(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】焼結合金及び金型
(51)【国際特許分類】
C04B 35/56 20060101AFI20250114BHJP
C22C 29/04 20060101ALI20250114BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20250114BHJP
【FI】
C04B35/56 070
C22C29/04 A
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2024525554
(86)(22)【出願日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2024016345
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238016
【氏名又は名称】冨士ダイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】三守 秀門
(72)【発明者】
【氏名】小椋 勉
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05470807(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108059460(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110981488(CN,A)
【文献】下平 高次郎,TiC-Cr3C2系固溶体及びTiC-Cr3C2-(Ni,Co)系サーメットの耐酸化性に関する研究,窯協,日本,1958年,Vol. 66,P. 83-88
【文献】蜂須賀 武治,TiC-Cr3C2系複合セラミックスの焼結機構,粉体および粉末冶金,1990年08月,Vol. 37, No. 6,P. 861-868
【文献】仁野 章弘,超硬バインダーレスWCの粒成長支配因子の解明,様式C-19 科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,日本,2012年,P. 1-5,URL:<https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22760553/22760553seika.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/56-35/577
C22C 29/06-29/10
C22C 1/051
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項2】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする焼結合金。
【請求項3】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、前記結合相を8.2体積%以下含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項4】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、前記結合相を8.2体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする焼結合金。
【請求項5】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相とからなり、
前記化合物相を8~95体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項6】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相とからなり、
前記化合物相を8~95体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする焼結合金。
【請求項7】
WC相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記Cr
3C
2相を10~
50体積%含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項8】
WC相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記Cr
3C
2相を10~
50体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項9】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、WC相と、Cr
3C
2相とからなることを特徴とする焼結合金。
【請求項10】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、WC相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を10~90体積%含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする焼結合金。
