(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】金ナノクラスターを用いてリンパ管新生関連疾患を処置及び/又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/242 20190101AFI20250110BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250110BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20250110BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20250110BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250110BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20250110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K9/14
A61K45/00
A61K47/20
A61P7/10
A61P9/00
A61P9/04
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133202
(22)【出願日】2023-08-18
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】519316988
【氏名又は名称】台湾基督長老教会馬偕医療財団法人馬偕紀念医院
【氏名又は名称原語表記】MacKay Memorial Hospital
【住所又は居所原語表記】No.92, Sec. 2, Zhongshan N Rd., Zhongshan District, Taipei City 104, Taiwan
(73)【特許権者】
【識別番号】523315164
【氏名又は名称】馬偕醫學院
【氏名又は名称原語表記】Mackay Medical College
【住所又は居所原語表記】No.46, Sec. 3, Zhongzheng Rd.,Sanzhi Dist., New Taipei City 252, Taiwan
(73)【特許権者】
【識別番号】506255902
【氏名又は名称】中原大學
(73)【特許権者】
【識別番号】519063439
【氏名又は名称】紅嬰生物科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】GOLDRED NANOBIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】9F.,No.111-6,Xiyuan Road,Zhongli District Taoyuan,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】イェ, ハング・アイ
(72)【発明者】
【氏名】ウー, イー・ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ワング, シー・ウェー
(72)【発明者】
【氏名】チャング, チング・フー
(72)【発明者】
【氏名】リン, チェング・ヤング
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ウェン・ション
(72)【発明者】
【氏名】リー, クアン・ジュング
(72)【発明者】
【氏名】チャング, ホング・ショング
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0250132(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108619512(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102952775(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0268792(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0298115(US,A1)
【文献】Kuo Li et al.,Efficient in vivo wound healing using noble metal nanoclusters,Nanoscale,2021年,13,6531-6537,DOI:10.1039/d0nr07176e
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体におけるリンパ管新生関連疾患を処置及び/又は予防
するための薬学的組成物の製造のためのジヒドロリポ酸(DHLA)で被覆された金ナノクラスターの使用であって、
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1~10nmの範囲の粒子サイズを有
し、且つ、
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター及び該金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる、
使用。
【請求項2】
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1~5nmの範囲の粒子サイズを有する、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、2nmの粒子サイズを有する、請求項2に記載の
使用。
【請求項4】
前記リンパ管新生関連疾患は、リンパ浮腫及び収縮期心不全である、請求項1に記載の
使用。
【請求項5】
前記被検体はヒトである、請求項1に記載の
使用。
【請求項6】
被検体におけるリンパ管新生を促進する
ための薬学的組成物の製造のためのジヒドロリポ酸(DHLA)で被覆された金ナノクラスターの使用であって、
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1~10nmの範囲の粒子サイズを有
し、且つ、
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター及び該金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる、
使用。
【請求項7】
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1~5nmの範囲の粒子サイズを有する、請求項
6に記載の
使用。
【請求項8】
前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、2nmの粒子サイズを有する、請求項
7に記載の
使用。
【請求項9】
前記被検体はヒトである、請求項
