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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ハイブリッドプロトン交換膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1048 20160101AFI20250110BHJP
   H01M 8/1053 20160101ALI20250110BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20250110BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20250110BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20250110BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250110BHJP
【FI】
H01M8/1048
H01M8/1053
H01M8/1081
H01M8/1004
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021008716
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2021118182
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】2000656
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521033468
【氏名又は名称】シンビオ
(73)【特許権者】
【識別番号】519226908
【氏名又は名称】コレージュ・ド・フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ヴァキエ
(72)【発明者】
【氏名】ナターリア・ロヴィラ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・バヴェレル
(72)【発明者】
【氏名】クリステル・ラベルティ-ロベール
(72)【発明者】
【氏名】ロラ・クスタン
(72)【発明者】
【氏名】クレマン・サンチェス
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059552(JP,A)
【文献】特開2010-027519(JP,A)
【文献】特開2019-125429(JP,A)
【文献】特開2008-115236(JP,A)
【文献】特開2009-099564(JP,A)
【文献】特開2017-216187(JP,A)
【文献】特開2006-120560(JP,A)
【文献】特開2019-083181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用のプロトン交換膜であって、前記膜はアノード側のアノード面及びカソード側のカソード面を含み、前記膜は以下の2層:
カソード面をもたらす、SOH基を有する少なくとも1つのポリマー(iii)を含む、自動再生する導電性カソード層、及び
アソード面をもたらす、SOH基を有する少なくとも1つのポリマー(iii')を含む導電性アノード層
を含み、
前記ポリマー(iii)及び(iii')は同一であっても異なっていてもよく、
前記膜は、前記カソード層が、チオール基(-SH)を有する少なくとも1つのポリマー(i)を含むことを特徴とする、プロトン交換膜。
【請求項2】
前記カソード層及び/又は前記アノード層が、それぞれ無機ポリマー(ii)及び/又は(ii')を更に含み、前記ポリマー(ii)及び(ii')は、同一であっても異なっていてもよい、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項3】
SH基を有するポリマー(i)が、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)である、請求項1又は2に記載のプロトン交換膜。
【請求項4】
ポリマー(ii)及び/又は(ii')が、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)又はTMOS(オルトケイ酸テトラメチル)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項5】
