(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、銅張積層板、及び回路基板
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20250110BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250110BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250110BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20250110BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C08L71/10
H05K1/03 610R
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
B32B27/00 A
B32B15/20
C08K3/34
(21)【出願番号】P 2021175747
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 航
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-050376(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213527(WO,A1)
【文献】国際公開第01/040380(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/199811(WO,A1)
【文献】特開2004-176032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H05K 1/03
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂と合成マイカを含有する成形材料により成形
され、合成マイカの粒子全体のうち、粒径1μm以下の粒子の占める量が20%以下の樹脂フィルムであって、
電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合のカリウムとケイ素の割合の比が、
カリウム/ケイ素=0.16~0.26
の範囲であることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合のカリウムとケイ素の割合の比が、
カリウム/ケイ素=0.21~0.26
の範囲である請求項1記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
成形材料は、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部と、合成マイカ20質量部以上80質量部以下を含有する請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
合成マイカを、非膨膨性の合成マイカとした請求項1、2、又は3記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
合成マイカのD95の値を、35μm以下とした
請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
合成マイカの比表面積を、3.0m
2/g以上とした
請求項1ないし5のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された樹脂フィルムの両面のうち、少なくとも片面に銅箔が積層して貼り付けられることを特徴とする銅張積層板。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載された樹脂フィルムを有することを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性を向上させたり、エッチング後における寸法収縮率を低減することのできる樹脂フィルム、銅張積層板、及び回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂が注目されている。このポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性等に優れる熱可塑性の結晶性樹脂である。この優れた性質に鑑み、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、自動車分野、エネルギー分野、医療分野等で使用されるが、フレキシブルプリント配線板(FPC)等からなる回路基板の製造にも利用される(特許文献1、2参照)。
【0003】
係るポリアリーレンエーテルケトン樹脂を用いて回路基板を製造する場合には図示しないが、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムを成形してベース基材として用意し、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムに回路パターンとなる銅箔を直接接着してその露出した表面にエッチング用のフォトレジスト層をラミネートし、このラミネートされた中間体の所定の箇所に加工用の孔を穿孔し、フォトレジスト層に紫外線を照射して露光するとともに、現像して未感光部分のフォトレジスト層を溶かして回路パターンを浮き上がらせる。
【0004】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムを成形する場合、成形材料には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の他、必要に応じ、フッ素樹脂、タルク、マイカ等が添加される(特許文献3参照)。
【0005】
