(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20250114BHJP
D04H 1/58 20120101ALI20250114BHJP
A61F 13/51 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
A61F13/511 300
D04H1/58
A61F13/51
(21)【出願番号】P 2021043814
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 吉彦
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108714(JP,A)
【文献】特開平07-238451(JP,A)
【文献】特開平10-304909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/511
D04H 1/58
A61F 13/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと熱可塑性繊維を有し、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
該不織布の一方の面側の前記熱可塑性繊維には、
前記融着点から剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に、前記バインダーからなる球状部が付着しており、
前記球状部は、前記熱可塑性繊維の繊維径の2倍以上の直径を有し、かつ真球度が3.0μm以上30.0μm以下であり、
単位面積当たりの前記球状部の個数が10個/mm
2以上35個/mm
2以下となる領域を有する、吸収性物品用不織布。
【請求項2】
バインダーと熱可塑性繊維を有し、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
前記バインダーが前記融着点の表面に付着しており、
下記[擦過条件]に示す擦過が加えられたときに、
前記融着点から剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に、前記バインダーが請求項1記載の球状部に変化し、前記擦過が加えられた領域において単位面積当たりの前記球状部の個数が10個/mm
2以上35個/mm
2以下になる、吸収性物品用不織布。
[擦過条件]
(1)測定対象の不織布から大きさ100mm×100mmの測定試料を切り出す。
(2)表面の摩擦係数が0.4以上0.6以下のシートで表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸に取り付ける。取り付け位置は円盤中心から20mmずれた位置とする。
(3)前記測定試料の不織布の下面に、上記と同じシートを敷き、台上に固定する。不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
(4)この状態下、回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに3回転、反時計周りに3回転を1セットとして、15セット行う。このときの周動時間は1セットあたり18秒間である。
【請求項3】
前記熱可塑性繊維が短繊維を含む、請求項1
又は2に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項4】
前記熱可塑性繊維が複合繊維である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項5】
前記熱可塑性繊維が芯鞘構造を有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項6】
前記バインダーが-40℃以上30℃以下のガラス転移点を有する樹脂である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項7】
前記不織布における前記バインダーの含有質量が、0.5g/m
2
以上12.0g/m
2
以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の吸収性物品用不織布。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の不織布を有する吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、吸収性物品などの構成部材として用いられている。この不織布について種々の機能を持たせるための技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、吸収性製品に用いられる超吸収性粒子等の種々の粒子を、結合剤を介して繊維の表面に結合する技術が記載されている。
