(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピース
(51)【国際特許分類】
A61B 17/24 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
A61B17/24
(21)【出願番号】P 2021035105
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】505116769
【氏名又は名称】山本精密株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】菊地 正弘
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達則
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴行
(72)【発明者】
【氏名】真所 最
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326063(JP,A)
【文献】特開2010-207575(JP,A)
【文献】特開2005-013415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0001187(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0032193(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/24
A61B 17/34
A61B 1/233
A61M 16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前鼻孔から挿入して鼻腔内に留置する可撓性を有する略筒状外形の手術用ノーズピースであって、
前鼻孔の入口近傍に位置決めされて入口の径が前鼻
孔の径より大きく拡いて鼻腔内への進行を規制する大径部と、
該大径部の入口の径よりも径が小さく、該大径部に連続して連結する前鼻孔から鼻腔内にわたって留置する略筒状の小径部と、
前記大径部及び小径部の内部には、大径部側と小径部側とのそれぞれに医療器具を挿入するとその進行により医療器具の軸周りに接触しながら開口して医療器具の遠位側を突出させる入口弁部材及び出口弁部材と、を備える手術用ノーズピース。
【請求項2】
前記大径部は、少なくとも入口側から前記小径部側に向かって連続的に縮径していく縮径部を有し、該大径部の鼻腔側が鼻腔の径より小さい該小径部に連結している、請求項1に記載の手術用ノーズピース。
【請求項3】
前記大径部は、少なくとも前記小径部側が鼻腔の径より大きい径の略筒状外形であり、該大径部は、前記小径部との境界近傍で鼻腔の径より小さい径まで階段的に縮径して該小径部に連結する縮径部を有する、請求項1に記載の手術用ノーズピース。
【請求項4】
前記大径部は、鼻腔の径より大きく上下方向に長い略楕円形状とする略筒状外形である、請求項3に記載の手術用ノーズピース。
【請求項5】
前鼻孔から挿入して鼻腔内に留置する可撓性を有する外来診療用ノーズピースであって、
前鼻孔の入口近傍に位置決めされて鼻腔内への進行を規制する大径部と、
該大径部よりも縮径され、該大径部に連続して連結する前鼻孔から鼻腔内にわたって留置する略筒状の小径部と、
前記大径部及び小径部の内部には、大径部側と小径部側とのそれぞれに医療器具を挿入するとその進行により医療器具の軸周りに接触しながら開口して医療器具の遠位側を突出させる入口弁部材と、を備え、
前記大径部は、少なくとも入口側から前記小径部側に向かって連続的に小径部と連結するまで縮径していくこととなる、外来診療用ノーズピース。
【請求項6】
前記大径部は、入口の径が前鼻孔より大きく、鼻腔側に向かって縮径され前記小径部との境界近傍で再び拡径する返し部を設けている、請求項1~4のいずれか1項に記載の手術用ノーズピース。
【請求項7】
通常時には前記大径部の入口側の縁部沿った開口は、中心から放射状に拡がる複数の切込みを設けた前記入口弁部材で径方向水平に閉鎖され、医療器具挿入時には医療器具の進行による押圧力で前記切込みで区分けされた各扇部材が弾性変形して前記小径部内に湾曲又は折れ曲がることで医療器具に接触しながら開放される、請求項1~6のいずれか1項に記載の手術用又は外来診療用ノーズピース。
【請求項8】
前記出口弁部材は、通常時には前記大径部側から小径部の出口側にわたって中心から放射状に拡がる複数の切込みで形成された複数の扇形部が合わさって側壁となして閉鎖され、出口側に先細りし内部空間が大径部内部に開口する略円錐形状であって、医療器具挿入時には医療器具の進行による押圧力で略円錐形状の頂部から該扇形部が弾性変形して医療器具に接触しながら開放される、請求項1~4又は6~7のいずれか1項に記載の手術用ノーズピース。
