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特許7618235p-ボロノフェニルアラニンを含有する注射液剤の析出防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】p-ボロノフェニルアラニンを含有する注射液剤の析出防止方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/69 20060101AFI20250114BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20250114BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250114BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
A61K31/69
A61K41/00
A61K9/08
A61K47/26
A61P35/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021545563
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034085
(87)【国際公開番号】W WO2021049519
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2019165969
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507288132
【氏名又は名称】ステラファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 佳哉
(72)【発明者】
【氏名】交久瀬 善三
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀紀
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-051766(JP,A)
【文献】国際公開第2004/030661(WO,A2)
【文献】HALBERT, G et al.,Improved pharmaceutical stability of a boronphenylalanine mannitol formulation for boron neutron cap,European Journal of Pharmaceutical Sciences,2013, Vol.48, No.4-5,pp.735-739,ISSN 0928-0987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を含有するホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、ソルビトール、及びpH調整剤を含有し、pHを7.5超過8.0以下に制御された注射液剤を調製することを包含する、析出防止方法。
【請求項2】
前記注射液剤が、さらに、亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、及びピロ亜硫酸カリウムからなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の析出防止方法。
【請求項3】
前記ソルビトールの濃度が、2.6~6.5w/v%である請求項1又は2に記載の析出防止方法。
【請求項4】
前記ソルビトールの含有割合が、p-ボロノフェニルアラニンの含有量に対して、モル比で、0.9から3.0までの範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の析出防止方法。
【請求項5】
前記注射液剤が、静脈注射液剤である、請求項1~のいずれか1項に記載の析出防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p-ボロノフェニルアラニンを含有する注射液剤の析出防止方法に関する。より詳細には、本発明は、p-ボロノフェニルアラニンを含有する注射液剤の保存下における析出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用したがんの治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目を集めている。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をがん細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(たとえば熱外中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にがん細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、ホウ素10を含むホウ素化合物をがん組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、がん細胞に選択的にかつ確実に取り込まれるホウ素化合物を開発することが必要となる。
【0003】
BNCTに用いる薬剤として基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したホウ素含有化合物が合成されている。実際の臨床で用いられている薬剤としては、p-ボロノフェニルアラニン(BPA)やメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)がある。
【0004】
p-ボロノフェニルアラニンは、生理的pHでの溶解性が極めて乏しい。
【0005】
水に対するp-ボロノフェニルアラニンの溶解度を改善する為に、BPAのフルクトース錯体を生成したり(例えば特許文献1)、p-ボロノフェニルアラニンにアルカリ溶液中(水酸化ナトリウム水溶液中など)で、単糖またはポリオールを添加し、イオン交換樹脂により無機塩を除去して利用したり(例えば特許文献2)という方法が試みられている。
