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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】多孔質セルロース粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
C08J3/14 CEP
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021537265
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029221
(87)【国際公開番号】W WO2021024900
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019142886
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 徹
(72)【発明者】
【氏名】大倉 裕道
(72)【発明者】
【氏名】平林 由紀
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】JIAYI Yang ,Spherical nanocomposite particles prepared from mixedcellulose-chitosan solutions, Cellulose,Vol.23, No.5,2016年10月,3105-3115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無置換のセルロース及びキトサンを含む多孔質セルロース粒子であって、
前記無置換のセルロース及び前記キトサンの合計100質量%中、前記キトサンの含有率が1質量%以上8質量%以下であり、
前記多孔質セルロース粒子の表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像において、直径0.05~5μmの細孔が観察され、
粒子径が10~200μmの多孔質セルロース粒子の割合が、90質量%以上である、多孔質セルロース粒子。
【請求項2】
下記の方法で測定される、含水状態の前記多孔質セルロース粒子の固形分含有率が、10質量%以下である、請求項1に記載の多孔質セルロース粒子。
(固形分含有率の測定方法)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロース粒子を、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する。次に、前記純水中の前記多孔質セルロース粒子約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上静置して前記多孔質セルロース粒子を沈降させる。その後、上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーのおよそ1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った前記多孔質セルロース粒子の塊をろ紙から剥がして秤量し、前記多孔質セルロース粒子の湿潤質量とする。次に、この多孔質セルロース粒子を80℃のオーブン中で2時間乾燥させた後に秤量し、乾燥質量とする。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
【請求項3】
無置換のセルロース溶液と、キトサン溶液とを混合した混合溶液を調製する、混合溶液調製工程と、
前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程と、
を備えており、
前記混合溶液の溶媒として、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用い
前記混合溶液調製工程は、以下の工程を備えている、請求項1又は2に記載の多孔質セルロース粒子の製造方法。
キトサンを酸含有水溶液に溶解し、さらに水酸化アルカリ及び尿素を混合して、前記キトサン溶液を得る工程。
無置換のセルロース、水酸化アルカリ、尿素、及び水を混合して、前記無置換のセルロース溶液を得る工程。
-10℃以下の温度に冷却された前記キトサン溶液と、前記無置換のセルロース溶液と混合する工程。
【請求項4】
前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程で得られた多孔質セルロース粒子を酸で洗浄する酸洗浄工程をさらに備える、請求項3に記載の多孔質セルロース粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質セルロース粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを代表とする多糖およびその誘導体は、さまざまな用途に利用されている。例えば、これらの微多孔質体は、それ自体が吸着剤となりうるし、またその表面に何らかの化学修飾を行うことにより、吸着や分離、触媒などの機能が付与できる。
【0003】
例えば、セルロースやアガロースなどを用いた生物高分子分離用のマトリクスの製法が種々開示されており、その有用性もよく知られるところとなっている。セルロースやその他の多糖の表面に機能性を持たせるためには、化学修飾が行われる。例えば塩基性条件で糖の-OH基をクロロ酢酸と反応させるとカルボキシメチルエーテルが、1-クロロ-2-(ジエチルアミノ)エタンと反応させるとジエチルアミノエチルエーテルが生成し、それぞれ弱いイオン交換体として利用されている。しかし、このような化学修飾は製造コストを押し上げるのみならず、有害な薬品を用いる必要があったり、粒子のミクロからマクロな構造に悪影響を与える可能性もある。このため、より簡便な官能基導入の方法が望まれている。