【請求項9】
前記入口弁部材の切込みと前記出口弁部材とに設けられた切込みは、それぞれ位相をずらせている、請求項1~4又は6~8のいずれか1項に記載の手術用ノーズピース。
【請求項10】
前記小径部の外周壁には軸周りに所定間隔を空けて径方向に大径部と同程度又は低い高さであって軸方向に延びる突起部を複数有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の手術用又は外来診療用ノーズピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻科診療における手術時又は外来診療時にエアロゾル・飛沫の放出を抑制すべく患者の鼻腔に装着し、医療器具を患部まで案内すると同時に鼻前庭保護の役割を有する手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピースに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の拡大等により抗菌・抗ウィルスに対する意識及び社会要請が飛躍的に高まり、日常的にマスクが着用されている現状があるが、とりわけ医療現場において医療従事者は通常の衛生マスクより細菌、ウィルスの捕捉率の高いN95医療用マスクを着用することが好ましい。しかしながら、N95医療用マスクの場合、連続着用時間に制限があるため、外来診察や手術の際に医療従事者は、患者からの飛沫抑制のために一般的な医療用マスクを着用及び/又は医療用フェースシールドを着用したり、加えて手術時にはPPE(personal protective equipment; 個人防護服)を着用したりすることが一般化している(特許文献1~2参照)。
【0003】
一方、特に鼻科診療(外来診察・治療や手術)においては、鼻腔に由来するエアロゾル・飛沫による感染リスクが非常に高いので医療用マスク及び/又は医療用フェースシールド、PPEの着用では感染から医療従事者を十分に保護することが難しいという問題がある。例えば、鼻孔から硬性内視鏡や鉗子等の挿入や吸引、パワーインスツルメントの使用を行う手術時においては、これまでの医療用マスクやフェースシールド、PPEではエアロゾル・飛沫対策が十分ではなかった。また、外来診察においても鼻咽喉ファイバースコープ等を鼻孔に挿入することが多く、手術時のようなPPE着用も十分ではなく、医療用マスク及び/又は医療用フェースシールドに頼った態様では十分な感染症対策とは言い難かった。
【0004】
また、例えば特許文献3では、鼻漏、鼻汁等の液体の発生や、鼻出血等に容易に対応できるノーズピースが提供されているが、このノーズピースは、経鼻内視鏡を鼻腔内に挿入したときに、鼻漏、鼻汁等の液体や鼻出血等が発生した場合に吸湿部材により対応することができるものであり、そもそも鼻腔からエアロゾル・飛沫を発生させないことを目的とするものではなかった。
【0005】
さらに、実際の臨床現場では内視鏡や鉗子等の医療器具を鼻腔内に挿入・抜去する際の操作性が求められ、同時に医療器具による鼻前庭の損傷等を最小限に抑制することが望まれ、これを満足するノーズピースが潜在的に求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3227608号公報
【文献】実用新案登録第3227608号公報
【文献】特開2011-142949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情に鑑みて本発明は創作されたものであり、鼻科診療における手術時又は外来診療時に患者の鼻腔に容易に位置決めすることができ、医療器具を挿入してもその操作性を維持しながら、気密性を確保して外部にエアロゾル・飛沫が漏出することを抑制し、同時に医療器具から鼻前庭を保護する役割を有する手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく創作された第一の本発明は、
前鼻孔から挿入して鼻腔内に留置する可撓性を有する略筒状外形の手術用ノーズピースであって、
前鼻孔の入口近傍に位置決めされて入口の径が前鼻孔の径より大きく拡いて鼻腔内への進行を規制する大径部と、
該大径部の入口の径よりも径が小さく、該大径部に連続して連結する前鼻孔から鼻腔内にわたって留置する略筒状の小径部と、
前記大径部及び小径部の内部には、大径部側と小径部側とのそれぞれに医療器具を挿入するとその進行により医療器具の軸周りに接触しながら開口して医療器具の遠位側を突出させる入口弁部材及び出口弁部材と、を備える。
【0009】
