(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】シリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/10 20230101AFI20250110BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20250110BHJP
C02F 5/08 20230101ALI20250110BHJP
F28F 19/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C02F5/10 620C
C02F5/00 620C
C02F5/08 C
C02F5/08 F
C02F5/10 620D
F28F19/00 501A
(21)【出願番号】P 2020168095
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】守殿 敏行
(72)【発明者】
【氏名】田上 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】錦織 弘宜
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-151624(JP,A)
【文献】特開2018-130702(JP,A)
【文献】特開2016-037638(JP,A)
【文献】特開2003-080294(JP,A)
【文献】特開2017-039805(JP,A)
【文献】特開昭61-125497(JP,A)
【文献】特開2013-166093(JP,A)
【文献】特開2008-88475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 5/00-5/14
F28F 11/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)
と、リン酸及び/又はその塩とを含有し、
前記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であ
る
ことを特徴とするシリカ系スケール付着防止剤。
【化1】
(式中、R
1はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2及びR
3はH又はC
1-8アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3である。)
【化2】
(式中、RはH又はCH
3であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4はC
1-8アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5はH又はC
1-4アルキル基である。)
【請求項2】
共重合体(A)
と、リン酸及び/又はその塩との含有重量比が、50:1~1:5である請求項1に記載のシリカ系スケール付着防止剤。
【請求項3】
さらに、共重合体(C)を含有し、
前記共重合体(C)は、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(2)で示される構造単位を含み、下記一般式(1)で示される構造単位を含まない共重合体である、請求項1又は2に記載のシリカ系スケール付着防止剤。
【化3】
(式中、R
1
はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2
及びR
3
はH又はC
1-8
アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3
である。)
【化4】
(式中、RはH又はCH
3
であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4
はC
1-8
アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5
はH又はC
1-4
アルキル基である。)
【請求項4】
シリカ含有水系に請求項1又は2に記載のシリカ系スケール付着防止剤を用いることを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法。
【請求項5】
シリカ含有水系に、共重合体(A)
を添加する共重合体添加工程と、リン酸及び/又はその塩を添加するリン酸等添加工程とを含み、
前記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、
前記シリカ含有水系は、25℃におけるシリカ濃度が150ppmを超えるシリカ含有水系である
ことを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法。
【化5】
(式中、R
1はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2及びR
3はH又はC
1-8アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3である。)
【化6】
(式中、RはH又はCH
3であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4はC
1-8アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5はH又はC
1-4アルキル基である。)
【請求項6】
共重合体添加工程で添加される共重合体(A)
と、リン酸等添加工程で添加されるリン酸及び/又はその塩との
重量比が、50:1~1:5である請求項
5に記載のシリカ系スケール付着防止方法。
【請求項7】
リン酸等添加工程において、シリカ含有水系におけるシリカ濃度とリン酸濃度との比(シリカ濃度:リン酸濃度)が、25:1~300:1となるように、リン酸及び/又はその塩を添加する請求項
5又は
6に記載のシリカ系スケール付着防止方法。
【請求項8】
さらに、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(2)で示される構造単位を含み、下記一般式(1)で示される構造単位を含まない共重合体(C)を添加する共重合体(C)添加工程を含む請求項5又は6に記載のシリカ系スケール付着防止方法。
【化7】
(式中、R
1
はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2
及びR
3
はH又はC
1-8
アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3
である。)
【化8】
(式中、RはH又はCH
3
であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4
はC
1-8
アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5
はH又はC
1-4
アルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にシリカを含むシリカ含有水系におけるシリカ系スケール障害の発生を防止できるシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、ボイラ水系、地熱発電水系等における冷却水と接触する伝熱面や配管内は、スケール障害が発生し易い。特に、開放循環式冷却水系では、省資源、省エネルギーの観点から、冷却水の廃棄量(ブロー量)を制限して高濃縮運転を行う場合があり、水中に溶解している塩類が濃縮されて難溶性の塩を形成しスケール化し、スケール障害を発生しやすい。スケールは、熱交換器や配管において熱効率の低下、閉塞など装置の運転に重大な障害を引き起こすことから、その対策が求められている。
【0003】
一般的なスケール障害を生じるスケール種としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。これらの一般的なスケール障害に対しては、アクリル酸やマレイン酸系の水溶性ポリマーやヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸等の有機ホスホン酸等を水系に添加することによってスケール障害を解決することが可能であり、上記スケール種に対するスケール防止剤は広く一般的に使用されている。
【0004】
近年では、例えば、上述のような冷却水の高濃縮化など、工業水等の再利用による水中成分の高濃縮化に伴い、シリカ系スケール障害が発生しやすくなっており問題となっている。また、地熱発電所の蒸気井からは蒸気や熱水とともに高濃度の炭酸ガス、硫化水素ガスが噴出されており、熱水中に多くのシリカが含まれている。よって、それが配管、還元井、ボイラ等の内部で重合してシリカ系スケール障害を引き起こしている。そのため、冷却水系の他にもシリカ系スケールの対策が求められている。
シリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールが含まれる。ここで無定形シリカとは、シリカ単独でその溶解度を超えたときに発生する非晶質のシリカ系スケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の難溶性ケイ酸塩スケールとなったものである。さらにケイ酸塩スケールには、上記ケイ酸塩類と、上記無定形シリカ、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物も含まれる。
一般的にシリカは溶解度が低く、冷却水系では、シリカ濃度が100~150ppm程度でもスケール化する性質を持っており、冷却水系においては、水中のシリカ濃度により冷却水の濃縮度の上限を設定しているのが現状である。
【0005】
また、水中にカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等が存在するとシリカの沈殿を促進することが知られている。そのため、水中にシリカと、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等とが存在する冷却水系では、水中のシリカ濃度を更に低く、かつ精密に管理する必要がある。シリカ系スケールは、その性質上一旦、設備等に付着するとその洗浄除去が非常に困難であるため、スケールの付着を事前に抑えることが重要とされている。
【0006】
ここで、シリカ系スケールに対するスケール防止剤としていくつかの提案がある。例えば、アクリルアミド系重合体とアクリル酸系重合体とを含むスケール防止剤(特許文献1)、ポリエチレンイミンの第一級およびまたは第二級アミンの活性水素に対し、アルキレンオキサイドを付加して得られる高分子非イオン活性剤を含有するスケール防止剤(特許文献2)、一般的な非イオン性界面活性剤である、ポリアルキレングリコールのアルキル基(炭素数12~18)もしくはアルケニル基(炭素数12~18)エーテルまたはエステルを含むシリカ系スケール防止剤(特許文献3)、及び、分子量1000~100000のポリエチレングリコールとホスホン酸および/または分子量100000以下のカルボン酸ポリマーを含有するスケール防止剤(特許文献4)が挙げられる。
特許文献1及び特許文献2に開示のスケール防止剤については、熱交換器の表面へのスケール付着試験が実施されている。しかし、特許文献1に開示のスケール防止剤については、シリカ濃度が150mg/Lの水系におけるスケール防止効果が示されているのみであり、シリカ濃度がさらに高い水系でも同様のスケール防止効果を示すか不明である。また、特許文献2に開示のスケール防止剤については、スケール付着速度(mg/cm2/月)の値が、12~100であり、充分なスケール付着防止効果が得られているとはいえない。また、特許文献3に開示のシリカスケール防止剤については、水中のシリカ溶解度を向上させる効果は示されているもののシリカ系スケールの付着防止効果については言及されていない。また、特許文献4に開示のスケール防止剤については、シリカ濃度350ppmの試験液におけるスケール析出抑制効果とスケール付着防止効果が示されているものの、試験時間が短く、実機に適用可能なレベルでスケール付着防止効果を有するのか不明である。
よって、シリカイオンの溶解度を超えるようなシリカ系スケールの付着が発生し易いシリカ含有水系において、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示すシリカ系スケール付着防止剤について、さらなる検討の余地があった。
【0007】
また、シリカ系スケールに対するスケール防止剤として、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸又はスチレン酸・(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミドの共重合体が開示されている(特許文献5)。しかしながら、本スケール防止剤は、シリカ濃度が例えば、150ppm以上の冷却水系(シリカイオンの溶解度を超えるシリカ系スケールの付着が発生し易いシリカ含有水系)において、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示さなかった。また、水中にシリカに加え、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等を含むシリカ系スケールの付着が発生し易い厳しい条件のシリカ含有水系においては、上記スケール防止剤を用いても充分なスケール付着防止効果が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第1851103号公報
【文献】特許第2974378号公報
【文献】特開昭58-84098号公報
【文献】特開平2-31894号公報
【文献】特許第3055815号公報
【文献】特開2017-72122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冷却水系、ボイラ水系、地熱発電水系等で使用される水は、通常、工業用水、水道水、地下水等であるため、水中に様々なスケール種が存在する。特に、水中にシリカを含有する水系を取り扱う場合にはシリカ系スケール障害の問題が生じ、特に、シリカを含有する水系の高濃縮運転を行う場合には、シリカ系スケールの障害が発生しやすい。そのため、シリカ系スケールの付着防止に有用なシリカ系スケールの付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法が求められている。
