(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】塔状構造物の解体方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
E04G23/08 J
(21)【出願番号】P 2021119537
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519412040
【氏名又は名称】株式会社本間解体工業
(73)【特許権者】
【識別番号】521321066
【氏名又は名称】株式会社光久大建興業
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高塚 義則
(72)【発明者】
【氏名】山村 法男
(72)【発明者】
【氏名】笠井 英親
(72)【発明者】
【氏名】新海 貴史
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 卓
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 重宏
(72)【発明者】
【氏名】細畠 光廣
【審査官】眞壁 隆一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/92609(WO,A1)
【文献】特開2006-188913(JP,A)
【文献】特開2018-130090(JP,A)
【文献】米国特許第2960309(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00 - 23/08
E04H 12/00
F03D 1/00 - 80/80
A01G 23/02
A01G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔状構造物の解体方法であって、
塔状構造物の頂部近傍に、転倒方向に対して所定の角度の方向に一対の転倒方向矯正ワイヤを設置するとともに、転倒方向に向けて転倒補助ワイヤを設置する工程aと、
前記塔状構造物の基部側において、転倒方向とは逆側の周方向の一部を含む第1の切断部を切断する工程bと、
転倒方向とは逆側の外面において、前記第1の切断部を跨ぐように、ジャッキと、前記ジャッキの受け部を配置する工程cと、
前記第1の切断部と、転倒方向側の一部の非切断部とを除く周方向の一部である第2の切断部を切断する工程dと、
前記ジャッキを伸長させるとともに、前記転倒補助ワイヤを引っ張り、前記塔状構造物を転倒させる工程eと、
を具備し、
前記第1の切断部は、略水平な切断部を含み、前記第2の切断部は、転倒方向の逆側から転倒方向に向けて、切断位置が低くなるように傾斜した切断部を含むことを特徴とする塔状構造物の解体方法。
【請求項2】
前記工程cにおいて、転倒方向とは逆側の外面を除く、前記第1の切断部を跨ぐように、転倒防止装置と転倒防止ピンを設置し、
前記工程eの前に、前記転倒防止ピンを抜き取ることを特徴とする請求項1記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項3】
前記工程eにおいて、前記ジャッキ及び前記転倒防止ピンの操作が遠隔操作で行われることを特徴とする請求項2に記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項4】
前記第1の切断部は、転倒方向に対して垂直な周方向位置において、略水平な切断部を有し、
前記第2の切断部は、転倒方向の逆側の周方向位置の前記第1の切断部と、転倒方向に対して垂直な周方向位置の前記第1の切断部とをつなぐ位置を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項5】
前記工程aにおいて、前記転倒補助ワイヤを、前記塔状構造物の幅方向に離間して2か所に取付け、
前記工程eで、前記転倒補助ワイヤを引っ張る際に、滑車を用いて、2か所に取り付けた前記転倒補助ワイヤを略均等に引っ張ることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項6】
前記塔状構造物は、風力発電のタワーであり、
前記工程aの前に、前記塔状構造物の頂部に固定されているナセルを撤去し、
前記工程aでは、前記ナセルを固定していたフランジ部を用いて、前記転倒方向矯正ワイヤ及び前記転倒補助ワイヤを接続することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項7】
前記工程eよりも前において、前記非切断部の内面側の一部に、座屈防止部材を固定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の塔状構造物の解体方法。
