(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20250114BHJP
【FI】
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2024509223
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011607
(87)【国際公開番号】W WO2023182444
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022047603
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】土田 晃
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-70557(JP,U)
【文献】特開2013-19432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達機構を収容するハウジングと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給するオイルポンプと、
前記ハウジング内を、前記動力伝達機構が収容される第1室と、前記コントロールバルブが縦置き配置される第2室と、に区画する隔壁部と、
前記第1室と前記第2室とを連通させる連通路と、を有する車両用の動力伝達装置であって、
前記連通路の開口面積は、前記連通路を通って前記第2室から前記第1室に流入するオイル量が、前記車両の走行中に前記コントロールバルブから前記第2室にドレンされるオイル量より少なくなるように設定されている、動力伝達装置。
【請求項2】
動力伝達機構を収容するハウジングと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給するオイルポンプと、
前記ハウジング内を、前記動力伝達機構が収容される第1室と、前記コントロールバルブが縦置き配置される第2室と、に区画する隔壁部と、
前記第1室から前記コントロールバルブに供給されるオイルの通流路と、
前記第1室と前記第2室とを連通させる連通路と、を有する車両用の動力伝達装置であって、
前記通流路の流路断面積が、前記連通路の開口面積よりも大きい、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記ハウジングは、
前記第1室を囲む周壁部を有するケースと、
前記第2室を囲む囲繞壁を有する収容部と、を有しており、
前記収容部の周壁部は、前記ケースの周壁部の車両前方側の側面に付設されており、
前記ケースの周壁部のうち、前記第1室と前記第2室との境界に位置する領域が、前記隔壁部である、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記連通路は、前記隔壁部に設けられた貫通孔である、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記貫通孔は、前記動力伝達装置の
前記車両への設置状態を基準とした鉛直線方向で、前記車両が走行していないときの前記第1室内のオイルの高さよりも下方となる位置に設けられている、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記隔壁部の上部に、前記第1室と前記第2室を連絡させる連絡部が設けられている、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1
または請求項2において、
前記オイルポンプは、ポンプ機構を駆動するモータを有している、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1
または請求項2において、
前記オイルポンプは、ポンプ機構と、前記ポンプ機構
を駆動するモータと、前記モータを制御するインバータと、を有している、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両用の駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この駆動装置では、ハウジングの内部に、油圧で作動する駆動機構が設けられている。
ハウジングの内の下部には、駆動機構の作動や潤滑に用いられるオイルが貯留されている。
ここで、ハウジング内のオイルの高さ(オイルレベル)が高いと、オイルOLが駆動機構(動力伝達機構)を構成する回転体の回転に対する抵抗となる。
そこで、動力伝達機構に作用するオイルの抵抗を低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様は、
動力伝達機構を収容するハウジングと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給するオイルポンプと、
前記ハウジング内を、前記動力伝達機構が収容される第1室と、前記コントロールバルブが縦置き配置される第2室と、に区画する隔壁部と、
前記第1室と前記第2室とを連通させる連通路と、を有する車両用の動力伝達装置であって、
前記連通路の開口面積は、前記連通路を通って前記第2室から前記第1室に流入するオイル量が、前記車両の走行中に前記コントロールバルブから前記第2室にドレンされるオイル量より少なくなるように設定されている、動力伝達装置である。
【0006】
本発明の他の態様は、
動力伝達機構を収容するハウジングと、
前記動力伝達機構に供給する油圧を制御するコントロールバルブと、
前記コントロールバルブにオイルを供給するオイルポンプと、
前記ハウジング内を、前記動力伝達機構が収容される第1室と、前記コントロールバルブが縦置き配置される第2室と、に区画する隔壁部と、
前記第1室から前記コントロールバルブに供給されるオイルの通流路と、
前記第1室と前記第2室とを連通させる連通路と、を有する車両用の動力伝達装置であって、
前記通流路の流路断面積が、前記連通路の開口面積よりも大きい、動力伝達装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、動力伝達機構に作用するオイルの抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、車両における動力伝達装置の配置を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ケースを第2カバー側から見た模式図である。
【
図5】
図5は、メカオイルポンプの隔壁部での支持を説明する図である。
【
図6】
図6は、ケースを車両前方側から見た模式図である。
【
図7】
図7は、コントロールバルブ内の油圧制御回路の一例を説明する図である。
【
図8】
図8は、ケースを連通孔の位置で切断した断面を第2カバー側から見た模式図である。
【
図9】
図9は、ケースを連通孔の位置で切断した断面を第2カバー側から見た模式図である。
【
図10】
図10は、ストレーナからコントロールバルブまでの油路を説明する図である。
【
図11】
図11は、変形例にかかる動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
【
図12】
図12は、変形例にかかる動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
【
図13】
図13は、変形例にかかる動力伝達装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
始めに、本明細書における用語の定義を説明する。
動力伝達装置は、少なくとも動力伝達機構を有する装置であり、動力伝達機構は、例えば、歯車機構と差動歯車機構と減速機構の少なくともひとつである。
以下の実施形態では、動力伝達装置1がエンジンの出力回転を伝達する機能を有する場合を例示するが、動力伝達装置1は、エンジンとモータ(回転電機)のうちの少なくとも一方の出力回転を伝達するものであれば良い。
【0010】
「所定方向視においてオーバーラップする」とは、所定方向に複数の要素が並んでいることを意味し、「所定方向にオーバーラップする」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいることが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていることを説明した文章があるとみなして良い。