ポリマー(iii)及び/又は(iii')が、CSPTC(2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン)である、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項6】
前記カソード層の内部で、SH基濃度に対するSOH基濃度の比率が、0.5から4の間、好ましくは1から4の間である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項7】
前記カソード層が、3から15μmの間、特に5から10μmの間、好ましくは5から7μmの間の厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項8】
前記カソード層が、前記アノード層を伴うその内面からその外面に向かって増加するSH基濃度勾配を示し、カソード触媒層との界面をもたらしている、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項9】
カソード層において、ポリマー(ii)、(iii)、及び(i)が1:2:1の比であり、
アノード層において、ポリマー(ii')及び(iii')が1:2の比である、
請求項1から8のいずれか一項に記載のプロトン交換膜。
【請求項10】
二層膜を含む請求項1から9のいずれか一項に記載の燃料電池であって、二層膜が、カソード層外面上をカソード触媒層で、及びアノード層外面上をアノード触媒層でコーティングされている、燃料電池。
【請求項11】
カソード触媒層がポリマー(i)及び(iii)を含み、アノード触媒層がポリマー(iii')を含む、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
- 少なくとも1つのチオール基(-SH)を有するポリマー(i)、及び少なくとも1つのSOH基を有するポリマー(iii)を含む溶液から、エレクトロスピニング法によって、カソード層を構成するファイバーを形成する工程、
- 少なくとも1つのSOH基を有するポリマー(iii')を含む溶液から、エレクトロスピニング法によって、アノード層を構成するファイバーを形成する工程、
- 得られたファイバーから、それぞれアノード層及びカソード層を成形する工程、
- 前記アノード層へ前記カソード層を取付ける工程、
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロトン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の分野、特にこれらの電池において用いられるプロトン交換膜の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜又は高分子電解質膜(PEM)は、O又はH等の気体に不透過性でありながら、プロトン伝導性を可能とする半透膜であり、すなわち気体が止められているにもかかわらずプロトンは膜を通過する。PEMは一般的に、純粋な高分子膜、又はポリマーを主成分とする複合膜から製造される。
【0003】
また、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のスルホン化コポリマーを主成分とする燃料電池の膜も知られている。例えば、プロトン交換膜の製造業者に最も広く用いられている材料の1つは、Nafion(登録商標),DuPont社によって製造されているスルホン化したフッ素化コポリマーである。
【0004】
カナダ特許第2950775号は、燃料電池の膜を強化するためのエレクトロスピニング法によるファイバーウェブを記載している。
【0005】
米国特許出願公開第2007/0213494号は、シリカを主成分とする有機-無機(ハイブリッド)ポリマー、及びプロトン交換材料としてのその使用を記載している。
【0006】
しかしながら、燃料電池の作動によって、高温又は極度の低温、高い相対湿度(90%近く)、及び材料を劣化させる過酸化水素(H2O2)の生成のため、膜の劣化が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】カナダ特許第2950775号
【文献】米国特許出願公開第2007/0213494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、これらの作動の抑制作用によってより高い耐性をもち、より長期間の寿命を示す、改善された膜を利用できるようにする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、有機成分及び無機成分を主成分とする、ハイブリッド材料を主成分とする膜であって、前記膜が、良好な機械的特性及び導電性を保持するように、特に過酸化水素と反応可能である膜を提案する。
【0010】