【請求項11】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を10~90体積%含有し、
前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする焼結合金。
【請求項12】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素
(ただし、Ta又はNbを必須元素として含むか、Ti,Ta及びNbのうち少なくとも1種にVをさらに含む。)と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相と、Cr
3C
2相とからなり、
前記化合物相を10~90体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする焼結合金。
【請求項13】
前記化合物相を10~90体積%含有することを特徴とする請求項
9に記載の焼結合金。
【請求項14】
前記WC相の含有量に対する前記Cr
3C
2相の含有量の体積比が0.125~8であることを特徴とする請求項9~12のいずれかに記載の焼結合金。
【請求項15】
前記WC相の粒度が0.1~2.5μmであることを特徴とする請求項7~12のいずれかに記載の焼結合金。
【請求項16】
請求項1~12のいずれかの焼結合金からなる金型。
【請求項17】
WC相と、Cr
3
C
2
相とからなり、
前記Cr
3
C
2
相を10~90体積%(ただし、65~90体積%を除く。)含有する焼結合金からなることを特徴とする加熱成形用金型。
【請求項18】
WC相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr
3
C
2
相とからなり、
前記Cr
3
C
2
相を10~90体積%(ただし、65~90体積%を除く。)含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有する焼結合金からなることを特徴とする加熱成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結合金、及び焼結合金からなる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
各種光学レンズ成形用金型の材料にはSUS420J2、超微粒超硬合金、バインダレス超硬合金等が用いられてきたが、非球面レンズ等の金型といった形状精度が求められる場合には熱膨張係数が小さいバインダレス超硬合金が使用されている。
【0003】
他方、レンズ材料として多様な材料が使用されつつあり、従来材料よりも熱膨張係数が大きいレンズ材料が使用されたり、従来の金型材料の熱膨張係数では成形しにくい形状のものを成形したりする場合に、熱膨張係数が大きい金型材料が使用されることもある。
【0004】
特許第2574426号(特許文献1)は、ガラス光学素子のプレス成形に用いる光学素子成形用型において、該型の少なくともガラスに接する部分が、(a) タングステンが65.7~92.9重量%、チタンが24.0~0.8重量%、炭素が10.3~6.3重量%、残りが不可避不純物からなる組成を有し、かつ(b) 第1相が炭化タングステン相、第2相がNaCl型結晶のチタンとタングステンの固溶体複炭化物相の2相混合組織である光学素子成形用型を開示している。
【0005】
特許第6049978号(特許文献2)は、NbCを20 mass%以上40 mass%以下、Niを0.3 mass%以上10 mass%以下、および不可避不純物を含み、残部がCr3C2である、Cr3C2-NbC-Ni組成を備え、熱膨張係数が大きいガラス材料の成形に有利な熱膨張係数が大きい成形金型用焼結合金を開示している。この熱膨張係数が大きい成形金型用焼結合金は、熱膨張係数が大きい材料の成形のみでなく、従来材料では成形に難がある形状の材料の成形も可能とした。
【0006】
特許第7351582号(特許文献3)は、前記の熱膨張係数が大きい成形金型用焼結合金の耐酸化性を向上させ、金型寿命を延ばすとともに成形品の品質を高めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2574426号
【文献】特許第6049978号
【文献】特許第7351582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、成形する製品の多様化に伴い種々の熱膨張係数を有する成形材料が提案され、また従来にない特殊な形状を成形する機会が増えている。これらの用途に対応するためには、適切な熱膨張係数を有する成形金型を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、必要とする任意の熱膨張係数を得ることができる上に、必要に応じて鏡面性、熱伝導性、強度、耐酸化性などの特性を付与できるレンズ成形用金型材料に関する。
【0010】