【0006】
さらに、p-ボロノフェニルアラニンの溶解度を改善する他の技術も提案されている(特許文献3)。
【文献】米国特許第5492900号
【文献】米国特許第6169076号
【文献】特許第5345771号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホウ素中性子捕捉療法として効果を発揮するために必要な投与時の血液中ホウ素濃度は限られている。この為、治療の効果を最大限に発揮できるようにBPA濃度を一定に保持しつつ安定性に優れた製剤の調製が望まれる。
【0008】
ところが、BPA濃度を一定に保持しつつ、投与までの期間、注射剤として保存することで、安定性に問題が生じ、析出がおこる場合があることが判明した。
【0009】
そこで、本発明の目的は、特に低温保存下も含む、幅広い温度帯での保存下において、p-ボロノフェニルアラニンを含有する注射液剤の析出防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、糖アルコールや抗酸化剤を含有させ、pH値の変化に応じて、pH調整剤の種類を変更させることによって、注射液剤中でのp-ボロノフェニルアラニンを、幅広い温度域で安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる注射液剤の析出防止方法を提供する。
[1]
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を含有するホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有し、pHを7.5超過8.0以下に制御された注射液剤を調製することを包含する、析出防止方法。
[2]
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を含有するホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有し、少なくとも1種の有機酸又はその塩を含み、pHを6.5~8.0に制御された注射液剤を調製することを包含する、析出防止方法。
[3]
前記糖アルコールが、ソルビトール又はマンニトールである、[1]又は[2]に記載の析出防止方法。
[4]
前記糖アルコールの濃度が、2.6~6.5w/v%である[1]~[3]のいずれか1項に記載の析出防止方法。
[5]
前記糖アルコールの含有割合が、p-ボロノフェニルアラニンの含有量に対して、モル比で、0.9から3.0までの範囲である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の析出防止方法。
[6]
前記有機酸が、クエン酸又は乳酸である、[2]~[5]のいずれか1項に記載の析出防止方法。
[7]
前記有機酸又はその塩の量が、注射液剤の0~8.3w/v%である、[2]~[6]のいずれか1項に記載の析出防止方法。
[8]
前記注射液剤が、静脈注射液剤である、項1~7のいずれか1項に記載の析出防止方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特に低温保存下を含む、広い温度帯での保存下における、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、単位「質量%」は、「g/100g」と同義である。「w/v%」は、「g/100ml」と同義である。
【0014】
本発明の一態様は、p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有する、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、該注射液剤のpHを7.4超過8.0以下、好ましくは、7.5超過8.0以下に制御する、析出防止方法である。
【0015】
本発明の別の一態様は、p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有する、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、該pH調整剤が有機酸又はその塩を含み、該注射液剤のpHを6.5~8.0に制御する、析出防止方法である。
【0016】
[ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤]
(p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩)
本発明で用いられるp-ボロノフェニルアラニンは、特に限定はされないが、化合物中のホウ素原子のうち、ホウ素10の割合が、好ましくは、75%以上であり、より好ましくは、80%以上、さらにより好ましくは、90%以上、特に好ましくは、95%以上である。
【0017】
天然のホウ素(ホウ素)には、ホウ素10とホウ素11が同位体として、ホウ素10が20%、ホウ素11が80%の割合で存在する。従って、本発明のp-ボロノフェニルアラニンを含む注射液剤の製造に先立って、質量数が10のホウ素(ホウ素10)を濃縮する。この為に、天然ホウ素化合物中のホウ素10とホウ素11を選り分け、高濃縮のホウ素10を製造する。本発明で用いられるホウ素は、ホウ素10を濃縮して、その濃度を高めても良いし、市販されている製品を用いてもよい。市販品としては、例えば、10B濃縮ホウ酸(ステラケミファ株式会社製)を出発物質とすることができる。
【0018】
ここで、ホウ素10の測定方法としては、Agilent 7500(Agilent社製)を使用し、四重極質量分析部を用いた四重極型ICP-MS(ICP-QMS)法にて行うことができる。測定に使用するICP-QMSは、JISK0133に準じて調整する。
【0019】
p-ボロノフェニルアラニンとして、現在用いられているのは、L体であり、本発明においてもL-p-ボロノフェニルアラニンが好ましく用いられ得るが、これに限定されない。すなわち、D体あるいはD体とL体の両方を含むラセミ体のp-ボロノフェニルアラニンも本発明に用いられうる。
