(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20250110BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20250110BHJP
G01N 33/72 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
G01N21/78 A
G01N33/483 C
G01N33/72 A
(21)【出願番号】P 2022501726
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002491
(87)【国際公開番号】W WO2021166561
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020027563
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】230128026
【氏名又は名称】駒木 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】相川 亮桂
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-064596(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173609(WO,A1)
【文献】特開平10-318928(JP,A)
【文献】特開2011-196790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0060692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G01N 33/48-33/98
A61B 5/15-5/157
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の被測定成分と反応する試薬が配置されている成分測定チップと、
前記成分測定チップを挿入するためのチップ挿入空間を有する成分測定装置と、
を備え、
前記成分測定装置は、
前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された状態で、前記成分測定チップに照射光を射出する発光部と、
前記成分測定チップを透過又は反射した光を受光する受光部と、
前記受光部における受光強度の実測値を用いて、前記試料中の被測定成分を測定する制御部と、
を備
え、
前記成分測定チップは、
前記試薬が保持される、透明性の部材で形成されたベース部材と、
該ベース部材を覆う、測定スポットとなる場所以外の箇所が遮光性を有する遮光部材で形成されたカバー部材と、
を備え、
前記測定スポットとなる場所のカバー部材は、透明部材で形成、あるいは、前記遮光部材を切り欠いて形成されており、
前記制御部は、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入され
前記発光部と前記受光部との間の光路に前記測定スポットが位置した後の特定の時点における前記受光部における基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための実測値の取得を開始する、成分測定装置
セット。
【請求項2】
前記制御部は、前記基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度の移動平均値との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための実測値の取得を開始する、請求項1に記載の成分測定装置
セット。
【請求項3】
前記発光部は、少なくとも、
被測定成分を定量するために、前記試料と前記試薬との混合物に第1所定波長の照射光を射出する第1光源と、
前記第1光源の照射光によって測定される前記混合物の吸光度の実測値に含まれる、前記被測定成分と前記試薬との反応により生成される呈色成分以外のノイズ量の推定に用いられ、前記試料中に含まれる成分の光散乱による影響が支配的な、第2所定波長の照射光を射出する第2光源と、
前記ノイズ量の推定に用いられ、前記試料中に含まれる所定の成分の光吸収による吸光度の割合が所定値以上である、第4所定波長の照射光を射出する第4光源と、
を備える、請求項1又は2に記載の成分測定装置
セット。
【請求項4】
前記試料に由来する成分は赤血球、及び赤血球中に含まれるヘモグロビンである、請求項3に記載の成分測定装置
セット。
【請求項5】
前記制御部は、前記基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた時点よりも所定時間前の前記受光部で受光される受光強度を、前記被測定成分の測定に用いられる基準値として決定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の成分測定装置
セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生化学分野や医療分野において、検体としての血液等の試料中に含まれる被測定成分を測定する装置が知られている。例えば、特許文献1には、血糖計に装着した測定チップに血液を付着させて、血液中のグルコース量を測定する血糖計が開示されている。
【0003】
また、従来、医療診断アッセイにおいて、アッセイ時間を短縮させる方法が知られている。例えば、特許文献2には、反応の測定値から観察可能なものの終点を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-064596号公報
【文献】特開2004-144750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された血糖計等の成分測定装置は、被測定成分を含む試料が測定試薬と呈色反応を開始したときに、測定を開始することが望ましい。また、被測定成分を含む試料が測定試薬と呈色反応を開始したときに、成分測定装置が自動的に被測定成分の測定を開始すれば、有用性が高まる。
【0006】
本開示は、有用性を向上可能な成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様としての成分測定装置は、試料中の被測定成分と反応する試薬が配置されている成分測定チップを挿入するためのチップ挿入空間を有し、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された状態で、前記成分測定チップに照射光を射出する発光部と、前記成分測定チップを透過又は反射した光を受光する受光部と、前記受光部における受光強度の実測値を用いて、前記試料中の被測定成分を測定する制御部と、を備える、成分測定装置であって、前記制御部は、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された後の特定の時点における前記受光部における基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための実測値の取得を開始する。
【0008】
本開示の1つの実施形態として、前記制御部は、前記基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度の移動平均値との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための実測値の取得を開始する。
【0009】
本開示の1つの実施形態として、前記発光部は、少なくとも、被測定成分を定量するために、前記試料と前記試薬との混合物に第1所定波長の照射光を射出する第1光源と、前記第1光源の照射光によって測定される前記混合物の吸光度の実測値に含まれる前記呈色成分以外のノイズ量の推定に用いられ、前記試料中に含まれる成分の光散乱による影響が支配的な、第2所定波長の照射光を射出する第2光源と、前記ノイズ量の推定に用いられ、前記試料中に含まれる所定の成分の光吸収による吸光度の割合が所定値以上である、第4所定波長の照射光を射出する第4光源と、を備える。
【0010】
本開示の1つの実施形態として、前記試料に由来する成分は赤血球、及び赤血球中に含まれるヘモグロビンである。
【0011】
本開示の1つの実施形態として、前記制御部は、前記基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた時点よりも所定時間前の前記受光部で受光される受光強度を、前記被測定成分の測定に用いられる基準値として決定する。
【0012】
本開示の第2の態様としての成分測定装置セットは、試料中の被測定成分と反応する試薬が配置されている成分測定チップと、前記成分測定チップを挿入するためのチップ挿入空間を有する成分測定装置と、を備え、前記成分測定装置は、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された状態で、前記測定チップに照射光を射出する発光部と、前記成分測定チップを透過又は反射した光を受光する受光部と、前記受光部における受光強度の実測値を用いて、前記試料中の被測定成分を測定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された後の特定の時点における前記受光部における基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための前記照射光の吸光度の実測値の取得を開始する。
【0013】
本開示の第3の態様としての情報処理方法は、試料中の被測定成分と反応する試薬が配置されている成分測定チップを挿入するためのチップ挿入空間を有し、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された状態で、前記成分測定チップに照射光を射出する発光部と、前記成分測定チップを透過又は反射した光を受光する受光部と、前記受光部における受光強度の実測値を用いて、前記試料中の被測定成分を測定する制御部と、を備える、成分測定装置により実行される情報処理方法であって、前記成分測定チップが前記チップ挿入空間に挿入された後の特定の時点における前記受光部における基準受光強度と、前記受光部で受光される受光強度との差が所定値を超えた場合に、前記被測定成分を測定するための実測値の取得を開始するステップ、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、有用性を向上可能な成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態としての成分測定装置に成分測定チップが装着された成分測定装置セットの上面図である。
【
図3】
図1のII-IIに沿う断面を示す図である。
【
図4】
図1に示す成分測定チップを示す上面図である。
【
図6】
図1に示す成分測定装置の機能ブロック図である。
【
図7】
図1に示す成分測定装置における複数の光源の位置関係を示す図である。
【
図8】
図7に示す複数の光源の混合物への照射光の照射位置を示す図である。
【
図9】
図1の成分測定装置が実行する成分測定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図1の成分測定装置が成分測定処理にあたって実行する光量測定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図7の第1光源~第5光源から射出される1セット分の照射光の、受光部による受光強度を模式的に示す図である。
【
図12】第1光源~第5光源から射出された照射光の、受光部による受光強度を模式的に示す図である。
【
図13】第1光源~第5光源から射出された照射光の、受光部による受光強度を模式的に示す図である。
【
図14】第1光源~第5光源から射出された照射光の、受光部による受光強度を模式的に示す図である。
【
図15】第1光源~第5光源から射出された照射光の、受光部による受光強度を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示に係る成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理方法の実施形態について、
図1~
図15を参照して説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0017】
まず、本開示に係る成分測定装置の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における成分測定装置1に成分測定チップ2が装着された成分測定装置セット100を示す上面図である。
図2は、
図1のI-Iに沿う断面を示す断面図であり、
図3は、
図1のII-IIに沿う断面を示す断面図である。
図2及び
図3は、成分測定チップ2が装着されている箇所近傍を拡大して示している。
【0018】
図1~
図3に示すように、成分測定装置セット100は、成分測定装置1と、成分測定チップ2と、を備えている。本実施形態の成分測定装置1は、試料中の被測定成分としての血漿成分中のグルコースの濃度を測定可能な血糖値測定装置である。また、本実施形態の成分測定チップ2は、成分測定装置1としての血糖値測定装置の一端部に装着可能な血糖値測定チップである。ここで言う「試料」は、全血(血液)であってもよく、分離された血漿であってもよい。また、試料はグルコースを含む水溶液であってもよい。
【0019】
成分測定装置1は、樹脂材料からなるハウジング10と、このハウジング10の上面に設けられたボタン群と、ハウジング10の上面に設けられた液晶又はLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等で構成される表示部11と、成分測定装置1に装着された状態の成分測定チップ2を取り外す際に操作される取り外しレバー12と、を備えている。本実施形態のボタン群は、電源ボタン13と、操作ボタン14とにより構成されている。
【0020】
