(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】位相同期回路、送信機、受信機、および位相同期回路の制御方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/099 20060101AFI20250110BHJP
H03L 1/02 20060101ALI20250110BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20250110BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
H03L7/099
H03L1/02
H04B1/04 T
H04B1/16 R
(21)【出願番号】P 2021065077
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 誠
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-303582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0106476(US,A1)
【文献】特開2000-216675(JP,A)
【文献】特開2011-091583(JP,A)
【文献】特開2002-325034(JP,A)
【文献】特開2011-019208(JP,A)
【文献】特開平10-200468(JP,A)
【文献】特開2002-305697(JP,A)
【文献】特開2018-107585(JP,A)
【文献】特開2004-007443(JP,A)
【文献】特開2006-319393(JP,A)
【文献】特開2017-046036(JP,A)
【文献】特開2012-044545(JP,A)
【文献】特開2007-267246(JP,A)
【文献】特開2007-259431(JP,A)
【文献】特開平06-232742(JP,A)
【文献】国際公開第2008/084525(WO,A1)
【文献】特開2003-218636(JP,A)
【文献】特開2004-222259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/099
H03L 1/02
H04B 1/04
H04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相同期回路であって、
第1制御パラメータおよび第1制御電圧に応じた周波数の出力信号を生成する電圧制御発振器と、
第2制御パラメータに応じた分周比で前記電圧制御発振器の前記出力信号を分周する分周器と、
基準クロック信号と前記分周された出力信号との位相差を検出する位相比較器と、
前記検出された位相差に応じた電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプの出力電流に基づいて前記第1制御電圧を生成するループフィルタと、
前記位相同期回路の周囲に設けられた温度センサの検出温度に基づいて、前記第1制御パラメータ
および前記第2制御パラメータを調整する制御回路とを備え
、
前記制御回路は、前記温度センサの前記検出温度の時間変動量に基づいて前記第1制御パラメータを調整し、前記温度センサの前記検出温度の温度範囲に基づいて前記第2制御パラメータを調整する、位相同期回路。
【請求項2】
前記電圧制御発振器の発振周波数は、前記第1制御電圧および第2制御電圧に応じて変化し、
前記電圧制御発振器は、前記第1制御パラメータの複数の設定値と前記第2制御電圧の値との対応関係を示すテーブルに従って前記第2制御電圧を変化させ、
前記制御回路は、前記第1制御パラメータの前記複数の設定値のうち使用頻度が閾値よりも低い設定値がある場合には、前記テーブルを更新する、請求項
1に記載の位相同期回路。
【請求項3】
前記ループフィルタの周波数特性は、第3制御パラメータに応じて変化し、
前記制御回路は、前記位相同期回路の起動時における捕捉時間に基づいて前記第3制御パラメータを調整する、請求項1
または2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
請求項
3に記載の位相同期回路と、
前記電圧制御発振器の前記出力信号を利用して、ベースバンド信号を変調することにより変調信号を生成する変調回路とを備えた送信機。
【請求項5】
前記変調信号のエラーベクトル振幅を検出する検出回路をさらに備え、
前記制御回路は、前記エラーベクトル振幅の検出値に基づいて前記第3制御パラメータを調整する、請求項
4に記載の送信機。
【請求項6】
請求項
3に記載の位相同期回路と、
前記電圧制御発振器の前記出力信号を利用して、変調信号を復調することによりベースバンド信号を生成する復調回路とを備えた受信機。
【請求項7】
位相同期回路の制御方法であって、
前記位相同期回路は、
第1制御パラメータおよび第1制御電圧に応じた周波数の出力信号を生成する電圧制御発振器と、
第2制御パラメータに応じた分周比で前記電圧制御発振器の前記出力信号を分周する分周器と、
基準クロック信号と前記分周された出力信号との位相差を検出する位相比較器と、
前記検出された位相差に応じた電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプの出力電流に基づいて前記第1制御電圧を生成するループフィルタとを含み、
前記制御方法は、
前記位相同期回路の周囲に設けられた温度センサの検出温度の情報を取得するステップと、
前記温度センサの前記検出温度に基づいて、前記第1制御パラメータ
および第2制御パラメータを調整するステップとを備え
、
前記調整するステップでは、前記温度センサの前記検出温度の時間変動量に基づいて前記第1制御パラメータを調整し、前記温度センサの前記検出温度の温度範囲に基づいて前記第2制御パラメータを調整する、位相同期回路の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位相同期回路、送信機、受信機、および位相同期回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル変調を利用する送信機は、直交振幅変調などを行う変調部、ベースバンド信号をキャリア周波数帯域の信号に変換するアップコンバータ部、不要な周波数成分を抑制するバンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)などを備える。
【0003】
デジタル変調では、変調信号の多値化が進むにつれ、送信機出力端におけるコンステレーションが歪みやすくなり、その結果、通信品質の劣化につながる。特に、コンステレーションマッピングを行う変調部は、基準クロック信号の周波数変動、位相変動、および位相雑音の影響を受けるため、通信品質の劣化につながりやすい。
【0004】
ゆえに、位相同期(PLL:Phase Locked Loop)回路を用いることにより、発振器に起因する周波数および位相の変動ならびに雑音成分を取り除き、クロック信号をクリーンアップすることが必要である。ここで、PLL回路の出力信号周波数は、PLL回路の周囲の温度変化に伴って変化するという問題がある。
【0005】
