IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -無電解めっきの前処理塗料組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】無電解めっきの前処理塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
C23C18/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024557654
(86)(22)【出願日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2024024160
【審査請求日】2024-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2023111117
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137554
【氏名又は名称】株式会社イオックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 悠人
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-095958(JP,A)
【文献】特開2005-350747(JP,A)
【文献】特開2019-206640(JP,A)
【文献】特開2006-282777(JP,A)
【文献】特開2022-110408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっきの前処理塗料組成物であって、
(1)反応性末端を有する樹脂
(2)シランカップリング剤、及び
(5)溶媒を含有し、
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シェラック樹脂、尿素樹脂、硝化綿、アルキド樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、スチレン/マレイン酸樹脂、シリコン樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体、アクリルモノマー/オリゴマー、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリアリレート樹脂、及びブチラール樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂であり、
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である、
前処理塗料組成物。
【請求項2】
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項1に記載の前処理塗料組成物。
【請求項3】
前記前処理塗料組成物は、
(3)パラジウム(Pd)コロイド
を含有する、請求項1に記載の前処理塗料組成物。
【請求項4】
前記(5)溶媒は、非プロトン性極性溶媒、アルコール類、ケトン類、グリコールエーテル類、芳香族カルボン酸エステル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、グリコールエーテルエステル類、アルカノールエステル類、及びフッ素系溶媒から成る群から選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項1に記載の前処理塗料組成物。
【請求項5】
無電解めっき物を製造する方法であって、
(1)基材に前処理塗料組成物を塗布した後、(1)反応性末端を有する樹脂と(2)シランカップリング剤との間で重合反応を行う工程、
(2)前記前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程、
(3)前記カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウムを付与する工程、及び
(4)前記パラジウムを付与した基材を、無電解めっきを行う工程
を順に含み、
前記前処理塗料組成物は、
(1)反応性末端を有する樹脂
(2)シランカップリング剤、及び
(5)溶媒を含有し、
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シェラック樹脂、尿素樹脂、硝化綿、アルキド樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、スチレン/マレイン酸樹脂、シリコン樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体、アクリルモノマー/オリゴマー、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリアリレート樹脂、及びブチラール樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂であり、
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である、
無電解めっき物の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、ガラス、セラミック、シリコン、エポキシ樹脂、及びポリフェニレンエーテル(PPE)から成る群から選択される少なくとも1種の原料で構成される基材である、請求項5に記載の無電解めっき物の製造方法。
【請求項7】
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項5に記載の無電解めっき物の製造方法。
【請求項8】
前記前処理塗料組成物は、
(3)パラジウム(Pd)コロイド
を含有する、請求項5に記載の無電解めっき物の製造方法。
【請求項9】
前記(5)溶媒は、非プロトン性極性溶媒、アルコール類、ケトン類、グリコールエーテル類、芳香族カルボン酸エステル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、グリコールエーテルエステル類、アルカノールエステル類、及びフッ素系溶媒から成る群から選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項5に記載の無電解めっき物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの前処理塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、出願人の発明であり、表面がアニオン化処理された非導電性基材に対して、無電解めっきを施すための塗料組成物であって、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)カチオン性界面活性剤、及び(3)水を含有する塗料組成物を開示する。非導電性基材に対して、この塗料組成物を用いて無電解めっきの前処理を行い、次いで、無電解めっきを行うと、その無電解めっき物では非導電性基材とめっきとの間の密着性は優れており、また、その無電解めっき物は、良好な外観皮膜を形成するめっき物に成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5819020号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新たに、無電解めっきの前処理塗料組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、基材に対し、(1)反応性末端を有する樹脂、及び(2)シランカップリング剤を含有する塗料組成物を用いて、前処理を施す事で、次いで、無電解めっきを施すと、基材とめっきとの間の密着性は優れており、また、良好な外観皮膜を形成するめっき物を調製する事が出来るという技術を開発した。
【0006】
本発明は、ガラス、セラミック等の無機基材に対して、特に有効である。
【0007】
即ち、本発明は、次の無電解めっきの前処理塗料組成物、及び無電解めっき物を製造する方法を包含する。
【0008】
項1.
無電解めっきの前処理塗料組成物であって、
(1)反応性末端を有する樹脂、及び
(2)シランカップリング剤を含有し、
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である、
前処理塗料組成物。
【0009】
項2.
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である、前記項1に記載の前処理塗料組成物。
【0010】
項3.
前記前処理塗料組成物は、
(3)パラジウム(Pd)コロイド
を含有する、前記項1に記載の前処理塗料組成物。
【0011】
項4.
無電解めっき物を製造する方法であって、
(1)基材に前処理塗料組成物を塗布する工程、
(2)前記前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程、
(3)前記カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウム(Pd)を付与する工程、及び
(4)前記パラジウム(Pd)を付与した基材を、無電解めっきを行う工程
を順に含み、
前記前処理塗料組成物は、
(1)反応性末端を有する樹脂、及び
(2)シランカップリング剤を含有し、
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である、
無電解めっき物の製造方法。
【0012】
項5.
前記基材は、ガラス、セラミック、シリコン、エポキシ樹脂、及びポリフェニレンエーテル(PPE)から成る群から選択される少なくとも1種の原料で構成される基材である、前記項4に記載の無電解めっき物の製造方法。
【0013】
項6.
前記(1)反応性末端を有する樹脂は、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である、前記項4に記載の無電解めっき物の製造方法。
【0014】
項7.
