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特許7618451ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20250114BHJP
   B60J 10/15 20160101ALI20250114BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20250114BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20250114BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C08L23/16
B60J10/15
C08L23/06
C08L23/14
C08L53/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021006305
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2021127450
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020021287
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅人
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 航大
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-187499(JP,A)
【文献】特開2003-268149(JP,A)
【文献】特開2001-341589(JP,A)
【文献】国際公開第01/064784(WO,A1)
【文献】特開2005-052057(JP,A)
【文献】特表平05-506882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(A)と、α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)と、を溶融混練して熱可塑性エラストマー中間体を得た後に、
該熱可塑性エラストマー中間体に、両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロック(c1)を有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロック(c2)を有するブロック共重合体の水素添加物であるオレフィン系ブロック共重合体(C)と、結晶性エチレン系樹脂(D)と、を更に加えて溶融混練することを含む、ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項2】
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、
前記成分(A)の含有割合が10~50質量部であり、前記成分(B)の含有割合が1~15質量部であり、前記成分(C)の含有割合が4~50質量部であり、前記成分(D)の含有割合が10~50質量部である、請求項1に記載のウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項3】
前記成分(B)の融点が135℃以上である、請求項1または請求項2に記載のウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項4】
前記成分(C)に含まれる前記共役ジエン重合体ブロック(c1)と前記共役ジエン重合体ブロック(c2)の合計を100質量部とした場合に、前記共役ジエン重合体ブロック(c1)の含有割合が5~90質量部である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項5】
前記成分(D)が、重量平均分子量が1,000~30,000のポリエチレン(D1)を含む、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物及び該組成物からなる成形体を使用したウェザーストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー(TPE:Thermoplastic Elastomer)は、自動車、家電、医療、食品、電線及び日用品等の種々の分野で使用されている。特に自動車分野では、熱可塑性エラストマーは、主に生産性、低コスト、デザインの自由度、軽量化、及びリサイクル性の観点から、加硫ゴムの代替材料として注目されている。
【0003】
中でも、自動車用部品の1つであるウェザーストリップは、加硫ゴムから熱可塑性エラストマーに置き換わる傾向にある。例えば特許文献1には、オレフィン系ゴム、水添ブロック共重合体、及び前記オレフィン系ゴム以外のポリオレフィン系樹脂を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなるウェザーストリップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-113614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車デザインの多様化により、ウェザーストリップの設計にあたっては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体と、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体とを溶融接着させた複合部材へのニーズが高まっている。しかしながら、従来の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体との接着性には優れているものの、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体との接着性は十分とはいえなかった。特に、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体と結晶性エチレン系樹脂からなる成形体との融着部での耐熱性が不十分であり、加熱により融着部が容易に破壊されてしまうという課題があった。
【0006】
本発明に係る幾つかの態様は、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する接着性に優れ、かつ、融着部での耐熱性にも優れた成形体(複合部材)を得るためのウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物を提供する。また、本発明に係る幾つかの態様は、該組成物からなる成形体を使用したウェザーストリップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の一態様は、
エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(A)と、
α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)と、