すなわち、本発明者らは、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とを含む固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相(以下、「MC相」とも呼ぶ。)、Cr3C2相及びWC相のうち2種以上の硬質相を含む焼結合金は、Cr3C2相の熱膨張係数が10.3 MK-1程度であり、WC相の熱膨張係数が4.2~5.0 MK-1程度であるため、従来のバインダレス超硬合金の熱膨張係数4~5MK-1から、特許文献2及び3の材料の熱膨張係数9MK-1程度までの間の任意の熱膨張係数を有するとともに、必要に応じて鏡面性、熱伝導性、強度、耐酸化性などの特性を付与できる成形用金型材料として好適であることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の第一の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Cr3C2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第二の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Cr3C2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする。
【0013】
本発明の第三の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr3C2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、前記結合相を8.2体積%以下含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の第四の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr3C2相とからなり、
前記化合物相を38~95体積%含有し、前記結合相を8.2体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする。
【0015】
本発明の第五の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相とからなり、
前記化合物相を8~95体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の第六の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相とからなり、
前記化合物相を8~95体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする。
【0017】
本発明の第七の実施態様による焼結合金は、WC相と、Cr3C2相とからなり、
前記Cr3C2相を10~90体積%含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の第八の実施態様による焼結合金は、WC相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、Cr3C2相とからなり、
前記Cr3C2相を10~90体積%含有し、前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の第九の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、WC相と、Cr3C2相とからなることを特徴とする。
【0020】
本発明の第十の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、WC相と、Cr3C2相とからなり、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする。
【0021】
本発明の第十一の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相と、Cr3C2相とからなり、
前記結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする。
【0022】
本発明の第十二の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、W及びMoのうち少なくとも1種と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相と、Cr3C2相とからなり、
前記結合相を2.0体積%以下含有し、
前記化合物相には、前記化合物相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していることを特徴とする。
【0023】
前記第九~第十二の実施態様において、前記化合物相を10~90体積%含有するのが好ましい。
【0024】
前記第九~第十二の実施態様において、前記WC相の含有量に対する前記Cr3C2相の含有量の体積比が0.125~8であるのが好ましい。
【0025】
前記WC相の粒度が0.1~2.5μmであるのが好ましい。