【請求項8】
前記工程eの後に、転倒させた前記塔状構造物を地上で細かく切断して解体することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の塔状構造物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電用のタワーなどの塔状構造物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電用のタワー等の塔状構造物は、例えば20年程度で解体され、必要に応じて新たな塔状構造物が施工される。このように、塔状構造物を解体する際には、塔状構造物を地面に倒して解体する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭55-7308号公報
【文献】特開2019-210685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように、塔状構造物の基部近傍に、回転用のヒンジ構造を形成する方法は、その施工にはコストと工期が必要となる。例えば、塔状構造物を転倒させる際には、全ての重量がヒンジにかかるため、相当大掛かりなヒンジ構造が必要となり、ヒンジ構造の設置や塔状構造物への固定が容易ではない。
【0005】
また、特許文献2のように、大型クレーンによって吊り下げ、移動しながら塔状構造物を転倒させるためには、塔状構造物の周囲の大型クレーンの移動範囲の地盤を養生する必要がある。また、転倒が完了するまでの間は、大型クレーンが必要となるため、大型クレーンの使用期間が長くなり、コスト増の要因となる。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、より安価に効率よく塔状構造物を解体することが可能な塔状構造物の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明は、塔状構造物の解体方法であって、塔状構造物の頂部近傍に、転倒方向に対して所定の角度の方向に一対の転倒方向矯正ワイヤを設置するとともに、転倒方向に向けて転倒補助ワイヤを設置する工程aと、前記塔状構造物の基部側において、転倒方向とは逆側の周方向の一部を含む第1の切断部を切断する工程bと、転倒方向とは逆側の外面において、前記第1の切断部を跨ぐように、ジャッキと、前記ジャッキの受け部を配置する工程cと、前記第1の切断部と、転倒方向側の一部の非切断部とを除く周方向の一部である第2の切断部を切断する工程dと、前記ジャッキを伸長させるとともに、前記転倒補助ワイヤを引っ張り、前記塔状構造物を転倒させる工程eと、を具備し、前記第1の切断部は、略水平な切断部を含み、前記第2の切断部は、転倒方向の逆側から転倒方向に向けて、切断位置が低くなるように傾斜した切断部を含むことを特徴とする塔状構造物の解体方法である。
【0008】
前記工程cにおいて、転倒方向とは逆側の外面を除く、前記第1の切断部を跨ぐように、転倒防止装置と転倒防止ピンを設置し、前記工程eの前に、前記転倒防止ピンを抜き取ってもよい。
【0009】
前記工程eにおいて、前記ジャッキ及び前記転倒防止ピンの操作が遠隔操作で行われてもよい。
【0010】
前記第1の切断部は、転倒方向に対して垂直な周方向位置において、略水平な切断部を有し、前記第2の切断部は、転倒方向の逆側の周方向位置の前記第1の切断部と、転倒方向に対して垂直な周方向位置の前記第1の切断部とをつなぐ位置を含んでもよい。
【0011】
前記工程aにおいて、前記転倒補助ワイヤを、前記塔状構造物の幅方向に離間して2か所に取付け、 前記工程eで、前記転倒補助ワイヤを引っ張る際に、滑車を用いて、2か所に取り付けた前記転倒補助ワイヤを略均等に引っ張ってもよい。
【0012】
前記塔状構造物は、風力発電のタワーであり、前記工程aの前に、前記塔状構造物の頂部に固定されているナセルを撤去し、前記工程aでは、前記ナセルを固定していたフランジ部を用いて、前記転倒方向矯正ワイヤ及び前記転倒補助ワイヤを接続してもよい。
【0013】
前記工程eよりも前において、前記非切断部の内面側の一部に、座屈防止部材を固定してもよい。
【0014】
前記工程eの後に、転倒させた前記塔状構造物を地上で細かく切断して解体してもよい。
【0015】
本発明によれば、転倒方向に非切断部を設け、転倒方向とは逆側からジャッキを用いて塔状構造物を転倒させるため、従来の大型クレーンやヒンジ部材等を用いることなく塔状構造物を転倒させることができる。このため、天候に左右されずに作業を行うことができ、コスト等の削減にもなる。
【0016】
