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  • 特許-運動神経細胞変性阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】運動神経細胞変性阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20250114BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P21/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021552420
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038851
(87)【国際公開番号】W WO2021075477
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019189606
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 治久
(72)【発明者】
【氏名】今村 恵子
(72)【発明者】
【氏名】仁木 剛史
(72)【発明者】
【氏名】日置 剛司
(72)【発明者】
【氏名】豊福 昌志
(72)【発明者】
【氏名】伏見 真
(72)【発明者】
【氏名】黒板 孝信
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-261560(JP,A)
【文献】国際公開第2008/044767(WO,A1)
【文献】特表2009-545583(JP,A)
【文献】特表2017-531006(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103109(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 21/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、またはその塩を含有してなる、運動神経細胞変性阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載の剤を含む、運動ニューロン疾患の予防または治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載の剤を含む、筋萎縮性側索硬化症の予防または治療剤。
【請求項4】
運動神経細胞変性阻害剤を製造するための、4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、またはその塩の使用。
【請求項5】
運動ニューロン疾患の予防または治療剤を製造するための、4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、またはその塩の使用。
【請求項6】
筋萎縮性側索硬化症の予防または治療剤を製造するための、4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、またはその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動神経細胞変性(Motor Neuron Degeneration)阻害作用を有し、運動ニューロン疾患(例、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症)等の治療に有用である化合物を含有する剤(医薬、医薬組成物)などに関する。
【0002】
(発明の背景)
神経変性疾患は、特定の神経細胞の変性に起因する疾患である。変性した神経細胞はやがて機能障害を起こし、最終的には細胞死へと至る。当該変性、機能障害、及び細胞死は、徐々に周囲の神経細胞へと広がり、全体として機能障害を起こした神経細胞の割合がある閾値を超えると発症に至り、当該割合の増加とともに病態が進行すると考えられている(例えば、非特許文献1および2)。
よって、初期の変化である神経細胞変性を効果的に抑制できれば、その後の機能障害も抑制され、病態の進行を効果的に阻止できると考えられている(例えば、非特許文献3、4および5)。
そこで、神経変性疾患の治療薬候補を得ることを目的として、神経変性を模倣した細胞モデルにおいて当該変性を抑制し得る化合物を探索する試みが多数行われている(例えば、非特許文献6および7)。しかしながら、当該モデルの多くは細胞株をベースとしているため、本来のヒト神経細胞との相違が問題視されている。
この問題を解決するために、近年、患者から採取した体細胞を初期化して得られる人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞)から疾患モデル細胞を作製し、化合物スクリーニングに供する創薬研究が活発化している(例えば、非特許文献8)。本発明者はこれまで、iPS細胞にLhx3、Ngn2、Isl1を導入して発現させることで、生体内の運動神経細胞の性質を良く備えた運動神経細胞へと短期間で効率良く分化誘導できることを報告した(特許文献1)。そして、当該方法を用いて、運動ニューロン疾患の代表である筋萎縮性側索硬化症(以降、「ALS」と呼ぶ場合がある)患者由来iPS細胞から分化誘導した運動神経細胞では、当該疾患と同様の神経変性が自発的に生じて細胞死に至ること、すなわち、ALSの優れた細胞モデルであることを明らかにした(特許文献1、非特許文献9)。よって、患者由来iPS細胞から分化誘導した運動神経細胞に対し、当該自発的な細胞変性を抑制する化合物を見出すことが出来れば、病態進行の抑制、ひいては症状の改善等をもたらす新規薬剤の創製が期待できる(例えば、非特許文献9、10および11、および特許文献2および3)。
【0003】
一方、特許文献4~8には以下の化合物が知られている。
(1) 特許文献4
【0004】
【化1】
【0005】
(2) 特許文献5
【0006】
【化2】
【0007】
および
【0008】
【化3】
【0009】
(3) 特許文献6
【0010】
【化4】
【0011】
(4) 特許文献7
【0012】
【化5】
【0013】
(5) 特許文献8
【0014】
【化6】
【0015】
また、以下の化合物も報告されている。
(1) RN 1358409-10-5
【0016】
【化7】
【0017】
(2) RN 1391415-15-8
【0018】
【化8】
【0019】
(3) RN 765925-17-5
【0020】
【化9】
【0021】
しかし、上記化合物が運動神経細胞変性阻害作用を有することは、いずれの文献にも何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】WO 2014/148646
【文献】WO 2016/114322
【文献】WO 2012/029994
【文献】WO 2008/016192
【文献】WO 2008/044767
【文献】WO 2009/119776
【文献】WO 2011/024872
【文献】US 5514505
【非特許文献】
【0023】
【文献】K. W. Li et al, Journal of Neurochemistry 2018, 10.1111/jnc.14603
【文献】N. J. Ashton et al, Acta Neuropathologica Communications 2019, 7:5
【文献】S. Zhang et al, Cell Death and Disease 2017, 8, e2905
【文献】T. V. Berghe et al, Nature Reviews Molecular Cell Biology 2014, 15, 135-147.
【文献】Z. Lia et al, European Journal of Pharmacology 2019, 844, 156-164.
【文献】G. R. Smith et al, Journal of Molecular Neuroscience 2014, 52, 446-458.
【文献】W. Fischer et al, Redox Biology 2019, 21, 101089
【文献】Y. Shi et al, Nature Reviews Drug Discovery 2017, 16, 115-130.
【文献】K. Imamura et al, Science Translational Medicine 2017, 9, eaaf3962
【文献】N. Egawa et al, Science Translational Medicine 2012, 4, 145ra104
【文献】K. Fujimori et al, Nature Medicine 2018, 24, 1579-1589.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、運動神経細胞変性阻害作用を有する化合物を含み、運動ニューロン疾患(例、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症)等の予防または治療剤として用いることができる剤(医薬、医薬組成物)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記化合物が、運動神経細胞変性阻害作用を有し、従って、運動ニューロン疾患(例、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症)等の予防または治療剤になり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物(以下、「本発明に用いられる化合物」ともいう)を含有してなる、運動神経細胞変性阻害剤(以下、「本発明の剤」ともいう)。
[2] 運動ニューロン疾患の予防または治療剤として用いられる、[1]記載の剤。
[3] 筋萎縮性側索硬化症の予防または治療剤として用いられる、[1]記載の剤。
[4] N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物における運動神経細胞変性阻害方法。
[5] N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物における運動ニューロン疾患の予防または治療方法。
[6] N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物における筋萎縮性側索硬化症の予防または治療方法。
[7] 運動ニューロン疾患の予防または治療に使用するための、N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物。
[8] 筋萎縮性側索硬化症の予防または治療に使用するための、N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、優れた運動神経細胞変性阻害作用を有する化合物を含み、運動ニューロン疾患(例、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症)等の予防または治療剤として用いることができる剤(医薬、医薬組成物)を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ALS10細胞から分化させた運動神経細胞の典型的な染色画像(培養開始から6日後)を示す図である。
【0029】
(発明の詳細な説明)
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の剤は、以下の化合物:
N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド(実施例番号1)、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号2)、
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号3)、
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド(実施例番号4)、
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号5)、
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド(実施例番号6)、
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸(実施例番号7)、
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール(実施例番号8)、
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド(実施例番号9)、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号10)、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号11)、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド(実施例番号12)、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド(実施例番号13)、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(実施例番号14)、
およびそれらの塩から選ばれる1以上の化合物を含有してなる。
【0030】
本発明に用いられる化合物のうち、以下の化合物;
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号10)、
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド(実施例番号11)、
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド(実施例番号12)、
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド(実施例番号13)、
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(実施例番号14)、
およびそれらの塩は、新規な化合物である。
【0031】
本発明に用いられる化合物が塩である場合、薬理学的に許容される塩が好ましく、このような塩としては、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性アミノ酸との塩、酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。
無機塩基との塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン]、tert-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等との塩が挙げられる。
無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩の好適な例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる化合物が遊離化合物として得られる場合には、自体公知の方法により、目的とする塩に変換することができる。あるいは、本発明に用いられる化合物が塩として得られる場合には、自体公知の方法により、遊離体または目的とする他の種類の塩に変換することができる。
【0033】
本明細書における「神経細胞変性」とは、神経細胞の形態的な異常のことであり、具体的には、神経突起の退縮、神経突起の断片化、神経突起の消失、細胞体の萎縮、細胞体の断片化、及び細胞体の消失のいずれか1以上の異常が起こることを指す。そして、運動神経細胞変性とは、前記変性が運動神経細胞において起こることを意味する。ここで、運動神経細胞には、上位運動神経細胞及び下位運動神経細胞の両方が含まれる。さらに、本明細書における運動神経細胞には、多能性幹細胞から分化誘導された運動神経細胞も含まれる。
【0034】
