IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人明治大学の特許一覧 ▶ トーテク株式会社の特許一覧

特許7618147アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤
<>
  • 特許-アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤 図1
  • 特許-アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤 図2
  • 特許-アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤 図3
  • 特許-アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】アスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/10 20180101AFI20250114BHJP
   A01M 21/04 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
A01G22/10
A01M21/04 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023196777
(22)【出願日】2023-11-20
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598049573
【氏名又は名称】トーテク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128392
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】元木 悟
(72)【発明者】
【氏名】池島 敏二
(72)【発明者】
【氏名】池島 孝宜
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-087324(JP,A)
【文献】特開2000-004687(JP,A)
【文献】特開2001-145428(JP,A)
【文献】特開2004-313048(JP,A)
【文献】特開2008-035860(JP,A)
【文献】特開2002-153145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0129544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0180763(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105669312(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00- 7/06
A01G 13/00-13/10
A01M 21/00-21/04
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場のアスパラガス地下茎から萌芽した新芽が成長し、収穫高さになった若茎を切断して収穫するアスパラガスの栽培方法であって、
前記地下茎から新芽が萌芽する前の春先に、黒色顔料、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分として含有する第一液状マルチ剤を圃場に散布して該圃場が黒色の被覆膜に覆われた状態でアスパラガスの栽培をし、しかる後、気温が上昇した立茎時期に対応し、白色顔料、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分として含有する第二液状マルチ剤を圃場に散布して、該圃場が白色の被覆膜に覆われた状態でアスパラガスを継続して栽培することを特徴とするアスパラガスの栽培方法。
【請求項2】
第二液状マルチ剤の散布は、気温が18℃から25℃、好ましくは22℃になる時期に実行されることを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法。
【請求項3】
第二液状マルチ剤の散布は養成株の茎葉部を含み、該茎葉部の表面を第二液状マルチ剤の被覆膜で被覆することを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法。
【請求項4】
第二液状マルチ剤による茎葉部表面の被覆高さは、圃場面から5cm以上であることを特徴とする請求項3記載のアスパラガスの栽培方法。
【請求項5】
第二液状マルチ剤の圃場への散布は繰り返されることがあり、該第二液状マルチ剤の繰り返される散布は、前回散布した第二液状マルチ剤の被覆膜が1/4以上が消失した段階で行われることを特徴とする請求項3記載のアスパラガスの栽培方法。
【請求項6】
第二液状マルチ剤の茎葉部への被覆は、前記第二液状マルチ剤の圃場への繰り返される散布のとき以外にも繰り返されることがあり、該第二液状マルチ剤の圃場に繰り返される散布以外の茎葉部への繰り返される被覆は、茎葉部への散布または塗布により実行されることを特徴とする請求項記載のアスパラガスの栽培方法。
【請求項7】
第一液状マルチ剤は、黒色顔料の他に、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする黒色の懸濁エマルジョン水溶液であり、
第二液状マルチ剤は、白色顔料の他に、いずれも生分解性がある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする白色の懸濁エマルジョン水溶液であることを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法に用いられる液状マルチ剤。
【請求項8】
除草剤若しくは殺菌剤から選択される薬剤の少なくとも一種類が、第一液状マルチ剤、および/または第二液状マルチ剤に混合されていることを特徴とする請求項7記載のアスパラガスの栽培方法に用いられる液状マルチ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の一つとして食用されるアスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、野菜の一つとしてアスパラガスが知られているが、該アスパラガスは、キジカク科クサスギヤズラ属として分類されるものであって、播種に伴い新芽が出芽(発芽)し、該新芽が生育して茎が伸長する点は多くの野菜(植物)と同じであるが、播種した種から出芽した新芽が収穫高さ(例えば25cm)まで生育したものを収穫して食するものではなく、播種後、例えば2年間くらいまでは新芽の萌芽、立茎を繰り返すことで地下茎(地下株、根株)の成長を促し、そして3年目の春以降、栄養を蓄え成長した地下茎から出芽(萌芽)した新芽について収穫高さまで生育した若茎を収穫し、該収穫した茎部がアスパラガスとして市場に出回ることになる。
このようなアスパラガスは、通常播種した後の3年目以降からは長年(10年から15年)に渡って収茎し続けられることになるが、そのためには、播種した年は、播種した種子から発芽した新芽を収穫することなくそのまま大きく成長させて株養成し、該立茎したものに繁茂する茎葉による光合成によって生成した養分が蓄積された地下茎として越年する。
