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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート部材
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20250114BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
E04C5/18
E04G21/12 105C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020046837
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147809
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592145268
【氏名又は名称】JR東日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】安保 知紀
(72)【発明者】
【氏名】松岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達児
(72)【発明者】
【氏名】石橋 忠良
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105587075(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104088401(CN,A)
【文献】特開平06-129058(JP,A)
【文献】特開2011-202471(JP,A)
【文献】特開2004-011208(JP,A)
【文献】特開昭51-006325(JP,A)
【文献】特開平02-232438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00-5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な床版部材と梁部材と、前記床版部材と前記梁部材の間において鉛直方向に延びる柱部材とで構成し、前記梁部材を前記柱部材で支持するように構成した鉄筋コンクリート構造物の前記柱部材を構成する鉄筋コンクリート部材であって、
前記柱部材は、
コンクリートと、該コンクリートの内部に配筋される軸方向鉄筋と、
該軸方向鉄筋における軸方向の少なくとも一部に外嵌する所定長さの管体と、
前記軸方向鉄筋を貫通する貫通孔を設け、前記管体の上端を閉塞し、前記管体の内部への前記コンクリートの侵入を防止するキャップとを備え、前記キャップが前記管体の上端のみに設けられ、
前記管体は、下端が前記床版部材の上面に位置するように配置された
鉄筋コンクリート部材。
【請求項2】
前記管体が、複数本の前記軸方向鉄筋をまとめて外嵌する
請求項1に記載の鉄筋コンクリート部材。
【請求項3】
前記管体の外周に薄状の繊維補強材が巻き付けられた
請求項1または請求項2に記載の鉄筋コンクリート部材。
【請求項4】
前記管体の周囲の前記コンクリートに補強繊維が混入された
請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載の鉄筋コンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、異形鉄筋を軸方向鉄筋とし、鉄筋コンクリート構造物の前記柱部材を構成する鉄筋コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧縮力に対する耐力は高いものの、引張力に対する耐力が低いコンクリートの内部に、引張強度が高い鉄筋を配置した鉄筋コンクリート構造物がたくさん建造されている。このような鉄筋コンクリート構造物は、各鉄筋コンクリート部材で構成されている。
【0003】
鉄筋コンクリート部材では、コンクリート内部に、設計荷重によって応力が算定された、部材長手方向に延びる軸方向鉄筋(主筋ともいう)、軸方向鉄筋に対して直角に配置され、応力を分散させる配力筋、軸方向鉄筋を取り囲む横方向鉄筋であるスターラップ、あるいは軸方向鉄筋の座屈防止とせん断補強のために、軸方向鉄筋を取り囲んで直角に配置される帯鉄筋などが配筋されている。
【0004】
例えば、鉄筋コンクリート部材である柱部材は,地震時に水平力を受けることで柱部材の基部に損傷が発生する。変形量が大きくなると柱部材の軸方向鉄筋が座屈して荷重が大きく低下し、柱部材としての性能が損なわれる。
【0005】
そのため、例えば、特許文献1では、せん断荷重により生じる斜めひび割れ面と交差するように鋼管を埋設することで、廉価なせん断補強構造を実現できるとされている。