第1の目的によれば、本発明は、燃料電池用のプロトン交換膜であって、前記膜はアノード側のアノード面、及びカソード側のカソード面を含み、前記膜は以下の2層:
カソード面をもたらす、少なくとも1つのSOH基を有するポリマー(iii)を含む、自動再生する導電性カソード層、及び
アノード面をもたらす、少なくとも1つのSOH基を有するポリマー(iii')を含む導電性アノード層
を含み、
前記ポリマー(iii)及び(iii')は同一であっても異なっていてもよく、
前記膜は、前記カソード層が少なくとも1つのチオール基(-SH)を有するポリマー(i)を含むことを特徴とする、膜に関する。
【0011】
本発明によれば、膜は、カソードの、すなわち膜のカソード層内部に存在する、SH基を含む。
【0012】
SH基はまた、燃料電池のカソード触媒層内部にも存在しうる。
【0013】
したがって、本発明による膜を含む電池は、有利には、膜のカソード層から、その表面に存在するカソード触媒層に広がるSH基によって官能化された領域を含む。
【0014】
一実施形態によれば、-SH基は、カソード層内部、任意選択により場合によってはカソード触媒層内部で均一に分布しうる。
【0015】
それに代えて、-SH基は、カソード表面の方に向かって増加する-SH基の濃度勾配にしたがって分布しうる。この勾配は、前記アノード層を伴うカソード層の内面からその外面に向かって増加するSH基濃度を示し、その外面がカソード触媒層との界面をもたらす。
【0016】
膜の内面とは、カソード層とアノード層との間の界面を意味する。
【0017】
膜の外面とは、それぞれカソード触媒層及びアノード触媒層との界面をもたらす、膜のカソード面及びアノード面を意味する。
【0018】
本発明によるプロトン交換膜は自動再生し、その場合にプロトン交換膜は電池の作動時に生成され且つ膜を劣化させる有害な過酸化水素を用いる。カソード層内(及び場合によってはカソード触媒層内)に存在するSH基が反応して、過酸化水素を消費し、したがってその有害な蓄積を妨げる。加えて、この反応は、導電性を保持し、更には再生し且つ向上させるSOH基を生成する。
【0019】
したがって、本発明による膜は、燃料電池の性能及び寿命を大いに向上させることができる。
【0020】
一実施形態によれば、上記の層は、例えばエレクトロスピニング法によって得られるハイブリッドファイバーから成る。
【0021】
一実施形態によれば、本発明による膜は、それが有機成分及び無機成分(ここでは鉱物ともよばれる)を含むことからハイブリッドとよばれる。
【0022】
一般的に、有機成分が導電性をもたらす一方で、無機成分はウェブ(網目, ネットワーク)をもたらす。
【0023】
典型的には、ウェブは、例えばNafion(登録商標)タイプ、又はスルホン化ポリエーテルの、シリケート無機ウェブである。したがって、一実施形態によれば、カソード層及び/又はアノード層は、それぞれ無機ポリマー(ii)及び/又は(ii')を含み、前記ポリマー(ii)及び(ii')は、同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、ポリマー(ii)及び(ii')は、ケイ素の誘導体である。
【0024】
したがって、本発明による膜は、Nafion(登録商標)膜で観察される構造的相分離を、プロトンが容易に拡散される指向性イオンナノチャネル(nanocanaux ioniques orientes)で模倣する能力を併せ持つ。
【0025】
更に、膜の組成は、プロトンの拡散及び膜の湿潤特性を改善する有利な親水性/疎水性比率を示す。
【0026】
膜の形態及び組成は、マイナスの温度から約120℃の幅をもちうる広い領域の温度にわたり良好な機械的特性を与える。
【0027】
一実施形態によれば、本発明による膜は、以下:
- SH基を有するポリマー(i)及び/又はSOH基を有するポリマー(iii)及び(iii')から選択される有機ポリマー、並びに
- ケイ素から誘導された無機ポリマー(ii)及び(ii')
の混合物から構成される。
【0028】
ケイ素から誘導されたポリマーは、内部に有機成分が組み込まれているランダム立体連続多孔質ウェブ(reseau poreux continu tridimensionnel)を形成する。
【0029】
カソード層に関しては、有機ポリマーは、特に、SH基を有するポリマー(i)及びSOH基を有するポリマー(iii)から構成される。
【0030】
前記カソード層の内部では、一般的に、SH基濃度に対するSOH基濃度の比率は、0.5から4の間、好ましくは1から4の間である。
【0031】
アノード層に関しては、有機ポリマーは、特に、SOH基を有するポリマー(iii')から構成される。
【0032】
