(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、押出成形体及び発泡成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20250114BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20250114BHJP
C08L 23/08 20250101ALI20250114BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250114BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20250114BHJP
C08F 295/00 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L53/00
C08L23/08
C08K3/04
C08F293/00
C08F295/00
(21)【出願番号】P 2020202495
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】薄井 涼二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義信
(72)【発明者】
【氏名】野口 詩織
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 修
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159753(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/110800(JP,A1)
【文献】特開2017-179206(JP,A)
【文献】特開2014-062245(JP,A)
【文献】特開2001-234056(JP,A)
【文献】特開平10-251354(JP,A)
【文献】特開2002-018887(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083890(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C08L 23/08
C08L 53/00
C08K 3/04
C08F 293/00
C08F 295/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)デュロメーター硬度が90A以下であり、23℃以上に融点を有する重合体、
(B)210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力が3.0cN以上であるポリプロピレン系熱可塑性樹脂、及び
(C)天然黒鉛又はカーボンブラックを含有するカーボン系フィラー
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記(A)重合体がエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有し、
前記(A)成分の含有量を100質量部としたときに、前記(C)成分の含有量が200~800質量部であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)重合体が、示差走査熱量計により下記条件で測定した融解エンタルピーが5~150J/gである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
条件:
(1)200℃から-150℃まで、10℃/分で冷却
(2)-150℃で1分間保持
(3)-150℃から200℃まで、20℃/分で昇温
【請求項3】
前記(A)重合体が、水添ジエン系重合体及びエチレン・α-オレフィン系重合体から選択される1種以上の重合体を含む、請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水添ジエン系重合体が、
両末端がブロックAであり、中間がブロックBである共役ジエン系トリブロック共重合体を水素添加して得られ、
前記ブロックAの1,2-ビニル基含量が25モル%未満であり、前記ブロックBの1,2-ビニル基含量が25モル%以上であり、
前記共役ジエン系トリブロック共重合体全体を100質量%とした場合に、前記ブロックAが5~90質量%、前記ブロックBが10~95質量%であり、
前記共役ジエン系トリブロック共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に由来する二
重結合の80%以上が水素添加され、
水素添加後の数平均分子量が50,000~700,000である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)カーボン系フィラーの1次構造が、球状
又は板
状の何れかであって、
球状の場合の平均粒径、板状の場合の平均厚
さが、1μm以下である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物に占める、前記(C)カーボン系フィラーの体積分率が15~40体積%である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)重合体及び前記(B)熱可塑性樹脂は、前記(A)重合体を含む連続相と、前記(B)熱可塑性樹脂を含む連続相又は非連続相とを形成し、
前記(C)カーボン系フィラーの、50質量%超が前記(A)重合体を含む連続相に存在する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)重合体を含む連続相の厚みが5μm以下である、請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて作成された押出成形体。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて作成された発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、並びに該組成物を用いて作成された押出成形体及び発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内の部品の高性能化、集積化、機器の小型化により部品及び機器から発生する熱の増大が著しくなっている。熱対策を行わない場合、部材の機能及び性能の低下や寿命の低下を招くだけでなく、機器自体が熱を持ち、低温火傷や発火の原因となるおそれもある。これらの部材の熱対策としては、機器内部に搭載された発熱部材と機器内部の板金やシールド材といったヒートシンクを兼ねた金属部材とを放熱材料で接触させて熱パスをつくり、発熱部材の温度の低下を図っているのが一般的である。従来の放熱材料としては、熱伝導性フィラーを配合したシリコーン樹脂発泡シートが挙げられる。また、エラストマー樹脂と酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムなどの熱伝導体とを含む電子機器用熱伝導性発泡体シートも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器内部に用いられる熱伝導性発泡体シートは、段差追従性の観点から、熱伝導性に加えて柔軟性も必要とされる。しかしながら、従来の熱伝導性発泡体シートは、放熱性を良好とするために比較的多くの熱伝導性フィラーを配合しているため、柔軟性が損なわれる傾向にあった。また、フィラーを高充填すると、フィラーと樹脂の界面の相互作用が弱いために、成形加工時に界面剥離が多く発生し、成形品であるシートの外観が損なわれる傾向にあった。
