構成されている。モータ側回転軸132は、一端側(ポンプ本体側)に第2の嵌合孔132aを有する。
図3に拡大して示すように、第2の嵌合孔132aは、その断面が二面取りした円形であり、モータ側回転軸132の一端側(ポンプ本体側)端面から中心軸に沿って穿設されている。この第2の嵌合孔132aは、後述するジョイント133の第2の先端部133bに嵌合して軸回転を伝達するように構成されている。
図1に示すように、モータ側回転軸132は、モータロータ123から一端側と他端側(
図1における左右方向)に突出する。一端側の突出部分は、ポンプケース本体111aの貫通孔111dに設けられたボール軸受143に回転可能に支持されている。また、他端側の突出部分は、モータケース121に設けられたボール軸受144により回転可能に支持されている。モータ側回転軸132の一端側(ポンプ本体側)の先端部は、ボール軸受143から突出し、外周側にオイルシール140が摺接している。
【0025】
ジョイント133は、本実施形態では、非磁性の鋼材(オーステナイト系ステンレス鋼SUS303,304等)で形成された略短軸状の部材である。ジョイント133は、
図3に示すように、一端側(ポンプ本体側)に、断面がインボリュートスプライン形状の第1の先端部133aを有するとともに、前記他端側(電動モータ側)に、断面が二面取りした円形の第2の先端部133bを有する。本実施形態では、ジョイント133の第1の先端部133aをポンプ側回転軸131の第1の嵌合孔131aに嵌合させ、ジョイント133の第2の先端部133bをモータ側回転軸132の第2の嵌合孔132aに嵌合させている。この構成により、ポンプ側回転軸131とモータ側回転軸132が、ジョイント133を介して結合され、本実施形態の回転軸130が形成される。この構成により、簡単な構造で、回転要素側回転軸とモータロータ側回転軸を、ジョイントを介して同軸に結合できる。
【0026】
このように形成された回転軸130において、
図3(a)に示すジョイント133を介して向かい合う、ポンプ側回転軸131の端部とモータ側回転軸132の端部との間隙gは、モータ側回転軸132の前記端部の軸径dに対し10%以上とされている。この構成により、モータ側回転軸132とポンプ側回転軸131との間で十分な磁化遮断効果が得られる。
【0027】
オイルシール140は、
図1に示すように、ポンプケース111の他端側(電動モータ部120側)端部にて回転軸130の外周とポンプケース111の内周との隙間を封止する。オイルシール140はこれによりポンプ本体部110側の作動油が電動モータ部120側に進入するのを防ぐ。本実施形態では、オイルシール140は、断面略コの字型の円環状に形成されたゴム製である。またオイルシール140はポンプケース本体111aの貫通孔111dの内周に嵌め込まれている。オイルシール140の内周側は、モータ側回転軸132の一端側(ポンプ本体側)の最先端部の外周側に摺接している。
【0028】
次に上記のように構成された本実施形態の電動油圧ポンプ100の動作について、
図1及び
図2を参照して説明する。この動作は、基本的に従来の容量可変型ベーンポンプと同様である。すなわち、電動モータ部120を起動すると、ステータ122により回転磁界が生じ、モータロータ123はこの磁界の回転に従って回転する。このとき、モータロータ123と回転軸130を介して結合されたポンプロータ112も回転する。
【0029】
上記ポンプ部分の説明にあるようにポンプロータ112が回転すると、個々の圧縮室117の体積は、半周に亘って拡大し、半周に亘って縮小する。圧縮室117の体積が拡大する位置では、サイドプレート115の吸入口115a(
図1参照)を通して外部から圧縮室117へ作動油が吸入され、一方、圧縮室117の体積が縮小する位置では、圧縮室117で圧縮された作動油がサイドプレート115の吐出口115b(
図1参照)を通して外部へ排出される。これにより、作動油を圧送することができる。
【0030】
この作動油の一部は、
図1に示すポンプ本体部110内に行き渡って滑り軸受141や滑り軸受142を潤滑する。この作動油は、オイルシール140より一端側(ポンプ本体側)の回転軸130(すなわちジョイント133とポンプ側回転軸131)にも接触するので、従来は作動油中の鉄粉が回転軸130に付着する問題があった。特に永久磁石123aを備えたモータロータ123を用いる場合、回転軸130が永久磁石123aの磁界により磁化される場合があるので、この問題が発生しやすかった。本実施形態の電動油圧ポンプ100では、ジョイント133を非磁性の鋼材により製作したので、永久磁石123aからの磁界によるモータ側回転軸132側からの磁化は、このジョイント133で遮断される。その結果、オイルシール140より一端側(ポンプ本体側)を構成するジョイント133及びポンプ側回転軸131の表面は磁化されにくくなる。このため、回転軸130において、作動油に接触するこれらの部分に付着する鉄粉を低減することができる。
また、ポンプ側回転軸に鉄粉が付着されにくいので、これらの軸受けへのダメージが軽減できる。
【0031】
上記実施形態の構成によれば、強度、加工性、コストに優れた鋼材の回転軸を使用しつつ、永久磁石からの磁界によるモータ側回転軸側からの磁化を、非磁性体の部材で構成されたジョイントで遮断できる。その結果、ポンプ側回転軸の磁化を抑制できるので、回転軸に付着する鉄粉を低減することができる。また、容量可変型ベーンポンプにおける回転軸への鉄粉の付着を低減し、ポンプ寿命を伸ばすことができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る電動油圧ポンプを示す縦断面図で、
