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特許7617958バソプレシン2受容体アンタゴニストペプチド及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】バソプレシン2受容体アンタゴニストペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20250110BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250110BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250110BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20250110BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250110BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20250110BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12Q1/04
A61K38/17
A61P13/12
A61P13/02
A61P35/00
A61P7/02
A61P1/16
A61P9/04
G01N33/53 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022580195
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021067248
(87)【国際公開番号】W WO2021260068
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】20305696.5
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ジル
(72)【発明者】
【氏名】ジャスティナ・シオレック
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・ドロクトーベ
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール・メイレール
(72)【発明者】
【氏名】エルヴェ・ノザック
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500001(JP,A)
【文献】PNAS,2017年,Vol.114, No.27,pp.7154-7159,www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1620454114
【文献】J. Clin. Invest. ,2000年,Vol.105, No.7,pp.887-895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/00
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
A61K 38/17
A61P 13/12
A61P 13/02
A61P 35/00
A61P 7/02
A61P 1/16
A61P 9/04
G01N 33/53
C12N 15/63
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列番号1のアミノ酸配列:
【化1】
との100%のアミノ酸同一性を有する配列を含むペプチドであって、
式中、
- X1がF又はGのアミノ酸残基を意味し、
- X2がN又はAのアミノ酸残基を意味し、
- X3がT又はDのアミノ酸残基を意味し、
- X4がI、L又はEのアミノ酸残基を意味し、
- X5がVを意味し、X6がGを意味し、
- 39位に位置するアミノ酸がAである、ペプチド。
【請求項2】
X1がGのアミノ酸残基を意味する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X3がDのアミノ酸残基を意味する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
X4がE又はLのアミノ酸残基を意味する、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6からなる群において選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項6】
検出可能分子により標識された、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項8】
発現ベクターに含まれる、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド及び生理学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドを含む医薬。
【請求項11】
正常血液量又は血液量減少性の低ナトリウム血症、抗利尿不適合の腎性症候群、多発性嚢胞腎、がん、血栓症、メニエール病、難治性肝疾患、及び心不全により特徴付けられる病態からなる群において選択される疾患を処置するための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドを含む医薬。
【請求項12】
バソプレシン2受容体を発現する細胞を検出するための、請求項6に記載の標識されたペプチドのin vitroでの使用。
【請求項13】
バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全を検出するためのin vitroでの方法であって、
b)検査する細胞を請求項6に記載の標識されたペプチドと接触させる工程と、
c)バソプレシン2受容体細胞発現の発現レベル値を測定する工程と、
d)工程c)において得られた発現レベル値を参照発現レベル値と比較する工程と、
e)バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全の発生率を決定する工程と
を含む方法。
【請求項14】
in vitroでの検出方法における、請求項1から6のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バソプレシン2受容体が関与する疾患の処置に関連する医療分野に関する。
【背景技術】
【0002】
バソプレシン2型受容体(V2R)は、Xq28染色体上に位置するAVPR2遺伝子によりコードされるGタンパク質共役受容体である。V2Rは、バソプレシンホルモン感受性受容体ファミリーに、V1a、V1b及びオキシトシン受容体として属する。多くのGPCRのように、V2Rによって、Gタンパク質依存性及びGタンパク質非依存性の両機構により多面的作用が誘導される。
【0003】
V2Rは、ネフロンの遠位部分において、とりわけ発現する。集合管において活性化されると、V2R/Gas経路により細胞内cAMP産生が刺激され、これによりプロテインキナーゼAが活性化されてアクアポリン2がリン酸化され、細胞内カルシウム依存性エクソサイトーシス機構を介して、このアクアポリン2の細胞内小胞から頂端膜への転位が可能となる。更に、水は、頂端膜のアクアポリン2を尿から主要細胞へと通過した後、側底膜のアクアポリン3及びアクアポリン4のおかげで血液に達することが可能である。再循環が不十分であれば、V2Rは、AVP-V2R-ベータアレスチン活性複合体のおかげで長期活性化を伴う。第3のV2経路によって、インスリン様増殖因子受容体のメタロプロテイナーゼ媒介活性化によるERK1/2の活性化が引き起こされる。
【0004】
V2Rの機能性バリアント得失の両方は、ヒト疾患と関連する。アルギニン-バソプレシン(AVP)分泌の不全は、低ナトリウム血症と関連し、ヒトでは血漿ナトリウムレベルが135mmol/l未満となる。これは、慢性心不全、肝不全、及び慢性腎疾患を含む多数の疾患と関連し、この場合、死亡リスクの上昇と関連することがわかっている。肺又は前立腺がんにおける異所性AVP分泌によってもAVP循環レベルが過度となることがあり、これによって低ナトリウム血症が引き起こされ得る。また、V2Rは、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療標的でもある。ADPKDを含むV2R関連疾患のための多くの治療戦略が開発されているが、V2Rの遮断のみにより、この有効性がヒトにおいて実証されている(Nagaoら、2012、Exp Anim、Vol. 61:477~488頁)。
【0005】
腎臓外部では、内皮細胞はV2Rを発現し、ここでV2Rは、フォンヴィルブランド因子発現の調節に関与する。内耳では、V2Rは、リンパ嚢量の制御に関与し、メニエール病における役割を果たすと考えられる(Eckhardら、2012、Mol Aspects Med、Vol.33:612~637頁)。骨では、V2Rは、ホメオスタシスに寄与し得る(Tammaら、2013、Proc Natl Acad Sci USA、Vol.110(46):18644~18649頁)。AVPのような神経ペプチドは、神経内分泌腫瘍において高発現し得る。また、V2Rは、ヒトの肺、乳房、膵臓、結腸直腸、及び胃腸の腫瘍において異所的に存在する(Pifanoら、2017、Front Oncol、Vol.7-Article 11:1~11頁)。
【0006】
次いで、V2R活性の不全は、特に、ヒトにおいて、多数の疾患と関連する。しかし、V2Rの決定的な生理学的かつ病理学的重要性にもかかわらず、この受容体に関する治療法の蓄積としての実績は不十分である。トルバプタンと名付けられた唯一のアンタゴニスト分子が、当技術分野において主に使用されており、これは、バプタンのファミリーに属するベンザゼピン由来分子であって、高親和性を有するが、他の3つのバソプレシン感受性受容体に対する中等度の選択性を有する、V2Rのアンタゴニストとして作用する。トルバプタンは、現在、低ナトリウム血症及びADPKDの処置に使用されているが、肝毒性のために多くの懸念を有する。
【0007】
AVPの過剰分泌は、低ナトリウム血症のような疾患の鍵となる病因的因子であり、これによって、V2Rアンタゴニストの使用が、正常血液量又は血液量過多の低ナトリウム血症により特徴付けられる病態、例えば、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)、肝硬変、及びうっ血性心不全(GIF; Ghaliら、Cardiology、2008、1 1 1、147~157頁)において何故それほど効率的なのかが説明される。
【0008】
先天性腎性尿崩症は、V2R変異の不活性化と関連する。これにより、特に、小児において、重度の脱水を伴う多尿が引き起こされる。V2Rアンタゴニスト(バプタン)は、薬理的シャペロンとして挙動し、細胞に侵入して変異受容体を回復させることが可能である(Morelloら、J. Clin. Investigation、2000、105、887~895頁)。
【0009】
アレスチンと相互作用することによるV2R刺激によって、cAMP及びMAPキナーゼが関与し、これによる増殖応答が支持される、シグナル伝達経路の活性化が引き起こされる。例えば、ラットにおけるAVP注入によって、V2Rアンタゴニストにより阻害され得る尿細管上皮細胞の増殖が誘導される(Alonsoら、Endocrinology、2009、150、239~250頁)。その上、V2Rアンタゴニストのような利尿剤によって、腎がん細胞(Bolignanoら、Urol. Oncol.、2010、28、642~647頁)及び肺がん細胞(Pequeuxら、Endocr. Relat. Cancer、2004、11、871~885頁)の増殖を阻害することが可能であった。このような結果は、V2Rアンタゴニストが、種々の型のがんに対する良好な治療候補であることを示す。
【0010】
