(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 11/08 20060101AFI20250114BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20250114BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20250114BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250114BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20250114BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20250114BHJP
C09J 133/10 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C09J11/08
C09J4/02
C09J7/38
C09J11/06
C09J133/04
C09J133/08
C09J133/10
(21)【出願番号】P 2024015006
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2023147865の分割
【原出願日】2023-09-12
【審査請求日】2024-02-02
【審判番号】
【審判請求日】2024-06-28
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白取 由佑子
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】光本 美奈子
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-67279(JP,A)
【文献】特開2012-67280(JP,A)
【文献】特開2004-11386(JP,A)
【文献】特表平11-504054(JP,A)
【文献】特表2016-503451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物であって、
アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル0~55質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル35~93質量部と、カルボキシ基を有する単量体7~20質量部とを含有する第2アクリル系部分共重合
体と、
多官能モノマーと、
粘着付与樹
脂と、を含み、
前記粘着付与樹脂は、水添脂環族系石油樹脂であり、
前記第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、前記粘着付与樹脂0.5~4.5質量部を含有
し、
前記粘着付与樹脂の軟化点は100℃である、
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物(ただし、重量平均分子量が1000以上30000未満の(メタ)アクリル系重合体を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、イソブチレン系ポリマーを含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、アクリル系共重合体中に容積比率0.5%以上15%未満の割合で分散された微粒子を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、及び2-プロピルヘプチルアクリレートを含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を除く)。
【請求項2】
前記第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、前記粘着付与樹脂1.5~4質量部を含有する、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂の重量平均分子量(Mw)は、300~2500であり、
ここで、前記重量平均分子量(Mw)はGPC法により測定される、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂の色調(ハーゼン単位色数)は、150以下であり、
ここで、前記色調(ハーゼン単位色数)はJIS K0071に準拠して測定される、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項5】
前記第2アクリル系部分共重合
体100質量部に対して、前記多官能モノマー0.1~1.5質量部
を含有する、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項6】
前記第2アクリル系部分共重合
体100質量部に対して、前記多官能モノマー0.1~1.0質量部
を含有する、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項7】
光重合開始剤を更に含み、
前記第2アクリル系部分共重合
体100質量部に対して、前記光重合開始剤0.1~1.5質量部
を含有する、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項8】
前記光重合開始剤は、自己開裂型光ラジカル重合開始剤である、
請求項7に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項9】
前記アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステルは、2-エチルヘキシルアクリレート
であり、
前記アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステルは、ブチルアクリレートである、
請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物。
【請求項10】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に設けられた請求項1に記載の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物からなる粘着剤層と、を備える、
粘着シート。
【請求項11】
前記粘着剤層は、活性エネルギー線を用いて前記無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を硬化させることによって形成される、