【0020】
ここで、p-ボロノフェニルアラニンは、例えば、公知の方法で合成して(例えば、H.R.Synder、A.J.Reedy、W.M.J.Lennarz、J.Am.Chem.Soc.、1958、80、835: C.Malan、C.Morin、SYNLETT、1996、167:米国特許第5157149号: 特開2000-212185号公報:および特許第2979139号)使用することができる。
【0021】
ここで、塩としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。p-ボロノフェニルアラニンの塩としては、例えば、有機酸との塩、無機酸との塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩等が挙げられる。
【0022】
有機酸との塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等が挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリエタノールアミンとの塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いられる注射液剤において、注射液剤の全量に対するp-ボロノフェニルアラニン又はその塩の含有量は、他の成分とのバランスによって適宜設定される。注射液剤の全量に対して、p-ボロノフェニルアラニン及び/又はその塩の総含有量は、特に限定されないが、好ましくは、2.0~5.5w/v%であり、より好ましくは、2.5~5.0w/v%であり、さらに好ましくは、2.5~4.0w/v%である。
【0024】
本発明の注射液剤中のp-ボロノフェニルアラニンの含有量が上記の範囲内である場合、臨床での応用の際に適宜の液量に収まり、溶液安定性が良好で、かつ投与時の効果に優れる。
【0025】
(糖アルコール)
本発明に用いられる糖アルコールとしては、医薬品分野において注射剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。糖アルコールとしては、限定はされないが、単糖糖アルコールが好ましく、ソルビトール及び/又はマンニトールが特に好ましい。
【0026】
ソルビトールとしては、現在医薬品への使用が認可されており、安全性が確認されているD-ソルビトールが好ましく用いられうるが、これに限定されない。すなわち、本発明においては、L体あるいは、L体とD体との混合体を用いることもできる。
【0027】
マンニトールとしては、現在医薬品への使用が認可されており、安全性が確認されているD-マンニトールが好ましく用いられうるが、これに限定されない。すなわち、本発明においては、L体あるいは、L体とD体との混合体を用いることもできる。
【0028】
本発明の注射液剤に使用される糖アルコールの総含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、好ましくは、2.0~7.0w/v%、より好ましくは、2.6~6.5w/v%、さらに好ましくは、2.6~4.2w/v%である。
【0029】
p-ボロノフェニルアラニンの量に対して、糖アルコールの量は、モル比で、好ましくは0.9~3.0、より好ましくは、0.9~2.0、さらに好ましくは、1.1~1.5の範囲である。糖アルコールの量がこの範囲であると、p-ボロノフェニルアラニンの析出を抑制することができ、浸透圧比を適正に調整できる。
【0030】
(抗酸化剤)
本発明に用いられる注射液剤には、任意に抗酸化剤を用いることができる。抗酸化剤としては、医薬品分野において注射剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。抗酸化剤としては、限定はされないが、亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、亜硝酸、アスコルビン酸、L-システイン、チオグリコール酸、及びそれらの塩からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、亜硝酸、アスコルビン酸、L-システイン、又はチオグリコール酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基が挙げられる。さらには、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N′-ジベンジルエチレンジアミンなどの有機塩基との塩も使用することができる。特に好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩である。
【0032】
本発明に用いられる抗酸化剤として特に好ましいのは、亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、及びピロ亜硫酸カリウムからなる群より選択される1種以上である。
【0033】
本発明の注射液剤に使用される抗酸化剤の総含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、好ましくは、0.005~2.0w/v%、より好ましくは、0.005~1.5w/v%、さらに好ましくは、0.005~1.2w/v%、さらにより好ましくは、0.01~0.6w/v%、最も好ましくは、0.01~0.03w/v%である。
【0034】
(水)
本発明に用いられる注射液剤は、さらに水を含有する。本発明に用いられる水としては、医薬品分野において注射剤の成分として用いられるものであれば特に限定されない。
【0035】
本発明の注射液剤に使用される水の含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、好ましくは、80w/v%以上、より好ましくは、85w/v%以上であり、好ましくは95w/v%以下、さらに好ましくは、94w/v%以下である。
【0036】
(浸透圧比)