次いで、中間体の回路パターンをエッチングしてフォトレジスト層を剥離し、中間体を洗浄して乾燥させ、中間体の大部分にカバーフィルムを貼着して絶縁層を形成し、露出した端子部分等にメッキ等の表面処理を施す。こうして中間体にメッキ等の表面処理を施したら、中間体を外形加工して回路パターンの導通性を電気チェックし、最終検査を実施すれば、回路基板を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021‐042294号公報
【文献】特開2007‐051256号公報
【文献】特開2016‐029164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来における回路基板は、以上のように製造され、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの採用により、優れた電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性を得ることができるものの、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの密着性の向上とエッチング後におけるポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの寸法収縮率の低減とを並立することが容易ではないという問題がある。この問題を解消するため、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの成形材料にタルクを配合した場合、中間体のエッチング後におけるポリアリーレンエーテルケトン樹脂フィルムの寸法収縮率を低減させることはできても、密着性の悪化を招くこととなる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、密着性の向上と寸法収縮率の低減を図ることのできる樹脂フィルム、銅張積層板、及び回路基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂と合成マイカを含有する成形材料により成形され、合成マイカの粒子全体のうち、粒径1μm以下の粒子の占める量が20%以下のものであって、
電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合のカリウムとケイ素の割合の比が、
カリウム/ケイ素=0.16~0.26
の範囲であることを特徴としている。
【0010】
なお、電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合のカリウムとケイ素の割合の比が、
カリウム/ケイ素=0.21~0.26
の範囲であると良い。
また、成形材料は、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部と、合成マイカ20質量部以上80質量部以下を含有することが好ましい。
また、合成マイカを、非膨膨性の合成マイカとすることが好ましい。
【0011】
また、合成マイカのD95の値を、35μm以下とすることができる。
また、合成マイカの比表面積を、3.0m2/g以上とすることができる。
【0012】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし6のいずれかに記載された樹脂フィルムの両面のうち、少なくとも片面に銅箔が積層して貼り付けられる銅張積層板であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明においては上記課題を解決するため、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし6のいずれかに記載された樹脂フィルムを有する回路基板であることを特徴としている。
【0014】
ここで、特許請求の範囲における樹脂フィルムは、溶融押出成形法、カレンダー成形法、又はキャスティング法等の公知の製造法により、2μm以上1000μm以下の厚さに製造することができる。溶融押出成形法で樹脂フィルムを製造する場合、押出成形機を使用して成形材料を溶融混練し、押出成形機のダイスから樹脂フィルムを押し出して冷却することにより、樹脂フィルムを製造することができる。また、回路基板には、少なくともプリント配線板、フレキシブル基板、高周波回路基板等が含まれる。
【0015】
本発明によれば、樹脂フィルムに含まれる合成マイカのカリウムとケイ素の割合の比が、カリウム/ケイ素=0.16~0.26の範囲なので、樹脂フィルムの寸法収縮率を低減することができる。また、合成マイカを用いるので、樹脂フィルムの密着性や寸法安定性を向上させたり、樹脂フィルムの吸湿による誘電特性の悪化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、密着性の向上と寸法収縮率の低減を図ることができるという効果がある。また、合成マイカの粒子全体のうち、粒径1μm以下の粒子の占める量を20%以下とするので、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率の低減に資することができる。また、マイカが凝集し易くなるのを防止することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合のカリウムとケイ素の割合の比が、カリウム/ケイ素=0.21~0.26の範囲内なので、樹脂フィルムの母材強度が向上し、密着性のさらなる向上が期待できる。
請求項3記載の発明によれば、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部と、合成マイカ20質量部以上80質量部以下を含有するので、例えば樹脂フィルムと銅箔を密着させる場合に、密着性の向上を図ることができる。
請求項4記載の発明によれば、合成マイカを非膨膨性とするので、吸湿による樹脂フィルムの寸法変化を抑制したり、樹脂フィルムの誘電特性の悪化を防止することができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、合成マイカのD95の値を35μm以下とするので、樹脂フィルムの機械的強度の向上が期待できる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、合成マイカの比表面積を3.0m2/g以上とするので、エッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率を低減することが可能になる。
