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特許7618177裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置
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  • 特許-裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置 図1A
  • 特許-裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置 図1B
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  • 特許-裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置 図3
  • 特許-裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置 図4A
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  • 特許-裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置 図4C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/20 20210101AFI20250114BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20250114BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20250114BHJP
   D06B 3/04 20060101ALI20250114BHJP
   D06B 3/10 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
D03D15/20 100
B32B5/26
D03D1/00 Z
D06B3/04 Z
D06B3/10 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022196738
(22)【出願日】2022-12-09
(65)【公開番号】P2024082707
(43)【公開日】2024-06-20
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520503511
【氏名又は名称】森常株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】森 常英
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雄一
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314904(JP,A)
【文献】特開2010-173343(JP,A)
【文献】特開2021-053970(JP,A)
【文献】特開2018-071027(JP,A)
【文献】特開2016-079543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B1/00-23/30;D06C3/00-29/00;D06G1/00-5/00;D06H1/00-7/24;D06J1/00-1/12
D06M10/00-11/84;16/00;19/00-23/18
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
D03D1/00-27/18
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物用のシート表皮複合体の裏基布であって、
機能性薬剤を含む薬液が浸透した糸を用いて構成され、
前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤、アンモニアの吸着材、撥水剤、抗菌剤、防炎剤または難燃剤の少なくとも1つを含み、
前記機能性薬剤の粒子径は、1nm以上、40nm以下であ裏基布。
【請求項2】
前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤を含み、
前記アセトアルデヒドの減少率は、SEKマーク繊維製品認証基準で定める方法を用いて92%以上である
請求項1に記載の裏基布。
【請求項3】
前記薬液は、前記機能性薬剤を結合するためのバインダを含む
請求項1に記載の裏基布。
【請求項4】
前記裏基布の目付は、10g/m以上、50g/m以下である
請求項1に記載の裏基布。
【請求項5】
表面生地と、
請求項1から4のいずれか一項に記載の前記裏基布と、
前記表面生地と前記裏基布とを接着する接着層と、
を備えるシート表皮複合体。
【請求項6】
機能性を有する糸の製造方法であって、