運動神経細胞変性は、形態的な観察によって検出することができる。例えば、形態的な観察は、当業者に公知の方法を用いて免疫染色等を行い、運動神経細胞のマーカー遺伝子(例、HB9、ChAT等)を発現する細胞、該マーカー遺伝子のプロモーターに制御されるレポーター遺伝子を発現する細胞、または神経細胞マーカー遺伝子(例、β-III tubulin、NCAM、MAP2等)を発現する細胞について、当該神経突起の長さや断片化の有無、または細胞体の数やサイズを計測することで行ってもよい。これらの計測は目視で行うことができるが、細胞画像解析装置(例、IN Cell Analyzer(GE Healthcare社製)、Opera Phenix(PerkinElmer社製)等)を用いて自動的に計測してもよい。さらに、神経突起長や細胞体のサイズは、神経突起や細胞体の画像上における面積として測定してもよい。
また、運動神経細胞変性は、細胞死を指標として評価してもよい。運動ニューロン疾患の細胞モデルでは、神経変性の後細胞死に至るため、細胞死に至った細胞の割合を神経細胞変性率として評価することができる。
さらに、当該細胞死に至った運動神経細胞の割合は、生存している運動神経細胞の数の逆数として算出してもよい。
【0035】
本明細書における「運動神経細胞変性阻害」とは、運動神経細胞の変性が阻害されることを指し、具体的には、神経突起の退縮、神経突起の断片化、神経突起の消失、細胞体の萎縮、細胞体の断片化、及び細胞体の消失のいずれか1以上の異常が軽減されることを意味する。さらに、これらの異常が軽減されたことの最終的な表現型として、生存している運動神経細胞数の増加を指標として評価することもできる。
本発明の剤による「運動神経細胞変性阻害効果」は、運動神経細胞を標的とする直接的な効果であってもよく、また、他の細胞を標的とする間接的な効果であってもよい。
【0036】
本発明においては、対照運動神経細胞と比べて、神経突起の退縮、神経突起の断片化、細胞体の萎縮、及び細胞体の断片化のいずれか1以上の異常が10%、20%、30%、40%、50%以上回復した場合に、運動神経細胞変性が抑制されたと判断してもよい。または、運動神経細胞の生存率が10%、20%、30%、40%、50%以上回復した場合に、運動神経細胞変性が抑制されたと判断してもよい。
【0037】
一つの実施形態では、ALS患者のiPS細胞由来の運動神経細胞を用いて、ある化合物(被検化合物)による運動神経細胞の細胞変性抑制率を、以下の式を用いて算出してもよい。
被検化合物の運動神経細胞変性抑制活性 = ((X-C)/(T-C))x100
X:培養開始y日後の被検化合物群の運動神経細胞数、C:培養開始y日後のDMSO群の運動神経細胞数、T:培養開始x日後の運動神経細胞数
ここで、xは、対象において自発的な細胞死を生じる前の任意の日、yは、対象において自発的な細胞死を生じている任意の日から選ばれる。
【0038】
本発明に用いられる化合物は優れた運動神経細胞変性阻害作用を有するため、該化合物を含む剤は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)における、運動ニューロン疾患に対する予防または治療剤として使用することができる。運動ニューロン疾患としては、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症等が例示される。前記予防または治療剤は、孤発性、家族性の区別なく、前記疾患に対して用いることができる。なお、本明細書では、前記疾患を「運動ニューロン疾患」と呼ぶ場合がある。
【0039】
本発明に用いられる化合物はまた、例えば、
(1)精神疾患[例、うつ病、大うつ病、双極性うつ病、気分変調障害、情動障害(季節性情動障害など)、再発性うつ病、産後うつ病、ストレス性障害、うつ症状、躁病、不安、全般性不安障害、不安症候群、パニック障害、恐怖症、社会性恐怖症、社会性不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス症候群、外傷後ストレス障害、タウレット(Tourette)症候群、自閉症、脆弱X症候群、レット症候群、適応障害、双極性障害、神経症、統合失調症(例、陽性症状、陰性症状、認知機能障害)、慢性疲労症候群、不安神経症、強迫神経症、恐慌性障害、てんかん、不安障害、不安症状、不快精神状態、情緒異常、感情循環気質、神経過敏症、失神、耽溺、性欲低下、注意欠陥多動性障害(ADHD)、精神病性大うつ病、難治性大うつ病、治療抵抗性うつ病、抑鬱障害、カタレプシー、破瓜型の統合失調症、妄想型統合失調症]、
(2)神経変性疾患[例、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、アルツハイマー病、アルツハイマー型老人性認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、多発脳梗塞性認知症、前頭側頭葉型認知症、パーキンソン型認知症、進行性核上麻痺、ピック症候群、大脳皮質基底核変成症、ダウン症、血管性認知症、脳炎後のパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、HIV性認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経原性疾患(MND)、クロイツフェルト・ヤコブ病又はプリオン病、脳性麻痺、進行性核上麻痺、外傷性脳損傷、緑内障、多発性硬化症、視神経脊髄炎(NMO)、術後認知機能障害(POCD)、術後せん妄(POD)、せん妄]、
(3)加齢に伴う認知・記憶障害[例、加齢性記憶障害、老人性認知症]、
(4)睡眠障害[例、内在因性睡眠障害(例、精神生理性不眠など)、外在因性睡眠障害、概日リズム障害(例、時間帯域変化症候群(時差ボケ)、交代勤務睡眠障害、不規則型睡眠覚醒パターン、睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、非24時間睡眠覚醒など)、睡眠時随伴症、内科又は精神科障害(例、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳血管性認知症、統合失調症、うつ病、不安神経症)に伴う睡眠障害、ストレス性不眠症、不眠症、不眠性神経症、睡眠時無呼吸症候群]、
(5)麻酔薬、外傷性疾患、又は神経変性疾患などに起因する呼吸抑制、
(6)外傷性脳損傷、脳卒中、脳浮腫、脳虚血、虚血、神経性食欲不振、摂食障害、神経性無食欲症、過食症、その他の摂食障害、アルコール依存症、アルコール乱用、アルコール性健忘症、アルコール妄想症、アルコール嗜好性、アルコール離脱、アルコール性精神病、アルコール中毒、アルコール性嫉妬、アルコール性躁病、アルコール依存性精神障害、アルコール精神病、薬物嗜好、薬物恐怖症、薬物狂、薬物離脱、片頭痛、ストレス性頭痛、緊張性頭痛、糖尿病性ニューロパシー、肥満、糖尿病、筋肉痙攣、メニエール病、自律神経失調症、脱毛症、緑内障、高血圧、心臓病、頻脈、うっ血性心不全、過呼吸、気管支喘息、無呼吸、乳幼児突然死症候群、炎症性疾患、アレルギー疾患、インポテンス、更年期障害、不妊症、腫瘍(例、癌、肝癌、結腸癌、乳房癌、前立腺癌、神経芽細胞腫、骨癌、口癌、肥満細胞腫、胆管癌、ルイス肺癌)、HIV感染による免疫不全症候群、ストレスによる免疫不全症候群、脳脊髄膜炎、末端肥大症、失禁、メタボリック・シンドローム、骨粗しょう症、消化性潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、ストレス性胃腸障害、神経性嘔吐、下痢、便秘、術後イレウス、リウマチ性関節炎、変形性関節症、機能性消化不良、痛覚過敏、インスリン抵抗性、ボクサー認知症、吐き気、嘔吐、腫瘍転移、脳損傷、発作、体重変化、体重増加、体重減少、大腸炎、アルコール依存症、低体温、脂肪肝、アテローム性動脈硬化、感染、筋痙攣、高血圧、脳卒中、幼児期の悪性の移行部分発作、糖尿病、2型糖尿病、脂質異常症、内臓型肥満、低眼圧、拒食症、線維症、心筋梗塞、悪液質、誘発性精神病性障害、運動失調、エイズ消耗性症候群、肝硬変の心筋症、尿毒症性掻痒症、神経行動学的症状、尿細管間質性腎炎およびブドウ膜炎症候群、間質性膀胱炎、網膜色素変性症、複合性局所疼痛症候群、自己免疫疾患、冠動脈疾患、アスピリン喘息、血小板貯蔵プール欠乏症、糖尿病胎芽、アルサス型じんましん、喘息、有毒油症候群、耳炎など、
(7)疼痛(痛み)[例、炎症性疼痛、癌性疼痛、神経性疼痛、急性疼痛、末梢神経障害による疼痛、中枢性疼痛、線維筋痛、鎌状赤血球症における血管閉塞性の痛み(vassooclussive painful crises in sickle cell disease)、多発性硬化症が介在する痙性あるいは疼痛、機能性胸痛、複合性局所疼痛症候群など]、