【0011】
「所定方向視においてオーバーラップしていない」、「所定方向視においてオフセットしている」とは、所定方向に複数の要素が並んでいないことを意味し、「所定方向にオーバーラップしていない」、「所定方向にオフセットしている」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいないことが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていないことを説明した文章があるとみなして良い。
【0012】
「所定方向視において、第1要素(部品、部分等)は第2要素(部品、部分等)と第3要素(部品、部分等)との間に位置する」とは、所定方向から観察した場合において、第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが観察できることを意味する。「所定方向」とは、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
例えば、第2要素と第1要素と第3要素とが、この順で軸方向に沿って並んでいる場合は、径方向視において、第1要素は第2要素と第3要素との間に位置しているといえる。図面上において、所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが図示されている場合は、明細書の説明において所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることを説明した文章があるとみなして良い。
【0013】
軸方向視において、2つの要素(部品、部分等)がオーバーラップするとき、2つの要素は同軸である。
【0014】
「軸方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸の軸方向を意味する。「径方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸に直交する方向を意味する。部品は、例えば、モータ、歯車機構、差動歯車機構等である。
【0015】
「回転方向の下流側」とは、車両前進時における回転方向または車両後進時における回転方向の下流側を意味する。頻度の多い車両前進時における回転方向の下流側にすることが好適である。
【0016】
コントロールバルブの「縦置き」とは、バルブボディの間にセパレートプレートを挟み込んだ基本構成を持つコントロールバルブの場合、コントロールバルブのバルブボディが、動力伝達装置の車両への設置状態を基準とした水平線方向で積層されていることを意味する。ここでいう、「水平線方向」とは、厳密な意味での水平線方向を意味するものではなく、積層方向が水平線に対して傾いている場合も含む。
【0017】
さらに、コントロールバルブの「縦置き」とは、コントロールバルブ内の複数の調圧弁を、動力伝達装置の車両への設置状態を基準とした鉛直線VL方向に並べた向きで、コントロールバルブが配置されていることを意味する。
「複数の調圧弁を鉛直線VL方向に並べる」とは、コントロールバルブ内の調圧弁が、鉛直線VL方向に位置をずらして配置されていることを意味する。
【0018】
この場合において、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向に一列に厳密に並んでいる必要はない。
例えば、複数のバルブボディを積層してコントロールバルブが形成されている場合には、以下のようであっても良い。すなわち、縦置きされたコントロールバルブにおいて、複数の調圧弁が、バルブボディの積層方向に位置をずらしつつ、鉛直線VL方向に並んでいても良い。
【0019】
さらに、調圧弁が備える弁体の軸方向(進退移動方向)から見たときに、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向に間隔をあけて並んでいる必要はない。
調圧弁が備える弁体の軸方向(進退移動方向)から見たときに、複数の調圧弁が、鉛直線VL方向で隣接している必要もない。
【0020】
よって、例えば、鉛直線VL方向に並んだ調圧弁が、バルブボディの積層方向(水平線方向)に位置をずらして配置されている場合には、積層方向から見たときに、鉛直線VL方向で隣接する調圧弁が、一部重なる位置関係で設けられている場合も含む。
【0021】
さらに、コントロールバルブが「縦置き」されている場合には、コントロールバルブ内の複数の調圧弁が、当該調圧弁が備える弁体(スプール弁)の移動方向を水平線方向に沿わせる向きで配置されていることを意味する。
この場合における弁体(スプール弁)の移動方向は、厳密な意味の水平線方向に限定されるものではない。この場合における弁体(スプール弁)の移動方向は、動力伝達装置の回転軸Xに沿う方向である。この場合において、回転軸X方向と、弁体(スプール弁)の摺動方向が同じになる。
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、車両Vにおける動力伝達装置1の配置を説明する模式図である。
図2は、動力伝達装置1の概略構成を説明する模式図である。
【0023】
図1に示すように、車両Vの前部において動力伝達装置1は、左右のフレームFR、FRの間に配置される。動力伝達装置1のハウジングHSは、ケース6と、第1カバー7と、第2カバー8と、第3カバー9とから構成される。
図2に示すように、ハウジングHSの内部に、トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5、電動オイルポンプEOP、メカオイルポンプMOP、コントロールバルブCVなどが収容される。
【0024】
動力伝達装置1では、エンジンENG(駆動源)の出力回転が、トルクコンバータT/Cを介して、前後進切替機構2に入力される。
前後進切替機構2に入力された回転は、順回転または逆回転で、バリエータ3のプライマリプーリ31に入力される。
【0025】
バリエータ3では、プライマリプーリ31とセカンダリプーリ32におけるベルト30の巻き掛け半径を変更することで、プライマリプーリ31に入力された回転が、所望の変速比で変速されて、セカンダリプーリ32の出力軸33から出力される。
【0026】
セカンダリプーリ32の出力回転は、減速機構4を介して差動装置5(差動歯車機構)に入力された後、左右の駆動軸55A、55Bを介して、駆動輪WH、WHに伝達される。
【0027】
減速機構4は、アウトプットギア41と、アイドラギア42と、リダクションギア43と、ファイナルギア45とを、有する。
アウトプットギア41は、セカンダリプーリ32の出力軸33と一体に回転する。
アイドラギア42は、アウトプットギア41に回転伝達可能に噛合している。アイドラギア42は、アイドラ軸44にスプライン嵌合しており、アイドラ軸44と一体に回転する。アイドラ軸44には、アイドラギア42よりも小径のリダクションギア43が設けられている。リダクションギア43は、差動装置5のデフケース50の外周に固定されたファイナルギア45に、回転伝達可能に噛合している。
【0028】
動力伝達装置1では、プライマリプーリ31の回転軸X1(第1軸)上で、前後進切替機構2と、トルクコンバータT/Cと、エンジンENGの出力軸が、同軸(同芯)に配置される。
セカンダリプーリ32の出力軸33と、アウトプットギア41とが、セカンダリプーリ32の回転軸X2(第2軸)上で、同軸に配置される。
アイドラギア42と、リダクションギア43とが、共通の回転軸X3上で同軸に配置される。
ファイナルギア45と、駆動軸55A、55Bが、共通の回転軸X4上で同軸に配置される。動力伝達装置1では、これら回転軸X1~X4が互いに平行となる位置関係に設定されている。以下においては、必要に応じて、これら回転軸X1~X4を総称して、動力伝達装置1(動力伝達機構)の回転軸Xとも表記する。
【0029】
図3は、ケース6を、第2カバー8側から見た状態を示す模式図である。なお、
図3の拡大図では、ストレーナ10とメカオイルポンプMOPの図示を省略して、隔壁部62に設けた接続部625、627周りを示している。
【0030】
図3に示すように、ケース6は、筒状の周壁部61と、隔壁部62と、を有する。周壁部61の車両前方側の外周に、後記する第2室S2を形成する収容部68が付設されている。