糸を用意する段階と、
予め定められた機能性薬剤を含む薬液に前記糸を糸の状態で搬送させながら浸漬させる段階と、
前記薬液から前記糸を取り出す段階と、
を備え、
前記薬液から前記糸を取り出す段階は、
マングルを用いて、前記糸を絞って、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去する第1除去段階と、
前記第1除去段階の前工程において、板状の除去部を用いて、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するための第2除去段階と、
を有し、
前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤、アンモニアの吸着材、撥水剤、抗菌剤、防炎剤または難燃剤の少なくとも1つを含む糸の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の糸の製造方法により製造された糸を用いて生地を製造する段階を備える
生地の製造方法。
【請求項8】
糸を搬送するための搬送部と、
予め定められた機能性薬剤を含む薬液に前記糸を糸の状態で搬送させながら浸漬させるための浸漬部と、
前記薬液から前記糸を取り出す取り出し部と、
を備え、
前記取り出し部は、
前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するための第1除去部と、
前記第1除去部の前工程において、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するための板状の第2除去部と、
を有し、
前記第1除去部は、前記糸を絞って、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するためのマングルを有し、
前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤、アンモニアの吸着材、撥水剤、抗菌剤、防炎剤または難燃剤の少なくとも1つを含む製造装置。
【請求項9】
前記第1除去部の後工程において、前記糸を乾燥させるための乾燥部を備える
請求項8に記載の製造装置。
【請求項10】
前記乾燥部は、前記糸を電熱で加熱するための電熱乾燥炉である
請求項9に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏基布、シート表皮複合体、糸の製造方法、生地の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、裏基布を備える車両用シートが開示されている。
特許文献2には、消臭機能を備える車両用シート表面材が開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
特許文献1 特開2017-169691号公報
特許文献2 特開2000-301639号公報
【0003】
より高品質な乗り物用のシート表皮複合体の裏基布を提供する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様においては、乗り物用のシート表皮複合体の裏基布であって、機能性薬剤を含む薬液が浸透した糸を用いて構成される裏基布を提供する。
【0005】
前記裏基布において、前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤、アンモニアの吸着材、撥水剤、抗菌剤、防炎剤または難燃剤の少なくとも1つを含んでよい。
【0006】
上記いずれかの裏基布において、前記機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤を含んでよい。前記アセトアルデヒドの減少率は、SEKマーク繊維製品認証基準で定める方法を用いて92%以上であってよい。
【0007】
上記いずれかの裏基布において、前記薬液は、前記機能性薬剤を結合するためのバインダを含んでよい。
【0008】
上記いずれかの裏基布において、前記裏基布の密度は、10g/m以上、50g/m以下であってよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、表面生地と、上記いずれかの裏基布と、前記表面生地と前記裏基布とを接着する接着層と、を備えるシート表皮複合体を提供する。
【0010】
本発明の第3の態様においては、機能性を有する糸の製造方法であって、糸を用意する段階と、予め定められた機能性薬剤を含む薬液に前記糸を浸漬させる段階と、前記薬液から前記糸を取り出す段階と、を備える糸の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第4の態様においては、前記糸の製造方法により製造された糸を用いて生地を製造する段階を備える生地の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第5の態様においては、糸を搬送するための搬送部と、予め定められた機能性薬剤を含む薬液に前記糸を浸漬させるための浸漬部と、前記薬液から前記糸を取り出す取り出し部と、を備える製造装置を提供する。