(8)ライソゾーム病[例、ゴーシェ病、クラッベ病、ニーマン-ピック症候群]、
等の疾患の予防または治療剤として有用であることが期待される。
【0040】
本発明に用いられる化合物は、体内動態(例、血中薬物半減期、脳内移行性、代謝安定性)に優れ、毒性が低く(例えば、急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、生殖毒性、心毒性、薬物相互作用、癌原性等の点から医薬として、より優れている)、そのまま医薬として、又は薬学的に許容される担体等と混合された医薬組成物として、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ等)に対して、経口的、又は非経口的に安全に投与できる。「非経口」には、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、膣内、腹腔内、腫瘍内部、腫瘍の近位などへの投与及び直接的な病巣への投与が含まれる。
【0041】
本発明に用いられる化合物の投与量は、投与ルート、症状などによって異なるが、例えば、筋萎縮性側索硬化症の患者(成人、体重40~80kg、例えば60kg)に経口投与する場合、例えば1日あたり0.001~1000mg/kg体重、好ましくは1日あたり0.01~100mg/kg体重、さらに好ましくは1日あたり0.1~10mg/kg体重である。この量を1日1回~3回に分けて投与することができる。
【0042】
本発明の剤は、医薬製剤の製造法として自体公知の方法(例、日本薬局方記載の方法等)に従って、本発明に用いられる化合物を単独で、又は本発明に用いられる化合物と薬学的に許容される担体とを混合した医薬組成物として使用することができる。本発明の剤(医薬、医薬組成物)は、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、放出制御製剤(例、速放性製剤、徐放性製剤、徐放性マイクロカプセル剤)、エアゾール剤、フィルム剤(例、口腔内崩壊フィルム、口腔粘膜貼付フィルム)、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、経皮吸収型製剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤(例、肛門坐剤、膣坐剤)、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)、点眼剤等として、経口的又は非経口的(例、静脈内、筋肉内、皮下、臓器内、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、膣内、腹腔内、病巣等)に安全に投与することができる。
【0043】
前記の「薬学的に許容される担体」としては、製剤素材(starting material)として慣用されている各種の有機あるいは無機担体が用いられる。例えば、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤等が用いられ、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、及び無痛化剤等が用いられる。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることもできる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L-ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール等が挙げられる。
【0044】
医薬組成物(製剤)は、剤型、投与方法、担体などにより異なるが、本発明に用いられる化合物を製剤全量に対して通常0.01~100%(w/w)、好ましくは0.1~95%(w/w)の割合で添加することにより、常法に従って製造することができる。
【0045】
本発明に用いられる化合物は、単独で剤(医薬、医薬組成物)として用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。本明細書中、特に述べない限り、「本発明に用いられる化合物」とは、複数種の化合物の組み合わせも含む。
本発明に用いられる化合物は、さらに他の活性成分(以下、併用薬物と略記する)と併用してもよい。
【0046】
併用薬物としては、例えば、以下が挙げられる。
ベンゾジアゼピン(クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、クロラゼブ酸カリウム、ロラゼパム、クロナゼパム、アルプラゾラム等)、L-型カルシウムチャネル阻害薬(プレガバリン等)、三環性又は四環性抗うつ薬(塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリン、塩酸デシプラミン、塩酸クロミプラミン等)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(マレイン酸フルボキサミン、塩酸フロキセチン、臭酸シタロプラム、塩酸セルトラリン、塩酸パロキセチン、シュウ酸エスシタロプラム等)、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(塩酸ベンラファキシン、塩酸ドュロキセチン、塩酸デスベンラファキシン等)、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(メシル酸レボキセチン等)、ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害薬(塩酸ブプロピオン等)、ミルタザピン、塩酸トラゾドン、塩酸ネファゾドン、塩酸ブプロピオン、マレイン酸セチプチリン、5-HT1A作動薬(塩酸ブスピロン、クエン酸タンドスピロン、塩酸オセモゾタン等)、5-HT拮抗薬(シアメマジン等)、心臓選択的ではないβ阻害薬(塩酸プロプラノロール、塩酸オキシプレノロール等)、ヒスタミンH拮抗薬(塩酸ヒドロキシジン等)、統合失調症治療薬(クロルプロマジン、ハロペリドール、スルプリド、クロザピン、塩酸トリフルオペラジン、塩酸フルフェナジン、オランザピン、フマル酸クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール等)、CRF拮抗薬、その他の抗不安薬(メプロバメート等)、タキキニン拮抗薬(MK-869、サレデュタント等)、代謝型グルタミン酸受容体に作用する薬剤、CCK拮抗薬、β3アドレナリン拮抗薬(塩酸アミベグロン等)、GAT-1阻害薬(塩酸チアガビン等)、N-型カルシウムチャネル阻害薬、2型炭酸脱水素酵素阻害薬、NMDAグリシン部位作動薬、NMDA拮抗薬(メマンチン等)、末梢性ベンゾジアゼピン受容体作動薬、バソプレッシン拮抗薬、バソプレッシンV1b拮抗薬、バソプレッシンV1a拮抗薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、オピオイド拮抗薬、オピオイド作動薬、ウリジン、ニコチン酸受容体作動薬、チロイドホルモン(T3、T4)、TSH、TRH、MAO阻害薬(硫酸フェネルジン、硫酸トラニルシプロミン、モクロベミド等)、5-HT2A拮抗薬、5-HT2A逆作動薬、COMT阻害薬(エンタカポン等)、双極性障害治療薬(炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリジン、リルゾール、フェルバメート等)、カンナビノイドCB1拮抗薬(リモナバント等)、FAAH阻害薬、ナトリウムチャネル阻害薬、抗ADHD薬(塩酸メチルフェニデート、塩酸メタンフェタミン等)、アルコール依存症治療薬、自閉症治療薬、慢性疲労症候群治療薬、痙攣治療薬、線維筋痛症治療薬、頭痛治療薬、不眠症治療薬(エチゾラム、ゾピクロン、トリアゾラム、ゾルピデム、ラメルテオン、インジプロン等)、禁煙のための治療薬、重症筋無力症治療薬、脳梗塞治療薬、躁病治療薬、過眠症治療薬、疼痛治療薬、気分変調症治療薬、自律神経失調症治療薬、男性及び女性の性機能障害治療薬、偏頭痛治療薬、病的賭博治療薬、下肢静止不能症候群治療薬、