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特許7618110自溶合金皮膜の製造方法、自溶合金皮膜、構成部品、及び粉末材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】自溶合金皮膜の製造方法、自溶合金皮膜、構成部品、及び粉末材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/06 20160101AFI20250110BHJP
   B22D 11/128 20060101ALI20250110BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250110BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20250110BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20250110BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20250110BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20250110BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20250110BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20250110BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20250110BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20250110BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20250110BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20250110BHJP
   C22C 38/40 20060101ALN20250110BHJP
【FI】
C23C4/06
B22D11/128 340H
B22F1/00 M
B22F1/12
C22C1/05 D
C22C19/00 L
C22C19/03 G
C22C19/05 B
C22C19/07 G
C22C27/04 102
C23C4/10
C23C4/18
C22C38/00 302X
C22C38/40
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024546188
(86)(22)【出願日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2024000524
(87)【国際公開番号】W WO2024154651
(87)【国際公開日】2024-07-25
【審査請求日】2024-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2023004642
(32)【優先日】2023-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 大地
(72)【発明者】
【氏名】梅▲崎▼ 映美
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-263807(JP,A)
【文献】特開2018-059174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/06
B22D 11/128
B22F 1/00
B22F 1/12
C22C 1/05
C22C 19/00
C22C 19/03
C22C 19/05
C22C 19/07
C22C 27/04
C23C 4/18
C22C 38/00
C22C 38/40
C23C 4/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料を溶射し、前記基材上に溶射皮膜を形成する工程と、
前記溶射皮膜をフュージング処理し、自溶合金皮膜を形成する工程と、を有し、
前記第1粉末は、Ni基自溶合金およびCo基自溶合金からなる群から選択される1種以上の自溶合金であり、前記自溶合金は、0.8~4.5質量%のBおよび1.5~5.0質量%のSiを含有し、
前記第2粉末は、炭化物セラミックスおよび炭化物サーメットからなる群より選択される一種以上であり、
前記第3粉末は、Cr、Mo、Fe、Ni、Co、およびそれらのいずれかを主成分とする合金(ただし、Niを主成分とする合金およびCoを主成分とする合金については第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金を除く)からなる群より選択される一種以上であり、
前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がCr、Fe、Ni、またはCoである場合、
前記粉末材料は、
前記第1粉末を45~65質量%、
前記第2粉末を5~35質量%、および
前記第3粉末を5~50質量%含有し、
前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がMoである場合、
前記粉末材料は、
前記第1粉末を70~85質量%、
前記第2粉末を5~25質量%、および
前記第3粉末を5~25質量%含有する、