図5は、そのジョイント部分を示す部分拡大図である。本実施形態の電動油圧ポンプ200は、第1の実施形態の電動油圧ポンプ100において、ジョイント133が、その表面に形成された非磁性体のメッキ層を有する形態である。本実施形態では、この非磁性体のメッキ層として、ジョイント233の耐摩耗性等を向上するために、硬質のクロムメッキ層233cが設けられている。但し、非磁性のメッキ層としては、クロムメッキ層に233cに限られず、例えば、高P~中Pタイプのニッケルメッキ層でもよい。電動油圧ポンプ200のそれ以外の構成は、第1の実施形態の電動油圧ポンプ100と同一なので、同一の構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0033】
ジョイント233の形状は、
図5に示すように、
図3に示す第1の実施形態のジョイント133と同一である。また、第1の実施形態と同様に、ジョイント233を介してポンプ側回転軸131とモータ側回転軸132を結合することにより、本実施形態の回転軸230が形成される。第1の実施形態と同様に、モータ側回転軸132の一端側(ポンプ本体側)の最先端部にオイルシール140が配置されている。したがって、ジョイント233とポンプ側回転軸131が、オイルシール140より一端側(ポンプ本体側)に相当する。
【0034】
本実施形態の電動油圧ポンプ200の動作は、基本的に第1の実施形態の電動油圧ポンプ100の動作と同様である。本実施形態でも、永久磁石123a(
図4参照)からの磁界によるモータ側回転軸132側からの磁化は、ジョイント233で遮断される。また、ジョイント233に施されたクロムメッキ層233cも、非磁性であるため磁化遮断効果を有し、ポンプ側回転軸131の表面は磁化されにくくなる。このため、回転軸230において作動油と接触するこれらの部分に付着する鉄粉を低減することができる。また、クロムメッキ層233cは、上記効果に加えて、ジョイント233の表面硬度を高めて耐摩耗性を向上するとともに、油膜保持性を高めて潤滑特性を向上させる効果も有する。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0036】
例えば、第1の実施形態と第2の実施形態では、ポンプとして容量可変型ベーンポンプの例を記載した。しかし、本発明はこれに限られず、ポンプは、ポンプ回転要素を用いるものであればいずれでもよい。例えば、容量固定型ベーンポンプ、容量可変型・固定型ピストンポンプ、容量可変型・固定型ギアポンプなどでもよい。
【0037】
また、第1の実施形態と第2の実施形態では、モータとしてIPMモータの例を記載した。しかし、本発明はこれに限られず、モータは、永久磁石を用いるものであればいずれでもよく、例えば、SPMモータでもよい。
【0038】
また、第1の実施形態と第2の実施形態では、ジョイント133,233の構成として、ジョイントの各側の先端部が各軸の嵌合孔に嵌合する形態を挙げたが、本発明はこれに限られない。例えば各軸の先端部がジョイントの各側の嵌合孔に嵌合する形態でもよく、一方の軸の先端部がジョイントの一方の側の嵌合孔に嵌合し、ジョイントの他方の側の先端部が他方の軸の嵌合孔に嵌合する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
100、200 電動油圧ポンプ
110 ポンプ本体部
111 ポンプケース
111a ポンプケース本体
111b ポンプ蓋
111c 内部空間
111d 貫通孔
111e 止り穴
112 ポンプロータ
112a 軸孔
112b スリット
113 カムリング
114 ベーン
115 サイドプレート
115a 吸入口
115b 吐出口
116 サイドプレート
117 圧縮室
118 最大吐出量調整ネジ
119 圧力調整ネジ
120 電動モータ部
121 モータケース
121a モータケース本体
121b モータ蓋
121c 内部空間
121d 軸受保持部
122 ステータ
123 モータロータ
123a 永久磁石
123b 軸孔
130、230 回転軸
131 ポンプ側回転軸
131a 第1の嵌合孔
132 モータ側回転軸
132a 第2の嵌合孔
133、233 ジョイント
133a 第1の先端部
133b 第2の先端部
140 オイルシール
141、142 滑り軸受
143、144 ボール軸受
233c クロムメッキ層
【要約】
【課題】
一体型の回転軸と永久磁石モータを採用した電動油圧ポンプにおいて、強度、加工性、コストを維持しつつ、作動油中の鉄粉の回転軸への付着問題を解決する
【解決手段】
ポンプロータ112を用いて作動油を吸入・吐出するポンプ本体部110と、永久磁石123aを用いたモータロータ123を含む、電動モータ部120と、ポンプロータ112とモータロータ123とを同軸で一体的に回転させる回転軸130と、ポンプケース111のモータ側端部にて回転軸130の外周との隙間を封止するオイルシール140と、を備え、回転軸130は、磁性体の鋼材で形成されポンプ回転要素112が固定されたポンプ側回転軸131と、磁性体の鋼材で形成されモータロータ123が固定されたモータ側回転軸132とが、非磁性体のジョイント133を介して同軸に結合される。
【選択図】
図1