(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】ペット用トイレおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 1/01 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
A01K1/01 801A
(21)【出願番号】P 2020148161
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥平 壮臨
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-100577(JP,A)
【文献】特開2018-117598(JP,A)
【文献】特開2020-122089(JP,A)
【文献】特開2012-100576(JP,A)
【文献】特開2013-074819(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106577314(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00-3/00
A01K 31/00-31/24
A01K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレ本体を尿透過性仕切層により上下に区画した2層タイプまたはシステムタイプのペット用トイレ
において、少なくとも
尿透過性仕切層が、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を含有する合成樹脂で成形されていることを特徴とするペット用トイレ。
【請求項2】
合成樹脂100質量部に対して繊維質成分0.01~20質量部を含有するものである請求項1記載のペット用トイレ。
【請求項3】
合成樹脂がポリオレフィン系樹脂を含有するものである請求項1または2のペット用トイレ。
【請求項4】
トイレ本体
の尿透過性仕切層により上下層に区画された上層部分に排泄物処理材および下層部分に尿吸収材を敷設するものである請求項1~3の何れか1のペット用トイレ。
【請求項5】
尿透過性仕切層が、
簀の子である請求項
1記載のペット用トイレ。
【請求項6】
合成樹脂と、トドマツを含有する樹木原料から精油及び水分の少なくとも一部が除去されてなる繊維質成分とを含有する合成樹脂組成物を混練装置に供給し、上記合成樹脂組成物を加熱して溶融混練した後に金型に供給して製造するペット用トイレの製造方法
であって、
金型が、トイレ本体を尿透過性仕切層により上下に区画した2層タイプまたはシステムタイプの尿透過性仕切層であることを特徴とするペット用トイレの製造方法。
【請求項7】
尿透過性仕切層が、簀の子である請求項6記載のペット用トイレの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペット用トイレおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、猫や犬等のペットの排泄物を処理するためのペット用トイレとしては、トイレ本体の下部に、例えば、猫砂、トイレ砂等の便床を形成する排泄物処理材を収容する構造のもの(単層タイプ)、トイレ本体を簀の子等の尿透過性仕切層により上下に区画して、上層部分に上記排泄物処理材を収容し、下層部分に、必要により例えば、吸水性樹脂、植物性繊維、パルプ等からからなる尿吸収マット等の尿吸収体を収容する構造のもの(2層タイプ)、トイレ本体を簀の子等の尿透過性仕切層により上下に区画して、上層部分に上記排泄物処理材を収容し、下層部分のトレーに上記尿吸収マット等の尿吸収体を収容して使用するもの(システムタイプ)が知られている。
【0003】
これらのペット用トイレの中でもシステムタイプは、上層部分に収容された排泄物処理材が、ペットが排泄する尿を素早く通過させ、通過した尿を簀の子の通液孔を介して下層部分に落下させ、落下した尿を下層部分のトレーに収容された尿吸収体に積極的に吸収させることができ、便利である。
【0004】
上記システムタイプのペット用トイレは、簀の子の下方に配置されたトレー内の排泄液等の臭いが、簀の子を介して外部に揮散するおそれがあり、悪臭の原因となるおそれがある。猫砂等が簀の子の上面に敷設されていれば、臭いを遮断することができるが、猫は、排泄後に排泄物処理材を足でかき混ぜる習性があるため、排泄後に排泄物処理材をかき混ぜることによって、排泄物処理材がかきだされ簀の子が露出し、その露出した部分を介して排泄液等が外部に揮散するおそれがある。
【0005】
また、特許文献2には、ペット用排泄物吸収シートにおいて、その表面シートに、香料成分(例えばゲラニオール等のアルコール類)、消臭成分(例えばカテキン)、殺菌成分(例えばベンザルコニウム塩)の少なくとも1つの成分を含む薬液を付着させたものが記載されている。また、特許文献3には植物由来の素材の粉砕物を主構成基材としたペット用排泄物処理材であって、植物由来の素材の粉砕物を70~98.99質量% 、合成樹脂を1 ~20質量% 、及びテクトケイ酸塩を0 .01~5質量% 含むペット用排泄物処理材が開示されている。しかし、吸収シートや排泄物処理剤は、通常使い捨てであって、一定のサイクルで新しいものと交換されるため、高価な消臭剤を含んだものはランニングコストの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-17446号公報
