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特許7617560保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20250110BHJP
   F25D 3/00 20060101ALI20250110BHJP
   B65D 81/18 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
F25D3/00 D
F25D3/00 E
B65D81/18 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021042169
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142141
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504139846
【氏名又は名称】下田 一喜
(73)【特許権者】
【識別番号】501376338
【氏名又は名称】株式会社エイディーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】勝間田 創太朗
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 健太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151492(WO,A1)
【文献】特開昭52-011455(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180506(WO,A1)
【文献】特開2020-075991(JP,A)
【文献】特開2020-007499(JP,A)
【文献】特開2017-128622(JP,A)
【文献】特開昭63-189493(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
F25D 1/00-9/00
B65D 67/00-85/88
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と臭化リチウムとを主成分として含んでおり、
前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が39%以上41%以下である
保冷剤。
【請求項2】
水と臭化リチウムとを主成分として含んでおり、
前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が35%以上55%以下であり、
-70℃~-65℃の範囲で潜熱を利用可能である
保冷剤。
【請求項3】
保冷剤であって、
水と臭化リチウムとを主成分として含んでおり、
前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が20%以上55%以下であり、
-70℃~-65℃の範囲で潜熱を利用可能であり、
前記保冷剤の質量に占める前記水及び前記臭化リチウムの合計質量が95%以上である
保冷剤。
【請求項4】
保冷剤であって、
水と臭化リチウムとを主成分として含んでおり、
前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が20%以上55%以下であり、
-70℃~-65℃の範囲で潜熱を利用可能であり、
前記保冷剤の質量に占める前記水及び前記臭化リチウムの合計質量が90%以上であり、
臭化ナトリウムを更に含んでおり、
前記水、前記臭化リチウム及び前記臭化ナトリウムの合計質量に占める前記臭化ナトリウムの質量が5%以上である
保冷剤。
【請求項5】
過冷却防止剤を更に含んでいる
請求項1~3のいずれか1項に記載の保冷剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の保冷剤と、
前記保冷剤が封入されている封入容器と、
を有している保冷具。
【請求項7】
請求項に記載の保冷具と、
保冷対象物と、
前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、
を有している貨物。
【請求項8】
請求項に記載の保冷具と、
保冷対象物と、
前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、
を有している輸送機器。
【請求項9】
請求項に記載の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップと、
前記保冷具及び前記保冷対象物を共に収容している前記収容容器を移送するステップと、
を有している輸送方法。
【請求項10】
前記収容するステップにおいて前記保冷具の温度が-65℃以下である
請求項に記載の輸送方法。
【請求項11】
請求項に記載の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップ
を有している保冷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保冷剤、保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等を保冷した状態で輸送することに利用される保冷剤(蓄冷剤又はアイスパック等と呼称されることもある。)が知られている(例えば特許文献1)。なお、慣用的に、保冷剤の語は、保冷剤だけでなく、保冷剤を封入している容器を含む全体を指す場合があるが、本開示においては、保冷剤は、保冷剤自体を指し、保冷剤及び当該保冷剤を封入している容器の全体については、保冷具と呼称するものとする。