カソード層及びアノード層に関しては、無機ポリマーは、特にそれぞれケイ素から誘導されたポリマー(ii)及び(ii')から構成される。
【0033】
一実施形態によれば、
- カソード層において、ポリマー(ii)、(iii)、及び(i)は1:2:1の比で存在し、
- アノード層において、ポリマー(ii')及び(iii')は1:2の比である。
【0034】
チオール(-SH)基保持ポリマー(i)としては、特に以下の式の(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)が挙げられる。
【化1】
【0035】
ポリマー(ii)及び/又は(ii')としては、以下の式の、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)又はオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)などのケイ素誘導体が挙げられる。
【0036】
【化2】
【0037】
また、無機ポリマー(ii)及び/又は(ii')はまた、Nafion(登録商標)タイプの誘導体又はスルホン化ポリエーテルでありうる。
【0038】
有機ポリマーは膜の骨格をもたらす。
【0039】
SOH基を有するポリマー(iii)及び/又は(iii')としては、特に以下の式のCSPTC(2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン)が挙げられる。
【0040】
【化3】
【0041】
上記で議論されたポリマーの混合物を用いた一つの代替実施形態によれば、有機成分及び無機成分は共縮合される。すなわち、ケイ素ポリマーは、有機ポリマーがグラフト化されたウェブを形成する。
【0042】
この実施形態によれば、一方ではポリマー(i)、(ii)、及び(iii)、並びに他方ではポリマー(ii')及び(iii')は、有機-鉱物コポリマー、すなわち同時に有機成分及び鉱物成分を含むコポリマーを構成する形で共重合される。
【0043】
したがって、シリカ誘導体は、カソード又はアノード層に応じて、SH基及び/又はWOH基によって官能化されうる。
【0044】
同一又は異なるポリマー(i)、(ii)、(ii')、(iii)、(iii')は、このとき、それぞれSH基及び/又はSOH基を有する、ケイ素から誘導された(コ)ポリマーから選択されうる。
【0045】
上述の実施形態のいずれにおいても、混合物の状態又は共重合したポリマーは、ウェブの剛性を可能とするための鉱物成分(ケイ素から誘導されたポリマー(ii)又は(ii'))、並びにそのSH基及び/又はSOH基が(場合によってはポリマー(i)の場合のようにSH基の加水分解後に)移動性プロトンをもたらす有機成分(ポリマー(i)、(iii)、又は(iii'))を同時に含む。
【0046】
典型的には、アノード層及びカソード層は、膜の機械的特性を確保するため、1つ又は複数の非導電性(コ)ポリマーを更に含みうる。これらのポリマーは公知であり、一般的にこのために膜において用いられる。例えば、非導電性ポリマーとしては、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(co-ヘキサフルオロプロピレン)(HFP)、それらの混合物及び/又は以下の式に対応するそれらのコポリマー、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)が挙げられる。
【0047】
【化4】
【0048】
本発明による膜のカソード層及びアノード層は、層によって同一又は異なる、1つ又は複数の有機又は無機添加剤を更に含みうる。
【0049】
プロトン伝導体膜において従来から用いられている添加剤がここでも考えられる。添加剤として、特にそれぞれ以下の式の、PEO(ポリエチレングリコール)及びOFP(2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール(OFP))が挙げられる。
【0050】
【化5】
【0051】
PEOがPVDF-HPF鎖の導電性及び易動度を改善するのに対して、OFPは、PVDF-HFP(フッ素原子を有する炭素鎖にのおかげ)と無機成分(ヒドロキシル基の存在によって)との間の親和力を向上させる。
【0052】
本発明による膜の合計厚は、一般的に5から150μmの間、典型的には15から40μmの間である。
【0053】
一実施形態によれば、カソード層はアノード層よりも薄い。典型的には、前記カソード層は、5から10μmの間の厚さを有する。
【0054】
一実施形態によれば、アノード層及び/又はカソード層は、上述の混合物の状態又は共重合したポリマーの高分子ファイバーから構成される。
