IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 泰喜物産株式会社の特許一覧

特許7618190新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法
<>
  • 特許-新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法 図1
  • 特許-新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法 図2
  • 特許-新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20250101AFI20250114BHJP
   A23L 11/45 20210101ALI20250114BHJP
【FI】
A23L11/00 Z
A23L11/45 108Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018104545
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019208371
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507108265
【氏名又は名称】泰喜物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 健三
(72)【発明者】
【氏名】落合 利治
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸隆
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】磯貝 香苗
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-269257(JP,A)
【文献】特開昭62-115253(JP,A)
【文献】特開平10-000067(JP,A)
【文献】特開昭63-133949(JP,A)
【文献】特開2008-154473(JP,A)
【文献】主に食材な備忘録凍み豆腐 [online],2012,[検索日:2022.03.22],<URL:http://duckbill21.blog75.fc2.com/blog-entry-738.html>
【文献】簡単 爆弾いなり寿司,[online],レシピID:3789907,公開日:16.04.06,更新日:16.04.06,[検索日:2022.03.22]
【文献】大和谷和彦,キサンタンガム,ジェランガムのユニークな応用,月刊フードケミカル,2005,第21巻,第3号,31-36頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMedPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる無機塩の1種または2種以上を多価アルコール脂肪酸エステルで乳化または分散した遅効化処理凝固剤、又は、硫酸カルシウム及び/又はグルコノデルタラクトンである遅効性凝固剤を用いて少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品を製造するにあたり、前記原料にキサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加することを特徴とする少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項2】
原料に、更に澱粉を添加する請求項1記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項3】
原料が、豆乳である請求項1または2記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項4】
豆乳に使用するキサンタンガム及び/又はジェランガムの総量が0.01~0.2質量%である請求項3記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項5】
豆乳に使用するトランスグルタミナーゼが豆乳1リットル当たり1~100ユニットである請求項または記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法で製造された少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品を油で揚げることを特徴とする厚揚げまたは厚揚げ様食品の製造方法。
【請求項7】
以下の成分(a)~(c)
(a)キサンタンガム及び/又はジェランガム