請求項10に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系粘着剤は、各種ラベル、シート、テープ、及びフィルム等の基材に設けられる粘着剤層として用いられている。近年では、環境面や安全性への配慮から、溶剤型アクリル系粘着剤と同等の性能を持つ、溶剤を使用しない無溶剤型アクリル系粘着剤が開発されている。これにより、溶剤型アクリル系粘着剤に匹敵する多様な優れた性能を有するUV硬化型の無溶剤型アクリル系粘着剤が使用されるようになってきた。無溶剤型アクリル系粘着剤の主成分としては、アクリルシロップ(アクリル系モノマーを部分的に重合させたアクリル系部分共重合体)が使用され得る。
【0003】
一般的に、アクリル系粘着剤は、粘着性、耐反撥性、及び保持性(凝集力)等の接着性や、透明性、耐熱性、耐光性、耐候性、及び耐油性等の耐老化性に優れている。そのため、アクリル系粘着剤は、幅広い分野の様々な被着体に対して、高い信頼性を有する接着性を有している。
【0004】
しかし、アクリル系粘着剤は、家電製品、建材、自動車内装・外装材などに多く用いられるポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂に代表される低表面自由エネルギー(低極性)の被着体に対して、十分な接着性を有さない。
【0005】
ポリオレフィン系樹脂は、耐熱性や高い強度を有し、耐薬品性及び汎用性に富むので、様々な製品に使用される。しかし、ポリオレフィン系樹脂の表面自由エネルギーが低いため、ポリオレフィン系樹脂に対するアクリル系粘着剤の接着性を高めることは難しいといった課題がある。
【0006】
上記の課題を踏まえて、特許文献1~3は、低極性の被着体に対するアクリル系粘着剤の接着性を高めるために、アクリル系粘着剤に対して粘着付与樹脂(例えば、ロジン系樹脂や石油系樹脂)を配合する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-207151号公報
【文献】特表平11-504054号公報
【文献】特開2003-165958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の溶剤型アクリル系粘着剤では、多量の有機溶剤を用いるため作業者の人体に悪影響を及ぼすとともに、粘着テープへ加工する際に不要な有機溶媒を除去する必要があり、自然環境に配慮しているとは言い難い。また、特許文献1~3の提案通り、粘着付与樹脂をアクリルシロップ(アクリル系モノマーを部分的に重合させたアクリル系部分共重合体)に添加した場合、硬化阻害を十分に回避できず十分な粘着特性を得られない。
【0009】
そこで、本発明は、透明性に優れ、低極性の被着体に対する十分な粘着特性を有する粘着シートを実現する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的を達成するために、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル0~55質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル35~93質量部と、カルボキシ基を有する単量体7~20質量部とを含有する第2アクリル系部分共重合体と、多官能モノマーと、粘着付与樹脂と、を含み、前記粘着付与樹脂は、水添脂環族系石油樹脂であり、前記第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、前記粘着付与樹脂0.5~4.5質量部を含有し、前記粘着付与樹脂の軟化点は100℃である、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物(ただし、重量平均分子量が1000以上30000未満の(メタ)アクリル系重合体を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、イソブチレン系ポリマーを含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、アクリル系共重合体中に容積比率0.5%以上15%未満の割合で分散された微粒子を含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物、及び2-プロピルヘプチルアクリレートを含む無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を除く)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性に優れ、低極性の被着体に対する十分な粘着特性を有する粘着シートを実現する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0013】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。本明細書における原料配合量の単位に関して、「部」は「質量部」を表すものとする。
【0014】
本明細書において「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。本明細書において「粘着特性」は、後述の試験1~3において測定される粘着シートの粘着力、保持力、及び定荷重剥離力に関する特性をまとめて表す用語である。「粘着シートの透明性」は、後述の試験4において評価される粘着剤層の可視光(例えば、波長380~780nm)条件下の定性的な透明度のことを表すものとする。
【0015】
<無溶剤型アクリル系粘着剤組成物>
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、第1アクリル系部分共重合体、及び、第2アクリル系部分共重合体のいずれかと、多官能モノマーと、粘着付与樹脂と、を含む。なお、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、第1アクリル系部分共重合体、及び、第2アクリル系部分共重合体のいずれかを含むが、これに限られることはなく、第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体を任意の配合比率で含んでも良い。
【0016】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、実質的に溶剤を含有しない。溶剤(例えば、有機溶剤)を実質的に含有しないとは、有機溶剤が不可避的に混入する場合を除いて、有機溶剤を能動的に無溶剤型アクリル系粘着剤組成物に配合しないことをいう。無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の溶剤含有量は、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物100重量%に対して好ましくは2重量%以下、より好ましくは0~2重量%、さらに好ましくは0~1重量%である。溶剤含有量が多すぎると、粘着剤層に気泡が発生し、粘着シートの耐久性等が低下することがある。