【0055】
これらのファイバーは、多孔質立体ウェブを生成するようにランダムな形で混ぜ合わされている。
【0056】
典型的には、これらのファイバーは、100nmから10μmの間の平均直径を有する。この直径は、特に、その製造のときに用いられるエレクトロスピニング装置のノズルの直径に応じて適合させることができる。
【0057】
他の目的によれば、本発明はまた、本発明による二層膜を含む燃料電池に関する。
【0058】
かかる電池において、本発明による膜は、カソード層外面上のカソード触媒層、及びアノード層外面上のアノード触媒層でコーティングされている。
【0059】
一実施形態によれば、カソード触媒層はポリマー(i)及び(iii)を含み、アノード触媒層はポリマー(iii')を含み、前記ポリマー(i)、(iii)、及び(iii')は上で規定したとおりである。
【0060】
本発明による電池の構造を説明する図解は、図2に示されている。
【0061】
図2に説明しているとおり、
アノード(5')及びカソード(5)から成る燃料電池は、プロトン交換膜(3)によって分離され、前記膜(3)はカソード側のカソード層(1)及びアノード側のアノード層(2)を含む。
【0062】
カソード層(1)は、典型的には3から15μm、特に5から10μm、好ましくは5から7μmの間の厚さe1を有する。アノード層(2)は、典型的には5から40μm、特に10から30μm、好ましくは10から20μmの間の厚さe2を有する。
【0063】
膜(3)のカソード側の外面上には、カソード層(1)がカソード触媒層(4)でコーティングされている。
【0064】
膜(3)のアノード側の外面上には、アノード層(2)がアノード触媒層(4')でコーティングされている。
【0065】
カソード触媒層(4)及びアノード触媒層(4')は、内部にそれぞれ触媒粒子(12)及び(22)が分布している、プロトン伝導体(アイオノマー)(11)及び(21)をそれぞれ含む。慣用技術では、これらの触媒粒子は、炭素担体上の白金(Pt)粒子から成る。
【0066】
カソード層(1)は、特にSH基及びSOH基を含む。これらのSH基及びSOH基はまた、カソード触媒層(4)の内部にも存在し、したがってカソード層(1)及びカソード触媒層(4)から成る、SH基によって官能化された領域(1')を規定する。
【0067】
アノード層(2)は、特にアノード触媒層(4')の内部にも存在するSOH基を含む。
【0068】
別の目的によれば、本発明はまた、本発明による膜の調製方法に関し、その方法は以下のステップ:
- チオール基(-SH)を有する少なくとも1つのポリマー(i)及びSOH基を有する少なくとも1つのポリマー(iii)を含む溶液からの、エレクトロスピニング法による、カソード層を構成するファイバーの形成、
- SOH基を有する少なくとも1つのポリマー(iii')を含む溶液からの、エレクトロスピニング法による、アノード層を構成するファイバーの形成、
- 得られたファイバーからの、それぞれ、アノード層及びカソード層の成形、
- 前記アノード層の上への前記カソード層の取付
を含む。
【0069】
一実施形態によれば、上記溶液はゾル-ゲル溶液である。
【0070】
本発明による方法は、ゾル-ゲル化学とエレクトロスピニング技術を組み合わせ、異方性の機械的特性をもち、高温及び90%の相対湿度において、Nafion(登録商標)膜と同等のプロトン伝導性を有する膜を得ることを可能にする。
【0071】
本発明によるエレクトロスピニング法による膜のモルフォロジーは、ゾル-ゲル合成(例えば添加剤あり又はなし)、及び/又はエレクトロスピニングの工程のパラメーター、例えば、相対湿度、適用される電場、温度、電極の回転速度によって調整可能である。
【0072】
エレクトロスピニング(「electrospinning」)又は静電紡糸は、セットされたポリマーの糸を引くために電気の力を用いるファイバー製造法である。この技術は、液状ポリマー(溶液又は溶融状態)の微小液滴に十分高い圧力をかけることに基づいている。すなわち、液体を帯電させ、そして次に静電反発力が表面の電圧に抗い、それによりその液滴を臨界点(噴出点又は「テイラーコーン」)まで引き伸ばされ、そこで液体の流れがその表面から噴き出る。液体の分子凝集力が十分に高ければ、その流れは切断されず、液体を充填したジェットが形成される。そのジェットはこのとき、静電反発が最終的にコレクター接地上で放出されるまで、静電反発力によって引き起こされるプロセスによって長く伸びる。ファイバーが伸び、細くなることによって、ナノメートル単位の直径の一様な「エレクトロスピニング法による」ファイバーの形成が起こる。
【0073】