(b)トランスグルタミナーゼ
(c)澱粉
を含むことを特徴とする少なくとも大豆タンパクを含有し、裂ける豆腐または豆腐様食品用添加剤キット。
【請求項8】
請求項1~5の何れかに記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品の製造方法で製造された、一定方向に繊維状に並ぶ組織が形成され、繊維状に裂けることを特徴とする少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品。
【請求項9】
請求項8に記載の少なくとも大豆タンパクを含有する豆腐または豆腐様食品を油で揚げた厚揚げまたは厚揚げ様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状に裂ける新食感の豆腐または豆腐様食品およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は豆乳に凝固剤を使った伝統的食品であるが、絹豆腐、木綿豆腐、ソフト豆腐、充填豆腐、さらに豆腐を油で揚げる厚揚げ(生揚げ)などがあり、それぞれ食感が違う。消費者の健康意識により豆腐は好まれるが、今までとは違う新しい食感の要求も高い。その要求の中に滑らか、ジューシー、歯切れの良さが最近の傾向となってきている。特に若い人や子供にその傾向が強い。また、豆腐や厚揚げ(生揚げ)はいろいろな料理に利用できるが、鍋やおでんなどに使われる場合は汁が浸み込んだ豆腐や厚揚げ(生揚げ)に人気がある。
【0003】
豆腐に使用される凝固剤は豆腐の大豆タンパクと反応して凝固するものであり、凝固剤としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムまたは硫酸カルシウム等の無機系凝固剤、あるいはグルコノデルタラクトン等の有機系凝固剤が用いられる。また、凝固剤は大豆タンパクとの反応性の違いで速効性凝固剤と遅効性凝固剤に分かれる。
【0004】
速効性凝固剤は、大豆タンパクと数秒以内で反応が始まる塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなどがあり、古くから使われている苦汁は塩化マグネシウムが主成分である。一方、遅効性凝固剤は、5秒以上で反応が徐々に始まる硫酸カルシウム、グルコノデルタラクトンなどである。大量生産するためには工程上ゆっくりと大豆タンパクと反応させる必要があり、速効性凝固剤を使う場合は遅延化処理したものが用いられる。
【0005】
遅効化処理の方法としては速効性の無機系凝固剤をグリセリンやポリグリセリンなどの多価アルコールと脂肪酸の部分エステルで乳化または分散して油性被膜化したものである。使用の際には豆乳中に加えて機械的に微粒子分散し、徐々に油性被膜が壊れ無機系凝固剤が系外に溶出して大豆タンパクと凝固反応して豆腐を製造する。
【0006】
豆腐の製造において、遅効性凝固剤を用いるか速効性凝固剤を遅延化処理したものを凝固剤として使用すると歩留まりが上がって収率がよくなるため、ほとんどの豆腐製造業者がどちらかを採用している。豆腐を油で揚げる厚揚げ(生揚げ)も同様である。
【0007】
一方、消費者は商品の見た目を非常に気にするところであり、離水する商品は敬遠する傾向が強く、離水する豆腐や厚揚げ(生揚げ)は商品価値が落ちる。そのため豆腐製造者は離水がしないような豆腐を作ることも課題としている。
【0008】
離水を抑える技術として増粘剤を使用した豆腐もある。このような豆腐としては、例えば、増粘多糖類を添加した豆腐(特許文献1)、豆乳にジェランガムを均質に保持させてなることを特徴とする豆腐(特許文献2)などがあるが、これらはある程度離水を抑制するものの、豆腐がねっとりとした食感になり消費者に好まれるものではない。また、澱粉を使うことで離水を抑える方法も使われるが、やはりみずみずしさが失われる。これら増粘多糖類や澱粉で離水抑制をしたものは鍋料理などに使用した場合の汁の浸み込みは少ない。
【0009】
さらに、豆腐を油で揚げる厚揚げ(生揚げ)については大豆タンパクの結着を促進するトランスグルタミナーゼ及びトランスグルタミナーゼと糖類を添加することを特徴とする豆腐生揚げの製造方法(特許文献3)がある。しかし、トランスグルタミナーゼ単品では離水抑制効果が十分ではなく、実際は糖類として澱粉を併用されることもあるが、離水は少ないものの本来のみずみずしい食感は失われ、まとわりついた食感となり口当たりが非常に悪い。また、おでんなど汁の浸み込みを目的とした料理には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭59-16460号公報
【文献】特開昭62-115253号公報