図1に示すように、ハウジング10は、上述したボタン群及び表示部11が上面に設けられている、上面視の外形が略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設され、上面に取り外しレバー12が設けられたチップ装着部10bと、を備えている。
図2に示すように、チップ装着部10bの内部には、チップ装着部10bの先端面に形成された先端開口を一端とするチップ装着空間Sが区画されている。成分測定装置1に対して成分測定チップ2を装着する際は、外方から先端開口を通じてチップ装着空間S内に成分測定チップ2を挿入し、成分測定チップ2を所定位置まで押し込む。これにより、成分測定装置1のチップ装着部10bが成分測定チップ2を係止した状態となり、成分測定チップ2を成分測定装置1に装着することができる。成分測定装置1による成分測定チップ2の係止は、例えば、チップ装着部10b内に成分測定チップ2の一部と係合可能な爪部を設ける等、各種構成により実現可能である。
【0021】
成分測定装置1に装着されている成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外す際は、ハウジング10の外部から上述した取り外しレバー12を操作することにより、成分測定装置1のチップ装着部10bによる成分測定チップ2の係止状態が解除される。同時に、ハウジング10内のイジェクトピン26(
図2参照)が連動して変位し、成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外すことができる。
【0022】
本実施形態のハウジング10は、上面視(
図1参照)で略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設されているチップ装着部10bと、を備える構成であるが、ハウジングは、成分測定チップ2を装着可能なチップ装着部を備える構成であればよく、本実施形態のハウジング10の形状に限られない。したがって、本実施形態のハウジング10の形状の他に、例えば操作者にとって片手で把持し易くするための形状を種々採用することも可能である。
【0023】
表示部11は、成分測定装置1により測定された被測定成分の情報を表示可能である。本実施形態では、成分測定装置1としての血糖値測定装置により測定されたグルコース濃度を表示部11に表示することができる。表示部11には、被測定成分の情報のみならず、成分測定装置1の測定条件や操作者に所定の操作を指示する指示情報等、各種情報を表示できるようにしてもよい。操作者は、表示部11に表示された内容を確認しながら、ボタン群の電源ボタン13や操作ボタン14を操作することができる。
【0024】
また、
図2及び
図3に示すように、成分測定装置1は、発光部66及び受光部72を備える。
図2及び
図3に示すように、成分測定装置1のチップ装着空間Sに成分測定チップ2が装着されている状態において、発光部66が発する照射光は、成分測定チップ2に照射される。受光部72は、発光部66から成分測定チップ2に照射される照射光のうち成分測定チップ2を透過した透過光を受光する。本実施形態では、発光部66及び受光部72は、チップ装着空間Sを挟んで対向して配置されている。なお、発光部66と受光部72との配置はこれに限られない。受光部72は、成分測定チップ2内の被測定物を透過する光を検出可能な位置にあればよい。例えば、発光部66及び受光部72を、成分測定チップ2に対して同じ側に配置するとともに、チップ装着空間Sおよび被測定物(試料)を挟んで、発光部および受光部に対向する側に反射部材を設けてもよい。
【0025】
発光部66は5つの光源を備えている。具体的には、発光部66は、第1光源67、第2光源68a、第3光源68b、第4光源68c及び第5光源68dを備えている。ここで、
図2に示すように、第1光源67、第4光源68c及び第5光源68dは、後述する成分測定チップ2の流路23において試料が流れる流れ方向A(
図2では右へ向かう方向)において、異なる位置に配置されている。また、
図3に示すように、第1光源67、第2光源68a及び第3光源68bは、流れ方向Aと直交する流路幅方向B(
図3では左右両方向)において、異なる位置に配置されている。第1光源67~第5光源68dの配置の詳細については後述する(
図7参照)。
【0026】
次に、成分測定チップ2について説明する。
図4は、成分測定チップ2を示す上面図である。また、
図5は、
図4のIII-IIIに沿う断面図である。
図4及び
図5に示すように、成分測定チップ2は、略矩形板状の外形を有するベース部材21と、このベース部材21に保持されている測定試薬22と、ベース部材21を覆うカバー部材25と、を備えている。カバー部材25は、成分測定装置1に成分測定チップ2が挿入された状態において測定スポットとなる場所以外の箇所が、遮光性を有する部材で形成されていてもよい。なお、測定スポットの詳細については後述する。
【0027】
ベース部材21の厚み方向(本実施形態では
図2及び
図3に示す成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向のため、以降厚み方向Cと記載)の一方側の外面には溝が形成されている。ベース部材21の溝は、カバー部材25に覆われることにより、厚み方向Cと直交する方向に延在する中空部となり、この中空部が成分測定チップ2の流路23を構成している。流路23の一端には、試料を外方から供給可能な供給部24が形成されている。また、流路23の内壁のうちベース部材21の溝の溝底部には、測定試薬22が保持されており、外方から供給部24に供給された試料は、例えば毛細管現象を利用して流路23に沿って流れ方向Aに移動し、測定試薬22が保持されている保持位置まで到達し、測定試薬22と接触する。測定試薬22には試料に溶解し、試料中の被測定成分と反応して発色する発色試薬が含まれている。そのため、測定試薬22と試料中の被測定成分が接触すると、測定試薬22に含まれる発色試薬が発色する呈色反応がおこり、呈色成分を含む混合物X(
図2及び
図3等参照)が生成される。
【0028】
また、カバー部材25と測定試薬22との間には空隙23aが形成されている。一端に設けられた供給部24から流路23を流れ方向Aに移動する試料は、測定試薬22を溶解し、反応しながら流路23の他端まで到達する。そのため、試料を、測定試薬22の流れ方向A全域へ到達させることで、測定スポットとなり得る領域に、呈色成分を含む混合物Xが拡がった状態にすることができる。ここで、混合物Xは、少なくとも、試料と、未反応あるいは反応済の測定試薬22と、呈色成分とを含んでいる。
【0029】
図2では、説明の便宜上、測定試薬22の保持位置に「混合物X」が存在していると示しているが、混合物Xは、測定試薬22の保持位置のみならず、空隙23aなどの、測定試薬22の保持位置近傍にも拡散している。より具体的には、供給部24から流路23に進入する試料は、保持位置で測定試薬22と接触しつつ、空隙23aを通じて流路23の下流端まで到達し、流路23内が試料で満たされた状態となる。測定試薬22は試料に溶解することで、試料との呈色反応が進み、保持位置及びその近傍に混合物Xが位置する状態となる。
【0030】
本実施形態の流路23は、ベース部材21とカバー部材25とにより区画される中空部により構成されているが、流路はこの構成に限られない。ベース部材21の厚み方向Cの一方側の外面に形成された溝のみにより流路が形成されていてもよい。
【0031】
ベース部材21およびカバー部材25の材質としては、照射光が透過した後の透過光量が測定に十分なシグナルとなるために透明性の素材を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、環状ポリオレフィン(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネード(PC)等の透明な有機樹脂材料;ガラス、石英等の透明性な無機材料;が挙げられる。
【0032】
測定試薬22は、試料中の被測定成分と反応して、被測定成分の血中濃度に応じて呈色する呈色反応を引き起こす発色試薬を含む。本実施形態の測定試薬22は、流路23としての溝の溝底部に塗布されている。本実施形態の測定試薬22は、試料中の被測定成分としてのグルコースと反応する。本実施形態の測定試薬22としては、例えば、(i)グルコースオキシダーゼ(GOD)と(ii)ペルオキシダーゼ(POD)と(iii)1-(4-スルホフェニル)-2,3-ジメチル-4-アミノ-5-ピラゾロンと(iv)N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン,ナトリウム塩,1水和物(MAOS)との混合試薬、あるいはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩との混合試薬などが挙げられる。さらに、リン酸緩衝液のような緩衝剤やメディエータが含まれていてもよい。測定試薬22の種類、成分については、これらに限定されない。
【0033】
但し、本実施形態の測定試薬22においては、試料中のグルコースとの呈色反応により生成した呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長が、血球中のヘモグロビンの光吸収特性に起因するピーク波長と異なる発色試薬が選択される。本実施形態の測定試薬22が含む発色試薬は、呈色成分の吸光度スペクトルが660nm付近にピーク波長を有するが、ピーク波長が660nm付近になる発色試薬に限られず、目的に応じて適宜選択される。
【0034】
図2に示すように、成分測定装置1により被測定成分を測定する際には、成分測定チップ2がチップ装着部10b内に装着される。そして、成分測定チップ2の一端に設けられている供給部24に試料を供給すると、試料は、例えば毛細管現象により流路23内を移動し、流路23の測定試薬22が保持されている保持位置まで到達し、この保持位置において試料(血漿)中のグルコースと測定試薬22とが反応する。そして、流路23の上記保持位置において、呈色成分を含む混合物Xが生成される。いわゆる比色式の成分測定装置1は、呈色成分を含む混合物Xに向かって照射光を照射し、その透過光量(又は反射光量)を検出し、血中濃度に応じた発色の強度に相関する検出信号を得る。そして、成分測定装置1は、予め作成された検量線を参照することにより、被測定成分を測定することができる。本実施形態の成分測定装置1は、上述したように、試料中の血漿成分におけるグルコース濃度を測定可能である。
【0035】
図6は、
図1~
図3に示す成分測定装置1の機能ブロック図である。
図6に示すように、成分測定装置1は、制御部50と、測光部51と、記憶部52と、温度測定部53と、電源部54と、電池55と、通信部56と、クロック部57と、操作部58と、ブザー部59と、表示部11と、を備えている。
【0036】
制御部50は、MPU(Micro-Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)で構成されており、記憶部52等に格納されたプログラムを読み出し実行することで、各部の制御動作を実現可能である。記憶部52は、揮発性又は不揮発性である非一過性の記憶媒体で構成され、本実施形態に示す成分測定方法を実行するために必要な各種データ(プログラムを含む)を読出し又は書込み可能である。
【0037】
制御部50は、測光部51を動作させることにより、試料中の被測定成分を測定可能である。被測定成分を測定する処理の詳細については、後述する。
【0038】
測光部51は、試料中のグルコースと、測定試薬22中に含まれる発色試薬との呈色反応により生成された呈色成分を含む混合物Xの光学的特性を取得可能な光学システムである。測光部51は、具体的には、発光部66と、受光部72と、を備えている。
【0039】
発光部66は、チップ挿入空間Sに向かって照射光を射出する。発光部66は複数の光源を備えている。具体的には、本実施形態の発光部66は分光放射特性が異なる照射光(例えば、可視光、赤外光)を射出する5つの光源を備えている。より具体的には、上述したように、本実施形態の発光部66は、第1光源67、第2光源68a、第3光源68b、第4光源68c及び第5光源68dを備えている。第1光源67~第5光源68dの位置関係は、
図2及び
図3に示す位置関係である。第1光源67~第5光源68dの実際の位置関係の詳細については後述する(
図7参照)。
【0040】
第1光源67~第5光源68dから発せられる光のピーク波長はそれぞれλ1~λ5である。第1光源67~第5光源68dとしては、LED素子、EL(Electro-Luminescence:有機エレクトロルミネッセンス)素子、無機EL素子、LD(Laser Diode:レーザーダイオード)素子等の種々の発光素子を適用することができる。第1光源67~第5光源68dとしては、汎用性等を考慮すると上述のLED素子が利用し易い。本実施形態では、第1光源67~第5光源68dがLED素子により構成されている。以下、上述の「ピーク波長」を各光源から発せられる光の波長として説明し、説明の便宜上、第1光源67のピーク波長λ1を「第1所定波長λ1」、第2光源68aのピーク波長λ2を「第2所定波長λ2」、第3光源68bのピーク波長λ3を「第3所定波長λ3」、第4光源68cのピーク波長λ4を「第4所定波長λ4」、及び、第5光源68dのピーク波長λ5を「第5所定波長λ5」と記載する。本実施形態における「ピーク波長」は、便宜上、1つの数値で示すが、それぞれの数値の±20nmの範囲の波長範囲も含み得る。
【0041】
受光部72は、発光部66から射出された照射光の、呈色成分が位置する領域における透過光又は反射光を受光する。
図2及び
図3に示すように、本実施形態の受光部72は、発光部66と成分測定チップ2を挟んで対向して配置された1個の受光素子により構成されている。本実施形態では、受光部72は、発光部66の第1光源67~第5光源68dから成分測定チップ2の測定試薬22の保持位置に生成される混合物Xに照射され、成分測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72としては、PD(Photo diode:フォトダイオード)素子、フォトコンダクタ(光導電体)、PT(Photo Transistor:フォトトランジスタ)を含む種々の光電変換素子を使用することができる。