【0017】
<第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体>
第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体は、アクリル系モノマーを部分的に共重合させた共重合体であり、本明細書において「アクリルシロップ」とも呼ばれる。無溶剤型アクリル系粘着剤組成物がアクリルシロップを含有することにより生じる利点は、以下の通りである。例えば、アクリル系粘着剤組成物の塗布後の溶剤除去や架橋促進が不要となるため、環境に優しく、人体への安全性が高い作業工程で粘着シートを得ることができる。
【0018】
第1アクリル系部分共重合体は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル60~93質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル0~30質量部と、官能基を有する単量体7~20質量部とを含有する。ここで、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、好ましくは60~93質量部、60~90質量部、又は65~90質量部である。アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、好ましくは0~30質量部、0~28質量部、又は0~25質量部である。官能基を有する単量体の含有量は、好ましくは7~20質量部、7~15質量部、又は10~15質量部である。なお、第1アクリル系部分共重合体は、上記のモノマーと共重合可能なその他のモノマーを更に含有してもよい。
【0019】
第2アクリル系部分共重合体は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル0~63質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル30~93質量部と、官能基を有する単量体7~20質量部とを含有する。ここで、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、好ましくは0~63質量部、0~60質量部、又は0~55質量部である。アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、好ましくは30~93質量部、33~93質量部、又は35~90質量部である。官能基を有する単量体の含有量は、好ましくは7~20質量部、7~15質量部、又は10~15質量部である。なお、第2アクリル系部分共重合体は、上記のモノマーと共重合可能なその他のモノマーを更に含有してもよい。
【0020】
((メタ)アクリル酸エステル)
(メタ)アクリル酸エステルは、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステルと、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステルとに区分される。
【0021】
アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ノルマルオクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノルマルノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ノルマルデシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、及びラウリル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0022】
アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、及びヘプチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0023】
(官能基を有する単量体)
官能基を有する単量体は、ヒドロキシ基を有する単量体と、カルボキシ基を有する単量体と、アミド基を有する単量体の少なくともいずれか含む。
【0024】
ヒドロキシ基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)を挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0025】
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、及びメサコン酸等の不飽和カルボン酸を挙げることができる。これらのモノマーは単独で又は2種類以上を混合して用いられる。特に、カルボキシ基を有する単量体としては、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及び粘着剤層の凝集力向上の観点から、アクリル酸が好ましい。
【0026】
アミド基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0027】
(その他のモノマー)
その他のモノマーとしては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリルを挙げることができる。これらのモノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0028】
(重合方法)
第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体は、通常の溶液重合、塊状重合、及び活性エネルギー線照射による重合などにより製造され得るが、溶剤を使わずに重合する塊状重合や活性エネルギー線重合が好ましい。塊状重合や活性エネルギー線重合によれば、脱溶剤などの工程を経ることなく、第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体が得られ、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造にそのまま使用することができる。
【0029】
(熱重合開始剤)
第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体を製造する際に使用する熱重合開始剤としては、例えば、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ジベンゾイルパーオキサイド、ビス(2-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、及びジ-t-ブチルパーオキサイドなどの油溶性有機過酸化物、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)などの油溶性アゾ化合物などを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0030】