物質依存症治療薬、アルコール関連症の治療薬、過敏性腸症候群治療薬、アルツハイマー病治療薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン等)、パーキンソン病治療薬(レボドパ、カルビドパ、ベンセラジド、セレギリン、ゾニサミド、エンダカボン、アマンタジン、タリペキソール、ブラミペキソール、アポモルヒネ、カペルゴリン、ブロモクリプチン、イストラデフィリン、トリヘキシフェニジル、プロメタジン、パーゴライド等)、ハンチントン病治療薬(塩酸クロルプロマジン、ハロペリドール、レセルピンなど)、ゴーシェ病治療薬(イミグルセラーゼ、タリグルセラーゼアルファ、ベラグルセラーゼアルファ、エリグルスタット、ミグルスタット等)、ALS治療薬(リルゾール等、神経栄養因子等)、多発性硬化症治療薬(フィンゴリモド、インターフェロン・ベータ1b、ナタリズマブなどの分子標的治療薬等)、抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、プリミドン、ゾニザミド、バルプロ酸ナトリウム、エトサクシミド、ジアゼパム、ニトラゼパム、クロナゼパム、クロバザム、ガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタム、スチリペントール、ルフィナミド等)、コレステロール低下薬のような脂質異常症治療薬(スタチンシリーズ(プラバスタチンナトリウム、アトロバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチン等)、フィブレート(クロフィブレート等)、スクワレン合成阻害薬)、異常行動治療薬又は認知症による放浪癖の抑制薬(鎮静薬、抗不安薬等)、アポトーシス阻害薬、抗肥満薬、糖尿病治療薬、高血圧治療薬、低血圧治療薬、リューマチ治療薬(DMARD)、抗癌剤、副甲状腺治療薬(PTH)、カルシウム受容体拮抗薬、性ホルモン又はその誘導体(プロゲステロン、エストラジオール、安息香酸エストラジオール等)、神経分化促進薬、神経再生促進薬、非ステロイド系抗炎症薬(メロキシカム、テノキシカム、インドメタシン、イブプロフェン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、アスピリン等)、ステロイド(デキサメタゾン、酢酸コルチゾン等)、抗サイトカイン薬(TNF阻害薬、MAPカイネース阻害薬等)、抗体医薬、核酸又は核酸誘導体、アプタマー薬など。
【0047】
本発明に用いられる化合物と併用薬物とを組み合わせることにより、
(1)本発明に用いられる化合物又は併用薬物を単独で投与する場合に比べて、その投与量を軽減することができる、
(2)患者の症状(軽症、重症など)に応じて、本発明に用いられる化合物と併用する薬物を選択することができる、
(3)本発明に用いられる化合物と作用機序が異なる併用薬物を選択することにより、治療期間を長く設定することができる、
(4)本発明に用いられる化合物と作用機序が異なる併用薬物を選択することにより、治療効果の持続を図ることができる、
(5)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを併用することにより、相乗効果が得られる、等の優れた効果を得ることができる。
【0048】
以下、本発明に用いられる化合物と併用薬物を併用して使用することを「本発明の併用剤」と称する。
本発明の併用剤の使用に際しては、本発明に用いられる化合物と併用薬物の投与時期は限定されず、本発明に用いられる化合物又はその医薬組成物と併用薬物又はその医薬組成物とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与ルート、疾患、組み合わせ等により適宜選択することができる。
本発明の併用剤の投与形態は、特に限定されず、投与時に、本発明に用いられる化合物と併用薬物とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、
(1)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、
(2)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、
(3)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、
(4)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、
(5)本発明に用いられる化合物と併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、本発明に用いられる化合物;併用薬物の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)
などが挙げられる。
【0049】
本発明の併用剤は、毒性が低く、例えば、本発明に用いられる化合物又は(及び)上記併用薬物を公知の方法に従って、薬学的に許容される担体と混合して医薬組成物、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤、(ソフトカプセルを含む)、液剤、注射剤、坐剤、徐放剤等として、経口的又は非経口的(例、局所、直腸、静脈投与等)に安全に投与することができる。注射剤は、静脈内、筋肉内、皮下又は臓器内投与あるいは直接病巣に投与することができる。
本発明の併用剤の製造に用いられてもよい薬学的に許容される担体としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0050】
本発明の併用剤における本発明に用いられる化合物と併用薬物との配合比は、投与対象、投与ルート、疾患等により適宜選択することができる。
例えば、本発明の併用剤における本発明に用いられる化合物の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約0.01~100重量%、好ましくは約0.1~50重量%、さらに好ましくは約0.5~20重量%程度である。
本発明の併用剤における併用薬物の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約0.01~100重量%、好ましくは約0.1~50重量%、さらに好ましくは約0.5~20重量%程度である。
【実施例
【0051】
本発明は、更に以下の実施例および試験例によって詳しく説明されるが、これらは本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
以下の実施例中の「室温」は通常約10℃ないし約35℃を示す。混合溶媒において示した比は、特に断らない限り容量比を示す。%は、特に断らない限り重量%を示す。
【0052】
実施例のカラムクロマトグラフィーにおける溶出は、特に言及しない限り、TLC(Thin Layer Chromatography,薄層クロマトグラフィー)による観察下に行った。TLC観察においては、TLCプレートとしてメルク(Merck)社製の60 F254を用い、展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーで溶出溶媒として用いた溶媒を用いた。また、検出にはUV検出器を採用した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて、NHと記載した場合はアミノプロピルシラン結合シリカゲルを用いた。
実施例の分取HPLC(High Performance Liquid Chromatography,高速液体クロマトグラフィー)において、化合物の精製に用いた流出溶媒系は、特に言及しない限り、下記のいずれかを採用した。
・0.1%のトリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル/水混合溶媒系
・10 mM重炭酸アンモニウムを含むアセトニトリル/水混合溶媒系
・0.05%のアンモニアを含むアセトニトリル/水混合溶媒系
【0053】
以下の実施例においては下記の略号を使用する。
MS:マススペクトル
M:モル濃度
DMA : N,N-ジメチルアセトアミド
DMF : N,N-ジメチルホルムアミド
