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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】HVAC制御システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/63 20180101AFI20250114BHJP
   F24F 11/50 20180101ALI20250114BHJP
   F24F 11/47 20180101ALI20250114BHJP
   F24F 11/80 20180101ALI20250114BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20250114BHJP
   F24F 11/56 20180101ALI20250114BHJP
【FI】
F24F11/63
F24F11/50
F24F11/47
F24F11/80
F24F11/74
F24F11/56
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022520367
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 CN2020119923
(87)【国際公開番号】W WO2021068882
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】19130534.1
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HK
(73)【特許権者】
【識別番号】522128789
【氏名又は名称】アンビ・ラブス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、シャン・シン・ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ボワジエール、マルティン・ラファエル・ピエール・ノエル
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-231693(JP,A)
【文献】特開平10-030834(JP,A)
【文献】特開2013-219893(JP,A)
【文献】特表2013-526696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0262298(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108332373(CN,A)
【文献】特表2022-540964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/63
F24F 11/50
F24F 11/47
F24F 11/80
F24F 11/74
F24F 11/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合された1または複数のユーザインタフェースと、
前記快適性フィードバックと、1または複数の快適性因子および前記快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データとを受信するように適合されたプロセッサであって、
前記プロセッサは、それぞれのユーザに関する前記快適性フィードバックおよび前記入力データの両方に基づいて前記それぞれのユーザのためのそれぞれの快適性モデルを構築するように適合され、
前記それぞれの快適性モデルは、前記それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、前記それぞれのユーザに影響を及ぼす1または複数の前記快適性因子の1または複数の値に相関付け、
前記プロセッサは、それぞれのユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数のHVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させ、
ここで、前記プロセッサは、電力会社からの電力軽減命令を受信するように適合され、前記プロセッサは、前記電力軽減命令を順守しながら前記所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させ、
ここで、前記電力軽減命令は、複数の前記HVACユニット全体の合計電力軽減値に対応し、各ユーザに関する前記電力軽減命令は、前記合計電力軽減値が達成された場合に順守され、
ここで、1または複数の前記快適性モデルは、機械学習回帰モデルである、
HVAC制御システム。
【請求項2】
前記HVACユニットの1または複数は、それぞれの複数のユーザに対応し、
前記プロセッサは、前記それぞれの複数のユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコア平均が達成されるように、各HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
請求項に記載のHVAC制御システム。
【請求項3】
各所定の快適性スコアは、所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコアである、
請求項1または請求項2に記載のHVAC制御システム。
【請求項4】
前記電力軽減命令は、電力軽減値に対応し、
前記電力軽減命令は、前記電力軽減値が所定の期間にわたり達成された場合に順守される、
請求項に記載のHVAC制御システム。
【請求項5】
前記電力軽減命令は、各HVACユニットに関する温度設定点オフセットである、
請求項乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項6】
前記快適性因子は、温度、湿度、光度、時間帯、占有率、およびユーザ識別子の1または複数である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項7】
調節される前記HVACユニットの前記機能は、温度設定、モード、ファン速度、湿度設定、およびオン/オフ設定の1または複数である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項8】
前記快適性フィードバックは、記述的表現の形式である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項9】
前記快適性スコアは、離散的または連続的な数値範囲である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項10】