【0005】
本発明に係る幾つかの態様は、成形加工性が良好であり、熱伝導性及び柔軟性に優れた成形体を製造することができる熱可塑性樹脂組成物を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、該組成物を用いて作成された押出成形体を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、該組成物を用いて作成された発泡成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の一態様は、
(A)デュロメーター硬度が90A以下であり、23℃以上に融点を有する重合体、
(B)210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力が3.0cN以上であるポリプロピレン系熱可塑性樹脂、及び
(C)カーボン系フィラー
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記(A)重合体がエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有することを特徴とする。
【0007】
前記熱可塑性樹脂組成物の一態様において、
前記(A)重合体が、示差走査熱量計により下記条件で測定した融解エンタルピーが5~150J/gであってもよい。
条件:
(1)200℃から-150℃まで、10℃/分で冷却
(2)-150℃で1分間保持
(3)-150℃から200℃まで、20℃/分で昇温
【0008】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
前記(A)重合体が、水添ジエン系重合体及びエチレン・α-オレフィン系重合体から選択される1種以上の重合体を含んでいてもよい。
【0009】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
前記水添ジエン系重合体が、
両末端がブロックAであり、中間がブロックBである共役ジエン系トリブロック共重合体を水素添加して得られる水添ジエン系トリブロック共重合体であり、
前記ブロックAの1,2-ビニル基含量が25モル%未満であり、前記ブロックBの1,2-ビニル基含量が25モル%以上であり、
前記共役ジエン系トリブロック共重合体全体を100質量%とした場合に、前記ブロックAが5~90質量%、前記ブロックBが10~95質量%であり、
前記共役ジエン系トリブロック共重合体に含まれる共役ジエン単量体単位に由来する二重結合の80%以上が水素添加され、
水素添加後の数平均分子量が50,000~700,000であってもよい。
【0010】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
前記(C)カーボン系フィラーの1次構造が、球状、板状、又は繊維状の何れかであって、
球状の場合の平均粒径、板状の場合の平均厚さ、繊維状の場合の平均直径が、1μm以下であってもよい。
【0011】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
熱可塑性樹脂組成物に占める、前記(C)カーボン系フィラーの体積分率が15~40体積%であってもよい。
【0012】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
前記(A)重合体及び前記(B)熱可塑性樹脂は、前記(A)重合体を含む連続相と、前記(B)熱可塑性樹脂を含む連続相又は非連続相とを形成し、
前記(C)カーボン系フィラーの、50質量%超が前記(A)重合体を含む連続相に存在してもよい。
【0013】
前記熱可塑性樹脂組成物のいずれかの態様において、
前記(A)重合体を含む連続相の厚みが5μm以下であってもよい。
【0014】
本発明に係る押出成形体の一態様は、
前記いずれかの態様の熱可塑性樹脂組成物を用いて作成されたものである。
【0015】
本発明に係る発泡成形体の一態様は、
前記いずれかの態様の熱可塑性樹脂組成物を用いて作成されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物によれば、成形加工性が良好であり、熱伝導性及び柔軟性に優れた成形体を製造することができる。また、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、熱伝導性及び柔軟性に優れた発泡成形体や押出成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例8で製造された熱可塑性樹脂組成物のエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)を含む連続相構造を示すTEM写真である。
【
図3】比較例4で製造された熱可塑性樹脂組成物のエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)を含む連続相構造を示すTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0019】
本明細書において、「X~Y」を用いて記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0020】
なお、本明細書中においては、(A)デュロメーター硬度が90A以下であり、かつ、23℃以上に融点を有する重合体を「(A)成分」と、(B)210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力が3.0cN以上であるポリプロピレン系熱可塑性樹脂を「(B)成分」と、(C)カーボン系フィラーを「(C)成分」と、それぞれ略して用いることがある。
【0021】
1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、
(A)デュロメーター硬度が90A以下であり、かつ、23℃以上に融点を有する重合体、
(B)210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力が3.0cN以上であるポリプロピレン系熱可塑性樹脂、及び
(C)カーボン系フィラー
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記(A)重合体がエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有することを特徴とする。
以下、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0022】
1.1.(A)成分
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)デュロメーター硬度が90A以下であり、かつ、融点及びエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有する重合体を含有する。
【0023】
(A)成分のデュロメーター硬度は、90A以下であるが、好ましくは85A以下であり、より好ましくは80A以下であり、特に好ましくは75A以下である。(A)成分のデュロメーター硬度が前記範囲内にあると、硬すぎないため成形加工性が良好となり、柔軟性に優れた成形体を製造することができる。デュロメーター硬度は、JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメーターを用いて測定することができる。
