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  • 特許-アンモニア含有水の処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】アンモニア含有水の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/76 20230101AFI20250114BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20250114BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C02F1/76 C
C02F1/461 Z
A01K63/04 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024060255
(22)【出願日】2024-04-03
【審査請求日】2024-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304024094
【氏名又は名称】エスオーシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】川上 智規
(72)【発明者】
【氏名】福岡 新太郎
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113149152(CN,A)
【文献】特開平04-027490(JP,A)
【文献】特開2005-245328(JP,A)
【文献】特開2009-034624(JP,A)
【文献】特開2004-089770(JP,A)
【文献】特開2010-180310(JP,A)
【文献】特開2007-285771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46-1/48
C25B 13/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア含有水を入れて電解処理する電解槽を備え、前記電解槽の中に隔膜が設けられ、前記電解槽は直流電源のプラス側に接続された陽極が設けられた陽極室と、前記隔膜を介して前記陽極室に隣接し直流電源のマイナス側に接続された陰極が設けられた陰極室とに仕切られ、
前記隔膜には多数の微小な通水孔が形成され、前記通水孔を通過する前記アンモニア含有水の流量に対して、前記通水孔は層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない大きさであり、前記アンモニア含有水のアンモニアが除去された処理水が通過可能な大きさであることを特徴とするアンモニア含有水の処理装置。
【請求項2】
前記通水孔は、複数のスリットであり、前記通水孔の幅は層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない幅である請求項1記載のアンモニア含有水の処理装置。
【請求項3】
前記隔膜は絶縁性の板であり、前記スリットの幅は、0.3~0.7mmである請求項2記載のアンモニア含有水の処理装置。
【請求項4】
前記隔膜は合成樹脂板であり、前記スリットは前記合成樹脂板の一方の側縁から互いに平行に他方の側縁に向かって形成され、他方の側縁と所定間隔を空けて設けられ、前記スリットの幅は、0.4~0.6mmである請求項3記載のアンモニア含有水の処理装置。
【請求項5】
前記合成樹脂板は板厚が5~6mmであり、前記スリットは、前記合成樹脂板の一方の側縁から互いに平行に他方の側縁に向かって形成され、層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない幅である請求項3記載のアンモニア含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンモニアを含有した海水等の塩水からアンモニアを除去する処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水中のアンモニアの分解方法として微生物を用いたものがある。微生物による処理は、硝酸イオンへの酸化とそれに続く脱窒による処理がなされるもので、硝化・脱窒は共に生物反応を利用するため、速度が遅く設備が大きくなるという欠点がある。また、生物学的な脱窒反応には有機物が必要であるため、酢酸やアルコールの添加が必要な場合も多い。