そして翌2年目、同じく収穫することなく立茎させてさらに地下茎に蓄積し、成長し養分を蓄積した地下茎として越年する。そしていよいよ3年目となった以降、例えば関東地方においては、図4に示すように、2月から3月の春先において萌芽し始める新芽の所定高さになったものを切断して収穫する春芽収穫期間が凡そ4月から5月まで継続する。その後、5月から6月までを立茎期間として丈夫な新芽を選択する状態で、収穫することなくそのまま生育させて立派な茎葉のある母茎とし、そして該立茎期間では、立茎されたものの葉が光合成することにより生成した養分が地下茎に蓄積され、立茎期間後、立茎によって蓄積され続ける地下茎から新芽の萌芽が続く10月から11月までが夏芽収穫期間となってアスパラガスの収穫が続き、そして秋が深まるに伴い地下部が枯れる一方、地下茎は養分が蓄積された状態で越冬する。この様な循環を繰り返すことで、アスパラガスは前述したように長年に渡って収穫が繰り返してできる野菜である。
このようなアスパラガスを栽培する場合において大敵な病害の一つとして茎枯病(Stem blight)が知られている。この茎枯病の病原菌(Diaporthe asparagi(Phomopsis asparagi))は糸状菌の一種であり、茎枯病の病原菌が立茎の茎部に付着して感染し発病(一次感染)すると、該感染部が薄褐色に変色する。そして感染が進むと、該感染部に黒色(黒褐色)の斑点状のものが現れるが、この斑点状のものを分生子殻と称している。そしてこの分生子殻中には、病原菌になる無数の分生子が生成されており、該分生子の成長が満ちて分生子殻が破れることで、分生子が空気中に飛散する。そしてこの飛散した分生子の一部が、他の茎に付着することで茎枯病に罹患することになって茎枯病が蔓延(二次感染)するといわれている。
一方、飛散した分生子の一部は、圃場に落下し土壌中で越冬し、この越冬した分生子が翌年の茎枯病の病原菌となり、これらが要因になって茎枯病の蔓延が毎年のように繰り返され、アスパラガスの健全な栽培に大きなダメージを与えている。
そしてこのような茎枯病に対して、今日までに多種多様な防除方法、防除剤(消毒剤)が開発され、実用化されている。そしてこのように防除剤を用いたもののなかには、例えば、ベノミル水和物とTPN(クロロタロニル)水和物を用いて防除することが好適であって、特に一次感染、二次感染に対する防除を組み合わせることで効果のある防除ができることが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
しかしながらアスパラガスは、前述したように多年に渡って栽培が繰り返されるものであるため、防除剤を用いた前記のような防除方法をしたときに、長年に渡って繰り返される薬剤使用により病原菌が薬剤耐性を獲得し、防除効果が次第に希薄になっていくだけでなく、このような防除剤が長年に渡り環境中に残留することになって生態系に悪影響を及ぼすおそれがあり社会的な問題にもなっている。
さらには、ハウス栽培や、秋の養生株の刈りとり後にバーナー焼きをして防除する方向も提唱されているが、ハウス栽培するための設備の設置及び維持に多大な経費負担が必要になるうえ、ハウス内において防除効果を維持することが難しい等、対応に苦慮しているのが現状である。
【0003】
一方、アスパラガスは、生育適温が10℃から30℃、乾燥にやや強いという特性を有した植物であり、このような野菜を栽培する場合に、春先において早期の萌芽を促進させるため、黒色のマルチシート(フイルムマルチ)を圃場面(畝面)に敷設して地温を上昇させることがあり、これをアスパラガスの栽培に適用したときに、前述したようにアスパラガスは、地下茎から新芽が萌芽するものであるため、該新芽の出芽位置がどこになるのかを前もって特定することはできない。このためマルチシートを敷設した場合、萌芽する新芽の位置を前もって特定して穿孔作業をすることは事実上無理があり、そこで新芽の萌芽の時期を見計らってマルチシートを除去する(剥ぎ取る)作業が必要になるが、この除去する時期を見誤って早すぎた場合には、地温低下に伴い新芽の萌芽が遅れることになり、また該除去したマルチシートが廃プラスチックとなって産業廃棄物として処理しなければならず、作業性が悪いうえマルチシートを産業廃棄物として処理することに伴う環境への悪影響が想定される等の問題がある。
このような状態に鑑み、液状マルチ剤が開発され、実用に供されている(例えば特許文献1参照)。この液状マルチ剤は、生分解性を有した黒色液状のものであって圃場に散布した場合、黒色の被覆膜になって圃場面に一面に敷設されることになるため高いマルチ効果が期待できながら、萌芽する新芽の成長力によって被覆膜が簡単に突き破られることになってアスパラガスの萌芽、生育の妨げにならないという利点がある。このため液状マルチ剤の被覆膜は、マルチシートのように新芽の萌芽に対応して除去する必要がなく、被覆状態のままにできるため、初春の気温が十分に上昇していない初期の萌芽後の時期においても、地温の上昇に寄与することになって後続する萌芽、そして立茎の生育を促すことになる。しかも液状マルチ剤の被覆膜は、時間の経過に伴い生分解して養分となる等して消失するため薬害も発生しないという利点がある。
ところで茎枯病の病原菌は、気温が20℃から30℃の範囲で繁殖が助長され、特に25℃近辺の温度が繁殖の最適温度といわれており、これを立証するかのように、春先のまだ気温が上昇していない春芽収穫期間については茎枯病の発病が少ないことが確認されているが、5月を過ぎて気温が上昇し、立茎期間になった以降に茎枯病の罹患数が急増することが確認されており、特に降雨後に発病数の増大が認められる傾向にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】長崎県農林技術開発センター 研究報告書 第10号:31頁~50頁(2020)「半促成長期どりアスパラガスにおける茎枯病の総合防除」
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-313048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで前述した液状マルチ剤の被覆膜が施された圃場でアスパラガスの栽培を継続して試みたところ、前年度に茎枯病が発性した圃場において、気温が25℃に満たない早い時期においては、立茎した株について茎枯病の発生が僅かに確認される程度で、問題なくアスパラガスの収穫ができたが、その後、気温が25℃に近づく時期に入ると立茎した株に茎枯病の罹患が急速に増加していくことが確認された。これは気温が25℃に近づいたことで活発化(活性化)した茎枯病の病原菌が空気中に飛散(他の茎枯病発生圃場からの病原菌の飛散もある)したものが立茎している株の茎葉部に付着し、発病したためである。そして前述したように降雨後の発病の増大が確認されることの要因としては、梅雨や夕立等の降雨時において発生する泥跳ね水に混じった土壌中の病原菌が立茎している株の茎部に付着することを繰り返すことで立茎している株の茎葉部が茎枯病に罹患し、葉に蔓延していくものと推定される。