【0013】
前記製造装置において、前記取り出し部は、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するための第1除去部を有してよい。
【0014】
上記いずれかの製造装置において、前記第1除去部は、前記糸を絞って、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するためのマングルを有してよい。
【0015】
上記いずれかの製造装置において、前記取り出し部は、前記第1除去部の前工程において、前記糸に付着した前記機能性薬剤の一部を除去するための第2除去部を有してよい。
【0016】
上記いずれかの製造装置は、前記第1除去部の後工程において、前記糸を乾燥させるための乾燥部を備えてよい。
【0017】
上記いずれかの製造装置において、前記乾燥部は、前記糸を電熱で加熱するための電熱乾燥炉であってよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】シート表皮複合体100の断面の模式図である。
図1B】シート表皮複合体100で構成されたシートカバーを装着するためのシートパッド300の一例を示す。
図2】裏基布130に用いられるフロント糸11およびバック糸12の一例である。
図3】比較例に係る生地500の製造方法のフローチャートを示す。
図4A】糸10を製造するためのフローチャートの一例を示す。
図4B】製造装置200の構成の一例を示す。
図4C】製造装置200の構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1Aは、シート表皮複合体100の断面の模式図である。シート表皮複合体100は、表面生地110と、接着層120と、裏基布130とを備える。シート表皮複合体100は、複数の生地を積層させたシート用の複合体である。本例のシート表皮複合体100は、乗り物用のシート骨格に被せるためのシートカバーに用いられるがこれに限定されない。乗り物は、自動車および電車などの車両を含んでよく、飛行機などの道路上を走行しないものを含んでよい。
【0022】
表面生地110は、シート表皮複合体100の表面に用いられる生地である。表面生地110は、ポリエステルを使用した織物であってよい。表面生地110は、レザー調の生地であってよい。表面生地110は、裏基布130に貼り合わせられている。
【0023】
接着層120は、表面生地110と裏基布130とを接着して、表面生地110と裏基布130とを貼り合わせる。但し、表面生地110と裏基布130との貼り合わせ方法は、接着層120を用いる方法に限定されない。接着層120の材料は、ポリウレタンまたはポリエステルを含んでよい。接着層120は、表面生地110および裏基布130と異なる組成のポリエステルを含んでよい。接着層120の厚みは、1.5mm以上、8mm以下であってよい。接着層120の融点は、表面生地110および裏基布130の融点よりも低くてよい。シート表皮複合体100を加熱して接着層120を溶融することにより、表面生地110および裏基布130を融着することができる。
【0024】
裏基布130は、表面生地110の裏面に接着される。本例の裏基布130は、接着層120を用いて表面生地110の裏面に貼り合わせられている。裏基布130は、ポリエステルを使用した不織布であってよい。表面生地110および裏基布130は、同一の材料で構成されてよい。シート表皮複合体100の各層を同一の材料で構成することにより、リサイクル性が向上する。裏基布130の厚みは、表面生地110の厚みよりも厚くてよい。裏基布130の厚みは、0.10mm以上、2.00mm以下であってよい。
【0025】
裏基布130は、機能性薬剤を含む薬液225が浸透した糸10(不図示)を用いて構成される。裏基布130の糸10には、複数の機能性薬剤を含む薬液225が浸透していてよい。薬液225については後述する。裏基布130は、薬液225が浸透した機能性を有する糸10のみから構成されてよい。但し、裏基布130は、機能性を有する糸10と、機能性を有さない糸の両方を含んでいてもよい。
【0026】
図1Bは、シート表皮複合体100で構成されたシートカバーを装着するためのシートパッド300の一例を示す。シート表皮複合体100は、裁断縫製して乗り物用のシートカバーに用いられてよい。乗り物用のシートカバーは、高い強度、防皺性および難燃性などが要求される。
【0027】
シートパッド300は、主材料であるウレタンからアセトアルデヒドを発生する場合がある。裏基布130にアセトアルデヒドの吸着機能を持たせることで、シートパッドから発生するアセトアルデヒドを効率的に消臭することができる。ここで、シート表皮複合体100の滑り性が悪いと、シート表皮複合体100のシートパッド300への取り付けが困難な場合がある。また、車室内で想定される高温にさらされると、生地自体がカールして仕上り性および座り心地性の悪化につながる場合がある。本例のシート表皮複合体100は、シートの滑り性能を損なうことなく、アセトアルデヒドの吸着特性を有することができる。
