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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】冷凍物
(51)【国際特許分類】
   A23B 2/80 20250101AFI20250110BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250110BHJP
   A23B 2/82 20250101ALI20250110BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20250110BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20250110BHJP
   A23B 20/10 20250101ALI20250110BHJP
【FI】
A23L3/36 Z
A23L33/10
A23L3/365 Z
A23L29/269
A23L29/238
A23D7/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020208434
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2022095236
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2023-07-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓矩
(72)【発明者】
【氏名】中島 聡史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 亜希子
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-182785(JP,A)
【文献】特開2015-096036(JP,A)
【文献】特開2013-090602(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008715(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温でゲル状の食品組成物を冷凍して得られる冷凍物であって、
前記食品組成物は、以下の成分:
(A)油脂 50~88質量%;
(B)水 11~49質量%;
(C)乳化剤 0.05~5質量%;および
(D)ゲル化剤 0.15~0.5質量%;
を含み、
前記(D)ゲル化剤が、(d1)キサンタンガムと、(d2)ローカストビーンガムとを含有し、前記(D)成分中の前記(d1)成分と前記(d2)成分との合計含有量が70質量%以上であり、
全(A)成分100質量%中に、凝固開始温度が-17℃以上-9℃以下の油脂を100質量%含み、前記油脂が、コーン油、綿実油、米油から選択される少なくとも一種である、冷凍物。
【請求項2】
凝固開始温度が-17℃以上-9℃以下の油脂を特定油脂としたとき、
全ての特定油脂100質量%中に、凝固開始温度が-10℃以上の油脂を100質量%含む、請求項1に記載の冷凍物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷凍物を冷凍する前の、常温でゲル状の食品組成物を含む食品を冷凍して得られる冷凍物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の冷凍物を製造する方法であって、
常温でゲル状の食品組成物または該組成物を含む食品を冷凍対象としたとき、該冷凍対象に-45℃以上-18℃以下の冷気を吹きつけて凍結させ、あるいは、冷凍対象を-45℃以上-18℃以下の環境下に置いて凍結させる、冷凍物の製造方法。
【請求項5】
冷凍期間が10時間以上100時間以下である、請求項4に記載の冷凍物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温でゲル状の食品組成物およびその組成物を含む食品の、冷凍物に関する。
【背景技術】
【0002】
咀嚼や嚥下機能が低下した高齢者若しくは要介護者、または病中病後の患者は、通常の食事を十分に摂ることができないために十分な量の栄養を摂取できず、低栄養状態に陥る場合がある。低栄養状態は運動機能の低下、病気の回復の遅延、合併症の発症を招く恐れがある。少量の摂取で十分なエネルギーを確保するには、食品中の油脂含有量を高めるのが効率的である。このような要請から、少量の摂取で十分な栄養が摂取できる、油脂含有量の高いエネルギー補給食品が種々開発されている。
【0003】
この種のエネルギー補給食品は、摂食しやすい形態であることが重要である。流動状であると摂取しやすいが、油脂の安定的な分散が困難であり、油脂含有量にも制限がある。固形状であると、油脂の高含有量化が可能であるが、食べやすさに劣る。ゲル状であると、食べやすく、一定量の油脂含有量を配合できることから好ましい。こうした背景から、油脂含有量の高い、常温でゲル状の食品が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-182785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでのゲル状食品は、凍結により食品に含まれる成分が劣化する、保管温度を管理するために設備が必要であり、費用がかかる等の理由から、常温、または0~10℃の低温で保存されることが多かったため、日持ちが悪く、特にこれを流通させることを考慮すると、冷凍保存・冷凍輸送・冷凍販売の形態をとる必要性が出てきた。
この種の、油脂含有量が高く、常温でゲル状の食品は、アイスやシャーベット等の冷菓とは異なり、冷凍した状態で喫食することはないため、これを保存時・輸送時・販売時に冷凍する場合、喫食前に常温に戻すことが必要である。
しかしながら、油脂含有量の高い、常温でゲル状の食品について、これを一旦冷凍したものを解凍した場合、高油脂含有量のため離油が生じやすく、その結果、食品表面への油浮きを生じ、これにより、冷凍前の食品が本来有する食感や風味が損なわれる、との新たな課題を生じてしまった。したがって、解凍後の離油が少なく、冷凍前の食感や風味が維持される高油脂含有量で均質な、常温でゲル状の食品が求められていた。
【0006】