請求項7又は8記載の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかに記載された樹脂フィルムを用いるので、回路基板を製造する場合、樹脂フィルムの密着性や機械的強度の向上とエッチング後における樹脂フィルムの寸法収縮率の低減とを並立することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る樹脂フィルムと銅張積層板の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【
図2】本発明に係る樹脂フィルムと銅張積層板の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における樹脂フィルム1は、
図1に示すように、少なくともポリアリーレンエーテルケトン樹脂と合成マイカを含有する成形材料により長尺の帯形に成形され、電子プローブマイクロアナライザーにより測定された場合における合成マイカのカリウムとケイ素の割合の比が、カリウム/ケイ素=0.16~0.26の範囲である銅張積層板3用や回路基板用のフィルムであり、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0022】
成形材料は、少なくともポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂と合成マイカを含有し、必要に応じ、他の樹脂や各種フィラーが選択的に配合されて
図1に示す薄膜の樹脂フィルム1を形成する。この成形材料は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部と合成マイカ20質量部以上80質量部以下、好ましくはポリアリーレンエーテルケトン樹脂100質量部と合成マイカ45質量部以上65質量部以下とを含有する。
【0023】
合成マイカが20質量部以上80質量部以下なのは、20質量部未満の場合には、回路基板を製造する場合にエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率が悪化したり、樹脂フィルム1の密着性の低下を招くからである。これに対し、80質量部を越える場合には、樹脂フィルム1の密着性が低下したり、樹脂フィルム1の硬度が必要以上に上昇して割れやすくなるからである。
【0024】
成形材料のポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる熱可塑性の結晶性樹脂で、例えば特許5709878号公報や特許第5847522号公報、あるいは文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕等に記載された樹脂があげられ、融点が300℃~400℃であり、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、耐加水分解性、低吸水性、リサイクル性等に優れる。
【0025】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の具体例としては、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等があげられる。これらの中では、銅張積層板3や回路基板の製造に最適な加工温度が得られ、しかも、安価に入手可能なポリエーテルエーテルケトン樹脂が最適である。
【0026】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ダイセル・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。また、ポリエーテルケトンケトン樹脂の製品例としては、アルケマ社製の製品名:KEPSTANシリーズがあげられる。ポリエーテルケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:HT G22、HT G45があげられる。また、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂の製品例としては、ビクトレックス社製の製品名:ST G45が該当する。
【0027】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、1種単独でも良いし、2種以上を混合して使用しても良く、共重合体でも良い。また、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、通常、粉末、顆粒型、ペレット型等の成形加工に適した形態で使用される。ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕に記載された製法が用いられる。
【0028】
成形材料の合成マイカは、フッ素(F)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、カリウム(K)を主成分とするフッ素四ケイ素雲母やフッ素金雲母等であり、吸湿による誘電特性の悪化を抑制し、樹脂フィルム1の密着性や寸法安定性に資するよう機能する。この合成マイカは、非膨潤性、膨潤性、親油性等に分類されるが、吸湿に伴う樹脂フィルム1の寸法変化や誘電特性の悪化を抑制し、しかも、耐熱性に優れる非膨潤性が好ましい。
【0029】
合成マイカは、粒径の異なる多数のマイカ粒子からなり、粒径1μm以上、例えば、平均粒径3.4μm以上13μm以下等のマイカ粒子の占める量が全体の80%以上とされ、粒径1μm以下のマイカ粒子の占める量が全体の20%以下、好ましくは0.1%以上20%以下、より好ましくは0.15%以上10%以下とされる。これは、粒径1μm以下のマイカ粒子の占有量が全マイカ粒子の20%を越える場合には、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減させることができず、しかも、マイカ粒子が凝集し易くなるからである。
