(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】低剛性層を備える建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20250110BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20250110BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 351
F16F15/023 A
F16F15/02 L
(21)【出願番号】P 2021022285
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田野 健治
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩之
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316573(JP,A)
【文献】特許第5515100(JP,B2)
【文献】特開2019-039282(JP,A)
【文献】特開2019-019664(JP,A)
【文献】特開2006-132234(JP,A)
【文献】特開2014-136888(JP,A)
【文献】特開平09-209579(JP,A)
【文献】特開2009-270281(JP,A)
【文献】特開2001-303794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0305929(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端に設けられた下部梁を含む下部構造体と、
複数の上部柱、及び下端に設けられて前記上部柱に接合する上部梁を含む上部構造体と、
前記下部構造体及び前記上部構造体の間に配置された低剛性層であって、前記上部柱よりも低い曲げ剛性を有し、かつ前記下部梁及び前記上部梁に接合して前記下部梁及び前記上部梁とともにラーメン構造を構成する低剛性柱を含む、該低剛性層と、
前記ラーメン構造に取り付けられ、地震時に前記ラーメン構造における前記上部梁の前記下部梁に対する変位を抑制するように構成された制振装置と、
を備え
、
複数の前記低剛性柱は、前記下部梁及び前記上部梁の一方に接合して第1接合隅部を形成する第1低剛性柱と、前記上部梁及び前記下部梁の前記一方に接合して第2接合隅部を形成する第2低剛性柱とを含み、
前記制振装置は、
ピン接合体を介して前記ラーメン構造を含む構面に直交する軸線方向回りに回転可能に前記下部梁及び前記上部梁の他方に取り付けられたシーソー部材と、
一端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記シーソー部材に接合し、他端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記第1接合隅部に接合する第1タイロッドと、
一端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記シーソー部材に接合し、他端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記第2接合隅部に接合する第2タイロッドと、
前記シーソー部材の前記軸線方向回りの回転を抑制するべく、前記シーソー部材、並びに前記下部梁及び前記上部梁の前記他方に取り付けられたダンパーと
を含むことを特徴とする建物。
【請求項2】
前記制振装置は、前記建物の外構面に配置されたことを特徴とする請求項
1に記載の建物。
【請求項3】
前記下部構造体は、基礎構造体であり、
前記下部梁及び前記上部梁の前記他方は、前記下部梁であり、
前記下部梁は、基礎梁であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の建物。
【請求項4】
複数の前記低剛性柱は、アンボンドプレストレストコンクリート造であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の建物。
【請求項5】
複数の前記低剛性柱における前記下部梁に接合する下端部において、その直上部分よりも細い横断面を有し、及び/又はその直上部分よりも少ない主筋を含むことを特徴とする請求項
4に記載の建物。
【請求項6】
複数の前記低剛性柱は、コンクリート部分の外側面に全周に渡って当接する鋼製又は繊維強化プラスチック製の拘束部材を含み、及び/又はコンクリート部分内に鋼製若しくは樹脂製の繊維を含むことを特徴とする請求項
4又は5に記載の建物。
【請求項7】
複数の前記上部柱は、鉄骨造であり、
複数の前記低剛性柱は、複数の前記上部柱よりも小さな横断面を有する鉄骨造であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の建物。
【請求項8】
複数の前記低剛性柱は、前記上部構造体における1階層以上の高さを有することを特徴とする請求項1~