フォンヴィルブランド因子(VWF)は、一次止血に関係付けられる。AVP及びV2R特異的アゴニストであるdDAVP(ミニリン(登録商標))によってもVWF及びVIII因子のレベルが、これらのV2Rとの相互作用を介して上昇することが実証されている(Kaufmannら、J.Clin.Invest.、2000、106、107~116頁)。過剰な凝固により、血栓症(凝血塊)が引き起こされることがあり、これは、V2Rアンタゴニストを使用することにより、凝固因子の分泌を制限することによって治癒し得る。
【0011】
また、V2Rアンタゴニストであるトルバプタンは、硬変の処置に使用されている。これまでのメタ解析では、バプタンによる処置によって、この周知の肝毒性のため、硬変患者における有害事象全体のリスクが上昇することが示された(Impact of Vaptans on Clinical Outcomes in Cirrhosis Patients: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials、2019、Frontiers in Pharmacology)。
【0012】
V2Rアンタゴニストであるトルバプタンは、心不全の処置に更に使用されている。実際の臨床環境におけるトルバプタンの有効性及び安全性は、この大規模解析により確認された(Tolerability of Tolvaptan in Patients With Heart Failure ― Final Results of the Samsca Post-Marketing Surveillance in Heart Failure (SMILE) Study、2019、Circulation Journal)。
【0013】
バプタンにより、種々の病理に対するV2Rアンタゴニストの治療作用が明らかに証明されたが、これらの治療的使用は、一部の主要な欠点により制限されている。
- バプタン及びこれらの代謝物は、肝毒性である。このため、これらの使用には患者の厳格な監視を必要とし、長期投与は制限されている。これらの一部は、静脈内注入するのみであり、このため、これらの使用が入院患者に制限されている。
- バプタンは、V2Rのみに対する一部の選択性を有し、112(サタバプタン)から0.15(コニバプタン)まで変動するV2/Vla選択指数を有する。
- バプタンは、MAPキナーゼ活性化に対するアンタゴニストである。したがって、これらは、特異的V2R関連シグナル伝達経路を完全に遮断することは不可能である。バプタンは、生理緩衝液に難溶性であり、生物学的利用率が制限されている(Bernierら、JASN、2006、17、591)。
【0014】
当技術分野において公知の最も選択的V2Rアンタゴニストは、マンバヘビ毒から最初に単離されたペプチドであり、マンバカレチン(mambaquaretin)(MQ1)と名付けられた。MQ1は、57アミノ酸残基の長さのペプチドであり、これは、3つのジスルフィド結合により網状となっており、クニッツペプチド構造をとる(Ciolekら、2017、Proc Natl Acad Sic USA、Vol.114(27):7154~7159頁)。MQ1ペプチドは、ヒトV2Rに対して高親和性を呈し、μM濃度において、V1aR、V1bR及びOTRを含む他の156種のGPCRに対して親和性を呈しない。MQ1ペプチドは、Gasタンパク質に関連する3つの経路、ベータアレスチンとの相互作用、及びMAPキナーゼの活性化に対する完全競合的アンタゴニストである(Ciolekら、2017、Proc Natl Acad Sic USA、Vol.114(27):7154~7159頁)。投与すると、MQ1ペプチドにより、純粋な水利尿作用が誘導される、即ち、水の減少は誘導されるが、いかなる電解質の減少をも誘導されない。嚢胞性腎疾患におけるMQ1の有効性が示された(Ciolekら、2017、Proc Natl Acad Sic USA、Vol.114(27):7154~7159頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2014/041526号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Nagaoら、2012、Exp Anim、Vol. 61:477~488頁
【文献】Eckhardら、2012、Mol Aspects Med、Vol.33:612~637頁
【文献】Tammaら、2013、Proc Natl Acad Sci USA、Vol.110(46):18644~18649頁
【文献】Pifanoら、2017、Front Oncol、Vol.7-Article 11:1~11頁
【文献】G I F; Ghaliら、Cardiology、2008、1 1 1、147~157頁
【文献】Morelloら、J. Clin. Investigation、2000、105、887~895頁
【文献】Alonsoら、Endocrinology、2009、150、239~250頁
【文献】Bolignanoら、Urol. Oncol.、2010、28、642~647頁
【文献】Pequeuxら、Endocr. Relat. Cancer、2004、11、871~885頁
【文献】Kaufmannら、J.Clin.Invest.、2000、106、107~116頁
【文献】Impact of Vaptans on Clinical Outcomes in Cirrhosis Patients: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials、2019、Frontiers in Pharmacology
【文献】Tolerability of Tolvaptan in Patients With Heart Failure ― Final Results of the Samsca Post-Marketing Surveillance in Heart Failure (SMILE) Study、2019、Circulation Journal
【文献】Bernierら、JASN、2006、17、591
【文献】Ciolekら、2017、Proc Natl Acad Sic USA、Vol.114(27):7154~7159頁
【文献】NETMHCNETMHCPAN3.2ソフトウェア(www.IEDB.org)
【文献】HAUBNE R.ら、J. Nucl. Med.、2001、42、326~36頁
【文献】KIM TH.ら、Biomaterials、2002、23、2311~7頁
【文献】KOEHLER MF.ら、Bioorg. Med. Chem. Lett.、2002、12、2883~6頁
【文献】Lienら、TIB、2003、21、556~頁
【文献】Northら、1999、Peptides、Vol. 20:837~842頁
【文献】Sinhaら、2019、Oncogene、Vol.30(6):1231~1245頁
【文献】Garonaら、2015、Int J Oncol、Vol.46:2335~2345頁
【文献】Ripollら、2013、Breast Cancer Res Treat、Vol.142:9~18頁
【文献】Iannucciら、2011、Future Med Chem、Vol.3:1987~1993頁
【文献】Garonaら、2018、Cancer Res Treat、Vol.51(2):438~450頁
【文献】Garonaら、2020、in Vitamins and Hormones、Vol.113:259~289頁
【文献】Chengら、Biochem. Pharmacol.、1973、22、3099~3108頁
【文献】Miyazaki T、Yamamura Y、Onogawa T、Nakamura S、Kinoshita S、Nakayama Sら、Therapeutic effects of tolvaptan, a potent, selective nonpeptide vasopressin V2 receptor antagonist, in rats with acute and chronic severe hyponatremia. Endocrinology. 2005;146:3037~43頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
既知のV2Rアンタゴニストと比較して、代替可能であるか又は向上した、とりわけ、医療用のV2Rアンタゴニストの必要性が、なお存在している。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示は、以下の配列番号1のアミノ酸配列:
【0019】
【化1】
【0020】
との80%以上のアミノ酸同一性を有する配列を含むペプチドであって、
式中、
- X1がF又はGのアミノ酸残基を意味し、
- X2が塩基性アミノ酸残基を除く任意のアミノ酸残基を意味し、
- X3がT又はDのアミノ酸残基を意味し、
- X4がI、L又はEのアミノ酸残基を意味し、
- (i)X5がVを意味し、X6がGを意味するか、又は(ii)X5がGを意味し、X6がVを意味し、
- 39位に位置するアミノ酸がAである、ペプチドに関する。
【0021】
前記ペプチドの一部の実施形態では、X1は、Gのアミノ酸残基を意味する。
【0022】
前記ペプチドの一部の実施形態では、X2は、A、D、E、F、G、I、L、N、M、Q、S、T、V及びYからなる群において選択されるアミノ酸残基を意味する。
【0023】
前記ペプチドの一部の実施形態では、X3は、Dのアミノ酸残基を意味する。
【0024】
前記ペプチドの一部の実施形態では、X4は、E又はLのアミノ酸残基を意味する。
【0025】
一部の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0026】
一部の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6を含む群において選択されるペプチドとの80%以上のアミノ酸同一性を有する。一部の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6を含む群において選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、前記ペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5及び配列番号6を含む群において選択されるアミノ酸配列からなる。
【0027】
前記ペプチドは、検出可能分子により標識され得る。
【0028】
また、本開示は、上記のペプチドをコードする核酸に関し、この核酸は、発現ベクターに含まれ得る。
【0029】
本開示は、上に定義するペプチド及び生理学的に許容される担体を含む、医薬組成物に更に関する。
【0030】
また、本開示は、医薬としての使用のための上記のペプチドに関する。また、これは、正常血液量又は血液量減少性の低ナトリウム血症、抗利尿不適合の腎性症候群、先天性腎性尿崩症、多発性嚢胞腎、がん、血栓症、メニエール病、難治性肝疾患、及び心不全により特徴付けられる病態からなる群において選択される疾患を処置するための使用のための前記ペプチドに関する。
【0031】
また、本開示は、バソプレシン2受容体を発現する細胞を検出するための、上記の標識されたペプチドのin vitroでの使用に関する。
【0032】
本開示は、バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全を検出するためのin vitroでの方法であって、
a)検査する細胞を用意する工程と、
b)工程a)において用意した細胞を請求項11に記載の標識されたペプチドと接触させる工程と、
c)バソプレシン2受容体細胞発現の発現レベル値を測定する工程と、
d)工程c)において得られた発現レベル値を参照発現レベル値と比較する工程と、
e)バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全の発生率を決定する工程と
を含む方法に更に関する。
【0033】