前記前処理塗料組成物は、
(3)パラジウム(Pd)コロイド
を含有する、項4に記載の無電解めっき物の製造方法。
【0015】
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、特に、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して、無電解めっきを行うと、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、新たに、無電解めっきの前処理塗料組成物を提供する事が出来る。
【0017】
基材に対し、本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、前処理を施す事で、次いで、無電解めっきを施すと、基材とめっきとの間の密着性は優れており、また、良好な外観皮膜を形成するめっき物を調製する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来の無電解めっきの前処理方法と本発明の無電解めっきの前処理方法の一態様との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0021】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0022】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0023】
本明細書において、一般に、部、%等の表示を使用する。
【0024】
本明細書において、一般に、質量部、重量部、質量%、重量%(wt%)を表す。
【0025】
本発明は、次の無電解めっきの前処理塗料組成物、及び無電解めっき物を製造する方法を包含する。
【0026】
[1]無電解めっきの前処理塗料組成物
図1に、本発明の無電解めっきの前処理方法の一態様を表す。
【0027】
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物は、
(1)反応性末端を有する樹脂、及び
(2)シランカップリング剤を含有する。
【0028】
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である。
【0029】
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、特に、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して、無電解めっきを行うと、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【0030】
(1)反応性末端を有する樹脂
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物は、(1)反応性末端を有する樹脂を含有する。
【0031】
反応性末端を有する樹脂は、好ましくは、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である。
【0032】
反応性末端を有する樹脂は、好ましくは、前処理塗料組成物の粘度、前処理塗料組成物と基板(ガラス、セラミック等)との密着性、熱処理(重合処理)の条件等の観点から、良好に無電解めっきの反応性が得られるものを選択する。
【0033】
反応性末端を有する樹脂は、好ましくは、(5)溶媒に分散又は溶解するものである。
【0034】
反応性末端を有する樹脂は、好ましくは、アセタール樹脂(POM)、エポキシ樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂(PA、ポリアミド、ナイロン)、イミド樹脂(ポリイミド)、アミドイミド樹脂(PAI、ポリアミドイミド)、シェラック樹脂、尿素樹脂、硝化綿、アルキド樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、スチレン/マレイン酸樹脂、シリコン樹脂、塩ビ-酢ビ共重合体、アクリルモノマー/オリゴマー、オレフィン樹脂(ポリオレフィン)、フェノール樹脂、ポリアリレート樹脂、ブチラール樹脂等を用いる。
【0035】
塩ビ-酢ビ共重合体(塩化ビニル・酢酸ビニル系変性樹脂)は、塩化ビニルと酢酸ビニル等との共重合樹脂である。
【0036】
反応性末端を有する樹脂は、より好ましくは、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂等の樹脂であり、更に好ましくは、エポキシ樹脂、ポリアミド等の樹脂を使用する。
【0037】
反応性末端を有する樹脂は、これらの反応性末端を有する樹脂を、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0038】
反応性末端を有する樹脂を、2種以上を用いる例として、好ましくは、主剤と硬化剤との組み合わせである。
【0039】
主剤は、好ましくは、反応性末端を有する樹脂を用いる。
【0040】
硬化剤は、好ましくは、イソシアネート(-N=C=O)化合物、エポキシ(エポキシ基)化合物、ポリアミド、カルボジイミド(-N=C=N-)化合物、ヘキサメチレンジアミン等を用いる。
【0041】
(2)シランカップリング剤
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物は、(2)シランカップリング剤を含有する。
【0042】
シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である。
【0043】
シランカップリング剤は、更に好ましくは、ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基の全てを含むシランカップリング剤である。
【0044】
シランカップリング剤のアルコキシシリル基が、ガラス等の基材と結合し、基材の耐アルカリ性を向上させる事が出来る。
【0045】
シランカップリング剤の酸無水物が、(1)反応性末端を有する樹脂の反応系に取り込まれ、架橋密度の高い強固な結合を形成する事が出来る。
【0046】
シランカップリング剤は、カルボキシル末端を有する事から、Pdコロイドの基材に対する吸着性能を付与する。
【0047】
前処理塗料組成物は、シランカップリング剤を含有する事に依り、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して強固に密着する。通常ガラス、セラミック等の無機材料と強固な結合を作るには、水酸基を有する無機化合物と水素結合を形成した後、500℃以上の高温で縮合させる事に依り、共有結合を形成させる必要がある。
【0048】
本発明では、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【0049】
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は、例えば、次の構造を有する化合物(3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物)である。
【0050】
例えば、信越化学工業株式会社製の信越シリコーンX-12-967C等を使用する。
【0051】
Meは、メチル基を表す。
【0052】
【化1】
【0053】
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は、例えば、次の構造を有する化合物(オルガノシラン)である。
【0054】
例えば、信越化学工業株式会社製の信越シリコーンX-12-1267B等を使用する。
【0055】
Meは、メチル基を表す。a、及びbは、任意の整数である。
【0056】
【化2】
【0057】
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤は、例えば、次の構造を有する化合物(オルガノシラン)である。
【0058】