(光重合開始剤)
活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光線、赤外線等の光)照射により第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体を製造する際に使用する光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系開始剤、ベンゾイン系開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、α-アミノアセトフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキシド系開始剤を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0031】
(連鎖移動剤)
第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤を適宜使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、α-メチルスチレンダイマーを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0032】
<多官能モノマー>
多官能モノマーは、1分子内に2つ以上のエチレン性不飽和基を含有するモノマーである。多官能モノマーとしては、例えば、ビスフェノールF型EO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型EO変性ジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,9-ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ポリブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ペンタ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;その他に、(メタ)アクリル酸ビニル、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらの多官能モノマーは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0033】
多官能モノマーの市販品としては、例えば、ビスフェノールF型EO変性(n≒2)ジアクリレート(アロニックスM-208/東亞合成社製)、トリメチロールプロパントリアクリレート(アロニックスM-309/東亞合成社製)、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート(アロニックスM-400/東亞合成社製)を挙げることができる。
【0034】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体それぞれの100質量部に対して、多官能モノマー0.1~1.5質量部、好ましくは0.1~1.3質量部、より好ましくは0.1~1.0質量部をそれぞれ含有する。
【0035】
<粘着付与樹脂>
粘着付与樹脂は、主成分(アクリルシロップ)と比較して低分子量を有し、常温において液状又は固形の熱可塑性樹脂のことである。無色透明な粘着付与樹脂をアクリルシロップに添加することで、良好な透明性及び低極性被着体(例えば、オレフィン系樹脂)に対する粘着特性を有する粘着シートを実現することができる。粘着付与樹脂は、アクリルシロップの硬化阻害の大きな要因となる二重結合が極端に少ない、例えば水添石油樹脂が好ましい。水添石油樹脂とは、無色透明で耐候性、耐熱性に優れ、臭気がほとんどない炭化水素樹脂のことである。
【0036】
水添石油樹脂としては、例えば、脂肪族系石油樹脂(C5系石油樹脂)、脂環族系石油樹脂(ジシクロペンタジエン(DCPD)系石油樹脂)、芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、脂環族/芳香族共重合系石油樹脂、脂肪族/脂環族共重合系石油樹脂を部分的に又は完全に水添してなる樹脂を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。ここで、水添石油樹脂は、粘着シートの透明性と粘着特性を向上させる観点から、好ましくは水添脂環族系石油樹脂又は水添DCPD系石油樹脂である。
【0037】
粘着付与樹脂(水添石油樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、主成分(アクリルシロップ)に対する良好な相溶性を得る観点から、好ましくは300~2500、より好ましくは350~2200である。ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定された値(標準ポリスチレン換算した値)である。
【0038】
粘着付与樹脂(水添石油樹脂)の軟化点は、好ましくは80~160℃、より好ましくは80~150℃である。軟化点が上記範囲にある水添石油樹脂をアクリルシロップに添加することで、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物及びその粘着剤層の凝集力をより向上させることができる。ここで、軟化点は、環球法により測定された値である。
【0039】
粘着付与樹脂(水添石油樹脂)の色調(ハーゼン単位色数)は、粘着シートの透明性を高める観点から、好ましくは150以下、140以下、130以下、120以下、又は110以下、より好ましくは100以下である。ここで、色調は、JIS K0071に準拠して測定された値である。なお、ハーゼン単位色数とは、常温で液体の化学製品又は加熱して溶融状態になる化学製品の着色度を評価する尺度のことである。
【0040】
脂肪族系石油樹脂としては、例えば、ナフサのC5石油留分から得られるC5系石油樹脂等を挙げることができる。C5石油留分としては、例えば、イソプレン、トランス-1,3-ペンタジエン、シス-1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等に代表される炭素数4~6の共役ジオレフィン性不飽和炭化水素類;ブテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンテン等に代表される炭素数4~6のモノオレフィン性不飽和炭化水素類;シクロペンタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘキサン等の脂肪族系飽和炭化水素;これらの混合物等を挙げることができる。