両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロック(c1)を有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロック(c2)を有するブロック共重合体の水素添加物であるオレフィン系ブロック共重合体(C)と、
結晶性エチレン系樹脂(D)と、
を含有する。
【0008】
前記ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物の一態様において、
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、
前記成分(A)の含有割合が10~50質量部であり、前記成分(B)の含有割合が1~15質量部であり、前記成分(C)の含有割合が4~50質量部であり、前記成分(D)の含有割合が10~50質量部であってもよい。
【0009】
前記ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物のいずれかの態様において、
前記成分(B)の融点が135℃以上であってもよい。
【0010】
前記ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物のいずれかの態様において、
前記成分(C)に含まれる前記共役ジエン重合体ブロック(c1)と前記共役ジエン重合体ブロック(c2)の合計を100質量部とした場合に、前記共役ジエン重合体ブロック(c1)の含有割合が5~90質量部であってもよい。
【0011】
前記ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物のいずれかの態様において、
前記成分(D)が、重量平均分子量が1,000~30,000のポリエチレン(D1)を含んでいてもよい。
【0012】
本発明に係るウェザーストリップの一態様は、
前記いずれかの態様のウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を使用したものである。
【0013】
前記ウェザーストリップの一態様において、
前記成形体をコーナー材及び端末材の少なくとも一方に使用してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物によれば、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する接着性に優れ、かつ、融着部での耐熱性にも優れる成形体(複合部材)を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0016】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0017】
なお、本明細書中においては、エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(A)を「成分(A)」と、α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)を「成分(B)」と、両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロック(c1)を有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロック(c2)を有するブロック共重合体の水素添加物であるオレフィン系ブロック共重合体(C)を「成分(C)」と、結晶性エチレン系樹脂(D)を「成分(D)」と、それぞれ略して用いることがある。
【0018】
1.ウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物
本発明の一実施形態に係るウェザーストリップ材用熱可塑性エラストマー組成物(以下、単に「熱可塑性エラストマー組成物」ともいう。)は、
エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(A)と、
α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)と、
両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロック(c1)を有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロック(c2)を有するブロック共重合体の水素添加物であるオレフィン系ブロック共重合体(C)と、
結晶性エチレン系樹脂(D)と、
を含有する。
以下、本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
1.1.成分(A)
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、エチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム(A)を含有する。成分(A)は、エチレンに由来する繰り返し単位と、α-オレフィンに由来する繰り返し単位と、を含有する共重合体ゴムである。成分(A)は、エチレン及びα-オレフィン以外の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。また、成分(A)は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0020】
α-オレフィンとしては、炭素数3以上10以下のα-オレフィンが好ましく、炭素数3以上8以下のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロペン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。成分(A)を合成するにあたって、これらのα-オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
エチレン及びα-オレフィン以外の単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の炭素数4以上8以下の共役ジエン化合物;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ジシクロオクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の炭素数5以上15以下の非共役ジエン化合物;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素数5以上15以下の非共役ジエンが好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエンがより好ましい。成分(A)を合成するにあたって、これらのエチレン及びα-オレフィン以外の単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
成分(A)の全質量を100質量%としたときに、成分(A)中のエチレンに由来する繰り返し単位の含有割合は、好ましくは40~85質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、特に好ましくは55~70質量%である。