【0028】
図2は、裏基布130に用いられるフロント糸11およびバック糸12の一例である。フロント糸11を縦方向に編み込み、バック糸12を横方向に編み込むことで裏基布130を作成する。本例のフロント糸11およびバック糸12は、1in1outで配列されているが、これに限定されない。本例のフロント糸11の組織は10/01であり、バック糸12の組織は00/55である。
【0029】
裏基布130の編み組織は、機能性薬剤の浸透度合いおよびカールのしやすさ等に応じて適宜選択されてよい。裏基布130の編み組織は、生地にした状態で、生地が耳巻きしにくく、かつ収縮しにくい編地組織であってよい。このように、裏基布130の編組織を適切に選択することで、カールを防ぎシートパッド300に取り付けやすくなる。
【0030】
図3は、比較例に係る生地500の製造方法のフローチャートを示す。ステップS500において、機能性が付与されていない生地500を用意する。ステップS510において、生地500を薬液225に浸漬する。ステップS520において、生地500を薬液225から取り出して乾燥させる。比較例では、生地500の状態で薬液225に浸漬するため、編地の糸の交絡部分に薬液225が浸透しないので薬剤の付着性が悪い。生地500に薬液225が十分に浸透しないと、必要な塗布量が実現できず生地500の機能性が悪化する。
【0031】
図4Aは、糸10を製造するためのフローチャートの一例を示す。本例のフローチャートは、糸10の製造方法の一例であり、これに限定されない。ステップS100において、機能性が付加されていない素の糸10を用意する。
【0032】
ステップS110において、薬液225に糸10を浸漬する。本例では、糸10の状態のまま薬液225に浸漬している。これにより、糸10に機能性を付加することができる。糸10は、ボビンに巻き取られていない状態で薬液225に浸漬されてよい。糸10は、複数の機能性薬剤を併用して一度に浸漬されてよい。糸10の状態で浸漬することにより、生地の状態で浸漬するよりも均一に薬液225を糸10に浸漬することができる。これにより、多機能の裏基布130を作成しやすくなる。また、糸10の状態で薬液225に浸漬させることにより、裏基布130に機能性を持たせつつ、滑り特性が良くなり、シートへの取り付けが容易になる。裏基布130の機能性は、アセトアルデヒドの吸着性、アンモニアの吸着性、撥水性、抗菌性、防炎性または難燃性の少なくとも1つであってよい。なお、糸10の状態で浸漬したか否かについては、裏基布130の糸10が交差する部分の浸透具合を確認することにより、裏基布130の状態で判別することができる。
【0033】
ステップS120において、薬液225から糸10を取り出す。その後、機能性が付加された糸10を用いて裏基布130が製造されてもよい。機能性を有する裏基布130は、表面生地110と貼り合わされてシート表皮複合体100を構成してよい。シート表皮複合体100の裏基布130の裏面には、任意の裏材を貼り付けてよい。例えば、裏基布130の裏面にはポリウレタン等のシートパッドが貼り付けられる。裏材の貼り付けは、省略されてよい。なお、裏基布130の裏面に裏材を貼り付けた場合であっても裏材を剥がせばシート表皮複合体100を容易にリサイクルできる。
【0034】
図4Bは、製造装置200の構成の一例を示す。製造装置200は、搬送部210と、浸漬部220と、取り出し部230と、乾燥部240とを備える。
【0035】
搬送部210は、搬送用のローラ等を用いて、糸10を製造装置200の各工程に搬送する。本例の搬送部210は、浸漬部220、取り出し部230および乾燥部240の順に糸10を搬送する。搬送部210は、第1ボビン201に巻かれた糸10を製造装置200の各工程に搬送して、第2ボビン202で巻き取る。本例の搬送部210は、糸10同士が接触して薬液225の塗布ムラが発生しないように、糸10同士が接触しない搬送機構を有する。
【0036】
浸漬部220は、予め定められた機能性薬剤を含む薬液225に糸10を浸漬する。浸漬部220は、薬液225の成分ムラが発生しないように、薬液225が循環する循環機構を有してよい。浸漬部220の浴槽には、複数の種類の機能性薬剤を含む薬液225が貯留されていてよい。
【0037】
取り出し部230は、浸漬部220の薬液225から糸10を取り出す。取り出し部230は、糸10に付着した不要な薬液225を除去してよい。取り出し部230は、浸漬部220よりも後の工程であって、乾燥部240よりも前の工程に配置される。本例の取り出し部230は、第1除去部231を有する。
【0038】
第1除去部231は、糸10に付着した機能性薬剤の一部を除去する。第1除去部231は、糸10を絞って、糸10に付着した機能性薬剤の一部を除去するためのマングルを有してよい。マングルは、糸10を上下のロールで挟んで絞る機構を有する。第1除去部231は、糸10に付着した余分な薬剤を絞り取り、薬剤の浸透性を向上させることができる。なお、本例の第1除去部231は、マングルを有する場合について説明したが、糸10を絞らずに板またはロールに沿わせて不要な薬剤を除去する構成を有してもよい。