特開2012-044545号公報(特許文献1)に開示されたPLL回路は、PLLのメインループの他に電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)の温度特性を補償する温度補償ループを備える。具体的に、温度補償ループは、メインのPLLループにより生成される制御電圧を基準電圧と比較し、その差分値に基づいてチャージポンプ回路と温度補償ループフィルタとにより温度補償電圧を生成する。そして、この温度補償電圧により、電圧制御発振器の発振周波数が微調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特開2012-044545号公報(特許文献1)に開示されているように温度補償ループを設ける場合には、温度補償ループの時定数によっては温度補償ループがメインループと競合する可能性がある。競合の結果、PLLのメインループのロック外れが生じたり、出力信号の周波数の変動が生じたりする。結果として、PLL回路を備えた送信機において、良好な通信状態の確保が困難になる。
【0008】
本開示は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、その目的の1つは、周囲温度が変化した場合でも、発振周波数の安定化を図ることが可能な位相同期回路を提供することである。なお、上記ではデジタル変調を利用した送信機を例に挙げて従来技術の問題点について説明したが、本開示の技術はPLL回路を利用した他の装置にも適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態の位相同期回路は、電圧制御発振器と、分周器と、位相比較器と、チャージポンプと、ループフィルタと、制御回路とを備える。電圧制御発振器は、第1制御パラメータおよび第1制御電圧に応じた周波数の出力信号を生成する。分周器は、電圧制御発振器の出力信号を分周する。位相比較器は、基準クロック信号と分周された出力信号との位相差を検出する。チャージポンプは、検出された位相差に応じた電流を出力する。ループフィルタは、チャージポンプの出力電流に基づいて第1制御電圧を生成する。制御回路は、位相同期回路の周囲に設けられた温度センサの検出温度に基づいて、第1制御パラメータを調整する。
【発明の効果】
【0010】
上記の実施形態によれば、位相同期回路の周囲に設けられた温度センサの検出温度に基づいて、第1制御パラメータを調整することにより、周囲温度が変化した場合でも、発振周波数の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1の送信機1の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のループフィルタの構成例を示す図である。
【
図3】ループフィルタの制御パラメータと、可変抵抗器の制御信号および可変容量の制御電圧との関係の一例を表形式で示す図である。
【
図4】
図1の電圧制御発振器の構成例を示す図である。
【
図5】電圧制御発振器の制御パラメータと可変容量の制御電圧との関係の一例を表形式で示す図である。
【
図6】ループフィルタから出力された制御電圧と電圧制御発振器の発振周波数との関係を示す図である。
【
図7】
図1の温度監視部の構成例を示すブロック図である。
【
図8】温度センサの検出温度の時間変化に応じた温度範囲情報の出力の一例を示す図である。
【
図9】温度センサの検出温度の時間変化に応じた温度変動情報の出力の一例を示す図である。
【
図10】PLL捕捉監視部の構成例を示すブロック図である。
【
図11】PLL捕捉監視部の動作の一例を示すタイミング図である。
【
図12】パラメータ調整部の構成例を示すブロック図である。
【
図13】PLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
【
図14】実施の形態2の送信機1Aの全体構成を示すブロック図である。
【
図15】
図14のパラメータ調整部33Aの構成例を示すブロック図である。
【
図17】分周器の制御パラメータと分周比との関係を表形式で示す図である。
【
図18】実施の形態2のPLL回路において、ループフィルタから出力された制御電圧と電圧制御発振器の発振周波数との関係を示す図である。
【
図19】基準クロック生成回路の変形例を示す図である。
【
図20】実施の形態2のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
【
図21】実施の形態3の送信機1Bの全体構成を示すブロック図である。
【
図22】実施の形態3のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
【
図23】更新前および更新後の電圧制御発振器の制御パラメータの変換テーブルの一例を示す図である。
【
図24】実施の形態4の送信機1Cの全体構成を示すブロック図である。
【
図25】実施の形態4のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
【
図26】実施の形態5の受信機2の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0013】
実施の形態1.
[送信機の全体構成]
図1は、実施の形態1の送信機1の全体構成を示すブロック図である。送信機1は、ベースバンド信号BSを受信し、受信したベースバンド信号BSを変調することにより変調信号MSを生成し、生成した変調信号MSを出力する。
図1に示すように、送信機1は、送信回路10と、PLL回路11を制御するための制御回路30と、温度センサ34と、メモリ35とを備える。本開示では、制御回路30をPLL回路11の構成要素の1つとする場合もある。
【0014】
送信回路10は、基準クロック生成回路12と、PLL回路11と、変調回路13とを備える。基準クロック生成回路12は、PLL回路11で使用する基準クロックCLKrefを生成する。基準クロック生成回路12として、たとえば、温度補償型水晶発振器(TCXO)が用いられる。
【0015】
PLL回路11は、基準クロックCLKrefを受信し、受信した基準クロックCLKrefのクリーンアップを目的とした処理を行う。
図1に示すように、PLL回路11は、位相比較器(PFD:Phase Frequency Detector)20と、チャージポンプ(CP:Charge Pump)21と、ループフィルタ(Loop Filter)22と、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)23と、分周器(DIV:Divider)24とを含む。
【0016】
具体的に、位相比較器20は、基準クロックCLKrefと分周器24から出力された分周クロックCLKdivとの位相差を検出し、位相差に応じた電圧を出力する。チャージポンプ21は、位相比較器20から出力された位相差に応じた電圧を電流に変換する。ループフィルタ22は、チャージポンプ21の出力電流を電圧制御発振器23の制御電圧に変換するとともに、高周波成分を除去する。電圧制御発振器23は、ループフィルタ22から出力された制御電圧に応じて発振周波数が変化する発振器である。分周器24は、電圧制御発振器23から出力された出力クロックCLKoutを分周する。
【0017】
上記の構成のPLL回路11において、ループフィルタ22の周波数特性は、制御回路30から出力された制御パラメータP_LFに応じて変化する。また、電圧制御発振器23の発振周波数は、制御回路30から出力された制御パラメータP_VCOに応じて変化する。ループフィルタ22のより詳細な構成例および動作は、
図2および
図3を参照して後述する。また、電圧制御発振器23のより詳細な構成例および動作は、
図4~
図6を参照して後述する。
【0018】
変調回路13は、ベースバンド信号BSとPLL回路11の出力クロックCLKoutとを受信し、出力クロックCLKoutをキャリア信号として使用してベースバンド信号BSを変調する。変調回路13は、たとえば、振幅シフト変調(ASK)、位相シフト変調(PSK)、周波数シフト変調(FSK)、直交振幅変調(QAM)などのデジタル変調を行うことにより、変調信号MSを生成する。