【0041】
脂環族系石油樹脂としては、例えば、ナフサのジシクロペンタジエン類石油留分から得られるジシクロペンタジエン(DCPD)系石油樹脂を挙げることができる。ジシクロペンタジエン類石油留分としては、例えば、ジシクロペンタジエン等の炭素数10の環状脂肪族化合物;メチルジシクロペンタジエン等の炭素数11の環状脂肪族化合物;ジメチルジシクロペンタジエン等の炭素数12の環状脂肪族化合物;これらの混合物等を挙げることができる。
【0042】
水添脂環族系石油樹脂の市販品としては、
アルコンM-135(軟化点135℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンM-115(軟化点115℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンM-100(軟化点100℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンM-90(軟化点90℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンP-140(完全水添、軟化点140℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンP-125(完全水添、軟化点125℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンP-115(完全水添、軟化点115℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンP-100(完全水添、軟化点100℃、荒川化学工業株式会社製)、
アルコンP-90(完全水添、軟化点90℃、荒川化学工業株式会社製)、
T-REZ HA085(軟化点88.0℃、ENEOS株式会社製)、
T-REZ HA103(軟化点104.0℃、ENEOS株式会社製)、
T-REZ HA105(軟化点105.0℃、ENEOS株式会社製)、
T-REZ HA125(軟化点125.0℃、ENEOS株式会社製)を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0043】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、ナフサのC9石油留分から得られるC9系石油樹脂、C9系石油樹脂を単独又は複数重合させた共重合体等を挙げることができる。C9石油留分としては、例えば、スチレン等の炭素数8の芳香族化合物;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等の炭素数9の芳香族化合物;1-メチルインデン、2-メチルインデン、3-メチルインデン等の炭素数10の芳香族化合物;2,3-ジメチルインデン、2,5-ジメチルインデン等の炭素数11の芳香族化合物;これらの混合物等を挙げることができる。
【0044】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、第1アクリル系部分共重合体100質量部に対して、粘着付与樹脂を0.5~20質量部、好ましくは1~18質量部、より好ましくは1.5~16質量部、更に好ましくは1.5~15質量部又は2.5~15質量部を含有する。無溶剤型アクリル系粘着剤組成物が、上記所定量の粘着付与樹脂を含有しない場合、粘着シートの粘着特性を向上させることができない。
【0045】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、粘着シートの透明性及び粘着特性を向上させる観点から、第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、粘着付与樹脂を0.5~4.5質量部、好ましくは1~4.5質量部、より好ましくは1.5~4.5質量部、更に好ましくは1.5~4質量部又は2.5~4質量部を含有する。一方で、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物が、第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、粘着付与樹脂を4.5質量部よりも多く含む場合、粘着シートの透明性が低下してしまう。
【0046】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光線、赤外線等の光)照射によりラジカル等の活性種を発生しうる開始剤のことをいい、例えば、自己開裂型光ラジカル重合開始剤である。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系開始剤、ベンゾイン系開始剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、α-アミノアセトフェノン系開始剤、アシルフォスフィンオキシド系開始剤を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。光重合開始剤は、重合物の変色の観点から、好ましくは自己開裂型光ラジカル重合開始剤である。
【0047】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物が光重合開始剤を含有し、紫外線硬化することによる利点は、以下の通りである。例えば、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の塗布後に養生が不要となり、短い工程・時間で粘着シートを得ることができる。このように、粘着シートの生産効率向上及び製造コスト低減に寄与することが可能である。
【0048】
アセトフェノン系開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシアセトフェノンを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0049】
ベンゾイン系開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0050】
α-ヒドロキシアセトフェノン系開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノンを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。α-ヒドロキシアセトフェノン系開始剤の市販品としては、例えば、Omnirad184(IGM Resins社製)を挙げることができる。
【0051】
チオキサントン系開始剤としては、例えば、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントンを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0052】