【0024】
(A)成分は、融点及びエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有する。(A)成分の融点及びエチレン結晶構造に由来する融点がともに23℃以上であると、延伸結晶性が向上するため、柔軟性及び機械的強度のバランスに優れた成形体を製造することができる。(A)成分の融点及びエチレン結晶構造に由来する融点は、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは35℃以上であり、さらにより好ましくは40℃以上であり、
特に好ましくは50℃以上である。(A)成分の融点及びエチレン結晶構造に由来する融点の上限値は、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、特に好ましくは160℃以下である。なお、(A)成分の融点及びエチレン結晶構造に由来する融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて得られた融解曲線において、結晶融解による吸熱量がピークを示す時の温度として示した値である。
【0025】
また、(A)成分は、示差走査熱量計(DSC)により下記条件(1)~(3)で測定した融解エンタルピーが5~150J/gであることが好ましく、10~130J/gであることがより好ましく、15~100J/gであることが特に好ましい。
条件:
(1)200℃から-150℃まで、10℃/分で冷却
(2)-150℃で1分間保持
(3)-150℃から200℃まで、20℃/分で昇温
(A)成分の融解エンタルピーが前記範囲内にあると、延伸結晶性が向上するため、柔軟性及び機械的強度のバランスに優れた成形体を製造できる場合がある。なお、本明細書において、融解エンタルピーは、上記条件によりDSCを用いて得られた融解曲線において、-150℃から200℃に昇温する工程における結晶融解に起因する吸熱量の総和として示した値である。
【0026】
(A)成分としては、デュロメーター硬度が90A以下であり、かつ、融点及びエチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に有する重合体であれば特に限定されないが、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有するジエン系重合体を水素添加(本明細書において、単に「水添」ともいう。)してなる水添ジエン系重合体、及び、エチレンに由来する構成単位と、α-オレフィンに由来する構成単位とを有するエチレン・α-オレフィン系重合体から選択される1種以上の重合体を含むことが好ましい。以下、水添ジエン系重合体、エチレン・α-オレフィン系重合体について詳細に説明する。
【0027】
1.1.1.水添ジエン系重合体
水添ジエン系重合体としては、特に限定されるものではないが、1,2-ビニル基含量が25モル%未満のブロックAを両末端に有し、かつ、1,2-ビニル基含量が25モル%以上のブロックBを中間に有する共役ジエン系トリブロック共重合体を水素添加してなる水添ジエン系トリブロック共重合体であることが好ましい。1,2-ビニル基含量は、赤外吸収スペクトル法を用い、モレロ法により算出することができる。なお、水素添加物の1,2-ビニル基含量は、これに対応する水素添加前の重合体のビニル基含量を意味する。
【0028】
ブロックAは、1,3-ブタジエンを主成分とする重合体ブロックであることが好ましい。「1,3-ブタジエンを主成分とする」とは、ブロックAの構成単位全体の90質量%以上、好ましくは95質量%以上が1,3-ブタジエンに由来する構成単位であることをいう。
【0029】
また、水素添加後の結晶の融点の降下を抑制するためには、ブロックAの1,2-ビニル基含量は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましい。
【0030】
ブロックBは、共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する共役ジエン重合体ブロックであることが好ましい。共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレンン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンが好ましく、1,3-ブタジエン
がより好ましい。なお、ブロックBは、2種以上の単量体単位から構成されていてもよい。
【0031】
また、成形体の柔軟性を向上させる観点から、ブロックBの1,2-ビニル基含量は、25モル%以上95モル%以下であることが好ましく、25モル%以上85モル%以下であることがより好ましい。
【0032】
ブロックBが共役ジエン重合体ブロックである場合、該ブロックBには芳香族ビニル化合物に由来する構成単位が含有されていてもよい。ブロックBに芳香族ビニル化合物に由来する構成単位が含有されている場合、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量は、ブロックBの構成単位全体を100質量%とした場合に、成形体の柔軟性を維持する観点から35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
ブロックBの構成単位となり得る芳香族ビニル化合物としては、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0034】
水添前の共役ジエン系トリブロック共重合体全体を100質量%とした場合に、ブロックAの含有割合は、5~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましい。一方、水添前の共役ジエン系トリブロック共重合体全体を100質量%とした場合に、ブロックBの含有割合は、10~95質量%であることが好ましく、20~90質量%であることがより好ましい。
【0035】
水添前の共役ジエン系トリブロック共重合体は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;又はベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒等の不活性有機溶媒中において、共役ジエン化合物、又は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてリビングアニオン重合することによって得ることができる。なお、得られた共役ジエン系トリブロック共重合体を水素添加することによって、水添ジエン系ブロック共重合体を容易に得ることができる。
【0036】
重合開始剤として用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等の有機リチウム化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物の使用量については特に限定されないが、通常は、モノマー100質量部に対して、0.02~15質量部、好ましくは0.03~5質量部が用いられる。
【0037】
重合温度は、通常-10~150℃、好ましくは0~120℃である。重合系の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガスにより置換することが好ましい。重合圧力は、モノマー及び溶媒を液相に維持するのに十分な圧力の範囲内で行えばよく、特に限定されるものではない。単量体を重合系に投入する方法としては特に限定されないが、例えば、一括、連続的、間欠的、又はこれらを組み合わせた方法を挙げることができる。