本発明は、解凍後の離油が少なく、冷凍前の食感や風味の維持が可能となる、高油脂含有量で均質な、常温でゲル状の食品組成物およびその組成物を含む食品の、冷凍物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高含有量で配合する油脂の凝固開始温度に着目し、この温度が所定値以上の特定の油脂を用いた場合に、解凍後の離油量の制御、冷凍前の食感や風味の制御に有効に機能し、上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] 常温でゲル状の食品組成物を冷凍して得られる冷凍物であって、
上記食品組成物は、以下の成分:
(A)油脂 50~88質量%;
(B)水 11~49質量%;
(C)乳化剤 0.05~5質量%;および
(D)ゲル化剤 0.15~0.5質量%;
を含み、
上記(D)ゲル化剤が、(d1)キサンタンガムと、(d2)ローカストビーンガムとを含有し、上記(D)成分中の上記(d1)成分と上記(d2)成分との合計含有量が70質量%以上であり、
全(A)成分100質量%中に、凝固開始温度が-17℃以上の油脂を90質量%以上含む、冷凍物。
【0009】
[2] 凝固開始温度が-17℃以上の油脂を特定油脂としたとき、全ての特定油脂100質量%中に、凝固開始温度が-10℃以上の油脂を90質量%以上含む、[1]に記載の冷凍物。
【0010】
[3] [1]または[2]に記載の冷凍物を冷凍する前の、常温でゲル状の食品組成物を含む食品を冷凍して得られる冷凍物。
【0011】
[4] 常温でゲル状の食品組成物または該組成物を含む食品を冷凍対象としたとき、該冷凍対象に-45℃以上-18℃以下の冷気を吹きつけて凍結させ、あるいは、冷凍対象を-45℃以上-18℃以下の環境下に置いて凍結させた、[1]から[3]までのいずれかに記載の冷凍物。
【0012】
[5] 冷凍期間が10時間以上100時間以下である、[4]に記載の冷凍物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高含有量で配合する油脂として、凝固開始温度が所定値以上の特定油脂を用いたため、解凍後の離油が少なく、冷凍前の風味や食感の維持が可能となる、高油脂含有量で均質な、常温でゲル状の食品組成物およびその組成物を含む食品の、冷凍物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】凝固開始温度が-17℃以上の油脂を高含有量で配合して作製した実験例5の冷解凍後ゼリー組成物の写真を示す図である。
図2】凝固開始温度が-17℃より低い油脂を高含有量で配合して作製した実験例1の冷解凍後ゼリー組成物の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
以下、冷凍物、その構成に関する事項(ゲル状食品組成物の構成と製造方法、食品)、冷凍物の製造方法について、順を追って説明する。
【0016】
<冷凍物>
本発明の一形態に係る冷凍物は、常温でゲル状の食品組成物(以下単に「ゲル状食品組成物」と略記する。)、または該ゲル状食品組成物を含む食品、を冷凍して得られたものである。この冷凍物を解凍し、常温に戻された組成物、または該組成物を含む食品は、ゲル状態を保持しつつ、離油が少ない(離油率が例えば15%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下)ものとされ、冷凍を行う前の組成物、または該組成物を含む食品が本来有する食感や風味が損なわれない。「常温」は、JIS規格の5~35℃、通常約10~30℃を示す。
【0017】
<ゲル状食品組成物>
冷凍物の製造に用いる一形態に係るゲル状食品組成物は、以下の成分:
(A)油脂 50~88質量%;
(B)水 11~49質量%;
(C)乳化剤 0.05~5質量%;および
(D)ゲル化剤 0.15~0.5質量%;
を含む。
【0018】
(A)油脂
一形態に係るゲル状食品組成物は、ゲル状食品組成物の全質量を基準として、油脂を50~88質量%含有する。油脂の含有量が50質量%未満では食品組成物の総カロリーが低くなり、エネルギー補給のために必要な摂取量が増加し、食事に負荷がかかる。88質量%を超えると、乳化状態が不安定となり、常温、すなわち冷凍前においても油脂の分離(離油)を生じるおそれがある。油脂の含有量は、好ましくは70~88質量%であり、より好ましくは75~88質量%である。かかる場合には、食品組成物の総カロリーが増大し、少量の摂取で一層のエネルギー補給効果が得られる。
【0019】
本発明では、上記のごとく高含有量で配合する油脂として、その凝固開始温度が、-17℃以上のものを用いる点に特徴がある。凝固開始温度が-17℃以上の特定油脂を高含有量で配合したゲル状食品組成物であれば、それを冷凍した後、解凍した場合でも、離油が少なく、冷凍を行う前の組成物が本来有する食感や風味が維持されることが、本発明者らにより見出された。
【0020】
高含有量で配合する油脂として、凝固開始温度が-17℃以上の特定油脂を用いることで、ゲル状食品組成物の冷凍物の、解凍時の離油と食感や風味の低下を抑制できるメカニズムの詳細は明らかではない。思うに、油脂を高含有量で配合する場合、その凝固開始温度いかんで、解凍後の離油量や、冷凍前の食感や風味が、制御されたことによるものと推定する。例えば、高含有量で配合する油脂の凝固開始温度が-17℃以上であると、油脂結晶が成長する温度は、冷凍温度(例えば-45℃以上-18℃以下)の範囲から外れることになるため、ゲル状食品組成物中で、油脂結晶の成長が抑制され、油脂が乳化された状態を維持できるためではないかと考えている。
【0021】
凝固開始温度が-17℃以上の油脂としては、例えば、コーン油(-16.0℃)、大豆油(-13.9℃)、綿実油(-12.8℃)、米油(-9.0℃)等が挙げられる。凝固開始温度が-17℃以上の油脂は、単独でまたは複数を組み合わせて使用できる。オリーブ油(-17.7℃)、ブドウ種子油(-20.3℃)等の、凝固開始温度が-17℃より低い油脂は、それ単独では、本発明で使用可能な油脂には含まれない。しかしながら、油脂全体としての凝固開始温度が-17℃以上となる場合、凝固開始温度が-17℃より低い油脂を一部に含むこともできる。
【0022】
本発明の一実施形態は、ゲル状食品組成物を構成する、全ての油脂(100質量%)中の、凝固開始温度が-17℃以上の油脂の割合は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0023】
解凍後の離油量をより少なくする観点からは、全ての、凝固開始温度が-17℃以上の油脂(100質量%)中に、凝固開始温度が-10℃以上の油脂を含むことが好ましい。凝固開始温度が-10℃以上の油脂としては、例えば、米油(-9.0℃)等が挙げられる。凝固開始温度が-10℃以上の油脂は、単独でまたは複数を組み合わせて使用できる。