6に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略として、被検体におけるリンパ管新生関連疾患を処置してリンパ管新生を促進する分野に関連する。より具体的には、本開示は、ジヒドロリポ酸(dihydrolipoic acid;DHLA)で被覆された金ナノクラスターの使用によってリンパ管新生関連疾患を処置してリンパ管新生を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ管新生関連疾患は、リンパ液排出の低下及びその後の組織の機能不全をもたらす異常なリンパ管成長に特徴付けられる障害の群のことをいう。これらの疾患の病因は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及びアンジオポエチンなど、リンパ管の発育及び再構築に関与する要因の調節不全を伴う。これらの要因は、リンパ内皮細胞の増殖、遊走及び管形成を促進する。機能不全なリンパ管新生は、遺伝子変異、炎症、腫瘍成長又はリンパ浮腫などの慢性的症状からもたらされ得る。
【0003】
疫学的には、リンパ管新生関連疾患は、特定の症状に応じて異なる。例えば、リンパ浮腫には全世界で約1億4000万~2億5000万人が罹患し、原発性リンパ浮腫は遺伝子異常によって発生することが多く、続発性リンパ浮腫は外科手術、放射線又は感染によってもたらされる。リンパ管腫、リンパ脈管筋腫症(LAM)及びリンパ奇形のような他の症状は、異なる有病率及び臨床像を有する。リンパ管新生関連疾患に現在使用される処置アプローチは、症候を管理して生活の質を向上することを主に目的とする。保存的管理の選択肢は、組織腫脹を減少させ、リンパ浮腫のような状態における合併症を予防する圧迫療法、物理療法及びスキンケア対策を含み得る。リンパ管静脈吻合又はリンパ節移植などの外科的介入は、ある選択された場合に実施され得る。ある事例では、リンパ管新生関連の要因を対象とする薬物療法が利用される。例えば、VEGF-C/VEGF-D又はある利尿剤の使用が、リンパ浮腫におけるリンパ管成長を抑制する際に有望であることが示されている。しかし、これらの治療法は、リンパ管成長及び機能を特異的に調整するようには設計されていない。最新の処置は、内在する発症機序を直接対象とするのではなく、症候を管理して生活の質を向上することに注力するものである。さらに、リンパ管新生関連疾患の異質性及び複雑性は、普遍的な処置戦略を開発する際の課題となる。
【0004】
上記に鑑みると、関連技術において、リンパ管新生関連疾患を特異的かつ効果的に処置し、それにより、リンパ管新生関連疾患の患者のニーズに効果的に応える改良された方法に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0005】
基本的理解を読者に与えるために、以下に本開示の簡略化した概要を提示する。この概要は、本開示の網羅的な概観ではなく、本発明の主要/重要な要素を特定するものでも本発明の範囲を定めるものでもない。その専らの目的は、ここに開示されるある概念を、より詳細な後述の説明に対する序章として簡略化した形態で提示することである。
【0006】
ここに実現されるとともに広く記載されるように、本開示の一態様は、被検体におけるリンパ管新生関連疾患を処置及び/又は予防する方法に向けられる。方法は、1~10nmの範囲の粒子サイズ、好ましくは1~5nmの範囲の粒子サイズ、より好ましくは2nmの粒子サイズを有する有効量の、ジヒドロリポ酸(DHLA)で被覆された金ナノクラスターを被検体に投与するステップを備える。DHLAで被覆された金ナノクラスターは、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター及び当該金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる。
【0007】
本開示の実施形態によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターの有効量は、1日あたり約0.001~10mg/体重kg、好ましくは1日あたり約0.01~1mg/体重kgである。特定の一実施例によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターの有効量は、1日あたり約0.057mg/体重kgである。
【0008】
本開示の実施形態によると、ここに記載されるリンパ管新生関連疾患は、リンパ浮腫及び収縮期心不全である。したがって、ある高度な実施例では、本方法は、DHLAで被覆された金ナノクラスターと組み合わせて追加の医薬品を投与して上記の疾患を処置するステップをさらに備え得る。追加の医薬品は、DHLAで被覆された金ナノクラスターの投与の前に、それと併せて又はその後に被検体に投与され得る。
【0009】
例えば、リンパ管新生関連疾患がリンパ浮腫である場合、追加の医薬品は、VEGF-C、VEGF-D、アセタゾラミド、フロセミド、アゾセミド、ブメタニド、エタクリン酸、エトゾリン、インダクリノン、ムゾリミン、オゾリノン、ピレタニド、チエニル酸、トラセミド、アルチジド、ベンドロフルメチアジド、ブチジド、クロロチアジド、シクロペンチアジド、シクロチアジド、エピチジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メブチジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、フェンキゾンインダパミド、メフルシド、メチクラン、メトラゾン、キネタゾン、キシパミド、アミロリド、ベンズアミル、トリアムテレン、スピロノラクトン、カンレノン、エプレレノン、カンレノ酸カリウム、フィネレノン、コニバプタン、モザバプタン、サタバプタン及びトルバプタンからなる群から選択された少なくとも1つの薬剤であり得る。
【0010】
あるいは、リンパ管新生関連疾患が収縮期心不全である場合、追加の医薬品は、カルベジロール、メトプロロール、ビソプロロール、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタン、サクビトリル、リシノプリル、エナラプリル、ラミプリル、スピロノラクトン、エプレレノン、ジゴキシン、ヒドララジン、硝酸イソソルビド、イバブラジン、アトルバスタチン、シンバスタチン、アスピリン、クロピドグレル、ワルファリン、アピキサバン、リバーロキサバン、メトラゾン、ネビボロール及びミルリノンからなる群から選択されたいずれか1つの薬剤であり得る。
【0011】
好ましくは、被検体はヒトである。
【0012】
本開示の他の態様は、被検体におけるリンパ管新生を促進する方法に関する。方法は、有効量の、DHLAで被覆された金ナノクラスターを被検体に投与するステップを備える。DHLAで被覆された金ナノクラスターは、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター、及び金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる。