隔壁部62は、動力伝達機構の回転軸(回転軸X1~回転軸X4)を横切る範囲に設けられる。
図2に示すように、隔壁部62は、周壁部61の内側の空間を、回転軸X1方向で2つに区画する。回転軸X1方向における隔壁部62の一方側が第1室S1、他方側が第3室S3である。
【0031】
第1室S1には、前後進切替機構2と減速機構4と差動装置5と、が収容される。第3室S3には、バリエータ3が収容される。
ケース6では、第1室S1側の開口が、第2カバー8(トルコンカバー)で封止される。第3室S3側の開口が、第1カバー7(サイドカバー)で封止される。
ケース6では、第1カバー7と第2カバー8との間の空間(第1室S1、第3室S3)の下部に、動力伝達装置1の作動や、動力伝達装置1の構成要素の潤滑に用いられるオイルが貯留される。
【0032】
図3に示すように、ケース6は、第2カバー8側(紙面手前側)の端面が、第2カバー8との接合部611となっている。接合部611は、隔壁部62の第2カバー8側の開口を全周に亘って囲むフランジ状の部位である。接合部611には、第2カバー8側の接合部811(
図2参照)が全周に亘って接合される。ケース6と第2カバー8は、互いの接合部611、811同士を接合した状態で、図示しないボルトで連結される。これにより、ケース6の開口が第2カバー8で封止された状態で保持されて、閉じられた第1室S1が形成される。
【0033】
図3に示すように、ケース6では、接合部611の内側に、隔壁部62が位置している。
ケース6の隔壁部62は、回転軸(回転軸X1~X4)に対して略直交する向きで設けられている。隔壁部62には、貫通孔621、622、624と、支持穴623が設けられている。
貫通孔621は、回転軸X1を中心として形成されている。隔壁部62における第1室S1側(紙面手前側)の面では、貫通孔621を囲む円筒状の支持壁部631と、支持壁部631の外周を間隔をあけて囲む周壁部641が、設けられている。
図3において支持壁部631と周壁部641は、紙面手前側(
図2における第2カバー8側)に突出している。
【0034】
支持壁部631と周壁部641の間の領域651は、前後進切替機構2のピストン(図示せず)や、摩擦板(前進クラッチ、後進ブレーキ)などを収容する円筒状の空間である。
支持壁部631の内周には、ベアリングBを介して、プライマリプーリ31の入力軸34(
図2参照)が回転可能に支持される。
【0035】
図3に示すように、貫通孔622は、回転軸X2を中心として形成されている。
車両Vに搭載された動力伝達装置1において、回転軸X2は、回転軸X1から見て車両後方側の斜め上方に位置している。
【0036】
隔壁部62における第1室S1側(紙面手前側)の面では、貫通孔622を囲む円筒状の支持壁部632が設けられている。支持壁部631の内周には、ベアリングBを介して、セカンダリプーリ32の出力軸33(
図2参照)が回転可能に支持される。
【0037】
図3に示すように、支持穴623は、回転軸X3を中心として形成された有底穴である。
車両Vに搭載された動力伝達装置1において、回転軸X3は、回転軸X1から見て車両後方側の斜め上方、かつ回転軸X2から見て車両後方側の斜め下方に位置している。
【0038】
隔壁部62における第1室S1側(紙面手前側)の面では、支持穴623を囲む円筒状の支持壁部633が設けられている。支持壁部633の内周には、ベアリングBを介して、減速機構4のアイドラ軸44(
図2参照)の一端側が、回転可能に支持される。
【0039】
図3に示すように、貫通孔624は、回転軸X4を中心として形成されている。
車両Vに搭載された動力伝達装置1において、回転軸X4は、回転軸X1から見て車両後方側の斜め下方、回転軸X2から見て車両後方側の斜め下方、そして、回転軸X3から見て車両前方側の斜め下方に位置している。
【0040】
隔壁部62における第1室S1側(紙面手前側)の面では、貫通孔624を囲む円筒状の支持壁部634が設けられている。支持壁部634の内周には、ベアリングBを介して、差動装置5のデフケース50(
図2参照)が、回転可能に支持される。
図2に示すように、デフケース50の外周には、回転軸X4方向から見てリング状を成すファイナルギア45が固定されている。ファイナルギア45は、デフケース50と一体に回転軸X4周りに回転する。
【0041】
図3に示すようにケース6では、前記した円弧状の周壁部641の下側であって、ファイナルギア45よりも車両前方側の領域に、ストレーナ10が配置されている。
図3に示すように隔壁部62では、ストレーナ10との接続部625と、メカオイルポンプMOPとの接続部627が設けられている。接続部625、627は、周壁部641の下側に位置している。接続部625の接続口625aと接続部627の接続口627aは、同一方向を向いて開口している。接続部625の接続口625aは、隔壁部62内に設けた油路626に連絡している。接続部627の接続口627aは、隔壁部62内に設けた油路628に連絡している。
【0042】
油路626、628は、隔壁部62内を収容部68側(図中、右側)に、直線状に延びている。油路626は、収容部68内に収容された電動オイルポンプEOP(
図2参照)に接続されている。油路628は、収容部68内に設置されたコントロールバルブCV(
図2参照)に接続されている。
【0043】
図4は、ストレーナ10を、アッパケース101側の斜め上方から見た斜視図である。
図5は、隔壁部62におけるメカオイルポンプMOPの支持構造を説明する図である。
【0044】
図4に示すように、ストレーナ10は、アッパケース101とロアケース102との間の内部に、フィルタ(図示せず)を配置した基本構成を有している。
ストレーナ10のアッパケース101には、第1接続部105と、第2接続部106とが設けられている。
第1接続部105は、メカオイルポンプMOPとの接続部である。第1接続部105は、アッパケース101からメカオイルポンプMOPに近づく方向に延出している(
図3参照)。
第1接続部105の先端側は、ストレーナ10をメカオイルポンプMOPに接続する際に、メカオイルポンプMOP側の接続口120に挿入される(
図3参照)。
【0045】
図4に示すように、第2接続部106は、第1接続部105の根元に設けられている。第2接続部106内の油路106aの開口方向は、第1接続部105内の油路105aの開口方向に直交している。
本実施形態では、ストレーナ10は、メカオイルポンプMOPに組み付けられた状態で、ケース6の隔壁部62に取り付けられる。油路106aは、メカオイルポンプMOPの隔壁部62への取付方向(
図5における左右方向)に開口を向けている。
本実施形態では、メカオイルポンプMOPの隔壁部62への取り付けが完了した時点で、第2接続部106が、隔壁部62側の接続部625(
図3参照)に接続されるようになっている。
この状態において、ストレーナ10は、第2接続部106内の油路106aを介して、隔壁部内の油路626に連通する。前記したように油路626が電動オイルポンプEOPに連絡している。そのため、電動オイルポンプEOPが駆動されると、ハウジングHSの下部に貯留されたオイルOLが、ストレーナ10と油路626を介して、電動オイルポンプEOP側に吸引される。
【0046】
さらに、
図5に示すように、メカオイルポンプMOPは、隔壁部62の挿入孔629に、突起150を挿入することで、隔壁部62上の所定位置に位置決めされる。この状態で、メカオイルポンプMOPの排出口140が、隔壁部62側の接続部627に対向する位置に配置されて、排出口140と、接続部627とが連通する。接続部627は、隔壁部62内の油路628に連絡している。
【0047】
そのため、メカオイルポンプMOPが駆動されると、ハウジングHSの下部に貯留されたオイルOLが、ストレーナ10を介して、メカオイルポンプMOPに吸引される。メカオイルポンプMOPに吸引されたオイルOLは、加圧されたのち、排出口140から接続部627に排出される。そして、接続部627が接続する油路628を通って、コントロールバルブCVに供給される。
【0048】
このように、本実施形態では、ストレーナ10が、電動オイルポンプEOPとメカオイルポンプMOPで共用される。
【0049】
図2に示すように、ケース6では、車両前方側の側面に、収容部68が付設されている。