【0026】
前記第一~第十二の実施態様において、ホットプレスにより焼結してなるのが好ましい。
【0027】
本発明の一実施態様による金型は、上記の焼結合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、必要とする任意の熱膨張係数を得ることができる上に、必要に応じて鏡面性、熱伝導性、強度、耐酸化性などの特性を付与できるレンズ成形用金型材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1] 第一の実施態様
本発明の第一の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相(以下、「MC相」とも呼ぶ。)と、Cr3C2相とからなり、MC相を38~95体積%含有することを特徴とする。
【0030】
MC相は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素の炭化物、炭窒化物、窒化物、またそれらの固溶体(単一の化合物からなる場合も含む。)であり、NaCl型構造を有する。このようにTi,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種を含みNaCl型構造を有するMC相を含むことにより、焼結合金の耐酸化性が向上する。なかでもMC相にTiが含まれることにより、特に優れた耐酸化性が得られる。MC相はTa,Nb又はVにTiをさらに含む固溶相でもよい。その場合、Tiの含有量は、MC相に含まれる金属元素量に対して10~90 mol%であるのが好ましく、40~80 mol%であるのがより好ましい。MC相は炭化物又は炭窒化物であるのが好ましい。Ti,Ta,Nb及びVのうちTi炭化物は硬さが高いためMC相にTiが多いときは耐摩耗性に優れる材料となるが硬脆い傾向もあるため鏡面性が得にくい場合もあり、そのような場合にはTi添加量を少な目にしたほうがよい。Vを含ませると金型の耐凝着性が向上する。MC相はTi,Ta及びNbのうち少なくとも1種の金属元素にVをさらに含む固溶相でもよい。また、Ti,Ta,Nb及びVのうち成分が被加工材料に混入することを避けたい場合にはその元素量を少なくして調整することができる。また、酸素、ホウ素をさらに含んでもよく、Zr、Hf、Crをさらに含んでもよい。
【0031】
第一の実施態様による焼結合金(MC-Cr3C2合金)は、熱膨張係数7~9MK-1程度の焼結合金を得やすい上に、耐酸化性に優れている。MC相の含有量を38~95体積%とすることにより、7~9MK-1程度の狙いの熱膨張係数を得ることができる。MC相の含有量が95体積%超のとき、MC相の組織が粒成長しやすく、焼結合金の鏡面性が得にくい。MC相の含有量が38体積%未満のとき、9MK-1程度より小さい熱膨張係数を得にくい。MC相の含有量は40~90体積%であるのが好ましく、45~85体積%であるのがより好ましい。
【0032】
MC相は、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していても良い。WCやMo2Cは単体では六方晶構造を有するが、MC相に固溶している場合にはNaCl型の結晶構造を維持したまま、MC相の粒成長を抑制しつつ、耐酸化性をさらに向上させることができる。このとき、WやMoの含有量を変化させることで合金の剛性、硬さ、熱膨張係数等を変化させることができるので、用途によって合金が所望の特性を得るような組成を選択することができるし、合金の硬さを変化させて鏡面仕上げしやすさや耐摩耗性を調整することができる。NaCl型の結晶構造を維持しつつ、耐酸化性が向上するように、0.1~43原子%の範囲内で少量のWやMoを固溶させても良い。適切な剛性、硬さ、熱膨張係数を得られるように、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち1種以上が5~43原子%固溶しているのがより好ましく、10~40原子%固溶しているのがさらに好ましい。
【0033】
ここで、MC相がNaCl型の結晶構造を有するとは、MC相の80体積%以上がNaCl型の結晶構造を有することを意味する。すなわち、NaCl型の結晶構造以外にも、六方晶構造を有する結晶や酸化物、ホウ化物等を少量含んでいても良く、MC相が複数の金属元素を含む場合、NaCl型の結晶構造を有する固溶体以外に、コアリム組織を有するMC相を含んでいても良い。また、MC相は組成が異なる複数の種類の相で構成されてもよい。
【0034】
Cr3C2相は10.3 MK-1と高い熱膨張係数を有し、かつ1300 HVに近い硬さを有するので、Cr3C2相を含むことにより、焼結合金の熱膨張係数が高くなり、鏡面仕上げがしやすくなり、鏡面性が向上する。また焼結合金がCr3C2相を含み、耐酸化性に優れたNaCl型構造のMC相以外の硬質相を含まないことにより、より優れた鏡面性を長期にわたり維持できる相乗効果が得られる。
【0035】