そこでこれに対応する必要があり、そのためには地温の上昇を防止して地下茎の生育を維持すると共に、土壌中の病原菌が混じる降雨時の泥跳ね水の付着を防止する対策を図ることがまず要求され、さらには、空気中に飛散や 降雨時の泥跳ね水に混じる病原菌が養成株に付着するのを防止すると共に、生成した分生子殻が破壊したときの分生子の飛散を防止することが要求され、これらの問題に本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、圃場のアスパラガス地下茎から萌芽した新芽が成長し、収穫高さになった若茎を切断して収穫するアスパラガスの栽培方法であって、前記地下茎から新芽が萌芽する前の春先に、黒色顔料、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分として含有する第一液状マルチ剤を圃場に散布して該圃場が黒色の被覆膜に覆われた状態でアスパラガスの栽培をし、しかる後、気温が上昇した立茎時期に対応し、白色顔料、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分として含有する第二液状マルチ剤を圃場に散布して、該圃場が白色の被覆膜に覆われた状態でアスパラガスを継続して栽培することを特徴とするアスパラガスの栽培方法である。
請求項2の発明は、第二液状マルチ剤の散布は、気温が18℃から25℃、好ましくは22℃になる時期に実行されることを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法である。
請求項3の発明は、第二液状マルチ剤の散布は養成株の茎葉部を含み、該茎葉部の表面を第二液状マルチ剤の被覆膜で被覆することを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法である。
請求項4の発明は、第二液状マルチ剤による茎葉部表面の被覆高さは、圃場面から5cm以上であることを特徴とする請求項3記載のアスパラガスの栽培方法である。
請求項5の発明は、第二液状マルチ剤の圃場への散布は繰り返されることがあり、該第二液状マルチ剤の繰り返される散布は、前回散布した第二液状マルチ剤の被覆膜が1/4以上が消失した段階で行われることを特徴とする請求項3記載のアスパラガスの栽培方法である。
請求項6の発明は、第二液状マルチ剤の茎葉部への被覆は、前記第二液状マルチ剤の圃場への繰り返される散布のとき以外にも繰り返されることがあり、該第二液状マルチ剤の圃場に繰り返される散布以外の茎葉部への繰り返される被覆は、茎葉部への散布または塗布により実行されることを特徴とする請求項記載のアスパラガスの栽培方法である。
請求項7の発明は、第一液状マルチ剤は、黒色顔料の他に、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする黒色の懸濁エマルジョン水溶液であり、第二液状マルチ剤は、白色顔料の他に、いずれも生分解性がある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする白色の懸濁エマルジョン水溶液であることを特徴とする請求項1記載のアスパラガスの栽培方法に用いられる液状マルチ剤である。
請求項8の発明は、除草剤若しくは殺菌剤から選択される薬剤の少なくとも一種類が、第一液状マルチ剤、および/または第二液状マルチ剤に混合されていることを特徴とする請求項7記載のアスパラガスの栽培方法に用いられる液状マルチ剤である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明とすることにより、地下茎から萌芽した新芽が収穫高さになった若茎を切断して収穫するアスパラガスを栽培するにあたり、地下茎から新芽が萌芽する前の春先に、第一液状マルチ剤を散布して圃場面を黒色の被覆膜で覆われた状態とすることで、圃場の地温上昇により早期の新芽の出芽を促して春芽収穫の向上を図り、しかる後の気温が上昇した立茎時期に対応して第二液状マルチ剤の散布により圃場面が白色の被覆膜で覆われた状態とすることで、夏芽収穫期においての地温上昇を抑制して夏芽の健全な萌芽を促し、高収穫を果たすことができるが、圃場面は、第一、第二液状マルチ剤によって春夏の収穫期間に渡って被覆された状態になるため、土壌中に存在する(越年した)茎枯病の病原菌が降雨時の泥跳ね水に混じることが防止(低減)されることになって、立茎した株が茎枯病に罹患することが低減し、アスパラガスの安定した栽培ができることになる。
請求項2の発明とすることにより、第二液状マルチ剤の散布は、気温が18℃から25℃、好ましくは22℃になる時期に実行される結果、茎枯病の病原菌が活発化する25℃になる前の段階で地温上昇を抑制して茎枯病への罹患の予防ができることになる。
請求項3の発明とすることにより、第二液状マルチ剤を立茎の茎葉部まで散布することにより、該茎葉部の表面を第二液状マルチ剤の被覆膜で被覆できる結果、茎枯病の病原菌が混じった泥跳ね水が養成株の茎葉部に付着したとして、該茎部は第二液状マルチ剤の被覆膜で覆われているため病原菌が茎葉に付着することが回避されることになって茎枯病の罹患を抑制できることになる。
請求項4の発明とすることにより、第二液状マルチ剤による茎葉部表面の被覆高さが、泥跳ね水が付着しやすい圃場面から5cm以上となっているため、泥跳ね水を介しての感染を効果的に防止することができる。
請求項5の発明とすることにより、期間の長い夏芽収穫期間においては、第二液状マルチ剤の圃場への散布を繰り返すことがあり、その場合に第二液状マルチ剤の繰り返される散布は、前回散布した第二液状マルチ剤の被覆膜が1/4以上が消失した段階で行われることになる結果、第二液状マルチ剤による白色状態での圃場面の被覆が続くことになって、地温上昇の抑制だけでなく、茎枯病の感染防止にも大いに寄与できることになる。
請求項6の発明とすることにより、第二液状マルチ剤の茎葉部への被覆は、前記第二液状マルチ剤の圃場への繰り返される散布のとき以外にも繰り返されることがあり、その場合に、第二液状マルチ剤の圃場に繰り返される散布以外の茎葉部への繰り返される被覆が、茎葉部への散布または塗布により実行される結果、第二液状マルチ剤の茎葉部に対する被覆が効率よくできることになる。
請求項7の発明とすることにより、第一液状マルチ剤が、黒色顔料の他に、いずれも生分解性のある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする黒色の懸濁エマルジョン水溶液であり、また第二液状マルチ剤が、白色顔料の他に、いずれも生分解性がある高分子エマルジョン、分散剤を主成分とする白色の懸濁エマルジョン水溶液であることから、第一、第二液状マルチ剤として生分解性があるものを容易に作成することができる。
請求項8の発明とすることにより、除草剤若しくは殺菌剤から選択される薬剤の少なくとも一種類が、第一液状マルチ剤および/または第二液状マルチ剤に混合されている結果、圃場面への被覆に併せて、除草剤若しくは殺菌剤の散布もできることになって作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マルチフィルムを敷設した圃場、第一液状マルチ剤を散布した圃場(試験区)、何も施さない無処理の圃場(対照区)の春先地温測定結果を示す表図である。
図2】第一液状マルチ剤を散布した圃場(試験区)と、なにも施さない圃場(対照区)において灌水した場合と無灌水の場合とでの地下茎一株ごとのアスパラガスの収穫状態を示す表図である。