【0038】
水添ジエン系トリブロック共重合体は、上述のようにして得られた水添前の共役ジエン系トリブロック共重合体を部分的又は選択的に水素添加することにより得ることができる。水素添加の方法や反応条件については特に制限はなく、通常、20~150℃、0.1
~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。
【0039】
水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより任意に選定することができる。水添触媒としては、通常、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物、例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を用いることができる。具体的には、例えば、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;及び水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらの中でも、Ti、Zr、Hf、Co、Niのいずれかを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。更に、Ti、Zr、Hfのいずれかを含むメタロセン化合物が好ましい。特に、チタノセン化合物とアルキルリチウムとを反応させた水添触媒は安価で工業的に特に有用な触媒であるので好ましい。なお、水添触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
水素添加後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系又はアミン系の老化防止剤を添加した後、水添ジエン系トリブロック共重合体を単離する。水添ジエン系トリブロック共重合体は、例えば、水添ジエン系トリブロック共重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系トリブロック共重合体溶液を熱湯中に撹拌下で投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により単離することができる。
【0041】
水添ジエン系トリブロック共重合体の水素添加率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95~100%であることが特に好ましい。水素添加率が80%以上であると、熱安定性及び耐久性が向上する傾向にある。
【0042】
水素添加後の水添ジエン系トリブロック共重合体の数平均分子量(Mn)の下限値は、好ましくは50,000であり、より好ましくは80,000であり、特に好ましくは100,000である。水素添加後の水添ジエン系ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)の上限値は、好ましくは700,000であり、より好ましくは650,000であり、特に好ましくは600,000である。水素添加後の水添ジエン系トリブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が前記範囲内にあると、機械的物性と柔軟性のバランスに優れた成形体が得られやすく、成形加工性が良好となる傾向にある。
【0043】
1.1.2.エチレン・α-オレフィン系重合体
エチレン・α-オレフィン系重合体は、エチレン及びα-オレフィン以外の単量体に由来する構成単位を含有してもよい。また、エチレン・α-オレフィン系重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体又はブロック共重合体であることが好ましい。
【0044】
α-オレフィンとしては、炭素数3以上10以下のα-オレフィンが好ましく、炭素数3以上8以下のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロペン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。エチレン・α-オレフィン系重合体を合成するにあたって、これらのα-オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
エチレン及びα-オレフィン以外の単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル
-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の炭素数4以上8以下の共役ジエン化合物;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ジシクロオクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の炭素数5以上15以下の非共役ジエン化合物;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素数5以上15以下の非共役ジエンが好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエンがより好ましい。エチレン・α-オレフィン系重合体を合成するにあたって、これらのエチレン及びα-オレフィン以外の単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
エチレン・α-オレフィン系重合体の全質量を100質量%としたときに、エチレンに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは40~85質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、特に好ましくは55~70質量%である。
【0047】
エチレン・α-オレフィン系重合体の全質量を100質量%としたときに、α-オレフィンに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~45質量%であり、特に好ましくは25~40質量%である。
【0048】
エチレン・α-オレフィン系重合体の全質量を100質量%としたときに、エチレン及びα-オレフィン以外の単量体に由来する構成単位の含有割合は、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~8質量%であり、特に好ましくは0~5質量%である。
【0049】
エチレン・α-オレフィン系重合体中の、各単量体に由来する構成単位の含有割合は、赤外分光法により求めることができる。具体的には、赤外分光光度計を用いて、エチレン・α-オレフィン系重合体の赤外吸収スペクトルを測定し、「赤外吸収スペクトルによるポリエチレンのキャラクタリゼーション(高山、宇佐美 等著)」又は「Die Makromolekulare Chemie,177、461(1976)(McRae、M.A.,MadamS,W.F.等著)」に記載の方法にしたがって、エチレン・α-オレフィン系重合体中の、各単量体に由来する構成単位の含有割合を算出することができる。
【0050】