【文献】特開2006-238745号公報
【文献】特開2006-345830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、種々のペット用トイレにおいて、排泄液や排泄物に由来する悪臭を発生し難く、良好な飼育環境を維持し、またランニングコストが低減されたペット用トイレを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ペット用トイレの少なくとも一部を、特定の繊維質成分を含有する合成樹脂で成形することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、ペット用トイレの少なくとも一部が、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を含有する合成樹脂で成形されていることを特徴とするペット用トイレである。
【0010】
また、本発明は、合成樹脂と、トドマツを含有する樹木原料から精油及び水分の少なくとも一部が除去されてなる繊維質成分とを含有する合成樹脂組成物を混練装置に供給し、上記合成樹脂組成物を加熱して溶融混練した後に金型に供給して製造することを特徴とするペット用トイレの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペット用トイレは、排泄液や排泄物に由来する悪臭に対し優れた消臭効果を有し、その持続性に優れたものである。更に、本発明のペット用トイレは、繊維質成分由来の芳香を有し、その持続性に優れたものである。従って、本発明のペット用トイレは、長期間に亘って優れた消臭・芳香効果を安定的に維持する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のペット用トイレ(単層タイプ)の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の態様のペット用トイレ(2層タイプ)の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の態様のペット用トイレ(システムタイプ)の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のペット用トイレは、ペットの排泄液や排泄物を処理するためのトイレであれば特に限定されないが、例えば、猫砂、トイレ砂等の便床を形成する排泄物処理材を収容する構造の容器(単層タイプ)、トイレ本体を簀の子等の尿透過性仕切層により上下に区画して、上層部分に上記排泄物処理材を収容し、下層部分に、必要により例えば、吸水性樹脂、植物性繊維、パルプ等からからなる尿吸収マット等の尿吸収体を収容する構造の容器(2層タイプ)、トイレ本体を簀の子等の尿透過性仕切層により上下に区画して、上層部分に上記排泄物処理材を収容し、下層部分のトレーに上記尿吸収マット等の尿吸収体を収容して使用する容器(システムタイプ)等が挙げられる。なお、単層タイプ、2層タイプ、システムタイプには必要によりペットの出入り口となる扉や、トイレの上層部分全体や一部を覆うフード、トイレを移動するための取っ手等を備えてもよい。本発明のペット用トイレとしては、消臭効果とコストの面からシステムタイプが好ましい。
【0014】
本発明のペット用トイレは、上記ペット用トイレの少なくとも一部を樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を含有する合成樹脂で成形する。ここで少なくとも一部とは、ペット用トイレを構成する全部の部品や一部の部品が上記合成樹脂で成形されていたり、部品の一部が上記合成樹脂で成形されていることをいう。ペット用トイレが単層タイプの場合には排泄物処理材を収容する容器全体や少なくとも容器壁面を上記合成樹脂で成形することが好ましい。2層タイプの場合には、少なくとも下層部分容器や簀の子等の尿透過性仕切層を上記合成樹脂で成形することが好ましく、少なくとも簀の子等の尿透過性仕切層を上記合成樹脂で成形することがより好ましい。システムタイプの場合には、少なくとも簀の子等の尿透過性仕切層、トレー、下層部分容器、フードを上記合成樹脂で成形することが好ましく、少なくとも簀の子等の尿透過性仕切層、トレーを上記合成樹脂で成形することがより好ましく、少なくとも簀の子等の尿透過性仕切層を上記合成樹脂で成形することが特に好ましい。
【0015】
本発明で用いられる合成樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の何れであってもよいが、繊維質成分に含まれている精油分の少なくとも一部をより効果的に合成樹脂側に移行させて繊維質成分の消臭効果を向上させることができるので、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリフェニルサルファイドなどが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
【0017】
ポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどが挙げられる。なお、ポリエチレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。また、ポリエチレンを部分構造として持つコポリマー、例えば、酢酸ビニルとポリエチレンとの共重合体であるエチレン酢酸ビニルコポリマー等も上記ポリエチレンと同様に用いることができる。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体の何れであってもよい。
【0019】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンなどが挙げられる。
【0020】
上記合成樹脂中には、樹木原料から精油及び水分の少なくとも一部が除去されてなる繊維質成分を含有させる。繊維質成分を得るために用いられる樹木は、特に限定されないが、例えば、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科クロベ属、ヒノキ科ビャクシン属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、マツ科ヒマラヤスギ属、マツ科トウヒ属、マツ科マツ属、マツ科カラマツ属、マツ科ツガ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、イチイ科カヤ属、ヒノキ科アスナロ属等が挙げられる。
【0021】
ヒノキ科ヒノキ属の樹木としては、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、サワラ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等が挙げられる。ヒノキ科クロベ属の樹木としては、ニオイヒバ、ネズコ等が挙げられる。ヒノキ科ビャ
クシン属の樹木としては、ハイビャクシン、ネズミサン、エンピツビャクシン、オキナワハイネズ等が挙げられる。ヒノキ科スギ属の樹木としては、スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等が挙げられる。
【0022】
マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。マツ科トウヒ属の樹木としては、アカエゾマツ、トウヒ等が挙げられる。マツ科マツ属の樹木としては、アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、ハイマツ等が挙げられる。マツ科カラマツ属の樹木としては、カラマツ等が挙げられる。マツ科ツガ属の樹木としては、ツガ等が挙げられる。
【0023】
フトモモ科ユーカリ属の樹木としては、ユーカリ、ギンマルバユーカリ、カマルドレンシス、レモンユーカリ等が挙げられる。
【0024】
コウヤマキ科コウヤマキ属の樹木としては、コウヤマキ等が挙げられる。
【0025】
イチイ科カヤ属の樹木としては、カヤ等が挙げられる。
【0026】
ヒノキ科アスナロ属の樹木としては、ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等が挙げられる。
【0027】
上記した樹木の中でも、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、ヒノキ科アスナロ属が好ましく、日本に多く分布しており、入手が容易であることから、ヒノキ科ヒノキ属のヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ヒノキ科スギ属のスギ、マツ科モミ属のトドマツ、モミ、フトモモ科ユーカリ属のユーカリ、コウヤマキ科コウヤマキ属のコウヤマキ、ヒノキ科アスナロ属のヒバがより好ましい。これらの樹木は複数種を組み合わせても良い。
【0028】
上記樹木の木質部および/または葉、好ましくは木質部および葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去する方法を減圧乾燥法という。この減圧乾燥法は、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、素材中に元から含まれている水分や精油の除去を行う方法である。
【0029】
この減圧乾燥法は、例えば、国際公開WO2010/098440号パンフレット等に記載のマイクロ波蒸留装置などを用いて実施できる。この減圧乾燥法においては、蒸留槽内の圧力を、1~95kPa、好ましくは5~80kPa、特に好ましくは10~60kPaとすれば良い。この際の蒸気温度は40~100℃になる。なお、生成する蒸留成分のうち、油性成分は精油として他の用途、例えば、窒素酸化物除去剤や芳香剤等の用途に用いることができる。
【0030】
減圧乾燥法で樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去した後は、常圧で水分を除去するための乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、50~80℃で1~5時間程度行えばよい。残存する精油成分は0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%である。また、残存する水分は1質量%以下である。