特許文献1のように、鉄筋コンクリート部材の変形性能やせん断耐力を向上させるためには,全ての軸方向鉄筋の外周に多量の帯鉄筋を配置する必要がある。しかし、多量に帯鉄筋を配置する手間が非常にかかることやコンクリートを確実に充填するために多くの労力を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-204985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述した問題を鑑み、簡易な構造で軸方向鉄筋の座屈を抑制し、変形性能を向上させる鉄筋コンクリート部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、水平な床版部材と梁部材と、前記床版部材と前記梁部材の間において鉛直方向に延びる柱部材とで構成し、前記梁部材を前記柱部材で支持するように構成した鉄筋コンクリート構造物の前記柱部材を構成する鉄筋コンクリート部材であって、前記柱部材は、コンクリートと、該コンクリートの内部に配筋される軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋における軸方向の少なくとも一部に外嵌する所定長さの管体と、前記軸方向鉄筋を貫通する貫通孔を設け、前記管体の上端を閉塞し、前記管体の内部への前記コンクリートの侵入を防止するキャップとを備え、前記キャップが前記管体の上端のみに設けられ、前記管体は、下端が前記床版部材の上面に位置するように配置されたことを特徴とする。
鉄筋コンクリート部材は、柱部材、梁部材など、外力が作用することで変形する部材である。鉄筋コンクリート部材は、軸方向鉄筋の他、配力筋、スターラップ、あるいは帯鉄筋などの適宜の鉄筋が配筋されていてもよい。
【0009】
この発明により、簡易な構造で軸方向鉄筋の座屈を抑制し、鉄筋コンクリート部材の変形性能を向上することができる。
詳述すると、鉄筋コンクリート部材に曲げ方向の外力が作用すると曲げ変形が生じる。そして、曲げ変形の変形量が大きくなるとコンクリートに付着した軸方向鉄筋も大きく曲がって座屈する。そうすると、鉄筋コンクリート部材の変形性能が著しく低下する。
【0010】
これに対し、コンクリートの内部に配筋される軸方向鉄筋における軸方向の少なくとも一部を所定長さの管体で外嵌することで、鉄筋コンクリート部材を構成するコンクリートと、軸方向鉄筋において管体で外嵌された部分(以下において、被外嵌部分)とは管体によって分離され、一体化しない。そのため、被外嵌部分は、外力の作用によって曲げ変形する前記鉄筋コンクリート部材のコンクリートの変形に追従することなく、前記軸方向鉄筋が座屈することを防止できる。このように、曲げ変形による前記軸方向鉄筋の座屈を防止できるため、前記鉄筋コンクリート部材の変形性能を向上することができる。
【0011】
この発明の態様として、前記軸方向において、前記軸方向鉄筋と前記コンクリートとを備えた標準断面構造の標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げ負荷が大きい範囲に前記管体が配置されてもよい。
【0012】
上述の標準断面構造の標準コンクリート部材は、前記鉄筋コンクリート部材と同じ前記軸方向鉄筋及びコンクリートが備えられた前記鉄筋コンクリート部材であり、つまり本発明の前記鉄筋コンクリート部材における管体を備えていない前記鉄筋コンクリート部材であり、配力筋、スターラップ、あるいは帯鉄筋など適宜の鉄筋をさらに備えてもよい。
【0013】
上述の標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げ負荷が大きい範囲は、例えば、柱部材におけるフーチングとの接合部を含む一定範囲や、梁部材における柱部材との接合部を含む一定範囲など、標準コンクリート部材に外力が作用することで大きな変形が生じ、前記軸方向鉄筋が座屈するおそれがある範囲である。
【0014】
この発明により、標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げ負荷が大きい範囲は、標準コンクリート部材に外力が作用することで大きな変形が生じ、前記軸方向鉄筋が座屈するおそれがある範囲、つまり、外力の作用によるコンクリートの大きな変形に追従して前記軸方向鉄筋が大きく変形する範囲に前記管体を配置するため、コンクリートと軸方向鉄筋の被外嵌部分とを管体によって分離することができる。そのため、被外嵌部分は、外力が作用し、曲げ変形する前記鉄筋コンクリート部材のコンクリートの変形に追従することなく、前記軸方向鉄筋が座屈することをより防止することができる。