Cr23C6相やCr7C3相等のCr3C2以外のクロム化合物からなる相が形成されると、その含有量に比例して熱膨張係数が低下する。また、Cr3C2相よりも脆弱であるため工具として不具合を生じやすい。Cr3C2相にCr23C6やCr7C3等のCr3C2以外のクロム化合物が少量であれば含まれていても良く、ここで、「Cr3C2相」とは、クロム化合物のうち80体積%以上がCr3C2相であることをいう。
【0036】
MC相に含まれる金属元素量に対する、MC相に含まれるCやN等の軽元素量の原子数比は0.8以上であるのが好ましい。軽元素量の原子数比が0.8よりも小さいと焼結合金が十分に緻密化せず、さらに比が小さいとCr3C2相やNaCl型構造のMC相以外の化合物相が生じやすくなり高耐酸化性を得ることができない。金属元素と軽元素の原子比は、使用したCr3C2原料粉末炭素量と添加比率から試算したCr3C2相の炭素量を焼結体の合金炭素量から引いて残りの成分から原子数比を算出するか、MC相を直接EDS分析するなどして求める。MC相に含まれる金属元素量に対する、MC相に含まれるCやN等の軽元素量の原子数比は1.0以下であるのが好ましい。軽元素量の原子数比がそれより大きいと、合金中に遊離炭素が生成しやすくなる。
【0037】
MC相の粒度は0.1~6μmであるのが好ましい。MC相の粒度は、焼結合金の任意の断面におけるMC相の断面積と同一面積の円の直径とする。MC相の粒度が0.1μm未満とするには原料粉末を微細にする必要がありコストアップにつながりまた粉末の成形性も悪化する。MC相の粒度が6μmよりも大きいとき鏡面性が低下して、金型に用いると不具合を生じることがある。MC相の粒度は、焼結合金の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、得られたSEM写真から画像解析ソフトを用いて求めることができる。MC相の粒度は0.5~3μmであるのがより好ましい。
【0038】
Cr3C2相の粒度は9μm以下が望ましい。Cr3C2相の粒度が9μmを超えると鏡面性が低下する場合がある。Cr3C2相の粒度は、MC相の粒度と同様に求めることができる。Cr3C2相の粒度は0.5~7μmであるのがより好ましい。
【0039】
本発明の第一の実施態様による焼結合金は、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる金属相をさらに含んでいても良い。金属相を含むことで所望の熱膨張係数、靭性を得ることができる。金属相の含有量は8.2体積%以下であるのが好ましい。金属相としてNiを含むことにより焼結性を向上させ、また靭性を向上させることができる。CoやFeは焼結合金の室温及び高温の強度を高める。またFeは比較的安価に入手することができる。工具の使用用途により必要とする特性を得るため、各元素の含有量を選ぶことができる。金属相の含有量が8.2体積%超であると仕上げ加工後の面粗さRaが粗くなり、高温での使用時における耐工具変形性が低下する。金属相の含有量は8体積%以下であるのがより好ましい。
【0040】
[2] 第二の実施態様
本発明の第二の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相(以下、「MC相」とも呼ぶ。)と、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる結合相と、WC相とからなり、MC相を8~95体積%含有し、結合相を2.0体積%以下含有することを特徴とする。
【0041】
第二の実施態様による焼結合金(MC-WC合金)は、熱膨張係数5~7MK-1程度の焼結合金を得やすい。MC相は第一の実施態様と同様であっても良い。MC相が8体積%未満となると必要な熱膨張係数が得られず、また耐酸化性も低下する。またMC相が95体積%超のときは組織が粒成長しやすいため鏡面性が得にくく、強度も低下する。MC相の含有量は10~92体積%であるのが好ましく、12~90体積%であるのがより好ましい。
【0042】
第二の実施態様による焼結合金は、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる金属相を2.0体積%以下含有するので、焼結性も高まり焼結温度を低くすることが可能となり、また、それぞれの粒子間に微量の金属成分が介在するため粒子の合体による成長も抑制させることができるため微粒組織が得やすく鏡面性や強度も高まる。さらに所望の靭性を得ることができ、工具使用時の欠けによる不具合が生じにくい。また第一の実施態様と同様に工具の使用用途により必要とする特性を得るため、各元素の含有量を選ぶことができる。金属相の含有量が2.0体積%超であると、高温での使用時における耐工具変形性が低下する。金属相の含有量は1.5体積%以下であるのが好ましく、1体積%以下であるのがより好ましい。
【0043】
WC相の粒度は、0.1~2.5μmであるのが好ましい。WC相の粒度は、MC相の粒度と同様に求めることができる。WC粒度を0.1~2.5μmの範囲に調整することにより、微粒組織を有するMC-WC合金が得られるため、高い鏡面性が得られる。一方、WC相を含むため、耐酸化性は第一の実施態様のものよりやや劣る。WC相の粒度は、0.11~2.0μmであるのがより好ましく、0.12~1.5μmであるのがさらに好ましく、0.13~1.0μmであるのがさらに好ましく、0.14~0.7μmであるのが特に好ましい。