【0013】
本開示のある実施形態によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターは、直径約1~10nm、好ましくは直径約1~5nm、より好ましくは直径約2nmである。
【0014】
本開示の実施形態によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターの有効量は、1日あたり約0.001~10mg/体重kg、好ましくは1日あたり約0.01~1mg/体重kgである。特定の一実施例によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターの有効量は、1日あたり約0.057mg/体重kgである。
【0015】
好ましくは、被検体はヒトである。
【0016】
本開示の付随する特徴及び有利な効果の多くは、添付図面との関連で検討される以下の詳細な説明を参照して、より深く理解されることになる。
【0017】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び有利な効果は、以下の説明、付随する特許請求の範囲及び添付図面を参照して、より深く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、ヒトリンパ内皮細胞(LEC)における細胞増殖に対するDHLAで被覆された金ナノクラスター(図では蛍光金ナノクラスター(FANC)として示す)の効果を示す図である。データを、少なくとも5個の独立した実験値の平均±SEMとして表す。*は、コントロール群と比較してP<0.05。
【
図1B】
図1Bは、ヒトリンパ内皮細胞(LEC)における遊走(すなわち、創傷治癒)に対するDHLAで被覆された金ナノクラスター(図では蛍光金ナノクラスター(FANC)として示す)の効果を示す図である。データを、少なくとも5個の独立した実験値の平均±SEMとして表す。*は、コントロール群と比較してP<0.05。
【
図2】
図2は、ヒトLECにおける管形成に対するFANCの効果を示す図である。データを、少なくとも5個の独立した実験値の平均±SEMとして表す。*は、コントロール群と比較してP<0.05。
【
図3】
図3は、イソプロテレノール(ISO)及び/又はFANCで処置したマウスにおけるリンパ内皮特異マーカー、リンパ管内皮ヒアルロン酸レセプター1(LYVE-1)の発現を示す図である。データを平均±SEMとして表す。コントロールはN=4、ISOはN=3、FANC+ISOはN=6。*は、ISO群と比較してP<0.05。
【
図4A】
図4AはISO、FANC及び/又はMAZ-51で処置したマウスにおける心臓超音波検査の結果を示す図であり、MAZ-51は(3E)-3-[[4-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-イル]メチリデン]-1H-インデン-2-オンである。
図4Aは、左室内径短縮率(FS)の結果を示す。データを平均±SEMとして表す。コントロールはN=3、ISOはN=3、FANC+ISOはN=3、FANC+ISO+MAZ-51はN=4。*は、コントロール群と比較してP<0.05。†は、ISO群と比較してP<0.05。‡は、ISO+FANC群と比較してP<0.05。
【
図4B】
図4BはISO、FANC及び/又はMAZ-51で処置したマウスにおける心臓超音波検査の結果を示す図であり、MAZ-51は(3E)-3-[[4-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-イル]メチリデン]-1H-インデン-2-オンである。
図4Bは、組織ドプラ法(TDI-s´)の結果を示す。データを平均±SEMとして表す。コントロールはN=3、ISOはN=3、FANC+ISOはN=3、FANC+ISO+MAZ-51はN=4。*は、コントロール群と比較してP<0.05。†は、ISO群と比較してP<0.05。‡は、ISO+FANC群と比較してP<0.05。
【
図5】
図5は、FANCで処置したゼブラフィッシュにおけるin vivoリンパ管新生を示す図であり、第5~第12の体節における体節間リンパ管(ISLV)を含む7体節以上を有する胚の割合を示す。各実験値を20匹の幼魚から得た。データを、少なくとも3個の独立した実験値からの平均±SEMとして表す。*は、コントロール群と比較してP<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面に関連して以下に与えられる詳細な説明は、本実施例の説明としてのものであり、本実施例が構成又は利用され得る唯一の形態を表すものではない。この説明は、本実施例の機能及び本実施例を構成して動作させるためのステップの順序を説明する。ただし、同一又は同等の機能及び順序が、異なる実施例によって実現され得る。
【0020】
I.定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲において採用される特定の用語をここにまとめる。ここに特に断りがない限り、本開示で採用される科学的及び技術的用語は、当業者に一般に理解及び使用される意味を有するものである。また、文脈上特に要件とされない限り、単数形の用語はその複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。具体的には、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、そうでないことを文脈が明示しない限り、複数の参照を含む。また、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「少なくとも1つ」及び「1以上」は、同じ意味を有し、1、2、3又はそれ以上を含む。本発明の実施は、断りがない限り、当業者の技術範囲内である生化学、一般生物学、動物実験などの従来の技術を採用する。文献には、このような技術が充分に説明されている。
【0021】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、具体的な実施例で説明される数値は可能な限り厳密に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。また、ここで使用されるように、用語「約」は、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%内を一般に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合の平均の許容標準誤差内を意味する。運用/実施例以外においても、又は明示の断りがない限り、ここに開示されるその材料の量、継続時間、温度、動作条件、量の比率などに対するものなどの数値範囲、量、値及び割合の全ては、いずれの場合においても用語「約」によって変更されるものとして理解されるべきである。したがって、逆のことが示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲で説明される数値パラメータは、所望のように変わり得る概数である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効桁数を考慮してかつ通常の四捨五入手段を適用して少なくとも解釈されるべきである。