α-アミノアセトフェノン系開始剤としては、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(モルフォリノ)フェニル]-1-ブタノンを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0053】
アシルフォスフィンオキシド系開始剤としては、例えば、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドを挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。アシルフォスフィンオキシド系開始剤の市販品としては、例えば、OmniradTPO H(IGM Resins社製)を挙げることができる。
【0054】
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、第1アクリル系部分共重合体と第2アクリル系部分共重合体それぞれの100質量部に対して、光重合開始剤0.1~1.5質量部、好ましくは0.3~1.2質量部をそれぞれ含有する。
【0055】
<その他の添加剤>
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、必要に応じて、粘着シートの粘着性能等を阻害しない範囲で各種添加剤を含有しても良い。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、増粘剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、難燃剤を挙げることができる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。
【0056】
<粘着剤>
本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射によって硬化するため、厚塗り塗工が可能である。また、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いた粘着剤は、両面粘着用途、耐衝撃用途、及び強粘着用途の粘着剤として好適に用いることができる。本発明の粘着剤の被着体としては、例えば、ガラスやITO透明電極シート、ポリオレフィン系樹脂などの低極性材料、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の光学シート類、偏光板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム等の光学部材を挙げることができる。さらに、本発明の粘着剤は、透明性に優れるため、上記光学部材の少なくともいずれかを含む表示装置に対して好適に用いることができる。また、本発明の粘着剤は、各種ラベル用粘着剤やマスキング用粘着剤として用いることができる。
【0057】
<粘着シート>
本発明の粘着シートは、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられた本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物からなる粘着剤層とを備える。粘着剤層は、活性エネルギー線を用いて無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を硬化させることによって形成される。本発明の粘着シートは、上記で説明した粘着剤と併用することができ、粘着剤と同様の用途で用いることができる。粘着剤層及び粘着シートは、以下で説明する方法により形成することができる。
【0058】
本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を基材に塗布し、塗膜を形成する。必要に応じて、塗膜上に塗膜を保護するためのカバーフィルムを貼り合わせる。
【0059】
(基材及びカバーフィルム)
基材及びカバーフィルムとしては、例えば、ポリエステル(例:ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のプラスチック製フィルム;ガラス板等の無機材料;不織布;紙を挙げることができる。基材及びカバーフィルムは、シリコーン等の離型剤で表面が剥離処理されていてもよい。基材及びカバーフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば5~500μmである。
【0060】
(塗布方法)
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を基材の任意の面(片面又は両面)に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、ダイコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法を挙げることができる。
【0061】
(硬化方法)
無溶剤型アクリル系粘着剤組成物が光重合開始剤を含有する場合には、塗膜に活性エネルギー線を照射して、無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を硬化させることができる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、可視光線、赤外線等の光が挙げられ、特に紫外線が好ましい。活性エネルギー線の積算光量は、好ましくは100~7000mJ/cm2、より好ましくは500~3000mJ/cm2である。また、活性エネルギー線の照度は、好ましくは50~700mW/cm2、より好ましくは100~500mW/cm2である。光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライト蛍光灯、無電極UVランプを挙げることができる。
【0062】
(粘着剤層)
粘着剤層の厚さは、用途に応じて適宜選択することができ、十分な粘着力を粘着シートに付与する観点から、例えば3~1000μm、好ましくは5~500μm、より好ましくは7~300μmである。
【0063】
<アクリルシロップA~Fの製造方法>
表1は、アクリルシロップの原料配合と物性を示す。表1のアクリルシロップAの原料配合に基づいて、攪拌機、温度計、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)90部、アクリル酸(AAC)10部、熱重合開始剤(2,2'-アゾビスイソブチロニトリル)0.005部を仕込む。これらを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、63℃で1時間反応させた。反応終了後、同組成比のモノマーで希釈し、蒸発残分8.4質量%のアクリルシロップAを得た。アクリルシロップAの粘度は、粘度計(東機産業社製、装置名:B型粘度計)を用いて測定された。