【0019】
制御回路30は、温度監視部31と、PLL捕捉監視部32と、パラメータ調整部33とを備える。
【0020】
温度監視部31は、PLL回路11の周囲の温度を検出する温度センサ34からの検出温度Tempの情報に基づいて、検出温度Tempが含まれる温度範囲、および検出温度Tempの時間変動量を判定する。PLL捕捉監視部32は、基準クロックCLKrefと分周クロックCLKdivとに基づいて、PLL回路11の動作開始時のPLL捕捉時間(すなわち、基準クロックCLKrefと分周クロックCLKdivとが同期するまでの時間)を判定する。パラメータ調整部33は、温度監視部31およびPLL捕捉監視部32の判定結果に基づいて、ループフィルタ22および電圧制御発振器23の制御パラメータP_LF,P_VCOを設定する。設定された制御パラメータP_LF,P_VCOは、PLL回路11に出力されるとともにメモリ35に保存される。
【0021】
上記の制御回路30は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含むコンピュータに基づいて構成されてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)を利用して構成されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用の回路によって構成されてもよい。もしくは、制御回路30は、CPU、FPGA、およびASICのうちの少なくとも2つを組み合わせることによって構成されてもよい。メモリ35として、たとえば、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリが用いられる。
【0022】
上記の制御回路30のさらに詳細な構成および動作の詳細は、
図7~
図13を参照して後述する。なお、制御回路30は、PLL回路11の構成要素の1つとしてもよい。
【0023】
[ループフィルタの構成例と動作]
図2は、
図1のループフィルタの構成例を示す図である。
図2を参照して、ループフィルタ22は、可変抵抗器40と、可変容量44,45と、変換回路46とを備える。可変容量44,45として可変容量ダイオード(バラクタとも称する)を用いることができる。可変抵抗器40は、一例として
図2に示すように並列接続された抵抗素子41,42の一方をスイッチ43によって切り離すように構成されてもよい。
【0024】
可変抵抗器40および可変容量44は、電圧制御発振器23に制御電圧を供給するための信号線47とグランドGNDとの間に直列に接続される。可変容量45は、可変抵抗器40および可変容量44の直列接続全体と並列に接続される。
【0025】
変換回路46は、制御回路30から受け取った制御パラメータP_LFに基づいて、可変抵抗器40のスイッチ43の制御信号SW_LF、可変容量44の制御電圧V_LF1、および可変容量45の制御電圧V_LF2を生成する。スイッチ43のオンオフは制御信号SW_LFによって制御され、可変容量44の容量値は制御電圧V_LF1によって制御され、可変容量45の容量値は制御電圧V_LF2によって制御される。変換回路46には、制御パラメータP_LFと制御信号SW_LFおよび制御電圧V_LF1,V_L2との対応関係を示す変換テーブル(パラメータテーブルとも称する)が格納されている。
【0026】
図3は、ループフィルタの制御パラメータと、可変抵抗器の制御信号および可変容量の制御電圧との関係の一例を表形式で示す図である。
図3では、ループフィルタ22の制御パラメータP_LF1~P_LF4にそれぞれ対応する、スイッチ43のオン(ON)オフ(OFF)状態、可変容量44の制御電圧V_LF1[V]、および可変容量45の制御電圧V_LF2[V]が示されている。
図3の例では、これらの制御信号および制御電圧の設定値に応じて、ループフィルタ22のカットオフ周波数がfcから4fc[Hz]まで変化する。
【0027】
より高帯域のノイズを除去するために、
図2の場合よりも可変抵抗器の個数および可変容量の個数を増やしてもよい。また、可変容量44,45に代えてスイッチトキャパシタを用いてもよい。
【0028】
[電圧制御発振器の構成例と動作]
図4は、
図1の電圧制御発振器の構成例を示す図である。
図4を参照して、電圧制御発振器23は、可変容量50,51と、インダクタ52と、変換回路53とを備える。可変容量50、可変容量51およびインダクタ52は、互いに並列に接続される。可変容量50,51として可変容量ダイオードを用いることができる。
【0029】
変換回路53は、制御回路30から受け取った制御パラメータP_VCOに基づいて、可変容量50の容量値を制御するための制御電圧V_VCOを生成する。可変容量51の容量値は、ループフィルタ22から出力された制御電圧によって制御される。可変容量50,51の容量値に基づいて電圧制御発振器23の発振周波数が調整される。変換回路53には、制御パラメータP_VCOと制御電圧V_VCOとの対応関係を示す変換テーブルが格納されている。
【0030】
図5は、電圧制御発振器の制御パラメータと可変容量の制御電圧との関係の一例を表形式で示す図である。
図5では、電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCO1~P_VCO4にそれぞれ対応する可変容量50の制御電圧V_VCO[V]が示されている。
図5の例では、可変容量50の制御電圧V_VCOに応じて、電圧制御発振器23の発振周波数の上限値がfmaxから4fmax[Hz]まで変化する。
【0031】
図6は、ループフィルタから出力された制御電圧と電圧制御発振器の発振周波数との関係を示す図である。
図6に示すように、ループフィルタ22から出力された制御電圧は、下限値V1から上限値V2との間で変化する。具体的には、ループフィルタ22の出力電圧が下限値V1の場合に電圧制御発振器23の発振周波数は下限値となり、ループフィルタ22の出力電圧が上限値V2の場合に電圧制御発振器23の発振周波数は上限値となる。
【0032】
電圧制御発振器23の発振周波数は、制御回路30から出力される制御パラメータP_VCO1~P_VCO4によっても変化する。
図6の例では、制御パラメータがP_VCO1の場合には、ループフィルタ22の出力電圧の上限値V2に対応する発振周波数の上限値は、fmaxとなる。制御パラメータがP_VCO4の場合には、ループフィルタ22の出力電圧の上限値V2に対応する発振周波数の上限値は、4fmaxとなる。
【0033】
図4に示す電圧制御発振器23の構成例では、LC共振回路を用いたタンク型の構成を示した。これに代えて、コルピッツ型など他の構成の発振回路に基づいて電圧制御発振器を構成してもよい。
【0034】
[制御回路の構成例と動作]
次に、制御回路30の構成例と動作について詳細に説明する。
図1で説明したように、制御回路30は、温度センサ34から検出温度Tempを表す信号を受信し、PLL回路11から基準クロックCLKrefおよび分周クロックCLKdivを受信する。制御回路30は、これらの受信信号に基づいてループフィルタ22および電圧制御発振器23を制御するための制御パラメータP_LF,P_VCOを設定してPLL回路11に出力する。以下、制御回路30を構成する、温度監視部31、PLL捕捉監視部32、およびパラメータ調整部33の構成例と動作について説明する。
【0035】
(温度監視部の構成例と動作)
図7は、
図1の温度監視部の構成例を示すブロック図である。