【0010】
なお、薬剤による効果として、水中でのシリカイオンの溶解度を向上させ、シリカスケールの析出を抑制することと、シリカ系スケール付着を防止することとは異なる効果である。シリカ系スケールは、水中のシリカ濃度が溶解度以上に上がると重合ケイ酸が生成し始め、また、水中の他のスケール成分(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等)との共析が始まり、シリカ系スケールが析出する。一般に、25℃におけるSiO2の溶解度が約150ppmであるため、シリカ濃度が150ppm以上になるとシリカ系スケールが生成しやすくなると考えられている。一方で、水中のシリカ又は析出したシリカ系スケールが、凝縮器、熱交換器、配管等の設備に付着するか否かについては、付着対象である凝縮器、熱交換器、配管等の設備表面の環境面等、異なる要素を含めて確認する必要がある。というのも、水中にシリカ系スケールの析出が見られない場合であっても、上記対象に対しシリカ系スケール付着が生じたり、また反対に、水中にシリカ系スケールが析出していても、対象に対しシリカ系スケールの付着が生じない場合もあるためである。
これは、水中に溶解するシリカ又は析出したシリカと、上記対象の表面温度、表面環境(pH等)及び表面電荷等とが関係しているものと考えられる。例えば、特許文献6では、シリカ系スケール付着防止装置を開示されており、水中に含まれるSiO2を負表面電位を有するシリケート4面体(SiO4)にしてカチオンと結合させることで、マイナス電荷を有する凝縮器や給水管等へのシリカスケールの付着を防止することが開示されている。また、本文献には、シリカスケールの形成については、溶解度と化学平衡で規定される無機化学モデルのみでは説明できない現象と捉えられていることが示されている。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み、水中にシリカを含有するシリカ含有水系で発生するシリカ系スケールの付着防止に有用であるシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、(メタ)アクリル酸、一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体(A)及び/又は(メタ)アクリル酸及び一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とを併用することにより、シリカを含有するシリカ含有水系、特にシリカ含有冷却水系や、水中にシリカに加え、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等を含むシリカ系スケールが発生しやすいシリカ含有水系で、効果的にシリカ系スケールの付着を防止できることを見出した。
【0013】
本発明は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とを含有し、上記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、
上記共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体であることを特徴とするシリカ系スケール付着防止剤である。
【0014】
【化1】
(式中、R
1はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2及びR
3はH又はC
1-8アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3である。)
【0015】
【化2】
(式中、RはH又はCH
3であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4はC
1-8アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5はH又はC
1-4アルキル基である。)
本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩との含有重量比が、50:1~1:5であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、シリカ含有水系に、上記シリカ系スケール付着防止剤を用いることを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法でもある。
【0017】
また、本発明は、シリカ含有水系に、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)を添加する共重合体添加工程と、リン酸及び/又はその塩を添加するリン酸等添加工程とを含み、上記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、上記一般式(1)で表される構造単位及び上記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、上記共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸及び上記一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体であることを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法でもある。
本発明のシリカ系スケール付着防止方法における共重合体添加工程で添加される共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸等添加工程で添加されるリン酸及び/又はその塩との重量比が、50:1~1:5であることが好ましい。
本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、リン酸等添加工程において、シリカ含有水系におけるシリカ濃度とリン酸濃度との比(シリカ濃度:リン酸濃度)が、25:1~300:1となるように、リン酸及び/又はその塩を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、シリカ含有水系で発生するシリカ系スケールの付着を極めて効果的に防止でき、特にシリカ含有冷却水系、シリカ、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等を含むシリカ含有水系で発生するシリカ系スケールの付着防止に極めて有用であるシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】シリカ系スケール障害の評価で用いられた冷却水系の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とを含有し、上記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、上記共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体であることを特徴とする。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0021】
