(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】車載レーダー装置用レドーム構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20250114BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20250114BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20250114BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20250114BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
G01S7/40 147
B60R13/00
H01Q1/32 Z
H01Q1/42
G01S7/03 246
(21)【出願番号】P 2020132370
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】池増 竜帆
(72)【発明者】
【氏名】山本 真平
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼地 尚
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185988(JP,A)
【文献】国際公開第2005/004563(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065165(WO,A1)
【文献】特開昭55-069973(JP,A)
【文献】特開2020-036321(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102013207482(DE,A1)
【文献】特開2018-066706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/51,
G01S 13/00-13/95,
G01S 17/00-17/95,
B60R 13/00,
H01Q 1/32, 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部材を構成する伸長性を有するフィルムではないレドーム基材
における、車載レーダー装置用レドームの外観が視認される視認側と同じ視認側と逆側の背面に面状発熱体が積層して固着され、
前記レドーム基材から突出する部材によってポケット状の局所的な
絶縁樹脂充填用の凹部が設けられ、
前記面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体が前記凹部に収容され、
前記接続体を埋設して封止するように前記凹部に絶縁樹脂が充填されていることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム構造。
【請求項2】
絶縁樹脂充填用の前記凹部の部材が、前記レドーム基材の背面から視認側と逆側に突出するように設けられる、若しくは前記レドーム基材の側端面から側方に突出するように設けられることを特徴とする請求項1記載の車載レーダー装置用レドーム
構造。
【請求項3】
前記接続体に前記面状発熱体の電極が固定されて前記面状発熱体の電極と前記接続体とが電気的に接続されると共に、
前記接続体に前記電力供給線の端子が固定されて前記電力供給線の端子と前記接続体とが電気的に接続されることを特徴とする請求項1又は2記載の車載レーダー装置用レドーム
構造。
【請求項4】
請求項1又は2記載の車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法であって、
レドーム基材から突出する部材によって設けられたポケット状の局所的な
絶縁樹脂充填用の凹部に、前記レドーム基材に積層して固着される面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体を収容する第1工程と、
前記接続体を収容した前記凹部の開放側を上方に向けて前記レドーム基材を搬送し、その状態の搬送途中で前記凹部に絶縁樹脂を充填して前記接続体を埋設して封止する第2工程を備えることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法であって、
レドーム基材から突出する部材によって設けられたポケット状の局所的な
絶縁樹脂充填用の凹部に、前記レドーム基材に積層して固着される面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体を収容する第1工程と、