【0042】
本明細書において、以下、成分測定装置1内において、発光部66から照射光が照射される領域のうち、受光部72が検出可能な照射光が照射されている領域を、測定領域という。成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入された状態においては、測定対象である呈色成分(混合物X)は測定領域内に位置する。
【0043】
第1光源67~第5光源68dのそれぞれは、測光部51が備える発光制御回路から駆動電力信号の供給を受け、駆動電力信号に基づいて点灯及び消灯する。受光部72は、受光した光に応じたアナログ信号を出力する。このアナログ信号は、測光部51が備える受光制御回路により、増幅及びAD変換が施され、デジタル信号(以下、検出信号という)に変換される。
【0044】
再び
図6を参照すると、記憶部52は、半導体メモリ又は磁気メモリ等で構成されることができる。記憶部52は、例えば、各種情報及び成分測定装置1を動作させるためのプログラム等を記憶する。記憶部52は、ワークメモリとしても機能してもよい。
【0045】
温度測定部53は、成分測定チップ2の近傍の温度を測定する。温度測定部53は、例えば、チップ装着空間Sの温度を測定する。温度測定部53は、例えば公知の温度計により構成されていてよい。温度測定部53で測定された温度は、例えば後述する発光部66から射出される照射光の光量の調整において用いることができる。
【0046】
電源部54は、電池55に蓄電された電力を成分測定装置1の各機能部に供給する。
【0047】
通信部56は、外部の装置と有線通信又は無線通信を行うことにより、各種情報の送受信を行う。例えば、通信部56は、成分測定装置1による成分測定の結果を、通信可能に接続された外部の装置に送信する。通信部56は、成分測定装置1による動作を実行させるための信号を、通信可能に接続された外部の装置から受信してもよい。
【0048】
クロック部57は、時間を測定し、また時刻を刻む。クロック部57は、例えばRTC(Real Time Clock:リアルタイムクロック)により構成されていてよい。
【0049】
操作部58は、成分測定装置1の操作者が成分測定装置1に対して入力操作を行うための入力インタフェースである。本実施形態では、操作部58は、電源ボタン13と、操作ボタン14とにより構成されている。ただし、操作部58の構成は、電源ボタン13及び操作ボタン14に限られず、操作者が入力操作を行うことが可能な任意の態様で実現されていてよい。
【0050】
ブザー部59は、ブザー音を出力することにより、情報を報知する。ブザー部59は、予め設定された所定のタイミングでブザー音を出力する。例えば、ブザー部59は、成分測定装置1による成分測定の処理が完了した場合や、成分測定装置1において不具合が発生した場合等に、ブザー音を出力する。
【0051】
次に、成分測定装置1の制御部50による試料中の被測定成分の測定処理と、第1光源67~第5光源68dの配置とについて説明する。
【0052】
制御部50は、測光部51に対して測定動作を指示し、測光部51が取得した検出信号及び各種データを用いて被測定成分の濃度を測定する。
【0053】
記憶部52には、測光部51により測定された第1所定波長λ1~第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第1実測値D1~第5実測値D5の実測値データと、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を含む補正係数データと、第1所定波長λ1で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データにより補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量(例えば、グルコース濃度)との関係を示す検量線や、混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線などの検量線データと、が格納されている。「ヘマトクリット値」とは、試料としての血液中の血球成分の血液(全血)に対する容積比を百分率で示した値である。
【0054】
成分測定装置1は、試料中の被測定成分と試薬との呈色反応により生成された呈色成分を含む混合物Xの光学的特性に基づいて試料中の被測定成分を測定可能である。具体的には、成分測定装置1は、測定波長としての第1所定波長λ1の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度の第1実測値D1に含まれる呈色成分以外のノイズ量を、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5の照射光を利用して推定可能である。より具体的には、成分測定装置1は、上述のノイズ量を、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度の第2実測値D2~第5実測値D5を利用して推定し、呈色成分の吸光度、更には被測定成分を測定可能である。
【0055】
図7は、成分測定装置1の上面(
図1参照)側から見た場合の第1光源67~第5光源68dの位置関係を示す図である。
図7では、説明の便宜上、成分測定チップ2の流路23における受光部72の位置を二点鎖線により示しており、本実施形態では、流路23内の上記保持位置及びその近傍で混合物Xが生成される。
【0056】
図2、
図3及び
図7に示すように、第1光源67~第5光源68dは、試料の流路23に位置する混合物Xに対向して配置されている。より具体的には、本実施形態の第1光源67~第5光源68dは、試料の流路23の測定試薬22の保持位置に、流れ方向A及び流路幅方向Bの両方に直交する方向(本実施形態では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)において、対向して配置されている。
【0057】
図3及び
図7に示すように、第1光源67及び第2光源68aは、試料の流路23における混合物Xの位置での試料の流れ方向Aと直交する流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。本実施形態では、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1と、第2光源68aからの照射光の混合物Xにおける第2照射位置SL2とが、流路幅方向Bにおいて重なるように、第1光源67と第2光源68aとが配置されている。
【0058】
また、
図3及び
図7に示すように、第1光源67、第2光源68a、及び、第3光源68bは、第1光源67を中央として流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。本実施形態では、
図8に示すように、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1の流れ方向Aの領域と、第3光源68bからの照射光の混合物Xにおける第3照射位置SL3の流れ方向Aの領域とが、流路幅方向Bに重なるように、第1光源67と第3光源68bとが配置されている。
【0059】
すなわち、第1光源67~第3光源68bは、それぞれの照射位置が流路幅方向Bに重なるように配置されている。第1光源67~第3光源68bは、流路幅方向Bに沿って並んで配置され、第1照射位置SL1~第3照射位置SL3の流れ方向Aの領域が流路幅方向Bにおいて重なることが好ましい。また、第1光源67~第3光源68bは、第1照射位置SL1~第3照射位置SL3の流路幅方向Bの領域が流れ方向Aにおいても重なることがより好ましい。
【0060】
本実施形態において、第1光源67と第2光源68aとは、流路幅方向Bにおいて隣接して配置されており、第1光源67と第2光源68aとの間に別の光源を配置可能な空隙はない。また、第1光源67と第3光源68bとは、流路幅方向Bにおいて隣接して配置されており、第1光源67と第3光源68bとの間においても別の光源を配置可能な空隙はない。このように、第1光源67、第2光源68a及び第3光源68bは、流路幅方向Bにおいて、別の光源を間に介在させることなく隣接して配置されている。
【0061】
図2及び
図7に示すように、第1光源67及び第4光源68cは、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。また、
図2及び
図7に示すように、本実施形態の第1光源67及び第5光源68dは、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。すなわち、第1光源67、第4光源68c及び第5光源68dは、第1光源67を中央にして流れ方向Aに沿って並んで配置されている。
【0062】
本実施形態では、第1光源67及び第4光源68cは、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1と第4光源68cからの照射光の混合物Xにおける第4照射位置SL4とが、混合物Xへの入射角度の差が所定値以下とした上で領域が重なるように、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。より具体的には、流れ方向Aにおいて第1光源67と第4光源68cとの間には、別の光源を配置できる空隙はなく、第1光源67及び第4光源68cは、流れ方向Aにおいて隣接している。
【0063】
第1光源67及び第5光源68dについても、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1と第5光源68dからの照射光の混合物Xにおける第5照射位置SL5とが、混合物Xへの入射角度の差が所定値以下とした上で領域を重ねることができるように、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。より具体的には、流れ方向Aにおいて第1光源67と第5光源68dとの間には、別の光源を配置できる空隙はなく、第1光源67及び第5光源68dは、流れ方向Aにおいて隣接している。
【0064】
図7に示すように、本実施形態の第1光源67~第5光源68dは、薄板状のホルダ部材80に保持されている。本実施形態のホルダ部材80は、上面視で十文字状の外形を有しており、上面視の中央部(十文字の交差部分)に第1光源67が保持されている。そして、第1光源67が保持されている中央部に対して流路幅方向Bの一方側の位置に第2光源68aが保持され、流路幅方向Bの他方側の位置に第3光源68bが保持されている。また、第1光源67が保持されている中央部に対して流れ方向Aの位置に第5光源68dが保持され、流れ方向Aと反対側の位置に第4光源68cが保持されている。
【0065】
ここで、本実施形態では、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3の照射光を発する第2光源68a及び第3光源68bが、第1光源67に対して流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。また、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5の照射光を発する第4光源68c及び第5光源68dが、第1光源67に対して流れ方向Aに沿って並んで配置されている。詳細は後述するが、上述の第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3は、赤外領域に属する波長であり、上述の第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5は、可視領域に属する波長である。
【0066】
本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、受光部72は、第1光源67~第5光源68dと、装着されている成分測定チップ2の流路23に位置する混合物Xを挟んで厚み方向Cに対向しており、第1光源67~第5光源68dからの照射光が混合物Xを透過した透過光を受光する。
図2及び
図3に示すように、成分測定装置1は、混合物Xと受光部72との間に位置し、混合物Xを透過した透過光のうち受光部72に到達する光量を調整する第1絞り部69aを備えている。第1光源67からの照射光の混合物Xへの入射角度と、第2光源68a~第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xへの入射角度と、の差はノイズ量の推定精度に影響を与える。そのため、第1光源67からの照射光の混合物Xへの入射角度と、第2光源68a~第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xへの入射角度と、の差は小さいほど好ましい。つまり、第1光源67~第5光源68dと第1絞り部69aとの間の対向方向(
図2及び
図3では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)の距離T1を長くするほど、ノイズ量の推定精度を向上させる為に好ましい。その一方で、第1光源67~第5光源68dと受光部72との間の対向方向の距離T2を小さくすることで、光効率の向上と、成分測定装置1の小型化とを実現できる。
【0067】
また、第1光源67の第1照射位置SL1の領域と、第2光源68a~第5光源68dの第2照射位置SL2~第5照射位置SL5それぞれの領域と、のずれ(以下、「測定視野差」と記載)が大きいと、測定箇所が一致していないため、被測定成分の測定結果の精度が低下する可能性がある。そのため、この測定視野差は小さくすることが好ましい。したがって、混合物Xと第1絞り部69aとの間の対向方向(
図2及び
図3では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)の距離T3は短くすることが好ましい。より好ましくは、第1絞り部69aに加えて、さらに、成分測定チップ2の一面を遮光部材で形成するとともに測定光が透過可能な開口を設けることで、絞り(アパーチャ)とする。なお、この場合、測定スポットのみを透明部材で形成して絞りとしてもよいし、遮光部材を切り欠くことで絞りとしてもよい。
