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特許7617670CYP4V2遺伝子変異部位を標的とする核酸分子およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】CYP4V2遺伝子変異部位を標的とする核酸分子およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20250110BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250110BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250110BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20250110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250110BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20250110BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 38/44 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N5/10
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
A61K47/59
A61K38/47
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K38/44
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023518523
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 CN2020117499
(87)【国際公開番号】W WO2022061663
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】522229949
【氏名又は名称】北京中因科技有限公司
【住所又は居所原語表記】Building 1,No.27,Life Garden Road,Life Science Park,Changping District,Beijing 102206,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, リーピン
(72)【発明者】
【氏名】モン, シァン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, シャオホン
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/025984(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムP450ファミリー4サブファミリーVポリペプチド2(CYP4V2)遺伝子を特異的に標的とするgRNAであって、前記CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロン領域に特異的に結合するSEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列を含有する、gRNA。
【請求項2】
前記gRNAは一本鎖ガイドRNA(sgRNA)である、請求項1に記載のgRNA。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載のCYP4V2遺伝子を特異的に標的とするgRNAをコードする、一種または複数種の単離された核酸分子。
【請求項4】
請求項3に記載の単離された核酸分子を含有する、ベクター。
【請求項5】
ドナー核酸分子をさらに含有し、
前記ドナー核酸分子は、CYP4V2遺伝子のイントロン6とエクソン11の間のヌクレオチド配列を含有し、レシピエント細胞に導入される場合、前記単離された核酸分子がコードするgRNAによって切断されたDNA断片を修復することができる、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記ドナー核酸分子は、SEQ ID NO:39で示されるヌクレオチド配列を含有する、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記単離された核酸分子と前記ドナー核酸分子が同一ベクター上に存在する、請求項5に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターはウイルスベクターである、請求項4から7のいずれかに記載のベクター。
【請求項9】
請求項3に記載の単離された核酸分子、および/または請求項4から8のいずれかに記載のベクターを含有する、細胞。
【請求項10】
前記細胞は、HEK293細胞、腎上皮細胞および/または人工多能性幹細胞を含む、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞は、修飾により分化能を有する、請求項9から10のいずれかに記載の細胞。
【請求項12】
前記細胞は、3D-網膜オルガノイドに分化することができる、請求項9から11のいずれかに記載の細胞。
【請求項13】
i)請求項1から2のいずれかに記載のgRNA、請求項3に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、または請求項4に記載のベクター、ii) Casヌクレアーゼ、またはCasヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含有する核酸分子またはベクター、iii)請求項5または6に定義されるドナー核酸分子、または前記ドナー核酸分子を含有するベクター、およびiv)薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から2のいずれかに記載のgRNA、請求項3に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、および/または請求項4から8のいずれかに記載のベクターを含有する、キット。
【請求項15】
疾患の治療のための医薬組成物の製造における、請求項1から2のいずれかに記載のgRNA、請求項3に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、および/または請求項4から8のいずれかに記載のベクターの使用であって、前記疾患はCYP4V2遺伝子における変異による疾患を含み、前記医薬組成物は請求項13に記載の医薬組成物である、使用。
【請求項16】
前記変異は、CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロンの後ろに位置する、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記疾患はビエッティ結晶性ジストロフィーを含む、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
ビエッティ結晶性ジストロフィーの治療における使用のための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記治療で正常な機能を有するCYP4V2タンパク質が獲得される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記治療は注射を含む、請求項18から19のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記治療は網膜下注射を含む、請求項18から20のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項22】
細胞におけるCYP4V2遺伝子の発現を調節する非治療的in vitroの方法であって、前記細胞に請求項1から2のいずれかに記載のgRNA、請求項3に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、および/または請求項4から8のいずれかに記載のベクターを導入することを含む、in vitroの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ医薬品に関し、より詳細には、CYP4V2遺伝子変異疾患を治療するためのgRNAとドナー核酸分子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビエッティ結晶性ジストロフィー((Bietti crystalline dystrophy,BCD),結晶性網膜色素変性症、ビエッティ結晶性角膜網膜ジストロフィー(Bietti Crystalline Corneoretinal Dystrophy)、クリスタリン網膜症(Bietti Crystalline Retinopathy)、ビエッティの網膜ジストロフィー(Bietti’s Retinal Dystrophy)と呼ばれることもある。)は失明に至る常染色体潜性遺伝性網膜変性疾患である。CYP4V2遺伝子は現在発見されたBCDの原因遺伝子の一つである(Li et al.Am J Hum Genet.74:817-826,200)。CYP4V2(シトクロムP450、ファミリー4、サブファミリーV、ポリペプチド2。別名:CYP4AH1)はシトクロムP450スーパーファミリーに属し、ヘム-チオレートタンパク質シトクロムP450サブファミリー4(CYP4)のメンバーである。
【0003】
現在、当該疾患のためにいくつかの治療法があり、例えば、ウイルストランスフェクションシステム、またはその他のトランスフェクションシステム(例えば、AAV、レンチウイルス、レトロウイルス)を利用して、CYP4V2の野生型遺伝子を遺伝子変異の細胞にトランスフェクトすることで、遺伝子変異の細胞が野生型CYP4V2を発現することができる遺伝子置換療法がある。この方法では、変異細胞の機能を部分的にしか回復させることができず、しかも治療の有効性が限られている。それは、変異型の遺伝子産物は仍然として細胞に存在し、これらの変異タンパク質は正常の遺伝子産物を競合的に阻害してしまう。そのため、より安全的かつ有効な治療方法の開発は期待されている。
【0004】
当該背景技術の部分で開示された情報は、本願の一般的な背景に対する理解を深めるためのものにすぎず、それらの情報が当業者に公然知られた従来技術を形成するという承認またはいかなる形の示唆ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、シトクロムP450ファミリー4サブファミリーVポリペプチド2(CYP4V2)を特異的に標的とするgRNAを提供するものであって、前記gRNAは前記CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロン領域に特異的に結合し、前記gRNAは前記CYP4V2のエクソン6とエクソン7の間のイントロン領域に対して良好な切断効果を有するので、オリジナルのCYP4V2遺伝子産物は細胞に存在しなくなる。また、本願はドナー核酸分子を提供し、前記ドナー核酸分子は、CYP4V2遺伝子のイントロン6とエクソン11の間のヌクレオチド配列を含有し、前記ドナー核酸分子は、内在性CYP4V2が前記gRNAによって切断された後、遺伝子変異の細胞において、CYP4V2エクソン7-11を修復することで、正常な機能を有するCYP4V2タンパク質を作り、優れた修復効果を有する。本願は、前記gRNAおよび/または前記ドナー核酸分子を含有するベクターを提供するものであって、CYP4V2変異の細胞が正確にシトクロムP450ファミリー4サブファミリーVポリペプチド2を発現することを可能にし、良好な遺伝子の編集修復効率を有する。
【0006】
一方、本願は、シトクロムP450ファミリー4サブファミリーVポリペプチド2(CYP4V2)遺伝子を特異的に標的とするgRNAを提供するものであって、前記gRNAは前記CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロン領域に特異的に結合する。
【0007】
一実施形態において、前記gRNAはSEQ ID NO:41で示されるヌクレオチド配列に特異的に結合する。
【0008】
一実施形態において、前記gRNAはSEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列を含有する。
【0009】
一実施形態において、前記gRNAは5’-(X)n-SEQ ID NO:48-51-バックボーン配列-3’を含有し、XはA、U、CおよびGから選択されるいずれかの塩基であり、かつnは0-15のいずれの整数である。
【0010】
一実施形態において、前記gRNAは一本鎖ガイドRNA(sgRNA)である。
【0011】
他方、本願は、前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするgRNAをコードする、一種または複数種の単離された核酸分子を提供するものである。
【0012】
他方、本願は、CYP4V2遺伝子のイントロン6とエクソン11の間のヌクレオチド配列を含有する、ドナー核酸分子を提供するものである。
【0013】
一実施形態において、前記ドナー核酸分子はSEQ ID NO:39で示されるヌクレオチド配列を含有する。
【0014】
他方、本願は、前記単離された核酸分子および/または前記ドナー核酸分子を含有する、ベクターを提供するものである。
【0015】
一実施形態において、前記ベクターは、前記単離された核酸分子と前記ドナー核酸分子が同一ベクター上に存在する。
【0016】
一実施形態において、前記ベクターはウイルスベクターである。
【0017】
他方、本願は、前記単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子および/または前記ベクターを含有する、細胞を提供するものである。
【0018】
一実施形態において、前記細胞はHEK293細胞、腎上皮細胞および/または人工多能性幹細胞を含む。
【0019】
一実施形態において、前記細胞は修飾により分化能を有する。
【0020】
一実施形態において、前記細胞は3D-網膜オルガノイドに分化することができる。
【0021】
他方、本願は、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、前記ベクター、および薬学的に許容される担体を含有する、医薬組成物を提供するものである。
