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特許7617760溶接物製造方法、溶接物及び溶接物補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】溶接物製造方法、溶接物及び溶接物補修方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20250110BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20250110BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/21 W
B23K31/00 D
B23K33/00 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021020147
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122721
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂野 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 泰之
(72)【発明者】
【氏名】坪田 秀峰
(72)【発明者】
【氏名】木村 正宏
(72)【発明者】
【氏名】西山 智之
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-246486(JP,A)
【文献】特開平11-19791(JP,A)
【文献】特開平1-218781(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198871(WO,A1)
【文献】特開2019-5771(JP,A)
【文献】特開2020-131236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 31/00
B23K 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合対象である第1対象部材と第2対象部材とを突き合わせた場合に前記第1対象部材と前記第2対象部材との境界線上に前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る複数の穴となる凹部を前記第1対象部材及び前記第2対象部材に形成する工程と、
複数の前記穴が形成されるように前記凹部の位置を合わせて前記第1対象部材と前記第2対象部材とを突き合わせる工程と、
複数の前記穴の内部に溶加材を配置し、レーザを走査させつつ照射して前記溶加材を溶解し、溶解した前記溶加材で前記穴を埋めて溶接部を形成する工程と
を含む溶接物製造方法。
【請求項2】
前記凹部を形成する工程は、複数の前記穴が前記境界線上に間隔をあけて形成されるように前記凹部を形成し、
前記溶接部を形成する工程の後、前記境界線上において隣り合う前記穴の間に、前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る新たな穴を形成する工程を更に含み、
前記溶接工程は、前記穴形成工程によって形成された新たな前記穴の内部に前記溶接部を形成することを含む
請求項1に記載の溶接物製造方法。
【請求項3】
前記穴を形成する工程は、新たな前記穴を形成後の前記溶接工程において、隣り合う前記穴の間で前記溶接部同士が接続される位置に、新たな前記穴を形成することを含む
請求項2に記載の溶接物製造方法。
【請求項4】
前記第1対象部材と前記第2対象部材とを突き合わせる工程の後、複数の前記穴のうち少なくとも1つの前記穴を仮詰め部材で埋める工程を更に含み、
前記溶接工程は、複数の前記穴のうち前記仮詰め部材が配置されていない前記穴の内部に前記溶加材を配置し、前記レーザを照射して前記溶加材を溶解させることを含む
請求項1に記載の溶接物製造方法。
【請求項5】
前記溶接部を形成する工程の後、前記仮詰め部材が配置された前記穴から前記仮詰め部材を除去する工程を更に含み、
前記溶接部を形成する工程は、前記仮詰め部材が除去された前記穴の内部に前記溶接部を形成することを含む
請求項4に記載の溶接物製造方法。
【請求項6】
前記凹部を形成する工程は、前記溶接部を形成する工程において隣り合う前記穴の間で前記溶接部同士が接続される位置に前記穴が形成されるように前記凹部を形成することを含む
請求項5に記載の溶接物製造方法。
【請求項7】
前記溶接部を形成する工程は、前記溶加材を配置することと、配置した前記溶加材を溶解させることとを繰り返して前記溶加材を積層する工程を含む
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項8】
前記境界線の端部側から前記第1対象部材及び前記第2対象部材に対して補助部材を突き当てた状態で、前記第1対象部材、前記第2対象部材及び前記補助部材に跨るように端部穴を形成する工程を更に含み、
前記溶接部を形成する工程は、前記端部穴の内部に前記溶接部を形成することを含み、
前記端部穴に前記溶接部が形成された後、前記補助部材と、前記溶接部のうち前記補助部材側に形成される部分とを取り除く工程を更に含む
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項9】
前記穴又は前記端部穴は、径よりも深さの方が大きい
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項10】
前記穴又は前記端部穴は、径と深さとの比であるアスペクト比が略1:20である
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項11】
前記第1対象部材及び前記第2対象部材を3次元造形法によって形成する
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項12】