【0004】
こうした問題を解決するための一つの方法として考えられるのは、もともとセルロースが有していない機能を持つポリマーをブレンドすることである。この意味で、アニオン交換能を有し、また様々な原子団を結合する足場とすることができるアミノ基を含むキトサンをブレンドすることができれば、セルロースビーズに様々な機能性を付与することが期待できる。セルロースとキトサンは必ずしも共通の溶媒を持たないため、一方の粉体を他方の溶液に混和して成型するという試みがある(特許文献1,2参照)。ただし、このようにして得られた成型物は、セルロース及びキトサンの特性をそのまま残しているため、たとえば酸性水溶液で洗浄するとキトサンが溶出してしまう。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、スプレードライした所定量のキトサンをまずN-メチルモルホリンN-オキシド(NMMO)に溶解し、ついでセルロースを加え、キトサンとセルロースの組成比が0/100~5/95の溶液とし、これを注射器から液滴として水中に落として凝固させることが開示されている。しかしながら、このビーズは2~3mm径とされ、凍結乾燥した試料のSEM観察では表面に開孔していない。特許文献3に記載されたビーズの粒径の大きさ、さらに表面に開孔していないことは、クロマトグラフィーのような物質移動の速さが要求されるプロセスには適さず、特にタンパクや核酸などの高分子量試料を扱うクロマトグラフィープロセスには事実上用いることができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Carbohydrate Polymers, 150 (2016), Pages 216-226
【文献】Cellulose (2014) 21:4405-4418
【文献】Carbohydrate Polymers, 54,(4)2003, 425-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、表面に所定の開孔を有しており、かつ、所定の粒径を有する、キトサンを含む多孔質セルロース粒子及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような従来技術に対して、本開示の発明者らは、キトサンを含む多孔質セルロース粒子の開発において、コストが安く、安全で、においなどの環境負荷の小さい溶媒として、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いることに注目した。しかしながら、塩基性高分子であるキトサンは、酸にはよく溶けるが、一般にアルカリ性水溶液には溶解しにくく、事実、市販のキトサンを水酸化アルカリ及び尿素水溶液に加えても、まったく溶解しない。
【0009】
そこで、本開示の発明者らは、キトサンをいったん少量の酸に溶解したのち、過剰の水酸化アルカリと尿素を加え、冷却することによって溶解させることに成功し、これを同じ溶媒によるセルロース溶液と混和することによって多孔質のセルロース粒子でありながらキトサンを含み、しかも驚くべきことに酸水溶液に浸漬してもキトサンが溶出することが抑制された多孔質セルロース粒子を得ることに成功した。このような多孔質セルロース粒子は、適切なpHの環境において、アニオン交換体となり、また金属イオンの吸着体となり、またクロマトグラフィーの担体ともなりうる。またキトサンのアミノ基を修飾することにより、さらにさまざまな機能を付与することができる。
【0010】
本開示は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
項1. 無置換のセルロース及びキトサンを含む多孔質セルロース粒子であって、
前記無置換のセルロース及び前記キトサンの合計100質量%中、前記キトサンの含有率が20質量%以下であり、
前記多孔質セルロース粒子の表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像において、直径0.05~5μmの細孔が観察され、
粒子径が10~200μmの多孔質セルロース粒子の割合が、90質量%以上である、多孔質セルロース粒子。
項2. 下記の方法で測定される、含水状態の前記多孔質セルロース粒子の固形分含有率が、10質量%以下である、項1に記載の多孔質セルロース粒子。
(固形分含有率の測定方法)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロース粒子を、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する。次に、前記純水中の前記多孔質セルロース粒子約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上静置して前記多孔質セルロース粒子を沈降させる。その後、上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーのおよそ1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った前記多孔質セルロース粒子の塊をろ紙から剥がして秤量し、前記多孔質セルロース粒子の湿潤質量とする。次に、この多孔質セルロース粒子を80℃のオーブン中で2時間乾燥させた後に秤量し、乾燥質量とする。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
項3. 無置換のセルロース溶液と、キトサン溶液とを混合した混合溶液を調製する、混合溶液調製工程と、
前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程と、
を備えており、
前記混合溶液の溶媒として、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いる、多孔質セルロース粒子の製造方法。
