(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】亜鉛錯体
(51)【国際特許分類】
C08F 20/04 20060101AFI20250114BHJP
C07C 57/04 20060101ALI20250114BHJP
C07F 3/06 20060101ALN20250114BHJP
【FI】
C08F20/04
C07C57/04
C07F3/06 CSP
(21)【出願番号】P 2024545218
(86)(22)【出願日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2023029734
(87)【国際公開番号】W WO2024127714
(87)【国際公開日】2024-06-20
【審査請求日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2022200007
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515006478
【氏名又は名称】日触テクノファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井本 勝宣
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0209382(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109852242(CN,A)
【文献】特開平05-171066(JP,A)
【文献】特開2006-206861(JP,A)
【文献】A. V. KURNOSKIN,Polymers based on epoxy oligomers and hardeners. Chelates of metals with aromatic and heterocyclic amines,Industrial & Engineering Chemistry Research,1992年02月,Vol. 31,No. 2,pp.524-529,DOI: 10.1021/ie00002a012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/04
C07C 57/04
C07F 3/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;
前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;
を混合させることにより得られ、
前記含窒素有機化合物が、含窒素複素環化合物または三級アミンであり、
前
記含窒素複素環化合物は
N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、または、トリアジンであり、
前記三級アミンが、N(R
1
)(R
2
)(R
3
)、ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、置換基で置換される場合、当該置換基は、それぞれ独立して、-OCOR
b
(ただし、R
b
はそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)であり、ただし、当該三級アミンがジメチルアミノエチルメタクリレートである場合、前記
R
a
におけるα位はメチル基で置換されておらず、前記含窒素有機化合物は、トリエチルアミンではない、亜鉛錯体。
【請求項2】
前記モル当量が、
30モル当量以下である、請求項
1に記載の亜鉛錯体。
【請求項3】
前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含むエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体における透過率が90%以上である、請求項
1に記載の亜鉛錯体。
【請求項4】
前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む有機溶媒における透過率が90%以上である、請求項
1に記載の亜鉛錯体。
【請求項5】
亜鉛錯体と、
溶剤と、
を含む、組成物であって、
前記亜鉛錯体が、下記一般式(I):
【化1】
式中、Lはそれぞれ独立して、含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、
で示される、あるいは、
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られ、
ここで、前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、または、トリアジンであり、前記三級アミンが、N(R
1
)(R
2
)(R
3
)、ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、置換基で置換される場合、当該置換基は、それぞれ独立して、-OCOR
b
(ただし、R
b
はそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)であり、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含まない、組成物。
【請求項6】
前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む際、透過率が90%以上である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、
含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物と、
溶剤と、
を含
み、
前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、または、トリアジンであり、前記三級アミンが、N(R
1
)(R
2
)(R
3
)、ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、置換基で置換される場合、当該置換基は、それぞれ独立して、-OCOR
b
(ただし、R
b
はそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)である、組成物であって、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含まない、組成物。
【請求項8】
前記組成物における前記カルボン酸亜鉛塩の割合が0.1質量%以上であり、前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する前記含窒素有機化合物のモル比が2モル以上である、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記カルボン酸亜鉛塩を2.5質量%の濃度で含む際、透過率が90%以上である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
亜鉛錯体と、溶剤と、を含む、組成物を重合することを有する、亜鉛原子を含むアイオノマーを製造する方法であって、
前記亜鉛錯体が、下記一般式(I):