自溶合金皮膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1粉末は、2.5~4.0質量%のBおよび3.0~5.0質量%のSiを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2粉末は、炭化タングステンサーメットであり、Wの含有量とCの含有量の合計が70質量%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第3粉末は、Crを10~30質量%またはMoを5~20質量%含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成された、製鉄用設備の構成部品の製造方法
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成される、製銑設備、製鋼用設備、または非鉄金属の精錬用設備の構成部品の製造方法
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成される、鉄鋼または非鉄金属の熱間圧延工程用設備の構成部品の製造方法
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成される、連続鋳造用設備の構成部品の製造方法
【請求項9】
第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料であって、
前記第1粉末は、Ni基自溶合金およびCo基自溶合金からなる群から選択される1種以上の自溶合金であり、前記自溶合金は、0.8~4.5質量%のBおよび1.5~5.0質量%のSiを含有し、
前記第2粉末は、炭化物セラミックスおよび炭化物サーメットからなる群より選択される一種以上であり、
前記第3粉末は、Cr、Mo、Fe、Ni、Co、およびそれらのいずれかを主成分とする合金(ただし、Niを主成分とする合金およびCoを主成分とする合金については第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金を除く)からなる群より選択される一種以上であり、
前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がCr、Fe、Ni、またはCoである場合、
前記粉末材料は、
前記第1粉末を45~65質量%、
前記第2粉末を5~35質量%、および
前記第3粉末を5~50質量%含有し、
前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がMoである場合、
前記粉末材料は、
前記第1粉末を70~85質量%、
前記第2粉末を5~25質量%、および
前記第3粉末を5~25質量%含有する、
粉末材料。
【請求項10】
前記第1粉末は、2.5~4.0質量%のBおよび3.0~5.0質量%のSiを含有する、請求項に記載の粉末材料。
【請求項11】
前記第2粉末は、炭化タングステンサーメットであり、Wの含有量とCの含有量の合計が70質量%以上である、請求項に記載の粉末材料。
【請求項12】
前記第3粉末は、Crを10~30質量%またはMoを5~20質量%含有する、請求項に記載の粉末材料。
【請求項13】
前記粉末材料は、自溶合金溶射用の材料である、請求項12のいずれか1項に記載の粉末材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自溶合金皮膜の製造方法、並びに当該製法を用いて形成された自溶合金皮膜、構成部品、及び粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造法は、溶鋼を水冷銅鋳型に注入し表面のみ凝固した状態で引抜いた鋳片をロールで支持しつつ、噴霧水で冷却して徐々に凝固させるプロセスであるが、このような連続鋳造設備で用いられる連続鋳造用ロールは、急加熱や急冷却が繰り返される過酷な環境下において使用され、かつ鋳片搬送時には摩耗による損傷を受ける。そのため、このような連続鋳造用ロールには耐摩耗性が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ステンレス鋼製ロールの胴部表面にNi基またはCo基の自溶合金を溶射肉盛し、溶融熱処理してなる連続鋳造用耐折損性、耐摩耗性ロールが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、Ni基またはCo基の自溶合金および炭化タングステンなどの炭化物を含有した溶射被覆層を有する連続鋳造用ロールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-203765号公報
【文献】特開2006-263807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において提案されている連続鋳造用耐折損性、耐摩耗性ロールは、ステンレス鋼製ロールの胴部表面上にNi基またはCo基の自溶合金型溶射金属の溶射肉盛層を備えるが、耐摩耗性が十分ではない。
【0007】
特許文献2では、Ni基またはCo基の自溶合金に炭化タングステン等の炭化物を加えることで、耐摩耗性に優れた自溶合金よりなる溶射被覆層を形成できる旨が記載されている。また、自溶合金中のC含有量を極めて少なくすることで、溶射被覆層が硬く脆くならず、かつフュージング処理時に浸炭層が発生することを抑制し、剥離のおそれが少ない溶射被覆層を形成できる旨が記載されている。
【0008】
しかしながら、今回、本発明者らの研究の結果、特許文献2のように、Ni基またはCo基の自溶合金と炭化タングステン等の炭化物とを含有する溶射被覆層であっても、耐熱衝撃性については十分ではないことが分かった。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、基材上に、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備える自溶合金皮膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自溶合金皮膜の製造方法は、以下の工程(a)および工程(b)を行うことを特徴とする。