【0023】
成分(A)の全質量を100質量%としたときに、成分(A)中のα-オレフィンに由来する繰り返し単位の含有割合は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~45質量%であり、特に好ましくは25~40質量%である。
【0024】
成分(A)の全質量を100質量%としたときに、成分(A)中のエチレン及びα-オレフィン以外の単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~8質量%であり、特に好ましくは0~5質量%である。
【0025】
成分(A)中の、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、赤外分光法により求めることができる。具体的には、赤外分光光度計を用いて、成分(A)の赤外吸収スペクトルを測定し、「赤外吸収スペクトルによるポリエチレンのキャラクタリゼーション(高山、宇佐美 等著)」又は「Die Makromolekulare Chemie,177、461(1976)(McRae、M.A.,MadamS,W.F.等著)」に記載の方法にしたがって、成分(A)中の、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合を算出することができる。
【0026】
成分(A)の具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-プロピレン-1-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-1,4-ヘキサジエン共重合体、エチレン-プロピレン-5-ビニル-2-ノルボルネン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体が好ましい。これらの成分(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
成分(A)の製造例としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の公知の錯体系触媒の存在下、エチレンと、α-オレフィンと、エチレン及びα-オレフィン以外の単量体とを共重合する方法が挙げられる。重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、成分(A)の含有割合は、好ましくは10~50質量部であり、より好ましくは12~45質量部であり、特に好ましくは15~40質量部である。
【0029】
1.2.成分(B)
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)を含有する。成分(B)は、α-オレフィンに由来する繰り返し単位を含有する結晶性の熱可塑性樹脂である。成分(B)は、エチレンに由来する繰り返し単位を含有してもよい。
【0030】
α-オレフィンとしては、炭素数3以上20以下のα-オレフィンが好ましい。α-オレフィンの具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、2-メチルプロペン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられる。成分(B)を合成するにあたって、これらのα-オレフィンは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
成分(B)中の、各単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、成分(A)における各単量体単位の含有割合と同様の方法により求めることができる。
【0032】
成分(B)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体等が挙げられる。
【0033】
プロピレンランダム共重合体としては、例えば、
(1)プロピレンに由来する繰り返し単位と、エチレンに由来する繰り返し単位とを含有する、プロピレン-エチレンランダム共重合体、
(2)プロピレンに由来する繰り返し単位と、エチレンに由来する繰り返し単位と、炭素数4以上20以下のα-オレフィンに由来する繰り返し単位とを含有する、プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、
(3)プロピレンに由来する繰り返し単位と、炭素数4以上20以下のα-オレフィンに由来する繰り返し単位とを含有する、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、
等が挙げられる。
【0034】
プロピレン単独重合体及びプロピレンランダム共重合体の製造方法としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の公知の錯体系触媒の存在下、プロピレン等を重合する方法が挙げられる。重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
【0035】
成分(B)の融点は、好ましくは135℃以上であり、より好ましくは145℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。成分(B)の融点が135℃以上であると、得られる成形体に耐熱性を付与することができ、とりわけ他の成形体との融着部における耐熱性を向上させることができる。
【0036】
JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重21.2Nの条件で測定される成分(B)のメルトフローレートは、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する良好な接着性を得る観点から、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは0.1~25g/10分であり、特に好ましくは0.1~15g/10分である。
【0037】
JIS K7112に準拠して測定される成分(B)の密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.85g/cm以上0.95g/cm以下であり、より好ましくは0.87g/cm以上0.93g/cm以下である。
【0038】
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、成分(B)の含有割合は、好ましくは1~15質量部であり、より好ましくは2~10質量部であり、特に好ましくは3~8質量部である。
【0039】
1.3.成分(C)
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロック(c1)(以下、「ブロック(c1)」ともいう。)を有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロック(c2)(以下、「ブロック(c2)」ともいう。)を有するブロック共重合体を水素添加してなるオレフィン系ブロック共重合体(C)を含有する。ここで、ブロック(c1)及びブロック(c2)は、水素添加前のブロックである。本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物によれば、特に成分(C)と成分(D)を併用することによって、熱可塑性エラストマー被着体に対する良好な接着性と、結晶性エチレン系樹脂被着体に対する良好な接着性とを両立させた成形体(複合部材)の製造が可能となることが明らかとなった。