【0003】
一般に市販されている保冷具において、保冷剤は、水に種々の添加剤を添加して構成されている。添加剤としては、例えば、防腐剤、凝固点降下剤、増粘剤、不凍液及び着色剤が挙げられる。保冷具は、例えば、冷凍庫によって保冷剤が凍らされ、保冷対象物(例えば食品)とともに梱包される。冷凍庫の温度は、一般には、-20℃~-10℃とされており、ひいては、保冷剤は、使用開始時において-20℃~-10℃の温度とされる。
【0004】
特許文献1は、水と、塩化リチウム及び塩化ナトリウムとを含む保冷剤を開示している。この保冷剤は、融解温度(融点と呼称することがある。)が-74℃であり、この温度付近において潜熱を利用して保冷を行うことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-128622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、一般的な冷凍庫の温度(例えば-20℃)よりも低い温度(以下、「極低温」ということがある。)でのワクチンの輸送が必要になるなど、極低温での保冷の需要が高まっている。従って、極低温における保冷に利用可能な保冷剤の豊富化が図られることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る保冷剤は、水と臭化リチウムとを主成分として含んでいる。
【0008】
一例において、前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が20%以上55%以下である。
【0009】
一例において、前記水及び前記臭化リチウムの合計質量に占める前記臭化リチウムの質量が39%以上41%以下である。
【0010】
一例において、前記保冷剤は、臭化ナトリウムを更に含んでいる。
【0011】
一例において、前記水、前記臭化リチウム及び前記臭化ナトリウムの合計質量に占める前記臭化ナトリウムの質量が5%以上である。
【0012】
一例において、保冷剤は、過冷却防止剤を更に含んでいる。
【0013】
本開示の一態様に係る保冷具は、上記保冷剤と、前記保冷剤が封入されている封入容器と、を有している。
【0014】
本開示の一態様に係る貨物は、上記の保冷具と、保冷対象物と、前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、を有している。
【0015】
本開示の一態様に係る輸送機器は、上記の保冷具と、保冷対象物と、前記保冷具と前記保冷対象物とを共に収容している収容容器と、を有している。
【0016】
本開示の一態様に係る輸送方法は、上記の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップと、前記保冷具及び前記保冷対象物を共に収容している前記収容容器を移送するステップと、を有している。
【0017】
一例において、前記収容するステップにおいて前記保冷具の温度が-65℃以下である。
【0018】
本開示の一態様に係る保冷方法は、上記の保冷具と保冷対象物とを共に収容容器に収容するステップを有している。
【発明の効果】
【0019】
上記の構成又は手順によれば、例えば、極低温における保冷が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る保冷剤における温度変化を臭化リチウムの濃度別に示す図。
図2】第1実施形態に係る保冷剤における温度変化を臭化リチウムの濃度別に示す他の図。
図3】第1実施形態に係る保冷剤における温度変化を臭化リチウムの濃度別に示す更に他の図。
図4】第1実施形態に係る保冷剤における温度変化を臭化リチウムの濃度別に示す更に他の図。
図5】第1実施形態に係る保冷剤における温度変化を臭化リチウムの濃度別に示す更に他の図。
図6】実施形態に係る保冷剤における温度変化を添加物の種類別に示す図。
図7】実施形態に係る保冷剤における温度変化を添加物の種類別に示す他の図。
図8】実施形態に係る保冷剤における温度変化を添加物の種類別に示す更に他の図。
図9】実施形態に係る保冷剤の過冷却に臭化ナトリウムが及ぼす影響を示す図表。
図10】第2実施形態に係る保冷剤の凝固に係る温度変化を臭化ナトリウムの濃度別に示す図。
図11】第2実施形態に係る保冷剤の溶融に係る温度変化を臭化ナトリウムの濃度別に示す図。
図12図12(a)、図12(b)及び図12(c)は保冷剤の応用例を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態に係る保冷剤>
本開示の実施形態に係る保冷剤は、水と臭化リチウム(LiBr)とを主成分として含んでいる。換言すれば、実施形態に係る保冷剤は、臭化リチウム水溶液を主成分として含んでいる。
【0022】
後に詳述するように、本願発明者の実験によれば、臭化リチウム水溶液は、(約)-67℃を融点としている。従って、臭化リチウム水溶液を保冷剤の主成分として用いることによって、-67℃において潜熱を利用した保冷を行うことができる。その結果、極低温における保冷が容易化される。
【0023】
なお、便宜上、実施形態の説明において、臭化リチウム水溶液の用語は、特に断りが無い限り、水及び臭化リチウムのみからなる水溶液を指すものとする。すなわち、臭化リチウム水溶液は、水及び臭化リチウム以外の成分を含まない。また、このようにいうとき、製造上不可避に混入する微量な成分は考慮外とする。
【0024】
主成分は、例えば、質量%が50%以上の成分をいうものとする。従って、保冷剤が水及び臭化リチウムを主成分として含むというとき、保冷剤の質量に占める水及び臭化リチウムの合計質量(換言すれば臭化リチウム水溶液の質量。以下、同様。)の割合は、50%以上である。
