(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)バリアント及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6813 20180101AFI20250114BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250114BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20250114BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250114BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250114BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869
G01N33/53 M
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021547854
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 US2020017267
(87)【国際公開番号】W WO2020171982
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-27
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バックマン、ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】バラス、アリス
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】Current Vascular Pharmacology,2009年,Vol.7, No.3,pp.1-6,DOI: 10.2174/157016109788340758
【文献】Circulation,2018年,Vol.138,pp.2869-2880,DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.035584
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/53
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈瘤を発症するリスクが高いヒト対象を同定する方法であって、
前記方法は、
前記対象から得た生物学的試料における:
ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)予測機能喪失バリアント
(predicted loss-of-function variant)ゲノム核酸分子;
PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子;
前記mRNA分子から生成したPIEZO1
予測機能喪失バリアントcDNA分子;または
PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチド、
の有無を決定す
ることを含み;
前記PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチド
が存在していないことは、前記対象が、静脈瘤を発症するリスクが高くないことを示
し;
前記PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチド
が存在
していることは、前記対象が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示
し、
前記PIEZO1予測機能喪失バリアントが、16:88715629:G:A、16:88715728:G:T、16:88715767:G:A、16:88715802:C:A、16:88715822:D:4、16:88715987:I:1、16:88716359:A:G、16:88716570:C:T、16:88716874:G:A、16:88717213:T:A、16:88719588:G:A、16:88719722:C:G、16:88719870:G:T、16:88720068:D:2、16:88720229:C:A、16:88720248:D:4、16:88720394:C:T、16:88720644:D:1、16:88720698:D:1、16:88720698:I:1、16:88721165:C:A、16:88721268:D:1、16:88721307:G:A、16:88721586:G:C、16:88721652:G:C、16:88722217:C:T、16:88722605:I:1、16:88723005:I:7、16:88723253:G:A、16:88723311:C:T、16:88725081:C:A、16:88726282:G:A、16:88726546:C:T、16:88726619:G:A、16:88726924:G:A、16:88727038:C:T、16:88727072:D:1、16:88727163:G:A、16:88731768:D:1、16:88732334:C:G、16:88732411:D:1、16:88732720:D:1、16:88733326:G:C、16:88733337:D:4、16:88733587:C:A、16:88733965:D:1、16:88734017:C:A、16:88734042:I:1、16:88734679:C:T、16:88734909:I:1、16:88736167:D:2、16:88736324:G:A、16:88736391:G:T、16:88736409:C:T、16:88736671:G:A、16:88737557:A:C、16:88737727:C:G、16:88737815:C:T、16:88738283:G:C、16:88738637:G:A、16:88738735:D:1、16:88741477:C:T、16:88742306:D:1、16:88749399:G:A、または16:88784929:C:T、から選択される方法。
【請求項2】
前記決定
することは、インビトロで
実施される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定
することは、前記生物学的試料での前記PIEZO1核酸分子のヌクレオチド配列の少なくとも一部を配列決定することを含み、前記配列決定した部分は、予測機能喪失バリアント位置に対応する位置を含み、前記予測機能喪失バリアント位置にあるバリアントヌクレオチドを検出する場合、前記生物学的試料での前記PIEZO1核酸分子は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子である、請求項1
または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定
することは:
a)前記生物学的試料を、予測機能喪失バリアント位置に近接する前記PIEZO1核酸分子のヌクレオチド配列の一部にハイブリダイズするプライマーと接触させること;
b)前記プライマーを、少なくとも前記予測機能喪失バリアント位置まで伸長させること;及び
c)前記プライマーの伸長産物が、前記予測機能喪失バリアント位置にバリアントヌクレオチドを含むか否かを決定すること、
を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記決定
することは、核酸分子全体を配列決定することを含む、請求項
3または請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記決定
することは:
a)前記ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードする前記PIEZO1核酸分子の少なくとも一部分を増幅することであって、前記
一部分は、予測機能喪失バリアント位置を含む、前記増幅すること;
b)増幅した前記核酸分子を、検出可能な標識で標識すること;
c)標識した前記核酸分子を、改変特異的プローブを含む支持体と接触させることであって、前記改変特異的プローブは、ストリンジェントな条件下で、前記予測機能喪失バリアント位置にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む、前記接触させること;及び
d)検出可能な前記標識を検出すること、
を含む、請求項1
または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記
生物学的試料
における前記
PIEZO1核酸分子が、mRNAであ
り、前記mRNAを、前記増幅
するステップの前に、cDNAに逆転写する、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記決定
することは:
前記生物学的試料での前記
PIEZO1核酸分子を、検出可能な標識を含む改変特異的プローブと接触させること
であって、前記改変特異的プローブは、ストリンジェントな条件下で、予測機能喪失バリアント位置にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む
、前記接触させること;及び
検出可能な前記標識を検出すること、
を含む、請求項
6または請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
静脈瘤を治療または阻害する治療薬であって、静脈瘤に罹患している、または静脈瘤を発症するリスクが高い患者を治療するための治療薬において、
前記患者は、
前記患者から生物学的試料を入手する、または入手しておくステップ;及び
前記生物学的試料に関して遺伝子型決定アッセイを行って、前記患者が、ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)予測機能喪失バリアント核酸分子を含む遺伝子型を有するか
どうかを決定するステップを含む方法によって、
同患者がヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有する
ことが決定されており、
前記ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有する遺伝子型が存在することは、前記患者が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示し
、かつ
前記患者がPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であると決定されている場合には、前記治療薬は標準投与量と同量またはそれを超える量で同患者に投与される、または投与され続けられるものであり、
前記PIEZO1予測機能喪失バリアントが、16:88715629:G:A、16:88715728:G:T、16:88715767:G:A、16:88715802:C:A、16:88715822:D:4、16:88715987:I:1、16:88716359:A:G、16:88716570:C:T、16:88716874:G:A、16:88717213:T:A、16:88719588:G:A、16:88719722:C:G、16:88719870:G:T、16:88720068:D:2、16:88720229:C:A、16:88720248:D:4、16:88720394:C:T、16:88720644:D:1、16:88720698:D:1、16:88720698:I:1、16:88721165:C:A、16:88721268:D:1、16:88721307:G:A、16:88721586:G:C、16:88721652:G:C、16:88722217:C:T、16:88722605:I:1、16:88723005:I:7、16:88723253:G:A、16:88723311:C:T、16:88725081:C:A、16:88726282:G:A、16:88726546:C:T、16:88726619:G:A、16:88726924:G:A、16:88727038:C:T、16:88727072:D:1、16:88727163:G:A、16:88731768:D:1、16:88732334:C:G、16:88732411:D:1、16:88732720:D:1、16:88733326:G:C、16:88733337:D:4、16:88733587:C:A、16:88733965:D:1、16:88734017:C:A、16:88734042:I:1、16:88734679:C:T、16:88734909:I:1、16:88736167:D:2、16:88736324:G:A、16:88736391:G:T、16:88736409:C:T、16:88736671:G:A、16:88737557:A:C、16:88737727:C:G、16:88737815:C:T、16:88738283:G:C、16:88738637:G:A、16:88738735:D:1、16:88741477:C:T、16:88742306:D:1、16:88749399:G:A、または16:88784929:C:T、から選択される、治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、静脈瘤を有する患者を治療する方法、静脈瘤を発症するリスクが高い対象を同定する方法、及びヒト対象での静脈瘤を診断する方法であって、当該患者または対象に由来する生物学的試料でのPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子及びポリペプチドの存在を検出することを含む、当該方法を提供する。