【0040】
なお、本明細書における「1,2-ビニル結合含量」とは、赤外吸収スペクトル法を用い、モレロ法により算出した、シス-1,4-結合、トランス-1,4-結合、及び1,2-ビニル結合のうち、1,2-ビニル結合の含量を意味する。ここで、1,2-ビニル
結合含量は、水素添加前の重合体の1,2-ビニル結合含量を意味する。
【0041】
ブロック(c1)は、1,3-ブタジエンを主成分とする重合体ブロックであることが好ましい。なお、「1,3-ブタジエンを主成分とする」とは、ブロック(c1)の繰り返し単位全体の90質量%以上、好ましくは95質量%以上が1,3-ブタジエンに由来する繰り返し単位であることをいう。また、水素添加後の結晶の融点の降下を抑制し、機械的強度を保つ観点からは、ブロック(c1)の1,2-ビニル結合含量は、25mol%以下であり、好ましくは20mol%以下であり、より好ましくは15mol%以下である。
【0042】
ブロック(c1)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは25,000~650,000であり、より好ましくは50,000~450,000である。数平均分子量(Mn)が25,000以上であると、機械的物性が向上する傾向にある。数平均分子量(Mn)が650,000以下であると、加工性が向上する傾向にある。なお、成分(C)は両末端にブロック(c1)を有するが、ブロック(c1)の数平均分子量(Mn)とは、両末端のブロック(c1)の数平均分子量(Mn)の合計を意味する。
【0043】
ブロック(c2)は、共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する共役ジエン重合体ブロックである。共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。なお、ブロック(c2)は、二種以上の単量体単位から構成されていてもよい。
【0044】
ブロック(c2)の1,2-ビニル結合含量は、25mol%を超えるものであり、好ましくは25mol%を超え95mol%以下であり、より好ましくは25mol%を超え85mol%以下である。成分(C)の柔軟性を保つ観点からは、ブロック(c2)の1,2-ビニル結合含量が25mol%を超えることが好ましい。
【0045】
ブロック(c2)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは5,000~650,000であり、より好ましくは20,000~550,000である。数平均分子量(Mn)が5,000以上であると、機械的物性が向上する傾向にある。数平均分子量(Mn)が650,000以下であると、加工性が向上する傾向にある。
【0046】
成分(C)の分子構造中のブロック(c2)には、芳香族ビニル重合体ブロックが含有されていてもよい。ブロック(c2)に芳香族ビニル重合体ブロックが含有されている場合、芳香族ビニル重合体ブロックの含有割合は、ブロック(c2)の繰り返し単位全体を100質量%とした場合に、低温特性及び柔軟性を維持する観点から、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下である。
【0047】
成分(C)の分子構造中のブロック(c2)の繰り返し単位となる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0048】
成分(C)に含まれるブロック(c1)とブロック(c2)の合計を100質量部とした場合に、ブロック(c1)の含有割合は、好ましくは5~90質量部であり、より好ま
しくは10~80質量部である。ブロック(c1)の含有割合が5質量部以上であると、成分(A)に対して、成分(C)が相対的に十分な結晶性を呈することが容易となり、本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物が化学架橋によらない三次元網目構造を形成し易くなる傾向にある。一方、ブロック(c1)の含有割合が90質量部以下であると、過度に硬度が上昇するのを回避することができる。なお、本明細書における「三次元網目構造」とは、本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物が化学架橋によらず結合して三次元方向に網目状の構造を形成したものを指す。
【0049】
水添前のオレフィン系ブロック共重合体は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒等の不活性有機溶媒中において、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物、又は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とこれらと共重合可能な他の単量体を、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてリビングアニオン重合することにより得ることができる。なお、得られた水添前のオレフィン系ブロック共重合体を水素添加することによって、成分(C)を容易に得ることができる。
【0050】
重合開始剤として用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物等を挙げることができる。これらの中でも、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等の有機リチウム化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物の使用量については特に限定されないが、通常、単量体100質量部に対して、0.02~5質量部、好ましくは0.03~1.5質量部用いられる。
【0051】
重合温度は、通常、-10~150℃、好ましくは0~120℃である。重合系の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガスにより置換することが好ましい。重合圧力は、単量体及び溶媒を液相に維持するのに十分な圧力の範囲内で行えばよく、特に限定されるものではない。単量体を重合系に投入する方法としては特に限定されないが、例えば、一括、連続的、間欠的、又はこれらを組み合わせた方法を挙げることができる。
【0052】
水添前のオレフィン系ブロック共重合体は、複数の共重合体の分子鎖がカップリング残基を介して結合した共重合体であってもよい。このような共重合体は、上述の方法で得られたブロック共重合体に対してカップリング剤を使用することにより調製可能である。
【0053】
使用可能なカップリング剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン-1,2,4-トリイソシアナート、シュウ酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,4-ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロ錫、1,3-ジクロロ-2-プロパノン等が挙げられる。