7の何れか一項に記載の建物。
【請求項9】
上端に設けられた下部梁を含む下部構造体と、
複数の上部柱、及び下端に設けられて前記上部柱に接合する上部梁を含む上部構造体と、
前記下部構造体及び前記上部構造体の間に配置された低剛性層であって、前記上部柱よりも低い曲げ剛性を有し、かつ前記下部梁及び前記上部梁に接合して前記下部梁及び前記上部梁とともにラーメン構造を構成する低剛性柱を含む、該低剛性層と、
前記ラーメン構造に取り付けられ、地震時に前記ラーメン構造における前記上部梁の前記下部梁に対する変位を抑制するように構成された制振装置と、
を備え、
複数の前記低剛性柱は、アンボンドプレストレストコンクリート造であり、
複数の前記低剛性柱は、コンクリート部分の外側面に全周に渡って当接する鋼製又は繊維強化プラスチック製の拘束部材を含み、及び/又はコンクリート部分内に鋼製若しくは樹脂製の繊維を含むことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免震層と同様の機能を有するように、制振装置を設けた低剛性層を備える建物に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎等の下部構造体と上部構造体との間に積層ゴム支承等の免震装置を備える免震層を設け、耐震建物に比べて上部構造体の応答加速度や層間変位を減らした免震建物が普及している(例えば、特許文献1)。非特許文献1には、ピロティ形式の建物において、鉄筋コンクリート造のピロティ柱に円形フープを用いて変形能力を大にすることにより、柱が免震装置として機能するという推測が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「コンクリート工学 Vol.58,No.5」、公益社団法人日本コンクリート工学会、2020年5月、pp.346-352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層ゴム支承等の従来の免震装置を使用した免震層では、積層ゴム支承自体が高価であること、上部構造体の略全ての柱の下に設置するため多くの免震装置が必要であること、及び、免震装置の上下にフーチング及び基礎梁が必要であること等により、免震層を構築するための費用が高価であった。また、非特許文献1に記載の発明では、より大きな柱の変形能力の確保や、過大な変形を防止するための手段の開発が望まれていた。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、免震建物と同様の機能を有し、比較的安価に構築できる建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態に係る建物(1)は、上端に設けられた下部梁(6)を含む下部構造体(2)と、複数の上部柱(7)、及び下端に設けられて前記上部柱(7)に接合する上部梁(8)を含む上部構造体(3)と、前記下部構造体(2)及び前記上部構造体(3)の間に配置された低剛性層(4)であって、前記上部柱(7)よりも低い曲げ剛性を有し、かつ前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)に接合して前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)とともにラーメン構造(12)を構成する低剛性柱(10,61)を含む、該低剛性層(4)と、前記ラーメン構造(12)に取り付けられ、地震時に前記ラーメン構造(12)における前記上部梁(8)の前記下部梁(6)に対する変位を抑制するように構成された制振装置(5,31,41,51)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、低剛性柱の曲げ剛性が低いため、地震時にラーメン構造が大きく変形するとともに、制振装置によってラーメン構造の過大な変形が抑制されるため、低剛性層が免震層と同様の機能を発揮する。また、建物は、比較的コストが高い積層ゴム等の免震装置を用いないため、比較的安価に構築できる。
【0009】
本発明のある実施形態は、上記構成において、複数の前記低剛性柱(6,61)は、前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)の一方に接合して第1接合隅部(21)を形成する第1低剛性柱(10a,61a)と、前記上部梁(6)及び前記下部梁(8)の前記一方に接合して第2接合隅部(23)を形成する第2低剛性柱(10b,61b)とを含み、前記制振装置(5,31,41,51)は、ピン接合体(19)を介して前記ラーメン構造(12)を含む構面に直交する軸線方向回りに回転可能に前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)の他方に取り付けられたシーソー部材(20,32,42)と、一端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記シーソー部材(20,32,42)に接合し、他端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記第1接合隅部(21)に接合する第1タイロッド(22)と、一端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記シーソー部材(20,32,42)に接合し、他端部が前記軸線方向回りに回転可能に前記第2接合隅部(23)に接合する第2タイロッド(24,52)と、前記シーソー部材(20,32,42)の前記軸線方向回りの回転を抑制するべく、前記シーソー部材(20,32,42)、並びに前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)の前記他方に取り付けられたダンパー(25)とを含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、制振装置が、比較的低コストで製造でき、かつ、1構面当たり1つ設置すればよいため、構築コストを抑制することができる。
【0011】
本発明のある実施形態は、直上の構成において、前記制振装置(5,31,41,51)は、前記建物(1)の外構面に配置されたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、低剛性層の内部を有効利用することができる。
【0013】
本発明のある実施形態は、上記の第2又は第3の構成において、前記下部構造体(2)は、基礎構造体であり、前記下部梁(6)及び前記上部梁(8)の前記他方は、前記下部梁(6)であり、前記下部梁(6)は、基礎梁であることを特徴とする。
【0014】
制振装置のシーソー部材がピン接合体を介して取り付けられる部材には、シーソー部材及びダンパーから大きな力を受けるが、この構成によれば、もともと剛強な基礎梁にシーソー部材が取り付けられるため、シーソー部材を取り付けるために下部梁を補強する必要がない。
【0015】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、複数の前記低剛性柱(10,61)は、アンボンドプレストレストコンクリート造であることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、低剛性柱の曲げ剛性を低減でき、ラーメン構造の弾性振動する無損傷振動領域が著しく大きくなる。
【0017】
本発明のある実施形態は、直上の構成において、複数の前記低剛性柱(61)における前記下部梁に接合する下端部において、その直上部分よりも細い横断面を有し、及び/又はその直上部分よりも少ない主筋(13)を含むことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、低剛性柱の曲げ剛性を更に低減できる。
【0019】
本発明のある実施形態は、上記の第5又は第6の構成において、複数の前記低剛性柱(10,61)は、コンクリート部分(15)の外側面に全周に渡って当接する鋼製又は繊維強化プラスチック製の拘束部材(18)を含み、及び/又はコンクリート部分内に鋼製若しくは樹脂製の繊維を含むことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、拘束部材又は繊維によってコンファインド効果が得られ、コンクリート部分の圧壊を防止できる。
【0021】
本発明のある実施形態は、低剛性柱をアンボンドプレストレストコンクリート造とした構成を除く上記構成の何れかにおいて、複数の前記上部柱(7)は、鉄骨造であり、複数の前記低剛性柱(10)は、複数の前記上部柱(7)よりも小さな横断面を有する鉄骨造であることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、鉄骨造の建物において、上部柱よりも曲げ剛性の低い低剛性柱を構築することができる。
【0023】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、複数の前記低剛性柱(10,61)は、前記上部構造体における1階層以上の高さを有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、低剛性柱が長くなるため低剛性層の振動の周期を長期ができ、また、低剛性層の内部を有効利用できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、免震層と同様の機能を有し、比較的安価に構築でき、かつ十分な変形能力を有する低剛性層を有する建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】実施形態に係る建物の低剛性柱を示す横断面図
【
図4】実施形態に係る制振装置の第1変形例を示す正面図
【
図5】実施形態に係る制振装置の第2変形例を示す正面図
【
図6】実施形態に係る制振装置の第3変形例を示す正面図
【