THF : テトラヒドロフラン
DMSO : ジメチルスルホキシド
【0054】
実施例1
N-[3-({2-[(シクロプロパンカルボニル)アミノ]イミダゾ[1,2-b]ピリダジン-6-イル}オキシ)フェニル]シクロヘキサンカルボキサミド
【0055】
【化10】
【0056】
自体公知の方法、例えば、特許文献4に記載の方法で製造できる。
【0057】
実施例2
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド
【0058】
【化11】
【0059】
自体公知の方法、例えば、特許文献5に記載の方法で製造できる。
【0060】
実施例3
N-[1-(4-フルオロブチル)-1H-ピラゾール-4-イル]-4-[(2-フルオロフェノキシ)メチル]ピリジン-2-カルボキサミド
【0061】
【化12】
【0062】
自体公知の方法、例えば、特許文献5に記載の方法で製造できる。
【0063】
実施例4
1-(3-クロロフェニル)-N-[4-(ジエチルカルバモイル)フェニル]-2-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド
【0064】
【化13】
【0065】
自体公知の方法、例えば、特許文献6に記載の方法で製造できる。
【0066】
実施例5
3-エトキシ-6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-5-(4-メトキシフェニル)-1-メチル-4-オキソ-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド
【0067】
【化14】
【0068】
自体公知の方法、例えば、特許文献7に記載の方法で製造できる。
【0069】
実施例6
1-[(3-メトキシフェニル)メチル]-N-(ピリジン-3-イル)-1H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキサミド
【0070】
【化15】
【0071】
本化合物は自体公知の方法を組み合わせて製造できる。また、市販品をChemDiv社から入手可能である。
【0072】
実施例7
(3aS,4R,9bR)-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-カルボン酸
【0073】
【化16】
【0074】
本化合物は自体公知の方法を組み合わせて製造できる。また、市販品をSPECS社から入手可能である。
【0075】
実施例8
3-(ピリジン-4-イル)-4,5-ジヒドロ-2H-ベンゾ[g]インダゾール
【0076】
【化17】
【0077】
本化合物は自体公知の方法を組み合わせて製造できる。また、市販品をAlfa Chemistryから入手可能である。
【0078】
実施例9
N-[4-(5-{[(4-クロロフェニル)メチル]スルファニル}-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル]プロパンアミド
【0079】
【化18】
【0080】
本化合物は自体公知の方法を組み合わせて製造できる。また、市販品をMEDCHEM社から入手可能である。
【0081】
実施例10
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド
【0082】
【化19】
【0083】
A) 4-((2-クロロフェノキシ)メチル)ピコリン酸
メチル 4-(ヒドロキシメチル)ピコリナート(2.99 g)、2-クロロフェノール(2.04 mL)、トリフェニルホスフィン(5.63 g)、アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、9.76 mL)およびTHF(120 ml)の混合物を70℃で30分間加熱した。反応混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液で希釈後、酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (NHシリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル) で粗精製してメチル 4-((2-クロロフェノキシ)メチル)ピコリナートを得た。得られたメチル 4-((2-クロロフェノキシ)メチル)ピコリナート(5.93 g)、THF(27 mL)、メタノール(27 mL)および1規定水酸化ナトリウム水溶液(53.7 mL)の混合物を室温で15分間攪拌した。反応混合物に1M塩酸(54 mL)を加えて、室温で30分間攪拌した。生じた沈殿物をろ取し、THF/酢酸エチルの混合物に溶解した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮し、標題化合物(3.57 g)を得た。
MS: [M+H]+264.1.
【0084】
B) 4-((2-クロロフェノキシ)メチル)-N-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)ピコリンアミド
4-((2-クロロフェノキシ)メチル)ピコリン酸(1.48 g)、1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-アミン(1.03 g)、ジイソプロピルエチルアミン(2.94 mL)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム-3-オキシド ヘキサフルオロホスファート(3.21 g)およびDMA(28 ml)の混合物を室温で18時間撹拌した。反応混合物を水および飽和食塩水で希釈し、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標題化合物(2.27 g)を得た。
MS: [M-H]-411.0.
【0085】
C) 4-((2-クロロフェノキシ)メチル)-N-(1H-ピラゾール-4-イル)ピコリンアミド
4-((2-クロロフェノキシ)メチル)-N-(1-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)ピコリンアミド(2.27 g)、トシル酸1水和物(0.11 g)およびメタノール(27.5 mL)の混合物を室温で30分、40℃で30分、50℃で1時間、60℃で1.5時間撹拌した後、2.5時間加熱還流した。反応混合物に水を加え、生じた沈殿物をろ取し、THFに溶解した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮し、標題化合物(1.57 g)を得た。
MS: [M+H]+329.1.
【0086】
D) 4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-{1-[(2-シアノフェニル)メチル]-1H-ピラゾール-4-イル}ピリジン-2-カルボキサミド
4-((2-クロロフェノキシ)メチル)-N-(1H-ピラゾール-4-イル)ピコリンアミド(26 mg)、2-シアノベンジル ブロミド(24 mg)、炭酸カリウム(22 mg)およびDMA(1 mL)の混合物を80℃にて2時間攪拌した。不溶物をろ去し、ろ液をHPLC (Actus Triart C18、アセトニトリル/10mM 炭酸アンモニウム水溶液)で精製し、標題化合物(20 mg)を得た。
MS: [M+H]+444.2.
【0087】
実施例11
4-[(2-クロロフェノキシ)メチル]-N-[1-(2-メトキシエチル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-カルボキサミド
【0088】
【化20】
【0089】
実施例10の工程Cで得た4-((2-クロロフェノキシ)メチル)-N-(1H-ピラゾール-4-イル)ピコリンアミド(26 mg)、2-ブロモエチル メチル エーテル(17 mg)、炭酸カリウム(22 mg)およびDMA(1 mL)の混合物を80℃にて2時間攪拌した。不溶物をろ去し、ろ液をHPLC (Actus Triart C18、アセトニトリル/10mM 炭酸アンモニウム水溶液)で精製し、標題化合物(11 mg)を得た。
MS: [M+H]+387.1.