本発明の注射液剤の浸透圧比は特に限定されないが、生理食塩水対比で、1.0~1.8の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1.1~1.5の範囲である。この範囲にある場合には、大量の静脈注射の場合、痛みの軽減、静脈炎発症の回避や投与時間の短縮が可能になる。
【0037】
本発明に用いられる注射液剤中には、その生体内外での安定性を図る為、適宜、生体に含まれていても良い各種金属イオンが含まれていてもよい。好ましくは、ナトリウムイオンが含まれており、その濃度は、特に限定はされないが、130mEq/Lから160mEq/Lが特に好ましい。細胞内液と細胞外液の電解質バランスが大きく崩れないように体液のNaイオン濃度範囲に近いこの数値範囲が好ましい。
【0038】
(pH調整剤)
本発明に用いられる注射液剤には、必要に応じて、適宜、塩酸、リン酸などの無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性成分などのpH調整剤を加えることができる。さらには、無機酸に加えて、又は無機酸の代わりに、有機酸を使用することも好ましい。有機酸としては、クエン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、又はメタンスルホン酸を使用することが好ましく、クエン酸又は乳酸を使用することがさらに好ましい。
【0039】
本発明に用いられる注射液剤に使用されるpH調整剤の含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、例えば、塩酸などの無機酸では、好ましくは、0.001~0.5、より好ましくは、0.001~0.10w/v%、さらに好ましくは、0.001~0.03w/v%である。
【0040】
本発明に用いられる注射液剤に使用されるpH調整剤の含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、例えば、クエン酸などの有機酸では、好ましくは、0~8.3w/v%、より好ましくは、0~1.7w/v%、さらに好ましくは、0~0.56w/v%、さらにより好ましくは、0~0.18w/v%、最も好ましくは、0~0.08w/v%である。
【0041】
本発明に用いられる注射液剤に使用されるpH調整剤の含有量は、他の添加剤の配合量にもよるが、注射液剤の全量に対して、特に、pHが6.5~7.4もしくは7.5あたりの範囲である場合、クエン酸などの有機酸では、好ましくは、0~8.3w/v%、より好ましくは、0.01~1.7w/v%、さらに好ましくは、0.02~0.56w/v%、さらにより好ましくは、0.03~0.18w/v%、最も好ましくは、0.05~0.08w/v%である。
【0042】
水酸化ナトリウムなどの無機アルカリ成分としては、好ましくは、0~2.20w/v%、より好ましくは、0.01~1.50w/v%、さらに好ましくは、0.01~0.86w/v%、さらにより好ましくは、0.01~0.65w/v%である。
【0043】
(pH)
本発明に用いられる注射液剤のpHは、生体への投与と安定性のバランスを考慮して、中性~弱アルカリ性付近のpHであることが好ましい。より具体的には、6.5~8.0の範囲であり、特に、常温から低温域での保存下での析出防止の点からは、好ましくは、pH7.4超過~8.0以下の範囲であり、特に好ましくはpH7.5超過7.8以下付近である。pHの調節には必要に応じて、当該技術分野で用いられる適当なpH調節剤、緩衝剤などを使用してもよい。
【0044】
一方で、本発明に用いられる注射液剤は、pH6.5~8.0の間の自由なpHを選択しつつ、常温から低温域での保存下での析出抑制を含む安定性の点も確保することが可能である。その為には、特に酸性成分のpH調整剤として、有機酸又はその塩を用いることが好ましい。特には、pHが6.5~7.4程度の場合には、組成によっては、pH調整剤として有機酸を必須成分とし、例えば、5℃で、1週間、場合により1ヶ月以上、好ましくは、3ヶ月以上に亘って保存した場合にも、析出を防止又は抑制することが可能である。
【0045】
[その他の成分]
本発明に用いられる注射液剤には、必要に応じて、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝剤を加えてもよい。これらの緩衝剤は、製剤の安定化や刺激性の低下に有用な場合がある。
【0046】
さらに本発明の注射液剤には、本発明の目的に反しないかぎり、通常、当該技術分野で用いられる他の成分を、必要に応じて含有させることができる。そのような成分として、通常、液体、特に水性の組成物に用いられる添加剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸カリウム、塩酸クロロヘキシジン等の保存剤、エデト酸Na等の安定化剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ショ糖、ブドウ糖等の等張化剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等の等張剤、水酸化ナトリウム等のpH調整剤が挙げられる。
【0047】
本発明の注射液剤を、医薬品として用いる場合、液剤による静注用の注射剤の形態であり得る。特に、静脈内点滴注入液剤であり得る。
【0048】
注射液剤としては、一定量の有効成分を分散剤(例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、グルコース等)等と共に水性溶剤(例えば、注射用蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール等)等に溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン等)、無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)等の添加物を用いてもよい。更に必要に応じて抗酸化剤、着色剤等や他の添加剤を含有せしめてもよい。
【0049】