【化2】
式中、Lはそれぞれ独立して含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、あるいは、
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られ、
前記含窒素有機化合物が、含窒素複素環化合物または三級アミンであり、
前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、または、トリアジンであり、前記三級アミンが、N(R
1
)(R
2
)(R
3
)、ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、置換基で置換される場合、当該置換基は、それぞれ独立して、-OCOR
b
(ただし、R
b
はそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)であり、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含まない、方法。
【請求項11】
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤と、を含み、
前記含窒素有機化合物が、含窒素複素環化合物または三級アミンであり、
前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、または、トリアジンであり、前記三級アミンが、N(R
1
)(R
2
)(R
3
)、ここで、R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、置換基で置換される場合、当該置換基は、それぞれ独立して、-OCOR
b
(ただし、R
b
はそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)であり、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含まない、組成物を重合することを有する、亜鉛原子を含むアイオノマーを製造する方法。
【請求項12】
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;
前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;
を混合させることにより得られ、
前記含窒素有機化合物が、含窒素複素環化合物または三級アミンであり、
前記含窒素有機化合物が、含窒素複素環化合物である場合、当該含窒素複素環化合物はピリジン骨格を有さず、前記含窒素有機化合物が、三級アミンである場合、当該三級アミンはアミドで置換されておらず、当該三級アミンがジメチルアミノエチルメタクリレートである場合、前記α位はメチル基で置換されておらず、前記含窒素有機化合物は、トリエチルアミンではない、亜鉛錯
体であって、
前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含むエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体における透過率が90%以上である、または、前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む有機溶媒における透過率が90%以上である、亜鉛錯体。
【請求項13】
亜鉛錯体と、
溶剤と、
を含む、組成物であって、
前記亜鉛錯体が、下記一般式(I):
【化3】
式中、Lはそれぞれ独立して、含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、
で示される、あるいは、
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られ、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含ま
ず、
前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む際、透過率が90%以上である、組成物。
【請求項14】
下記一般式(II):
Zn(OCOR
a)
2・・・(II)
式中、R
aはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、
含窒素複素環化合物または三級アミンである含窒素有機化合物と、
溶剤と、
を含む、組成物であって、
前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなり、ただし、有機溶媒がアルコールを含ま
ず、
前記カルボン酸亜鉛塩を2.5質量%の濃度で含む際、透過率が90%以上である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアクリル酸亜鉛および/またはジメタクリル酸亜鉛(以下、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛ともいう)をメタクリル酸メチル中に溶解させて共重合すると、透明なメタクリル系樹脂が製造できることが既に知られている。
【0003】
しかし、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛のメタクリル酸メチルに対する溶解性は低く、透明性等の性能を保持しながらメタクリル系樹脂を製造するためには、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛の使用量を極端に小さく抑える必要があり、得られたメタクリル系樹脂には、耐熱性や機械的強度等のジ(メタ)アクリル酸亜鉛に由来する特性が十分に付与できないという問題点があった。
【0004】
このような問題を解決する方策として、メタクリル酸メチルに水を添加することでジ(メタ)アクリル酸亜鉛の溶解性を向上させ、共重合によりメタクリル系樹脂本来の透明性や機械的性質を損なうことなく耐熱性を向上させた樹脂組成物を得る試みがなされている(特許文献1)。
【0005】
また他にジ(メタ)アクリル酸亜鉛は、ゴム組成物に配合して加硫性を改善したり、合成樹脂の改質剤として用いられたりすることが知られている(特許文献2~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平 6-145255号公報
【文献】特開昭52-154436号公報
【文献】特開昭53- 83834号公報
【文献】特開昭60- 94434号公報
【文献】特開平 2-218639号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛の用途は、通常、上記のようなものに限られている実情があることに着目した。そして、この実情の背景には、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛は水等の限られた溶媒にしか溶解できないことがあることを見出した。そこで、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛を水等以外にも様々な溶媒・単量体に溶解させることができれば、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛の汎用性が著しく向上すると考えた。