例えば、信越化学工業株式会社製の信越シリコーンX-12-1287A等を使用する。
【0059】
Meは、メチル基を表す。a、b、及びcは、任意の整数である。
【0060】
【化3】
【0061】
シランカップリング剤は、これらのシランカップリング剤を、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0062】
(3)パラジウム(Pd)コロイド
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物は、好ましくは、(3)パラジウム(Pd)コロイドを含有する。
【0063】
前処理塗料組成物は、パラジウムコロイド(Pdコロイド)を含む事に依り、Pdコロイド水溶液に含まれるPdイオンが基材に十分に吸着し、めっきを十分に析出させる事が出来る。前処理塗料組成物中に、Pdコロイドは、好ましくは、Pd粒子が0.001重量%~0.1重量%程度含まれる様に調整する。基材に対して、前処理塗料組成物を塗布した後、無電解めっきを施す事に依り、無電解めっき物を製造する事が出来る。
【0064】
Pdコロイドは、パラジウム粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体(Pd複合体)を用いる事が出来る。
【0065】
Pd複合体は、次の方法で調製する事が出来る。
【0066】
ポリカルボン酸系高分子等の分散剤の存在下、塩化パラジウム等のパラジウム化合物(Pd化合物)から供給されるパラジウムイオン(Pdイオン)を、溶媒中、ヒドラジンヒドラート等の2級又は3級アミン類で還元する事に依って調製する事が出来る。
【0067】
分散剤は、好ましくは、ポリカルボン酸系分散剤、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤、及び/又はカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤等を用いる。分散剤は、市販品を用いても良い。
【0068】
ポリカルボン酸系高分子分散剤は、好ましくは、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等を用いる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、例えば、サンノプコ(株)製のノプコサントK, R, RFA、ノプコスパース44-C、SNディスパーサント5020, 5027, 5029, 5034, 5045, 5468、花王(株)製のデモールP, EP, ポイズ520, 521, 530, 532A等を用いても良い。
【0069】
ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等を使用することが好ましい。ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のDISPERBYK190, 2010等を用いても良い。
【0070】
カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、好ましくは、アクリル酸-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル酸-スルホン酸共重合体等を用いる。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のDISPERBYK180, 187, 191, 194、(株)日本触媒製のアクアリックTL, GL, LS等を用いても良い。
【0071】
分散剤は、これらの分散剤を、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0072】
分散剤の中でも、より好ましくは、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤を用いる。
【0073】
Pd粒子は、分散剤の存在下、Pd化合物から供給されるPdイオンを、還元剤を用いて還元する事に依って調製する事が出来る。
【0074】
Pdイオンを供給するPd化合物は、好ましくは、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等を用いる。
【0075】
Pd化合物は、これらのPd化合物を、1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0076】
還元剤は、好ましくは、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の2級又は3級アミン類を用いる。
【0077】
還元する際に使用される溶媒は、好ましくは、次の(5)溶媒を用い、水、非プロトン性極性溶媒、アルコール類、ケトン類、グリコールエーテル類、芳香族カルボン酸エステル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、グリコールエーテルエステル類、アルカノールエステル類、2-フェノキシエタノール(エチレングリコールフェニルエーテル)等を用いる。
【0078】
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0079】
Pdイオンを還元する方法は、好ましくは、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤をその溶媒中に加える方法である。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、Pdイオンを還元する事が出来る。
【0080】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは、その球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0081】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との重量比は、好ましくは、Pd粒子:分散剤=35:65~85:15程度であり、より好ましくは、Pd粒子:分散剤=50:50~75:25程度である。
【0082】
Pd粒子単独の平均粒子径は、好ましくは、2nm~10nm程度である。
【0083】
Pd粒子の粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて測定する。Pd粒子単独の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均して、算出する(個数基準平均径)。
【0084】
Pd複合体の構造は、好ましくは、球形状の構造である。
【0085】
Pd複合体の平均粒子径は、好ましくは、10nm~300nm程度であり、より好ましくは、10 nm~100nm程度である。
【0086】
Pd複合体の平均粒子径は、例えば、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR-1000)で測定する(重量基準平均径)。
【0087】
(4)添加物
本発明無電解めっきの前処理塗料組成物は、好ましくは、(4)フィラー、増粘剤等の添加物を使用する。
【0088】
フィラーは、好ましくは、シリカ(シリカコロイド)、アルミナ等を用いる。
【0089】
フィラーの粒子径は、塗料中で分散状態を維持出来るものが好ましい。フィラーの粒子径は、好ましくは、1nm~500nm程度であり、より好ましくは、5nm~100nm程度である。基材が微細貫通孔を有する場合、フィラーの粒子径は、小さい方が微細貫通孔の閉塞を妨げる事が出来る。その場合のフィラーの粒子径は、好ましくは、10nm~50nmである。
【0090】
増粘剤は、好ましくは、スメクタイト系粘土鉱物等の無機増粘剤、セルロースナノファイバー等の有機系増粘剤等を用いる。
【0091】
(5)溶媒
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物は、好ましくは、(5)溶媒を含有する。