第一の本発明である手術用ノーズピース10、10’は手術時に患者から医療従事者へのエアロゾル・飛沫暴露を抑制するために患者の前鼻孔から挿入して鼻腔内に位置決めし、その内部に鉗子や内視鏡等の医療器具を挿入しても外部にエアロゾル・飛沫が放出しないよう「気密性」をもって閉鎖するためのものである。この手術用ノーズピースでは小径部から鼻腔内に挿入することで鼻腔内に容易に挿入でき、一方、大径部12、12’は入口側が前鼻孔より大径に拡いているため前鼻孔で止まって鼻腔内へのさらなる進行が規制されることで鼻腔内に位置決めすることができる。
【0010】
また、手術時には、入口弁部材16と出口弁部材18の2つの弁部材で閉鎖するが、2つの弁部材16,18は可撓性を有し、軸方向に医療器具で押し込むと鼻腔に位置決めされた状態で中心から放射状に設けた切込み26により弁部材が医療器具に接触しながら開放される。したがって、本手術用ノーズピース10では、鼻腔に留置した状態で医療器具を患部まで容易に挿入でき複数の医療器具が挿入されても「操作性」が確保される。また、挿入時であっても2つの弁部材16,18が医療器具の周囲に接触しているので「気密性」が確保され、エアロゾル・飛沫を外部に放出することを抑制することができる。さらに本手術用ノーズピース10、10’の大径部12、12’の入口の径が前鼻孔の径より大きく拡いており、この大径部12の入口側の縁部により医療器具が前鼻孔の縁部を損傷させることを予防する役割をも有している。
【0011】
また、前記大径部は、少なくとも入口側から前記小径部側に向かって連続的に縮径していく縮径部を有し、該大径部の鼻腔側が鼻腔の径より小さい該小径部に連結していることが好ましい。
【0012】
本手術用ノーズピースの大径部12’は、好ましい1例として前鼻孔22より径の大きい入口から鼻腔24の径より小さい径まで連続的に縮径していく縮径部12bを有し、大径部12’の小径部14側(後述する返し部12aがある場合には返し部12aの小径部14側)が小径部14の入口に繋がる形状を有している。この形状の場合、ノーズピースを患者の前鼻孔22から挿入するだけで大径部12の入口が前鼻孔22でストッパとなって進行方向の移動を規制し、手術中に医療器具を挿入する際に鼻腔内部にノーズピースが入ってしまうことを防止することができる。
【0013】
また、他に本手術用ノーズピースの前記大径部は、小径部側が鼻腔の径より大きい径の略筒状外形であり、該大径部は、前記小径部との境界近傍で鼻腔の径より小さい径まで階段的に縮径して該小径部に連結する縮径部を有する構成が採用されても良い。とりわけ好適な例として大経部は上下方向に長い略楕円形状とする略筒状外形が採用される。
【0014】
すなわち、この手術用ノーズピースの大径部12’’では、好ましい1例として小径部側の断面が鼻腔より大きい径の略筒状外形、さらに好ましくは上下方向に長い略楕円形状(上下方向に長径、左右方向に短径)に形成され、大径部12”における小径部14との連結側の境界近傍が鼻腔より径の小さい小径部14の径まで階段状に縮径している。換言すれば、大径部12”は、鼻腔の径より大きな径の筒状外形として小径部14との境界近傍で急激に縮減して小径部14に連結する所謂ツバ形状のように形成されている。本手術用ノーズピースの例では、大径部12”をテーパ形状や曲線形状のように連続的に縮減させるものではなく、鼻腔より径の大きい略筒形状外形とし、小径部14の境界近傍で階段的に縮減させる段付き構造としている。従って、大径部12”が前鼻孔22でしっかりと位置決めされて内視鏡や各種鉗子等の医療器具を複数挿入してもその医療器具から鼻前庭を保護する機能を奏することができる。また、鼻腔内への挿入し易さや医療器具の操作領域を確保するために手術用ノーズピースの肉厚を薄くし、柔らかいものとなった場合にも大径部12”がストッパとなって鼻前庭をしっかり保護できるとともに手術用ノーズピースが鼻腔に誤って入り込むことを確実に防止することができる。
【0015】
また、上述するように鼻腔内に内視鏡や各種鉗子等の医療器具を複数挿入して操作する医師にとって医療器具の操作領域を確保する必要があり、一般的な前鼻孔22が左右方向より上下方向に長いことを考慮すると、前鼻孔22の形状に合わせて手術用ノーズピース10”の大径部12”も上下方向に長い略楕円形状にすると本手術用ノーズピース10”を左右の両鼻腔に同時に挿入・留置して使用する場合であっても左右方向の長さが小さくなり、手術時における左右の干渉を低減することができる。
【0016】
また、第二の本発明の外来診療用ノーズピースは、
前鼻孔から挿入して鼻腔内に留置する可撓性を有する外来診療用ノーズピースであって、
前鼻孔の入口近傍に位置決めされて鼻腔内への進行を規制する大径部と、