【0030】
合成マイカの比表面積は、回路基板の製造時のエッチング後における樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減させるため、3.0m2/g以上、好ましくは3.0m2/g以上15m2/g以下、より好ましくは3.5m2/g以上15m2/g以下、さらに好ましくは3.5m2/g以上9.71m2/g以下が良い。合成マイカの比表面積が3.0m2/g以上なのは、合成マイカの比表面積が3.0m2/g未満の場合には、凝集体又は粗大な粒子を多く含有することになるからである。マイカ粒子の比表面積は、透過方法や各種の気体吸着法により測定することができるが、JIS Z 8830:2013に準拠して測定することが好ましい。
【0031】
合成マイカのメジアン径D50の値は、2.0μm以上10μm以下が良い。平均径や最頻径ではなく、メジアン径(中央径)を選択するのは、マイカ粒子の粒度分布の代表的な値の把握に好適であり、複数のサンプルの粒度分布の大きさを比較する場合に便利だからである。合成マイカのメジアン径D50は、樹脂フィルム1の製膜性をも向上させるため、2.0μm以上10μm以下、好ましくは2.0μm以上6.0μm以下、より好ましくは2.8μm以上5.10μm以下が最適である。
【0032】
合成マイカのD95の値は、樹脂フィルム1の機械的強度を向上させる観点から、35μm以下、好ましくは6.00μm以上35μm以下、より好ましくは6.00μm以上16μm以下が最適である。このような合成マイカの具体的な製品としては、ミクロマイカMKシリーズ〔製品名:片倉コープアグリ株式会社製〕があげられる。
【0033】
成形材料には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂や合成マイカの他、各種のフィラーを添加することができる。例えば、シリカ、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物等を選択的に添加することができる。
【0034】
このような成形材料により樹脂フィルム1は成形されるが、成形法に関しては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、又はキャスティング法等を特に問うものではない。しかしながら、ハンドリング性や製造設備の簡略化を考慮すると、溶融押出成形法が最適である。この溶融押出成形法で樹脂フィルム1を製造する場合、押出成形機を使用して成形材料を溶融混練し、押出成形機のTダイスから樹脂フィルム1を連続的に押し出して冷却すれば、薄膜の樹脂フィルム1を製造することができる。
【0035】
上記において、樹脂フィルム1を製造する場合には、先ず、溶融押出成形機の原料投入口に調製した成形材料を好ましくは不活性ガスを供給しながら投入し、成形材料を熱分解温度以下に加熱した溶融押出成形機中で溶融混練する。成形材料は、分散性や作業性の観点からすると、溶融したポリアリーレンエーテルケトン中に合成マイカを添加し、これらの溶融混練により調製されることが好ましい。また、溶融押出成形機は、特に限定されるものではないが、例えば単軸押出成形機、二軸押出成形機、三軸押出成形機等が使用される。
【0036】
成形材料を溶融押出成形機中で溶融混練したら、溶融押出成形機の先端部のTダイスから帯形の樹脂フィルム1を連続的に押出成形し、この樹脂フィルム1を、複数の冷却ロール、一対の圧着ロール、テンションロール、及び巻取機の巻芯に順次巻架するとともに、複数の冷却ロールに摺接させて冷却し、樹脂フィルム1の両側部等をスリット刃でそれぞれカットして体裁を整えた後、巻取機の巻芯に順次巻き取って樹脂フィルム1の原反とすれば、樹脂フィルム1を製造することができる。
【0037】
製造された樹脂フィルム1の厚さは、特に限定されるものではないが、回路基板のベースとしての強度や剛性、生産性、汎用性を考慮すると、2μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上250μm以下、より好ましくは50μm以上100μm以下が最適である。この樹脂フィルム1の厚さは、専用のマイクロメータ等を使用して測定することができる。
【0038】
製造された樹脂フィルム1中の合成マイカの主成分のうち、カリウム(K)とケイ素(Si)の割合の比は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)により測定した場合、K/Si=0.16~0.26、好ましくは0.21~0.26、より好ましくは0.21~0.24の範囲が良い。電子プローブマイクロアナライザーとしては、例えばEPMA‐1720 Series〔株式会社島津製作所製:製品名〕、JXA‐8100〔日本電子株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0039】
製造された樹脂フィルム1の引張最大強度は、実験結果から、50N/mm2以上、好ましくは50N/mm2以上120N/mm2以下、より好ましくは80N/mm2以上120N/mm2以下が良い。この樹脂フィルム1の引張強度は、例えばJIS K 7127:1999に準拠して測定することができる。
【0040】
製造された樹脂フィルム1の周波数28GHz付近における誘電正接は、実験結果から、0.0040以上0.0051以下、好ましくは0.0043以上0.0051以下が良い。この樹脂フィルム1の誘電正接は、特に限定されるものではないが、干渉計開放型を使用するファブリペロー法、空洞共振器摂動法により高周波数の比誘電率及び誘電正接を求める方法、相互誘導ブリッジ回路による3端子測定法等により測定することができる。これらの中では、高分解性に優れるファブリペロー法や空洞共振器摂動法の選択が最適である。
【0041】