【0092】
溶媒(分散溶媒)は、(1)反応性末端を有する樹脂、及び(2)シランカップリング剤との親和性に優れており、(4)Pdコロイドを分散させる事が出来る。
【0093】
溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、アルコール類、ケトン類、グリコールエーテル類、芳香族カルボン酸エステル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、グリコールエーテルエステル類、アルカノールエステル類、フッ素系溶媒等を用いる。
【0094】
前処理塗料組成物が含有する溶媒は、水を含まない事が好ましい。
【0095】
非プロトン性極性溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);γ-ブチロラクトン(GBL)等を用いる。
【0096】
アルコール類は、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、1-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等である。
【0097】
ケトン類は、好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール(4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン)、シクロヘキサノン、イソホロン等である。
【0098】
グリコールエーテル類は、好ましくは、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル等である。
【0099】
芳香族カルボン酸エステル類は、好ましくは、安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等である。
【0100】
芳香族炭化水素類は、好ましくは、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等である。
【0101】
脂肪族炭化水素類は、好ましくは、n-へキサン、n-へプタン、ミネラルスピリット等である。
【0102】
グリコールエーテルエステル類は、好ましくは、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等である。
【0103】
アルカノールエステル類は、好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチル等である。
【0104】
フッ素系溶媒は、好ましくは、1,1,2,2,-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン等である。
【0105】
溶媒は、好ましくは、前処理塗料組成物に含まれる(1)反応性末端を有する樹脂、及び(3)シランカップリング剤との親和性、(4)Pdコロイドの分散性等の観点、前処理塗料組成物の粘度、蒸発速度等の観点、前処理塗料組成物と基材(ABS樹脂、ガラス板等)との密着性の観点で、良好に無電解めっきを施せる溶媒を選択する。
【0106】
溶媒は、好ましくは、テトラヒドロフラン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル等を用いる。
【0107】
溶媒は、好ましくは、低粘度の溶媒を用いる。溶媒が低粘度である事で、形状の有る基材に対して、前処理塗料組成物を均一に塗布する事が可能である。
【0108】
溶媒の粘度は、好ましくは、1cP(センチポアズ)以下であり、更に好ましくは、0.5cP以下である。1cP以下の溶媒として、好ましくは、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、酢酸エチル等を用いる。0.5cP以下の溶媒として、好ましくは、メタノール、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、アセトン、酢酸エチル等を用いる。
【0109】
溶媒は、これらの溶媒を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0110】
(6)前処理塗料組成物の配合割合
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物中の各成分の含有量は、本発明の効果を満たす範囲で、特に制限しなくて良い。
【0111】
前処理塗料組成物中の(1)反応性末端を有する樹脂(エポキシ樹脂等)の含有量(塗料中の固形分)は、好ましくは、0.1重量%~10重量%程度であり、より好ましくは、0.5重量%~5重量%程度であり、更に好ましくは、1重量%~4重量%程度である。
【0112】
前処理塗料組成物中の(2)シランカップリング剤の含有量は、好ましくは、0.1重量%~5重量%程度であり、より好ましくは、0.2重量%~3重量%程度であり、更に好ましくは、0.5重量%~2重量%程度である。
【0113】
前処理塗料組成物中の(3)Pdコロイドは、含んでも、含まなくても良い。
【0114】
前処理塗料組成物中、(3)Pdコロイドを含む場合、その含有量(塗料中の固形分)は、好ましくは、0.02重量%~1重量%程度であり、より好ましくは、0.05重量%~0.5重量%程度であり、更に好ましくは、0.075重量%~0.25重量%程度である。
【0115】
前処理塗料組成物中の(4)添加物(シリカコロイド等)の含有量(塗料中の固形分)は、好ましくは、0.01重量%~5重量%程度であり、より好ましくは、0.1重量%~2.5重量%程度であり、更に好ましくは、0.5重量%~1.5重量%程度である。
【0116】
前処理塗料組成物中の(5)溶媒(ジアセトンアルコール等)の含有量は、好ましくは、80重量%~99.9重量%程度であり、より好ましくは、85重量%~99重量%程度であり、更に好ましくは、90重量%~98重量%程度である。
【0117】
(7)前処理塗料組成物の製造方法
本発明無電解めっきの前処理塗料組成物は、好ましくは、(5)溶媒中、(1)反応性末端を有する樹脂、(2)シランカップリング剤、(3)Pdコロイド、及び(4)添加物を混合する事に依り、製造する。混合は、好ましくは、水分の混入を防ぐ為、自転公転ミキサー、ボールミル等の閉鎖系で行う。
【0118】
[2]無電解めっき物を製造する方法
図1に、本発明の無電解めっきの前処理方法の一態様を表す。
【0119】
本発明の無電解めっき物を製造する方法は、
(1)基材に前処理塗料組成物を塗布する工程、
(2)前記前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程、
(3)前記カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウム(Pd)を付与する工程、及び
(4)前記パラジウム(Pd)を付与した基材を、無電解めっきを行う工程を順に含む。
【0120】
前記前処理塗料組成物は、
(1)反応性末端を有する樹脂、及び
(2)シランカップリング剤を含有する。
【0121】
前記(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である。
【0122】
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して、無電解めっきを行うと、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【0123】
前処理塗料組成物
前処理塗料組成物は、
(1)反応性末端を有する樹脂、及び
(2)シランカップリング剤を含有する。
【0124】
(1)反応性末端を有する樹脂は、好ましくは、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド、及びエポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種の樹脂である。