前記接続体を収容した前記凹部の開放側を上方に向けて前記レドーム基材を搬送し、その状態の搬送途中で前記凹部に絶縁樹脂を充填して前記接続体を埋設して封止する第2工程を備え、
前記第1工程において、面状発熱体と、前記面状発熱体への電力供給線と、前記面状発熱体の電極と前記電力供給線を電気的に接続する接続体とで構成され、前記接続体に前記面状発熱体の電極が固定されて前記面状発熱体の電極と前記接続体とが電気的に接続されていると共に、前記接続体に前記電力供給線の端子が固定されて前記電力供給線の端子と前記接続体とが電気的に接続されている中間構造体を用い、前記中間構造体の前記面状発熱体を前記レドーム基材に積層して固着すると共に、前記中間構造体の前記接続体を前記レドーム基材から突出する部材によって設けられた局所的な
絶縁樹脂充填用の前記凹部に収容することを特徴とする車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームに係り、特に融雪機能を有する車載レーダー装置用レドーム構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダー装置用レドームとして、必要な電磁波の透過性の確保を図りつつ、融雪機能を発揮するレドームが知られている。この融雪機能を有するレドームは、ヒーター線が配線された樹脂フィルムのような面状発熱体を基材に接着して形成されるものが一般的である。斯様なレドームとして特許文献1、2には、透明部材、加飾層、前基材で構成される中間成形体の前基材の後側に面状発熱体を接着し、面状発熱体が接着された中間成形体の面状発熱体の後側に後基材を溶着やインサート成形で固定するものが開示されている。
【0003】
これらの特許文献1、2のレドームでは、面状発熱体に配線されたヒーター線の両電極に接続される防水コネクタが後基材の後方に露出されており、この防水コネクタに、ケーブルを介して車両側から導入される車両側コネクタが後側から結合され、ヒーター線に電力が供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-66705号公報
【文献】特開2018-66706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2の車載レーダー装置用レドームは、後基材の後方に露出されるヒーター線の防水コネクタが車両側コネクタに機械的、電気的に結合されて電力が供給される構造であるが、この構造だけでは、車両洗車時や雨天時等に対する所要の防水性を確保するために十分ではない。即ち、この構造を車両に実際に搭載して所要の防水性を確保するには、ヒーター線側のコネクタを防水構造の防水コネクタにすることに加え、ヒーター線側コネクタと車両側コネクタの結合箇所に別の防水部材を用いて防水処理を施すことが必要になる。
【0006】
このようにヒーター線側のコネクタに防水構造の防水コネクタを用いることに加え、ヒーター線側コネクタと車両側コネクタの結合箇所に別の防水部材を用いて防水処理を施すと、レドームの防水処理に要する費用が増加し、レドームの製造コストが高くなってしまうという不具合がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、レドームのヒーター線と電力供給線を電気的に接続する接続部分の接続構造、防水構造を簡略化し、融雪機能を有するレドーム構造の製造コストを低減することができる車載レーダー装置用レドーム構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造は、発熱部材を構成する伸長性を有するフィルムではないレドーム基材における、車載レーダー装置用レドームの外観が視認される視認側と同じ視認側と逆側の背面に面状発熱体が積層して固着され、前記レドーム基材から突出する部材によってポケット状の局所的な絶縁樹脂充填用の凹部が設けられ、前記面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体が前記凹部に収容され、前記接続体を埋設して封止するように前記凹部に絶縁樹脂が充填されていることを特徴とする。
これによれば、ヒーター線側のコネクタに防水構造の防水コネクタを用いることに加え、ヒーター線側コネクタと車両側コネクタの結合箇所に別の防水部材を用いて防水処理を施す必要を無くすことができる。即ち、レドームのヒーター線と電力供給線を電気的に接続する接続部分の接続構造、防水構造を簡略化し、融雪機能を有するレドーム構造の製造コストを低減することができる。
【0009】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造は、前記レドーム基材の視認側と逆側の背面に前記面状発熱体が積層して固着され、前記凹部の部材が、前記レドーム基材の背面から視認側と逆側に突出するように設けられる、若しくは前記レドーム基材の側端面から側方に突出するように設けられることを特徴とする。