特許文献2には、熱融着性繊維を有する基材、該基材に固定された起立繊維、及び、基材を構成する繊維から独立した遊離繊維を有する不織布が記載されている。同文献には、基材を構成する繊維及び起立繊維が長繊維からなることが記載されている。
特許文献3には、融着部を有する長繊維不織布が記載されている。該長繊維不織布は、前記融着部に一端が固定された自由繊維を有し、該自由繊維には扁平繊維が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平8-500270号公報
【文献】特開2016-065335号公報
【文献】特開2019-214812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、繊維長が100mm以下の短繊維であって熱融着性の繊維を用いた不織布は、繊維交点が融着した部分(以下、融着交点)を有する。このような不織布は、吸収性物品に組み込まれるなどして使用される際、衣服や肌との接触による擦れ等の擦過があると、その擦過の程度によっては、融着交点から繊維が剥離することがあった。このとき、剥離した繊維にささくれ立ちなどが発生し、不織布の滑らかさが低減することがあった。このような繊維のささくれ立ち及びこれに対する解決手段について上記特許文献には示されていない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、擦過があっても滑らかさが低減せず、擦過に伴って滑らかさが向上し得る吸収性物品用不織布に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バインダーと熱可塑性繊維を有し、繊維同士の融着点を有する不織布であって、該不織布の一方の面側の前記熱可塑性繊維には、前記バインダーからなる球状部が付着しており、前記球状部は、前記熱可塑性繊維の繊維径の2倍以上の直径を有し、かつ真球度が3.0μm以上30.0μm以下であり、単位面積当たりの前記球状部の個数が10個/mm2以上35個/mm2以下となる領域を有する、吸収性物品用不織布を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸収性物品用不織布は、擦過があっても滑らかさが低減せず、擦過に伴って滑らかさの向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)は、繊維同士の融着点にバインダーが付着した状態を示す模式図であり、(B)は、不織布に擦過が加えられて(A)に示す融着点から繊維が剥離し、バインダーが球状部に変化する例を示す模式図であり、(C)は、バインダーが球状部に変化する別の例を示す模式図である。
【
図3】球状部の別の具体例を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の吸収性物品用不織布(以下、単に不織布ともいう)の好ましい実施形態について説明する。
本発明の不織布は、バインダーと熱可塑性繊維とを有し、繊維同士の融着点(繊維交点における融着点)を有する。融着点は、交差する繊維同士の接点において、繊維同士が熱可塑性樹脂成分の融着によって結着している部分である。融着点の繊維のうち、少なくとも1本の繊維が熱可塑性繊維である。前記融着点は、不織布の製造過程において、例えば、熱処理によって熱可塑性繊維の表面が溶融し、繊維同士が融着したものである。本発明の不織布としては、例えば、サーマルボンド不織布が用いられ、より具体的にはエアスルー不織布が用いられる。
【0011】
繊維同士の融着点がある本発明の不織布は、種々の長さの繊維を用いることができる。サーマルボンド不織布としては、熱融着性繊維が、繊維長10mm以上100mm以下の短繊維を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の不織布において、バインダーは、熱融着性繊維の表面に付着しており、繊維同士の融着点の表面に付着しているものを含む。繊維同士の融着点の表面に存在するバインダーは、繊維同士が交差して重なる部分の外側表面を覆っていることが好ましい。
【0013】
バインダーは、不織布の構成繊維とは異なる樹脂成分であり、不織布化した後の構成繊維の表面に固着されている。例えば、不織布の一面に対して、スプレー等によってバインダーを吹き付けて繊維交点の融着点等の表面に固着させることができる。これにより、本発明の不織布において、不織布平面領域の全体に亘ってバインダーが一様に付着した状態となる。
【0014】