項4. 前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程で得られた多孔質セルロース粒子を酸で洗浄する酸洗浄工程をさらに備える、項3に記載の多孔質セルロース粒子の製造方法。
項5. 前記酸洗浄工程後の多孔質セルロース粒子において、前記無置換のセルロース及び前記キトサンの合計100質量%中、前記キトサンの含有率が1質量%以上20質量%以下である、項4に記載の多孔質セルロース粒子の製造方法。
項6. 前記混合溶液調製工程は、以下の工程を備えている、項3~5のいずれか1項に記載の多孔質セルロース粒子の製造方法。
キトサンを酸含有水溶液に溶解し、さらに水酸化アルカリ及び尿素を混合して、前記キトサン溶液を得る工程。
無置換のセルロース、水酸化アルカリ、尿素、及び水を混合して、前記無置換のセルロース溶液を得る工程。
-10℃以下の温度に冷却された前記キトサン溶液と、前記無置換のセルロース溶液と混合する工程。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、表面に所定の開孔を有しており、かつ、所定の粒径を有する、キトサンを含む多孔質セルロース粒子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた多孔質セルロース粒子を光学顕微鏡で観察した画像である。
図2】実施例1で得られた多孔質セルロース粒子を走査型電子顕微鏡で観察した画像である。
図3】実施例2で得られた多孔質セルロース粒子を光学顕微鏡で観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の多孔質セルロース粒子は、無置換のセルロース及びキトサンを含む多孔質セルロース粒子であって、無置換のセルロース及びキトサンの合計100質量%中、キトサンの含有率が20質量%以下であり、多孔質セルロース粒子の表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像において、直径0.05~5μmの細孔が観察され、粒子径が10~200μmの多孔質セルロース粒子の割合が、90質量%以上であることを特徴としている。本開示の多孔質セルロース粒子は、表面に所定の開孔を有しており、かつ、所定の粒径を有する、キトサンを含む多孔質セルロース粒子である。
【0015】
また、このような機能性を発揮する本開示の多孔質セルロース粒子は、後述の通り、多孔質セルロース粒子の製造方法として、例えば、無置換セルロース溶液と、キトサン溶液とを混合した混合溶液を調製する、混合溶液調製工程を備えており、混合溶液の溶媒として、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いる多孔質セルロース粒子の製造方法を採用することにより、好適に製造することができる。
【0016】
以下、本開示の多孔質セルロース粒子及びその製造方法について、詳述する。
【0017】
1.多孔質セルロース粒子
本開示の多孔質セルロース粒子は、無置換のセルロース(以下、単に「無置換セルロース」と表記することがある)とキトサンとを含む。
【0018】
本開示において、無置換のセルロースとは、セルロースが有する水酸基が実質的に置換されていない(すなわち、置換セルロースではない)ことを意味しており、例えば水酸基の置換度が0.05以下のセルロースである。無置換セルロースの重合度としては、特に制限されないが、例えば1000以下であることが好ましい。重合度が1000以下であれば、後述するアルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなり、好ましい。また、無置換セルロースの重合度が10以上であれば、得られる多孔質セルロース粒子の機械的強度が大きくなるため好ましい。無置換セルロースの重合度の好ましい範囲は、10~1000程度である。
【0019】
また、本開示において、キトサンとは、グルコサミンのβ-1,4-脱水縮合ポリマーである。工業的にはカニの甲の成分であるキチンを取り出し、さらにアルカリ加水分解によってアセチル基を加水分解して得るが、通常販売されているキトサンは多かれ少なかれ未反応のアセチル基を残しており、一般には60%以上のアセチルアミノ基をアミノ基に変換したものをキトサンと呼んでいる。そのアセチル基含量、重合度には幅があるが、本開示においては、多孔質セルロースに混合できるキトサンであれば特段の制限はない。ただし、多孔質セルロース粒子からの溶出を抑制する観点から、キトサンの数平均重合度は10以上であることが望ましい。なお、キトサンの数平均重合度の上限については、例えば500以下であり、好ましい範囲としては、50~300が挙げられる。
【0020】
本開示の多孔質セルロース粒子において、無置換セルロース及びキトサンの合計100質量%中、キトサンの含有率が20質量%以下である。本開示においては、キトサンの含有率が20質量%に設定されていることより、表面に所定の開孔を有しており、かつ、所定の粒径を有する多孔質セルロース粒子となる。当該キトサンの含有率は、上限については、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、下限については、好ましくは1質量%以上、よりこのましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲としては、1~20質量%程度、1~15質量%程度、1~10質量%程度、1~8質量%程度、2~20質量%程度、2~15質量%程度、2~10質量%程度、2~8質量%程度、3~20質量%程度、3~15質量%程度、3~10質量%程度、3~8質量%程度が挙げられる。なお、当該キトサン含有率は、純水などで洗浄した多孔質セルロースを乾燥した後に、一般的に行われる焼灼による元素分析を行うことで測定することができる(チッ素含量値に161/14をかければキトサン含有率に換算できる)。