【0090】
実施例12
1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキサミド
【0091】
【化21】
【0092】
メチル 1-(2-クロロピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキシラート、4-メトキシベンジルアミン、炭酸カリウムおよびDMFの混合物を50℃にて一晩撹拌する。反応混合物に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、メチル 1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキシラートを得る。メチル 1-(2-{[(4-メトキシフェニル)メチル]アミノ}ピリミジン-4-イル)-1H-インドール-3-カルボキシラート、水酸化ナトリウム水溶液およびメタノールの混合物を室温で一晩撹拌する。反応混合物に塩酸を加え、生じた沈殿をろ取する。得られた粗生成物、ジイソプロピルエチルアミン、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム-3-オキシド ヘキサフルオロホスファート、28%アンモニア水およびDMAの混合物を室温で一晩撹拌する。反応混合物に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標題化合物を得る。
MS: [M+H]+374.2.
【0093】
実施例13
N-{3-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール-5-イル]フェニル}-2-フェニルアセトアミド
【0094】
【化22】
【0095】
5-ブロモ-2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾイミダゾール、[3-(2-フェニルアセトアミド)フェニル]ボロン酸、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、炭酸ナトリウム水溶液およびDMFの混合物を100℃にて一晩撹拌する。反応混合物に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (NHシリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標題化合物を得る。
MS: [M+H]+434.2.
【0096】
実施例14
N-ベンジル-2-シクロプロピル-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン
【0097】
【化23】
【0098】
2,4-ジクロロ-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン、ベンジルアミン、トリエチルアミンおよびTHFの混合物を50℃にて一晩撹拌する。反応混合物に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、N-ベンジル-2-クロロ-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミンを得る。N-ベンジル-2-クロロ-5-メチルチエノ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、シクロプロピルボロン酸、酢酸パラジウム(II)、リン酸三カリウム、水およびトルエンの混合物を100℃にて一晩撹拌する。反応混合物に飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、標題化合物を得る。
MS: [M+H]+296.1.
【0099】
試験例1
ALSは運動神経細胞変性に起因する代表的な運動ニューロン疾患であり、その多くは孤発性である。そこで、非特許文献9に記載されているiPS細胞クローンのうち、孤発性ALS患者から樹立されたクローンALS10(SALS)を用いて、本発明に用いられる化合物の効果を検討した。具体的には、テトラサイクリン誘導性のLhx3、Ngn2、Isl1遺伝子を導入したALS10(SALS)のstable line(以降、単にALS10細胞と呼ぶ)を用いて、孤発性ALS細胞モデルに対する変性抑制効果を解析した。ALS10細胞は、培地にテトラサイクリンまたはその誘導体を添加することで速やかに(約7日以内に)運動神経細胞へと分化し、分化後は自発的に変性を引き起こすALS細胞モデルである(非特許文献9)。よって、ALS10細胞では、運動神経細胞への分化誘導(すなわち、前記Lhx3、Ngn2、Isl1遺伝子の発現誘導)から約7日後から14日後にかけて、顕著な神経変性と細胞死が認められる(非特許文献9)。
ALS10細胞は、フィーダー細胞(マイトマイシン処理したSNL細胞)上で、Primate ES Cell 培地(ReproCell、RCHEMD001A)、4 ng/ml hbFGF(Wako、060-04543)、50 μg/ml G418(Nacalai、09380-86)、Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific、15140-122)からなるiPS細胞維持培地を用いて培養した。
ALS10細胞のアッセイプレートへの播種方法は次の通りである。
DMEM/F-12 (1:1)(Thermo Fisher Scientific、11330-057)、N2 supplement(Thermo Fisher Scientific、17502-048)、Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific、15140-122)、10 ng/ml 組み換えヒトBDNF(PeproTech、450-02)、10 ng/ml 組み換えヒトGDNF(PeproTech、450-10)、10 ng/ml 組み換えヒトNT-3(PeproTech、450-03)、1μM Retinoic acid(Sigma、R2625)、1μg/ml Doxycycline(Clontech、631311)、1μM SAG(Enzo life sciences、ALX-270-426-M001)、10 μM Y-27632(Wako、253-00513)からなるアッセイ培地を用いマトリゲルを20倍希釈したのち、384-wellプレートをコーティングした。
次に、ALS10細胞を分散後、アッセイ培地に懸濁した細胞を1 wellあたり1x104 cellsになるようマトリゲルコーティングしたアッセイ用プレートに播種した。
【0100】
ALS10細胞から分化させた運動神経細胞の計数方法は次の通りである。
前項の方法に従ってアッセイプレートに播種したALS10細胞を、播種4日後にY-27632を含まないアッセイ培地を追添加して播種6日後まで培養したのち、PFA(Wako、163-20145)固定し、βIII-tubulinによる免疫染色を行った。細胞固定、膜透過処理、ブロッキング後、抗βIII-tubulin抗体(R&D、MAB1195)を10,000倍希釈した一次抗体溶液を添加して、4℃で16時間静置した。一次抗体を洗浄除去したのち、一次抗体と同じ溶液で1,000倍希釈したAlexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG (H+L)(Molecular Probes、A11029)を二次抗体溶液として添加して室温で1時間静置した。最後に、二次抗体溶液を洗浄除去したのち、D-PBS(-)を分注した。なお、この方法(すなわち、Lhx3、Ngn2、Isl1遺伝子の発現誘導による分化誘導)で得られるβIII-tubulin陽性細胞のほとんどは、運動神経細胞である。