【0002】
配列表の参照
本出願は、2020年2月5日に作成した、名称が18923802502SEQである、132キロバイトのサイズのテキストファイルで電子的に提出した配列表を含む。この配列表を、参照により、本明細書で援用する。
【背景技術】
【0003】
静脈瘤とは、一般的な多因子性疾患であり、遺伝的要因の大半は未解明であり、慢性静脈不全患者に認められることが多く、慢性静脈疾患として分類されている。静脈弁の機能不全は、静脈瘤、静脈性高血圧、及び血栓症に関連している。幾つかのプロセス、例えば、血流力の変化、内皮活性化、炎症、低酸素症、ならびに、マトリックスメタロプロテイナーゼ、及びそれらの組織阻害剤の調節不全などが、静脈瘤の発達に関連している。静脈瘤のリスク因子として、加齢、女性であること、妊娠回数、肥満、深部静脈血栓症の病歴、及び立ち仕事の職業がある。静脈瘤は、不十分なリンパ排出と慢性静脈不全とも関連している。加えて、幾つかのゲノムワイド関連解析(GWAS)は、約18.5%という静脈瘤の遺伝率を示した。
【0004】
PIEZO1は、16q24.3に位置する70kbの遺伝子がコードしており、そして、5つの潜在的なアイソフォームで存在する。PIEZO1タンパク質は、長さが、2,521個のアミノ酸であり、そして、38回膜貫通ドメインを含み、かつ、ホモ四量体として機能する286kDaの膜貫通タンパク質でもある。PIEZO1は、進化的に保存した内皮機械感受性カチオンチャネルをコードしており、これにより、ルテニウムレッド及びガドリニウムに反応する線形の電流-電圧関係を特徴とする電流を発生させる。PIEZO1は、遍在的に発現しており、そして、小胞体へのR-Rasの動員、おそらくは、その活性化状態と、その後のカルパインシグナル伝達の刺激とによって、インテグリンの活性化を維持して、上皮細胞の接着での役割を果たす。血管系において、PIEZO1は、内皮細胞の遊走と、血管新生の発芽とに関係している。具体的には、PIEZO1は、血流に関連する剪断応力のセンサーとして機能しており、また、内皮細胞を組織化し、そして、血流に沿ったアラインメントを形成することで、適切な血管形成、リモデリング、及び成熟を確かなものにする。PIEZO1は、リンパ弁の形成にも必要である。報告されたその他の機能として、血圧調節、尿浸透圧、赤血球の完全性、圧力感知、及び集合管浸透圧の調節がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、静脈瘤を発症するリスクが高いヒト対象を同定する方法を提供しており、この方法は、対象から得た生物学的試料における:ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子;PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子;当該mRNA分子から生成したPIEZO1機能喪失バリアントcDNA分子;またはPIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドの有無を決定する、または決定していることを含み;PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドの不存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高くないことを示す;及びPIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドの存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。
【0006】
本開示は、ヒト対象での静脈瘤を診断する方法も提供しており、対象から得た試料における:ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子;PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子;当該mRNA分子から生成したPIEZO1機能喪失バリアントcDNA分子;またはPIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドの有無を検出することを含み;対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドを有しており、そして、静脈瘤の1つ以上の症状を有しておれば、対象が、静脈瘤を有するものと診断する。
【0007】
本開示は、静脈瘤を治療または阻害する治療薬で患者を治療する方法も提供しており、患者は、静脈瘤に罹患している、または静脈瘤を発症するリスクが高く、当該方法は:患者から生物学的試料を入手する、または入手しておく;及び生物学的試料に関して遺伝子型決定アッセイをして、またはしておいて、患者が、ピエゾ型機械感受性イオンチャネル成分1(PIEZO1)予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子を含む遺伝子型を有するか否かを決定することによって、患者が、ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有するか否かを決定するステップを含み;及び患者が、PIEZO1関連性を有しておれば、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準的な投与量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;及び患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であれば、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準投与量と同量またはそれを超える量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有する遺伝子型の存在は、患者が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。
【0008】
本明細書で援用し、かつ、本明細書の一部を構成する添付図面は、幾つかの態様を例示するものであり、そして、詳細な説明を併せ読むことで、本開示の原理の理解を深められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】UKB 50k WESでの個人ペアに関して共有するIBDの代表的な分布を示す;UKB 50kエクソーム参加者のすべてのペアでの対立遺伝子を持たない同祖性(IBD)を有するWES遺伝子型と、1つの対立遺伝子IBDを有するWES遺伝子型との推定比率。
【
図2】すべての常染色体バリアントに関して、そして、機能予測によって認められた部位周波数スペクトル(SFS)を示す;UKB 50kエクソームは、横軸に示した個体数に対して無作為にダウンサンプリングした;凡例に示すように、少なくとも明示したLOFs AAF<1%の数を含む遺伝子の数を、縦軸にプロットしている;常染色体遺伝子の最大数は、18,272である。
【
図3-1】UK Biobank 500k及び50kの大陸祖先を示す;UK Biobank Data Showcaseから入手可能なn=488,377の主成分1及び2;事前に定めたプロットの3つの領域は、アフリカ(青色)、東アジア(緑色)、及び欧州(赤色)に祖先を持つことを表している。
【
図3-2】UK Biobank 500k及び50kの大陸祖先を示す;UK Biobank Data Showcaseから入手可能なn=488,377の主成分1及び2;事前に定めたプロットの3つの領域は、アフリカ(青色)、東アジア(緑色)、及び欧州(赤色)に祖先を持つことを表している。
【
図4】PIEZO1での65個のpLOFバリアントに関する単一点と集計結果とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の態様に関する様々な用語を、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通じて使用している。そのような用語は、特に断りがない限り、当該技術分野における通常の意味を付与するものとする。その他の具体的に定義した用語は、本明細書で提供されている定義と一致するように解釈するものとする。
【0011】
特に断りがない限り、本明細書に記載しているあらゆる方法または態様も、そのステップが、特定の順序で行うことを必要としているものと解釈することは、全く意図していない。したがって、方法の請求項が、特許請求の範囲または詳細な説明において、ステップを特定の順序に限定すべきであるとの具体的な記載が無い限りは、順序を推察することは、あらゆる点において、全く意図していない。このことは、ステップもしくは操作上の流れの配置に関する論理の問題、文法構成もしくは句読点に由来する明白な意味、または本明細書に記載している態様の個数もしくは種類を含めて、解釈について考え得る不明確な基準に対しても当てはまる。
【0012】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈で明確に断りがない限り、複数の指示対象を含む。
本明細書で使用する用語「対象」及び「患者」は、互換可能に使用する。対象は、哺乳類を含む任意の動物を含み得る。哺乳類として、家畜(例えば、ウマ、ウシ、ブタなど)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ)、及び非ヒト霊長類があるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0013】
本明細書で使用する「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、または「オリゴヌクレオチド」は、あらゆる長さのヌクレオチドの高分子形態を含むことができ、DNA及び/またはRNAを含むことができ、そして、一本鎖、二本鎖、または多重鎖とすることができる。核酸の一本鎖は、その相補体のことをも指す。
【0014】
本明細書で使用する用語「含む(comprising)」は、特定の実施形態では、必要に応じて、「からなる(consisting)」または「本質的にからなる(consisting essentially of)」と交換し得る。
【0015】
本明細書で使用する語句「に相当する(corresponding to)」または文法的なその変形は、特定のアミノ酸またはヌクレオチド配列、もしくは、位置に番号付与をする状況下で使用する場合に、特定のアミノ酸またはヌクレオチド配列を、リファレンス配列(例えば、本明細書のリファレンス配列は、(野生型)PIEZO1の核酸分子またはポリペプチドである)と比較する場合には、特定のリファレンス配列における番号付与のことを指す。換言すれば、特定のポリマーの残基(例えば、アミノ酸またはヌクレオチド)の数または残基(例えば、アミノ酸、またはヌクレオチド)の位置は、特定のアミノ酸または核酸配列の範囲内にある残基の実際の数的位置ではなく、リファレンス配列に関して指定されるものである。例えば、特定のアミノ酸配列は、ギャップを導入して2つの配列間での残基の一致を最適化することで、リファレンス配列に対してアラインメントを行うことができる。これらの事例では、ギャップが存在していても、特定のアミノ酸配列または核酸配列における残基への番号付与は、アラインメントしているリファレンス配列に対して行われる。
【0016】
本開示に従い、PIEZO1での特定の変化は、静脈瘤を発症するリスクと関連していることが認められている。PIEZO1遺伝子またはタンパク質のバリアントは、ヒトの静脈瘤に対する公知のいかなる関連性をも有していない、と考えられている。したがって、静脈瘤に関連するPIEZO1改変を有するヒト対象は、静脈瘤を阻害し、その症状を軽減し、及び/または症状の発症を抑制するように治療し得る。したがって、本開示は、対象が有するかようなバリアントの同定を活用して、そのような対象において、静脈瘤を発症するリスクを同定または層別化する方法、もしくは、リスクのある対象または活動性疾患のある対象を治療し得るようにするために、静脈瘤を有する対象を診断する方法を提供する。
【0017】