これによれば、車載レーダー装置用レドームの外観が視認される視認側への凹部の突出を防止することができ、車載レーダー装置用レドームの外観の美観の確保、車載レーダー装置用レドームの外観の設計自由度向上を図ることができる。
【0010】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造は、前記凹部が車載レーダー装置による前記レドーム基材の電磁波照射領域から外れた位置に配置されていることを特徴とする。
これによれば、レドームの凹部、凹部に収容される接続体、凹部に充填される絶縁樹脂が車載レーダー装置の電磁波の送受信の妨げになることを防止することができ、車載レーダー装置の所望の電磁波送受信を確保することができる。
【0011】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法は、本発明の車載レーダー装置用レドーム構造を製造する方法であって、レドーム基材から突出する部材によって設けられたポケット状の局所的な絶縁樹脂充填用の凹部に、前記レドーム基材に積層して固着される面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体を収容する第1工程と、前記接続体を収容した前記凹部の開放側を上方に向けて前記レドーム基材を搬送し、その状態の搬送途中で前記凹部に絶縁樹脂を充填して前記接続体を埋設して封止する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、接続体を収容した凹部の開放側を上方に向けてレドーム基材を搬送し、上方に開放する凹部に絶縁樹脂を充填することにより、特別な液漏れ防止処理を行わなくても、流動状態の絶縁樹脂の液漏れを防止することができる。更に、流動状態の絶縁樹脂の凹部への注入後にも、凹部が上方に開放する状態を維持することにより、流動状態の絶縁樹脂の液漏れを防止しながら搬送による時間の経過に伴って絶縁樹脂を硬化させることができる。従って、防水構造と融雪構造を兼ね備えるレドーム構造を非常に効率的に製造することができると共に、特別な液漏れ防止処理が不要なことから、レドーム構造の製造コストをより一層低減することができる。
【0012】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法は、レドーム基材から突出する部材によって設けられたポケット状の局所的な絶縁樹脂充填用の凹部に、前記レドーム基材に積層して固着される面状発熱体の電極と前記面状発熱体への電力供給線を電気的に接続する接続体を収容する第1工程と、前記接続体を収容した前記凹部の開放側を上方に向けて前記レドーム基材を搬送し、その状態の搬送途中で前記凹部に絶縁樹脂を充填して前記接続体を埋設して封止する第2工程を備え、前記第1工程において、面状発熱体と、前記面状発熱体への電力供給線と、前記面状発熱体の電極と前記電力供給線を電気的に接続する接続体とで構成され、前記接続体に前記面状発熱体の電極が固定されて前記面状発熱体の電極と前記接続体とが電気的に接続されていると共に、前記接続体に前記電力供給線の端子が固定されて前記電力供給線の端子と前記接続体とが電気的に接続されている中間構造体を用い、前記中間構造体の前記面状発熱体を前記レドーム基材に積層して固着すると共に、前記中間構造体の前記接続体を前記レドーム基材から突出する部材によって設けられた局所的な絶縁樹脂充填用の前記凹部に収容することを特徴とする。
これによれば、面状発熱体と電力供給線とこれらの接続体で構成される中間構造体を用い、この中間構造体の接続体をレドーム基材の凹部に収容することにより、局所的な凹部内の狭い空間で面状発熱体と接続体を電気的に接続する作業や電力供給線と接続体を電気的に接続する作業を不要にすることができ、製造工程の簡略化、より一層の効率化を図ることができる。また、面状発熱体と接続体の電気的接続、或いは電力供給線と接続体の電気的接続に半田等を用い、凹部内で接続作業を行った場合には、例えばレドーム基材を構成する合成樹脂や局所的な凹部を構成する合成樹脂が溶けてしまう問題が生ずる可能性があるが、中間構造体の接続体をレドーム基材の凹部に収容することにより、このような合成樹脂が溶けることによる形状の変形、不良化を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造によれば、レドームのヒーター線と電力供給線を電気的に接続する接続部分の接続構造、防水構造を簡略化し、融雪機能を有するレドーム構造の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造の斜視図。
【