収容部68は、開口を車両前方側に向けて設けられている。収容部68は、回転軸X1に沿う向きで設けられている。回転軸X1の径方向から見て収容部68は、ケース6の周壁部61の領域から、第1カバー7の側方まで及ぶ回転軸X1方向の範囲を持って形成されている。
【0050】
収容部68の底壁部682は、エンジンENG側の略半分の領域が、周壁部61と一体になっている。底壁部682の反対側の略半分の領域は、周壁部61の延長上で、第1カバー7の外周との間に隙間を開けて設けられている。
以下の説明においては、底壁部682における周壁部61と一体となった領域(周壁部61と共用する領域)を、必要に応じて、区画壁685と表記する。区画壁685と表記した場合には、
図6に示した底壁部682のうち、ケース6の周壁部61と重なる領域を示すものとする。
なお、
図2では、区画壁685の領域を明確にするために、区画壁685の領域に交差したハッチングを付している。
【0051】
図6は、ケース6を、車両前方から見た状態を示す模式図である。
図6では、紙面奥側に隠れたストレーナ10の位置を、説明の便宜上、破線で示している。
図6に示すように、車両前方側から見て収容部68は、底壁部682の外周を全周に亘って混む囲繞壁681を有している。囲繞壁681の紙面手前側の端面は、第3カバー9との接合部683となっている。接合部683は、囲繞壁681の第3カバー9側の開口を全周に亘って囲むフランジ状の部位である。
図2に示すように、接合部683には、第3カバー9側の接合部911が全周に亘って接合される。収容部68と第3カバー9は、互いの接合部683、911同士を接合した状態で、図示しないボルトで連結される。これにより、収容部68の開口が第3カバー9で封止された状態で保持されて、閉じられた第2室S2が形成される。
【0052】
第2室S2内には、コントロールバルブCVと、電動オイルポンプEOPが収容される。
図2に示すように、コントロールバルブCVは、バルブボディ921、921の間にセパレートプレート920を挟み込んだ基本構成を有している。コントロールバルブCVの内部には、油圧制御回路950(
図7参照)が形成されている。油圧制御回路950には、制御装置(図示せず)からの指令に基づいて駆動するソレノイドや、ソレノイドで発生させた信号圧などで作動する調圧弁(スプール弁)が設けられている。
【0053】
図6に示すように、第2室S2内では、コントロールバルブCVが、バルブボディ921、921の積層方向を車両前後方向(紙面、手前奥方向)に沿わせた向きで、縦置きされている。
第2室S2では、コントロールバルブCVが、以下の条件を満たすように、縦置きされている。(a)コントロールバルブCV内の複数の調圧弁SP(スプール弁)が、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした鉛直線VL方向(上下方向)に並ぶ、(b)調圧弁SP(スプール弁)の進退移動方向Xpが水平線方向に沿う向きとなる。
【0054】
これにより、調圧弁SP(スプール弁)の進退移動が阻害されないようにしつつ、コントロールバルブCVが第2室S2内で縦置きされる。よって、第2室S2が車両前後方向に大型化しないようにされている。
【0055】
図6に示すように、車両前方側から見てコントロールバルブCVは、略矩形形状のバルブボディ921に切欠部923を設けた略L字形状を成している。第2室S2において切欠部923は、第1カバー7と重なる領域の下部に位置している。
車両前方側から見て切欠部923には、電動オイルポンプEOPの少なくとも一部が収容されている。
【0056】
電動オイルポンプEOPは、制御部931と、モータ部932と、ポンプ部933が、モータの回転軸Z1方向で直列に並んだ基本構成を有する。
電動オイルポンプEOPは、回転軸Z1を、動力伝達装置1の回転軸Xに直交させた向きで設けられている。この状態において、ポンプ部933は、第2室S2内の最下部に位置している。ポンプ部933の吸入口933aと吐出口933bは、モータ部932との境界側に位置している。ポンプ部933の吸入口933aは、前記した油路626に接続されている。ポンプ部933の吐出口933bは、他のケース内油路を介して、コントロールバルブCVに接続されている。
【0057】
吸入口933aは、前記した隔壁部62内の油路626(
図3参照)を介してストレーナ10に接続されている。
ストレーナ10は、コントロールバルブCVの第2室S2とは別の第1室S1に収容されている(
図3参照)。
図6において破線で示すように、車両前方側から見てストレーナ10は、第2室S2の下部の紙面の奥側に配置されている。
本実施形態では、電動オイルポンプEOPのポンプ部933を、第2室S2内の下部に位置させることで、ポンプ部933の吸入口933aと、ストレーナ10との鉛直線VL方向の位置が近づくようにしている。
これにより、ストレーナ10と電動オイルポンプEOPの吸入口933aとを接続する油路の油路長が最短となるようにしている。
【0058】
コントロールバルブCVの上部側は、電動オイルポンプEOPの上方まで及んでいる。
鉛直線VL方向(電動オイルポンプEOPの回転軸Z1方向)から見ると、電動オイルポンプEOPが、コントロールバルブCVと重なる位置関係で設けられている。
コントロールバルブCV内の油圧制御回路950は、オイルポンプで発生させた油圧から、動力伝達機構(トルクコンバータT/Cなど)の作動油圧を調圧する。
【0059】
動力伝達装置1は、オイルポンプとして、メカオイルポンプMOPと、電動オイルポンプEOPを1つずつ備えている。これらオイルポンプは、ハウジングHS内の下部に貯留されたオイルOLを吸引、加圧して、コントロールバルブCV内の油圧制御回路950(
図7参照)に供給する。これらオイルポンプは、動力伝達装置1を搭載した車両Vの走行中に少なくとも一方が駆動される。尚、以下の説明においては、メカオイルポンプMOPと、電動オイルポンプEOPを区別しない場合には、単純にオイルポンプOPと標記する。
【0060】
図7は、コントロールバルブCV内の油圧制御回路950の一例を説明する図であり、油圧制御回路950におけるトルクコンバータT/Cに供給される油圧の調圧に関わる部分を示した図である。
【0061】
第1調圧弁951は、当該第1調圧弁951でのオイルOLのドレン量を調整することで、オイルポンプOPで発生させた油圧からライン圧PLを調整する。
第1調圧弁951により調整されたライン圧PLは、第2調圧弁952で調圧されたのち、ロックアップ制御弁960に供給される。
ロックアップ制御弁960は、図示しない制御装置からの指令に従って、ロックアップ制御圧を調整し、トルクコンバータT/Cに供給する。これにより、ロックアップクラッチの締結/解放の切替えが行われる。
【0062】
さらに、第1調圧弁951により調整されたライン圧PLは、第3調圧弁953からのドレン量を調整することで調圧されたのち、切替弁961に供給される。
切替弁961は、第3調圧弁953から供給されたオイルOLのトルクコンバータT/Cの入力ポートへの供給と、出力ポートから戻されたオイルOLのオイルクーラ(図示せず)側への供給との切替えを行う。
【0063】
前記したように、コントロールバルブCVには、ドレンされるオイルOLの排出口96(
図7参照)が複数設けられている。
そのため、コントロールバルブCVを収容する第2室S2内に、コントロールバルブCVから排出されたオイルOLが貯留される。
図6に示すように、第2室S2では、コントロールバルブCVの下端縁924が、囲繞壁681の下縁686との間に隙間を空けて設けられている。第2室S2では、底壁部682におけるケース6側の周壁部61と重なる領域の最下部に、連通孔94(貫通孔)が設けられている。この領域は、底壁部682における区画壁685の領域である。
車両前方側から見て連通孔94は、コントロールバルブCVの下端縁924と、囲繞壁681の下縁686との間で開口している。下端縁924と囲繞壁681の下縁686との間のオイルOLが、連通孔94側(紙面奥側)に速やかに移動できるようになっている。
【0064】
さらに、区画壁685の領域における最上部に、開口部95が設けられている。
連通孔94と開口部95は、それぞれ、第2室S2と第1室S1とを連通させている。