前記ユーザインタフェースは、ソフトウェアアプリケーションの形式である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項11】
前記ユーザインタフェースは、パーソナルデバイス、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、および端末の1または複数において実装される、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項12】
前記プロセッサは、ローカルサーバ、遠隔サーバ、クラウドサーバ、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、およびデスクトップコンピュータの1または複数に位置する、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項13】
前記入力データは、1または複数のセンサを介して提供される、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
【請求項14】
前記センサは、温度センサ、湿度センサ、光度センサ、動きセンサ、およびアクセス制御センサの1または複数を備える、
請求項13に記載のHVAC制御システム。
【請求項15】
HVACユニットを制御する方法であって、
複数のユーザからの快適性フィードバックを受信し、
1または複数の快適性因子および前記快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データを受信し、
プロセッサを用いて、それぞれのユーザに関する前記快適性フィードバックおよび前記入力データの両方に基づいて前記それぞれのユーザのためのそれぞれの快適性モデルを構築し、ここで、それぞれの快適性モデルは、前記それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、前記それぞれのユーザに影響を及ぼす1または複数の前記快適性因子の1または複数の値に相関付け、
プロセッサを用いて、それぞれのユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させ、
電力会社からの電力軽減命令を受信して、プロセッサを用いて、前記電力軽減命令を順守しながら前記所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
ここで、前記電力軽減命令は、複数の前記HVACユニット全体の合計電力軽減値に対応し、各ユーザに関する前記電力軽減命令は、前記合計電力軽減値が達成された場合に順守され、
ここで、1または複数の前記快適性モデルは、機械学習回帰モデルである、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HVAC制御システムおよびHVACユニットを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社および電力グリッド管理者は、総電気負荷が経時的に著しく変化するという共通の問題に直面している。電力グリッドは最大容量が固定されているため、不測の事態によって需給バランスが脅かされ、余剰電力を蓄積することはできるが、ピーク時の需要負荷によって停電を招くことがある。そのため、電力会社は、ピーク時の負荷削減を実施するという課題を有している。
【0003】
一般に、住宅の消費電力は合計消費電力のわずかな部分(15~30%)であるが、システムのピーク時には、住宅の消費電力が合計消費電力の50%超過にもなり得る。この住宅の消費電力の多くはエアコンの使用によるものであり、エアコンは、ピーク時には家庭の電力需要の50%超過にもなる。
【0004】
従来、負荷管理は、変動価格制を用いて行われてきた。たとえば、ピーク負荷が発生する可能性の高い一定の時間帯には、エネルギ価格が高くなる。問題は、これが、電力会社が望むほど予測可能ではない点である。これらの価格インセンティブは、負荷に対する削減の保証や直接的な制御をもたらすものではない。
【0005】
昨今、スマートグリッドの登場により、自動需要応答(ADRまたはDR)プログラムによる直接的な負荷制御が可能になった。特に、ADRプログラムは、スマートグリッドの一部である消費者の電気製品と直接通信し、それらのエネルギ消費を制御することによって、ピーク期間における消費者需要を低減するために用いられ得る。
【0006】
暖房、換気、および空調(HVAC)システムは、グリッド負荷の大部分を占めるので、多くのADRプログラムは、エアコンおよびそのエネルギ消費の直接的な制御を対象としている。
【0007】
基本的なADRプログラムは、電気製品を繰り返しオンおよびオフにすることによって動作し、より高度なプログラムは、温度設定(多くの場合、固定設定点、または現在の設定点の固定オフセット)を調整することによって動作する。繰り返しは、負荷制御スイッチを用いて実現され得るが、HVAC設定点の調節は、HVACがプログラム可能であり、スマートグリッドに接続されていることを必要とする。
【0008】
電力会社は、ADRプログラムによってより良い負荷制御を実現しているが、一方で消費者は、いつでも自由にプログラムからオプトアウトし離脱することができる。その理由の1つは、これらのプログラムによって義務付けられる粗い調節である。たとえば、現在の設定点の全面的なオフセットまたは特定のオンオフサイクルを全てのユーザに義務付けることにより、多数のユーザのオプトアウトを招くことは避けられない。これにより、これらのADRプログラムの成功および有効性が制限される。
【0009】
空調機器を対象とする住宅用ADRプログラムは、いくつかの国で試されており、米国におけるプログラムが最も大規模な展開を見せている。これらのADR試験は広く研究されており、そのような研究のサンプルが以下の表1に示される。
【0010】
【表1】
【0011】
上記サンプルに示され得るように、これらのADR試験に関する研究に見られる重要な問題は、比較的高いオプトアウト率(一般に20~30%)である。オプトアウト率は一般に、
i.屋外の気候条件(1°Fごとに3.6%の増加が推定される)、
ii.曜日(水曜に対し木曜は3.6%増)、
iii.DRイベント持続時間(1時間の延長ごとに3.3%増)、
iv.インセンティブ構造
を含むいくつかの要因に影響を及ぼされる。
【0012】
2010年のKEMAの分析によると、オプトアウトの主な理由は、ユーザの熱的不快感に関連する。オプトアウトしたDRプログラム参加者の調査に基づくと、68%のユーザが、熱的不快感の問題がオプトアウトの理由であると示した。
【0013】