前記凹部を形成する工程は、前記境界線の端部側から前記境界線に沿った方向に前記穴が形成されるように前記第1対象部材及び前記第2対象部材の端面に前記凹部を形成し、
前記溶接部を形成する工程は、前記穴の内部に前記境界線に沿って前記溶接部を形成することを含む
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項13】
前記第1対象部材及び前記第2対象部材は、前記境界線が曲線状となるように形成される
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項14】
前記穴又は前記端部穴は、軸方向から見て楕円形状である
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項15】
前記穴又は前記端部穴は、深さ方向において底部を有する
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項16】
前記穴又は前記端部穴は、深さ方向に貫通して形成され、前記深さ方向の一方の開口部側にテーパー部が形成される
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項17】
前記穴又は前記端部穴は、深さ方向に段階的に径が異なるように形成される
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の溶接物製造方法。
【請求項18】
第1対象部材及び第2対象部材と、
前記第1対象部材と前記第2対象部材とを接合する溶接部と
を備え、
前記第1対象部材及び前記第2対象部材は、前記第1対象部材と前記第2対象部材との境界線上に前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る複数の穴が形成されるように突き合わされ、
前記溶接部は、複数の前記穴を埋めるように配置される
溶接物。
【請求項19】
前記溶接部は、前記穴を埋める溶加材と、前記第1対象部材及び前記第2対象部材のうち前記溶加材と接する前記穴の内周に形成される溶け込み部とを含み、隣り合う前記穴の間で前記溶加材及び前記溶け込み部の少なくとも一方が接続された状態で配置される
請求項18に記載の溶接物。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の溶接物のうち、前記溶接部に補修用穴を形成する工程と、
前記補修用穴の内部に溶加材を配置し、レーザを走査させつつ照射して前記溶加材を溶解し、溶解した前記溶加材で前記補修用穴を埋めて溶接補修部を形成する工程と
を含む溶接物補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接物製造方法、溶接物及び溶接物補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧鋼板を接合する溶接として、例えば狭開先レーザ溶接が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような狭開先レーザ溶接では、わずかな隙間(開先)をあけて厚鋼板を並べ、当該隙間にワイヤ等の溶加材を供給し、溶加材にレーザを照射してワイヤを溶融して溶接部を形成し、隙間の深さ方向に溶接部を積層する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-178130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の狭開先レーザ溶接では、圧鋼板の間に開先を設ける必要があるため、溶加材の溶融時において、角変形、横収縮、縦収縮等の溶接変形が大きくなるという問題がある。
【0005】
本開示の少なくとも一実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶接変形を抑制することが可能な溶接物製造方法及び溶接物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る溶接物製造方法は、接合対象である第1対象部材と第2対象部材とを突き合わせた場合に前記第1対象部材と前記第2対象部材との境界線上に前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る複数の穴となる凹部を前記第1対象部材及び前記第2対象部材に形成する凹部形成工程と、複数の前記穴が形成されるように前記凹部の位置を合わせて前記第1対象部材と前記第2対象部材とを突き合わせる突き合わせ工程と、複数の前記穴の内部に溶加材を配置し、レーザを走査させつつ照射して前記溶加材を溶解し、溶解した前記溶加材で前記穴を埋める溶接工程とを含む。
【0007】
本開示に係る溶接物製造方法は、第1対象部材及び第2対象部材と、前記第1対象部材と前記第2対象部材とを接合する溶接部とを備え、前記第1対象部材及び前記第2対象部材は、前記第1対象部材と前記第2対象部材との境界線上に前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る複数の穴が形成されるように突き合わされ、前記溶接部は、複数の前記穴を埋めるように配置される。
【0008】
本開示に係る溶接物は、第1対象部材及び第2対象部材と、前記第1対象部材と前記第2対象部材とを接合する溶接部とを備え、前記第1対象部材及び前記第2対象部材は、前記第1対象部材と前記第2対象部材との境界線上に前記第1対象部材と前記第2対象部材とに跨る複数の穴が形成されるように突き合わされ、前記溶接部は、複数の前記穴を埋めるように配置される。
【0009】
本開示に係る溶接物補修方法は、上記の溶接物のうち、前記溶接部に補修用穴を形成する工程と、前記補修用穴の内部に溶加材を配置し、レーザを走査させつつ照射して前記溶加材を溶解し、溶解した前記溶加材で前記補修用穴を埋めて溶接補修部を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、溶接変形を抑制することが可能な溶接物製造方法及び溶接物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る溶接システムの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