(a)基材に、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料を溶射し、前記基材上に溶射皮膜を形成する工程、
(b)前記溶射皮膜をフュージング処理し、自溶合金皮膜を形成する工程。
【0011】
さらに、本発明の自溶合金皮膜の製造方法は、次の(1)および(2)の特徴を有する。
(1)前記第1粉末は、Ni基自溶合金およびCo基自溶合金からなる群から選択される1種以上の自溶合金であり、該自溶合金は、0.8~4.5質量%のBおよび1.5~5.0質量%のSiを含有し、前記第2粉末は炭化物セラミックスおよび炭化物サーメットからなる群から選択される1種以上であり、前記第3粉末は、Cr、Mo、Fe、Ni、Co、およびそれらのいずれかを主成分とする合金(ただし、Niを主成分とする合金及びCoを主成分とする合金については第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金を除く)からなる群から選択される1種以上である。
(2)前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がCr、Fe、Ni、またはCoである場合、前記粉末材料は、前記第1粉末を45~65質量%、前記第2粉末を5~35質量%、および前記第3粉末を5~50質量%含有し、また、前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がMoである場合、前記粉末材料は、前記第1粉末を70~85質量%、前記第2粉末を5~25質量%、および前記第3粉末を5~25質量%含有する。
【0012】
また、本発明の自溶合金皮膜の製造方法の好ましい条件としては、次の(3)~(5)が挙げられる。
(3)前記第1粉末は、2.5~4.0質量%のBおよび3.0~5.0質量%のSiを含有する。
(4)前記第2粉末は、炭化タングステンサーメットであり、Wの含有量とCの含有量の合計が70質量%以上である。
(5)前記第3粉末は、Crを10~30質量%またはMoを5~20質量%含有する。
【0013】
また、本発明の自溶合金皮膜の製造方法を適用する対象としては、次の(6)~(10)が挙げられる。
(6)前記(1)~(5)の製造方法を用いて形成された、自溶合金皮膜。
(7)前記(1)~(5)の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成された、製鉄用設備の構成部品。
(8)前記(1)~(5)の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成された、製銑設備、製鋼用設備、または非鉄金属の精錬用設備の構成部品。
(9)前記(1)~(5)の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成された、鉄鋼または非鉄金属の熱間圧延工程用設備の構成部品。
(10)前記(1)~(5)の製造方法を用いて基材上に自溶合金皮膜が形成された、連続鋳造用設備の構成部品。
【0014】
また、本発明の粉末材料は、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料であって、次の(11)および(12)の特徴を有する。
(11)前記第1粉末は、Ni基自溶合金およびCo基自溶合金からなる群から選択される1種以上の自溶合金であり、該自溶合金は、0.8~4.5質量%のBおよび1.5~5.0質量%のSiを含有し、前記第2粉末は炭化物セラミックスおよび炭化物サーメットからなる群から選択される1種以上であり、前記第3粉末は、Cr、Mo、Fe、Ni、Co、およびそれらのいずれかを主成分とする合金(ただし、Niを主成分とする合金及びCoを主成分とする合金については第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金を除く)からなる群から選択される1種以上である。
(12)前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がCr、Fe、Ni、またはCoである場合、前記粉末材料は、前記第1粉末を45~65質量%、前記第2粉末を5~35質量%、および前記第3粉末を5~50質量%含有し、また、前記第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がMoである場合、前記粉末材料は、前記第1粉末を70~85質量%、前記第2粉末を5~25質量%、および前記第3粉末を5~25質量%含有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材上に、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備える自溶合金皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る自溶合金皮膜の製造方法、および粉末材料の一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る自溶合金皮膜の製造方法は、以下の工程(a)および工程(b)を有する。
(a)基材に、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料を溶射し、基材上に溶射皮膜を形成する工程、
(b)溶射皮膜をフュージング処理し、自溶合金皮膜を形成する工程。
【0018】
工程(a)では、基材に、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した粉末材料を溶射し、基材上に溶射皮膜の形成を行う。