従って、微生物を用いる方法は、し尿処理や下水処理には有効であるが、海水や塩水中で微生物を用いたアンモニアの処理を行う場合、塩水中における微生物のアンモニア等の分解処理能力は低いため、アンモニアに対して高い浄化能力を発揮できないものである。そこで、海水中において、アンモニアを効率的に除去する処理装置として、アンモニア含有水を電解処理してアンモニアを除去する電解処理装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された方法は、海水を電気分解して活性塩素を生じさせ、その活性塩素によりNHを分解して除去するものである。この方法では、NH分解に使用されなかった未反応の活性塩素が水中に残留し、水中の魚類に対して悪影響を及ぼすという問題がある。そこで特許文献1では、電解後の活性塩素を含む海水を活性炭充填層に供給し、活性炭の触媒作用によって活性塩素を除去している。
【0004】
また、特許文献2に開示された養殖用海水循環装置は、魚介類を養殖している養殖槽内の海水を循環利用する養殖用海水循環装置であって、海水を循環させる循環経路中に海水中のアンモニアの分解処理等を行う電解手段を備えたものである。この養殖用海水循環装置も、アンモニアの分解処理等に微生物を用いず、電気分解を利用してアンモニアを分解している。
【0005】
また、特許文献3に開示されているように、飼育水槽の海水を浄化しながら循環させて飼育水槽内で魚介類を飼育する閉鎖循環式養殖システムにおいて、隔膜で仕切られた陽極室と陰極室とを備えたものも提案されている。この閉鎖循環式養殖システムは、飼育水槽から供給される海水を電気分解する電解槽と、陽極室から海水が供給される曝気槽と、水面より上の空間部が曝気槽の水面より上の空間部と連通され、水が貯溜あるいは通水されている塩素溶解槽と、塩素溶解槽の空間部の空気を曝気槽の海水中及び塩素溶解槽の水中に噴出して曝気する散気装置と、曝気槽から供給される海水中に残留する活性塩素を炭化剤で中和する中和槽と、陰極室から供給される海水と中和槽から供給される海水を混合して飼育水槽に返送する混合槽とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】2002-10724号公報
【文献】2002-335811号公報
【文献】2006-204235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術の特許文献1、2の場合処理装置が大掛かりであるとともに、アンモニアの分解は陽極側で発生する次亜塩素酸により行われるので、処理槽全体の容量に対してアンモニアの分解除去効率も高いものでなかった。これに対して、特許文献3の場合、隔膜で仕切られた陽極室と陰極室が設けられているため、陽極室でのアンモニアの分解効率は高いが、隔膜としてイオン交換膜を用いているので、長期間の使用により隔膜の汚れ等による性能の低下があり、隔膜のメンテナンスが面倒でありコストもかかるものである。また、特許文献3に開示された装置では、陰極室側と陽極室側に海水を流入して、両室から流出した処理水を再び混合して循環させているので、アンモニアの処理効率も高いものではない。
【0008】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、アンモニア含有水からアンモニアを効率的に且つ確実に除去することができ、隔膜や装置のメンテナンスも容易なアンモニア含有水の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アンモニア含有水を入れて電解処理する電解槽を備え、前記電解槽の中に隔膜が設けられ、前記電解槽は直流電源のプラス側に接続された陽極が設けられた陽極室と、前記隔膜を介して前記陽極室に隣接し直流電源のマイナス側に接続された陰極が設けられた陰極室とに仕切られ、前記隔膜には多数の微小な通水孔が形成され、前記通水孔を通過する前記アンモニア含有水の流量に対して、前記通水孔は層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない大きさであり、前記アンモニア含有水のアンモニアが除去された処理水が通過可能な大きさであるアンモニア含有水の処理装置である。
【0010】
前記通水孔は、複数のスリットであり、前記通水孔の幅は層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない幅である。
【0011】
前記隔膜は絶縁性の板であり、前記スリットの幅は、0.3~0.7mmである。さらに、前記隔膜は合成樹脂板であり、前記スリットは前記合成樹脂板の一方の側縁から互いに平行に他方の側縁に向かって形成され、他方の側縁と所定間隔を空けて設けられ、前記スリットの幅は、0.4~0.6mmであると良い。