また、「薬学的に許容される担体」を用いることもできる。このような物質としては、液状製剤における、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、界面活性剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて、保存剤(防腐剤)、着色剤等の製剤添加物を常法に従って用いることもできる。
【0050】
「溶剤」の好適な例としては、例えば、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール等が用いられる。
【0051】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0052】
「懸濁化剤」の好適な例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が例示できる。
【0053】
「等張化剤」の好適な例としては、例えば、グルコース、塩化ナトリウム、グリセリン、等が挙げられる。
「界面活性剤」として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
「無痛化剤」の好適な例としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0054】
「保存剤」の好適な例としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0055】
[注射液剤の製造方法]
本発明に用いられる注射液剤の製造方法としては、特に限定はされないが、一例として、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤、水、及びp-ボロノフェニルアラニンを混合した後に、糖アルコールを加え、調製することができる。ここで、調製の際には、より効率の良い製造の為に、成分を加える順番が重要になり得る。特に好ましくは、水と水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分のpH調整剤の混合液をまず調製し、次にp-ボロノフェニルアラニンを加えて撹拌する。その後糖アルコールを加えて溶解させ、酸性成分のpH調整剤を入れ、水で容量を合わせて注射液剤を調製することができる。このようなプロトコールに従うことで、各成分を短時間に効率良く溶解でき、優れた注射液剤を効率良く調製することができる。
この時の水、及びp-ボロノフェニルアラニン、糖アルコール、pH調整剤の種類及び量は、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤に記載した量に準じる。
【0056】
[注射液剤の析出防止方法]
本発明の注射液剤の析出防止方法の1つは、p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有する、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、該注射液剤のpHを7.4超過8.0以下に制御する、析出防止方法である。ここで、水、p-ボロノフェニルアラニン、糖アルコール、pH調整剤の種類及び量は、BNCT用注射液剤に記載した量に準じる。
【0057】
本発明の別の一態様は、p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有する、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、該pH調整剤が有機酸又はその塩を含み、該注射液剤のpHを6.5~8.0に制御する、析出防止方法である。この時の水、及びp-ボロノフェニルアラニン、糖アルコール、pH調整剤の種類及び量は、ホウ素中性子捕捉療法用注射液剤に記載した量に準じる。
【0058】
ここで、「析出防止」とは、種々の温度で保存した場合の析出を防止することである。すなわち、特には、保存に適した常温から低温、例えば、30℃以下、好ましくは、25℃以下で保存した場合の析出を防止することを含む。例えば、限定はされないが、5℃付近で保存した場合に析出を防止することができる場合もある。ここで、析出防止とは、例えば目視での白濁の完全な抑制の他、白濁の程度の低減、白濁出現までの時間の延長などを含む。また、ここで、保存下とは、少なくとも、6時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは、2日以上保存することを意味する。場合によっては、例えば1週間、又は1ヶ月のような長期にわたる保存である場合もある。
【0059】
[中性子捕捉療法]
(投与)
本発明に用いられる注射液剤の用途としては、点滴静注剤としての利用が好ましく、特にホウ素中性子捕捉療法に用いられるような点滴静注剤であることが好ましい。中性子捕捉療法は、腫瘍細胞に取り込まれたホウ素10と中性子との核反応により発生する強力な粒子線(アルファ線、7Li粒子)によって治療を行う方法であり、本発明に用いられる注射液剤は、この方法に特に好都合に用いることができる。
【0060】
照射に先立って、本発明の注射液剤をあらかじめ被験者あるいは動物に投与し、腫瘍にホウ素10が集まるように調整した上で、熱外中性子線を照射することができる。あるいは、照射に先立って、本発明の注射液剤をあらかじめ被験者あるいは動物に投与し、腫瘍にホウ素10が集まるように調整した上で、さらに投与を継続しながら熱外中性子線を照射することもできる。本発明の注射液剤の投与量については、特に限定はされないが、好ましい細胞内ホウ素濃度を達成する為に、制御することができる。このような投与量は、適用対象となる腫瘍の種類や進行度、被験者の年齢や体重等に応じて、設定されるが、本発明の注射液剤を静脈内投与用として用いる場合、1時間当たり、200~500ml、の速度で、1.5~4.0時間の間、好ましくは、2.0~3.6時間の間、静脈に点滴投与する。投与開始のタイミングは、中性子照射開始前から照射の間連続的に行うことが特に好ましい。
【0061】