開口部95の下縁95aは、コントロールバルブCVの上端縁925と略同じ高さに位置している。なお、開口部95の下縁95aが、コントロールバルブCVの上端縁925よりも下側に位置するように、開口部95が形成されていても良い。この場合、開口部95は、車両前方側から見て、コントロールバルブCVと重なる領域を持って、上端縁925よりも下方まで及んで形成されていることになる。
【0065】
このように、第2室S2は、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした鉛直線VL方向の上部と下部で、第1室S1に連通している。
【0066】
図8および
図9は、
図6におけるA-A線に沿ってケース6を切断した断面を模式的に示した図であって、第1室S1と第2室S2に貯留されたオイルOLの高さ(オイルレベル)を説明する図である。
なお、
図8および
図9では、ケース6内の第1室S1に位置する回転体(アウトプットギア41、アイドラギア42と、ファイナルギア45)を簡略的に表記している。収容部68内の第2室S2に位置するコントロールバルブCVも簡略的に表記している。
さらに、
図8において下側に位置する拡大図では、隔壁部62内に位置する油路626、628と、区画壁685の領域に設けた連通孔94の位置関係を説明するために、模式的な断面を示している。
【0067】
図8に示すように、連通孔94は、前記した油路626、628よりも下側に位置している。連通孔94は、動力伝達装置1を搭載した車両Vの非走行時のオイルレベルLVよりも下側に位置している。そのため、連通孔94は、少なくとも車両Vの非走行時に油没する。
開口部95は、第2室S2内のコントロールバルブCVよりも上側で開口している。開口部95は、車両Vの走行時と非走行時の何れにおいても、気中に位置し、第1室S1と第2室S2との間での空気(気体)の移動を可能にする。
【0068】
そのため、動力伝達装置1を搭載した車両Vが走行していない間は、第1室S1内のオイルOLの高さ(オイルレベル)と、第2室内のオイルOLの高さ(オイルレベル)が、最終的に一致する。
【0069】
ここで、動力伝達装置1を搭載した車両Vが走行していない間(非走行時)とは、動力伝達装置1を介した駆動輪WH、WHへの動力伝達が行われていない間と同義である。
また、オイルポンプ(電動オイルポンプEOP、メカオイルポンプMOP)が駆動されていない間と、同義ともいえる。
【0070】
動力伝達装置1を搭載した車両Vが走行を開始すると、第1室S1内の回転体(アウトプットギア41と、アイドラギア42と、ファイナルギア45、デフケース50)が回転して、エンジンENGの回転駆動力が駆動輪WH、WHに伝達される。この際に、動力伝達機構の作動と潤滑のために、電動オイルポンプEOPとメカオイルポンプMOPのうちの少なくとも一方が駆動される。
【0071】
車両Vが走行を開始すると、ファイナルギア45とデフケース50が、回転軸X4回りに回転して、第1室S1の下部に貯留されたオイルOLを掻き上げる。掻き上げられたオイルOLの一部は、ケース6上部に沿って車両前方側に移動して、開口部95から第2室S2内に流入できる。
【0072】
さらに、オイルポンプ(電動オイルポンプEOPとメカオイルポンプMOPのうちの少なくとも一方)が駆動されることにより、第1室S1の下部に貯留されたオイルOLが、ストレーナ10を介して吸引される。オイルポンプに吸引されたオイルOLは、加圧されたのちにコントロールバルブCVに供給される。
【0073】
ここで、本実施形態では、連通孔94の開口面積D94(開口径)が、次の条件を満たすように設定されている。
(a)連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくなる。
【0074】
このように設定されていると、
図9に示すように、車両Vの走行中に第1室S1内のオイルの高さが低くなる一方で、第2室S2内のオイルOLの高さが高くなる。
この状態において、第1室S1では、ファイナルギア45の回転に対するオイルOLのフリクションが低下する。これにより、エンジンENGの負荷が低減されるので、エンジン効率の向上が期待される。
さらに、第2室S2では、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPが油没する。これにより、コントロールバルブCVと電動オイルポンプEOPが、第2室S2に貯留されたオイルOLにより冷却される。よって、少なくとも電動オイルポンプEOPの熱効率が向上する。
【0075】
ここで、第2室S2の上部には、第2室S2と第1室S1とを連通させる開口部95が設けられている。そのため、第2室S2に貯留されたオイルOLの高さが開口部95の高さまで到達すると、開口部95の高さを超える分のオイルOLが、第1室S1に戻されるようになっている。
これにより、第1室S1内のオイルの高さが低くなりすぎて、第1室S1内の回転体(アウトプットギア41と、アイドラギア42と、ファイナルギア45、デフケース50など)の潤滑と冷却に必要なオイルOLが不足しないようにしている。
【0076】
本実施形態では、第1室S1内の回転体の潤滑と冷却に必要なオイルOLが不足しないようにするために、鉛直線VL方向における連通孔94と開口部95との離間距離L1が、実験やシミュレーションなどの結果を踏まえて設定されている。なお、離間距離L1の設定にあたり考慮されるパラメータには、少なくとも次のものが含まれる。(a)第2室S2の容積、(b)第1室S1内の回転体の潤滑と冷却に必要なオイル量、(c)第1室S1内の回転体の潤滑と冷却に必要なオイルOLの高さ。
【0077】
このように、車両Vが走行している間、第1室S1内の回転体の潤滑と冷却に必要なオイルOLが不足しないようにしつつ、第1室S1内のオイルOLの高さを低くする。これにより、第1室S1内の回転体が、第1室S1内のオイルOLから受けるフリクションが低下する。よって、エンジンENGの負荷を低減できるので、動力伝達装置1を搭載した車両Vの燃費向上が期待できる。
【0078】
図10は、ストレーナ10からコントロールバルブCVまでの油路を模式的に示した図である。前記したように、本実施形態では、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくなるようにしている。これは、車両Vが走行している間に、第2室S2にオイルOLを貯留して、第1室S1内のオイルOLの高さを、第1室S1内の回転体のフリクションを低減できる高さにするためである。
【0079】
図10に示すように、ストレーナ10からコントロールバルブCVにオイルOLを供給する経路は、メカオイルポンプMOPを経由する第1経路と、電動オイルポンプEOPを経由する第2経路の2系統がある。
電動オイルポンプEOPとメカオイルポンプMOPの吐出力が同じである場合、電動オイルポンプEOPからコントロールバルブCVに供給されるオイルOLの量と、メカオイルポンプMOPからコントロールバルブCVに供給されるオイルOLの量との間に、第1経路での流路抵抗と、第2経路での流路抵抗に応じた差が生じることになる。
【0080】
ここで、流路抵抗が大きいほど、コントロールバルブCVに供給されるオイル量が少なくなる。コントロールバルブCVに供給されるオイル量が少なくなると、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量が少なくなる。
すなわち、コントロールバルブCVに供給されるオイル量と、コントロールバルブCVからドレンされるオイル量との間に比例関係が成立する。
そこで、流路抵抗が大きい方の経路(第1経路または第2経路)に基づいて、連通孔94側の開口面積を設定することで、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量を、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくできる。
【0081】
例えば、第1経路の流路抵抗のほうが、第2経路の流路抵抗よりも大きい場合、第1経路での流路抵抗と、メカオイルポンプMOPの出力から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量を概算できる。
そして、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、概算したオイル量よりも少なくなる条件を満たす連通孔94の開口面積を設定することで、車両Vが走行している間、第2室S2にオイルOLを貯留しつつ、第1室S1内のオイルOLの高さを低くすることができる。