【0125】
(2)シランカップリング剤は、
酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、
ブタジエン骨格、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤、及び
ブタジエン骨格、酸無水物構造、及びアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤
から成る群から選択される少なくとも1種のシランカップリング剤である。
【0126】
前処理塗料組成物は、好ましくは、
(3)パラジウム(Pd)コロイドを含有する。
【0127】
前処理塗料組成物は、前記[1]無電解めっきの前処理塗料組成物の説明を適用する。
【0128】
先ず、本発明無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、基材に前処理を行い、次いで、無電解めっき処理を行う事に依り、基材上にめっきを形成することができる。この処理により、成形品に無電解めっき皮膜を形成する事が出来る。
【0129】
なお、本発明の無電解めっき物を製造する方法において、前処理塗料組成物がパラジウムコロイドを含有する場合、下記(2)、及び(3)の工程は不要である。
【0130】
(2)(工程(1)の後)前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程。
【0131】
(3)(工程(2)の後)カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウム(Pd)を付与する工程。
【0132】
(1)基材に前処理塗料組成物を塗布する工程
本発明の無電解めっき物を製造する方法は、(1)基材に前処理塗料組成物を塗布する工程を含む。
【0133】
基材は、好ましくは、ガラス、セラミック、シリコン、エポキシ樹脂、及びポリフェニレンエーテル(PPE)から成る群から選択される少なくとも1種の原料で構成される基材である。
【0134】
基材に前処理塗料組成物を塗布する事に依り、その後、Pdイオンが基材に十分に吸着し、めっきが十分に析出する事が出来る。
【0135】
基材は、好ましくは、基材として、プラスチック(樹脂)、ガラス、金属、セラミックス、シリコン等を用いる。
【0136】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメチルペンテン(TPX)、シクロオレフィンポリマー(COP)等のポリオレフィン等を用いる。
【0137】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの共重合合成樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル、エチレン及びスチレンの共重合合成樹脂)、ASA樹脂(アクリロニトリル、アクリレート及びスチレンの共重合合成樹脂等を用いる。
【0138】
プラスチック(樹脂)は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート(PC);PC/ABS;ポリ塩化ビニル;ポリアミド;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;ポリエーテルエーテルケトン;ノルボルネン骨格を有する環状ポリオレフィン;ポリフェニレンスルファイド(PPS);液晶ポリマー(LCP);変性ポリフェニルエーテル;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン(PES);フェノール;ポリフタルアミド(PPA);ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリレート、エポキシ、ナイロン(PA6、PA66)等を用いる。
【0139】
プラスチック(樹脂)には、上記のものに必要に応じ、ガラス繊維、タルク等の無機化合物、ゴム等の複合基材を複合化したものを用いても良い。
【0140】
複合基材として、好ましくは、FR4(ガラス繊維配合エポキシ)、TSOP(タルク、ゴム配合PP)等が挙げられる。
【0141】
無機材料は、好ましくは、ガラス、セラミック、低温同時焼成セラミックス(Low_temperature_co-fired_ceramic、LTCC)、誘電体セラミック、シリコン、グラファイト、フェライト等を用いる。
ガラスは、好ましくは、アルカリガラス、無アルカリガラス、方ケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、石英等が挙げられる。
【0142】
セラミックスは、好ましくは、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、マセライト等が挙げられる。
【0143】
誘電体セラミックは、好ましくは、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸リチウム、チタン酸ジルコン酸亜鉛等を用いる。
【0144】
基材として不織布を使用する場合、好ましくは、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維、アクリロニトリル繊維、ポリエーテルスルホン(PES)繊維等の不織布を使用する。
【0145】
基材の形状は、好ましくは、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)、糸状、金型で成形された各種形状等の形状である。
【0146】
基材は、粘土鉱物(例えば、タルク、マイカ等)、無機充填剤(例えば、カーボン、炭酸カルシウム、酸化チタン等)、ゴム(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)等を含有しても良い。
【0147】
基材に合わせて、前処理塗料組成物に含まれる溶媒、(1)反応性末端を有する樹脂等を適宜選択する。
【0148】
基材の表面は、好ましくは、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、オゾン処理等の活性化処理されても良い。基材の表面は、好ましくはアルカリ脱脂により洗浄されていても良い。
【0149】
基材の表面はシランカップリング剤等に依る改質処理が施されていても良い。
【0150】
シランカップリング剤は、好ましくは、エポキシ基、アミノ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ビニル基等の官能基を有するシランカップリング剤を用いる。
【0151】
エポキシ基を有するシランカップリング剤は、好ましくは、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を用いる。
【0152】
アミノ基を有するシランカップリング剤は、好ましくは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等を用いる。
【0153】
アクリロキシ基を有するシランカップリング剤は、好ましくは、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を用いる。
【0154】
メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤は、好ましくは、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等を用いる。
【0155】
ビニル基を有するシランカップリング剤は、好ましくは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン等を用いる。
【0156】