図7を参照して、温度監視部31は、温度範囲判定部56と、遅延回路55と、温度変動判定部57とを含む。
【0036】
温度範囲判定部56は、温度センサ34から受信した検出温度Tempの情報に基づいて、複数の温度範囲のうちのどの温度範囲に検出温度Tempが含まれるかを判定する。温度範囲判定部56は、検出温度Tempが含まれる温度範囲を表す情報D_temp(以下、温度範囲情報D_tempと記載する)を出力する。複数の温度範囲をどのように定めるかは任意に設定可能であり、送信機の構成および使用環境に応じて温度範囲を適宜変更するのが望ましい。
【0037】
温度変動判定部57は、温度センサ34から受信した現時点の検出温度Tempと、遅延回路55を通過した現時点よりも前の検出温度Tempとの差分に基づいて、検出温度Tempの時間変動量を判定する。具体的に、温度変動判定部57は、検出温度Tempの変動量が複数の変動範囲のうちどの変動範囲に含まれるかを表す温度変動情報D_deltatempを決定する。複数の温度変動範囲をどのように定めるかは任意に設定可能であり、送信機の構成および使用環境に応じて温度変動範囲を適宜変更するのが望ましい。
【0038】
図8は、温度センサの検出温度の時間変化に応じた温度範囲情報の出力の一例を示す図である。
図8では、検出温度Tempの温度範囲が30℃から40℃までの場合の温度範囲情報D_tempをDt1とする。検出温度Tempの温度範囲が20℃から30℃までの場合の温度範囲情報D_tempをDt2とする。検出温度Tempの温度範囲が10℃から20℃までの場合の温度範囲情報D_tempをDt3とする。
【0039】
図8の時刻T0,T1において、検出温度Tempは30℃から40℃までの範囲に含まれているので、温度範囲判定部56は、温度範囲情報D_tempとしてDt1を出力する。時刻T2,T3,T4において、検出温度Tempは20℃から30℃までの範囲に含まれているので、温度範囲判定部56は、温度範囲情報D_tempとしてDt2を出力する。時刻T5,T6において、検出温度Tempは10℃から20℃までの範囲に含まれているので、温度範囲判定部56は、温度範囲情報D_tempとしてDt3を出力する。
【0040】
上記のように、温度範囲に応じてパラメータを設定することによって、保持するパラメータ数を削減でき、メモリの記憶容量を削減できる。
【0041】
図9は、温度センサの検出温度の時間変化に応じた温度変動情報の出力の一例を示す図である。
図9では、検出温度Tempの温度変動量が0℃から10℃までの場合の温度変動情報D_deltatempをDdt0とする。検出温度Tempの温度変動量が10℃から20℃までの場合の温度変動情報D_deltatempをDdt1とする。検出温度Tempの温度変動量が20℃から30℃までの場合の温度変動情報D_deltatempをDdt2とする。
【0042】
図9の時刻T0から時刻T1までの温度変動量は10℃未満(温度範囲は40℃~50℃)であるので、時刻T1において温度変動判定部57は、温度変動情報D_deltatempとしてDdt0を出力する。同様に、時刻T2,T3においても温度変動量は10℃未満で安定しているので、温度変動判定部57は、温度変動情報D_deltatempとしてDdt0を出力する。
【0043】
時刻T3から時刻T4までの間で温度が大きく変化し、温度変動量ΔTは20℃以上30℃未満になる。したがって、時刻T4において温度変動判定部57は、温度変動情報D_deltatempとしてDdt2を出力する。次の時刻T5,T6において温度変動量は10℃未満(温度範囲は20℃~30℃)で安定しているので、温度変動判定部57は、温度変動情報D_deltatempとして再びDdt0を出力する。
【0044】
(PLL捕捉監視部の構成例と動作)
PLL捕捉監視部32は、送信回路10の内部の基準クロック生成回路12およびPLL回路11から、基準クロックCLKrefと分周クロックCLKdivとを受信する。PLL捕捉監視部32は、これらのクロック信号に基づいて、PLL回路11の動作開始時に基準クロックCLKrefと分周クロックCLKdivとが同期するまでの時間、すなわち、PLL捕捉時間を検出する。PLL捕捉監視部32は、PLL捕捉時間を表す情報としてPLL捕捉情報D_locktimeを出力する。
【0045】
図10は、PLL捕捉監視部の構成例を示すブロック図である。
図10を参照して、PLL捕捉監視部32は、JKフリップフロップ(JKFF1,JKFF2)61,62と、NAND回路63と、同期判定部64と、カウンタ65とを含む。
【0046】
図10に示すように、JKフリップフロップ61,62のJ端子はハイ(High)レベルに固定される。JKフリップフロップ61,62のK端子は、グランド電位(すなわち、ロウ(Low)レベル)に固定される。JKフリップフロップ61のクロック端子には基準クロックCLKrefが入力され、JKフリップフロップ62のクロック端子には分周クロックCLKdivが入力される。JKフリップフロップ61,62のQ出力は、入力クロック信号の立ち下がりで変化する。JKフリップフロップ61,62のCLR端子の入力がロウレベルのとき、Q出力はロウレベルにリセットされる。
【0047】
NAND回路63は、JKフリップフロップ61のQ端子の出力FFOUT1とJKフリップフロップ62のQ端子の出力FFOUT2とのNAND演算を行い、NAND演算結果をJKフリップフロップ61,62のCLR端子に入力する。
【0048】
同期判定部64は、基準クロックCLKrefの位相が分周クロックCLKdivの位相よりも進んでいる場合に、JKフリップフロップ61のQ端子の出力がハイレベルとなっている期間を計測する。一方、同期判定部64は、分周クロックCLKdivの位相が基準クロックCLKrefの位相よりも進んでいる場合に、JKフリップフロップ62のQ端子の出力がハイレベルとなっている期間を計測する。同期判定部64は、いずれの場合においても、Q端子の出力がハイレベルとなっている期間が閾値以下となったときに、出力PLL_LOCKをロウレベルからハイレベルに変化させる。
【0049】
PLL捕捉監視部32は、PLL回路11の捕捉動作の開始から同期判定部64の出力PLL_LOCKがハイレベルになるまでをカウントする。カウンタ65のカウント結果は、PLL捕捉時間を表すPLL捕捉情報D_locktimeとしてパラメータ調整部33に出力される。
【0050】
図11は、PLL捕捉監視部の動作の一例を示すタイミング図である。以下、
図11を参照して、PLL捕捉監視部32の動作についてさらに説明する。
【0051】
図11の時刻T10において、PLL回路11の捕捉動作が開始され、カウンタ65のカウントが開示される。
図11では、基準クロックCLKrefの位相が分周クロックCLKdivの位相よりも進んでいる場合が示されている。
【0052】
時刻T11において、基準クロックCLKrefが立ち下がるので、JKフリップフロップ61のQ端子出力FFOUT1がロウレベルからハイレベルに切り替わる。
【0053】
時刻T12において、分周クロックCLKdivが立ち下がるので、JKフリップフロップ62のQ端子出力FFOUT2がロウレベルからハイレベルに切り替わる。しかし、これによりNAND回路63の出力がロウレベルになるので、JKフリップフロップ61,62のQ端子出力FFOUT1,FFOUT2は、いずれもロウレベルに戻る。
【0054】
同期判定部64は、JKフリップフロップ61のQ端子出力がハイレベルとなっている期間Td1を検出する。この期間Td1は、基準クロックCLKrefと分周クロックCLKdivとの位相差に対応している。同期判定部64は、検出した期間Td1が閾値を超えているので、出力PLL_LOCKをロウレベルのままで変化させない。