別の関連する問題は、ユーザ、特に複数のユーザを満足させるためにHVACシステムをどのように制御および調節するかを決定することが難しい点である。特に、ユーザを満足させるために必要な性能を実現するためにHVACユニットに必要な設定点を決定することは困難である。
【0014】
本発明の目的は、従来技術の欠点の少なくとも1つを克服または改善すること、あるいは有用な代替策を提供することである。
【発明の概要】
【0015】
本発明の実施形態は、第1の態様において、
ユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合されたユーザインタフェースと、
快適性フィードバックと、1または複数の快適性因子および快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データとを受信するように適合され、快適性フィードバックおよび入力データに基づいてユーザのための快適性モデルを構築するように適合されたプロセッサであって、快適性モデルは、快適性因子の1または複数の1または複数の値に快適性スコアを相関付け、プロセッサは、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、プロセッサと
を備えるHVAC制御システムを提供する。
【0016】
本発明の実施形態は、第2の態様において、HVACユニットを制御する方法を提供し、この方法は、
ユーザからの快適性フィードバックを受信することと、
1または複数の快適性因子および快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データを受信することと、
プロセッサを用いて、快適性フィードバックおよび入力データに基づいてユーザのための快適性モデルを構築することであって、快適性モデルは、快適性因子の1または複数の1または複数の値に快適性スコアを相関付けることと、
プロセッサを用いて、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させることと
を備える。
【0017】
本発明の他の特徴および実施形態は、添付の特許請求の範囲において見出され得る。
【0018】
特許請求の範囲を含む本明細書を通して、「備える」、「備えている」、および他の同様の用語は、特に明示されない限り、または文脈が明確に要求しない限り、包括的な意味、すなわち「含むが、これに限定されない」という意味で解釈すべきであり、排他的または網羅的な意味ではないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下、本発明の最適なモードに従った好適な実施形態が、添付図面を参照して単に例示として説明され、図面において、特に指定されない限り、同じ参照番号は、図面全体を通して同様の部品を指す。
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るHVAC制御システムの概略図である。
図2】本発明の別の実施形態に係る、HVAC制御システムの概略図である。
図3】温度および湿度が経時的に変動する際に様々なユーザが経験する快適性レベルのグラフである。
図4】DRイベント中のACユニットの設定点と比較した、実際の現在の快適性レベルおよびユーザの所望の快適性レベルのグラフである。
図5】本発明の実施形態に係る快適性オフセットを伴う、DRイベント中のACユニットの設定点および快適性オフセットと比較した、実際の現在の快適性レベルおよびユーザの所望の快適性レベルのグラフである。
図6】固定温度オフセットに対するユーザの相対的な満足度を示す、固定温度オフセットDRプログラムのインフォグラフィックである。
図7】本発明の実施形態に係る快適性オフセットを用いる場合と比較した、固定温度オフセットに対するユーザの相対的な満足度を示す、固定温度オフセットDRプログラムのインフォグラフィックである。
図8】本発明の実施形態に係る快適性オフセットに対するユーザの相対的な満足度と比較した、固定温度オフセットに対するユーザの相対的な満足度を示す、固定温度オフセットDRプログラムのインフォグラフィックである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図を参照すると、ユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合されたユーザインタフェース2を備えるHVAC制御システム1が提供される。プロセッサ3は、快適性フィードバックと、1または複数の快適性因子および快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データとを受信するように適合される。プロセッサ3は、快適性フィードバックおよび入力データに基づいてユーザのための快適性モデル4を構築するように適合され、快適性モデル4は、快適性因子の1または複数の1または複数の値に快適性スコアを相関付ける。プロセッサ3は、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。HVACユニット5は、暖房、換気、空調ユニット、または、快適性因子または快適性因子に影響を及ぼす他の任意の環境条件を変化させ、またはその変化をもたらす他の任意の電気製品である。
【0022】
図に示す実施形態において、プロセッサ3は、HVACユニット5の1または複数の機能を調節するためのコントローラ6の一部を形成し得る。たとえば、コントローラ6は、HVACユニット5の赤外線受信機に赤外線信号を送信することによってHVACユニット5の機能を調節する独立型コントローラユニットの形態であってよい。赤外線受信機は、通常、携帯型リモコンからの赤外線信号を受信するものと同じ赤外線受信機であってよい。
【0023】
他の実施形態において、プロセッサ3は、コントローラから遠隔に位置するサーバの一部を形成し得る。サーバおよびそれに伴うプロセッサ3は、無線通信ネットワークであってよい通信ネットワークを介してコントローラ6に接続される。たとえば、典型的な通信プロトコルは、セルラ、Wi-Fi、およびBluetooth(登録商標)である。
【0024】
他の実施形態において、プロセッサ3は、ローカルサーバ、(上述したような)遠隔サーバ、クラウドサーバ、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、およびデスクトップコンピュータの1または複数に位置してよい。プロセッサ3は、複数の物理プロセッサであってよく、したがって複数の位置に位置してよい。これにより、1または複数の物理プロセッサが使用不可能な場合に代替の物理プロセッサを用いることが可能な冗長性、またはより多くの処理能力が得られる。
【0025】