図4図4は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
図5図5は、図3(ST3)におけるA-A断面に沿った構成を示す図である。
図6図6は、図3(ST3)におけるA-A断面に沿った構成を示す図である。
図7図7は、レーザが走査される軌跡の一例を示す説明図である。
図8図8は、レーザが走査される軌跡の一例を示す説明図である。
図9図9は、レーザが走査される軌跡の一例を示す説明図である。
図10図10は、第2実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
図12図12は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
図13図13は、第3実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。
図14図14は、第4実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。
図15図15は、変形例に係る溶接物の一例を示す図である。
図16図16は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。
図17図17は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。
図18図18は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。
図19図19は、本開示に係る溶接物補修方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る溶接物製造方法及び溶接物の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る溶接システムの概略構成を示す模式図である。溶接システム100は、接合対象となる第1対象部材10と第2対象部材20とを溶接する。第1対象部材10及び第2対象部材20は、例えば金属材料であり、厚さが100mm以上の圧鋼板等が用いられる。図1に示すように、溶接システム100は、レーザ加工装置30と、溶加材投入装置40と、制御装置50とを有する。溶接システム100は、第1対象部材10と第2対象部材20とを固定する固定機構、当該第1対象部材10及び第2対象部材20と上記各装置との相対位置等を調整する移動機構等を備えていてもよい。
【0014】
レーザ加工装置30は、レーザ照射装置31及びレーザ走査装置32を有する。レーザ照射装置31は、レーザを出力する。レーザ照射装置31としては、ファイバレーザ出力装置または短パルスレーザ出力装置を用いることができる。ファイバレーザ出力装置としては、例えば、ファブリペロー型ファイバレーザ出力装置やリング型ファイバレーザ出力装置を用いることができ、これらの出力装置が励起されることによりレーザが発振される。ファイバレーザ出力装置のファイバは、例えば、エルビウム(Er)、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)などの希土類元素が添加されたシリカガラスを用いることができる。なお、本実施形態では、ファイバレーザ(第一レーザ)L1としてYAGレーザやYVO4レーザなどのマイクロ秒オーダーパルス発振もしくはそれ以下のパルス発振をするレーザも使用可能である。短パルスレーザ出力装置としては、レーザの発振源として例えば、チタンサファイアレーザを用いることができ、パルス幅が100ピコ秒以下のパルスを発振することができる。ここで、本実施形態において、短パルスレーザは、パルス幅が100マイクロ秒以下の短パルスでレーザを出力するものである。なお、レーザ加工ユニット22は、短パルスレーザL2を、パルス幅が100ナノ秒以下の短パルスとすることが好ましく、パルス幅が1ナノ秒未満のレーザとすることがより好ましい。
【0015】
レーザ照射装置31は、0.5kW以上10kW以下のレーザを出力することが好ましく、3kW以上9kW以下のレーザを出力することがより好ましい。レーザ照射装置31は、0.6mm以上1.6mm以下のビーム径のレーザを照射することが好ましい。
【0016】
レーザ照射装置31は、ハイパワーレーザのうち、例えばレーザ径が小さく走査パターンをより精緻に制御できるようにシングルモードとしてもよいし、マルチモードとしてもよい。
【0017】
レーザ走査装置32は、レーザ照射装置31から照射されたレーザを走査させつつ、穴Hに照射する。レーザ走査装置32は、第1ガルバノミラー33と、第2ガルバノミラー34とを有する。第1ガルバノミラー33と第2ガルバノミラー34は、ミラーの向きを変化させることで、レーザ照射装置31から照射されたレーザを反射させる向きを変化させる。レーザ走査装置32は、第1ガルバノミラー33のミラーの回動方向と、第2ガルバノミラー34のミラーの回動方向を異なる方向とすることで、溶接物30に照射するレーザの位置を2次元平面上で変化させる。レーザ走査装置32は、1m/sec以上10m/secでレーザを走査することが好ましい。
【0018】
レーザ加工装置30は、パルスレーザを用いる場合、1mm以内の間隔でレーザを照射する。また、レーザの照射時間は、1秒以上30秒以下とすることが好ましく、5秒以上21秒以下とすることがより好ましい。
【0019】
レーザ加工装置30は、照射するレーザを走査することができればよい。例えば、レーザ加工装置30は、レーザを照射するレーザ素子を多数配列し、レーザを照射するレーザ素子を切り替えることで、レーザの照射位置を走査するようにしてもよい。
【0020】