綿実油(-12.8℃)、大豆油(-13.9℃)、コーン油(-16.0℃)、オリーブ油(-17.7℃)、ブドウ種子油(-20.3℃)等の、凝固開始温度が-10℃より低い油脂は、それ単独では、ここで言う凝固開始温度が-10℃以上の油脂には含まれない。しかしながら、油脂全体としての凝固開始温度が-10℃以上となる場合、凝固開始温度が-10℃より低い油脂を一部に含むこともできる。
【0024】
本発明の一実施形態は、全ての、凝固開始温度が-17℃以上の油脂(100質量%)中の、凝固開始温度が-10℃以上の油脂の割合は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0025】
一形態に係るゲル状食品組成物は、油脂を分散された状態で含むことが好ましく、油脂を乳化された状態で含むことがさらに好ましい。これによりゲル状食品組成物に油脂による風味や物性を均質に付与することができる。
なお、油脂が乳化された状態とは、水系の分散媒中に油が微細粒子として分散している状態(O/W(水中油)型乳化)、あるいは、油系の分散媒中に水が微細粒子として分散している状態を意味する。本発明の一形態に係る冷凍物の、製造に用いる一形態に係るゲル状食品組成物は、O/W(水中油)型乳化物であり、このようなゲル状食品組成物は、後述する方法により得ることができる。
【0026】
(B)水
一形態に係るゲル状食品組成物は、ゲル状食品組成物の全質量を基準として、水を11~49質量%含有する。水の含有量が11質量%を下回ると油脂のO/W(水中油)型の安定な乳化物が得られない場合があり、水の含有量が組成物の49質量%を超えると、含有させる油脂の量が低くなり、ゲル状食品組成物の単位質量あたりの熱量が不十分となる。水の含有量は、好ましくは11~40質量%であり、より好ましくは12~30質量%であり、さらに好ましくは13~25質量%である。
【0027】
(C)乳化剤
乳化剤は、油脂を水中にO/W型(水中油型)で乳化分散するために使用される。乳化剤としては油脂のO/W型(水中油型)乳化できるものであれば特に制限されず、食品分野で適用可能なものを適宜選択して用いることができる。例えば、乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。なかでも、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドが好ましい。特にポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。これらの乳化剤は単独でまたは複数を組み合わせて使用できる。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が2以上、好ましくは5~15、より好ましくは5~10のポリグリセリンと、炭素数8~18の脂肪酸、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、またはリノール酸とのエステルを挙げることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、ペンタグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル等である。ポリグリセリン脂肪酸エステルは単独または混合して用いることができる。
有機酸モノグリセリドとしては、例えば、クエン酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等が挙げられる。
【0029】
乳化剤の含有量は、0.05~5質量%であり、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.3~1質量%である。上記乳化剤を用いることにより、油脂がO/W型(水中油型)に均質かつ安定し乳化され、安定に保持されるとともに、油脂の酸化が抑制できる。
【0030】
(D)ゲル化剤
ゲル化剤は、(d1)キサンタンガムと、(d2)ローカストビーンガムとを含有する。かかるゲル化剤は、増粘効果に優れ、油脂を高い割合で含む組成物についても、少ない使用量でゲル化させることができると共に、摂食に適した均質なゲル状物を得ることができる。ゲル化剤は、少ない添加量で一層高い増粘効果が得られ、乳化物が安定化して均質なゲル状物が得られる点で、さらに(d3)グアガムを含有してもよい。すなわち、一実施形態のゲル化剤は、(d1)キサンタンガムと、(d2)ローカストビーンガムと、(d3)グアガムとを含有する。
【0031】
ゲル化剤は本発明の効果を損なわない限り、上記(d1)~(d3)成分以外に、他の多糖類を含んでもよい。ただし、低添加量で高い増粘効果を発現するために、ゲル化剤は、増粘多糖類として上記(d1)成分および上記(d2)成分のみ、または上記(d1)~(d3)成分のみを含む、すなわち、上記(d1)~(d3)成分以外の他の増粘多糖類を含まないことが好ましい。
【0032】
(d1)キサンタンガムは、トウモロコシ等を原料とするデンプンを微生物(Xanthomonas campestris)が菌体外に産出することにより得られる水溶性の天然多糖類である。一次構造は、D-グルコースがβ-1,4結合した主鎖と、この主鎖のアンヒドログルコースに結合したD-マンノース、D-グルクロン酸からなる側鎖とを有する。なお、側鎖は、主鎖のD-グルコース残基1つおきに、D-マンノース2分子とD-グルクロン酸が結合している。また、側鎖の末端にあるD-マンノースは、ピルビン酸塩になっている場合があり、主鎖に結合したD-マンノースのC-6位はアセチル化されている場合がある。キサンタンガムは分子量200万~5000万程度のものが知られているが、本発明においては、いずれの分子量のものも用いることができる。キサンタンガムは粘度が高く、特に他の多糖類と比較して低濃度域で高粘度を示す。
本発明では、市販のキサンタンガムを用いることもできる。市販品としては、ネオソフトXR(太陽化学株式会社製)、SATIAXANE CX90(Cargill社製)等が挙げられる。
【0033】
(d2)ローカストビーンガムは、主に地中海沿岸地域に生息するカロブ樹(学名Celatonia siliqua Linne)の種子(イナゴ豆)の胚乳を分離粉砕した水溶性多糖類であり、主鎖がマンノース、側鎖がガラクトースで構成される。ガラクトースとマンノースはランダムに約1:4の比率で存在している。ローカストビーンガムは分子量30万程度のものが知られているが、本発明においては、いずれの分子量のものも用いることができる。ローカストビーンガムをキサンタンガムと併用することで弾力のあるゲル状物が形成されうる。