また、本開示は、上記の標識されたペプチドを含む診断試薬に関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】配列番号7の公知のMQ1 V2Rアンタゴニストペプチド(「U-Da2a」とも呼び得る)及び配列番号6の本開示によるMQ-LEADと呼ぶV2Rアンタゴニストそれぞれの免疫原性のin silicoでの予測を例示する図である。 欧州及び北米人集団において最も高頻度の分子の中からHLA-DR分子を選択することにより、2つのペプチドの配列をNETMHCNETMHCPAN3.2ソフトウェア(www.IEDB.org)に入力した。 NETMHCソフトウェアにより、HLAクラスII分子と配列のあり得る関連の予測が可能となる。選択されたクラスII HLA分子は、欧州及び北米人集団において最も高頻度の分子のうちの1つである。予測スコアは、パーセンタイルであり、これは、第1のアミノ酸に対するアミノ酸9個の各配列について報告する。スコアが低いほど、HLAクラスII分子と配列の関連は強力となると予想される。 図1では、付番した各列は、57アミノ酸残基の長さのペプチドのそれぞれのアミノ酸残基に対応する。上パネル:公知のMQ1 V2Rアンタゴニストペプチド。下パネル:配列番号6のMQ-LEADペプチド。「DRBx_nnnn」と名付けられた行では、DRBxは、HLA-DRBの座位の名称であり、nnnnは、アレルの数である。 免疫原性スコア:(i)スコアが10%未満(黒色)、(ii)10~20%(濃灰色)、及び(iii)20%~30%(淡灰色)。下パネルにおける太字及び下線の位置は、MQ1ペプチドと比較した場合のMQ-LEADペプチドのアミノ酸残基における差異と一致する。
図2】公知のMQ1ペプチドのV2R結合特性と比較した場合の、V2Rへの本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドの結合を例示する図である。横座標:検査したV2Rアンタゴニストペプチド又はMQ1ペプチドのモル濃度のlog。縦座標:3H-AVP結合、対照の%。
図3A】利尿に対するV2Rアンタゴニストペプチドの作用を例示する図である。検査するV2Rアンタゴニストペプチドを毎日3nmol/kgでラットにi.p.で注入し(スプラーグドーリー)、利尿を経時的に経過観察した。 横座標:期間を時間で表す。縦座標:利尿をml/h/kgで表す。検査条件;(i)MQ1ペプチド[黒色の丸「●」、破線]、(ii)MQ-LEAD[黒色の四角「□」、実線]及び(iii)MQ K39A[黒色の三角「
【数1】
」、実線]。
図3B】利尿に対するV2Rアンタゴニストペプチドの作用を例示する図である。検査するV2Rアンタゴニストペプチドを毎日3nmol/kgでラットにi.p.で注入し(スプラーグドーリー)、利尿を経時的に経過観察した。 横座標:左から右に(i)MQ-LEAD[黒色の棒]、(ii)MQ1ペプチド[破線の棒]及び(iii)MQ K39A[空白の棒]。
図4】実験的試験設計の模式図を例示する図である。
図5】0日目にDDAVPを移植した雄ラットにおける0~2~3~4日目のナトリウム血症に対する3用量のMQ-LEAD、1用量のトルバプタン及びこれらのビヒクルの作用を例示する図である。 横座標:期間を日数で表す。縦座標:血中Na+濃度をmMで表す。検査条件:(i)白抜きの丸「〇」:トルバプタンのビヒクル、蒸留水中1%のHPMC、(ii)黒色の四角「
【数2】
」:V2RアンタゴニストペプチドMQ-LEADのビヒクル、生理食塩水、(iii)白抜きの四角「□」:トルバプタン、(iv)逆三角「
【数3】
」:20μg/kgのMQ-LEAD、(v)菱形「●」:60μg/kgのMQ-LEAD、及び(vi)黒色の四角「
【数4】
」:200μg/kgのMQ-LEAD。
図6】V2RアンタゴニストペプチドによるcAMP産生の阻害を例示する図である。横座標:ペプチドの濃度を-Log(M)で表す。縦座標:cAMP産生の阻害を対照のパーセントで表す。(i)丸「●」:MQ1ペプチド、(ii)四角「
【数5】
」:MQ K39Aペプチド、(iii)三角「
【数6】
」:MQ-LEADペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
「対象」という用語は、治療を所望しているか、又は臨床試験、疫学調査に参加しているか、若しくは対照として使用される、単一の任意の対象を指し、ヒト及び哺乳動物患畜、例えば、ウシ、ウマ、イヌ及びネコを含む。特定の好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0036】
がんを「処置する(treat)又は処置する(treating)」という用語は、本明細書において使用する場合、本発明による併用療法を、がんを有する対象に施すことを意味する。
【0037】
「薬学的に許容される」という用語は、一般に安全、非毒性、かつ生物学的物質でも他の望ましくない物質でもない、医薬組成物の調製において有用な物質を意味し、家畜並びにヒトのための薬学的使用に許容される物質を含む。
【0038】
本発明の範囲では、核酸又はペプチド/タンパク質の2つの配列間の「パーセント同一性」は、最適アラインメント後に得られた、比較する2つの配列間の同一ヌクレオチド又はアミノ酸残基のパーセントを意味し、このパーセントは、純粋に統計学的であり、2つの配列間の差は、これらの長さに沿ってランダムに分布する。配列の比較は、これらを最適にアラインメントした後に配列を比較することにより伝統的に行い、前記比較は、セグメント、又は「アラインメントウインドウ」の使用により行うことが可能である。比較のための配列の最適アラインメントは、手動による比較に加えて、Smith及びWaterman(1981)の局所的相同性アルゴリズム、Neddleman及びWunsch(1970)の局所的相同性アルゴリズム、Pearson及びLipman(1988)の類似性検索方法、又はこのようなアルゴリズムを使用するコンピュータソフトウェア(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、Genetics Computer Group社、575 Science Dr.、Madison、WI又は比較ソフトウェアBLAST NR若しくはBLAST P)により行うことができる。
【0039】
2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列間の最適アラインメントの参照配列と比較して、比較する配列が付加又は欠失を有し得る、2つの最適アラインメント配列の比較により決定する。パーセント同一性は、2つの配列間、好ましくは、2つの完全配列間で、ヌクレオチド又はアミノ酸残基が同一である位置の数を決定し、同一位置の数をアラインメントウインドウにおける位置の総数で割り、この結果に100を掛けて2つの配列間のパーセント同一性を得ることにより算出する。
【0040】
本明細書において使用する場合、「V2Rアンタゴニスト活性」は、(i)V2R、最も好ましくは、ヒトV2Rに100nM未満の結合親和性の値で結合し、(ii)cAMP産生が1000nM未満のIC50値で阻害される、物質の活性、例えば、ペプチドの活性に関する。
【0041】
開示の詳細
本開示は、医療及び診断用に主に使用し得る、バソプレシン2受容体アンタゴニストのファミリーに関する。
【0042】
本発明者らは、in vitro及びin vivoの両方において高度に強力なバソプレシン2アンタゴニストとして挙動する、特異的構造的特徴を共有するペプチドのファミリーを同定した。このようなペプチドは、国際公開第2014/041526号により公表されたPCT出願に記載の公知のMQ1ペプチド(「U-Da2a」とも呼ばれる)に由来する。
【0043】
本発明者らは、共通の特徴としてアミノ酸の39位にリジン(K)残基が存在する複数のMQ1由来ペプチドにより、ヒトバソプレシン2受容体(本明細書において「V2R」とも呼ばれる)の活性がナノモルレベルで阻害されることを見出した。顕著なことには、開示される前記ファミリーのペプチドは、公知のMQ1ペプチドのそれよりも有意に高いV2R阻害能を有する。このようなペプチドは、公知のMQ1ペプチドよりも数倍高いV2R親和性、例えば、公知のMQ1ペプチドと比較して8倍高いV2R親和性を有する。
【0044】
本明細書に開示されているこのようなペプチドは、バソプレシン2受容体の強力なアンタゴニスト化合物として挙動し、次いで、本明細書において「V2Rアンタゴニストペプチド」と集合的に呼ぶ。
【0045】
実施例に示すように、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドは、公知のMQ1ペプチドよりもはるかに低い濃度で、バソプレシン活性下でのV2R発現細胞によるcAMP産生を強力に阻害する。
【0046】
In vivoでは、本開示のV2Rアンタゴニストペプチドは、水利尿作用を実際に誘導する。顕著なことには、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドは、低ナトリウム血症を処置するために最も治療的に使用されるV2Rアンタゴニスト化合物であるトルバプタンよりも約500倍強力である。即ち、このような生理学的文脈において、実際、これまでに使用されている主要V2Rアンタゴニスト化合物よりも約500倍強力である。
【0047】
V2Rアンタゴニストペプチド
本開示は、以下の配列番号1のアミノ酸配列:
【0048】
【化2】
【0049】
との80%以上のアミノ酸同一性を有する配列を含むペプチドであって、
式中、
- X1がF又はGのアミノ酸残基を意味し、
- X2が塩基性アミノ酸残基を除く任意のアミノ酸残基を意味し、
- X3がT又はDのアミノ酸残基を意味し、
- X4がI、L又はEのアミノ酸残基を意味し、
- (i)X5がVを意味し、X6がGを意味するか、又は(ii)X5がGを意味し、X6がVを意味し、
- 39位に位置するアミノ酸がAである、ペプチドに関する。
【0050】
本明細書において使用する場合、「Xn」及び「Xn」は、非差別的に使用して、同一の可変アミノ酸残基を意味し得る。
【0051】
本明細書において使用する場合、アミノ酸残基は、アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リジン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)及びバリン(V)、並びにDアミノ酸、ベータアラニン、ガンマ-アミノ酪酸、デルタ-アミノレブリン酸、4-アミノ安息香酸、アミノイソ酪酸、デヒドロアラニン、シスチン、シスタチオニン、ランチオニン、ジエンコル酸、ジアミノピメリン酸、ノルロイシン、アロイソロイシン、イソセリン、N-エチルグリシン、N-プロピルグリシン、N-イソプロピルグリシン、N-メチルアラニン、N-エチルアラニン及びイソセリンを含むアミノ酸類似体からなる群において選択され得る。
【0052】
しかし、アミノ酸残基は、最も好ましくは、従来のアミノ酸残基20種からなる群において選択される。
【0053】
本発明のペプチドにおけるすべてのアミノ酸は、D又はLの両型であり得るが、天然に存在するL型が好ましい。
【0054】
いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明者らは、本明細書に開示されているペプチドの高いV2Rアンタゴニスト特性と配列番号1のアミノ酸の39位におけるアラニン残基(A)の存在との間に直接的関連性が存在すると考える。
【0055】
本明細書の実施例に示すように、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドはまた、免疫原性の低下が賦与されていることが予想される。このようなペプチドによる免疫原性の低下によって、V2R機能不全に関連する種々の病態、特に、対象へのこれらの反復投与を必要とする病態、例えば、例示的には、抗利尿不適合の腎性症候群、又は先天性腎性尿崩症の処置にこれらを使用するのに適格であるとすることが可能である。
【0056】
更に、いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、本発明者らは、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、公知のMQ1ペプチドにおいて示されたように、V2Rに対して高度に選択性であると考える。実際、V2Rに対するV2Rアンタゴニストペプチドの高選択性は、治療目的のために投与した場合、望ましくない作用が低いことが予想されることを意味し、これは例えば、V2Rに対する中等度の選択性のために多数の望ましくない作用が報告されている、大いに使用されるV2Rアンタゴニストであるトルバプタンとは対照的である。