【0015】
またこの発明の態様として、前記軸方向において、前記軸方向鉄筋と前記コンクリートとを備えた標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げひび割れが生じる曲げ負荷が作用する範囲に前記管体が配置されてもよい。
上述の前記軸方向鉄筋と前記コンクリートとを備えた標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げひび割れが生じる曲げ負荷が作用する範囲は、外力の作用によって標準コンクリート部材に曲げひび割れが生じる範囲である。
【0016】
この発明により、外力の作用によって前記鉄筋コンクリート部材に曲げひび割れが生じることを防止でき、耐久性のある前記鉄筋コンクリート部材を構築することができる。
詳述すると、前記軸方向鉄筋と前記コンクリートとを備えた標準コンクリート部材に外力が作用した際に曲げひび割れが生じる曲げ負荷が作用する範囲の被外嵌部分の前記軸方向鉄筋が管体によってコンクリートと分離されているため、付着による前記軸方向鉄筋とコンクリートとの相互の拘束が生じない。そのため、前記被外嵌部分はあたかも丸鋼鉄筋で構成された状態となり、前記鉄筋コンクリート部材に曲げひび割れが生じることを防止できる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記管体の内部にグラウト材が充填されてもよい。
この発明により、管体内部で前記軸方向鉄筋同士を軸方向に継ぐことができる。つまり、管体及びグラウト材は協働して前記軸方向鉄筋の継ぎ手として機能することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記管体が、複数本の前記軸方向鉄筋をまとめて外嵌してもよい。
この発明により、複数本ある前記軸方向鉄筋に対してそれぞれ前記管体を外嵌する場合に比べて、複数本の前記軸方向鉄筋をまとめて管体で外嵌できるため、管体の外嵌作業が少なくなり、効率的に施工することができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記管体の外周に薄状の繊維補強材が巻き付けられてもよい。
上述の薄状の繊維補強材は、繊維が長手方向に連続する帯状の補強材や、シート状の補強材などが含まれる。
この発明により、管体の外周を繊維補強材で拘束できるため、管体のせん断耐力を向上させることができる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記繊維補強材が、複数の前記管体の外周にまとめて巻き付けられてもよい。
また、繊維補強材は、複数本の管体毎に巻き付けてもよいし、すべての管体をひとまとめにして巻き付けてもよい。
この発明により、管体を配置した範囲の前記鉄筋コンクリート部材のせん断耐力を向上させることができる。よって、前記鉄筋コンクリート部材の変形性能を向上することができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記管体の周囲の前記コンクリートに補強繊維が混入されてもよい。
この発明により、前記コンクリートに補強繊維が混入された範囲の前記鉄筋コンクリート部材のせん断耐力を向上させることができる。よって、前記鉄筋コンクリート部材の変形性能を向上することができる。
【0022】
なお、複数の前記管体の外周にまとめて前記繊維補強材を巻き付けたうえで、前記管体の周囲の前記コンクリートに補強繊維を混入してもよい。これにより、管体を配置した範囲の前記鉄筋コンクリート部材のせん断耐力をさらに向上させ、前記鉄筋コンクリート部材の変形性能をより向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明により、簡易な構造で軸方向鉄筋の座屈を抑制し、変形性能を向上させる鉄筋コンクリート部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】鉄筋コンクリート構造物の柱部材の断面図。
図2】柱部材の斜視図。
図3】軸方向鉄筋に鋼管が外嵌した部分の柱部材の拡大断面図。
図4】柱部材の施工を説明する斜視図。
図5】柱部材の施工を説明する斜視図。
図6】施工完了状態の柱部材の斜視図。
図7】別の実施形態の軸方向鉄筋に鋼管が外嵌した部分の柱部材の拡大断面図。
図8】また別の実施形態の鉄筋コンクリート構造物の柱部材の断面図。
図9】さらに別の実施形態の鉄筋コンクリート構造物の柱部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は鉄筋コンクリート構造物1の柱部材2の断面図を示し、図2は柱部材2の斜視図を示し、図3は軸方向鉄筋10に鋼管20が外嵌した部分の柱部材2の拡大断面図を示し、図4及び図5は柱部材2の施工を説明する斜視図を示し、図6は施工完了状態の柱部材2の斜視図を示している。