【0022】
他方、本願は、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、前記ベクターを含有する、キットを提供するものである。
【0023】
他方、本願は、疾患の治療のための医薬の製造における、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、および/または前記ベクターの使用を提供するものであって、前記疾患はCYP4V2遺伝子における変異による疾患を含む。
【0024】
一実施形態において、前記変異は、CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロンの後ろに位置する。
【0025】
一実施形態において、前記疾患はビエッティ結晶性ジストロフィーを含む。
【0026】
他方、本願は、必要とする被験者に前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、および/または前記ベクターを導入する工程を含む、ビエッティ結晶性ジストロフィーを治療する方法を提供するものである。
【0027】
一実施形態において、前記導入で、正常な機能を有するCYP4V2タンパク質が獲得される。
【0028】
一実施形態において、前記導入は注射を含む。
【0029】
一実施形態において、前記導入は網膜下注射を含む。
【0030】
他方、本願は、細胞に前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、および/または前記ベクターを導入することを含む、細胞におけるCYP4V2遺伝子の発現を調節する方法を提供するものである。
【0031】
当業者なら以下の詳細な説明から本願の他の態様や利点を容易に諒解する。以下の詳細な説明では、本願の例示的な実施形態のみを示し、説明している。当業者ならわかるように、本願の内容を理解すれば、当業者は本願発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態に変更を加えることが可能である。したがって、本願の図面及び明細書の記載は、例示的なものに過ぎず、限定的なものではない。
【0032】
本願発明の具体的な特徴は、添付の特許請求の範囲に示されている。以下で詳細に説明する例示的な実施形態と図面を参照することによって、より確実に理解されるだろう。図面に関して、以下のように簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本願に記載のPX601のプラスミドマップを示す図である。
図2】本願に記載のCYP4V2-HITI-sgRNA1-7によって切断された断片の電気泳動像であり、sgRNA1-4は良好な切断効果を有することを示す図である。
図3A】本願に記載のCYP4V2sgRNA1-4切断後の切断部位を含む断片の配列決定の結果であり、sgRNA1-4は良好な切断効果を有することを示す図である。
図3B】本願に記載のCYP4V2sgRNA1-4切断後の切断部位を含む断片の配列決定の結果であり、sgRNA1-4は良好な切断効果を有することを示す図である。
図3C】本願に記載のCYP4V2sgRNA1-4切断後の切断部位を含む断片の配列決定の結果であり、sgRNA1-4は良好な切断効果を有することを示す図である。
図3D】本願に記載のCYP4V2sgRNA1-4切断後の切断部位を含む断片の配列決定の結果であり、sgRNA1-4は良好な切断効果を有することを示す図である。
図4】本願に記載のミニ遺伝子断片のマップを示す図である。
図5】本願に記載のPMD-19T-MCSのプラスミドマップを示す図である。
図6A】スプライシングに対する本願に記載のsgRNA1-4の影響を示し、sgRNA1-4はmRNAのスプライシングに影響しないことを示す図である。
図6B】スプライシングに対する本願に記載のsgRNA1-4の影響を示し、sgRNA1-4はmRNAのスプライシングに影響しないことを示す図である。
図6C】スプライシングに対する本願に記載のsgRNA1-4の影響を示し、sgRNA1-4はmRNAのスプライシングに影響しないことを示す図である。
図7】本願に記載のドナースクリーニング実験においてトランスフェクトされた細胞の結果を示し、ドナー含有のベクターの細胞トランスフェクションが成功したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、特定の具体的な実施例を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明の他の利点および効果は、本願明細書で開示される内容から、当業者には容易に理解されると思われる。
【0035】
用語の定義
本願において、用語「3D-網膜オルガノイド」とは、一般的に、三次元構造を有し、自己再生、自己組織化が可能であり、網膜の基本機能(例えば、光感受性)を示す人工的に培養された網膜を指す。3D-網膜オルガノイドは、一次組織または幹細胞(例えば、多能性幹細胞)から分化してなることができ、光に反応し、脳へ信号を送るために必要な網膜のすべての細胞を備える。
【0036】
本願において、用語「単離された核酸分子」とは、前記核酸の天然源に存在する他の核酸分子から分離されるものを指す。このような単離された核酸分子は、その通常または天然環境から除去されまたは分離され、あるいは前記分子はその通常または天然環境に存在しない方法で製造され、通常または天然環境におけるポリペプチド、ペプチド、脂質、炭水化物、他のポリヌクレオチドその他物質から分離されるものである。本願の単離された核酸分子はRNAをコードすることができ、例えば、CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするgRNAをコードすることができる。
【0037】
本願において、用語「ドナー核酸分子」とは、一般的に、レシピエント(例えば、レシピエント核酸分子)に異種核酸配列を提供する核酸分子を指す。
【0038】
本願において、用語「ビエッティ結晶性ジストロフィー」とは、一般的に、一群の常染色体潜性遺伝性眼疾患を指す。主な症状として、角膜における結晶(透明な被膜)、網膜の光感受性組織に沈着した微細な黄色または白色の結晶性沈着物、ならびに網膜、脈絡膜毛細血管および脈絡膜の進行性萎縮を含む。ビエッティ結晶性ジストロフィーはCYP4V2遺伝子変異に起因する疾患を含むことができる。
【0039】
本願において、用語「キット」とは、一般的に、容器、レセプタクルその他の容器中にパッケージされる二つ以上の成分を指し、そのうちの一つは本願に記載のgRNA、一種または複数種の単離された核酸分子、ドナー核酸分子および/またはベクター、医薬組成物または細胞に対応する。そのため、キットは、特定の目標を達成するのに十分な製品および/または器具のセットとして説明することができ、これらは単一のユニットとして販売されることができる。
【0040】
本願において、用語「細胞」は、当該技術分野において一般的に認められた意味を有する。当該用語は、その通常の生物学的意味で用いられており、完全な多細胞生物、例えば具体的にはヒトを指すものではない。細胞は、鳥類、植物および哺乳動物、例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、類人猿、サル、ブタ、イヌおよびネコなどの生物体に存在することができる。細胞は、前核(例えば、細菌細胞)であってもよく、真核(例えば、哺乳動物または植物細胞)であってもよい。細胞は、体細胞起源または生殖細胞起源、全能性または多能性、分裂または非分裂でありうる。細胞は、配偶子もしくは胚、幹細胞、または完全に分化した細胞に由来するものであってもよく、それらを含んでもよい。
【0041】
本願において、用語「医薬組成物」とは、一般的に、必要とする被験者への投与に適した組成物を指す。例えば、本願に記載の医薬組成物は、本願に記載のgRNA、本願に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、本願に記載のドナー核酸分子および/または本願に記載のベクター、ならびに薬学的に許容される担体を含有してもよい。用語「被験者」または「個体」または「動物」または「患者」は、本願において、本願の医薬組成物の投与を需要とする被験者、例えば哺乳動物被験者を指すために互換的に使用される。動物被験者には、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、黄牛、乳牛等、例えばマウスが含まれる。一実施形態において、医薬組成物は、網膜下、非経口、経皮、腔内、動脈内、膜内および/または鼻腔内投薬あるいは組織に直接注射するための組成物を含む。例えば、前記医薬組成物は網膜下注射によって被験者に投薬される。
【0042】
本願において、用語「人工多能性幹細胞」とは、一般的に、体細胞が一定の条件下で全能性状態に戻った細胞を指す。前記全能性とは、それが持つ、生体のあらゆる種類の細胞に分化し、完全な胚を形成したり、さらに新しい個体に成長したりする能力を指す。例えば、本願において、前記誘導多能性幹細胞は、腎上皮細胞を培養することにより得られる、網膜細胞に分化する能力を有するものを含む。
【0043】
本願において、用語「ベクター」とは、一般的に、それと連結されている別の核酸を運搬することができる核酸分子を指す。ベクターの一つの種類は「プラスミド」であり、他のDNA断片がライゲーションされうる環状二本鎖DNA環を指す。例えば、本願に記載されるように構築されたPMD-19T-MCSプラスミドが挙げられる。ベクターのもう一つの種類は「ウイルスベクター」であり、他のDNA断片がウイルスゲノムにライゲーションされることができる。例えば、本願に記載されるように構築されたAAVウイルスベクターが挙げられる。
【0044】
本願において、用語「CYP4V2」とは、一般的に、シトクロムP450ファミリー4サブファミリーVメンバー2であるタンパク質を指す。用語「シトクロムP450」とは、cytochromeP450またはCYP450と呼ばれてもよく、一般的に、内在性物質または薬物、環境化合物を含む外在性物質の代謝に関与する、モノオキシゲナーゼの一種類である、一類のヘムタンパク質ファミリーを指す。アミノ酸配列の相同性により、そのメンバーはそれぞれ、ファミリー、サブファミリーおよび酵素個体という三つに分類される。シトクロムP450酵素系はCYPと略記されることができ、ただし、ファミリーはアラビア数字で、サブファミリーはアルファベットの大文字で、酵素個体はアラビア数字で表され、例えば本願におけるCYP4V2のように示される。ヒトCYP4V2遺伝子(HGNC:23198;NCBI ID:285440)は、全長19.28kb、4q35に位置し、11個のエクソンを有し、脂肪酸代謝に重要な役割を果たす(Kumar S., Bioinformation,2011,7:360-365)。本願に記載のCYP4V2は、その機能的変異体、断片、ホモログ等を含むことができる。CYP4V2は、ほぼすべての組織で発現するが、網膜および網膜色素上皮では高レベルで、角膜組織ではやや低レベルで発現している。CYP4V2遺伝子の変異は、ビエッティ結晶性ジストロフィーおよび/または網膜色素変性と関連している可能性がある。
【0045】
本願において、用語「gRNA」とは、一般的に、RNA分子であるガイドRNA(guide RNA)を指す。自然界では、crRNAとtracrRNAは通常、2つの別々のRNA分子として存在し、gRNAを構成している。用語「crRNA」とは、CRISPR RNAと呼ばれてもよく、一般的に、標的化された標的DNAに相補的なヌクレオチド配列のストレッチを指し、用語「tracrRNA」とは、一般的に、Casヌクレアーゼに結合できる足場型のRNAを指す。crRNAとtracRNAはまた、一本鎖に融合されてもよく、その場合、gRNAは一本鎖ガイドRNA(single guide RNA、sgRNA)とも呼ばれる。sgRNAは当業者がCRISPR技術で使用するgRNAの最も一般的な形態となっているため、用語「sgRNA」と「gRNA」は本願において同じ意味を有する場合がある。sgRNAは人工的に合成されるか、DNAテンプレートからインビトロでまたはインビボで製造されることが可能である。sgRNAはCasヌクレアーゼに結合することができ、また、標的DNAを標的化して、Casヌクレアーゼに、gRNAに相補的なDNA部位を切断するように指示することができる。
【0046】
本願において、用語「HEK293細胞」とは、一般的に、「ヒト胚性腎細胞293」を指し、ヒト胚性腎細胞に由来する細胞であり、培養が容易であり、トランスフェクション効率が高いという特徴を持ち、外在性遺伝子の研究にあたり、当該技術分野で一般的に用いられている細胞株である。
【0047】
本願において、用語「腎上皮細胞」とは、一般的に、指在ヒト尿から採取される腎臓の上皮細胞を指す。本願において、それは誘導多能性幹細胞の供給源となる。当該技術分野では、尿における腎上皮細胞を用いて多能性幹細胞を誘導することは、費用対効果が高く、汎用性があり、様々な年齢、性別および人種に対応することができる。この技術では、他の既存の方法より、患者の検体を大量に取得することはかなり容易かつ経済的になる。
【0048】
本願において、用語「網膜下注射」とは、一般的に、光受容細胞と網膜色素上皮(RPE)層との間に、導入される物質を導入することを指す。網膜下注射の間、物質(例えば、本願に記載のgRNA、本願に記載の一種または複数種の単離された核酸分子、本願に記載のドナー核酸分子、本願に記載のベクター、および薬学的に許容される担体)は光受容細胞と網膜色素上皮(RPE)層との間に導入され、その間に空間が形成される。
【0049】
本願に記載の特定のタンパク質と核酸分子に加えて、本願ではその機能的変異体、誘導体、類似体、ホモログおよびその断片を含むことができる。
【0050】
用語「機能的変異体」とは、天然に存在する配列と基本的に同一のアミノ酸配列を有するか、基本的に同一のヌクレオチド配列によってコードされ、天然に存在する配列の一つ以上の活性を有するポリペプチドを指す。本願の文脈において、任意の所与の配列の変異体とは、前記ポリペプチドまたはポリヌクレオチドが少なくとも一つの内在性機能を基本的に保持するように、残基の特定の配列(アミノ酸残基またはヌクレオチド残基のいずれか)が修飾されている配列を指す。変異体配列は、元の機能活性が保持される限り、天然に存在するタンパク質および/またはポリヌクレオチドに存在する少なくとも一つのアミノ酸残基および/またはヌクレオチド残基の付加、欠失、置換、修飾、代替および/または変異によって得ることができる。