図2】実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造の背面図。
【
図3】実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造を適用した車載レーダー構造の模式説明図。
【
図5】(a)~(d)は実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造の製造工程を説明する工程説明図。
【
図6】本発明による変形例の車載レーダー装置用レドーム構造の部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造及びその製造方法〕
本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造は、
図1及び
図2に示すように、レドーム基材に相当する電磁波透過性の基材1を備える。基材1は、合成樹脂、ガラス、セラミックス等の本発明の趣旨の範囲内で適宜の材料を用いることが可能であり、好適には絶縁性の合成樹脂とするとよい。基材1を絶縁性の合成樹脂とする場合の材料は、適用可能な範囲で適宜であり、例えばアクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)、ポリプロピレン(PP)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0016】
基材1には面状発熱体2が積層して固着されており、本実施形態では基材1の視認側と逆側の背面11には面状発熱体2が積層して固着されている。更に、本実施形態における面状発熱体2は、ヒーター線21が絶縁フィルム22の背面側に固着されて構成され、絶縁フィルム22が基材1の背面11に接着或いは溶着或いは両面テープ等で固着されている。ヒーター線21が絶縁フィルム22の背面側に設ける構成では、絶縁フィルム22で絶縁性を担保し、例えばエンブレムのレドームの加飾層71に電磁波透過性金属部711が設けられる場合でも加飾層71の導通発生を防止することができて好適である。即ち、加飾層の構成に拘わらず、ヒーター線21への通電で加飾層に導通が発生することを防止でき、加飾層の導通で電磁波透過性が低下することを確実に防止できる。尚、必要に応じて、ヒーター線21を絶縁フィルム22の前側(基材1側)に載置するように設ける構成や、ヒーター線21を絶縁フィルム22に埋設するように設ける構成としても良好である。
【0017】
ヒーター線21は基材1の背面11に沿うように配線され、且つ基材1の略全面或いは基材1の電磁波照射領域の略全面に亘って広がるように配線されている。図示例のヒーター線21は蛇行する態様で配線されているが、同心円状に配線するなど他の配線態様としても良好である。ヒーター線21は、例えばニクロム線、鉄クロム、銅、銀、カーボン繊維、ITO膜のような透明導電膜等の適用可能な適宜の材料とすることが可能である。絶縁フィルム22は、絶縁性で電磁波透過性を有する適用可能な適宜の材料で形成することができ、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレー(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)等の絶縁性の合成樹脂とすると良好である。
【0018】
基材1には、基材1から突出する部材によって局所的な凹部3が設けられており、本実施形態では基材1の視認側と逆側の背面11から視認側と逆側に突出する部材によって局所的な凹部3が設けられている。また、局所的な凹部3は、良好な電磁波透過性を確保できる電磁波照射領域を可能な限り拡げるため、基材1の背面11の外周縁近傍に配置されており、本実施形態における局所的な凹部3は、車載レーダー装置100による基材1の電磁波照射領域Rから外れた位置に配置されている。凹部3はポケット状で形成され、底部31で底側が閉塞されていると共に、周壁32と基材1で四方が囲まれており、天井が開放するように形成されている。凹部3或いは凹部3を構成する部材は基材1と一体形成して基材1の背面11に形成すると良好であるが、底部31と周壁32で構成される中間部材を基材1の背面11に接着或いはカシメ固定等で固着して設けても良好である。
【0019】
凹部3には、面状発熱体2の電極と面状発熱体2への電力供給線5を電気的に接続する接続体4が収容される。面状発熱体2のヒーター線21は、絶縁フィルム22に固着された状態でコネクタの接続体4に導入され、接続体4と近接する位置で両方の電極を露出して接続体4と電気的に接続されている。ヒーター線21に電力を供給する電力供給線5は、ワイヤーハーネス等の防水性の絶縁被覆で覆われており、コネクタの接続体4に導入され、接続体4と近接する位置で露出する端子が接続体4と電気的に接続されている。
【0020】