【0055】
次の時刻T13において、基準クロックCLKrefが立ち下がるので、JKフリップフロップ61のQ端子出力FFOUT1がロウレベルからハイレベルに切り替わる。
【0056】
その次のT14において、分周クロックCLKdivが立ち下がるので、JKフリップフロップ62のQ端子出力FFOUT2がロウレベルからハイレベルに切り替わる。しかし、これによりNAND回路63の出力がロウレベルになるので、JKフリップフロップ61,62のQ端子出力FFOUT1,FFOUT2は、いずれもロウレベルに戻る。
【0057】
同期判定部64は、JKフリップフロップ61のQ端子出力がハイレベルとなっている期間Td2を検出する。同期判定部64は、検出した期間Td2が閾値以下であるので、出力PLL_LOCKをロウレベルからハイレベルに変化させる。これにより、カウンタ65はカウントアップを停止させる。
【0058】
(パラメータ調整部の構成例と動作)
パラメータ調整部33は、温度監視部31から温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempを受信し、PLL捕捉監視部32からPLL捕捉情報D_locktimeを受信する。パラメータ調整部33は、これらの情報に基づいて、ループフィルタ22および電圧制御発振器23の制御パラメータP_LF,P_VCOを設定し、PLL回路11に出力する。
【0059】
図12は、パラメータ調整部の構成例を示すブロック図である。
図12を参照して、パラメータ調整部33は、パラメータ更新判定部70,72と、セレクタ71,73とを含む。
【0060】
パラメータ更新判定部70は、温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに基づいて、電圧制御発振器23を制御する制御パラメータP_VCOの変更が必要か否かを判定する。たとえば、パラメータ更新判定部70は、温度変動量が閾値を超えるほど大きい場合、もしくは、温度変動量が大きくなくても、温度センサ34の検出温度Tempの温度範囲が閾値温度以上の場合に、制御パラメータP_VCOの変更が必要と判定する。この場合、パラメータ更新判定部70は、セレクタ71によって、制御パラメータの複数の設定値P_VCO1~P_VCONのうち温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに応じた設定値を選択する。セレクタ71は、選択された設定値P_VCO*をPLL回路11に出力する。
【0061】
同様に、パラメータ更新判定部72は、PLL捕捉情報D_locktimeに基づいて、ループフィルタ22を制御する制御パラメータP_LFに変更が必要か否かを判定する。パラメータ更新判定部72は、制御パラメータP_LFの更新が必要と判定した場合に、セレクタ73によって、制御パラメータの複数の設定値P_LF1~P_LFNのうちPLL捕捉情報D_locktimeに応じた設定値を選択する。セレクタ73は、選択された設定値P_LF*をPLL回路11に出力する。
【0062】
[制御回路の処理フロー]
図13は、PLL回路の制御方法を示すフローチャートである。以下、
図13を参照して、これまで説明した制御回路30における処理フローを総括する。
【0063】
図13の処理フローは、PLL回路11の起動開始によって開始される。ステップS100において、制御回路30は、PLL回路11の捕捉動作が初回であるか否かを判定する。
【0064】
PLL捕捉動作が初回でない場合(ステップS100でNO)とは、送信機1または送信回路10の一時的なシャットダウンによるPLLの同期外れなどの場合である。この場合、前回のPLL捕捉動作時のパラメータを再使用することにより、PLL回路11の動作安定までの時間を短縮できる。すなわち、ステップS110において、制御回路30のパラメータ調整部33は、メモリ35から前回捕捉時のループフィルタ22および電圧制御発振器23の制御パラメータP_LF,P_VCOを読み出す。次のステップS120において、パラメータ調整部33は、ループフィルタ22の制御パラメータP_LFを設定する。さらに、その次のステップS160において、パラメータ調整部33は、電圧制御発振器23の初回(#1)の制御パラメータP_VCOを設定する。
【0065】
一方、PLL捕捉動作が初回の場合(ステップS100でYES)、ステップS130においてパラメータ調整部33は、PLL捕捉監視部32からPLL捕捉情報D_locktimeを取得する。次のステップS140においてパラメータ調整部33は、取得したPLL捕捉情報D_locktimeに基づいて、ループフィルタ22の制御パラメータP_LFを設定し、設定値をメモリ35に記憶させる。さらに、その次のステップS150においてパラメータ調整部33は、温度監視部31から温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempを読み出す。その次のステップS160において、パラメータ調整部33は、取得した温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに基づいて、初回(#1)の電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCOを設定し、設定値をメモリ35に記憶させる。
【0066】
以下のステップS170~S200は繰り返し実行される。この繰り返しループでは温度変動の判定が優先される。すなわち、ステップS170において、パラメータ調整部33は、温度監視部31から温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempを読み出す。次のステップS180においてパラメータ調整部33は、温度変動量が閾値を超えるほど大きいか否かを判定する。パラメータ調整部33は、温度変動量が大きい場合には(ステップS180でYES)、ステップS200に処理を進める。ステップS200において、パラメータ調整部33は、温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに基づいて2回目以降(#2,#3,…)の電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCOを設定し、設定値をメモリ35に記憶させる。
【0067】
一方、温度変動量が閾値を超えるほど大きくなくても(ステップS180でNO)、温度センサ34の検出温度Tempの温度範囲が閾値を超えている場合には(ステップS190でYES)、パラメータ調整部33は上記のステップS200に処理を進める。以後、ステップS170以降の処理が繰り返される。
【0068】
このように、温度変動の判定が優先される理由は、急激な温度変動が生じた場合には緩やかな温度変動の場合に比べてPLL回路11の出力クロックCLKoutの周波数の変動が大きくなり、結果としてPLL回路11のロック外れが発生する可能性が高いためである。
【0069】
[実施の形態1の効果]
実施の形態1のPLL回路11は、ループフィルタ22の周波数特性および電圧制御発振器23の発振周波数が変更可能に構成される。そして、PLL回路11の周囲の検出温度Tempに応じて電圧制御発振器23の発振周波数が調整される。これにより、周囲温度が変化した場合でも、PLL回路11の発振周波数の安定化を図ることができる。また、PLL捕捉時間に基づいてループフィルタ22の周波数特性が調整される。さらに、送信機において上記構成のPLL回路11を利用することにより、良好な通信状態を実現できる。
【0070】
実施の形態2.
