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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】板状音響部材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20250110BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20250110BHJP
   G10D 3/22 20200101ALI20250110BHJP
   G10D 13/24 20200101ALI20250110BHJP
   G10K 11/168 20060101ALI20250110BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
G10K11/16 120
B32B5/28 A
G10D3/22
G10D13/24
G10K11/168
H04R1/02 101A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021060180
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156465
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 義典
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】片柳 温子
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-022640(JP,A)
【文献】特表2010-525190(JP,A)
【文献】特開昭56-037151(JP,A)
【文献】特開2017-173585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0115005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04B 1/62- 1/99
G10D 1/00- 3/18
G10D 13/00-17/00
G10K 11/00-13/00
H04R 1/00- 1/08
H04R 1/12- 1/14
H04R 1/42- 1/46
H04R 17/00-17/02
H04R 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方向に広がる非接着界面のパターンを内部に有しており、
互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの前記繊維強化プラスチック層の間に前記パターンを有しており、
2つの前記繊維強化プラスチック層の間の一部に、非接着性層を有しており、それによって前記繊維強化プラスチック層と前記非接着性層との間に、前記非接着界面が形成されており、
前記非接着性層が、非接着性フィルム層である、
板状音響部材。
【請求項2】
前記パターンが、星形、多角形、円弧、円形、同心円状、水玉模様、勾玉様、巴模様、花びら状、菱型、銭形、縞状、波状、弓状、H状、階段状、又は千鳥状である、請求項1に記載の板状音響部材。
【請求項3】
非接着界面の少なくとも一部に空隙を有している、請求項1又は2に記載の板状音響部材。
【請求項4】
互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの前記繊維強化プラスチック層の間の一部に、非接着性層を有しており、
前記非接着性層が、非接着性フィルム層である、
板状音響部材。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチック層は、強化繊維及びマトリクス樹脂を含有しており、
(a)前記マトリクス樹脂が極性樹脂であり、かつ前記非接着性フィルム層が非極性樹脂の層である、又は
(b)前記マトリクス樹脂が非極性樹脂であり、かつ前記非接着性フィルム層が極性樹脂の層である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の板状音響部材。
【請求項6】
前記強化繊維は、炭素繊維である、請求項に記載の板状音響部材。
【請求項7】
前記極性樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、若しくはポリアミド樹脂、又はこれらの組み合わせである、請求項5又は6に記載の板状音響部材。
【請求項8】
前記非極性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、若しくはアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、フッ素樹脂、又はこれらの組み合わせである、請求項5~7のいずれか一項に記載の板状音響部材。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の板状音響部材を有している、音響機器。
【請求項10】
スピーカー又は音響板である、請求項に記載の音響機器。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の板状音響部材を有している、楽器。
【請求項12】
アコースティック楽器である、請求項11に記載の楽器。
【請求項13】