【0082】
すなわち、(i)メカオイルポンプMOPを経由する第1経路と、電動オイルポンプEOPを経由する第2経路のうち、流路抵抗が大きい方の経路の流路抵抗と、流路抵抗が大きい方の経路にオイルOLを流すオイルポンプOPの出力から、連通孔94の開口面積を設定する。
これにより、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくできる。
【0083】
なお、(ii)第1経路の流路抵抗とメカオイルポンプMOPの出力から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量(V1)を概算すると共に、第2経路の流路抵抗と電動オイルポンプEOPの出力から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量(V2)を概算する。そして、概算したオイル量(V1)と概算したオイル量(V2)の平均値に基づいて、連通孔94の開口面積を設定してもよい。
【0084】
ここで、コントロールバルブCVに供給されるオイル量は、オイルOLが通流する経路の流路抵抗によっても増減するが、経路の途中にある流路断面積が最小となる箇所の面積によっても増減する。そして、最小の流路断面積と、コントロールバルブCVに供給されるオイル量との間にも、比例関係が成立する。
そのため、(iii)メカオイルポンプMOPを経由する第1経路と、電動オイルポンプEOPを経由する第2経路のうち、経路の途中にある最小の流路断面積が小さい方の経路に基づいて、連通孔94の開口面積を設定してもよい。
例えば、
図10の場合には、油路626の途中に流路断面積が最小となる箇所があり、この部分の流路断面積を、D626_aと記載している。油路628の途中に流路断面積が最小となる箇所があり、この部分の流路断面積を、D628_aと記載している。
【0085】
そして、流路断面積と、コントロールバルブCVに供給されるオイル量との相関関係をまとめておき、経路上の流路断面積が最小となる箇所の流路断面積(D626_a、D628_a)からコントロールバルブCVに供給されるオイル量を算出する。
そして、算出したオイル量よりも、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が少なくなる条件を満たす連通孔94の開口面積を設定してもよい。
【0086】
このように、ストレーナ10とコントロールバルブCVとを繋ぐ経路の流路抵抗や、経路上で流路断面積が最小となる箇所の流路断面積から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量を概算する。そして、概算したオイル量よりも、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が少なくなる条件を満たす連通孔94の開口面積を設定してもよい。
【0087】
さらに、(iii)第1経路におけるコントロールバルブCVとの接続口での流路断面積D628_bとメカオイルポンプMOPの出力から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量(V1)を概算すると共に、第2経路におけるコントロールバルブCVと、との接続口での流路断面積D626_bの流路抵抗と電動オイルポンプEOPの出力から、コントロールバルブCVに供給されるオイル量(V2)を概算する。
そして、少ない方のオイル量から、連通孔94の開口面積を設定する。
これにより、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくなくできる。
【0088】
なお、連通孔94の開口面積に代えて、連通孔94をオイルOLが通過する際の流路抵抗をパラメータとして用いても良い。
かかる場合、連通孔94の流路抵抗から、単位時間当たりに通過できるオイル量が算出できるので、流路抵抗と通過可能なオイル量との相関関係を、実験やシミュレーションを通じてまとめておく。そして、上記した手法などにより、コントロールバルブCVに供給されるオイル量を概算し、連通孔94を通過するオイル量が概算したオイル量よりも少なくなる条件を満たす流路抵抗を決定しても良い。
かかる場合、決定した流路抵抗から、連通孔94の開口径と連通孔94の長さを適切に設定できる。さらに、連通孔94に代えて、第1室S1と第2室S2とを繋ぐ油路を設ける場合には、この油路の流路抵抗が、決定した流路抵抗となるように、油路の経路長、開口面積、最小開口面積などを設定できる。
これらを考慮することによっても、第2室S2から第1室S1に戻されるオイル量が、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくすることが可能である。
【0089】
なお、上記した動力伝達装置1では、区画壁685に1つの連通孔94を設けた場合を例示した。連通孔94は、1つのみに限定されない。区画壁685に複数の連通孔94が設けられていても良い。かかる場合、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量に基づき決定される連通孔94の開口面積は、各連通孔94の開口面積の総和に相当する。
例えば、コントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量から決定される連通孔94の開口面積が2平方センチメートルであり、連通孔94の総数が2つである場合には、一方の連通孔94の開口面積と他方の連通孔94の開口面積との和が、2平方センチメートルとなるように、各連通孔94の開口面積を設定すれば良い。
【0090】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)動力伝達装置1は、
エンジンENG(駆動源)の駆動力を駆動輪WH、WHに伝達する動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)と、
動力伝達機構を収容するハウジングHSと、
動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)に供給する油圧を制御するコントロールバルブCVと、
コントロールバルブCVにオイルOLを供給するオイルポンプOPと、
ハウジングHS内を、動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)を収容する第1室S1と、コントロールバルブCVが縦置き配置される第2室S2と、に区画する区画壁685(隔壁部)と、
第1室S1と第2室S2とを連通させる連通路として機能する連通孔94と、を備える。
連通孔94の開口面積D94は、連通孔94を通って第2室S2から第1室S1に流入するオイル量が、動力伝達装置1を搭載した車両Vの走行中にコントロールバルブCVから第2室S2にドレンされるオイル量より少なくなるように設定されている。
【0091】
このように構成すると、動力伝達装置1を搭載した車両Vの走行中は、コントロールバルブCVからドレンされるオイルOLが、ハウジングHS内の第2室S2に溜まって、第2室S2内の油面が上昇する一方で、ハウジングHS内の第1室S1内の油面が低下する。すなわち、ハウジングHS内(第1室S1内)のオイルレベルLV(油面の高さ)を、車両Vが走行していないときよりも低くできる。
さらに、第1室S1内のオイルレベルLVが低くなることによって、動力伝達機構を構成する回転体でのオイルOLの撹拌抵抗が小さくなる。よって、エンジンENGに作用する負荷が低減されるので、エンジンENGの効率の低下を抑制できる。動力伝達装置1を搭載した車両Vの燃費向上が期待できる。
【0092】
(2)動力伝達装置1は、
エンジン(駆動源)の駆動力を駆動輪WH、WHに伝達する動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)と、
動力伝達機構を収容するハウジングHSと、
動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)に供給する油圧を制御するコントロールバルブCVと、
コントロールバルブCVにオイルOLを供給するオイルポンプOPと、