【0054】
成分(C)は、上述のようにして得られた水添前のオレフィン系ブロック共重合体を部分的又は選択的に水素添加することにより得ることができる。水素添加の方法及び反応条件については特に限定はなく、通常、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。
【0055】
水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物、例えば、Ti、V、
Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を用いることができる。具体的には、例えば、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の単体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;及び水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。なかでも、Ti、Zr、Hf、Co、Niのいずれかを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。更に、Ti、Zr、Hfのいずれかを含むメタロセン化合物が好ましい。特に、チタノセン化合物とアルキルリチウムとを反応させた水添触媒は安価で工業的に特に有用な触媒であるので好ましい。なお、前記水添触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。水素添加後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系又はアミン系の老化防止剤を添加した後、成分(C)を単離する。成分(C)は、例えば、水添ジエン系共重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系共重合体溶液を熱湯中に撹拌下で投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により単離することができる。
【0056】
成分(C)の水素添加率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95~100%である。水素添加率が80%以上であると、熱安定性及び耐久性が向上する傾向にある。
【0057】
成分(C)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは50,000~700,000であり、より好ましくは100,000~600,000である。数平均分子量(Mn)が50,000以上であると、耐熱性、強度、流動性、及び加工性が向上する傾向にある。数平均分子量(Mn)が700,000以下であると、流動性、加工性、及び柔軟性が向上する傾向にある。なお、成分(C)は、例えば、特開平3-128957号公報に開示される方法によって得ることができる。
【0058】
JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重21.2Nの条件で測定される成分(C)のメルトフローレートは、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する良好な接着性を得る観点から、好ましくは0.1~20g/10分であり、より好ましくは0.5~10g/10分であり、特に好ましくは1~5g/10分である。
【0059】
JIS K7112に準拠して測定される成分(C)の密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.85g/cm以上0.95g/cm以下であり、より好ましくは0.86g/cm以上0.92g/cm以下である。
【0060】
上述のようにして得られた複数の水素添加されたオレフィン系ブロック共重合体が、カップリング剤残基を介して連結されたものを、成分(C)として用いることもできる。すなわち、成分(C)は、[(c1)-(c2)-(c1)]-X(但し、nは3以上の整数、Xはカップリング剤残基を示す。)であってもよい。更に、カップリング剤残基が、ブロック(c1)及びブロック(c2)に対して分子量が十分に小さく、成分(C)の結晶性に影響しない範囲であれば、成分(C)は、[(c1)-(c2)]-X(但し、nは3以上の整数、Xはカップリング剤残基を示す。)であってもよい。
【0061】
また、成分(C)は、官能基で変性された変性水添オレフィン系ブロック共重合体であってもよい。この官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基、ヒドロキシ基、エポキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、イソシアネート基、スルホニル基、スルホネート基、及びオキサゾリン基からなる群より選択される少なくとも1種を使用することができる。変性
方法は、公知の方法を使用することができる。この変性水添オレフィン系ブロック共重合体中の官能基の含有量は、変性水添オレフィン系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位全体を100mol%とした場合に、好ましくは0.01~10mol%であり、より好ましくは0.1~8mol%であり、特に好ましくは0.15~5mol%である。官能基を導入するために使用できる好ましい単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
【0062】
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、成分(C)の含有割合は、好ましくは4~50質量部であり、より好ましくは5~40質量部であり、特に好ましくは6~30質量部である。
【0063】
1.4.成分(D)
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、結晶性エチレン系樹脂(D)を含有する。成分(D)は、エチレンを主な繰り返し単位とする樹脂である。成分(D)は、エチレン以外の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物によれば、特に成分(C)と成分(D)を併用することによって、熱可塑性エラストマー被着体に対する良好な接着性と、結晶性エチレン系樹脂被着体に対する良好な接着性とを両立させた成形体(複合部材)の製造が可能となることが明らかとなった。
【0064】
エチレン以外の単量体としては、炭素数3以上10以下のα-オレフィン;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の炭素数4以上8以下の共役ジエン化合物;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ジシクロオクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の炭素数5以上15以下の非共役ジエン化合物;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0065】