【0021】
本開示の多孔質セルロース粒子は、その表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像において、直径0.05~5μmの細孔が観察される、多孔質である。また、本開示の多孔質セルロース粒子は、粒子径が10~200μmの多孔質セルロース粒子の割合が、90質量%以上である。当該割合の上限は、例えば95質量%以下、98質量%以下、99質量%以下、100質量%以下などが挙げられる。本開示の多孔質セルロース粒子が、粒子径が10~200μm以外の粒子径の多孔質セルロース粒子を含む場合にも、本開示の多孔質セルロース粒子の粒子径は、1~600μm程度の範囲にあることが好ましい。
【0022】
本開示の多孔質セルロース粒子の用途の一つは、この表面に何らかの機能を持った原子団を結合し、選択的分離や反応を行うための担体である。その形態は多くの場合に微粒子であり、カラムに充填してクロマトグラフィーによる分離精製に、あるいは液体中に分散して選択吸着や選択反応をさせることに用いる。この目的のためには、該担体粒子内および内外間の物質の拡散あるいは透過が速やかであることが必要である。そのためには、所定の粒子径を有し、かつ、所定の開口を備えていることが必要である。さらに、多孔質セルロース粒子の内部において、固体よりも空間の比率が圧倒的に大きい構造(例えば、繊維が絡んだような構造)を有することが好ましい。このような構造は、含水状態の多孔質セルロース粒子の固形分含有率が10質量%以下となるような、低密度ゲルとすることで発現する。すなわち、このような構造は、多孔質セルロース粒子の外観は固体粒子であるが、肉眼では観察されない5μm以下の空間がおおよそ90体積%以上を占め、この孔あるいは空間が液体(含水ゲルの場合は水)で満たされるものである。当該固形分含有率は、下限については、例えば1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲については、1~10質量%、3~10質量%が挙げられる。含水状態の多孔質セルロース粒子の固形分含有率は、以下の方法で測定される。
【0023】
(固形分含有率の測定)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロース粒子を、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する(通常、3日以内)。次に、純水中の多孔質セルロース粒子約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤(例えば、ライオン株式会社製の商品名ママレモン)を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上(通常、3日以内)静置してを沈降させる。その後上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーの1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙(例えば、ADVANTEC社製のNo.131 150mm)上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った多孔質セルロース粒子の塊をろ紙から剥がして秤量し、多孔質セルロース粒子の湿潤質量を取得する。次に、この多孔質セルロース粒子を80℃のオーブン中で2時間乾燥させて、乾燥質量を取得する。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
【0024】
本開示の多孔質セルロース粒子は、後述のように、水に分散あるいは浸漬した状態で好適に得られる。本開示の多孔質セルロース粒子は、水中では含水状態であり、含水ゲルを形成している。また、本開示の多孔質セルロース粒子は、通常水湿の状態で保存することができる。
【0025】
水湿の状態で長期保存する場合には、腐敗を防ぐためにアルコールやアジ化ナトリウムなどの防腐剤を加える。また、グリセリンや糖類、尿素などを加えた状態で乾燥、好ましくは凍結乾燥することもできる。
【0026】
また、本開示の多孔質セルロース粒子は、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を発揮することから、例えばサイズ排除クロマトグラフィーに好適に利用することができる。さらに、このことは、とりもなおさず、サイズ排除以外のさまざまのモードによるクロマトグラフィー分離にも利用できることを示す。これらには、イオン交換、疎水性、アフィニティーなどのモードが含まれる。
【0027】
また、本開示の多孔質セルロース粒子に、架橋剤を用いて、セルロースあるいはキトサン鎖間を共有結合により架橋することで、より強度を向上させた分離剤としても利用することができる。
【0028】
本開示の多孔質セルロース粒子や架橋した多孔質セルロース媒体に、アフィニティーリガンドを固定化することにより、吸着体を製造することもできる。この吸着体は、アフィニティークロマトグラフィー用の分離剤としても利用することができる。
【0029】
本開示において、多孔質セルロース粒子の製造方法は、前記の構成を備える本開示の多孔質セルロース粒子が得られることを限度として、特に制限されず、下記の「2.多孔質セルロース粒子の製造方法」に示す製造方法により、好適に製造することができる。
【0030】
2.多孔質セルロース粒子の製造方法
本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法は、無置換のセルロース溶液と、キトサン溶液とを混合した混合溶液を調製する、混合溶液調製工程を備えており、混合溶液の溶媒として、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いることを特徴とする。無置換セルロース及びキトサン等の詳細については、前述の「1.多孔質セルロース粒子」の欄に説明した通りである。