図7】実施形態に係る低剛性柱の変形例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る建物1について説明する。
図1に示すように、建物1は、下部構造体2と、上部構造体3と、下部構造体2と上部構造体3との間に配置された低剛性層4と、低剛性層4内に配置された制振装置5とを備える。
図1に示す例では、低剛性層4が地上部分に設けられるが、
図2に示すように、低剛性層4が地下部分に設けられてもよい。
【0028】
図1及び
図2に示すように、下部構造体2は、地盤に構築された基礎構造物であり、その上端に基礎梁である下部梁6が設けられている。下部構造体2は、基礎構造物に加えて建物1の下層階部分を含んでもよく、この場合、下層階部分の上端に設けられた梁が下部梁6となる。
【0029】
上部構造体3は、複数の上部柱7と、上部構造体3の下端に設けられて複数の上部柱7に接合する上部梁8と、上部梁8よりも上方に設けられて複数の上部柱7に接合する複数の上層梁9とを含む。
【0030】
低剛性層4は、下端において下部梁6に接合し、上端において上部梁8に接合して、複数の上部柱7よりも曲げ剛性の低い複数の低剛性柱10と、複数の低剛性柱10の中間部に接合する層内梁11とを含む。下部梁6、上部梁8及び低剛性柱10は、ラーメン構造12を形成する。複数の低剛性柱10は、建物1の1つの外構面において、横方向の一方の端部に配置された第1低剛性柱10aと、他方の端部に配置された第2低剛性柱10bと、第1低剛性柱10a及び第2低剛性柱10bの間に配置された第3低剛性柱10cとを含む。複数の低剛性柱10は、複数の上部柱7の延長線上に配置されることが好ましい。図示する低剛性層4は、2階層の構造であるが、低剛性層4は、層内梁11を有さない1階層の構造であってもよく、上下方向における位置が互いに異なる複数の層内梁11を有する3以上の階層の構造であってもよい。
【0031】
建物1の柱梁架構は、鉄筋コンクリート造である。建物1の柱梁架構は、プレキャストコンクリート部材を用いて構築されてもよく、現場打コンクリートを用いて構築されてもよく、両者を併用して構築されてもよい。プレキャストコンクリート部材を利用する場合は、施工省力化や生産性向上のために、それぞれが大きな寸法を有するプレキャストコンクリート部材を用いてもよく、また、軽量化して比較的小型のクレーンで釣り上げ可能にするために分割されたプレキャストコンクリート部材を用いてもよい。複数の低剛性柱10は、複数の上部柱7よりも曲げ剛性を低くするため、アンボンドプレストレストコンクリート造となっており、複数の上部柱7よりも細いことが好ましい。
【0032】
図3に示すように、低剛性柱10の各々は、上下方向に延在する複数の主筋13と、複数の主筋13を囲むように水平方向に延在する複数の帯筋14と、主筋13及び帯筋14を埋設するコンクリート部分15と、コンクリート部分15に付着していない緊張材16とを含む。緊張材16として、PC鋼棒を用いることが好ましいが、PC鋼線、PC鋼より線等を用いてもよい。緊張材16は、コンクリート部分15内に上下方向に沿って延在する孔17内に挿通され、引張力を加えられた状態で低剛性柱10の上下の両端部に定着されることにより、低剛性柱10にプレストレスを与えている。
【0033】
低剛性柱10の各々は、コンクリート部分15の外側面に全周に渡って当接する鋼製のシート若しくは鋼管、又は炭素繊維若しくはアラミド繊維等の繊維強化プラスチック製のシート等の拘束部材18を更に含むことが好ましい。低剛性柱10のコンクリート部分15には大きな圧縮力が加わるが、拘束部材18によってコンファインド効果が得られるため、コンクリート部分15の圧壊が防止できる。拘束部材18に代えて、又は拘束部材18とともに、コンクリート部分15が鋼繊維又は樹脂繊維を含むことによって、コンファインド効果を得てもよい。
【0034】
なお、建物1の柱梁架構は、鉄筋コンクリート造に代えて、鉄骨造でもよい。この場合、複数の低剛性柱10は、複数の上部柱7よりも小さな横断面を有することにより、複数の上部柱7よりも低い曲げ剛性を有する。
【0035】
以下、第1及び第2低剛性柱10a,10bを有するラーメン構造12を含む構面に直交する方向(
図1及び
図2の紙面に直交する方向)を「軸線方向」と記す。
図1及び
図2に示すように、制振装置5は、いわゆる揺動制振機構を備えた装置であって、ピン接合体19を介して軸線方向回りに回転可能に下部梁6に取り付けられたシーソー部材20と、一端部が軸線方向回りに回転可能にシーソー部材20に接合し、他端部が軸線方向回りに回転可能に第1低剛性柱10aの上端部と上部梁8の一端部とによって形成された第1接合隅部21に接合する第1タイロッド22と、一端部が軸線方向回りに回転可能にシーソー部材20に接合し、他端部が軸線方向回りに回転可能に第2低剛性柱10bの上端部と上部梁8の他端部とによって形成された第2接合隅部23に接合する第2タイロッド24と、シーソー部材20の軸線方向回りの回転を抑制するべく、シーソー部材20及び前記下部梁6に取り付けられた1対のダンパー25とを含む。第1及び第2タイロッド22,24は、ピン接合体19の上方で互いに交差し、下端部においてシーソー部材20の両端部に接合している。第1及び第2タイロッド22,24の交差位置は、下部梁6と上部梁8との間の中央よりも下部梁6側に位置する。第1及び第2タイロッド22,24は、ガセットプレート26(