成分(D)としては、エチレン単独重合体、エチレンに由来する繰り返し単位とエチレン以外の単量体に由来する繰り返し単位とを含有するエチレン共重合体が挙げられる。成分(D)の中でも、エチレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体が好ましく、高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0066】
また、成分(D)の一部又は全部に、重量平均分子量1,000~30,000のポリエチレン(D1)を使用することも好ましい。成分(D)中の成分(D1)の含有割合は、成分(D)を100質量%としたときに、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。一方、成分(D)の全量が成分(D1)であってもよいが、成分(D)中の成分(D1)の含有割合は、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。
【0067】
JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定される成分(D)のメルトフローレートは、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体に対する良好な接着性を得る観点から、好ましくは0.01~200g/10分であり、より好ましくは
1~100g/10分であり、特に好ましくは5~30g/10分である。
【0068】
なお、成分(D)の一部又は全部に成分(D1)を使用する場合には、温度140℃で測定される成分(D1)の溶融粘度は、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体に対する非常に良好な接着性を得る観点から、好ましくは10~30,000mPa・sであり、より好ましくは30~25,000mPa・sであり、特に好ましくは100~10,000mPa・sである。
【0069】
JIS K7112に準拠して測定される成分(D)の密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.91g/cm以上0.97g/cm以下であり、より好ましくは0.94g/cm以上0.97g/cm以下である。
【0070】
成分(D)は、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒等の重合触媒の存在下、エチレンと、必要に応じてエチレン以外の単量体とを重合することにより製造することができる。該重合方法としては、溶液重合法、バルク重合法、スラリー重合法、気相重合法等を挙げることができ、これらは2種以上組み合わせてもよい。
【0071】
熱可塑性エラストマー組成物の総質量を100質量部としたときに、成分(D)の含有割合は、好ましくは10~50質量部であり、より好ましくは12~45質量部であり、特に好ましくは15~40質量部である。
【0072】
1.5.その他の添加剤
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物には、上記の各成分以外にも、必要に応じて架橋剤、架橋助剤、老化防止剤、耐候剤、脂肪酸誘導体、シリコーン化合物、着色剤(例えば酸化チタン、カーボンブラック等)、伸展油等の添加剤を添加してもよい。
【0073】
<架橋剤及び架橋助剤>
架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄化合物、アルキルフェノール樹脂等が挙げられる。これらの中でも有機過酸化物が好ましい。
【0074】
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類等が挙げられる。有機過酸化物の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,2,4-トリメチルペンチル-2-ハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゾハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキサイド、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシシクロヘキサン、イソブチルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0075】
また、上記成分(A)の架橋度を大きくするために、架橋剤と架橋助剤を組み合わせて用いてもよい。このような架橋助剤としては、2以上の二重結合を有する化合物であることが好ましい。架橋助剤の具体例としては、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、トルイレンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン等のパーオキサイド類;ジビニルベンゼン、トリアリル
シアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等が挙げられる。
【0076】
<老化防止剤>
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物が老化防止剤を含有することにより、熱分解が抑制されて高温での成形に耐え得るとともに、該組成物を成形して得られる成形体と他の成形体との融着部において、耐熱性が向上する場合がある。
【0077】
老化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、含硫黄化合物、含リン化合物、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p-フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
老化防止剤としては、市販品を使用することもでき、例えば、ADEKA社製の商品名「アデカスタブAO-60」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブAO-412S」等を使用することができる。
【0079】
<脂肪酸誘導体>
脂肪酸誘導体としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の直鎖飽和脂肪酸;セトレイン酸、ソルビン酸等の不飽和脂肪酸;安息香酸、フェニル酢酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、炭素数8以上の高級脂肪酸のエステルが好ましく、例えば、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ラウリル、パルミチン酸ステアリル、パルミチン酸ラウリル、トリステアリン酸グリセライド、トリパルミチン酸グリセライド等が挙げられる。脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸のアミド;オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エルカ酸アミド、アラキドン酸アミド、エイコサペンタエン酸アミド、ドコサヘキサエン酸アミド等の不飽和脂肪酸のアミドが挙げられる。脂肪酸アミドの中でも、不飽和脂肪酸アミドが好ましく、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドがより好ましい。脂肪酸金属塩としては、炭素数10~25の脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。