図3】第一液状マルチ剤を散布し、立茎させた畝に対し、第二液状マルチ剤を散布した実験畝(試験区)と散布しないブランク畝(対照区)での茎枯病の発病状態を示す表図である。
図4】アスパラガスの1年間の栽培状態を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前述したようにアスパラガスは、地下茎を有した多年生の植物であり、茎枯病について着目したときに、該茎枯病が発生していない健全な圃場で栽培した場合、播種後の3年目以降、10年から15年という長い期間に渡って収穫ができるという利点がある。このような健全な圃場において茎枯病が発生する要因としては、茎枯病が発生している他の圃場(茎枯病の繁殖地)で繁殖する病原菌が風を受けて飛来したり、台風等の大雨の襲来に伴う流水が繁殖地から流れ来たりすること等によって健全な圃場にまで運ばれることがあり、このようにして運ばれた病原菌が、アスパラガスの養成株に付着すると、養成株の抵抗力の弱いところで感染して発病し、薄茶褐色の病状を発する部分が、感染が広まるにつれ次第に広がっていく。そして該発病部に黒色の斑点状をした分生子殻が生成し、該分生子殻が破壊されることで病原菌となる分生子が空中に飛散することになる。そしてこのようにして健全な圃場であったものが茎枯病に感染(一次感染)し、さらにこれが原因となって当該圃場において茎枯病が蔓延(二次感染)し、この蔓延が経年的に繰り返されることになる。
このような茎枯病の対策として、茎枯病の病原菌は、気温が凡そ20℃から30℃の範囲が増殖温度といわれているが、茎枯病の発病、蔓延を抑えるためには、
・新芽の萌芽前の圃場の病原菌の排除
・立茎した茎葉部への降雨時の泥跳ね水による病原菌の付着の抑制
・罹患している病原菌の増殖の抑制
・他の感染した圃場から運ばれてくる病原菌の付着の抑制
が重要な課題であり、いかにしてこれら課題の一つにでも対応することで、薬剤散布を無にし、あるいは過小にすることが達成できるか、ということに本発明の具体的な課題がある。
【0011】
本発明は、アスパラガスの茎枯病に対処するべく液状マルチ剤を用いた栽培方法、および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤を提供するものである。
ここで用いられる液状マルチ剤としては、第一液状マルチ剤、第二液状マルチ剤であり、いずれの液状マルチ剤において用いられる主成分のうち、顔料以外の主成分は、生分解性があって動植物に対して無害(無毒)であって、生分解性することで経年的に圃場に蓄積することがなく、植物の栄養分として吸収されるものを用いることが好適である。
そして第一液状マルチ剤については、黒色顔料を主成分として含有しているため、圃場に散布した場合に、圃場面に黒色をしたゲル状の被覆膜となってシート状に敷設される。これに対し第二液状マルチ剤は、白色顔料を主成分として含有しているものであって、圃場に散布した場合に、圃場面に白色をしたゲル状の被覆膜となってシート状に敷設される。
これら第一、第二液状マルチ剤を、時期を異にして畝面に散布することにより生成する被覆膜は、圃場のアスパラガス地下茎から萌芽した新芽の発芽力(成長力)によって問題なく突き破られることになって、被覆膜の存在が新芽の萌芽、成長に影響を与えることがない。
【0012】
前記第一液状マルチ剤は、地下茎から新芽が萌芽する前の春先に畝面に散布することで、既在マルチフィルムで被覆した場合と同様、畝面に土壌の露出がないよう第一液状マルチ剤の被覆膜が一面に形成されたものとなる。
このように第一液状マルチ剤の被覆膜が形成された圃場は、該第一液状マルチ剤の被覆膜が黒色であるため、まだ地温が十分に高くなっていない春先において、太陽光をよく吸収することになって優れた地温上昇効果が発揮され、これによって地下茎が早い段階で活性化し、丈夫な新芽の萌芽が早期のうちに促進される効果を発揮すると共に雑草の繁茂防止機能も発揮される。
因みに第一液状マルチ剤の圃場への散布については、通常1回で良いが、北海道のような寒冷地や、初夏になっても気温が相応に上昇しないような冷害状態である場合には、被覆膜の消失状況を見て再度の散布をすることもできる。
【0013】
一方、第二液状マルチ剤は、前記第一液状マルチ剤を散布することで生成された黒色の被覆膜が生分解される等して完全に消失する前の畝面に残っている段階であっても畝面に散布することができる。そして第二液状マルチ剤を散布する時期としては、春先の収穫が一段落した立茎時期、あるいはその前後で、初夏が近づいて気温が上昇した時期に対応させることが好ましいが、気温を目安にする場合には、茎枯病が最も増殖するといわれている気温の25℃に至る前の22℃に近づいた段階を目安に行うものが好適である。
この散布された第二液状マルチ剤は、第一液状マルチ剤の残渣部位を含めた圃場面を露出がないよう散布することで白色の被覆膜がシート状に一面に形成される。
このように第二液状マルチ剤の被覆膜が形成された圃場は、該第二液状マルチ剤の被覆膜が白色であるため、強い太陽光線を反射して地温の上昇を抑制することになって、地温が地下茎の生育には適さない高温になって適正な地下茎の生育が阻害されることを抑制して地下茎の活性化を促し、丈夫な新芽の出芽が促進される効果を発揮すると共に雑草の繁茂防止機能も発揮される。
そして第二液状マルチ剤については、秋になって養成株が枯死するか除去されるまで必要において繰り返して散布することが好適であるが、その場合、前回散布することにより生成した被覆膜の少なくとも1/4以上が消失した段階で第二液状マルチ剤の散布をすることが好ましいが、必要において1/4以下の消失段階で第二液状マルチ剤を散布してもよいことは言うまでもない。この場合の散布は、被覆膜が消失した部位を修復するべく、消失部位を含んだその周辺とすることでもよい。
【0014】
このように本発明が実施されたものでは、第一、第二液状マルチ剤がアスパラガスの生育圃場に散布することでそれぞれの被覆膜が形成されることになるが、第二液状マルチ剤については立茎時期との関連もあり、また茎枯病は、主に立茎した株の茎葉部に発病することから、圃場面だけでなく、茎葉部についても第二液状マルチ剤の被覆膜が形成されたものとすることが好ましい。そして立茎する株の茎葉部に被覆膜を形成することにより、降雨時の泥跳ね水による病原菌の茎葉部への付着を防止できる効果があり、そのため茎葉部に第二液状マルチ剤の被覆膜を形成する場合、圃場面から少なくとも10cm以上の高さとなることが好ましい。
このように立茎する株の茎葉部に第二液状マルチ剤の被覆膜を形成する場合に、第二液状マルチ剤を圃場面に散布することに併せて茎葉部に散布することが作業性の点からも好適であるが、立茎する株の茎葉部を目標として散布するようにしてもよい。さらには立茎する株の茎葉部に、筆、刷毛等の塗布手段を用いて塗布するようにしてもよい。そしてこのように立茎する株の茎葉部に第二液状マルチ剤の被覆膜を形成した場合、該被覆膜によって茎葉部に茎枯病の病原菌の付着を防止できることになる。
【0015】
また立茎するものの茎葉部に茎枯病の発病が認められた場合、該発病部位を含めた周辺部位に第二液状マルチ剤を用いて被覆膜を形成することが好適である。このように既に発病している茎葉部を被覆膜で被覆した場合には、病原菌の増殖、分生子殻の発生を抑制できると共に、発生した分生子殻が破壊されたとしても、分生子は被覆膜を破って外に出ることはできないため病原菌の飛散防止に寄与でき、二次感染の予防効果が期待できるものとなる。