本開示の目的のために、特定のヒトを、3つのPIEZO1遺伝子型:i)PIEZO1関連性;ii)PIEZO1予測機能喪失バリアントに関するヘテロ接合性;及びiii)PIEZO1予測機能喪失バリアントに関するホモ接合性の内の1つを有するものとして分類することができる。ヒトが、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子のコピーを有していない場合、当該ヒトは、PIEZO1関連性である。ヒトが、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子の単一のコピーを有する場合、当該ヒトは、PIEZO1予測機能喪失バリアントに関してヘテロ接合性である。PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子は、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、部分的な予測機能喪失、または完全な予測機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドをコードするあらゆるPIEZO1核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子)である。部分的な機能喪失(または部分的な予測機能喪失)を有するPIEZO1ポリペプチドを有するヒトは、PIEZO1に関して低形質である。PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子は、本明細書に記載したあらゆるバリアント核酸分子とすることができる。ヒトが、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子のいずれかの2つのコピーを有する場合、当該ヒトは、PIEZO1予測機能喪失バリアントに関してホモ接合性である。
【0018】
PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関する遺伝子型を決定している、またはヘテロ接合性またはホモ接合性であると決定しているヒト対象または患者の場合、そのようなヒト対象または患者は、静脈瘤を発症するリスクが高い。PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関する遺伝子型を決定している、またはヘテロ接合性またはホモ接合性であると決定しているヒト対象または患者の場合、そのようなヒト対象または患者は、静脈瘤を治療する上で有効な薬剤で治療することができる。
【0019】
本開示は、静脈瘤を発症するリスクが高いヒト対象を同定する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た生物学的試料におけるPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、及び/またはcDNA分子など)またはポリペプチドの有無を決定する、または決定していることを含み;PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子またはポリペプチドの不存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高くないことを示す;及びPIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドの存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。
【0020】
また、本開示は、静脈瘤を発症するリスクが高いヒト対象を同定する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た生物学的試料における:i)PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子;ii)PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子;iii)当該mRNA分子から生成したPIEZO1予測機能喪失バリアントcDNA分子、またはiv)PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドの有無を決定する、または決定していることを含み;PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドの不存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高くないことを示す;及びPIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドの存在は、対象が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。
【0021】
また、本開示は、静脈瘤を発症するリスクが高いヒト対象を同定する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た生物学的試料におけるヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、及び/またはcDNA分子など)の有無を決定する、または決定していることを含み;i)ヒト対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有していない(すなわち、ヒト対象を、遺伝子型的にPIEZO1関連性に分類する)場合、当該ヒト対象は、静脈瘤を発症するリスクが高くない;及びii)ヒト対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有している(すなわち、ヒト対象を、PIEZO1予測機能喪失バリアントに関してヘテロ接合性に分類する、またはPIEZO1予測機能喪失バリアントに関してホモ接合性に分類する)場合、当該ヒト対象は、静脈瘤を発症するリスクが高い。
【0022】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、部分的な予測機能喪失、または完全な予測機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドをコードするあらゆるPIEZO1核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子など)とすることができる。例えば、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、本明細書に記載したPIEZO1バリアント核酸分子のいずれかとすることができる。
【0023】
ヒト対象が、生物学的試料におけるPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有するか否かの決定は、本明細書に記載した方法のいずれかで実施することができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビトロで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インサイチュで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビボで行うことができる。これらの実施形態のいずれにおいても、核酸分子は、ヒト対象から得た細胞内に存在することができる。
【0024】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、静脈瘤を、初期段階の静脈瘤(例えば、CEAP(臨床、病因、解剖学的、及び病態生理)分類に従ったC0)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、後期静脈瘤(例えば、CEAP分類でのC6)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、あらゆる病期のもの(例えば、CEAP分類でのC0~C6)とすることができる。一部の実施形態では、ヒト対象は、女性である。
【0025】
一部の実施形態では、ヒト対象を、静脈瘤を発症するリスクが高いと同定した場合、当該ヒト対象は、本明細書に記載したようにして、静脈瘤を治療または阻害する治療薬でさらに治療する。例えば、ヒト対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であり、故に、静脈瘤を発症するリスクが高い場合、当該ヒト対象に対して、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を投与する。一部の実施形態では、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である場合、当該患者に、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、PIEZO1予測機能喪失型バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である患者に投与する標準用量と同量またはそれを超える量を投与する。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である。
【0026】
本開示は、ヒト対象での静脈瘤を診断する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た試料におけるPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、及び/またはcDNA分子など)またはポリペプチドの有無を検出することを含み;対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドを有しており、かつ、静脈瘤の1つ以上の症状を示す場合、当該対象を、静脈瘤を有するものと診断する。
【0027】
また、本開示は、ヒト対象での静脈瘤を診断する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た試料における:i)PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子;ii)PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子;iii)当該mRNA分子から生成したPIEZO1予測機能喪失バリアントcDNA分子、またはiv)PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドの有無を検出することを含み;当該対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドを有しており、かつ、静脈瘤の1つ以上の症状を示す場合、当該対象を、静脈瘤を有するものと診断する。
【0028】
また、本開示は、ヒト対象での静脈瘤を診断する方法を提供しており、当該方法は、対象から得た試料における:ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、及び/またはcDNA分子など)の有無を検出することを含み;対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、mRNA分子、cDNA分子、またはポリペプチドを有しており(すなわち、当該ヒト対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性に分類されており)、かつ、静脈瘤の1つ以上の症状を示す場合、当該対象を、静脈瘤を有するものと診断する。
【0029】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、部分的な予測機能喪失、または完全な予測機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドをコードするあらゆるPIEZO1核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子など)とすることができる。例えば、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、本明細書に記載したPIEZO1バリアント核酸分子のいずれかとすることができる。
【0030】
対象から得た試料でのPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子の有無の検出は、本明細書に記載した方法のいずれかで実施することができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビトロで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インサイチュで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビボで行うことができる。これらの実施形態のいずれにおいても、核酸分子は、ヒト対象から得た細胞内に存在することができる。