【0026】
詳述すると、図1は、鉄筋コンクリート構造物1における柱部材2が配置された箇所の縦断面図を示している。柱部材2の斜視図を示す図2では、柱部材2の内部構造を明確にするため、透過状態で図示している。軸方向鉄筋10に鋼管20が外嵌した部分の柱部材2の拡大断面図を示す図3図1におけるa部の拡大図である。
【0027】
柱部材2の施工を説明する斜視図を示す図4及び図5について詳しく説明すると、図4(a)は床版部材3から軸方向鉄筋10が突設された状態の斜視図を示し、図4(b)は床版部材3から突設された軸方向鉄筋10に鋼管20を装着した状態の斜視図を示し、図5(a)は鋼管20の上端にキャップ21を装着した状態の斜視図を示し、図5(b)はキャップ21を装着された鋼管20に連続繊維バンド22を巻き回して装着した状態の斜視図を示している。図6はコンクリート5を打設して完成した柱部材2の斜視図を示している。なお、図6において、柱部材2における軸方向鉄筋10や鋼管20等の内部構造を破線で図示している。
【0028】
図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物1の一部は、水平な床版部材3と梁部材4と、床版部材3と梁部材4の間において鉛直方向に延びる柱部材2とで構成し、梁部材4を柱部材2で支持するように構成している。
床版部材3は、水平方向に延びる所定厚みの鉄筋コンクリート部材である。水平方向の鉄筋コンクリート部材である床版部材3は、水平方向の軸方向鉄筋10が上下方向に離間して配置されるとともに、配力筋11が軸方向鉄筋10と直交する向きで配置され、平面視格子状を形成している。また、上下方向に離間するように配置された軸方向鉄筋10をまとめて囲むスターラップ12を設けている。このように、軸方向鉄筋10、配力筋11及びスターラップ12を所定間隔で組み付けられた配筋に対してコンクリート5を打設して、床版部材3は構成されている。
【0029】
梁部材4は、水平方向に延びる所定厚みの鉄筋コンクリート部材である。水平方向の鉄筋コンクリート部材である梁部材4は、水平方向の軸方向鉄筋10が上下方向に離間して配置されるとともに、上下方向に離間するように配置された軸方向鉄筋10をまとめて囲む帯鉄筋13を設けている。このように、軸方向鉄筋10及び帯鉄筋13を所定間隔で組み付けられた配筋に対してコンクリート5を打設して、梁部材4は構成されている。
【0030】
柱部材2は、図2に示すように、平面視正方形状の鉛直方向に延びる鉄筋コンクリート部材である。鉄筋コンクリート部材である柱部材2は、軸方向鉄筋10と、軸方向鉄筋10における基部を外嵌する鋼管20と、鋼管20の上端を閉塞するキャップ21と、鋼管20の周りに巻き付ける連続繊維バンド22と、コンクリート5とを備えている。なお、本明細書では、図示省略するが、鋼管20の上方に帯筋を備えてもよい。
【0031】
軸方向鉄筋10は、図3に示すように、外周面に節が形成された異形鉄筋であり、平面視正方形状の外周面から所定のかぶり厚を確保した位置に沿って、所定間隔を隔てて複数本設けている。また、軸方向鉄筋10の上端部及び下端部は、直角方向に折り曲げられたL型部分10aが床版部材3及び梁部材4の軸方向鉄筋10と結束されている。なお、軸方向鉄筋10の上端側の直角状に折り曲げられるL型部分10aは、L型鉄筋を継いで設けている。
【0032】
軸方向鉄筋10の基部に外嵌する鋼管20は、所定の厚みを有する円筒状であり、隣り合う軸方向鉄筋10に外嵌した鋼管20同士の間の所定の間隔を確保できる径で形成している。
なお、軸方向鉄筋10の基部に外嵌する鋼管20は、柱部材2に外力が作用した際に曲げ負荷の大きい範囲(高負荷範囲H)を包含する長さで形成している。
【0033】
詳述すると、高負荷範囲Hは、鋼管20で軸方向鉄筋を外嵌せず、軸方向鉄筋に帯鉄筋を配筋した一般的な配筋構造で構成された同断面の標準断面構造の柱部材に外力を作用させた際に、大きな変形が生じ、軸方向鉄筋10が座屈するおそれのある範囲である。柱部材の場合、高負荷範囲Hは、床版に近い基部側の所定範囲であり、当該高負荷範囲Hに大きな変形が生じ、軸方向鉄筋が座屈するおそれがある。
【0034】
このように、標準断面構造の柱部材において外力の作用によって軸方向鉄筋10が座屈するおそれがある範囲を高負荷範囲Hとし、鋼管20は、軸方向鉄筋10を外嵌した際に高負荷範囲Hを包含できる長さで形成している。