次に、樹脂フィルム1を用いて銅張積層板3を製造する場合には、上記特性を有する樹脂フィルム1と銅箔2とを用意し、これら樹脂フィルム1と銅箔2とを直接重ねて積層する。銅箔2の厚さ範囲は2μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上50μm以下の範囲に特定されるが、これは、厚さが2μm未満の場合には、製造時や使用時のハンドリングに支障を来し、100μmを越える場合には、製造に時間を要するからである。
【0042】
銅箔2の積層面は、銅箔2の表面と裏面のいずれの面でも良い。銅箔2が電解製造装置により製造された電解銅箔の場合、電解銅箔には、ドラム状陰極面側の平滑かつ光沢を有するシャイニー(S)面と、このシャイニー面の反対側のマット(M)面とがそれぞれ形成されるが、これらシャイニー面とマット面のいずれでも積層面とすることができる。このような銅箔2の製品例としては、TQ‐M7‐VSP〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、3EC‐III〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、CF‐T49A‐DS‐HD2‐12〔福田金属箔粉工業株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0043】
樹脂フィルム1と銅箔2の相対向する対向面には特に処理を施す必要はないが、対向面の少なくともいずれかの面に、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理を選択的に施しても良い。これらの処理を施せば、強度、接着性や清浄化の向上を図ることができる。
【0044】
樹脂フィルム1と銅箔2を積層したら、これらを熱プレス機あるいはロール間に挟み、加熱・加圧して熱圧着すれば、樹脂フィルム1と銅箔2が一体の銅張積層板3を製造することができる。この際の熱圧着の温度は、樹脂フィルム1の融点-20℃以上+20℃、好ましくは樹脂フィルム1の融点-20℃以上+10℃の温度範囲が最適である。
【0045】
樹脂フィルム1の融点は、成形材料のフィラーの有無等により変化するが、例えば340℃の場合には、熱圧着の温度範囲が320℃以上360℃以下の範囲とされる。これは、樹脂フィルム1の融点-20℃未満の場合には、対向面におけるポリアリーレンエーテルケトン樹脂が溶融しないという理由に基づく。また、360℃を越える場合には、成形材料の流動性が高くなるので、樹脂フィルム1の厚みが変動しやすく、銅張積層板3の厚み精度が悪化するという理由に基づく。
【0046】
銅張積層板3における樹脂フィルム1の収縮率は、JIS C 6481:1996に準拠して150℃×30minの条件下で測定した場合に、0.30%未満、好ましくは0.08%以上0.28%以下が最適である。また、銅張積層板3における樹脂フィルム1の密着力、換言すれば、剥離強度は、実用性や信頼性を確保するため、JIS Z 0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)に準拠して測定した場合に5.0N/cm以上、好ましくは7.0N/cm以上、より好ましくは7.5N/cm以上が最適である。密着力の上限については、特に限定されないが、一般的には15N/cm以下が良い。
【0047】
次に、銅張積層板3を用いてフレキシブル基板等の回路基板を製造する場合には、銅張積層板3の銅箔2の露出した表面にエッチング用のフォトレジスト層をラミネートし、このラミネートされた中間体の所定の箇所に加工用の孔を穿孔し、フォトレジスト層に紫外線を照射して露光するとともに、現像して未感光部分のフォトレジスト層を溶かして回路パターンを浮き上がらせる。
【0048】
次いで、中間体の回路パターンをエッチングしてフォトレジスト層を剥離し、中間体を洗浄して乾燥させ、中間体の大部分にカバーフィルムを貼着して絶縁層を形成し、露出した端子部分等にメッキ等の表面処理を施す。エッチング後における樹脂フィルム1の収縮率は、JIS C 6481:1996に準拠して測定した場合に、0.30%未満、好ましくは0.04%以上0.27%以下が最適である。こうして中間体にメッキ等の表面処理を施したら、中間体を外形加工して回路パターンの導通性を電気チェックし、最終検査を実施すれば、回路基板を製造することができる。
【0049】
上記によれば、樹脂フィルム1の合成マイカのカリウムとケイ素の比率が、カリウム/ケイ素=0.16~0.26の範囲で、樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減することができるので、エッチング後や150℃の加熱後における樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減することができる。
【0050】
係る比率や効果について詳しく説明すると、合成マイカの結晶構造は、カリウム(K)が結晶の層間に含まれる構造をしているので、カリウムの比率が少ないほど、合成マイカ粒子の厚みが薄くなっていると考えられる。したがって、例えば、カリウムの比率が小さいほど、合成マイカ1g中の粒子の個数は多くなる。合成マイカ粒子の個数がある一定以上を越える場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂中での均一な分散分配構造が形成されにくくなっていると推測される。以上からK/Siが0.16未満の樹脂フィルム1の場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂中での分散分配性が悪化しているため、150℃の加熱収縮率低減効果が小さくなると推測される。
【0051】
これに対し、K/Siが0.26を越える樹脂フィルム1の場合には、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂中での分散分配性には優れるものの、合成マイカ結晶構造に含まれるカリウム量が多く、マイカ粒子の厚みが厚くなっている分、樹脂フィルム1の平面方向収縮率低減効果への寄与率が僅かに厚み方向への寄与率に置き換わってるためだと推測される。つまり、加熱した際の樹脂フィルム1の平面方向の収縮率が大きくなっていると推測される。