【0031】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、静脈瘤を、初期段階の静脈瘤(例えば、CEAP(臨床、病因、解剖学的、及び病態生理)分類に従ったC0)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、後期静脈瘤(例えば、CEAP分類でのC6)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、あらゆる病期のもの(例えば、CEAP分類でのC0~C6)とすることができる。一部の実施形態では、ヒト対象は、女性である。
【0032】
一部の実施形態では、ヒト対象が、静脈瘤を有していると診断した場合、本明細書に記載したようにして、当該ヒト対象を、静脈瘤を治療または阻害する治療薬でさらに治療する。例えば、ヒト対象が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であると決定され、かつ、静脈瘤の1つ以上の症状を示す場合、当該ヒト対象に対して、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を投与する。一部の実施形態では、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である場合、当該患者に対して、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子がヘテロ接合性である患者に投与する標準的な投与量と同量またはそれを超える量で投与する。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である。
【0033】
また、本開示は、静脈瘤を治療または阻害する治療薬で患者を治療する方法を提供しており、患者は、静脈瘤に罹患している、または静脈瘤を発症するリスクが高く、当該方法は:患者から生物学的試料を入手する、または入手しておく;及び生物学的試料に対して遺伝子型決定アッセイをして、またはしておいて、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を含む遺伝子型を有するか否かを決定することによって、当該患者が、ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有するか否かを決定するステップを含み;及び患者が、PIEZO1関連性を有しておれば、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準的な投与量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;及び患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性またはホモ接合性であれば、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準投与量と同量またはそれを超える量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有する遺伝子型の存在は、患者が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である。
【0034】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、部分的な予測機能喪失、または完全な予測機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドをコードするあらゆるPIEZO1核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子など)とすることができる。例えば、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を、本明細書に記載したPIEZO1バリアント核酸分子のいずれかとすることができる。
【0035】
患者がヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子を有するか否かを決定するための遺伝子型決定アッセイは、本明細書に記載した方法のいずれかで実施することができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビトロで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インサイチュで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビボで行うことができる。これらの実施形態のいずれにおいても、核酸分子は、ヒト対象から得た細胞内に存在することができる。
【0036】
一部の実施形態では、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である場合、患者に、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、PIEZO1予測機能喪失型バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である患者に投与する標準用量と同量またはそれを超える量を投与する。
【0037】
また、本開示は、静脈瘤を治療または阻害する治療薬で患者を治療する方法を提供しており、患者は、静脈瘤に罹患している、または静脈瘤を発症するリスクが高く、当該方法は:患者から生物学的試料を入手する、または入手しておく;及び生物学的試料に関して遺伝子型決定アッセイをして、またはしておいて、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有するか否かを決定することによって、患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有するか否かを決定するステップを含み;及び患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有していなければ、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準的な投与量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;及び患者が、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有していれば、静脈瘤を治療または阻害する治療薬を、標準投与量と同量またはそれを超える量で、患者に対して投与する、または投与し続ける;PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドの存在は、患者が、静脈瘤を発症するリスクが高いことを示す。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有する。一部の実施形態では、患者は、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有していない。
【0038】
患者がPIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを有するか否かを決定するためのアッセイは、本明細書に記載した方法のいずれかで実施することができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビトロで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インサイチュで行うことができる。一部の実施形態では、これらの方法は、インビボで行うことができる。これらの実施形態のいずれにおいても、ポリペプチドは、ヒト対象から得た細胞内に存在することができる。
【0039】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、部分的な予測機能喪失、または完全な予測機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドとすることができる。例えば、PIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドを、本明細書に記載したPIEZO1バリアントポリペプチドのいずれかとすることができる。
【0040】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、静脈瘤を、初期段階の静脈瘤(例えば、CEAP(臨床、病因、解剖学的、及び病態生理)分類に従ったC0)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、後期静脈瘤(例えば、CEAP分類でのC6)とすることができる。一部の実施形態では、静脈瘤を、あらゆる病期のもの(例えば、CEAP分類でのC0~C6)とすることができる。一部の実施形態では、ヒト対象は、女性である。
【0041】
静脈瘤の症状として、脚の重だるさ、脚の患部に現れるクモ状静脈(毛細血管拡張症)、足首の腫脹、特に夕刻の腫張、患部静脈近傍の皮膚の光沢のある黄褐色への変色、発赤、乾燥、及び皮膚の掻痒感(別名、鬱滞性皮膚炎、または静脈瘤性湿疹)、特に、起立時など突然に動作した際に生じる痙攣、患部に軽傷が生じる、普段より出血が多くなる、または治癒に長時間を要するようになる、足首より上部の皮膚の萎縮(脂肪皮膚硬化)、レストレスレッグス症候群、足首に現れる不規則な白い傷様の斑点(白色萎縮)、またはそれらのあらゆる組み合わせなどがあるが、これらに限定されない。
【0042】
静脈瘤を治療または阻害する治療薬の例として、ジオスミン、またはヘスペリジンなどのフラボノイド、ならびに、イブプロフェン、及びアスピリンなどの抗炎症薬があるが、これらに限定されない。
【0043】
一部の実施形態では、静脈瘤を治療または阻害する治療薬の用量を、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である(標準用量の投与を受け得る)患者またはヒト対象と比較して、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である患者またはヒト対象は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、または約90%減量する(すなわち、標準用量よりも少なくする)ことができる。一部の実施形態では、静脈瘤を治療または阻害する治療薬の用量を、約10%、約20%、約30%、約40%、または約50%減量することができる。加えて、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してホモ接合性である患者またはヒト対象と比較して、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子に関してヘテロ接合性である患者またはヒト対象での静脈瘤を治療または阻害する治療薬の用量を、頻度を減らして投与することができる。
【0044】
静脈瘤を治療または阻害する治療薬の投与は、例えば、1日、2日、3日、5日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、5週間、6週間、7週間、8週間、2か月、または3か月後に反復することができる。反復投与は、同じ用量、または異なる用量で行うことができる。投与を、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、またはそれ以上反復することができる。例えば、特定の投薬計画に従って、患者は、例えば、6ヶ月、1年、またはそれ以上などの長期間にわたって治療を受けることができる。
【0045】
静脈瘤を治療または阻害する治療薬の投与は、あらゆる好適な経路で行うことができ、同経路として、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻内、または筋肉内があるが、これらに限定されない。投与のための医薬組成物は、望ましくは無菌であり、かつ、実質的に等張であり、そして、GMP条件下で製造する。医薬組成物は、単位剤形(すなわち、単回投与用の投与量)で提供することができる。医薬組成物は、1つ以上の生理学的に、かつ、医薬として許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、または補助剤を用いて製剤することができる。製剤は、選択する投与経路に依存している。用語「医薬として許容可能な」は、担体、希釈剤、賦形剤、または補助剤が、製剤のその他の成分に適合しており、かつ、そのレシピエントに対して実質的に有害でないことを意味する。
【0046】
