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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】計測装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250114BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20250114BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/78 C
C12M1/34 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020113266
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011869
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】517289479
【氏名又は名称】株式会社香味醗酵
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智子
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/053366(WO,A1)
【文献】特開2020-076743(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035476(WO,A1)
【文献】特開2019-124651(JP,A)
【文献】佐藤翔,ヒト嗅覚受容体センサーを駆使したAI調香師創生プロジェクトについて,AROMA RESEARCH No.80,2019年11月28日,Vol.20/No.4,PP.326-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/83
C12M 1/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に配置された複数の嗅覚受容体について、被験物質による前記嗅覚受容体の活性化の程度を、前記被験物質に対する応答によって前記嗅覚受容体を含む画像に現れる輝度の変化を利用して計測する計測装置であって、前記基板は、前記複数の嗅覚受容体がそれぞれの区画に分けて配置されており、
前記嗅覚受容体への被験物質の接触のタイミングを含む所定期間について、前記区画のそれぞれの経時的な撮像画像を取得することにより、前記嗅覚受容体の応答に基づく信号を取得する信号取得部と、
前記撮像画像中の画素のうち、所定以上の輝度変化を示し互いに隣接する前記画素を結合して結合領域を生成する結合部と、
取得された前記撮像画像中の各前記結合領域の経時的な輝度の変化に基づいて、前記嗅覚受容体の受容体応答に由来する信号である確率を算出する確率算出部と、
所定の確率以上と算出された前記結合領域前記信号を用いて、前記区画の各々において前記嗅覚受容体で反応が見られた前記結合領域の数と前記確率と前記信号の輝度変化率とに基づく、前記嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部と、
を備える計測装置。
【請求項2】
前記活性度算出部は、時間方向に連続して測定された連続した前記撮像画像の各時点において、前記活性度を算出する請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記結合領域のうち所定値以上の面積の結合領域の輝度変化率の時系列情報を抽出する抽出部をさらに備え
記確率算出部は、抽出された前記時系列情報について、前記受容体応答に由来する信号である確率を算出する請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記所定期間における、所定以上の輝度変化を示す前記画素を特定する画素特定部をさらに備え、
前記抽出部は、特定された前記画素を含む前記結合領域の輝度変化率の前記時系列情報を抽出する請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記嗅覚受容体が前記被験物質に接触する前の所定時刻における前記画素の輝度と接触する直前の所定期間における前記画素の平均輝度とに基づいて、基準輝度を算出する基準輝度算出部をさらに備え、
前記画素特定部は、前記基準輝度に対して、前記活性度の計測期間における輝度変化率の平均が所定以上の前記画素を特定する請求項4に記載の計測装置。
【請求項6】
基板に配置された複数の嗅覚受容体について、被験物質による前記嗅覚受容体の活性化の程度を、前記被験物質に対する応答によって前記嗅覚受容体を含む画像に現れる輝度の変化を利用して計測する計測装置としてコンピュータを動作させるプログラムであって、前記基板は、前記複数の嗅覚受容体がそれぞれの区画に分けて配置され、
前記コンピュータを、
前記嗅覚受容体への前記被験物質の接触のタイミングを含む所定期間について、前記区画のそれぞれの経時的な撮像画像を取得することにより、前記嗅覚受容体の応答に基づく撮像信号を取得する信号取得部、
前記撮像画像中の画素のうち、所定以上の輝度変化を示し互いに隣接する前記画素を結合して結合領域を生成する結合部、