凹部3には、絶縁樹脂6が充填され硬化して設けられており、接続体4は絶縁樹脂6に全体が埋設されて封止されている。接続体4と、接続体4と電気的に接続されている露出するヒーター線21の両電極と、接続体4と電気的に接続されている電力供給線5の露出する端子は、いずれも絶縁樹脂6に埋設して封止され、接続体4を介した面状発熱体2のヒーター線21と電力供給線5の防水性が確保されている。
【0021】
本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造は、例えば車両に実装されるフロントグリル等のエンブレム、又はバンパー等とすると好適である。
図3及び
図4に、本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造を用いてエンブレム形状のレドーム10を構成し、このレドーム10の背面側に車載レーダー装置100を配置した車載レーダー構造の例を模式的に示す。
【0022】
レドーム10は、車載レーダー装置100の前方に配置されて車両に取り付けられ、車載レーダー装置100でミリ波等の電磁波を照射される。また、本例のエンブレム形状のレドーム10では、レドーム基材に相当する基材1の前面12に加飾層71、加飾層71を視認可能な透明基材72が前方に向かって順に積層して固着され、基材1の面状発熱体2の背面には局所的な凹部3を回避する領域に後基材73が固着されている。
【0023】
透明基材72と後基材73は、基材1と同様に、絶縁性で電磁波透過性を有する。透明基材72、後基材73は、例えば基材1と同一材料で形成する等、複素誘電率に基づき定義される屈折率nが相互に整合する、又は、屈折率nが略同一或いは近接するものを用いると電磁波の透過性能向上の観点から好適である。透明基材72と基材1の近接する屈折率nの数値範囲としては、透明基材72と基材1の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。また、後基材73と基材1の近接する屈折率nの数値範囲としては、後基材73と基材1の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。
【0024】
ここでの屈折率nは比誘電率実数部εr'と比誘電率虚数部εr"から数式1として定義される量である。 透過性の観点から適用周波数における虚数部と実数部の比から数式2として定義される誘電正接(ロスタンジェント)tanδの大きさは0.1以下とすると好適である。また比誘電率実部の大きさは3以下とすると好適である。誘電正接と非誘電率実部の大きさをこれらの数値以下とすることにより、レドームに必要とされる反射率と内部損失の低減を確実にすることが可能となる。
【0025】
【0026】
【0027】
透明基材72と基材1との間に密着して設けられる本実施形態の加飾層71は、電磁波透過性金属部711と有色部712とから構成されている。尚、加飾層71は、電磁波透過性金属部711と有色部712で構成されるもの以外にも、例えば電磁波透過性金属部だけで構成される加飾層、或いは有色部だけで構成される加飾層等とすることが可能である。
【0028】
電磁波透過性金属部711は、例えば電磁波透過性で金属光沢を有する不連続金属層で構成され、光輝性で一体的な視認性を有し、透明基材72の背面に無電解めっき、蒸着又はスパッタ等で形成されている。電磁波透過性金属部711を光輝性で一体的な視認性を有する不連続金属層とする場合、例えばニッケル若しくはニッケル合金、クロム若しくはクロム合金、コバルト若しくはコバルト合金、錫若しくは錫合金、銅若しくは銅合金、銀若しくは銀合金、パラジウム若しくはパラジウム合金、白金若しくは白金合金、ロジウム若しくはロジウム合金、金若しくは金合金等から構成することが可能である。
【0029】
有色部712は、電磁波透過性を有し、印刷、又は塗装マスクを用いた塗装等で形成されている。図示例の加飾層71では、有色部712が電磁波透過性金属部711の表面側の一部に積層されるようにして透明基材72の背面に密着して設けられており、透明基材72の背面が露出している領域と、有色部712が設けられている領域の全体に亘って電磁波透過性金属部711が層状に形成され、透明基材72の露出した背面と有色部712に密着して設けられている。そして、透明基材72の背面側には、エンブレムのマーク記号部に対応する位置に凹部721が形成されており、加飾層71は、凹部721に倣うように断面視で表面側に部分突出して曲がって形成されている。また、
図3及び
図4の例では、透明基材72の凹部721に対応する箇所で基材1に凸部13が形成されており、凸部13を凹部721及び凹部721内の加飾層71に係合するようにして基材1と加飾層71や透明基材72が固着されている。
【0030】