エチレン・α-オレフィン系重合体の具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-(エチレン-1-オクテン)共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-プロピレン-1-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-(エチレン-1-オクテン)共重合体が好ましい。これらのエチレン・α-オレフィン系重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
エチレン・α-オレフィン系重合体の製造例としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の公知の錯体系触媒の存在下、エチレンと、α-オレフィンと、エチレン及びα-オレフィン以外の単量体とを共重合する方法が挙げられる。重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0052】
1.2.(B)成分
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(B)210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力が3.0cN以上であるポリプロピレン系熱可塑性樹脂を含有する。(B)成分の、210℃で引取速度2.0m/分における溶融張力は、3.0cN以上であり、5.0cN以上であることが好ましく、8.0cN以上であることがより好ましい。溶融張力が3.0cN以上であると、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の溶融張力を大きくすることができるので、成形加工性が向上する傾向にある。また、機械的強度及び柔軟性のバランスに優れた成形体を製造することができる。
【0053】
本明細書における「溶融張力」とは、210℃で加熱・溶融したポリプロピレン系熱可塑性樹脂を引取速度2.0m/分で引っ張った際に発生する張力のことをいう。溶融張力の測定装置としては、東洋精機製作所製の装置名「キャピログラフ」等を使用することができる。
【0054】
(B)成分は、プロピレンに由来する構成単位を主成分とする結晶性の熱可塑性樹脂である。ここで、「プロピレンに由来する構成単位を主成分とする」とは、(B)成分の全質量を100質量%とした場合に、プロピレンに由来する構成単位を80質量%以上含有することをいう。プロピレンに由来する構成単位は、90質量%以上であることが好ましい。
【0055】
(B)成分としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体等が挙げられる。
【0056】
プロピレンランダム共重合体としては、例えば、
(1)プロピレンに由来する構成単位と、エチレンに由来する構成単位とを含有する、プロピレン-エチレンランダム共重合体、
(2)プロピレンに由来する構成単位と、エチレンに由来する構成単位と、炭素数4以上20以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含有する、プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、
(3)プロピレンに由来する構成単位と、炭素数4以上20以下のα-オレフィンに由来する構成単位とを含有する、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、
等が挙げられる。
【0057】
プロピレン単独重合体及びプロピレンランダム共重合体の製造方法としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の公知の錯体系触媒の存在下、プロピレン等を重合する方法が挙げられる。重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0058】
上記例示した(B)成分の中でも、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体、又は、プロピレンとエチレンと1-ブテンとの共重合体を用いることが好ましく、プロピレン単独重合体が特に好ましい。
【0059】
(B)成分は、示差走査熱量測定法による最大ピーク温度、すなわち、融点(本明細書において、「Tm」ともいう。)が、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。(B)成分の融点が100℃以上であると、十分な溶融張力及び強度が発揮されやすい傾向にある。
【0060】
JIS K7112に準拠して測定される(B)成分の密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.85g/cm3以上0.95g/cm3以下であり、より好ましくは0.87g/cm3以上0.93g/cm3以下である。
【0061】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物中の(A)成分の含有量を100質量部としたときに、(B)成分の含有量は、好ましくは1~2000質量部であり、より好ましくは5~1500質量部であり、特に好ましくは10~1000質量部である。
【0062】
1.3.(C)成分
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(C)カーボン系フィラーを含有する。本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物が(C)成分を含有することで、(C)成分が(A)成分を含む連続相に偏在しやすくなる傾向がある。これにより、(C)成分が樹脂組成物中に均質に分散しているものよりも、熱伝導性や導電性に優れた成形体を製造することができる。また、(C)成分が(A)成分を含む連続相に偏在しやすくなることで、(C)成分と樹脂成分との界面剥離等も発生し難くなるため、成形加工性も向上する。さらに、金属酸化物等の他のフィラーを配合した場合と比較して、(C)成分を配合することで、得られる成形体の比重をより低くすることができる。
【0063】
(C)成分としては、例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛;人造黒鉛;ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブ;PAN系、ピッチ系等のカーボンファイバー(炭素繊維);グラフェン等が挙げられる。これらの(C)成分の中でも、熱伝導性の観点から天然黒鉛、カーボンブラックが好ましく、鱗片状黒鉛、アセチレンブラックがより好ましく、更にコスト及び導電性の観点からアセチレンブラックが特に好ましい。なお、(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(C)成分の形状は特に限定されるものではなく、球状、針状、繊維状、鱗片状、樹枝状、板状、不定形状等の様々な形状が挙げられるが、その1次構造が球状、板状、又は繊維状の何れかであることが好ましい。ここで、「1次構造」とは、凝集体を形成する前の個々の(C)成分が有する構造のことをいう。
【0065】