他の実施形態において、1または複数のユーザインタフェース2は、複数のユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合される。プロセッサ3は、それぞれのユーザに関する快適性フィードバックおよび入力データの両方に基づいて、それぞれのユーザのためのそれぞれの快適性モデル4を構築するように適合される。それぞれの快適性モデル4は、それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、それぞれのユーザに影響を及ぼす1または複数の快適性因子の1または複数の値に相関付ける。プロセッサ3は、各ユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数のHVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。
【0026】
HVACユニット5の1または複数がそれぞれの複数のユーザに対応する場合、プロセッサ3は、それぞれの複数のユーザに関する所定の快適性スコアが達成されるように、各HVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。
【0027】
たとえば、各部屋が1つのHVACユニット5によってサービスされる多室建物において、部屋ごとに1人のユーザしかいない場合、プロセッサ3は、ユーザに関する所定の快適性スコアが達成されるように、各部屋にサービスするHVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。室内に複数のユーザがいる場合、プロセッサ3は、その部屋のユーザに関する所定の快適性スコアの平均値が達成されるように、その部屋にサービスするHVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。
【0028】
快適性モデル4は、各ユーザのために構築され、そのユーザからの快適性フィードバックと、ユーザに影響を及ぼす1または複数の快適性因子およびこれらの快適性因子のそれぞれの値に対応する、そのユーザに関する入力データとに基づいて、そのユーザのためにパーソナライズされるものである。快適性モデル4は、機械学習回帰モデル、または人工知能または機械学習アルゴリズムに基づく他の任意のモデルである。
【0029】
快適性モデル4は、プロセッサに関連するメモリユニットの支援を伴い、または伴わず、プロセッサ3によって実装され得る。メモリユニットは、プロセッサ3にローカルに接続され得る。たとえば、プロセッサ3がコントローラ6の一部を形成する場合、メモリユニットもまたコントローラ6に位置し得る。あるいは、メモリユニットは、遠隔に、たとえば遠隔サーバに位置してよい。メモリユニットは、複数の物理メモリユニットであってもよく、したがって複数の位置に位置してよい。これにより、1または複数の物理メモリユニットが使用不可能である場合に代替の物理メモリユニットを用いることが可能な冗長性、またはより多くのメモリ空間が得られる。
【0030】
またメモリユニットは、1または複数の快適性因子および快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データも記録する。入力データは、現在の受信入力データまたは過去に受信された履歴入力データのいずれかまたは両方であってよい。快適性因子は、温度、湿度、光度、時間帯、占有率、ユーザ識別子、およびユーザの快適性に影響を及ぼす他の任意の因子の1または複数であってよい。ユーザ識別子は、特定のユーザに関する快適性モデル4がHVAC制御システム1によって識別され用いられ得るように、特定のユーザを識別するために用いられ得る。入力データは、1または複数のセンサを介して提供され得る。たとえば、センサは、温度センサ、湿度センサ、光度センサ、動きセンサ、およびアクセス制御センサの1または複数を備えてよい。
【0031】
快適性フィードバックは、記述的表現の形式であってよい。有利な点として、これは、HVAC制御システム1が、あらゆるタイプのユーザにとって使い易いことを意味する。記述的表現は、快適性見解の形式であってよく、有利な点として、たとえば温度設定などのメトリックまたは数字形式である必要はない。たとえば、記述的表現は、「暑い」、「寒い」、「暖かい」、「涼しい」、「快適」、「湿度が高い」、または「乾燥している」であってよい。快適性因子または環境条件に関する任意の自然言語記述子が用いられ得る。
【0032】
快適性スコアは、離散的または連続的な数値範囲である。たとえば、快適性スコアは、たとえば-3から3までの整数などの離散的な数値範囲であってよい。あるいは、快適性スコアは、-3から3までの実数などの連続的な数値範囲であってよい。連続的な数値範囲は、快適性スコアが任意の精度であってよいという利点を有する。たとえば、離散的な数値範囲の1つは以下の通りである。
【0033】
+3・・・熱い
+2・・・暖かすぎる
+1・・・少し暖かい
0・・・快適
-1・・・少し寒い
-2・・・寒すぎる
-3・・・凍える
【0034】
連続的な数値範囲の1つは、上記の離散的な数値範囲に挙げた数字ならびにその間にある全ての実数である。これは、たとえば「快適」と「少し暖かい」との中間に0.5の快適性スコアが割り当てられ得ることを意味する。別の例として、-2.5の快適性スコアは、「寒すぎる」と「凍える」との中間を意味する。快適性スコアは、快適性モデル4によって計算される。数値範囲を用いることにより、ユーザが快適性フィードバックを表現する方法にかかわらず、特定のユーザに関する快適性レベルの簡単かつ一貫した表示がもたらされる。上述したように、快適性フィードバックは、記述的表現または自然言語記述子として表現されてもよく、こちらの方がユーザにとって大幅に簡単かつ自然である。
【0035】
各所定の快適性スコアは、所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコアであってよい。すなわち、単一の数値ではなく、所定の快適性スコアは、オフセット範囲によって定義される快適性スコアの範囲であってよい。これにより、特に、たとえば後述するような電力軽減命令のようにシステムに制限がある場合、HVAC制御システム1に、所定の快適性スコアを達成するためのある程度の柔軟性が設けられる。上記の例において、快適性スコアは、-3から3までの連続的な数値範囲内の数字である。所定の快適性スコアは0であってよい。ただし、快適性オフセット範囲が用いられ得る。たとえば、所定の快適性オフセット範囲は+0.5であってよく、これは、所定の快適性スコアが0~+0.5の任意の数字であることを意味する。所定の快適性スコアは、単に、たとえば目標または閾値として予め選択された快適性スコアである。所定の快適性オフセット範囲は、単に、たとえば目標または閾値として予め選択された快適性オフセット範囲である。所定の快適性オフセット範囲および快適性オフセット範囲は、簡潔性のために、それぞれ所定の快適性オフセットおよび快適性オフセットとも称され得る。