シランカップリング剤は、好ましくは、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するシランカップリング剤、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基を有するシランカップリング剤等も、使用する事が出来る。
【0157】
ガラスの表面処理に使用するシランカップリング剤は、シランカップリング剤の中でも、特に好ましくは、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いる。
【0158】
シランカップリング剤は、これらのシランカップリング剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0159】
塗布処理
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用い、基材に対して、塗布処理、乾燥処理、及び無電解めっき処理を行う事に依り、基材上にめっきを形成する事が出来る。
【0160】
基材に対して、前処理塗料組成物を塗布する方法は、好ましくは、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディスペンサー、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いる塗布方法である。
【0161】
前処理塗料組成物をパターン印刷する場合は、インクジェット印刷若しくはフレキソ印刷が好ましい。
【0162】
塗布方法は、マスキングレス、生産効率等の観点から、好ましくは、グラビアオフセット印刷、パッド印刷、ディスペンサーを採用する。めっきのパターンに合わせて、好ましくは、スプレー塗装を採用する。
【0163】
塗布方法に合わせて、前処理塗料組成物の粘度を調整する。
【0164】
前処理塗料組成物を、グラビアオフセット印刷、パッド印刷にて塗布する場合、前処理塗料組成物の粘度は、好ましくは、100mPa・s~1,000mPa・s程度である。
【0165】
前処理塗料組成物を、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディッピング、スプレーにて塗布する場合、前処理塗料組成物の粘度は、好ましくは、1mPa・s~10mPa・s程度である。
【0166】
乾燥及び熱処理(重合処理)前の前処理塗料組成物の膜厚は、使用用途に依って、適宜選択し、前処理塗料組成物の粘度に依存する。乾燥及び熱処理(重合処理)前の前処理塗料組成物の膜厚は、前処理塗料組成物を良好に塗布する事が出来、前処理塗料組成物の液垂れを防止する観点から、好ましくは、1μm~100μm程度であり、より好ましくは、2μm~20μm程度である。
【0167】
熱処理による重合
基材に、前処理塗料組成物を塗布した後、前処理塗料組成物に含まれる溶媒(溶剤)を揮発、及び/又は乾燥させ、次いで重合処理を行う。重合処理に依り、(1)反応性末端を有する樹脂と(3)シランカップリング剤との間で重合反応が起こる。
【0168】
基材に前処理塗料組成物を塗布した後、好ましくは、乾燥処理を行う。乾燥処理に依って、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去すると共に、塗膜と基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させる事が出来る。乾燥処理の温度は、好ましくは、60℃~400℃程度であり、より好ましくは、80℃~150℃程度で行う。乾燥処理の時間は、乾燥温度に合わせて、好ましくは、6秒~60分程度であり、より好ましくは、10分~30分程度で行う。
【0169】
乾燥後の前処理塗料組成物の膜厚は、前処理塗料組成物の固形分濃度に依存する。乾燥及び熱処理(重合処理)後の前処理塗料組成物の膜厚は、無電解めっきを効率良く行う事(無電解めっきの反応速度が良い)が出来、めっき密着性が良好に発揮されるという観点から、好ましくは、0.05μm~20μm程度であり、より好ましくは、0.1μm~1μmである。
【0170】
(2)前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程
本発明の無電解めっき物を製造する方法は、(2)前記前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程を含む。
【0171】
カチオン性界面活性剤(陽イオン界面活性剤)は、水溶液中で電離して有機陽イオンと成る界面活性剤であり、水溶液中では、前処理塗料組成物を塗布した基材の表面上の電荷を中和しプラスの電荷を持たせる役割を担う。
【0172】
表面に前処理塗料組成物が塗布された基材に対して、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液を接触させる事に依り、その後のPdコロイド水溶液に含まれるPd複合体が基材に十分に吸着し、めっきが十分に析出する事が出来る。
【0173】
水中にカチオン性界面活性剤を分散させ、カチオン性界面活性剤を分散させた溶液を作製する。カチオン性界面活性剤は、第4級アンモニウム塩であることが好ましい。
【0174】
カチオン性界面活性剤の分子量は、好ましくは、300~1,000程度である。
【0175】
カチオン性界面活性剤は、好ましくは、ポリジアミノジメチルアンモニウム塩、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩、ポリビニルピリジン4級塩等の高分子4級アミン化合物、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等であり、より好ましくは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミドの共重合体、ポリエチレンイミン等である。
【0176】
溶媒の使用量は、特に限定されず、カチオン性界面活性剤を均一に存在させる事が出来れば良く、好ましくは、カチオン性界面活性剤100重量部に対して、1×105重量部~1×108重量部程度であり、より好ましくは、1×106重量部~1×107重量部程度である。
【0177】
カチオン性界面活性剤は、溶液中に、好ましくは、0.001重量%~0.1重量%程度含まれる。前処理塗料組成物が塗布された基材に、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させる事に依り、前処理塗料組成物に含まれるPd粒子が基材に十分に吸着し、めっきを十分に析出する事が出来る。
【0178】
前処理塗料組成物が塗布された基材を、好ましくは、カチオン性界面活性剤を分散させた溶液に浸漬する。
【0179】
液温は、特に限定されず、好ましくは、30℃~60℃程度であり、より好ましくは、40℃~50℃程度である。
【0180】
溶液に浸漬する場合の時間は、好ましくは、10秒~10分程度であり、より好ましくは、30秒~5分である。浸漬した後、水洗処理を行う。
【0181】
(3)カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウム(Pd)を付与する工程(塗布処理)
本発明の無電解めっき物を製造する方法は、(3)前記カチオン化処理した基材を、パラジウム(Pd)コロイド溶液に接触させて、パラジウム(Pd)を付与する工程を含む。
【0182】
カチオン化処理した基材に対して、Pdコロイド水溶液を接触させる事に依り、Pdコロイド水溶液に含まれるPd粒子が基材に十分に吸着し、めっきを十分に析出する事が出来る。
【0183】
Pdコロイド水溶液中に、好ましくは、Pd粒子が0.001重量%~0.1重量%程度含まれる。前処理塗料組成物が塗布された基材に対して無電解めっきを施し、無電解めっき物を製造する事が出来る。
【0184】
基材をPdコロイド水溶液に浸漬処理する事が好ましい。液温は、特に限定されず、好ましくは、30℃~60℃程度であり、より好ましくは、40℃~50℃程度である。溶液に浸漬する場合の時間は、好ましくは、10秒~10分程度であり、より好ましくは、30秒~5分である。浸漬処理した後、水洗を行う。