【0016】
本発明に用いられる第一、第二液状マルチ剤の組成は、黒色または白色の顔料を主成分の一つとし、このものに界面活性機能を有していて顔料の液状マルチ剤内での沈殿を防止する分散剤、被覆膜を形成する機能を有する高分子エマルジョンを主成分として含有したものが提供される。
【0017】
第一液状マルチ剤に用いられる黒色顔料としては、カーボンブラック、黒鉄、木炭粉末が例示されるが、これらはいずれも黒色をしていて生態系に影響を与えることがない黒色顔料であって、これらの顔料のなかから選択される少なくとも一種類が用いられる。
一方、第二液状マルチ剤に用いられる白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛,リトポンが例示されるが、酸化チタンは、生分解性プラスチックの対環境物質規格試験に通るものとして好ましいといえる。
【0018】
またこれら顔料の分散剤としては、生分解性があり、生分解しても生態系に影響を与えることがない素材のなかから選択されるが、このようなものとしてフミン酸塩、ポリカルボン酸塩が好適なものとして例示される。
フミン酸塩は、黒色または黒褐色を呈し、生分解性があるため第一液状マルチ剤の分散剤として好適である。フミン酸は、若年炭類、風化した石炭類、レオナライト類、草炭、若しくは泥炭をアルカリ抽出して得られる高分子有機酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、あるいは若年炭類、草炭、若しくは泥炭を硝酸で酸化分解して得られる高分子有機酸であり、フミン酸塩は高分子有機酸のアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩である。
そして該フミン酸塩は、黒色顔料が高分子エマルジョン水溶液中において沈殿するのを防止する分散剤として機能する。この場合に、特にフミン酸のカリウム塩、アンモニウム塩は、肥料取締法において腐食酸肥料中に分類されていることから、第一液状マルチ剤の有効成分として含有させることは好適な分散剤であるといえる。
【0019】
一方、第二液状マルチ剤の主成分となる分散剤は、前記フミン酸塩のように黒色を呈したものは、白色の被覆膜を形成するための妨げとなるため好ましくなく、そこで白色の被覆膜形成の妨げとならない無色または無色に近いアニオン系界面活性剤を分散剤として用いることが好ましい。
そしてこのような界面活性剤としては、ルボン酸型、カルボン酸型、アクリル酸型、硫酸エステル型、ポリリン酸エステル型等の各種の界面活性剤を例示することができ、これらの中から選択される少なくとも一種類を採用することができる。
【0020】
さらに第一、第二液状マルチ剤の主成分の一つとして生分解性の高分子エマルジョンがあるが、この高分子エマルジョンは、畝面に散布することで、該畝面にマルチ被膜を被覆膜として形成する機能を有するものであって、散布した畝面に密着した状態となって畝面に均一状の被覆膜を形成することになり、そして該形成された被覆膜は、含有水分が蒸発または土壌に含浸する等して減少することで適当な透水のある耐水性と通気性のある被膜となって、圃場の乾燥防止機能を発揮することになる。
このような高分子エマルジョンとしては、ポリアクリル酸エマルジョン、ポリアクリルアミドエマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリカルボン酸エマルジョンが例示され、これらの高分子エマルジョンのなかから選択される少なくとも一つを採用することができる。
【0021】
このように本発明を実施するために用いられる第一、第二液状マルチ剤は、黒色または白色顔料、分散剤、高分子エマルジョンが主成分としてそれぞれ含有されたものであるが、さらにこのものに増粘用の溶剤としてポリビニルアルコール、顔料の増量剤として体質顔料を添加することができる。この場合に、第一液状マルチ剤の体質顔料としてはカオリンが例示され、第二液状マルチ剤の体質顔料としては炭酸カルシウムが例示される。
【0022】
本発明は、生分解性を有した高分子樹脂材と黒色または白色塗料とを主原料とした黒色液状マルチ剤と白色液状マルチ剤とを用いてアスパラガスが生育する圃場に時期を異にして散布してこれら液状マルチ剤の被覆膜が形成された状態でアスパラガスを栽培する方法である。この場合に圃場としては、昨年度栽培した圃場に残留する病原菌を除去するため、新芽の萌芽がない春先の早い時期に、残存する立茎がある場合にその除去処理と圃場面をバーナーで焼く等による殺菌処理とを施すと共に、必要においてアスパラガス栽培で通常用いられる除草剤、殺菌剤、肥料等を圃場に散布する等のアスパラガスの栽培に必要な処理が施される。
【0023】
そしてこれらの処理が圃場において馴染んだ段階で、まず黒色の第一液状マルチ剤を畝に沿って散布する。この第一液状マルチ剤の散布は、動力噴霧器を用いて散布することが作業性の点から好ましく、このため第一液状マルチ剤を、水を添加する等して動力噴霧器で散布するのに好ましい粘度となるよう調整する。
このようにして散布された第一液状マルチ剤は、水分の蒸発および圃場への浸透により自然乾燥状態となって圃場面に軟弱性のある黒色の被覆膜となる。そしてこのように黒色の第一液状マルチ剤の被覆膜が形成された圃場では、降雨による除草剤、殺菌剤、肥料の流亡(流失)を防止する状態で、高い保水性を維持しながら、春先において昼間の太陽光の照射により地温上昇を促すと共に、夜間の地温低下を防ぐことになって、アスパラガスの生育に好ましい15℃以上の地温を春先の早い時期においても確保できることになり、アスパラガスの早期の発芽を促すことになって早期の出荷が果たせ増収にもつなげることができる。
しかも春先の早い時期から地温が上昇することで地下茎の生育も促されることになって丈夫で強い地下茎とすることができ、ここから萌芽した新芽および立茎した株も総じて病原菌に対して感染抵抗力の高い(強い)ものにすることができ、増収効果ができることになる。
【0024】
このように黒色の第一液状マルチ剤を散布した後、白色の第二液状マルチ剤を散布することになるが、この第二液状マルチ剤の散布のタイミングは、第一液状マルチ剤の散布により形成された被覆膜の少なくとも1/4以上が消失した段階で実行される。この1/4以上の消失は、降雨等の天候事情により一定ではないが、第一液状マルチ剤を散布した後、凡そ1.5か月から3か月経過した段階であり、通常は立茎時期またはその前後となる。
一方、茎枯病の病原菌が増殖(繁殖)するに適した温度が凡そ25℃であるとの報告があり、そこで気温が22℃に上昇した段階で行うことも第二液状マルチ剤の散布のタイミングとして選択することができる。この気温が22℃となる時期は立茎の時期と重なることが多く、立茎の時期を目安とすることもできる。
そして第二液状マルチ剤の散布のタイミングは、気象状況の変化状況に左右されるものであって、気温上昇が早い季節の場合には、立茎の時期の前であっても第一液状マルチ剤の被覆膜が1/4以上消失する前の前記22℃に近づいた段階で行うことが推奨され、また逆に気温上昇が遅い季節の場合には、立茎後であって、第一液状マルチ剤の被覆膜が1/4以上消失したことを目安とすることが推奨される。