【0044】
第二の実施態様による焼結合金のMC相は、第一の実施態様と同様に、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していても良い。NaCl型の結晶構造を維持しつつ、耐酸化性が向上するように、0.1~43原子%程度の少量のWやMoを固溶させても良い。適切な剛性、硬さや熱膨張係数を得られるように、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち1種以上が5~43原子%固溶しているのがより好ましく、10~40原子%固溶しているのがさらに好ましい。軽元素として、酸素、ホウ素を含んでも良い。金属元素として、Zr、Hf、Crを含んでもよい。
【0045】
[3] 第三の実施態様
本発明の第三の実施態様による焼結合金は、WC相とCr3C2相とからなり、Cr3C2相を10~90体積%含有することを特徴とする。
【0046】
第三の実施態様による焼結合金(Cr3C2-WC合金)は、各相の比率を変えることで広い範囲の熱膨張係数が得られ、Cr3C2相の含有量が10~90体積%とすることにより、5~9MK-1程度の広い範囲の熱膨張係数を有する。また熱膨張係数が近い他の合金系と比較すると熱伝導率が高い傾向にある。Cr3C2相は第一の実施態様と同様であっても良い。Cr3C2相の含有量が90体積%超のとき、Cr3C2相が粒成長しやすく鏡面性を得にくい。Cr3C2相の含有量が10体積%未満のとき、耐酸化性が劣る傾向にある。Cr3C2相の含有量は15~85体積%であるのが好ましく、20~80体積%であるのがより好ましい。WC相比率が高い場合、耐酸化性にはやや劣るが、靭性や強度に優れる。
【0047】
混合粉砕条件やWC相の原料の選択により合金組織の粒径を調節しやすく、例えば超微粒合金が得られるため、鏡面性の良いCr3C2-WC合金が得やすい。WC相の粒度は、第二の実施態様と同様であっても良い。それにより、微粒のCr3C2-WC合金が得られるため、高い鏡面性が得られる。
【0048】
第三の実施態様による焼結合金は、合金の焼結性が十分でない場合、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる金属相を2.0体積%以下含有しても良い。それにより、所望の靭性を得ることができ、工具使用時の欠けによる不具合が生じにくい。また焼結性も高まるため焼結温度を低くすることが可能であり、粒成長も抑制されるため、鏡面性や強度も高まる傾向にある。第一の実施態様と同様に工具の使用用途により必要とする特性を得るため、各元素の含有量を選ぶことができる。金属相の含有量が2.0体積%超であると、高温での使用時における耐工具変形性が低下する。金属相の含有量は1.5体積%以下であるのが好ましく、1体積%以下であるのがより好ましい。
【0049】
[4] 第四の実施態様
本発明の第四の実施態様による焼結合金は、Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相(以下、「MC相」とも呼ぶ。)と、WC相と、Cr3C2相とからなることを特徴とする。
【0050】
本発明のMC-Cr3C2合金やMC-WC合金において、7MK-1程度の中間的な熱膨張係数を得ようとするとき、MC相の比率を増加させることが考えられるが、MC相の比率が高まることにより、MC相の粗大化が生じやすく、それに伴い鏡面性や強度の低下等の弊害も生じやすい。このため、MC相、Cr3C2相及びWC相の三相を共存させたMC-Cr3C2-WC合金とすることにより、組織の粗大化を防ぐことができる。MC相、Cr3C2相及びWC相はそれぞれ第一~第三の実施態様と同様であっても良い。
【0051】
第四の実施態様による焼結合金(MC-Cr3C2-WC合金)は、MC相を10~90体積%含有するのが好ましい。MC相が10体積%未満となると耐酸化性は低下する。またMC相が90体積%超のときは組織が粒成長しやすいため鏡面性が得にくく、強度も低下する。MC相の含有量は20~90体積%であるのが好ましく、40~85体積%であるのがより好ましい。WC相比率を高めにすると耐酸化性は低下傾向にあるが小さい熱膨張係数が得やすく、大きめの熱伝導率、高めの靭性を得やすい。MC相比率を高めにすると耐酸化性を高めるとともに中程度の熱膨張係数が得やすく、焼結性が向上する。
【0052】
WC相の含有量に対するCr3C2相の含有量の体積比が0.125~8であるのが好ましい。WC相の含有量に対するCr3C2相の含有量の体積比が0.125未満であると耐酸化性は低めの傾向にあり、8超であると鏡面性が低い傾向にある。WC相の含有量に対するCr3C2相の含有量の体積比は0.15~6.6であるのが好ましく、0.2~5であるのがより好ましい。
【0053】
Cr3C2相比率を高めにすると耐酸化性が向上するとともに大きな熱膨張係数を得やすい。MC相量が10体積%のときWC相に対するCr3C2相の体積比を0.125~8としたとき6~9 MK-1程度の熱膨張係数が得らえる。MC相量90体積%のとき同様に6.5~7.5 MK-1程度の熱膨張係数が得られる。
【0054】