実施の形態2では、分周器24の分周比を制御パラメータP_DIVに基づいて制御する場合について、
図14~
図20を参照して説明する。
【0071】
[送信機の全体構成]
図14は、実施の形態2の送信機1Aの全体構成を示すブロック図である。
図14のパラメータ調整部33Aは、PLL捕捉情報D_locktime、温度範囲情報D_temp、および温度変動情報D_deltatempに基づいて、制御パラメータP_LF,P_VCOを出力するのに加えて、さらに制御パラメータP_DIVを出力する点で
図1のパラメータ調整部33と異なる。
【0072】
さらに、
図14の分周器24Aは、制御パラメータP_DIVに基づいて発振周波数が変更可能な点で
図1の分周器24と異なる。
図14のその他の点は
図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0073】
[パラメータ調整部の構成例と動作]
図15は、
図14のパラメータ調整部33Aの構成例を示すブロック図である。
図15のパラメータ調整部33Aは、セレクタ74をさらに含む点で
図12のパラメータ調整部33と異なる。
【0074】
パラメータ更新判定部70は、温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに基づいて、PLL回路11の出力信号の周波数の変動を抑制するために分周器24の分周比の制御パラメータP_DIVの変更が必要であるか否かを判定する。そして、制御パラメータP_DIVの変更が必要と判定された場合、セレクタ74は、制御パラメータの複数の設定値P_DIV1~P_DIVMのうち、パラメータ更新判定部70によって選択された設定値P_DIV*をPLL回路11に出力する。
図15のその他の点は
図12の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0075】
[分周器の構成例と動作]
図16は、
図14の分周器の構成例を示すブロック図である。
図16を参照して、分周器24Aは、プリスケーラ80と、カウンタ81,82と、変換回路83とを含む。
図16の分周器24Aは、パルススワロー方式の分周器である。カウンタ81,82のカウント値の上限値をそれぞれA,Nとする。
【0076】
最初にプリスケーラ80の分周比がP+1に設定された状態で、カウンタ81,82のカウントが開始される。カウンタ81のカウント値が上限値Aに達すると、プリスケーラ80の分周比はPに切り替えられ、残りのN-Aカウントがカウントされる。したがって、分周比Ntは、
Nt=(P+1)・A+P・(N-A)=N・P+A …(1)
で表される。
【0077】
変換回路83は、変換テーブルに基づいて、制御パラメータP_DIVに対応付けられたカウンタ81,82の上限値A,Nを出力する。制御パラメータP_DIVを利用することにより、分周器24Aの分周比をさらに細かく設定できる。
【0078】
図17は、分周器の制御パラメータと分周比との関係を表形式で示す図である。分周器24Aの制御パラメータP_DIVに応じて分周比Ntが設定され、分周比Ntに応じてPLL回路11の発振周波数の上限値が決まる。
図17の場合には、制御パラメータの設定値P_DIV1に対応する発振周波数の上限値はfmaxであり、制御パラメータの設定値がP_DIV1からP_DIV2,P_DIV3,P_DIV4,…に変化するにつれて発振周波数の上限値が1Hzずつ加算される。
【0079】
図18は、実施の形態2のPLL回路において、ループフィルタから出力された制御電圧と電圧制御発振器の発振周波数との関係を示す図である。
図18のグラフは、
図6のグラフに対応している。
【0080】
図6で説明したように、ループフィルタ22から出力された制御電圧は、下限値V1から上限値V2との間で変化する。ループフィルタ22の出力電圧が上限値V2の場合に電圧制御発振器23の発振周波数は上限値となる。電圧制御発振器23の制御パラメータの設定値をP_VCO1からP_VCO2に変更することによって、電圧制御発振器23の発振周波数の上限値をfmaxから2・fmaxに変えることができる。さらに、分周器24Aの制御パラメータP_DIVを併用することによって、電圧制御発振器23の発振周波数をより細かく微調整できる。すなわち、
図18に示すように、発振周波数の上限値はfmaxと2fmaxの間で細かく設定できる。
【0081】
上記では、分周器24Aの分周比が整数の場合について説明したが、分周比をさらに細かく設定するために分数分周方式の分周器を用いてもよい。
【0082】
[基準クロック生成回路の変形例]
分周器24Aの分周比がプログラム可能な場合には、基準クロック生成回路12の生成周波数を変更可能にしてもよい。
【0083】
図19は、基準クロック生成回路の変形例を示す図である。
図19では、発振周波数の異なる2つの基準クロック生成回路(1,2)14_1,14_2が設けられる。基準クロック生成回路14_1によって生成された基準クロックCLKref1および基準クロック生成回路14_2によって生成された基準クロックCLKref2のうち、スイッチ(SW)15によって選択された基準クロックがPLL回路11に出力される。
【0084】
たとえば、基準クロック生成回路14_1のクロック周波数を10MHzとし、基準クロック生成回路14_2のクロック周波数を15MHzとする。クロック周波数は、送信機1の周辺機器の動作クロック周波数に一致しないように設定されるのが望ましい。仮に、送信機1の周辺機器の動作クロック周波数が10MHzの場合に、基準クロック生成回路のクロック周波数も10MHzにすると、PLL回路11が電磁波ノイズの影響を受けやすくなるからである。したがって、基準クロック生成回路のクロック周波数は15Hzに切り替えられる。この場合、分周器24Aの制御パラメータP_DIVを変更することにより、ループフィルタ22および電圧制御発振器23の制御パラメータP_LF,P_VCOを変更しなくても所望の出力クロックCLKoutを得ることができる。