前記アコースティック楽器が、撥弦楽器、擦弦楽器、又は打弦楽器である、請求項12に記載の楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、板状音響部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音響部材として木材が用いられてきた。しかしながら、近年は、木材の代替材料として、繊維強化樹脂が注目されている。
【0003】
特許文献1は、空隙を有する樹脂マトリックスと、該樹脂マトリックス中に配設され且つ一方向に配向された炭素繊維と、を含むことを特徴とする音響板用複合材を開示している。なお、特許文献1において、「空隙を有する樹脂マトリックス」とは、発泡樹脂により構成される母材である。
【0004】
特許文献2は、強化用繊維を音板の一方向に配向させた繊維強化樹脂からなる楽器用音板において、上記音板を形成する繊維強化樹脂のヤング率よりも低いヤング率の棒状体を上記強化用繊維の配向方向に対して平行に繊維強化樹脂中に埋設するとともに上記配向方向に直交する断面での棒状体の断面積の総和を音板の断面積に対して5~60%としたことを特徴とする楽器用音板を開示している。
【0005】
特許文献3は、強化用繊維を音板の一方向に配向させた繊維強化樹脂からなる楽器用音板において、上記音板を形成する繊維強化樹脂のヤング率よりも低いヤング率の円形断面を有した棒状体を、上記強化繊維の配向方向に対して平行に繊維強化樹脂中に埋設したことを特徴とする楽器用音板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-306062号公報
【文献】特開昭59-10996号公報
【文献】特開昭63-46492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3が開示するように、木材を採用した音響部材の代替品として、繊維強化プラスチックを採用した音響部材が提案されてきた。
【0008】
しかしながら、人工材料、例えば繊維強化プラスチックを採用した音響部材は、例えば、天然材料である木材を採用した音響部材が作り出すことができる音響を再現することが困難な場合がある。
【0009】
したがって、人工材料、例えば繊維強化プラスチックを採用した音響部材において、木材を採用した音響部材が作り出すことができる音響をより再現すること等、すなわち、音響特性をより向上させることが求められている。
【0010】
本開示は、音響特性を向上させた板状音響部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
面方向に広がる非接着界面のパターンを内部に有している、板状音響部材。
《態様2》
前記パターンが、星形、多角形、円弧、円形、同心円状、水玉模様、勾玉様、巴模様、花びら状、菱型、銭形、縞状、波状、弓状、H状、階段状、又は千鳥状である、態様1に記載の板状音響部材。
《態様3》
非接着界面の少なくとも一部に空隙を有している、態様1又は2に記載の板状音響部材。
《態様4》
互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの前記繊維強化プラスチック層の間に前記パターンを有している、態様1~3のいずれか一つに記載の板状音響部材。
《態様5》
2つの前記繊維強化プラスチック層の間の一部に、非接着性層を有しており、それによって前記繊維強化プラスチック層と前記非接着性層との間に、前記非接着界面が形成されている、態様4に記載の板状音響部材。
《態様6》
互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの前記繊維強化プラスチック層の間の一部に、非接着性層を有している、板状音響部材。
《態様7》
前記非接着性層が、非接着性フィルム層である、態様5又は6に記載の板状音響部材。
《態様8》
前記繊維強化プラスチック層は、強化繊維及びマトリクス樹脂を含有しており、
(a)前記マトリクス樹脂が極性樹脂であり、かつ前記非接着性フィルム層が非極性樹脂の層である、又は
(b)前記マトリクス樹脂が非極性樹脂であり、かつ前記非接着性フィルム層が極性樹脂の層である、
態様7に記載の板状音響部材。
《態様9》
前記強化繊維は、炭素繊維である、態様8に記載の板状音響部材。
《態様10》
前記極性樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、若しくはポリアミド樹脂、又はこれらの組み合わせである、態様8又は9に記載の板状音響部材。
《態様11》
前記非極性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、若しくはアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、フッ素樹脂、又はこれらの組み合わせである、態様8~10のいずれか一つに記載の板状音響部材。
《態様12》
態様1~11のいずれか一つに記載の音響部材を有している、音響機器。
《態様13》
スピーカー又は音響板である、態様12に記載の音響機器。
《態様14》
態様1~11のいずれか一つに記載の板状音響部材を有している、楽器。
《態様15》
アコースティック楽器である、態様14に記載の楽器。
《態様16》
前記アコースティック楽器が、撥弦楽器、擦弦楽器、又は打弦楽器である、態様15に記載の楽器。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、音響特性を向上させた板状音響部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を面方向から見た模式図である。