取得された前記撮像画像中の各前記結合領域の経時的な輝度の変化に基づいて、前記嗅覚受容体の受容体応答に由来する信号である確率を算出する確率算出部、
所定の確率以上と算出された前記結合領域前記信号を用いて、前記区画の各々において前記嗅覚受容体で反応が見られた前記結合領域の数と前記確率と前記信号の輝度変化率とに基づく、前記嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、匂いを定量化することが実施されている。嗅覚受容体は、細胞外の物質(リガンド)を作用して、情報伝達が惹記される。受容体にはリガンド及び機能に応じて様々なタイプがあるが、受容体とリガンドの応答性については、充分に解明されていない。また、近年の遺伝子解析によって、受容体に構造が似ているがその機能が不明なタンパク質も見つかっており、オーファン受容体と呼ばれているものがある。
【0003】
受容体とリガンドの関係を調べる上で、受容体の応答性を測定する測定技術の確立が期待されている。例えば、異なる遺伝情報を有する所定の受容体を1つずつ配置した受容体アレイと、アレイに対し同時に所定のリガンドを作用させる測定技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/035476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る測定技術では、時系列的な受容体の応答性を測定することにより、受容体ごとに活性度の変化を測定することができる点で有用である。これに加え、リガンドによらない変化について除去することができれば、測定精度の観点から好適である。
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、嗅覚受容体の活性度を測定する精度を向上することが可能な計測装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の1つの局面に従うと、基板に配置された複数の嗅覚受容体について、被験物質による前記嗅覚受容体の活性化の程度を、前記被験物質に対する応答によって前記嗅覚受容体を含む画像に現れる輝度の変化を利用して計測する計測装置であって、前記基板は、前記複数の嗅覚受容体がそれぞれの区画に分けて配置されており、前記嗅覚受容体への被験物質の接触のタイミングを含む所定期間について、前記区画のそれぞれの経時的な撮像画像を取得することにより、前記嗅覚受容体の応答に基づく信号を取得する信号取得部と、
前記撮像画像中の画素のうち、所定以上の輝度変化を示し互いに隣接する前記画素を結合して結合領域を生成する結合部と、取得された前記撮像画像中の各前記結合領域の経時的な輝度の変化に基づいて、前記嗅覚受容体の受容体応答に由来する信号である確率を算出する確率算出部と、所定の確率以上と算出された前記結合領域前記信号を用いて、前記区画の各々において前記嗅覚受容体で反応が見られた前記結合領域の数と前記確率と前記信号の輝度変化率とに基づく、前記嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部と、を備える。
【0007】
また、計測装置は、前記領域を撮像した撮像画像の画素に関し、輝度変化率の時系列情報を抽出する抽出部をさらに備え、前記信号取得部は、前記撮像画像を取得し、前記確率算出部は、抽出された前記時系列情報について、受容体応答に由来する波形である確率を算出するのが好ましい。
【0008】
また、計測装置は、前記活性度の計測期間における、所定以上の輝度変化を示す前記画素を特定する画素特定部をさらに備え、前記抽出部は、特定された前記画素の輝度変化率の前記時系列情報を抽出するのが好ましい。
【0009】
また、計測装置は、特定された前記画素のうち、隣接する前記画素を結合する結合部をさらに備え、前記抽出部は、結合された前記画素のうち、所定以上の面積である結合された前記画素の輝度変化率の前記時系列情報を抽出するのが好ましい。
【0010】
また、計測装置は、前記嗅覚受容体が前記被験物質に接触する前の所定時刻における前記画素の輝度と接触する直前の所定期間における前記画素の平均輝度とに基づいて、基準輝度を算出する基準輝度算出部をさらに備え、前記画素特定部は、前記基準輝度に対して、前記活性度の計測期間における輝度変化率の平均が所定以上の前記画素を特定するのが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の局面に従うと、基板に配置された複数の嗅覚受容体について、被験物質による前記嗅覚受容体の活性化の程度を、前記被験物質に対する応答によって前記嗅覚受容体を含む画像に現れる輝度の変化を利用して計測する計測装置としてコンピュータを動作させるプログラムであって、前記基板は、前記複数の嗅覚受容体がそれぞれの区画に分けて配置され、前記コンピュータを、前記嗅覚受容体への前記被験物質の接触のタイミングを含む所定期間について、前記区画のそれぞれの経時的な撮像画像を取得することにより、前記嗅覚受容体の応答に基づく撮像信号を取得する信号取得部、前記撮像画像中の画素のうち、所定以上の輝度変化を示し互いに隣接する前記画素を結合して結合領域を生成する結合部、取得された前記撮像画像中の各前記結合領域の経時的な輝度の変化に基づいて、前記嗅覚受容体の受容体応答に由来する信号である確率を算出する確率算出部、所定の確率以上と算出された前記結合領域前記信号を用いて、前記区画の各々において前記嗅覚受容体で反応が見られた前記結合領域の数と前記確率と前記信号の輝度変化率とに基づく、前記嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、嗅覚受容体の活性度を測定する精度を向上することが可能な計測装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る計測装置の計測対象となる嗅覚受容体の領域のアレイを示す平面図である。