該大径部よりも縮径され、該大径部に連続して連結する前鼻孔から鼻腔内にわたって留置する略筒状の小径部と、
前記大径部及び小径部の内部には、大径部側と小径部側とのそれぞれに医療器具を挿入するとその進行により医療器具の軸周りに接触しながら開口して医療器具の遠位側を突出させる入口弁部材と、を備え、
前記大径部は、少なくとも入口側から前記小径部側に向かって連続的に小径部と連結するまで縮径していくこととなる。
【0017】
第二の本発明である外来診療用ノーズピース100は患者から医療従事者へのエアロゾル・飛沫暴露を抑制するために患者の前鼻孔から挿入して鼻腔内に位置決めし、その内部に診察・治療器具を挿入するものである点では、上述した手術用ノーズピース10と同様であるが、本外来診療用ノーズピース100では、弁部材が大径部12側の入口弁部材16のみの一枚構造である点が異なっている。外来診療時は患者が非麻酔状態で装着するノーズピースであって、多数の医療器具を同時挿入する可能性が低いため飛沫・エアロゾルの外部放出抑制と患者の苦痛回避とのバランスから一枚の弁部材で十分であるからである。
【0018】
また、手術用ノーズピースの前記大径部は、入口の径が前鼻孔より大きく、鼻腔側に向かって縮径され前記小径部との境界近傍で再び拡径する返し部を設けていることが好ましい。
【0019】
上述してきた手術用ノーズピースにおいて大径部は小径部14側に向かって縮径し、具体的に大径部12’が小径部14に至るまで縮径する例を示してきたが、大径部12’は小径部14の境界近傍で一旦、拡径する返し部12aを設ける例も好適に採用される。上述してきた例の大径部12では入口が前鼻孔の径より大きく、鼻腔内への脱落のストッパ及び前鼻孔の保護の機能を有していたが、特に複数の医療器具を出し入れする手術用ノーズピースの場合、外部に抜け出ることを防止する必要があり、ここで示す手術用ノーズピースの好適な例(符号10´参照)の大径部12’では縮径部12bにより一旦、鼻腔側向かって縮径するが小径部14に繋がる前に再び拡径する返し部12aを設けて、医療器具を抜き取ったり、替えたりする際に前鼻孔24から外部に脱落することを防止できる。
【0020】
また、上記手術用又は外来診療用ノーズピースにおいて、通常時には前記大径部の入口側の縁部に沿った開口は、中心から放射状に拡がる複数の切込みを設けた前記入口弁部材で径方向水平に閉鎖され、医療器具挿入時には医療器具の進行による押圧力で前記切込みで区分けされた各扇部材が弾性変形して前記小径部内に湾曲又は折れ曲がることで医療器具に接触しながら開放される、ことが好ましい。
【0021】
手術用又は外来診療用ノーズピース10、10’、100のいずれの場合にも大径部12、12’の入口側に設ける入口弁部材は、いわゆる菊割れゴムのように中心から放射状の切込みを入れて水平に閉鎖しており、医療器具を軸方向(進行方向)に押圧すると切込みで区分けされた扇部材が内部に曲がって診療器具は扇部材が軸周囲に接触しながらエアロゾル・飛沫の外部放出を抑制する。
【0022】
また、本手術用ノーズピースにおいて、前記出口弁部材は、通常時には前記大径部側から小径部の出口側にわたって中心から放射状に拡がる複数の切込みで形成された複数の扇形部が合わさって側壁となして閉鎖され、出口側に先細りし内部空間が大径部内部に開口する略円錐形状であって、医療器具挿入時には医療器具の進行による押圧力で略円錐形状の頂部から該扇形部が弾性変形して医療器具に接触しながら開放される、ことが好ましい。
【0023】
本手術用ノーズピース10,10’は、上述したように2枚構造の弁部材を設けており、入口弁部材16に加え入口から出口方向に先細りする出口弁部材18を内部に備えている。手術用ノーズピース10の場合、特にエアロゾル・飛沫の外部放出を抑制する必要があり、又診療器具を複数同時に挿入して作業することが必須になるため、追加する出口弁部材18は緩やかに診療器具を中心側に案内しつつ挿入時に種々の診療器具それぞれに接触する部分を増やすべく、略円錐形状の弁部材としている。なお、出口弁部材18を軸方向から見た場合、入口弁部材16と同様に中心から放射状に延びる切込み28で複数の扇部材を形成している。
【0024】
さらに、本手術用ノーズピースにおいて、前記入口弁部材の切込みと前記出口弁部材とに設けられた切込みは、それぞれ位相をずらすこともできる。
【0025】
本手術用ノーズピース10,10’では、入口弁部材16と出口弁部材18に設けられる切込みの位相をずらせることで医療器具が挿入され、両弁部材16,18が開放されたときにも入口から出口に至るまでに直線的な隙間が形成されることを避け、気密性を向上させている。
。
【0026】
なお、本手術用又は外来診療用ノーズピースにおける前記小径部の外周壁には軸周りに所定間隔を空けて径方向に大径部と同程度又は低い高さであって軸方向に延びる突起部を複数有することが好ましい。