【0031】
このようにして得られる繊維質成分は、固形であり、優れた消臭効果を示す。繊維質成分が消臭効果を示す理由については不明な部分も多いが、現時点では、セルロースがリグニン、精油で固着されているという木質の構造から見て、精油の一部が取り除かれた後のリグニン構造あるいはセルロース構造中に悪臭を吸着しうる部位が生じたものと推定される。
【0032】
また、この繊維質成分は、水分はほぼ除去されるが、精油成分は完全に除去されたものではなく、樹木の木質部および/または葉に含まれる、精油成分の一部が除去されたものであり、一部の精油成分は繊維質成分中に残留された状態である。
【0033】
そして繊維成分中に残留する精油は、好ましくは揮発性が低いおよび/または不揮発性である。揮発性が低いほど、より長い期間にわたって精油の機能(例えば、消臭機能および/または芳香機能)が発揮されるからである。また、精油成分は比較的分子量の大きい成分を含むことが好ましい。分子量が大きいほど、揮発しにくいからである。樹木の木質部等から精油を抽出すると、より分子量が小さい、および/または揮発しやすい精油が優先的に抽出されるため、当該材料には揮発性の低い、および/または分子量のより大きい精油が残る傾向がある。当該材料に残る精油成分はモノテルペンの含有量が少なく、セスキテルペン、ジテルペンまたはテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、長期間にわたって消臭効果および/または芳香効果を発揮するとともに、酸性、アルカリ性、中性の悪臭物質に起因する様々な悪臭に対する消臭効果や窒素酸化物の除去効果を発揮することが可能となる。なお、上記悪臭物質としては、例えば、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸、3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール等が挙げられる。
【0034】
繊維質成分の消臭性が長期間に亘って持続するので、繊維質成分には、揮発性の低い精油及び/又は不揮発性の精油が含有されていることが好ましい。繊維質成分には、分子量の大きな精油が含まれていることが好ましい。
【0035】
繊維質成分には、モノテルペン類やセスキテルペン類などの精油が含まれることが好ましい。モノテルペン類としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、カンフェン、トリシクレン、ミルセン、β-フェランドレン、ボルニルアセテート、δ-3-カレン、テルピノレン、リモネン、などが挙げられる。
【0036】
セスキテルペン類としては、例えば、β-カリオフィレン、サビネンなどが挙げられる。
【0037】
繊維質成分に残存する精油は、モノテルペンの含有量が少なく且つセスキテルペン、ジテルペン及び/又はテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、繊維質成分は、長期間にわたって優れた消臭性を維持することができる。
【0038】
繊維質成分は優れた消臭性を有しており、ペット用トイレ特に猫の糞尿から発生する臭気に対して優れた消臭効果を発現する。繊維質成分は、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、酢酸、トルエン及びホルムアルデヒドからなる群から選ばれた少なくとも1種に由来する臭気に対して優れた消臭性を有しており、より好ましくは、アンモニア、硫化水素及びメチルメルカプタンからなる群から選ばれた少なくとも1種に由来する臭気に対して優れた消臭性を有している。
【0039】
更に、この繊維質成分は、植物である樹木から得られた自然物であるため、ペットへの危険性もないものである。また、難揮散性であるため、長期間に渡り消臭効果を持続できる。
【0040】
なお、この繊維質成分は、更に精密粉砕にかけ、平均粒径を1~500μmとすることが好ましい。平均粒径が、1μm以下だと成型の際に凝集してしまい成形しにくくなることがあり、500μmより大きいと射出成型機のノズルに詰まることがあり、均一に混ざり難いことから消臭効果も劣ることがある。より好ましい平均粒径は5~400μmである。なお、平均粒径や最大粒径はレーザー回析、散乱式粒度分布測定装置、粒度分布を測定し、メディアン径(D50)で表される値とする。
【0041】
精密粉砕の方法は、特に限定されず、従来公知の精密粉砕機を用いるだけでよい。精密粉砕機としては、例えば、ターボミル、ジェットミル、ビーズミル、ブレードミル、モーターグラインダー、ローターミル、カッティングミル、ディスクミル、振動ミル等が挙げられる。
【0042】
合成樹脂に含有させる繊維質成分の量は特に限定されないが、例えば、合成樹脂100質量部に対して繊維質成分0.01~20質量部、好ましくは0.1~10である。
【0043】
合成樹脂に、繊維質成分を含有させる方法は特に限定されないが、使用するプラスチック原料の量を減らすことができ、環境負担を低減でき、消臭効果が高く、しかも、それを長期間維持できるため練り込みが好ましい。
【0044】