図1B図1Bは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を図1AのA-A’断面から見た模式図である。
図1C図1Cは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を図1BのB-B’断面から見た模式図である。
図2A図2Aは、ハカランダ製の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図2B図2Bは、ローズウッド製の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図2C図2Cは、シトカスプルース製の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図2D図2Dは、非接着界面を有しない炭素繊維強化プラスチックを用いた板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図2E図2Eは、非接着界面を有しない他の炭素繊維強化プラスチックを用いた板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図2F図2Fは、非接着界面を有しない更に他の炭素繊維強化プラスチックを用いた板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図3A図3Aは、非接着界面20の縦縞状のパターンを示す模式図である。
図3B図3Bは、非接着界面20の波状のパターンを示す模式図である。
図3C図3Cは、非接着界面20の階段状のパターンを示す模式図である。
図3D図3Dは、非接着界面20の千鳥状のパターンを示す模式図である。
図3E図3Eは、非接着界面20のH状のパターンを示す模式図である。
図3F図3Fは、非接着界面20の弓状のパターンを示す模式図である。
図4A図4Aは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2の層構成を示す模式図である。
図4B図4Bは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を面方向から見た模式図である。
図4C図4Cは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を図4BのC-C’断面から見た模式図である。
図4D図4Dは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を図4CのD-D’断面から見た模式図である。
図4E図4Eは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を図4BのC-C’断面から見た模式図である。
図5図5は、実施例1の板状音響部材3の層構成を示す模式図である。
図6A図6Aは、実施例6の板状音響部材のうち、高解像度XCT撮像観察に供した小片を切出した位置を示す模式図である。
図6B図6Bは、実施例6の板状音響部材に関する高解像度XCT撮像観察基づいて得られたデータを可視化した図である。
図7A図7Aは、実施例1、2、及び6、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図7B図7Bは、実施例3~5、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図7C図7Cは、比較例1~3の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図7D図7Dは、参考例1、4、及び5、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
図8図8は、実施例1~6、比較例1~3、並びに参考例1~6の板状音響部材の20~293Hzにおけるパーシャルオーバーオール(P.O.A)値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
《板状音響部材》
本開示の板状音響部材は、面方向に広がる非接着界面のパターンを内部に有している。
【0016】
本開示の板状音響部材の材料は、人工の材料、例えばプラスチック、より具体的には繊維強化プラスチックであってよい。
【0017】
本開示の板状音響部材の形状は、板状であれば特に限定されず、平らであってよく、又は湾曲していてもよい。また、本開示の板状音響部材の形状は、凹凸を有する板であってよく、波うっていてもよい。更には、本開示の板状音響部材は、例えば板状音響部材を厚さ方向に貫通する一つ又は複数の穴を有していることができる。本開示の板状音響部材の大きさ及び厚さは、特に限定されず、適用する具体的な製品に応じて適宜決定してよい。
【0018】
板状音響部材が「面方向に広がる非接着界面のパターンを内部に有している」とは、板状音響部材の内部において、板状音響部材を構成する材料同士が互いに接触しつつ又は少なくとも部分的に離間しつつ、かつ互いに接着されていないことによって、当該部分において板状音響部材を構成する材料が不連続となっている境界、すなわち非接着界面が、一定のパターンで面方向に延在していることを意味する。また、非接着界面の少なくとも一部に空隙を有していることができる。
【0019】
図1A~Cを用いてより具体的に説明する。図1A~Cは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1の一例を示す模式図である。
【0020】