【0008】
よって、本発明は、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛またはその誘導体等のアルケニルオキシカルボニル基を有する亜鉛化合物の様々な溶媒・単量体に対する溶解度を上げる技術を提供することを課題とする。
【0009】
本発明の一態様は、下記一般式(I):
【0010】
【0011】
式中、Lはそれぞれ独立して含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい炭素数2~10のアルケニル基である、で示される、亜鉛錯体である。
【0012】
本発明の一態様は、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい炭素数2~10のアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られる、亜鉛錯体である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。「X~Y」が複数記載されている場合、例えば、「X1~Y1、あるいは、X2~Y2」と記載されている場合、各数値を上限とする開示、各数値を下限とする開示、および、それらの上限・下限の組み合わせは全て開示されている(つまり、補正の適法な根拠)となる。具体的には、X1以上との補正、Y2以下との補正、X1以下との補正、Y2以上との補正、X1~X2との補正、X1~Y2との補正等は全て適法とみなされなければならない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度50±5%RHの条件で測定する。
【0015】
<亜鉛錯体>
本発明の一態様は、下記一般式(I):
【0016】
【0017】
式中、Lはそれぞれ独立して含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい炭素数2~10のアルケニル基である、で示される、亜鉛錯体である。かかる錯体は、水等以外の様々な有機溶媒・単量体に溶解可能である。なお、本明細書中、有機溶媒および/または(その他)単量体を溶剤と称する場合もある。本発明の一態様によれば、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛またはその誘導体のアルケニルオキシカルボニル基を有する亜鉛化合物の様々な溶媒・単量体に対する溶解度を上げる技術を提供することができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、Rにおける、二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい炭素数2~10のアルケニル基は、置換基を有していてもよい。本発明の一実施形態において、Rは、二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい、炭素数2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、あるいは、2~4のアルケニル基である。本発明の一実施形態において、二重結合のα位がメチル基で置換されてもよい炭素数2~10のアルケニル基は、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロぺニル基、1-ブテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、1-メチル-1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、2-メチル-2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、3-メチル-3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、4-メチル-4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、5-メチル-5-ヘキセニル基、6-ヘプテニル基、6-メチル-ヘプテニル基、7-オクテニル基、7-メチル-7-オクテニル基、8-ノニル基、8-メチル-8-ノニル基、9-デセニル基、または9-メチル-9-デセニル基が例示できる。
【0019】
本発明の一実施形態において、含窒素有機化合物とは、分子の中に1個以上の窒素原子を含む有機化合物でありうる。本発明の一実施形態において、含窒素有機化合物は、三級アミンまたは含窒素複素環化合物でありうる。本発明の一実施形態において、含窒素有機化合物は、例えばエチレン性不飽和基のような重合性基を有さないものを含む。
【0020】
(三級アミン)
本発明の一実施形態において、三級アミンは、N(R1)(R2)(R3)、ここで、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示されうる。炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、c-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、c-ブチル基、n-ペンチル基、c-ペンチル基、n-ヘキシル基、c-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、あるいは、n-デシル基等が挙げられる。本発明の一実施形態において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~8、1~6、1~4、1~3あるいは1または2のアルキル基でありうる。
【0021】
本発明の一実施形態において、R1、R2およびR3における炭素数1~10のアルキル基に置換される置換基は、それぞれ独立して、-OCORb(ただし、Rbはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)でありうる。本発明の一実施形態において、Rbにおける炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基は、炭素数2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、あるいは、2~4の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である。本発明の一実施形態において、Rbにおける炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基は、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロぺニル基、1-ブテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、1-メチル-1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、2-メチル-2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、3-メチル-3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、4-メチル-4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、5-メチル-5-ヘキセニル基、6-ヘプテニル基、6-メチル-ヘプテニル基、7-オクテニル基、7-メチル-7-オクテニル基、8-ノニル基、8-メチル-8-ノニル基、9-デセニル基、または9-メチル-9-デセニル基が例示できる。