図2】第1実施形態の計測装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態の計測装置において判断される受容体応答に由来する波形を示すグラフである。
図4】第1実施形態の計測装置において判断されるノイズの波形を示すグラフである。
図5】第1実施形態の計測装置によって出力される画面を示す画面図である。
図6】第1実施形態の計測装置によって出力される画面を示す画面図である。
図7】第1実施形態の計測装置によって出力される画面を示す画面図である。
図8】第1実施形態の計測装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る計測装置1及びプログラムについて、図1から図8を参照して説明する。
まず、計測装置1の計測対象となる嗅覚受容体が配されたアレイ100を説明する。
アレイ100は、図1に示すように、基板5と、基板5上の疎水性被膜6を含む。疎水性被膜6には、貫通孔2が複数設けられる。貫通孔2は、基板5に達する。
【0015】
貫通孔2には、所定の嗅覚受容体(以下、単に受容体ともいう)を形成し得る核酸3が、基板5に接して搭載される。ここで、核酸3は、所定の受容体をコードする遺伝子を含む核酸を含んでいる。アレイ100に搭載され、基板5に接する核酸3は複数であり、アレイ100の貫通孔2のそれぞれに核酸3が搭載されている。例えば所定の受容体をコードする遺伝子を含む核酸3が、貫通孔2ごとに、それぞれ異なる種類の核酸3が搭載されていてもよい。
【0016】
受容体が被験物質(リガンド)と接触することにより、細胞状態に変化が起こる。具体的には、細胞内カルシウム濃度又は細胞内cAMP濃度の変化が起こる。このような変化について、cAMP感受性色素、cAMP感受性蛍光タンパク質、カルシウム感受性色素、又はカルシウム感受性蛍光タンパク質を用いることで、計測することができる。例えば、cAMP感受性色素又はcAMP感受性蛍光タンパク質による輝度変化を計測することにより、受容体の活性度を計測することができる。
【0017】
次に、計測装置1の概要について説明する。
計測装置1は、被験物質の嗅覚受容体への接触について、所定期間、輝度変化を計測することにより、受容体の活性度を計測するものである。計測装置1は、複数の嗅覚受容体を発現した細胞を含む領域(貫通孔2を含む領域)について、被験物質による嗅覚受容体の活性化の程度を計測する。計測装置1は、例えば、アレイ100の基板5の一面を撮像した撮像画像(例えば、動画像)を用いて、受容体の活性度を計測する。この際、計測装置1は、受容体の活性化に由来しない輝度変化を除去することが精度の上で好ましい。本実施形態に係る計測装置1は、受容体の活性化による応答と、そうではない応答とを判別するとともに、そうでない応答を活性度の算出から除去する。これにより、本実施形態に係る計測装置1は、活性度の計測の精度を向上するものである。本実施形態に係る計測装置1は、例えば、学習モデルを用いて受容体の活性化による輝度変化と、そうでない変化とを判別するものである。
【0018】
次に、本実施形態に係る計測装置1の構成について、図2を参照して説明する。
計測装置1は、図2に示すように、信号取得部10と、信号格納部11と、基準輝度算出部12と、画素特定部13と、結合部14と、抽出部15と、学習モデル格納部16と、確率算出部17と、活性度算出部18と、出力部19と、を備える。
【0019】
信号取得部10は、例えば、CPUが動作することにより実現される。信号取得部10は、例えば、嗅覚受容体の動作に基づく信号を取得する。信号取得部10は、例えば、アレイ100の複数の嗅覚受容体を含む領域を撮像した撮像画像(例えば、動画像)を取得する。
【0020】
信号格納部11は、例えば、ハードディスク等の記録媒体である。信号格納部11は、取得した信号を格納する。
【0021】
基準輝度算出部12は、例えば、CPUが動作することにより実現される。基準輝度算出部12は、顕微鏡視野内の励起光強度のムラ、及び各細胞に存在する色素又は蛍光タンパク質の量を補正するための基準輝度を算出する。具体的には、基準輝度算出部12は、嗅覚受容体が被験物質に接触する直前の所定期間における画素の平均輝度に基づいて、基準輝度を算出する。基準輝度算出部12は、取得した撮像画像に含まれる各画素について、基準輝度を算出する。基準輝度算出部12は、例えば、嗅覚受容体が被験物質に接触する直前の所定期間における画素の平均輝度を基準輝度として算出する。
【0022】
画素特定部13は、例えば、CPUが動作することにより実現される。画素特定部13は、活性度の計測期間における、所定以上の輝度変化を示す画素を特定する。画素特定部13は、例えば、基準輝度に対して、活性度の計測期間における輝度変化率の平均が所定以上の画素を特定する。具体的には、画素特定部13は、基準輝度を算出した所定期間における輝度変化率の標準偏差に対して、所定以上の輝度変化率となる画素を特定する。画素特定部13は、標準偏差SDに対して、嗅覚受容体が被験物質と接触している期間の輝度変化率の平均で+5SD以上となる画素(以下、蛍光輝度上昇画素ともいう)を特定する。