本発明では、市販のローカストビーンガムを用いることもできる。市販品としては、CESALPINIA L.B.G LN-1/200、(Tate & Lyle社製)、VISCOGUM BJ(Cargill社製)等が挙げられる。
【0034】
(d3)グアガムは、マメ科植物グア(学名Cyamopsis tetragonoloba)の種子の胚乳部に含有される粘液物質であり、主鎖がマンノース、側鎖がガラクトースで構成される。ガラクトースとマンノースは約1:2の比率で存在している。グアガムは分子量20万~30万程度のものが知られているが、分解された低分子タイプの製品も市販されている。本発明においては、いずれの分子量のものも用いることができる。グアガムをキサンタンガムと併用すると相乗的に粘度が増加し、高い増粘効果を得ることができる。また、グアガムは、O/W型(水中油型)乳化物の安定化に寄与する。ゲル化剤がグアガムを一定量含むことにより、油脂の安定な乳化物が得られ、均質なゲル状物が得られる。
本発明では、市販のグアガムを用いることもできる。市販品としては、PROCOL U(Habgen Guargums Limited社製)、VIDOGUM GHK 175(ユニテックフーズ株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
(D)成分中の(d1)成分と(d2)成分との合計含有量が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。かかる場合には、少ない添加量で高い増粘効果を得ることができ、均質なゲル状物を得ることができる。(D)成分中の(d1)成分と(d2)成分との合計含有量の上限は特に制限されず、100質量%である。
【0036】
また、(d1)成分の含有量は(d2)成分の含有量以上であることが少ない添加量で一層高い増粘効果を得る観点から好ましい。より好ましくは、均質で摂食しやすいゲル強度を有するゲル状物を得るために、(d1)成分と(d2)成分との合計(100質量%)中、(d1)成分の配合割合は51~80質量%の範囲である。
【0037】
(D)ゲル化剤が、(d3)グアガムを含む場合、(d1)キサンタンガムおよび(d2)ローカストビーンガムの合計と上記(d3)グアガムとの質量比が95:5~70:30の範囲であることが好ましく、95:5~75:25の範囲であることがより好ましく、95:5~80:20の範囲であることが特に好ましい。かかる範囲であると、増粘効果に優れ、乳化物の安定性およびゲルの均質性の面で好ましい。
【0038】
一形態に係るゲル状食品組成物は、ゲル状食品組成物の全質量を基準として、上記ゲル化剤を0.15~0.5質量%含有する。ゲル化剤の含有量は、好ましくは0.2~0.4質量%である。
一般に、低粘性物質に対する増粘効果は添加するゲル化剤の量に依存する。これまでのゼラチンや多糖類を有効成分とするゲル化剤は高粘度を与えるため、またはゲル化を進行するために、3~10質量%またはそれ以上配合しなければならなかった。多量のゲル化剤が配合された製品では、多糖類由来の異味、異臭に起因する不快感を生じるのを避けることができず、問題があった。また、ゲル化剤の配合量が多いほど、他の成分(例えば、油脂や添加物)の配合量が制限されるため、このように多量のゲル化剤を配合された製品では、油脂量を高い配合(例えば、50質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上)とすることは困難であった。上記(D)ゲル化剤は、少ない添加量で優れた増粘効果を付与し、ゲル化を進行することができるため、上記のような問題を解決することができる。
【0039】
成分(B)および成分(D)の含有量は、下記式(1)を満たすことが好ましい。(B)水に対する(D)ゲル化剤の比率を特定範囲とすることで、少量の水で高含有量の油脂を安定化させることができ、均質でまとまりのある摂食に適したゲル状物を得られる。
0.7≦d/b×100≦2.5 (1)
上記式(1)中、bは、組成物100質量%中の(B)成分の含有量(質量%)を表し、dは、組成物100質量%中の(D)成分の含有量(質量%)を表す。
より好ましくは、下記式(1)’を満たす。
0.7≦d/b×100≦2.0 (1)’
【0040】
ゲル化剤には、上記(d1)~(d3)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、分散性を向上させる目的でデキストリン、オリゴ糖、砂糖、ぶどう糖等を含有し得る。
【0041】
(d1)成分、(d2)成分、必要に応じて(d3)成分を含有するゲル化剤の製造方法は特に制限されない。例えば、ゲル化剤は、上記(d1)成分と上記(d2)成分とを予め混合後、ついで必要に応じて上記(d3)成分を混合してもよいし、上記(d1)~(d3)成分を一度に添加して混合してもよいし、上記(d1)成分と上記(d3)成分とを予め混合後、ついで上記(d2)成分を混合してもよいし、上記(d2)成分と上記(d3)成分とを予め混合後、ついで上記(d1)成分を混合してもよい。
【0042】
(E)その他成分
一形態に係るゲル状食品組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、風味の調節および/または栄養強化等の目的で、各種栄養補助成分、糖類、甘味料、香味料、香料、酸化防止剤、保存剤、着色剤、乳化助剤、pH調整剤、有機酸、緩衝剤、果汁、乳製品(ヨーグルト、牛乳、生クリーム、脱脂粉乳、発酵乳、乳清等)、卵(卵黄、卵白も含む)等の添加物を含んでもよい。これらは、通常食品分野で使用されているものであれば特に制限はなく、適宜組み合わせて使用することができる。
栄養補助成分としては、アミノ酸、脂溶性および水溶性ビタミン、ミネラル類(カルシウム、鉄、亜鉛、銅等の微量必須元素を含む)等を用いることができる。
甘味料としては、ブトウ糖、ショ糖、ブドウ糖果糖液糖等の糖質、サッカリン、アスパルテーム(登録商標)、アセスルファムK(登録商標)、スクラロース(登録商標)等の人工甘味料等が挙げられる。
香味料(フレーバー)としては、食品分野で用いられる各種天然および人工香味料を適宜用いることができる。香料としては、食品分野で用いられる各種天然および人工香料を適宜用いることができる。
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ステアレート、グリシン、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム等が挙げられる。