溶加材投入装置40は、第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合せた場合に形成される穴Hの大きさに対応する所定の大きさの溶加材を、当該穴Hに投入する。溶加材としては、ワイヤを切断した部材、粉末、ブロック上の母材等の少なくとも1つを用いることができる。また、溶加材として、線状のワイヤを連続的に投入することもできる。溶加材投入装置40は、所定の大きさの溶加材を複数備えていても、溶加材を切断して所定の大きさとしてもよい。
【0021】
制御装置50は、溶接システム100の各部の動作を制御する。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置と、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶装置を有する。制御装置50は、レーザ加工装置30及び溶加材投入装置40の動作を制御するためのデータ、プログラム等を記憶する。
【0022】
次に、本実施形態に係る溶接物製造方法の一例を説明する。図2は、本実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示すフローチャートである。図3及び図4は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
【0023】
図3(ST1)に示すように、まず、第1対象部材10及び第2対象部材20の突き合わせ部分11、12に凹部12、22を形成する(S10:凹部形成工程)。凹部形成工程では、接合対象となる第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合わせた場合に、第1対象部材10と第2対象部材20との境界線B(図3のST2等参照)上に第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る複数の穴が形成されるように、凹部12、22を形成する。凹部11、12は、例えば穴形成装置60等を用いて機械加工により形成することができる。
【0024】
次に、図3(ST2)に示すように、第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合わせる(S20:突き合わせ工程)。突き合わせ工程では、上記の凹部形成工程で形成された凹部12、22により第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る複数の穴Hが形成されるように、第1対象部材10と第2対象部材20との位置を合わせて突き合わせる。
【0025】
なお、凹部形成工程では、穴Hの径が5mm程度、穴Hの深さが100mm程度(つまり、アスペクト比が1:20程度)、穴H同士の間隔が10mm程度となるように凹部12、22を形成することができる。本実施形態では、穴Hは貫通孔となるため、穴Hの深さは第1対象部材10及び第2対象部材20の厚さと同様の値となる。なお、穴Hの各寸法については、上記に限定されない。
【0026】
次に、図3(ST3)に示すように、複数の穴Hに溶接部71を形成する(S30:第1溶接工程(溶接工程))。第1溶接工程において、溶接システム100は、溶加材投入装置40により複数の穴Hの内部に溶加材72を配置し、レーザ加工装置30によりレーザLを走査させつつ照射して溶加材72を溶解し、溶解した溶加材72で穴Hを埋める。
【0027】
図5及び図6は、図3(ST3)におけるA-A断面に沿った構成を示す図である。図5及び図6では、穴Hの内部の構成を判別可能とするため、穴Hのアスペクト比を実際とは異なるように示している。図5及び図6に示すように、本実施形態では、穴Hが、第1対象部材10及び第2対象部材20を厚さ方向に貫通する貫通孔である場合を例に挙げて説明する。この場合、例えば突き合わせ工程等において、穴Hの開口部のうち、レーザLを照射する側とは反対側の開口部(例えば、図中の下側の開口部)を塞ぐように当て金Tを配置しておく。この状態で、溶加材投入装置40は、当て金Tを底部とした穴Hの内部に溶加材72を配置する。
【0028】
溶加材72が配置された後、レーザ加工装置30は、レーザ照射装置31から穴Hの底部に向けてレーザLを照射する。レーザ加工装置30は、穴Hの内部に配置された溶加材72の表面にレーザLを照射する。レーザ走査装置32は、レーザLを穴Hの内部で走査させる。レーザ走査装置32は、第1ガルバノミラー33及び第2ガルバノミラー34でレーザLの照射位置を1m/sec以上の速度で走査させる。レーザ走査装置32は、走査時の軌跡の隙間、つまり、レーザの照射位置の移動間隔を1mm以内とすることで、レーザ溶接のスパイキングの発生を抑制することができる。また、レーザ照射装置31及びレーザ走査装置32は、照射位置を設定されたパターンで移動させながら、短パルスレーザの場合、レーザの照射を例えば300回行う。
【0029】
レーザLの照射により、溶加材72が溶解する。溶解した溶加材72は、穴Hを埋めるように充填される。また、図5に示すように、レーザL(La)の照射により、穴Hの内周に溶け込み部73が形成される。溶け込み部73は、穴Hに充填される溶加材72の周囲に形成される。溶け込み部73は、例えば外周部の径が6mm以上7mm以下の範囲となるように形成される。
【0030】
第1溶接工程では、溶解した溶加材72が、図6に示すように高さ方向に複数積層される。つまり、第1溶接工程では、溶解して固化させた複数の溶加材72を高さ方向に重ねることで、穴Hを埋める。溶加材72の積層数は、例えば1個以上20個以下とすることが好ましい。ここで、溶加材72の積層数は、1個以上としたが、複数積層としてもよい。溶加材72の積層数は、効率の面から少ないほど好ましい。第1溶接工程では、1つの穴Hについて、溶加材72及び溶け込み部73を含む溶接部71が形成される。第1溶接工程では、このような溶接部71が穴Hごとに形成される。
【0031】