【0022】
本発明の一実施形態において、R1、R2およびR3に置換される置換基の数は、それぞれ、1個、2個または3個である。
【0023】
本発明の一実施形態において、R1、R2およびR3は、それぞれ、非置換の炭素数1~10のアルキル基、非置換の炭素数1~10のアルキル基および-OCORbで置換された炭素数1~10のアルキル基である。
【0024】
本発明の一実施形態において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、非置換の炭素数1~10のアルキル基である。
【0025】
(含窒素複素環化合物)
本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物における複素環は五員環であって六員環であってもよい。本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物における窒素原子以外のヘテロ原子は酸素原子および硫黄原子の少なくとも1種でありうる。本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物は、芳香族環および脂環族環の少なくとも1種を有しうる。本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物は、単環であっても縮合環であってもよい。本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物は、ヘテロ原子を1個、2個または3個有していてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物は、具体的には、例えば、ピリジン、N-メチルピロリドン、キノリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、カルバゾール、トリアジン等が挙げられる。含窒素複素環化合物としてピリジンを用いると亜鉛錯体の結晶としての安定性が向上しうる。
【0027】
本発明の一実施形態において、含窒素複素環化合物は単独で用いられても2種以上で用いられてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、一般式(I)で示される、亜鉛錯体は、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られうる。カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する含窒素有機化合物のモル当量が2モル当量未満であると、2配位体を得ることが困難となる。
【0029】
よって本発明の別の側面では、本発明の一態様は、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られる、亜鉛錯体である。
【0030】
本発明の一実施形態において、上記Raにおける炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基は、置換基を有していてもよい。本発明の一実施形態において、Raにおける炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基は、炭素数2~9、2~8、2~7、2~6、2~5、あるいは、2~4の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である。本発明の一実施形態において、Raにおける炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基は、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロぺニル基、1-ブテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、3-メチル-3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、1-メチル-1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、2-メチル-2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、3-メチル-3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、4-メチル-4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、5-メチル-5-ヘキセニル基、6-ヘプテニル基、6-メチル-ヘプテニル基、7-オクテニル基、7-メチル-7-オクテニル基、8-ノニル基、8-メチル-8-ノニル基、9-デセニル基、または9-メチル-9-デセニル基が例示できる。
【0031】
本発明の一実施形態において、カルボン酸亜鉛塩と混合する含窒素有機化合物は上記の(含窒素複素環化合物)の説明が適用されうる。
【0032】
本発明の一実施形態において、カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する含窒素有機化合物のモル当量は、30モル当量以下、25モル当量以下、10モル当量以下、8モル当量以下、6モル当量以下、4.5モル当量以下、4モル当量以下、3.5モル当量以下、3モル当量以下、あるいは、2.5モル当量以下である。
【0033】
上述のとおり、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩(例えば、ジアクリル酸亜鉛)は、通常、水や、メタノール(あるいはアルコール)以外の有機溶媒/単量体への溶解性に乏しい。よって、液相重合での使用が困難であり、固相重合によるゴム改質剤としての用途がほとんどであった。
【0034】
本発明の一態様によれば、上述のとおり、含窒素有機化合物が使用され、上記カルボン酸亜鉛塩(例えば、ジアクリル酸亜鉛)の有機溶媒/単量体への溶解性が飛躍的に向上しうる。これはカルボン酸亜鉛塩(例えば、ジアクリル酸亜鉛)に(例えば2~4分子)含窒素有機化合物が配位・錯体化されており、結果、溶解性が向上しうるためと考えられる。
【0035】
本発明の一実施形態において、亜鉛錯体は、テトラヘドラル構造を呈しうる。
【0036】
本発明の一実施形態において、亜鉛錯体は、各種の有機溶媒・単量体への可溶性と重合性を有する。
【0037】
本発明の一実施形態において、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物との混合の方法は特に制限されない。カルボン酸亜鉛塩に対して含窒素有機化合物を添加してもよいし、含窒素有機化合物に対してカルボン酸亜鉛塩を添加してもよい。本発明の一実施形態において、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物との混合は、各種溶媒および/または各種単量体とともになされてもよく、これらの添加順番には特に制限はない。