【0039】
乾燥部240は、第1除去部231の後工程において、糸10を乾燥させる。本例の乾燥部240は、糸10の状態で加熱することにより、薬液225に浸漬した糸10を乾燥させる。これにより、糸10を使用した裏基布130が熱収縮しにくくなる。乾燥部240による乾燥温度は、40℃以上、170℃以下であってよい。裏基布130の状態で加熱するよりも、糸10の状態で加熱させる方が、加熱に必要な時間が短縮され、コストを低減することができる。本例では、糸10の状態で乾燥させることで裏基布130の状態で乾燥する工程を省略することができる。
【0040】
乾燥部240は、糸10を電熱で加熱するための電熱乾燥炉であってよい。乾燥部240は、炉内を電熱で温めて糸10を乾燥させることで、糸10からの薬液225の脱落を防止することができる。生地を乾燥させるためのセッターの熱風で乾燥させる場合のように、付着した薬剤が風量で脱落する恐れを回避することができる。
【0041】
なお、薬液225の機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤、アンモニアの吸着材、撥水剤、抗菌剤、防炎剤または難燃剤の少なくとも1つを含んでよい。薬液225の機能性薬剤は、アセトアルデヒドの吸着剤を含んでよい。アセトアルデヒドの吸着剤は、有機アミド成分を含んでよい。
【0042】
アセトアルデヒドの減少率は、SEKマーク繊維製品認証基準で定める方法を用いて92%以上であってよい。この場合、シート表皮複合体100の状態で2時間後に92%以上のアセトアルデヒドガスを減少させることができる。アセトアルデヒドの減少率は、シート表皮複合体100の状態で測定されてよい。
【0043】
薬液225の機能性薬剤の粒子径は、1nm以上、40nm以下であってよい。機能性薬剤の粒子径の小さい薬液225を糸10に侵入させることで滑りの悪化を抑制できる。一方、機能性薬剤の粒子径が大きいと糸の周りに付着して、糸を曲げにくくなり滑りが悪化する場合がある。糸10の滑りを改善することで、シート表皮複合体100のシートへの取り付けが容易になる。
【0044】
薬液225は、機能性薬剤を結合するためのバインダを含んでよい。糸10の状態で薬液225に浸漬させると編みにくくなるが、薬液225にバインダを含めることにより裏基布130の編み組織を形成しやすくなる。
【0045】
また、薬液225にバインダを含めることにより密度の小さい裏基布130においても、薬液225の脱落を回避しやすくなる。裏基布130の密度は、表面生地110の密度よりも小さくてよい。表面生地110の密度は、250g/m以上、400g/m以下であってよい。裏基布130の密度は、10g/m以上、50g/m以下であってよい。本例の裏基布130は、密度が小さく軽量であるものの、糸10の状態で薬液225に浸漬して、薬液225にバインダを含ませることにより、薬液225の脱落を回避しやすくなる。なお、生地の状態で浸漬すると、100g/mよりも大きいような高密度な生地に均一に機能性薬剤を浸透させることが容易ではないところ、糸10の状態で薬液225に浸漬させることで高密度な生地への浸透性を向上させることができる。
【0046】
薬液225は、シリコン材料を含んでよい。これにより、糸10の滑りが改善して、摩擦等による白粉の発生を抑制できる。
【0047】
図4Cは、製造装置200の構成の一例を示す。本例の製造装置200は、取り出し部230に第2除去部232を有する点で、図4Bの製造装置200と相違する。本例では、図4Bの製造装置200と相違する点について特に説明する。
【0048】
第2除去部232は、第1除去部231の前工程に配置される。第2除去部232は、糸10に付着した機能性薬剤の一部を除去する。第2除去部232は、板またはロールを有し、糸10と接触することで予備的に薬剤を落としてよい。なお、取り出し部230は、第1除去部231を省略して第2除去部232のみを有してもよい。
【0049】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0050】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0051】
10・・・糸、11・・・フロント糸、12・・・バック糸、100・・・シート表皮複合体、110・・・表面生地、120・・・接着層、130・・・裏基布、200・・・製造装置、201・・・第1ボビン、202・・・第2ボビン、210・・・搬送部、220・・・浸漬部、225・・・薬液、230・・・取り出し部、231・・・第1除去部、232・・・第2除去部、240・・・乾燥部、300・・・シートパッド、500・・・生地
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C