(C)成分の1次構造が球状、板状、又は繊維状の何れかである場合、球状の場合の平均粒径、板状の場合の平均厚さ、又は繊維状の場合の平均直径は、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは1~500nmであり、さらにより好ましくは3~200nmであり、特に好ましくは5~100nmである。(C)成分の、球状の場合の平均粒径、板状の場合の平均厚さ、又は繊維状の場合の平均直径が前記範囲内であれば、(A)成分を含む連続相に偏在している(C)成分が熱伝導パスや導電パスを形成しやすく、熱伝導性や導電性に優れた成形体が得られやすい。なお、球状の場合の平均粒径、板状の場合の平均厚さ、又は繊維状の場合の平均直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて(C)成分を100サンプル観察して測定された値の平均値として求めることができる。
【0066】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物に占める、(C)成分の体積分率は、好ましくは15~40体積%であり、より好ましくは16~38体積%であり、特に好ましくは18~36体積%である。(C)成分の体積分率が前記範囲内にあると、得られる成形体の熱伝導性や導電性を確保でき、(C)成分の含有割合が比較的少ないので柔軟性が向上する。また、(C)成分と樹脂成分との界面剥離等も発生し難くなるため、成形加工性も向上する。
【0067】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物中の(A)成分の含有量を100質量部としたときに、(C)成分の含有量は、好ましくは100~1000質量部であり、より好ましくは200~800質量部であり、特に好ましくは300~600質量部である。
【0068】
1.4.その他の添加剤
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、上記の各成分以外にも、必要に応じて、各種添加材を含有してもよい。このような添加剤としては、発泡核剤、滑剤、老化防止剤、熱安定剤、耐候剤、伸展油等が挙げられる。
【0069】
1.5.熱可塑性樹脂組成物の特徴
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分を含む連続相と、(B)成分を含む連続相又は不連続相とを形成しているものと推測される。そして、(C)カーボン系フィラーは、(A)成分を含む連続相に偏在しやすい傾向がある。(C)成分が(A)成分を含む連続相に偏在している状態の方が、(C)成分が樹脂組成物中に均質に分散している状態よりも、(C)成分による熱伝導パスや導電パスが形成されやすく、熱伝導性や導電性に優れた成形体が得られやすいと考えられる。
【0070】
一方、(C)成分を高充填すると、成形加工時に(C)成分と樹脂成分との界面において界面剥離が多く発生し、成形体の外観が損なわれやすい。しかしながら、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物では、(C)成分が(A)成分を含む連続相に偏在しているので、(C)成分の配合量を少なくしても熱伝導性や導電性に優れた成形体が得られやすい。そのため、(C)成分の配合量を少なくすることができるので、ひいては成形加工性が向上し、成形体の柔軟性も向上するものと考えられる。
【0071】
したがって、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物においては、(C)成分の全質量を100質量%としたときに、50質量%超、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上の(C)成分が、(A)成分を含む連続相に存在していることが好ましい。
【0072】
また、(A)成分を含む連続相の厚みは、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは4μm以下であり、特に好ましくは3μm以下である。(A)成分を含む連続相の厚みは、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.3μm以上であり、特に好ましくは0.5μm以上である。「連続相の厚み」は、隣接する非連続相に挟まれた連続相の幅が最も広くなる点で測定し、1試料につき、5点測定した平均を取ることにより求めることができる。
【0073】
1.6.熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びその他の成分を十分に混練できる方法であれば特に制限されない。例えば、密閉型混練機(ロールミル、ラボプラストミル、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等)、一軸押出機、二軸押出機、又は連続式混練機等を用いて加熱し、その後、適宜のせん断応力を与えながら混練する方法が挙げられる。また、混練するにあたり、各成分を一括練りしてもよく、また任意の一部の成分を混練した後、残りの成分を添加して混練りする多段分割混練り法を採用することもできる。例えば、ラボプラストミルの代表的な混練条件としては、混練温度が150~250℃、回転数が40~80rpm、混練時間が5~60分である。
【0074】
1.7.熱可塑性樹脂組成物の用途
1.7.1.押出成形体
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を押出成形することによって押出成形体を製造することができる。押出成形法としては、例えば溶融押出法、半溶融押出法等が挙げられるが、溶融押出法が好ましい。溶融押出法としては、各種形状のダイを用いる方法が挙げられるが、中でも、Tダイ、コートハンガーダイを用いる方法が好ましい。
【0075】
このような溶融押出では、熱溶融された熱可塑性樹脂組成物をダイから押し出した後、金属ベルト、冷却ロール等に密着させてシート化し、この高分子シートを冷却した後に巻き取ることでロール状の高分子シートが得られる。
【0076】
この高分子シートは、ロール状に巻き取る前に、あるいはロール状に巻き取った後に延伸処理を施してもよく、また所定寸法に裁断してもよい。ダイから溶融押出しされた高分子シートは、金属ベルトに密着させるために、金属ベルトと同様の温度に制御されたエアを吹き付けたり、帯電固定により密着させたりしてもよい。また、延伸処理は、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。
【0077】
1.7.2.発泡成形体
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を発泡させることによって発泡成形体を製造することができる。得られた発泡成形体は、形成された泡(発泡セル)の周縁に(C)成分が偏在するため、圧縮することによって(C)成分同士が近接もしくは接することにより熱導電パスや導電パスが形成されて、熱伝導性や導電性が向上する。また、(C)成分の配合量が少なくても、熱伝導性や導電性に優れた発泡成形体を製造することができる。また、(C)成分の配合量を少なくすることができるため、発泡成形体は任意の形状に容易に成形することができる。このようにして得られた発泡成形体は、電子機器の内部に用いられる発泡体シートとして使用することができる。
【0078】
発泡成形体を製造する場合には、熱可塑性樹脂組成物に発泡核剤(造核剤)をさらに添加してもよい。発泡核剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、チタニア等の無機化合物の粉末が挙げられる。このような発泡核剤を添加することにより、発泡セル径を容易に調整することができ、適度な柔軟性等を有する発泡成形体を得ることができる。発泡核剤の粒径は、特に限定されないが、発泡セルの径と数を適切な範囲にし、発泡成形体のクッション性を維持する観点から2~50μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。