【0019】
基材は、例えば金属基材などを使用することができ、特に限定されず、任意である。また金属基材としては、例えばステンレス鋼基材などを用いることができる。また、本発明における基材とは、表面にコーティングが施されたものも含みうる。そのようなコーティングとしては、鉄クロム系の硬化肉盛層等が挙げられる。
【0020】
粉末材料は、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを混合した材料であり、自溶合金溶射用の材料である。粉末材料は、第1粉末、第2粉末、および第3粉末以外の他の粉末成分を含むものであってもよいが、好ましくは、第1粉末、第2粉末、および第3粉末の総量が粉末全体の80質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上であり、さらに好ましくは、95質量%以上であり、特に好ましくは、第1粉末、第2粉末、第3粉末、及び不可避不純物のみからなるものである。
【0021】
第1粉末は、Ni基自溶合金およびCo基自溶合金からなる群から選択される1種以上の自溶合金であり、該自溶合金は、0.8~4.5質量%のBおよび1.5~5.0質量%のSiを含有する。BおよびSiの含有量が上記範囲を満たすと、合金の溶融温度が低下し、自溶性が付与され、工程(b)のフュージング処理の作業性が向上する。より好ましくは、該自溶合金は、2.5~4.0質量%のBおよび3.0~5.0質量%のSiを含有する。BおよびSiの含有量がこの範囲を満たすと、上述した効果がより得られやすくなる。
【0022】
第1粉末は、上記要件を満たす限り、特に限定されるものではないが、例えば以下の表1に示されるようなNi基自溶合金1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、および9種からなる群から選択することができ、または、Co基自溶合金1種および2種からなる群から選択することができる。このような第1粉末は、特に自溶合金皮膜の耐熱衝撃性を向上させる役割を有する。なお、表1において「以下」と記載されている箇所は、その元素を含有しないものであってもよい。
【0023】
【表1】
【0024】
第2粉末は、炭化物セラミックスおよび炭化物サーメットからなる群から選択される1種以上である。炭化物セラミックスとしては、例えば、炭化タングステン(WC)、炭化クロム(Cr等)、炭化ニオブ(NbC)等が挙げられ、炭化物サーメットとしては、これらの炭化物セラミックスに金属が複合化したものが挙げられる。このような第2粉末は、自溶合金皮膜の耐摩耗性を向上させる役割を有する。第2粉末は、特に炭化タングステンサーメットが好ましい。炭化タングステンサーメットは当該技術分野において通常に使用されているものを適宜用いることができる。例えば、炭化タングステンサーメットは、WC-Co、WC-Co-Cr、またはWC-Niなどを用いることができる。また炭化タングステンサーメットは、該炭化タングステンサーメット全体に対し、Wの含有量とCの含有量の合計が70質量%以上であることが好ましい。Wの含有量とCの含有量の合計が70質量%以上であると自溶合金皮膜の耐摩耗性が向上する。
【0025】
第3粉末は、Cr、Mo、Fe、Ni、Co、およびそれらのいずれかを主成分とする合金からなる群から選択される1種以上である。ただし、Niを主成分とする合金(以下、「Ni基合金」ともいう)とCoを主成分とする合金(以下、「Co基合金」ともいう)については、第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金以外の材料である。なお、本明細書において、主成分とは、質量基準において、全成分の中で最も含有比が高い成分のことを指す。また、主成分は、全成分の中で40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。第3粉末として使用できるNi基合金としては、例えばモネルK500、モネル400、ハステロイB、ハステロイC276、ハステロイC22、インコネル600、インコネル625、インコロイ800、およびインコロイ825からなる群から選択することができる。また、第3粉末として使用できるCo基合金としては、例えばステライト6、ステライト12、ステライト21、ステライト31、トリバロイT-400、およびトリバロイT-800からなる群から選択することができる。また、第3粉末として使用できるFe基合金としては、例えばSUS316L、SUS304、SUS310S、SUS430、SUS420J2、およびS45Cからなる群から選択することができる。また、第3粉末として使用できるMo基合金としては、例えばMoSiおよびMo-Ti-Zr-C
(TZM合金)からなる群から選択することができる。また第3粉末は、Crを10~30質量%またはMoを5~20質量%含有することが好ましい。このようにすると、第3粉末中のCrまたはMoが第1粉末に含まれるBと結合して金属間化合物を生成するため、自溶合金皮膜の耐摩耗性が向上する。また、第3粉末として使用するCr、Mo、Fe、Ni、またはCoは、これらの金属成分以外に、1種以上の他の金属成分を不純物として含むものであってもよい。
【0026】