【0038】
<亜鉛錯体の溶解性>
本発明の一態様の亜鉛錯体は各種の単量体・有機溶媒への溶解性に優れている。本発明の一実施形態における溶解性の指標は、透過率である。この透過率は、実施例に記載の測定方法によって算出されうる。より具体的には、亜鉛錯体(カルボン酸亜鉛塩)を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む単量体/有機溶媒(組成物温度:25℃)の分光光度計を用いた波長660nmでの透過率を意味しうる。
【0039】
本発明の一実施形態において、下記一般式(I):
【0040】
【0041】
式中、Lはそれぞれ独立して含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、亜鉛錯体を、亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含むエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および有機溶媒の少なくとも一方における透過率は、90%以上である。なお、「エチレン性不飽和結合を有する「他の」単量体」と記載しているのは、Rもエチレン性不飽和結合を有しているため、それと区別するためである。
【0042】
また本発明の一実施形態において、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られうる亜鉛錯体を、亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含むエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および有機溶媒の少なくとも一方における透過率は、90%以上である。
【0043】
なお、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、示されるカルボン酸亜鉛塩は、錯体化されていなくてもメタノールへの溶解性は優れている。その意味でかかる有機溶媒はメタノールである必要はない。本発明の一実施形態において、有機溶媒がアルコールを含まない。本発明の一実施形態において、有機溶媒が、メタノールを含まない。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記透過率は、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上あるいは98%以上でありうる。
【0045】
(エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体)
本発明の一実施形態において、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体としては、亜鉛錯体および/または下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、示されるカルボン酸亜鉛塩と共重合可能なものであれば特に制限なく、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物((メタ)アクリル酸アルキル);エチレン、プロピレン、塩化ビニル等のオレフィン系の炭化水素またはこれらのハロゲン置換体;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の1価のカルボン酸のビニルエステル化合物;(メタ)アリルアルコール、クロトンアルコール等の不飽和アルコール化合物;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイヒ酸等のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基カルボン酸;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノアリルエステル等の1価のアルコールと不飽和二塩基カルボン酸とのモノエステル化合物;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、マレイン酸ジアリル等のポリビニル化合物等を挙げることができ、これらのビニル基を有する他の単量体は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキルの炭素数は1~18、1~15、1~10、1~7、あるいは、1~4である。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキルは水酸基で置換されていてもよい。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキルはアルコシキ基で置換されていてもよい。本発明の一実施形態において、アルコシキ基の炭素数は1~5、あるいは、1~3でありうる。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルはアルケニルオキシ基で置換されていてもよい。本発明の一実施形態において、(メタ)アクリル酸アルキルはアルケニルオキシ基とエーテル結合とを有していてもよい。本発明の一実施形態において、アルケニルオキシ基の炭素数は1~3でありうる。
【0046】
本明細書においては、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体が含窒素有機化合物にも該当する場合それは含窒素有機化合物に分類されるものとする。よって、本明細書におけるエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体は、含窒素有機化合物ではない。
【0047】
本発明の一実施形態において他の単量体はオリゴマーであってもよい。ここでオリゴマーとはある繰り返し単位を2以上有するものを意味しそれは重合体としても認識されうる。本実施形態において、他の単量体がオリゴマー(重合体)である場合、それは単量体の全質量の5質量%未満、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、あるいは、0質量%でありうる。
【0048】
(有機溶媒)
有機溶媒は、常温常圧(25℃、1気圧)で液体の有機化合物でありうる。有機溶媒が含窒素有機化合物にも該当する場合それは含窒素有機化合物に分類されるものとする。よって、本明細書における有機溶媒は、含窒素有機化合物ではない。本発明の一実施形態において、有機溶媒は、エチレン性不飽和基のような重合性基を有さないものを含む。かかる実施形態によって、耐熱性等のジ(メタ)アクリル酸亜鉛に由来する特性をより効果的に付与することができる。
【0049】
本発明の一実施形態において、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシブタノール、グリコールエーテル(例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル)、多官能アルコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン等)等のアルコール系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル等のエステル系;トルエン、キシレン等の炭化水素系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系;エーテル系(ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