【0051】
本願において、用語「誘導体」とは、一般的に、本願のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して、得られるポリペプチドまたはポリヌクレオチドはその少なくとも一つの内在性機能を基本的に保持する限り、配列からの/への一つ(または複数)のアミノ酸残基のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失および/または付加を含むものを指す。
【0052】
本願において、用語「類似体」とは、一般的に、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドのいかなる模倣体、すなわち、当該模倣体が模倣するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの少なくとも一種内在性機能を有する化学化合物を含むものを指す。
【0053】
通常、修飾された配列は所望の活性または能力を基本的に保持する限り、例えば少なくとも1個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または20個以上)のアミノ酸置換を行うことができる。アミノ酸置換は、非天然に存在する類似体を使用することができる。
【0054】
本願で使用されるタンパク質またはポリペプチドはまた、前記アミノ酸残基に非表現の変化を生じ、機能的に等同のタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有してもよい。内在性機能が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいて、意図的なアミノ酸置換を行ってもよい。例えば、負の電荷を帯びたアミノ酸としてはアスパラギン酸とグルタミン酸が挙げられ、正の電荷を帯びたアミノ酸としてはリジンとアルギニンが挙げられ、また、電気的に極性のある頭部基を持たない親水性の値が類似したアミノ酸としてはアスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンとチロシンが挙げられる。
【0055】
本願において、用語「ホモログ」とは、一般的に、比較されるアミノ酸配列と比較されるヌクレオチド配列と一定の相同性を有するアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を指す。用語「相同性」は配列「同一性」と同等に理解してもよい。相同配列は、主題配列(subject sequence)と少なくとも80%、85%、90%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%が相同なアミノ酸配列を含むことができる。通常、ホモログは主題アミノ酸配列(subject amino acid sequence)と相同な活性部位等を含有する。相同性は、類似性(すなわち、類似する化学性質/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考慮してもよく、配列の同一性の観点から相同性を表現してもよい。本願において、言及されるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列のSEQ ID NOのいずれか一項においてパーセント同一性を有する配列とは、言及されるSEQ ID NOの全長にわたり、前記パーセント同一性を有する配列を指す。
【0056】
配列同一性を決定するために、配列アラインメントを行うことができる。これは当業者に公知の様々な方法で行われ、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、NEEDLEまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等を使用することができる。当業者は、比較される全長配列にわたって最適なアラインメントを実現するために必要ないかなるアルゴリズムを含む、アラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。
【0057】
本願において、用語「および/または」、選択肢のいずれか一方、又は選択肢の両方を意味すると理解されるべきである。
【0058】
本願において、用語「含有する」または「含む」とは、一般的に、明示的に指定された特徴を含むが、他の要素を除外することを意図していないことを指す。
【0059】
本願において、用語「約」とは、一般的に、指定される数値以上または以下0.5%-10%の範囲内で変化すること、例えば、指定される数値以上または以下0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%の範囲内で変化することを指す。
【0060】
発明の詳細な説明
gRNA
一方、本願は、シトクロムP450ファミリー4サブファミリーVポリペプチド2の遺伝子(CYP4V2遺伝子)特異的に標的とするgRNAを提供するものであって、前記gRNAは前記CYP4V2遺伝子の第6エクソンと第7エクソンの間のイントロン領域に特異的に結合する。
【0061】
特定の実施態様において、前記gRNAはSEQ ID NO:41で示されるヌクレオチド配列に特異的に結合することができる。特定の実施態様において、前記gRNAは、SEQ ID NO:41で示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%)配列同一性を有するヌクレオチド配列に特異的に結合することができる。本願において、前記「同一性」とは、塩基配列が一致する異なるヌクレオチド配列を指す。
【0062】
特定の実施態様において、前記gRNAは、SEQ ID NO:41で示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列に特異的に結合することができる。特定の実施態様において、前記gRNAは、SEQ ID NO:41で示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%)配列同一性を有するヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列に特異的に結合することができる。
【0063】
本願に記載のgRNAは、目標の標的核酸(例えば、前記CYP4V2遺伝子の第6エクソンと第7エクソンの間のイントロン領域)配列に結合することができる。gRNAは、ハイブリダイゼーション(すなわち、塩基対合)により、配列特異的に目標の標的核酸と相互作用することができる。sgRNAのヌクレオチド配列は、目標の標的核酸の配列に応じて変化することはできる。
【0064】
本願において、前記gRNAは、SEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列を含むことができる。本願において、前記gRNAは、SEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%)配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むことができる。
【0065】
本願において、前記gRNAは、5’端から3’端まで、(X)n、SEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列とバックボーン配列を含有することができ、ただし、XはA、U、CおよびGから選択されるいずれかの塩基であり、かつnは0-15のいずれの整数である。本願において、前記gRNAは、5’-(X)n-SEQ ID NO:48-51のいずれかのヌクレオチド配列-バックボーン配列-3’ を含有することができ、ただし、XはA、U、CおよびGから選択されるいずれかの塩基であり、かつnは0-15のいずれの整数である。
【0066】
例えば、本願に記載のバックボーン配列は、一般的に、gRNAにおける、標的配列を認識またはハイブリダイズする部分以外の部分を指し、sgRNAにおけるgRNAペアリング配列と転写ターミネーターの間の配列を含んでもよい。バックボーン配列は一般的に標的配列の変化によって変化することはなく、gRNAが標的配列を認識することにも影響を与えない。そのため、バックボーン配列は従来技術における利用可能な任意の配列である。バックボーン配列の構造について、文献Nowak et al.Nucleic Acids Research 2016.44:9555-9564のFigure 1(図1)におけるAとB,Figure 3(図3)におけるA、B、C、およびFigure 4(図4)おけるA、B、C、D、Eに記載のスペーサー配列(spacer sequence)以外の部分を参照してもよい。
【0067】
特定の実施態様において、前記gRNAは一本鎖または二本鎖ガイドRNAであってもよい。例えば、前記gRNAは一本鎖ガイドRNA(例えば、sgRNA)であってもよい。
【0068】
本願は、一種または複数種の単離された核酸分子を提供するものであって、前記単離された核酸分子は上述したCYP4V2遺伝子を特異的に標的とするgRNAをコードすることができる。例えば、前記単離された核酸分子はSEQ ID NO:1-7のいずれかのヌクレオチド配列を含有することができる。
【0069】
本願は、一種または複数種の単離された核酸分子を提供するものであって、前記単離された核酸分子は上述したCYP4V2遺伝子を特異的に標的とするgRNAをコードすることができる。例えば、前記単離された核酸分子はSEQ ID NO:1-4のいずれかのヌクレオチド配列を含有することができる。
【0070】
本願において、前記gRNA配列は、Casヌクレアーゼによって認識可能なPAM配列の近傍で標的核酸にハイブリダイズするように設計することができる。前記gRNAは、標的配列と完全に相補的であっても、不完全に相補的であってもよい。gRNAとそれに対応する標的配列との相補性の程度は、少なくとも50%(例えば、少なくとも約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、またはそれ以上)。前記「Casヌクレアーゼ」とは、一般的に、CRISPR配列(例えば、gRNA)をガイドとして、特定のDNA鎖を認識・切断する能力を有するものを指す。例えば、Cas9ヌクレアーゼ、Csn1またはCsx12が挙げられる。Cas9ヌクレアーゼは通常RuvCヌクレアーゼドメインおよびHNHヌクレアーゼドメインを含み、それぞれは二本鎖DNA分子の二つの異なる鎖を切断する。Cas9ヌクレアーゼはこれまで、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophiles)、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(Gasiunas,Barrangou et al.2012;Jinek,Chylinski et al.2012)およびストレプトコッカス・ピオゲネス(S.Pyogenes)(Deltcheva,Chylinski et al.2011)などの異なるバクテリア種で確認されてきた。例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のCas9タンパク質のアミノ酸配列はSwissProtデータベースアクセッション番号Q99ZW2に;ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitides)のCas9タンパク質のアミノ酸配列はUniProtデータベースアクセッション番号A1IQ68に;ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)のCas9タンパク質のアミノ酸配列はUniProtデータベースアクセッション番号Q03LF7に;黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のCas9タンパク質(例えば、本願に記載のベクターにおけるSaCas)のアミノ酸配列はUniProtデータベースアクセッション番号J7RUA5に示されている。Casヌクレアーゼは通常、DNAから特定のPAM配列を認識することができる。例えば、前記PAMはSEQ ID NO:8-14のいずれかに記載のヌクレオチド配列を含有することができる。
【0071】
本願に記載のgRNAおよび/または単離された核酸分子はベクターを使って運搬することができる。本願において、前記ベクター(例えばpX601)はCasヌクレアーゼをコードする核酸を含有してもよいし、それを含有しなくてもよい。本願において、Casヌクレアーゼは一種または複数種のポリペプチドとして別々に運搬されることができる。または、前記Casヌクレアーゼをコードする核酸分子は、一種または複数種のガイドRNA、または一種または複数種のcrRNAおよびtracrRNAと、別々に運搬してもよいし、またはそれらを複合体にしておいてから運搬してもよい。例えば、前記本願の核酸分子(例えば、前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNAをコードする単離された核酸分子)とCas9ヌクレアーゼをコードする核酸分子は、同一ベクター(例えば、プラスミド)に存在することができる。前記ベクターは当該技術分野では公知のウイルス性または非ウイルスベクターを含むことができる。
【0072】
非ウイルス性運搬ベクターとしては、ナノ粒子、リポソーム、リボ核タンパク質、正の電荷を帯びたペプチド、低分子RNAコンジュゲート、アプタマー-RNAキメラとRNA融合タンパク質複合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
本願において、前記単離された核酸分子および/または前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子はプラスミドを通じて運搬されることができる。
【0074】
特定の実施態様において、前記ベクターはウイルスベクターであってもよく、例えば、AAV、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスおよび肝炎ウイルスが挙げられる。ベクターゲノムの一部として核酸分子(例えば、本願に記載の単離された核酸分子)を含有するウイルスベクターを製造する方法は当該技術分野では公知のものであり、当業者には過度の実験なくとも実行することができる。他の実施態様において、前記ベクターは、本願に記載の核酸分子をパッケージした組換えAAVウイルス粒子であってもよい。前記組換えAAVを製造する方法として、本願に記載の核酸分子をパッケージング細胞株に導入し、AAVを発現するrepとcap遺伝子のパッケージングプラスミドを細胞株に導入し、およびパッケージング細胞株上清から組換えAAVを収集することを含むことができる。パッケージング細胞株は様々な種類の細胞であってもよい。例えば、使用可能なパッケージング細胞株として、HEK 293細胞、HeLa細胞およびVero細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