【0025】
保冷剤の質量に占める臭化リチウム水溶液の質量の割合は適宜に設定されてよい。例えば、当該割合は、50%以上100%以下、80%以上100%以下、90%以上100%以下、95%以上100%以下、98%以上100%以下、90%以上98%以下又は95%以上98%以下とされてよい。このような質量割合であれば、例えば、臭化リチウム水溶液の温度変化が保冷剤の温度変化において支配的となり、臭化リチウム水溶液の保冷に係る性質を利用しやすい。
【0026】
なお、本実施形態の説明において、小数を含まない数値は、小数第1位を四捨五入した値を含むものとする。例えば、50%以上という範囲は、49.5%を含む。98%以下という範囲は、98.4%を含む。少数を含む数値は、値が示された最も小さい桁よりも1つ小さい桁の値を四捨五入した値を含むものとする。例えば、0.5%以上という範囲は、0.45%を含む。
【0027】
臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は、適宜に設定されてよい。本実施形態の説明における濃度は、特に断りが無い限り、質量パーセントであるものとする。上記のように、本実施形態の説明では、臭化リチウム水溶液の用語は、水及び臭化リチウムのみを含むものを指すから、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は、水及び臭化リチウムの合計質量に占める臭化リチウムの質量の割合を指す。
【0028】
臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は、例えば、10%以上55%以下、20%以上55%以下、20%以上42%以下、35%以上42%以下、38%以上42%以下、又は39%以上41%以下、又は40%(39.5%以上40.4%以下)とされてよい。これらの数値の意義については後述する。
【0029】
これまでの説明からも理解されるように、保冷剤は、臭化リチウム水溶液に加えて、他の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の成分としては、例えば、1種以上の添加剤を挙げることができる。添加剤としては、例えば、増粘剤、防腐剤及び着色剤を挙げることができる。添加剤の具体的な成分は、種々のものとされてよく、公知のものであって構わない。
【0030】
添加剤の質量が保冷剤の質量に占める割合は適宜に設定されてよい。添加剤の合計質量が保冷剤の質量に占める割合については、既述の臭化リチウム水溶液が保冷剤の質量に占める割合の裏返しであり、説明を省略する。また、例えば、増粘剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.5%以上5%以下、1%以上3%以下、又は1.5%以上2%以下とされてよい。防腐剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.005%以上0.02%以下とされてよい。着色剤の質量は、保冷剤の質量に対して、0.05%以上0.2%以下とされてよい。
【0031】
本開示は、添加剤として、過冷却が生じる蓋然性を低減する過冷却防止剤を用いることを提案する。これにより、例えば、-70℃又は-80℃程度の温度を実現する冷凍機を用いることによって(-80℃よりも低い温度を実現する冷凍機を用いずに)、臭化リチウム水溶液を主成分とする保冷剤を凍結させることが容易化される。ひいては、実施形態に係る保冷剤の運用が容易化される。過冷却防止剤の質量が保冷剤に占める質量の割合は、過冷却防止剤の具体的な成分に応じて適宜に設定されてよい。
【0032】
以下の説明では、便宜上、以下のように、実施形態に係る保冷剤のうち、特定の構成のものを第1実施形態の保冷剤及び第2実施形態の保冷剤ということがある。
(1)第1実施形態の保冷剤:臭化リチウム水溶液のみからなる保冷剤。
(2)第2実施形態の保冷剤:臭化リチウム水溶液及び臭化ナトリウム(NaBr)のみからなる保冷剤。
【0033】
第2実施形態における臭化ナトリウムは、例えば、臭化リチウム水溶液において過冷却が生じる蓋然性を低減する過冷却防止剤として機能し得る。臭化ナトリウムの質量が保冷剤の質量(又は、水、臭化リチウム及び臭化ナトリウムの合計質量)に占める割合は適宜に設定されてよい。例えば、当該割合は、1%以上20%、1%以上10%以下、5%以上10%以下、又は6%以上10%以下とされてよい。これらの数値の意義については後述する。
【0034】
以下、実施形態に係る保冷剤として、第1実施形態の保冷剤及び第2実施形態の保冷剤を例に取り、実験結果等を参照して実施形態に係る保冷剤の有用性について説明する。
【0035】
<第1実施形態>
凍結させた第1実施形態に係る保冷剤(すなわち臭化リチウム水溶液)の温度変化を調べる実験を行った。
【0036】
実験方法は、以下のとおりである。種々の濃度の臭化リチウム水溶液を用意した。濃度別に、200gの臭化リチウム水溶液を可撓性の樹脂フィルムからなる袋に封入した。臭化リチウム水溶液が封入された袋を-130℃に維持された冷凍庫内に十分な時間に亘って配置した。これにより、臭化リチウム水溶液を凍結させるとともに、臭化リチウム水溶液の温度を冷凍庫内の温度と同等にした。その後、冷凍庫から臭化リチウム水溶液が封入された袋を取り出し、室温下に置かれた発泡性の容器に個別に収容した。容器は、内寸が300mm×200mm×120mmであり、臭化リチウム水溶液が封入された袋を収容した後に略密閉された。そして、臭化リチウム水溶液が封入された袋に対して下方から接触している熱電対によって、臭化リチウム水溶液の温度(容器内の雰囲気温度ではない)を継続的に計測した。