粉末材料は、第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がCr、Fe、Ni、またはCoである場合、第1粉末を45~65質量%、第2粉末を5~35質量%、および第3粉末を5~50質量%含有する。第1粉末の含有量が45質量%未満であると自溶合金溶射皮膜の溶融性が不足し、フュージング後の自溶合金皮膜の品質が劣る場合がある。一方で、第1粉末の含有量が65質量%超過であると自溶合金皮膜が硬く脆くなり、該皮膜の耐熱衝撃性が不足する。また、第2粉末の含有量が5質量%未満であると自溶合金皮膜の耐摩耗性が不足する。一方で、第2粉末の含有量が35質量%超過であると自溶合金皮膜が硬く脆くなり、該皮膜の耐熱衝撃性が不足する。さらに、第3粉末の含有量が5質量%未満であるとバインダーとして十分に効果が発揮できず、自溶合金皮膜の耐熱衝撃性が不足する。一方で、第3粉末の含有量が50質量%超過であると自溶合金皮膜の耐摩耗性が不足する。なお、各粉末が複数種の材料を含む場合は、それらの合計が各々の含有量であると定義する。例えば、インコネル625とステライト21はいずれも第3粉末に分類されるが、粉末材料がこれらの両方を含む場合、これらの合計が粉末材料全体の5~50質量%を占めていればよい。
【0027】
粉末材料は、第3粉末において、質量基準で最も多く含まれる元素がMoである場合、第1粉末を70~85質量%、第2粉末を5~25質量%、および第3粉末を5~25質量%含有する。第1粉末の含有量が70質量%未満であると自溶合金溶射皮膜の溶融性が不足し、フュージング後の自溶合金皮膜の品質が劣る場合がある。一方で、第1粉末の含有量が85質量%超過であると自溶合金皮膜が硬く脆くなり、皮膜の耐熱衝撃性が不足する。また、第2粉末の含有量が5質量%未満であると自溶合金皮膜の耐摩耗性が不足する。一方で、第2粉末の含有量が25質量%超過であると自溶合金皮膜が硬く脆くなり、皮膜の耐熱衝撃性が不足する。さらに、第3粉末の含有量が5質量%未満であるとバインダーとして十分に効果が発揮できず、自溶合金皮膜の耐熱衝撃性が不足する。一方で、第3粉末の含有量が25質量%超過であると自溶合金皮膜の耐摩耗性が不足する。なお、各粉末が複数種の材料を含む場合は、それらの合計が各々の含有量であると定義する。例えば、MoとMoSiはいずれも第3粉末に分類されるが、粉末材料がこれらの両方を含む場合、これらの合計が粉末材料全体の5~25質量%を占めていればよい。
【0028】
工程(a)の溶射は、任意の溶射方法、例えば粉末式フレーム溶射、プラズマ溶射、好ましくは大気圧プラズマ溶射などにより行うことができる。
【0029】
工程(a)において基材の形状や寸法などは、特に限定されず、任意である。工程(a)において基材上に形成する溶射皮膜の膜厚は、例えば500~5000μmである。
【0030】
工程(b)では、工程(a)において形成した溶射皮膜をフュージング処理(再溶融処理)し、自溶合金皮膜の形成を行う。
【0031】
フュージング処理は、工程(a)において基材上に形成した溶射皮膜に対して行う。フュージング処理は、特に限定されるものではないが、自溶合金溶射の分野において一般的に用いられる条件等で行うことができ、例えば大気中または非酸化性雰囲気中において皮膜の温度を950℃~1200℃まで上げてフュージングを行う。このようなフュージング処理により、溶射皮膜内の気孔を低減させ、溶射皮膜を緻密化するとともに、基材と溶射皮膜の間に拡散層を形成し、密着力の高い自溶合金皮膜を形成できる。なお、第1粉末で定義されるNi基自溶合金およびCo基自溶合金のフュージング処理温度はいずれもほぼ同等であり、皮膜が使用される環境に応じて選定できる。
【0032】
工程(b)において形成する自溶合金皮膜のうち、基材と溶射皮膜の間にできた拡散層の厚さは、例えば50~500μmである。また、自溶合金皮膜は、第1~第3粉末の各成分のほか、基材の成分も含む。このような基材の成分は、好ましくは、10質量%以下である。すなわち、工程(b)において形成した自溶合金皮膜は、第1~第3の粉末に由来する成分と、基材由来の成分とを含むものであり、好ましくは、第1~第3粉末に由来する成分と基材由来の成分との総量が皮膜全体の80質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上であり、さらに好ましくは、95質量%以上であり、特に好ましくは、第1~第3粉末に由来する成分と、基材由来の成分と、不可避不純物のみからなるものである。不可避不純物の種類は特に制限されず、例えば工程(a)および工程(b)の過程において外部から混入する不純物などである。
【0033】
工程(b)において形成する自溶合金皮膜の摩耗量は、後述するスガ式摩耗試験による測定において、例えば0~200mg/2000回である。自溶合金皮膜の摩耗量が200mg/2000回を超過すると、該皮膜の耐摩耗性が十分ではない。さらに、工程(b)において形成する自溶合金皮膜の摩耗量は、スガ式摩耗試験による測定において、好ましくは0~100mg/2000回、さらに好ましくは0~50mg/2000回である。
【0034】
工程(b)において形成する自溶合金皮膜の耐熱衝撃性は、後述する耐熱衝撃性試験による測定において、○評価もしくは△評価である。自溶合金皮膜の耐熱衝撃性が×評価であると、該皮膜の耐熱衝撃性が十分ではない。
【0035】
本実施形態における自溶合金皮膜の製造方法の一例を説明する。まず、上述した第1粉末、第2粉末、および第3粉末をそれぞれ量り取って容器に移し、これらの粉末を混合して粉末材料を準備する。続いて、準備した粉末材料を用いて基材の表面に対して溶射を行い、基材上に溶射皮膜を形成する。例えば大気圧プラズマ溶射法の場合で説明すると、まず、陰極と陽極の間に電圧をかけて直流アークを発生させる。続いて、この直流アークにアルゴンガスなどの作動ガスを送給して該作動ガスを電離させ、高温高速のプラズマジェットを発生させる。そして、発生させたプラズマジェット中に上記粉末材料をアルゴンガスなどで送給し、基材に吹き付けることによって溶射皮膜の形成を行う(工程(a))。最後に、基材上に形成した溶射皮膜を、例えば大気中において約3000℃のフレームで熱することで皮膜温度を約1000℃まで上げてフュージングを行い、自溶合金皮膜を形成する(工程(b))。このようにして、耐摩耗性と耐熱衝撃性を両立した自溶合金皮膜の製造を行うことができる。しかしながら、本実施形態における自溶合金皮膜の製造方法は、上記の一例に限定されるものではない。