本実施形態では、鋼管20の下端が床版部材3の上面3aに位置するように配置しているが、高負荷範囲Hの位置によっては、床版部材3の上面3aから所定間隔を隔てた上方に配置してもよい。また、軸方向鉄筋10において鋼管20に外嵌される部分、すなわち鋼管20の内部の軸方向鉄筋10を被外嵌部分100という。
【0035】
キャップ21は、鋼管20の上端を閉塞するための平面視円形状のキャップであり、軸方向鉄筋10を貫通する貫通孔を設けている。キャップ21は、適宜の素材で構成すればよいが、貫通孔に軸方向鉄筋10を貫通させるために、貫通孔と外周縁とを径方向に結ぶスリットを設け、スリットを通過させて貫通孔に軸方向鉄筋10を貫通させると施工性がよい。また、鋼管20の内部へのコンクリート5の侵入を防止できれば、メッシュ等でキャップ21を構成してもよい。
【0036】
連続繊維バンド22は、各軸方向鉄筋10に外嵌する鋼管20の外周をまとめて巻き回す帯状のバンドである。なお、連続繊維バンド22は長手方向に連続する繊維を有し、長手方向に高強度なバンドである。
本実施形態では、連続繊維バンド22を高さ方向に所定間隔を隔てて2箇所設けているが、3箇所以上に設けてもよいし、1箇所のみに設けてもよい。
【0037】
このように構成された柱部材2を構築するための施工方法について、図4及び図5に基づいて簡単に説明する。
先ず、図4(a)に示すように、まず床版部材3を構築する。このとき、柱部材2の鋼管20は、下端側のL型部分10aを、床版部材3の軸方向鉄筋10に結束しており、構築された床版部材3の上面3aから軸方向鉄筋10が鉛直方向に延びるように突設された状態となる。
【0038】
このように床版部材3の上面3aから突設された状態の軸方向鉄筋10のそれぞれに対して鋼管20を外嵌する(図4(b)参照)。なお、柱部材2において、床版部材3の上面3aから上方に高負荷範囲Hが設定されているため、鋼管20を上面3aに載置するようにセットするが、高負荷範囲Hが上面3aから間隔を隔てて上方に設定されている場合、鋼管20は、上面3aより上方にセットする。
また、軸方向鉄筋10と鋼管20との間隔を確保する、つまり鋼管20の中心に軸方向鉄筋10が配置されるように、セパレータ等を用いると好ましい。
【0039】
上述のようにセットされた鋼管20の内部にコンクリート5が侵入しないように、鋼管20の上端にキャップ21を装着するとともに(図5(a)参照)、軸方向鉄筋10のそれぞれに外嵌する鋼管20をまとめて連続繊維バンド22を巻き回して装着する(図5(b)参照)。
【0040】
この後、軸方向鉄筋10より上方に図示省略する帯筋等を組み付け、所定断面が確保できるように、軸方向鉄筋10の周りに図示省略する型枠を建て付け、型枠内部に生コンクリートを打設して、コンクリート5と軸方向鉄筋10で構成する柱部材2を完成させる(図6参照)。
【0041】
なお、この柱部材2の完成状態では、図示省略するものの、柱部材2の上端から軸方向鉄筋10は突出しており、柱部材2の上端から突出する軸方向鉄筋10にL型部分10aを継いで、梁部材4の軸方向鉄筋10と結束して梁部材4を構築することとなる。
【0042】
上述のように、鉄筋コンクリート構造物1の一部を構成する柱部材2が、コンクリート5と、コンクリート5の内部に配筋される軸方向鉄筋10と、軸方向鉄筋10における軸方向の一部に外嵌する所定長さの鋼管20とで構成されているため、簡易な構造で軸方向鉄筋10の座屈を抑制し、柱部材2の変形性能を向上することができる。
【0043】
詳述すると、柱部材に曲げ方向の外力が作用すると曲げ変形が生じる。そして、曲げ変形の変形量が大きくなるとコンクリートに付着した軸方向鉄筋も大きく曲がって座屈する。そうすると、柱部材の変形性能が著しく低下する。
【0044】
これに対し、コンクリート5の内部に配筋される軸方向鉄筋10における軸方向の一部を所定長さの鋼管20で外嵌することで、柱部材2を構成するコンクリート5と、軸方向鉄筋10において鋼管20で外嵌された被外嵌部分100とは鋼管20によって分離され、一体化しない。そのため、被外嵌部分100は、外力の作用によって曲げ変形する柱部材2のコンクリート5の変形に追従することなく、軸方向鉄筋10が座屈することを防止できる。このように、曲げ変形による軸方向鉄筋10の座屈を防止できるため、柱部材2の変形性能を向上することができる。
【0045】
また、連続繊維バンド22が、複数の鋼管20の外周にまとめて巻き付けられているため、鋼管20を配置した範囲の柱部材2のせん断耐力を向上させることができる。よって、柱部材2の変形性能を向上することができる。
【0046】
また、上述の説明では、型枠内部に生コンクリートを打設してコンクリート5を構成したが、図7に示すように、少なくとも鋼管20の周辺に、鋼繊維6を含有する生コンクリートを打設して繊維補強コンクリート5aで柱部材2を構成してもよい。このように鋼繊維6が含まれる繊維補強コンクリート5aの場合、連続繊維バンド22は省略してもよい。