ドナー核酸分子とベクター
他方、本願はドナー核酸分子を提供するものである。本願において、用語「ドナー核酸分子」とは、一般的に、レシピエント(例えば、レシピエント核酸分子)に異種核酸配列を提供する核酸分子を指す。特定の実施態様において、前記ドナー核酸分子はレシピエント細胞に導入されることで、前記単離された核酸分子によって切断されたDNA断片(例えば、断片化した二本鎖DNA)を修復することができる。他の特定の実施態様において、断片化したDNAはドナー核酸分子を通じて修復されることができる。修復の方法として、DNA相同性に依存する相同組換え(Homologous recombination,HR)による修復と非相同末端結合(Non-homologous end joining,NHEJ)による修復方法があるが、これらに限定されるものではない。HRは、相同配列またはドナー配列(例えば、前記を標的とするベクター)をテンプレートとして用いて、特定のDNA配列を切断部位に挿入する方法である。相同配列は、例えば姉妹染色分体(sister chromatid)のような内在性ゲノムに存在してもよい。または、前記ドナーは、例えばプラスミド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチドまたはウイルスのような外在性核酸であってもよい。例えば、前記ドナーは、本願に記載のドナー核酸分子を含有することができる。それらの外在性核酸は、与Casヌクレアーゼによって切断される遺伝子座と相同性の高い領域を含有することができ、さらに追加の配列または配列変化(切断された標的遺伝子座に組み込むことができる欠失を含む)を含有することができる。NHEJは、二本鎖切断から生じるDNA末端を直接接合させるが、ヌクレオチド配列の欠失または付加をもたらすことがあり、遺伝子発現を破壊する場合もあり、増強する可能性がある。そのうち、NHEJに基づくマイクロホモロジー媒介末端結合(Microhomology-mediated end joining,MMEJ)、相同非依存性標的組み込み(Homology-independent targeted integration,HITI)およびHRを介した末端結合(Homology-mediated end joining,HMEJ)がある。例えば、本願において、HITI修復方法を使って、ドナー核酸分子を前記単離された核酸分子(例えば、前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNAをコードする単離された核酸分子)によって切断されたDNA断片(例えばCYP4V2遺伝子断片)に結合させることができる。
【0076】
本願に記載のドナー核酸分子に関して、ドナー核酸分子は野生型ヒトヌクレオチド配列または異なる数のイントロンとエクソンを含む遺伝子断片であってもよい。特定の実施態様において、前記ドナー核酸分子はイントロン(0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個または11個)を含有してもまたは含有しなくてもよい。特定の実施態様において、それは、CYP4V2遺伝子のイントロン6とエクソン11の間のヌクレオチド配列を含有することができる。例えば、それは、イントロン6からエクソン11までの一個または一個以上(例えば、2個、3個、4個、5個または6個)のエクソンのヌクレオチド配列を含有することができ、例えばエクソン7、エクソン8、エクソン9、エクソン10および/またはエクソン11の中の一個または複数個のヌクレオチド配列を含有することができる。例えば、本願において、前記ドナー核酸分子は、CYP4V2 7号からエクソン11までを含有することができる。例えば、前記ドナー核酸分子は、SEQ ID NO:39で示されるヌクレオチド配列を含有する。特定の実施態様において、前記ドナー核酸は、SEQ ID NO:39で示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%)配列同一性を有するヌクレオチド配列を含有することができる。本願に記載のCYP4V2ヌクレオチド配列を含有することができる「核酸分子」と本願に記載のCYP4V2を特異的に標的とするgRNAまたは「単離された核酸分子」とは別のものである。
【0077】
他方、本願は、前記単離された核酸分子(例えば、前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNAをコードする単離された核酸分子)および/または前記ドナー核酸分子(例えば、前記ヒトCYP4V2遺伝子をコードするヌクレオチド分子)を含有するベクターを提供するものである。
【0078】
特定の実施態様において、前記単離された核酸分子と前記ドナー核酸分子は異なるベクター上に存在してもよい。他の特定の実施態様において、前記単離された核酸分子と前記ドナー核酸分子は同一ベクター上に存在することができる。本願において、前記単離された核酸分子を含有するベクターと前記ドナー核酸分子を含有するベクターが同時に細胞に導入されると、Casヌクレアーゼはドナー核酸分子と細胞ゲノムDNAを同時に切断し、ドナー核酸分子を細胞ゲノムの正確な位置(例えば、CYP4V2遺伝子断片)に挿入し、特定の実施態様において、この方法での挿入効率は非常に高い。
【0079】
一実施形態において、前記ベクターはウイルスベクターである。例えば、AAV、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスと肝炎ウイルスが挙げられる。ベクターゲノムの一部として核酸分子(例えば、本願に記載の単離された核酸分子)を含有するウイルスベクターを製造する方法は、当該技術分野では公知のものであり、当業者には過度の実験なくとも実行することができる。
【0080】
細胞、医薬組成物、用途および方法
本願は、細胞を提供するものであって、前記細胞は前記単離された核酸分子および/または前記ドナー核酸分子を含有することができる。本願に記載の細胞はsgRNAとCasヌクレアーゼを発現することができ、優れたDNA切断効果を有する。本願に記載の細胞は、正常な機能を有するCYP4V2タンパク質を発現することができる。前記細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒトに由来する細胞を含むことができる。例えば、前記細胞はCOS細胞、COS-1細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、NS0細胞または骨髄腫細胞、幹細胞(例えば、多能性幹細胞および/または全能性幹細胞)、および/または上皮細胞(例えば、腎上皮細胞および/または網膜上皮細胞)を含むことができる。本願において、前記細胞は、HEK293細胞および/または尿中腎上皮細胞を含むことができる。本願において、前記細胞は修飾により分化能を有することができる。前記分化能は、生体のあらゆる種類の細胞(神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、網膜上皮細胞、表皮、毛髪とケラチノサイト、肝細胞、β細胞、腸上皮細胞、肺泡細胞、造血細胞、内皮細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、腎細胞、脂肪細胞、軟骨細胞および/または骨細胞)に分化する能力を含むことができる。例えば、前記細胞は、重要な初期化遺伝子(例えば、OCT4、KLF4、SOX2、cMYC、NANOGおよび/またはLIN28)が過剰発現した誘導多能性幹細胞(iPSC)に初期化することができる。
【0081】
本願に記載の細胞は、遺伝子編集療法に必要な物質(例えば、sgRNAとドナー核酸分子)の有効性および安全性を評価するために使用することができる。
【0082】
本願は、医薬組成物を提供するものであって、前記医薬組成物は前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、前記ベクター、および薬学的に許容される担体を含有する。前記担体は非毒性であり、有効成分の効果を妨げてはならない。
【0083】
本願は、キットを提供するものである。前記キットは通常、容器、レセプタクルその他の容器中パッケージされる二つ以上の成分を含む。例えば、本願において、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、前記ベクターを含有する。
【0084】
本願に記載の医薬組成物は、様々な方法によって導入することができ、例えば、硝子体内注射(例えば、前方、内側または後方の硝子体内注射)、結膜下注射、前房内注射、側頭縁部を介する前眼房への注射、基質内注射、脈絡膜下空間への注射、角膜内注射、網膜下注射と眼内注射により、眼に局所投予することが挙げられるが、それらに限定するものではない。前記導入は、網膜下腔、すなわち感覚神経網膜の下への注射である網膜下注射を含むことができる。網膜下注射の間、注射される(例えば、前記標的化ベクター、前記gRNA、および/または前記プラスミド)を光受容細胞と網膜色素上皮(RPE)層の間に直接導入し、その間に空間を形成する。
【0085】
本願は、疾患の治療のための医薬の製造における、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、前記ドナー核酸分子、および/または前記ベクターのいずれか一項の使用を提供するものである。そのうち、前記疾患はCYP4V2遺伝子変異による疾患を含むことができる。そのうち、前記変異は、CYP4V2遺伝子のエクソン6とエクソン7の間のイントロンの後ろに位置する。例えば、前記疾患はビエッティ結晶性ジストロフィーを含むことができる。
【0086】
本願は、必要とする被験者に前記gRNA(例えば、CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNA)、前記一種または複数種の単離された核酸分子(前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNAをコードする単離された核酸分子)、前記ドナー核酸分子(前記ヒトCYP4V2遺伝子をコードするヌクレオチド分子)、および/または前記ベクター、を導入する工程を含むビエッティ結晶性ジストロフィーを治療する方法を提供するものである。そのうち、前記導入により、被験者は正常な機能を有するCYP4V2タンパク質を獲得する。
【0087】
本願に記載の方法は、エクスビボ法(ex vivo)を含むことができる。特定の実施態様において、被験者特異的な誘導多能性幹細胞(iPSC)を獲得することができる。さらに、誘導多能性幹細胞をあらゆる種類の細胞、例えば光受容細胞または網膜祖細胞に分化させることができる。本願においては、3D網膜オルガノイドであってもよい。次に、本願に記載の方法を使って、これらの3D網膜オルガノイド細胞のゲノムDNAを編集することができる。例えば、当該方法は、3D網膜オルガノイド細胞のCYP4V2遺伝子の変異部位内またはその近傍を、変異を有するCYP4V2タンパク質をコードしないように編集することを含むことができる。最後に、3D網膜オルガノイド細胞を被験者体内に移植することができる。
【0088】
他の特定の実施態様において、被験者から光受容細胞または網膜祖細胞を分離することができる。次に、本願に記載の方法を使って、これらの光受容細胞または網膜祖細胞のゲノムDNAを編集することができる。例えば、当該方法は、光受容細胞または網膜祖細胞のCYP4V2遺伝子の変異部位内またはその近傍を、変異を有するCYP4V2をコードしないように編集することを含むことができる。最後に、遺伝子編集された光受容細胞または網膜祖細胞を被験者体内に移植することができる。
【0089】
前記方法、投薬する前に、治療薬に対する全面的な分析をすることを含むことができる。例えば、校正細胞に対して全ゲノム配列決定を行い、被験者への最小限のリスクと関連するゲノム位置にオフターゲット効果(もしあれば)がないことを保証することができる。さらに、移植する前に、クローン細胞集団を含む特定の細胞の集団を分離することができる。
【0090】
本願に記載の方法は、部位特異的ヌクレアーゼを使って、ゲノムにおいて正確な標的位置でDNAを切断することで、ゲノムにおける特定の位置に一本鎖または二本鎖DNAの切断を生成する方法を含むことができる。このような切断は、内在性細胞プロセス、例えば相同組換え、非相同末端結合によって周期的に修復することができる。
【0091】
本願に記載の方法は、目標遺伝子座において標的配列の近傍の位置に一つまたは二つのDNAの切断を生成することを含むことができ、二つのDNAの切断は二本鎖切断または二つの一本鎖切断であってもよい。前記切断は、部位特異的(site-directed)ポリペプチドによって実現することができる。部位特異的ポリペプチド(例えばDNAエンドヌクレアーゼ)は、核酸(例えばゲノムDNA)に二本鎖切断または一本鎖切断を導入することができる。二本鎖切断は、細胞の内在性DNA修復経路、例えば、HR、NHEJを刺激することができる。
【0092】
外在性ドナーテンプレートを利用して、相同フランキング領域の間に追加の核酸配列(例えば、前記標的化ベクター)または修飾(例えば単一または複数の塩基改変または欠失)を導入することで、追加のまたは改変された核酸配列を目標遺伝子座に組み込むことができる。外在性ドナーはプラスミドベクター、例えば、AAVベクターおよび/またはTAクローニングベクター(例えば、ZT4ベクター)によって運搬されることができる。
【0093】
本願は、細胞に、前記gRNA、前記一種または複数種の単離された核酸分子、および/または前記ベクターを導入することを含む、細胞におけるCYP4V2遺伝子の発現を調節する方法を提供するものである。
【0094】
本願において、前記方法は、前記gRNAを前記細胞に導入することであってもよい。例えば、前記gRNAは、レシピエント細胞のゲノムのCYP4V2遺伝子断片を標的化し、ヌクレアーゼによってそれを切断することで、CYP4V2遺伝子がタンパク質に翻訳される機会が少なくなり、翻訳されたタンパク質は正常な機能を発揮できなくなるという効果をもたらす。
【0095】