【0022】
ここで使用する用語「処置/処理」及び「処置する/処理する」とは、リンパ管新生関連疾患の亢進を予防し又はその病状を変える意図で行われる介入のことをいう場合がある。処置又は処置することの概念は、最も広い意味で使用され、具体的には、任意のステージのリンパ管新生関連疾患の予防(予防法)、軽減、低減、治癒及び緩和を含む。したがって、「処置/処理」とは、治療的処置及び予防的な若しくは予防の対策の双方のことをいい、又は緩和的対策のこともいい、課題はリンパ浮腫及び収縮期心不全などのリンパ管新生関連疾患を予防、減速(軽減)又は改善することである。処置の必要がある対象体は、既に疾患に罹患している対象体、及び疾患に罹患し易い対象体又は疾患が予防されるべき対象体を含む。疾患は、特発性若しくは心因性の原因、又はこれらの原因又は外科手術、放射線若しくは感染などの他の症状に対して続発的なものを含むあらゆる原因から起こり得る。
【0023】
用語「被検体」又は「患者」とは、本開示の方法によって処置可能なヒト種を含む動物のことをいう。用語「被検体」又は「患者」は、一方の性別が特に示されない限り、雄及び雌の両性別を言うことが意図される。したがって、用語「被検体」又は「患者」は、DHLAで被覆された金ナノクラスターの投与の利益を受け得る任意の哺乳動物を含む。「被検体」又は「患者」の例は、これらに限定されないが、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及び家禽を含む。好適な実施形態によると、被検体はヒトである。
【0024】
用語「投与され」、「投与する」又は「投与」は、ここでは互換可能に使用されて、本DHLAで被覆された金ナノクラスターを直接投与すること、又はDHLAで被覆された金ナノクラスターを含む薬学的組成物を投与することをいう。
【0025】
ここで使用する用語「有効量」とは、被検体におけるリンパ管新生関連疾患の処置又はリンパ管新生を促進することに関して所望の結果を達成するのに必要な投与量及び期間について有効な金ナノクラスターの量のことをいう。治療目的のために、有効量は、成分のいずれかの有毒又は有害な効果を治療上有益な効果が上回るものでもある。具体的な有効量又は充分な量は、処置される特定の症状、患者の体調(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、処置される哺乳動物又は動物の種類、処置期間、(もしあれば)同時療法の性質、及び化合物又はその誘導体の採用される具体的な製剤及び構造のような要因によって変化する。有効量は、例えば、グラム、ミリグラム若しくはマイクログラムで又は体重キログラムあたりのミリグラム(mg/kg)として表現され得る。あるいは、有効量は、モル濃度、質量濃度、体積濃度、重量モル濃度、モル分率、質量分率及び混合比のような活性成分(例えば、本DHLAで被覆された金ナノクラスター)の濃度で表現され得る。当業者であれば、動物モデルから決定される用量に基づいて(本DHLAで被覆された金ナノクラスターのような)医薬品についてのヒト等価用量(HED)を計算できるはずである。例えば、ヒト被検体での使用に対する最大安全投与量を推定する際に、米国食品医薬品局(FDA)によって発行された「Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」と題された工業用ガイダンスに従うことができる。
【0026】
ここで使用する用語「リンパ管新生関連疾患」とは、被検体における損なわれたリンパ管新生に起因する又はそれによって悪化する疾患、症状又は障害のことをいい、リンパ管新生関連疾患は、例えば、リンパ浮腫又は収縮期心不全であり得る。
【0027】
用語「薬学的組成物」とは、そこに含有される有効成分の生物学的活動が有効となることを可能とするような形態にあり、かつ組成物が投与されることになる被検体に対して許容できないほど有毒である追加の成分を含有しない調製物のことをいう。一般的に、活性化合物(すなわち、本DHLAで被覆された金ナノクラスター)の量は、薬学的組成物の総重量を基準として、約0.01重量%~99重量%のレベル、好ましくは少なくとも0.1重量%のレベル、より好ましくは少なくとも1重量%のレベル、より一層好ましくは少なくとも5重量%のレベル、さらにより一層好ましくは少なくとも10重量%のレベル、さらにより一層好ましくは少なくとも25重量%のレベルにおいて薬学的組成物に存在する。本発明の臨床的使用のために、本薬学的組成物は、意図された投与経路に適した製剤となるように処方される。
【0028】
ここで使用する文言「薬学的に許容可能な賦形剤」は、ある器官又は身体の部分から他の器官又は身体の部分に対象薬剤を搬送又は輸送する際に関与する液体若しくは固体充填剤、希釈剤、担体、溶媒又はカプセル化材料などの薬学的に許容可能な材料、組成物又はビヒクルを意味する。各賦形剤は、製剤の他の成分に適合しているという意味において「許容可能」でなければならない。薬学的製剤は、1以上の薬学的に許容可能な成分と組み合わせて本DHLAで被覆された金ナノクラスターを含有する。賦形剤は、固体、半固体若しくは液体希釈剤、クリーム又はカプセルであればよい。これらの薬学的な調製物は、本発明の更なる課題である。
【0029】
II.本発明の説明
本開示は、DHLAで被覆された金ナノクラスターがin vitro(細胞増殖、遊走及び管形成の増加など)及びin vivo(心臓創傷マウスにおける心機能の向上及びゼブラフィッシュにおけるリンパ管新生の促進など)の双方でリンパ管新生の特徴を高めるものであるとの発見に少なくともある程度基づくものであり、DHLAで被覆された金ナノクラスターがリンパ管新生関連疾患の処置及び/又は予防のための医薬品の開発についての有望な候補であることを示唆する。
【0030】
本DHLAで被覆された金ナノクラスターは、構造的には、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター及び金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる。熟練した専門家は、本開示において利用されるDHLAで被覆された金ナノクラスター及びそれらの生成方法(Lin他、ACS Nano2009、3(2)、pp395-401)に精通しているので、それらの調製物の詳細についての更なる詳述は、この点において不要である。DHLAで被覆された金ナノクラスターは約420nmの励起波長下で650nmでの蛍光発光を有するので、発光した蛍光は赤色から近赤外のスペクトルの範囲にある。DHLAで被覆された金ナノクラスターの各々は、0.1~20nmの範囲、好ましくは1~10nmの範囲、より好ましくは1~5nmの範囲、より一層好ましくは2nmの粒子サイズを有する。本開示の金ナノクラスターに関する上記寸法は、乾燥状態にあるものであるが、本開示で使用される金ナノクラスターが水溶性であり又は少なくとも水性媒体及び/若しくは水中に分散可能であれば有利なものとなる。本開示の金ナノクラスターの流体力学的サイズは、水などの周囲の溶媒分子の結合に起因して乾燥状態にあるものよりも大幅に大きくなり得る。具体的な一実施形態例では、金ナノクラスターは、1~30kDaのポリエチレングリコール(PEG)分子に相当する流体力学的サイズを有する(Lin他、ACS Nano2009、3(2)、pp395-401)。