【0068】
更に、
図2及び
図3に示すように、成分測定装置1は、第1光源67~第5光源68dと混合物Xとの間に位置し、第1光源67~第5光源68dから混合物Xに到達する光量を調整する第2絞り部69bを備えている。特に、第2絞り部69bは、第1光源67~第5光源68dから発せられた光のうち、第2絞り部69bの内壁に反射した光(以下、「迷光」と記載)が、第1絞り部69aに入光しないように設計することが好ましい。第1光源67~第5光源68dから発せられた光は、1回の壁面反射により5%まで光減衰し、3回以上の多重反射で消滅する、とみなすことができる。したがって、本実施形態では、第2絞り部69bの内壁に反射した迷光が、第1絞り部69bに到達せず、どこかの壁面に反射されれば、多重反射により、第1絞り部69aに入光することはない。本実施形態では、各光源の光軸が第2絞り部69bの内壁で鏡面反射する、として設計しているが、実際は、第2絞り部69bの内壁では乱反射し、迷光にも所定の分布がある。そのため、本実施形態では、仮に迷光の一部が第1絞り部69aに入光した場合であっても、その入射角度が、第1光源67の入射角度と所定値以下の差となるように、上述の距離T4等を設定することが好ましい。
【0069】
本実施形態の成分測定装置1は、試料が流れる流路23を区画し、流路23に試料中の被測定成分と呈色反応する発色試薬を含む測定試薬22が配置されている成分測定チップ2を装着可能である。本実施形態の成分測定装置1は、成分測定チップ2が装着され、流路23において被測定成分との反応により生成された呈色成分を含む混合物の光学的特性に基づいて試料中の被測定成分を測定可能である。成分測定装置1は、使い捨ての成分測定チップ2を着脱可能な構成とすることが好ましい。
【0070】
次に、本実施形態に係る成分測定装置1の制御部50による、試料中の被測定成分の濃度の算出の方法について説明する。
【0071】
本実施形態において、成分測定装置1は、試料中の被測定成分としてのグルコースと測定試薬22中の発色試薬との呈色反応を用いて、グルコースを含む血漿成分を試料から分離することなく、試料(例えば全血)と発色試薬とにより行い、この呈色反応により得られた混合物X全体の各種波長における吸光度に基づき、グルコースと発色試薬との呈色反応により生成した呈色成分の所定の測定波長における吸光度を推定し、被測定成分の濃度を算出することができる。
【0072】
一般的に、測定対象となる呈色成分以外の成分が試料の中に含まれるとき、光学的現象の発生によって呈色成分の吸光度に基づく被測定成分の濃度の測定結果に外乱因子(ノイズ)としての影響が与えられることがある。例えば、試料中の血球成分、成分測定チップ表面、又は成分測定チップに付着した塵埃といった微粒子等による「光散乱」や、測定対象となる呈色成分とは別の色素成分(具体的には、ヘモグロビン)による「光吸収」が発生することで、真の値よりも大きい吸光度が測定される傾向がある。
【0073】
測定対象となる呈色成分の他に、特定の吸光特性を有する試料としての血液を含む混合物Xを用いて、呈色成分由来の吸光度を正確に測定する場合には、所定の測定波長における吸光度の実測値から、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)を除去する必要がある。
【0074】
より具体的には、測定対象となる呈色成分の光吸収率が高い所定の測定波長(例えば660nm)における、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)量を推定し、同測定波長における吸光度の実測値を補正することが必要となる。本実施形態に係る成分測定装置1は、この補正を行って被測定成分の濃度を算出する。
【0075】
本実施形態において、成分測定装置1は、試料と測定試薬22との呈色反応により生成した呈色成分を含む混合物Xの光学的特性に基づいて、試料中の被測定成分を測定可能である。具体的には、本実施形態では、試料中の血漿成分に含まれるグルコースの濃度を測定する。
【0076】
ここで、グルコース濃度の測定原理と、第1光源67~第5光源68dがそれぞれ射出する照射光の波長λ1~λ5とについて、説明する。赤血球中のヘモグロビンは、主に、酸素と結合した酸化ヘモグロビンと、酸素分圧が小さい場所で酸素が解離した還元ヘモグロビンと、を含んでいる。酸化ヘモグロビンは、還元ヘモグロビンが肺を通過して酸素と結合し、動脈を通って体中に酸素を運搬する役割を果たしており、動脈血中に多く確認できる。例えば、指の腹から試料としての血液を採取する際は、毛細血管の血液となるためこの酸化ヘモグロビンの量が比較的多い。逆に、還元ヘモグロビンは、静脈血中に多く確認できる。
【0077】
既存の技術としては、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率は何ら考慮することなく、例えばヘマトクリット値を利用して、測定対象となる呈色成分に対応する測定波長で得られた吸光度を補正することが一般的である。しかしながら、還元ヘモグロビンの吸収係数と、酸化ヘモグロビンの吸収係数とは一致しておらず、還元ヘモグロビンによる吸収量と酸化ヘモグロビンによる吸収量とは波長により異なる。例えば、測定対象となる呈色成分の吸光度を測定する測定波長が660nmのとき、還元ヘモグロビンの吸収係数は約0.9であり、酸化ヘモグロビンの吸収係数は約0.09である。すなわち、仮に酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの比率が1:1で存在した場合、酸化ヘモグロビンの吸収係数は、全ヘモグロビンの吸収係数の約10%に相当する。測定対象となる呈色成分に由来する吸光度をより正確に推定するためには、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮することが重要である。
【0078】
そこで、成分測定装置1では、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を測定するための測定波長(第1所定波長λ1)を660nmとし、この測定波長で測定された混合物Xの吸光度の実測値から、血球成分等の光散乱による影響や、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を加味したヘモグロビンの光吸収による影響を外乱因子(ノイズ)として除去する補正を行う。これにより、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を推定し、この推定された吸光度とグルコース濃度との関係を示す検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
【0079】
以下、成分測定装置1により実行される成分測定方法の更なる詳細について説明する。
【0080】
まず、本実施形態で用いる測定試薬22中の発色試薬は、試料中のグルコースと呈色反応することにより生成される呈色成分の吸光度が600nm付近にピークを有するが、本実施形態において呈色成分の吸光度を測定する測定波長は660nmとしている。
【0081】
測定対象となる呈色成分の吸光度を測定するための測定波長は、呈色成分の光吸収率が相対的に大きくなる波長であって、かつ、ヘモグロビンの光吸収による影響が比較的小さい波長を用いればよい。具体的には、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3に属する波長とすればよい。「ピーク波長域の半値全幅域に対応する」波長範囲とは、吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域を特定した際に、短波長側の半値を示す波長から、長波長側の半値を示す波長までの範囲を意味している。本実施形態の測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルは、600nm付近がピーク波長となり、約500nm~約700nmが半値全幅域に対応する波長範囲となる。また、全吸光度におけるヘモグロビンの光吸収による影響は、600nm以上の波長域で比較的小さくなる。したがって、本実施形態において、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3は、600nm以上、かつ、700nm以下である。そのため、測定波長としては、本実施形態の660nmに限られず、600nm~700nmの範囲に属する別の波長を測定波長としてもよい。呈色成分の吸光度を表すシグナルが強く、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合をできる限り低減させた波長範囲である方が、呈色成分由来の吸光度をより正確に測定できるため、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長となる600nm付近よりやや長波長となる660nm付近を測定波長とすることが好ましい。より具体的には、測定波長を630nm~680nmの範囲に属する波長とすることが好ましく、640nm~670nmの範囲に属する波長とすることがより好ましく、本実施形態のように660nmとすることが特に好ましい。このような発色試薬の例としてはテトラゾリウム塩が好ましい。
【0082】
更に、本実施形態では、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域が約500nm~約700nmとなるような発色試薬を使用しているが、ピーク波長域の半値全幅域がこの範囲と異なるような発色試薬を使用してもよい。但し、上述したとおり、ヘモグロビンの吸光特性を考慮し、ヘモグロビンの光吸収による吸光度が大きくなる波長域(600nm以下)と、呈色成分の吸光度スペクトルにおける測定波長とが重ならないようにすることが望ましい。
【0083】
以下、本実施形態の測定波長である660nmにおける呈色成分の吸光度を推定するための方法について説明する。成分測定装置1は、測定波長(660nm)とは異なる4つの第2所定波長λ2~第5所定波長λ5における混合物Xの吸光度をそれぞれ実測し、この4つの第2実測値D2~第5実測値D5と、予め定めた補正係数データとを用いて、測定波長における混合物Xの吸光度の第1実測値D1を補正し、測定波長における呈色成分の吸光度を推定する。本実施形態の測定波長とは、上述の第1所定波長λ1である。
【0084】
成分測定装置1は、上述した4つの第2実測値D2~第5実測値D5として、測定波長である第1所定波長λ1よりも長波長側の2つの第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第2実測値D2及び第3実測値D3と、測定波長である第1所定波長λ1よりも短波長側の2つの第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第4実測値D4及び第5実測値D5と、を利用する。
【0085】
より具体的には、上述した4つの第2実測値D2~第5実測値D5として、測定波長である第1所定波長λ1よりも長波長側で、全吸光度において血球成分等の光散乱による影響が支配的な波長域に属する2つの第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第2実測値D2及び第3実測値D3と、測定波長である第1所定波長λ1よりも短波長側で、全吸光度においてヘモグロビンの光吸収による影響が大きい波長域に属する2つの第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第4実測値D4及び第5実測値D5と、を利用する。
【0086】
換言すれば、成分測定装置1は、上述した第2実測値D2及び第3実測値D3として、測定対象である呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応する波長範囲に属する測定波長よりも長波長域に属する、例えば、波長範囲W3よりも長波長側の長波長域W1に属する第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度を利用する。
【0087】
また、成分測定装置1は、上述した第4実測値D4及び第5実測値D5として、測定対象である呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応する波長範囲に属する測定波長よりも短波長域に属する、例えば、波長範囲W3よりも短波長側の短波長域W2に属する第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第4実測値D4及び第5実測値D5を利用する。
【0088】
成分測定装置1において、制御部50は、測光部51から、上述した第1実測値D1~第5実測値D5を取得する。具体的には、発光部66の第1光源67~第5光源68dから、第1所定波長λ1~第5所定波長λ5それぞれの発光波長を含む照射光が混合物Xに対して照射される。受光部72は、それぞれの照射光のうち混合物Xを透過する透過光を受光する。そして、制御部50は、照射光と透過光との関係から各波長における混合物Xの吸光度を算出し、各波長における混合物Xの吸光度である第1実測値D1~第5実測値D5を、実測値データとして記憶部52に格納する。制御部50は、記憶部52から実測値データを取得することができる。制御部50が第1実測値D1~第5実測値D5を取得する手段は、上述した手段に限られず、各種公知の手段により取得することが可能である。
【0089】
そして、制御部50は、第2実測値D2~第5実測値D5を用いて第1実測値D1を補正し、測定波長である第1所定波長λ1(本例では660nm)における呈色成分の吸光度を推定する。血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1では、混合物Xの吸光度スペクトルが略直線状になることから、成分測定装置1は、第2所定波長λ2における吸光度である第2実測値D2と、第3所定波長λ3における吸光度である第3実測値D3と、を取得し、第2実測値D2と第3実測値D3との間の傾きを求めることにより、測定波長である第1所定波長λ1における、呈色成分起因の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度をある程度推定することが可能である。