【0023】
結合部14は、例えば、CPUが動作することにより実現される。結合部14は、特定された画素のうち、隣接する画素を結合する。結合部14は、例えば、隣接する画素のうち、蛍光輝度上昇画素同士を結合する。
【0024】
抽出部15は、例えば、CPUが動作することにより実現される。抽出部15は、領域を撮像した撮像画像の画素に関し、輝度変化率の時系列情報を抽出する。抽出部15は、例えば、画素特定部13によって特定された画素の輝度変化を抽出する。抽出部15は、例えば、撮像画像上で隣接する蛍光輝度上昇画素同士を結合させた結合領域のうち、所定の面積以上の結合領域について、輝度変化率を算出する。具体的には、抽出部15は、所定以上の面積(例えば、100μm以上)であるものについて、輝度変化率を算出する。抽出部15は、測定した全ての期間における輝度変化率を算出する。抽出部15は、算出した輝度変化率の時系列情報を抽出する。
【0025】
学習モデル格納部16は、例えば、ハードディスク等の記録媒体である。学習モデル格納部16は、輝度変化の時系列情報について、受容体の反応による輝度変化か、ノイズによるものかを判定するための学習モデルを格納する。すなわち、学習モデル格納部16は、輝度変化率の時系列情報を説明変数、その時系列情報が受容体と被験物質との間の応答による細胞状態の変化を反映したものであるか否かを目的変数とする学習モデルを格納する。
【0026】
確率算出部17は、例えば、CPUが動作することにより実現される。確率算出部17は、取得された信号の経時的な波形に基づいて、受容体応答に由来する波形である確率を算出する。本実施形態において、確率算出部17は、抽出された時系列情報について、受容体応答に由来する波形である確率を算出する。確率算出部17は、例えば、学習モデルを用いて、細胞状態の変化を反映したものである確率を算出する。確率算出部17は、例えば、図3に示すような波形について、被験物質との接触から輝度変化率が大きくなる時系列情報について、細胞状態の変化を反映したものである確率を高く算出する。一方、確率算出部17は、例えば、図4に示すよう波形について、細胞状態の変化を反映したものである確率を低く算出する。すなわち、確率算出部17は、図4に示す波形について、ノイズである可能性を高く算出する。
【0027】
活性度算出部18は、例えば、CPUが動作することにより実現される。活性度算出部18は、所定の確率以上と算出された信号を用いて、嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を算出する。活性度算出部18は、例えば、アレイ100上の各区画内に存在する領域(ROI:Region Of Interest)の数をそれぞれの領域について計数する。また、活性度算出部18は、アレイ100上の同一区画内に存在するROIの数、そのROIが受容体応答に由来すると見込まれる確率、及びそれぞれROIの輝度変化率の時系列情報から、活性化の程度を算出する。具体的には、活性度算出部18は、各種情報から、時間方向に連続して測定された連続画像の各時点において、被験物質に起因する受容体に対する活性化の程度を活性度として算出する。活性度算出部18は、例えば、以下の数1用いて活性化の程度を算出する。
【数1】

なお、I(OR,t)は、時間tにおける被験物質に起因する受容体に対する活性化の程度を示す。ORは、受容体の種類を示す。tは、時間(フレーム数)を示す。sは、そのORで反応が見られたROIの数を示す。dF(OR,i,t)は、各ROIの蛍光輝度変化率を示す。P(OR,i)は、各ROIの波形のAI判定結果(応答に由来する確率、ノイズならおおよそ0)を示す。L(S_OR)は、ROIの数に応じて増加する関数を示す。
【0028】
出力部19は、例えば、CPUが動作することにより実現される。出力部19は、算出された活性化の程度を出力する。出力部19は、例えば、図5に示すように、アレイ100の位置と棒グラフで示した活性化の程度とを示したアニメーションを出力する。また、出力部19は、例えば、図6に示すように、縦軸を活性化の程度、横軸を時間(時刻)、及び奥行を受容体の種類を示す立体折れ線グラフを出力する。また、出力部19は、例えば、図7に示すように、立体折れ線グラフの縦軸を色に置き換えたタイル状の表示を出力する。
【0029】
次に、計測装置1の動作の流れについて、図8を参照して説明する。
まず、信号取得部10は、信号を取得する(ステップS1)。次いで、基準輝度算出部12は、取得された信号から基準輝度を算出する(ステップS2)。次いで、画素特定部13は、所定以上の輝度変化を示す画素を特定する(ステップS3)。
【0030】
次いで、結合部14は、所定以上の輝度変化率を有する隣接する画素を結合する(ステップS4)。次いで、抽出部15は、算出した輝度変化率の時系列情報を抽出する(ステップS5)。次いで、確率算出部17は、時系列情報について、細胞状態の変化を反映したものである確率を算出する(ステップS6)。
【0031】
次いで、活性度算出部18は、嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を算出する(ステップS7)。次いで、出力部19は、算出された活性度を出力する(ステップS8)。