この場合に、第一液状マルチ剤の残存する被覆膜は除去してもしなくてもよいが、作業性の観点からは除去しないものとすることが一般となる。
そして第二液状マルチ剤の散布についても、第一液状マルチ剤の散布の場合と同様、動力噴霧器を用いることが好ましく、そのため第二液状マルチ剤についても水の添加等により粘度を調整することが好ましい。
【0025】
このように第二液状マルチ剤が散布された圃場面は、一様に粘弾性がある白色の被覆膜によって被覆されたものとなる。そしてこのように表面が白色の被覆膜によって覆われた圃場は、日光を反射することになって地温の異常な上昇を抑制し、前述したように30℃以上の高温に弱いアスパラガスの栽培環境を適正状態に維持する効果が果たせることになる。
そしてこの場合に、第二液状マルチ剤の散布を、圃場面だけでなく立茎している株の茎葉部にも併せて行うことが好ましい。このように立茎している茎葉部にまで第二液状マルチ剤を散布した場合、該茎葉部が第二液状マルチ剤の被覆膜で覆われることになる。この結果、該被覆膜で覆われた部位の茎葉部は、茎枯病の病原菌の付着が回避されることになって茎枯病の感染防止が果たせる一方で、感染した部位の茎葉部が事後的に被覆膜で覆った場合、外気との接触が閉ざされるため感染部において分生子殻の生成を抑制でき、また生成した分生子殻が破壊したとして、該破壊した分生子殻は被覆膜で覆われているため病原菌の飛散を防止できることになって、二次感染による茎枯病の蔓延防止に多いに寄与できることになる。
【0026】
このように立茎した株を第二液状マルチ剤の被覆膜で覆う場合、圃場面から少なくとも10cm以上の高さとすることが好ましく、このようにすることで特に降雨時、圃場面からの泥跳ね水に混じった病原菌が親株に付着するのを効果的に防止することができる。そして親株を覆う被覆剤は、垂直部に付着しているため、圃場面を被覆するものより早期に消失する傾向があり、この場合、第二液状マルチ剤を改めて散布してもよいが、筆や刷毛等の塗布用材を用いて塗布するようにしても良い。そしてこのような親株に散布または塗布する場合、日常の点検において感染した病気の部分を発見した場合、該発見した親株に第二液状マルチ剤を散布または塗布して被覆膜を形成するようにしてもよい。
因みに第二液状マルチ剤の被覆膜が新芽に塗布されたものを収穫する場合としては、該被覆部よりも上方に成長した部位を切断して収穫すればよい。
【0027】
前記圃場を被覆する第二液状マルチ剤の被覆膜は、該被覆膜の厚さによって耐用期間が異なるが、凡そ第一液状マルチ剤の耐用期間と同じである。このため第二液状マルチ剤の被覆膜がある程度消失した段階で再度第二液状マルチ剤を散布して圃場面に白色の被覆膜を形成する必要がある。この第二液状マルチ剤の再度の散布のタイミングとしては、前回散布した第二液状マルチ剤の被覆膜が凡そ1/4が消失した段階とすることが好ましく、時期的には盛夏を迎える前あたりとすることが好ましい。これは盛夏となる前段階で改めて圃場表面に白色の第二液状マルチ剤の被覆膜を設けることで、迎える盛夏の時期において地温の上昇を防止して地下茎の高温による衰弱を低下させることができる。
そして必要な場合には、第二液状マルチ剤の被覆膜の消失状態によっては再度の散布により白色の被覆膜を形成しても勿論よい。
【0028】
そして上記のような条件下でアスパラガスを栽培する場合において、茎枯病に対処するためには前述したような対策を図ることが肝要といえる。ちなみにこれは関東地方の平野部において露地栽培する場合であり、東北や北海道地方、あるいは本州の山間部のように寒冷地の場合や、逆に東海地方、四国、九州地方のように温暖地の場合には、その地方によって好適となる適宜の変更が必要であることは言うまでもない。
・1月ごろ:前年度の残茎や圃場の清掃を行い、ガスバーナーで地表面を焼いて殺菌する。
・2月から3月ごろ:除草剤と殺菌剤とを圃場に散布し、その後、黒色の第一液状マルチ剤を散布して畝面全体を該第一液状マルチ剤の被覆膜で覆蓋し、これによって前記散布した除草剤、消毒剤の降雨による流失(流亡)を防止すると共に、地温の上昇と圃場の保水性の維持を図りながら丈夫な地下茎の活性化を促す。そして早いものではアスパラガスの萌芽が観測される。
・3月から5月ごろ:平均気温が22℃になる前の茎枯病が繁殖しづらい季節であって、前記第一液状マルチ剤の被覆膜で覆蓋されることで地温の上昇、圃場の保水性が確保されることになって、アスパラガスは、生育に好適な環境下で丈夫に育った地下茎から、茎枯病等の病原菌に抵抗力のある丈夫で元気な新芽の萌芽が盛んにあり、早期のうちに所定長さに成長したものを切断し、初期の収穫をすることができる。
・5月から6月ごろ:初期の収穫が一段落付いた後、丈夫な新芽を見計らって立茎させることになるが、この時期になると気温が22℃以上となって茎枯病の病原菌が盛んに増殖する環境になる、その前に、白色の第二液状マルチ剤を圃場に散布し、畝面に該第二液状マルチ剤の被覆膜を一面に形成する。そして該白色の被覆膜が形成されることで、太陽光線を反射することになって土壌温度の上昇を抑制し、高温に弱い地下茎の温度保護を図って地下茎の衰弱防止をし、丈夫な立茎の成長を促す。そして第二液状マルチ剤の散布は、畝面だけでなく、養成株の茎葉部にも散布して該茎葉部の表面を白色の被覆膜で被覆する。
・6月から8月ごろ:高温となった圃場において、養成株の生育が一段落し、生育した養成株の光合成により生成した養分を得て地下茎が生育し、新たに新芽の萌芽が促され、収穫できることになるが、土壌は白色の第二液状マルチ剤の被覆膜が被覆されていることで、梅雨や夕立等の降雨による泥跳ね水が抑制されて茎枯病の病原菌が養成株に付着することが防止されると共に、既に養成株に茎枯病の病原菌が付着し発病しているものについては分生子の発生を抑えることができ、また分生子が成長して破壊したとしても病原菌の飛散を防止できることになって二次感染の高い防止機能を発揮できる状態で、アスパラガスの継続した収穫が安定してできる。
・8月から10月ごろ:アスパラガスの継続した収穫が安定した状態でできるなかにおいて、白色の被覆膜がだんだんと消失してくるが、その場合に凡そ1/4ほど畝面が露出した段階で、再度、畝面に第二液状マルチ剤を、養成株も含めて散布して白色の被覆膜を再形成することで茎枯病の繁殖を抑制し、晩秋まで生育して枯死するまでの養成株の光合成を促すことになり、延いては次年度に備えるべく丈夫な地下茎の養成を図ることができる。
【0029】
次に第一、第二液状マルチ剤の各成分の処方例について説明する。
まず、第一液状マルチ剤の処方例であるが、該第一液状マルチ剤の成分として、カーボンブラック、フミン酸、酢酸ビニルエマルジョン、ポバール、体質顔料としてカオリンを採用した場合に、第一液状マルチ剤は次のように処方される(単位:重量部)。
カーボンブラック : 100~1000
3~20重量%のフミン酸塩水溶液 : 1000~2000
酢酸ビニルエマルジョン : 3000~6000
10~20重量%のポリビニルアルコール水溶液: 1000~2000
カオリン : 500~2000
そして、このように処方された成分を用いて第一液状マルチ剤を製造する手法としては、フミン酸塩の水溶液に、カーボンブラックを混入し混合機で分散せしめてスラリー状の混合物を得る。この混合物に、ポリビニルアルコール水溶液を加えて良く混合し、さらに酢酸ビニルエマルジョンを添加し、混合する。このものにさらにカオリンを添加して混合し、精製水で粘度調整をすることで黒色の第一液状マルチ剤を得ることができる。