保存剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
乳化助剤としては、例えば、濃グリセリン、マクロゴール等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、リン酸、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。pH調整剤の添加量は本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、ゲル状食品組成物の全質量(100質量%)を基準として、0.2~1質量%である。
有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、グルコン酸、アジピン酸、コハク酸、乳酸等が挙げられる。
また、ココアパウダー、ココナッツパウダー、緑茶粉末、野菜ピューレ、果物ピューレ等の呈味成分を含んでもよい。
【0043】
一形態に係るゲル状食品組成物は、上記成分(A)~(D)に加えて、さらに(e1)有機酸を含む。有機酸の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、ゲル状食品組成物の全質量(100質量%)を基準として、1~3質量%(好ましくは1~2質量%)の有機酸を含有することが好ましい。中でも、有機酸として、酢酸を含有することが好ましい。有機酸は、予め、上記成分(B)の水と混合して、水溶液の形態で組成物に添加してもよい。一実施形態において、ゲル状食品組成物の全質量(100質量%)を基準として、成分(A)の油脂の含有量は50~88質量%であり、(e1)有機酸の含有量は1~3質量%でありうる。一実施形態において、ゲル状食品組成物の全質量(100質量%)を基準として、成分(A)の油脂の含有量は70~88質量%であり、(e1)有機酸の含有量は1~2質量%でありうる。
【0044】
一形態に係るゲル状食品組成物は、均質なゲル状であり、摂食に適する。なお、本明細書において、「均質なゲル」とは油分と水分との均質な乳化物がゲル化した状態をいい、「不均質なゲル」とは、水分と一部の油分との乳化物がゲル化し、残部の油分が分離した状態、あるいは、水分のみがゲル化し、油分が分離した状態をいう。
【0045】
一形態に係るゲル状食品組成物は、カロリー(熱量)が450kcal/100g以上であることが好ましく、500kcal/100g以上であることがより好ましい。少量の食事で十分な栄養を摂取する点から、カロリーは600kcal/100g以上であることがさらに好ましい。カロリーの上限は特に規定されないが、食べやすさの面から、850kcal/100g以下であることが好ましく、800kcal/100g以下であることがより好ましい。なお、カロリーは、栄養表示基準別表第1の第3欄記載の修正アトウォーター法に準じて測定される。
【0046】
<ゲル状食品組成物の製造方法>
一形態に係るゲル状食品組成物は、例えば、組成物を構成する各成分を混合することにより製造されうる。各成分の添加順序および添加方法は特に制限されない。
例えば、下記の工程1および工程2、ならびに必要に応じて工程3を含む方法により製造され得る。
工程1:(A)油脂、(B)水、(C)乳化剤、および必要に応じて(E)その他成分を混合してO/W型乳化物を調製すること、
工程2:上記O/W型乳化物に(D)ゲル化剤を混合すること、
任意の工程3:上記混合液に(A)油脂をさらに混合すること。
各成分(A)~(E)の好ましい態様は、上記<ゲル状食品組成物>において説明した形態と同様である。
【0047】
本実施形態の製造方法では、前述のゲル化剤を用いることにより、少量の水で高含有量の油脂を安定化させることができ、これにより均質なゲル状物を得ることができる。
【0048】
以下、各工程について説明する。なお、各成分(A)~(D)の添加量(質量部)はゲル状食品組成物の最終質量(100質量部)を基準とし、上記工程により各成分(A)~(D)、および必要に応じて成分(E)を含むゲル状食品組成物(100質量部)が得られる。
【0049】
(工程1)
まず、(A)油脂、(B)水、および(C)乳化剤を混合してO/W型乳化物を調製する。成分(A)~(C)の添加順序は特に制限されない。好ましくは、溶解性の点で(B)水に(C)乳化剤を予め添加して溶解させ、得られた溶液を10~40℃で撹拌または混合手段を用いて、回転数約500~1,000rpmで撹拌しながら(A)油脂を添加することが好ましい。また、混合方法も均質なO/W型乳化物が得られる方法であれば特に制限されない。例えば、10~40℃(好ましくは15~30℃)で、撹拌または混合手段を用いて、回転数約500~1,000rpm、撹拌時間約5~60分間にて撹拌して乳化させる。任意の成分(E)の添加のタイミングも特に制限されない。
【0050】
(A)油脂の添加量は、工程1において、ゲル状食品組成物に含ませる油脂の全量(例えば、50~88質量部)を添加してもよい。あるいは、工程1において、ゲル状食品組成物に含ませる油脂の一部の量(例えば、10~50質量部)を添加し、工程3において、油脂の残部をさらに混合してもよい。
【0051】
(B)水および(C)乳化剤の添加量は、油脂の含有量に応じて決定され、安定なO/W型乳化物が得られる量であればよい。具体的には、(B)水の添加量は11~49質量部、好ましくは11~40質量部であり、より好ましくは12~30質量部、さらに好ましくは13~25質量部である。(C)乳化剤の添加量は0.05~5質量部、好ましく
は0.1~3質量部、より好ましくは0.3~1質量部である。
【0052】
(工程2)
次いで、工程1で得られたO/W型乳化物に(D)ゲル化剤を混合する。ゲル化剤の添加により、油脂のO/W型乳化を一層安定化することができる。
ゲル化剤の添加量は、均質なゲル状物が得られる量であればよい。具体的には、0.15~0.5質量部である。0.5質量部を超えると他の成分(例えば、油脂や添加物)の配合量が制限され、油脂量を高い配合で含有させることが困難となる、粘度上昇による作業性の悪化等の点で好ましくない。0.15質量部未満ではゲル化が不十分となる場合がある。ゲル化剤の添加量は、安定したゲル化と作業性の確保の点で、好ましくは0.15~0.5質量部、より好ましくは0.2~0.4質量部である。
好ましい形態において、(B)水および(D)ゲル化剤の関係が上記式(1)(より好ましくは式(1)’)の関係を満たす。(B)水に対する(D)ゲル化剤の比率を特定範囲とすることで、少量の水で高含有量の油脂を安定化させることができ、均質なゲル状物を得ることができる。
【0053】