【0057】
本発明者らは、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドの親和性は、X2アミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基からなる場合を除いて、X2アミノ酸残基の同一性により実質的に影響されないと考える。対照的に、X2アミノ酸残基としての塩基性アミノ酸残基の存在は、V2Rに対するペプチドの親和性に負に影響し、V2Rに対する結合能の変化の原因となる。
【0058】
X2アミノ酸残基の場合を含み、本明細書において使用する場合、塩基性アミノ酸残基は、従来又は非通常性アミノ酸残基のいずれかのアミノ酸残基からなり、これは、pH7.0に正荷電している。塩基性の従来のアミノ酸残基は、K(リジン)、R(アルギニン)及びH(ヒスチジン)からなる群において選択される。
【0059】
したがって、好ましい実施形態では、X2は、K、R及びHを除く任意のアミノ酸残基を意味する。
【0060】
好ましい実施形態では、X2は、A、D、E、F、G、I、L、N、M、Q、S、T、V及びYからなる群において選択されるアミノ酸残基を意味する。
【0061】
他の好ましい実施形態では、X2は、N、A、E、F及びIからなる群において選択されるアミノ酸残基を意味する。
【0062】
更に好ましい実施形態では、X2は、N又はAのアミノ酸残基を意味する。
【0063】
同様に、本明細書に開示されているV2RアンタゴニストペプチドのC末端に位置する2つの天然アミノ酸X5及びX6の同一性は、V2Rに対する前記ペプチドの結合能に実質的に影響しない。
【0064】
最も好ましい実施形態では、本開示は、配列番号1のペプチドとの80%以上のアミノ酸同一性を有し、配列番号1のペプチドと比較してアミノ酸残基の欠失及び付加を含まない、ペプチドに関する。したがって、最も好ましくは、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、57アミノ酸の長さを有し、そのアミノ酸配列は、配列番号1と比較してアミノ酸欠失及びアミノ酸付加を含まない。
【0065】
配列番号1との80%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドは、最も好ましくは、配列番号1と比較してアミノ酸残基の1つ又は複数の置換の存在により配列番号1のペプチドと排他的に異なるペプチドからなり、これによりペプチドは、57アミノ酸残基の長さを有し、配列番号1と比較して1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0066】
配列が配列番号1との80%のアミノ酸同一性を有するペプチドは、配列番号1と比較して最大11個のアミノ酸置換を含み得る。本開示は、配列番号1と比較して、あるアミノ酸残基の置換を1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11個有するペプチドを包含する。
【0067】
したがって、本開示は、配列番号1との80%以上のアミノ酸同一性を有し、V2Rアンタゴニスト活性が維持される限り、1つ又は複数のアミノ酸残基、ペプチド結合、タンパク質のN及び/又はC末端における1つ又は複数の修飾を含む、アミノ酸配列を含むV2Rアンタゴニストペプチドを包含する。当業者に公知の従来方法によりペプチドに導入するこのような修飾は、非限定的に、非タンパク質原性アミノ酸(Dアミノ酸又はアミノ酸類似体)との天然アミノ酸の置換、特に、retro若しくはretro-inverso型の結合又はペプチド結合とは異なる結合による、ペプチド結合の修飾、環化、及び特に本明細書に記載のV2Rペプチドアンタゴニストへの目的の作用剤のカップリングのためのタンパク質の側鎖又は末端(複数可)への化学基の付加を含む。このような修飾は、V2Rアンタゴニストペプチドを標識するため、或いはV2Rに対するこの親和性、生物学的利用率、及び/又は安定性を更に向上させるために使用し得る。
【0068】
一部の実施形態では、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドにおいて、エンドプロテアーゼにより標的とする1つ又は複数のアミノ酸残基は、これらに対応する非天然D型により置換する。例えば、トリプシンの標的である1つ又は複数のアルギニン及び/又はリジン残基は、これらに対応する非天然型により置換することができる。
【0069】
一部の実施形態では、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドにおいて、1つ又は複数のジスルフィド結合は、非天然結合により置換する。好ましくは、前記非天然結合は、還元に対して耐性であり、例えば、チアゾリジンリンカーなどである。このようなリンカーにより、生体液中に存在する還元剤に対する本発明のタンパク質の耐性が向上する。
【0070】
最も好ましくは、配列番号1と比較して1つ又は複数のアミノ酸置換を含むペプチドを包含する、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、配列番号1の5及び55位に対応するアミノ酸位置に位置するシステイン残基を含む。
【0071】
最も好ましくは、配列番号1と比較して1つ又は複数のアミノ酸置換を含むペプチドを包含する、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、配列番号1の14及び38位に対応するアミノ酸位置に位置するシステイン残基を含む。
【0072】
最も好ましくは、配列番号1と比較して1つ又は複数のアミノ酸置換を含むペプチドを包含する、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、配列番号1の30及び51位に対応するアミノ酸位置に位置するシステイン残基を含む。
【0073】
本明細書に開示されているペプチドの一部の実施形態では、X1は、G(グリシン)のアミノ酸残基を意味する。
【0074】
本明細書に開示されているペプチドの一部の実施形態では、X2は、A(アラニン)のアミノ酸残基を意味する。
【0075】
本明細書に開示されているペプチドの一部の実施形態では、X3は、D(アスパラギン酸)のアミノ酸を意味する。
【0076】
本明細書に開示されているペプチドの一部の実施形態では、X4は、E(グルタミン酸)又はL(ロイシン)のアミノ酸残基を意味する。
【0077】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドであって、X1~X6のそれぞれが、1つがその他に非依存的に、配列番号1について記載の意味を有する、ペプチドに関する。また、これは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドであって、X1~X6のそれぞれが、1つがその他に非依存的に、配列番号1について記載の意味を有する、ペプチドに関する。
【0078】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドであって、X1がFを意味し、X2がNを意味し、X3がTを意味し、X4がIを意味し、X5及びX6が配列番号1についての意味と同一の意味を有する、ペプチドに関する。最も好ましくは、X5はVを意味し、X6はGを意味する。本開示は、配列番号2のペプチドとの80%のアミノ酸同一性を有するペプチドに更に関し、これは、配列番号2からなるペプチドを包含する。
【0079】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドであって、X1がFを意味し、X2がNを意味し、X3がTを意味し、X4がLを意味し、X5及びX6が配列番号1についての意味と同一の意味を有する、ペプチドに関する。最も好ましくは、X5はVを意味し、X6はGを意味する。本開示は、配列番号3のペプチドとの80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドに更に関する。また、これは、配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【0080】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドであって、X1がFを意味し、X2がAを意味し、X3がTを意味し、X4がLを意味し、X5及びX6が配列番号1についての意味と同一の意味を有する、ペプチドに関する。最も好ましくは、X5はVを意味し、X6はGを意味する。本開示は、配列番号4との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドに更に関する。また、これは、配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【0081】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドであって、X1がGを意味し、X2がNを意味し、X3がDを意味し、X4がIを意味し、X5及びX6が配列番号1についての意味と同一の意味を有する、ペプチドに関する。最も好ましくは、X5はVを意味し、X6はGを意味する。本開示は、配列番号5のペプチドとの80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドに更に関する。また、これは、配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【0082】
また、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列との80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドであって、X1がGを意味し、X2がNを意味し、X3がDを意味し、X4がEを意味し、X5及びX6が配列番号1についての意味と同一の意味を有する、ペプチドに関する。最も好ましくは、X5はVを意味し、X6はGを意味する。本開示は、配列番号6のペプチドとの80%以上のアミノ酸同一性を有するペプチドに更に関する。また、これは、配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチドに関する。
【0083】
また、本開示は、次の式(I):
[Nt-EXT]n-L1x-[V2R-AP]-L2y-[Ct-EXT]m (I)
の化合物であって、
- [Nt-EXT]が、本明細書に開示されているV2RアンタゴニストペプチドのN末端に共有結合する化学部分を意味し、
- [V2R-AP]が、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドを意味し、
- [Ct-EXT]が、本明細書に開示されているV2RアンタゴニストペプチドのC末端に共有結合する化学部分を意味し、
- n及びmのそれぞれが、0又は1に等しい整数を非依存的に意味し、
- L1及びL2のそれぞれが、存在する場合、(i)[Nt-EXT]と[V2R-AP]との間及び(ii)[Ct-EXT]と[V2R-AP]との間のそれぞれの相互作用の阻害を回避し得るリンカー部分であり、更に重要なことには、L1及びL2のそれぞれが、存在する場合、[Nt-EXT]及び[Ct-EXT]のいずれかが、V2RへのV2Rアンタゴニストペプチド[V2R-AP]の結合に影響することを防ぐのに有用であり、
- x及びyのそれぞれが、0又は1に等しい整数を非依存的に意味する、化合物に関する。
【0084】