図4参照)を介して、第1及び第2接合隅部21,23に接合している。
【0036】
ピン接合体19は、下部梁6に固定されて、軸線方向回りに回転可能にシーソー部材20を支持する。ピン接合体19は、例えばクレビスによって構成されてもよい。
【0037】
シーソー部材20は、非地震時には下部梁6の延在方向と略平行に延在する長尺部材を含み、長尺部材として形鋼等の鋼材を使用できる。
【0038】
第1及び第2タイロッド22,24は、他部材とピン接合できるように両端部がフォーク状に形成された鋼棒を含む。なお、第1及び第2タイロッド22,24は、それぞれ、1本の鋼棒で構成されることに代えて、互いの遠位側の端部がフォーク状に形成された2つの鋼棒と、2つの鋼棒の互いに近接する側の端部を互いに連結するターンバックル27(
図4参照)とを含んでもよい。第1及び第2タイロッド22,24の長さは互いに略等しく、第1及び第2タイロッド22,24の上部梁8に対する角度は互いに略等しいことが好ましい。第1及び第2タイロッド22,24の双方に非地震時に引張力が加わるように、あらかじめ第1及び第2タイロッド22,24の双方に引張力を導入しておくことが好ましい。
【0039】
1対のダンパー25は、ピン接合体19を挟むように配置され、それぞれ、下端部にて下部梁6に固定され、上端部にてシーソー部材20の延在方向の両端部の近傍に固定される。ダンパー25は、制振ダンパーであって、例えば、鋼材ダンパー等の履歴型ダンパー、オイルダンパー又は粘弾性ダンパー等である。1対のダンパー25は、互いに同じものでも異なるものでもよい。1対のダンパー25は、シーソー部材20の両端部に対して上下方向に減衰力を与える。
【0040】
制振装置5は、地震時にラーメン構造12の変形を抑制するように作用する。下部梁6と、上部梁8と、第1及び第2低剛性柱10a,10bによって構成される4角形のラーメン構造12に着目して説明する。
【0041】
地震時に上部梁8が下部梁6に対して
図1の右方に向かう地震力(慣性力)を受けると、複数の低剛性柱10が右方に傾斜及び/又は湾曲するように上部梁8が下部梁6に対して平行な状態を保って移動し、4角形のラーメン構造12は変形する。変形したラーメン構造12では変形前に比べて、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなり、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなる。ラーメン構造12の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第2タイロッド24に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向にラーメン構造12に作用する。また、第2タイロッド24に生じた引張力によって、シーソー部材20が軸線方向回りに時計回りに回転する。この回転は、第1タイロッド22の両端部が接合している部分の距離、すなわち、第1接合隅部21とシーソー部材20の一方の端部(
図1における右端部)との間の距離を広げる。この回転による第1接合隅部21とシーソー部材20の右端部との間の距離の増加量は、ラーメン構造12の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第1タイロッド22を圧縮させる方向の長さの減少量に概ね等しいため、第1タイロッド22の長さは非地震時の長さと略変わらず、第1タイロッド22に圧縮力が加わることが抑制される。
【0042】
続いて、地震の振動方向が変化し、上部梁8が下部梁6に対して
図1の左方に向かう地震力を受けると、低剛性柱10が右方に傾斜及び/又は湾曲した状態から鉛直の状態に戻る間も、ダンパー25からの減衰力によって、第1タイロッド22に引張力が生じ、この引張力がラーメン構造12に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0043】
低剛性柱10が左方に傾斜及び/又は湾曲すると、変形したラーメン構造12では変形前に比べて、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなり、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなる。ラーメン構造12の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第1タイロッド22に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向にラーメン構造12に作用する。また、第1タイロッド22に生じた引張力によって、シーソー部材20が軸線方向回りに反時計回りに回転する。この回転は、第2タイロッド24の両端部が接合している部分、すなわち、第2接合隅部23とシーソー部材20の他方の端部(