図7から図9は、レーザLが走査される軌跡の一例を示す説明図である。図7から図9は、穴Hを開口部側(レーザLの照射側)から見た状態を示している。図7に示す軌跡R1は、内径側の円と外径側の円とを有する。レーザ走査装置32は、矢印A1で示すように、照射位置を移動させることで、軌跡R1の各位置でレーザを照射することができる。
【0032】
図8に示す軌跡R2は、内径側から外径側に径が異なり、中心が同じ円C1、C2、C3の3つの円を有する。つまり、軌跡R2は、3重の円であり、それぞれの円が径方向に延びる接続線で接続されている。
【0033】
図9に示す軌跡R3は、直径Q1の基準円C4に沿って、軌跡を設定する円の中心を移動させつつ、直径Q2の円を描いた軌跡である。直径Q1は、直径Q2よりも大きい。基準円C4に沿って中心を移動させつつ円を描くことで、溶加材を好適に溶融することができる。
【0034】
レーザ走査装置32は、レーザの走査パターンを多重円とすることにより、各部分に必要な熱量をより適切にすることができ、より少ない熱量で連続的に溶加材72を溶融できる。これにより、アンダーカット等の欠陥が生じることを抑制でき、溶接熱影響部をより少なくすることができる。軌跡が多重円の場合、内径側の円から外径側円の順でレーザを走査することが好ましい。上記において、レーザの軌跡を多重円としたが、これに限定されず、レーザの軌跡は、渦巻形の軌跡であってもよい。
【0035】
レーザの軌跡は、穴の外周側、つまり、穴と溶加材との境界近傍の入熱が穴の中心側よりも多くなる軌跡とすることが好ましい。つまり、レーザの軌跡は、穴の中心側の領域よりも壁面に沿った領域を多く走査する軌跡とすることが好ましい。例えば、図7の軌跡R1、図8の軌跡R2の場合、外径側の軌跡の操作回数を多くすることが好ましい。これにより、穴Hの内周面と溶加材72との間での融合不良、つまり溶接欠陥が生じることを抑制できる。
【0036】
次に、図4(ST4)に示すように、第1対象部材10と第2対象部材20との境界線B上において隣り合う穴Hの間に、第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る新たな穴Hを形成する(S40:穴形成工程)。穴形成工程では、例えば穴形成装置60を用いて上記の穴Hと同様の形状、寸法の穴Hを形成することができる。なお、穴形成工程では、上記の穴Hとは異なる形状、寸法の穴が形成されてもよい。本実施形態では、図4(ST4)に示すように、溶接部71の一部を除去するように新たな穴Hが形成されているが、これに限定されず、溶接部71を除去しないように新たな穴Hが形成されてもよい。
【0037】
次に、図4(ST5)に示すように、穴形成工程によって形成された新たな穴Hの内部に溶接部74を形成する(S50:第2溶接工程(溶接工程))。第2溶接工程では、新たな穴Hの内部に溶加材75を配置し、レーザLを照射して溶加材75を溶解させる。第2溶接工程において、溶加材75の種類、レーザLの照射条件は、第1溶接工程と同様とすることができる。第2溶接工程により、溶加材75が溶解して穴Hが充填され、溶加材75の周囲に溶け込み部76が形成される。溶け込み部76は、例えば外周部の径が6mm以上7mm以下の範囲となるように形成される。
【0038】
なお、上記の穴形成工程において、溶接部71が形成された穴Hと、新たに形成する穴Hとの距離を調整しておくことにより、第2溶接工程で溶接部71と溶接部74とを接続し、一本の溶接線70を境界線Bに沿って形成することができる。つまり、第2溶接工程で形成される溶接部74の範囲を見込んでおき、穴形成工程では、見込んだ結果に基づいて、溶接部74が溶接部71に接続される位置に新たな穴Hを形成する。
【0039】
このようにして、第1対象部材10と第2対象部材20とが溶接部71、74を介して溶接された溶接物Wが形成される。より具体的には、溶接物Wは、第1対象部材10と第2対象部材20とが溶接線70を介して溶接された構成である。当該溶接線70は、隣り合う穴Hの間で溶接部71(溶加材72及び溶け込み部73)と溶接部74(溶加材75及び溶け込み部76)とが接続され、第1対象部材10と第2対象部材20との境界線Bに沿って形成される。
【0040】
以上のように、第1実施形態に係る溶接物製造方法は、接合対象である第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合わせた場合に第1対象部材10と第2対象部材20との境界線B上に第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る複数の穴Hとなる凹部12、22を第1対象部材10及び第2対象部材20に形成する凹部形成工程と、複数の穴Hが形成されるように凹部12、22の位置を合わせて第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合わせる突き合わせ工程と、複数の穴Hの内部に溶加材72、75を配置し、レーザLを走査させつつ照射して溶加材72、75を溶解し、溶解した溶加材72、75で穴Hを埋めて溶接部71、74を形成する溶接工程とを含む。
【0041】
従って、第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る穴Hに溶加材72、75を配置し、レーザLにより溶解させて穴Hを埋めるため、開先を設けることなく、第1対象部材10と第2対象部材20とを溶接することができる。これにより、開先のギャップ管理が必要なく、目違いの発生を抑制できる。また、第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合せた状態で溶接するため、穴Hを溶接する際、周囲の母材が剛体として存在することとなり、溶加材72、75の溶融時における溶接変形を抑制することができる。
【0042】
本実施形態に係る溶接物製造方法において、溶接工程は、溶加材72の配置と、配置した溶加材72の溶解とを繰り返して溶加材72を積層することを含む。従って、アスペクト比が高く、径が細い、細長い穴Hであっても、内部を溶加材72により効率的に埋めることができる。
【0043】