【0027】
本手術用又は外来診療用ノーズピース10、10’、100では、小径部14の外周壁には軸周りに所定間隔を空けて大径部12、12’と同程度又は低い高さの軸方向に長い突起部20を有している。この突起部20が鼻腔24の内壁に接触することでノーズピース10,10’、100の挿入・退出方向に位置決めしている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピースでは、鼻科診療における手術時又は外来診療時に患者の鼻腔に容易に位置決めすることができ、医療器具を挿入しても操作性を維持しながら、外部にエアロゾル・飛沫を放出さない気密性を有する手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第一の本発明である手術用ノーズピースの第一の実施形態について、(a)は鼻腔側から見た斜視図、(b)は(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図を示している。
【
図2】(a)は
図1の手術用ノーズピースの側方図、(b)はその側方図を示している。
【
図3】(a)は
図1~
図2の手術用ノーズピースの底面図、(b)はその天面図を示している。
【
図4】
図1~
図3の手術用ノーズピースを人体模型の前鼻孔から挿入・留置した様子を示す写真図である。
【
図5】第一の本発明である手術用ノーズピースの第二の実施形態について、(a)は鼻腔側から見た斜視図、(b)は(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図を示している。
【
図6】(a)は
図5の手術用ノーズピースの側方図、(b)はその断面側方図を示している。
【
図7】(a)は
図5~
図6の手術用ノーズピースの底面図、(b)はその天面図を示している。
【
図8】第一の本発明である手術用ノーズピースの第三の実施形態について、(a)は鼻腔側から見た斜視図、(b)は(a)に長径に沿って軸方向に切った断面斜視図を示している。
【
図9】(a)は
図8の手術用ノーズピースの側方図、(b)はその断面側方図を示している。
【
図10】(a)は
図8~
図9の手術用ノーズピースの天面図、(b)はその底面図を示している。
【
図11】第二の本発明である外来診療用ノーズピースの実施形態について、(a)は鼻腔側から見た斜視図、(b)は(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図を示している。
【
図12】(a)は
図11の外来診療用ノーズピースの側方図、(b)はその断面側方図を示している。
【
図13】(a)は
図11~
図12の外来診療用ノーズピースの底面図、(b)はその天面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のノーズピースの実施形態について例示説明する。なお、本明細書及び図面において、同一の参照番号を付する部材は同一の実施形態における同一部材を意味し、末尾2桁が同一の参照番号を付する部材は、異なる実施形態における同種部材を意味している。
【0031】
《手術用ノーズピース 第一実施形態について》
まず、第一の本発明である手術用ノーズピース10の第一の実施形態について
図1~
図4 を参照して説明する。
図1(a)は手術用ノーズピース10の鼻腔側から見た斜視図、
図1(b)は(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図、
図2(a)は手術用ノーズピース10の側方図、
図2(b)は
図1(b)の側方図、
図3(a)は手術用ノーズピース10の底面図、
図3(b)は手術用ノーズピース10の天面図を示している。
図4は手術用ノーズピース10を人体模型の前鼻孔22から挿入・留置した様子を示す写真図である。
【0032】
図1~
図4に示すように手術用ノーズピース10は、可撓性を有する材料としてシリコンゴムを用いており、大径部12と小径部14と入口弁部材16と出口弁部材18と突起20とで構成され、小径部14側から前鼻孔22に挿入して鼻腔内に留置する。大径部12は入口側(
図1(a)の下方側)の径が前鼻孔22の内径より大きくなった薄い外殻の中空構造であり、所謂ドーム形状の裾野にように鼻腔側(
図1(a)の上方側)に向かって緩やかに縮径されてその縁部が小径部14の縁部に連続して連結する。この形状により手術用ノーズピース10を前鼻孔22に挿入したときに、径の大きい大径部12の入口側がストッパとなって大径部12を前鼻孔22に挿入方向(進行方向)に位置決めする。
【0033】