【0064】
アクリルシロップB~Fは、表1の原料配合に基づき、アクリルシロップAと同様の工程で得られるため、詳細な説明を省略する。
【0065】
<溶剤型粘着剤Aの製造方法>
表1の溶剤型粘着剤Aの原料配合に基づいて、攪拌機、温度計、逐次滴下装置、還流冷却器、及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、酢酸エチル45部、熱重合開始剤(2,2'-アゾビスイソブチロニトリル)0.1部を仕込む。一方、別の容器に、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)90部、アクリル酸(AAC)10部からなるモノマー混合物を用意した。上記反応装置を、窒素ガス気流中において90℃に昇温し、別の容器に計量したモノマー混合物を60分間かけて滴下させ、90℃で7時間重合反応を行った。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、蒸発残分50.0質量%のアクリルポリマーの溶剤型粘着剤Aを得た。
【0066】
【表1】
(備考)
・アクリルシロップA~D:第1アクリル系部分共重合体に相当
・アクリルシロップE~F:第2アクリル系部分共重合体に相当
・C8以上のモノマー:アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル
・C8未満のモノマー:アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル
・2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・NOAA:ノルマルオクチルアクリレート
・AAC:アクリル酸
【0067】
<無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の製造方法>
表2は、実施例1~13の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物の原料配合を示す。表2の実施例1の原料配合に基づき、アクリルシロップA100部に対して、多官能モノマーAとしてアロニックスM-208(商品名、東亞合成社製)を0.4部、粘着付与樹脂AとしてアルコンP-100(商品名、荒川化学工業社製)を2.5部、光重合開始剤AとしてOmnirad184(商品名、IGM Resins社製)を0.5部添加して、充分に混合して実施例1の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0068】
実施例2~13の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物等は、表2の原料配合に基づき、実施例1と同様の工程で得られた。
【0069】
表3は、比較例1~9の無溶剤型/溶剤型アクリル系粘着剤組成物の原料配合を示す。表3の原料配合と実施例1と同様の工程に基づき、比較例1~9の無溶剤型/溶剤型アクリル系粘着剤組成物が得られた。なお、比較例9の溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、粘着付与樹脂Aが溶剤型粘着剤Aに対して十分に溶解せず、粘着付与樹脂A(水添石油樹脂)の析出が多く見られた。そのため、比較例9の溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いて、後述の評価用サンプルを作製できなかった。
【0070】
【表2】
(備考)
・多官能モノマーA:ビスフェノールF型EO変性(n≒2)ジアクリレート(アロニックスM-208/東亞合成社製)
・多官能モノマーB:トリメチロールプロパントリアクリレート(アロニックスM-309/東亞合成社製)
・多官能モノマーC:ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート(アロニックスM-400/東亞合成社製)
・単官能モノマー:フェノールEO変性アクリレート(アロニックスM-101A/東亞合成社製)
・粘着付与樹脂A:水添石油樹脂(アルコンP-100/荒川化学社製)
・粘着付与樹脂B:水添石油樹脂(アルコンP-125/荒川化学社製)
・粘着付与樹脂C:水添石油樹脂(T-REZ HA105/ENEOS社製)
・粘着付与樹脂D:水添ロジンエステル系樹脂(パインクリスタルKE-311/荒川化学社製)
・粘着付与樹脂E:水添ロジンエステル系樹脂(パインクリスタルKE-359/荒川化学社製)
・粘着付与樹脂F:芳香族水添テルペン樹脂(クリアロンK-100/ヤスハラケミカル社製)
・粘着付与樹脂G:芳香族系炭化水素樹脂(FTR-6100/三井化学社製)
・光重合開始剤A:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Omnirad184/IGM Resins社製)
・光重合開始剤B:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(OmniradTPO H/IGM Resins社製)
・硬化剤:トリレンジイソシアネート(タケネートD-101E(45EA)/三井化学社製)
【0071】
【表3】
(備考)
・表2の説明と同じであるため、説明を省略する。
【0072】
<評価用サンプルの作成>
実施例1~13及び比較例1~8のそれぞれの無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いて、以下の評価用サンプルを作製した。
【0073】
実施例1~13及び比較例1~8のそれぞれの無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いて、以下の方法でPETフィルムに厚さ35μmの粘着剤層を形成し、粘着シートを作製した。各無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を、シリコーン樹脂コートされたPETフィルム(離型性基材)上に塗布後、PETフィルムを貼り合わせ、下記の紫外線硬化条件で紫外線を照射し硬化させた。紫外線硬化条件は、メタルハライドランプを使用して照度300mW/cm2、積算光量1550mJ/cm2での照射条件を含む。照度・光量計として、EIT社製「UV POWER PUCK」を使用した。
【0074】
<粘着特性及び透明性の評価>
作製された各評価用サンプル(粘着シート)を用いて、試験1~4を行い、粘着特性及び透明性を評価した。
【0075】
(試験1 粘着力の測定)