【化3】
(式中、R
1はH又はCOOXであり、XはH又は金属陽イオンであり、R
2及びR
3はH又はC
1-8アルキル基のどちらかであるが、両方ともHであることはできない。そしてRはH又はCH
3である。)
【0022】
【化4】
(式中、RはH又はCH
3であり、XはH又は金属陽イオンであり、R
4はC
1-8アルキル基又はフェニル基であり、そしてR
5はH又はC
1-4アルキル基である。)
【0023】
上記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、既にシリカ系スケール付着防止剤として使用されることが知られているポリマーである(参照/特許文献5)。しかしながら、上記共重合体(A)のみでは、シリカ濃度が150ppm以上のシリカ含有水系に対して充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示さなかった。すなわち、シリカ系スケール付着防止の観点において、上記共重合体(A)単独の使用では、シリカ含有水系でのシリカ系スケール付着の防止は充分ではなかった。ところが、驚くべきことに、上記共重合体(A)と、リン酸及び/又はその塩とを併用することにより、例えば、常温でシリカ濃度が150ppm以上のように、シリカイオンの溶解度を超えるシリカ系スケールの付着が発生し易いシリカ含有水系においても、シリカ系スケールの付着を充分に防止することができた。本発明は、本発明者らにより見出された上記知見に基づき完成されたものである。
【0024】
なお、上述の通り、水系で使用される水は、通常、工業用水、水道水、地下水であるため、水中に様々なスケール種がイオン状態で存在する。一般的に、冷却水、ボイラ水系、地熱発電水系で使用される水は、水中成分としてシリカの他に、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄及び/又は亜鉛を含有する。このような成分を含む水が、循環利用や再利用されることで濃縮されると、シリカ成分のみならず他の成分も濃縮され、高濃度化する。ここで、カルシウムやマグネシウム等の水中成分が高濃度化した水系に対し、リン酸を添加すると、リン酸カルシウムやリン酸マグネシウム等のスケールが発生するため、高濃縮水に対してリン酸及び/又はその塩を添加することは従来から実施されていなかった(参考文献:特開平07-256266号公報、特開2015-8568号公報、Zairyo-to-Kankyo,42,442-450(1993)Vol.42,No.7、材料と環境,64,114-120(2015)Vol.64,No.4)。
【0025】
しかしながら本発明者らは、例えば、常温でシリカ濃度が150ppm以上の水系のように、シリカイオンの溶解度を超えるシリカ系スケールの付着が発生し易いシリカ含有水系であって、シリカに加え、カルシウム、マグネシウム等を含むシリカ含有水系におけるシリカ系スケールの付着防止を検討した結果、意外なことに上記共重合体(A)及び/又は上記共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とを併用することにより、シリカ濃度が150ppm以上で、カルシウム、マグネシウム等を含むシリカ含有水系においても、他のリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムの発生を招くことなく、充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示すことを見出した。
これにより、本発明者らは、本発明のスケール付着防止剤は、シリカイオンの溶解度を超えるシリカ系スケールの付着が発生し易いシリカ含有水系であって、さらに、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛等を含む厳しい条件の水系で発生するシリカ系スケールの付着防止にも極めて有用であることを見出した。
【0026】
なお、本発明におけるシリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールとが含まれる。無定形シリカとは、シリカ単独でその溶解度を超えたときに発生する非晶質のシリカ系スケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の難溶性ケイ酸塩スケールとなったものである。さらにケイ酸塩スケールには、上記ケイ酸塩類と、上記無定形シリカ、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物も含まれる。
水中にシリカに加え、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄及び亜鉛等の金属を含むシリカ含有水系は、これらの金属を含まないシリカ含有水系と比較し、よりシリカ系スケールの付着が生じやすい厳しい条件の水質といえる。
本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、無定形シリカとケイ酸塩スケールのいずれに起因するスケール付着に対しても充分にスケール付着防止効果を有する。
【0027】
本発明のシリカ系スケール付着防止剤における共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体である。共重合体(A)の重量平均分子量は1000~25000であることが好ましい。また、共重合体(A)の総量100重量%に対し、(メタ)アクリル酸が15~90重量%、一般式(1)で表される構造単位が5~30重量%、一般式(2)で表される構造単位が5~80重量%であることが好ましい。
共重合体(A)の重量平均分子量は、2000~20000が好ましく、3000~15000がより好ましい。
また、共重合体(A)の総量100重量%に対し、(メタ)アクリル酸が25~90重量%、一般式(1)で表される構造単位が5~25重量%、一般式(2)で表される構造単位が5~70重量%であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止剤における共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体である。共重合体(B)の重量平均分子量は1000~20000であることが好ましい。また、共重合体(B)の総量100重量%に対し、(メタ)アクリル酸が60~95重量%であり、一般式(1)で示される構造単位が5~40重量%であることが好ましい。
共重合体(B)の重量平均分子量は、2000~20000が好ましく、3000~15000がより好ましい。
また、共重合体(B)の総量100重量%に対し、(メタ)アクリル酸が70~95重量%、一般式(1)で表される構造単位が5~30重量%であることがより好ましい。
【0029】
共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の重量平均分子量(以下Mwともいう)は、ゲルろ過クロマトグラフ分析(以下GFCともいう)を用いて測定した値により算出することができる。各構造単位におけるGFCの測定条件は、以下のものを用いることができる。