<亜鉛錯体の組成物>
本発明の一実施形態において、上記亜鉛錯体と、溶剤と、を含む、組成物であって、前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなる、組成物が提供される。また、本発明の一実施形態において、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤と、を含む、組成物であって、前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなる、組成物が提供される。ここで、「実質的にのみからなる」とは、前記溶剤が、エチレン性不飽和結合基を有する単量体および有機溶媒以外の媒体を含まないか、含んだとしても溶剤中、例えば、5質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、あるいは、0.001質量%以下であるものをいう。本発明の一実施形態において、溶剤が水を実質的に含まない。ここで、「水を実質的に含まない」とは、溶剤が水を全く含まない場合の他、空気中の水分を不可避的に含むことも概念的に包含されるし、あるいは、非常に微量、例えば、5質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、あるいは、0.001質量%以下、水を溶剤中に含まれる場合も包含される。
【0051】
本発明の一実施形態において、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および有機溶媒の種類についての説明は<亜鉛錯体の溶解性>において行った説明が適用されうる。なお、上述のとおり、カルボン酸亜鉛塩は、錯体化されていなくてもメタノールへの溶解性は優れている。その意味でかかる有機溶媒はメタノールである必要はない。カルボン酸亜鉛塩は、アルコールへの溶解に優れることがある。よって、本発明の一実施形態において、有機溶媒はアルコールである必要はない。本発明の一実施形態において、有機溶媒がアルコールを含まない。本発明の一実施形態において、有機溶媒が、メタノールを含まない。
【0052】
本発明の一実施形態において、前記組成物におけるエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体の割合は、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、あるいは95質量%以上でありうる。本発明の一実施形態において、前記組成物におけるエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体の割合は、99.5質量%以下、97.5質量%以下、96質量%以下、94質量%以下、92質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、86質量%以下、あるいは、84質量%以下でありうる。
【0053】
本発明の一実施形態において、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体100質量部に対する下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩の割合が0.01質量部~40質量部、0.01~30質量部、0.01~20質量部、あるいは0.01~10質量部でありうる。
【0054】
本発明の一実施形態において、前記組成物における有機溶媒の割合は、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、あるいは95質量%以上でありうる。本発明の一実施形態において、前記組成物における有機溶媒の割合は、97.5質量%以下、96質量%以下、94質量%以下、92質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、86質量%以下、84質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、あるいは、65質量%以下でありうる。
【0055】
本発明の一実施形態において、前記組成物における亜鉛錯体の割合は、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.7質量%以上、2質量%以上、2.2質量%以上、2.4質量%以上、2.6質量%以上、2.8質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上、4.5質量%以上、5質量%以上、5.5質量%以上、6質量%以上、6.5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、あるいは、30質量%以上でありうる。本発明の一実施形態において、前記組成物における亜鉛錯体の割合は、55質量%以下、50質量%以下、あるいは45質量%以下でありうる。
【0056】
本発明の一実施形態において、前記組成物におけるカルボン酸亜鉛塩の割合は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.7質量%以上、2質量%以上、2.2質量%以上、2.4質量%以上、2.6質量%以上、2.8質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、あるいは、9質量%以上でありうる。本発明の一実施形態において、前記組成物におけるカルボン酸亜鉛塩の割合は、本発明の一実施形態において、前記組成物におけるカルボン酸亜鉛塩の割合は、40質量%以下、30質量%以下、あるいは25質量%以下でありうる。
【0057】
本発明の一実施形態において、前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する含窒素有機化合物のモル比が2モル以上である。本発明の一実施形態において、カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する含窒素有機化合物のモル当量は、30モル当量以下、20モル当量以下、10モル当量以下、8モル当量以下、6モル当量以下、4.5モル当量以下、4モル当量以下、3.5モル当量以下、3モル当量以下、あるいは、2.5モル当量以下である。
【0058】
本発明の一実施形態において、上記亜鉛錯体と、溶剤と、を含む、組成物は、さらに重合開始剤を含みうる。本発明の一実施形態において、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤と、を含む、組成物は、さらに重合開始剤を含みうる。
【0059】
(重合開始剤)