【0037】
図1図5は、計測結果を示す図である。これらの図において、横軸tは、経過時間を示し、単位は、時(h)及び分(m)である。縦軸Tは、温度(単位:℃)を示している。図中の複数の線は、計測によって得られた、時間経過と臭化リチウム水溶液の温度との関係を示している。時間tが0:00の時点(計測開始の時点)は、概ね、臭化リチウム水溶液を冷凍庫から容器に移した時点である。
【0038】
凡例によって示されているように、図1では、臭化リチウムの濃度が20%、25%及び30%の臭化リチウム水溶液についての結果が示されている。図2では、臭化リチウムの濃度が20%、25%、30%及び35%の臭化リチウム水溶液についての結果が示されている。図3では、臭化リチウムの濃度が40%及び55%の臭化リチウム水溶液についての結果が示されている。図4では、臭化リチウムの濃度が35%、40%、45%及び55%の臭化リチウム水溶液についての結果が示されている。図5では、臭化リチウムの濃度が38%、40%及び42%の臭化リチウム水溶液についての結果が示されている。
【0039】
なお、互いに異なる図の同一の濃度(例えば図1の20%及び図2の20%)についての結果は、互いに異なる試料についての結果を示している。従って、互いに異なる図の同一の濃度についての結果の差は、誤差等の考察に利用されてよい。また、同一の図に示された互いに異なる濃度の結果は、互いに同時期に行われた実験結果を示している。
【0040】
図1に示されているように、保冷剤が冷凍庫から容器に移されると(0:00の時点)、保冷剤(臭化リチウム水溶液)の温度は徐々に上昇していく。すなわち、保冷剤は、周囲から熱を吸収する。別の観点では、固体状の保冷剤における顕熱の利用によって容器内の保冷が行われる。
【0041】
そして、保冷剤の温度が-67℃に到達すると、保冷剤の温度は-67℃に維持される。このとき、保冷剤は、周囲から熱を吸収しつつ徐々に融解していく。別の観点では、保冷剤が固体から液体へ変化するときの潜熱の利用によって容器内の保冷が行われる。
【0042】
その後、保冷剤の温度は、再度上昇を開始し、室温に近づいていく。すなわち、保冷剤は、周囲から熱を吸収する。別の観点では、液状の保冷剤における顕熱の利用によって容器内の保冷が行われる。
【0043】
図1図3に示されているように、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度が20%以上55%以下である場合、いずれの濃度においても温度が一定値(-67℃)に維持される現象が生じている。すなわち、濃度が上記範囲内の値である場合、温度が-67℃であるときに潜熱を利用できることが確認された。
【0044】
また、図1図3に示されているように、計測開始時点(0:00)から、保冷剤の温度が-67℃に到達する時点までの時間に関して、濃度に依存する大きな差異は確認されなかった。一方、-67℃が維持される時間については、濃度に依存する差異が確認された。なお、以下の説明では、保冷剤の温度が-67℃(又はその付近の温度)に維持される時間を「潜熱維持時間」ということがある。
【0045】
潜熱維持時間は、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度が概ね40%の場合に最も長くなる。具体的には、以下のとおりである。
【0046】
図1の例は、濃度が20%~30%の範囲では濃度が高いほど潜熱維持時間が長いことを示している。図2の例は、濃度が20%~35%の範囲では濃度が高いほど潜熱維持時間が長いことが示している。すなわち、図1及び図2の例は、濃度が35%以下の範囲では、濃度が高いほど潜熱維持時間が長いことを示している。
【0047】
また、図3の例は、濃度が40%の場合の潜熱維持時間が、濃度が55%の場合の潜熱維持時間よりも長いことを示している。図4の例は、濃度が35%~55%の範囲では濃度が40%の場合の潜熱維持時間が最長であることを示している。図5の例は、濃度が38%~42%の範囲では濃度が40%の場合の潜熱維持時間が最長であることを示している。
【0048】
以上のことから、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は、例えば、既に触れたように、図1図5において最も長い潜熱維持時間が得られた40%(39.5%以上40.4%以下)とされてよい。また、誤差も含めて考えると、濃度は、39%以上41%以下、又は38%以上42%以下とされてよい。図4に示されているように、濃度が35%の場合の潜熱維持時間は、濃度が40%の場合の潜熱維持時間と同等になり得る。従って、濃度は、35%以上42%以下とされてよい。
【0049】
図4において、濃度45%の場合、潜熱維持時間が極めて短くなっている。一方、図1及び図2における濃度が20%の場合、及び図5における濃度が42%の場合は、潜熱維持時間が明確に確認される。従って、濃度は、20%以上42%以下とされてもよい。また、濃度は、今回の実験を行った範囲20%以上55%以下とされてもよい。図1及び図2を見る限り、濃度の下限は、今回の実験を行った最も低い濃度の20%よりも低くすることが可能である。従って、濃度は、10%以上55%以下とされてもよい。
【0050】
<第2実施形態>
既述のように、第2実施形態の保冷剤は、臭化リチウム水溶液に臭化ナトリウムを添加したものである。そして、臭化ナトリウムは、臭化リチウム水溶液において過冷却が生じる蓋然性を低減することに寄与する。以下では、まず、臭化リチウム水溶液の過冷却についての説明、及び臭化ナトリウム以外の添加剤が過冷却に及ぼす影響について説明し、その後、第2実施形態の保冷剤について説明する。