図1Aは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を面方向から見た模式図である。図1Aに示すように、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1は、繊維強化プラスチック層10から形成されており、平らな板状の形状を有している。
【0021】
図1Bは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を図1AのA-A’断面から見た模式図である。図1Bに示すように、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1は、繊維強化プラスチック層10の内部において、面方向に広がる非接着界面20を有している。非接着界面20同士の間には、繊維強化プラスチック層10が連続している、すなわち非接着でない領域が存在している。
【0022】
図1Cは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1を図1BのB-B’断面から見た模式図である。図1Cに示すように、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1は、非接着界面20が、面方向に広がる複数の縦縞状のパターンを形成している。
【0023】
なお、図1A~Cは、本開示の発明を限定する趣旨ではない。
【0024】
原理によって限定されるものではないが、本開示の板状音響部材が、向上した音響特性を有する原理は、以下のとおりである。
【0025】
板状音響部材の材料として用いられている木材としては、例えば、ハカランダ、ローズウッド、及びシトカスプルースを挙げることができる。これらの木材から形成される板状音響部材は、それぞれ図2A~Cに示すような音響特性を有している。なお、図2A~Cに示す音響特性のグラフは、板状音響部材の一方の面に振動させた音叉を接触させ、板状音響部材の他方の面からマイクで収音し、収音した音を、音響解析ソフトを用いて周波数解析したものである。解析においては、主音である音叉振動の440Hz付近のピークを音響ソフトでイコライザーをかけて、消去している。
【0026】
これに対して、人工の材料、例えば、多様な繊維強化プラスチックを用いた板状音響部材は、例えばそれぞれ図2D~Fに示すような音響特性を有するように形成することができる。なお、図2D~Fに示す音響特性のグラフについても、図2A~Cに示す音響特性のグラフと同様の周波数解析を行っている。
【0027】
図2D~Fに示すように、所定の組成を有する炭素繊維強化プラスチックを材料として用いた板状音響部材は、それぞれ順に、図2A~Cに示すものに近いピークを有している。これは、人工の材料、例えば繊維強化プラスチック、より具体的には非接着界面を有しない炭素繊維強化プラスチックを材料として用いた板状音響部材によって、例えば、ハカランダ、ローズウッド、及びシトカスプルース等の木材を材料とする板状音響部材が有する音響特性を、ある程度再現できることを意味している。
【0028】
しかしながら、実際に人工の材料として用いた板状音響部材が作りだす音と、実際に木材から形成される板状音響部材が作り出す音とには、差異がある。
【0029】
これは、木材を材料とする板状音響部材が有する音響特性と人工の材料、例えば炭素繊維強化プラスチックを材料として用いた板状音響部材が有する音響特性とでは、低周波領域、例えば20Hz~300Hz付近におけるピークの有無及び大きさが異なることを、一つの要因とすると考えられる。
【0030】
本開示の板状音響部材は、その内部に、面方向に広がる非接着界面のパターンを有している。これにより、本開示の板状音響部材は、低周波領域、例えば20Hz~300Hz付近において、木材を材料とする板状音響部材が有する音響特性に近い音響特性を有している。これにより、本開示の板状音響部材は、木材を採用した音響部材が作り出すことができる音響をより再現すること等、すなわち、音響特性をより向上させることができる。
【0031】
これは、原理によって限定するものではないが、面方向に広がる非接着界面のパターンを内部に有していることによって、板状音響部材の内部の一部分が非連続となっていること、又は、更に少なくとも非接着界面の一部に空隙が存在していることで、板状音響部材自体の弾性率、及び内部損失等が変化することによると考えられる。
【0032】
非接着界面のパターンは、規則性を有していてよく、規則性を有していなくてもよい。非接着界面のパターンは、例えば星形、多角形、円弧、円形、同心円状、水玉模様、勾玉様、巴模様、花びら状、菱型、銭形(丸形の内部、特に中央に四角形の穴を有する形状)、縦縞状、波状、階段状、千鳥状、H状、又は弓状であってよい。図3A~Fは、非接着界面20のパターンの一例として、縦縞状、波状、階段状、千鳥状、H状、又は弓状のパターンを順に示している。なお、図3A~Fは、本開示の第1の実施形態に係る板状音響部材1が有することができる非接着界面20のパターンの例を示している。また、図3A~Fは、図1Cと同様の断面図である。
【0033】
なお、図3A~Fは、本開示の発明を限定する趣旨ではない。
【0034】
非接着界面のパターンの設計により、低周波領域、例えば20Hz~300Hz付近における、所望のピークの位置及び大きさを調整することができる。
【0035】
本開示の板状音響部材は、具体的には、互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの繊維強化プラスチック層の間に非接着界面のパターンを有している構成を有していることができる。