【0090】
また、成分測定装置1は、試料中の血球成分等による光学的特性に加えて、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮して、試料中のグルコース濃度を算出可能である。そのため、成分測定装置1では、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長(第4所定波長及び第5所定波長)を利用することで、より精度の高い補正を行うことができる。
【0091】
具体的には、成分測定装置1は、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第1の所定値以下となる波長を用いると共に、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、上述の第1の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的には、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、所定の閾値としての第1閾値以上となる波長を用いると共に、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述した第1閾値未満となる波長を用いている。換言すれば、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、第1閾値以上となる波長及び第1閾値未満となる波長の2つの波長を利用する。これにより、制御部50が、第1実測値D1を、第2実測値D2~第5実測値D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮した、より精度の高い補正を行うことができる。
【0092】
還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長としては、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によるヘモグロビンの光吸収の差が大きい2つの波長とすることが好ましい。したがって、本実施形態では、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上となる波長を利用する。また、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8未満となる波長を利用することが好ましい。本実施形態では、一例として、第4所定波長λ4が520nmであり、第5所定波長λ5が589nmであるとする。
【0093】
このように、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によってヘモグロビン全体の光吸収が大きく変動する短波長域W2において、ヘモグロビン全体の光吸収の差が大きくなる第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5を利用することにより、測定波長である第1所定波長λ1(本実施形態では660nm)におけるノイズの吸光度を、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をも加味して精度よく推定することができる。そのため、成分測定装置1によれば、測定波長である第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度、更には、被測定成分の測定(本実施形態ではグルコースの濃度測定)を精度よく行うことができる。
【0094】
本実施形態では、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5のみを、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率の影響を大きく考慮した波長としたが、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5に加えて、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3についても、同様の波長を利用することがより好ましい。
【0095】
具体的には、血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1における第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第2の所定値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第3所定波長λ3として、第2の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的には、第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、上述の第1閾値以上で、かつ、第2閾値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第3所定波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述の第1閾値未満となる波長、又は、第2閾値より大きくなる波長を用いることが好ましい。第2閾値とは、第1閾値よりも大きい別の所定の閾値である。つまり、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が異なる範囲にある2つの波長を利用することが好ましい。これにより、制御部50が、第1実測値D1を、第2実測値D2~第5実測値D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をより一層考慮した精度の高い補正を行うことができる。
【0096】
特に、長波長域W1では血球成分等の光散乱による影響が支配的ではあるが、ヘモグロビンの光吸収による影響も被測定成分の測定波長と同程度含まれるため、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3として、ヘモグロビンの光吸収が、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により比較的大きく変化する2つの波長を利用することが好ましい。
【0097】
したがって、本実施形態では、第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上かつ1.5以下となる範囲に属する波長を利用することが好ましい。本実施形態では、一例として、第2所定波長λ2が850nmであるとする。なお、第2所定波長λ2は790nm~850nmの範囲から選択される。
【0098】
第3所定波長λ3は、長波長域W1であって、第3所定波長λ3における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度が、測定波長における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは実質的に0%となる波長とする。換言すれば、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長以上の波長を利用することが特に好ましい。これにより、呈色成分の光吸収の影響を排除し、長波長域W1における血球成分等の光散乱による影響が支配的なノイズをより正確に推定することができる。本実施形態では、第3所定波長λ3は、920~950nmから選ばれる波長であり、一例として、940nmであるとする。第3所定波長λ3は、呈色成分の吸光度がゼロとなる波長、すなわち、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長を利用することが特に好ましい。なお、上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「全吸光度」とは、混合物全体の吸光度を意味する。また、上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「呈色成分の吸光度」とは、試料中の被測定成分と試薬中の発色試薬とが呈色反応することにより生じる反応物の吸光度、すなわち、混合物における呈色成分由来の吸光度を意味する。
【0099】
以上のとおり、成分測定装置1は、測定波長における混合物Xの吸光度の実測値である第1実測値D1を、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の実測値である第2実測値D2~第5実測値D5を用いて補正し、測定波長における呈色成分の吸光度を推定することができる。
【0100】
次に、成分測定装置1の制御部50による補正処理の方法について説明する。
【0101】
上述したように、成分測定装置1の記憶部52には、測光部51により測定された第1所定波長λ1~第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第1実測値D1~第5実測値D5の実測値データと、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数データと、第1所定波長λ1で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データにより補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量との関係を示す検量線データと、が格納されている。
【0102】
制御部50は、記憶部52に格納されている実測値データ及び補正係数データに基づき、測定波長である第1波長λ1における呈色成分の吸光度を導出する。
【0103】
ここで、補正係数データとは、以下の数式(1)で示される式を用いて予め実施された回帰分析によって導出されたものである。
【0104】
【0105】
B(λ)とは、波長λにおける、呈色成分の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度を意味しており、多種の血液検体を用いて上記数式(1)で示す式によって回帰計算を行い、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出する。上述したように、本実施形態では、第2所定波長λ2として850nm、第3所定波長λ3として940nm、第4所定波長λ4として520nm、第5所定波長λ5として589nmを用いている。また、多種の血液検体は、成分組成が異なる6つの血液検体を基礎とし、それぞれヘマトクリット値が10%~70%の範囲に調整された血液検体を準備し、調整した血液検体の吸光度スペクトル測定を行い、回帰分析を使用して、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出している。導出されたこれらの係数b0~b4に基づき、第2所定波長λ2~第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を導出する。この補正係数を含む補正係数データを用いることにより、520nm、589nm、850nm、940nmの混合物Xの吸光度の実測値から、測定波長である660nmの混合物Xの吸光度の実測値を補正し、660nmにおける呈色成分の吸光度を推定することができる。
【0106】
なお、より簡便に血糖値を求めるために、上述の式を簡素化し、第4所定波長λ4である520nm及び第2所定波長λ2である850nmの光の混合物Xによる吸光度の実測値から、測定波長である660nmの混合物Xの吸光度の実測値を補正し、660nmにおける呈色成分の吸光度を推定することもできる。
【0107】
図9は、成分測定装置1が実行する成分測定処理の一例を示すフローチャートである。
図9に示すように、成分測定処理は、測定波長としての第1所定波長λ1における混合物Xの吸光度である第1実測値D1、第2所定波長λ2における混合物Xの吸光度である第2実測値D2、第3所定波長λ3における混合物Xの吸光度である第3実測値D3、第4所定波長λ4における混合物Xの吸光度である第4実測値D4、及び、第5所定波長λ5における混合物Xの吸光度である第5実測値D5、を取得するステップS1と、第1実測値D1~第5実測値D5の少なくとも1つを利用してヘマトクリット値を導出するステップS2と、第1実測値D1を、第2実測値D2~第5実測値D5及び、回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、測定波長としての第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度を取得するステップS3と、測定波長としての第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度と導出したヘマトクリット値から試料中の被測定成分を算出するステップS4と、を含む。
【0108】