【0185】
(4)パラジウム(Pd)を付与した基材を、無電解めっきを行う工程
本発明の無電解めっき物を製造する方法は、(4)前記パラジウム(Pd)を付与した基材を、無電解めっきを行う工程を含む。基材上にめっきを形成する。
【0186】
塗料(前処理塗料組成物)膜を、水洗した後、無電解めっきを行う事に依り、基材上にめっきを形成する。
【0187】
塗料膜が形成された基材は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、無電解めっき皮膜が形成される。本発明の前処理塗料組成物を塗布し、次いで、カチオン化処理し、次いで、Pdコロイド水溶液を塗布した後に形成された塗料膜は、無電解めっきの反応性が良く、得られた無電解めっき皮膜はむらが無く、密着性及び外観性に優れる。
【0188】
めっき液は、一般に、無電解めっきに使用されるめっき液を使用する。めっき液は、好ましくは、銅、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等を用いる。めっき液は、好ましくは、銅又はニッケルを含むめっき液を用いる。
【0189】
めっき条件は、常法に従う。本発明の塗料膜は、無電解めっきの反応性が非常に良好であり、めっき液の還元剤濃度やアルカリ成分濃度を高める必要がない。その為、めっき液の寿命が長持ちする。
【0190】
無電解めっき処理で、無電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、25℃~65℃程度であり、その処理時間は、好ましくは、5分~20分程度である。この無電解めっき処理に依り、0.3μm~1.0μm程度の析出膜厚を形成する。
【0191】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルボロン浴を用いる場合、その処理温度は55~70℃程度が好ましく、その析出速度は5μm/hr(65℃)程度が好ましい。
【0192】
無電解めっき処理で、無電解ニッケルりん浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、30℃~95℃程度であり、その析出速度は、好ましくは、浴温30℃においては3μm/hr程度、90℃においては10μm/hr程度である。
【0193】
基材上に、本発明の前処理塗料組成物を用いて、めっきを形成する技術は、好ましくは、全面めっきに使用したり、パターンめっきに使用したりする。
【0194】
加飾を目的とする場合、無電解めっきの後、好ましくは、電解銅めっき、半光沢ニッケル、光沢ニッケル、クロムめっき等の一般的なプロセスを用いる。
【0195】
加飾処理で、電解銅めっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、20℃~60℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/m2~10A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~40μm程度の析出膜厚を形成する。
【0196】
加飾処理で、半光沢ニッケルめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、45℃~55℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/m2~10A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~20μm程度の析出膜厚と成る。
【0197】
加飾処理で、光沢ニッケルめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、45℃~55℃程度であり、電流密度は、好ましくは、1A/dm2~10A/dm2程度であり、処理時間は、好ましくは、10分~60分程度である。この加飾処理に依り、5μm~20μm程度の析出膜厚と成る。
【0198】
加飾処理で、クロムめっき浴を用いる場合、その処理温度は、好ましくは、40℃~60℃程度であり、電流密度は、好ましくは、10A/m2~60A/m2程度であり、処理時間は、好ましくは、1分~5分程度である。この加飾処理に依り、0.1μm~0.3μm程度の析出膜厚と成る。
【0199】
[3]無電解めっき皮膜及び皮膜を載せた成形品
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して、無電解めっきを行うと、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【0200】
基材に、本発明の前処理塗料組成物を塗布し、インキ膜を形成し、無電解めっきを行う。無電解めっき皮膜を載せた成形品(被めっき物)は、めっき皮膜の密着性に優れる。
【0201】
無電解めっき皮膜を載せた成形品は、例えば、携帯電話、パソコン、冷蔵庫等の電化製品の筐体;エンブレム、スイッチベース、ラジエータグリル、ドアハンドル、ホイールカバー等の自動車用部品等に使用する。
【0202】
本発明の前処理塗料組成物を用いると、基材(プラスチック(樹脂)等)上に、めっきを行う無電解めっきにおいて、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっき迄の多層めっきに耐え得る優れた密着性と装飾用めっきに耐え得る優れた平滑性を発現する事が出来る。無電解めっきでは、パターンの拡がりを抑え、良好に部分めっきをする事が可能である。
【0203】
無電解めっき皮膜を載せた基板は、例えば、プリント配線板、FPC(フレキシブルプリント配線板)、透明導電膜、電磁波シールド、リジッド基板、アンテナ、融雪ヒーター、RFID、メタサーフェス反射板等の電子部品等に使用する。特にガラス、セラミックを基材とした液晶パネル、TFT(Thin Film Transistor)、インターポーザー、半導体回路、MEMS等へのめっきに対して特に有効である。
【0204】
本発明の前処理塗料組成物は、特に、形状の有るガラス、セラミック等の基板に対して、有効に塗布する事が可能である。形状の有るガラス、セラミック等として、好ましくは、TGV(through glass via)、TSV(through silicon via)、セラミックフィルタ、シリコンキャパシタ、部品内蔵基板等を用いる。
【0205】
本発明の前処理塗料組成物は、複数の材質への密着性が得られることから、特に、表面が2種以上の基材から構成される用途に対して。有効に塗布する事が可能である。2種以上の基材から構成される用途として、好ましくは、ガラスとセラミックとから成るLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)、FR-4等のガラスフィラー配合樹脂、カーボンフィラー配合樹脂、相関絶縁膜とCuバンプ部とから成るビルドアップ基板、セラミック部品がモールドされたエポキシ樹脂等の部品内蔵基板等を用いる。
【0206】
本発明の前処理塗料組成物を用いると、無電解めっきの反応性を向上させる目的で、無電解めっきにおける還元剤の濃度を高める必要が無く、また無電解めっきの反応温度を上げる必要もない。更に、また有害な物質によるエッチング工程、煩雑な触媒付与工程等を必要としない。
【0207】
本発明の前処理塗料組成物が、無電解めっきの反応性が高く、クロムめっき迄の多層めっきに耐え得る良好な密着性を実現出来る理由は、次の通りである。
【0208】
基材(ガラス等)と前処理塗料組成物との密着メカニズムは、前処理塗料組成物に含まれるアルコキシシリル基が基材と結合することで強固に密着する。また、シランカップリング剤の有機分子(ブタジエン、酸無水物基等)は樹脂の反応性末端と結合し、シランカップリング剤と樹脂が混ざり合った塗膜を形成する。この有機無機材料から成る塗膜は、基材とめっきの応力を緩和する性能に優れる。特に、シランカップリング剤がブタジエン基を有することで、さらに応力緩和性能を高めることができる。