【実施例
【0036】
以下に、本発明を適用した実施例およびその比較例について説明する。本実施例は、本発明について例示するものであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0037】
[第1粉末]
第1粉末として、Bを3.05質量%、Cを0.02質量%、Siを4.43質量%含有し、残部がNi(すなわちNiが92.50質量%)からなるNi基自溶合金(以下「Ni-3B-4.4Si」ともいう)の粉末(福田金属箔粉工業社製)を準備した。
【0038】
[第2粉末]
第2粉末として、Cを5.40質量%、Coを11.70質量%含有し、残部がW(すなわちWが82.90質量%)である炭化タングステンサーメット(以下「WC-12Co」ともいう)の粉末(住友金属鉱山社製)を準備した。
【0039】
[第3粉末]
第3粉末として、Siを0.46質量%、Crを21.20質量%、Feを0.46質量%、Nbを3.57質量%、Moを9.10質量%含有し、残部がNi(すなわちNiが65.21質量%)からなるNi基合金(以下「インコネル625」ともいう)の粉末(ヘガネス社製)を準備した。また第3粉末として、Cを0.02質量%、Siを0.91質量%、Crを17.27質量%、Niを12.75質量%含有し、残部がFe(すなわちFeが69.05質量%)からなるFe基合金(以下「SUS316L」ともいう)の粉末(山陽特殊製鋼社製)も準備した。また、第3粉末として、Cを0.26質量%、Siを1.25質量%、Crを26.92質量%、Feを1.32質量%、Niを3.02質量%、Moを6.05質量%含有し、残部がCo(すなわちCoが61.18質量%)からなるCo基合金(以下「ステライト21」ともいう)の粉末(山陽特殊製鋼社製)も準備した。さらに、第3粉末として、Cを0.29質量%、Feを0.03質量%含有し、残部がMo(すなわちMoが99.68質量%)からなるMoの粉末(パウレックス社製)も準備した。
【0040】
本実施例において準備した第1粉末、第2粉末、および第3粉末の化学組成を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
[実施例1]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を10質量%、第3粉末であるインコネル625を30質量%含有する粉末材料を準備した。続いて、準備した粉末材料を用いて、50mm×50mm×30mmtのS45C基材に、下記の条件で大気圧プラズマ溶射を行い、基材上に溶射皮膜を形成した。その後、溶射皮膜の温度を約1000℃に上げてフュージング処理を施すことで、自溶合金皮膜を形成し、実施例1の試験片を作製した。
電流値:400A
アルゴンガス流量:36NLPM
【0043】
[実施例2]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を15質量%、第3粉末であるインコネル625を25質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2の試験片を作製した。
【0044】
[実施例3]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を20質量%、第3粉末であるインコネル625を20質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例3の試験片を作製した。
【0045】
[実施例4]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を25質量%、第3粉末であるインコネル625を15質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例4の試験片を作製した。
【0046】
[実施例5]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を30質量%、第3粉末であるインコネル625を10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例5の試験片を作製した。
【0047】
[実施例6]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を50質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を20質量%、第3粉末であるインコネル625を30質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例6の試験片を作製した。
【0048】
[実施例7]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を50質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を25質量%、第3粉末であるインコネル625を25質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例7の試験片を作製した。
【0049】
[実施例8]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を50質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を30質量%、第3粉末であるインコネル625を20質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例8の試験片を作製した。
【0050】