図1における左端部)との間の距離を広げる。この回転による第2接合隅部23とシーソー部材20の左端部との間の距離の増加量は、ラーメン構造12の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第2タイロッド24を圧縮させる方向の長さの減少量に概ね等しいため、第2タイロッド24の長さは、非地震時の長さと略変わらず、第2タイロッド24に圧縮力が加わることが抑制される。
【0044】
続いて、地震の振動方向が変化し、上部梁8が下部梁6に対して
図1の右方に向かう地震力を受けると、低剛性柱10が左方に傾斜及び/又は湾曲した状態から鉛直の状態に戻る間も、ダンパー25からの減衰力によって、第2タイロッド24に引張力が生じ、この引張力がラーメン構造12に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0045】
制振装置5は、地震時に以上のような動きを繰り返すことにより、ラーメン構造12の過大な変形を防止する。
【0046】
低剛性柱10が、アンボンドプレストレストコンクリート造であるため、曲げモーメントに抵抗するPC鋼棒からなる緊張材16のひずみ発生が抑制され、低剛性柱10の曲げ剛性が低減している。低剛性柱10が、上部柱7に比べて曲げ剛性が低いため、ラーメン構造12の弾性振動する無損傷振動領域が著しく大きくなり、低剛性層4が免震層と同様の機能を発揮する。また、制振装置5をラーメン構造12に取り付けることにより、ラーメン構造12の過大な変形が防止できる。
【0047】
低剛性柱10において、拘束部材18及び/又はコンクリート部分15内に含まれる繊維によってコンファインド効果が得られるため、コンクリート部分15の圧壊が防止される。
【0048】
制振装置5は、比較的低コストで製造でき、かつ、1構面当たり1つ設置すればよいため、単価が高く、多くの数量が必要であり、設置のための基礎の構築が必要な積層ゴム支承等を使用した免震層に比べて、構築コストが低い。また、低剛性層4は略メンテナンスフリーとすることができる。
【0049】
制振装置5を外構面に配置することにより、低剛性層4の内部を有効利用できる。例えば、低剛性層4を駐車場や、設備機械室、給水施設として利用できる。また、低剛性柱10が、上部構造体3における1階層以上の高さを有することによっても、低剛性層4の内部を有効利用できる。
【0050】
制振装置5は、シーソー部材20と、シーソー部材20に接合された第1及び第2タイロッド22,24とを含むことにより、第1及び第2タイロッド22,24によって掛け渡される各層の変位を1箇所に集中させる。シーソー部材20は水平変位を上下変位に切り替えるとともに、第1及び第2タイロッド22,24の圧縮側の影響を小さくする。すなわち、シーソー部材20の働きにより、第1及び第2タイロッド22,24の座屈防止を考慮することなく、制振装置5は、免震層として機能する低剛性層4の変形を1箇所に集中させる。また、制振装置5は、ダンパー25によって地震の振動エネルギーを吸収する。
【0051】
低剛性層4の重量や低剛性柱10の長さを考慮することによって建物1の全体を長周期化することができ、建物1は、制振構法でありながら、免震構法なみの振動低減効果を有する。
【0052】
下部梁6には、制振装置5から大きな力が加わるため、相応の耐力が必要である。基礎構造物の基礎梁は、地下ピット等の必要性から巨大化している。このような剛強な基礎梁を下部梁6として使用することにより、構築コストの増加を抑制することができる。また、基礎梁である下部梁6は、制振装置5からの集中的な反力を適切に地盤又は杭体(図示せず)に伝達する。
【0053】
図4~
図6は、上記実施形態における制振装置5の変形例1~3を示す。
図4及び
図5に示す第1及び第2変形例に係る制振装置31,41は、シーソー部材32、42の形状において上記実施形態と異なる。
図6に示す第3変形例に係る制振装置51は、第2タイロッド52がクロスターンバックル53を含む点で上記実施形態と異なる。説明に当たって、上記実施形態と共通又は類似する構成は、共通の符号を付し、説明を省略する。
【0054】
図4に示す制振装置31のシーソー部材32は、3つの長尺部材を互いの端部で剛結合した三角形の枠材から構成され、三角形の枠によって画定される面は、第1及び第2低剛性柱10a,10bを含むラーメン構造12(
図1参照)の構面に平行である。長尺部材として、形鋼等の鋼材を用いてもよい。シーソー部材32は、設置される構面の左右方向及び上下方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、左右方向の長さ及び上下方向の長さを有すれば、他の形状及び/又は他の素材によって構成されてもよく、例えば正面視で三角形の鋼製のパネル材で形成されてもよい。三角形状のシーソー部材32は、二等辺三角形であることが好ましく、底辺が水平に配置され、1対の等辺が底辺の両端部から上方に向かって互いに近づくように配置される。