【0036】
更に具体的には、本開示の板状音響部材は、互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層を有しており、かつ2つの繊維強化プラスチック層の間の一部に、非接着性層を有していることができる。そして、繊維強化プラスチック層と非接着性層との間に、非接着界面のパターンが形成されていてよい。
【0037】
なお、非接着性層とは、繊維強化プラスチック層と接着されていない層である。
【0038】
図4A~Dは、本開示の第2の実施形態に従う板状音響部材2の模式図である。
【0039】
図4Aに示すように、本開示の第2の実施形態に従う板状音響部材2は、互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層10間の一部に、非接着性層25が挿入されて、図4Bに示すように2つの繊維強化プラスチック層10が接着された構造を有している。
【0040】
図4Cは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を図4BのC-C’断面から見た模式図である。図4Cに示すように、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2は、互いに積層されている2つの繊維強化プラスチック層10の間に非接着性層25が配置されている。そして、繊維強化プラスチック層10と非接着性層25との間に、非接着界面20のパターンが形成されている。隣り合う2つの非接着性層25同士の間の部分において、2つの繊維強化プラスチック層10は互いに接着されて一体となっている。
【0041】
図4Dは、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2を図4CのD-D’断面から見た模式図である。図4Dに示すように、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2は、非接着性層25が、面方向に広がる複数の縦縞状に配置されており、それによって非接着界面20は、縦縞状のパターンを形成している。
【0042】
なお、図4Eに示すように、本開示の第2の実施形態に係る板状音響部材2において、繊維強化プラスチック層10と非接着性層25とは、必ずしも接触していることを要さず、例えばこれらの間の少なくとも一部分に空隙30が存在していてもよい。
【0043】
なお、図4A~Eは、本開示の発明を限定する趣旨ではない。
【0044】
〈繊維強化プラスチック層〉
繊維強化プラスチック層は、強化繊維及びマトリクス樹脂を含有している、繊維強化プラスチックの層である。
【0045】
繊維強化プラスチックは、例えば強化繊維をマトリクス樹脂に含浸させることで形成することができる。
【0046】
繊維強化プラスチック層の厚さは、特に限定されないが、例えば0.1mm~10.0mmであってよい。繊維強化プラスチック層の厚さは、0.1mm以上、0.5mm以上、0.8mm以上、又は1.0mm以上、であってよく、10.0mm以下、5.0mm以下、2.0mm以下、又は1.0mm以下であってよい。繊維強化プラスチック層の厚さは、板状音響部材の用途に合わせて適宜決定してよい。
【0047】
(強化繊維)
強化繊維は、繊維強化プラスチックに用いることができる任意の繊維であってよい。このような繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維等、又はこれらの組み合わせを採用することができる。強化繊維は、炭素繊維が好ましい。
【0048】
(マトリクス樹脂)
マトリクス樹脂は、繊維強化プラスチックに用いることができる任意の樹脂であってよい。
【0049】
マトリクス樹脂は、極性樹脂又は非極性樹脂であってよい。極性樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、若しくはポリアミド樹脂、又はこれらの組み合わせであってよい。また、非極性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、若しくはアクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、フッ素樹脂、又はこれらの組み合わせであってよい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)が挙げられる。
【0050】
〈非接着性層〉
非接着性層は、繊維強化プラスチック層と接着されていない層である。
【0051】
非接着性層は、例えば非接着性フィルム層又は非接着性塗布層であってよい。
【0052】
非接着性フィルム層は、繊維強化プラスチック層との接着性を有しないフィルムからなる層である。例えば、2つの積層されている繊維強化プラスチック層同士を熱の作用によって接着して板状音響部材を形成する場合、非接着性フィルム層は、熱の作用によって繊維強化プラスチック層と接着されない材料からなる層であることができる。
【0053】
より具体的には、繊維強化プラスチック層のマトリクス樹脂が極性樹脂である場合には、非接着性フィルム層は、非極性樹脂からなる層であってよい。逆に、繊維強化プラスチック層のマトリクス樹脂が非極性樹脂である場合には、非接着性フィルム層は、極性樹脂からなる層であってよい。
【0054】
非接着性塗布層は、繊維強化プラスチック層との接着性を有しない材料が塗布されている層である。
【0055】