小径部14は、上述したようにその入口側の縁部が大径部12の縮径した出口側の縁部に連続して連結し、軸方向に先細りして所定長さ延びる薄い外套の略筒状を形成している。この小径部14の径は鼻腔24の内径よりも小さいためスムーズに鼻腔24内に挿入される。また、小径部14の外周壁には軸周りに所定間隔、例えば
図1~
図3の例では90°間隔を空けて、それぞれ径方向に大径部12と同程度又は低い高さで軸方向に長い突起部20を有している。この突起部20が鼻腔24の内壁に接触することで手術用ノーズピース10の挿入・退出方向に位置決めしている。特に医療器具を挿入して作業し、手術用ノーズピース10がずれ易くなった場合でも、医療器具により小径部14に捩じりが生じると突起部20の長手方向がそれぞれ違う方向に向くため却って位置決めの力が増強する。
【0034】
また、大径部12及び小径部14の内部には、大径部12の入口縁部に入口弁部材16、大径部12から小経部14の出口近傍まで出口弁部材18が設けられている。入口弁部材16は、大径部12の入口側の縁部沿った開口面を閉鎖する円盤状の薄板部材であり、所謂菊割れゴムのように中心から半径に沿って放射状に拡がる6本の切込み26を設けている。すなわち入口弁部材16は60°間隔の切込み26で区切られた扇部材が合わさって形成されている。そして、手術時にこの入口弁部材16に医療器具を押し込むと6つの切込み26で区切られた各扇部材もその弾性変形により押し込まれることで入口弁部材16が開放され、医療器具が鼻腔24内に位置決めされた小径部14内を進行する。このとき入口弁部材16の各扇部材は、医療器具の外周囲の大部分に接触するため気密性が確保される。
【0035】
手術用ノーズピース10では、入口弁部材16に加えさらに出口弁部材18を設けている。出口弁部材18は、大径部12の内壁の縮径に連続して小径部14の出口まで先細りする略円錐状に形成されており、内部空間が大径部12の内に開口して繋がっている。また、出口弁部材18は、出口側にある円錐形状の頂部を中心に複数の切込みが大径部12との境界近傍まで放射状に拡がっており、
図4(b)のように上方視において入口弁部材16と同様に所謂菊割れゴムのように中心から半径に沿って放射状に拡がる4本の切込み28を設けている。すなわち出口弁部材18は90°間隔の切込み28で区切られた扇部材が合わさって形成されている。そして、手術時に入口弁部材16を通過してきた医療器具が出口弁部材18を押し込むと4つの切込み26で区切られた各扇部材もその弾性変形により押し込まれ、出口側の頂点近傍から開放され、医療器具の遠位先端が手術用ノーズピース10の出口側外部に突出し、鼻腔24内を進行して対象患部まで案内される。このとき出口弁部材18の各扇部材は、医療器具の遠位先端を頂部方向に案内しながら医療器具の外周囲の大部分に接触するため、入口弁部材16と相まって気密性が十分に確保される。
【0036】
なお、入口弁部材16の切込み26は60°の間隔で設けされているのに対して出口弁部材18の切込み28は90°の間隔で設けられている。したがって、切込み26と切込み28とは180°ごとに位相が一致し、その他では位相が異なることとなる。これにより医療器具が挿入され、入口弁部材16及び出口弁部材18の両者が開放したときであっても軸方向一直線に隙間ができる状況は少なく、この点でも手術用ノーズピース10の「気密性」を高めている。
【0037】
《手術用ノーズピース 第二実施形態について》
次に第一の本発明である手術用ノーズピース10の変形例である第二の実施形態としての手術用ノーズピース10’について
図5~
図7を参照して説明する。
図5(a)は手術用ノーズピース10’の鼻腔側から見た斜視図、
図5(b)は
図5(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図、
図6(a)は手術用ノーズピース10’の側方図、
図6(b)は
図5(b)の側方図、
図7(a)は手術用ノーズピース10’の底面図、
図7(a)は手術用ノーズピース10’の天面図を示している。
【0038】
図5~
図7に示すように手術用ノーズピース10’は、可撓性を有する材料としてシリコンゴムを用いており、概ね
図1~
図3の手術用ノーズピース10と同様に、大径部12’と小径部14と入口弁部材16と出口弁部材18と突起20とで構成され、小径部14側から前鼻孔22に挿入して鼻腔内に留置する。したがって、ここでは手術用ノーズピース10’について手術用ノーズピース10と異なる部分、具体的には大径部12’について説明する。なお、
図5~
図7の手術用ノーズピース10’において
図1~
図3の手術用ノーズピース10と参照番号が同じものは同じ構成であることを意味している。
【0039】
手術用ノーズピース10’の大径部12’は、入口側(