例えば、限定はされないが、脳腫瘍の患者又は頭頸部がんの患者に対して、好ましくは、BPA濃度が150~250mg/kg/時間、より好ましくは200mg/kg/時間なるように調整し、好ましくは1.5~3時間、より好ましくは2時間投与後、次に好ましくは80~120mg/kg/時間、より好ましくは、100mg/kg/時間となるように減速投与し、該減速投与を、最大0.5~1.5時間、好ましくは、最大1時間行いながら、熱外中性子線を照射することも効果的である。
【0062】
本発明に用いられる注射液剤は、このように、特に中性子捕捉療法に好ましく用いられる。対象疾患は限定はされないが、固形がんであることが好ましく、特に好ましくは、上皮細胞から発生するがん(上皮性腫瘍)であり得る。代表的には、メラノーマなどを含む皮膚がん、肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がん、頭頸部のがん(口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、舌がん等)であり得る。あるいは、非上皮性細胞から発生する肉腫であっても対象となり得る。代表的には、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫があり得る。これらの他に、神経膠腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫などの脳腫瘍が、治療の対象疾患となり得る。初発・単発がんのみならず、個別臓器に広がったがんや転移性がん、難治性がんも対象とすることができる。
【0063】
本発明は、下記に掲げる注射液剤の析出防止方法の各態様を含む。
(1)
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を含有するホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有し、pHを7.5超過8.0以下に制御された注射液剤を調製することを包含する、析出防止方法。
(2)
前記pH調整剤が、少なくとも塩酸を含有し、該塩酸の量が、0.001~0.5w/v%である、上記(1)記載の析出防止方法。
(3)
前記糖アルコールが、ソルビトール又はマンニトールである、(1)又は(2)に記載の析出防止方法。
(4)
前記糖アルコールの濃度が、2.6~6.5w/v%である(1)~(3)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(5)
前記糖アルコールの含有割合が、p-ボロノフェニルアラニンの含有量に対して、モル比で、0.9から3.0までの範囲である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(6)
少なくとも有機酸又はその塩を含み、該有機酸が、クエン酸又は乳酸である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(7)
前記注射液剤が、静脈注射液剤である、(1)~(6)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(8)
前記注射液剤が、頭頸部のがん又は脳腫瘍の治療の為の、BNCT用静脈注射液剤である、(1)~(7)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(9)
前記注射液剤が、1時間当たり、200~500ml、の速度で、1.5~4.0時間の間、好ましくは、2.0~3.6時間の間、静脈に点滴投与するためのものである、(1)~(8)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(10)
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を含有するホウ素中性子捕捉療法用注射液剤の析出防止方法であって、
p-ボロノフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩、糖アルコール、及びpH調整剤を含有し、少なくとも1種の有機酸又はその塩を含み、pHを6.5~8.0に制御された注射液剤を調製することを包含する、析出防止方法。
(11)
前記糖アルコールが、ソルビトール又はマンニトールである、(10)に記載の析出防止方法。
(12)
前記糖アルコールの濃度が、2.6~6.5w/v%である(10)又は(11)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(13)
前記糖アルコールの含有割合が、p-ボロノフェニルアラニンの含有量に対して、モル比で、0.9から3.0までの範囲である、(10)~(12)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(14)
前記有機酸が、クエン酸又は乳酸である、(10)~(13)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(15)
前記有機酸又はその塩の量が、注射液剤の0~8.3w/v%である、(10)~(14)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(16)
前記注射液剤が、静脈注射液剤である、(10)~(15)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(17)
前記注射液剤が、頭頸部のがん又は脳腫瘍の治療の為の、BNCT用静脈注射液剤である、(10)~(16)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
(18)
前記注射液剤が、1時間当たり、200~500ml、の速度で、1.5~4.0時間の間、好ましくは、2.0~3.6時間の間、静脈に点滴投与するためのものである、(10)~(17)のいずれか1項に記載の析出防止方法。
【実施例
【0064】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