本明細書で使用する用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」及び「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、及び「予防(prevention)」とは、それぞれ、治療効果や予防効果などの所望の生物学的応答を誘発することを指す。一部の実施形態では、治療効果は、治療薬、または当該治療薬を含む組成物投与した後に認められる、静脈瘤の減少/抑制、静脈瘤の重篤度の低下/抑制(例えば、静脈瘤の発症の減少または阻害など)、静脈瘤関連効果の症状の低下/抑制、静脈瘤関連効果の症状の発症の遅延、静脈瘤関連効果の症状の重篤度の低下、急性発作の重篤度の抑制、静脈瘤関連効果の症状の数の減少、静脈瘤関連効果の症状の潜伏期間の短縮、静脈瘤関連効果の症状の緩和、二次症状の減少、二次感染の減少、静脈瘤の再発予防、再発発作の数または頻度の減少、症候性発作の間隔の長期化、持続的進行の長期化、素早い回復、及び/または代替療法の効率の改善、または抵抗性の減少の1つ以上を含む。予防効果は、治療プロトコルを投与した後に認められる、完全または部分的な回避/阻害、または静脈瘤の発症/進行の遅延(例えば、完全または部分的な回避/阻害または遅延など)を含み得る。静脈瘤の治療は、あらゆる臨床段階または症状において、あらゆる形態の静脈瘤を有するとの診断をすでに下された患者の治療、静脈瘤の症状または徴候の発症または進行または重症化または悪化の遅延、及び/または静脈瘤の重篤化の予防及び/または抑制を含む。
【0047】
また、本開示は、本明細書に記載した実施形態のいずれかにおいて、ヒト対象から得た生物学的試料でのPIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子、及び/またはPIEZO1予測機能喪失バリアントcDNA分子の存在の検出または決定を提供する。集団内の遺伝子配列、及びそのような遺伝子がコードするmRNA分子は、一塩基多型などの多型が故に変化し得ることを理解されたい。本明細書に開示したPIEZO1バリアント核酸分子に関して本明細書で提供する配列は、例示的な配列にすぎない。PIEZO1バリアント核酸分子のその他の配列も可能である。
【0048】
生物学的試料は、対象由来のあらゆる細胞、組織、または体液に由来することができる。試料は、骨髄試料、腫瘍生検、細針吸引物、または血液、歯肉溝滲出液、血漿、血清、リンパ液、腹水、嚢胞、または尿などの体液の試料など、臨床的に関連するあらゆる組織を含み得る。一部の事例では、試料は、口内スワブを含む。本明細書に開示した方法で使用する試料は、アッセイ形式、検出方法の性質、及び試料として使用する組織、細胞、または抽出物によって変化する。生物学的試料は、使用するアッセイに応じた様々な方法で処理することができる。例えば、PIEZO1バリアント核酸分子を検出する場合、ゲノムDNAのために試料を単離または濃縮するようにデザインした予備処理を行うことができる。この目的のために、様々な公知の手法を使用し得る。PIEZO1バリアントmRNAのレベルを検出する場合、様々な手法を使用して、mRNAを含む生物学的試料を濃縮することができる。mRNAの存在またはレベル、あるいは、特定のバリアントゲノムDNA遺伝子座の存在を検出するための様々な方法を使用することができる。
【0049】
一部の実施形態では、ヒト対象でのヒトPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子の検出は、ヒト対象から得た生物学的試料をアッセイまたは遺伝子型決定して、生物学的試料でのPIEZO1ゲノム核酸分子、PIEZO1 mRNA分子、またはmRNA分子から生成したPIEZO1 cDNA分子が、(部分的または完全な)機能喪失を引き起こす、または(部分的または完全な)機能喪失を引き起こすことが予測される1つ以上の変化を含むか否かを決定する。
【0050】
一部の実施形態では、ヒト対象でのPIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、及び/またはcDNA分子など)の有無を検出する方法は:当該ヒト対象から得た生物学的試料に対してアッセイを実施することを含み、当該アッセイは、生物学的試料での核酸分子が、特定のヌクレオチド配列を含むか否かを決定する。
【0051】
一部の実施形態では、生物学的試料は、細胞または細胞溶解物を含む。そのような方法は、例えば、PIEZO1ゲノム核酸分子またはmRNA分子を含む対象から生物学的試料を得ること、及びmRNAであれば、mRNAを任意にcDNAに逆転写することをさらに含むことができ、そのようなアッセイは、例えば、特定のPIEZO1核酸分子のこれらの位置の同一性を決定することを含むことができる。一部の実施形態では、この方法は、インビトロ法である。
【0052】
一部の実施形態では、決定ステップ、検出ステップ、または遺伝子型決定アッセイは、生物学的試料でのPIEZO1ゲノム核酸分子、PIEZO1 mRNA分子、またはmRNA分子から生成したPIEZO1 cDNA分子のヌクレオチド配列の少なくとも一部を配列決定することを含み、配列決定した部分は、(部分的または完全な)機能喪失を引き起こす、または(部分的または完全な)機能喪失を引き起こすことが予測される1つ以上の変化を含む。
【0053】
本明細書に記載した方法のいずれでも、決定ステップ、検出ステップ、または遺伝子型決定アッセイは、生物学的試料でのPIEZO1核酸分子のヌクレオチド配列の少なくとも一部を配列決定することを含み、配列決定した部分は、予測機能喪失バリアント位置に対応する位置を含み、予測機能喪失バリアント位置にあるバリアントヌクレオチドを検出すれば、生物学的試料でのPIEZO1核酸分子は、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子である。
【0054】
一部の実施形態では、決定ステップ、検出ステップ、または遺伝子型決定アッセイは:a)生物学的試料を、予測機能喪失バリアント位置に近接するPIEZO1核酸分子のヌクレオチド配列の一部に対してハイブリダイズするプライマーと接触させること;b)少なくとも予測機能喪失バリアントの位置までプライマーを伸長すること;及びc)プライマーの伸長産物が、予測機能喪失バリアント位置にバリアントヌクレオチドを含むか否かを決定すること、を含む。
【0055】
一部の実施形態では、アッセイは、核酸分子全体を配列決定することを含む。一部の実施形態では、PIEZO1ゲノム核酸分子だけを分析する。一部の実施形態では、PIEZO1 mRNAだけを分析する。一部の実施形態では、PIEZO1 mRNAから得たPIEZO1 cDNAだけを分析する。
【0056】
一部の実施形態では、決定ステップ、検出ステップ、または遺伝子型決定アッセイは:a)ヒトPIEZO1ポリペプチドをコードするPIEZO1核酸分子の少なくとも一部分を増幅することであって、当該部分は、予測機能喪失バリアント位置を含む、増幅すること;b)増幅した核酸分子を、検出可能な標識で標識すること;c)標識した核酸分子を、改変特異的プローブを含む支持体と接触させることであって、当該改変特異的プローブは、ストリンジェントな条件下で、予測機能喪失バリアント位置にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む、接触させること;及びd)検出可能な標識を検出すること、を含む。
【0057】
一部の実施形態では、核酸分子は、mRNAであり、そして、決定ステップは、増幅ステップの前に、mRNAをcDNAに逆転写することをさらに含む。
一部の実施形態では、決定ステップ、検出ステップ、または遺伝子型決定アッセイは、生物学的試料での核酸分子を、検出可能な標識を含む改変特異的プローブと接触させることを含み、当該改変特異的プローブは、ストリンジェントな条件下で、予測機能喪失バリアント位置にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む;及び検出可能な標識を検出する。
【0058】
本明細書に記載した改変特異的プローブまたは改変特異的プライマーは、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子またはその相補体に、相補的である、及び/またはハイブリダイズする、または特異的にハイブリダイズする核酸配列を含む。一部の実施形態では、改変特異的プローブまたは改変特異的プライマーは、少なくとも約5つ、少なくとも約8つ、少なくとも約10個、少なくとも約11個、少なくとも約12個、少なくとも約13個、少なくとも約14個、少なくとも約15個、少なくとも約16個、少なくとも約17個、少なくとも約18個、少なくとも約19個、少なくとも約20個、少なくとも約21個、少なくとも約22個、少なくとも約23個、少なくとも約24個、少なくとも約25個、少なくとも約30個、少なくとも約35個、少なくとも約40個、少なくとも約45個、または少なくとも約50個のヌクレオチドを含む、またはそれらからなる。一部の実施形態では、改変特異的プローブまたは改変特異的プライマーは、少なくとも15個のヌクレオチドを含む、またはそれからなる。一部の実施形態では、改変特異的プローブまたは改変特異的プライマーは、少なくとも15個のヌクレオチド~少なくとも約35個のヌクレオチドを含む、またはそれらからなる。一部の実施形態では、改変特異的プローブまたは改変特異的プライマーは、PIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子、PIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子、及び/またはPIEZO1予測機能喪失バリアントcDNA分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0059】
改変特異的ポリメラーゼ連鎖反応技術を使用して、核酸配列でのSNPなどの変異を検出することができる。テンプレートとのミスマッチが存在する場合、DNAポリメラーゼは伸長しないので、改変特異的プライマーを使用することができる。
【0060】
一部の実施形態では、試料に含まれる核酸分子はmRNAであり、そして、mRNAを、増幅ステップの前に、cDNAに逆転写する。一部の実施形態では、核酸分子は、ヒト対象から得た細胞内に存在する。
【0061】
本明細書に記載した実施形態のいずれについても、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子は、部分的な機能喪失、完全な機能喪失、予測した部分的な機能喪失、または予測した完全な機能喪失を有するPIEZO1ポリペプチドをコードするあらゆるPIEZO1核酸分子(例えば、ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子など)とすることができる。例えば、PIEZO1予測機能喪失バリアント核酸分子は、本明細書に記載したPIEZO1バリアント核酸分子のいずれかとすることができる。
【0062】
一部の実施形態では、アッセイは、生物学的試料を、ストリンジェントな条件下で、PIEZO1バリアントゲノム配列、バリアントmRNA配列、またはバリアントcDNA配列に対して特異的にハイブリダイズし、かつ、対応するPIEZO1関連性配列に対してハイブリダイズしない、改変特異的プライマーまたは改変特異的プローブなどのプライマーまたはプローブと接触させること、及びハイブリダイゼーションの有無を決定すること、を含む。
【0063】
一部の実施形態では、アッセイは、RNA配列決定(RNA-Seq)を含む。一部の実施形態では、アッセイは、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などによる、mRNAのcDNAへの逆転写も含む。
【0064】
一部の実施形態では、方法は、標的ヌクレオチド配列に結合し、かつ、PIEZO1バリアントゲノム核酸分子、バリアントmRNA分子、またはバリアントcDNA分子を含むポリヌクレオチドを特異的に検出及び/または同定するのに十分な長さのヌクレオチドを有するプローブ及びプライマーを利用する。ハイブリダイゼーション条件または反応条件は、作業者が決定して、この目的を達成することができる。ヌクレオチドの長さは、本明細書に記載または例示した、アッセイなどの選択した検出方法で使用する上で十分なあらゆる長さとし得る。そのようなプローブ及びプライマーは、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下で、標的ヌクレオチド配列に対して特異的にハイブリダイズすることができる。プローブは、標的ヌクレオチド配列と相違しており、かつ、標的ヌクレオチド配列を特異的に検出及び/または同定する能力を保持するように従来の方法でデザインし得るが、プローブ及びプライマーは、標的ヌクレオチド配列内の隣接ヌクレオチドに対する完全なヌクレオチド配列同一性を有し得る。プローブ及びプライマーは、標的核酸分子のヌクレオチド配列に対して、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%の配列同一性または相補性を有することができる。
【0065】