【0079】
発泡核剤の含有割合は、樹脂成分の全質量(換言すると、(A)成分及び(B)成分の合計量)を100質量部とした場合に、0~20質量部であることが好ましく、0.01~15質量部であることがより好ましく、0.1~10質量部であることが特に好ましい。なお、発泡核剤は、例えば、(B)成分等を用いてマスターバッチとして(A)成分に添加することも好ましい。
【0080】
2.実施例
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記製造例、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0081】
2.1.水添ブタジエン系ブロック共重合体の製造
<製造例1>
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1g、1,3-ブタジエン1200g、及びn-ブチルリチウム3.3gを加え、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を5℃としてテトラヒドロフラン340g及び1,3-ブタジエン2800gを添加して断熱重合を行った。30分後、メチルジクロロシラン2.3gを添加し、15分間反応を行った。
【0082】
反応完結後、水素ガスを0.4MPa-Gの圧力で供給し、20分間撹拌し、リビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、チ
タノセン化合物を主体とした水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体であるA-B-A構造の水添ブロック共重合体を得た。
【0083】
得られた水添ブロック共重合体の水添率は99%、数平均分子量は300,000、水添前共重合体の1段目ポリブタジエンブロック(Aブロック)の1,2-ビニル基含量は15%(片末端当たり)、水添前共重合体の2段目のポリブタジエンブロック(Bブロック)の1,2-ビニル基含量は78%であった。また、水添ブロック共重合体の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、2.5g/10分であった。
【0084】
<製造例2>
内容積3リットルの撹拌容器に、JSR株式会社製のEP57C(エチレン・プロピレンゴム)100gをシクロヘキサン1kgに対して溶解させた後、三井化学株式会社製の液状エチレン・α-オレフィン共重合体のルーカントLX020を1kg加え、均一になるまで撹拌を行った。撹拌完了後、得られた溶液をエバポレータで濃縮してシクロヘキサンを除去することで、エチレン結晶構造に由来する融点を23℃以上に持たず、液状の重合体を含むエチレン・α-オレフィン系共重合体を合成した。
【0085】
2.2.熱可塑性樹脂組成物の製造
100ccラボプラストミルに、下表1又は下表2に示した種類及び量の、エチレン・α-オレフィン系共重合体(X)、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂(Y)、フィラー、オレフィンワックス(商品名「サンワックス161-P」、三洋化成工業株式会社製)を加え、さらに伸展油(商品名「ダイアナプロセスオイル PW-380」、出光興産株式会社製)150質量部、脂肪酸アミド(商品名「ニュートロンS」、日本精化株式会社製)14質量部、老化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASFジャパン製)1質量部を加えて、設定温度180℃、60rpm、10min.の条件で溶融混練し、実施例1~14及び比較例1~4で使用する各熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0086】
このようにして得られた各熱可塑性樹脂組成物について、透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製、装置型番「HITACHI H-7650」)を用いて観察し、フィラーの分散状態、エチレン・α-オレフィン系共重合体(X)相の厚さを確認した。なお、エチレン・α-オレフィン系共重合体(X)相の厚さについては、100サンプル測定した値の平均値として求めた。その結果を下表1及び下表2に併せて示す。また、
図1に、実施例8で製造された熱可塑性樹脂組成物のエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)を含む連続相構造を示すTEM写真を示す。
図2に、
図1の一部を拡大したTEM写真を示す。
図3に、比較例4で製造された熱可塑性樹脂組成物のエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)を含む連続相構造を示すTEM写真を示す。
【0087】
2.3.シートの作製
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物を、神戸製鋼所社製二軸押出機「KTX30」(型式名)に供給して、シリンダ温度210℃、スクリュー回転数300rpm、吐出30kg/hの条件で溶融混練し、直径2mm、長さ4mmの円柱状のペレットを得た。作製したペレットを電熱プレスにより、120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ)のシート金型を用いて、190℃、15MPaの圧力でプレス成形を行うことにより、シート状の試験片を作製した。
【0088】
2.4.評価方法
<熱伝導性の評価>
上記で作製したシートをさらに190℃、5MPaの圧力でプレスすることにより、3
00μm厚の試験プレートを得た。得られた試験プレートについて、ASTM D5470に準拠した熱抵抗測定装置により熱伝導率[W/m・K]を算出した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
A:熱伝導率が0.8W/m・K以上である。
B:熱伝導率が0.5W/m・K以上0.8W/m・K未満である。
C:熱伝導率が0.5W/m・K未満である。
【0089】
<比重の評価>
作製した2mm厚シートを1.5cm角に打ち抜き、ISO1183に準拠した水上置換法により比重を算出した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
A:比重が1.3未満である。
B:比重が1.3以上1.5未満である。
C:比重が1.5以上である。
【0090】
<体積固有抵抗の評価>
ISO3915に準拠した電気抵抗測定装置により、作製した2mm厚シートの中心部及び四隅の体積固有抵抗値を四端針法により測定し、平均値を試料の体積固有抵抗値[Ω]とした。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
A:体積固有抵抗値が1.0×102Ω未満である。
B:体積固有抵抗値が1.0×102Ω以上1.0×106Ω未満である。
C:体積固有抵抗値が1.0×106Ω以上である。
【0091】
<柔軟性(折り曲げ性)の評価>
作製した2mm厚シートを前後150°の角度で折り曲げて、試料の亀裂発生有無を観察した。同操作を30回繰り返し、試料の亀裂破壊が生じた回数から、試料の柔軟性を評価した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
A:21回以上で亀裂が生じた、又は、30回繰り返しても亀裂が生じなかった。
B:10~20回で亀裂が生じた。