【0031】
本開示の一態様によると、DHLAで被覆された金ナノクラスターは、被検体において、リンパ管新生関連疾患を処置及び/若しくは予防し、又はリンパ管新生を促進するための組成物を調製するのに使用される。この組成物は、薬学的組成物若しくは医薬品又はその目的に応じた保険機能食品(栄養サプリメントを含む)の形態で利用され得る。組成物は、任意選択的な薬学的に許容可能な賦形剤とともに有効量でのDHLAで被覆された金ナノクラスターを含む。
【0032】
薬学的組成物を調製する方法は、薬理学の技術において周知である。本発明の適用のために、本開示のDHLAで被覆された金ナノクラスターは、特に、不活性で基本的に非毒性の薬学的に適切な賦形剤を用いることによって、錠剤、糖衣錠剤、ピル、顆粒、エアロゾル、シロップ、乳剤、懸濁剤、溶液、軟膏剤、クリーム若しくはゲル又は任意のものなど、所望の製剤に製造され得る。
【0033】
本開示のある実施形態によると、組成物は調剤として使用され、その場合、薬学的組成物は、薬学的組成物の製造において一般的に使用される適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含み得る。薬学的組成物は、従来の方法による粉末、顆粒、錠剤、カプセル、懸濁剤、乳剤、シロップ、エアロゾル、外用剤、坐剤及び滅菌注射液などの経口投与剤の形態で処方及び使用され得る。薬学的組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤は、ラクトース、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルを含む。製剤の場合、それは、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤などの賦形剤又は希釈剤を用いて調製される。経口投与のための固体調製物は、錠剤、ピル、粉末、顆粒、カプセルなどを含む。これらの固体調製物は、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなど、少なくとも1つの賦形剤を調製物に含む。さらに、ステアリン酸マグネシウム又はタルクなどの潤滑剤が、単純な賦形剤に加えて使用される。経口使用のための液体調製物は、懸濁化剤、溶液、乳剤、シロップなどを含む。単純な希釈液として一般的に使用される水及び液体パラフィンに加えて、湿潤剤、甘味料、香料及び保存料などの種々の賦形剤が調製物に含まれてもよい。非経口的投与のための製剤は、滅菌水溶液、非水性溶媒、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥調製物及び坐剤を含む。非水性溶媒及び懸濁剤は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの食物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用エステルを含み得る。坐剤のための基剤として、ウイテプゾール、マクロゴール、Tween-61、カカオバター、ラウリンバター及びグリセロゼラチンが使用され得る。
【0034】
本開示のある実施形態によると、組成物は保険機能食品として利用され、それは、ヒト及び動物に栄養を与えるため、リンパ管新生関連疾患の処置に利益を与え、及び/又はリンパ管新生関連疾患に関連する症候を改善若しくは緩和するために使用される任意の種類の液体及び固体/半固体の材料であり得る。保険機能食品において一般的に使用される成分は有効成分に加えて含まれてもよく、組成物が保険機能用飲料として製造される場合、例えば、クエン酸、オリゴ糖、タウリン、濃縮果汁などが含まれ得る。保険機能食品は、食品(例えば、茶系飲料、ジュース、ソフトドリンク、コーヒー、牛乳、ゼリー、クッキー、シリアル、チョコレート、スナックバー、ハーブエキス、乳製品(例えば、アイスクリーム及びヨーグルト))、食品/栄養補助食品又は栄養補助食品製剤であり得る。
【0035】
ここに提供されるDHLAで被覆された金ナノクラスターは、通常は投与の容易性及び投与量の均一性のために投与量単位形態で処方される。ただし、ここに記載される組成物の一日あたりの合計使用量は適正な医学的判断の範囲内で医師によって決定されることが理解されるはずである。いずれかの特定の被検体又は器官のための具体的な治療上有効な用量レベルは、処置されている疾患及び障害の重症度;採用される特異的有効成分の活性;採用される特異的組成物;被検体の年齢、体重、全体的な健康状態、性別及び食生活;採用される特異的有効成分の投与時間、投与経路及び排出速度;処置の期間;採用される特異的有効成分と組み合わせて又はそれと同時に使用される薬物;並びにその類いの医療技術で周知の同様の要因、を含む様々な要因に依存することになる。
【0036】
本開示の他の態様では、本開示は、被検体においてリンパ管新生関連疾患を処置し、リンパ管新生を促進する方法を提供する。方法は、ここに記載するような有効量の、DHLAで被覆された金ナノクラスター又はそれを含む組成物を被検体に投与するステップを備える。
【0037】
特定の実施形態では、ここに記載されるDHLAで被覆された金ナノクラスターは、有効量の薬学的組成物において提供される。特定の実施形態では、有効量は、治療上有効な量(例えば、リンパ管新生関連疾患を処置するのに有効な量)である。特定の実施形態では、有効量は、予防上有効な量(例えば、それを必要とする被検体においてリンパ管新生関連疾患を予防するのに有効な量)である。
【0038】
有効量を達成するのに必要なDHLAで被覆された金ナノクラスターの正確な量は、例えば、被検体の種、年齢及び全体的状態、副作用又は障害の重症度、投与のモードなどに応じて、被検体間で異なる。有効量は、単回用量(例えば、単回経口用量)又は複数回用量(例えば、複数回経口用量)に含まれ得る。特定の実施形態では、複数回用量が被検体に投与される場合、複数回用量のうちの任意の2回用量は異なる量又は実質的に同じ量の、ここに記載されるDHLAで被覆された金ナノクラスターを含む。特定の実施形態では、複数回用量が被検体に投与される場合、複数回用量を被検体に投与する頻度は、1日あたり3回用量、1日あたり2回用量、1日あたり1回用量、隔日あたり1回用量、3日あたり1回用量、1週間あたり1回用量、隔週あたり1回用量、月ごとに1回用量、又は隔月ごとに1回用量である。特定の実施形態では、複数回用量を被検体に投与する頻度は、1日あたり1回用量である。特定の実施形態では、複数回用量を被検体に投与する頻度は、1日あたり2回用量である。本開示のある例によると、被検体はマウスである。マウスに対する治療効果を引き出すために、本DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1日あたり約0.01~150mg/体重kg、好ましくは1日あたり約0.1~15mg/体重kg、より好ましくは1日あたり約0.1~1.5mg/体重kgの量で被検体に投与される。一実施例によると、本DHLAで被覆された金ナノクラスターは、1日あたり0.57mg/体重kgの量で被検体に投与される。