本実施形態に係る溶接物製造方法において、凹部形成工程は、複数の穴Hが境界線B上に間隔をあけて形成されるように凹部12、22を形成し、溶接工程の後、境界線B上において隣り合う穴Hの間に、第1対象部材10と第2対象部材20とに跨る新たな穴Hを形成する穴形成工程を更に含み、溶接工程は、穴形成工程によって形成された新たな穴Hの内部に溶加材72を配置し、レーザLを照射して溶加材72を溶解させることを含む。従って、第1対象部材10と第2対象部材20とを段階的に溶接することにより、溶接変形を抑制することができる。
【0044】
本実施形態に係る溶接物製造方法において、溶接工程は、レーザLの照射により溶加材72、75が配置される穴Hの内周に溶け込み部73、76を形成することを含み、穴形成工程は、新たな穴Hを形成後の溶接工程において、隣り合う穴Hの間で溶接部71、74が接続される位置に、新たな穴Hを形成することを含む。したがって、隣り合う穴H同士の間で溶接部71、74を接続して溶接線を形成することができる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態を説明する。第1実施形態では、第2溶接工程で溶接部74を形成する穴Hについては、第1溶接工程の後の穴形成工程で形成する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、全ての穴を凹部形成工程で形成してもよい。
【0046】
図10は、第2実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示すフローチャートである。図11及び図12は、本実施形態に係る溶接物製造方法の各工程について示す工程図である。
【0047】
図11(ST11)に示すように、まず、第1対象部材10A及び第2対象部材20Aの突き合わせ部分11A、12Aに凹部12A、22Aを形成する(S110:凹部形成工程)。凹部形成工程では、接合対象となる第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合わせた場合に、境界線B上に後の工程で用いる全ての穴が形成されるように、凹部12A、22Aを形成する。本実施形態では、例えば穴同士が接するように凹部12A、22Aを形成する。
【0048】
次に、図11(ST12)に示すように、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとを突き合わせる(S120:突き合わせ工程)。突き合わせ工程では、上記の凹部形成工程で形成された凹部12A、22Aにより複数の穴HAが形成されるように、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとの位置を合わせて突き合わせる。本実施形態では、例えば穴HA同士が接した状態となる。
【0049】
次に、図11(ST13)に示すように、複数の穴HAのうち少なくとも1つの穴HAを仮詰めする(S130:仮詰め工程)。仮詰め工程では、例えば1列に並ぶ複数の穴HAのうち、列方向に1つおきに仮詰め部材Pを充填する。仮詰め部材Pは、例えばセラミック等、レーザLの照射によって溶解しない材料が用いられる。
【0050】
次に、図12(ST14)に示すように、仮詰めされていない穴HAの内部に溶接部71Aを形成する(S140:第1溶接工程(溶接工程))。第1溶接工程では、第1実施形態と同様の手順により、穴HAに溶加材72Aを配置し、レーザLを照射して溶加材72を溶解して穴Hを充填する。溶加材72Aの周囲には溶け込み部73Aが形成される。本実施形態では、仮詰め部材Pが溶解しないため、溶け込み部73Aは、仮詰め部材Pが配置される部分には形成されない。
【0051】
次に、図12(ST15)に示すように、仮詰め部材Pが配置された穴HAから仮詰め部材Pを除去する(S150:除去工程)。除去工程では、仮詰め部材Pを除去することにより、中空状態の穴HAが形成される。本実施形態では、例えば穴HAを貫通孔とすることにより、仮詰め部材Pが除去しやすくなる。
【0052】
次に、図12(ST16)に示すように、仮詰め部材Pが除去された穴HAの内部に溶接部74Aを形成する(S160:第2溶接工程(溶接工程))。第2溶接工程では、仮詰め部材Pが除去された穴HAの内部に溶加材75Aを配置し、レーザLを照射して溶加材75Aを溶解させる。第2溶接工程において、溶加材75Aの種類、レーザLの照射条件は、第1溶接工程と同様とすることができる。第2溶接工程により、溶加材75Aが溶解して穴HAが充填され、溶加材75Aの周囲に溶け込み部76Aが形成される。
【0053】
上記の凹部形成工程において、隣り合う穴HA同士の距離を調整しておくことにより、第2溶接工程で溶接部71Aと溶接部74Aとを接続し、一本の溶接線70Aを境界線BAに沿って形成することができる。つまり、第1溶接工程及び第2溶接工程で形成される溶接部71A、74Aの範囲を見込んでおき、凹部形成工程では、見込んだ結果に基づいて、溶接部71A、73Aが接続される位置に穴HAが形成されるように凹部12A、22Aを形成する。
【0054】
このようにして、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとが溶接部71A、74Aを介して溶接された溶接物WAが形成される。より具体的には、溶接物WAは、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとが溶接線70Aを介して溶接された構成である。当該溶接線70Aは、隣り合う穴HAの間で溶接部71Aと溶接部74Aとが接続され、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとの境界線BAに沿って形成される。
【0055】
以上のように、第2実施形態に係る溶接物製造方法は、突き合わせ工程の後、複数の穴HAのうち少なくとも1つの穴HAを仮詰め部材Pで埋める仮詰め工程を更に含み、溶接工程は、複数の穴HAのうち仮詰め部材Pが配置されていない穴HAの内部に溶加材72Aを配置し、レーザを照射して溶加材72Aを溶解させることを含む。従って、仮詰め部材Pを介して第1対象部材10と第2対象部材20とを突き合せた状態で溶接するため、当該仮詰め部材Pが剛体として存在することとなり、溶接時の変形が抑制される。