【0030】
一方、第二液状マルチ剤の処方例であるが、該第二液状マルチ剤の成分として、酸化チタン、アニオン系界面活性剤、酢酸ビニルエマルジョン、ポリビニルアルコール、体質顔料として炭酸カルシウムを採用した場合に、第二液状マルチ剤は次のように処方される(単位:重量部)。
酸化チタン : 100~1000
3~20重量%のアニオン系界面活性剤水溶液 : 400~1000
酢酸ビニルエマルジョン : 3000~6000
10~20重量%のポリビニルアルコール水溶液 : 1000~6000
炭酸カルシウム : 500~2000
そして、第二液状マルチ剤の具体的な製法としては、アニオン系界面活性剤(株式会社アデカ製 アデカコールCS1361E)の水溶液に、酸化チタン(石原産業株式会社製 R-630)を混入し混合機で分散せしめてスラリー状の混合物を得る。この混合物に、前記ポリビニルアルコール水溶液を加えて良く混合し、さらに前記酢酸ビニルエマルジョンを添加し、混合する。このものにさらに炭酸カルシウム(日東粉化工業株式会社製 ニューライトF)を添加して混合し、精製水で粘度調整をすることで白色の第二液状マルチ剤を得ることができる。
【実験例】
【0031】
次に、本発明の実験例を比較例と共に記載する。
<第一液状マルチ剤の作成>
第一液状マルチ剤を次の処方(重量部)で作成した。
カーボンブラック : 500
10重量%のフミン酸塩水溶液 : 2000
酢酸ビニルエマルジョン : 5000
10~20重量%のポリビニルアルコール水溶液 : 1500
カオリン : 1000
そして、前記処方された成分を用いて第一液状マルチ剤を具体的に製造する手法として、フミン酸塩(株式会社テルナイト社製 CH-03)の水溶液に、カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製 三菱カーボンMA100)を混合機(撹拌機)で撹拌する状態で混入し混合機で分散せしめてスラリー状の混合物を得る。この混合物に、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 28-98)の水溶液を加えて良く混合し、さらに酢酸ビニルエマルジョン(カナエ化学工業株式会社製 ヴィナール EM232)を添加し、混合する。このものにさらにカオリン(竹原化学工業株式会社製 ハードミル)を添加して混合し、精製水で粘度調整をすることで黒色の第一液状マルチ剤を得た。
【0032】
<第二液状マルチ剤の作成>
第二液状マルチ剤を次の処方(重量部)で作成した。
酸化チタン : 500
10重量%のアニオン系界面活性剤水溶液 : 800
酢酸ビニルエマルジョン : 4000
10重量%のポリビニルアルコール水溶液 : 3000
炭酸カルシウム : 1000
そして、前記処方された成分を用いて第二液状マルチ剤を具体的に製造する手法としては、アニオン系界面活性剤(株式会社アデカ製 アデカコールCS1361E)の水溶液に、酸化チタン(石原産業株式会社製 R-630)を混合機(撹拌機)で撹拌する状態で混入し混合機で分散せしめてスラリー状の混合物を得る。この混合物に、前記ポリビニルアルコールの水溶液を加えて良く混合し、さらに前記酢酸ビニルエマルジョンを添加し、混合する。このものにさらに炭酸カルシウム(日東粉化工業株式会社製 ニューライトF)を添加して混合し、精製水で粘度調整をすることで白色の第二液状マルチ剤を得た。
【0033】
千葉県平野部のアスパラガスの圃場において、黒色の第一液状マルチ剤、白色の第二液状マルチ剤を用いたアスパラガスの栽培実験をした。
【0034】
<実験例1>
〇 液状マルチ剤の有効性についての確認実験
まず前記配合され黒色の第一液状マルチ剤の有効性について実験をした。
1月末にガスバーナーで圃場面を焼き、殺菌した前記畝面について、2月中旬の良く晴れた日、前記処方された第一液状マルチ剤の水道水で希釈したものを、該第一液状マルチ剤が500g/mの散布量となるよう動力噴霧器(株式会社共立社製 AP200)を用いて圃場に噴霧した。比較例として、厚さ0.02mmの黒色のポリフイルムマルチ(辻野プラスチック工業株式会社製)で圃場を覆蓋した場合、何の処理も施さない露地の圃場について、二畝ずつ用意し、1週間後、地表面から15cmの深さの土壌内の地温について温度計(株式会社ティアンドディ社 温度データロガー)を用いて経時的な測定をした。その地温変化状況について図1の表図に示す。尚、該表図中、それぞれについて二畝ずつの実験をしたため、第一液状マルチ剤I、II、ポリフイルムマルチI、II、無処理I、IIと表記する。
この結果から、第一液状マルチ剤は、ポリフィルムマルチを用いた従来のものと遜色ない温度変化を示しており、特に夜間の土壌内の温度低下を防止する効果があることが確認された。
その後、ポリフイルムマルチを施した圃場においては、アスパラガスの萌芽が予期されるためポリフイルムマルチを除去したところ、地温については無処理のものと同じく地温低下が認められ、第一液状マルチを施すことにより被覆膜を除去する必要がない第一液状マルチ剤I、IIを用いたものについて保温性の効果が歴然としていることが確認された。
【0035】
〇 第一液状マルチ剤の被覆膜の効果の確認実験
次に前記実験例1と同じ圃場において、第一液状マルチ剤を施した二つの試験区と、何も施さない無処理の二つの対照区について、灌水した畝と灌水しない畝とにさらに分け、アスパラガスの収穫状況がどのようになるかについて検討した。尚、各畝には、アスパラガスの地下茎(株)が10株ずつ定植されている。
実験期間は3月から5月の立茎するまでの第一液状マルチ剤による被覆膜が有効な期間であり、収穫したアスパラガスについて、各地下茎(株)ごとに収穫したものの太さを、当該地方のアスパラガスの出荷基準に準じたものとされるランクである「2L」、「L太」、「L細」、「M」、「S」、「B」(低品)、「規格外」の7ランクに区別し、それぞれのランクにおけるアスパラガスの平均重量(g/株)と、平均重量の合計を総重量(g)とし、その結果を、表2のグラフ図に示す。
アスパラガスは、第一液状マルチ剤の被覆膜を形成した試験区では、3月初旬からアスパラガスの萌芽が確認されたのに対し、マルチ剤を何も施さない無処理の対照区では3月中旬の後半ごろ、漸くアスパラガスの萌芽が確認された。これは、第一液状マルチ剤の被覆膜を形成した試験区の方が、無処理の対照区に対して地温上昇と保温効果が、実験例1で確認したように優れたものとなって早期の萌芽が達成された結果と判断された。
【0036】
そして表2のグラフ図から明らかなように、第一液状マルチ剤の被覆膜が施された試験区でのアスパラガスの地下茎ごとの平均重量が、無処理の対照区での収量に対し、2L~Mサイズまでの灌水、無灌水をした殆どのもので優っており、第一液状マルチ剤の被覆膜が施された試験区で生育されたアスパラガスが丈夫に育っていることが確認された。
そして灌水、無灌水の相違について観察したときに、灌水をしたものの方が平均重量が重く、灌水が重要なことが確認されるが、第一液状マルチ剤の被覆膜が施された試験区については、無灌水の場合であっても、無処理の灌水、無灌水の畝のものに対してSサイズ以上の殆どの場合、平均重量が重いものとなっており、この結果、第一液状マルチ剤の被覆膜が施された試験区では、該被覆膜による保水効果の機能がはたらき、無灌水の畝であっても無処理の灌水した対照区よりも丈夫なアスパラガスの収穫ができることが確認された。