ゲル化剤を添加した後、混合することにより、O/W型乳化物を安定化させることができる。混合方法は特に制限されないが、例えば、10~40℃(好ましくは15~30℃)で、撹拌または混合手段を用いて、回転数約500~1,000rpm、撹拌時間約5~60分間にて撹拌して乳化を安定させる。起泡させないように混合することが好ましい。
【0054】
(工程3)
工程3は任意の工程である。上述のように、上記工程2で得られた混合液に上記(A)油脂の残部をさらに混合してもよい。
上記追加の(A)油脂の添加量は、所望の油脂含有量に応じて決定すればよい。具体的には、10~75質量部、好ましくは20~70質量部、より好ましくは30~60質量部である。このように、追加の油脂を、上記工程2で得られた安定なO/W型乳化物に混合して、高含有量の油脂が均質に分散された安定なゲル状物を得ることもできる。追加の油脂の添加は、O/W型乳化物を撹拌しながら徐々に投入することが乳化状態の安定を維持する点で好ましい。撹拌は起泡させないように混合することが好ましく、例えば、薬匙を用いる等、緩やかな条件となる撹拌または混合手段を用いて、徐々に(低速で)、撹拌時間約5~30分間にて撹拌を行う。
【0055】
続いて、上記工程2または工程3で得られた混合液をゲル化する。ゲル化の方法は特に制限されないが、例えば、上記で得られた混合液をゲル化開始温度以上で加熱しながら均質化し、その後、必要に応じて冷却する方法が挙げられる。
加熱温度は、ゲル化開始温度以上の高温、例えば85℃以上、好ましくは95℃以上である。上限は特に制限されないが、高温による乳化状態の崩壊を防止するために、通常100℃以下である。加熱時間は例えば、1~60分間である。冷却する場合の冷却温度は特に制限されず、室温、好ましくは10℃以下である。加熱により粘度は低下するがこれを冷却することによりゲル化する。特に、85℃以上に加熱して再度10℃以下に冷却すると、よりゲル化度が向上したゲル状物が得られる。
【0056】
なお、油脂の酸化を防止するために、上記工程1~3の少なくとも一つを、例えば、窒素雰囲気下で行ってもよい。
上記方法によれば、少量のゲル化剤で、油脂を高含有量含む均質なゲル状物を得ることが可能となる。
【0057】
一形態に係るゲル状食品組成物は、食感や物性等の品質の劣化を防止するため、pH調整処理および/または加熱殺菌処理を施してもよい。このようなゲル状食品組成物は常温保存用食品組成物として好適に用いることができる。
一形態に係るゲル状食品組成物のpHは、例えば4.5~8である。pHが上記範囲にあると中鎖脂肪酸含有量が高くても、食後の不快感を抑制しうる。
【0058】
<食品>
一形態に係るゲル状食品組成物は、固形状から半固形状にゲル化した状態(ゼリー状、ジャム状)である。なお、本明細書において、ゲル状とはゼリーやジャムの様に粘性と供に立体構造(高分子鎖が三次元的な網目構造を形成し、水を不動化(固定化)した状態)を有し、流動性に乏しい物性を意味する。
一形態に係るゲル状食品組成物は、そのまま、ゲル状食品として摂食することができる。一形態に係るゲル状食品組成物は、ゲル状(ゼリー状、ジャム状)であり、高い油脂含有量にもかかわらず快適に摂食することができる。ゲル状食品の例としては、好ましくはゼリー食品、ゼリー飲料、グミ、ババロア、プリン、ムース、ジャム、栄養剤、流動食等が挙げられる。
【0059】
また、食品は、一形態に係るゲル状食品組成物を含む食品であってもよい。例えば、上記ゲル状食品組成物を他の食品原料と混合して、ヨーグルト、コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、汁粉、ジュース、豆乳、生乳、加工乳、乳酸菌飲料、カルシウム強化飲料、食物繊維含有飲料等の飲料類、コーヒーホワイトナー、ホイッピングクリーム、カスタードクリーム、ソフトクリーム等の乳製品類、パン、スープ、シチュー、ソース、タレ、ドレッシング、練り辛子、練りわさび等の液状料理、調味料類、フルーツソース、フルーツプレパレーション等の果肉加工品類、流動食類、ゼリーやプリン等のゲル状食品、液状またはペースト状サプリメント類、液状またはペースト状ペットフード類としてもよい。
【0060】
一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品は、油脂を高い割合で含むため単位質量当たりの熱量が大きく、少量の摂食で十分なエネルギーを補給することができる。したがって、一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品は、要介護者または食が細く低栄養状態にある患者のエネルギー補給、低栄養状態の回復、栄養強化に用いることができる。
また、一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品の粘度や形状(例えば板状、スティック状)に調節し、咽頭をスムーズに通過して飲み込みやすいものとして、嚥下困難者用のエネルギー補給に用いてもよい。
一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品は、ヒトを含む健康な哺乳動物の摂食に用いることができる。一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品は、大量かつ急速なエネルギー補給を必要とする状況でエネルギー源を提供するために好適に用いられる。一形態に係るゲル状食品組成物またはこれを含む食品は、機能性食品でありうる。
【0061】
一実施形態は、必要とする対象においてエネルギーを補給する方法であって、上記ゲル状食品組成物を含む食品を摂取することを含む、方法に関する。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は動物を指す。例えば、実施形態の食品は、哺乳動物に摂食させることができる。摂食の対象となる哺乳動物(対象)としては、例えばヒトのほか、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜、イヌ、ネコ等の愛玩動物、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等の実験動物が挙げられるが、これらの動物に限定されるものではない。一実施形態において、対象はヒトを含む健康な哺乳動物でありうる。一実施形態において、対象は健康なヒトでありうる。一実施形態において、対象は要介護者または食が細く低栄養状態にある患者でありうる。
【0062】
<冷凍物の製造方法>