[実施例9]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を10質量%、第3粉末であるSUS316Lを30質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例9の試験片を作製した。
【0051】
[実施例10]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を20質量%、第3粉末であるSUS316Lを20質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例10の試験片を作製した。
【0052】
[実施例11]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を30質量%、第3粉末であるSUS316Lを10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例11の試験片を作製した。
【0053】
[実施例12]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を10質量%、第3粉末であるステライト21を30質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例12の試験片を作製した。
【0054】
[実施例13]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を20質量%、第3粉末であるステライト21を20質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例13の試験片を作製した。
【0055】
[実施例14]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を60質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を30質量%、第3粉末であるステライト21を10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例14の試験片を作製した。
【0056】
[実施例15]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を80質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を5質量%、第3粉末であるMoを15質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例15の試験片を作製した。
【0057】
[実施例16]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を80質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を10質量%、第3粉末であるMoを10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例16の試験片を作製した。
【0058】
[実施例17]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を75質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を15質量%、第3粉末であるMoを10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例17の試験片を作製した。
【0059】
[比較例1]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を100質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1の試験片を作製した。
【0060】
[比較例2]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を65質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を35質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、比較例2の試験片を作製した。
【0061】
[比較例3]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を70質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を10質量%、第3粉末であるインコネル625を20質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、比較例3の試験片を作製した。
【0062】
[比較例4]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を70質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を15質量%、第3粉末であるインコネル625を15質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、比較例4の試験片を作製した。
【0063】
[比較例5]
粉末材料全体中、第1粉末であるNi-3B-4.4Si(Ni基自溶合金)を70質量%、第2粉末であるWC-12Co(WCサーメット)を20質量%、第3粉末であるインコネル625を10質量%含有する粉末材料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、比較例5の試験片を作製した。