【0056】
本実施形態に係る溶接物製造方法は、溶接工程の後、仮詰め部材Pが配置された穴HAから仮詰め部材Pを除去する仮詰め除去工程を更に含み、溶接工程は、仮詰め部材Pが除去された穴HAの内部に溶接部74Aを形成することを含む。従って、第1対象部材10Aと第2対象部材20Aとを段階的に溶接することにより、溶接変形を抑制することができる。
【0057】
本実施形態に係る溶接物製造方法において、凹部形成工程は、溶接工程において隣り合う穴HAの間で溶接部71A、74Aが接続される位置に穴HAが形成されるように凹部12A、22Aを形成することを含む。したがって、隣り合う穴HA同士の間で溶接部71A、74Aを接続して溶接線を形成することができる。
【0058】
[第3実施形態]
図13は、第3実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。図13に示す例において、接合対象である第1対象部材10B及び第2対象部材20Bは、3次元造形法により形成された大型の部材である。第1対象部材10B及び第2対象部材20Bは、例えば250mm程度の厚さを有する。
【0059】
第1対象部材10Bは、例えば突き合わせ端面11Bに凹部12Bが設けられるように設計され、当該設計内容に沿って3次元造形法で形成される。同様に、第2対象部材20Bは、突き合わせ端面21Bに凹部22Bが設けられるように設計され、当該設計内容に沿って3次元造形法で形成される。凹部12B及び凹部22Bの位置は、例えば第1対象部材10Bと第2対象部材20Bとが突き合わされた状態で穴HBを形成するように設計される。
【0060】
このように形成された第1対象部材10Bと第2対象部材20Bとを、上記第1実施形態又は第2実施形態で記載した溶接物製造方法を用いて溶接することにより、造形物WBが形成される。造形物WBは、第1対象部材10Bと第2対象部材20Bとが溶接線70Bを介して溶接された構成である。このように、大型の第1対象部材10B及び第2対象部材20Bを容易かつ迅速に溶接することができる。
【0061】
なお、図13では、第1実施形態で記載した溶接物製造方法で形成される場合を例として示しているが、これに限定されず、第2実施形態に記載した造形物製造方法のように全ての穴に対応する凹部が第1対象部材10B及び第2対象部材20Bに形成されてもよい。
【0062】
[第4実施形態]
図14は、第4実施形態に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。第4実施形態では、第1対象部材10Cと第2対象部材20Cとの境界線BCの端部に穴HDを形成して溶接する場合の一例を説明する。
【0063】
図14に示すように、まず、境界線BCの端部側から第1対象部材10C及び第2対象部材20Cに対して補助部材TCを突き当てた状態で、第1対象部材10C、第2対象部材20C及び補助部材TCに跨るように端部穴HCを形成する(端部穴形成工程)。この場合、第1対象部材10Cには、円弧状の凹部12Cが形成される。また、第2対象部材20Cには、凹部12Cに対して境界線BCを基準に上下対象の円弧状の凹部22Cが形成される。また、補助部材TCには、凹部12C及び凹部22Cと合わせて円形を構成する円弧状の凹部T2Cが形成される。
【0064】
次に、端部穴HCの内部に溶接部77Cを形成する(溶接工程)。溶接工程では、上記の第1溶接工程及び第2溶接工程と同様に、端部穴HCの内部に溶加材78Cを配置し、レーザLを照射して溶加材78Cを溶解させる。これにより、溶加材78Cが溶解して端部穴HCが充填され、溶加材78Cの周囲に溶け込み部79Cが形成される。
【0065】
端部穴HCに溶接部77Cが形成された後、補助部材TCと、溶接部77Cのうち補助部材TC側に形成される部分とを取り除く(補助部材除去工程)。補助部材除去工程では、第1対象部材10C及び第2対象部材20Cの端部側の側面に沿って、溶接部77Cが除去される。補助部材TC等を除去した後、残った溶接部77Cの端面を研磨等することで、当該端面を平坦化してもよい。図14では、境界線BCの一方の端部に溶接部77Cを形成する場合を例に挙げて説明したが、境界線BCの多方の端部側についても同様に溶接部を形成することができる。
【0066】
このようにして、第1対象部材10Cと第2対象部材20Cとが溶接部70Cを介して溶接された溶接物WCが形成される。溶接物WCは、溶接部70C第1対象部材10C及び第2対象部材20Cにおいて境界線BCの端部に溶接部70Cが形成されるため、第1対象部材10C及び第2対象部材20Cを確実に溶接することができる。
【0067】
なお、端部に溶接部を形成する構成については、図14に示す例に限定されない。図15は、変形例に係る溶接物WDの一例を示す図である。図15に示す溶接物WDにおいて、溶接部70D(溶接部71D、74D、溶加材78D、溶け込み部79D)の各構成については、第4実施形態の溶接部70C(溶接部71C、74C、溶加材78C、溶け込み部79C)と同様である。図15に示す溶接物WDでは、第1対象部材10Dの端面10Da及び第2対象部材20Dの端面20Daから溶接部71Dにかけて、溶加材78D及び溶け込み部79Dを有する溶接部77Dが形成されている。このように、端面10Da及び端面20Daから境界線BDに沿って溶接部77Dを深さ方向に形成してもよい。この場合、溶接部77Dは、端面10Daと端面20Daとの境界線BD2上に複数設けることができる。なお、溶接部77Dは、境界線BD2上に1か所設けられた構成であってもよい。
【0068】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、第1対象部材と第2対象部材との境界線が直線状に形成された構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。図16は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。図16に示すように、第1対象部材10Eと第2対象部材20Eとの境界線BEが曲線状であってもよい。この場合、曲線状の境界線BEの形状を最適化することで、任意に溶接変形をコントロールすることが可能となる。