一形態に係る冷凍物は、一形態に係るゲル状食品組成物、または該ゲル状食品組成物を含む食品を冷凍することにより製造されうる。一形態に係る冷凍工程では、冷凍対象である、常温(通常約10~30℃)の、ゲル状食品組成物、または該ゲル状食品組成物を含む食品(以下単に「冷凍対象」と略記することもある。)に、低温(例えば-45℃以上-18℃以下。以下同じ)の冷気を吹きつけて、あるいは、冷凍対象を低温の環境下に置いて、凍結させることが好ましい。冷凍温度(冷凍対象に吹き付ける冷気の温度、あるいは冷凍対象が置かれる環境下の温度)が低すぎる(例えば-45℃未満)と、油脂の種類によっては、冷凍温度が油脂結晶の成長が進行しやすい温度となる可能性が高く、その場合には乳化が破壊されるため、凍結後の冷凍物を常温に戻した際(解凍後)の離油率が、例えば15%を超え、その結果、冷凍を行う前の組成物、または該組成物を含む食品が本来有する食感や風味が損なわれる場合もある。逆に冷凍温度が高すぎる(例えば-18℃超)と、氷結晶の成長が進行しやすくなるため、ゲル構造が破壊される恐れや、冷凍することの意義(日持ちを良くする)を達成できない恐れがある。冷凍温度は、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-28℃以下である。
冷凍方法としては、緩慢冷凍、急速冷凍のいずれも採用することができるが、急速冷凍が好ましい。急速冷凍とは、冷凍対象を文字通り素早く冷凍させることをいう。具体的には、例えば、冷凍対象を、できるだけ短時間(30分から1時間程度)に凍結させることができる。急速冷凍を行うことで、冷凍物の生産性向上が期待できることに加え、冷却対象中の水相では氷結晶、また油相(高含有量)では油脂結晶が成長する度合いを抑制でき、その結果、解凍後の耐離油性の向上が期待できる。また急速冷凍を行う場合、より低い温度で行う(例えば、-23℃より、-40℃)方が、解凍後の耐離油性の向上に寄与しうる。
【0063】
冷凍期間(時間)は、ゲル状食品組成物中の油脂濃度や冷凍温度により一様ではないが、例えば10時間以上100時間以下、好ましくは10時間以上84時間以下とすることができる。冷凍温度が適正であっても冷凍期間が短すぎると、冷凍温度が高すぎる場合に生ずる不都合(前出)を生じうる可能性がある。また、冷凍温度が適正であっても冷凍期間が長すぎると、冷凍温度が低すぎる場合に生ずる不都合(前出)を生じうる可能性がある。なお、ここで言う冷凍期間は、冷凍条件としての期間だけでなく、解凍(使用)するまでの保存期間としての意味もある。また、ここで言う冷凍期間は、一形態に係る冷凍温度(前出)より若干高い環境(例えば-18℃前後)下に置いた冷凍物を1年程度、長期保存した場合の、保存期間としての意味もある。
【0064】
<冷凍物の解凍>
一形態に係る冷凍物の解凍法は、室温での放置による自然解凍、冷蔵庫の中で一晩から一昼夜置く庫内解凍、常温である水道水等による流水解凍等を採用しうる。
【実施例
【0065】
以下の実験例(実施例および比較例を含む)により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実験例中、特に断らない限り、「%」および「部」は、質量基準に基づく「質量%」および「質量部」を示す。以下の実験例および製造例中の「室温」は通常約10~30℃を示す。
【0066】
1.[使用材料]
<成分(A):油脂>
・A1: -17.7℃ オリーブ油
(構成脂肪酸: パルミチン酸(16:0)、パルミトレイン酸(16:1)、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、α-リノレン酸(18:3)、アラキジン酸(20:0)、エイコセン酸(20:1))、商品名:日清さらっと軽~いオリーブオイル(日清オイリオグループ株式会社製、1グラム当たりのエネルギーが9kcal)
・A2: -16.0℃ コーン油
(構成脂肪酸: パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸)、商品名:胚芽の恵みコーン油(株式会社Jオイルミルズ製、1グラム当たりのエネルギーが9kcal)
・A3: -13.9℃ 大豆油
(構成脂肪酸: パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸(22:0))、商品名:コクとうまみの大豆の油(株式会社Jオイルミルズ製、1グラム当たりのエネルギーが9kcal)
・A4: -12.8℃ 綿実油
(構成脂肪酸: ミリスチン酸(14:0)、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、ノナデセン酸(19:1)、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸)、商品名:日清綿実油(日清オイリオグループ株式会社製、1グラム当たりのエネルギーが9kcal)
・A5: -9.0℃ 米油
(構成脂肪酸: ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸(24:0))、商品名:健康こめ油(株式会社Jオイルミルズ製、1グラム当たりのエネルギーが9kcal)
【0067】
<成分(B):水>
・B1: イオン交換水
【0068】
<成分(C):乳化剤>
・C1: ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸デカグリセリン)、商品名:サンソフトQ-18SW(太陽化学株式会社製)
【0069】
<成分(D):ゲル化剤>
・d1: キサンタンガム、商品名:ネオソフトXR(太陽化学株式会社製)
・d2: ローカストビーンガム、商品名:CESALPINIA L.B.G LN-1/200(Tate & Lyle社製)
【0070】
2.[ゼリー組成物]
<製造>
各実験例のゼリー組成物を、以下の方法により調製した。
(1)プラスチック容器に(B)水と、(C)乳化剤を入れ、60℃程度で加温しながら撹拌機(スリーワンモータ、新東科学株式会社製)を用いて撹拌して溶解させ、10%乳化剤液を得た。
(2)10%乳化剤液にイオン交換水を加え、スリーワンモータを用いて1,300rpmで5分間撹拌した。
(3)イオン交換水の添加・撹拌終了後、温めておいた表1に示す(A)油脂を、撹拌しながら少しずつ添加した。
(4)油脂の添加終了後、スリーワンモータを用いて1,300rpmで5分間撹拌し、O/W型乳化液を得た。
(5)O/W型乳化液に、表1に示す配合で各成分を予め混合して製造された(D)ゲル化剤を添加し、スリーワンモータを用いて1,300rpmで5分間撹拌した。
(6)ゲル化剤の添加・撹拌終了後、95℃の湯浴で7.5分間加温した。その後、