【0052】
カリウムとケイ素の割合の比をカリウム/ケイ素=0.21~0.26の狭い範囲内に限定した場合、樹脂フィルム1の寸法収縮率を低減することができる他、樹脂フィルム1の母材強度をさらに向上させ、密着性を著しく向上させることができる。さらに、天然マイカではなく、金属との密着性に優れる合成マイカを用いるので、樹脂フィルム1の密着性や寸法安定性を向上させたり、樹脂フィルム1の吸湿による誘電特性の悪化を抑制することができる。
【0053】
次に、
図2は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、樹脂フィルム1の表裏両面に銅箔2をそれぞれ直接重ねて積層し、これらを熱プレス機あるいはロール間に挟み、加熱・加圧して熱圧着することにより、樹脂フィルム1と一対の銅箔2が一体の銅張積層板3を製造するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0054】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、配線を交差させて複雑な回路を形成可能な両面回路基板の製造に大いに資することができるのは明らかである。
【0055】
なお、上記実施形態では樹脂フィルム1を回路基板に使用したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、樹脂フィルム1を音響機器等、他の用途に使用しても良い。
【実施例】
【0056】
以下、本発明に係る樹脂フィルムと銅張積層板の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1~8と、比較例1~3に使用する樹脂フィルムを製造するため、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂と7種類の合成マイカを用意した。ポリアリーレンエーテルケトン樹脂としては、融点が341℃、ガラス転移温度が147℃のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂〔ビクトレックス社製:製品名 Victrex Granulesシリーズ 450G〕、又は融点が360℃、ガラス転移温度が165℃のポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂〔アルケマ社製:製品名:KEPSTANシリーズ 8002〕を使用することとした(表4参照)。
【0057】
7種類の合成マイカに関しては、合成マイカの含有元素を蛍光X線分析装置〔株式会社島津製作所製:製品名 EDX-8000〕により分析した。具体的には、合成マイカの粉体を分析装置内で真空引きしてから、測定モードを金属酸化物として定性定量分析を行う方法で行い、その後、得られた金属酸化物等の定量結果から、金属元素等の比率として換算し、その結果を表2に示した。
【0058】
例えば、合成マイカ1について分析したところ、SiO2(55.3%)、MgO(26.5%)、K2O(8.5%)、CaO(0.29%)、Fe2O3(0.17%)、Al2O3(0.10%)、F(9.17%)が検出され、合計100%中の各比率が明確化した。下記の金属酸化物、及びFの分子量や原子量の値をもとに、各金属元素やFの比率として計算し、表2にまとめた。
【0059】
・金属酸化物、及びFの分子量や原子量
SiO2:60.1
MgO:40.3
K2O:94.2
CaO:56.1
Fe2O3:159.7
Al2O3:102.0
F:19.0
【0060】
・計算例
SiO2の場合には、55.3(蛍光X線分析によるSiO2の比率)÷60.1(SiO2の分子量)=0.920となる。
MgOの場合には、26.5(蛍光X線分析によるMgOの比率)÷40.3(MgOの分子量)=0.657となる。
K2Oの場合には、8.5(蛍光X線分析によるK2Oの比率)÷94.2(K2Oの分子量)×2=0.18となる。
他の金属酸化物やFについても同様に計算した。このように、各合成マイカ粒子の蛍光X線分析測定結果から計算して表2にまとめた。
【0061】
7種類の合成マイカは、比較用の合成マイカ1をK/Si=0.78のMK‐100DS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、合成マイカ2をK/Si=0.67のMK‐PDS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、合成マイカ3をK/Si=0.66のMK‐PGDS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、比較用の合成マイカ4をK/Si=0.73のFGMK80DS〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、合成マイカ5をK/Si=0.56のMK100PG/60‐0〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、合成マイカ6をK/Si=0.55のMK100PG/60‐6〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕、比較用の合成マイカ7をK/Si=0.37のMK100PG/40‐6〔片倉コープアグリ株式会社製:製品名〕とした(表1参照)。
【0062】
各合成マイカの元素毎の比率は、蛍光X線分析法により検出した結果、表2に示す通りであった。また、表2のデータを変換した結果は、表3に示す通りであった。表3の計算式例としては、(Mg比率)÷(Si比率)×4=0.657÷0.920×4=2.86、(K比率)÷(Si比率)×4=0.180÷0.920×4=0.78である。
【0063】