本願において、前記方法は、前記一種または複数種の単離された核酸分子前記細胞に導入することであってもよい。例えば、前記CYP4V2遺伝子を特異的に標的とするsgRNAをコードする単離された核酸分子は、前記CYP4V2遺伝子断片を破壊させることで、CYP4V2遺伝子がタンパク質に翻訳される機会が少なくなり、翻訳されたタンパク質は正常な機能を発揮できなくなるという効果をもたらす。
【0096】
本願において、前記方法は、前記ベクターを前記細胞に導入することであってもよい。前記ベクターは、前記単離された核酸分子および/または前記ドナー核酸分子を含有する。特定の実施態様において、前記ベクターは、前記単離された核酸分子と前記ドナー核酸分子を含有することで、前記細胞におけるCYP4V2遺伝子は前記ドナー核酸分子に代替されて、CYP4V2遺伝子がタンパク質に翻訳される機会の変化(例えば、CYP4V2タンパク質の発現がない状態から正常な発現の量へ変化する)、翻訳されたタンパク質の機能が異常から正常になる効果をもたらす。特定の実施態様において、前記ベクターは前記単離された核酸分子を含有することで、前記CYP4V2遺伝子断片が破壊されて、CYP4V2遺伝子がタンパク質に翻訳される機会が少なくなり、翻訳されたタンパク質は正常な機能を発揮できなくなるという効果をもたらす。他の特定の実施態様において、前記ベクターは前記ドナー核酸分子を含有することで、前記細胞内により多くのCYP4V2遺伝子断片を含有し、より多くのCYP4V2タンパク質に転写および翻訳することができる。
【0097】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、以下の実施例は、本願発明の核酸分子、製造方法、用途等を説明することのみを意図しており、本願発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0098】
実施例
実施例1 sgRNAの設計
一、sgRNAのスクリーニング
CYP4V2遺伝子のDNA配列に基づいて、CYP4V2のエクソン6とエクソン7の間のイントロン領域に、PAM配列がNNGRRTとNNGRR(黄色ブドウ球菌、Staphylococcus aureus、SA;SaCas9)、長さ21bpのsgRNAを設計した。
【0099】
スコアに基づいて、合計で7つ(NNGRRTは5つ、NNGRRは2つ)のsgRNAを設計した。その配列は表1に示されている。
【0100】
【表1】
【0101】
二、sgRNAの合成
酵素切断部位Bbs1の配列に基づいて、設計されたsgRNAの上流と下流にBbs1酵素切断部位を付加し、また、それぞれのsgRNAの上流と下流の400bp以内で対応するプライマーを設計した。対応するオリゴヌクレオチド配列およびプライマーの設計は表2に示されている。
【0102】
【表2】
【0103】
三、sgRNAベクターの構築とプラスミドの抽出の具体的な工程は以下のとおりである。
【0104】
1.合成されたsgRNAを、以下の工程によりアニーリングした
上記で合成されたそれぞれのsgRNAフォワードプライマー(F)とリバースプライマー(R)を50μmolに希釈し、sgRNA(F、R)をそれぞれ5μL採取し、sgRNA混合物1-7を調製した。T4ポリヌクレオチドキナーゼ(PNK)および10×T4ライゲーションバッファー、使用可能な状態まで氷上で解凍しておいた。以下の反応系を調製した。
【0105】
【表3】
【0106】
上記で調製した反応系をPCR装置に設置し、以下の反応プログラムを開始した。
【0107】
【表4】
【0108】
反応産物を回収した。
【0109】
2.ベクターを酵素切断する工程は以下のとおりである
sgRNAベクター構築に使用のプラスミドはpX601ベクター(Addgene、61591)である。プラスミドマップは図1に示されている。
【0110】
BSaI酵素を使って、sgRNAの結合部位を切断し放出させ、在1.5mLのPCRチューブで以下のような酵素切断反応系を調製した。
【0111】
【表5】
【0112】
その後、1-2hの酵素切断(または一晩の酵素切断)を行い、生成物を回収・精製し、濃度を測定し、50ng/μLに希釈した。
【0113】
3.sgRNAを工程2で回収したベクターにライゲートした
工程2で回収したベクターとアニーリングしたsgRNAを使って、以下のようなライゲーション系(200μL PCRチューブ)を調製した。
【0114】
【表6】
【0115】
ライゲーション反応系を37℃に置き、約1-2hライゲートし、sgRNAベクターの構築を完成させた。
【0116】
4.プラスミド形質転換
(1)TransStbl3ケミカルコンピテントセル(chemically competent cells。北京全式金生物技術有限公司CD-521-02)を取り出して、氷上で解凍しておき;
(2)1μLのライゲーション産物を50μLのコンピテントセルに添加し、氷上で30分インキュベートし、42度で90secヒートショックし、氷上で2min静置し;
(3)非抗菌性培養液500μLを加え、37℃で、200rpmで1h振とうし;
(4)800rpm/minで5min遠心分離し、上清を除去して約100μLを得て、アンピシリン含有のLB寒天培地を用いてポジティブクローンをスクリーニングし;
(5)翌日に、スクリーニングされたポジティブクローン菌(培地500μL)を3-4時間振とうし、200μLのサンプルに対して配列決定を行った。
【0117】
5.プラスミドの抽出(Omega社Endofree Plasmid Maxi Kitによる)
(1)配列決定で正確とされたpX601-SaCas9-CYP4V2-SgRNA1-7の7つのプラスミドを一晩振とうし(50-200mL)、37℃で12-16h振とう培養してプラスミドを増幅させて、翌日に抽出した(振とう時間は16h未満である)。
【0118】
(2)菌液を50-200mL取り出して、室温下で4000×gで10min遠心分離して、菌体を収集した。
【0119】
(3)培地を廃棄した。沈殿物に10mLの溶液I/RNA酵素Aの混合液を加え、ピペッティングまたはボルテックスにより、細胞を完全に再懸濁させた。
【0120】
(4)10mLの溶液IIを加え、蓋を締め、遠心チューブを8-10回軽く上下をひっくり返して透明なライセートを得た。必要に応じて、ライセートを室温で2-3min静置してもよい。
【0121】
(5)予め冷却したN3バッファーを5mL加え、蓋を締め、白色の凝集沈殿物が形成するまで、遠心チューブを10回軽く上下をひっくり返した。室温下で2min静置してインキュベートしてもよい。
【0122】
(6)シリンジフィルターを用意し、シリンジの中のピストンを引き抜き、シリンジを適切な試験管ラックに垂直に置き、インジェクター下端の出口に収集試験管を置き、シリンジの開口部を上向きにした。ライセートを直ちにフィルターのシリンジに注ぎ込んだ。細胞ライセートをシリンジ内で5min静置した。そして、ライセートの表面には白色の凝集物が浮くようになる。細胞ライセートはろ過インジェクターの出口から流れ出した可能性がある。新しい50mLの試験管で細胞ライセートを収集した。慎重にインジェクターピストンをシリンジに軽く挿入し、ライセートが収集試験管に流れ込むように、ピストンをゆっくりと押した。
【0123】
(7)流れ出したろ過ライセートに0.1倍体積のETR溶液(青色)を加え、試験管を10回ひっくり返して、氷浴中で10min静置した。
【0124】
(8)上記ライセートを42℃下で5min水浴させた。ライセートには混濁が再度出た。そこで、25℃、4000×gで5minの遠心分離をし、ETR溶液は試験管の底部に青色の層が形成した。
【0125】
(9)上清を別の新しい50mL試験管に移し、0.5倍体積の室温の無水エタノールを加え、試験管を6-7回軽くひっくり返して、室温で1-2min静置した。
【0126】
(10)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを50mLの収集試験管にセットし、20mLのろ液をHiBind(R) DNA Maxi結合カラムに加えた。室温下で、4000×gで3min遠心分離を行った。ろ液を廃棄した。
【0127】
(11)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを同一の収集試験管にセットし、残りのろ液が全部HiBind(R) DNA Maxi結合カラムに結合するまで、工程10を繰り返して、同じ条件で遠心分離を行った。
【0128】
(12)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを同一の収集試験管にセットし、HiBind(R) DNA Maxi結合カラムに10mLのHBCバッファーを加え、室温下で4000×gで3min遠心分離を行って、ろ液を廃棄した。
【0129】
(13)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを同一の収集試験管にセットし、HiBind(R) DNA Maxi結合カラムに15mLのDNA洗浄バッファー(無水エタノールで希釈したもの)を加え、室温下で4000×gで3min遠心分離を行って、ろ液を廃棄した。
【0130】
(14)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを同一の収集試験管にセットし、HiBind(R) DNA Maxi結合カラムに10mLのDNA洗浄バッファー(無水エタノールで希釈したもの)を加え、室温下で4000×gで3min遠心分離を行って、ろ液を廃棄した。
【0131】
(15)最高速度(6000×g未満)で10min回転させ、HiBind(R) DNA Maxi結合カラムのマトリックスを乾燥させた。
【0132】
(16)(オプション)さらにHiBind(R) DNA Maxi結合カラムを風乾燥させる。(任意に)以下のいずれかの方法でHiBind(R) DNA Maxi結合カラムをさらに乾燥させた後、DNAの溶出を行う(必要に応じて):
【0133】
a)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを真空容器に15min静置してエタノールを乾燥させる:室温下で、カラムを真空チャンバーに移して、真空チャンバーの全ての装置を接続する。真空チャンバーを密閉させ、15minの真空を行う。HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを移動して、次の工程に供する。
【0134】
b)真空オーブンでカラムを乾燥させまたは65℃で10-15min乾燥させる。HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを移動して、次の工程に供する。
【0135】
(17)HiBind(R) DNA Maxi結合カラムを清潔な50mLの遠心チューブにセットし、1-3mLのエンドトキシンフリーの溶出バッファーをHiBind(R) DNA Maxi結合カラムのマトリックスに直接加え(その量は目の最終製品の濃度による)、室温で5min静置した。
【0136】
(18)4000×gで5min遠心分離して、DNAを溶出させた。
【0137】
(19)カラムを廃棄して、DNA産物を-20℃で保存した。
【0138】
(20)抽出されたプラスミドpX601-SaCas9-CYP4V2-SgRNA1からpX601-SaCas9-CYP4V2-SgRNA7まで、構築されたプラスミドが正確であることを確認するために、再度の配列決定を行った。
【0139】
四、293T細胞でのsgRNAの有効性の検証
1.293T細胞の培養
(1)凍結保存細胞の融解
a)恒温水槽の温度を37℃に調節し、液体窒素から凍結保存細胞を取り出して、ピンセットで蓋を保持して、水中ですばやく振とうした。
【0140】
b)凍結保存液を15mL目盛付の遠心チューブに移し、ゆっくりと10mLの細胞の培養液を加え、軽く振とうして液体を混合させた。蓋を締め、火入れを行い、1000rpm/minで3分間遠心分離を行った。
【0141】
c)火入れを行い、適量の培養液を加え、底部の細胞沈殿物を軽くピペッティングした後、細胞を培養瓶に移してインキュベーターで培養した。293T細胞は、使われる培地が10%ウシ胎児血清と100U/mL二重抗体を添加した高グルコースDMEMであり、37℃、5%COで培養された。
【0142】
(2)細胞の継代
a)倒立顕微鏡で細胞の形態と密度を観察し、培養瓶内の細胞のコンフルエントが80%-90%に達した時点で、細胞の継代を開始した。
【0143】
b)細胞培養瓶の中の古い培養液を洗い出し、PBSで3回洗浄した。培養瓶に500μLのEDTA含有のトリプシンを加え、インキュベーターに置いて1minくらいインキュベートして、細胞の隙間が大きくなり、細胞が丸くなったら、直ちに培養瓶に1mLの培養液を加えて消化をとめ、吸引管で細胞を軽くピペッティングし、瓶の底から細胞が全部浮いてから、培養瓶の中の液体を遠心チューブに移し、1000rpm/minで2min遠心分離した。
【0144】
c)上清を除去し、遠心チューブに2mLの培地を加えて、沈殿物の細胞を再懸濁させた。細胞浮遊液をそれぞれ4つの新しい培養瓶に入れ、それぞれに4mLの培養液を加え、培養瓶を軽く振とうし、細胞を混合し、それを培養瓶に均一に広げた後、細胞のインキュベーターに置いて培養を行った。
【0145】
d)トランスフェクションの1日前に、1ウェルあたり、密度80%、細胞伸展、細胞の隙間が均一である293T細胞100wを加え、翌日に細胞のコンフルエントが80-90%に達した時点でプラスミドトランスフェクションを行った。
【0146】
2.PEI(ポリエチレンイミン)法による293T細胞へのトランスフェクション
(1)1.5mLのEPチューブを取り、チューブごとに250μLのDMEM培地(血清なし)を加え、順に1.5μgのpX601-CYP4V2-sgRNA1プラスミドと1μgのpLent-GFPプラスミド(コトランスフェクション、pX601-CYP4V2-sgRNA1プラスミドが導入されたか否かの大まかな標識)を加え、ボルテックスにより十分に混合した後、チューブごとに7.5μLのPEIトランスフェクション試薬を加え、ボルテックスにより混合し、室温で20min静置した後トランスフェクションを行った。同じ方法で、6ウェルプレートの他のウェルにそれぞれpX601-CYP4V2-sgRNA2からpX601-CYP4V2-sgRNA7までのプラスミドトランスフェクション系、pX601プラスミドなしトランスフェクション系、ブランクコントロール、をそれぞれ加えた。
【0147】