ステップS1では、上述したように、測光部51の発光部66及び受光部72を用いて、第1実測値D1~第5実測値D5を取得する。本実施形態では、ステップS2において、第4実測値D4に基づいて、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に基づいて、ヘマトクリット値を導出する。具体的には、ステップS2において、第4実測値D4から、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2から、ヘモグロビンの吸光度を推定し、ヘマトクリット値を導出する。さらに、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収が含まれる場合は、それぞれ、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収分を差し引く補正計算を行い取得した補正値から、ヘマトクリット値を導出する。本実施形態では、ヘマトクリット値を、記憶部52に格納されている混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線から導出する。ステップS3では、実際に、第1実測値D1を、第2実測値D2~第5実測値D5及び回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、第1測定波長における呈色成分の吸光度を推定し、取得する。なお、第2実測値D2~第5実測値D5に、呈色成分の吸収が含まれる場合は、それぞれの実測値に呈色成分の吸収分を差し引く補正計算を行い取得した補正値から、再計算を行い、第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度を推定し、取得する。最後に、ステップS4では、取得した測定波長である第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度と、導出したヘマトクリット値と、からグルコース濃度との関係を示す検量線を用いて、グルコース濃度を算出する。
【0109】
成分測定装置1の制御部50は、成分測定処理を実行するにあたり、所定のアルゴリズムに従って第1光源67~第5光源68dからの照射光を射出させ、受光部72は受光強度を測定する。以下、制御部50が、成分測定処理を実行するにあたって実行する、光量測定処理の詳細について説明する。
【0110】
図10は、成分測定装置1が成分測定処理にあたって実行する光量測定処理の一例を示すフローチャートである。
【0111】
ここで、制御部50は、成分測定処理を実行するにあたり、第1光源67~第5光源68dから1回ずつ順に照射光をパルス光として射出させる処理を1セットとして、照射光を射出させる。
図11は、第1光源67~第5光源68dから射出される照射光の1セットを模式的に示す図であり、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光の受光部72による受光強度を示すグラフである。
図11において、横軸は時刻、縦軸は受光強度を示している。
図11に示すように、制御部50は、第1光源67~第5光源68dを、所定の時間間隔で順に発光させる。
図11に示す例では、制御部50は、所定の時間間隔として1msecごとに、第1光源67~第5光源68dを発光させる。また、
図11に示すように、制御部50は、第1光源67~第5光源68dからの各照射光の受光部72における受光強度が、ほぼ同一の強度となるように、第1光源67~第5光源68dを発光させる。ほぼ同一の強度とは、受光部72における受光強度で成分測定処理を実行した場合に、各光源の発光から得られる受光強度の差が、成分測定処理の結果に影響を与えない程度の範囲であることをいう。
【0112】
ここで、制御部50は、1セットの射出処理において、所定の順序で第1光源67~第5光源68dを発光させる。特に、制御部50は、測定波長である第1所定波長λ1のパルス光を射出する第1光源67を発光させるタイミングに隣接する前後のタイミングにおいて、血球成分等の光散乱による影響が支配的な第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3の照射光を発する第2光源68a及び第3光源68bを発光させる。
【0113】
例えば、
図11に示す例では、制御部50は、1セットの射出処理において、第5光源68d、第3光源68b、第1光源67、第2光源68a、第4光源68cの順で照射光を測定領域に射出させる。従って、受光部72は、所定の時間間隔(1msec)ごとに、第5所定波長λ5、第3所定波長λ3、測定波長(第1所定波長λ1)、第2所定波長λ2、第4所定波長λ4の順で、照射光を受光する。血球成分による光散乱は、分子のブラウン運動や沈降、さらに波の性質としての干渉等の影響により、時間の経過に伴って変動する。そのため、光散乱による影響を補正するために用いる第2実測値D2及び第3実測値D3は、補正の対象となる第1実測値D1に、時間的により近いタイミングで取得することが好ましい。時間的により近いタイミングで取得することにより、時間的な変動の影響を受けにくくなるためである。そのため、本実施形態のように、測定波長である第1所定波長λ1のパルス光を射出する第1光源67を発光させるタイミングに隣接する前後のタイミングにおいて、血球成分等の光散乱による影響が支配的な第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3の照射光を発する第2光源68a及び第3光源68bを発光させることにより、より高い精度で光散乱による影響を補正することができる。
【0114】
なお、制御部50は、必ずしも、1セットの射出処理において、第5光源68d、第3光源68b、第1光源67、第2光源68a、第4光源68cの順で照射光を射出させなくてもよい。制御部50は、第1光源67を発光させるタイミングに隣接する前後のタイミングにおいて、第2光源68a及び第3光源68bを発光させればよい。
【0115】
図10を参照すると、制御部50は、例えば成分測定装置1の操作者により、成分測定処理を開始させるための操作入力を検出すると、第1光源67~第5光源68dによる照射光の射出を開始する(ステップS11)。このとき、制御部50は、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたか否かを検出できるように、第1光源67~第5光源68dによる照射光の射出を実行させる。
【0116】
図12は、
図10のステップS11において、第1光源67~第5光源68dから射出される照射光の、受光部72による受光強度を模式的に示す図である。
図12において、横軸は時刻、縦軸は受光強度を示している。
図12に模式的に示すように、制御部50は、
図11で説明した射出処理のセットを、繰り返して出力する。例えば、制御部50は、射出処理のセットを、1秒間に1~200回繰り返して実行する。本実施形態では、射出処理のセットを1秒間に16回繰り返して実行する。制御部50は、射出処理のセットを16回繰り返した後、照射光の出力を停止する。そして、16回の射出処理のセットの開始時から所定時間(ここでは1秒間)経過後に、再び射出処理のセットを間断なく16回繰り返して出力する。制御部50は、射出処理のセットを16回繰り返した後、再び照射光の出力を停止する。制御部50は、このように、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を、後述するステップS14まで、1秒ごとに繰り返す。
【0117】
次に、制御部50は、第1の受光強度の判定を実行する(ステップS12)。具体的には、制御部50は、第1の受光強度の判定処理において、受光部72における受光強度が正常な範囲内であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0118】
制御部50は、受光部72における受光強度が正常な範囲内でないと判定した場合(ステップS12のNo)、例えばブザー部59からブザー音を出力することにより、エラーが発生したことを報知する(ステップS23)。
【0119】
制御部50は、受光部72における受光強度が正常な範囲内であると判定した場合(ステップS12のYes)、受光部72における受光強度の変化に基づいて、成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入されたか否かを判定する。具体的には、制御部50は、ステップS14により、成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入されたか否かを判定する。あるいは、制御部50は、ステップS13及びステップS14により、成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入されたか否かを判定してもよい。
【0120】
より具体的に説明すると、例えば操作者は、成分測定チップ2を成分測定装置1に装着する。すなわち、操作者は、成分測定装置1のチップ装着空間S内に成分測定チップ2を挿入する。成分測定チップ2がチップ装着空間S内に挿入されている間、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光の少なくとも一部は、成分測定チップ2を構成する部材により吸収され、受光部72に届かなくなる。そして、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着され、
図2及び
図3に示す状態になると、成分測定チップ2の一部分を通じて、第1光源67~第5光源68dと受光部72との間に、光路が形成される。成分測定チップ2において光路が形成される当該一部分が、測定スポットである。本実施形態では、光路の途中に測定試薬22が位置する。すなわち、測定試薬22上に測定スポットが位置する。そのため、第1光源67~第5光源68dから測定領域に向かって射出された照射光のうち、測定試薬22を透過した一部の光のみが受光部72によって受光される。つまり、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されると、装着されていない場合と比較して、受光部72における受光強度に差が生じる。
【0121】
このことから、制御部50は、受光部72における受光強度の変化を検出することにより、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたか否かを判定する。制御部50は、受光部72において受光量が所定量未満の状態(つまり、成分測定チップ2を構成する部材により、照射光の少なくとも一部が遮断され、受光部72に届かない状態)となった後、受光部における受光強度が、成分測定チップ2がチップ装着空間S内に挿入されたと推定される所定の範囲内になったことを検出した場合に、成分測定チップ2がチップ装着空間Sに挿入されたと判定する。
【0122】
本実施形態では、制御部50は、受光部72において受光強度が、成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入される前の受光部における受光強度を基準として、成分測定チップ2がチップ装着空間S内に挿入されたと推定される所定の範囲内になったことを検出した場合に、成分測定チップ2がチップ装着空間Sに挿入されたと判定する(ステップS14)。
【0123】
なお、成分測定チップ2として被測定部位以外を遮光部材で形成した場合、受光量が、受光されない状態(つまり、成分測定チップ2を構成する部材により、照射光が遮断され、受光部72に届かない状態)となった後、受光強度が所定の範囲内になったことを検出して、成分測定チップ2の挿入合否を判定してもよい。この場合、まず、制御部50は、受光部72において照射光が受光されない状態となったか否かを判定する(ステップS13)。本明細書において、照射光が受光されない状態は、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光が成分測定チップ2によって遮断された場合に受光部72において検出される程度の受光強度の光量が検出されている場合を含む。照射光が受光されない状態となったか否かは、例えば予め閾値を設定し、受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値が、当該閾値を下回っているか否かにより判定することができる。制御部50は、受光部72において照射光が受光されない状態となっていないと判定した場合(ステップS13のNo)、受光部72において照射光が受光されない状態となったと判定されるまで、ステップS13を繰り返す。制御部50は、受光部72において照射光が受光されない状態となったと判定した場合(ステップS13のYes)、第2の受光強度の判定処理を実行する(ステップS14)。なお、ステップS13を省略して、ステップS12とステップS14とを実施してもよい。
【0124】
第2の受光強度の判定処理は、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着(挿入)されたか否かを判定するための処理である。具体的には、制御部50は、第2の受光強度の判定の処理において、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入される前の受光部72における受光強度(例えば
図12に示した受光強度)を基準として、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入されたか否かを判定する。さらに具体的には、制御部50は、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入される前の受光部72における受光強度を基準として、ステップS14で判定される受光強度が所定の範囲まで低下したことを検出した場合に、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入されたと判定する。ここでいう所定の範囲は、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたと推定される所定の範囲であり、例えば照射光の強度及び測定試薬22等の性質に基づいて予め定められる。これにより、成分測定装置1によれば、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入されたことを検出可能となる。本実施形態では、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入される前の受光部72における受光強度を100%として、ステップS14で判定される受光強度が、成分測定チップ2のカバー部材25の測定スポット以外の箇所を遮光部としたときに、30%以下に低下したことを検出した場合に、制御部50は、成分測定チップ2が成分測定装置1に挿入されたと判定する。さらに、制御部50は、ステップS14における受光強度が5%以下となった場合にチップ認識不良と判定してもよい。制御部50は、チップ認識不良と判断した場合、操作者に報知することにより、成分測定チップ2を正しく取り付けるように促してもよい。