各粘着シートについて、JIS Z0237に準じて、23℃、50%RHの環境下、試験板(ポリプロピレン(PP)板)に対する180°引きはがし粘着力を測定した。具体的には、粘着シートを幅25mmに切断し、ポリプロピレン(PP)板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着して、PP板に対する粘着力測定用の試験片を作製した。圧着させてから23℃で20分間放置した後の試験片を、引きはがし速度300mm/分の条件で粘着シートを引きはがし、PP板に対する粘着力を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの粘着力を評価した。
(評価基準)
合格:粘着力が5.0N/25mm以上である
不合格:粘着力が5.0N/25mm未満である
【0076】
(試験2 保持力の測定)
各粘着シートを幅25mm、長さ50mmのサイズに切断し、保持力測定用の試験片を作製した。この試験片を、JIS Z0237に準じて、接着面積が25mm×25mmになるようにポリプロピレン(PP)板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着させた。その後、23℃、50%RHの環境下に60分間放置してから、80℃の環境下で、おもり取り付け用のフックを含めて0.5kgのおもりを取り付け、60分後の試験片のずれた距離(ずれ長さ;mm)、又は、試験片が完全に剥がれ落ちた時間(落下時間;分)を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの保持力を評価した。
(評価基準)
合格:ずれ長さが1.0mm以下である
不合格:ずれ長さが1.0mmを超える、又は、保持時間60分以内に試験片が落下する
【0077】
(試験3 定荷重剥離力の測定)
各粘着シートを幅25mm、長さ70mmのサイズに切断し、定荷重剥離力測定用の試験片を作製した。この試験片を、接着面積が25mm×50mmになるようにポリプロピレン(PP)板に貼り付け、2kg荷重にて圧着ロールで1往復圧着させた。その後、23℃、50%RHの環境下に60分間放置してから、40℃の環境下で、圧着したテープ試料を専用ジグにセットし、かつ、評価対象であるテープ試料の端部に、粘着面に対して90°方向に引きはがす荷重がかかるように、おもり取り付け用のフックを含めて0.05kgのおもりを取り付けた。60分後の試験片のハガレ距離(ハガレ長さ;mm)、又は、試験片が完全に剥がれ落ちた時間(落下時間;分)を測定した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの定荷重剥離力を評価した。
(評価基準)
合格:ハガレ長さが20.0mm以下である
不合格:ハガレ長さが20.0mmを超える、又は、保持時間60分以内に試験片が落下する
【0078】
(試験4 透明性)
可視光下で、粘着シートの粘着剤層の透明性を目視で確認した。以下の評価基準に基づいて、粘着シートの透明性を評価した。
(評価基準)
合格:粘着剤層が透明である(表2~3で〇と記載)
不合格:粘着剤層が白化している(表2~3で×と記載)
【0079】
<試験結果>
表2は、実施例1~13の試験結果を示す。表3は、比較例1~9の試験結果を示す。実施例1~13は、低極性の被着体(ポリプロピレン(PP))に対する良好な粘着特性(粘着力、保持力、定荷重剥離力)をバランス良く有し、良好な透明性を有していた。一方で、比較例1~8は、低極性の被着体(ポリプロピレン(PP))に対する良好な粘着特性をバランス良く有さなかった。特に、比較例8は、粘着特性に優れることを示す一方で、粘着剤層の白化を示した。なお、比較例9は、粘着付与樹脂A(水添石油樹脂)が溶剤型粘着剤Aに溶解せず、評価用サンプル(粘着シート)を作製できなかったため、試験1~4を行っていない。
【0080】
以下、比較例1~9の特徴を説明する。比較例1は、粘着付与樹脂を含有しない無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例2は、多官能モノマーの代替として単官能モノマーを含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例3~4は、水添ロジンエステル系樹脂を含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例5~6は、芳香族水添テルペン樹脂を含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例7は、芳香族系炭化水素樹脂を含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例8は、第2アクリル系部分共重合体に対して本発明の規定量よりも多い水添石油樹脂を含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。比較例9は、溶剤型アクリル系粘着剤組成物を示す。
【0081】
表2~3の試験結果によれば、粘着付与樹脂として水添石油樹脂と、多官能モノマーとを少なくとも含有する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を用いることで、透明性に優れ、低極性の被着体に対する十分な粘着特性を有する粘着シートを実現できるものと推察される。
【0082】
以上の通り、本発明の無溶剤型アクリル系粘着剤組成物は、透明性に優れ、低極性の被着体に対する十分な粘着特性を有する粘着シートを実現できるといった顕著な効果を有する。
【0083】
また、本発明は、環境に優しく、人体への安全性が高い無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することができるため、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献することが可能である。
【0084】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【要約】
【課題】本発明は、透明性に優れ、低極性の被着体に対する十分な粘着特性を有する粘着シートを実現する無溶剤型アクリル系粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル60~93質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル0~30質量部と、官能基を有する単量体7~20質量部とを含有する第1アクリル系部分共重合体、及び、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸エステル0~63質量部と、アルキル基の炭素数が8未満の(メタ)アクリル酸エステル30~93質量部と、官能基を有する単量体7~20質量部とを含有する第2アクリル系部分共重合体のいずれかと、多官能モノマーと、粘着付与樹脂と、を含み、粘着付与樹脂は、水添石油樹脂であり、第2アクリル系部分共重合体100質量部に対して、粘着付与樹脂0.5~4.5質量部を含有する。
【選択図】なし