【0031】
(混合溶液調製工程)
混合溶液調製工程は、無置換セルロース溶液と、キトサン溶液とを混合した混合溶液を調製する工程である。
【0032】
無置換セルロース溶液は、無置換セルロースを溶解できる溶媒を用いて調製したものである。また、キトサン溶液は、キトサンを溶解できる溶媒を用いて調製したものである。無置換セルロースが、水酸化アルカリ水溶液、水酸化アルカリ-尿素系水溶液(例えば、尿素、チオ尿素などを含む、尿素-水酸化アルカリ水溶液)によく溶解することは知られている。これに対して、アミノ基を持ち、塩基性であるキトサンは通常このような水溶液には溶けない。しかし、キトサンは、等量前後の酸を含む水には溶解し、ここに所定量の水酸化アルカリと尿素を加え、撹拌しながら冷却(好ましくは-10℃から-15℃程度)し、その後室温に戻しつつ撹拌を続けるとややチクソトロピー性を持ちつつ、ほぼ均一なキトサン溶液となる。この操作を繰り返すと溶液は徐々に均一なキトサン溶液が得られる。よって、本開示においては、無置換セルロース溶液及びキトサン溶液の溶媒として、共に、水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いることが好ましく、これにより、混合溶液の溶媒として水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液を用いることができる。
【0033】
すなわち、本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、混合溶液調製工程は、キトサンを酸含有水溶液に溶解し、さらに水酸化アルカリ及び尿素を混合して、キトサン溶液を得る工程と、無置換のセルロース、水酸化アルカリ、尿素、及び水を混合して、前記無置換のセルロース溶液を得る工程と、-10℃以下(好ましくは-10℃から-15℃程度)の温度に冷却された前記キトサン溶液と、前記無置換のセルロース溶液と混合する工程とを備えていることが好ましい。
【0034】
水酸化アルカリ及び尿素を含む水溶液の具体例としては、水酸化アルカリの7~10質量%と、尿素(チオ尿素であってもよい。以下、同様)を5~15質量%含む水溶液(尿素-水酸化アルカリ水溶液)である。水酸化アルカリとして、無置換セルロースやキトサンの溶解性の良さにおいては水酸化リチウムおよび水酸化ナトリウムが好ましく、原料コストの観点から好ましいのは水酸化ナトリウムである。この水酸化アルカリ水溶液を基本とする溶媒では、溶質(無置換セルロース、キトサン)と溶媒とを好ましくは撹拌しながら-10℃~-15℃付近まで冷却した後、常温にもどす操作を1回あるいは複数回行うことによって、流動性の溶液となる。さらに不溶物が残って最終製品の機能によくない影響を及ぼすような場合には、ろ過や遠心分離によって不溶物を取り除くことができる。
【0035】
無置換セルロース溶液とは、無置換セルロースを含む液体であって、流動性を示し、キトサン溶液と混合された混合溶液として凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとキトサンとが相溶した状態で固体化するものを指し、無置換セルロース溶液中において、無置換セルロース分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、無置換セルロース溶液とは、無置換セルロースを含む液体であることを意味し、無置換セルロースが液体中に分散している分散液と、無置換セルロースが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、無置換セルロース溶液を調製する場合、無置換セルロース溶液に無置換セルロースが含まれていればよく、その形態については、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0036】
また、キトサン溶液についても、同様であり、キトサン溶液とは、キトサンを含む液体であって、流動性を示し、無置換セルロース溶液と混合された混合溶液として凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとキトサンとが相溶した状態で固体化するものを指し、キトサン溶液中において、キトサン分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、キトサン溶液とは、キトサンを含む液体であることを意味し、キトサンが液体中に分散している分散液と、キトサンが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、キトサン溶液を調製する場合、キトサン溶液にキトサンが含まれていればよく、その形態については、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0037】
また、混合溶液についても、同様であり、混合溶液とは、無置換セルロース及びキトサンを含む液体であって、流動性を示し、混合溶液が凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとキトサンとが相溶した状態で固体化するものを指し、混合溶液中において、無置換セルロース分子及びキトサン分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、混合溶液とは、無置換セルロース及びキトサンを含む液体であることを意味し、無置換セルロース又はキトサンが液体中に分散している分散液と、無置換セルロース又はキトサンが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、混合溶液中における無置換セルロース及びキトサンの形態については、それぞれ、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0038】