【0030】
<共重合体(A)及び/又は共重合体(B)>
装置 : 島津製作所製 Prominence
カラム : Shodex製 OHpakSD-G+SB-805HQ+SB-804HQ
測定温度 :40℃
溶液注入量 :100μL
検出装置 :示差屈折検出器(RI)
基準物質 :PEO
【0031】
上記一般式(1)で表される構造単位において、R2及びR3は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基のどちらかであるが、R2及びR3のいずれもが水素原子であることはできない。上記炭素数1~8のアルキル基は、全体として炭素数が1~8であれば特に限定されないが、炭素数が1~4であることが好ましい。また、上記一般式(1)で表される構造単位としては、tert-ブチルアクリルアミド、及び/又はイソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0032】
上記一般式(2)で表される構造単位において、R4は、炭素数1~8のアルキル基又はフェニル基であり、全体として炭素数が1~8であれば特に限定されないが、炭素数が2~8であることが好ましい。また、R5は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、全体として炭素数が1~4であれば特に限定されない。上記一般式(2)で表される構造単位としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)が好ましい。
【0033】
共重合体(A)は、アクリル酸・N-tert-ブチルアクリルアミド・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)共重合体であることが好ましい。また、共重合体(B)は、アクリル酸・N-tert-ブチルアクリルアミド共重合体であることが好ましい。シリカ含有水におけるシリカ系スケールの発生を効果的に防止できるためである。
【0034】
なお、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、共重合体(A)を含むことが好ましい。
【0035】
本発明のシリカ系スケール付着防止剤におけるリン酸及び/又はその塩には、重合リン酸及び/又はその塩、縮合リン酸及び/又はその塩、リン化合物は含まれない。本発明におけるリン酸及び/又はその塩としては、例えば、リン酸、リン酸ナトリウムなど、一般的に使用されているものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明におけるリン酸及び/又はその塩として、リン酸、リン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。シリカ含有水におけるシリカ系スケールの発生を効果的に防止できるためである。
【0036】
本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩との含有重量比が、50:1~1:5であることが好ましい。共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩との含有重量比が上記範囲にあることで、シリカ含有水におけるシリカ系スケールの発生を効果的に防止できるためである。
なお、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩との含有重量比は、30:1~1:5であることがより好ましく、30:1~1:1.5であることがさらに好ましい。
【0037】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、さらに、(メタ)アクリル酸及び一般式(2)で示される構造単位を含む共重合体(C)を含むことが好ましい。共重合体(C)をさらに含むことで、シリカ含有水系におけるシリカ系スケールの発生をより効果的に防止できるためである。
なお、共重合体(C)は、アクリル酸AMPS共重合体であることが好ましい。また、本発明のシリカ系スケール付着防止剤が共重合体(C)を含む場合、シリカ系スケール付着防止剤の総量100重量%に対し、共重合体(C)が1~49重量%含まれることが好ましく、5~30重量%含まれることがより好ましい。
【0038】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、シリカイオンの溶解度を超える水系に使用されることが好ましい。例えば、シリカの溶解度は、25℃でSiO2として150ppm程度である。そのため、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、シリカ濃度が150ppm以上のシリカ含有水系に使用されることが好ましく、シリカ濃度が150ppmを超えるシリカ含有水系に使用されることがより好ましい。シリカ濃度が150ppm以上のシリカ含有水系においては、一般的に知られているシリカ系スケール付着防止剤が充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示さない場合があるが、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、シリカ濃度が150ppm以上の水系に対しても、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示す。さらに、本発明のシリカ系スケール付着防止剤は、シリカ濃度が150ppmを超える水系に対しても、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示す。
本発明のシリカ系スケール付着防止剤が適用されるシリカ含有水系のシリカ濃度は、170ppm以上であることがさらに好ましく、200ppm以上であることがよりさらに好ましい。
なお、本発明において、シリカイオンの溶解度は、SiO2としての溶解度である。
【0039】
また、本発明は、本発明のシリカ系スケール付着防止剤を用いることを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法でもある。
【0040】
また別の実施形態では、本発明は、シリカ含有水系に、(メタ)アクリル酸、一般式(1)及び一般式(2)を構造単位とする共重合体(A)、及び/又は、(メタ)アクリル酸及び一般式(1)を構造単位とする共重合体(B)を添加する共重合体添加工程と、リン酸及び/又はその塩を添加するリン酸等添加工程とを含むことを特徴とするシリカ系スケール付着防止方法でもある。
【0041】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法における共重合体添加工程で添加される共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸等添加工程で添加されるリン酸及び/又はその塩との含有重量比が、50:1~1:15であることが好ましく、50:1~1:5であることがより好ましい。シリカ含有水におけるシリカ系スケールの付着を効果的に防止できるためである。