以上のプレートを、ハイコンテントアナライザーで測定することにより、wellあたりのβIII-tubulin陽性細胞数(すなわち、生存している運動神経細胞数)を計測した。ハイコンテントアナライザーは、パーキンエルマー社のOpera Phenixを用いた。図1には典型的なOperaでの取得画像を示す。
【0101】
被検化合物の活性の検出方法は次の通りである。
培養開始6日後から14日後にかけて、所定濃度の被検化合物を含むアッセイ培地(Retinoic Acid、Doxycycline、SAG、Y-27632不含)で細胞を培養し、培養開始から6日後と14日後の細胞に対し前項の方法に従って免疫染色を行い、生存している運動神経細胞数(βIII-tubulin陽性細胞数)を計数した。ALS10細胞から分化した運動神経細胞では、変性を開始した運動神経細胞のほとんどが14日後までには細胞体が顕著に萎縮または断片化するため、14日後にβIII-tubulin陽性であった細胞数(より詳細には、細胞体数)を計測することで、生存している運動神経細胞数を評価することができる。陰性対照としては、被験物質の代わりにDMSOを添加したアッセイ培地で培養した細胞を用いた。
陰性対照における運動神経細胞数の減少を被検化合物が抑制する程度を被検化合物の運動神経細胞変性抑制活性と定義し、それは以下の式により算出した。
被検化合物の運動神経細胞変性抑制活性 = ((X-C)/(T-C))x100
X:培養開始14日後の被検化合物群の運動神経細胞数、C:培養開始14日後のDMSO群の運動神経細胞数、T:培養開始6日後の運動神経細胞数
以下表1に、被検化合物濃度3μmol/l における活性値を示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示されるように、実施例1~14のいずれの被験化合物においても運動神経細胞変性抑制率は40%以上となり、ASL10細胞の自発的な細胞死が非常に顕著に抑制されたことがわかる。よって、これらの化合物は、ALS、特に孤発性ALSの優れた運動神経細胞変性阻害剤として使用できることが示された。
なお、実施例10の被験化合物では運動神経細胞変性抑制率が100%を超える結果となったが、この理由としては、被験化合物の添加を開始した時点(分化誘導開始から6日後)ではまだ運動神経細胞への分化途上だったものがあり得たためと思われる。
【0104】
試験例2
ALSのうち5-10%は遺伝性を有する家族性である。そこで、非特許文献9に記載されているiPS細胞クローンのうち、SOD1遺伝子変異L144FVXを有する家族性ALS患者から樹立されたクローンALS1を用いて、本発明に用いられる化合物の効果を検討した。具体的には、テトラサイクリン誘導性のLhx3、Ngn2、Isl1遺伝子を導入したALS1のstable line(以降、単にALS1細胞と呼ぶ)を用いて、家族性ALS細胞モデルに対する変性抑制効果を解析した。ALS1細胞は、培地にテトラサイクリンまたはその誘導体を添加することで速やかに(約7日以内に)運動神経細胞へと分化し、分化後は自発的に変性を引き起こすALS細胞モデルである(非特許文献9)。よって、ALS1細胞では、運動神経細胞への分化誘導(すなわち、前記Lhx3、Ngn2、Isl1遺伝子の発現誘導)から約7日後から14日後にかけて、顕著な神経変性と細胞死が認められる(非特許文献9)。
試験例1と同様の方法でALS1細胞をアッセイプレートへ播種した。播種4日後にY-27632を含まないアッセイ培地を追添加して播種7日後まで培養したのち、PFA(Wako、163-20145)固定し、試験例1と同様の方法で免疫染色を行い、運動神経細胞を計数した。なお、この方法(すなわち、Lhx3、Ngn2、Isl1遺伝子の発現誘導による分化誘導)で得られるβIII-tubulin陽性細胞のほとんどは、運動神経細胞である。
【0105】
被検化合物の活性の検出方法は次の通りである。
培養開始7日後から14日後にかけて、所定濃度の被検化合物を含むアッセイ培地(Retinoic Acid、Doxycycline、SAG、Y-27632不含)で細胞を培養し、前項の方法に従って免疫染色を行い、生存している運動神経細胞数(βIII-tubulin陽性細胞数)を計数した。ALS1細胞から分化した運動神経細胞では、変性を開始した運動神経細胞のほとんどが14日後までには細胞体が顕著に萎縮または断片化するため、14日後にβIII-tubulin陽性であった細胞数(より詳細には、細胞体数)を計測することで、生存している運動神経細胞数を評価することができる。陰性対照としては、被験物質の代わりにDMSOを添加したアッセイ培地で培養した細胞を用いた。
陰性対照における運動神経細胞数の減少を被検化合物が抑制する程度を被検化合物の運動神経細胞変性抑制活性と定義し、それは以下の式により算出した。
被検化合物の運動神経細胞変性抑制活性 = ((X-C)/(T-C))x100
X:培養開始14日後の被検化合物群の運動神経細胞数、C:培養開始14日後のDMSO群の運動神経細胞数、T:培養開始7日後の運動神経細胞数
以下表2に、被検化合物濃度3μmol/l における活性値を示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2に示されるように、検討を行ったすべての被験化合物について、16%以上もの運動神経細胞変性抑制率が得られた。よって、本発明に係る化合物は、家族性ALSに対しても優れた運動神経細胞変性抑制効果を有することが示された。
以上の結果より、本発明に用いられる化合物を含有する剤は、運動神経細胞変性阻害剤になり得ることが示された。
【0108】
製剤例
本発明化合物を有効成分として含有する医薬は、例えば、次のような処方によって製造することができる。
1.カプセル剤
(1)実施例1で得られた化合物 10mg
(2)ラクトース 90mg
(3)微結晶セルロース 70mg
(4)ステアリン酸マグネシウム 10mg
1カプセル 180mg
上記(1)、(2)および(3)の全量と5mgの(4)を混和した後、顆粒化し、これに残りの(4)を5mg加えて、全体をゼラチンカプセルに封入する。
【0109】
2.錠剤
(1)実施例1で得られた化合物 10mg
(2)ラクトース 35mg
(3)コーンスターチ 150mg
(4)微結晶セルロース 30mg
(5)ステアリン酸マグネシウム 5mg
1錠 230mg
上記(1)、(2)および(3)の全量と20mgの(4)および2.5mgの(5)を混和した後、顆粒化し、この顆粒に残りの(4)を10mgおよび(5)を2.5mg加えて加圧成型し、錠剤とする。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、優れた運動神経細胞変性阻害作用を有する化合物を含み、運動ニューロン疾患(例、筋萎縮性側索硬化症、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症、進行性仮性球麻痺、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症)等の予防または治療剤として有用である化合物を含有する剤(医薬、医薬組成物)を提供できる。
【0111】
本出願は、日本で2019年10月16日に出願された特願2019-189606号を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含される。
図1