以下、溶媒が尿素-水酸化アルカリ水溶液である場合を例にとって、セルロース溶液の調製法を具体的に説明する。キトサン溶液についても、溶質としてキトサンを用いて、同様にキトサン溶液を調製することができる。ただし、キトサン溶液については、前述の通り、キトサンを酸含有水溶液に溶解した後、さらに水酸化アルカリ及び尿素を混合して、キトサン溶液を得ることが望ましい。酸含有水溶液の酸性分は塩化水素、酢酸、ギ酸、硝酸、トリフルオロ酢酸など、いかなるものであっても良い。この次の工程において、この酸を完全に中和し、過剰の水酸化アルカリを必要とするため、酸の量はキトサンのアミノ基に対して等量以下、キトサンを溶解するために必要な最小限量とすることが好ましい。
【0039】
水酸化アルカリ水溶液に含まれるアルカリは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化四級アンモニウムが好ましく、製品安全性、価格、溶解あるいは分散の良さの面から水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0040】
前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度に特に限定は無いが、酸との中和によって消費される部分を除いて3~20質量%であることが好ましい。アルカリの濃度がこの範囲であれば、無置換セルロースのアルカリ水溶液への分散性・膨潤性、溶解性が高くなるため好ましい。より好ましいアルカリの濃度は5~15質量%であり、さらに好ましくは6~10質量%である。
【0041】
上記アルカリ水溶液にさらに尿素を加える。尿素の濃度は10~15質量%が好ましい。水に三成分(セルロース、水酸化アルカリ、尿素)を加えるが、添加順序はセルロースの溶解状態を最適化するために、適切に選ぶ。こうして得られたスラリーを後に述べる条件で冷却することにより、全成分を添加した直後よりも透明な無置換セルロース溶液が得られる。
【0042】
前述のとおり、無置換セルロースの重合度が1000以下であれば、アルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなり、好ましい。その他、溶解性が向上された無置換セルロースの例としては、溶解パルプも挙げられる。
【0043】
アルカリ水溶液と無置換セルロースとの混合条件は、無置換セルロース溶液が得られれば特に制限されない。例えば、アルカリ水溶液に無置換セルロースを加えてもよいし、無置換セルロースにアルカリ水溶液を加えてもよい。キトサン溶液を調製する場合にも、アルカリ水溶液と、キトサンを酸含有水溶液に溶解した水溶液との混合条件は、キトサン溶液が得られれば特に制限されず、アルカリ水溶液に、キトサンを酸含有水溶液に溶解した水溶液を加えてもよいし、キトサンを酸含有水溶液に溶解した水溶液に、アルカリ水溶液を加えてもよい。
【0044】
無置換セルロースは、アルカリ水溶液と混合する前に、水に懸濁させておいてもよい。
【0045】
また、無置換セルロース溶液中の無置換セルロースの濃度は、後述する混合溶液中の含有率となるように適切に設定されれば特に制限されず、例えば1~10質量%程度が挙げられる。また、キトサン溶液中のキトサンの濃度についても、後述する混合溶液中の含有率となるように適切に設定されれば特に制限されず、例えば1~10質量%程度が挙げられる。
【0046】
無置換セルロース溶液を調製する際の温度としては、特に制限されないが、例えば、無置換セルロースと尿素を含むアルカリ水溶液とを室温で混合し、撹拌しながら低温に冷却し、その後扱いやすい温度に戻すことにより無置換セルロース溶液が好適に形成される。低温に冷却する際の温度としては、例えば0℃ないし-30℃、好ましくは-5℃ないし-15℃程度が挙げられる。キトサン溶液を調製する際の温度についても同様である。
【0047】
無置換セルロース溶液とキトサン溶液とを混合することによって、混合溶液が調製される。無置換セルロース溶液とキトサン溶液とを混合比は、後述する混合溶液中の含有率となるように調整する。無置換セルロース溶液とキトサン溶液とを混合する場合、無置換セルロース溶液とキトサン溶液とが混合されて一相の混合溶液となるよう十分に撹拌することが好ましい。
【0048】
混合溶液において、キトサン及び無置換セルロースの合計100質量%中、キトサンの含有率は20質量%以下であることが好ましい。混合溶液において、当該キトサンの含有率が20質量%に設定されていることより、所定の粒子径及び所定の開口を有する多孔質セルロース粒子が好適に得られる。これらの特性をより好適に発揮する観点から、混合溶液中における当該キトサンの含有率は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、下限については、好ましくは1質量%以上、よりこのましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲としては、1~20質量%程度、1~15質量%程度、1~10質量%程度、1~8質量%程度、2~20質量%程度、2~15質量%程度、2~10質量%程度、2~8質量%程度、3~20質量%程度、3~15質量%程度、3~10質量%程度、3~8質量%程度が挙げられる。
【0049】
また、混合溶液中のキトサン及び無置換セルロースの合計濃度としては、1~10質量%であることが好ましい。1質量%以上であれば、得られる多孔質セルロース粒子の機械的強度が大きくなるため好ましく、10質量%以下であれば、混合溶液の粘度が低く、例えば前述した所定の粒子径となるようにしてスプレーノズルからの噴霧することが容易になるため好ましい。混合溶液におけるこれら合計濃度としては、より好ましくは2~6質量%、さらに好ましくは3~5質量%が挙げられる。なお、この混合溶液中の合計濃度には、溶解・分散・膨潤しきれず均一にならなかった成分を含めない。