合成マイカの粒子径分布は、JIS Z 8825:2013に準拠して測定した。この測定に用いる分散液体としては、水を使用し、粒子径分布測定装置〔マイクロトラック・ベル株式会社製:製品名:MT3300EXII〕を用いたレーザー回析・散乱法により、体積分布で評価して表1にまとめた。また、合成マイカの比表面積は、JIS Z 8830:2013に準拠して測定した。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
〔実施例1〕
先ず、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ2とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の質量は、表4に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ2を45質量部とした。
【0068】
樹脂フィルムを溶融押出成形したら、この樹脂フィルムの構成元素の比率を、日本電子(株)製の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)〔製品名:JXA-8100〕を用い、加速電圧15kV、照射径φ100μm、照射電流50nAの条件下で測定して求めた。樹脂フィルムの表面には、真空蒸着装置により金蒸着層を厚み約150nm形成し、測定用試料を調製した。また、EPMAによる測定は、測定用試料からランダムに3か所の位置を選びそれぞれ行い、測定3回分の結果の平均値を求めた。測定結果から、主にC、O、F、Mg、Si、K、Ca等の元素が検出されたが、表5、6には、F、Mg、Si、K、CaのAtom%を抜粋して記載した。
【0069】
次いで、樹脂フィルムと用意した銅箔とを320mm×320mmにそれぞれカットして直接積層し、これらを厚さ1mmのSUS板で挟み、熱板を350℃に設定した熱プレス機で、面圧4MPa、5分間熱圧着してから取り出すことで、二層構造の銅張積層板を作製した。銅箔は、厚さ12μmのTQ‐M7VSP〔製品名:三井金属鉱業株式会社製〕を使用した。
【0070】
二層構造の銅張積層板を作製したら、この銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での処理後の収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。樹脂フィルムのエッチング後、及び150℃×30minの処理後の収縮率は、JIS C 6481:1996に準拠して測定した。具体的には、銅張積層板を300×300mmにカットしてその端4点にパンチ孔を開け、パンチ孔間の距離を押出方向と幅方向で測定するとともに、この測定距離を基準とし、エッチング後、及び150℃×30min後も同じパンチ孔の位置で測定し、その寸法変化から収縮率をそれぞれ求めた。
【0071】
・樹脂フィルムのエッチング後における収縮率
積層された銅箔を塩化鉄水溶液で溶かして樹脂フィルムを試験体として調製し、樹脂フィルムの押出方向と幅方向について測定した。寸法の測定に際しては、2次元測長機〔製品名:VMH600 ミノグループ社製〕を用いた。
【0072】
・150℃×30minの条件下での収縮率
続いて、150℃×30minの条件下で樹脂フィルムの押出方向と幅方向について測定した。具体的には、熱風循環式恒温槽内に、規定する時間、及び温度で処理した後、室温まで冷却し、先に測定した同じ部分について樹脂フィルムの長さを測定した。寸法の測定に際しては、2次元測長機〔製品名:VMH600 ミノグループ社製〕を用いた。また、150℃後における樹脂フィルムの収縮率は、0.30%未満を目標値とした。
【0073】
・銅張積層板の密着性
銅張積層板の密着性については、銅張積層板をカットして幅25mmの試験体とし、JIS Z0237:2009を参考に、剥離速度0.3mm/min、剥離角180°にて、銅張積層板を支持体に固定し、銅箔を引張治具に固定し、銅張積層板から銅箔を引張った際の剥離強度を測定することにより、密着強度(密着性)を測定した。また、密着性を、7N/cm以上を○、5N/cm以上を△、5N/cm未満を×として評価した。
【0074】
・銅張積層板の引張最大強度
銅張積層板における樹脂フィルムの引張最大強度は、23℃における引張最大強度で評価した。引張強度は、樹脂フィルムの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)について測定した。測定は、JIS K7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃の条件で実施した。測定した引張最大強度は、80Nmm2以上を○、50Nmm2以上を△と表記して評価した。
【0075】
・銅張積層板の誘電正接
銅張積層板の誘電正接については、電子計測器〔製品名 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ MS46122B:Anritsu社製〕を用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により、周波数28GHz付近の乾燥時と浸水24時間後の誘電正接をそれぞれ測定した。
【0076】
具体的には、銅箔を塩化鉄水溶液で溶かして除去した樹脂フィルムを100×100mmにカットし、このカットした試験片を23±2℃、50±10%RHの恒温恒湿室で10時間以上放置してから、ファブリペロー法により測定した値を浸水前の誘電正接とした。浸水24時間後の測定については、浸水前の誘電特性を測定した試験片をイオン交換水に24時間浸水させてから取り出し、ペーパーで銅張積層板の表面に付着した水を拭き取った。その後、23±2℃、50±10%RHの環境下で5分間放置してから、ファブリペロー法により測定した。浸水前50%RHと浸水24時間後の測定は、全て23±2℃、50±10%RHの測定環境下で実施した。
【0077】
共振器は、開放型共振器〔製品名 ファブリペロー共振器 Model No.DPS03:キーコム社製〕を使用した。測定に際しては、開放型共振器冶具の試料台上に銅張積層板を載せ、ベクトルネットワークアナライザー用いて開放型共振器法の一種であるファブリペロー法で測定した。具体的には、試料台の上に銅張積層板を載せない状態と、銅張積層板を載せた状態の共振周波数の差を利用する共振法により、誘電正接を測定した。測定に用いた具体的な周波数は、28GHzとした。浸水24時間後における誘電正接tanδの値は、0.0080未満を目標値とし、0.0075以下を良好値とした。