次に、本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造の製造方法について説明する(
図5参照)。本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造を製造する際には、
図5(a)に示すように、面状発熱体2と、面状発熱体2への電力供給線5と、面状発熱体2の電極と電力供給線5の端子を電気的に接続する接続体4で構成される中間構造体M1を用いる。中間構造体M1では、面状発熱体2のヒーター線21が、接続体4と近接する位置で両方の電極を絶縁フィルム22から露出して接続体4と電気的に接続されていると共に、ヒーター線21に電力を供給する電力供給線5が、接続体4と近接する位置で絶縁被覆から端子を露出して接続体4と電気的に接続されている。また、中間構造体M1のヒーター線21は、絶縁フィルム22で被覆された状態で蛇行態様等の所定の態様で配線されている。
【0031】
そして、背面11側に局所的な凹部3が設けられた基材1を用い(
図5(b)参照)、基材1の背面11側の局所的な凹部3に、基材1の背面11に積層して固着される面状発熱体2の電極と面状発熱体2への電力供給線5を電気的に接続する接続体4を収容する。本実施形態の製造工程では、中間構造体M1の面状発熱体2を基材1の背面11に積層して固着すると共に、中間構造体M1の接続体4を基材1の背面11側の局所的な凹部3に収容する。面状発熱体2の基材1の背面11への固着は、本例では面状発熱体2のヒーター線21が背面側に固着されている絶縁フィルム22を背面11に固着して行っている。また、接続体4の凹部3への収容は、凹部3の開放側から接続体4を入れて収容する(
図5(c)参照)。本実施形態では、面状発熱体2の絶縁フィルム22に凹部3を跨ぐように切欠き221が形成され、切欠き221よりも凹部3側の絶縁フィルム22とヒーター線21で構成され、接続体4まで延びる延在部23の先端部が、接続体4と共に局所的な凹部3に収容されるようになっている(
図1、
図2、
図5参照)。
【0032】
次いで、接続体4を収容した凹部3の開放側を上方に向けて基材1を搬送し、その状態の搬送途中で接続体4が収容された凹部3に、溶融した熱可塑性の絶縁樹脂6を注入ノズル8で上側から注入し、凹部3に絶縁樹脂6を充填して接続体4を埋設した状態にして封止する(
図5(d)参照)。尚、凹部3に注入、充填する樹脂は、熱可塑性の絶縁樹脂6以外の絶縁樹脂としてもよく、例えば一液性の湿気硬化型樹脂、或いは二液性の反応硬化型樹脂等としてもよい。その後、凹部3に絶縁樹脂6が充填された基材1の搬送を行い、搬送途中の状態或いは搬送後の静置状態で接続体4を埋設した絶縁樹脂6が硬化することにより、本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造を得る。
【0033】
本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造によれば、ヒーター線側のコネクタに防水構造の防水コネクタを用いることに加え、ヒーター線側コネクタと車両側コネクタの結合箇所に別の防水部材を用いて防水処理を施す必要を無くすことができる。即ち、レドームのヒーター線21と電力供給線5を電気的に接続する接続部分の接続構造、防水構造を簡略化し、融雪機能を有するレドーム構造の製造コストを低減することができる。
【0034】
また、本実施形態の車載レーダー装置用レドーム構造を製造する際に、接続体4を収容した局所的な凹部3の開放側を上方に向けて基材1を搬送し、上方に開放する凹部3に絶縁樹脂6を注入、充填することにより、特別な液漏れ防止処理を行わなくても、流動状態の絶縁樹脂6の液漏れを防止することができる。更に、流動状態の絶縁樹脂6の局所的な凹部3への注入後にも、凹部3が上方に開放する状態を維持することにより、流動状態の絶縁樹脂6の液漏れを防止しながら搬送による時間の経過に伴って絶縁樹脂6を硬化させることができる。従って、防水構造と融雪構造を兼ね備えるレドーム構造を非常に効率的に製造することができると共に、特別な液漏れ防止処理が不要なことから、レドーム構造の製造コストをより一層低減することができる。
【0035】
更に、製造の際に、面状発熱体2と電力供給線5とこれらの接続体4とで構成される中間構造体M1を用い、中間構造体M1の接続体4を基材1の局所的な凹部3に収容することにより、局所的な凹部3内の狭い空間で面状発熱体2と接続体4を電気的に接続する作業や電力供給線5と接続体4を電気的に接続する作業を不要にすることができ、製造工程の簡略化、より一層の効率化を図ることができる。また、面状発熱体2と接続体4の電気的接続、或いは電力供給線5と接続体4の電気的接続に半田等を用い、局所的な凹部3内で接続作業を行った場合には、例えば基材1を構成する合成樹脂や局所的な凹部3を構成する合成樹脂が溶けてしまう問題が生ずる可能性があるが、中間構造体M1の接続体4を基材1の凹部3に収容することにより、このような合成樹脂が溶けることによる形状の変形、不良化を防止することができる。