第四の実施態様による焼結合金は、必要に応じて各比率を変化させて必要な熱膨張係数と必要な特性を得ることができる。なお、Cr3C2-WC合金でも熱膨張係数7MK-1程度の合金を得ることができるが、特に耐酸化性を重視する場合にはMC-Cr3C2-WC合金を選択し、熱伝導率を高めたいときはCr3C2-WC合金を選択するのが良い。
【0055】
第四の実施態様による焼結合金は、合金強度が必要である場合、合金の焼結性が十分でない場合、Ni、Co及びFeのうち少なくとも1種からなる金属相を2.0体積%以下含有しても良い。2.0体積%より多いと耐摩耗性に劣る場合がある。金属相の含有量は1.5体積%以下であるのが好ましく、1体積%以下であるのがより好ましい。
【0056】
第四の実施態様による焼結合金のMC相は、第一の実施態様と同様に、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち少なくとも1種が0.1~45原子%固溶していても良い。NaCl型の結晶構造を維持しつつ、耐酸化性が向上するように、0.1~43原子%程度の少量のWやMoを固溶させても良い。適切な剛性、硬さや熱膨張係数を得られるように、MC相の金属元素の総量に対してW及びMoのうち1種以上が5~43原子%固溶しているのがより好ましく、10~40原子%固溶しているのがさらに好ましい。
【0057】
本発明の焼結合金を使用したレンズ成形金型はDLC等の硬質膜コーティング、白金等の金属膜コーティングを施してもよい。レンズ成形金型に限らず、本発明の特徴を最大限に発揮するために本発明の焼結合金を使用した部材や工具等に種々のコーティングを施してもよい。
【0058】
[5] 焼結合金の製造方法
本発明の焼結合金は、普通焼結、ホットプレス焼結等により得られる。すなわち、所定の量の粉末を秤量して湿式混合・粉砕、乾燥ののち金型により加圧成形して粉末成形体を得る。この粉末成形体を切削加工又は研削加工して必要な形状にしても良いし、粉末成形体を仮焼結した後に機械加工して所定の形状を得てもよい。また、所定形状の型に粉末を充填してホットプレス焼結して所定の形状を得てもよい。普通焼結の場合には、この粉末成形体を真空中、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、1300~1540℃の焼結温度で焼結することで得られる。
【0059】
焼結後にさらにHIP処理を行っても良い。それにより、焼結の際に生じたポアを低減することができる。HIP処理の温度は、焼結合金の組成に応じて適宜設定可能であるが、焼結温度以下の温度でもよい。焼結温度より高い場合、Cr炭化物などが粒成長し、強度低下が起こるためである。HIP処理により組織粒度の調整をすることもできる。
【0060】
金属相量に関わらず普通焼結、ホットプレス焼結いずれの方法を用いてもよい。ホットプレス焼結を用いる場合には焼結温度を低くして微粒組織を得やすくすることができる。金属相量が少なく普通焼結では緻密な合金が得にくい場合にはホットプレスにより焼結しても良い。その場合、金属相の含有量は0~2.0体積%であるのが好ましく、0~1体積%であるのがより好ましい。金属相を含まないか微量の金属相を含む焼結合金をホットプレス焼結することで緻密な合金となり、鏡面性をより高めることができるため、金型として好適な焼結合金が得られる。
【0061】
ホットプレスは、一般的に焼結合金を形成するものであれば特に限定されないが、焼結条件は、真空中、又は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、20~100 MPaの圧力、1200~1500℃の焼結温度で行うのが好ましい。また通電焼結などホットプレス以外の装置を用いてもよい。
【0062】
[6] 金型及びその他の用途
本発明の焼結合金は、金型、特にレンズ成形用の金型の材料として好適に用いることができ、不具合なく部品を成形するためにレンズ材料の熱膨張係数や成形部品の形状を考慮し5~9 MK-1程度の範囲内で最適な熱膨張係数を有する金型材料を選択することができる。また、これに限らず、部品成形する金型に通常の超硬合金やバインダレス超硬合金よりも大きい熱膨張係数や優れる耐酸化性が要求される場合に好適に用いることができるし、高熱膨張係数と高耐摩耗性と優れた耐酸化性が求められる部材や工具等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
本発明を発明品によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0064】
実施例1
原料粉末には、Cr3C2(2.4μm)、Ni(2.3μm)、Co(1.4μm)、Fe(2.9μm)、TaC(1.6μm)、NbC(1.6μm)、TiC(1.6μm)、Ti(C0.5,N0.5)(2.1μm)、TaN(2.0μm)、Nb(C0.7N0.3)(2.5μm)、WC(0.8μm)、Mo2C(3.1μm)及び表1に記載の各種固溶体粉末を用いた。固溶体粉末は表1に示す組成となるように炭化物、窒化物及び炭窒化物を配合して湿式混合した粉末を高温炉で固溶体化処理を行い、粉砕・篩別して原料粉末(1.3~3.1μm)として調製した。
【0065】
【0066】