【0209】
前処理塗料組成物が塗布された基材の表面は、カチオン性界面活性剤が吸着し易くなっており、多数のイオン結合を形成する。Pdコロイドは表面にカルボキシル基等のアニオン性官能基を有する為、カチオン性界面活性剤と強固に結合する。
【0210】
無電解めっき液中の金属イオンが還元された際、前処理塗料組成物が塗布された基材の表面には、多数のカルボキシル基が存在し、これらは無電解めっきにより析出する金属と強固に結合する。基材、Pdコロイド、及びめっき皮膜の間には、多数のイオン結合が形成され、強固な密着性を付与している。
【0211】
特にシランカップリング剤が酸無水物基を有することで、カチオン性界面活性剤の吸着能を高めることができる。
【実施例
【0212】
以下に、実施例及び参考例を示して本発明を具体的に説明する。
【0213】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0214】
[1]無電解めっき物を製造する方法
図1を参考に、実施例の無電解めっきの前処理方法を説明する。
【0215】
(1)基材に前処理塗料組成物を塗布する工程
前処理塗料組成物の調製
(1)反応性末端を有する樹脂:ポリアミド樹脂、固形分20重量%(wt%)、15重量部
(2)シランカップリング剤:固形分100重量%(wt%)、1重量部
(4)添加物:シリカコロイド、平均粒子径12nm、固形分20重量%(wt%)、5重量部
(5)溶媒:ジアセトンアルコール、79重量部
【0216】
【表1】
【0217】
基材:アルカリガラス、無アルカリガラス、アルミナ、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)
前処理塗料組成物の塗布工程
浸漬塗布、引き上げ速度100mm/分、120℃×60分乾燥
(2)前処理塗料組成物を塗布した基材を、カチオン性界面活性剤を含有する水溶液に接触させて、カチオン化処理する工程
カチオン化処理液-1の調製
水19重量部に、カチオン性界面活性剤を含む水溶液(クリーナーコンディショナーXP2285、ロームアンドハース社製)1重量部を加えた。これを振盪撹拌させ、無電解めっきの為のカチオン化処理液-1を作製した。
【0218】
カチオン化処理液-2の調製
水19重量部に、カチオン性界面活性剤を含む水溶液(クリーナーコンディショナーMTE-1A、上村工業社製)1重量部を加えた。これを振盪撹拌させ、無電解めっきの為のカチオン化処理液-2を作製した。
【0219】
(3)カチオン化処理した基材を、Pdコロイド溶液に接触させて、Pdを付与する工程
(4)Pdコロイド
Pdコロイド水溶液-1の調製
パラジウム粒子(Pd粒子)と分散剤との複合体の作製
3Lフラスコにイオン交換水944.5gを入れ、次いで、そのイオン交換水中に硝酸パラジウム(硫酸Pd)5.0gを加えて、撹拌した。硝酸Pdを水に溶解させ、硝酸Pd水溶液を作製した。
【0220】
この水溶液に、更にカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤(DISPERBYK194、ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)3.8gを加えて、水溶液中で溶解させた。
【0221】
この溶液を42℃に成る迄、加熱した後、撹拌しながらヒドラジン1水和物10.0gを加えた。この後、この溶液を、室温下(23℃)で1時間撹拌した。溶液の温度は、ヒドラジン1水和物の添加後に53℃迄上昇したが、1時間撹拌した後の溶液の温度は40℃であった。
【0222】
この操作に依り、水溶液中のパラジウムイオン(Pdイオン)が還元された。この溶液を限外濾過フィルターAHP-1010(旭化成株式会社製)を用いて、還元されたPd複合体含有液と無機塩含有液とを分離して、Pd複合体(Pd粒子と分散剤との複合体)含有液を得た。
【0223】
この操作に依り得られたPd複合体含有液に対して、上記分離した無機塩含有液(硝酸Pd水溶液)と同じ質量分のイオン交換水を加えて、再度限外濾過フィルターで分離操作を行った。このイオン交換水補填操作及び分離操作を5回繰り返した。
【0224】
この操作後に得られたPd複合体含有液の電気伝導率(導電率)は、28μS・cm-1であった。電気伝導率は30μS・cm-1以下であったので、このPd複合体含有液から無機塩を除去出来た事を確認した。
【0225】
得られたPd複合体含有液に関して、TG/DTA分析でPd複合体含有率を調べると、550℃での残固形分から、Pd複合体含有率は1.0wt%である事を確認した。
【0226】
Pd複合体含有液のPd粒子の平均粒子径は、2nm~10nmの範囲内であった。
【0227】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=75:25であった。
【0228】
水98重量部に前記Pd粒子と分散剤との複合体2重量部を加えた。これを振とう撹拌させ、Pdコロイド水溶液を作製した。
【0229】
Pdコロイド水溶液-2の調製
キャタリストC-10(奥野製薬工業)、32℃×3分
アクセラレータX(奥野製薬工業)、35℃×5分
【0230】
(4)Pdを付与した基材を、無電解めっきを行う工程
(1)めっき前処理液に、50℃×5分浸漬
(2)Pdコロイド水溶液-1に、40℃×3分浸漬
(3)無電解Cuめっき:OPCカッパーHFS(奥野製薬)に、40℃×10分浸漬
(5)熱処理:120℃×30分
【0231】
[2]無電解めっき物の評価
(1)めっき後外観
〇評価:めっきは、Cu色であり、剥離が無く、許容出来る製品である。
△評価:めっきに剥離が有り、許容出来ない製品である。
×評価:未析出であり、許容出来ない製品である。
【0232】
(2)クロスカット試験
得られた銅めっき皮膜上に、JIS K 5600(クロスカット法)に基づいて、1mm間隔で100マスの切込みを入れた。その上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、テープを剥離した時の剥がれなかったマス目の数を測定した。
【0233】
表中、「100/100」は、100マス全てにおいて剥離していない事を示す。
【0234】
表中、「22/100」は、22マスが剥離しておらず、残り78マスが剥離した事を示す。
【0235】
(3)めっきの平均ピール強度
無電解Cuめっきサンプルに、電気銅めっきを銅の厚み20μm迄、行った。
【0236】
めっきサンプルを、90°剥離試験方法に依り、ピール強度を評価した。めっきされた幅10mmのめっき皮膜を引き剥がし、その一端を引張試験機(IMADA製デジタルフォースゲージZTS-50N)の引張治具に持たせた。そのめっきされためっき皮膜の剥がしていない側をもう一つの引張治具に持たせ、試験速度25mm/分で引張試験を行った。
【0237】
その最大荷重をピール強度とし、密着性を評価した。
◎評価:平均ピール強度5N/cm以上であり、許容出来る製品である。
〇評価:平均ピール強度1N/cm~5N/cmであり、許容出来る製品である。
×評価:平均ピール強度0~1N/cmであり、許容出来ない製品である。
【0238】
総合評価
◎評価:めっき後外観「〇」、クロスカット試験「100/100」、めっきの平均ピール強度「5N/cm以上」である。
〇評価:めっき後外観「〇」、クロスカット試験「100/100」、めっきの平均ピール強度「1N/cm~5N/cm」である。
【0239】
【表2】
【0240】
【表3】
【0241】
【表4】
【0242】
[3]産業上の利用可能性
本発明の無電解めっきの前処理塗料組成物を用いて、ガラス、セラミック等の無機材料の基板に対して、無電解めっきを行うと、150℃以下の低温で、高密着性のめっきを形成する事が出来る。
【要約】
本発明は、新たに、無電解めっきの前処理塗料組成物を提供する事を目的とする。(1)反応性末端を有する樹脂、及び(2)シランカップリング剤を含有する、無電解めっきの前処理塗料組成物。
図1