【0036】
本実施形態において、プロセッサ3は、電力会社からの電力軽減命令を受信するように適合される。プロセッサ3は、電力軽減命令に従いながらも所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、1または複数のHVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる。
【0037】
電力軽減命令は、自動需要応答(ADRまたはDR)プログラムの下で発行されるものであってよい。ADRプログラムは、スマートグリッドの一部である消費者の電気製品と直接通信し、それらのエネルギ消費を制御することによって、ピーク期間の消費者需要を低減するために用いられ得る。そのような通信は、DRイベントまたはDRトリガとも称される電力軽減命令を含む。基本的なADRプログラムは、ADRプログラムに加入したHVACユニットまたはシステムに、HVACユニットを繰り返しオンおよびオフにするように指示する電力軽減命令を発行することで動作し、より高度なプログラムは、温度設定を調整する電力軽減命令を発行することで動作する。この温度設定の調整は、多くの場合、固定設定点、または現在の設定点の固定オフセットの形態である。
【0038】
しかし、本発明の実施形態は、固定温度設定点または現在の設定点の固定オフセットではなく快適性スコアの達成に基づくので、固定温度設定点または現在の設定点の固定オフセットに基づく電力軽減命令が、快適性スコアの達成と同時にでも順守され得る。これは、快適性スコアが、1または複数の快適性因子の1または複数の値に相関しているためである。これは、一定範囲の温度が同じ快適性スコアに相関し得ることを意味する。これは、ユーザが特定の温度範囲にそれほど敏感ではないためであると考えられる。あるいは、温度範囲と快適性因子の他の値との組み合わせが、同じ快適性スコアに相関し得る。たとえば、温度変化と光度または湿度の変化との組み合わせの結果、ユーザによる快適性に識別可能な変化が生じない場合があるので、同じ快適性スコアと相関する。その結果、固定温度設定点または現在の設定点の固定オフセットに基づく電力軽減命令を順守しながらも、ユーザに関する所定の快適性スコアが達成され得る。
【0039】
所定の快適性スコアが、所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコアである場合、当然、これにより、たとえば固定温度設定点または現在の設定点の固定オフセットに基づくような電力軽減命令を順守しながらも、所定の快適性スコア(すなわち所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコア)を達成する上での柔軟性が高くなる。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明は、電力軽減命令が電力軽減値に対応しており、電力軽減値が所定の期間にわたり達成された場合に電力軽減命令が順守されると考える。
【0041】
このために、プロセッサ3は、たとえば(電力軽減命令によって提供される)固定設定点オフセットと、所定の期間にわたり平均すると固定設定点オフセットに対応する、対応する快適性スコア(単一の快適性スコアまたは快適性オフセット範囲のいずれか)とのマッピングを計算する。これを行う特定の方法の1つは、プロセッサ3を用いて、仮定快適性スコアの変化に伴いHVACユニット5がどの状態で展開されるかをシミュレートすることである。次に、任意の所与の時点で、所与の快適性スコアに関して展開される設定点が計算され得る。この仮定設定点と、展開される実際の設定点との差を考えることにより、所与の快適性スコアに対応する設定点オフセットが推測され得る。所定の期間にわたり設定点オフセットを平均し、様々な快適性スコアに関するグリッド検索を行うことにより、その後、上述したマッピングが得られ得る。
【0042】
他の実施形態において、本発明は、電力軽減命令が複数のHVACユニットにわたる合計電力軽減値に対応しており、合計電力軽減値が達成された場合に各ユーザに関する電力軽減命令が順守されると考える。
【0043】
このために、プロセッサ3は、たとえば(電力軽減命令によって提供される)固定設定点オフセットと、複数のユーザ全体で平均すると固定設定点オフセットに対応する、対応する快適性スコア(単一の快適性スコアまたは快適性オフセット範囲のいずれか)とのマッピングを計算する。これを行う特定の方法の1つは、プロセッサ3を用いて、仮定快適性スコアの変化に伴いHVACユニット5がどの状態で展開されるかをシミュレートすることである。次に、所与の数のユーザに関して任意の所与の時点で、所与の快適性スコアに関して展開される設定点が計算され得る。この仮定設定点と、展開される実際の設定点との差を考えることにより、所与の快適性スコアに対応する設定点オフセットが推測され得る。一定期間内の多数のユーザにわたり設定点オフセットを平均し、様々な快適性スコアに関するグリッド検索を行うことにより、その後、上述したマッピングが得られ得る。
【0044】
上記例は、電力軽減命令が、各HVACユニットに関する温度設定点オフセットであることに基づいている。ただし、他の種類の電力軽減命令についても同じ原理および同様の計算がなされ得る。
【0045】
プロセッサ3によって調節されるHVACユニット5の1または複数の機能は、快適性因子の1または複数を変化させる、またはその変化をもたらす任意の機能であってよい。典型的には、調節されるHVACユニット5の機能は、温度設定、モード、ファン速度、湿度設定、およびオン/オフ設定の1または複数である。1つの実施形態において、調節されるHVACユニット5の機能は、通常、ユーザが手動で、またはリモコンによって調節するものである。たとえば、機能は、通常、ユーザによって操作されるリモコンからの赤外線信号を用いて調節されるものであってよい。この場合、HVAC制御システムは、HVACユニット5に赤外線信号を送信するように適合されたコントローラ6を含むことにより、リモコンの代わりに用いられる。有利な点として、これにより、HVAC制御システム1は、既存のHVACユニット5に後付けすることが可能である。複数のHVACユニット5が存在する場合、各HVACユニット5に1つの複数のプロセッサ3が存在し得る。この場合、各HVACユニット5に1つの複数のプロセッサ3が存在してよく、または全てのHVACユニット5を個別に制御する1つのプロセッサ3が存在してよい。他の実施形態において、調節されるHVACユニット5の機能は、通常、ユーザによって調節可能ではないものを含む。たとえば、プロセッサ3は、HVACユニット5の電源を制御し得る。この場合、HVACユニット5は、プロセッサ3に接続された、またはプロセッサ3と通信状態にある統合制御ユニットを含んでよい。