【0036】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0037】
本発明の車載レーダー装置用レドーム構造は、上述のフロントグリル等のエンブレム、又はバンパーの好適例以外にも、車両に搭載される適宜の車両実装部品に適用することが可能である。また、本発明の車載レーダー装置用レドームは、上記実施形態の製造工程例で製造すると好適であるが、例えば中間構造体M1を用いずに製造したもの等、これ以外の製造工程で製造したものも本発明の車載レーダー装置用レドームに包含される。
【0038】
また、上記実施形態における透明基材72の外表面など、本発明の車載レーダー装置用レドーム構造によるレドームの最外側の外表面に、例えばエポキシポリウレタン系防水化材、ポリエステル系防水化材、シリコン系防水化材、アクリル系防水化材、メタクリル系防水化材、チタニア系防水化材のような材料の電磁波透過性の防水層を積層するように固着して設け、防水性を高める構成、或いは例えばアクリル系撥水化材、シリコン系撥水化材のような材料の電磁波透過性の撥水層を積層する、あるいは、撥水性のナノ構造を表面に付与するように固着して設け、撥水性を高める構成 、或いは樹脂体の外表面に防水層と撥水層の順に積層し、固着して設け、撥水性と防水性の双方を高める構成としても良好である。
【0039】
また、上記実施形態における透明基材72の外表面など、本発明の車載レーダー装置用レドーム構造によるレドームの最外側の外表面に、例えばメラミン系ハードコート剤、ウレタン系ハードコート材、アクリル系ハードコート材等の有機系ハードコート材、シリコン系ハードコート材、無機系ハードコート材のような材料の電磁波透過性のハードコート層を積層するように固着して設け、外表面を保護し、レドームの強度や耐久性を高める構成としても良好である。
【0040】
また、上記実施形態における透明基材72の外表面など、本発明の車載レーダー装置用レドーム構造によるレドームの最外側の外表面に、例えば有機系親水材、シラン系親水化材、チタニア系親水化材のような材料の電磁波透過性の親水層を積層するように固着して設ける、あるいは親水性のナノ構造を表面に付与することで、融解された雪を水としてレドーム表面に留め、水の潜熱を利用して新たに雪が付着するのを防止する構成としても良好である。
【0041】
また、上記実施形態では、局所的な凹部3を、基材1の背面11から視認側と逆側に部材を突出させて設ける構成としたが、例えばレドーム基材に相当する基材1の視認側と逆側の背面11に面状発熱体2を積層して固着し、基材1の側端面14から側方に突出する部材によって局所的な凹部3を設け、この凹部3に接続体4を収容し、収容した接続体4を埋設して封止するように凹部3に絶縁樹脂6を充填して設ける構成としても良好である。
【0042】
また、本発明における面状発熱体の電極と接続体を固定して電気的に接続する構成や、面状発熱体への電力供給線と接続体を固定して電気的に接続する構成には、適宜の電気的に接続可能な固定構造を用いることが可能であり、例えば半田による固定構造、カシメによる固定構造、圧着で固定した構造、導電性接着剤で接着した固定構造等とすると良好である。
【0043】
また、本発明における局所的な凹部3は、レドーム基材に対して単数個設ける構成に限定されず、複数個としても良好であり、例えば1個のレドーム基材に対して局所的な凹部を2箇所に設け面状発熱体或いはヒーター線の一方の電極と面状発熱体への一方の電力供給線を電気的に接続する一の接続体を一の凹部に収容し、一の凹部に収容した一の接続体を接続箇所も含めて絶縁樹脂に埋設すると共に、面状発熱体或いはヒーター線の他方の電極と面状発熱体への他方の電力供給線を電気的に接続する他の接続体を他の凹部に収容し、他の凹部に収容した他の接続体を接続箇所も含めて絶縁樹脂に埋設する構成としても良好である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、車載レーダー装置用レドームの構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…基材 11…背面 12…前面 13…凸部 14…側端面 2…面状発熱体 21…ヒーター線 22…絶縁フィルム 221…切欠き 23…延在部 3…凹部 31…底部 32…周壁 4…接続体 5…電力供給線 6…絶縁樹脂 71…加飾層 711…電磁波透過性金属部 712…有色部 72…透明基材 721…凹部 73…後基材 8…注入ノズル 10…レドーム 100…車載レーダー装置 R…電磁波照射領域 M1…中間構造体