ハウジングHS内を、動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3、減速機構4、差動装置5)を収容する第1室S1と、コントロールバルブCVが縦置き配置される第2室S2と、に区画する区画壁685(隔壁部)と、
第1室S1からコントロールバルブCVに供給されるオイルOLの通流路として機能する油路626、628と、
第1室S1と第2室S2とを連通させる連通路として機能する連通孔94と、を備える。
油路626、628の流路断面積が、連通孔94の開口面積よりも大きい。
【0093】
このように構成すると、連通路として機能する連通孔94の開口面積が、オイルOLの通流路として機能する油路626、628の開口面積(流路断面積)よりも小さいので、第2室S2にドレンされるオイル量の方が、第2室S2から第1室S1に戻るオイル量よりも多くなる。その結果、オイルOLが第2室S2に溜まりやすくなる。
これにより、車両Vが走行している間は、第1室S1内のオイルレベルLVを、車両Vが走行していないときよりも低くできる。これにより、第1室S1内に位置する回転体の回転に対する抵抗(撹拌抵抗)を低減できる。これにより、動力伝達装置1が伝達する回転駆動力の伝達効率が向上する。さらに、エンジンENGの負荷が低減されるので、動力伝達装置1を搭載した車両Vの燃費向上が期待できる。
【0094】
(3)ハウジングHSは、
第1室S1を囲む周壁部61を有するケース6と、
第2室S2を囲む囲繞壁681を有する収容部68と、を有する。
収容部68の囲繞壁681は、ケース6の周壁部61の車両前方側の側面に付設されている。
ケース6の周壁部61のうち、第1室S1と第2室S2との境界に位置する領域が、区画壁685(隔壁部)である。
【0095】
このように構成すると、コントロールバルブCVを収容部68内で縦置き配置することで、第2室S2の鉛直線方向の長さのほうを、車両前後方向の長さよりも長くできる。これにより、動力伝達装置1の駆動時に、第2室S2に貯留されるオイルOLの高さを、第1室S1内のオイルOLの高さよりも高くできる。これにより、第1室S1内で回転する回転体(例えば、ファイナルギア45)に対する抵抗(フリクション)を低減できる。
ここで、回転体に対するフリクションを低減するために、第1室S1の容積を水平線方向に広くすることが考えられるが、かかる場合には、ハウジングHSが水平線方向(車両前後方向、車幅方向)に大型化する。
ケース6の車両前方側の側面に設けた第2室S2内で、コントロールバルブCVを縦置き配置すると、第2室S2を水平線方向に大型化させることなく、第2室S2の鉛直線VL方向の容積を確保できる。よって、コントロールバルブCVの縦置きを前提として第2室S2を設けることで、ハウジングHSの水平線方向への大型化を好適に抑制できる。
【0096】
さらに、動力伝達装置1が停止すると、第2室S2内のオイルOLが、自重により速やかに第1室S1に流入して、第1室S1内のオイルOLの高さと、第2室S2内の高さが揃うことになる。
動力伝達装置1が停止した後も第1室S1内のオイルOLの高さが低いままであると、第1室S1内の回転体の冷却効率が悪化する。
動力伝達装置1が停止したのちに、第2室S2内のオイルOLが第1室S1に戻されるようにすることで、第1室S1内のオイルOLの高さを高くして、第2室S2内のオイルOLの高さと揃えることができる。
これにより、動力伝達装置1が停止した後の第1室S1内の回転体の冷却効率の向上が期待できる。
【0097】
(4)連通路として機能する連通孔94は、第1室S1と第2室S2とを区画する区画壁685に設けられた貫通孔である。
【0098】
このように構成すると、区画壁685に貫通孔を設けるだけで、第1室S1と第2室S2とを最短距離で連通できる。貫通孔である連通孔94の開口径(開口面積)を変更するだけで、第2室S2から第1室S1に戻るオイル量を簡単に調整できる。
【0099】
(i)連通孔94は、第2室S2の下部と第1室S1とを連通させる。
【0100】
このように構成すると、第2室S2の下縁S2_low(
図9参照)が、第1室S1の下縁S1_low(
図9参照)と同じ高さ、または第2室S2の下縁S2_lowが、第1室S1の下縁S1_lowよりも高い位置にある場合、車両Vが走行していないときに、第2室S2に貯留されたオイルOLを、第1室S1に戻すことができる。
これにより、車両Vが走行していないときの第1室S1内の油面の高さを、走行中よりも高くできる。よって、例えば低温環境下のオイルOLの温度が低い状態で、走行開始のためにオイルポンプを駆動した際に、オイルOLの流動性が悪いことに起因して、オイルポンプがエア吸いを起こす可能性を低減できる。コントロールバルブCVに供給する油圧が低下するなどの、動力伝達装置1におけるエア吸いによる問題の発生を低減できる。
【0101】
(5)連通孔94は、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした鉛直線VL方向で、車両Vが走行していないときの第1室S1内のオイルOLの高さよりも下方となる位置に設けられている。
【0102】
このように構成すると、連通孔94は、車両Vが走行していないときに、ハウジングHS内に貯留されたオイルOLに油没する位置に設けられる。
これにより、第1室S1と第2室S2は、ハウジングHS内の上部に設けた開口部95で連通しているので、車両Vが走行していないときには、第1室S1内のオイルOLの高さ(オイルレベル)と、第2室S2内のオイルOLの高さ(オイルレベル)とが、揃うことになる。
特に、鉛直線VL方向における連通孔94の位置が、車両Vが走行していないときの第1室S1内でのオイルOLの最大高さ以下となるように設定されている。
そのため、車両Vが走行している間に低くなった第1室S1内のオイルOLの高さを、車両Vが走行していない間、すなわち、車両Vの停車中や駐車中に、最大高さを限度として戻すことができる。
これにより、動力伝達装置1を搭載した車両Vが、その後発進する際に、オイルポンプ(電動オイルポンプEOP、メカオイルポンプMOP)で、エア吸いが起こる可能性を低減できる。これにより、第2室S2内へのオイルOLの貯留が、その後の車両Vの発進に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0103】
(6)区画壁685の上部に、第1室S1と第2室S2を連絡させる開口部95(連絡部)が設けられている。
【0104】
このように構成すると、第2室S2内に貯留されたオイルOLが、開口部95の高さに到達すると、第2室S2内のオイルOLが、開口部95を通って第1室S1に戻されることになる。これにより、車両Vの走行中に、第1室S1内のオイルOLが不足する可能性を低減できる。第1室S1内のオイルが不足すると、第1室S1内の回転体(アウトプットギア41と、アイドラギア42と、ファイナルギア45、デフケース50など)の潤滑と冷却が不足する可能性がある。開口部95を設けたことで、第1室S1内の回転体を潤滑するオイルOLが不足する可能性を低減できる。
【0105】
(ii)コントロールバルブCVは、動力伝達装置1の車両Vへの設置状態を基準とした鉛直線VL方向に沿う向きで設けられている。
コントロールバルブCVは、バルブボディ921、921の間にセパレートプレート920を挟み込んだ積層構造を有している。
コントロールバルブCVは、バルブボディ921、921の積層方向を車両前後方向に沿わせた向きで設けられている。
【0106】
コントロールバルブCVは、積層方向の厚みが、積層方向に直交する方向の厚みよりも薄い。コントロールバルブCVの積層方向が水平線HL方向(車両前後方向)に沿う向きとなるように、コントロールバルブCVを鉛直線VL方向に沿わせて配置すると、コントロールバルブCVの設置に必要な水平線HL方向の厚み(容積)が小さくなる。
これにより、コントロールバルブCVを収容する第2室S2は、水平線HL方向に短く、かつ鉛直線VL方向に長い、縦長形状になる。
第2室S2は、第1室S1に比べて内部の容積が小さいので、車両Vが走行している時に、第2室S2内に貯留されるオイルOLの高さを高くできる。これにより、コントロールバルブCVの油没量を大きくできる。
【0107】
コントロールバルブCVが気中に配置されている場合には、コントロールバルブCVからのオイルOLのリークや、コントロールバルブCVへのオイルOLの浸入により、コントロールバルブCVから動力伝達機構に供給する油圧にエアが含まれる可能性がある。