【0080】
1.6.熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、特に制限されるものではないが、まず成分(C)及び成分(D)以外の成分(すなわち成分(A)、成分(B)、及びその他の添加剤)を溶融混練して熱可塑性エラストマー中間体を得た後に、当該熱可塑性エラストマー中間体に成分(C)及び成分(D)を更に加えて溶融混練することにより製造することが好ましい。原料成分の溶融混練は、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、ニーダ、多軸スクリュー押出機、ロール等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法が用いられる。
【0081】
1.7.熱可塑性エラストマー組成物の用途
近年、自動車デザインの多様化により、ウェザーストリップの設計にあたっては、熱可
塑性エラストマー組成物からなる成形体と、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体とを溶融接着させた複合部材へのニーズが高まっている。従来の熱可塑性エラストマー組成物によれば、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体との接着性には優れているものの、結晶性エチレン系樹脂からなる成形体との接着性は十分とはいえなかった。特に、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体と結晶性エチレン系樹脂からなる成形体との融着部での耐熱性が不十分であり、加熱により融着部が容易に破壊される傾向がある。
【0082】
これに対し、本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物によれば、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する接着性に優れ、かつ、融着部での耐熱性にも優れた成形体を得ることができる。よって、本実施形態に係る熱可塑性エラストマー組成物は、ウェザーストリップ材を製造するための材料としての用途に適している。
【0083】
2.ウェザーストリップ
本発明の一実施形態に係るウェザーストリップは、上記の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を使用したものである。上記の熱可塑性エラストマー組成物を用いることで、熱可塑性エラストマー成形体と他の成形体とが接合された複合部材を製造することができる。ここで、他の成形体としては、熱可塑性エラストマー成形体や結晶性エチレン系樹脂成形体等が挙げられる。上記複合部材は、耐候性や緩衝性に優れるだけでなく、他の成形体との接着性に優れ、かつ、融着部での耐熱性にも優れているため、特にコーナー材や端末材に最適である。
【0084】
上記複合部材は、射出成形によって製造することができる。具体的には、例えば、上記のような他の成形体を予め射出成形の割型内に設置しておき、該割型内に上記の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形によって注入し、次いで冷却する方法によって製造することができる。
【0085】
この射出成形に際しては、例えばシリンダー温度200~270℃、射出率10~100cc/sec、金型冷却温度30~60℃とすることが、複合部材における熱可塑性エラストマー成形体と他の成形体との接着性の観点から好ましい。
【0086】
3.実施例
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記製造例、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0087】
3.1.熱可塑性エラストマー組成物の製造
下表1に示した種類及び量の、エチレン・α-オレフィン系共重合ゴム(A)、α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B)、架橋剤、架橋助剤、黒色顔料、老化防止剤、耐候剤、高級脂肪酸アミド、ポリジメチルシロキサンA(動粘度100cSt)、ポリジメチルシロキサンB(動粘度1000cSt)を溶融混練りし、熱可塑性エラストマー組成物中間体を製造した。
次いで、下表1に示した種類及び量の、熱可塑性エラストマー中間体、オレフィン系ブロック共重合体(C)又はオレフィン系ブロック共重合体(C’)、結晶性エチレン系樹脂(D-1)及び/又は結晶性エチレン系樹脂(D-2)を溶融混練りし、実施例1~5及び比較例1~3で使用する各熱可塑性エラストマー組成物を製造した。
【0088】
3.2.評価方法
3.2.1.被着体の作製
(1)熱可塑性エラストマー被着体の作製
Exxon Mobil社製の「Santoprene121-73W175」を、射出成形機(日本製鋼所社製、商品名「J110ADS」)により、120mm×120mm×2mmの大きさに成形したシートを作製した。このシートを、ダンベルカッターで長さ60mm、幅50mmに打ち抜き、これを熱可塑性エラストマー被着体とした。
【0089】
(2)結晶性エチレン系樹脂被着体の作製
日本ポリエチレン社製の「ノバテックHD HJ590N」を、射出成形機(日本製鋼所社製、商品名「J110ADS」)により、120mm×120mm×2mmの大きさに成形したシートを作製した。このシートを、ダンベルカッターで長さ60mm、幅50mmに打ち抜き、これを結晶性エチレン系樹脂被着体とした。
【0090】
3.2.2.接合体の作製
(1)熱可塑性エラストマー被着体との接合体の作製
まず、射出成形機(日本製鋼所社製、商品名「J110ADS」)の割型内に、上記で作製した熱可塑性エラストマー被着体を予め貼り付けた。次いで、上記で製造した熱可塑性エラストマー組成物のいずれかを、欠部(熱可塑性エラストマー被着体を貼り付けた割型内)に収まるように、上記欠部内に射出成形し(射出温度260℃、金型冷却温度45℃)、上記熱可塑性エラストマー組成物と上記熱可塑性エラストマー被着体とを射出融着した平板(120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ))を得た。次いで、この平板を、JIS-2号ダンベルカッターで打ち抜いて試験片(ダンベル状試験片)を得た。
【0091】
(2)結晶性エチレン系樹脂被着体との接合体の作製