(2)培地(6ウェルプレート培地、血清なしDMEM=2mL/ウェル)に滴下し、インキュベーターで培養し、12-18hで培地の半分量を交換した。翌日に、蛍光顕微鏡でGFPの発現状況を観察して、トランスフェクション効率を評価し、トランスフェクション効率が良好であれば、トランスフェクトされたプラスミドの培養を継続した。
【0148】
(3)耐性細胞のスクリーニング
a)液の調製:10mg/mL(母液)を1μg/mLに希釈したピューロマイシン、スクリーニングされた細胞
【0149】
b)液の交換:トランスフェクションの2日後に、(ネガティブコントロールを含めて)1ウェルあたり3mLのピューロマイシン含有の293T細胞培地を加え、トランスフェクションポジティブの細胞のスクリーニングを開始し、その後毎日細胞の生存状況を観察し、2日ごとに液の交換をし、液を交換する時に、対応する量のピューロマイシンを加えた。ネガティブコントロールのウェルの細胞が完全に死滅し、実験グループとコントロールグループの細胞は生存している場合(トランスフェクションが成功したことを示す)、抗生物質によるスクリーニングを中止し、代わりに通常の培地を使用した。
【0150】
3.293T細胞ゲノムDNAの抽出
(1)6ウェルプレートの細胞のコンフルエントが80-90%に達した後、6cm培養皿に継代して培養した。
【0151】
(2)細胞のコンフルエントが80-90%に達した後、細胞を回収し、ゲノムDNAの抽出の準備をする。全工程は7-10日くらいである。ゲノムの抽出は、Nanjing Vazyme Biotech社の細胞抽出キットを使用し、実験工程は以下のとおりである:
【0152】
a)400×gで5min遠心分離し細胞を収集し、上清を除去した。220μLのPBS(リン酸バッファー)、10mLのRNase溶液と20μLのPKワーキング溶液をサンプルに加え、細胞を再懸濁させた。室温で15min以上静置し;
b)250μLのGBバッファーを細胞再懸濁液に加え、ボルテックスにより混合し、65℃で15-30min水浴し、カラムで精製し;
c)250μLの無水エタノールを消化液に加え、ボルテックスにより15-20sec混合し;
d)gDNA吸着カラムを2mL収集試験管にセットした。前工程で得られた混合液(沈殿物を含む)を吸着カラムに移した。12000×gで1min遠心分離した。カラムの閉塞現象が生じた場合は、14000×gで3-5min遠心分離した。混合液が750μLを超える場合は、数回でカラムに供し;
e)ろ液を廃棄し、吸着カラムを収集試験管にセットした。500μLの洗浄バッファーAを吸着カラムに加えた。12000×gで1min遠心分離し;
f)ろ液を廃棄し、吸着カラムを収集試験管にセットした。650μLの洗浄バッファーBを吸着カラムに加えた。12000×gで1min遠心分離し;
g)工程4を繰り返し;
h)ろ液を廃棄し、吸着カラムを収集試験管にセットした。12000×g空管で2min遠心分離し;
i)吸着カラムを新しい1.5mL遠心チューブにセットした。30-100μLの70℃に予熱した溶出バッファーを吸着カラムの膜中央に加え、室温で3min静置した。12000×gで1min遠心分離し;
注:DNA含量が多い組織は、30-100μLの溶出バッファーをさらに加えて溶出を繰り返すことができ;
j)吸着カラムを除去し、DNAを2-8℃で保存し、濃度を測定・記録し、-20℃で長期保存した。
【0153】
4.T7E1酵素切断実験
(1)上記のpX601-sgRNA1至pX601-sgRNA7プラスミドをトランスフェクトした293T細胞から抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、標的部位の近傍で、前述したそれぞれのsgRNAに対応的に設計合成された上流と下流のプライマーを利用して抽出されたゲノムDNAを増幅させ、DNA断片のPCRを行った(合計で7セットであり、それぞれJ1-J7とする)。
【0154】
(2)液体回収キット(OMEGA Gel Extraction Kit(200)D2500-02)を使って、上記のPCR産物に対して液体DNAの回収を行って;DNA回収工程は以下のとおりである:
【0155】
a)PCR反応産物に等体積の膜結合液(membrane binding solution)を加え、ゲルカットからの回収は1mgあたり1μLの膜結合液を加える必要があり、すべてのゲルが完全に溶解するまで50-60℃で7min加熱し、ボルテックスにより混合し、カラムで回収し;
b)上記の液体を回収用カラムに入れ、10000×gで1min遠心分離し、ろ液を除去し;
c)700μLの洗浄バッファーを加え、>13000×gで1min遠心分離し、ろ液を除去し;
d)工程c)を繰り返し;
e)空のチューブを用いて>13000×gで10min遠心分離し;
f)遠心カラムを新しい1.5mLのEPチューブに移し、マークし、20-30μLの溶出バッファーまたはddHOを加え、室温で2min静置し;
g)>13000×gで1min遠心分離し、吸着カラムを除去し、DNAを2-8℃で保存し、濃度を測定・記録し、-20℃で長期保存した。
【0156】
(3)T7E1酵素切断実験によるsgRNAの効率の検証
上記で獲得したPCR回収またはゲルカット回収産物に対して、T7E1酵素切断反応を行った。
【0157】
a)T7E1酵素切断アニーリング系(19.5μL):
【0158】
【表7】
【0159】
b)T7E1酵素切断アニーリングのプログラム:
95℃ 2min
95℃ to 85℃ 温度は2℃/sで下げる
85℃ to 25℃ 温度は0.1℃/sで下げる
16℃ ∞。
【0160】
c)T7E1酵素切断反応系
【0161】
【表8】
【0162】
前記反応系を37℃で20minインキュベートした
【0163】
d)酵素切断産物の電気泳動
ゲルの作成:2.5%ゲル、2倍の染料
電気泳動のプログラム:電圧140V、20minから30min
【0164】
e)電気泳動の結果の確認。
酵素切断の結果は図2に示されている。レーン1はマーカーの電気泳動の結果であり、レーン2はネガティブコントロール(すなわち、sgRNAを添加していない)の電気泳動の結果であり、レーン3はsgRNA1によって切断された断片の長さの結果であり、レーン4はsgRNA5によって切断された断片の長さの結果であり、レーン5はネガティブコントロールの電気泳動の結果であり、レーン6はsgRNA2によって切断された断片の長さの結果であり、レーン7はsgRNA6によって切断された断片の長さの結果であり、レーン8はsgRNA7によって切断された断片の長さの結果であり、レーン9はネガティブコントロールの電気泳動の結果であり、レーン10はsgRNA3によって切断された断片の長さの結果であり、レーン11はsgRNA4によって切断された断片の長さの結果である。
【0165】
各断片の増幅プライマー、断片の長さおよび切断された断片の長さは表3にまとめる。
【0166】
【表9】
【0167】
5.ゲノムDNAにおける切断部位を含有するPCR断片の遺伝子配列決定、マルチピークテスト
上記のJ1~J7のDNA増幅断片に対して配列決定し、配列決定スペクトルは図3A-3Dに示されている。sgRNA1.2.3.4.は比較的に明らかな切断効果を有することが判明した。
【0168】
実施例2 sgRNA標的部位のスプライシングに対する影響の検証
一、4つのsgRNAに対応するpMD19-Tミニ遺伝子プラスミド、およびそのコントロールとしてのネガティブプラスミドとポジティブプラスミドを設計した。
【0169】
donor HITI法で挿入後はPAM+3bpsgRNA/18bp sgRNA断片が残留するという特徴により、ミニ遺伝子1.2.3.4を設計し、それぞれsgRNA1.2.3.4.に対応する。ミニ遺伝子断片は図4に示されている。
【0170】
二、ミニ遺伝子プラスミドの構築工程は以下のとおりである
【0171】
1.ミニ遺伝子DNA断片およびポジティブコントロール(正常の野生型イントロン、スプライシングに影響しない)とネガティブコントロール(患者変異イントロン、スプライシングに影響する)DNA断片を合成した。
【0172】
2.酵素切断プラスミドベクター
プラスミドベクターはPMD-19T-MCSであり、そのプラスミドマップは図5に示されている。
【0173】
(1)KpnI酵素とMluI酵素の二つの酵素でプラスミドを切断した
CutSmartバッファーにおいて、KpnI酵素とMluI酵素と前記ミニ遺伝子を、37℃で30minインキュベートした。2.5%の電気泳動のゲルを調製し、2倍の染料を加え、酵素切断産物に対して電気泳動を行った。電圧は140V、時間は20minから30minと設定した。電気泳動が終わった後、ゲルをカットし、精製した。
【0174】
(2)酵素切断後の線状化ベクターに対してゲル回収を行った
液体回収キット(OMEGA Gel Extraction Kit(200)D2500-02)を使って、上記のPCR産物に対して液体DNA回収を行って;DNA回収工程は以下のとおりである:
【0175】
a)PCR反応産物に等体積の膜結合液を加え、ゲルカットからの回収は1mgあたり1μLの膜結合液を加える必要があり、すべてのゲルが完全に溶解するまで50-60℃で7min加熱し、ボルテックスにより混合し、カラムで回収し;
b)上記液体を回収用カラムに移し、10000×gで1min遠心分離し、ろ液を除去し;
c)700μLの洗浄バッファーを加え、>13000×gで1min遠心分離し、ろ液を除去し;
d)工程c)を繰り返し;
e)空のチューブを用いて>13000×gで遠心分離10min;
f)遠心カラムを新しい1.5mLのEPチューブに移し、マークし、20-30μLの溶出バッファーまたはddHOを加え、室温で2min静置し;
g)>13000×gで1min遠心分離し、吸着カラムを除去し、DNAを2-8℃で保存し、濃度を測定・記録し、-20℃で長期保存した。
【0176】
(3)ライゲーション
前工程で回収したベクターと合成したミニ遺伝子1-6DNA断片および対応するポジティブコントロールで、以下のようなライゲーション系を調製した(200μLのPCRチューブで調製):
【0177】
【表10】
【0178】
前工程におけるライゲーション反応系を37℃に置いて約1-2hライゲートし、sgRNAベクターの構築を完成させた。
【0179】
(4)プラスミド形質転換
a)TransStbl3ケミカルコンピテントセルを取り出して、氷上で解凍し;
b)1μLの工程3のライゲーション産物を取って、50μLコンピテントセルに加え、氷上で30分インキュベートし、42度で90secヒートショックし、氷上で2min静置し;
c)非抗菌性培養液500μLを加え、37℃、200rpmで1h振とうして、800rpm/minで5min遠心分離し、上清を除去して約100μLを得て、アンピシリン含有のLB寒天培地を用いてポジティブクローンをスクリーニングし;
d)翌日に、スクリーニングされたポジティブクローン菌(培地500μL)を3-4時間振とうし、200μLのサンプルに対して配列決定を行った。
【0180】
(5)プラスミドの抽出
配列決定で正確とされたミニ遺伝子1-4とポジティブ、ネガティブコントロールの合計6つのプラスミドを一晩振とうし(50-200mL)、37℃で12-16h振とう培養してプラスミドを増幅させて、翌日に抽出した(振とう時間は16h未満である)。プラスミドの抽出はOmega社Endofree Plasmid Maxi Kitによる。
【0181】
三、ミニ遺伝子プラスミドによる293T細胞へのトランスフェクション
1.293T細胞の培養
【0182】
2.PEI(ポリエチレンイミン)法による293T細胞のトランスフェクション
(1)1.5mLのEPチューブを取って、上記の順番で番号付けて、チューブごとに250μLのDMEM培地(血清なし)を加え、上記の表の順に、1.5μgのミニ遺伝子1-4プラスミドとポジティブ、ネガティブコントロールプラスミドを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、チューブごとに7.5μLのPEIトランスフェクション試薬を加え、ボルテックスにより混合し、室温で20min静置した後トランスフェクションを行った。6ウェルプレートのもう一つのウェルをブランクコントロールとした。
【0183】
(2)培地(6ウェルプレート培地、血清なしDMEM=2mL/ウェル)に滴下し、インキュベーターで培養し、12-18hで培地の半分量を交換した。翌日に、蛍光顕微鏡でGFPの発現状況を観察して、トランスフェクション効率を評価し、トランスフェクション効率が良好であれば、トランスフェクトされたプラスミドの培養を継続した。
【0184】
(3)耐性細胞のスクリーニング
a)液の調製:10mg/mL(母液)を1μg/mLに希釈したピューロマイシン、スクリーニングされた細胞
b)液の交換:トランスフェクションの2日後に、(ネガティブコントロールを含めて)1ウェルあたり3mLのピューロマイシン含有の293T細胞培地を加え、トランスフェクションポジティブの細胞のスクリーニングを開始し、その後毎日細胞の生存状況を観察し、2日ごとに液の交換をし、液を交換する時に、対応する量のピューロマイシンを加えた。ネガティブコントロールのウェルの細胞が完全に死滅し、実験グループとコントロールグループの細胞は生存している場合(トランスフェクションが成功したことを示す)、抗生物質によるスクリーニングを中止し、代わりに通常の培地を使用した。
【0185】
3.293T細胞ゲノムDNAの抽出
(1)6ウェルプレートの細胞のコンフルエントが80-90%に達した後、6cm培養皿に継代して培養した。
【0186】
(2)細胞のコンフルエントが80-90%に達した後、細胞を回収し、ゲノムDNAの抽出の準備をする。全工程は7-10日くらいである。ゲノムの抽出は、Nanjing Vazyme Biotech社の細胞抽出キットを使った。
【0187】
(3)トランスフェクトされた293T細胞のRNAレベルを検証する
1)RNAの抽出
RNAの抽出は、TIANGEN RNA prep Pure培養細胞/細菌Total RNA抽出キット(DP430)を使った。実験工程は以下のとおりである:
【0188】
a)細胞の収集
i.懸濁細胞の収集(収集した細胞の数は1×10未満であるべき):細胞の数を推定し、300×gで5min遠心分離し、細胞を遠心チューブに収集し、全ての培地上清を注意して吸引除去した。
【0189】
ii.単層の接着細胞の収集(収集した細胞の数は1×10未満であるべき)、培地を吸引除去し、PBSで細胞を洗浄し、PBSを吸引除去し、細胞に0.10-0.25%のトリプシンを含むPBS処理細胞を加え、細胞が容器の表面から剥離したところ、血清を含む培地を加え、トリプシンを失活させ、細胞溶液をRNA酵素なしの遠心チューブに加え、300×gで5min遠心分離し、細胞沈殿物を収集し、全ての上清を注意して吸引除去した。