ゾル-ゲル法は、溶液中での無機重合反応によって、分子前駆体、一般的には金属アルコキシドから酸化物ウェブ(ネットワーク)を生成させることから成る。この重合は、加水分解及び縮合によって起こる。加水分解の工程は、一般的に、酸又は塩基であることができる触媒を用いて実施される。これは、ゾルとよばれる溶液の形態で、ヒドロキシ型の反応性基を生成するための、水と前駆体との間の反応から成る。縮合は、ゲル化、及び経時的にその粘度が上昇し、無機高分子ウェブを形成するゲルの形成をもたらすヒドロキシ基の変換からなる。ゾル-ゲル法における「ゲル」相は、液体相中に含まれる固体三次元「骨格」によって規定され且つ特徴づけられる。その固体相は、典型的には縮合したポリマーゾルであって、そこでは粒子が絡み合って三次元ウェブを形成し始めている。
【0074】
一実施形態によれば、上記の溶液は、無機ゾル-ゲル前駆体の存在下で、有機溶媒中に(コ)ポリマーを混合することによって調製される。
【0075】
得られたゾル-ゲルは、有機分子が合成時に添加され、かつ最終的な材料の中に保存されている「ゾル-ゲルハイブリッド」とよぶことができる。
【0076】
典型的には、鉱物前駆体(無機前駆体)は、スルホン酸によって官能化されたシリカである(SOH-SiO)。
【0077】
一般的に、溶液中の上記の(コ)ポリマーの濃度は、5から20質量%の間である。
【0078】
ゾル-ゲル合成は、有利には、室温で実施することができる。慣例的に、温度、pH、前駆体及び溶媒の性質、並びに反応剤の濃度を調整してもよい。
【0079】
したがって、本発明による方法によって得ることができる膜は、エレクトロスピニング法によるハイブリッド(コ)ポリマーファイバーのランダム三次元連続多孔質ウェブを含む。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】本発明による膜を構成するファイバーを合成するためのエレクトロスピニング法の説明図である。
図2】本発明による膜を含む燃料電池の構造を示す図である。
図3】ファイバーにおける以下の様々な元素:酸素(a)、ケイ素(b)、硫黄(c)、フッ素(d)の分布を示すEDX分析を示す図である。
図4】ポリマー(ii')及び(iii')を1:2の比(TEOS:CSPTC(1:2))で含む、又はポリマー(i)、(ii)、及び(iii)を(ii):(iii):(i)=1:2:1の比(TEOS:CSPTC:MPTMS(1:2:1))で含むエレクトロスピニング法によるハイブリッド膜について、相対湿度及び自動再生SH基の有無に応じたプロトン伝導性の変化を説明するグラフである。
図5】ポリマー(ii')及び(iii')を1:2の比(TEOS:CSPTC(1:2))で含む、又はポリマー(i)、(ii)、及び(iii)を、(ii):(iii):(i))=1:2:1の比(TEOS:CSPTC:MPTMS(1:2:1))で含む膜について、加速劣化試験後の、エレクトロスピニング法によるハイブリッド膜に対する相対湿度に応じた、及び自動再生SH基の有無に応じたプロトン伝導性の変化を表すグラフである。
図6】二層膜の2つの表面の写真である:左の写真はアノード面(導電性アノード層)を表し、右の画像はカソード面(自動再生カソード層)を表している。
図7】導電性アノード層の構造(a)、自動再生カソード層(b)、及び二層膜の断面(c)を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による画像である。
図8】アノード層(a)及びカソード層(b)について相対湿度に応じた導電性の変化を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0081】
1.合成及び特性解析
カソード層の溶液
ジメチルホルムアミド(DMF)中に非導電性ポリマー(PVDF-HFP)を予め溶解することによって(700 mLのDMFに600 mgのPVDF-HFP)、ゾル-ゲル溶液を調製した。次に、添加剤(PEO:ポリエチレングリコール、及びOFP:2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1-ペンタノール)を添加した(340 mgのPEO及び60 mgのOFP)。次に、ケイ素前駆体(TEOS(オルトケイ酸テトラエチル,310 mg)、CSPTC(2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン,2.04 g、ジクロロメタンの50質量%溶液から)、及びMPTMS((3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン,310 mg)を、試験した様々なモル比に従って添加し、最も反応性の高いCSPTCを最後に添加した。ケイ素前駆体を予備加水分解するために、70℃で3時間、撹拌下で溶液の熟成を行った。SH基及び-SO3H基を含み、1:2:1のTEOS/CSPTC/MPTMS比を示す均質な溶液V2が得られた。また、この操作方法にしたがって、1:2:2及び1:1:1の比の溶液も調製した。