【0039】
当業者であれば、本出願の実施例において提供される動物での検討から決定された用量に基づいて、本DHLAで被覆された金ナノクラスターのヒト等価用量(HED)を直ちに決定し得る。したがって、ヒト被検体での使用に適した本DHLAで被覆された金ナノクラスターの量は、1日あたり0.001~10mg/体重kgの範囲、例えば、1日あたり0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.011、0.012、0.013、0.014、0.015、0.016、0.017、0.018、0.019、0.02、0.021、0.022、0.023、0.024、0.025、0.026、0.027、0.028、0.029、0.03、0.031、0.032、0.033、0.034、0.035、0.036、0.037、0.038、0.039、0.04、0.041、0.042、0.043、0.044、0.045、0.046、0.047、0.048、0.049、0.05、0.051、0.052、0.053、0.054、0.055、0.056、0.057、0.058、0.059、0.06、0.061、0.062、0.063、0.064、0.065、0.066、0.067、0.068、0.069、0.07、0.071、0.072、0.073、0.074、0.075、0.076、0.077、0.078、0.079、0.08、0.081、0.082、0.083、0.084、0.085、0.086、0.087、0.088、0.089、0.09、0.091、0.092、0.093、0.094、0.095、0.096、0.097、0.098、0.099、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10mg/体重kgであり得る。好ましくは、ヒト被検体を処置するための本DHLAで被覆された金ナノクラスターの量は、1日あたり約0.01~1mg/体重kgである。より好ましくは、ヒト被検体を処置するための本DHLAで被覆された金ナノクラスターの量は、1日あたり約0.01~0.1mg/体重kgである。一実施例によると、ヒト被検体を処置するための本DHLAで被覆された金ナノクラスターの量は、1日あたり約0.046mg/体重kgである。一実施例によると、ヒト被検体を処置するための本DHLAで被覆された金ナノクラスターの量は、1日あたり約0.057mg/体重kgである。
【0040】
ここに記載するような用量範囲は、提供された薬学的組成物の成人への投与のためのガイダンスを与える。例えば、小児又は青少年に投与される量は、医師又は当業者によって決定可能であり、成人に投与される量よりも少なく又はそれと同じであり得る。
【0041】
ここに提供されるDHLAで被覆された金ナノクラスター及びそれを含む組成物は、経腸(例えば、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、皮下、脳室内、経皮、経皮間、皮下、皮内、直腸内、腔内、腹腔内、局所(粉末、軟膏、クリーム及び/又は点滴などによる)など、任意の適切な経路で投与可能である。具体的には、考えられる経路は、経口投与、静脈内投与(例えば、全身静脈注射)、血液及び/若しくはリンパ液供給を介した局所投与、並びに/又は患部への直接投与である。一般的に、最適な投与経路は、薬剤の性質を含む様々な要因(例えば、腸管の環境でのその安定性)及び/又は被検体の状態(例えば、被検体が経口投与を耐えられるか否か)に依存することになる。
【0042】
理解されるように、本方法は、単独で、又はリンパ管新生関連疾患の処置に何らかの有益な効果を有する追加療法と組み合わせて、被検体に適用可能である。意図する目的に応じて、本方法は、追加療法の前に、その間に又はその後に被検体に適用され得る。追加の処置薬の具体的種類は、処置されている特定の状態(すなわち、リンパ浮腫又は収縮期心不全)に応じることになる。
【0043】
リンパ管新生関連疾患がリンパ浮腫である場合には、追加の医薬品は、VEGF-C、VEGF-D、アセタゾラミド、フロセミド、アゾセミド、ブメタニド、エタクリン酸、エトゾリン、インダクリノン、ムゾリミン、オゾリノン、ピレタニド、チエニル酸、トラセミド、アルチジド、ベンドロフルメチアジド、ブチジド、クロロチアジド、シクロペンチアジド、シクロチアジド、エピチジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メブチジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルタリドン、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、フェンキゾンインダパミド、メフルシド、メチクラン、メトラゾン、キネタゾン、キシパミド、アミロリド、ベンズアミル、トリアムテレン、スピロノラクトン、カンレノン、エプレレノン、カンレノ酸カリウム、フィネレノン、コニバプタン、モザバプタン、サタバプタン又はトルバプタンのうちのいずれか1つの薬剤であり得る。
【0044】
リンパ管新生関連疾患が収縮期心不全である場合には、追加の医薬品は、カルベジロール、メトプロロール、ビソプロロール、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタン、サクビトリル、リシノプリル、エナラプリル、ラミプリル、スピロノラクトン、エプレレノン、ジゴキシン、ヒドララジン、硝酸イソソルビド、イバブラジン、アトルバスタチン、シンバスタチン、アスピリン、クロピドグレル、ワルファリン、アピキサバン、リバーロキサバン、メトラゾン、ネビボロール又はミルリノンのうちの少なくとも1つの薬剤であり得る。
【0045】
ある実施形態では、被検体は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0046】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を詳述し、当業者が当該発明を実施することを補助するために提供される。これらの実施例は、いかなる態様においても本発明の範囲を限定するものと解釈されるものではない。更なる詳述なしに、当業者であれば、ここでの説明に基づいて、本発明をその最大限に利用し得ると考えられる。ここに引用される全ての刊行物は、その全体において参照によりここに取り込まれる。