一部の好ましい実施形態では、[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]は、存在する場合、非タンパク質化学部分、例えば、V2Rアンタゴニストペプチドの標識に使用する非タンパク質検出可能分子放射性化学部分若しくはフルオロフォア含有化学部分、又は安定化部分のような、例えば、ZZ、DsBa及びDsBbを非依存的に意味する。このような実施形態の一部では、[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチドの生物学的利用率を向上させ、特に、この尿除去を低下させる作用剤、例えば、ポリエチレングリコール分子などである。一部の好ましい実施形態では、[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]は、存在する場合、ポリアルキレングリコール、特に、ポリエチレングリコールを非依存的に意味する。このような好ましい実施形態は、H-(O-CH2-CH2)n-O-の式のポリエチレングリコールを包含し、式中、nは、5~20、有利には、10~15の範囲の整数であり、例えば、nは、12を意味する整数からなる。
【0085】
一部の他の好ましい実施形態では、[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]は、存在する場合、タンパク質部分を非依存的に意味し、これは、本発明のタンパク質の精製、検出、固定、及び/若しくは細胞標的化が可能となり、並びに/又はV2RアンタゴニストペプチドのV2Rに対する親和性、生物学的利用率、発現系における生成、及び/若しくは安定性を向上させるものを含むタンパク質/ペプチド部分を包含する。このようなタンパク質部分は、(i)標識部分、例えば、蛍光タンパク質(GFP及びこの誘導体、BFP及びYFP)、(ii)レポーター部分、例えば、酵素タグ(ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルタチオン-トランスフェラーゼ(GST)、βガラクトシダーゼ)、(ii)支持体上における固定のための結合部分、例えば、エピトープタグ(polyHis6、FLAG、HA、myc)、DNA結合ドメイン、ホルモン結合ドメイン、ポリ-リジンタグ、及び(iii)式(I)の化合物を特定の細胞型又は細胞コンパートメントに位置を指定するための標的部分から選択され得る。加えて、式(I)の化合物は、有利には、[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]のそれぞれを[V2R-AP]に結合するリンカー(L1、L2)を含み、このリンカーは、存在する場合、[V2R-AP]の配列と[Nt-EXT]及び/又は[Ct-EXT]のそれぞれとの間の相互作用の阻害を回避するのに十分な長さである。また、L1及び/又はL2リンカーは、例えば、本発明による精製キメラタンパク質から親和性タグ及び安定化部分を除去するための、プロテアーゼ認識部位を含み得る。
【0086】
一部の実施形態では、L1及び/又はL2リンカー部分は、例えば、本開示による式(I)の化合物から親和性タグ及び安定化部分を除去するための、プロテアーゼ認識部位を含み得る。
【0087】
加えて、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、又は式(I)の化合物の一部の実施形態は、有利には、生理学的特性を変化させるため、特に、生物における半減期(グリコシル化:HAUBNE R.ら、J. Nucl. Med.、2001、42、326~36頁;PEGによるコンジュゲーション:KIM TH.ら、Biomaterials、2002、23、2311~7頁)、溶解性(アルブミンによるハイブリダイゼーション:KOEHLER MF.ら、Bioorg. Med. Chem. Lett.、2002、12、2883~6頁)、プロテアーゼに対する耐性(非天然アミノ酸(例えば、D立体構造)及び/又は腸管吸収(Lienら、TIB、2003、21、556~頁)を向上させるために、当業者に周知の手段により修飾し得る。
【0088】
V2Rアンタゴニストペプチドの合成
本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチドは、公知のクローニング技術又は化学合成により生成することができる。
【0089】
例えば、V2RアンタゴニストペプチドをコードするDNAは、クローニング技術の使用により調製し、自己複製ベクターに挿入して組換えDNAを調製する。組換えDNAは、適切な宿主、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、放線菌(Actinomyces)、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、及び動物細胞に導入して形質転換体を得る。形質転換体の培養生成物から、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドを得ることができる。或いは、V2RアンタゴニストペプチドをコードするDNAを調製し、コムギ胚芽及び大腸菌由来の細胞抽出物を使用して無細胞タンパク質合成系に供して、本開示によるペプチドを合成する。
【0090】
本開示は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、又は前記核酸を含む組換えベクターの使用を包含する。V2Rアンタゴニストペプチドを発現可能な形態でコードする核酸は、細胞又は無細胞系における発現時に機能性ペプチドが生じる核酸分子を指す。
【0091】
実際、式(I)の化合物がタンパク質からなる実施形態では、式(I)の前記化合物は、上記と同一の方法に従って、組換えタンパク質としても生成し得る。
【0092】
その上、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドのために通例の化学合成方法、例えば、「固相法」又は「液相法」を使用して、アミノ酸を連続的に結合し、脱水/縮合により伸長させる。化学合成によるV2Rアンタゴニストペプチドの合成方法は、本明細書の実施例に記載する。
【0093】
医薬組成物
本開示は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、又は一部の実施形態では、医療用、特に、V2R経路が関与する病態を処置するための、前記V2Rアンタゴニストペプチドを含む式(I)の化合物の使用に更に関する。
【0094】
また、本開示は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、或いは式(I)の化合物のタンパク質の一部の実施形態を発現可能な形態でコードする核酸、又は前記核酸を含む組換えベクターの使用を包含する。このようなタンパク質を発現可能な形態でコードする核酸は、細胞又は無細胞系における発現時に機能性タンパク質、即ち、V2Rアンタゴニストからなるタンパク質が生じる核酸分子を指す。
【0095】
したがって、本開示によれば、前記タンパク質、前記核酸、及び/又は前記組換えベクターは、薬学的に許容される担体を更に含む医薬組成物に含み得る。
【0096】
本開示による医薬組成物は、限定されないが、経腸(例えば、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、皮下、経皮、皮内、直腸、膣内、腹腔内、局所、粘膜、経鼻、頬側、舌下を含む多数の経路、及び/若しくは吸入による投与、並びに/又は口腔スプレー、鼻腔スプレー及び/若しくはエアロゾルとしての投与のために製剤化し得る。
【0097】
一部の実施形態では、本開示による医薬組成物は、先行技術により包含される任意の適する形態、例えば、注射用の溶液又は懸濁液、錠剤、コーティング錠、カプセル、シロップ、坐剤、クリーム、軟膏、ローションなどの形態であり得る。
【0098】
V2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物を含む医薬組成物は、凍結乾燥物の粉末形態で存在してもよく、ここで、活性成分は、糖、例えば、マンニトールと混合する。この使用では、このような医薬組成物は、一般に、適切な容量の水又は塩化ナトリウム溶液で再構成する。次いで、生じる液体医薬組成物は、適切な投与経路により投与し得る。
【0099】
医薬組成物では、V2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、及び任意選択で、持続放出マトリクス、例えば、生物分解性ポリマーと混合して、治療組成物を形成する。
【0100】
特定の実施形態では、医薬組成物は、1つ若しくは複数の塩、1つ若しくは複数の緩衝剤、及び/又は1つ若しくは複数の保存剤を更に含み得る。
【0101】
薬学的に許容される担体は、当業者に公知のものであり、従来使用されているものである。
【0102】
本開示の範囲内では、「薬学的に許容される担体」は、予防的又は治療的活性剤の運搬又は輸送に関与する、薬学的に許容される物質、組成物、又はビヒクル、例えば、液体若しくは個体の増量剤、希釈剤、賦形剤、ソルベント又は封入剤を指す。
【0103】
特定の実施形態では、適する薬学的に許容される担体は、糖、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース、グリコール、例えば、プロピレングリコール、ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール、エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム、パイロジェンフリー水、等張食塩水、リンゲル溶液、エチルアルコール、リン酸緩衝液などを含む群において選択され得る。
【0104】
本開示による医薬組成物は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、又は式(I)の化合物の選択された実施形態、又はこれをコードする核酸若しくは組換えベクターを、治療有効量、例えば、これを投与する個体に医療における利点をもたらすのに十分な量含む。薬学的に有効な用量は、使用する組成物の種類、投与経路、投与が単回又は複数可用量であるかどうか、処置する哺乳動物種(ヒト又は非ヒト哺乳動物)、年齢、健康状態、サイズ、体重を含む個体のパラメータの身体的特性、併用薬物治療、及び医療技術分野の当業者が認識する他の因子に依存する。したがって、本開示の範囲内では、投与する活性成分の有効量、特に、V2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物の量は、医師又は認められた当業者により決定してもよく、処置の時間経過内で好適に適応させることができる。
【0105】
V2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物は、上記の個体パラメータに応じて、体重1kgあたりの選択されたV2Rアンタゴニストペプチドを投与工程1回あたり0.1~300ナノモルの範囲の量で投与し得る。本発明者らは、体重1kgあたり0.1ナノモル未満の量の本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドの投与は、治療的に有効ではないと考える。また、本発明者らは、体重1kgあたり300ナノモルを超える量の本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドの投与により、望ましくない作用、恐らくは、一部の毒性作用が対象において生じると考える。
【0106】
実際、開示されているV2Rアンタゴニストペプチドのそれぞれの正確な分子量(Mw)は、常に決定可能である。
【0107】
本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドが6500のMwを有すると仮定すると、体重80kgを有する対象へのその0.1ナノモル/kgの投与は、52ngの前記ペプチドの前記対象への投与からなる。本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドが6500のMwを有するとなお仮定すると、体重80kgを有する対象へのその300ナノモル/kgの投与は、0.156mgの前記ペプチドの前記対象への投与からなる。
【0108】
明確とするために、選択された活性成分が本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドを含む一部の実施形態では、それを必要とする対象に投与する活性成分の量は、活性成分それ自体のMw値ではなく、それに含まれるV2RアンタゴニストペプチドのMw値に基づいて算出する。例示的には、活性成分が本明細書に開示されている式(I)の化合物である一部の実施形態では、それを必要とする対象に投与する活性成分の量は、活性成分それ自体のMw値ではなく、それに含まれる[V2R-AP]部分のMw値に基づいて算出する。