かかる場合、動力伝達機構(トルクコンバータT/C、前後進切替機構2、バリエータ3)の作動タイミングの遅れなどのエア吸いに起因する問題が発生する可能性がある。
上記のように構成して、コントロールバルブCVを油中に配置することにより、コントロールバルブCVから動力伝達機構に供給する油圧にエアが含まれる可能性を低減できる。これにより、エア吸いに起因する問題が動力伝達機構に発生する可能性を低減でき、動力伝達装置の制御性を向上できる。
【0108】
なお、車両Vが走行している時に、第2室S2内に貯留されるオイルOLの高さが、第1室S1内のオイルOLの高さよりも十分に高くなっていると、車両Vが走行を辞めたときに、第2室S2に貯留されたオイルOLは、自重により第1室S1内に速やかに流入する。よって、その後の車両Vの走行に備えて、第1室S1内のオイルOLの高さを、所定の高さに戻すことができるので、車両Vが走行を開始したときにエア吸い起こる可能性を低減できる。
【0109】
(7)電動オイルポンプEOPは、ポンプ部933(ポンプ機構)を駆動するモータ部932(モータ)を有する。
【0110】
このように構成すると、電動オイルポンプEOPの少なくともモータ部932を、第2室S2に貯留されたオイルOLに油没させることができる。これにより、モータ部932を、第2室S2に貯留されたオイルOLで冷却できるので、電動オイルポンプEOPの熱マネジメント性を向上できる。
【0111】
(8)電動オイルポンプEOPは、ポンプ部933(ポンプ機構)と、ポンプ部933を駆動するモータ部932(モータ)と、モータ部932を制御する制御部931(インバータ)を有する。
【0112】
このように構成すると、動力伝達装置1の駆動時には、第2室S2内にオイルOLが貯留される。そのため、電動オイルポンプEOPのインバータを、第2室S2に貯留されたオイルOLに油没させることができる。これにより、インバータを、第2室S2に貯留されたオイルOLで冷却できるので、電動オイルポンプEOPの熱マネジメント性を向上できる。
【0113】
(iii)モータの回転軸Z1方向で、ポンプ部933と、モータ部932と、制御部931と、が並んでいる。
電動オイルポンプEOPは、モータの回転軸Z1を、動力伝達機構の回転軸Xに直交させた向きで設けられている。
電動オイルポンプEOPは、モータ部932を、制御部931よりも下側に位置させる向きで、第2室S2内で縦置き配置されている。
【0114】
このように構成すると、第2室S2内においてポンプ部933を、鉛直線VL方向の最下部に配置できる。この場合、車両前方側から見て、ポンプ部933におけるオイルの吸入口933aを、ハウジングHS内の下部に配置したストレーナ10に近づけることができる。
これにより、ストレーナ10とオイルOLの吸入口とを接続するケース内油路の油路長をさらに短くできるので、吸入抵抗のさらなる低減が期待できる。
また、第2室S2に貯留されたオイルOLに、モータ部932を油没させる機会が増えるので、電動オイルポンプEOPの最も発熱しやすい部位を適切に冷却できる。
【0115】
図11は、変形例にかかる動力伝達装置1Aの概略構成を示す模式図である。
前記した実施形態では、ストレーナ10を収容する第1室S1と、電動オイルポンプEOPとコントロールバルブCVを収容する第2室S2とが、区画壁685で完全に分かれている場合を例示した。
図11に示すように、第1室S1と第2室S2とが、区画壁685に設けた開口685aを介して連通しているケース6Aを採用した動力伝達装置1Aとしても良い。
この動力伝達装置1Aでは、コントロールバルブCVが開口685aを塞いで、第1室S1と第2室S2とを区画するように配置される。そして、コントロールバルブCVのオイルOLの排出口が、第2室S2内に開口するように設定する。
このような構成の動力伝達装置1Aであっても、車両Vの走行中に、第2室S2にオイルOLを貯留して、第1室S1内のオイルOLの高さを低くすることができる。
【0116】
図12および
図13は、他の変形例にかかる動力伝達装置1B、1Cの概略構成を示し模式図である。
前記した実施形態では、第1室S1と第2室S2とを連通させる連通路として、区画壁685に設けた連通孔94を例示した。
連通路は、必ずしも区画壁685に設けられている必要が無い。例えば、
図12に示すように、第2室S2の下部と、第1室S1の下部とを接続する連通管94Bを採用しても良い。
かかる連通管94Bを採用した動力伝達装置1Bの場合にも、第1室S1と第2室S2とが、連通管94Bを介して連通する。連通管94Bの開口面積や、連通管94BをオイルOLが通過する過程での抵抗(流路抵抗)、連通管94Bの流路断面積を設定することで、車両Vの走行中に、第2室S2にオイルOLを貯留して、第1室S1内のオイルOLの高さを低くすることができる。
【0117】
さらに、
図13に示すように、ケース6の厚みに余裕がある場合には、ケース6の厚みの厚い領域(厚肉領域615)内に、第1室S1と第2室S2とを連通させる連通路94Cを採用しても良い。
かかる連通路94Cを採用した動力伝達装置1Cの場合にも、第1室S1と第2室S2とが、連通路94Cを介して連通する。連通路94Cの開口面積や、連通路94CをオイルOLが通過する過程での抵抗(流路抵抗)、連通路94Cの流路断面積を設定することで、車両Vの走行中に、第2室S2にオイルOLを貯留して、第1室S1内のオイルOLの高さを低くすることができる。
【0118】
なお、連通管94B(
図12参照)と、連通路94C(
図13参照)を、前記した動力伝達装置1A(
図11参照)に適用しても良い。
【0119】
また、連通孔94が区画壁685の下部に設けられている場合を例示したが、連通孔94が、囲繞壁681の下辺から上側にオフセットした位置に設けられていても良い。
例えば、連通孔94を、鉛直線VL方向において、電動オイルポンプEOPのモータ部932と略同じ高さに設けても良い。かかる場合に、少なくともモータ部932を、第2室S2に貯留したオイルOLに油没させることができる。よって、電動オイルポンプEOPの最も発熱が大きい部分を適切に冷却できる。
【0120】
前記した実施形態では、動力伝達装置1がエンジンENGの回転を駆動輪WH、WHに伝達する場合を例示したが、動力伝達装置1は、エンジンENGとモータ(回転電機)のうちの少なくとも一方の回転を駆動輪WH、WHに伝達するものであっても良い。例えば、1モータ、2クラッチ式(エンジンENGと動力伝達装置の間にモータが配置され、エンジンENGとモータの間に第1のクラッチが配置され、動力伝達装置1内に第2のクラッチが配置された形式)の動力伝達装置であっても良い。
また、前記した実施形態では、動力伝達装置1が変速機能を有している場合を例示したが、動力伝達機構は変速機能を持たず、単に減速する(増速であってもよい)ものであっても良い。動力伝達装置が変速機能を有しておらず、動力伝達装置が、モータの回転を減速して駆動輪WH、WHに伝達する構成である場合には、モータの冷却用のオイルOLと、減速機構の潤滑用のオイルOLを供給するための油圧制御回路を、電動オイルポンプEOP共に、第2室S2に配置することになる。また、前記した実施形態では、動力伝達装置1のコントロールユニットがコントロールバルブCVを備えた場合を例示したが、動力伝達装置1が、変速機構をも持たず、また、駆動源がエンジンENGではなく、モータ(回転電機)の場合にあっては、モータを駆動制御するインバータ等を備えたコントロールユニットであっても良い。
【0121】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 動力伝達装置
2 前後進切替機構(動力伝達機構)
3 バリエータ(動力伝達機構)
4 減速機構(動力伝達機構)
45 ファイナルギア
5 差動装置(動力伝達機構)
6 ケース
61 周壁部
62 隔壁部
68 収容部
681 囲繞壁
685 区画壁(隔壁部)
694 連通孔(連通路)
626、628 油路(通流路)
931 インバータ部(インバータ)
932 モータ部(モータ)
933 ポンプ部(ポンプ機構)
94 連通孔(連通路:貫通孔)
95 開口部(連絡部)
T/C トルクコンバータ(動力伝達機構)
WH 駆動輪
HS ハウジング
MOP メカオイルポンプ(オイルポンプ)
EOP 電動オイルポンプ(オイルポンプ)
OL オイル
S1 第1室
S2 第2室
CV コントロールバルブ