【0050】
(凝固工程)
本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法において、混合溶液調製工程の後、混合溶液を凝固溶媒に接触させる凝固工程を行う。混合溶液を凝固溶媒に接触させることにより、混合溶液中の無置換セルロース溶液及びキトサンを相溶状態で凝固させて、多孔質セルロース粒子を得る。
【0051】
ここにいう凝固溶媒との接触の具体的な態様は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。凝固工程において、多孔質セルロース粒子を得る代表的な方法は、比較的粘度が高く、混合溶液に混和しない液体(例えば流動パラフィンやフルオロルーブ等)の中に、混合溶液を、必要に応じて適当な分散剤とともに撹拌、分散させ、得られた分散液とに凝固溶媒(分散液と混合することによって無置換セルロースおよびキトサンを沈殿させるような溶媒)を撹拌しながら加えて行く方法がある。
【0052】
また、混合溶液をスプレーやノズルなどを用いて気体中の液滴とし、これを凝固溶媒に落とすことも可能である。すなわち、この方法で多孔質セルロース粒子を調製する場合、凝固工程は、混合溶液を気体中の微小液滴とした後、微小液滴を凝固溶媒に吸収させる工程とすることができる。また、混合溶液を糸状に押し出して凝固溶媒中に入れ、凝固させたのち、切断あるいは破砕して無定形の粒子にすることもできる。
【0053】
凝固溶媒は、該混合溶液から無置換セルロース及びキトサンを沈殿させるものであれば、特に制限されず、メタノール、エタノール、アセトンのような有機溶媒、水、食塩など塩類を溶かした水、該混合溶液が水酸化アルカリを含む場合には酸を含む水などが例示できる。
【0054】
得られた粒子は、そのまま洗浄して利用することもできるが、使用中に不要な成分が溶出することを避けるには、少なくとも一度以上、酸水溶液で洗浄することが望ましい。すなわち、本開示においては、混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程で得られた多孔質セルロース粒子を、酸で洗浄する酸洗浄工程をさらに備えていてもよい。酸洗浄工程の後においても、本開示の多孔質セルロース粒子の製造方法においては、前記のキトサン含有率が1質量%以上20質量%以下である多孔質セルロース粒子を好適に製造することができる。なお、酸洗浄工程後においても、多孔質セルロース粒子中の好ましいキトサンの含有率は、「1.多孔質セルロース粒子」の欄に記載した値と同じ値である。酸洗浄条件は、室温(25℃)環境において、篩の上から水を自然流下させて後に含水ケーキ状となった多孔質セルロース粒子3gを塩酸(0.1NHCl)10mLで3回洗浄し(1回の洗浄は約1時間)、水5mLでの洗浄1回(1回の洗浄は約1時間)と、炭酸カリウム0.2gを水5mLに溶かした液での洗浄1回(1回の洗浄は約1時間)と、水10mLで2回洗浄(1回の洗浄は約1時間)する条件である。なお、このような操作を行えば、酸可溶性のキトサンは全て洗い出されても不思議はないが、本開示の多孔質セルロース粒子においては、キトサンがセルロースとほぼ同一の骨格を持ち、部分的にセルロース分子の凝集体中に組み込まれることにより、酸水溶液で洗浄してもキトサンの溶出が抑制されているといえる。
【0055】
水湿の状態で長期保存する場合には、腐敗を防ぐためにアルコールやアジ化ナトリウムなどの防腐剤を加える。また、グリセリンや糖類、尿素などを加えた状態で乾燥、好ましくは凍結乾燥することもできる。
【実施例
【0056】
以下に、実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。ただし、各実施例における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施例によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0057】
<実施例1>
(キトサン溶液の調製)
キトサン(和光純薬工業製 キトサン100)0.87gを水13.84gに分散し、ここに塩酸(1NHCl)6.25gを加えて撹拌し、透明な高粘性液を得た。さらにこれに水酸化ナトリウム2.39gを水2.06gに溶かした液を少しずつ加えると沈殿を生じて濁り、流動性を失った。ここに尿素6.42gを加え撹拌すると、やや透明感を増した。この液に対し、ドライアイス上で一部が白色結晶化するまで冷却、室温に戻し撹拌する操作を3回繰り返すと、おおむね透明でチクソ性のある液となった。
【0058】
(無置換セルロース溶液の調製)
フラスコの中で水808.05gに水酸化ナトリウム70.35gを溶解、室温に冷却したのち、撹拌しながらこの中に粉末セルロース(無置換セルロース 旭化成 セオラスPH101)42.11gを分散させた。更に尿素 120.05gを加えて溶かしたのち、撹拌しながら約1時間をかけて-15℃まで冷却、その後、水浴を用いて室温まで温めると、ほぼ透明な溶液となった。なお、粉末セルロースの含水率が4.25質量%であったことから、溶媒系は合計1000.24g、無置換セルロース40.32g、外割無置換セルロース濃度は4.0質量%、内割無置換セルロース濃度は3.85質量%であった。
【0059】
(混合溶液の調製)
前記で調製した無置換セルロース溶液90gとキトサン溶液10gを混合、撹拌すると均一に混和した混合溶液が得られた。
【0060】
(微粒子化)
得られた混合溶液をスプレーして霧状とし、メタノールに吸収させると、懸濁状態の微粉末が得られた。酢酸を加えてメタノール液を中性とし、微粉末をろ別、これを繰り返し水洗することにより、キトサンが含まれる多孔質セルロース粒子(微粒子)を得た。