【0190】
b)ライセート処理
遠心チューブの底部を軽く叩いて、細胞沈殿物をほぐし、細胞の数に応じて適量のライセートRL(β-メルカプトエタノールが添加されているか否かを確認しておく)を加え、ボルテックスにより振とうした。
【0191】
c)全ての溶液をろ過カラムCS(ろ過カラムはCS収集試験管にセットされている)に移し、12000rpm(~13400×g)で2min遠心分離し、ろ液を収集した。ろ液に1倍体積の70%エタノール(通常は350μLまたは600μL)を加え、混合し(沈殿物が出る場合がある)、得られた溶液と沈殿物を共に吸着カラムCR3中(吸着カラムCR3は収集試験管にセットされている)に移し、12000rpm(~13400×g)で30-60sec遠心分離し、収集試験管中の廃液を廃棄し、吸着カラムCR3を収集試験管に戻した。
【0192】
d)吸着カラムCR3に350μLの除蛋白液RW1を加え、12000rpm(~13400×g)で30-60sec遠心分離し、収集試験管中の廃液を廃棄し、吸着カラムCR3を収集試験管に戻した。
【0193】
e)DNase Iワーキング溶液の調製:10μLのDNase Iストック液をRNA酵素なしの新しい遠心チューブに入れ、70μLのRDDバッファーを加え、軽く混合した。
【0194】
f)吸着カラムCR3の中央に80μLのDNase Iワーキング溶液を加え、室温で15min静置した。
【0195】
g)吸着カラムCR3に350μLの除蛋白液RW1を加え、12000rpm(~13400×g)で30-60sec遠心分離し、収集試験管中の廃液を廃棄し、吸着カラムCR3を収集試験管に戻した。吸着カラムCR3に500μLのリンス液RW(エタノールが添加されているか否かを確認しておく)を加え、室温で静置した2min、12000rpm(~13,400×g)で30-60sec遠心分離し、収集試験管中の廃液を廃棄し、吸着カラムCR3を収集試験管に戻して、これを繰り返した。
【0196】
h)12000rpm(~13,400×g)で2min遠心分離し、廃液を廃棄した。吸着カラムCR3を室温で数分間静置して、吸着材に残留するリンス液を十分に乾燥させた。
【0197】
i)吸着カラムCR3をRNA酵素なしの新しい遠心チューブに移し、30-100μLのRNA酵素なしのddHOを加えて室温で2min静置し、12000rpm(~13400×g)で2min遠心分離し、RNA溶液を得た。
【0198】
2)cDNAの逆転写
cDNAの逆転写では、TRAN Transcript One-Step gDNA Removal and cDNA Synthesis SuperMix Kit(AT311)を使用した。実験工程は以下のとおりである:
【0199】
a)cDNAの合成とgDNAの除去。以下のような各成分を加え、軽く混合した
【0200】
【表11】
【0201】
b)逆転写のプログラム以下のとおりである:
42℃ 30min
85℃ 5sec
【0202】
c)サンプルを収集した
【0203】
3)cDNAに対してPCRを行った
【0204】
4)PCR産物に対して配列決定を行った
【0205】
(5)293T細胞へのトランスフェクション後のタンパク質レベルでの検証
1)タンパク質の抽出
a)293T細胞の入手・ライセート。細胞は、PBSで洗浄した後、6ウェルプレートなら、100-200μLのRIPAライセートを加え、必要に応じてプロテアーゼ阻害剤カクテル、ホスファターゼ阻害剤PMSFとRNA酵素)を加え、細胞をかきとってEPチューブに入れた。氷上に置き、5minごとにボルテックスし、三回繰り返した。
【0206】
b)ライセートした細胞を4℃、12000rpmで10min遠心分離した。50μLの上清を取ってインプットコントロールとして、10μLの6×ローディングバッファーを加えて5min煮沸した。煮沸したサンプルは4℃で短期間、または-20℃で長期間保存することが可能である。
【0207】
2)ウェスタンブロット(タンパク質のハイブリダイゼーション実験)の検証
a)ガラス板の位置を合わせた後、短いガラスは外側に、長いガラスは内側に配置されるようにラックにセットし、両側のグリップで挟み止めた。ラックに垂直にかけてゲルを流し込む準備をした。作業中は、ゲルが漏れないように両側のガラスを揃える必要があり、ゲルを流し込む前に水を入れて液漏れのないことを確認しておいた。ゲルを調製するとき、最後のステップでTEMEDを加え、その後直ちに均一な状態になるように振とうし、すぐにゲルを流し込み、気泡が入らないように、チップを角に添えてゲルを流し込み、ゲルの表面と短いガラスの間の距離は1-2cmであれば良い。無水エタノールを加えて重層した。
【0208】
b)無水エタノールとゲルの間の境界線がはっきりなったら、ゲルが固まったことを示しており、ゲルが十分に固まるまで3min待ち、ゲルの上層の無水エタノールを捨て、紙で拭き取った。説明書に記載の割合で濃縮ゲルを調製し、コームを差し込み、ゲルが固まるまで待てば良い。注意点:コームを差し込むとき、コームを水平に保つべきである。
【0209】
c)サンプルのローディング。
【0210】
d)電気泳動:ミニゲルの1レーンあたりのローディングの量は通常、総タンパクで20μg未満である。可能な限り、マーカー(marker)とサンプルのないブランクレーンを含む各サンプルにおいて、イオン強度が均一に保たれる。電気泳動の際、濃縮ゲルを流す電圧は80Vであり、分離ゲルを流す電圧は120Vであり、電圧が大きければ大きいほど、分離が速く、電気泳動の時間は一般的には1-2hであるが、ブロモフェノールブルーがゲルから流れ出しそうになったら電気泳動を停止することができる。
【0211】
e)トランスファー
i タンパク質のゲルからメンブレンまでの層の配置は、グリップの黒い面-スポンジ-ろ紙-ゲル-メンブレン-ろ紙-スポンジ-グリップの白い面である。その後、装置全体をバッファーに浸漬した。ただし、PVDF膜はメタノールに浸漬しておいて、最後に転写液に浸漬する。
【0212】
ii グリップの黒い面がスロットの黒い面、グリップの白い面がスロットの赤い面を向くように、グリップをトランスファースロットに入れた。
【0213】
iii 冷却のためにトランスファースロットに氷を入れる必要があり、電圧120V、恒流200mAでトランスファーを行った。タンパク質分子が大きければ大きいほど、電圧/電流が大きくなり、必要なトランスファー時間は長くなる。
【0214】
f)ブロッキング
メンブレンを除去し、5%スキムミルクを含むTBS溶液で1時間以上ブロッキングした。
注意点:ゲルに接触する膜の面は上向きである。
【0215】
g)抗体のインキュベーションと検査
一次抗体のインキュベーション:2.5%スキムミルクを含むTBSTで1:1000の割合で抗体を希釈し、室温で1.5-2h、または4℃で一晩静置した。メンブレンの洗浄:0.1%のTBSTで3回、毎回10minで洗浄した。二次抗体のインキュベーション:2.5%スキムミルクを含むTBST溶液で適切な割合で希釈し、室温で2hインキュベートした。メンブレンの洗浄:0.1%のTBSTで3回、毎回10minで洗浄して、TBSで10min洗浄し、ろ紙を使って、メンブレンの側面で水分を適当に拭き取った。メンブレンを、ECL発色液混合液(1mL)を染み込ませたクリングフィルムの上に置き、クリングフィルムを折り畳んだ。最後に、ゲルイメージングシステムを使用して検査した。
【0216】
ウェスタンブロットの結果は図6A-6Bに示されている。図6Aはβ-actin(β-アクチン)が各グループの細胞における発現状況である。レーン1はマーカー(Marker)、レーン2はミニ遺伝子1、レーン3はミニ遺伝子2、レーン4はミニ遺伝子3、レーン5はミニ遺伝子4、レーン6はネガティブコントロール、レーン7はポジティブコントロールであり、各グループにおいて、β-actinは発現しており、かつ発現の量はほぼ同一であり、ローディングの量が同じで、結果が比較できることが示される。図6Bは緑色蛍光タンパク質(green fluorescent proteins,GFP)が各グループの細胞における発現状況である。各レーンが代表するグループは図6Aと同じであり、各グループの結果によれば、ミニ遺伝子1-4の発現とポジティブコントロール(正常ヒトイントロン断片、スプライシングに影響しない)と一致し、GFPが発現しており、ネガティブコントロール(患者イントロン断片、スプライシングに影響する)は弱く発現していることが判明した。図6Cはタグタンパク質(Flag)の各グループの細胞における発現状況である。各レーンが代表するグループは図6Aと同じであり、結果によれば、ネガティブコントロールグループではflagの発現が認められず、各実験グループにおいても、ポジティブコントロールグループにおいても発現している。そのため、結果によれば、sgRNA1-4はスプライシングに影響しないことが判明した。
【0217】
実施例3 Donorの設計及びスクリーニング
一、ベクターの構築:
CYP4V2の野生型遺伝子のイントロン6とエクソン7-11の間の配列をDonor配列として;Donor配列とEGFPレポーター遺伝子をpX601ベクター(sgRNA1-4のpX601-sgRNA1からpX601-sgRNA4ベクター)に構築して、pX601-donor(1-4)-EGFPベクターを得て;sgRNAベクターとして実施例1における前記pX601-sgRNA(1-4)ベクターを使用した。pX601のプラスミドマップは図1に示されている。
【0218】
そのうち、イントロン6の長さは、sgRNA切断部位に応じて調整した。エクソン7-11Donor配列はSEQ ID NO:39で示されており;EGFP配列はSEQ ID NO:40で示されている。
【0219】
二、PEI法によるiPSCへのトランスフェクション
1.具体的な工程は以下のとおりである。
【0220】
sgRNA1のグループを例とする。
【0221】
(1)6ウェルプレートを4つ取り、iPSC細胞を播種し、細胞密度が80%になったときトランスフェクションを行い;
(2)第1グループ(ブランクコントロールグループ):1.5mLのチューブに1.5μgのpX601プラスミドを加え;
第2グループ(実験グループ):1.5mLのチューブに1.5μgの上記で構築されたpX601-sgRNA1プラスミド(SaCas9を提供)、1.5μgのpX601-Donor-EGFPプラスミドを加え;
2つのチューブにそれぞれ250μL血清なしDMEM培地を加え、混合した後12μgのPEI(1mg/mL)を加え、直ちに十分に混合し、室温で20minインキュベートし;
(3)混合液を培地に滴下し、インキュベーターで培養し、24時間で培地の半分量を交換した。
【0222】
sgRNA2-4グループの実験方法はsgRNA1グループと同じである。
【0223】
三、耐性細胞のスクリーニング
液の調製:10mg/mL(母液)を1μg/mLに希釈したピューロマイシン;
【0224】
液の交換:1ウェルあたり1μg/mLのピューロマイシンを含む培地3mLを加え、液の交換を毎日行い、細胞の死滅状况を継続的に観察した。実験グループ及びブランクグループのトランスフェクション効果は同様であるため、トランスフェクションの代表図を選んだ。トランスフェクション効果は図7に示されている。図7中の左はブランクコントロール、右はトランスフェクトされた細胞、細胞が蛍光タンパク質を発現していることが認められ、トランスフェクション効果は優れたということが判明した。
【0225】
四、細胞DNAを抽出し、配列決定後、配列修復結果を検証する
ゲノムの抽出はNanjing Vazyme Biotech社の細胞抽出キットを使用した。配列決定の結果から、pX601-sgRNA-Donor1.2.3.4ベクターは修復に有効であることが判明した。
【0226】
実施例4 患者の3D(三次元)網膜組織を使用したsgRNAの遺伝子編集効率のインビトロ検証
一、患者の腎上皮細胞の抽出と培養
北京賽貝社が提供する腎上皮細胞分離と培養キットを使用して行った。実験工程は以下のとおりである:
【0227】
1.UrinEasy(R)分離完全培地、添加剤、ゼラチン、洗浄液を細胞培養室に持ち込んだ。
【0228】
2.紫外線ランプをつけ、12ウェルプレート、50mL遠心チューブ、15mL遠心チューブ、電動ピペット、ピペット、吸引管、5mLマイクロピペットおよびチップ、1mLマイクロピペットおよびチップ、37℃の水槽を用意した。
【0229】
3.採尿:手袋を着用し、消毒し、中間尿を採取し、シールフィルムで密封した。
【0230】
4.750μL/ウェルでゼラチンを、皿(3つのウェル)の底に塗布して、30分超えで、37℃で静置した。
【0231】
5.75%アルコールで尿瓶の外表面を消毒し、50mL円錐底型遠心チューブに小分けしてシールし、400×gで10min遠心分離した。
【0232】
6.UrinEasy(R)分離完全培地と添加剤を取り出して調製した(0.5mLの添加剤あたり、5mLの基礎培地と混合)。
【0233】
7.最小限の速度で上部の液面に沿ってピペットを動かし、上清を1mLになるまでゆっくりと吸引した。
【0234】
8.再懸濁させて、15mL遠心チューブに入れ、10mLの洗浄液を加えて混合し、200×gで10min遠心分離した。
【0235】
9.12ウェルプレートを取り出し、ゼラチンを除去し、洗浄液で一回(500μL)洗浄し、1ウェルあたり750μLのUrinEasy(R)分離完全培地を加え、37℃で静置した。
【0236】
10.15mL遠心チューブを取り出して、0.2mLの細胞ペレットが残った。
【0237】
11.UrinEasy(R)分離完全培地で細胞ペレットを再懸濁させた:男性のものは1ウェル、女性のものは2ウェルとして、0日目(D0)とした。
【0238】
12.観察:
D1:汚染の有無の観察;
D2:分離培地の補充-女性:500μL/ウェル;男性:250μL/ウェル;
D4:付着がない場合:培地の半分量を交換し、2日ごとに液を交換し、表面に沿って1mLの分離完全培地を加えた。
【0239】
13.付着が出た後:細胞が表面に付着したら(3~7日または9~10日)、UrinEasy(R)増幅完全培地で培養を行い、2日間の培養後、500μLの培養液で全量を交換した。表面に付着した後、約9~12日(未満14日)で、細胞のコンフルエントが80~90%に達したときに継代し、順に6ウェルプレート、6cm培養皿と10cm培養皿に継代し、後で使用するために凍結保存した。
【0240】
二、iPSCsの誘導
患者由来の(c.802-8_810del17bpinsGC)腎上皮細胞をiPSCsに誘導し、工程は以下のとおりである:
【0241】