【0082】
アノード層の溶液
溶液V1(-SO3H基を含む)を得るために、MPTMSを除いた前駆体混合物から、上記のように操作を行った。
【0083】
エレクトロスピニング
次に、得られたV1及びV2のそれぞれの溶液をエレクトロスピニングすることによって、ファイバーを調製した。
【0084】
使用したエレクトロスピニング装置(図1に説明のとおり)は、シリンジ及びニードル(ID = 0.75 mm)、接地電極及び市販の高圧電源ユニット(ES1a,Electrospinz社)を含んでいた。ニードルは、40 kVまでの正連続電流の電圧を生成できる高圧電源ユニットに接続した。
【0085】
ある量の溶液V1又は溶液V2をそれぞれ含む2つのシリンジを用意した。20ミクロンの合計厚を得るため、溶液V1については0.15 mL、及び溶液V2については0.075 mmLを用いた。V1及びV2の各溶液は、周囲湿度に応じた流量で、26 kVにて、エレクトロスピニングを行った。一般的には、相対湿度は60%未満でなくてはならず、流量は約0.025 mL.min-1である。スチールのニードルを高圧電源ユニットの電極に接続し、様々な層を集めるために接地につなげたアルミ箔をニードルの先から15 cmの距離に設置した。膜の第2の層を生成するためには、第1のシリンジを第2のシリンジに置き換える。
【0086】
白色のフレキシブルな膜が得られた。最後に、プロトン交換膜を、空気中で70℃において24時間乾燥させた。乾燥後、EHSセパレーターを注意深くアルミ箔から剥がした。膜厚は電場に注入した体積に左右され、15から40ミクロンであることができる。
【0087】
このようにして得られた2層は図6に表されている。
【0088】
膜の分析
図7に表されているように、構造を走査型電子顕微鏡で調べた。
【0089】
走査型電子分光装置によるエレクトロスピニング法によるプロトン交換膜の表面及び断面の画像は、三次元空間に組織化され絡まり合っているファイバー(D = 200 nm)を示しており、これから85,4%の連続多孔ネットワークであることが定まる。膜厚は約20 μmと測定された。ファイバーのEDX分析(図3)は、元素O、F、S、及びSiの均一な表面分布を示し、マイクロメーターのレベルでのいかなる相の分離も確認されなかったことを示している。
【0090】
2.特性
保水率の算出によって、TEOS:CSPTC:MPTMS (1:2:1)カソード層が、対応するTEOS:CSPTC (1:2)アノード層よりも親水力が極めて低いことが示されている(69.6%の水に対して141.9%の水)。
【0091】
-SH基を示すカソード層を含む膜の自動再生特性を分析した。
【0092】
図4に示したとおり、湿度に応じたプロトン伝導性の変化は、自動再生性反応性官能基を加えることが、従来の膜の導電性の値にわずかに影響を及ぼすことを示している。しかしながら、-SH基を含むこの膜は、加速劣化試験後の導電性の保持を示す図5に示されているように、特にH2O2の存在下で、酸化に対するより良好な耐性を示す。
【0093】
膜の物理化学的特性への-SO3H/SH基の比の影響を様々な組成について研究した:
アノード層については、以下のTEOS:CSPTC比を試験した:
1:2、1:3、1:1、及び2:1
カソード層については、以下のTEOS:CSPTC:MPTMS比を試験した:
1:2:1、1:2:2、及び1:1:1。
【0094】
導電性への影響は図8に示されており、図8は、ハイブリッド膜の様々な組成について湿度水準に応じた導電性の変化を表している。左の図はTEOS/CSPTC比に応じた導電性の変化を表し、右の図はTEOS/CSPTC/MPTMS量に応じた導電性の変化を表している。これらの試験は、1:2のTEOS:CSPTC、及び1:2:1のTEOS:CSPTC:MPTMSの値が、80℃における導電性(伝導度)という観点からは、最良の結果をもたらすことを示している。
【符号の説明】
【0095】
1・・・カソード層
1'・・・SH基によって官能化された領域
2・・・アノード層
3・・・プロトン交換膜
4・・・カソード触媒層
4'・・・アノード触媒層
5・・・カソード
5'・・・アノード
11・・・プロトン伝導体
12・・・触媒粒子
21・・・プロトン伝導体
22・・・触媒粒子
e1・・・カソード層の厚さ
e2・・・アノード層の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8