なお、上記共重合体添加工程において、共重合体(A)及び共重合体(B)が添加される場合、共重合体重量は共重合体(A)及び共重合体(B)の総重量である。また、上記リン酸等添加工程において、リン酸及びリン酸塩が添加される場合、リン酸等重量は、リン酸及びリン酸塩の総重量である。
【0042】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法のリン酸等添加工程において、シリカ含有水系におけるシリカ濃度とリン酸濃度との比(シリカ濃度:リン酸濃度)が、25:1~300:1となるように、リン酸及び/又はその塩を添加することが好ましい。シリカ含有水におけるシリカ系スケールの付着を効果的に防止できるためである。
【0043】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法におけるシリカ含有水系は、シリカイオンの溶解度を超えるシリカ含有水系であることが好ましい。一般的に知られているシリカ系スケール付着防止剤を用いたシリカスケールの付着防止方法では、シリカイオンの溶解度を超える水系においては充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示さない場合が多いものの、本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、シリカイオンの溶解度を超える水系に対して、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示すためである。
【0044】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法におけるシリカ含有水系は、シリカ濃度が150ppm以上の水系であることが好ましい。一般的に知られているシリカ系スケール付着防止剤を用いたシリカスケールの付着の防止方法では、シリカ濃度が150pp以上の水系においては充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示さない場合が多いものの、本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、シリカ濃度が150ppm以上の水系に対して、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示すためである。
【0045】
なお、上述のシリカ系スケール付着防止方法における共重合体(A)及び共重合体(B)の好適な態様、リン酸及び/又はその塩の好適な態様、及び、これらの配合比は、上述の本発明のシリカ系スケール付着防止剤におけるものと同様である。
【0046】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止方法において、共重合体添加工程後のシリカ含有水の水中における共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の濃度は、1~50mg/Lであることが好ましく、2~25mg/Lであることがより好ましい。共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の水中濃度が上記範囲となるように、本発明のスケール付着防止剤、又は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)が添加されることで、シリカ含有水系におけるシリカ系スケールの付着を好適に防止できるためである。なお、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の水中濃度が上記範囲となるように、本発明のシリカ系スケール付着防止剤、又は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の添加量が決定されてもよい。
【0047】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止方法において、リン酸等添加工程後のシリカ含有水の水中におけるリン酸濃度は、1~15mg/Lであることが好ましく、1~10mg/Lであることがより好ましい。リン酸及び/又はその塩の水中リン酸濃度が上記範囲となるように、本発明のスケール付着防止剤、又は、リン酸及び/又はその塩が添加されることで、シリカ含有水におけるシリカ系スケールの発生を好適に防止できるためである。なお、リン酸等の水中濃度が上記範囲となるように、本発明のシリカ系スケール付着防止剤、又は、リン酸等の添加量が決定されてもよい。
【0048】
また、本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、さらに、(メタ)アクリル酸及び一般式(2)で示される構造単位を含む共重合体(C)を添加する共重合体(C)添加工程を含むことが好ましい。共重合体(C)がさらに添加されることで、シリカ系スケールをより効果的に防止できるためである。共重合体(C)は、アクリル酸AMPS共重合体であることが好ましい。なお、本発明のシリカ系スケール付着防止方法が共重合体(C)添加工程を含む場合、共重合体(C)添加工程後のシリカ含有水の水中における共重合体(C)濃度は、1~20mg/Lであることが好ましく、2~10mg/Lであることが好ましい。共重合体(C)の水中濃度が上記範囲となるように、本発明のスケール付着防止剤、又は共重合体(C)が添加されることで、シリカ含有水におけるシリカ系スケールの発生をより好適に防止できるためである。なお、共重合体(C)の水中濃度が上記範囲となるように、共重合体(C)の添加量が決定されてもよい。
【0049】
本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法は、シリカ含有冷却水系におけるシリカ系スケールの付着を防止するために好適に使用されるものである。具体的には、ビル空調、一般工場、石油化学コンビナート、鉄鉱プロセス等におけるシリカ含有冷却水系の熱交換器本体、循環水のピット、冷却塔などの装置及び配管内に付着するスケールを防止するために好適に使用することができ、特に再利用や循環により濃縮されたシリカ含有冷却水系で生じるシリカ系スケールの付着を防止するために好適に使用することができる。
また、本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法は、シリカ含有冷却水系における熱交換器、配管、ボイラ水系管、地熱発電所の還元井に関わる配管におけるシリカ系スケールの付着を防止するために、上記機器(配管を含む)内に添加又は実施されることが好ましい。
さらに、本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法は、シリカイオンの溶解度を超えるシリカ含有冷却水系における熱交換器、配管、ボイラ水系管、地熱発電所の還元井に関わる配管におけるシリカ系スケールの付着を防止するために、上記機器(配管を含む)内に添加又は実施されることが好ましい
【0050】