本発明の不織布において、該不織布の一方の面側の熱融着性繊維に、バインダーからなる球状部が付着している。球状部は熱可塑性繊維の繊維径の2倍以上の直径を有し、かつ真球度が3.0μm以上30.0μm以下である。本発明の不織布は、単位面積当たりの球状部の個数が10個/mm2以上35個/mm2以下の領域を有する。本発明の不織布が、上記直径及び真球度の球状部を上記の単位面積あたりの個数有することにより、肌と不織布表面との摩擦抵抗を好適に低減でき、不織布表面における異物感を抑え、滑らかな風合いに優れたものとなる。
上記の滑らかさの観点から、前記球状部は、前記不織布の一方の面側の表面にあることが好ましい。また、前記球状部は、不織布の表裏面の一方の面側に限らず、両面の側にあってもよい。
なお、上記の要件を満たす限り、本発明1の不織布に付着したバインダー全てが球状部となる必要はない。本発明1の不織布において、一部のバインダーが球状部となり、球状部とならないバインダーがあることが好ましい。
【0015】
前記「球状部」とは、前述のとおり、熱可塑性繊維の繊維径の2倍以上の直径を有し、かつ真球度が3.0μm以上30.0μm以下の立体的な球体形状を有する部分である。「真球度」とは、JIS B1501で規定される、立体的な球状の程度を示す値である。真球度が小さいほどより球体に近くなり、3.0μm以上30.0μm以下とする球状部であることで、肌で感じる摩擦抵抗を小さくすることができる。また、球状部が熱可塑性繊維の繊維径の2倍以上の直径を有することにより、その球体が触感として感得し得るものとなる。
【0016】
真球度は、肌で感じる摩擦抵抗をより小さくする観点から、25.3μm以下が好ましく、20.0μm以下がより好ましい。真球度は、バインダーと繊維融着点の接触面積を増やし繊維同士の剥離を抑制する観点から、5.0μm以上が好ましく、8.0μm以上がより好ましい。
また、球状部は、繊維同士の剥離形状より大きくすることで、肌で感じる摩擦抵抗を低減する観点から、熱可塑性繊維の繊維径の2.2倍以上の直径を有することが好ましく、2.5倍以上の直径を有することがより好ましい。球状部は、不織布表面の凹凸を抑えて滑らかな風合いを維持する観点から、熱可塑性繊維の繊維径の4.0倍以下の直径を有することが好ましく、3.7倍以下の直径を有することがより好ましい。
【0017】
本発明の不織布の滑らかさをより高める観点から、球状部を有する領域において、単位面積当たりの球状部の個数は15個/mm2以上がより好ましく、20個/mm2以上が更に好ましい。また、不織布表面の凹凸を減らし滑らかな風合いを維持する観点から、球状部を有する領域において、単位面積当たりの球状部の個数は33個/mm2以下が好ましく、30個/mm2以下がより好ましい。
【0018】
(球状部の単位面積あたりの個数及び真球度の測定方法)
(1)擦過を加えた面を上側としてサンプルを静置した状態で、サンプルに対し60度および120度の角度でデジタルマイクロスコープVHX-900(株式会社キーエンス製)を用いて500倍で観察画像を撮影する。これに基づいてrc(限界円内の最大半径)、rs(限界円内の最小半径)を測定し、3次元の真球度を算出する。
(2)観察画像上で基準線として0.5mm×0.5mmの正方形の線を描く。正方形内部における球状部の数を、JIS B1501で規定される方法に基づいて測定する。測定した球状部の個数から単位面積(1mm2)当たりに換算する。
(3)上記のうち10個の球状部について真球度の平均を算出し測定値のデータとする。
【0019】
(熱可塑性繊維の繊維径に対する球状部の直径の倍率の測定方法)
前記真球度の測定における観察画像から得られる球状部について、限界円内の最小直径を測定し、同観察画像から得られる繊維径で除したものを10点測定し、平均したものを測定値のデータとする。
【0020】
単位面積当たりの球状部の個数が10個/mm2以上35個/mm2以下となる不織布平面上の領域は、少なくとも本発明の不織布の肌と接触する領域であることが好ましい。この領域は、球状部による不織布の滑らかさを肌で感得し得るものとする観点から、少なくとも100mm2以上が好ましく、500mm2以上がより好ましく、1000m2以上が更に好ましい。また、本発明の不織布の不織布平面全体が上記領域となっていることがより好ましい。
【0021】
前記「球状部」は、熱可塑性繊維の表面に付着したバインダーが擦過によって変化したものであり、擦過を受ける前のバインダーには備わり得ない上記の立体的な球体形状を有する。
【0022】
このような「球状部」が擦過によって生じることにより、「球状部」を備えた後の本発明の不織布の表面の摩擦抵抗が低減され、滑らかさが向上する。これにより、本発明の不織布は、擦過によって繊維同士の融着点から繊維が剥離していたとしても、球状部の存在により、ささくれ立ちによる肌へ刺激が低減され、滑らかさが向上する。また、一度擦過が加わって球状部が生じた後でも、更に擦過を受けると残りのバインダーが球状部に変化し得るので、擦過に伴って更に滑らかさが向上し得る。