【0046】
典型的には、ユーザインタフェース2は、ソフトウェアアプリケーションの形態である。ユーザインタフェース2は、パーソナルデバイス、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、および端末の1または複数において実装され得る。たとえば、ユーザインタフェース2は、スマートフォンにダウンロード可能なアプリであってよい。この場合、プロセッサ3は、アプリの指示下にあるスマートフォンであってよい。あるいは、プロセッサ3は、たとえばコントローラ6または遠隔サーバなどの別のデバイスにあってよく、アプリ形式のユーザインタフェース2がプロセッサ3と通信する。通信は、セルラネットワーク、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、または他の任意の通信プロトコルを介し得る。
【0047】
他の態様において、本発明は、HVACユニットを制御する方法の実施形態を提供する。1つの実施形態において、方法は、ユーザからの快適性フィードバックを受信することと、1または複数の快適性因子および快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データを受信することと、プロセッサ3を用いて、快適性フィードバックおよび入力データに基づいてユーザのための快適性モデル4を構築することであって、快適性モデルは、快適性スコアを快適性因子の1または複数の1または複数の値に相関付けることと、プロセッサ3を用いて、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させることとを備える。
【0048】
方法の他の実施形態において、快適性フィードバックは、複数のユーザから受信される。それぞれのユーザに関する快適性フィードバックおよび入力データの両方に基づいて、それぞれのユーザのためのそれぞれの快適性モデル4が構築される。それぞれの快適性モデル4は、それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、それぞれのユーザに影響を及ぼす快適性因子の1または複数の1または複数の値に相関付ける。それぞれのユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数のHVACユニット5の1または複数の機能が調節され、1または複数の快適性因子を変化させる。
【0049】
追加の実施形態において、方法は、電力会社からの電力軽減命令を受信することと、プロセッサ3を用いて、電力軽減命令を順守しながら所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、1または複数のHVACユニット5の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させることとを備える。
【0050】
方法の他の実施形態および特徴は、特にHVAC制御システム1に関する上記説明から明らかである。
【0051】
本発明の実施形態は、電力消費を削減するために、DRイベントまたはDRトリガとしても知られる電力軽減命令を発行するADRプログラムと共に用いる場合に特に有利である。電力軽減命令は、たとえばHVACユニット5などの電気製品を直接制御するため、または動作制限を命じるために、電力会社によって発行される。そのような電力軽減命令は、各HVACユニット5に関する固定温度設定点または固定温度設定点オフセット(すなわち現在の設定点の固定オフセット)を含む。
【0052】
本発明者は、ユーザの快適性レベル(熱的快適性)に対する2℃の温度オフセットの影響に関する分析を行った。図6に最も良く示されるように、分析により、約26%のユーザが、+2℃の温度オフセットを「暖かすぎる」と感じることが明らかになり、これは、過去の研究から経験的に観測されたオプトアウト率と密接に一致する。彼らの快適性プロファイルに基づいて、これらのユーザは、熱的不快感に敏感である可能性が高いと考えられ、たとえば湿度などの温度以外の熱的快適性要因にも敏感であるか、あるいは断熱性の低い、または熱放射への露出が高い住宅に住んでいる可能性がある。
【0053】
残りの74%のユーザのうち、本発明者の分析および快適性モデルは、39%が「少し暖かい」と感じることを予測し、これは、適切な削減レベルであると考えられる。しかし、更なる34%のユーザについて、本発明者の分析および快適性モデルは、ユーザがその条件をわずかに暖かいとしか感じない(その差にほとんど気づかない場合がある)と予測する。これは、これらのユーザにとっては削減が足りず、彼らに過度の不快感をもたらすことなく温度オフセットを更に大きくする機会があることを意味する。
【0054】
典型的な固定の「画一的」温度オフセットを用いるのではなく、本発明の実施形態は、ユーザの個人的な快適性の好みを知ることに基づいて各ユーザのためのカスタム削減レベルを作成する。上述したように、これは、各ユーザに関する快適性フィードバックおよび入力データの両方に基づいて、そのユーザのための快適性モデル4を構築することによって行われ、快適性モデル4は、そのユーザに関する快適性スコアを、そのユーザに影響を及ぼす1または複数の快適性因子の1または複数の値に相関付ける。
【0055】
そのような体制の下で、温度オフセットは、熱に敏感なセグメント(すなわち、上述した分析で「暖かすぎる」となることが予測された人々)に関して低減される。適切に削減された39%のユーザについては+2℃のオフセットが維持され、より高い温度で快適性を維持することが可能であると思われるユーザについては温度オフセットが増大される。図7および図8は、本発明の実施形態に係る快適性モデル4を用いた、この温度オフセット分布を示す。固定サイクル速度および固定オフセットまたは設定点ではなく、快適性モデル4に基づいてDRイベントを実施することにより、オプトアウト率をより良く制御することができ、電力削減または軽減が最大化され、またはより良く管理され得る。本発明の実施形態に係るHVAC制御システム1は、快適性レベルおよび快適性モデル4に基づいてHVACユニットおよび他の消費者電気製品の設定点を動的に調節することにより、HVACエネルギ消費を直接的に制御する。
【0056】
快適性モデル4は、教師付き方式で訓練することができ、ユーザインタフェース2を介してユーザによって提供される快適性フィードバック(たとえば上述した「凍える」から「暑い」までの7点スケール)から学習して一般化する。
【0057】