【0051】
(臭化リチウム水溶液の過冷却)
実施形態に係る保冷剤(臭化リチウム水溶液を主成分として含む保冷剤)の温度変化を調べる実験を行った。
【0052】
実験方法は、以下のとおりである。臭化リチウムの濃度が40%の臭化リチウム水溶液を用意した。この臭化リチウム水溶液9.9gに対して0.1gの添加剤を加えて10gの実施形態に係る保冷剤を作製した。すなわち、添加剤の濃度が1%の試料を作製した。また、添加剤の種類を種々変更して、複数種類の保冷剤を作製した。作製された保冷剤を樹脂からなる試験管に収容した。添加剤の種類が互いに異なる保冷剤を保持している複数の試験管を共に-130℃に維持された冷凍庫に収容し、その温度を計測した。さらに、その後、複数の試験管を共に冷凍庫から取り出して室温下に置き、その温度を計測した。
【0053】
図6は、計測結果を示す図である。これらの図の横軸及び縦軸は、図1等と同様である。ただし、時間tが0:00の時点は、概ね保冷剤を冷凍庫に収容した時点に相当する。また、時間tが1:35の時点は、概ね保冷剤を冷凍庫から取り出した時点に相当する。
【0054】
図6の凡例において、「None」は、添加剤が添加されていない保冷剤(第1実施形態の保冷剤、臭化リチウム水溶液)を示している。後述する他の図の凡例においても同様である。また、図6の凡例における他の記号については後述する。
【0055】
第1実施形態の保冷剤が冷凍庫に収容された後(時点0:00の後)、保冷剤の温度は徐々に下降していく。そして、温度が約-98℃に到達すると、温度の下降は一旦停止し、及び/又は温度は上昇する。その後、保冷剤の温度は再度下降する。-98℃付近における保冷剤の温度の下降停止及び/又は上昇は潜熱に起因する。このように、保冷剤が凍結する場合、温度の下降停止及び/又は上昇が現れる。
【0056】
第1実施形態の保冷剤が冷凍庫から取り出されると(時点1:35)、保冷剤の温度は上昇していく。このときの温度変化は、基本的に、第1実施形態の説明で述べたとおりである。ただし、図6に係る実験では、比較的少量(10g)の保冷剤を室温下に晒していることから、図1図5に比較して、-67℃付近における温度の上昇停止は明瞭に表れていない。
【0057】
第1実施形態の保冷剤が凍結するときの温度(約-98℃)は、保冷剤が融解するときの温度(約-67℃)よりも低くなっている。その要因としては、例えば、過冷却が生じていることが挙げられる。なお、実施形態の説明では、主たる要因が過冷却であるものとした表現をすることがある。
【0058】
保冷剤を凍結させることによって保冷に潜熱を利用するためには、例えば、保冷剤が凍結する温度と同等以下の温度を実現できる冷凍機が利用される。従って、添加剤によって保冷剤が凍結するときの温度を上記の温度よりも高くすることができれば、保冷剤の運用に利用できる冷凍機の能力を下げることができる。
【0059】
(臭化ナトリウム以外の添加剤が過冷却に及ぼす影響)
図6の凡例において、「KHCO」は、添加剤が炭酸水素カリウムであることを示している。「PEG(1)」及び「PEG(2)」は、添加剤がポリエチレングリコールであることを示している。「PEG(1)」及び「PEG(2)」は、分子量が互いに異なっている。「PEG(1)」の平均分子量は概ね400である。「PEG(2)」の平均分子量は概ね1000である。「SAP」は、添加剤が高吸水性ポリマーであることを示している。「PG」は、添加剤がプロピレングリコールであることを示している。
【0060】
図6に示されているように、上記添加剤を添加した場合、保冷剤を冷却していく過程において(時間tが0:00~1:35の範囲)、凍結に伴う潜熱を体現する温度の下降停止及び/又は上昇が現れていない。これにより示されているように、添加剤によって過冷却が助長され、保冷剤は、-120℃以下まで冷却されても凍結しなかった。その結果、保冷剤を室温下に晒して保冷剤の温度が上昇する過程(時点1:35の後)においても、潜熱を体現する温度の上昇停止は現れていない。
【0061】
特に図示しないが、図6に係る実験を含め、同様の実験を合計で5回行った。そして、いずれの実験においても、図6に示す結果と同様の結果が得られた。
【0062】
なお、上記において挙げた添加剤は、例えば、保冷剤において、融点降下剤又は増粘剤として利用されることがある。図6は、実施形態に係る保冷剤が上記の添加剤を含んでもよいことを否定するものではない。例えば、過冷却は物理的衝撃を与えることによって解消することができる。また、後述する添加剤としての硼砂の説明から理解されるように、添加剤を特定の濃度にした場合に過冷却の発生が抑制されることもある。
【0063】
図7は、他の添加剤が過冷却に及ぼす影響を示す図である。この図において、横軸及び縦軸は、図6の横軸及び縦軸と同様である。ただし、この図では、図6とは異なり、-130℃を保持している冷凍庫内で保冷剤を冷却しているときの温度変化のみが示されている。
【0064】
図7に係る実験では、図1に係る実験と同様に、200gの保冷剤が袋に封入された。また、198gの臭化リチウム水溶液(臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は40%)に対して2gの添加剤が添加された。すなわち、保冷剤における添加剤の濃度は1%とされた。
【0065】
図7の凡例において、「AC」は添加剤が活性炭であることを示す。「Coffee」は、添加剤がコーヒー粉末であることを示す。
【0066】