非接着性層の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm~100μmであってよい。非接着性層の厚さは、1μm以上、5μm以上、10μm以上、又は20μm以上であってよく、100μm以下、80μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってよい。
【0056】
《音響機器》
本開示の音響機器は、本開示の板状音響部材を有している、音響機器である。
【0057】
音響機器は、例えばスピーカー、音響板、及び音調パネル等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
《楽器》
本開示の楽器は、本開示の板状音響部材を有している、楽器である。
【0059】
楽器は、アコースティック楽器、より具体的には、撥弦楽器、擦弦楽器、又は打弦楽器等を挙げることができる。撥弦楽器は、例えばギター、ハープ、及び琴等を挙げることができる。擦弦楽器は、例えばヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、及びコントラバス等を挙げることができる。打弦楽器は、例えばピアノ等を挙げることができる。また、楽器は、アコースティック楽器以外の楽器、例えば電気楽器等を挙げることができる。電気楽器は、より具体的には、エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、エレクトリック・ピアノ、エレクトリック・ヴァイオリン、エレクトリック・ハープ、及びクラビネット等を挙げることができる。
【0060】
本開示の楽器がギターである場合、本開示の板状音響部材は、例えばギターのボディーのトップ及び又はバック等に適用してよい。また、本開示の楽器がピアノである場合、本開示の板状音響部材は、例えばピアノの響板又は響棒等に適用してよい。
【実施例
【0061】
《実施例1~6、比較例1~4、並びに参考例1~6》
〈実施例1~6〉
図5に示すように、縦100mm×横100mm×厚さ0.8mmのエポキシ樹脂と炭素繊維からなる4枚の炭素繊維強化プラスチック層110(綾織り)を、白い矢印で示すように、中央に中間層としてのポリプロピレン(PP)樹脂フィルム120を挟んで、積層体を形成した。ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム120は、図3Aに示すような縦縞状のパターンとなるようにカットして配置した。
【0062】
積層体を、真空オートクレーブにて約120℃で加熱して、炭素繊維強化プラスチック層同士を接着させて、実施例1の板状音響部材を形成した。
【0063】
超音波探傷試験により、実施例1の板状音響部材の内部に、縦縞状のパターンの中間層が挿入されていることが確認された。
【0064】
実施例1の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0065】
〈実施例2~6〉
中間層のパターンを、それぞれ順に図3B~Fに示すようなパターン、すなわち順に波状、階段状、千鳥状、H状、及び弓状のパターンとしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2~6の板状音響部材を形成した。
【0066】
超音波探傷試験により、実施例2~6の板状音響部材の内部に、それぞれ順に波状、階段状、千鳥状、H状、及び弓状のパターンの中間層が挿入されていることが確認された。
【0067】
実施例2~6の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0068】
〈比較例1〉
中間層を採用しなかったことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1の板状音響部材を形成した。
【0069】
比較例1の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0070】
〈比較例2〉
中間層の材料をポリプロピレン(PP)樹脂フィルムに替えてポリアミド6(PA6)フィルムとしたことを除いて実施例1と同様にして、比較例2の板状音響部材を形成した。
【0071】
なお、中間層は、縦縞状のパターンを有していた。
【0072】
比較例2の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0073】
〈比較例3〉
中間層の材料をポリプロピレン(PP)樹脂フィルムに替えてポリアミド6(PA6)フィルムとしたことを除いて実施例6と同様にして、比較例3の板状音響部材を形成した。
【0074】
なお、中間層は、弓状のパターンを有していた。
【0075】
比較例3の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0076】
〈比較例4〉
中間層として、縦100mm×横100mmのポリプロピレン(PP)樹脂フィルムを挟んで、積層体を形成したことを除いて、実施例1と同様にして、比較例4の板状音響部材を形成した。比較例4の板状音響部材は、真空オートクレーブによる加熱にもかかわらず、中央の炭素繊維強化プラスチック層2枚を接着することができなかった。これは、炭素繊維強化プラスチック層と同様のサイズのポリプロピレン(PP)樹脂フィルムが中央に挟まれていたためである。
【0077】
比較例4の板状音響部材の構成を、以下の表1にまとめた。
【0078】
〈参考例1~6〉
スプルース、マホガニー、メープル、アッシュ、ハカランダ、及びシダー製の縦100mm×横100mm平板を、それぞれ順に、参考例1~6の板状音響部材とした。