図5(a)の下方側)の縮径部12bと出口側(鼻腔側(
図5(a)の上方側))の返し部12aとで形成されている。縮径部12bは
図1~
図3の大径部12と同様に入口側を最大径として軸方向中間近傍まで連続的に縮径していき、返し部12aの縁部に連結している。手術用ノーズピース10’を前鼻孔22に挿入したとき、この縮径部12bが入口側の拡がった径の部分で位置決めされ、それ以上の進行を規制しつつ医療器具から前鼻孔22の開口縁部を保護する役割を有している。
【0040】
また返し部12aは、縮径部12bで一旦、小さくなった径が再び鼻腔側(
図5(a)の上方側)に向かって拡大し、所定の径まで広がった後に小径部14の径まで縮径して小径部14に繋がっている。返し部12aは鼻腔24に挿入された手術用ノーズピース10’が抜け出さないように入口側の退出移動を規制する役割を有する。特に医療器具を挿入した状態で進退作業を行う手術用ノーズピース10’の場合、医療器具の抜去作業に追従して手術用ノーズピース10’も鼻腔24から抜け出しやすいため有益な構成となる。なお、返し部12aの径は縮径部12bの入口の径より小さく、返し部12aの拡径の傾斜は縮径部12bの縮径のよりも急である。但し、大径部12’の内壁は、手術用ノーズピース10と同様に出口弁部材18内壁と連続して繋がって略円錐形状をなしている。
【0041】
《手術用ノーズピース 第三実施形態について》
次に、第一の本発明である手術用ノーズピース10、10’の変形例である第三の実施形態としての手術用ノーズピース10”について
図8~
図10を参照して説明する。
図8(a)は手術用ノーズピース10”の鼻腔側から見た斜視図、
図8(b)は
図8(a)に長径に沿って軸方向に切った断面斜視図、
図9(a)は短径側から見た手術用ノーズピース10”の側方図、
図9(b)は短径側から見た
図8(b)の側方図、
図10(a)は手術用ノーズピース10”の天面図、
図10(b)は手術用ノーズピース10’の天面図を示している。
【0042】
図8~
図10に示すように手術用ノーズピース10”は、可撓性を有する材料としてシリコンゴムを用いており、概ね
図1~
図3の手術用ノーズピース10及び
図5~
図7の手術用ノーズピース10’と同様に、大径部12”と小径部14と入口弁部材16と出口弁部材18と突起20とで構成され、小径部14側から前鼻孔22に挿入して鼻腔内に留置する。したがって、手術用ノーズピース10’同様に手術用ノーズピース10”について手術用ノーズピース10、10”と異なる部分、具体的には概ね大径部12”、出口弁部材18’、手術用ノーズピース10”の肉厚t1、t2について説明する。なお、
図8~
図10の手術用ノーズピース10”においても
図1~
図3の手術用ノーズピース10及び
図5~
図7の手術用ノーズピース10’と参照番号が同じものは同じ構成であることを意味している。
【0043】
手術用ノーズピース10”の大径部12”は、出口側(鼻腔側(
図8(a)の上方側))の縮径部12cと同径部12dと入口側(
図8(b)の下方側)の下縁部12eとで形成されている。下縁部12eは、
図1~
図3の大径部12や
図5~
図8の大径部12’と異なり、長さaの長径と長さbの短径を有する略楕円形状の断面(軸線に対する垂直面に沿った断面)を形成している。また、同径部12は入口側の下縁部12eと略同径の筒状に形成され、出口側の縮径部12cで階段的に縮径して小径部14の縁部に連結している。大径部12”は、手術用ノーズピース10”を前鼻孔22に挿入したとき、長さaの長径を上下方向、長さbの短径を左右方向とする位相で位置決めされ、それ以上の鼻腔内への進行を規制しつつ医療器具から前鼻孔22の開口縁部を保護する役割を有している。この大径部12”によりでは一般的に左右方向より上下方向に前鼻孔22に適合し、手術時における上下方向の医療器具の操作領域を確保し、左右の両鼻腔に使用した場合における左右の干渉をも低減している。
【0044】
また、大径部12”は下縁部12eから上方に径が一定の同径部12dを有し、同径部12dの上縁を終端として径方向内側に階段的に縮径して小径部14に連結する縮径部12cが形成されている所謂ツバ形状となっている。これにより大径部12”が前鼻孔22でストッパとなって多少変形しても手術用ノーズピース10”が鼻腔内に入り込むことを防止している。その結果、
図9(b)に示すように手術用ノーズピース10”の肉厚t1、t2は、
図1~
図3の手術用ノーズピース10や
図5~
図8の手術用ノーズピース10’の肉厚より薄くすることが可能であり、その結果、軟らかくなって(可撓性が向上して)手術時における医療器具の操作範囲の制限を大幅に低減している。
【0045】
なお、
図8~