金属相成分を少量含む試料では、金属粉末と他の粉末とを湿式粉砕して予備粉砕した粉末を用い、金属相成分を4体積%以上含む試料では予備粉砕せずにそのまま用いた。また試料に応じて粉末に含まれる酸化物の還元や炭素量の調整を目的としてC粉末を加えた。
【0067】
焼結は、窒素又はアルゴンの不活性ガス雰囲気下での普通焼結、又はホットプレス焼結を行い、得られた焼結体にHIP処理を行い、発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金を作製した。普通焼結において、焼結温度を1400℃~1540℃とし、圧力を40 kPa~90kPaとし、焼結雰囲気をN2又はArとした。ホットプレス焼結(発明品6、7、8、11、12、15、17、19、20)において、焼結温度を1200~1650℃とし、焼結雰囲気をArとした。発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金のうちMC相を含むものについて、MC相を構成する化合物比率を求めた。得られた結果を表2に示す。なお、表2に記載のMC相を構成する化合物比率は、配合時の化合物比率と焼結合金の炭素量と窒素量を加味して各化合物に換算して求めた。
【0068】
【0069】
得られた試料の抗折力、硬度、熱膨張係数、耐高温酸化性、熱伝導率及び面粗さを以下の方法により調査した。その総合評価とともに結果を表3に示す。
【0070】
(抗折力)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金の抗折力(MPa)を、JISB4104の方法による抗折力測定(3点曲げ試験)により求めた。
【0071】
(ロックウェル硬度HRA)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金のビッカース硬度(HRA)を、CIS027B焼結合金のロックウェルA硬さ試験方法によって測定した。
【0072】
(熱膨張係数RT-700℃)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金を縦型熱膨張計にて室温から700℃に加熱し、熱膨張係数RT-700℃(MK-1)の測定を行った。
【0073】
(耐酸化性700℃)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金を大気中において700℃で30分間加熱し、酸化増量(単位面積当たりの酸化重量)(g/m2)を求めた。
【0074】
(熱伝導率)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金の熱伝導率はレーザーフラッシュ法熱定数測定装置により求めた。
【0075】
(仕上げ後の面粗さRa)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金をダイヤモンドスラリーを用いて鏡面仕上げした後の面粗さRa(nm)を求めた。
【0076】
(評価)
発明品1~20及び比較品1~5の焼結合金を用いて金型を作成し、ガラスレンズを繰り返し成形し、繰り返し回数及び繰り返し使用した後の成形面の鏡面性等により、金型の評価を行った。所定回数以上使用できて依然として良好な鏡面性を維持している場合は◎、所定回数以上使用できた場合は○、所定回数まで使用できた場合は△、所定回数まで使用できなかった場合は×とした。
【0077】
【0078】
表3から分かるように、発明品1~20は、4.9~9.2 MK-1の範囲で必要とする種々の熱膨張係数を有するとともに、鏡面性、熱伝導性、強度、耐酸化性などの必要な特性に優れていた。すなわち、MC-Cr3C2合金は耐酸化性に優れ、MC-WC合金は強度、鏡面性に優れ、Cr3C2-WC合金は鏡面性に優れるとともに高い熱伝導性を有し、MC-Cr3C2-WC合金とすることで相の粒成長を抑制することができるため鏡面性や強度を高めることができることが分かった。また耐酸化性の向上のために、MC相の金属元素総量に対してMo及び/又はWを0.1~45原子%固溶させても良い。W量を変化させることでMC相の熱膨張係数を変化させることができる。
【0079】
比較品1はMC-Cr3C2合金においてMC相の含有量が97体積%と多いため、MC相が粒成長し、特に面粗さに劣った。比較品2はMC-WC合金においてMC相の含有量が3.0体積%と少ないため、熱膨張係数が4.7 MK-1と低く、必要な熱膨張係数が得られず、また耐酸化性も劣っていた。比較品3はMC相のみを含んでいるため、MC相が粒成長し、面粗さに劣った。比較品4はCr3C2-WC合金においてCr3C2相の含有量が96体積%と多いため、熱膨張係数が10.1 MK-1と高く、必要な熱膨張係数が得られず、またCr3C2相が粒成長し、面粗さに劣った。比較品5は、Cr3C2-WC合金においてCr3C2相の含有量が5.7体積%と少ないため、耐酸化性が劣っていた。
【要約】
Ti,Ta,Nb及びVのうち少なくとも1種の金属元素と、C及びNのうち少なくとも1種とからなる固溶相を形成し、80体積%以上のものがNaCl型構造を有する化合物相と、Cr3C2相とからなり、前記化合物相を38~95体積%含有することを特徴とする焼結合金。