【0047】
このように、鋼管20の周囲の繊維補強コンクリート5aに鋼繊維6が混入されることで、上述の効果に加え、鋼繊維6が混入された高負荷範囲Hの柱部材2のせん断耐力を向上させることができる。よって、柱部材2の変形性能を向上することができる。
【0048】
例えば、柱部材2は、標準断面構造の柱部材において外力の作用によって軸方向鉄筋10が座屈するおそれがある高負荷範囲Hを包含するように鋼管20を配置したが、図8に示すように、ひび割れ負荷範囲H2を包含するように柱部材2の高さ全域に亘る長さの長鋼管20aで軸方向鉄筋10を外嵌してもよい。この場合、負荷範囲H2は、標準断面構造の柱部材において外力が作用した際に曲げひび割れが生じる曲げ負荷が作用する範囲である。
【0049】
上述のように、軸方向において、標準断面構造の柱部材に外力が作用した際に負荷範囲H2に長鋼管20aが配置されることで、外力の作用によって柱部材2に曲げひび割れが生じることを防止でき、耐久性のある柱部材2を構築することができる。
【0050】
詳述すると、標準断面構造の柱部材に外力が作用した際に負荷範囲H2の被外嵌部分100の軸方向鉄筋10がコンクリート5と分離されているため、付着による軸方向鉄筋10とコンクリート5との相互の拘束が生じない。そのため、被外嵌部分100はあたかも丸鋼鉄筋で構成された状態となり、柱部材2に曲げひび割れが生じることを防止できる。
【0051】
さらには、上述の説明では、鋼管20の上端部にキャップ21を装着して、鋼管20の内部にコンクリート5が侵入しないように構成したが、図9に示すように、上面3aから上方に延びる軸方向鉄筋10を鋼管20の内部で別の鋼管20と継ぎ、鋼管20の内部にグラウト材7を充填してもよい。この場合、キャップ21は装着しなくてもよい。
【0052】
上述のように、鋼管20の内部にグラウト材7が充填されているため、鋼管20の内部で軸方向鉄筋10同士を軸方向に継ぐことができる。つまり、鋼管20及びグラウト材7は協働して軸方向鉄筋10の継ぎ手として機能することができる。
【0053】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、この発明の鉄筋コンクリート構造物は鉄筋コンクリート構造物1に対応し、
以下同様に、
鉄筋コンクリート部材は柱部材2に対応し、
コンクリートはコンクリート5に対応し、
軸方向鉄筋は軸方向鉄筋10に対応し、
管体は鋼管20に対応し、
標準コンクリート部材は標準断面構造の柱部材に対応し、
曲げ負荷が大きい範囲は高負荷範囲Hに対応し、
曲げひび割れが生じる曲げ負荷が作用する範囲は負荷範囲H2に対応し、
グラウト材はグラウト材7に対応し、
繊維補強材は連続繊維バンド22に対応し、
補強繊維は鋼繊維6に対応するも、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0054】
例えば、上述の説明では、軸方向鉄筋10のそれぞれに鋼管20を外嵌させたが、複数本の軸方向鉄筋10をまとめて鋼管20で外嵌してもよい。この場合、複数本ある軸方向鉄筋10に対してそれぞれ鋼管20を外嵌する場合に比べて、複数本の軸方向鉄筋10をまとめて鋼管20で外嵌できるため、鋼管20の外嵌作業が少なくなり、効率的に施工することができる。
【0055】
また、上述の説明では、すべての鋼管20をひとまとめにして連続繊維バンド22を巻き回したが、複数の鋼管20毎に連続繊維バンド22を巻き回してもよいし、各鋼管20の外周にそれぞれ連続繊維バンド22を巻き付けてもよい。この場合、鋼管20の外周を連続繊維バンド22で拘束できるため、鋼管20のせん断耐力を向上させることができる。
【0056】
また、帯状の連続繊維バンド22で鋼管20の周りを巻き回したが、シート状である連続繊維シートで鋼管20の周りを巻き回しても、連続繊維バンド22を巻き回したことによる効果と同様の効果を奏することができる。
【0057】
さらに、上述の説明では、柱部材2における高負荷範囲Hの軸方向鉄筋10に鋼管20を外嵌させたが、床版部材3や梁部材4の軸方向鉄筋10に鋼管20を外嵌させてもよい。例えば、梁部材4の軸方向鉄筋10に鋼管20を外嵌させる場合、梁部材4と柱部材2との接合部分の近傍の梁部材4に高負荷範囲Hが設定されることとなる。
【符号の説明】
【0058】
1…鉄筋コンクリート構造物
2…柱部材
5…コンクリート
6…鋼繊維
7…グラウト材
10…軸方向鉄筋
20…鋼管
22…連続繊維バンド
H…高負荷範囲
H2…負荷範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9