訓練後、快適性モデル4は、いくつかの特定の快適性要因が与えられた場合にユーザがどの程度の快適性を感じるかを予測することができる。快適性モデル4は、0が「快適」を表す-3(「凍える」)から3(「暑い」)までの範囲の連続的な快適性レベルを出力し、これは、ユーザによって用いられる離散的な7点快適性フィードバックの連続的な対応部分である。
【0058】
同じ室内条件で、2人の異なるユーザが異なる感覚を持つことがある。これは、快適性モデル4によって提供される快適性予測によって反映される。ユーザ識別子は、快適性因子の一部であってよく、それによって、ユーザの個々の快適性モデル4と関連付けることができ、快適性モデル4がパーソナライズされた快適性出力を提供する。
【0059】
たとえば、同じ室内条件においてユーザAがユーザBよりも湿度に敏感である場合、快適性モデル4は、ユーザの熱的嗜好を反映するパーソナライズされた快適性予測を提供する。これは、図3に最も良く示される。
【0060】
1つの実施形態において、HVACユニット5がどの状態を展開するかを決定するために、プロセッサ3またはコントローラ6は、閉フィードバックループコントローラとして動作する。コントローラは、トラッキングエラーを最小限にするために、HVAC設定(電力、モード、設定温度)を常に調節する。
【0061】
サーモスタットの場合、一般的なコントローラは、所望の室温と現在の室温との差を最小限にしようと試みる。
【0062】
本発明の実施形態において、室温を維持することではなく、室内条件がユーザにとって快適であるように(快適性モデル4に従って)HVAC設定(または他の機能)を調節することが目標である。そのために、プロセッサ3またはコントローラ6は、ユーザの快適性、すなわち(快適性モデル4から得られる)所与のユーザの所望の快適性レベルと現在の快適性レベルとの差(「快適」の場合は0)に基づいて、トラッキングエラーを最小限にする。これは、図1に最も良く示される。
【0063】
電力軽減命令(すなわちDRイベントまたはDRトリガ)の際は、快適性モデルおよびプロセッサ3を活用して、特定の快適性レベルに到達するようにHVACユニット5を制御することが目標である。
【0064】
現在のDRイベントに関連する(単一の快適性スコアまたは快適性オフセット範囲を含む)快適性スコアは、その後、プロセッサ3に供給される所望の快適性スコアを計算するために用いられる。これにより、プロセッサ3は、ユーザに関する快適性スコアまたは快適性オフセット範囲内の快適性スコア(たとえば+0.5の快適性オフセット)を維持しながらも、エネルギ消費の低減をもたらす通常より高い設定点を展開することが可能である。
【0065】
固定オフセットを有する従来のDRイベントの実施と比較すると、快適性の変動が設定点の変動の犠牲になり、すなわち、温度オフセットがユーザに展開され、オフセットは空間的に固定され(全てのユーザに対して同じであり)、かつ時間的にも固定され(イベントの途中で変化せず)、その結果、ユーザの快適性に大きな変動が生じ、オプトアウトを招く。
【0066】
対照的に、快適性モデル4に基づく本発明の実施形態を用いると、快適性スコアまたは快適性オフセット範囲がユーザに適用され、スコアまたはオフセットが空間的および時間的に固定された結果、ユーザの快適性は安定し、DRイベントを通して同様のレベルである。その結果展開された設定点オフセットは、空間および時間を通して変化し、パーソナライズされた快適性を提供するとともに、快適性因子の一定の変動を補償する。これは、図4および図5に最も良く示される。
【0067】
従来のDRイベントの実施は、固定設定温度オフセットを特徴とするが、本発明の実施形態は、快適性モデル4に基づく(単一の快適性スコアまたは所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコアを含む)快適性スコアに基づいてDRイベントを実施する。1つの実施形態において、HVAC制御システム1は、固定設定点オフセットと、(空間および時間にわたり)平均して同様のまたは同じ設定点オフセットに対応する、対応する快適性スコアまたはオフセットとのマッピングを計算する。
【0068】
そのために、プロセッサ3は、仮定快適性スコアまたはオフセットが変更された場合にHVACユニットがどの状態で展開されるかをシミュレートするために用いられる。したがって、所与の数のユーザに関して任意の所与の時点で、所与の快適性スコアまたはオフセットに関して展開される設定点が計算され得る。この仮定設定点と展開される実際の設定点との差を考えることにより、所与の快適性スコアまたはオフセットに対応する設定点オフセットが推測され得る。図2を参照。
【0069】
一定の期間および多数のユーザにわたり設定点オフセットを平均化し、様々な快適性スコアまたはオフセット値に関するグリッド検索を行うことにより、上述したマッピングが得られ得る。
【0070】
以下の例は、快適性オフセット範囲と設定点オフセットとのマッピングを示す。
【表2】
【0071】
上述した実施形態は、本発明の原理を説明するために用いられた典型的な実施形態にすぎず、本発明は、それらに限定されるものではないことも理解される。当業者は、本発明の主旨および本質から逸脱することなく、様々な変形および修正を行うことができ、これらの変形および修正もまた本発明の範囲内に含まれる。したがって、本発明は特定の例を参照して説明されたが、当業者には、本発明が他の多くの形態で具体化され得ることが理解される。また、当業者には、説明された様々な例の特徴が他の組み合わせで組み合わせられ得ることも理解される。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
ユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合されたユーザインタフェースと、
前記快適性フィードバックと、1または複数の快適性因子および前記快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データとを受信するように適合され、前記快適性フィードバックおよび前記入力データに基づいて前記ユーザのための快適性モデルを構築するように適合されたプロセッサとを備え、
前記快適性モデルは、前記快適性因子の1または複数の1または複数の値に快適性スコアを相関付け、
前記プロセッサは、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
HVAC制御システム。
[2]
1または複数のユーザインタフェースは、複数のユーザからの快適性フィードバックを受信するように適合され、
前記プロセッサは、それぞれのユーザに関する前記快適性フィードバックおよび前記入力データの両方に基づいて前記それぞれのユーザのためのそれぞれの快適性モデルを構築するように適合され、