また、第1の切断部は、略水平方向の切断部を含むため、切断後も、切断部より上方の塔状構造物を、切断部よりも下方で安定して支持することができる。また、第2の切断部が、転倒方向の逆側から転倒方向に向けて、切断位置が低くなるように傾斜した切断部を有するため、非切断部を回転中心として塔状構造物を転倒させる際に、転倒方向とは逆側に配置されたジャッキを小型化することができる。
【0017】
また、第1の切断部が、転倒方向に対して垂直なそれぞれの周方向位置において、略水平な切断部を有すれば、切断後において、より安定して第1の切断部より上方の塔状構造物を、切断部よりも下方で支持することができる。
【0018】
また、ジャッキ及び転倒防止ピンの操作が遠隔操作可能であれば、塔状構造物を転倒させる際に、作業者が塔状構造物の近くで作業を行う必要がなく、安全である。
【0019】
また、転倒補助ワイヤを塔状構造物の幅方向(転倒方向に垂直な方向)に離間して2か所に取付け、転倒補助ワイヤを引っ張る際に、滑車を用いて2か所に取り付けた転倒補助ワイヤを引っ張ることで、塔状構造物を転倒方向に対して略均等に引っ張ることができるため、転倒方向をより安定して制御することができる。
【0020】
また、塔状構造物が風力発電のタワーである場合において、塔状構造物の頂部に固定されているナセルを撤去し、ナセルを固定していたフランジ部を用いて、転倒方向矯正ワイヤ及び転倒補助ワイヤを接続することで、作業が容易である。
【0021】
また、塔状構造物を転倒させる前に、非切断部の内面側の一部に、所定の高さの座屈防止部材を固定することで、転倒前に塔状構造物が座屈することを抑制することができる。
【0022】
また、地上に転倒させた塔状構造物を、地上で細かく切断して解体することで、解体作業が容易である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、より安価に効率よく塔状構造物を解体することが可能な塔状構造物の解体方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】(a)、(b)は、塔状構造物1に転倒方向矯正ワイヤ9と転倒補助ワイヤ11を接続した状態を示す図。
【
図5】(a)は、第1切断部17a、17bを設けた塔状構造物1の基部近傍を示す図、(b)は、第1切断部17a、17bの周方向位置を示す図。
【
図6】ジャッキ27、転倒防止装置25を配置した塔状構造物1の基部近傍を示す図。
【
図7】(a)、(b)は、転倒防止装置25の動作を示す図。
【
図8】(a)は、第2切断部31a、31bを設けた塔状構造物1の基部近傍を示す図、(b)は、第2切断部31a、31bの周方向位置を示す図。
【
図10】座屈防止部材28を固定した状態を示す図。
【
図11】(a)、(b)は、塔状構造物1を転倒させる状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、塔状構造物1を示す図である。なお、本実施形態では、塔状構造物1が、風力発電のタワーである場合について説明するが、他の塔状構造物であってもよい。例えば、煙突などの塔状構造物にも適用可能である。
【0026】
塔状構造物1は、地面7に起立し、塔状構造物1の上部には、フランジ部5を介してブレードが取り付けられたナセル3が固定される。なお、塔状構造物1は、例えば中空鋼製である。
【0027】
塔状構造物1を解体するには、まず、大型クレーン等を使用して、塔状構造物1の頂部に固定されているナセル3及びブレードを撤去する。
図2は、転倒方向矯正ワイヤ9及び転倒補助ワイヤ11を接続した状態を示す図であり、
図2(a)は、
図2(b)のB矢視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA矢視図である。ここで、
図2(a)の矢印C方向を塔状構造物1の転倒方向とし、
図2(a)の矢印D方向を転倒方向とは逆側とする。また、
図2(b)のE、F方向を転倒方向に垂直な方向とする。
【0028】
図示したように、塔状構造物1の頂部近傍に、転倒方向に略垂直な互いに対向する方向(図中E、F方向)に一対の転倒方向矯正ワイヤ9を設置するとともに、転倒方向(図中C方向)に向けて転倒補助ワイヤ11を設置する。
【0029】
図3は、塔状構造物1の頂部近傍の拡大図であり、
図4は、塔状構造物1の平面図である。フランジ部5には、アイプレート15が溶接される。それぞれのアイプレート15に対して、シャックル等を介して転倒方向矯正ワイヤ9と転倒補助ワイヤ11が接続される。
【0030】
より詳細には、一対のアイプレート15が、転倒方向(C方向)に対して垂直な方向(E、F方向)に対して、互いに対向するように配置される。転倒方向に対して垂直な方向(E、F方向)に対向配置されるアイプレート15には、それぞれ転倒方向矯正ワイヤ9の一端が接続される。転倒方向矯正ワイヤ9は、所定の緊張状態を維持した状態で、他端が地面7に対してウェイトやアンカー等によって固定される。例えば、