活性炭及びコーヒー粉末は、多孔質体であることから、過冷却抑制の効果が期待された。しかし、図7に示されているように、活性炭及びコーヒー粉末を添加しても、臭化リチウム水溶液の過冷却を抑制する効果は確認されなかった。特に図示しないが、図7に係る実験を含め、同様の実験を合計で5回行った。そして、いずれの実験においても、図7に示す結果と同様の結果が得られた。なお、図7は、図6と同様に、実施形態に係る保冷剤が活性炭及び/又はコーヒー粉末を含んでよいことを否定するものではない。
【0067】
図8は、更に他の添加剤が過冷却に及ぼす影響を示す図である。この図において、横軸及び縦軸は、図6の横軸及び縦軸と同様である。なお、温度変化から理解されるように、この図では、時点12:05付近が保冷剤を冷凍庫から取り出した時点に相当する。
【0068】
図8に係る実験では、図1及び図7に係る実験と同様に、200gの保冷剤が袋に封入された。また、図7に係る実験と同様に、198gの臭化リチウム水溶液(臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度は40%)に対して2gの添加剤が添加された。すなわち、保冷剤における添加剤の濃度は1%とされた。また、冷凍庫から取り出された保冷剤は、図1に係る実験と同様に、断熱材からなる容器に収容された。
【0069】
図8の凡例において、「KCl」は添加剤が塩化カリウムであることを示す。「NaCl」は、添加剤が塩化ナトリウムであることを示す。「Borax」は、添加剤が硼砂であることを示す。
【0070】
図8に示されているように、上記の添加剤を添加しても、臭化リチウム水溶液の過冷却を抑制する効果は確認されなかった。なお、上記の添加剤は、例えば、保冷剤において、過冷却防止剤、融点降下剤又は防腐剤として利用されることがある。図8は、図6と同様に、実施形態に係る保冷剤が上記の添加剤を含んでもよいことを否定するものではない。
【0071】
特に図示しないが、添加剤として硼砂を用いた保冷剤については、その濃度を種々変更した実験も行った。その結果、基本的には、いずれの濃度においても、過冷却の防止の効果は見られず、むしろ過冷却が助長され、保冷剤が凍結しなかった。ただし、特定の濃度においては、他の濃度とは異なり、過冷却を抑制する効果が確認された。このとき、保冷剤は、臭化リチウムの濃度が40%の臭化リチウム水溶液96質量%と、硼砂の濃度が4.5%の硼砂水溶液4質量%とが混合されて作製された。
【0072】
(臭化ナトリウムが過冷却に及ぼす影響)
上述した種々の添加剤とは異なり、臭化リチウム水溶液に臭化ナトリウムを添加した保冷剤(第2実施形態の保冷剤)においては、過冷却が抑制される効果が確認された。具体的には以下のとおりである。
【0073】
以下の実験を行った。臭化リチウムの濃度が40%の臭化リチウム水溶液に臭化ナトリウムを添加して10gの保冷剤を作製した。保冷剤(臭化ナトリウム水溶液+臭化ナトリウム)における臭化ナトリウムの濃度を0%~10%までの範囲で1%ずつ異ならせ、11種類の保冷剤を作製した。保冷剤は、10gになるように調整されているから、例えば、臭化ナトリウムの濃度が5%の保冷剤は、9.5gの臭化リチウム水溶液(臭化リチウムの濃度は40%)と、0.5gの臭化ナトリウムとを含む。作製された11種類の保冷剤を樹脂からなる11個の試験管に個別に収容した。11個の試験管を共に-80℃に維持された冷凍庫に24時間に亘って配置した。その後、冷凍庫から保冷剤を取り出し、目視によって凍結の有無を調べた。このような実験を合計で5回行った。
【0074】
なお、臭化ナトリウム以外の添加剤に関する既述の実験では、冷凍庫の温度は-130℃とされた。ここでの実験では、上記のように、冷凍庫の温度は-80℃とされたことに留意されたい。
【0075】
図9は、実験結果を示す図表である。この図において、「No.1」~「No.5」によって示される各行は、5回の実験それぞれの結果を示している。「0%」~「10%」によって示される各列は、臭化ナトリウムの濃度別の結果を示している。なお、「0%」は、第1実施形態の保冷剤に相当し、その他は、第2実施形態の保冷剤に相当する。各マスにおいて、「NG」は、保冷剤が凍結していなかったことを示す。各マスにおいて、空白は、保冷剤が凍結していたことを示す。
【0076】
この図に示されているように、臭化ナトリウムの濃度が0%の場合においては、5回とも保冷剤は凍結しなかった。一方、1%以上の場合においては、少なくとも1回は保冷剤が凍結した。すなわち、臭化ナトリウムによる過冷却抑制の効果が確認できた。5%以上の場合においては、保冷剤が-80℃で凍結する蓋然性が50%を超えた。また、6%以上の場合においては、保冷剤が-80℃で凍結する蓋然性が100%となった。
【0077】
図10及び図11は、実施形態の保冷剤の温度変化を臭化ナトリウムの濃度別に示す図である。これらの横軸及び縦軸は、図6の横軸及び縦軸と同様である。図10は、保冷剤を冷凍庫で冷却する過程の保冷剤の温度変化に対応している。図11は、保冷剤を冷凍庫から取り出して放置している過程の温度変化に対応している。
【0078】
図10及び図11に係る実験では、図1に係る実験と同様に、200gの保冷剤が袋に封入された。そして、保冷剤は、-80℃の温度を保持している冷凍庫に収容された。その後、保冷剤は、図1に係る実験と同様に、室温下に置かれた断熱性の容器に収容された。なお、この実験においても、冷凍庫の温度は、図1に係る実験と異なり、-80℃である点に留意されたい。
【0079】