【実施例】
【0047】
1.DHLAで被覆された金ナノクラスター(FANC)の調製
この研究において使用される蛍光DHLAで被覆された金ナノクラスターを、前駆体誘導金(Au)ナノ粒子(NP)エッチング(Lin他、ACS Nano2009、3(2)、pp395-401)に基づいて調製した。簡潔には、最初に、1mlの新たに調製したテトラブチルアンモニウムボロハイドライド(TBAB)(DDAB溶液中100mmol/L)及び0.675mlのデカン酸(トルエン中100mmol/L)を含む還元剤に0.8mlの金前駆体(100mmol/LのDDAB溶液中で調製した7.5mg/mlのAuCl3)を添加することによって、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)によって安定化した6nm金ナノ粒子をトルエン中で合成した。色が透明な黄色に変化するまで追加の金前駆体を滴下で添加し、非プラズモニック金ナノクラスターを得た。これは、さらに還元型α-リポ酸との配位子交換によって水相に与えられ得る。5mlのTBAB(50mmol/L)のDDAB溶液を添加することによって、α-リポ酸(0.206g、Sigma-Aldrich、St.Louis、ミズーリ州、米国)をジヒドロリポ酸(DHLA)に還元した。等量の金前駆体をDHLAに混合して追加のUV光(302nm)アニーリングを30分間行うことによって、DHLAで被覆された金ナノクラスターを形成し、安定的な蛍光シグナルが生細胞内に得られた。簡明化のために、DHLAで被覆された金ナノクラスターを「FANC」と略記する。遠心分離によって上清を除去した後に、FANCを次のメタノール/クロロホルム洗浄ステップによってさらに精製し、55℃での一晩のインキュベーションのためにホウ酸塩緩衝液(pH9)中で再処理し、30~100kDaの遠心フィルタ(EMD Millipore)によって回収及びバッファ交換した。
【0048】
2.細胞培養
ヒトリンパ内皮細胞(LEC)を、市販の供給元(Lonza;Walkersville、メリーランド州)から取得した。LECを、EBM-2基礎培地に内皮細胞増殖サプリメント(Lonza)を加えたものを含む内皮細胞増殖培地(EGM-2MV培地)中で増殖させた。細胞を、1%ゼラチンで被覆されたプラスチック製品に播種し、後続の処理のために5%CO2により37℃で培養した。
【0049】
3.細胞増殖アッセイ
LECを96ウェルプレートにウェルあたり5×103個の細胞の密度で播種した。24時間のインキュベーションの後、培養培地を除去し、細胞をさらに24時間にわたってFANCあり又はFANCなしでEGM-2MV培地で処理した。続いて、細胞を50%トリクロロ酢酸(TCA)で固定して反応を終了させ、1%酢酸中0.4%スルホローダミンB(SRB)(Sigma;St.Louis、ミズーリ州、米国)によって処理した。15分間のインキュベーションの後、細胞を含むプレートを10mMトリス緩衝液で洗浄及び処理した。515nmにおけるプレートの吸光率を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)リーダーを用いて測定した。
【0050】
4.細胞遊走アッセイ
LECを6ウェルプレートに播種し、90~100%コンフルエンスに達するまでそれらを増殖させた。1mmサイズのスクラッチャーチップ(SPL Life Sciences、ポチョン、韓国)を用いてギャップを引っ掻くことによって細胞に創傷を生成し、細胞をハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄した。細胞を、指示された濃度において、FANCあり又はFANCなしで新鮮な増殖培地内でインキュベートした。処理後0時間、16時間及び24時間の時点で顕微鏡によって撮像し、続いて分析を行った。遊走領域をMRI Wound Healing Toolを有するImageJを用いて計算した。
【0051】
5.毛細管形成アッセイ
マトリゲル(BD Biosciences;Bedford、マサチューセッツ州)を4℃で一晩溶解し、96ウェルプレートを各ウェルにおいて50μlのマトリゲルでコーティングし、続いて37℃で30分間にわたってインキュベーションを行った。LECを、指示されたFANC濃度でウェルあたりEGM-2MV培地内で2×104個/200μlの密度で播種した。37℃での24時間のインキュベーションの後、LECの管形成を顕微鏡によって評価し、各ウェルの写真を撮影した。管の分岐数及び合計管長を、MacBiophotonics ImageJソフトウェアを用いて計算した。
【0052】
6.イソプロテレノール(ISO)誘発心不全モデル
雄の7週齢C57BL/6マウスをBioLasco Inc.(Yilan、台湾)から購入した。0日目に、マウスを、浸透圧ポンプシステムを用いた腹部移植によってFANC(20μM;約0.57mg/体重kg)で処置した。その後、14日目に、マウスを、ISO(150mg/kg)で皮下処置した。ISO注射から14日後、28日目に、心臓超音波検査を行い、マウスの心機能を測定した。その後、それらの動物を屠殺し、その心臓を組織学的及び病理学的検査のために収集した。
【0053】
7.免疫組織化学(IHC)染色
マウスの左心室の組織切片を、キシレンで脱パラフィン化し、エタノールを添加することによって再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、10分間にわたってメタノール中で3%過酸化水素によってブロックした。熱誘導抗原賦活化を、全ての切片について0.01Mクエン酸ナトリウム緩衝液中でpH6、95℃において25分間にわたって実行した。マウスLYVE-1に対する抗体を、1:200の希釈で適用し、4℃で一晩インキュベートした。抗体結合シグナルをNovoLink Polymer Detection System(Leica Microsystems)を用いて検出し、ジアミノベンジジン反応を用いて可視化した。切片をヘマトキシリン及びエオジン(H&E)を用いて対比染色した。LYVE-1発現の定量化を、MacBiophotonics Image-Jソフトウェアを用いて分析した。
【0054】
8.心臓超音波検査
マウスをイソフルラン(Abbott Laboratories Ltd.、イングランド;空気とともに50:50の比で混合された酸素及び亜酸化窒素の組合せにおいて1~2%の濃度を実現するように送達される)で麻酔した後に、マウスについての実験的な心臓超音波検査を行った。全てのマウスは、Vivid iエコーシステム(GE Vingmed Ultrasound、Horten、ノルウェー)に接続された10MHzセクタアレイトランスデューサを用いた心臓構造及び機能評価を受けた。マウスを、超音波ゲルを前胸壁上に配置した状態で左側臥位において位置決めした。M-モードリニアスキャンの深度を、達成可能な最大フレーム速度で1.0~1.5cmに設定した。収縮速度を特定するのに使用される組織ドプラ(TDI-S´)、変形に基づく円周方向収縮期歪み測定、及び動的心筋運動による後方散乱強度を積算した組織構造の定量化指標を含むパラメータを用いて、EchoPac WorkstationにおいてECGゲートによるオフライン分析を用いて収縮期心筋性能を評価した。