【文献】特許第3652799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、豆腐本来の風味と滑らかで、みずみずしくジューシーで、歯切れがよく、しかも、収率がよく、日数が経っても離水が少なく、且つ汁の浸み込みの良い豆腐及びそれらを油で揚げた厚揚げ(生揚げ)およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、豆腐や豆腐様食品の原料に、特定の素材を添加することにより、上記課題を解決できる上、更に、繊維状に裂ける新食感の豆腐や豆腐様食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、繊維状に裂けることを特徴とする豆腐または豆腐様食品である。
【0014】
また、本発明は、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、遅効化処理凝固剤及び/又は遅効性凝固剤を用いて豆腐または豆腐様食品を製造するにあたり、前記原料にキサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加することを特徴とする豆腐または豆腐様食品の製造方法である。
【0015】
更に、本発明は、上記豆腐の製造方法で製造された豆腐または豆腐様食品を油で揚げることを特徴とする厚揚げまたは厚揚げ様食品の製造方法である。
【0016】
また更に、本発明は、以下の成分(a)~(b)
(a)キサンタンガム及び/又はジェランガム
(b)トランスグルタミナーゼ
を含むことを特徴とする裂ける豆腐または豆腐様食品用添加剤キットである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、豆腐本来の風味と滑らかで、みずみずしくジューシーで、歯切れがよく、しかも、収率がよく、日数が経っても離水が少なく、且つ汁の浸み込みがよく、更には繊維状に裂ける新食感の豆腐及び豆腐様食品それらを油で揚げた厚揚げ(絹生揚げ)及び厚揚げ様食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2で製造した絹厚揚げを手で裂いた断面である。
図2】比較例1で製造した絹厚揚げを手で裂いた断面である。
図3】実施例1で製造した絹豆腐を手で裂いた断面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の豆腐または豆腐様食品(以下、これらを単に「本発明豆腐」という)は、例えば、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、遅効化処理凝固剤及び/又は遅効性凝固剤を用いて豆腐または豆腐様食品を製造するにあたり、前記原料にキサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加することにより製造することができる。本発明豆腐の製造方法は、前記原料にキサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加する以外は、基本的に公知の遅効化処理凝固剤及び/又は遅効性凝固剤を用いて、原料中のタンパクとゆっくり反応させる豆腐または豆腐様食品を製造する方法に準じて製造することができる。
【0020】
本発明豆腐の製造方法に用いられる、少なくとも大豆タンパクを含有する原料は、特に限定されないが、例えば、豆乳や、豆乳に、更に、乳タンパク、魚タンパク、卵タンパク等の別のタンパクを含有させたもの等が挙げられる。少なくとも大豆タンパクを含有する原料に別のタンパクを含有させる場合には、別のタンパクの質量を1とした場合に、大豆タンパクを1以上とすることが好ましい。これら大豆タンパクを含有する原料の中でも豆乳が好ましい。少なくとも大豆タンパクを含有する原料は、後記する材料を添加する前に、60~80℃程度に加温されていることが好ましい。
【0021】
本発明豆腐の製造方法に用いられる遅効化処理凝固剤は、特に限定されないが、例えば、大豆タンパクと反応し易い速効性の塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムから選ばれる無機塩の1種または2種以上を、多価アルコール脂肪酸エステルで乳化または分散したものである。これらの無機塩は無水物でも結晶水を有していてもどちらでもよく、また市販の粗製海水塩化マグネシウム(苦汁)でもよい。
【0022】
上記で用いられる多価アルコール脂肪酸エステルは、特に限定されないが、例えば、多価アルコールとしてグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ソルビタン、ショ糖などに、大豆油、ヤシ油など食用油脂を構成している脂肪酸がモノ、ジ、トリなどに部分エステル化された食品用乳化剤、及びグリセリンの脂肪酸エステルであるジアシルグリセロールや食用油脂も含まれる。