図10及び図11の凡例において、「5%」、「6%」、「7%」、「8%」及び「9%」は、いずれも、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度が40%とされた保冷剤を示している。また、これらの保冷剤において、各%は、保冷剤(臭化リチウム水溶液及び臭化ナトリウム)における臭化ナトリウムの濃度を示している。「LiBr 20% NaBr10%」は、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度が20%とされ、かつ保冷剤(臭化リチウム水溶液及び臭化ナトリウム)における臭化ナトリウムの濃度が10%とされた保冷剤を示している。「EN」は、図10においては、冷凍庫内の温度を示しており、図11においては室温を示している。なお、保冷剤は、200gになるように調整されているから、例えば、「5%」の保冷剤は、190gの臭化リチウム水溶液(臭化リチウムの濃度は40%)と、10gの臭化ナトリウムとを含む。
【0080】
図10に示されているように、「5%」、「6%」、「7%」、「8%」及び「9%」の保冷剤については、時間tが1:24~3:51の範囲において、温度が上昇している。また、図11に示されているように、上記の保冷剤については、時間tが0:05となる付近で(別の観点では-70℃~-65℃の範囲で)温度上昇が鈍化している(温度の変化率が小さくなっている)。このように、潜熱を体現する温度変化が確認できた。
【0081】
また、「LiBr 20% NaBr10%」の保冷剤についても、潜熱を体現する温度変化を確認することができた。ただし、当該温度変化が現れる具体的な時間及び温度は、臭化リチウムの濃度が40%の保冷剤のものとは相違する。
【0082】
「0%」の保冷剤については、図10において、時間tが6:18となる辺りで温度が上昇している。ただし、図11において、「0%」の保冷剤は、概ね一定の変化率で温度が上昇しており、潜熱を体現する温度変化は現れていない。すなわち、「0%」の保冷剤は、凍結したわけではない。
【0083】
以上のとおり、臭化ナトリウムは、臭化リチウム水溶液を主成分とする保冷剤の過冷却を抑制することに寄与し得る。上記の実験結果から、臭化リチウム水溶液及び臭化ナトリウムの合計質量に臭化ナトリウムが占める質量の割合(臭化ナトリウムの濃度)は、例えば、1%以上とされてよい。この範囲であれば、多少なりとも過冷却の抑制の効果が得られることが確認されている(図9)。また、今回の実験の範囲からは、臭化ナトリウムの濃度について上限値を規定すべき事情は確認されていない。従って、上限値は、今回の実験が行われた10%又はその2倍の20%とされてよい。また、より確実に過冷却抑制の効果が奏されるようにする観点から、臭化ナトリウムの濃度は、5%以上又は6%以上とされてよい。
【0084】
(保冷剤の応用例)
以下、本実施形態に係る保冷剤の応用例について説明する。具体的には、保冷剤を利用している保冷具、貨物、輸送機器、輸送方法及び保冷方法について説明する。
【0085】
図12(a)は、保冷剤1を利用している保冷具3の一例を示している斜視図である。なお、保冷具3の一部は破断して示されている。
【0086】
保冷具3は、保冷剤1と、保冷剤1が封入されている封入容器5とを有している。保冷剤1は、本実施形態に係る保冷剤であり、主成分として臭化リチウム水溶液を含むものである。保冷具3は、繰り返し使用されるタイプのものであってもよいし、使い捨てタイプのものであってもよい。なお、封入容器5には、保冷剤1と共に気体(例えば空気)が封入されていても構わない。
【0087】
封入容器5の大きさ、形状及び材料は、適宜に設定されてよい。例えば、封入容器5として、公知の種々の保冷具の封入容器が利用されてよい。具体的には、例えば、封入容器5は、可撓性の材料(樹脂等)によって構成された袋状のものであってもよいし、可撓性を有さない材料(樹脂等)によって構成されたハードタイプ容器(図示の例)であってもよい。また、例えば、封入容器5は、注入口を有さない(封入容器5の破壊無しでは保冷剤1を取り出すことができない)ものであってもよいし、図示の例のようにキャップによって塞がれた注入口を有するものであってもよい。また、例えば、封入容器5の形状は、概略直方体状であってもよいし(図示の例)、用途に応じた特異な形状を有していてもよい。また、例えば、封入容器5の容積(可撓性の場合は最大容積)は、10ml以上1リットル以下とされてよい。
【0088】
図12(b)は、保冷剤1を利用している貨物11の一例を示している断面図である。
【0089】
貨物11は、例えば、1以上の保冷対象物13と、1以上の保冷具3と、これらを共に収容している箱15とを有している。なお、箱15は、収容容器の一例である。
【0090】
保冷対象物としては、例えば、食品を挙げることができる。食品としては、例えば、冷凍食品、冷凍菓子、生菓子、乳製品及び生鮮食品を挙げることができる。冷凍食品は、長期保存を目的に冷凍されている食品であり、冷凍前において、無加熱のもの、加熱されたもの、調理前のもの、調理後のものなどがある。冷凍菓子としては、例えば、アイスクリームを挙げることができる。生菓子としては、例えば、ケーキを挙げることができる。乳製品としては、例えば、ヨーグルトを挙げることができる。生鮮食品としては、例えば、鮮魚(魚介類)、精肉(肉類)及び青果を挙げることができる。図12(b)では、保冷対象物13として、カップ入りのアイスクリームを例示している。
【0091】
保冷対象物としては、食品・飲料の他、例えば、移植用臓器及びワクチン(移植用臓器又はワクチンが封入された容器)を挙げることができる。ワクチンとしては、近年、極めて低い温度に保持されることが必要なコロナワクチンが話題となっており、当該コロナワクチンが保冷対象物とされてよい。保冷の語は、一般に食料品に用いられるが、前記の例示から理解されるように、本開示では、保冷対象物は食料品に限られない。
【0092】