【0109】
本明細書において使用する場合、0.1nmole/kg以上の選択されたV2Rアンタゴニストペプチドの量は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15又は20nmole/kg以上の選択された前記V2Rアンタゴニストペプチドの量を包含する。
【0110】
本明細書において使用する場合、300nmole/kg以下の選択されたV2Rアンタゴニストペプチドの量は、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、150nmole/kg以下の選択された前記V2Rアンタゴニストペプチドの量を包含する。
【0111】
医療的使用
本開示は、医薬を調製するための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド又は本明細書に記載の式(I)の選択された化合物の使用に関する。また、これは、医薬としての使用のための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド又は本明細書に記載の式(I)の選択された化合物に関する。
【0112】
また、本開示は、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、若しくは本明細書に記載の式(I)の選択された化合物、又はこれをコードする核酸若しくは組換えベクターを、前記対象に投与する工程を含む、V2R経路が関与する病態に罹患している対象を処置するための方法に関する。
【0113】
また、本開示は、V2R経路が関与する病態に罹患している対象を処置するための医薬を調製するための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、若しくは本明細書に記載の式(I)の選択された化合物、又はこれをコードする核酸若しくは組換えベクターの使用に関する。
【0114】
本開示は、V2R経路が関与する病態に罹患している対象を処置するための使用のための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、若しくは本明細書に記載の式(I)の選択された化合物、又はこれをコードする核酸若しくは組換えベクターに更に関する。
【0115】
一部の実施形態では、活性成分、即ち、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物は、経時的に投与するいくつかの分割用量として、単回ボーラスとして投与し得るか、又は用量は、治療状況における緊急要件の指示に応じて、比例的に減少又は増加させ得る。投与の容易さ及び投与量の均一性のために治療剤を単位剤形に製剤化することは、特に有利であり得る。単位剤形は、本明細書において使用する場合、処置する哺乳動物対象のための投与単位として適する物理的に分離した単位を指し、所定量の活性化合物を含む各単位は、必要とされる医薬担体と関連して所望の治療作用をもたらすように算出する。本開示の単位剤形の仕様は、(a)活性成分のユニークな特性及び達成すべき特定の治療作用、並びに(b)個体における感受性に対処するために、このような活性成分の配合技術の分野に内在する制限により指示され、これらに直接依存し得る。
【0116】
したがって、当業者は、本明細書において提供する開示に基づいて、用量及び投与計画が、治療の技術的分野において周知の方法に従って調整されることを理解するであろう。即ち、最大許容用量は、容易に確立することができ、対象に検出可能な治療的利点をもたらす各作用剤の投与に対する時間的要件を決定可能であるように、対象に検出可能な治療的利点をもたらす有効量をも決定し得る。
【0117】
化学療法剤の投与のための適切な投与量及び計画の決定は、関連する技術分野において周知であり、本明細書に開示されている教示が提供されれば、この決定が本開示に包含されることが当業者により理解されるであろう。
【0118】
V2R経路が関与する病理は、(i)正常血液量又は血液量減少性の低ナトリウム血症により特徴付けられる病態、例えば、うっ血性心不全(CHF)、硬変、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)及び脳浮腫、(ii)抗利尿不適合の腎性症候群(NSIAD)、(iii)先天性腎性尿崩症(cNDI)、(iv)多発性嚢胞腎、(v)腎臓及び肺のがんを含むがん、(vi)血栓症、(vii)メニエール病、(viii)難治性肝疾患、並びに(ix)心不全を含むが、これらに限定されない。
【0119】
診断法
更なる態様によれば、本開示は、診断又は研究目的のために、生理学的若しくは病理学的条件下又は内因的若しくは外因的刺激に応答したV2R細胞発現を検出するための、光学画像化法、磁気共鳴画像化法(MRI)及びポジトロン放出断層撮影(PET)に適用可能な診断又は画像化試薬としての、V2Rアンタゴニストペプチド或いは式(I)の選択された化合物の使用に関する。これは、V2Rアゴニスト及びアンタゴニストを含むV2Rリガンドをスクリーニングするための薬物スクリーニングツールとしても使用し得る。
【0120】
好ましい実施形態では、V2Rアンタゴニストペプチドは、検出可能分子にカップリングすることにより標識する。
【0121】
次いで、本開示は、本明細書に記載の標識されたV2Rアンタゴニストペプチドに更に関する。
【0122】
単独又は他の組成物若しくは化合物と協調して検出可能なシグナルをもたらす能力を有する、従来の検出可能分子(標識)を使用し得る。適する検出方法としては、例えば、共焦点顕微鏡を含む免疫蛍光顕微鏡又はフローサイトメトリー(FACscan)による、蛍光標識を用いて直接又は間接的にタグ化した作用剤の検出、オートラジオグラフィーによる放射性標識された作用剤の検出、電子顕微鏡、免疫染色、細胞下分画などが挙げられる。一部の実施形態では、放射性元素(例えば、放射性アミノ酸)をペプチド鎖に直接組み込み、他の実施形態では、蛍光標識を、フルオレセインコンジュゲートペプチドとの結合などのビオチン/アビジン相互作用を介してペプチドに結合させ得る。
【0123】
本開示の実施形態では、検出手順は、標識された作用剤を色変化について視認可能に点検する工程、又は標識されたV2Rペプチドアンタゴニストを物理化学的変化について点検する工程を含む。物理化学的変化は、酸化反応又は他の化学反応により生じ得る。これらは、分光光度計などを使用して、眼により検出され得る。
【0124】
したがって、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチドの標識に有用な検出可能分子は、好ましくは、検出可能及び/又は定量可能なシグナル、特に、放射性、磁性、又は発光(放射発光、化学発光、生物発光、蛍光、又はリン光)剤を生成する標識剤である。標識されたタンパク質は、当業者に周知の標準的コンジュゲーション技術を使用して、共有又は非共有結合を介して直接又は間接的に標識され得る。標識剤の例としては、放射性同位体、例えば、テクネチウム99(99Tc)、フッ素18(18F)、トリチウム(3H)及びヨウ素125(125I)、発光剤、例えば、AlexaFluor、FITC及びシアニン3、常磁性造影剤、例えば、ガドリニウム化合物、及び超常磁性造影剤、例えば、酸化鉄ナノ粒子が挙げられる。
【0125】
明確とするために、検出可能分子にカップリングする本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドは、式(I)の化合物の実施形態からなってもよく、式中、[Nt-EXT]又は[Ct-EXT]の少なくとも1つが存在し(即ち、1を意味する整数m又はnの少なくとも1つを有する)、前記検出可能分子を含むか又はこれからなる。
【0126】
一部の好ましい実施形態では、標識された作用剤において、V2Rアンタゴニストペプチドは、放射性又は蛍光性作用剤に共有結合する。
【0127】
標識剤、例えば、蛍光性又は放射性作用剤のV2Rアンタゴニストペプチドへの共有結合は、(i)タンパク質の化学合成中にタンパク質のN若しくはC末端に標識剤を組み込むこと、又は(ii)反応基(遊離のシステイン、ビオチニル、アジド部分)を組換え又は合成タンパク質に組み込み、次いで、この基を使用して標識剤を共有結合させることにより達成し得る。
【0128】
好ましくは、標識剤は、V2RアンタゴニストペプチドのN末端もC末端もV2Rへのこの結合に関与しないため、タンパク質のN又はC末端に共有結合させる。
【0129】
本開示は、in vitro又はin vivoにおいてV2Rを発現する細胞を検出するための、本明細書に記載の標識されたV2Rアンタゴニストペプチドの使用に関する。また、これは、V2Rを発現する細胞によるV2R発現レベルを測定するための、in vitro又はin vivoにおける本明細書に記載の標識されたV2Rアンタゴニストペプチドの使用に関する。
【0130】
また、本開示は、バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全を検出するためのin vitroでの方法であって、
a)検査する細胞を用意する工程と、
b)工程a)において用意した細胞を本開示による標識されたV2Rアンタゴニストペプチドと接触させる工程と、
c)工程b)の終わりに用意した細胞によるバソプレシン2受容体の発現レベル値を測定する工程と、
d)工程c)において得られた発現レベル値を参照発現レベル値と比較する工程と、
e)バソプレシン2受容体細胞発現の制御不全の発生率を決定する工程と
を含む方法に関する。
【0131】
一部の実施形態では、工程d)において使用する参照発現レベル値は、V2R細胞発現の制御不全に罹患していない対象、即ち、V2R経路が関与する障害又は疾患に罹患していない対象の細胞において予想される、平均V2R発現レベル値からなる。
【0132】
一部の他の実施形態では、工程d)において使用する参照発現レベル値は、V2R細胞発現の制御不全に罹患している対象、即ち、V2R経路が関与する障害又は疾患に罹患している対象の細胞における、公知の、さもなければ決定した、又は決定可能なV2R発現値からなる。
【0133】
当技術分野において周知のように、AVP及びその受容体の異所発現(Northら、1999、Peptides、Vol. 20:837~842頁;Sinhaら、2019、Oncogene、Vol.30(6):1231~1245頁)が、乳房、膵臓、結腸直腸、及び肺のがんにおけるV2Rアゴニストの潜在的抗増殖作用(Garonaら、2015、Int J Oncol、Vol.46:2335~2345頁;Ripollら、2013、Breast Cancer Res Treat、Vol.142:9~18頁;Iannucciら、2011、Future Med Chem、Vol.3:1987~1993頁;Garonaら、2018、Cancer Res Treat、Vol.51(2):438~450頁;Pifanoら、2017、Front Oncol、7:11;Garonaら、2020、in Vitamins and Hormones、Vol.113:259~289頁)並びにヒト腎癌におけるV2Rアンタゴニストの抗増殖作用(Sinhaら、2019、Oncogene、Vol.30(6):1231~1245頁)とともに多数のがんにおいて報告されている。この文脈では、本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドは、容易に、V2Rを高発現するがん細胞を画像化するための興味深いプローブとなる。
【0134】
本開示の別の主題は、in vitroでの診断方法における、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチドの使用に関する。
【0135】
また、本開示の別の主題は、V2R発現レベルの上昇又は低下が関与する病理を診断するための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド又は本明細書に記載の式(I)の選択された化合物のin vitro又はin vivoでの使用である。