【0023】
また、上記で行われる乳化または分散の方法としては、特に限定されないが、例えば、無機塩の粉末または無機塩を水溶化して多価アルコール脂肪酸エステルに、プロペラ攪拌機、ホモミキサー、マイルダー、高速回転式ホモジナイザー等で機械的に高速攪拌してW/O(油中水滴型)乳化、S/O(油中固体型)分散して得られる。また遅効化の制御は主に多価アルコール脂肪酸エステルの種類及び配合量の変化で行う。
【0024】
上記のようにして得られる遅効化処理凝固剤は、豆腐製造ライン中または直前に作ることもできるが、一般に市販されているものを使用することもできる。一般に市販されているものは製剤化され、「乳化にがり」という一般名称で呼ばれている。例えば「マグネスファイン(登録商標)AT」(塩化マグネシウム6水塩50質量%含有、花王株式会社製)、「にがり伝説(登録商標)2000」(塩化マグネシウム6水塩55質量%含有、理研ビタミン株式会社製)などがある。
【0025】
本発明豆腐の製造方法に用いられる遅効性凝固剤は、特に限定されないが、例えば、無機系では硫酸カルシウム(すまし粉)等が挙げられ、有機系ではグルコノデルタラクトン等が挙げられる。これら遅効性凝固剤は、一般に市販されているものを使用することもできる。
【0026】
本発明豆腐の製造方法においては、遅効化処理凝固剤と遅効性凝固剤は、単品で使用しても併用して使用してもよく、これらの総量は、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に対して乾分換算で0.1~2.0質量%、好ましくは0.2~1.0質量%である。
【0027】
本発明豆腐の製造方法に用いられるキサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris) によりトウモロコシ等の澱粉を発酵させて得られる、グルコース2分子、マンノース2分子、グルクロン酸の繰り返し単位からなるものであり、食品添加物の品質のものを特に制限なく用いることができる。キサンタンガムとして、一般に市販されているものとしては、例えば、「ミニット(登録商標)GR」(キサンタンガム80質量%含有、DPS五協フード&ケミカル株式会社製)、「SATIAXANE CX90」(ユニテックフーズ株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
本発明豆腐の製造方法に用いられるジェランガムは、シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)によりブドウ糖等を発酵させて得られる、グルコース、グルクロン酸、グルコース、ラムノースの繰り返し単位からなるものであり、食品添加物の品質のものを特に制限なく用いることができる。ジェランガムとして、一般に市販されているものとしては、例えば、「ケルコゲル(登録商標)HM」(DPS五協フード&ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
本発明豆腐の製造方法においては、キサンタンガムとジェランガムは、単品で使用しても併用して使用してもよく、これらの総量は、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に対して0.01~0.2質量%であるが、好ましくは0.02~0.15質量%である。これらの総量が0.01質量%未満では効果が発現しにくく、0.2質量%を超えるとキサンタンガムやジェランガムの風味が出るとともに食感に粘りが出て新食感が薄れることがある。
【0030】
本発明豆腐の製造方法に用いられるトランスグルタミナーゼは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobarensis)が産生するものであり、食品添加物の品質のものを特に制限なく用いることができる。トランスグルタミナーゼとして、一般に市販されているものとしては、例えば、「アクティバスーパーカード」(トランスグルタミナーゼ0.2質量%、力価20ユニット/g、味の素株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
本発明豆腐の製造方法においては、トランスグルタミナーゼの使用量は、特に限定されないが、例えば、少なくとも大豆タンパクを含有する原料中の大豆タンパク量グラム当たり0.02~2ユニット(以下、「U」という)、好ましくは0.1~1Uである。具体的に、少なくとも大豆タンパクを含有する原料が豆乳の場合、豆乳1L当たりトランスグルタミナーゼを1~100U、好ましくは5~50Uである。
【0032】
本発明豆腐の製造方法において、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、キサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼを添加する場合は、あらかじめ適当な量の水にこれらを撹拌しながら溶解し、これを60℃~80℃の豆乳に加えても良いが、遅効化処理凝固剤を使う場合はその油性部分に粉のまま分散し、遅効化処理凝固剤と一緒に徐々に豆乳に分散させる方法でも良い。
【0033】
上記のような本発明豆腐の製造方法においては、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、キサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加するが、更に、澱粉を添加することが好ましい。
【0034】
本発明豆腐の製造方法に用いられる澱粉は特に限定されず、例えば、コーンスターチ等の穀類澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉等のいも澱粉等が挙げられる。これらの澱粉の中でもタピオカ澱粉が好ましい。また、澱粉は、上記澱粉を更にリン酸架橋した加工澱粉でもよい。澱粉の使用量は特に限定されないが、豆乳に対して最大でも3質量%までが好ましい。
【0035】
また、上記のような本発明豆腐の製造方法においては、少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、キサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼとを添加するが、澱粉と共にあるいは澱粉とは別に、その他食品素材を添加しても良い。このような食品素材としては、デキストリン、食物繊維等が挙げられる。
【0036】
なお、本発明豆腐を製造するにあたっては、以下の成分(a)~(b)
(a)キサンタンガム及び/又はジェランガム
(b)トランスグルタミナーゼ
を含む裂ける豆腐または豆腐様食品用添加剤キットを利用することもできる。この豆腐または豆腐様食品用添加剤キットには、更に成分(c)
(c)澱粉
を含めてもよいし、更に、遅効化処理凝固剤及び/又は遅効性凝固剤を含めてもよい。各成分の量は、適宜、目的に応じて設定すればよく、また、各成分は粉末状または液状の何れでもよい。更にこれらキットには、上記したその他食品素材を含めてもよい。
【0037】
上記のようにして少なくとも大豆タンパクを含有する原料に、遅効化処理凝固剤及び/又は遅効性凝固剤、キサンタンガム及び/又はジェランガムとトランスグルタミナーゼを添加した後は、これらを適宜撹拌して分散させ、型に入れ、熟成(冷却)させることにより、豆腐または豆腐様食品が得られる。
【0038】
なお、上記において、型に入れたまま熟成すれば絹豆腐または絹豆腐様食品が得られ、型に入れた後、少し熟成させた後、それを崩し、更に型に入れ、重しを乗せて熟成させることにより木綿豆腐または木綿豆腐様食品が得られる。
【0039】
斯くして得られる本発明豆腐は、繊維状に裂けるものである。具体的に本発明豆腐は、筋肉組織様、すなわち一定方向に繊維状に並ぶ特異的な組織(いわゆる蟹蒲鉾状)が形成されているため(図1参照)、一定方向に裂くことができる。より具体的には本発明豆腐を手で摘まんでゆっくりと分けるときれいに裂け、特異的な組織を確認することができる。
【0040】
本発明豆腐は、上記のような組織が形成されているため、豆腐本来の風味と滑らかで、みずみずしくジューシーで、歯切れがよく、しかも、収率がよく、日数が経っても離水が少なく、且つ汁の浸み込みの良いものとなる。
【0041】
更に、本発明豆腐を油で揚げれば厚揚げまたは厚揚げ様食品、絹厚揚げまたは絹厚揚げ様食品、木綿厚揚げまたは木綿厚揚げ様食品が得られる。油の温度は特に限定されないが、160~200℃程度である。また、揚げ時間は、出来上がりの色を考慮して適宜設定すればよい。
【0042】
斯くして得られる本発明豆腐を油で揚げた厚揚げまたは厚揚げ様食品も、上記本発明豆腐と同様に裂けるという性質を有するが、特に裂け具合が良好になる。
【0043】
これら本発明豆腐や本発明豆腐を油で揚げた厚揚げまたは厚揚げ様食品は、従来の豆腐と同様に、種々の食品に使用することができる。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
実施例1~20および比較例1~15
豆腐の製造:
<調整液の調製>
キサンタンガム(Xn)はミニットGR(キサンタンガム80質量%含有、DPS五協フード&ケミカル株式会社製)、ジェランガム(Ge)はケルコゲルHM(DPS五協フード&ケミカル株式会社製)、トランスグルタミナーゼ(TG)はアクティバスーパーカード(トランスグルタミナーゼ0.2質量%、力価20ユニット/g、味の素株式会社製)、澱粉のタピオカ澱粉(Ta)は雪華(松谷化学工業株式会社製)及びリン酸架橋澱粉(Ph)はアクアカット(登録商標)(赤穂化成株式会社製)を用い、それぞれ水1リットルに分散または溶解して各種の調整液を調製した。