【0012】
また、前記合成樹脂板は板厚が5~6mmであり、前記スリットは、前記合成樹脂板の一方の側縁から互いに平行に他方の側縁に向かって形成され、層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない幅である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアンモニア含有水の処理装置は、アンモニア含有水からアンモニアを効率的に且つ確実に除去することができ、隔膜の清掃やその他装置のメンテナンスも容易であり、コストもかからず効率的なアンモニアの除去を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の一実施形態のアンモニア含有水の処理装置の概念図である。
図2】この実施形態のアンモニア含有水の処理装置の隔膜の(a)平面図、(b)正面図、(c)底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1図2はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態のアンモニア含有水の処理装置10は、アンモニア含有水である被処理水Waを電解処理する電解槽12が設けられている。アンモニア含有水である被処理水Waは、例えば海水魚の陸上養殖に利用される海水等の塩水である。特に、海水を循環利用する陸上養殖用の海水の排水や循環水である。
【0016】
先ず、海水魚の陸上養殖に係る排水処理を例に、アンモニアの処理について説明する。魚の養殖において、養殖魚から排出されるアンモニアが養殖槽に蓄積すると魚類の棲息に悪影響を及ぼすため、海水を循環利用する陸上養殖ではアンモニアの処理が重要となる。本発明のアンモニア除去のメカニズムは、電解槽を用いて、海水の電解により発生する次亜塩素酸イオンとアンモニウムイオンとが反応することを利用している。本発明の電解槽中の陽極での反応は次式(1)の通りである。
Cl +HO → ClO + 2H + 2e (1)
また、アンモニアの除去反応は次式(2)の通りである。
2NH +3ClO → N↑+3Cl +3HO+2H (2)
これらの反応は、反応速度が速く、装置が小型であり、アンモニアの除去量を電気量により容易に制御できるというメリットがある。
【0017】
次に、アンモニア含有水の処理装置10について、図1図2に基づいて説明する。処理装置10は、アンモニア含有水である被処理水Waを入れて電解処理する電解槽12を備え、電解槽12の中に隔膜14が設けられている。電解槽12は、図示しない直流電源のプラス側に接続された陽極16が設けられた陽極室18と、隔膜14を介して陽極室18に隣接し図示しない直流電源のマイナス側に接続された陰極20が設けられた陰極室22とに区画されている。陰極室22の上方には、アンモニアの除去処理が行われた処理水Wbの排水口26が形成されている。
【0018】
隔膜14には、多数の微小な通水孔であるスリット24が形成されている。スリット24は、層流状態で通水可能であり乱流による拡散を生じさせない幅であって、アンモニアを含有した被処理水Waのアンモニアが除去された処理水Wbが、層流状態で通過可能な大きさである。
【0019】
具体的には、例えば陽極室18と陰極室22の容量はそれぞれ300mLである。電極は陽極16には白金メッキのチタン板を用い、陰極20にはステンレスの針金を用いている。隔膜14には図2に示すように、スリット24が形成されたアクリル板等の合成樹脂板を用いた。合成樹脂板は、板厚が5~6mmで例えば板厚5mmであり、スリット24の幅は0.3~0.7mm、好ましくは0.4~0.6mmであり、例えば0.5mmである。スリット24の間隔は、4~6mmで例えば5mm間隔である。
【0020】
次にこの実施形態のアンモニア含有水の処理装置10の機能について以下に説明する。電解槽12の陽極室18に、養殖池等のアンモニア含有水である被処理水Waが流入する。被処理水Waは、隔膜14のスリット24を抜けて、陰極室22に移動する。ここで、電解槽12は、隔膜14により陽極室18と陰極室22とに分けられているので、陽極16で発生したClOは、原水である被処理水Waのアンモニウムイオンと効率よく接触させることができる。さらにこの後、スリット24を通過する被処理水Waは、スリット24を通過する流量が例えば後述する実施例の75mL/分の場合、層流状態でのみ通過可能であり、陽極室18内の水と陰極室22内の水は乱流拡散により混じり合うことがない。これにより、陽極室18でアンモニアが上記反応により効果的に除去された被処理水Waが、隔膜14のスリット24を処理水Wbとして通過し陰極室22の排出口26から排出される。