前記それぞれの快適性モデルは、前記それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、前記それぞれのユーザに影響を及ぼす1または複数の前記快適性因子の1または複数の値に相関付け、
前記プロセッサは、それぞれのユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
[1]に記載のHVAC制御システム。
[3]
前記HVACユニットの1または複数は、それぞれの複数のユーザに対応し、
前記プロセッサは、前記それぞれの複数のユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコア平均が達成されるように、各HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
[2]に記載のHVAC制御システム。
[4]
各所定の快適性スコアは、所定の快適性オフセット範囲内の快適性スコアである、
[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[5]
前記プロセッサは、電力会社からの電力軽減命令を受信するように適合され、
前記プロセッサは、前記電力軽減命令を順守しながら前記所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、前記HVACユニットの1または複数の1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
[1]乃至[4]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[6]
前記電力軽減命令は、電力軽減値に対応し、
前記電力軽減命令は、前記電力軽減値が所定の期間にわたり達成された場合に順守される、
[5]に記載のHVAC制御システム。
[7]
前記電力軽減命令は、複数の前記HVACユニット全体の合計電力軽減値に対応し、
各ユーザに関する前記電力軽減命令は、前記合計電力軽減値が達成された場合に順守される、
[5]又は[6]に記載のHVAC制御システム。
[8]
前記電力軽減命令は、各HVACユニットに関する温度設定点オフセットである、
[5]乃至[7]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[9]
前記快適性因子は、温度、湿度、光度、時間帯、占有率、およびユーザ識別子の1または複数である、
[1]乃至[8]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[10]
調節される前記HVACユニットの前記機能は、温度設定、モード、ファン速度、湿度設定、およびオン/オフ設定の1または複数である、
[1]乃至[9]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[11]
前記快適性フィードバックは、記述的表現の形式である、
[1]乃至[10]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[12]
前記快適性スコアは、離散的または連続的な数値範囲である、
[1]乃至[11]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[13]
前記快適性モデルは、機械学習回帰モデルである、
[1]乃至[12]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[14]
前記ユーザインタフェースは、ソフトウェアアプリケーションの形式である、
[1]乃至[13]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[15]
前記ユーザインタフェースは、パーソナルデバイス、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、および端末の1または複数において実装される、
[1]乃至[14]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[16]
前記プロセッサは、ローカルサーバ、遠隔サーバ、クラウドサーバ、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、およびデスクトップコンピュータの1または複数に位置する、
[1]乃至[15]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[17]
前記入力データは、1または複数のセンサを介して提供される、
[1]乃至[16]のいずれか1項に記載のHVAC制御システム。
[18]
前記センサは、温度センサ、湿度センサ、光度センサ、動きセンサ、およびアクセス制御センサの1または複数を備える、
[17]に記載のHVAC制御システム。
[19]
HVACユニットを制御する方法であって、
ユーザからの快適性フィードバックを受信し、
1または複数の快適性因子および前記快適性因子のそれぞれの値に対応する入力データを受信し、
プロセッサを用いて、前記快適性フィードバックおよび前記入力データに基づいて前記ユーザのための快適性モデル、ここで前記快適性モデルは、1または複数の前記快適性因子の1または複数の値に快適性スコアを相関付ける、を構築し、
プロセッサを用いて、所定の快適性スコアが達成されるように、HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
方法。
[20]
快適性フィードバックは複数のユーザから受信され、
それぞれのユーザに関する前記快適性フィードバックおよび前記入力データの両方に基づいて、前記それぞれのユーザに関してそれぞれの快適性モデルが構築され、
前記それぞれの快適性モデルは、前記それぞれのユーザに関するそれぞれの快適性スコアを、前記それぞれのユーザに影響を及ぼす1または複数の前記快適性因子の1または複数の値に相関付け、
それぞれのユーザに関するそれぞれの所定の快適性スコアが達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能が調節されて1または複数の快適性因子を変化させる、
[19]に記載の方法。
[21]
電力会社からの電力軽減命令を受信し、
プロセッサを用いて、前記電力軽減命令を順守しながら前記所定の快適性スコアの1または複数が達成されるように、1または複数の前記HVACユニットの1または複数の機能を調節して1または複数の快適性因子を変化させる、
[19]乃至[21]のいずれか1項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8