【0046】
<絹豆腐及び絹厚揚げの製造>
常法により得た65℃の豆乳(大豆:国産フクユタカ、Brix.12.5)10リットル中に、各種調整液1リットルを加えて合計11リットルにし、システムマグ(型式:TK-40型、アースシステム21製)を使って、遅効化処理凝固剤として乳化にがりのマグネスファインATを60g(塩化マグネシウム6水塩換算で30g、対豆乳0.3質量%)分散し、分散混合物を得た。なお、豆乳との分散はミキシング時間19秒、攪拌回転数5,000rpmの設定で行った。遅効性凝固剤には硫酸カルシウムとグルコノデルタラクトン(GDL)を30g(対豆乳0.3質量%)使い、少量の水に分散または溶解して豆乳に加え、同条件で分散した。また、速効性凝固剤は塩化マグネシウム6水塩を30g(対豆乳0.3質量%)使い、少量の水に溶解して豆乳に加え、同条件で分散した。この分散混合物10リットルを型箱(350mm×360mm×150mm)に流し込んで20分間熟成したのち、40等分のサイズにカットして取り出し、半分の20カットは個々に包装容器にパック詰めし絹豆腐とした。残り半分の20カットは180℃のフライ油で3分間揚げて2分間油を切ったのち、個々に包装容器にパック詰めし、絹厚揚げとした。
【0047】
<木綿豆腐及び厚揚げの製造>
上記の絹豆腐の製造工程において、分散混合物10リットルを箱型に流し込むまで同様に行い、10分熟成したのち常法によりへらで崩し、重しを乗せて2次成型した。さらに10分後に40等分にサイズカットして取り出し、半分の20カットは包装容器にパック詰めして木綿豆腐とした。残り半分の20カットは180℃のフライ油で3分間揚げて2分間の油切をしたのち、個々に包装容器にパック詰めし、木綿厚揚げとした。
【0048】
各実施例と比較例で使用した凝固剤の種類および調整液の組成を表1に示した。
【表1】
【0049】
<評価方法と結果>
絹豆腐及び絹厚揚げの各20パック、木綿豆腐及び木綿厚揚げの各20パックをそれぞれ10パックに分け、5℃で24時間(1日)保存、および120時間(5日)保存したものを室温に取り出して1時間後、風味・食感、離水の評価を行った。ただし厚揚げについてはもともと含水が少ないので離水の評価は省いた。味浸みについては1パック分を半分に切り、それを水1リットルにおでんの素(ヱスビー食品製)20g加えて沸騰させたおでん汁に5分浸漬して取り出して風味を評価した。また、木綿豆腐については、歩留まりについても測定した。絹豆腐及び絹厚揚げの結果を表2に、木綿豆腐及び木綿厚揚げの結果を表3に示した。
【0050】
<風味・食感評価基準>
添加物等を使用せず乳化にがりのみを使った豆腐(比較例1)をコントロールとし、風味及び食感において次の基準で評価を行い、最も多かった評価、または評価数が同じ場合は下位の評価を表2に示す。なお、パネラーは10代1人、20代2人、30代2人、40代2人、50代1人、60代2人の計10人で行った。
【0051】
(評価)(内容)
◎ :比較例1より非常に良い
○ :比較例1より良い
△ :比較例1と同等
× :比較例1より悪い
【0052】
<離水の測定方法>
パック詰めして5℃で1日(24時間)保存した絹豆腐と絹生揚げ、及び5日(120時間)保存した絹豆腐と絹生揚について、総重量と離水した水の重量を測定し、水の重量を総重量で割って離水率(%)を算出し、結果を表2に示した。
【0053】
<木綿豆腐の歩留まりの測定方法>
パック時の木綿豆腐の20パックの重量と絹豆腐20パックの重量を測定し、木綿豆腐の重量を絹豆腐の重量で割った数値を百分率で表し、木綿豆腐の歩留まりとした。これは木綿豆腐の工程でへらによる崩しと重しを乗せる二次成形で減少する割合に相当し、結果を表3に示した。
【0054】
<総合評価基準>
絹豆腐及び絹厚揚げの風味・食感及び離水について経時変化も考慮し、最も多かった評価、または評価数が同じ場合は下位の評価を総合評価とし、食感内容や味の浸み込みなども備考に加えて表2に示した。また、木綿豆腐及び厚揚げについては風味・食感及び歩留まりを考慮し、最も多かった評価、または評価数が同じ場合は下位の評価を総合評価とし、表3に示した。
【0055】
(評価)(内容)
◎ :比較例1より非常に良い
○ :比較例1より良い
△ :比較例1と同等
× :比較例1より悪いまたは商品価値がない