まず、射出成形機(日本製鋼所社製、商品名「J110ADS」)の割型内に、上記で作製した結晶性エチレン系樹脂被着体を予め貼り付けた。次いで、上記で製造した熱可塑性エラストマー組成物のいずれかを、欠部(結晶性エチレン系樹脂被着体を貼り付けた割型内)に収まるように、上記欠部内に射出成形し(射出温度260℃、金型冷却温度45℃)、上記熱可塑性エラストマー組成物と上記結晶性エチレン系樹脂被着体とを射出融着した平板(120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ))を得た。次いで、この平板を、JIS-2号ダンベルカッターで打ち抜いて試験片(ダンベル状試験片)を得た。
【0092】
3.2.3.評価試験
上記で作製した各試験片について、以下の試験を行うことにより評価を行った。その結果を下表1に示す。
【0093】
(1)接着性
上記で作製した各試験片を、射出融着部を起点に180度折り曲げ、下記の基準で評価した。
(評価基準)
A:10回の折り曲げで融着部の破壊がなく、接着性が非常に良好である。
B:5回の折り曲げで融着部の破壊がなく、接着性が良好である。
C:1回の折り曲げで融着部の破壊が生じ、接着性が不良である。
【0094】
(2)耐熱性
85℃に調整した恒温槽内へ、上記で得られた試験片の片端に200gfの加重を付けて吊り下げ、2時間、24時間、48時間静置し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
A:48時間静置後の融着部の破壊がなく、耐熱性が非常に良好である。
B:24時間静置後の融着部の破壊がなく、耐熱性が良好である。
C:2時間未満での融着部が破断し、耐熱性が不良である。
【0095】
3.3.評価結果
下表1に、各実施例及び各比較例で作製した熱可塑性エラストマー組成物の組成、並びに各評価結果を示す。
【0096】
【表1】
【0097】
上表1に記載された各成分には、以下に示すものを用いた。
・エチレン・α-オレフィン系共重合ゴム(A):エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン三元共重合体(エチレン単位含量66質量%、5-エチリデン-2-ノルボルネン単位含量4.5質量%、極限粘度4.6)50質量%とパラフィン系軟化剤(ダイアナプロセスオイルPW90、出光興産社製)との混合物
・α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B-1):商品名「ノバテックPP MA2」、日本ポリプロ社製、プロピレンホモポリマー、融点159℃、密度0.90g/cm、メルトフローレート(230℃、荷重21.2N)16g/10分
・α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B-2):商品名「ノバテックPP FL02A」、日本ポリプロ社製、プロピレンランダム共重合体、融点139℃、密度0.90g/cm、メルトフローレート(230℃、荷重21.2N)20g/10分
・α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂(B-3):商品名「ノバテックPP FX4E」、日本ポリプロ社製、プロピレンランダム共重合体、融点132℃、密度0.90g/cm、メルトフローレート(230℃、荷重21.2N)5.3g/10分
・オレフィン系ブロック共重合体(C):商品名「DYNARON 6200P」、JSR社製、密度0.88g/cm、メルトフローレート(230℃、荷重21.2N)2.5g/10分、両末端に1,2-ビニル結合含量が25mol%以下の共役ジエン重合体ブロックを有するとともに、中間に1,2-ビニル結合含量が25mol%超の共役ジエン重合体ブロックを有する、ブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体
・オレフィン系ブロック共重合体(C’):商品名「INFUSE 9007」、ダウ・ケミカル社製、密度0.87g/cm、メルトフローレート(230℃、荷重21.2N)0.5g/10分、エチレン・オクテン-1共重合体
・結晶性エチレン系樹脂(D-1):商品名「ノバテックHD HJ490」、日本ポリエチレン社製、重量平均分子量120,000、融点131℃、密度0.96g/cm、メルトフローレート(190℃、荷重21.2N)20g/10分、エチレン・プロピレン共重合体
・結晶性エチレン系樹脂(D-2):商品名「LICOCENE PE 5301」、クラリアント社製、重量平均分子量4,800、融点129℃、ポリエチレン
・架橋剤:商品名「パーヘキサ25B-40」、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン
・架橋助剤:商品名「バルノックPM」、大内新興化学工業社製、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド
・黒色顔料:結晶性プロピレン系樹脂とカーボンブラックの混合物(カーボンブラック含有量40%)
・老化防止剤:商品名「アデカスタブAO-60」、ADEKA社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
・耐候剤:商品名「アデカスタブLA-52」、ADEKA社製、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシラート
・高級脂肪酸アミド:商品名「ニュートロン-S」、日本精化社製、エルカ酸アミド
・ポリジメチルシロキサンA:商品名「DOWSIL SH200 Fluid 100cSt」、ダウ・東レ社製、動粘度:100cSt
・ポリジメチルシロキサンB:商品名「DOWSIL SH200 Fluid 1000cSt」、ダウ・東レ社製、動粘度:1000cSt
【0098】
上表1の評価結果より、実施例1~5の熱可塑性エラストマー組成物によれば、熱可塑性エラストマー被着体及び結晶性エチレン系樹脂被着体の双方に対する接着性に優れ、かつ、融着部での耐熱性にも優れる接合体が得られることがわかった。特に実施例4~5の
熱可塑性エラストマー組成物は、結晶性エチレン系樹脂(D)として成分(D-1)と成分(D-2)を併用することで、他の成形体との接着性及び融着部での耐熱性により優れる接合体が得られることがわかった。
【0099】
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)の代わりにオレフィン系ブロック共重合体(C’)を含有している。そのため、熱可塑性エラストマー被着体や結晶性エチレン系樹脂被着体と接着したものの、熱可塑性エラストマー被着体との融着部及び結晶性エチレン系樹脂被着体との融着部の双方において耐熱性が不十分であった。
【0100】
比較例2の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)を含有していない。そのため、熱可塑性エラストマー被着体との接合体において、接着性及び耐熱性が不十分であった。
【0101】
比較例3の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)及び成分(D)を含有していない。そのため、結晶性エチレン系樹脂被着体との接合体において、接着性及び耐熱性が不十分であった。
【0102】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。