【0069】
また、上記実施形態では、第1対象部材と第2対象部材とに跨る穴が円形である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。図17は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。図17に示すように、第1対象部材10Fと第2対象物20Fとの間に跨る穴HFは、楕円形等の他の形状であってもよい。図17では、穴HFが楕円形である場合を例に挙げて記載しているが、これに限定されず、矩形状、三角形等の多角形状等であってもよい。図17のように第1対象部材10F側及び第2対象部材20F側に長手となる楕円形の穴HFを形成することにより、レーザLを穴HFの中央部で走査させながら、穴HFの長手方向の端部からワイヤ状の溶加材72Fを供給することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、第1対象部材と第2対象部材との間に跨る穴が第1対象部材及び第2対象部材を厚さ方向に貫通する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。図18は、変形例に係る溶接物製造方法の一例を示す図である。図18に示すように、第1対象部材10Gと第2対象部材20Gとに跨る穴HGは、第1対象部材10G及び第2対象部材20Gを厚さ方向に貫通せず、底部を有する構成であってもよい。この構成では、穴HGの開口部側からレーザを照射することができる。なお、この場合、穴HGの底部を溶かし込むように裏波溶接を行ってもよい。
【0071】
また、図18に示すように、第1対象部材10Hと第2対象部材20Hとに跨る穴HHは、一方の開口部側にテーパー部HHaが形成された構成であってもよい。この構成では、テーパー部HHaが形成された側とは反対側の開口部からレーザを照射することができる。また、テーパー部HHaの縮径側の端部において穴HHが塞がれた構成であってもよい。なお、この場合、テーパー部HHaの穴HHを塞ぐ部分を溶かし込むように裏波溶接を行ってもよい。
【0072】
また、図18に示すように、第1対象部材10Iと第2対象部材20Iとに跨る穴HIは、深さ方向に段階的に径が異なるように形成されてもよい。例えば、穴HIでは、径が大きい第1穴部H1と、径が小さい第2穴部H2とが深さ方向に連通された構成を有している。このように、穴の径が2段階で形成される場合に限定されず、3段階以上に形成されてもよい。また、穴の径が徐々に変化する構成であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態において形成された溶接物Wについて、補修を行うことができる。以下、本開示に係る溶接物補修方法について説明する。図19は、本開示に係る溶接物補修方法の一例を示す図である。ここでは、第1実施形態において形成された溶接物Wに対して補修を行う場合を例に挙げて説明する。なお、他の実施形態で形成された溶接物に対して補修を行う場合にいても同様の説明が可能である。
【0074】
図19に示すように、まず、溶接物Wのうち補修対象となる一の溶接部71又は溶接部74(図19では溶接部74)に補修用穴HJを形成する。補修用穴HJは、第1実施形態の穴形成工程と同様に、例えば穴形成装置60を用いて形成することができる。なお、他の手段により補修用穴HJを形成してもよい。補修用穴HJは、上記実施形態で形成された穴Hの内部に形成される。
【0075】
次に、補修用穴HJに対して、溶接により補修部(溶接補修部)80を形成する。補修部80を形成する工程では、例えば第1実施形態等に記載の溶接工程と同様の手順により、補修用穴HJに溶加材を配置し、レーザを照射して溶加材を溶解して穴HJを充填する。溶加材の周囲には、溶け込み部を含む補修部80が形成される。これにより、補修部80を含む補修後溶接物WJが形成される。
【0076】
このように、溶接部71、74の補修を行う場合において、溶接部71、74を形成するために用いた穴Hの内部に補修用穴HJを形成し、溶接部71、74と同様の手順で補修部80を形成するため、補修を行う際にも溶加材の溶融時における溶接変形を抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
11,12,12A,12B,12C,22,22A,22B,22C,T2C 凹部
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I 第1対象部材
10Da,20Da 端面
11,11A,12,12A 突き合わせ部分
11B,21B 突き合わせ端面
20,20A,20B,20C,20D,20E,20F,20G,20H,20I 第2対象部材
20F 第2対象物
22 レーザ加工ユニット
30 レーザ加工装置
31 レーザ照射装置
32 レーザ走査装置
33 第1ガルバノミラー
34 第2ガルバノミラー
40 溶加材投入装置
50 制御装置
60 穴形成装置
70,70A,70B 溶接線
70C,71,71A,71E,73A,74,74A,77C,77D 溶接部
72,72A,72F,75,75A,78C,78D 溶加材
73,73A,76,76A,79C,79D 溶け込み部
80 溶接補修部
100 溶接システム
B,BA,BC,BD,BE 境界線
H,HA,HB,HD,HF,HG,HH,HI 穴
HC 端部穴
HHa テーパー部
HJ 補修用穴
H1 第1穴部
H2 第2穴部
L レーザ
R1,R2,R3 軌跡
T 当て金
TC 補助部材
W,WA,WC,WD 溶接物
WB 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19