核酸の配列決定技術の例として、連鎖停止剤(Sanger)配列決定法及びダイターミネーター配列決定法があるが、これらに限定されない。その他の方法として、精製したDNA、増幅したDNA、及び固定細胞調製物(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH))に対する標識したプライマーまたはプローブの使用など、配列決定法以外の核酸ハイダイゼーション法がある。一部の方法では、検出に先行して、または検出と同時に、標的核酸を増幅し得る。核酸増幅技術の例として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、及び核酸配列に基づいた増幅(NASBA)があるが、これらに限定されない。その他の方法として、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅、及び好熱性SDA(tSDA)があるが、これらに限定されない。
【0066】
ハイブリダイゼーション技術では、プローブまたはプライマーが、その標的に対して特異的にハイブリダイズするストリンジェントな条件を使用することができる。一部の実施形態では、ストリンジェントな条件下でのポリヌクレオチドプライマーまたはプローブは、その他の非標的配列よりも検出可能な強度で、例えば、バックグラウンドの10倍超など、バックグラウンドよりも少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍以上の強度で、その標的配列に対してハイブリダイズする。ストリンジェントな条件は、配列によって変化し、また、状況に応じて変化する。
【0067】
DNAのハイブリダイゼーションを促す適切なストリンジェントな条件、例えば、約45℃で、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)と、それに続く、50℃で、2×SSCの洗浄が公知であり、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1-6.3.6に記載されたものがある。一般的に、ハイブリダイゼーション及び検出のためのストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0~8.3で、約1.5M未満のNa+イオン、通常、約0.01~1.0MのNa+イオン(またはその他の塩)濃度、及び温度が、短いプローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)については、少なくとも約30℃であり、そして、長いプローブ(50超のヌクレオチド)については、少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件は、例えば、ホルムアミドのような不安定化剤を加えても達成し得る。任意に、洗浄緩衝剤は、約0.1%~約1%のSDSを含み得る。ハイブリダイゼーションの持続時間は、一般的には、約24時間未満であり、通常、約4~約12時間である。洗浄時間の長さは、短くとも平衡に到達させる上で十分な長さである。
【0068】
また、本開示は、本明細書に記載したPIEZO1核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子)のいずれか、またはその相補体、ならびに、本明細書に記載した改変特異的プライマーまたは改変特異的プローブのいずれかを含む分子複合体を提供する。一部の実施形態では、分子複合体でのPIEZO1核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子)、またはそれらの相補体は、一本鎖である。一部の実施形態では、PIEZO1核酸分子は、本明細書に記載したゲノム核酸分子のいずれかである。一部の実施形態では、PIEZO1核酸分子は、本明細書に記載したmRNA分子のいずれかである。一部の実施形態では、PIEZO1核酸分子は、本明細書に記載したcDNA分子のいずれかである。一部の実施形態では、分子複合体は、本明細書に記載したPIEZO1核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子)のいずれか、またはそれらの相補体、ならびに、本明細書に記載した改変特異的プライマーのいずれかを含む。一部の実施形態では、分子複合体は、本明細書に記載したPIEZO1核酸分子(ゲノム核酸分子、mRNA分子、またはcDNA分子)のいずれか、またはそれらの相補体、ならびに、本明細書に記載した改変特異的プローブのいずれかを含む。一部の実施形態では、分子複合体は、非ヒトポリメラーゼを含む。
【0069】
一部の実施形態では、ヒトPIEZO1予測機能喪失ポリペプチドの存在の検出は、ヒト対象から得た試料に対してアッセイを行って、対象でのPIEZO1ポリペプチドが、ポリペプチドに対して(部分的または完全な)機能喪失または(部分的または完全な)予測機能喪失を付与する1つ以上のバリアントを含むか否かを決定する。一部の実施形態では、アッセイは、バリアント位置を含むPIEZO1ポリペプチドの少なくとも一部を配列決定することを含む。一部の実施形態では、検出ステップは、ポリペプチド全体を配列決定することを含む。PIEZO1ポリペプチドのバリアント位置でのバリアントアミノ酸の同定は、PIEZO1ポリペプチドが、PIEZO1予測機能喪失ポリペプチドであることを示す。一部の実施形態では、アッセイは、バリアントを含むポリペプチドの存在を検出するためのイムノアッセイを含む。PIEZO1ポリペプチドのバリアント位置でのバリアントアミノ酸の検出は、PIEZO1ポリペプチドが、PIEZO1予測機能喪失ポリペプチドであることを示す。
【0070】
本明細書に記載したプローブ及び/またはプライマー(改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーなどを含む)は、約15~約100、約15~約35個のヌクレオチドを含む、またはそれらからなる。一部の実施形態では、改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーは、DNAを含む。一部の実施形態では、改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーは、RNAを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載したプローブ及びプライマー(改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーなどを含む)は、本明細書に開示した核酸分子のいずれか、またはそれらの相補体に対して特異的にハイブリダイズするヌクレオチド配列を有する。一部の実施形態では、プローブ及びプライマー(改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーを含む)は、ストリンジェントな条件下で、本明細書に開示した核酸分子のいずれかに対して特異的にハイブリダイズする。本開示に関連して、「特異的にハイブリダイズする」とは、プローブまたはプライマー(改変特異的プローブ及び改変特異的プライマーなどを含む)が、PIEZO1関連性ゲノム核酸分子、PIEZO1関連性mRNA分子、及び/またはPIEZO1関連性cDNA分子をコードする核酸配列に対してハイブリダイズしないことを意味する。一部の実施形態では、プローブ(例えば、改変特異的プローブなど)は、標識を含む。一部の実施形態では、標識は、蛍光標識、放射性標識、またはビオチンである。
【0071】
PIEZO1リファレンスゲノム核酸分子のヌクレオチド配列を、配列番号1に示しており、その長さは、69,883個のヌクレオチドである。配列番号1に記載した第1のヌクレオチドは、第16染色体の88,715,338位のヌクレオチドに対応する(hg38_knownGene_ENST00000301015.14を参照されたい)。
【0072】
PIEZO1には無数のバリアントゲノム核酸分子が存在しており、(ヒトゲノムリファレンスビルドGRch38を使用した場合では):16:88715629:G:A、16:88715728:G:T、16:88715767:G:A、16:88715802:C:A、16:88715822:D:4、16:88715987:I:1、16:88716359:A:G、16:88716570:C:T、16:88716874:G:A、16:88717213:T:A、16:88719588:G:A、16:88719722:C:G、16:88719870:G:T、16:88720068:D:2、16:88720229:C:A、16:88720248:D:4、16:88720394:C:T、16:88720644:D:1、16:88720698:D:1、16:88720698:I:1、16:88721165:C:A、16:88721268:D:1、16:88721307:G:A、16:88721586:G:C、16:88721652:G:C、16:88722217:C:T、16:88722605:I:1、16:88723005:I:7、16:88723253:G:A、16:88723311:C:T、16:88725081:C:A、16:88726282:G:A、16:88726546:C:T、16:88726619:G:A、16:88726924:G:A、16:88727038:C:T、16:88727072:D:1、16:88727163:G:A、16:88731768:D:1、16:88732334:C:G、16:88732411:D:1、16:88732720:D:1、16:88733326:G:C、16:88733337:D:4、16:88733587:C:A、16:88733965:D:1、16:88734017:C:A、16:88734042:I:1、16:88734679:C:T、16:88734909:I:1、16:88736167:D:2、16:88736324:G:A、16:88736391:G:T、16:88736409:C:T、16:88736671:G:A、16:88737557:A:C、16:88737727:C:G、16:88737815:C:T、16:88738283:G:C、16:88738637:G:A、16:88738735:D:1、16:88741477:C:T、16:88742306:D:1、16:88749399:G:A、及び16:88784929:C:Tがあるが、これらに限定されない。したがって、例えば、配列番号1のリファレンスゲノムヌクレオチド配列をベースとして使用した場合(そこに記載されている最初のヌクレオチドを、第88,715,338位として示している)、最初に記載したバリアント(16:88715629:G:A)では、第88,715,629位(「バリアント位置」と称する)で、グアニンをアデニン(「バリアントヌクレオチド」と称する)で置換している。「D」の後に番号を続けて指定したバリアントでは、そこに記載した数のヌクレオチドの欠失がある。「I」の後に数字を続けて指定したバリアントでは、そこに記載した数のヌクレオチド(あらゆるヌクレオチド)の挿入がある。これらのPIEZO1予測機能喪失バリアントゲノム核酸分子のいずれについても、本明細書に記載した方法のいずれかで検出することができる。
【0073】
PIEZO1関連性mRNA分子のヌクレオチド配列を、配列番号2(NCBIリファレンス配列:NM_001142864.4を参照されたい)に記載しており、長さは、8,089個のヌクレオチドである。本明細書に記載したバリアントゲノム核酸分子のそれぞれのバリアント位置にあるバリアントヌクレオチドも、配列番号2のPIEZO1関連性mRNA配列に基づいたバリアントmRNA分子のそれぞれのバリアント位置に対応するバリアントヌクレオチドを有する。これらのPIEZO1予測機能喪失バリアントmRNA分子のいずれについても、本明細書に記載した方法のいずれかで検出することができる。
【0074】
PIEZO1関連性cDNA分子のヌクレオチド配列を、配列番号3(NCBIリファレンス配列:NM_001142864.4に基づいたもの)に記載しており、長さは、8,089個のヌクレオチドである。本明細書に記載したバリアントゲノム核酸分子のそれぞれのバリアント位置にあるバリアントヌクレオチドも、配列番号3のPIEZO1関連性cDNA配列に基づいたバリアントcDNA分子のそれぞれのバリアント位置に対応するバリアントヌクレオチドを有する。これらのPIEZO1予測機能喪失バリアントcDNA分子のいずれについても、本明細書に記載した方法のいずれかで検出することができる。
【0075】
PIEZO1関連性ポリペプチドのアミノ酸配列を、配列番号4(UniProt受託番号Q92508.4及びNCBI RefSeq受託番号NM_001142864.4を参照されたい)に記載しており、長さは、2,521個のアミノ酸である。PIEZO1 mRNAまたはcDNA分子のいずれかの翻訳したヌクレオチド配列を使用すると、バリアント位置(コドン)に対応する翻訳したバリアントアミノ酸を有するPIEZO1バリアントポリペプチド。これらのPIEZO1予測機能喪失バリアントポリペプチドのいずれについても、本明細書に記載した方法のいずれかで検出することができる。
【0076】