【0055】
9.in vivoリンパ管新生モデル
遺伝子組み換えゼブラフィッシュ株Tg(lyve1:TRFP)を確立するのに使用したDNA構築物を以下のように生成した。遺伝子組み換えゼブラフィッシュにおける発育中のリンパ管細胞のマーキングを可能とするように、リンパ管内皮ヒアルロン酸レセプター1b(lyve1b)遺伝子の6.2kbのプロモーター配列を赤色蛍光タンパク質(TRFP)に結合させてその発現を行わせた。それに従って、遺伝子組み換えゼブラフィッシュ系統Tg(lyve1:TRFP)を、前述のDNA構築物を用いて確立した。赤色蛍光シグナルが、受精後144時間(hpf)においてゼブラフィッシュ胚の頭部及び胴体領域における増殖中のリンパ管細胞の大部分において検出された。5nMの濃度のFANCをゼブラフィッシュ系統Tg(lyve1:TRFP)72hpfの胚に注入し、胴体領域のリンパ管成長を144hpfにおいて観察した。最後に、第5~第12の体節における体節間リンパ管(ISLV)を含む7体節以上を有する胚の割合を特定してin vivoリンパ管新生機能を評価した。
【0056】
10.データ分析
平均±SEMとして表した実験結果を、一元配置分散分析又はスチューデントのt検定を用いて分析した。P値<0.05の場合にデータが統計的に有意であるとみなす。
【0057】
実施例1 リンパ管新生に対するFANCのin vitro効果
細胞増殖の促進、細胞遊走の強化、及びリンパ内皮細胞(LEC)における毛細管様構造の形成の促進を含むリンパ管新生に対するFANCの効果をこの実施例で調査した。結果を
図1及び2に与える。具体的には、FANCはLECの細胞増殖を濃度依存的に増加させることが分かった(
図1A)。リンパ管新生時に内皮細胞に重要な遊走及び管形成の能力に対するFANCの効果に関して、FANCは、LECの創傷治癒領域を濃度及び時間依存的に大幅に増加させ(
図1B)、LECにおける毛細管様構造の形成を大幅に誘発することが分かった(
図2)。
【0058】
まとめると、結果は、FANCはヒトLECにおけるin vitroリンパ管新生を促進する能力を有することを総合的に示唆した。
【0059】
実施例2 イソプロテレノール(ISO)誘発心損傷マウスにおけるリンパ管新生及び心機能に対するFANCのin vivo効果
リンパ管新生に対するFANCのin vivo効果を、心筋梗塞後(MI)及び心不全モデルの標準的な発症機序である、イソプロテレノール(ISO)誘発心損傷マウスモデルを用いることによって調査した。最初に、FANCによってもたらされる治療効果におけるリンパ管新生の役割を検証するために、免疫組織学的分析を行うことで、リンパ管に対する主要な特異的マーカーであるLYVE-1を検査した。なお、FANCは、
図3に示すように、LYVE-1の発現をISO処置群に由来する心臓組織と比較して大幅に増加させた。結果は、FANCは心損傷マウスにおけるリンパ管新生を強化可能であることを裏付けた。
【0060】
FANCがISO誘発心損傷マウスにおけるリンパ管新生を向上させたので、これらのマウスの心機能をさらに調査した。
図4A~4Bに示すように、FANCによる処置は、ISO処置マウスにおける左室内径短縮率(FS)及び組織ドプラ法(TDI-s´)を向上させた。FSは心室収縮機能についてのインジケータとして作用し、一方でTDI-s´は心筋収縮速度についてのインジケータとして作用する。結果は、FANCによる処置の後に向上した心損傷組織におけるリンパ管新生があれば、向上した心機能が確保されることを明確に実証した。さらに、FANCによって向上した心機能はリンパ管新生抑制剤MAZ-51の同時処置によって消失し、FANCにより強化した心機能はそのリンパ管新生を促進する能力に起因することをさらに確認した。まとめると、これらの結果は、FANCは心臓におけるリンパ管新生を促進する能力を有し、同様に心損傷マウスにおける心機能を向上させることを裏付ける。
【0061】
実施例3 ゼブラフィッシュにおけるリンパ管新生に対するFANCのin vivo効果
この実施例では、リンパ管新生に対するFANCのin vivo効果をゼブラフィッシュで調べた。この目的のため、遺伝子組み換えゼブラフィッシュ株Tg(lyve1:TRFP)を生成した。特に、受精後144時間(hpf)におけるゼブラフィッシュ胚の頭部及び胴体領域の観察を可能とする際に、発育中のリンパ管細胞の可視化を可能とするように、リンパ管内皮ヒアルロン酸レセプター1b(lyve1b)遺伝子の6.2kbのプロモーター配列を用いて赤色蛍光タンパク質(TRFP)を発現させた。FANCを72hpfにおいてTg(lyve1:TRFP)ゼブラフィッシュ胚に腹腔内投与し、胴体領域におけるリンパ管の成長を144hpfにおいて観察した。第5~第12の体節間の8体節のうちの7体節以上でリンパ管(ISLV)成長を有する胚の割合を計算した。未処置のコントロール群は8.3±2.4%の割合を示したのに対して、FANC処置群は45.0±10.8%の割合を示した(
図5)。これらの知見に基づくと、ここでも、FANCによるリンパ管成長の促進がゼブラフィッシュモデルにおいて実証された。
【0062】
結論として、実施例におけるデータは、DHLAで被覆された金ナノクラスターがin vitro及びin vivoでリンパ管新生を促進可能であることを実証した。したがって、必要とする個体への、DHLAで被覆された金ナノクラスターの投与は、リンパ浮腫及び収縮期心不全などの異常なリンパ管新生からもたらされる症状を潜在的に改善し得る。DHLAで被覆された金ナノクラスター及び/又はそれを含む薬学的組成物を投与するステップを備える本方法は、被検体がリンパ管新生関連疾患を患うことを効果的に処置又は予防する有望な手段を提供し得る。
【0063】
実施形態の上記説明は例示としてのみ与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、本発明の例示の実施形態の構造及び使用の完全な説明を与える。本発明の種々の実施形態がある程度の特殊性で又は1以上の個別の実施形態を参照して上述されたが、当業者であれば、この発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく開示の実施形態に対して多数の変更を行うことができるはずである。
【要約】 (修正有)
【課題】被検体における、リンパ管新生関連疾患を処置及び/又は予防する方法を提供する。
【解決手段】1~10nmの範囲の粒子サイズを有する有効量の、ジヒドロリポ酸(DHLA)で被覆された金ナノクラスターを前記被検体に投与するステップを備え、前記DHLAで被覆された金ナノクラスターは、複数の金ナノ粒子によって形成された金ナノクラスター及び該金ナノクラスター上に被覆された複数のDHLAからなる、方法である。
【選択図】
図1A