【0032】
次に、プログラムについて説明する。
計測装置1に含まれる各構成は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせによりそれぞれ実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0033】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、フレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、表示プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0034】
以上の第1実施形態に係る計測装置1及びプログラムによれば、以下の効果を奏する。
(1) 複数の嗅覚受容体を含む領域について、被験物質による嗅覚受容体の活性化の程度を計測する計測装置1であって、嗅覚受容体の動作に基づく信号を取得する信号取得部10と、取得された信号の経時的な波形に基づいて、受容体応答に由来する波形である確率を算出する確率算出部17と、所定の確率以上と算出された信号を用いて、嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部18と、を備える。
また、複数の嗅覚受容体を含む領域について、被験物質による嗅覚受容体の活性化の程度を計測する計測装置1としてコンピュータを動作させるプログラムであって、コンピュータを、嗅覚受容体の動作に基づく信号を取得する信号取得部10、取得された信号の経時的な波形に基づいて、受容体応答に由来する波形である確率を算出する確率算出部17、所定の確率以上と算出された信号を用いて、嗅覚受容体の経時的な活性化の程度を活性度として算出する活性度算出部18、として機能させる。
これにより、受容体の反応について、反応であることの確からしさを加味した上で、ノイズ成分を除去することができる。したがって、算出される活性度の精度を向上することができる。
【0035】
また、計測装置1は、領域を撮像した撮像画像の画素に関し、輝度変化率の時系列情報を抽出する抽出部15をさらに備え、信号取得部10は、撮像画像を取得し、確率算出部17は、抽出された時系列情報について、受容体応答に由来する波形である確率を算出する。これにより、領域を撮像した画素の輝度に基づいて活性度を算出することができる。したがって、より簡易な構成を用いて、計測をすることができる。
【0036】
また、計測装置1は、活性度の計測期間における、所定以上の輝度変化を示す画素を特定する画素特定部13をさらに備え、抽出部15は、特定された画素の輝度変化率の時系列情報を抽出する。これにより、明らかなノイズを予め抽出から除外することができるので、活性度算出の精度をより向上することができる。
【0037】
また、計測装置1は、特定された画素のうち、隣接する画素を結合する結合部14をさらに備え、抽出部15は、結合された画素のうち、所定以上の面積である結合された画素の輝度変化率の時系列情報を抽出する。これにより、ノイズの可能性の高い画素を除外することができるので、活性度算出の精度を向上することができる
【0038】
また、計測装置1は、嗅覚受容体が被験物質に接触する前の所定時刻における画素の輝度と接触する直前の所定期間における画素の平均輝度とに基づいて、基準輝度を算出する基準輝度算出部12をさらに備え、画素特定部13は、基準輝度に対して、活性度の計測期間における輝度変化率の平均が所定以上の画素を特定する。これにより、電子顕微鏡のノイズ等を予め除去することができるので、活性度算出の精度をより向上することができる。
【0039】
以上、本発明の計測装置の好ましい各実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態において、信号取得部10、撮像画像を取得することとしたが、これに制限されない。信号取得部10は、例えば、パッチクランプ法を用いて各受容体に針を設け、活性化の度合いに応じて得られる電流値を信号として取得してもよい。この場合、基準輝度算出部12、画素特定部13、抽出部15、及び結合部14を設けずともよい。
【0040】
また、上記実施形態において、学習モデル格納部16は、特定の匂いに関する受容体の輝度変化率の時系列情報(例えば、マトリックスデータ)を説明変数、それらの匂いを嗅いだ時に生じる生理作用を目的変数とする学習モデルを格納してもよい。例えば、ハーブ又は柑橘類といったアロマの匂いによって生じる脳波、心電図、心拍数、血圧、呼吸数、皮膚コンダクタンス、筋電等の指標で表される身体の状態への影響を目的変数として格納してもよい。これにより、確率算出部17は、被験物質について、身体状態にどのような影響があるのかを算出することができる。また、確率算出部17は、目的変数と説明変数とを入れ替えることにより、目的の効果をもたらす香りを得ることができる。例えば、リラックス効果を得られるような香りについて、被験物質の選定をすることが可能になる。
【符号の説明】
【0041】
1 計測装置
10 信号取得部
12 基準輝度算出部
13 画素特定部
14 結合部
15 抽出部
17 確率算出部
18 活性度算出部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8