【0125】
また、第2の受光強度の判定処理において、下限閾値及び上限閾値は、第1光源67~第5光源68dごとに定められていてもよい。例えば、第1光源67~第5光源68dから射出される照射光の波長λ1~λ5によって、測定試薬22における吸収や反射の性質が異なる場合がある。そのため、例えば、測定試薬22における吸収率がより高い波長の照射光に対しては、上限閾値及び下限閾値を、より低く設定する等によって、照射光の性質に応じてより正確に、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたか否かを判定することができる。
【0126】
また、第2の受光強度の判定処理において、制御部50は、所定の期間にわたって、ADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれている場合に、受光部72における受光強度が、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたと推定される所定の範囲内に含まれると判定してもよい。所定の期間は、例えば、所定の時間により定められてよい。この場合、所定の期間は、例えば3秒間等と定められる。所定の期間は、例えば、第1光源67~第5光源68dの発光の回数により定められてもよい。この場合、所定の期間は、例えば、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組が3回分(つまり連続する3組分)等と定められる。本明細書では、制御部50は、第2の受光強度の判定処理において、連続する3組分において、ADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれている場合に、受光部72における受光強度が、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたと推定される所定の範囲内に含まれると判定するとして、以下、説明する。このように、第2の受光強度の判定処理において、判定のために所定の期間を設けることにより、成分測定チップ2の挿入ではない何らかの要因で一時的にADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれる状態になった場合に、誤って、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたと判定することを防止しやすくなる。
【0127】
なお、制御部50は、所定の期間を第1光源67~第5光源68dの発光の回数により定める場合、ステップS13で照射光が受光されない状態となった後、最初に受光部72で受光を検出したとき、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行する間隔を変更してもよい。特に、制御部50は、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行する間隔を短くしてよい。例えば、上述したように、ステップS11において、1秒間ごとに16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行している場合、制御部50は、この組を実行する間隔を、0.5秒に短縮してもよい。これにより、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行する間隔を短くすることができ、より早期に、第2の受光強度の判定処理の結果を決定しやすくなる。
【0128】
図13は、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光の、受光部72による受光強度を模式的に示す図であり、主として
図10のステップS13~ステップS16、又はステップS14~ステップS16における、受光部72による受光強度を模式的に示す図である。
図13において、横軸は時刻、縦軸は受光強度を示している。
図13は、例えば
図10のステップS12でYesと判定された後の、受光部72による受光強度を示している。
【0129】
例えば操作者が、成分測定チップ2を成分測定装置1のチップ装着空間S内に挿入し始めると、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光が成分測定チップ2を構成する部材によって遮断される。この場合、
図13の時刻t
1からt
2に示すように、受光部72は照射光を受光していない状態となる。
【0130】
時刻t
2で成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されると、受光部72は、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光のうち、測定試薬22を透過した光を受光する(
図13の時刻t
3)。
図13に模式的に示されているように、受光部72における受光強度は、成分測定チップ2の装着前と比較して、小さくなっている。また、成分測定チップ2の装着前後における、受光強度の変化の程度は、第1光源67~第5光源68dごとにそれぞれ異なる。
【0131】
制御部50は、時刻t3で測定試薬22を透過した光を受光すると、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行する間隔を、1秒から0.5秒に短縮する。そして、制御部50は、連続する3組において、ADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれている場合に、受光部72における受光強度が、成分測定チップ2が成分測定装置1に装着されたと推定される所定の範囲内に含まれると判定する。ADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれる状態が連続した3組で達成されない場合、制御部は、連続する3組において、ADコンバータからの出力値が所定の範囲内に含まれるようになるまで、16回の射出処理のセットの出力と照射光の出力停止との組を実行し続けることができる。
【0132】
再び
図10を参照すると、制御部50は、受光部72における受光強度が所定の範囲内でないと判定した場合(ステップS14のNo)、例えばブザー部59からブザー音を出力することにより、エラーが発生したことを報知する(ステップS23)。これにより、例えば誤って使用済の成分測定チップを挿入した場合を判定できる。
【0133】
制御部50は、受光部72における受光強度が所定の範囲内であると判定した場合、つまり成分測定チップ2がチップ挿入空間Sに挿入されたと判定した場合(ステップS14のYes)、発光部66から射出される照射光の光量を調整する。成分測定チップ2の装着が完了した状態で、制御部50は、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整することにより、発光部66から射出される照射光の光量を調整する(ステップS15)。制御部50は、照射光の光量が、被測定成分の測定で使用される所定の強度となるように、照射光の光量を調整する。被測定成分の測定で使用される所定の強度は、受光部72の仕様等に応じて適宜定められてよく、被測定成分の測定に必要とされる測定分解能を担保できる強度であることが望ましい。
【0134】
具体的には、制御部50は、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を上げるように調整する。第1光源67~第5光源68dに供給する電流を上げることにより、第1光源67~第5光源68dから射出される照射光の光量が増加する。さらに具体的には、制御部50は、受光部72における第1光源67~第5光源68dからの照射光の受光強度を増加させるように、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整する。特に、制御部50は、受光部72における第1光源67~第5光源68dからの照射光の受光強度が、
図9を参照して説明した成分測定処理を実行するために適した強度となるように、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整することが好ましい。
【0135】
制御部50は、第1光源67~第5光源68dに供給する電流をそれぞれ調整することができる。制御部50は、受光部72における第1光源67~第5光源68dのそれぞれからの照射光の受光強度が、均一となるように、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整することができる。ここでいう均一は、所定の受光強度だけでなく、当該所定の受光強度から予め定められた範囲の幅に収まる場合を含む。例えば、制御部50は、受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値が、ほぼ一定値となるように、第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整するとする。この場合、例えば受光強度のADコンバータ(12ビット)からの出力値が3300±50の範囲を均一と扱うこととすることができる。このように電流調整を行うことにより、受光部72における測定分解能が向上し、より正確な成分測定を実行しやすくなる。このような電流調整は、例えば、環境温度の変化に伴い第1光源67~第5光源68dからの照射光の光量が変動したとしても、その変動による影響を抑えることができる。本実施形態では12ビットのADコンバータを使用したが、分解能に応じて同等の出力値となるように設定できる。
【0136】
なお、ステップS15において、制御部50は、温度測定部53で測定された温度に基づいて、第1光源67~第5光源68dに供給する電流量を決定してもよい。これにより、温度による照射光の光量の変動を抑えやすくなる。
【0137】
なお、ステップS15において、制御部50は、受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値が所定値(例えば3300)となるように第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整するにあたり、受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値が所定値に達する前に、供給する電流が予め定められた電流閾値(例えば15mA)を超えた場合、制御部50は、成分測定装置1に異常が発生していると判定し、その旨をブザー音で報知してよい。
【0138】
図13を参照すると、時刻t
4以降に模式的に示されているように、ステップS15において第1光源67~第5光源68dに供給する電流が増幅され、受光部72で受光される受光強度が増加する。すなわち、測定チップ2が正しく装着された後に、光源の光量を増加させることで、電力消費量を低減できる。
【0139】
再び
図10を参照すると、制御部50は、ステップS15において第1光源67~第5光源68dに供給する電流を調整した後、基準受光強度を取得する(ステップS16)。基準受光強度は、ステップS15を実行した後の特定の時点における、受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値である。基準受光強度は、ステップS15を実行した直後に取得されることが好ましい。基準受光強度は、後述するステップS19における第3の受光強度の判定処理で使用される。
【0140】
また、制御部50は、第1光源67~第5光源68dを連続的に発光させる(ステップS17)。具体的には、制御部50は、
図11に示す射出処理のセットを連続して実行する。このようにして、例えば1msecごとに、第1光源67~第5光源68dからパルス光が射出される。制御部50は、後述するステップS19で、試料と測定試薬22とが接触したと判定するまで、このようなパルス光の出力を継続する。
【0141】
図14は、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光の、受光部72による受光強度を模式的に示す図であり、主として
図10のステップS17が実行された後の、受光部72による受光強度を模式的に示す図である。
図14に示すように、第1光源67~第5光源68dからパルス光が連続的に射出され、受光部72は、このパルス光を受光する。このように第1光源67~第5光源68dを連続的に発光させることにより、後述するステップS19における、第3の受光強度の確認で実行される判定の時間分解能を向上させることができる。
【0142】
制御部50は、ステップS17において第1光源67~第5光源68dを連続的に発光させた状態で、受光部72で受光される受光強度の移動平均を算出する(ステップS18)。制御部50は、適宜の個数のパルス光の受光強度の移動平均を算出することができ、例えば5個の光源のパルス光の受光強度の移動平均を算出することができる。制御部50は、光源ごとに、パルス光の受光強度の移動平均を算出することが好ましい。本実施形態では、少なくとも、次のステップS19で用いられる、第4所定波長λ4(520nm)のパルス光の受光強度の移動平均を算出する。制御部50は、第4所定波長λ4に加えて、第3所定波長λ3(940nm)のパルス光の受光強度の移動平均を算出させてもよい。この場合、幅広いヘマトクリット値の血液を測定できる。
【0143】
そして、制御部50は、第3の受光強度の判定処理を実行する(ステップS19)。第3の受光強度の判定処理は、成分測定を開始するか否か、つまり
図9のステップS1における第1~第5実測値の取得を開始するか否かを判定するための処理である。制御部50は、
図2~
図4に示す流れ方向Aに従って流路23を流れた試料が測定試薬22まで到達(反応開始)したときに、第1~第5実測値の取得を開始する。制御部50は、受光部72で受光される照射光の受光強度に基づいて、試料が測定試薬22と到達したか否かを判定する。具体的には、制御部50は、受光部72で受光される受光強度と、ステップS16で取得した基準受光強度との差が所定値を超えたか否かを判定する(ステップS19)。