繊維質成分を合成樹脂へ練り込む場合には、繊維質成分を含有させたマスターバッチペレットを作製し、これをペレットとリボンブレンダー等で混合し、汎用の合成樹脂の成形方法を用いることで成形すればよい。合成樹脂と繊維質成分とを効果的に混合することができると共に、合成樹脂中において繊維質成分を加熱して繊維質成分中の精油及び水分の一部を合成樹脂側に円滑に移行させて、繊維質成分の多孔質化の促進及び消臭性の向上を図ることができるので、押出機を用いた合成樹脂の成形方法が好ましい。このような合成樹脂の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形などが挙げられる。
【0045】
なお、上記合成樹脂には、他の機能性成分、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、粘土鉱物、光触媒(二酸化チタン)香料、消臭剤、抗菌剤等を配合することもできる。これらを配合する場合、従来公知の方法に従えばよい。
【0046】
本発明のペット用トイレの製造方法は、上記合成樹脂でペット用トイレの少なくとも一部を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、合成樹脂と、トドマツを含有する樹木原料から精油及び水分の少なくとも一部が除去されてなる繊維質成分とを含有する合成樹脂組成物を混練装置に供給し、上記合成樹脂組成物を加熱して溶融混練した後に金型に供給する方法が挙げられる。金型としては、例えば、容器全体、下層部分容器、簀の子等の尿透過性仕切層、トレー、容器壁面の一部等が挙げられる。
【0047】
繊維質成分は、上記製造過程において、溶融状態の合成樹脂によって加熱される。この加熱によって繊維質成分中に含まれている精油及び水分の少なくとも一部が合成樹脂側に移行し、繊維質成分はより微細な多孔質構造になると共に、繊維質成分中には、より消臭性に優れた精油分が濃縮された状態となる。従って、繊維質成分は、この繊維質成分に形成された微細孔部を通じて精油に起因した優れた消臭性をより効果的に発現することができる。
【0048】
本発明のペット用トイレは、少なくとも一部が、長期間に亘って優れた消臭効果を有する繊維質成分が含有されている樹脂で形成されている。従って、本発明のペット用トイレは、ペット用トイレ内に排出された排泄液や排泄物から発生した悪臭を消臭し、悪臭がペット用トイレ本体外に漏出するのを長期間防止することができる。
【0049】
また、本発明のペット用トイレは、猫や犬等のペットの排泄液や排泄物から発生した悪臭を消臭するのに適したものであるが、特に独特の匂いを有する猫の排泄液や排泄物から発生した悪臭を消臭するのに適している。
【0050】
以下、本発明のペット用トイレの例を図面を参照して説明する。これらペット用トイレは各タイプの典型的な例を示すものであり、本発明のペット用トイレの形状はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
<第1実施形態:単層タイプ>
第1実施形態のペット用トイレ
1を
図1に示す。ペット用トイレ
1は、トイレ本体の下部(底面)に猫砂、トイレ砂等の便床を形成する排泄物処理材(図示せず)を収容することができる構造の容器である。ペット用トイレ本体には、必要により、猫、犬等のペット(小動物)が容易に入れるよう、壁面を凹形状にしたり、壁面に穴を設けてもよい。排泄物処理材は、特に限定されないが、排泄液を吸収して固まるものが好ましく、この場合、排泄液は固まった排泄物処理材ごと容易に除去できる。また、排泄物は排泄物処理材上にとどまるため容易に除去できる。
【0052】
<第2実施形態:2層タイプ>
第2実施形態のペット用トイレ
10を
図2に示す。ペット用トイレ13は、上記ペットの排泄液を透過可能な尿透過性仕切層である簀の子11により上下に区画される構造の容器である。ペット用トイレ13には、必要により、上記ペットが容易に入れるよう、壁面を凹形状にしたり、壁面に穴を設けてもよい。上層部分(簀の子の上)に上記排泄物処理材(図示せず)を収容する。下層部分は必要により上記尿吸収体12を収容する。排泄物処理材は、特に限定されないが、排泄液を吸収して崩壊するものもしくは排泄液を吸収せずに透過させるものが好ましい。排泄液を吸収して崩壊するものの場合、排泄液と崩壊した排泄物処理材は簀の子11を透過し、下層部分に移行する。また、排泄液を吸収せずに透過させるものの場合、排泄液は簀の子11を透過し、下層部分に移行する。尿吸収体12がある場合にはそれに吸収され容易に除去できる。また、排泄物は排泄物処理材上に留まるため容易に除去できる。
【0053】
<第3実施形態:システムタイプ>
第3実施形態のペット用トイレ
20を
図3に示す。ペット用トイレ23は、上記ペットの排泄液を透過可能な尿透過性仕切層である簀の子21により上下に区画される構造の容器である。ペット用トイレ23には、必要により、上記ペットが容易に入れるよう、壁面を凹形状にしたり、壁面に穴を設けてもよい。上層部分(簀の子の上)に上記排泄物処理材(図示せず)を収容する。下層部分にはトレイ24が入るためのスペースが設けられている。排泄物処理材は、特に限定されないが、排泄液を吸収して崩壊するものもしくは排泄液を吸収せずに透過させるものが好まし。排泄液を吸収して崩壊するものの場合、排泄液と崩壊した排泄物処理材は簀の子21を透過し、下層部分に移行する。また、排泄液を吸収せずに透過させるものの場合、排泄液は簀の子11を透過し、下層部分に移行する。トレイ24上の尿吸収体22に吸収され容易に除去できる。トレイ24は上記尿吸収体22を収容する。また、排泄物は排泄物処理材上にとどまるため容易に除去できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