添付した配列表に記載したヌクレオチド及びアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基に関する標準的な文字略称及びアミノ酸に関する3文字コードを使用して示す。ヌクレオチド配列は、配列の5’末端から始まって、前方に(すなわち、各行の左から右に)向けて3’末端を目指すという標準的な規則に従う。それぞれのヌクレオチド配列の一方の鎖だけを示しているが、相補鎖は、表示した鎖に関するあらゆる関連性に属するものと理解すべきである。アミノ酸配列は、配列のアミノ末端から始まって、前方に(すなわち、各行の左から右に)向けてカルボキシ末端を目指すという標準的な規則に従っている。
【0077】
本明細書で使用する「対応する(corresponding to)」またはその文法的変形は、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列または位置に対して番号付与するために使用して、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列を、リファレンス配列と比較する場合には、特定のリファレンス配列に対する番号付与のことを指す。換言すれば、特定のポリマーの残基(例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸など)の個数または残基(例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸など)の位置は、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列内の残基の実際の数的位置のことではなく、リファレンス配列に関して指定を行うものである。例えば、特定のヌクレオチド配列では、ギャップを導入して2つの配列間での残基の一致を最適化することで、リファレンス配列に対してアラインメントを行うことができる。これらの事例では、ギャップが存在していても、特定のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列での残基への番号付与は、アラインメントしているリファレンス配列に対して行われる。配列アラインメントを実行するために使用することができる様々な計算アルゴリズムが存在しており、あるポリマー分子において、別のポリマー分子でのヌクレオチドまたはアミノ酸の位置に対応するヌクレオチドまたはアミノ酸の位置を同定することができる。例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.,1997,25,3389-3402)またはCLUSTALWソフトウェア(Sievers and Higgins, Methods Mol. Biol.,2014,1079,105-116)を使用することで、配列アライメントを行い得る。もちろん、配列を、手作業でアラインメントすることもできる。
【0078】
上記した、または以下で引用する特許文書、ウェブサイト、その他の刊行物、受託番号などは、すべて、個々の文献を具体的かつ個別に参照により援用するのと同程度で、あらゆる目的のために、それらの全内容を、参照により援用する。配列の異なるバージョンが、異なる時点で受託番号に関連付けられている場合には、本出願の有効な出願日時点での受託番号に関連付けられているバージョンのことを意味する。有効な出願日とは、該当する場合、実際の出願日または受託番号に言及している優先出願の出願日のいずれか早い日のことを意味する。同様に、異なるバージョンの刊行物、ウェブサイトなどが、異なる時点で公開されておれば、特に断りがない限り、出願の有効な出願日の直近に公開されているバージョンのことを意味する。本開示のあらゆる特長、ステップ、要素、実施形態、または態様も、特に断りがない限り、あらゆるその他の特長、ステップ、要素、実施形態、または態様とも組み合わせて使用することができる。本開示は、明瞭さ及び理解の目的で、説明及び例示を手段として、やや詳細に記載をしているが、ある特定の変更及び修正を、添付した特許請求の範囲の範囲内で実施し得ることは自明である。
【0079】
以下の実施例は、実施形態をさらに詳細に説明するために提供している。それら実施例は、例示を意図しており、特許請求した実施形態を限定するものではない。以下の実施例は、本明細書に記載した化合物、組成物、物品、装置、及び/または方法の構成及び評価の仕方に関する開示と説明を当業者に提供しており、純粋に例示を意図するものであり、請求項の範囲の限定は全く意図していない。数値(例えば、量、温度など)に関する正確さを確保するための努力を払っているが、若干の誤差及び偏差を考慮すべきである。特に断りがない限り、部は、重量部であり、温度は、℃でありまたは周囲温度であり、そして、圧力は、大気圧またはほぼ大気圧である。
【実施例】
【0080】
実施例1:材料と方法
WES試料の準備と配列決定
0.5mlの2Dマトリックスチューブ(Thermo Fisher Scientific)に入った約16ng/μlに正規化したゲノムDNA試料が、UK Biobankから当社に送り届けられ、そして、試料調製の前に、自動試料バイオバンク(LiCONiC Instruments)にて、-80℃で保存した。1つの試料では、DNAの配列決定には不十分であった。当社で開発したハイスループット完全自動化手法を使用して、エクソームの捕捉を終えた。簡潔に説明すると、カスタムNEBNext Ultra II FS DNAライブラリー調製キット(New England Biolabs)を使用して、100ngのゲノムDNAを、200塩基対の平均フラグメントサイズにまで酵素的に剪断してDNAライブラリーを作成し、そして、一般的なY字型アダプター(Integrated DNA Technologies)を、すべてのDNAライブラリーに対してライゲーションした。KAPA HiFi ポリメラーゼ(KAPA Biosystems)を使用したライブラリー増幅の間に、ユニークで非対称な10塩基対のバーコードをDNAフラグメントに加えると、多重化したエクソームの捕捉と配列決定が容易になった。IDTのxGenプローブライブラリに若干の変更を加えたバージョンを使用して、一晩、約16時間のエクソーム捕捉を行う前に、等量の試料をプールした;補充プローブを加えると、標準のxGenプローブでは十分にカバーできていなかったが、従前の捕捉試薬(NimbleGen VCRome)では十分にカバーできていたゲノムの領域を捕捉した。標的領域には、合計で、n=38,997,831の塩基があった。捕捉したフラグメントを、ストレプトアビジン結合DYNABEADS(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)に結合させ、そして、非特異的DNAフラグメントは、製造業者の推奨プロトコル(Integrated DNA Technologies)に従って、xGen Hybridization and Washキットを使用して、一連のストリンジェントな洗浄を行って除去した。捕捉したDNAを、KAPA HiFiでPCR増幅し、そして、KAPA Library Quantification Kit(KAPA Biosystems)を使用したqPCRで定量した。多重化した試料をプールし、次いで、S2フローセルを使用するIllumina NOVASEQ(登録商標)6000プラットフォームで、2つの10塩基対インデックスリードを備えた75塩基対ペアエンドリードを使用して配列決定をした。
【0081】
配列のアラインメント、バリアントの同定、及び遺伝子型の割当て
配列決定が完了すると、Illumina NOVASEQ(登録商標)を実行して得たそれぞれの生データを、ローカルバッファーストレージに格納し、そして、自動分析をするために、DNAnexusプラットフォームにアップロードした。アップロードが完了した後に、分析は、CBCLファイルのFASTQ形式のデータに変換することから始め、そして、bcl2fastq変換ソフトウェア(Illumina Inc., San Diego,CA)を使用して、特定のバーコードを介して、試料の割り当てを行った。次に、その試料に関して得たすべてのデータを格納している試料特異的FASTQファイルを、BWA-memを使用して、GRCh38ゲノムリファレンスにアラインメントした。それぞれの試料の結果に関するバイナリアラインメントファイル(BAM)には、マッピングしたデータのゲノム座標、品質情報、及びマッピングした箇所での特定のデータとリファレンスとの差異の程度を収めていた。次に、BAMファイル内にあるアライメントデータを評価して、Picard MarkDuplicatesツール(世界規模のウェブである「picard.sourceforge.net」)を使用して、重複するデータの識別とフラグ付けを行って、ダウンストリーム分析での除外対象として識別した潜在的なすべての重複データを格納しているアライメントファイル(duplicatesMarked.BAM)を生成した。
【0082】
次に、バリアントコールを含むGVCFファイルを、WeCallバリアントコーラー(世界規模のウェブである「github.com/Genomicsplc/wecall」)を使用して、リファレンスと比較してSNV及びINDELの双方を識別するGenomics PLCから、個々の試料に関して作成した。加えて、それぞれのGVCFファイルには、それぞれのバリアントの接合性、リファレンス対立遺伝子と代替対立遺伝子の両方のデータ計数値、遺伝子型コールの信頼性を示す遺伝子型の性質、及びそれらの位置でのバリアントコールの全体的な性質が保存されていた。
【0083】
バリアントコールが完了すると、個々の試料BAMファイルを、samtoolsを使用して、完全にロスレスなCRAMファイルに変換した。それぞれの試料に関するメトリック統計を得て、Picard(世界規模のウェブである「picard.sourceforge.net」)、bcftools(世界規模のウェブである「samtools.github.io/bcftools」)、及びFastQC(世界規模のウェブである「bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc」)を使用して、捕捉、アライメント状態、挿入サイズ、及びバリアントコールの性質を評価した。
【0084】
試料の配列決定が完了した後に、遺伝的に決定した性別と報告を受けた性別との間の不一致を示す試料(n=15)、ヘテロ接合性/混濁の割合が大きい試料(D-stat>0.4)(n=7)、配列決定範囲が狭い試料(標的塩基の85%未満が、20X範囲を達成している)(n=1)、または遺伝的に同定した試料複製物(n=14)、及び遺伝子型決定チップと不一致のWESバリアント(n=9)を除外した。6つの試料については、複数のカテゴリーにおいて、品質を首尾良く維持できでいなかったので、38名を除外した。次に、残余の49,960個の試料を使用して、ダウンストリーム分析のために、プロジェクトレベルのVCF(PVCF)を集めた。GLnexusジョイント遺伝子型決定ツールを使用して、PVCFを作成した。すべてのホモ接合性関連性遺伝子型、ヘテロ接合性遺伝子型、ホモ接合性代替遺伝子型、及び非コール遺伝子型を、プロジェクトレベルのVCFに取り込むために注意を払った。フィルタリングしたPVCF、「Goldilocks」も生成した。フィルタリングしたGoldilocks PVCFでは、単一試料パイプラインにSNPバリアントコールを保有する試料またはDP<7である試料を、「非コール(No-Call)」に変換した。DPフィルターを適用した後に、残余のすべての試料が、ヘテロ接合性であり、かつ、すべての試料が、AB<85%リファレンス/15%代替物である箇所を除外した。DP<10の単一試料パイプラインにINDELバリアントコールを保有する試料を、「非コール」に変換した。DPフィルターに適用した後に、残余のすべての試料が、ヘテロ接合性であり、かつ、すべての試料が、AB<80%リファレンス/20%代替物である箇所を除外した。PVCFファイルでの多重対立遺伝子バリアント箇所を、左側のアラインメントで正規化し、そして、二重対立遺伝子として示した。
【0085】
表現型の定義
ICD10をベースとした症例では、次の1つ以上を必要とした:入院患者のHealth Episode Statistics(HES)記録での一次診断または二次診断。ICD10をベースとした場合、コード範囲で1回以上の一次診断または二次診断が行われた方を除外した。症例に至らなかった個人または除外を免れた個人を、ICD10をベースとしたコントロールとして定義した。カスタム表現型の定義には、次の1つ以上がある:ICD-10診断、問診での自己申告の病気、及びオンラインフォローアップでのタッチスクリーン情報に基づいて医師が診断した病気。量的形質(身体測定、血球計算、認知機能検査、画像由来の表現型など)は、UK Biobank(UKB)リポジトリからダウンロードしており、そして、アクセスは1回以上に及んでいた。合計で、50以上の症例と、669個の量的形質とを含む1,073個のバイナリー形質をWES関連分析で試験した。
【0086】
予測機能喪失(LOF)バリアントの注釈