C:1~9回で亀裂が生じた。
【0092】
<押出加工性の評価>
作製したシートを細かく裁断して100ccラボプラストミルに供し、厚さ2mmの平板ダイを用いて220℃で押出し、押出しリボンを作製した。得られたリボンのエッジ切れ、目ヤニ、うねり、ブツの有無を目視で観察し、5段階で評価した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
5:外観に欠陥がなく優秀である。
4:外観の欠陥がほとんどなく良好である。
3:外観の欠陥が少なく使用上問題がない。
2:外観の欠陥がいくつか認められるが、使用上問題がない。
1:外観の欠陥が多数認められ、使用不可である。
【0093】
2.5.評価結果
下表1~下表2に、各実施例及び比較例で作製した熱可塑性樹脂組成物の組成、並びに各評価結果を示す。
【0094】
【0095】
【0096】
上表1~上表2に記載された各成分は、以下に示すものを用いた。
<エチレン・α-オレフィン系共重合体(X)>
・水添ブタジエン系ブロック共重合体:上記製造例1で合成されたもの、デュロメーター硬度:66A、融点:95℃
・エチレン-(エチレン・オクテン)ブロック共重合体:商品名「INFUSE9100」、ダウ・ケミカル日本株式会社製、デュロメーター硬度:75A、融点:120℃
・エチレン・オクテンランダム共重合体:商品名「ENGAGE8100」、ダウ・ケミカル日本株式会社製、デュロメーター硬度:73A、融点:60℃
・LLDPE:商品名「UF420」、日本ポリエチレン株式会社製、デュロメーター硬度>90A、融点:123℃
・EPDM-1:商品名「EP57C」、JSR株式会社製、融点なし、液状重合体非含有
・EPDM-2:上記製造例2で合成されたもの、融点なし、液状重合体含有
デュロメーター硬度は、JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメーターを用いて測定した。融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて得られた融解曲線において、結晶融解による吸熱量がピークを示す時の温度として示した値とした。
<ポリプロピレン系熱可塑性樹脂(Y)>
・長鎖分岐PP:商品名「ノバテックPP EA9HD」、日本ポリプロ株式会社製、210℃溶融張力:20cN
・直鎖PP:商品名「ノバテックPP FA3EC」、日本ポリプロ株式会社製、210℃溶融張力:1cN
溶融張力は、東洋精機製作所製の装置名「キャピログラフ」を用いて、210℃で加熱・溶融したポリプロピレン系熱可塑性樹脂(Y)を引取速度2.0m/分で引っ張った際に発生する張力を測定した。
<フィラー>
・鱗片状亜鉛:商品名「Z-5F」、伊藤黒鉛工業株式会社、平均粒子径:4μm、比重:2.1
・アセチレンブラック:商品名「デンカブラック粒状品」、デンカ株式会社製、一次粒径:43nm、比重:1.9
・ケッチェンブラック:商品名「EC600JD」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、一次粒径:34nm、比重:1.8
・グラフェン:商品名「N006-PR」、Angstron Materials社製、一次構造の厚み:20nm、比重:2.1
・カーボンナノチューブ:商品名「NC7000」、Nanocyl SA社製、一次構造の直径:9.5nm、比重:2.1
・アルミナ:商品名「DAM-05」、デンカ株式会社製、平均粒子径:5μm、比重:3.9
<その他の成分>
・伸展油:商品名「ダイアナプロセスオイルPW-380」、出光興産株式会社製
・オレフィンワックス:商品名「サンワックス161-P」、三洋化成工業株式会社製、低分子量ポリエチレン、重量平均分子量:30,000
・脂肪酸アミド:商品名「ニュートロンS」、日本精化株式会社製、エルカ酸アミド
・老化防止剤:商品名「イルガノックス1010」、BASFジャパン株式会社製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0097】
上表1及び上表2の評価結果より、実施例1~14の熱可塑性樹脂組成物は、カーボン系フィラーがエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)に偏在していることが確認できた。
図1は、実施例8で製造された熱可塑性樹脂組成物のエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)を含む連続相構造を示すTEM写真であり、
図2は、
図1の一部を拡大したTEM写真である。
図1及び
図2において、濃色の箇所が、カーボン系フィラーが偏在化したエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)の相である。これにより、成形体内では熱伝導パスや導電パスが形成されやすくなり、熱伝導性や導電性に優れる成形体が得られ
た。また、実施例1~14の熱可塑性樹脂組成物から作成された成形体は、柔軟性にも優れていることがわかった。さらに、実施例1~14の熱可塑性樹脂組成物は、押出加工性も良好であった。
【0098】
比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分の代わりにデュロメーター硬度が90Aを超えているLLDPEを使用している。カーボン系フィラーがLLDPEの連続相に偏在化するものの、このLLDPEは硬すぎるため、成形体内では熱伝導パスや導電パスが形成され難くなり、熱伝導性や導電性には優れない成形体が得られた。また、比較例1の熱可塑性樹脂組成物から作成された成形体は、柔軟性にも優れていないことがわかった。さらに、比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、押出加工性も不良であった。
【0099】
比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、(C)成分の代わりにアルミナを使用している。アルミナはエチレン・α-オレフィン系共重合体(X)の連続相に偏在せずに分散するので、熱伝導性や導電性には優れない成形体が得られた。また、比較例2の熱可塑性樹脂組成物から作成された成形体は、アルミナを含有することで柔軟性も不良となることがわかった。さらに、比較例2の熱可塑性樹脂組成物から作成された押出成形体は、外観の欠陥が多数認められ、押出加工性も不良であった。
【0100】
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、(B)成分の代わりに溶融張力が低い直鎖PPを使用している。この熱可塑性樹脂組成物は、溶融張力が低めとなるので、押出加工性が不良となった。また、比較例3の熱可塑性樹脂組成物から作成された成形体は、柔軟性だけでなく、熱伝導性や導電性にも優れないことがわかった。
【0101】
比較例4の熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分の代わりに融点がないEPDM-2を使用している。カーボン系フィラーを含んだEPDM-2と(B)成分との相容性があまり良くないために、成形体内では熱伝導パスや導電パスが形成され難くなり、熱伝導性や導電性に優れない成形体が得られた。また、比較例4の熱可塑性樹脂組成物から作成された成形体は、柔軟性にも優れていないことがわかった。さらに、比較例4の熱可塑性樹脂組成物は、押出加工性も不良であった。
【0102】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。