本発明の一実施形態において、重合開始剤としては、光重合開始剤であっても熱重合開始剤であってもよい。光重合開始剤としては、特に限定されないが、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン及びそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、4-(1-t-ブチルジオキシ-1-メチルエチル)アセトフェノン等のアセトフェノン類;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアルキルフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、4-(1-t-ブチルジオキシ-1-メチルエチル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラキス(t-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル],1-(0-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;キサントン類等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
本発明の一実施形態において、前記組成物における光重合開始剤の割合は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上あるいは0.4質量%以上でありうる。本発明の一実施形態において、前記組成物における光重合開始剤の割合は、20質量%以下、10質量%以下、あるいは5質量%以下でありうる。
【0061】
本発明の一実施形態において、上記亜鉛錯体と、溶剤と、を含む、組成物は、さらに可塑剤、無機質充填剤、着色剤、補強剤、改質剤、安定剤、増量剤、離型剤、分散剤等の公知の添加剤を含みうる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の一実施形態において、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤と、を含む、組成物は、さらに可塑剤、無機質充填剤、着色剤、補強剤、改質剤、安定剤、増量剤、離型剤、分散剤等の公知の添加剤を含みうる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
本発明の一実施形態において、組成物を製造するにあたり、上記亜鉛錯体と、溶剤との混合の方法は特に制限されない。上記亜鉛錯体に対して溶剤を添加してもよいし、溶剤に対して上記亜鉛錯体を添加してもよい。また、本発明の一実施形態において、組成物を製造するにあたり、下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤との混合の方法も同様に特に制限されない。どのような順番で添加をしてもよい。
【0063】
本発明の一実施形態において、組成物を製造するにあたり、さらに重合性開始剤や、添加剤をさらに含ませる場合も、これらの混合の方法も同様に特に制限されない。どのような順番で添加をしてもよい。
【0064】
<アイオノマーおよびその製造方法>
本発明の一実施形態において、上記の組成物を重合することを有する、亜鉛原子を含むアイオノマーを製造する方法が提供される。
【0065】
本発明の一実施形態において、上記の組成物の重合は、熱重合であっても光重合であってもよい。本発明の一実施形態における光重合の露光に用いられる光源としては、特に限定されないが、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED等を用いることができる。また、本発明の一実施形態における光重合の露光量(紫外線照度)は、特に制限されないが、0.1~600mW/cm2、1~400mW/cm2あるいは5~200mW/cm2で、0.1秒~60分、1秒~45分あるいは5秒~30分であることが例示できる。
【0066】
上記の組成物を重合することによって、Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩由来の構成単位と、カルボン酸亜鉛塩由来の構成単位以外のエチレン性不飽和結合基を有する単量体由来の構成単位と、を含む、アイオノマーが提供されうる。
【0067】
なお、重合後、減圧乾燥等によりトリエチルアミン等の含窒素有機化合物は除去可能である。このように従来困難であった液相重合が可能となり、多用途展開が期待される。
【0068】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0069】
本発明は、下記態様および形態を包含しうる。
【0070】
1.下記一般式(I):
【0071】
【0072】
式中、Lはそれぞれ独立して含窒素有機化合物である配位子であり、Rはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、亜鉛錯体。
【0073】
2.下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示されるカルボン酸亜鉛塩と;前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対して2モル当量以上のモル当量の含窒素有機化合物と;を混合させることにより得られる、亜鉛錯体。
【0074】
3.前記モル当量が、4モル当量以下である、2.に記載の亜鉛錯体。
【0075】
4.Raが、それぞれ独立して炭素数2~4の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、2.または3.に記載の亜鉛錯体。
【0076】
5.前記含窒素有機化合物が、三級アミンまたは含窒素複素環化合物である、1.~4.のいずれかに記載の亜鉛錯体。
【0077】
6.前記三級アミンが、N(R1)(R2)(R3)、ここで、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、置換基で置換されてもよい、炭素数1~10のアルキル基である、で示され、前記置換基は、-OCORb(ただし、Rbはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である)である、5.に記載の亜鉛錯体。
【0078】
7.前記含窒素複素環化合物が、ピリジンである、5.に記載の亜鉛錯体。
【0079】
8.前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含むエチレン性不飽和結合基を有する他の単量体における透過率が90%以上である、1.~7.のいずれかに記載の亜鉛錯体。
【0080】
9.前記亜鉛錯体を亜鉛塩換算で2.5質量%の濃度で含む有機溶媒における透過率が90%以上である、1.~7.のいずれかに記載の亜鉛錯体。
【0081】
10.1.~9.のいずれかに記載の亜鉛錯体と、溶剤と、を含む、組成物であって、前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなる、組成物。
【0082】
11.下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、で示される、カルボン酸亜鉛塩と、含窒素有機化合物と、溶剤と、を含む、組成物であって、前記溶剤が、実質的に、エチレン性不飽和結合基を有する他の単量体および/または有機溶媒のみからなる、組成物。
【0083】