【0136】
本開示の更なる主題は、V2R発現レベルの上昇又は低下が関与する病理を診断するためのin vitro又はin vivoでの使用のための、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド又は式(I)の選択された化合物である。
【0137】
一部の診断適用では、標識されたV2Rアンタゴニストペプチドを使用して、in vitro又はin vivoにおいて患者由来の組織におけるV2R発現を可視化し、この発現レベルを健常な個体由来の同一型の組織と比較して評価する。V2Rの高発現は、がんのような病態を示し、一方、V2Rの低発現は、先天性腎性尿崩症(cNDI)のような病態を示す。かつて診断法が確立されたため、例えば、がん又はcNDIを処置するための、V2Rアンタゴニストの使用を含む、診断された患者に有効な処置を決定することが可能である。
【0138】
また、本発明の主題は、V2Rを試験するための研究ツールとしてのV2Rアンタゴニストペプチドの使用である。
【0139】
本開示の別の主題は、
a)解析する細胞を標識されたV2Rアンタゴニストペプチドと接触させる工程と、
b)標識された細胞を検出する工程と
を含む、in vitro又はin vivoにおいてV2Rを検出するための方法である。
【0140】
細胞の標識は、特に、当業者に公知の任意の技術(蛍光顕微鏡、フローサイトメトリー、磁気共鳴画像化法)により検出可能な蛍光標識又は磁気標識である。
【0141】
in vivoでの哺乳動物の体内におけるV2R受容体の検出(細胞画像化)は、特に、リアルタイムでは、前記標識されたV2Rアンタゴニストペプチドを前記哺乳動物に投与する前工程(非経口注入、経口投与)を含む。
【0142】
本開示の別の主題は、V2Rリガンドをスクリーニングするための、本明細書に開示されているV2Rアンタゴニストペプチドの使用である。
【0143】
また、本開示の主題は、
a)V2Rを検査分子及び本開示の標識されたV2Rアンタゴニストペプチドとともにインキュベートする工程と、
b)検査分子の存在及び非存在下でそれぞれ得られたシグナルを測定する工程であって、検査分子を有しない対照と比較して分子存在下のシグナルが低いと、検査分子がV2Rリガンドであることを示す、工程と
を含む、V2Rリガンドをスクリーニングするための方法である。
【0144】
次いで、同定したリガンドのV2Rに対するアゴニスト、アンタゴニスト作用を、V2Rを発現する細胞において、本出願の実施例に開示されているもののような当技術分野において周知の薬理学的アッセイを使用して検査する。
【0145】
また、本開示は、(a)溶液又は凍結乾燥形態の、本明細書に記載のV2Rアンタゴニストペプチド、これをコードする核酸若しくは組換えベクター、修飾宿主細胞、医薬組成物、診断若しくは画像化試薬の1つ又は複数を含む、第1の容器、(b)任意選択で、希釈剤又は凍結乾燥製剤のための再構成溶液を含む、第2の容器、(c)任意選択で、溶液又は凍結乾燥形態の、単離V2R受容体、又はV2Rを発現可能な宿主細胞、任意選択で、溶液(複数可)の使用及び/又は再構成及び/又は凍結乾燥製剤(複数可)の使用のための説明書を含む、第3の容器を含む、キットを提供する。
【0146】
本開示は、本明細書に実施例により更に例示するが、これらには決して制限されない。
【実施例
【0147】
(実施例1)
V2Rアンタゴニストペプチドの活性
A.材料及び方法
ペプチドの化学合成
ぺプチド合成は、12.5μモル規模のGyros Protein Technologies, Inc社のPrelude合成装置上で実施し、脱保護、精製して、記載のようにフォールドさせた(Ciolekら、2017、Proc Natl Acad Sci USA、Vol.114:7154~7159頁)。
【0148】
95%を超える純度を有するペプチドバッチをすべての実験において使用した。MQ1の自動合成及びN末端アミン官能基の脱保護後、6-アジドヘキサンを樹脂上にカップリングした。6-アジドヘキサン2eqは、ジイソプロピルエチルアミン2eqの存在下でカップリング剤HCTU(1.9eq)により60分間、2回カップリングした。6-アジドヘキサン-MQ1を樹脂から切断し、MQ1 V2Rペプチドアンタゴニストを精製及び酸化した。DFO-DBCO(DMF 200μlに溶解したp-イソチオシアナトベンジルデフェロキサミン-ジアリルビシクロオクチン)又はCy5.5-DBCO(HEPES緩衝液200μlに溶解)又はAFDye-488-DBCO(HEPES緩衝液200μlに溶解)10eqをHEPES緩衝液(200μl、pH7.4)に溶解した0.3μmolの6-アジドヘキサン-MQ1と混合し、室温で一晩放置してHPLCにより精製した。
【0149】
B.結果
ヒトバソプレシン2受容体(V2R)に対するこれらの結合親和性について、多様なMQ1由来ペプチドを検査した。
【0150】
結果を以下のTable 1(表1)に要約する。
【0151】
【表1】
【0152】
Table 1(表1)に開示されている配列と配列表に記載されている配列との間で矛盾する場合では、正しい配列は、Table 1(表1)に列挙する配列である。
【0153】
Table 1(表1)に示す結果は、公知のMQ1 V2Rアンタゴニストペプチドと比較して0.5以下のIC50比の値を呈する、検査した最も効率的なペプチドはすべて、公知のMQ1 V2Rアンタゴニストペプチドにおけるアミノ酸の39位に位置するリジン残基が、アラニン残基により置換されているペプチド(従来「K39A」と表すアミノ酸変化)であることを示す。最も効率的なV2Rアンタゴニストペプチドは、次のペプチドである:
- 配列番号2のアミノ酸配列の「K39A」ペプチド、
- 配列番号3のアミノ酸配列の「K39A+I48L」ペプチド、
- 配列番号4のアミノ酸配列の「N15A+K39A+I48L」ペプチド、
- 配列番号5のアミノ酸配列の「F4G+K39A+T27D」ペプチド、及び
- 本明細書において「MQ-LEAD」とも呼ぶ、配列番号6のアミノ酸配列の「F4G+K39A+T27D I48E」ペプチド。
【0154】
(実施例2)
V2Rアンタゴニストペプチドの免疫原性及び選択性
A.材料及び方法
A.1.免疫原性
タンパク質製剤の免疫原性は、依然として、これらの開発失敗の主要なリスクであり、このため、医薬品産業における非常に重要な懸念事項である。免疫原性は、免疫応答を誘導する分子の能力である。この応答から生じる抗体(抗薬物抗体、又はADA)により、タンパク質の治療活性を阻害するか、又はアレルギー症候を更には誘導することができる。免疫応答が種依存的であるため、マウス及びラットのような動物は殆ど予測に役立たない免疫原性モデルであり、これらの動物によって、ヒトに注入した場合の分子の免疫原性が評価可能とはならない。免疫原性の前臨床評価は、ヒトにおける免疫応答を制御する機構に基づく。
【0155】
タンパク質製剤に対するADA応答は、主に、3つの異なる細胞型:i)抗体を産生するB細胞、ii)B細胞が抗体を分泌するのに必要な支援を行うCD4 T細胞、及びiii)タンパク質をペプチドとしてT細胞に呈示することにより、これらの活性化を引き起こす樹状細胞を含む。タンパク質を体内に注入した場合、タンパク質は、樹状細胞により取り込まれ、ペプチドに分解される。生成されたペプチドの一部は、HLAクラスII分子に結合するのに適切なアンカー残基を有し、T細胞に呈示される。T細胞により認識されるペプチドは、Tエピトープと呼ばれる。HLAクラスII分子は多型であるため、Tエピトープは分子によって変動し、このため、これらのHLAクラスII分子に基づいて個体間で変動する。
【0156】
ADA応答におけるTリンパ球の役割を考慮すると、タンパク質製剤の免疫原性は、Tリンパ球を活性化するこれらの能力に高度に依存性であり、このため、Tエピトープをこれらの配列に含む。Tエピトープ含量の評価は、予測ソフトウェアを使用して行うことができ、この最も効率的なソフトウェアは、NETMHCである。U-Da2a及びMQ-LEADにおける潜在的Tエピトープの存在は、NETMHCソフトウェアにより検査した。
【0157】
A.2.選択性
プロテアーゼアッセイの一般的プロトコールは、次の通りである。
1 2X酵素を送達する
2 緩衝液を、酵素を含まないウェルに送達する
3 Acoustic技術(Echo550;ナノリットル範囲)を使用してMQ-WT(U-Da2a)を水中に送達する
4 5~15分間インキュベートする
5 2X基質を送達して反応を開始させる
6 回転及び振盪し、EnVisionにおいて室温で測定を開始する;5分間隔で25回(2時間)
7 測定値の直線部分の勾配*(シグナル/時間)を取得することによりデータを解析する
8 Excelを使用することにより勾配を算出し、Prismソフトウェアを使用して曲線適合を実施する
【0158】
特定の仕様は、本開示の終わりのTable 2(表3)に開示されている。
【0159】
緩衝液:
A 25mMのTris pH8.0、100mMのNaCl、0.01%のBrij35
B' 25mMのMES pH6、50mMのNaCl、0.005%のBrij35、5mMのDTT
B 75mMのTris pH7.0、0.005%のBrij35、3mMのDTT
B+EDTA 75mMのTris pH7.0、1mMのEDTA、0.005%のBrij35、3mMのDTT
C 100mMのTris-HCl、pH8.0、50mMのNaCl、10mMのCaCl2、0.025%のCHAPS、1.5mMのDTT
D 25mMの酢酸ナトリウムpH5.5、0.1MのNaCl、5mMのDTT
E 25mMの酢酸ナトリウムpH3.5、5mMのDTT
F 25mMのTris pH9、150mMのNaCl
L 400mMの酢酸Na pH5.5、4mMのEDTA、8mMのDTT
X(フューリン) 100mMのTris-HCl、pH7.5、1mMのCaCl2、0.5%のTX-100、1mMのDTT
S 0.1Mの酢酸ナトリウムpH3.5、0.1MのNaCl
TCN 25mMのTris pH7.5、10mMのCaCl2、150mMのNaCl
TCNB 25mMのTris pH7.5、10mMのCaCl2、150mMのNaCl、0.05%のBrij35
Z 25mMのTris pH9、2.5μMのZnCl2、0.005%のBrij
KLK7緩衝液 50mMのTris、150mMのNaCl、pH8.5
ACE2緩衝液 75mMのTris、pH8.5、1MのNaCl
ネプリライシン緩衝液 50mMのTris、pH9.0
CTSD緩衝液 100mMの酢酸ナトリウムpH3.5、200mMのNaCl、0.02%のBrij35
CTSE緩衝液 100mMの酢酸ナトリウムpH3.5、500mMのNaCl、0.005%のTritonX-100
エラスターゼ緩衝液 50mMのTris、pH7.5、1MのNaCl、0.05%のBrij35
1×カスパーゼ緩衝液1 50mMのHEPES pH7.4、100mMのNaCl、0.01%のCHAPS、0.1mMのEDTA、10mMのDTT
1×カスパーゼ緩衝液2 50mMのHEPES pH7.4、1Mのクエン酸Na、100mMのNaCl、0.01%のCHAPS、0.1mMのEDTA、10mMのDTT
MMP緩衝液:50mMのHEPES(pH7.5)、10mMのCaCl2、0.01%のBrij-35、4℃で貯蔵する。使用前に0.1mg/mlのBSAを緩衝液に加える。
【0160】
B.結果
B.1.免疫原性
配列番号7の公知のMQ1ペプチド及び配列番号6のMQ LEADペプチドの予想免疫原性が算出されている。
【0161】
比較結果は、図1に示す。
【0162】
図1に示すように、公知のMQ1ペプチドに存在する免疫原性領域は、MQ LEAD V2Rアンタゴニストペプチドには、もはや見られない。
【0163】
MQ1(U-Da2a)では、高スコアを有するエピトープ6個(パーセンタイル10%未満)を含む潜在的エピトープ15個が同定されたが、MQ-LEADの配列では、潜在的Tエピトープが3個のみ同定された。このような潜在的Tエピトープ3個は、低スコアをも有する(パーセンタイル20~30%)。
【0164】
次いで、MQ-LEADペプチドは、公知のMQ1ペプチドよりもはるかに低い免疫原性リスクを呈する。
【0165】
B.2.選択性