本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法は、シリカイオンの溶解度を超える水系を対象とすることが好ましく、シリカ濃度が150ppm以上のシリカ含有水系を対象としてもよい。また、マグネシウム濃度(マグネシウム硬度として)が0~300ppm、及び、カルシウム濃度(カルシウム硬度として)が10~500ppmであるシリカ含有水系を対象とすることが好ましい。このようなシリカ含有水系において、シリカ系スケールの付着が問題となっており、従来の分散剤では充分なシリカ系スケールの付着防止作用を示さなかったが、本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法により好適にシリカ系スケールの付着を防止できるためである。
本発明のシリカ系スケール付着防止剤及びシリカ系スケール付着防止方法は、シリカイオンの溶解度を超える水系であって、マグネシウム濃度(マグネシウム硬度として)が0~300ppm、及び、カルシウム濃度(カルシウム硬度として)が10~500ppmであるシリカ含有水系を対象とすることがより好ましい。
上記マグネシウム硬度は、0~200がより好ましい。
上記カルシウム硬度は、10~300がより好ましい。
シリカ濃度、マグネシウム濃度及びカルシウム硬度が上記濃度範囲の水質は、シリカ系スケールの付着が発生しやすく、また、一般的なシリカ系スケール付着防止剤によるシリカ系スケールの付着防止効果が充分に得られない厳しい条件である。しかし、このような水質の水系に対して、本発明のスケール付着防止剤及び本発明のスケール付着防止方法は、充分なシリカ系スケールの付着防止効果を示す。
【0051】
水中にシリカに加え、アルミニウム、鉄及び/又は亜鉛を上記濃度で含む水質は、シリカ系スケールが発生しやすく、また、一般的なシリカ系スケール付着防止剤の効果が充分に得られない厳しい条件である。しかしこのような水質の水系に対しても、本発明のシリカ系スケール付着防止剤及び本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、充分なシリカ系スケール付着防止効果を示すためである。
【0052】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、シリカ含有水系に共重合体添加工程とリン酸等添加工程とを含むが、共重合体添加工程とリン酸等添加工程との位置は特に限定されず、同じ場所であってもよく、別々であってもよい。すなわち、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩は、同時に添加されても別々に添加されてもよく、これらの添加順序も特に限定されるものではない。ただし、シリカ含有水系に添加された、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩の水中における濃度比が、50:1~1:15となるように共重合体(A)及び/又は共重合体(B)の添加位置、リン酸及び/又はその塩の添加位置が決定されることが好ましい。水中における共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸の濃度比は、50:1~1:5であることがより好ましく、30:1~1:5であることがさらに好ましい。
また、本発明のシリカ系スケール付着防止方法は、シリカ含有水系に共重合体添加工程とリン酸等添加工程とを含む場合、共重合体添加工程とリン酸等添加工程との位置は同じ場所であることが好ましい。また、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩は、同時に添加されることが好ましい。
【0053】
本発明のシリカ系スケール付着防止方法が、共重合体(C)添加工程を含む場合、シリカ含有水系に添加された共重合体(C)と、シリカ含有水系中のリン酸との濃度比(共重合体(C)の濃度:リン酸の濃度)が、20:1~1:20となるように上記共重合体(C)添加工程の位置が決定されることが好ましい。水中における共重合体(C)と、リン酸との濃度比(共重合体(C)の濃度:リン酸の濃度)は、15:1~1:15であることがより好ましい。
【0054】
なお、本発明のシリカ系スケール付着防止方法において、シリカ含有水系における共重合体(A)及び/又は(B)、リン酸及び/又はその塩、並びに、共重合体(C)の少なくとも1つの薬剤の水中における濃度は、シリカ含有水系におけるシリカ系スケールの付着が生じる機器(配管を含む)内で測定されることが好ましい。
【0055】
本発明のスケール付着防止剤は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とともに、必要に応じて、防食剤、スライムコントロール剤、消泡剤等を併用することができる。
防食剤としては、本発明の効果が阻害されない範囲で、公知の金属防食剤を併用してもよい。公知の金属防食剤としては、例えば、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸塩、グルコースのような糖類などの有機系金属防食剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノトリアゾール、2 - (4 - チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)などのアゾール化合物が挙げられる。また、リン酸塩、ホスホン酸塩、ポリリン酸塩などのリン化合物、亜鉛塩などの重金属化合物のような金属防食剤も環境に負荷を与えない範囲で併用してもよい。
なお上記リン化合物を本発明のスケール付着防止剤又はスケール付着防止方法と併用する場合、上記リン化合物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、防食剤としての効果を発揮するために使用されるものである。すなわち、上述の本発明におけるリン酸の含有重量比及びシリカ含有水系における水中のリン酸濃度は、あくまで、本願発明の効果であるシリカ系スケールの付着防止を達成するための好適な数値範囲を規定しているものであり、さらに、防食効果を付与するために、本発明のスケール付着防止剤にリン酸等のリン化合物を添加することを阻害するものではなく、また、本発明のスケール付着防止方法において、リン酸等のリン化合物を添加することを阻害するものではない。
スライムコントロール剤、消泡剤としては、本発明の効果が阻害されない範囲で、公知の化合物を併用してもよい。
【0056】
さらに別の実施形態として、本発明は、共重合体(A)及び/又は共重合体(B)と、リン酸及び/又はその塩とを含有し、上記共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位を含む共重合体であり、上記共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸及び下記一般式(1)で表される構造単位を含む共重合体であることを特徴とする水処理剤であってもよい。
本発明のスケール付着防止剤は、シリカ含有水系(特にシリカイオンの溶解度を超える水系)に対して顕著なシリカ系スケール付着防止効果を示し、リン酸及び/又はその塩を含むため、シリカ系スケールの付着防止効果に加え、金属に対する防食効果も示し、優れた水処理効果を示す。
【0057】