【0078】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ3を45質量部に変更した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0079】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ3を45質量部に変更した。また、厚さ100μmではなく、厚さ50μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0080】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルケトンケトン樹脂を100質量部、合成マイカ3を45質量部に変更した。また、樹脂フィルムを溶融押出成形したら、この樹脂フィルムと用意した銅箔とを320mm×320mmにそれぞれカットして直接積層し、これらを厚さ1mmのSUS板で挟み、熱板を370℃に設定した熱プレス機で、面圧4MPa、5分間熱圧着してから取り出すことで、二層構造の銅張積層板を作製した。銅箔は、厚さ12μmのTQ‐M7VSP〔製品名:三井金属鉱業株式会社製〕を使用した。
【0081】
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0082】
〔実施例5〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ3を65質量部に変更した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0083】
〔実施例6〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ6を45質量部に変更した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0084】
〔実施例7〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ5を45質量部に変更した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0085】
〔実施例8〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ3を85質量部に変更した。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表5に記載し、評価した。
【0086】
〔比較例1〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ1とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の質量は、表4に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ1を45質量部とした。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表6に記載し、評価した。
【0087】
〔比較例2〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ7とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の質量は、表4に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ7を45質量部とした。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表6に記載し、評価した。
【0088】
〔比較例3〕
基本的には実施例1と同様だが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と合成マイカ4とを含有した成形材料により、厚さ100μmの樹脂フィルムを溶融押出成形した。成形材料の質量は、表4に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を100質量部、合成マイカ4を45質量部とした。
乾燥させた銅張積層板の樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接を測定して表6に記載し、評価した。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
〔評 価〕
実施例1~7の場合、樹脂フィルムの合成マイカのカリウムとケイ素の比率が、K/Si=0.16~0.26の範囲内なので、樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接に関し、優れた結果を得ることができた。
【0093】
実施例8の場合、樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接に関し、優れた結果を得ることができたが、合成マイカ3を85質量部に変更したので、実用性はともかく、密着性が低下した。したがって、合成マイカは、20質量部以上80質量部以下が最適である。
【0094】
これらに対し、各比較例の場合、樹脂フィルムの合成マイカのカリウムとケイ素の比率が、K/Si=0.16~0.26の範囲外なので、樹脂フィルムのエッチング後における収縮率、150℃×30minの条件下での収縮率、密着性、引張最大強度、周波数28GHz付近における誘電正接に関し、問題が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る樹脂フィルム、銅張積層板、及び回路基板は、情報通信や自動車機器等の分野で用いられる。
【符号の説明】
【0096】
1 樹脂フィルム
2 銅箔
3 銅張積層板