バソプレシン2受容体に対する公知のMQ1ペプチドの選択性は、多数の分子への結合をアッセイすることにより検査した。
【0166】
結果は、本開示の終わりのTable 3(表4)に示す。
【0167】
Table 3(表4)の結果は、バソプレシン2受容体に対するMQ1ペプチドの選択性を例示する。
【0168】
(実施例3)
V2Rアンタゴニストペプチドの薬理学
A.材料及び方法-V2R結合アッセイ
バソプレシン受容体を発現する細胞の細胞膜をPERKINELMER社(Courtaboeuf、仏国)から購入した。96ウェルプレート内の3H-AVP(PERKINELMER社、Courtaboeuf、仏国)による結合実験を実施した。反応混合物は、最終容量100μL中に50mMのTris-HCl、pH7.4、10mMのMgCl2及び1g/LのBSAを含んだ。プレートを室温で3時間インキュベートした。結合反応は、細胞収穫器(PERKINELMER社、Courtaboeuf、仏国)上での0.5%のポリエチレンイミンに事前に浸漬したGF/Cフィルタによる濾過によって停止させ、プレートを乾燥させた。Ultimagold O(25μl;PERKINELMER社)を各ウェルに加え、TopCount計数器(PERKINELMER社、Courtaboeuf、仏国)を使用して試料を計数した(計数収率50%)。1μMのAVPの存在下で非特異的結合を測定した。Kaleidagraph(SYNERGY SOFTWARE社、Reading、PA、米国)を使用して、1部位阻害質量作用曲線を阻害結合データに対して適合させた。IC50値をKiに変換し、Cheng-Prusoff式を使用して比較実験を行った(Chengら、Biochem. Pharmacol.、1973、22、3099~3108頁)。
【0169】
B.結果
V2Rへの本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドの結合
結果は、図2に示す。
【0170】
図2の結果は、本開示によるMQ-LEADペプチドが、公知のMQ1(U-Da2a)ペプチドと比較した場合、バソプレシン2受容体に対する親和性における5倍の上昇を有することを示す。V2RアンタゴニストペプチドMQ K39Aにより、更に良好な結果が得られる。
【0171】
このような結果は、V2RアンタゴニストペプチドMQ-LEAD及びMQ K39Aが、強力なV2Rアンタゴニストペプチドとして挙動することを示す。
【0172】
(実施例4)
本開示によるV2Rアンタゴニストのin vivoでの活性
A.材料及び方法
A.1.in vivoでの利尿アッセイ
6~12週齢のスプラーグドーリーラットを代謝ケージ(Techniplast France社、Lyon、仏国)において2日間、食餌及び水を自由に与えて順応させた後、0.9%のNaClに溶解した3nmol/kgの種々のMQによるi.p.注入(固定容量1ml)を行った(仏国同意番号2015082111349702v1)。尿を種々の時点で採取し、20,800gで30分間遠心分離した。尿浸透圧を浸透圧計(Knauer社、Berlin、独国)により決定した。
【0173】
A.2.低ナトリウム血症実験モデルに対するin vivoでのアッセイ
低ナトリウム血症のラットモデル。特定病原体を含まない成体の雄スプラーグドーリーラット(体重445~525グラム)をJanvier laboratories社(Le Genest St.Isle、53941、Saint Berthevin Cedex、仏国)から入手し、動物舎条件に1週間、順応させた。我々は、これまでの論文(Miyazaki T、Yamamura Y、Onogawa T、Nakamura S、Kinoshita S、Nakayama Sら、Therapeutic effects of tolvaptan, a potent, selective nonpeptide vasopressin V2 receptor antagonist, in rats with acute and chronic severe hyponatremia. Endocrinology. 2005;146:3037~43頁)に拠る実験プロトコールを確立して、仏国教育研究省により承認された(n°18604-2019010915104191)ラット低ナトリウム血症モデルを発症させた。2.2mg/mLのデスモプレシン(dDAVP)の保存液を、5mgの薬物を生理食塩水中に溶解することにより調製した。dDAVPは、事前にdDAVPの溶液で満たした皮下ALZET浸透圧ミニポンプ(2002年モデル、DURECT Corporation社、Cupertino、CA95014、米国)を使用して投与した(ポンプ流量0.47±0.02μL/時間及び平均充填容量233.6±4.7μL)。dDAVP(10ng/時間)の用量は、予備実験において決定した。ブプレノルフィン(Centravet社、03120 Lapalisse、仏国)を0日目から3日目にs.c.により0.02mg/kgの用量で1日1回投与して術後疼痛を抑制した。ALZETポンプ移植後の最初の3日及び4日目の午前9時に水経管栄養(30mL/kg)を1日2回(午前9時及び午後4時に)実施した。体重を毎日測定して、投与する水の容量を調整した。ラットは、ケージ内で標準的ラット固形飼料並びに水を自由に摂食させた。生理食塩水に溶解したMQ1を10又は100μg/kgで2~3~4日目の午前10時に投与した(s.c.経路、0.8mL/kg)。0、2、3及び4日目の午前9時に、イソフルラン麻酔下のラットの尾静脈からリチウムヘパリネート(lithium heparinate)(Sanofi-Aventis社、Gentilly、仏国)を用いて血液400μLを採取した。試料を遠心分離した(4℃、2000g、5分)。仏国、ToulouseのENVT中央研究所により、VITROS 250/350/950/ 5,1 FS, 4600及び統合システムVITROS 5600(Ortho-Clinical Diagnostics社、Buckinghamshire、英国)上でナトリウムの定量を実施した。P<0.05、多重因子ANOVAの後Tukeyの検定。
【0174】
B.結果
B.1.利尿に対する本開示による2つのV2Rアンタゴニストペプチドの作用
結果は、図3に示す(図3A及び図3B)。図3の結果は、本開示のMQ-LEAD及びMQ K39Aの両ペプチドにより利尿が向上することを示す。
【0175】
B.2.低ナトリウム血症に対する本開示によるV2Rアンタゴニストペプチドの作用
本試験の目的は、CD系統(スプラーグドーリー)の正常な成体雄ラットにおけるDDAVP誘導低ナトリウム血症に対する、V2受容体の強力かつ選択的アンタゴニストであるマンバカレチンに由来するペプチド(MQ-LEAD)の作用を検査することであった。
【0176】
MQ-LEADペプチドを、低ナトリウム血症のラットモデルについて検証した。in vivoでのアッセイのスケジュールは、図4に示す。
【0177】
結果は、図5に示す。
【0178】
図5に示す結果は、D4において、トルバプタン(10mg/kg、経口経路)の作用が、ビヒクル処置群の値とで有意差を有することを示した。トルバプタン処置群におけるナトリウムの平均値(137.6±3.3mM)。D4では、3用量のMQ-LEAD(20、60及び200μg/kg、s.c.)の血漿ナトリウム濃度は、ビヒクル処置群の対応する値よりも有意に高かった。トルバプタンの用量(10mg/kg、p.o.)との直接比較では、MQ-LEADが、トルバプタンよりも500倍強力であり得ることが示唆される。D3及びD4の20及び60μg/kgのMQ-LEAD後のナトリウム値は、上昇するが、基底値(D0)に対して統計学的差異は有しなかった。
【0179】
(実施例5)
本開示のV2RアンタゴニストペプチドによるcAMP産生の阻害
A.材料及び方法
A.1.ヒトアルギニンバソプレシンを安定に発現するU2OS AVPR2A Nomad細胞株におけるMQ-WT、MQ-18(K39A)及びMQ-232(MQ-LEAD)のアンタゴニスト作用を調べた。
U2OS AVPR2 Nomad細胞株は、タグを有しない、ヒトアルギニンバソプレシン受容体2A(AVPR2A)を安定に発現するU2OS細胞を含む。この細胞株は、化合物をアッセイするか又はアルギニンバソプレシン受容体2A(AVPR2A)を調節するこれらの能力を解析するために設計した。アゴニストがAVPR2aに結合すると、Gsタンパク質が活性化され、次いでこれによって、cAMPにより媒介される細胞応答が引き起こされる。この細胞応答は、蛍光強度の上昇及びこの細胞分布を定量することにより測定することができる。
【0180】
A.2.受容体2A(V2R)
8種の濃度(3つ組で、1μM~1nM)において、1nMのヒトArg8-バソプレシンをアゴニストとして使用して、蛍光に基づくアッセイを使用して検査項目をアッセイした。
- 1日目。Nomad AVPR2 U2OS細胞株を解凍した(2×106細胞/T25)。
- 2日目。細胞は、10%のFBSを追加したDMEM-F12中37℃で加湿した5%CO2雰囲気に維持した。
- 3日目。細胞を96ウェルプレート内に20.000細胞/ウェル(+/-2000細胞)の密度で播種した。細胞は、10%のFBSを追加したDMEM-F12培地中24時間、37℃で加湿した5%CO2雰囲気に維持した。
- 4日目。細胞は、Opti-MEMに溶解した、異なる濃度の検査化合物(1000、333.33、111.11、37.04、12.37、4.12、1.37及び0.46nM)並びに1nMのArg8-バソプレシンとともに24時間インキュベートした。ビヒクル(水)を加えたOpti-MEMを非刺激対照細胞に、1nMのArg8-バソプレシンを陽性対照細胞に、1nMのArg8-バソプレシンを100nMのコニバプタンとともにアンタゴニズム対照に加えた。実験は、少なくとも3つ組で実施した。
- 5日目。細胞のホルムアルデヒド固定(3.7wt.%、20分)後にNomadバイオセンサの活性化を定量した。DAPI(2μg/ml)を使用して核を染色し、Thermofisher社のCell Insight High-Content Bioimagerを使用して蛍光を測定した。DAPIを検出するために使用したフィルタは、励起及び発光についてそれぞれ380/10及び460/10nmであり、Nomadバイオセンサを検出するためのフィルタは、それぞれ548/20及び645/75nmであった。画像は、20×の対物レンズを用いて得られ、各ウェルの写真9枚を撮像した。核(DAPIにより染色)の目的の領域を定めて細胞定量を実施し、定量後、3つ組のそれぞれを平均した。また、Thermofisher社のCellomics Scan Viewer 6.1.1.を使用して顆粒定量を実施した。Cell Software社のスポット検出アプリケーションにより、2つの目的の領域、核及び細胞質を定めた。このソフトウェアアプリケーションでは、1核あたりの顆粒数を定量し、各ウェルの1細胞質あたりの顆粒数の平均を算出した。その後、3つ組を平均した。Excel2003及びSigmaplot9.0の両方を使用してデータ管理を行った。
【0181】
B.結果
図5に示すように、本開示のV2Rアンタゴニストペプチド、即ち、K39Aペプチド及びMQ-LEADペプチドは、親MQ1ペプチド(MQ-WTペプチド)と比較した場合、より強力なcAMP産生阻害剤である。V2Rアンタゴニストペプチドは、Arg8-バソプレシンによる活性化条件下でcAMP産生を用量依存的に阻害する。
【0182】
本開示のV2RアンタゴニストペプチドのcAMP産生阻害特性は、以下のTable 3(表2)に更に例示する。
【0183】
【表2】
【0184】
【表3A】
【0185】
【表3B】
【0186】
【表3C】
【0187】
【表3D】
【0188】
【表3E】
【0189】
【表3F】
【0190】
【表3G】
【0191】
【表3H】
【0192】
【表4A】
【0193】
【表4B】
【0194】
【表4C】
【0195】
【表4D】
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
【配列表】
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