【0079】
参考例1~6の平板を、以下の表1にまとめた。
【0080】
【表1】
【0081】
〈音響特性の評価〉
実施例1~6、比較例1~3、及び参考例1~6の板状音響部材について、以下のようにして音響特性を評価した。
【0082】
板状音響部材の一方の面に振動させた音叉を接触させ、板状音響部材の他方の面からマイクで収音した。収音した音を、音響解析ソフトを用いて周波数解析した。
【0083】
解析結果を、図7A~D及び図8に示す。
【0084】
図7Aは、実施例1、2、及び6、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。また、図7Bは、実施例3~5、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
【0085】
図7A及びBに示すように、中間層として所定のパターンを有するPPフィルムを有していた実施例~6の板状音響部材は、440Hz以上の周波数においては、いずれも中間層を有しなかった比較例1の板状音響部材と同様の音響特性を有していた。他方、20Hz~300Hz付近、特に200Hz付近において、比較例1の板状音響部材は150mPar以下のピークを有していたのに対して、実施例1~6の板状音響部材は、いずれも250mPar以上の大きいピークを有していた。
【0086】
図7Cは、比較例1~3の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
【0087】
図7Cに示すように、中間層として所定のパターンを有するポリアミド6(PA6)フィルムを有していた比較例2及び3の板状音響部材は、いずれも測定した周波数の領域において、中間層を有しなかった比較例1の板状音響部材と同様の音響特性を有していた。
【0088】
図7Dは、参考例1、4、及び5、並びに比較例1の板状音響部材の音響特性を示すグラフである。
【0089】
図7Dに示すように、それぞれスプルース、アッシュ、及びハカランダ製である参考例1、4、及び5の板状音響部材は、440Hz以上の周波数においては、いずれも4枚の炭素繊維強化プラスチック層から形成されている比較例1の板状音響部材と同様の音響特性を有していた。他方、20Hz~300Hz付近において、比較例1の板状音響部材は150mPar以下のピークを有していたのに対して、参考例1、4、及び5の板状音響部材は、200mPar以上のピークを複数有していた。
【0090】
図8は、実施例1~6、比較例1~3、並びに参考例1~6の板状音響部材の20~293Hzにおけるパーシャルオーバーオール(P.O.A)値を示すグラフである。
【0091】
図8に示すように、比較例1の板状音響部材では、20~293Hzにおけるパーシャルオーバーオール(P.O.A)値は82以下であった。比較例2及び3の板状音響部材についても、ほとんど同様の数値(比較例2:82以下、比較例3:83以下)であり、比較例1の板状音響部材のものと大きな差はなかった。
【0092】
これに対して、実施例1~6の板状音響部材では、パーシャルオーバーオール(P.O.A)値はいずれも85以上であった。この値は、参考例1~6の板状音響部材とほとんど同じである。
【0093】
〈高解像度XCT撮像観察〉
リューター及びダイヤモンドディスクを用いて、実施例6の板状音響部材について、図6Aに示す部分、すなわち中間層が挿入されている部分を含む小片(縦40mm×横5mm、)を切出した。
【0094】
この小片を資料台にワックスで固定後、室温にて静置した。ワックスの応力変化がなくなった後で、高解像度XCT撮像観察を行った。
【0095】
高解像度XCT撮像観察は、高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX 株式会社リガク製)を用いた。X線源は、Cu(17.5keV)、X線レンズはL270、X線管電圧・管電流は40kV-30mA、CT撮影範囲は0~180°、露光時間は8秒、撮像数は1100枚であった。
【0096】
得られたデータをパソコンで再構築した後、画像処理ソフトImageJにて0.54μm/voxelで画像変換し、撮像箇所の断片方向のシークエンスデータを得た。
【0097】
得られたシークエンスデータを用いて、画像解析ソフトAVIZOを使用し、可視化及び画像解析を行った。なお、この際、空隙抽出用、PPフィルム抽出用、炭素繊維抽出用、で異なるフィルタ処理を施し、それぞれの要素抽出のための3Dデータを作成した。
【0098】
得られた撮像データから、空隙、PPフィルム、及び炭素繊維の要素分離を行い、図6Bに示すように、可視化を行った。
【0099】
図6Bに示すように、実施例6の板状音響部材では、炭素繊維強化プラスチック層とPPフィルム層とが明確に区別でき、これらの層の間には非接着界面が形成されていた。また、これらの層の間には、約1μm程度の厚さの空隙の層が形成されていた。
【0100】
僅か1μmの空隙の層自体の振動だけで、板状音響部材の音響的振動に大きな効果を与えるかどうかは明らかではないが、板状音響部材の内部に形成された非接着界面、又は非接着界面及び空隙の組み合わせの効果により、板状音響部材全体の弾性率及び内部損失等が変化し、それによって板状音響部材の音響特性が変化していると考えられる。
【符号の説明】
【0101】
1~3 板状音響部材
10 繊維強化プラスチック層
20 非接着界面
25 非接着性層
30 空隙
110 炭素繊維強化プラスチック層
120 ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8