【0061】
(酸洗浄)
水に分散した状態の得られた多孔質セルロース粒子の適量を20μmの篩に入れ、水を自然流下させた。篩上に残った含水ケーキ状のセルロース粒子3gを採り、塩酸(0.1NHCl)10mLで3回(1回の洗浄は約1時間)、水5mL、炭酸カリウム0.2gを水5mLに溶かした液、水10mLで2回洗浄した。酸洗浄前後の試料を乾燥後、元素分析を行ったところ、N含量は酸洗浄前試料が0.53質量%、酸洗浄後が0.52質量%であった。N含量0.52質量%は、キトサン含量に換算すれば6.0質量%となる。原液中のキトサンと無置換セルロースの混合比はキトサン7.3質量%であるため、原料として使用したキトサンの8割程度が、多孔質セルロース粒子に含まれていることになる。なお、元素分析はJ-Science Lab Co. Ltd.製 JM10 Micro Corder を用いて行った。
【0062】
(光学顕微鏡観察)
得られた多孔質セルロース粒子を、炭酸水素ナトリウムを含む純水50mLで1hr洗浄、純水で2回リンスしたものを、水中、200μmの篩を通すことによって少量の塊状物を除き、さらに10μmの篩を用いて、これ以下の小粒子を除、多孔質セルロース粒子の粒子径を10~200μmの範囲に調整した。得られた粒子を水中、透過光により光学顕微鏡で観察した。生成物はほぼ球形であり、径10~100μmの粒子が主であった(図1の画像)。
【0063】
(SEM観察)
得られた多孔質セルロース粒子の少量を水に分散し、液体窒素で冷却した金属容器に滴下して凍結した後、凍結真空乾燥した。得られた粉末に白金を蒸着した後、走査型電子顕微鏡(HITACHI SU5000)で観察すると(加速電圧 3kV)、0.05~5μmの範囲の細孔が表面に開孔した多孔質構造が確認された。各倍率(250倍、1200倍、2万倍、及び10万倍)で観察された画像を図2に示す。
【0064】
(固形分含有率)
実施例1で得られた含水状態の多孔質セルロース粒子について、次の方法で固形分含有率を測定したところ、固形分含有率は5.3質量%であった。純水中に沈降した状態の多孔質セルロース粒子を、大気圧下、温度25℃の環境で1日静置した。次に、純水中の多孔質セルロース粒子約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤(ライオン株式会社製の商品名ママレモン)を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日静置して粒子を沈降させた。その後上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーの1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙(ADVANTEC社製のNo.131 150mm)上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った多孔質セルロース粒子の塊をろ紙から剥がして秤量し、多孔質セルロース粒子の湿潤質量を取得した。次に、この多孔質セルロース粒子を80℃のオーブン中で2時間乾燥させて、乾燥質量を取得した。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とした。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同様にして調製した無置換セルロース溶液9.5質量部と、キトサン溶液0.5質量部を混合し、一部を、約200mLのメタノールを強く撹拌する中にスプーンで加えると塊状の沈殿を生じた。
【0066】
次に、これを刃状の回転翼を有する高速撹拌機によって撹拌することにより、微細な粉体を含むスラリーを得た。このスラリーは大過剰のドライアイスで中和したのち、水で十分に洗浄し、さらにメタノールで2回洗浄、風乾後真空乾燥(80℃)した。更にこの沈殿部分約1mLを、塩酸(1NHCl)10mLを水55mLで稀釈したもの、同じく5mLを水50mLで稀釈したもので、それぞれ30分、純水50mLで5分、100mgの炭酸水素ナトリウムを含む純水50mLで1hr洗浄、純水で2回リンス、メタノール20mLで2回リンスした後、風乾、真空乾燥(80℃)した。酸洗浄前後の多孔質セルロース粒子それぞれを水から乾燥し、元素分析したところ、それぞれ、チッ素含量は0.37質量%および0.28質量%であった。酸洗浄後の固形分中のチッ素含量0.28%は、キトサン含量に換算すれば3.2質量%である。もともと混合したキトサンの全量(セルロースおよびキトサンの合計質量の4.42質量%)が残留すればチッ素含量0.38質量%が推定される。これより、酸洗浄前の多孔質セルロース粒子1は、ほぼ全量のキトサンを、酸洗浄後の多孔質セルロース粒子2は約74質量%キトサンを保持している。
【0067】
(光学顕微鏡観察)
得られた多孔質セルロース粒子を、炭酸水素ナトリウムを含む純水50mLで1hr洗浄、純水で2回リンスしたものを、水中、200μmの篩を通すことによって少量の塊状物を除き、さらに10μmの篩を用いて、これ以下の小粒子を除き、多孔質セルロース粒子の粒子径を10~200μmの範囲に調整した。得られた粒子を水中、透過光により光学顕微鏡で観察した。生成物は無定形であり、長径約30μmの粒子が主であった。(図3の画像)
【0068】
(SEM観察)
得られた多孔質セルロース粒子について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で観察すると、0.05~5μmの範囲の細孔が表面に開孔した多孔質構造が確認された。
【0069】
(固形分含有率)
実施例2で得られた多孔質セルロース粒子に対して、実施例1と同様の方法で水を含浸させたところ、固形分含有率は4.9質量%であった。
図1
図2
図3