図10の手術用ノーズピース10”ではその肉厚が薄く変形しやすいものとなっているため、本例ではエアロゾルや飛沫の漏出機能の低下を防止して弁としての機能を確保するために出口弁部材18’を略円錐形状から曲線的に縮減するドーム近似の形状にしている。
【0046】
《外来診療用ノーズピース 実施形態について》
次に、第二の本発明である外来診療用ノーズピース100の第一の実施形態について
図11~
図13を参照して説明する。
図11(a)は外来診療用ノーズピース100の鼻腔側から見た斜視図、
図11(b)は(a)に半径に沿って軸方向に切った断面斜視図、
図12(a)は外来診療用ノーズピース100の側方図、
図12(b)は
図1(b)の側方図、
図13(a)は外来診療用ノーズピース100の底面図、
図13(b)は外来診療用ノーズピース100の天面図を示している。
【0047】
図11~
図13に示すように外来診療用ノーズピース100は、可撓性を有する材料としてシリコンゴムを用いており、概ね
図1~
図7の手術用ノーズピース10、10’と同様に、その構成要素に、大径部12と小径部14と入口弁部材16と突起20とを有し、小径部14側から前鼻孔22に挿入して鼻腔内に留置し、大径部12が前鼻孔22に位置決めされるが、手術用ノーズピース10、10’と異なり、出口弁部材18を有していない。これは外来診療用ノーズピース100が外来診療時には多数の医療器具を同時挿入する可能性が低く、手術時より飛沫・エアロゾルの外部放出量が少ない反面、患者は非麻酔状態で使用されるため苦痛回避を考慮する必要があり、さらに使用頻度・患者数が多く安価かつ製造容易であることも要し、一枚の弁部材が妥当であるからである。
【0048】
したがって、外来診療用ノーズピース100は出口弁部材18が存在しない点を除いて手術用ノーズピース10が有する構成要素と同様であり、
図11~
図13では
図1~
図3と同じ参照番号を使用し、ここでは同じ構成要素(同じ参照番号)ゆえそれぞれの説明は上述した手術用ノーズピース10を参照することで説明を省略する。
【0049】
具体的には、外来診療用ノーズピース100は、手術用ノーズピース10と同様に可撓性を有する材料としてシリコンゴムを用いており、大径部12と小径部14と入口弁部材16と突起20とで構成され、小径部14側から前鼻孔22に挿入して鼻腔内に留置する。大径部12には前鼻孔22の内径より大きい入口側から前鼻孔22の内径より小さい鼻腔側に向かって縮径する薄い外殻の中空構造であり、手術用ノーズピース10と同様に所謂ドーム形状の裾野で小径部14に連続して連結しており、前鼻孔22に挿入したときに大径部12の入口側がストッパとなって前鼻孔22内に留置される。また、
図8~
図13の例では小径部14は軸方向に略同一径で所定長さ延びる略筒状を形成し、手術用ノーズピース10と同様に外周壁には軸周りに複数の突起部20が設けられている。小径部14は
図1~
図7の手術用ノーズピース10のように先細り形状としても差支えないが、出口弁部材が存在しない外来診療用ノーズピース100の場合、先細りにすると診療器具の挿入の際に捩じり変形し易く、また外来診療での普及率を向上させるために安価かつ大量生産することが求められるため軸方向に略同一径の小径部14を採用することが想定される。
【0050】
その他、入口弁部材16についても所謂菊割れゴムのように中心から半径に沿って放射状に拡がる切込み26を設けている点でも手術療用ノーズピース10と同様であるが、外来診療時に使用するものゆえ、手術療用ノーズピース10に対して気密性の確保の要求よりも診療器具の操作性の確保及び普及性の確保が重視され、切込み幅が拡大されたり、切込み本数の増減したり等の変形が採用されることもあり得る。
【0051】
以上、本発明の手術用ノーズピース及び外来診療用ノーズピースについてその実施形態を例示説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書等の記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例や改良例が得られることが当業者は理解できるであろう。例えば、大径部12を略筒形状とし、入口近傍を鍔状にして径を拡げ、返し部12aが存在する場合は小径部14との連結近傍も鍔状にして返し部12aとする場合や、出口弁部材18も入口弁部材16と同様に小径部14の出口側の縁部を閉鎖する円盤形状とする場合など種々の変形例が考えられる。
【符号の説明】
【0052】
10,10' 手術用ノーズピース
100 外科診療用ノーズピース
12,12’大径部
12a,112a 返し部
12b、112b 縮径部
14 小径部
16 入口弁部材
18 出口弁部材
20 突起
22 前鼻孔
24 鼻腔
26、28 切込み