【0021】
隔膜14としてスリット24を有した板を用いる理由は、セラミック板等の多孔質の隔膜とは異なり、スリットに0.5mmの幅があるため、隔膜14により陽極室18と陰極室22の間が閉塞することが無く、隔膜14の洗浄も容易であること、及びスリット14を処理水Wbが通過しながらさらに電解が可能であること等によるものである。また、隔膜14は多孔質板等の微細な孔を有したものでなくても、スリット24を形成した板に厚みがあるため、乱流拡散が抑制され、陽極室18と陰極室22の液体が混合することがないので隔膜として機能させることができる。
【0022】
この実施形態のアンモニア含有水の処理装置10によれば、アンモニアを含有した被処理水Waからアンモニアを効率的且つ確実に除去することができ、隔膜14の清掃やその他装置のメンテナンスも容易であり、隔膜の耐久性も高いものにすることができ、コストもかからず効率的なアンモニアの除去を可能とするものである。これにより、循環使用する養殖槽の海水や塩水からアンモニアを効率的に連続的に除去することができ、魚介類の養殖等に有効に利用することができる。また、スリット24を有した隔膜14は、例えば合成樹脂板のレーザー加工等により、スリット24を容易且つ効率的に製造することができる。
【0023】
なお、この発明のアンモニア含有水の処理装置は、上記実施の形態に限定されるものではなく、電解槽の水槽や隔膜の大きさや、電極のサイズや材料等は、適宜変更可能である。隔膜の通水孔はスリット以外に、貫通口であっても良く、口径や幅は適宜設定可能であり、被処理水が乱流状態で通過・拡散しない大きさや、隔膜の厚みであれば良い。
【実施例
【0024】
次に、アンモニア含有水の処理装置10による処理方法を用いた実験例について説明する。
[実験結果1]
海水中のアンモニア性窒素(アンモニウムイオン)濃度 1.0mg-N/L
流量 75mL/分(滞留時間:各槽4分)
電流 20mA (定電流運転)
上記の条件で、同じ電解槽を用いて実験を行ったところ、以下の結果が得られた。
[電解槽に本発明の隔膜が有る場合]
処理水 アンモニウムイオン濃度 0.50mg-N/L
電圧 2.8V (消費電力56 mW)
[電解槽に隔膜が無い場合]
処理水 アンモニウムイオン濃度 0.80mg-N/L
電圧 2.6V(消費電力52mW)
【0025】
上記実験結果1から、本発明の隔膜を設けた処理装置の場合、被処理水の海水中アンモニウムイオン濃度が1.0mg/Lのところ、処理水のアンモニウムイオン濃度は0.50mg/Lとなり、隔膜が無い場合の処理水のアンモニウムイオン濃度0.80mg/Lに対して、大きくアンモニウムイオンを減少させることができたことが確認された。
【0026】
[実験結果2]
海水中アンモニウムイオン濃度 1.0mg/-NL
流量 75 mL/分(滞留時間:各槽4分)
電流 30 mA (定電流運転)
[電解槽に本発明の隔膜が有る場合]
処理水 アンモニウムイオン濃度 0.02mg-N/L
電圧 3.3 V (消費電力99 mW)
【0027】
上記実験結果1から、隔膜がある場合は処理水のアンモニウムイオン濃度を大きく下げることができることが確認できたので、電流値を実験1の20mAから30mAに上げて、同様に実験したところ、さらに、アンモニウムイオン濃度を大きく下げることができることが確認できた。ただし、電流値を上げて電気分解が進みすぎると、余剰なClOが残り、養殖魚に悪影響を与えるので、上記実験結果2のアンモニウムイオン濃度に減少させる程度が好ましいと言える。
【符号の説明】
【0028】
10 アンモニア含有水の処理装置
12 電解槽
14 隔膜
16 陽極
18 陽極室
20 陰極
22 陰極室
24 スリット
26 排水口
Wa 被処理水
Wb 処理水
【要約】      (修正有)
【課題】アンモニア含有水からアンモニアを効率的に且つ確実に除去することができ、隔膜や装置のメンテナンスも容易なアンモニア含有水の処理装置を提供する。
【解決手段】アンモニア含有水を入れて電解処理する電解槽12を備え、電解槽12の中に隔膜14を有し、電解槽12は直流電源のプラス側に接続した陽極室18と、隔膜14を介して陽極室18に隣接した陰極室22を備える。陽極室18は陽極16を備え、陰極室22は陰極20を備える。隔膜14は多数の微小な通水孔であるスリットを備える。スリットは、層流状態で通水し乱流による拡散を生じさせない大きさであって、アンモニア含有水のアンモニアが除去された処理水Wbが通過可能な大きさである。
【選択図】図1
図1
図2