図2(b)に示すように、地面7と転倒方向矯正ワイヤ9との角度は、約45°に設定される。なお、転倒方向矯正ワイヤ9は、転倒方向(C方向)に対して、完全に垂直な方向でなくてもよく、所定の角度に略対称に配置されればよい。
【0031】
また、
図3に示すように、転倒方向矯正ワイヤ9が接続されるそれぞれのアイプレート15に対して、転倒方向(C方向)にずれた位置に、一対のアイプレート15がさらに配置され、転倒補助ワイヤ11が接続される。すなわち、転倒補助ワイヤ11は、塔状構造物1の幅方向(E、F方向)に離間して2か所に取付けられる。
【0032】
図4は、塔状構造物1の平面図である。転倒補助ワイヤ11は、その両端がフランジ部5に取り付けられる。転倒補助ワイヤ11の略中央部には、滑車13が取り付けられる。後述する、転倒補助ワイヤ11を引っ張る工程において、滑車13を用いることで、互いに幅方向に離間して2か所に取り付けた転倒補助ワイヤ11を略均等に引っ張る(図中C方向)ことができる。
【0033】
このように、ナセル3を固定していたフランジ部5を用いることで、塔状構造物1の頂部近傍に、転倒方向矯正ワイヤ9及び転倒補助ワイヤ11を接続することができる。なお、転倒補助ワイヤ11を引っ張る工程の前には、転倒補助ワイヤ11は、緩められている。また、滑車13は、転倒補助ワイヤ11を引っ張る工程の前に設置すればよい。
【0034】
次に、塔状構造物の基部側において、周方向の一部を切断する。
図5(a)は、塔状構造物1の基部近傍の側面図であり、
図5(b)は、塔状構造物1の断面における、第1切断部17a、17bの周方向の位置を示す図である。
【0035】
第1切断部17aは、転倒方向とは逆側の位置(図中D方向)の周方向の一部であり、第1切断部17bは、転倒方向に対して垂直な周方向位置(図中E、F方向)である。なお、塔状構造物1が鋼製であれば、例えばガス溶断で各部を切断することができる。また、第1切断部17a、17bの切断順序は特に限定されないが、例えば、2か所の第1切断部17bを切断後に、第1切断部17aを切断してもよい。
【0036】
ここで、第1切断部17a、17bは、略水平方向の切断部を含むことが望ましいが、例えば、第1切断部17a又は第1切断部17bの一部に、非水平部があってもよい。なお、第1切断部17bは、塔状構造物1の幅方向(E、F方向)に対して、塔状構造物1の重心(円の中心)を挟むように、対向する位置に配置される。このため、第1切断部17bを略水平な切断部とすることで、切断部よりも上方の塔状構造物1の荷重を安定して受けることができる。なお、略水平とは、完全な水平状態に対して、例えば±1°程度の範囲内である。
【0037】
また、第1切断部17aを跨ぐように、第1切断部17aの上下には、複数の固定孔19が形成される。また、第1切断部17bの下方には、固定孔19が形成されるとともに、第1切断部17bの上方には、ピン孔21が形成される。なお、固定孔19及びピン孔21は、例えば磁気ボール盤等を用いて形成される。
【0038】
なお、第1切断部17a、17bの形成範囲を正確に定めるため、第1切断部17a、17bの形成前に、切断範囲の始点と終点に孔やスリットを形成してもよい。また、固定孔19及びピン孔21は、第1切断部17a、17bを形成する前に形成してもよい。
【0039】
次に、
図6に示すように、転倒方向とは逆側(図中D方向)の外面において、第1切断部17aの下部に台座29aを配置し、第1切断部17aの上部にジャッキ受け部29bを配置する。台座29a及びジャッキ受け部29bは、固定孔19(
図5(a))によって、塔状構造物1に固定される。台座29aには、ジャッキ27が連結される。すなわち、第1切断部17aを跨ぐように、ジャッキ27と、ジャッキ受け部29bが配置される。ジャッキ27は、台座29aに対して、塔状構造物1の転倒方向に回動可能であり、また、ジャッキ27は、ジャッキ受け部29b方向に対して伸縮可能である。
【0040】
また、転倒方向に垂直な方向(図中E、F方向)の外面において、必要に応じて、第1切断部17bの下部に転倒防止装置25を固定する。転倒防止装置25の上部には、転倒防止ピン23が配置される。すなわち、第1切断部17b(転倒方向とは逆側の外面の第1切断部17aを除いた切断部)を跨ぐように、転倒防止装置25と、転倒防止ピン23が配置される。
【0041】
図7は、転倒防止装置25の動作を示す図である。
図7(a)に示すように、転倒防止ピン23は、ピン孔21と対向する位置に配置される。
図7(b)に示すように、転倒防止装置25を稼働させると、転倒防止ピン23がピン孔21に挿入される(図中矢印G方向)。このようにすることで、第1切断部17bの上下が、転倒防止装置25と転倒防止ピン23とで連結される。このため、第1切断部17bの上部が、第1切断部17bの下部に対して、例えば転倒方向等へずれることがない。なお、ジャッキ27及び転倒防止装置25は、例えば油圧装置である。