【0023】
「球状部」を生じさせ得る擦過は、少なくとも下記[擦過条件]に示す擦過である。この条件を満たす、又はそれ以上の擦過が加えられることにより、熱融着性繊維の表面にあるバインダー、特に繊維同士の融着点にあるバインダーが上記に定義する球状部に変化する。擦過が加えられた領域において、単位面積当たりの前記球状部の個数が10個/mm2以上35個/mm2以下となる。
【0024】
[擦過条件]
(1)測定対象の不織布から大きさ100mm×100mmの測定試料を切り出す。
(2)表面の摩擦係数が0.4以上0.6以下のシートで表面を覆った円盤(直径70mm、350g)を、回転軸に取り付ける。取り付け位置は円盤中心から20mmずれた位置とする。このときのシートとしては、ウレタンフォーム、布、紙など種々のシートを用いることができ、ウレタンフォームが好ましい。例えば、株式会社イノアックコーポレーション製のモルトフィルターMF-30(商品名、厚さ5mm、表面の摩擦係数0.508)等が挙げられる。
(3)前記測定試料の不織布の下面に、上記と同じシートを敷き、台上に固定する。不織布の上に前記円盤を載せる。このとき、不織布に加わる荷重は円盤の自重のみとする。
(4)この状態下、回転軸を回転させて、円盤を不織布上で周動させる。周動は時計周りに3回転、反時計周りに3回転を1セットとして、15セット行う。このときの周動時間は1セットあたり18秒間である。
【0025】
前記[擦過条件]は、本発明の不織布が吸収性物品等の肌に触れる部材として組み込まれ、使用時に不織布に加わる擦過を想定したものである。実際には、本発明の不織布には、通常の使用において、これ以上の擦過がより広い範囲に加わることも許容される。
【0026】
本発明の不織布は、擦過を受ける前すなわち「球状部」が生じる前の状態において、バインダーと熱可塑性繊維を有し、繊維同士の融着点を有する。バインダーのいくつかは、前記融着点の表面に付着しているものがある。なお、擦過を受けて「球状部」が生じた後の本発明の不織布においても、前述のとおり、上記バインダーは存在する。
【0027】
バインダーは、繊維表面に固着して流れ落ちない結着性を有する。一方で、バインダーは、擦過によって丸みを帯びた形状に変化し得る弾力性を有する。
この観点から、バインダーは、-40℃以上30℃以下のガラス転移点を有する樹脂であることが好ましい。バインダーのガラス転移点は、粘着性によるべたつきを抑える観点から、-30℃以上がより好ましく、-20℃以上が更に好ましい。また、バインダーのガラス転移点は、擦過により球状に変形できる弾力性を生み出す観点から、25℃以下がより好ましく、20℃以下が更に好ましい。上記ガラス転移点は、JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量測定したときのDSC曲線から測定する。
【0028】
本発明の不織布におけるバインダーの含有質量は、不織布表面におけるべたつきを抑え、球状部への変化を可能にする観点から、多すぎないことが好ましく、不織布の単位面積あたり、12.0g/m2以下が好ましく、6.0g/m2以下がより好ましく、3.0g/m2以下が更に好ましい。バインダーの含有質量は、前述の球状部を十分な大きさと個数で生じさせる観点から、不織布の単位面積あたり、0.5g/m2以上が好ましく、1.0g/m2以上がより好ましく、1.5g/m2以上が更に好ましい。
また、バインダーの融着点上の存在割合は、不織布の滑らかさを擦過に伴って向上させる観点から、単位面積(1mm2)あたりの融着点数に対して、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、また、50%以下が好ましい。
【0029】
本発明の不織布は、バインダーを前述の特定量、不織布平面にスプレーによって吹き付けた構造を有する。そのため本発明の不織布は、バインダーを含み、肌との接触で擦過が加わるいずれの領域においても、擦過を受けることにより前述の球状部を備えたものとなる。肌との接触で加わる擦過の大きさは、前記[擦過条件]に示す擦過の大きさに限定されず、それ以上であってもよい。
【0030】
本発明の不織布の坪量は、前述のバインダーを微量含んだ状態で、不織布としての強度を保持する観点から、10g/m2以上が好ましく、15g/m2以上がより好ましく、20g/m2以上が更に好ましい。また、本発明の不織布の坪量は、柔軟性を持たせる観点から、60g/m2以下が好ましく、50g/m2以下がより好ましく、40g/m2以下が更に好ましい。
【0031】
本発明の不織布は、擦過を受けた後において、滑らかさ向上の観点から、前記融着点から剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に、前記球状部が付着していることが好ましい。
剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に存在する球状部は、球状部を有する領域において、単位面積あたりの個数として、15個/mm2以上が好ましく、20個/mm2以上がより好ましい。また、剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に球状部が存在する割合は、不織布表面の凹凸を減らし滑らかな風合いを維持する観点から、球状部を有する領域において、単位面積あたりの個数として、31個/mm2以下が好ましく、25個/mm2以下がより好ましい。
【0032】
(剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に存在する球状部の測定方法)
前述の(球状部の単位面積あたりの個数及び真球度の測定方法)と同様の方法にて測定することができる。
【0033】
前述の繊維の「剥離」とは、融着された繊維の一部又は全部が融着点から離れることを意味する。繊維が破損なく融着点から離れる場合に限らず、繊維の表面部分が切れる又は裂ける、繊維の表面部分が繊維の芯部分から抜ける等の種々の形態を含む。例えば、2本の繊維の交点において融着点が形成されていて互いの繊維が剥離した場合、2本の繊維いずれもが「剥離した繊維」に該当する。3本以上の繊維の交点において融着点が形成されていて、そのうちの1本の繊維が剥離した場合、その1本が「剥離した繊維」であり、残り2本以上の繊維同士の融着点が「剥離後の残りの融着点」となる。あるいは融着点において繊維が部分的に切れて剥離する場合もあり得る。例えば、2本の繊維の交点に融着点が形成されている状態(融着点から見掛け上4つの繊維の足が出ている状態)から、1本の繊維の一部(4つの繊維の足のうちの1つ)が切れて剥離する場合がある。この場合、切れた繊維部分が「剥離した繊維」に該当し、残りの3つの繊維の足による融着点が「剥離後の残りの融着点」となる。
「剥離した繊維の剥離表面」とは、繊維が融着点で融着していた部分がであって、剥離によって露出した繊維の表面のことである。
【0034】
「前記融着点から剥離した繊維の剥離表面又は剥離後の残りの融着点の表面に、前記球状部が付着した」状態とは、例えば、次のような状態を言う。すなわち、繊維同士の融着点の表面に付着していたバインダーが、擦過が加えられることによって、丸みを帯びて前記球状部に変化しながら、「剥離した繊維の剥離表面」へ移行した状態、「剥離後の残りの融着点の表面」に留まった状態にあることを言う。
【0035】
例えば、
図1(A)に示すように、芯鞘構造の複合繊維(以下、単に繊維という)1、2の交点の融着点表面にバインダー3が付着している状態から擦過が加えられる。これにより、
図1(B)に示すように、繊維1の鞘部分(表面部分)11が繊維の芯部分12から抜け、繊維2の融着点であった箇所に繊維1の繊維の鞘部分11が融着したまま残る。この箇所に、バインダー3が球状部41に変化して付着又は被覆した状態となる。このとき、繊維1の鞘部分11は、繊維2の融着点であった箇所でバインダー3と共に丸まって球状部41によって覆われる。この球状部41として、例えば、
図2に示すようなものが生じる。又は、
図1(C)に示すように、繊維1と繊維2とが融着点から剥離し、バインダー3はその弾性によって分離し、繊維1に付着した球状部42に変化する。繊維2には僅かにバインダー31が残留した状態となる。この球状部42として、例えば、
図3に示すようなものが生じる。
図1(B)の状態になるか、
図1(C)の状態になるかは、バインダーのガラス転移点(Tg)によるところが大きい。例えば、前述した好ましいガラス転移点(Tg)の範囲において、ガラス転移点(Tg)が高めのバインダーの場合、バインダーは弾性よりも硬さが強まるため、
図1(B)のような形態になりやすい。一方、ガラス転移点(Tg)が低めのバインダーの場合、バインダーの弾性が強く、
図1(C)のような形態になりやすい。
不織布の滑らかさ向上の観点から、
図1(C)の形態の球状部42が本発明の不織布に含まれていることがより好ましい。この形態の球状部42を良好に形成し、かつ、バインダー自身の粘着性により滑らかさが悪化しないようにする観点から、バインダーのガラス転移点は-20℃以上20℃以下が好ましい。
【0036】
本発明の不織布を構成する熱可塑性繊維及びバインダーについて説明する。
【0037】
熱可塑性繊維としては、不織布の素材として通常用いられるものを特に制限なく採用できる。例えば、単一の樹脂成分からなる繊維や、複数の樹脂成分からなる複合繊維などであってもよい。複合繊維としては、例えば、芯鞘構造、サイドバイサイド構造などがある。