【0064】
実施例1~17および比較例1~5において得られた試験片に、自溶合金皮膜の硬さ試験(Hv)、スガ式摩耗試験、および耐熱衝撃性試験を以下の通り行った。
【0065】
[硬さ試験]
自溶合金皮膜の硬さ試験は、マイクロビッカース硬度計を用いて、荷重を300gfとして十点の測定を行い、その平均値を算出した。
【0066】
[スガ式摩耗試験]
自溶合金皮膜のスガ式摩耗試験は、荷重を3.25kg・f、回転速度を60rpm、往復回数を2000回、試験紙をSiC#320として測定した。また、測定した摩耗量を基準として以下の指標に基づいて摩耗量判定を行った。
◎:50mg未満である。
○:50mg以上、100mg未満である。
△:100mg以上、200mg未満である。
【0067】
[耐熱衝撃性試験]
自溶合金皮膜の耐熱衝撃性試験は、試験片を高温のフレームで熱することで表面温度を約100~150℃とした後に試験片を水冷する作業を1セットとし、これを繰り返し行った際に皮膜の剥離が発生するかの確認を行い、以下の指標に基づいて耐熱衝撃性の評価を行った。
○:4回目以降に剥離が発生したか、もしくは剥離が発生しなかった。
△:3回目に剥離が発生した。
×:1回目もしくは2回目に剥離が発生した。
【0068】
表3は、実施例1~17および比較例1~5の試験片に上記試験を行った結果をまとめた表である。
【0069】
【表3】
【0070】
なお、耐熱衝撃性試験を行った試験片を試験回数毎に観察を行ったところ、まず皮膜表面に複数のクラックが発生し、試験回数を重ねるとそのクラック同士が結合して大きなクラックとなり、その結果、皮膜が剥離することが分かった。このように、複数のクラック同士が結合して大きなクラックとなることが皮膜剥離の要因の一つであると考えられる。
【0071】
表3の結果から、実施例1~14では、摩耗量判定においていずれも△以上であり、かつ耐熱衝撃性はいずれも△評価以上であることが確認された。このため、実施例1~14の自溶合金皮膜は、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えていることが分かった。すなわち、第3粉末において最も多く含まれる元素がFe、Ni、またはCoである場合、第1粉末を45~65質量%、第2粉末を5~35質量%、および第3粉末を5~50質量%の範囲で含有する粉末材料を用いて溶射皮膜を形成し、その後にフュージング処理を施すことで、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えた自溶合金皮膜を形成できることが分かった。なお、本実施例では厳密に評価を行っていることから一部の実施例および比較例の摩耗量判定および耐熱衝撃性判定において△評価を含むが、△評価でも概ね良好な結果である。
【0072】
表3の結果から、実施例15~17では、摩耗量判定においていずれも△以上であり、かつ耐熱衝撃性はいずれも〇評価であることが確認された。このため、実施例15~17の自溶合金皮膜は、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えていることが分かった。すなわち、第3粉末において最も多く含まれる元素がMoである場合、第1粉末を70~85質量%、第2粉末を5~25質量%、および第3粉末を5~25質量%の範囲で含有する粉末材料を用いて溶射皮膜を形成し、その後にフュージング処理を施すことで、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えた自溶合金皮膜を形成できることが分かった。
【0073】
これらの結果から、第3粉末として、実施例1~8のようにインコネル625を用いた場合、実施例9~11のようにSUS316Lを用いた場合、実施例12~14のようにステライト21を用いた場合、および実施例15~17のようにMoを用いた場合のいずれにおいても、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えた自溶合金皮膜を形成できることが確認された。
【0074】
一方、表3の結果から、比較例1のように粉末材料が第1粉末のみからなる場合、耐熱衝撃性は×評価であることが確認された。また表3の結果から、比較例2のように粉末材料が第3粉末を含有せず、第1粉末と第2粉末のみを適量に含有する場合、摩耗量判定は◎となる一方で、耐熱衝撃性は×評価であることが確認された。さらに表3の結果から、比較例3~5のように粉末材料が第1粉末を70質量%含有すると、耐熱衝撃性は×評価であることが確認された。これらの結果から、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備える自溶合金皮膜を形成するためには、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを含み、かつ適切な配分量に調整された粉末材料を用いる必要があることが分かった。
【0075】
以上の結果から、基材上に、第1粉末と第2粉末と第3粉末とを適量混合した粉末材料を溶射し、基材上に溶射皮膜を形成する工程と、該溶射皮膜をフュージング処理し、自溶合金皮膜を形成する工程とを有する自溶合金皮膜の製造方法により、耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えた自溶合金皮膜を形成できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る自溶合金皮膜の製造方法は、基材上に耐摩耗性と耐熱衝撃性の両方の特性を備えた自溶合金皮膜を形成できることから、鉄鋼および非鉄金属等の産業分野において幅広く利用することができる。とりわけ、製鉄用設備、製銑設備、製鋼用設備、非鉄金属の精錬用設備、鉄鋼または非鉄金属の熱間圧延工程用設備、連続鋳造用設備等に好適に利用することができる。