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表2及び表3から明らかなように、凝固剤として遅効処理凝固剤(乳化にがり)又は遅効性凝固剤(すまし粉、GDL)を使用した場合、キサンタンガム及び又はジェランガムの増粘剤とトランスグルタミナーゼを組合せることにより、豆腐本来の大豆の香ばしい風味と滑らかでみずみずしくジューシーで歯切れの良い新しい食感が生まれた。絹豆腐と絹生豆腐については5日後でも離水が2.0%以下と少なく、見栄えの良い豆腐及び絹生揚げが得られた。これに澱粉を加えると経時変化の離水もさらに少なくなった。また、木綿豆腐においては歩留まりが80%以上で非常に良い。更に、これらの豆腐は何れも一定方向に繊維状に並ぶ特異的な組織で、一定方向に裂くことができた。しかし、速効性凝固剤を使用した場合は、豆腐の組織が悪く、風味と食感がよくなかった。
【0059】
これらはキサンタンガム及び又はジェランガムの増粘剤とトランスグルタミナーゼの組合せは遅効化処理凝固剤または遅効性凝固剤を使用した豆腐に特異的な組織が造られ、それが絹豆腐と絹厚揚げでは新食感の発現と味浸みの良さとなり、さらに木綿豆腐では歩留まり向上にもつながったと思われる。特異的な組織は筋肉組織様、すなわち一定方向に繊維状に並ぶ特異的な組織(いわゆる蟹蒲鉾状)である。実施例2の絹厚揚げを手で裂いた図1と比較例1の絹厚揚げを手で裂いた図2を見るとわかりやすい。
【0060】
遅効化処理凝固剤及び遅効性凝固剤を使用した場合は、豆乳中でマグネシウムやカルシウム又は有機酸のイオンと徐々に豆乳タンパクと凝固反応して、熱不可逆的ゲルを作るが、部分的な反応により粗大な3次元ネットワークが形成される。そのため、その粗大な3次元ネットワークが豆腐の水溶性のうまみ成分を包み込んでいるので製造直後の風味は良い。しかし、経時変化や二次加工する場合においては、粗大な3次元ネットワークから水溶性のうまみ成分の浸み出しが多くなり、絹豆腐や絹厚揚げでは離水が多く、木綿豆腐では収率の低下につながると考えられる。
【0061】
トランスグルタミナーゼはコロイド状の大豆の粒状タンパクを修飾しリジン-グルタミン酸架橋して3次元ネットワークを作るが、イオンのタンパク凝固反応による3次元ネットワークとは基本的に異なる。すなわちイオンを介在したタンパクのネットワークとアミノ酸架橋によるネットワークの違いである。
【0062】
しかし、本発明豆腐の製造方法において豆乳にキサンタンガム及び又はジェランガムとトランスグルタミナーゼを併用して使用すると、徐々にイオンのネットワークとアミノ酸架橋のネットワークが互いに影響しあう共存ゲルネットワークができると推察される。そのネットワークは特異的であり、豆腐は同じ方向に裂ける蟹蒲鉾状の組織(図1参照)に発展することで、いつまでもみずみずしく歯切れのよい今までにない新食感となり、離水も少なくなる。この離水防止作用は澱粉が存在すると更によくなる。
【0063】
すなわち、イメージとしてスポンジを例にとると、同じ方向に裂ける蟹蒲鉾状のスポンジ壁は大豆タンパクの3次元構造であり、スポンジに含まれる水の中に高分子のキサンタンガム及び又はジェランガムが溶解し、大豆タンパクのスポンジ壁との間で弱い共存ネットワークを作っていると推察される。そのため、2次加工の部分衝撃や経時変化での離水は少ないが、食するときは噛むという切断により閉じ込められていた水溶性のうまみ成分が一気に放出されるため、みずみずしくジューシーでしかも大豆本来の風味になると推察される。
【0064】
特に絹豆腐や厚揚げを使った鍋料理、おでん、湯豆腐などでは加熱による衝撃で豆腐組織に閉じ込められている水が汁と置き換わり、繊維状の組織に浸み込みやすくなり、味浸みの良さにつながると推察される。
【0065】
実施例21
豆腐または豆腐様食品用添加剤キット:
以下の成分(a)~(b)を含む裂ける豆腐または豆腐様食品用添加剤キットを作製した。
(a)キサンタンガム及び/又はジェランガム 1,000g
(b)トランスグルタミナーゼ 5g(50,000U)
その他の食品素材(デキストリン) 2,500g
【0066】
実施例22
豆腐または豆腐様食品用添加剤キット:
以下の成分(a)~(c)を含む裂ける豆腐または豆腐様食品用添加剤キットを作製した。
(a)キサンタンガム及び/又はジェランガム 1,000g
(b)トランスグルタミナーゼ 5g(50,000U)
(c)澱粉 20,000g
その他の食品素材(デキストリン) 2,500g
【0067】
実施例23
乳風味豆腐様食品:
豆乳10Lに脱脂粉乳(よつ葉乳業株式会社製)100gを加えて溶解し、70℃に加熱して実施例17の調整液1L(Xn5g、TG500U、Ta200g含有)と凝固剤としてGDL30gを混合して静置熟成し、新食感の乳風味豆腐様食品を得た。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明豆腐や本発明豆腐を油で揚げた厚揚げまたは厚揚げ様食品は、従来の豆腐と同様に、種々の食品に使用することができる。

以 上
図1
図2
図3