(製造例)
本発明のp-ボロノフェニルアラニン(BPA;ここではL体を使用)を含む注射液剤の製造に先立って、質量数が10のホウ素(ホウ素10)を濃縮した10B96%濃縮ホウ酸(ステラケミファ社製)を使用した。得られた高濃縮のホウ素10を用いて、常法にて、p-ボロノフェニルアラニン(BPA)を製造した。
【0066】
〔参考例、実施例〕
(BPAソルビトール水溶液の調製)
2.5w/v%~5.0w/v%のBPA、及びD-ソルビトール、亜硫酸水素ナトリウム又はピロ亜硫酸ナトリウムを含む水溶液を次のとおりにして調製した。すなわち、まず、水175mlに水酸化ナトリウム1.05~2.08gを溶かした溶液にBPA5g~10gを懸濁させた。D-ソルビトール5.25~13.0gを加え、撹拌し、溶解した。亜硫酸水素ナトリウム又はピロ亜硫酸ナトリウム0.02gを加えて溶かし、1mol/l塩酸1.22ml(pH7.6の際)又は適量加え、pHを調整し、水を加えて全量200mlにした。ついで、0.2μmのフィルターでろ過した。
【0067】
(BPAマンニトール水溶液の調製)
ソルビトールの代わりに、マンニトールを用いて、BPAソルビトール水溶液と同様にして、調製した。
【0068】
(BPA糖アルコール水溶液の調製)
ソルビトールに加えてマンニトールを併存させて、BPAソルビトール水溶液と同様にして、水溶液を調製した。
【0069】
<安定性試験1>
安定性評価は、主に、ICHガイドラインに基づく医薬品苛酷安定性試験の標準的な条件として、以下の機種や条件を用いて行った。
【0070】
まず、安定性試験1として、40℃での保存試験を行った。この保存試験では、40℃±2℃、75±5%RH、暗所で、保管装置:LH21-13M(ナガノサイエンス製)にて、2週間および4週間置き、それぞれの液をサンプリングして、BPA濃度測定、Tyr濃度、Phe濃度、及びAc-BPA濃度(高速液体クロマトグラフNexeraX2シリーズ、島津製作所製)を測定し、試験開始時と比較した。
【0071】
ここで、HPLCによる測定条件は、以下の通りである。
使用カラム:Mightysil RP-18GP (5μm、4.6×150mm)関東化学製
移動相:0.05mol/Lりん酸二水素ナトリウム試液(pH2.5)/メタノール
(95:5)
カラム温度:40℃付近の一定温度
流速:約0.8ml/分
注入量:10μl
検出波長:223nm
【0072】
安定性評価1の結果の代表的な例を、表1と2に示す。表中BPA残存量は、安定性試験1において、製造に用いたBPA量を100%とした場合に、保存後4週間経過後のBPAの残存量を示す。また、表には示していないが、初期チロシン量について、組成物中で、BPA以外の成分が併存していることによる初期でのBPA分解の状況を示す指標として評価した。
【表1】
(BPA及び添加剤の%は、w/v%を意味する)
【0073】
表1に示した通り、いずれも実施例の組成物も良好な安定性を示した。また、BPA濃度を2.5~4.0w/v%として、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウムを使用した場合にも、同様に良好な安定性を示した。さらに、BPA濃度を2.5w/v%として、ソルビトール濃度を5.35w/v%、6.5w/v%と上げた場合で、抗酸化剤の種類と濃度を同様の条件で検証したところでも、同様に良好な安定性を示す組成物が得られた。
【0074】
【表2】
(BPA及び添加剤の%は、w/v%を意味する)
【0075】
表2の組成物でも、保存試験では、実施例の水溶液では、4週間以上経過しても、BPAは、ほぼ99%以上保持されていることが分かった。保持性状観察では、色の変化、見た目からも成分の変化は見られなかった。
【0076】
溶解性、保存試験の結果を総合的に判断して、実施例のソルビトール又はマンニトールを含有する注射液剤は、pH7.4~7.8で、40℃保存における安定性に優れ、液の均質性にも優れていることがわかった。
【0077】
〔実施例、比較例〕
(BPAソルビトール水溶液の調製)
3w/v%のBPA、及びD-ソルビトール、亜硫酸水素ナトリウムを含む水溶液を次のとおりにして調製した。すなわち、まず、水87mlに水酸化ナトリウム0.62gを加えて攪拌した。BPA3gを懸濁させた。D-ソルビトールを3.15gを加え、撹拌し、溶解した。亜硫酸水素ナトリウム0.02gを加え、室温で1mol/l塩酸又は1mol/lクエン酸を適量加え、pHを調整し、水を加えて全量100mlにした。
【0078】
<安定性試験2>
このように調整したBPAソルビトール水溶液を安定性試験2に供した。この試験では、5℃での保存試験に供した。この保存試験では、5℃±3℃/ambH/暗所で静置し、白濁の有無、白濁が起きるまでの時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0079】
【表3】
比較例1、3:HCl 0.13w/v%
比較例2:HCl 0.09w/v%
実施例:クエン酸 0.15w/v%
【0080】
この結果、pHの低い領域で、塩酸のみによる調整では、低温保存で白濁が生じる場合があることがわかった。一方、クエン酸を加えることで、低温保存での白濁が抑制できた。
【0081】
次に、3w/v%のBPA、及びD-ソルビトール、亜硫酸水素ナトリウムを含む水溶液を次のとおりにして調製した。すなわち、まず、水43mlに水酸化ナトリウム0.32gを加えて攪拌した。BPA1.50gを懸濁させた。D-ソルビトールを1.575gを加え、撹拌し、溶解した。亜硫酸水素ナトリウム0.01gを加え、室温で1mol/l塩酸又は1mol/lクエン酸を適量加え、pHを調整し、水を加えて全量50mlにした。
【表4】
【0082】
この結果、塩酸を用いた場合には、5℃での保存で白濁が生じる場合があった。ここで、pH6.8において、塩酸の代わりにクエン酸を入れると、保存による白濁はあるものの、発生が遅延することがわかった。このように、塩酸の代わりにクエン酸を入れることで、白濁の発生を完全に防止したり、時間を遅延させるなど、抑制できることがわかった。