【0042】
次に、周方向の一部の第2切断部を切断する。
図8(a)は、塔状構造物1の基部近傍の側面図であり、
図8(b)は、塔状構造物1の断面における、第2切断部31a、31bの周方向の位置を示す図である。
【0043】
第2切断部31a、31bは、転倒方向の逆側の周方向位置の第1切断部17aと、転倒方向に対して垂直な周方向位置の第1切断部17bとをつなぐ位置を含む。より詳細には、第2切断部31aは、第1切断部17aと第1切断部17bとをつなぐように形成され、第2切断部31bは、第1切断部17bから転倒方向(図中C方向)に向けて所定の範囲に形成される。
【0044】
第2切断部31a、31bは、転倒方向の逆側(D方向)から転倒方向(C方向)に向けて、切断位置が低くなるように傾斜した切断部を含む。なお、第2切断部31a、31bの水平方向に対する傾斜角度としては、例えば、45度以上であることが望ましく、60~70度であることがより望ましい。なお、第2切断部31a、31bは、必ずしも直線状でなく、曲線状でもよい。また、第2切断部31bの転倒方向側の端部同士はつながらず、転倒方向の周方向の一部には、切断されていない非切断部32が残る。すなわち、第2切断部31a、31bは、第1切断部17a、17bと転倒方向側の一部の非切断部32とを除く周方向の一部である。
【0045】
なお、例えば、周長が9m程度の塔状構造物の場合には、第1切断部17aは約1.5m、第1切断部17bは、それぞれ約1m、第2切断部31a、31bは、それぞれ約1m、非切断部32が約1.5m程度とすることができる。また、第2切断部31bの転倒方向側の端部の位置を正確にするため(すなわち、非切断部32の長さを正確にするため)、第2切断部31bの転倒方向側の端部の位置には、予め孔やスリットを形成しておいてもよい。
【0046】
また、第2切断部31a、31bを切断すると、切断後に、塔状構造物1にかかっていた応力が開放されて、目違いが生じる恐れがある。このため、この目違いを抑制するため、ずれ止め部材24を配置してもよい。
図9は、ずれ止め部材24を固定した状態を示す断面図である。
【0047】
ずれ止め部材24を固定するためには、まず、ずれ止め部材24を固定する位置の第2切断部31a(31b)の一部を先行切断し、先行切断した部位に、ずれ止め部材24を、塔状構造物1の内面と外面とに固定する。この際、第2切断部31a(31b)を跨ぐように、ずれ止め部材24が配置され、第2切断部31a(31b)の上方又は下方の一方においてのみ、溶接部34で塔状構造物1に固定される。例えば、内外のずれ止め部材24は、一方が第2切断部31a(31b)の上方に溶接され、他方が第2切断部31a(31b)の下方に溶接される。この状態で、先行切断部以外の第2切断部31a(31b)の全体が切断される。
【0048】
なお、ずれ止め部材24の内面側には、第2切断部31a(31b)に対応する位置にスカラップ39が形成される。このようにすることで、先行切断時に形成される凹凸と、ずれ止め部材24とが干渉することを回避することができる。このように、ずれ止め部材24を配置することで、第2切断部31a、31bの切断後の目違いを抑制することができる。
【0049】
また、非切断部32の内面側の一部に座屈防止部材28を固定してもよい。
図10は、座屈防止部材28を固定した状態を示す断面図である。座屈防止部材28は、例えばH型鋼であり、第2切断部31bの転倒方向側の端部の位置(転倒時の回転軸となる転倒軸予定部35)の上下にそれぞれ配置される。なお、上下の座屈防止部材28同士は接合されず、突き合せられた状態である。
【0050】
転倒軸予定部35の下方に配置される座屈防止部材28は、転倒軸予定部35よりもわずかに上方に突出し、転倒軸予定部35より下方において溶接部33によって塔状構造物1の内面に固定される。すなわち、転倒軸予定部35の下方に配置される座屈防止部材28は、転倒軸予定部35よりも上方には固定されない。一方、転倒軸予定部35の下方に配置される座屈防止部材28は、略全体が溶接部33によって塔状構造物1の内面に固定される。
【0051】
なお、座屈防止部材28は、第2切断部31a、31bを形成した後に固定してもよいが、それよりも前に予め固定してもよい。例えば、座屈防止部材28の固定は、第1切断部17a、17bの形成前であってもよく、第1切断部17a、17bと第2切断部31a、31bとの間であってもよい。すなわち、座屈防止部材28の固定は、後述する塔状構造物1の転倒工程前であればいつでもよい。
【0052】
次に、塔状構造物1を転倒させる。
図11(a)は、塔状構造物1の側面図であり、
図11(b)は、基部近傍の拡大図である。塔状構造物1を転倒させるには、まず、