(繊維質成分の製造)
葉のついた状態のトドマツの枝90kgを圧砕式粉砕機(KYB製作所製)を用いて粉砕し、10~20mm程度の寸法を有する小片の樹木原料を得た。樹木原料をマイクロ波蒸留装置の蒸留槽内に供給した。
【0056】
次に、蒸留槽内の圧力を約15kPaの減圧に保持し、樹木原料にマイクロ波を1時間に亘って照射した。発生した蒸気(精油及び水分)を減圧ポンプで吸引して蒸留槽内から除去し、トドマツ処理物を得た。得られたトドマツ処理物の量は68kgであった。
【0057】
得られたトドマツ処理物に高速気流によるジェットミルを用いた粉砕処理を施して、樹木原料から精油及び水分の少なくとも一部が除去された繊維質成分を得た。繊維質成分を光学顕微鏡で観察すると、緑色又は青色の部分が含まれており、葉由来の材料が含まれていることが確認できた。
【0058】
トドマツ処理物の粉砕処理の処理条件を調整することによって、平均粒径が7μmの固形の繊維質成分Aを作製した。
【0059】
(実施例1~5、比較例1)
表1に示した所定量のポリプロピレン及び繊維質成分Aを含む樹脂組成物を押出機に供給して180℃にて溶融混練した後、押出機から樹脂組成物を押出し、押出された樹脂組成物を冷却した上で、一辺が100mmの立方体形状の試験片を作製した。
【0060】
得られた試験片について、下記の要領で試験片の消臭性(感覚的消臭効果)を測定し、その結果を表1に示した。
【0061】
(感覚的消臭効果1)
容量が10リットルのコック付エアーバッグを用意した。エアーバッグ内に、1個の試験片と約30ppmのアンモニアガスを供給して封止して20℃にて300分間放置した。次に、エアーバッグのコックを開いて直接、嗅いで六段階臭気強度表示法にしたがって評価した。測定者を10名とし、各測定者がそれぞれの試験片について感覚的消臭効果を評価した。試験片の評価の相加平均値を算出した。
【0062】
<評価基準>
(点数) (内容)
0・・・無臭であった。
1・・・やっと感知できるにおいであった。
2・・・何のにおいであるかがわかるにおいであった。
3・・・らくに感知できるにおいであった。
4・・・強いにおいであった。
5・・・強烈なにおいであった。
【0063】
【0064】
(実施例6)
ポリプロピレン100重量部及び繊維質成分A0.6重量部を含む樹脂組成物を押出機に供給して180℃にて溶融混練した後、射出成型機により
図3の24に相当するトレー(縦48cm×横36cm×深さ4.5cm)を成形した。
【0065】
(感覚的消臭効果2)
上記で成形したトレーを2m
3
の窓付きブース内に設置し、7%のアンモニア水溶液0.5mlを含浸させたろ紙をトレー上に載置し、20℃にて300分間放置した。次に、ブースの窓からブース内部を直接嗅いで六段階臭気強度表示法(感覚的消臭効果1と同様の評価方法)及び9段階快・不快度表示法にしたがって評価した。測定者を10名とし、各測定者がそれぞれの試験片について感覚的消臭効果を評価した。評価の相加平均値を算出した。
【0066】
<快・不快度評価基準>
(点数) (内容)
-4:極端に不快
-3:非常に不快
-2:不快
-1:やや不快
0:快でも不快でもない
+1:やや快
+2:快
+3:非常に快
+4:極端に快
【0067】
【0068】
(感覚的消臭効果3)
悪臭を疑似猫糞尿臭に代えディスポピペットで3滴ろ紙に滴下した以外は上記感覚的消臭効果1および2と同様に試験を行い、六段階臭気強度表示法及び9段階快・不快度表示法にしたがって評価した。測定者を10名とし、各測定者がそれぞれの試験片について感覚的消臭効果を評価した。評価の相加平均値を算出した。
【0069】
【0070】
以上の通り、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を含有する合成樹脂は、アンモニア、疑似猫糞尿臭に由来する悪臭を発生し難くするものであった。
【0071】
そのため、上記合成樹脂をペット用トイレの少なくとも一部に利用することによりペットの排泄液や排泄物に由来する悪臭を発生し難く、良好な飼育環境を維持できることが分かった。
【0072】
(実施例7)
ポリプロピレン100重量部および繊維質成分A0.6重量部を含む樹脂組成物を押出機に供給して180℃にて溶融混練した後、射出成型機により
図3の21に相当する簀の子を成形した。この簀の子を従来のシステムタイプのペット用トイレの簀の子に代えて設置してこの簀の子上にネコ砂を入れ、トレーに吸収体を入れ約3日間猫のトイレとして使用したところ、猫の糞尿臭を抑制することができた。
【符号の説明】
【0073】
1…ペット用トイレ(単層タイプ)
10…ペット用トイレ(2層タイプ)
11…簀の子
12…尿吸収体
13…ペット用トイレ本体
20…ペット用トイレ(システムタイプ)
21…簀の子
22…尿吸収体
23…ペット用トイレ本体
24…トレー