(7)得られた液を70gずつ、2つのカップ(120ml容量)それぞれに充填し、その後、
(8)10℃以下に冷却して粗熱を取り、ゼリー組成物の完成とした。
なお、(2)~(5)の工程は、51℃の湯浴で行った。
【0071】
<評価1>
各実験例で得られたゼリー組成物をついて、ゲル形成(安定性)、乳化度、ゲル化度を評価した。
【0072】
1-1.ゲル形成(安定性)
ゼリー組成物の製造途中および完成後にゲルの状態を目視で確認し、以下の評価基準に従い評価した。
<評価基準>
○:均質なゲルを形成した。
×:製造中に成分が分離し、均質なゲルを形成しなかった。
【0073】
1-2.乳化度
ゼリー組成物の製造途中および完成後に乳化度を目視で確認し、以下の評価基準に従い評価した。
<評価基準>
4:乳化している。
3:油滴が目視できる。
2:油滴が大きく半透明。
1:分離して全く混ざらない。
【0074】
1-3.ゲル化度
ゼリー組成物の製造途中および完成後にゲル度を目視で確認し、以下の評価基準に従い評価した。
<評価基準>
○:プラスチック容器から取り出した際に、流動性もなく固まりまとまっている。
△:プラスチック容器から取り出した際に、流動性はないがやや広がっている。
×:固まらず、流動性あり。
【0075】
3.[ゼリー組成物の冷凍物]
<製造>
各実験例で得られたゼリー組成物を、表1に示す各温度(-50℃、-40℃、-23℃)で冷凍した。各温度で表1に示す各期間(12時間、72時間、216時間)、冷凍保存することにより、実験例ごとに複数の、ゼリー組成物の冷凍物を得た。
-50℃の冷凍は、低温恒温槽を用いて行った。-40℃の冷凍は、急速冷凍庫(小型ブラストチラー、DBC-050、大和冷機工業株式会社製)を用いた急速冷凍により行った。-23℃の冷凍は、家庭用冷蔵庫の冷凍室を用いた緩慢冷凍により行った。
【0076】
<評価2>
各実験例で得られたゼリー組成物の冷凍物を25℃の恒温庫に1日静置して、自然解凍させて得られた解凍後のゼリー組成物について、耐離油性(冷解凍安定性)、食感・風味を評価した。
【0077】
2-1.耐離油性
解凍後ゼリー組成物を収容した容器の重量を測定し、「全量(g)」とした。解凍後ゼリー組成物を容器から取り出し、その取り出された解凍後ゼリー組成物をすべてステンレスのザル上に乗せ、1分間静置して、離油部とゲル部を分離させた。ザルの目を通過した離油部の重量を測定し、「離油部重量(g)」とした。各実験例の測定値を使用し、下記計算式にて離油率(%)を算出して、以下の基準で評価した。
[計算式]
離油率(%) = (離油部重量(g)/(全量(g)-容器重量(g)))×100
<評価基準>
◎◎:離油率が1%以下
◎ :離油率が1%超5%以下
○ :離油率が5%超15%以下
× :離油率が15%超30%以下
××:離油率が30%超
【0078】
2-2.食感・風味
解凍後ゼリー組成物の食感・風味は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーに解凍後ゼリー組成物を食してもらい、以下の基準で評価した。10人の各評価の平均で評価とした。
<評価基準>
◎:冷凍前のゼリー組成物と比べ、食感・風味の違いが感じられない(冷解凍前後で同等)。
〇:冷凍前のゼリー組成物と比べ、食感・風味の違いを若干感じる。
×:冷凍前のゼリー組成物と比べ、食感・風味の違いを強く感じ、食することを躊躇する。
【0079】
表1に、ゼリー組成物の組成および評価結果を併記する。表1中、成分(A)、(B)、(C)、(D)の各数値はゼリー組成物の合計(100質量部)を基準とした質量部を表し、評価2欄の冷凍条件とは、評価した解凍後ゼリー組成物の前駆物である、ゼリー組成物の冷凍物の、冷凍条件を表す。
【0080】
【表1】
【0081】
また、図1および図2に、実験例5(冷凍条件:-23℃、12h)および実験例1(冷凍条件:実験例5と同一)で得られた解凍後ゼリー組成物の写真を示す。図1に示される実験例5(実施例相当)の解凍後ゼリー組成物は、ゼリー全体が、油分と水分との均質な乳化物からなるゲルで構成されていることが確認される。一方、実験例1(比較例相当)の解凍後ゼリー組成物は、上部に油分の分離層(写真中透明な部分)が存在しており、水分と一部の油分とがゲル化し、残部の油分が分離した状態であることが確認される。
【0082】
上記表1および図1,2から、高含有量で配合する油脂として、凝固開始温度が-17℃以上の油脂を用いた場合(実験例2~5)には、凝固開始温度が-17℃より低い油脂を用いた場合(実験例1)と比較して、冷解凍安定性に優れたゼリーが得られたことが確認される。
実験例1(比較例相当)の解凍後ゼリー組成物についての、冷解凍安定性が低下した理由として、緩慢冷凍により油脂結晶が成長したため(油滴が合一するため、乳化が破壊された)、と考えられる。なお、凝固開始温度が-17℃より低い油脂を用いた冷凍前のゼリー組成物(実験例1)は、いずれの冷凍温度(-23℃、-40℃、-50℃)において冷凍したとしても、それらの冷凍温度は、油脂結晶が成長する(油滴が合一するため、乳化が破壊される)温度であるため、冷解凍安定性は改善しないものと考える。
【0083】
なお、表1によると、単一の冷凍時間では、冷凍温度を低くするにつれて、冷解凍安定性(耐離油性)が向上する傾向が見られる。実験例4の列を参照すると、冷解凍安定性は、冷凍温度が-23℃のときには×、-40℃のときには○、-50℃のときには◎となり、冷凍温度が低くなるにつれて向上している。実験例2、5も同様の傾向がある。なお、実験例3は例外として捉える。
実験例5の列を参照すると、各冷凍温度(-23℃、-40℃、-50℃)において、12時間という同じ冷凍時間では、冷解凍安定性に差異がない(◎◎、◎◎、◎◎)。その反面、各冷凍温度において、すなわち単一の冷凍温度では、冷凍時間を長くするにつれ、冷解凍安定性が悪化する傾向が見られる。例えば、実験例5を見ると、冷凍温度が-23℃の場合、12時間の冷凍で◎◎であった冷解凍安定性が、72時間に長くなると〇へ、216時間では×と、悪化している。-40℃の場合、12時間の冷凍で◎◎であった冷解凍安定性が、72時間では◎へと、悪化している。実験例2~4も同様である。
冷凍時間が長くなればなるほど、それだけ低温状態にさらされる機会が増える。実験例で対象とした油脂はすべて、凝固開始温度が水のそれよりも低いため、長期間低温にさらされることにより、冷凍対象中での油脂結晶の成長が進行して乳化が破壊される。これが、冷凍温度が一定の場合に、冷凍時間が長くなるにつれて冷解凍安定性が悪化する理由ではないかと考えている。
図1
図2