箱15の大きさ、形状及び材料は、適宜に設定されてよく、例えば、公知の種々の箱が適用されてよい。代表的なものとしては、例えば、発泡スチロール又は段ボールからなる比較的小型(例えば1m以下×1m以下×1m以下)の箱が挙げられ、また、プラスチックケースに断熱材を組み合わせたクーラーボックス(アイスボックス)が挙げられる。なお、箱15の材料は、比較的断熱性が高いものであってもよいし、断熱性が低いものであってもよい。
【0093】
箱15内における保冷対象物13及び保冷具3の配置位置も適宜に設定されてよい。例えば、保冷具3は、保冷対象物13に対して、側方に位置していてもよいし(図示の例)、上に位置していてもよいし、下に位置していてもよいし、これらの2以上の組み合わせで配置されてもよい。なお、保冷対象物13の種類、その包装及び/又は箱15の構成等によっては、保冷具3を箱15に収容するのではなく、保冷剤1を直接に(封入容器5に封入せずに)箱15に収容することも可能である。
【0094】
図12(c)は、保冷剤1を利用している輸送機器21の一例を示している側面図である。
【0095】
輸送機器21は、例えば、1以上の貨物11と、当該貨物11を収容している1以上のコンテナ23とを有している。なお、コンテナ23も、箱15と同様に、収容容器の一例である。
【0096】
輸送機器21としては、例えば、自動車(図示の例)、航空機、列車、船舶及び二輪車を挙げることができる。図12(c)では、備え付けのコンテナ23を有する保冷車又は冷凍車が図示されている。
【0097】
コンテナ23内における貨物11の配置は適宜に設定されてよい。また、貨物11をコンテナ23に収容するのではなく、保冷対象物13及び保冷具3が直接に(箱15に収容されずに)コンテナ23に収容されていてもよい。なお、保冷対象物13の種類、その包装及び/又はコンテナ23の構成等によっては、保冷剤1を直接に(封入容器5に封入せずに)コンテナ23に収容することも可能である。
【0098】
ここでは、箱15及びその内容物を貨物11として説明している。換言すれば、1人又は少人数で(人力で)運搬できるような比較的小型のものを貨物として例示した。ただし、貨物は、そのような大きさのものよりも大きくてもよい。例えば、図12(c)では、コンテナ23は、自動車に備え付けのものとしたが、コンテナ船、トラック及び/又は列車に積みおろしされるものであってもよく、このコンテナ及びその内容物が貨物と捉えられてもよい。
【0099】
収容容器(箱15若しくはコンテナ23)は、単に断熱されているだけであってもよいし、チラー等の冷却装置によって積極的に低温に保たれてもよい。後者の場合、保冷対象物の温度は、例えば、冷却装置の目標温度と、当該目標温度よりも低い保冷剤の温度との中間の温度に維持される。
【0100】
図12(a)~図12(c)は、実施形態に係る輸送方法及び保冷方法も示している。輸送方法は、保冷具3を冷却するステップ(図12(a))と、保冷具3と保冷対象物13とを共に箱15に収容するステップ(図12(b))と、保冷具3及び保冷対象物13を共に収容している箱15を移送するステップ(図12(c))とを有している。また、保冷方法は、保冷具3を冷却するステップ(図12(a))と、保冷具3と保冷対象物13とを共に箱15に収容するステップ(図12(b))とを有している。保冷方法では、輸送せずに単に保冷を行うだけであってもよい。
【0101】
保冷具3(保冷剤1)は、例えば、保冷具3の冷却完了時において、又は保冷具3の使用開始時(例えば保冷対象物13と共に梱包された時)若しくはその直前(例えば使用開始時の10分以内)において適宜な温度とされてよい。例えば、保冷具3の温度は、-50℃以下、-65℃以下、-67℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-100℃以下又は-130℃以下の温度とされてよい。
【0102】
保冷具3を極めて低い温度まで冷却するには、例えば、株式会社エイディーディー社製の「超低温チラー コールドウェーブ」を用いてよい。この超低温チラーは、多段蒸発器及び混合冷媒を用いることによって、供給された気体(例えば、空気、フロンガス、液体窒素又はアルゴンガス)を-130℃程度の温度まで冷却することができる。そして、例えば、保冷具3の周囲に前記のチラーによって冷却された気体を供給することによって、保冷具3(保冷剤1)を上記に例示した種々の温度まで冷却することができる。
【0103】
確認的に記載すると、チラーは、フリーザの概念を含むものである。また、特に図示しないが、チラーは、例えば、基本的な構成として、冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を冷却する凝縮器、冷却された冷媒の圧力を下げて送る膨張弁及び圧力が下げられた冷媒によって冷却対象(保冷剤又は保冷剤の周囲に供給される気体)を冷却する蒸発器を有してよい。チラーは、例えば、保冷対象物が生産若しくは卸される場所に設置されたり、宅配を担う業者の各営業所に設置されたりしてよい。
【0104】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0105】
実施形態では、臭化リチウム水溶液における臭化リチウムの濃度として、20%以上100%以下を例示した。ただし、臭化リチウムの濃度は、20%未満であってもよい。この場合であっても、例えば、臭化リチウムが多少なりとも保冷剤に含まれることによって、水のみからなる保冷剤に比較して、融点を降下させて、潜熱を利用できる温度域を下げることができる。
【符号の説明】
【0106】
1…保冷剤、3…保冷具、5…封入容器、11…貨物、13…保冷対象物、21…輸送機器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12