熱可塑性繊維として低融点成分及び高融点成分を含む複合繊維(例えば、鞘が低融点成分、芯が高融点成分である芯鞘構造の複合繊維)を用いる場合、製造工程において繊維ウェブに吹き付ける熱風の温度は、低融点成分の融点以上で、かつ高融点成分の融点未満であることが好ましい。より好ましくは、低融点成分の融点以上高融点成分の融点より10℃低い温度であり、さらに好ましくは、低融点成分の融点より5℃以上高く高融点成分の融点より20℃以上低い温度である。鞘が低融点成分、芯が高融点成分である芯鞘構造の複合繊維の具体例としては、鞘がポリエチレン樹脂(以下、PEともいう)、芯がポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETともいう)である芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。
【0038】
バインダーとしては種々用いることができる。例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、酢酸ビニル・エチレン系樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどが挙げられる。
特に、擦過によって球状部が良好に生じるようにする観点から、前述したガラス転移点を有することが好ましい。例えば、アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0039】
このような本発明の不織布は各種用途に用いることができ、例えば、吸収性物品に用いることができる。吸収性物品は、典型的には、肌当接面側に配された表面シート、非肌当接面側に配された裏面シート、表面シートと裏面シートに挟まれた吸収体を有する。このような吸収性物品において、本発明の不織布は、例えば、おむつ、生理用ナプキン、パンティーライナー、尿取りパッド等の吸収性物品の表面シートとして好適に使用することができる。さらに、吸収性物品のギャザー部のシート、外装シート、ウイング部のシートとして利用する形態も挙げられる。
また、本発明の不織布は、アイマスクやマスクの構成部材として用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表中における、「-」は、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。
【0041】
(実施例1)
(1)原料不織布の作製
表1に示す芯鞘構造の熱可塑性複合繊維を用いて、エアスルー法によって原料不織布を作製した。原料不織布の大きさは、100mm×100mmとした。
(2)バインダー塗布液の調製
固形分50%程のバインダー溶液を10質量%、脱イオン水を90質量%となるように混ぜ、バインダー塗布液を調整した。バインダー溶液として、固形分のガラス転移点が10℃のもの(DIC株式会社製のボンコートAC-501(商品名)。成分:アクリル樹脂59.4質量%、水35-45質量%、アンモニア(含水)1質量%未満、その他1質量%未満)を用いた。前記バインダー溶液はpH7.9、粘度401mPa・sであった。
(3)バインダー塗布液の吹き付け
次いで、原料不織布に対し、上方から、スプレーによってバインダー塗布液を均等に塗布した。次いで、電気乾燥機にて、120℃の条件で5分間乾燥させた。バインダー溶液の固形分の塗布量は表1に示すとおりとした。これはバインダー塗布前後の不織布質量変化により測定した。
これにより、表1に示す坪量を有する、実施例1の不織布試料A1を作製した。
(4)擦過の付与
不織布試料A1に対し、前述の[擦過条件]に示す擦過を加えて、擦過後の不織布試料A11を作成した。
【0042】
(実施例2)
バインダー溶液の固形分の塗布量及び不織布試料の坪量を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして、実施例2の不織布試料A2及び擦過付与後の不織布試料A21を作製した。
【0043】
(実施例3)
繊維を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして、実施例3の不織布試料A3及び擦過付与後の不織布試料A31を作製した。
【0044】
(実施例4)
バインダー溶液として、固形分のガラス転移点が-40℃のもの(DIC株式会社製のボンコートAB-886(商品名)。成分:アクリル樹脂50.8質量%、水45-55質量%、アクリル酸ノルマル-ブチル1質量%未満、イソプロピルアルコール1質量%未満、その他1質量%未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の不織布試料A4及び擦過付与後の不織布試料A41を作製した。前記バインダー溶液はpH6.6、粘度40mPa・sであった。
【0045】
(比較例1)
バインダーを吹き付けなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1の不織布試料C1及び擦過付与後の不織布試料C11を作製した。