【0055】
第1及び第2タイロッド22,24の下端部は、三角形状のシーソー部材32の上部の頂点近傍で、軸線方向回りに回転可能にシーソー部材32に接合している。この接合点は、上下方向においてピン接合体19に整合していることが好ましく、その上下方向位置は、下部梁6と上部梁8(
図1参照)との間の中央よりも下部梁6に近く、かつピン接合体19の回転軸よりも上方の位置である。非地震時において、第1及び第2タイロッド22,24は、三角形状のシーソー部材32における上部の頂点から延びる辺部を構成する部材の延長線上に配置されることが好ましい。
【0056】
このような構成であっても、制振装置31は、上記実施形態の制振装置5と同様の作用効果を有する。
【0057】
図5に示す制振装置41は、のシーソー部材42は、制振装置41が設置される構面に直交する方向から見て、逆Y字形状をなし、形鋼等の鋼製の3本の長尺材の一端部を互いに溶接や締結具(図示せず)による締結等によって剛接合することによって形成される。
【0058】
ピン接合体19の回転軸は、シーソー部材42とダンパー25との互いの接合部よりも上方に位置する。
【0059】
シーソー部材42は、制振装置41が設置される構面における左右方向、並びに上下方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、左右方向の長さ及び上下方向の長さを有し、かつ、ピン接合体19の回転軸をシーソー部材42とダンパー25との互いの連結部よりも上方に位置させることができる形状であれば、逆Y字形状以外の形状を有してもよい。例えば、シーソー部材42は、第1変形例のシーソー部材32(
図4参照)の形状に対して下辺の中央が上方に凹むように変形した形状でもよい。
【0060】
ピン接合体19の回転軸がシーソー部材42とダンパー25との互いの連結部よりも上方に位置することにより、ピン接合体19の回転軸と第1及び第2タイロッド22,24のシーソー部材42への接合部との間の距離が短くなる。地震時のこの接合部の変位量が同じならば、両者間の距離が短い方がシーソー部材42の回転角度が大きくなる。このため、シーソー部材42の左右方向の長さを大きくしなくとも、ダンパー25の変位量を第1実施形態より増幅できる。従って、制振装置41のエネルギー吸収効率がよくなる。
【0061】
逆Y字形状のシーソー部材42は、第1変形例の三角形状のシーソー部材32に比べて逆Y字の形状が内側に凹の形状であるため、左右の凹部分のスペースを有効に活用でき、例えば、このスペースを第1及び第2タイロッド22,24に引張力を導入するためのジャッキ等の設置スペースとして利用できる。
【0062】
図6に示すように、第3変形例に係る制振装置51は、第2タイロッド52がクロスターンバックル53を含む。クロスターンバックル53は、第1タイロッド22が挿通する貫通孔54を有する。第1タイロッド22が貫通孔54に挿通されることにより、第1及び第2タイロッド22,52を略同一平面上に配置できる。
【0063】
図7は、変形例に係る低剛性柱61を示す。低剛性柱61は、上記実施形態と同様に、外構面において、一方の端部に配置された第1低剛性柱61aと、他方の端部に配置された第2低剛性柱61bと、第1低剛性柱61a及び第2低剛性柱61bの間に配置された第3低剛性柱61cとを含む。低剛性柱61は、アンボンドプレストレストコンクリート造であることに加えて、下部梁6に接合する下端部において、その直上部分よりも細い横断面を有し、及び/又はその直上部分よりも少ない主筋13を含む。このため、低剛性柱61は、柱脚部を軸に揺動しやすくなり、曲げ剛性が更に低くなる。
【0064】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。制振装置の配置を上下逆にしてもよい。すなわち、上部梁にピン接合体を介してシーソー部材を取り付け、第1及び第2タイロッドの上端部をシーソー部材に接合し、下端部を第1及び第2低剛性柱と下部梁との接合隅部に接合してもよい。制振装置は、外構面ではなく、内構面に設置してもよく、第1及び第2低剛性柱は、構面の左右端部ではなく中間部に配置された低剛性柱であってもよい。制振装置として、揺動制振機構を有する装置以外の公知の制振装置、例えば、履歴型剛性ダンパー、粘性ダンパー、ブレース型オイルダンパー等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:建物
2:下部構造体
3:上部構造体
4:低剛性層
5,31,41,51:制振装置
6:下部梁
7:上部柱
8:上部梁
10,61:低剛性柱
10a,61a:第1低剛性柱
10b,61b:第2低剛性柱
12:ラーメン構造
13:主筋
15:コンクリート部分
16:緊張材
18:拘束部材
19:ピン接合体
20,32,42:シーソー部材
21:第1接合隅部
22:第1タイロッド
23:第2接合隅部
24,52:第2タイロッド
25:ダンパー