【0085】
[制御回路の処理フロー]
図20は、実施の形態2のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
図20のフローチャートは、ステップS110,S160がそれぞれステップS110A,S160Aに変更されるとともに、ステップS210が追加される点で、
図13のフローチャートと異なる。
【0086】
具体的に、ステップS110Aにおいて、パラメータ調整部33は、メモリ35から前回捕捉時のループフィルタ22および電圧制御発振器23の制御パラメータP_LF,P_VCOに加えて、分周器24Aの制御パラメータP_DIVを読み出す。
【0087】
ステップS160Aにおいて、パラメータ調整部33は、取得した温度範囲情報D_tempおよび温度変動情報D_deltatempに基づいて、初回(#1)の電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCOとともに分周器24Aの制御パラメータP_DIVを設定し、設定値をメモリ35に記憶させる。
【0088】
さらに、温度変動量が閾値を超えるほど大きくなくても(ステップS180でNO)、温度センサ34の検出温度Tempの温度範囲が閾値を超えている場合には(ステップS190でYES)、パラメータ調整部33はステップS210に処理を進める。ステップS210において、パラメータ調整部33は、温度範囲情報D_tempに基づいて2回目以降(#2,#3,…)の分周器24Aの制御パラメータP_DIVを設定する。これによって、電圧制御発振器23の発振周波数をより細かく調整できる。
【0089】
図20のその他のステップは
図13の場合と同様であるので、同一または相当するステップには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0090】
[実施の形態2の効果]
実施の形態2のPLL回路11は、分周器24Aの分周比が変更可能となるように構成される。これにより、PLL回路11の周囲の温度変化に応じて、電圧制御発振器23の発振周波数をより細かく調整できる。さらに、分周器24Aの分周比をプログラム可能にすることにより、発振周波数の異なる複数の基準クロック生成回路に対して、それぞれ所望の周波数の出力クロックCLKoutを生成できる。
【0091】
実施の形態3.
実施の形態3では、電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCOの設定値と制御電圧の設定値V_VCOとの対応関係を表す変換テーブルを変更する場合について、
図21~
図23を参照して説明する。
【0092】
[送信機の全体構成とパラメータ更新部の動作]
図21は、実施の形態3の送信機1Bの全体構成を示すブロック図である。
図21の制御回路30は、パラメータ更新部36がさらに設けられている点で
図14の制御回路30と異なる。
【0093】
パラメータ更新部36は、制御パラメータP_VCO,P_DIVの複数の設定値のうち使用頻度が低くほとんど使われていない設定値がある場合には、制御パラメータP_VCOの複数の設定値と制御電圧V_VCOの値との対応関係を表す変換テーブルまたは制御パラメータP_DIVの設定値とカウンタ上限値A,Nとの対応関係を表す変換テーブルを変更する。変更後の変換テーブルは、PLL回路11の電圧制御発振器23の変換回路53または分周器24Aの変換回路83に格納される。これによって、制御電圧V_VCOの変更ステップまたはカウンタ81,82の上限値の変更ステップをより細かく設定できるので、電圧制御発振器23の発振周波数の制御性を高めることができる。
【0094】
図21のその他の点は
図14の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0095】
[制御回路の処理フロー]
図22は、実施の形態3のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
図22のフローチャートは、ステップS220~S240をさらに含む点で
図20のフローチャートと異なる。
【0096】
図22を参照して、電圧制御発振器23の制御パラメータP_VCOの設定変更後(ステップS200)または分周器24Aの制御パラメータP_DIVの設定変更後(ステップS210)に、パラメータ更新部36は、制御パラメータの設定値の更新回数をカウントする(ステップS220)。上記のカウント値が閾値(K)以下の場合(ステップS230でYES)、パラメータ更新部36は制御パラメータの変換テーブルを更新する(ステップS240)。更新後の変換テーブルは、PLL回路11の電圧制御発振器23の変換回路53または分周器24Aの変換回路83に送信される。
【0097】
図23は、更新前および更新後の電圧制御発振器の制御パラメータの変換テーブルの一例を示す図である。
図23(A)に示す更新前の変換テーブルでは、制御パラメータの設定値P_VCO1~P_VCO4にそれぞれ対応して、制御電圧V_VCOの値が1.0[V]から1.9[V]までの間で設定される。
【0098】
一方、
図23(B)に示す更新後の変換テーブルでは、制御パラメータの設定値P_VCO1~P_VCO4にそれぞれ対応して、制御電圧V_VCOの値が1.0[V]から1.6[V]までの間で設定される。これにより、発振周波数のステップ幅をより細かく設定できるので、電圧制御発振器23の発振周波数の制御性を高めることができる。
【0099】
[実施の形態3の効果]
上記の実施形態によれば、ループフィルタ22、電圧制御発振器23、および分周器24Aを制御するための制御パラメータP_LF,P_VCO,P_DIVの複数の設定値の使用頻度に応じて、制御パラメータの複数の設定値と制御電圧などとの対応関係が変更される。これによって、電圧制御発振器23の発振周波数の変動範囲をより細かいステップ幅で制御できるので、PLL回路11の制御性を向上させることができる。
【0100】
実施の形態4.