1.体細胞のコンフルエントが70-90%に達したら、消化・継代を行うことができる。細胞を96ウェルプレートに播種し;播種密度は5000-15000個/ウェルとなるようにコントロールし、細胞の状況に応じて3つの密度勾配を設定でき、各勾配ではトリプルウェルを設置した。細胞播種の当日は-1日目とした。
【0242】
2.0日目:細胞のコンフルエントおよびその状態を鏡下観察し、異なる勾配のマルチウェルに対して消化・計数を行って、細胞の量が10000-20000個に達したウェルに対して初期化を行った。下表に従って初期化培地Aを調製した。
【0243】
【表12】
【0244】
3.初期化添加剤IIを遠心分離しておいて、97μLの初期化培地Aを初期化添加剤IIの試験管に加え、均一に混合して初期化培地Bとして、96ウェルプレートから選定された条件を満たしたウェルに100μLの初期化培地Bを加え、培養プレートをインキュベーターに戻した。
【0245】
4.1-2日目:鏡下観察を行い、細胞の形態の変化を写真で記録した。細胞の形態が明らかに変化している場合は、初期化培地Bを除去し、代わりに、初期化培地Aで培養を継続し;形態変化が明らかでない場合は、液の交換を行わなくても良い。
【0246】
5.3日目:最初の2日間で細胞の形態が明らかに変化しており、かつ細胞の増殖速度が速い場合に、トリプシン消化で継代を行うことができる。細胞の状態とその量に従って、細胞を6ウェルプレートの2つ-6つのウェルに継代し、初期化培地Cを加え、可能な限り単一の細胞の付着を形成させる。下表に従って初期化培地Cを調製した。
【0247】
【表13】
【0248】
6.4日目:細胞の容器に付着する状況を観察し、大部分の細胞が良好に容器に付着してれば、新鮮なReproeasy(R)体細胞培地(賽貝生物社、CA5001050)に交換して、培養を継続した。
【0249】
7.5日目:鏡下観察し、小クラスターのクローン(細胞が四つ以上のクローン集団)が形成したら、体細胞培地をReproeasy(R)ヒト体細胞初期化培地に変更する。小クラスターのクローンがまだ形成していなければ、1-2日間観察を継続して、Reproeasy(R)ヒト体細胞初期化培地に交換することができる。
【0250】
8.6-8日目:鏡下観察し、小クラスターのクローンが大きくなり、一つのクローン細胞集団は10個以上の細胞有すれば、Reproeasy(R)ヒト体細胞初期化培地をPSCeasy(R)ヒト多能性幹細胞培地(またはPGM1ヒト多能性幹細胞培地)に直接変更することができる。液を交換する前の観察では、死滅した細胞が多ければ、室温で平衡させたPBSで洗浄した後、液の交換をすることができる。
【0251】
9.9-20日目:鏡下観察し、細胞の形態の変化を写真で記録した。室温で平衡させた新鮮なPSCeasy(R)ヒト多能性幹細胞培地に毎日交換した。
【0252】
10.21日目:鏡下観察し、単独の細胞クローンが10倍視野全体を満たした場合、1mLの注射針(またはガラス針などの器具)でクローンを切り、予めマトリゲルでコーティングされた48ウェルプレートに摘み取った(クローンの状態がよく、細胞が厚くかつ増殖が早い場合、24ウェルプレートに直接摘み取ることができる)。
【0253】
11.クローンを摘み取った後、PSCeasy(R)ヒト多能性幹細胞融解培地に播種し、細胞付着後は、PSCeasy(R)ヒト多能性幹細胞培地に交換し、必要な世代数になるまで培養を継続した。
【0254】
三、患者の3D網膜の誘導
具体的な工程は以下のとおりである:
【0255】
【表14】
【0256】
四、AAV8ウイルスの構築とコーティング
1.プラスミド増幅:構築されたAAVベクター、パッケージングプラスミドと補助プラスミドは、大量のエンドトキシンを抽出する必要があり、Qiagen Maxi kitを使用してプラスミドの大量抽出を行った。工程は前記と同様であり;
2.AAV8-293T細胞トランスフェクション:トランスフェクション当日の細胞密度を観察し、80-90%に達したとき、ベクタープラスミド、パッケージングプラスミドと補助プラスミドをトランスフェクトすることができ;
3.AAV8ウイルスの収集:ウイルス粒子はパッケージング細胞と培養上清に同時存在する。最良の収率を得るために、細胞と培養上清を収集することができ;
4.AAV8の精製後、-80℃で長期保存した。
【0257】
五、3D網膜組織を用いたインビトロでのsgRNA遺伝子の編集効率の検証
1.3D網膜組織へのAAV8の感染:組織の状態を観察し、3D網膜組織の増殖状態が良好であるとき、目的プラスミドが搭載されたAAV8ウイルスを感染させることができる。
【0258】
2.遺伝子編集効率の検証。
(1)T7E1酵素切断実験
工程は、実施例1におけるT7E1酵素切断実験に示されている。
【0259】
(2)TOPO PCRクローニング
pX601-CYP4V2-sgRNA、PMD19-T-donorの編集効率を定量化し、実験グループとコントロールグループの切断効率に対して統計解析をするために、invitrogen社のZero Blunt(R) TOPO(R) PCRクローニングキットで実験を行い、菌体選択後サンガー(Sanger)で配列決定を行った。
【0260】
a)3D網膜組織にAAVウイルスを感染させた後に獲得したDNAを増幅テンプレートとして、invitrogen社のPlatinum SuperFiTMシリーズのDNAポリメラーゼを用いてPCR反応を行った。反応系以下のとおりである(50μLの反応系)。
【0261】
【表15】
【0262】
b)タッチダウンPCR(Touch down PCR)プログラム:
具体的な工程は、実施例一における工程三のsgRNAアニーリングPCR工程と同じである。
【0263】
c)TOPO PCRクローニングの反応系は以下のとおりである。
【0264】
【表16】
【0265】
上記反応系を調製して、軽く混合し、室温で5min静置し;
氷上に置き、コンピテントセルを除去し、形質転換に備えた。
【0266】
d)TOPO PCRクローニング反応によるコンピテントセルの形質転換
コンピテントセルを50または100μLを取り、2μLの上記TOPO PCRクローニング反応液を加え、氷上で5-30minを静置し;振とうせずに、42℃で30secヒートショックし;速やかに反応系を氷上に移し、250μLのS.O.C.培地を加え;37℃で200rpmで1h振とう・融解し;対応する量のLB培養プレート(25μg/mLのブレオマイシンを添加)を取り出し、100μLの上記菌液をプレートに塗布し、37℃のインキュベーターで一晩培養した。
【0267】
e)選択された菌体に対するSanger配列決定。
翌朝、菌体プレートを取り出し、各プレートから80個の菌体を選択し;37℃で200rpmで3-4h振とうし;各菌体サンプルに対して200μLを採用しサンガー配列決定を行った。
【0268】
f)Sanger配列決定の結果を分析し、統計解析をした。
【0269】
実施例5 ヒト化マウスモデルにおける遺伝子編集効率の検証
一、ヒト化マウスの構築:
ヒト化マウスの構築は、Biocytogen Pharmaceuticals (Beijing) Co., Ltd.が実施した。
【0270】
1.ヒト化マウスの作成プロトコル
ヒト変異部位について、Biocytogen Pharmaceuticals (Beijing) Co., Ltd.に依頼して、CYP4V2ヒト化マウスモデルを構築してもらった。
【0271】
2.技術の内容:
(1)標的配列を認識するためのsgRNAの設計・構築;
(2)標的遺伝子の切断を引き起こすCRISPR/Cas9ベクターの構築;
(3)sgRNA/Cas9の活性検査;
(4)ノックインターゲティングベクターの設計・構築、設計に従ってエクソン6-8(イントロン配列を含む)の置換;
(5)インビトロ転写によるsgRNA/Cas9mRNAの獲得;
(6)マウス受精卵へのsgRNA/Cas9mRNAとターゲティングベクターの注射;
(7)CYP4V2ノックインF0マウスの検査及び増殖;
(8)CYP4V2ノックインF1ヘテロ接合体マウスの獲得とジェノタイピング(southern blotting DNAハイブリダイズ検定。外在性及内在性プローブを1つずつ含む)。
【0272】
3.技術の方法:
(1)マウスゲノムの標的配列の増幅と配列決定を行い、標的配列を狙ったCRISPR/Cas9ベクタープラスミドを設計と構築し、活性検査を行い:
(2)マウスゲノムDNAを抽出し、標的配列を認識するsgRNAを増幅し;
(3)標的遺伝子の切断を引き起こすCRISPR/Cas9ベクタープラスミドを設計と構築し;
(4)利用Biocytogen Pharmaceuticals (Beijing) Co., Ltd.が独自に開発した検査キットでsgRNA/Cas9に対して活性検査を行い;
(5)活性の高いsgRNA/Cas9標的部位配列情報を選択し、CYP4V2ノックインターゲティングベクターを設計・構築し;
(6)マウス受精卵前核にsgRNA/Cas9mRNAとターゲティングベクターを注射し、F0/F1陽性マウスを得た。この実験は主に以下のような内容を含む。
sgRNA/Cas9mRNAのインビトロ転写;
マウス受精卵の収集;
マウス受精卵へのRNAとターゲティングベクターの注射;
代理母の輸卵管への受精卵の移植;
CYP4V2遺伝子ヒト化で点変異のF0マウスのジェノタイピングおよび増殖;
CYP4V2遺伝子ヒト化で点変異のF1マウスの獲得及びジェノタイピング(PCR検査とsouthern blottingハイブリダイズ検定を含有する)。
【0273】
二、飼育と繁殖
両種類のヒト化マウスを獲得した後、F1ヘテロ接合体マウスにインタークロスさせ、AAVウイルス注射のために、できるだけ早く十分な数のF2またはF3ホモ接合体のヒト化マウスを得た。
【0274】
三、マウス網膜下腔へのAAVウイルス注射
pX601-sgRNA(SaCas9を提供)とpX601-Donor-EGFPベクターをアデノ随伴ウイルスにパッケージし、CYP4V2変異モデルマウスの網膜に注射し、設計されたsgRNAとDonorがインビボにおける編集と修復効率を検証した。pX601-sgRNA1+pX601-Donor1-EGFPを例にすると、具体的な工程は以下のとおりである。sgRNA2-4のグループの実験方法についても同様である。
【0275】
1.実験の設計
(1)ブランクコントロールグループ:生理塩水。
【0276】
(2)実験グループ:pX601-sgRNA1(SaCas9を提供)とpX601-Donor-EGFP。
【0277】
2.AAV(アデノ随伴ウイルス)血清型の選択
網膜への嗜好性がよりいいAAV2/8血清型を選択した。
【0278】
3.ウイルスパッケージング
pX601-Donor1-EGFP、pX601-sgRNA1ベクターを、それぞれAAV2/8、AAV-helperで、アデノ随伴ウイルス(AAV)にパッケージした。
【0279】
4.マウスへの注射実験
20匹のCYP4V2変異モデルマウスを取り、1グループ5匹で4つのグループに分けて実験を行った。
【0280】
実験の計画は以下のとおりである。
(1)ブランクコントロールグループ:マウスの片目あたりに2μLの生理塩水を注射した。
【0281】
(2)実験グループ:パッケージされたpX601-sgRNA1とpX601-Donor1-EGFPウイルスを、1:1の割合で等量混合し、マウスの片目あたりに2μL(1E10vg)注射した。
【0282】
(3)一ヶ月後に治療効果を検査した。
実験の工程は以下のとおりである:
【0283】
(4)注射の30分前に、1%アトロピンで散瞳し;麻醉前に再度の散瞳を行った。
【0284】
(5)ケタミン80mg/kgとキシラジン的8mg/kgの割合で、マウスに腹腔内注射し、マウスを麻酔した後、マウスを眼科手術用顕微鏡の動物実験台の前に置き、マウスの眼に一滴の0.5%のプロパラカインを滴下し、局所麻酔を行った。100:1の割合で、AAVウイルスにフルオレセインナトリウムの原液を加え、低速で遠心混合した。
【0285】
(6)インスリン注射針でマウスの眼球球の毛様体平面部に小孔を予め刺し、その小孔にマイクロインジェクターの針を通し、マウスの眼球の硝子体腔に入り、そのとき、鏡下でマウスの眼球底がはっきり見えるように、マウスの眼球に適量の2%ヒドロキシメチルセルロースを滴下し、硝子体を避けながら、反対側の網膜周辺部に針を刺し、フルオレセインナトリウム含有のAAVウイルスをゆっくりと押し出し、片目あたりの注射量は1μLであり、フルオレセインナトリウムを指示薬として、網膜下腔へ注入したかどうかの判断をした。
【0286】
(7)術後、マウスに異常がないか観察し、感染予防のためネオマイシン眼軟膏を投与した。
【0287】
四、遺伝子編集療法の効果の評価
実験結果では、各実験グループの治療効果は基本的に一致しているため、pX601-sgRNA+pX601-Donor-EGFPウイルスグループを代表として、遺伝子編集療法の効果を説明する。
【0288】
遺伝子編集療法の効果は、主に以下の項目で説明する:
治療後のマウス機能改変をERG(網膜電生理)により評価したところ、治療後、変異マウスモデルの網膜機能が改善され;
サンプルを切片した後、HE染色でマウス網膜の形態変化を観察したところ、野生型マウスの網膜状態に近い形態であり;
免疫蛍光染色により、遺伝子編集治療用ベクターが網膜の対応位置で発現しているかどうかを観察したところ、遺伝子編集治療用ベクターは網膜の対応位置で発現しており;
網膜組織の形態変化を特殊な網膜Markerの一連の染色跡を通して観察したところ、治療後、マウスの網膜組織の形態が改善されていることが認められる。
【0289】
五、ヒト化マウスにおけるAAV8-pX601-CYP4V2-SgRNAの編集効率の評価
検証方法は、実施例4の第五工程「網膜組織を用いたインビトロでのsgRNA遺伝子の編集効率の検証」と同様であり、T7E1酵素切断実験とTOPO PCRクローニング実験によりsgRNAの遺伝子編集効率を検証したところ、sgRNAは良好な遺伝子編集効率を得ることができることが認められる。
【0290】
最後に、以下の点に留意すべきである:上記の実施例は、本願の技術的思想を説明するために使用されただけであり、これを限定するものではない。前述した実施例を参照して本願を詳細に説明したものの、当業者なら本願発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、前述の実施例に記載の技術的思想を修正し、またはいくつかの技術的特徴を均等に置換することができることを、当業者は理解すると思われる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
【配列表】
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