【0046】
(比較例2)
バインダー溶液の固形分の塗布量及び不織布試料の坪量を表1に示すとおりとした以外は実施例4と同様にして、比較例2の不織布試料C2及び擦過付与後の不織布試料C21を作製した。
【0047】
(比較例3)
バインダー溶液として、固形分のガラス転移点が30℃のもの(DIC株式会社製のDICFINE AJ-1820(商品名)。成分:水50-60質量%、アクリル樹脂44.5質量%、アンモニア(含水)1質量%未満、その他1質量%未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の不織布試料C3及び擦過付与後の不織布試料C31を作製した。前記バインダー溶液はpH6.1、粘度588mPa・sであった。
【0048】
(比較例4)
バインダー溶液として、固形分のガラス転移点が-40℃のもの(昭和電工株式会社製のポリゾールAT-741(商品名)。アクリル樹脂56.5質量%、成分:水43.5質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例4の不織布試料C4及び擦過付与後の不織布試料C41を作製した。前記バインダー溶液はpH7.9、粘度4900mPa・sであった。
【0049】
(参考例)
バインダー溶液を塗布せず、表1に示す芯鞘構造の熱可塑性複合繊維を用いて、前述の特許文献3記載の実施例1と同様の方法により、扁平繊維を自由繊維に備え、表1に示す坪量となる参考例の不織布試料R1及び擦過付与後の不織布試料R11を作製した。なお、参考例において球状部は無く、下記表1に示された球状部の数値は扁平繊維に関するものを示した。
【0050】
上記実施例、比較例及び参考例の各不織布試料について、前記の(球状部の単位面積あたりの個数及び真球度の測定方法)及び(熱可塑性繊維の繊維径に対する球状部の直径の倍率の測定方法)に基づいて測定を行った。
【0051】
上記実施例及び比較例の各不織布試料について、擦過が加えられた面側において、前述の(球状部の単位面積あたりの個数及び真球度の測定方法)及び(熱可塑性繊維の繊維径に対する球状部の直径の倍率の測定方法)に基づいて、各値を測定した。
【0052】
また、上記実施例及び比較例の各不織布試料について、不織布表面のなめらかさの指標として、MMD(平均摩擦係数の変動)を測定した。
[MMD(平均摩擦係数の変動)の測定方法]
自動表面試験機(KES-FB4-A-SE:カトーテック株式会社製)を用いて、不織布表面の平均摩擦係数の変動(MMD)を測定した。測定対象面は、前述の[擦過条件]に示す擦過を加える側の面とした。
試験片を平滑な金属平面の試験台に取りつけた。接触子を49cNの力で接触面を試験片に圧着し、試験片を0.1cm/secの一定速度で水平に2cm移動させた。試験片には19.6cN/cmの一軸張力が与えられた。接触子は、0.5mm径のピアノ線を20本並べ幅10mmでU字状に曲げたもので、重錘によって49cNの力で接触面を試験片に圧着させた。摩擦係数の平均偏差の測定値はMMD値で表される。
この測定をMD(機械流れ方向、又は試験片の一片に平行する方向)及びCD(MDに直交する方向)ともに行い、下記式(S1)により平均値を出し、これを摩擦係数の平均偏差とした。
摩擦係数の平均偏差={(MMDMD
2+MMDCD
2)/2}1/2 (S1)
この摩擦係数の平均偏差は、摩擦のばらつきの程度を示し、値が小さいほど手で触ったときの滑らかさが高いことを示す。
【0053】
【0054】
表1に示すように、実施例1~4の不織布試料はバインダーを含み、擦過により、構成繊維の繊維径の2倍以上の直径を有し、かつ真球度3.0μm以上30.0μm以下の球状部を、単位面積当たり10個/mm2以上35個/mm2以下となる領域を備えるものであった。これにより、実施例1~4の不織布試料は、擦過前及び擦過後いずれにおいても比較例1~4の不織布試料には無い高い滑らかさを備え、かつ、擦過に伴って擦過前の不織布試料よりも滑らかさが向上していた。この点、比較例2の不織布試料は、バインダー量が多すぎたため、球状部によるささくれ防止効果以上にバインダー自身のべたつきが支配的で、なめらかさ(MMD)の数値が悪い状態であった。比較例3の不織布試料は、ガラス転移点が高く硬いバインダーを有するものであり、擦過後はバインダーが割れて、尖った状態となるため、球状部がなくなり、なめらかさ(MMD)も悪化していた。比較例4の不織布試料は、バインダーの粘着性が高く、繊維間で膜を張るため、球状部が形成されず、擦過の前後を通じて滑らかさ(MMD)の数値が悪い状態であった。
【符号の説明】
【0055】
1、2 芯鞘構造の複合繊維
3、31 バインダー
11 繊維の鞘部分(表面部分)
12 繊維の芯部分
41、42 球状部