実施の形態4では、送信機1Cの送信回路10の内部にエラーベクトル振幅(EVM:Error Vector Magnitude)検出回路17がさらに設けられている。以下、
図24および
図25を参照して具体的に説明する。
【0101】
[送信機の全体構成]
図24は、実施の形態4の送信機1Cの全体構成を示すブロック図である。
図24の送信回路10は、EVM検出回路17をさらに備える点で
図14の送信回路10と異なる。
【0102】
EVM検出回路17は、変調信号MSのエラーベクトル振幅を検出し、検出したエラーベクトル振幅の情報D_emvを制御回路30に出力する。制御回路30は、検出されたエラーベクトル振幅が閾値(M)を超えている場合には、ループフィルタ22の制御パラメータP_LFを変更する。これにより、高周波帯域のノイズを除去して、PLL回路11の位相雑音特性を向上させる。
【0103】
図24のその他の点は
図14の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0104】
[制御回路の処理フロー]
図25は、実施の形態4のPLL回路の制御方法を示すフローチャートである。
図25のフローチャートは、ステップS250,S260がさらに追加されている点で
図20のフローチャートと異なる。
【0105】
温度変動量が閾値を超えるほど大きくなく(ステップS180でNO)、温度センサ34の検出温度Tempの温度範囲が閾値を超えていない場合には(ステップS190でNO)、パラメータ調整部33Aは処理をステップS250に進める。
【0106】
ステップS250において、パラメータ調整部33Aは、EVM検出回路17から受信した変調信号MSのエラーベクトル振幅が閾値(M)を超えているか否かを判定する。パラメータ調整部33Aは、エラーベクトル振幅が閾値(M)を超えている場合に(ステップS250でYES)、ループフィルタ22の制御パラメータP_LFをエラーベクトル振幅に応じた値に設定し、設定値をメモリ35に保存する。
【0107】
図25のその他の点は
図20の場合と同様であるので、同一または相当するステップには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0108】
[実施の形態4の効果]
実施の形態4では、変調回路13の変調方式として、位相シフト変調(PSK)またはQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)などが想定されている。このような変調方式の場合、エラーベクトル振幅の情報に基づいて、送信回路10から出力される変調信号MSの位相雑音特性を知ることができる。そして、エラーベクトル振幅が閾値(M)を超えている場合に、ループフィルタ22の制御パラメータP_LFを調整することにより、高周波帯域のノイズをさらに除去できる。この結果、PLL回路11の位相雑音特性の向上させることができる。
【0109】
実施の形態2のPLL回路11においてループフィルタ22の制御パラメータP_LFの調整は、PLL捕捉時の時間軸上の応答特性の向上を図るためであった。これに対して、実施の形態4の場合には、PLL回路11の時間応答特性および位相雑音特性の両方を向上させることができる。
【0110】
[実施の形態4の変形例]
図24の送信機1Cでは、変調回路13の出力コンステレーションからエラーベクトル振幅を検出した。これと異なり、送信機1Cと対向する受信機内で、復調前の変調信号MSからエラーベクトル振幅を検出してもよい。受信機側でのエラーベクトル振幅に基づいてループフィルタ22の制御パラメータP_LFを調整することにより、受信機の周囲の通信環境を加味して制御パラメータP_LFを調整できる利点がある。なお、受信機側での通信品質を知る尺度として、エラーベクトル振幅(EVM)に代えて、符号誤り率(BER:Bit Error Rate)を用いてもよい。
【0111】
また、
図24の送信機1Cでは、ベースバンド信号BSが送信機1Cに入力される構成となっている。これに代えて、送信機1C内部のベースバンド回路でベースバンド信号が生成される構成としてもよい。これにより、通信開始前にキャリブレーション等を実施するとき、送信機1Cにベースバンド信号BSを入力する手順を省略して、キャリブレーション手順を簡略化できる。
【0112】
実施の形態5.
上述した実施の形態1~4のPLL回路11および制御回路30などの特徴は、受信機2にも適用でき、これまで説明した送信機1,1A~1Cの場合とほぼ同様の効果を奏する。
【0113】
図26は、実施の形態5の受信機2の全体構成を示すブロック図である。受信機2は、変調信号MSを受信し、受信した変調信号MSを復調することによりベースバンド信号BSを生成し、生成したベースバンド信号BSを出力する。
図26に示すように、受信機2は、受信回路90と、制御回路30と、温度センサ34と、メモリ35とを備える。受信回路90は、復調回路91と、PLL回路11と、基準クロック生成回路12と、EVM検出回路17とを備える。
【0114】
復調回路91は、変調信号MSとPLL回路11の出力クロックCLKoutとを受信し、出力クロックCLKoutに基づいて変調信号MSを復調することにより、ベースバンド信号BSを生成する。
図26のその他の点は
図24の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。たとえば、2つ以上の実施の形態を組み合わせて実施してもよい。また、各実施の形態を部分的に実施してもよく、2つ以上の実施の形態を部分的に組み合わせて実施してもよい。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
1,1A,1B,1C 送信機、2 受信機、10 送信回路、11 PLL回路、12,14 基準クロック生成回路、13 変調回路、17 EVM検出回路、20 位相比較器、21 チャージポンプ、22 ループフィルタ、23 電圧制御発振器、24,24A 分周器、30 制御回路、31 温度監視部、32 PLL捕捉監視部、33,33A パラメータ調整部、34 温度センサ、35 メモリ、36 パラメータ更新部、40 可変抵抗器、41,42 抵抗素子、43 スイッチ、44,45,50,51 可変容量、46,53,83 変換回路、47 信号線、52 インダクタ、55 遅延回路、56 温度範囲判定部、57 温度変動判定部、61,62 JKフリップフロップ、63 NAND回路、64 同期判定部、65,81,82 カウンタ、70,72 パラメータ更新判定部、71,73,74 セレクタ、80 プリスケーラ、90 受信回路、91 復調回路、BS ベースバンド信号、CLKdiv 分周クロック、CLKout 出力クロック、CLKref,CLKref1,CLKref2 基準クロック、D 捕捉情報、D_temp 温度範囲情報、D_deltatemp 温度変動情報、GND グランド、MS 変調信号、Temp 検出温度。