【0144】
さらに具体的には、本実施形態において、制御部50は、ステップS16で取得した基準受光強度と、ステップS18で算出した第3所定波長λ3のパルス光の受光強度の移動平均及び第4所定波長λ4のパルス光の受光強度の移動平均と、を用いて、試料が測定試薬22へ到達したか否かを判定する。本実施形態において、制御部50は、ステップS19において、受光部72で受光される第3所定波長λ3のパルス光の受光強度の移動平均が、基準受光強度に対して、第1判定閾値以上高くなったときに、試料が測定試薬22へ到達したと判定する。第1判定閾値は、適宜定めることができる。例えば、第1判定閾値は、基準受光強度の101.3%とすることができる。また、本実施形態において、制御部50は、ステップS19において、受光部72で受光される第4所定波長λ4のパルス光の受光強度の移動平均が、基準受光強度に対して、第2判定閾値以上低くなったときに、試料が測定試薬22へ到達したと判定する。第2判定閾値は、適宜定めることができる。例えば、第2判定閾値は、基準受光強度の98.5%とすることができる。
【0145】
ここで、本実施形態において、第3の受光強度の判定処理で、第3所定波長λ3と第4所定波長λ4という、2つの異なる波長の照射光を用いる理由について説明する。本実施形態に係る成分測定装置1に対して使用される試料は、全血であってもよく、血漿であってもよい。しかしながら、試料が全血である場合と血漿である場合とでは、各波長の照射光に対する吸光度等の性質が異なる。しかしながら、本実施形態に係る成分測定装置1のように、第3所定波長λ3と第4所定波長λ4という2つの異なる波長の照射光を用いることにより、試料として全血と血漿とのいずれが用いられた場合であっても、試料が測定試薬22へ到達したことを検出することができる。
【0146】
例えば、試料が全血の場合、試料に赤血球が含まれる。赤血球を含む全血に、第3所定波長λ3(940nm)の照射光が照射された場合、全血の屈折率が空気の屈折率と比較して大きいため、測定試薬22を含む成分測定チップ2の部材との屈折率差が少なくなり、測定試薬22を透過する透過光が増加して、受光部72における受光強度が増加する一方、赤血球により照射光が散乱されるため、受光部72における受光強度が減少する。そのため、屈折率に起因する受光強度の増加と、赤血球による散乱に起因する受光強度の減少とにより、受光強度の増減が相殺される。従って、試料が全血の場合、第3所定波長λ3(940nm)の照射光によっては、試料が測定試薬22へ到達したことを検出できない場合が生じる。
【0147】
これに対し、全血に第4所定波長λ4(520nm)の照射光が照射された場合、第3所定波長λ3の照射光が照射された場合と同様に、屈折率に起因する受光強度の増加と、赤血球による散乱に起因する受光強度の減少とが発生する。しかしながら、第4所定波長λ4の照射光が照射された場合、ヘモグロビンは、第4の所定波長λ4の光を吸収しやすい性質を有するため、ヘモグロビンにより照射光が大きく吸収され、受光部72における受光強度が減少する。また、全血に含まれるグルコースと測定試薬22とが反応して発色することにより、第4所定波長λ4の帯域の光はより多く吸収され、受光部72における受光強度が減少する。そのため、全血に第4所定波長λ4(520nm)の照射光が照射された場合、試料が測定試薬22に到達すると、第4所定波長λ4の照射光の吸収の効果により、受光部72で受光される受光強度が減少する。そのため、試料が全血の場合、第4所定波長λ4により、試料が測定試薬22へ到達したことを検出できる。
【0148】
一方、試料が血漿の場合、試料には赤血球やヘモグロビンが含まれない。赤血球やヘモグロビンを含まない血漿に、第4所定波長λ4(520nm)の照射光が照射された場合、血漿の屈折率が空気の屈折率と比較して大きいため、測定試薬22を含む成分測定チップ2の部材との屈折率差が少なくなり、測定試薬22を透過する透過光が増加して、受光部72における受光強度が増加する一方、血漿に含まれるグルコースと測定試薬22とが反応して発色することにより、第4所定波長λ4の帯域の光が吸収され、受光部72における受光強度が減少する。そのため、屈折率に起因する受光強度の増加と、発色に起因する受光強度の減少とにより、受光強度の増減が相殺される。従って、試料が血漿の場合、第4所定波長λ4(520nm)の照射光によっては、試料が測定試薬22と接触したことを検出できない場合が生じる。
【0149】
これに対し、血漿に第3所定波長λ3(940nm)の照射光が照射された場合、第4所定波長λ4の照射光が照射された場合と同様に屈折率に起因する受光強度の増加が発生する。一方、血漿に含まれるグルコースと測定試薬22とが反応して発色しても、第3所定波長λ3の帯域の光は吸収されにくい。そのため、血漿に第3所定波長λ3(940nm)の照射光が照射された場合、屈折率に起因する受光強度の増加の効果が大きく影響することにより、受光部72で受光される受光強度が増加する。そのため、試料が血漿の場合、第3所定波長λ3により、試料が測定試薬22へ到達したことを検出できる。
【0150】
以上の原理から、制御部50は、第3所定波長λ3が基準受光強度と比較して増加したか否かにより、試料が血漿の場合に、試料が測定試薬22へ到達したか否かを判定でき、第4所定波長λ4が基準受光強度と比較して減少したか否かにより、試料が全血の場合に、試料が測定試薬22へ到達したか否かを判定できる。このように本実施形態によれば、試料が全血であっても血漿であっても、試料が測定試薬22へ到達したことを検出できる。また、本実施形態によれば、試料が全血であるか血漿であるかが不明であっても、試料が測定試薬22へ到達したことを検出できる。
【0151】
なお、本実施形態では、試料が測定試薬22へ接触したか否かの判定において、基準受光強度と、第3所定波長λ3の移動平均及び第4所定波長λ4の移動平均とを比較している。このように移動平均を用いることにより、試料と測定試薬22との接触ではない何らかの要因で一時的に受光強度が増減した場合に、誤って、試料と測定試薬22とが接触したと判定することを防止しやすくなる。
【0152】
なお、ステップS19において、制御部50は、さらに、成分測定チップ2が成分測定装置1から外れたか否かを判定するための閾値を設けてもよい。例えば、成分測定チップ2がチップ装着空間Sから抜き出される場合、成分測定チップ2が挿入される場合と同様に、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光が成分測定チップ2を構成する部材により低下し、受光部72に届かなくなる。そのため、制御部50は、例えば、受光強度のADコンバータからの相対出力値が、所定の閾値より小さくなった場合に、成分測定チップ2が成分測定装置1から外れたと判定してよい。なお、相対出力値は、発光部66(第1光源67~第5光源68d)から光を射出しているときのADコンバータからの出力値と、発光部66(第1光源67~第5光源68d)から光を射出していないときのADコンバータからの出力値との差分をいう。このとき、例えばブザー部59からブザー音を出力することにより、エラーが発生したことを報知してよい。また、成分測定チップ2が成分測定装置1から完全に抜き出された場合には、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光が直接受光部72に照射され、受光部72における受光強度が大きくなる。そのため、制御部50は、例えば、受光強度のADコンバータからの相対出力値が、所定の閾値より大きくなった場合に、成分測定チップ2が成分測定装置1から外れたと判定してよい。このとき、例えばブザー部59からブザー音を出力することにより、エラーが発生したことを報知してよい。
【0153】
制御部50は、受光部72で受光される受光強度と、基準受光強度との差が所定値を超えていないと判定した場合(ステップS19のNo)、ステップS18に移行して、ステップS18及びステップS19を繰り返す。
【0154】
制御部50は、受光部72で受光される受光強度と、基準受光強度との差が所定値を超えたと判定した場合(ステップS19のYes)、受光部72で受光される受光強度の初期値を決定する(ステップS20)。初期値(基準値)は、試料が測定試薬22へ到達する前の特定の時刻における、混合物Xにおける照射光の吸光度の実測値であり、すなわち受光部72における受光強度のADコンバータからの出力値である。制御部50は、ステップS19において、受光部72で受光される受光強度と、基準受光強度との差が所定値を超えたと判定した時刻より所定時間前の受光強度の出力値を、初期値として決定することができる。所定時間は適宜設定することができ、例えば0.5秒とすることができる。所定時間が短いほど、試料が測定試薬22へ到達した後の条件(例えば周囲環境)に近い条件における出力値を初期値として設定することができる。例えば、第1光源67~第5光源68dを連続して発光させると、第1光源67~第5光源68dの温度が上昇し、射出される照射光の光量が変化する場合がある。しかしながら、所定時間を短くすることにより、次のステップS21で取得する実測値と、出力値の取得条件を近づけることができる。このように、試料が測定試薬22へ到達したと判定してから、初期値を決定することにより、試料が測定試薬22へ到達する直前の出力値を初期値(リファレンス値)として設定され、実測値を導き出すことができる。
【0155】
また、制御部50は、試料が測定試薬22へ到達したと判定すると、被測定成分を測定するための、混合物Xにおける照射光の吸光度の実測値の取得を開始する(ステップS21)。実測値は、
図9のフローにおける第1~第5実測値に対応する。このようにして、制御部50は、被測定成分を含む試料が測定試薬22と呈色反応を開始したと判定したときに、実測値の取得を自動的に開始することができる。そのため、成分測定装置1によれば、有用性が向上する。
【0156】
制御部50は、ステップS21において実測値の取得を開始してから、所定時間後に、実測値の取得を終了する(ステップS22)。このとき、制御部50は、第1光源67~第5光源68dからの発光を停止してよい。所定時間は、測定試薬22等の性質に応じて適宜定めることができ、例えば9秒間とすることができる。このようにして、制御部50は、成分測定処理にあたって実行する照射光の射出処理を終了する。
【0157】
制御部50は、取得した実測値を用いて、本実施形態で説明した成分測定方法を実行することにより、試料中のグルコース濃度を測定可能である。なお、上記実施形態では、試料が全血の場合におけるグルコース濃度の測定方法について説明したが、試料が血漿の場合も、同様の方法でグルコース濃度を測定することができる。
【0158】
図15は、第1光源67~第5光源68dから射出された照射光の、受光部72による受光強度を模式的に示す図であり、主として
図10のステップS18~ステップS21における、受光部72による受光強度を模式的に示す図である。
図15において、横軸は時刻、縦軸は受光強度を示している。
【0159】
ステップS17により第1光源67~第5光源68dが連続的に発光されている間、制御部50は、受光部72で受光される受光強度の移動平均を算出する(ステップS18)。制御部50は、ステップS19において、第3の受光強度の判定処理を実行する。制御部50は、第3の受光強度の判定処理において、受光部72で受光される受光強度と、基準受光強度との差が所定値を超えたと判定するまで(
図15の時刻t
6まで)、ステップS18とステップS19とを繰り返す。
【0160】
制御部50は、時刻t6で、受光部72で受光される受光強度と、基準受光強度との差が所定値を超えたと判定すると(ステップS19のYes)、受光部72で受光される受光強度の初期値を決定する(ステップS20)。例えば、制御部50は、時刻t6より0.5秒前の時刻t5における、受光強度のADコンバータからの出力値を、初期値として決定する。また、制御部50は、時刻t6から、実測値の取得を開始する(ステップS21)。制御部50は、所定時間経過後に、実測値の取得を終了する(ステップS22)。
【0161】
本発明に係る成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理装置は、上述した実施形態の具体的な記載に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載した発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。上述の実施形態では、被測定成分としてのグルコースの測定として、グルコース濃度を測定しているが、濃度に限られるものではなく、別の物理量を測定するものであってもよい。また、上述の実施形態では、血液中の被測定成分として、血漿成分中のグルコースを例示しているが、これに限られるものではなく、例えば血液中のコレステロール、糖類、ケトン体、尿酸、ホルモン、核酸、抗体、抗原等を被測定成分とすることも可能である。したがって、成分測定装置は、血糖値測定装置に限られるものではない。更に、上述の実施形態では、成分測定チップ2を透過する透過光を受光する受光部72としているが、成分測定チップ2から反射する反射光を受光する受光部としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、成分測定装置、成分測定装置セット及び情報処理装置に関する。
【符号の説明】
【0163】
1:成分測定装置
2:成分測定チップ
10:ハウジング
10a:本体部
10b:チップ装着部
11:表示部
12:取り外しレバー
13:電源ボタン
14:操作ボタン
21:ベース部材
22:測定試薬
23:流路
23a:空隙
24:供給部
25:カバー部材
26:イジェクトピン
50:制御部
51:測光部
52:記憶部
53:温度測定部
54:電源部
55:電池
56:通信部
57:クロック部
58:操作部
59:ブザー部
66:発光部
67:第1光源
68a:第2光源
68b:第3光源
68c:第4光源
68d:第5光源
69a:第1絞り部
69b:第2絞り部
72:受光部
80:ホルダ部材
100:成分測定装置セット