Ensembl Release 85のsnpEffと遺伝子モデルを使用して、バリアントに注釈を付けた。Ensembl遺伝子モデルに由来する注釈の付いた開始コドン及び停止コドンを有するすべてのタンパク質コード転写物を含むタンパク質コード領域について、包括的で高品質の転写物セットを得た。stop_gained、start_lost、splice_donor、splice_acceptor、stop_lost、及びframeshiftの注釈を付いたバリアントを、LOFバリアントと見なす。
【0087】
141,456名の個人を対象とした遺伝的変異に関する最近の大規模な研究は、LOFバリアントの一覧を提供している。このデータの直接の比較は、エクソーム配列決定捕捉プラットフォーム、バリアントコールアルゴリズム、及び注釈などが相違している、という多くの事情があるので困難である。加えて、gnomADのNFEサブセットでの個体の数と、地理的分布の確認(そして、つまりは、遺伝的多様性)は、そこで報告されているWESを利用したUK Biobankでのそれよりも広大になり得る。にもかかわらず、gnomAD r2.1由来の「PASS」で標識を付けたgnomADエクソーム部位を、注釈パイプラインを使用して注釈を付けた。gnomADから得たデータを、Picard LiftoverVcfを使用するHG38へ移した。このデータは、フィンランド人以外の欧州人(NFE)(n=56,885個の試料)のサブセットであり、個人を、MAFNFE<1%のバリアントで限定し、そして、17,951個の遺伝子の転写産物から261,309個のLOFを得た。すべての転写産物に存在するLOFだけに限定すると、16,462個の遺伝子では、175,162個のLOFが認められた。欧州系のWESを有するUKB参加者の遺伝子のすべての転写産物では、134,745個のLOFが認められた。
【0088】
LOFバーデン関連分析の方法
関連性バーデン試験を、欧州系の49,960名の個人に対して、稀少なLOFについて行った。Ensemblで定義したそれぞれの遺伝子領域について。MAF≦0.01のLOFを、その遺伝子領域の少なくとも1つのLOFに関してヘテロ接合性である個体を、ヘテロ接合性であると見なす、そして、同じLOFの2つのコピーを保有する個体だけを、ホモ接合性であると見なす、というふうに分けた。稀少なバリアントは段階的に計画していなかったので、この分析では、複合ヘテロ接合体を考慮していない。
【0089】
それぞれの遺伝子領域について、BOLT-LMM v2に実装した加法混合モデルを使用して、欠落が認められない表現型情報を持つ5名以上の個人を含む、階層をベースとした668名を、逆正規変換(RINT)定量的測定(すべての対象と性別層別モデルを含む)で評価した。正規化を行う前に、まず、必要に応じて、形質を変換し(log10、二乗)、そして、年齢、性別、研究機関、祖先に関する最初の4つの主要素、及び一部の事例では、BMI及び/または喫煙歴などの共変量の標準セットに合わせて調整を行った。中央値に由来する5つの中央絶対偏差を超えるデータポイントは、正規化を行う前に、外れ値として除外した。SAIGEに実装した一般化した加法混合モデルを使用して、年齢、性別、及び祖先に関する最初の4つの主要素の共変量調整を使用して、50以上の事例の1,073の離散結果(すべての対象と、性別層別モデルとを含む)を評価した。分析に使用するそれぞれの定量的及び離散的形質について、表現型及び共変量情報を有しており、>3のLOFキャリアが存在している遺伝子領域だけを評価した。
【0090】
ポジティブコントロールを、2段階の手法を使用して体系的に定義した。まず、関連する疾患、形質、生物学的または機能的証拠に関するそれぞれの遺伝子に対して、OMIM、NCBIMedGen、及びNHGRI-EBI GWASカタログなどの公的に利用可能な公開情報を使用して注釈を付けた。次に、少なくとも1つの公開情報から得た補強証拠を有する遺伝子を、NCBI PubMedを使用して手作業で整理して、対象の遺伝子での形質とLOFバリアントとの間の関係を検証した。GWASカタログで関心のある形質または関連する表現型(複数可)が、遺伝子座レベルでは明らかではあるが、LOF関連性を明確に支持する証拠がない遺伝子を、本明細書では、新規LOF関連性として報告している。
【0091】
単一バリアントLOF関連分析の方法
単一バリアント関連分析は、バーデン関連分析について説明した方法欄で説明したものと同じ方法を使用して実行した。p<10-7の遺伝子形質関連性について、WESを有する49,960名の欧州系の方々において、バーデン試験で、5個以上のマイナー対立遺伝子が認められたすべてのLOFについて、関係のある表現型で単一バリアント関連性統計を計算した。これらのバリアントの関連性統計を、拡張データ(ExtData_SingleVariantLOFs_Vl.x1sx)で報告している。
【0092】
P-VAL一個抜き(LOO)バーデンとは、試験を行うバリアントを除外した存否試験でのp値である。デルタP-Valバーデンとは、65個のバリアントすべてを使用したバーデン試験と比較した一個除外分析のp値の比率である。無関係な個人において、65個のバリアントすべてを使用したバーデン要約統計量:B=1.44、SE=0.26、p値=3.12E-08、cMAF=0.00174、cMAC=152、cMAF_cases=0.0066、cMAC_cases=17、cMAF_controls=0.0016、cMAC_cases=135。段階的ロジスティック回帰は、11/65バリアント(AIC 11451)を選択した。11個のバリアントを使用したバーデン要約統計量:B=3.71、SE=0.437、p値<2e-16、cMAF=0.0003、cMAC=22、cMAF_cases=0.005、cMAC_cases=12、cMAF_controls=0.0001、cMAC_controls=10。分析を、MACが>1のバリアントに制限すると、段階的ロジスティック回帰は、5/13バリアントを選択する(AIC 11484)。5つのバリアントを使用したバーデン要約統計量:B=3.02、SE=0.53、p値=8.92e-09。
【0093】
PIEZO1に関して段階的回帰で選択した11個のpLOFバリアント全体でのLD(r2)、及びPIEZO1に関する文献で報告されたポジティブコントロール(16:88835545_G_A;緑色で強調表示)。これらの12個のバリアントは、いずれについてもLDでは認められておらず、R2>0.01である。前掲のバリアントrs2911463(16:88835545_G_A)に関してバーデン試験の調整を行ったところ、バーデン試験のp値は、<2E-16(AIC 11,444)のままであり、このことは、報告したバリアントとは関連が無いことを示している。
【0094】
実施例2:配列決定した参加者の階層と臨床的特徴
合計で50,000名の参加者を選抜し、より完全な表現型データ:UK Biobank Imaging Studyから入手した全身MRI画像データ、徹底したベースライン測定、病院での症例出現に関する統計(HES)、及び/または関連する一次医療記録(承認を受けた研究者は、まもなく利用可能となる)を有する個人を優先した。データの作成を行っている間に、品質管理上の不手際または参加者の辞退があったので、40名の参加者から得た試料を除外することとなり、その結果、49,960名の最終セットとなった。概して、配列決定した試料は、500,000名のUKB参加者のものである(表1)。配列決定した試料と全体的な研究集団との間で、年齢、性別、または祖先に関して顕著な差異は認められなかった。配列決定した参加者は、HES診断コード(全体での77.3%に対して、配列決定した参加者の内の84.2%)と、補充測定値とを有している傾向にあった(表1)。
【0095】
【0096】
【0097】
少なくとも1つのHES診断コードを付与されたWESを有する参加者では、配列決定した試料が最も豊富であった喘息(ICD10 J45)と喘息発作重積状態(ICD10 J46)、及び当該試料が最も少なかった老人性白内障(ICD10 H25)と原因不明及び詳細不明の疾病(ICD10 R69)のコードを除けば、一次及び二次ICD10コードの数の中央値または広範な表現型分布に関しては、配列決定していない参加者と差異が認められなかった。配列決定したサブセットは、194対の親子ペア、613対の両親が同じである兄弟のペア、1対の一卵性双生児ペア、及び195個の2親等を含む。UKB WESの個人のペア間の関連性の分布を、
図1に示している。
【0098】
実施例3:WESからのコーディング変動の要約と特性評価
19,467個の遺伝子のタンパク質コード領域と、エクソン-イントロンスプライス部位とを標的にした。全体及び<1%のMAF頻度についてタイプ/機能分類を行うことで、すべての個体に及ぶ常染色体バリアントの数を認めた。すべてのバリアントは、QC基準を満たしており、個体とバリアントの欠落は<10%であり、そして、Hardy Weinbergのp値は、>10
-15であった。すべてのバリアントと、MAFが<1%であるバリアントとに関するバリアント数の中央値と四分位範囲(IQR)。それぞれの試料で少なくとも20倍の範囲を達成する標的塩基(n=38,997,831)の平均比率は、94.6%(標準偏差2.1%)であった。品質管理をした後に、10,028,025個の単一ヌクレオチドと、インデルバリアントとを認めており、98.5%が、<1%のマイナー対立遺伝子頻度(MAF)であった(表2)。全バリアントの内、3,995,785個が標的領域内にある。これらのバリアントは、2,431,680個の非同義(MAFが<1%のものが98.9%)、1,200,882個の同義(MAFが<1%のものが97.8%)、及び少なくとも1つのコーディング転写産物に影響を与える205,867個の予測機能喪失(pLOF)バリアント(開始コドン喪失、早期停止コドン、スプライシング、及びフレームシフトインデルバリアント;MAFが<1%のものが99.7%)を含んでいた(
図2)。個人あたりでの9,403個の同義(IQR 125)、8,369個の非同義(IQR132)、及び161個のpLOFバリアント(IQR 14)(中央値)は、従前のエクソーム配列決定研究と同等である。分析を、遺伝子のすべての転写産物に影響を与えるpLOFバリアントに限定してしまうと、pLOFバリアントの数は、全体で、140,850個、そして、96個/個人にまで減少しており(それぞれ、約31.6%と約40.4%の減少)、これらは、従前の研究と一致する。
【0099】
【0100】
実施例4:LOF変動を伴う表現型関連性
WESと豊富な健康情報との組み合わせは、ヒトの遺伝的変異が表現型に及ぼす結果に関する広範な調査を可能にする。LOFの変動は、遺伝子機能に全く予想していない見識を与えることができる;しかしながら、補完したデータセットからは、そのような変動の大半を認めることができない。WESは、LOFバリアントを同定し、そして、それらの表現型の関連性を評価する上で好適である。稀な(AAFが<1%である)pLOFバリアント(3個超のpLOFバリアントキャリアを有するすべての遺伝子についてWESで同定したpLOFバリアント)に関する関連性の遺伝子バーデン試験を、主に欧州系のn=46,979名の1,741個の形質(病院での症例出現に関する統計と自己申告データで定義した少なくとも50の症例数を含む1,073個の個別の形質、668個の定量的身体測定値、及び血液特性)について行った。それぞれの遺伝子形質の関連性について、pLOF遺伝子バーデン試験に関する関連性の大きさを、バーデン試験に含まれるそれぞれのSNVに関する関連性の結果とも比較した。
【0101】
実施例5:LOF関連性、及び新規遺伝子の発見
pLOF遺伝子バーデン関連性分析では、PIEZO1 LOF(累積対立遺伝子頻度=0.2%)と、静脈瘤のリスクの大幅な高まりとの間での新規の関連性を同定した。UKB 50kエクソーム、及びUKB 150kエクソームにおける下肢の無症候性静脈瘤のバイナリー表現型に関するPIEZO1の結果を、表3に示す。
【0102】
【0103】
この知見は、稀なLOFバリアントの存在に起因しており、UKB 50kエクソームで最も重要なPIEZO1単一バリアントLOF関連性は、2.29×10
-3のp値を達成している。UKB 50kエクソームの1つを除外して行った分析は、単一のバリアントが、シグナル全体を説明するものではないことを示しており、かつ、段階的回帰分析は、11個の別個のバリアント(その内の5つは、MACが>1である)が、全体的なバーデンシグナルに寄与していることを示した(
図4)。
【0104】
この知見を、2,953例の静脈瘤症例と、従前にエクソームを配列決定した75,694個のコントロールで再現した(OR=2.7、p=1.86×l0
-9)。この領域は、疾患リスクに若干の影響を及ぼす一般的な非コーディングバリアントに以前から関係しており、rs2911463、それに、16番染色体の近傍のその他の一般的なバリアントは、最近になって、静脈瘤と関連付けされている(遺伝子型決定をした408,455名のUK Biobank参加者のGWASでの頻度=0.69、OR=0.996、p値=1.0×10
-27)。rs2911463バリアントは、主要なバリアントを特定しているLDには無く(
図5)、また、rs2911463を調整する際のバーデン試験は依然として重要である。
【配列表】