12.前記組成物における前記カルボン酸亜鉛塩の割合が0.1質量%以上であり、前記カルボン酸亜鉛塩の亜鉛原子に対する前記含窒素有機化合物のモル比が2モル以上である、11.に記載の組成物。
【0084】
13. 10.~12.のいずれかに記載の組成物を重合することを有する、亜鉛原子を含むアイオノマーを製造する方法。
【0085】
14. 下記一般式(II):
Zn(OCORa)2・・・(II)
式中、Raはそれぞれ独立して炭素数2~10の二重結合のα位がメチル基で置換されてもよいアルケニル基である、カルボン酸亜鉛塩由来の構成単位と、カルボン酸亜鉛塩由来の構成単位以外のエチレン性不飽和結合基を有する単量体由来の構成単位と、を含む、アイオノマー。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例および比較例に限定して解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も本発明の範囲に含まれる。なお、特に注釈の無い限り、室温(20~25℃)、相対湿度50±5%RHの条件下で測定した。
【0087】
<溶解性の確認>
(目視結果)
以下の表に示される組成の、ジアクリル酸亜鉛(ZN-DA)と、トルエンと、各種溶解助剤との混合物(75℃)を作製し、ジアクリル酸亜鉛の溶解性を目視にて確認した。
【0088】
【0089】
以上のとおり、各種溶解助剤が含まれるトルエンにはジアクリル酸亜鉛は溶解できるが、溶解助剤が含まれないトルエンにはジアクリル酸亜鉛は溶解できないことが分かる。
【0090】
≪ジアクリル酸亜鉛・2ピリジン配位体の同定≫
(1H-NMR)
表1に示される、ジアクリル酸亜鉛と、トルエンと、溶解助剤としてピリジンとの混合物を濃縮(減圧乾燥)することによる粉末を得た。
【0091】
上記粉末40mgを分取し、重トルエン2,000mgに溶解し日本電子製 JNM-ECZ600R にて1H-NMRを測定した。結果を以下の表に示す。
【0092】
【0093】
(熱質量測定)
上記粉末の熱質量は、TG/DTA 日立製STA7200を用いて測定を行った。具体的には、窒素気流下、100℃保持にて恒量となった時点での質量減少率を配位子遊離分とみなし理論値と比較した。結果を以下の表に示す。
【0094】
【0095】
(臭素価測定)
上記粉末の臭素価は、JIS K 2605:1996 に準じて測定し、理論値と比較した。結果を以下の表に示す。
【0096】
【0097】
(元素分析)
上記粉末の元素分析は、elementar社製 vario EL cube にて測定し、理論値と比較した。
【0098】
【0099】
(単結晶X線構造解析)
上記粉末の単結晶X線構造解析は、単結晶X線構造解析 Rigaku Saturn724+ 回折計にて、グラファイトモノクロメータで単色化されたMoKα線(λ=0.71075Å)を使用して測定し、CrystalClear-SM 1.4.0 SP1を使用してデータを収集し、CrysAlisPro 171.41.105a 64 ビットでデータ処理した。結果を
図1に示す。
【0100】
<溶解性の確認>
(溶解度の測定)
続いて、ジアクリル酸亜鉛の各種溶媒・各種単量体への溶解度を、次の方法で評価した。すなわち、比較例(トリエチルアミン(TEA)無添加)においては、ジアクリル酸亜鉛1gを密閉容器中に準備した。そこに各種溶媒・各種単量体(25℃)を攪拌しながら少しずつ加えていき完全に溶解したことを目視で確認し、そのときの溶液(25℃)の質量より溶解度(質量%)を求めた。実施例(トリエチルアミン(TEA)添加)においては、ジアクリル酸亜鉛1gにさらにトリエチルアミンを2g(4.1当量/ジアクリル酸亜鉛)添加したものを密閉容器中に準備した以外は、比較例と同様にジアクリル酸亜鉛の各種溶媒・各種単量体への溶解度(質量%)を測定した。
【0101】
(透過率の測定)
溶解助剤の効果を示す指標として、各種溶媒・各種単量体での溶解助剤(TEA)が有姿2.5質量%における透過率を測定した。
【0102】
より具体的には、下記質量比のサンプル(25℃)を調製し、分光光度計(日本分光株式会社製 型番:V-650)を用いて波長660nmでの透過率(%)を測定した。
【0103】
比較例(TEA無添加)においては、各種溶媒・各種単量体:ジアクリル酸亜鉛=97.5:2.5
実施例(TEA添加)においては、各種溶媒・各種単量体:ジアクリル酸亜鉛:トリエチルアミン=92.5:2.5:5.0。
【0104】
【0105】
【0106】
以上のとおり、溶解助剤を用いることで各種溶媒や各種単量体に対するジアクリル酸亜鉛の溶解度の飛躍的な向上が認められた。また、溶解助剤の有無によって各種溶媒や各種単量体における透過率の顕著な差異が認められた。なお、本発明の一形態において、「溶解」の指標は、透過率が90%以上である。
【0107】
<光重合テスト結果>
(ガラス転移温度)
以下の表に記載の単量体と、重合開始剤と、ジアクリル酸亜鉛と、溶解助剤とを混合することで、混合物を作製した。なお、これらの混合順番には特に制限はない。
【0108】
そして、2枚の透明なガラス板に両面テープをスペーサーとして両端に挟んで約2mm厚の隙間を設けた構造体を作製し、当該隙間に各混合物(2g)を流し込み、セン特殊光源株式会社製のHLR100T-2を用いてUV強度:170mW/cm2で30分間のUV照射を行った。その後、ガラス板から剥がし取って重合体を得た。得られた各重合体のガラス転移温度を示差熱分析(DTA)によって測定した。
【0109】
【0110】
(質量減少率)
比較例1および実施例1-1~実施例1-3で得られた重合体に対して加熱を行って質量減少率が5質量%、10質量%、50質量%時点での温度を測定した。
【0111】
なお、実施例2-1~実施例2-3のガラス転移温度、質量減少率の測定においては得られた重合体に残留する揮発分(主にトリエチルアミン)の影響を抑えるため、ガラス転移温度、質量減少率の測定前に、70℃、0.004MPa、1時間の条件にて乾燥処理を行った。
【0112】
【0113】
実施例1-1~実施例1-3、実施例2-1~実施例2-3に示されるように、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとを溶解助剤とジアクリル酸亜鉛の存在下で重合させて得られた重合体のガラス転移温度は、比較例1のメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの重合体のガラス転移温度よりも高くなっている。このため、溶解助剤とジアクリル酸亜鉛の添加によって耐熱性向上の効果が認められたことが分かる。
【0114】
特筆すべきは、重合性を有する溶解助剤A(アクリル酸2-ジメチルアミノエチル)を使用した実施例1-1~実施例1-3と、重合性を有しない溶解助剤B(トリエチルアミン)を使用した実施例2-1~実施例2-3とを対比すると、後者の方が、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛に由来する特性(耐熱性)をより効果的に付与できていることである。
【0115】
なお、本出願は、2022年12月15日に出願された日本国特許出願第2022-200007号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。