また、本発明の水処理剤は、更に亜鉛塩を含んでもよい。シリカ含有水系では、スケール付着の問題とともに水と接触する金属の腐食も重要な問題となっている。一般に炭素鋼に対する腐食抑制剤として亜鉛塩が非常に有効であることが知られているが、水中のシリカイオンの溶解度を超えるシリカ含有水系(例えば、25℃でシリカ濃度が150ppmを超えるようなシリカ含有水系)では、亜鉛塩がシリカ系スケールの付着を促進するため、充分な量の亜鉛塩を添加することができないという問題があった。
一方、本願発明の水処理剤は、水中のシリカイオンの溶解度を超えるシリカ含有水系(例えば、25℃でシリカ濃度が150ppmを超えるようなシリカ含有水系)においてもシリカ系スケールの付着を防止することができる。従って、更に亜鉛塩を含有することにより、シリカ系スケールの付着を充分に抑制しつつ、炭素鋼に対し充分な腐食抑制効果を得ることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
シリカ系スケール障害の評価は、特許第6387502号公報に記載の障害の評価方法を用いて行った。
図1は、シリカ系スケール障害の評価で用いられた冷却水系の模式図である。原水(大分市の水道水)を逆浸透膜装置に通水し、シリカ濃度が約300ppmのシリカ含有水を調製し、得られた300ppmシリカ含有水に下記表1に記載の薬剤を添加し、薬剤を含む評価対象水を二重管テストカラム4に5日間接触させることにより、二重管評価試験を行いシリカ系スケール障害を評価した。なお、二重管評価試験における温水温度は80℃であった。二重管評価試験において、評価対象水の温度が50℃となっている伝熱部においてシリカ系スケール障害の発生を評価した。
また、逆浸透膜装置から得られた300ppmシリカ含有水は、シリカ濃度約300ppm、Ca硬度約190ppm、Mg硬度約110ppmであった。試験毎に評価対象水中の全シリカ濃度(ppm)が異なるため、試験毎の全シリカ濃度を下記表1に示す。
【0060】
(薬剤)
共重合体(A):アクリル酸・N-tert-ブチルアクリルアミド・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)共重合体 (販売元 ダウケミカル日本株式会社 製品番号 ACUMERTM5000)
共重合体(C):アクリル酸AMPS(販売元 東亜合成株式会社 アロンA-6012)
リン酸:(販売元 キシダ化学株式会社)
ピロリン酸カリウム:(販売元 富士フィルム和光純薬株式会社)
ヘキサメタリン酸ソーダ:(販売元 富士フィルム和光純薬株式会社)
PBTC
【0061】
(シリカ系スケール障害の判定基準)
〇:スケール付着がみられない。及び1カ月1cm2当たりのスケール量(MCM/mg/cm2・month)が、3未満である。
×:全面にスケール付着がみられる。またはMCMが3以上である。
なお、スケール付着の有無は、目視にて確認した。
得られた結果を下記表1に示す。
【0062】
【0063】
上記表1の実施例1~6の結果から、共重合体(A)とリン酸とを含有する薬剤をシリカ濃度が200~310ppmのシリカ含有水に添加することで、充分なシリカ系スケール付着防止効果が得られた。
また、実施例7~13の結果から、共重合体(A)、リン酸及び共重合体(C)を用いることで優れたシリカ系スケール付着防止効果が得られた。
一方、比較例2の結果から、シリカ系スケール付着防止剤として知られている共重合体(A)のみでは、シリカ濃度が310ppmのシリカ含有水に対しては、充分なシリカ系スケール付着防止効果を得ることができなかった。
また、比較例3及び9の結果から、共重合体(A)と共重合体(C)とを含む薬剤を添加しても、シリカ濃度が300ppmのシリカ含有水に対しては、シリカ系スケール付着防止効果を得ることができなかった。
また、比較例4、5及び8の結果から、共重合体(A)とリン化合物とを含む薬剤を添加しても、シリカ濃度が300ppmのシリカ含有水に対しては、シリカ系スケール付着防止効果を得ることができなかった。
また、比較例6及び7の結果から、共重合体(A)と、リン化合物と、共重合体(C)とを含む薬剤を添加しても、シリカ濃度が300ppmのシリカ含有水に対しては、シリカ系スケール付着防止効果を得ることができなかった。
すなわち、特定の共重合体(共重合体(A))とリン酸及び/又はその塩とを組み合わせることにより、シリカ系スケールが発生しやすいシリカ含有水系に対して、充分なシリカ系スケールの付着防止効果を得ることができることを確認した。なお、実施例ではスケールが付着しなかった、又は、スケールが付着してもその量がごく微量であったため、付着したスケールの構成元素を測定することができなかった。
【0064】
なお、本試験は、試験毎に評価対象水中の全シリカ濃度(ppm)が異なるものの、いずれの試験においても、試験水中にシリカと反応してスケール化されるカルシウムイオン及びマグネシウムイオン等が含まれ、かつ、80℃の温水が流れる二重管評価試験における金属面の伝熱部温度が80℃近くの温度であり、さらに、試験水のpH条件が8.4~8.5であることから、シリカ系スケールが非常に発生しやすい条件であった。本試験により、このようなシリカ系スケールが発生しやすいシリカ含有水系に対しても、充分なシリカ系スケール付着防止効果が得られることを確認した。
さらに、上記実施例1~13について、試験後の試験水は濁っていなかった。無定形シリカの発生はシリカ含有水系の濁りの有無で確認することができ、ケイ酸塩スケールの発生については伝熱面へのスケール付着の有無で確認できる。これらのいずれについても確認されなかったことから、実施例1~6に係る共重合体(A)及びリン酸を含有する薬剤、実施例7~13に係る共重合体(A)、リン酸及び共重合体(C)を含有する薬剤のいずれも、シリカ系スケール(無定形シリカ及びケイ酸塩スケール)の付着を充分に防止できたことを確認した。
なお比較例1、4~6、8~10について、試験後の試験水は濁っていなかったが、伝熱面へのスケール付着が発生していた。比較例2、3及び9について、試験後の試験水が濁っており、且つ伝熱面へのスケール付着が発生していた。すなわち、比較例1~9はいずれも、ケイ酸塩スケールが発生し、付着していた。
また、比較例1、4~6、8~10の結果から、試験水の濁りが発生しない場合であっても、伝熱面に対しケイ酸塩スケールが付着していたことから、シリカ含有水系の濁りが抑えられていること(水中のシリカイオンの溶解度を向上させることや、水中のシリカスケールの析出を抑制すること)が、すなわちシリカ系スケールの付着防止につながるものではないといえる。
【0065】
なお、共重合体(B)とリン酸及び/又はその塩を含む薬剤を用いた試験は共重合体(B)の入手の都合上行われなかったが、本発明の属する技術分野において、上記共重合体(A)及び共重合体(B)は、同様の作用効果を示すことが期待されるため、共重合体(A)を共重合体(B)に置き換えた場合にも同様の効果を示すものと考えられる。そのため、特定の共重合体(共重合体(B))とリン酸及び/又はその塩とを組み合わせることにより、シリカ含有水系に対して、充分なシリカ系スケールの付着防止効果を得ることができると考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1 試験水ピット
2 送水ポンプ
3 流量計
4 テストカラム
5 テストチューブ