図7(a)のように、転倒防止ピン23をピン孔21から抜き取る。
【0053】
次に、
図11(b)に示すように、ジャッキ27を伸長させるとともに(図中矢印I)、
図11(a)に示すように、転倒補助ワイヤ11を引っ張り(図中矢印H)、塔状構造物1を転倒させる。ここで、ジャッキ27及び転倒防止ピン23の操作は、動作を目視で確認できる程度の距離から、遠隔操作で行われる。ジャッキ27を伸長させることで、ジャッキ27がジャッキ受け部29bを押圧し、塔状構造物1を転倒方向に向けて傾けることができる。
【0054】
また、転倒補助ワイヤ11は、塔状構造物1の転倒範囲を超えた位置に配置されたバックホー等の重機で引っ張られる。塔状構造物1の転倒のきっかけを作るだけでよいので、転倒補助ワイヤ11を引っ張るのに、特殊な大型クレーン等は不要である。なお、前述したように、滑車13を用いることで、幅方向に略均等に転倒補助ワイヤ11を引っ張ることができる。このため、塔状構造物1を確実に転倒方向に向けて転倒させることができる。また、転倒方向矯正ワイヤ9によって、塔状構造物1が転倒方向とは異なる方向に転倒することを抑制することができる。
【0055】
図12は、塔状構造物1を転倒させた状態を示す図である。この状態で、塔状構造物1を地上で細かく切断することで、塔状構造物1を解体することができる。なお、塔状構造物1の解体は、人手によるガス溶断や、重機等を用いて切断すればよい。なお、転倒方向矯正ワイヤ9によって、仮に塔状構造物1が破断しても、塔状構造物1が転倒方向に所定以上飛び出すことを抑制することができる。また、第2切断部31a、31bは、転倒方向に向けて徐々に低くなるように形成されているため、転倒時に塔状構造物1が転倒方向とは逆側にずれることがない。
【0056】
以上のように、本実施形態の塔状構造物1の解体方法によれば、略水平部を含む第1切断部17a、17bによって、塔状構造物1の荷重を支持することができるため、周方向の一部を切断しても、塔状構造物1を安定させることができ、塔状構造物1の予期しない転倒を抑制することができる。
【0057】
また、転倒防止ピン23を用いることで、第1切断部17bにおける塔状構造物1のずれを抑制することができる。
【0058】
また、転倒方向に向けて下方に斜めに第2切断部31a、31bを形成することで、ジャッキ27によって塔状構造物1を転倒させる際に、ジャッキ27のサイズを小型化することができる。例えば、塔状構造物1の転倒時の回転中心(非切断部32の位置)と、第1切断部17aが同じ高さであると、ジャッキ27の作動圧を大きくし、ストローク長を長くしなければ、塔状構造物1を所定以上傾けることができない。これに対し、塔状構造物1の転倒時の回転中心(非切断部32の位置)に対して、第1切断部17aを高い位置とすることで、より小さな力でより短いストローク長でも、より大きな回転角度で塔状構造物1を転倒させることができる。
【0059】
また、第2切断部31a、31bにずれ止め部材24を配置することで、第2切断部31a、31bを形成後に、塔状構造物1の目違いを抑制することができる。
【0060】
また、ジャッキ27と転倒防止ピン23の動作を遠隔操作とすることで、より安全に作業を行うことができる。
【0061】
また、座屈防止部材28を設けることで、非切断部32の座屈を抑制することができる。
【0062】
また、転倒補助ワイヤ11を引っ張る際に、滑車を用いて、塔状構造物1の幅方向に離間する2か所を略均等に引っ張ることで、塔状構造物1の転倒時における回転や転倒方向のずれを抑制することができる。
【0063】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば、塔状構造物1は、中空鋼製でなくてもよく、鉄筋コンクリート製であってもよい。また、塔状構造物1を解体する際には、最初に大型クレーン等を使用して、塔状構造物1の頂部に固定されているナセル及びブレードを撤去したが、ナセルやブレード等を付けた状態で転倒してもよい。この場合、転倒方向矯利正ワイヤ9や転倒補助ワイヤ11を、組立時の玉掛け部を利用して取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0065】
1………塔状構造物
3………ナセル
5………フランジ部
7………地面
9………転倒方向矯正ワイヤ
11………転倒補助ワイヤ
13………滑車
15………アイプレート
17a、17b………第1切断部
19………固定孔
21………ピン孔
23………転倒能防止ピン
24………ずれ止め部材
25………転倒防止装置
27………ジャッキ
28………座屈防止部材
29a………台座
29b………ジャッキ受け部
31a、31b………第2切断部
32………非切断部
33、34………溶接部
35………転倒軸予定部
39………スカラップ