さらに第一液状マルチ剤の被覆膜が施された畝に生育するアスパラガスの茎径も、無処理の対照区の茎径よりも太く、葉付きも良好で丈夫な養成株として育っていることが確認された。
【0037】
以上のことから、第一液状マルチ剤の被覆膜が施された試験区は、日光を受けて土壌温度を15℃以上に上昇すると共に、保湿効果に優れたものとなり、この結果、3月から5月までの平均気温が22℃に至らない季節においては、早期の段階からのアスパラガスの萌芽を促し、しかも収穫されるアスパラガスについても、茎径が太く、丈夫で確りした重みのあるものにできることが確認された。
【0038】
<実験例2>
つぎに第二液状マルチ剤の茎枯病に対する発病防止の効果について調査した。この実験では、第一液状マルチ剤の被覆膜を形成した二つの畝をさらに別途用意し、該二つの畝について4月の中旬からアスパラガスの収穫をやめ、萌芽する新芽を立茎させた。そして相当に立茎した5月初旬に、第一液状マルチ剤の被覆膜を施した二つの畝について、残存する第一液状マルチ剤の被覆膜を除去した後、第二液状マルチ剤を散布して白色の被覆膜を形成した試験区と、残存する第一液状マルチ剤の被覆膜を除去しただけで第二液状マルチ剤の散布のない無処理対照区とに分け、茎枯病の発病状態について観察した。
実験畝での第二液状マルチ剤の散布量は1000g/mとし、立茎しているアスパラガスの茎葉部についても、圃場面から凡そ15cmの高さまで散布して第二液状マルチ剤の被覆膜で被覆した。そして5月下旬から8月初旬にかけての茎枯病の発生状況について確認をし、その結果を図3の表図に示す。尚、第二液状マルチ剤を散布したときにはいずれの畝に生育する親株には、茎枯病の発病を観測できなかった。
【0039】
図3の表図は、対応する調査日において、地温(深さ15cm)の測定をすると共に、第二液状マルチ剤の被覆膜を形成した試験区と、対照区とにおいてそれぞれの調査茎数、茎枯病の発生茎数、そして発生率とを示したものである。ここで発生茎数は、発病が確認される親株の本数であって、一つの親株に複数個所の発病が認められたり、大きく(広面積で)発病していたとしても発生茎数は「1」と数えるものとした。
【0040】
上記結果から、第二液状マルチ剤で被覆してから凡そ三週間後の5月下旬の時点においての観測の時点から、試験区での茎枯病の発生率は、対象区での発生率に対して明確に低いものとなっているが、その差は、時期の経過とともに大きくなっており、8月初旬では、試験Y畝での発生率が10.9%であるのに対し、対象区ではその7倍を超える78.1%となっており、第二液状マルチ剤の被覆膜を形成した試験区での茎枯病の発病抑止の高い効果が発揮されていることが確認された。
これは第一液状マルチ剤の被覆膜を形成した状態で生育させる春期の段階では、実験例1で示したように、第一液状マルチ剤の被覆膜で被覆することによる地温上昇効果、保温効果、保水効果を受けて丈夫な立茎となり、また温度も病原菌の繁殖温度よりも低いこともあって茎枯病の発生率が低く抑えられたものとなっているが、それでも茎枯病の発生率が、試験区に比して対象区が高くなっているのは、第二液状マルチ剤の被覆膜の有無によって、降雨に伴う泥跳ね水によって圃場表面に生息する茎枯病の病原菌が養成株に付着する度合いに大きな差が早い段階から生じることになって発生率に差が出たものと推定される。
【0041】
そしてそれ以降において、第二液状マルチ剤による白色の被覆膜を形成した試験区では、完全に茎枯病の発生を抑えることはできないものの、何の処理も施されていない対象区においての茎枯病の発病率に比べて明らかに大きな差があることが確認された。これは被覆膜として、黒色の第一液状マルチ剤から白色の第二液状マルチ剤のものに置き換えられたことで、地温の異常上昇の防止効果、防水効果が発揮されて地下茎の温度保護および健全な生育が図れ、圃場面に生育する茎枯病の病原菌の空中への飛散があっても、立茎している茎部まで被覆膜が施されている結果、空気中に飛散している病原菌の付着が抑制されることになって、養成株の発病自体の抑制が図れるだけでなく、既に発病している茎枯病の病気の部位に生成する分生子殻の破壊による病原菌の飛散も抑制されることになって、一次感染だけでなく、二次感染についても大きな抑制効果が発揮できることになって、アスパラガスの健全な栽培ができることになる。
【0042】
このように本発明は、萌芽前の栽培初期においては黒色の第一液状マルチ剤による被覆膜を形成し、平均気温が22℃に近づいた段階で、白色の第二液状マルチ剤による被覆膜を形成したアスパラガスの栽培は、早春から丈夫なアスパラガスの生育が得られ、早期からの安定した収穫ができる。
第二液状マルチ剤の被覆膜については、立茎しているものの表面についても被覆することで、茎枯病の一次感染だけでなく二次感染の抑制までも果たすことができ、各年度において高い収穫ができると共に、長年に渡って茎枯病の発病の抑制ができることになって安定した収入を達成できることが期待される。
【0043】
因みに本発明のマルチ方法は、アスパラガスの茎枯病に適したものとして説明したが、茎枯病と同じ糸状菌であるうどん粉病、白さび病、黒褐色病、褐斑病、黒星病、炭疽病、さび病、べと病、すす病、灰色カビ病、軟腐病、菌核病、半身イチョウ病、立ち枯れ病等の病気に効果があるものと推定される。特に、つる枯れ病の発病があるキュウリやメロン類、葉枯病の発病があるピーマンやトマト、ナス類等、褐班病の発病があるウリ科やマメ科、キク科、イネ科等に有効と考えられ、さらには植物全般の発病があるサーコボラス(Cercospora)属のほか、マメ科等が発病するコリネスポラ(Corynespora)属などにも有効と考えられるが、これらについては今後の研究に委ねられるものとなる。
また、本発明に用いられる生分解性を有した液状マルチ剤について、黒、白の顔料に変えて、紫、青、赤、緑等の各種の色彩の顔料を添加した有色の液状マルチ剤とすることにより、特定色を忌避する害虫による被害の予防を図ることができ、また特定光(特定の反射光)を圃場面側から受けることにより野菜類や果物類の圃場面側部位の色付きの向上を図る効果も期待することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、野菜の一つとして食用されるアスパラガスの栽培方法および該栽培方法に用いられる液状マルチ剤として利用することができる。
【要約】
【課題】地下茎から萌芽する新芽が所定長さに生育したものを収穫するアスパラガスの栽培において、アスパラガスの養成株が茎枯病に罹患することを防止する。
【解決手段】アスパラガスの地下茎が生育する圃場に、春先、第一液状マルチ剤を散布して黒色の被覆膜で覆った状態でアスパラガスを収穫した後の立茎時期に対応して、圃場と養成株の茎葉部とを、第二液状マルチ剤を散布して白色の被覆膜で覆うことで、地温の上昇を抑制して丈夫な地下茎の育成を図ると共に、養成株の茎部に、降雨時に、病原菌を含む泥跳ね水が付着することで茎枯病に罹患することを防止するようにする。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4