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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】光学的に透明な耐油性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/02 20060101AFI20250114BHJP
   C09J 133/14 20060101ALN20250114BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J133/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021566442
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 IB2020054260
(87)【国際公開番号】W WO2020229948
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】62/846,317
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ハオ,エンカイ
(72)【発明者】
【氏名】クラッパー,ジェイソン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】エヴェラエルツ,アルバート アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロス,リチャード ビー.
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034655(JP,A)
【文献】特開2017-008299(JP,A)
【文献】特開2016-050239(JP,A)
【文献】特表2017-507193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%~80重量%の、2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、
6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートと、
任意の、2-エトキシエトキシエチルアクリレート、アクリルアミド、2-シアノエチルアクリレート、及びテトラヒドロフルフリルアクリレートから選択されるモノマーと、
光開始剤と、
からなる、耐油性接着剤を調製するための重合性組成物であって、
前記重合性組成物を用いて調製された耐油性接着剤は、室温で7日間オレイン酸に浸漬した後の膨張百分率が10%未満である、重合性組成物。
【請求項2】
前記2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)のうちの1つを含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートが、n-ヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、及び2-メチルブチルアクリレートのうちの1つを含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記耐油性接着剤が光学的に透明である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記耐油性接着剤が、室温にてオレイン酸に浸漬して70℃のオーブンで4時間経過後、前記オレイン酸から取り出され、5分間静置した後、5%未満のヘイズを有し、前記ヘイズはASTM-D1003-92を使用して測定したものである、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記耐油性接着剤が、9.9~14(cal/cm1/2の総溶解度パラメーターを有する、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記耐油性接着剤が、4.9~7(cal/cm1/2の水素結合溶解度パラメーターを有する、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項8】
前記耐油性接着剤が、-25℃~10℃の硬化後ガラス転移温度を有する、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項9】
前記耐油性接着剤が、180度の角度で12インチ/分のクロスヘッド速度を使用して、3N/cm超の接着力を有する、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項10】
連鎖移動剤を更に含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的に、光学的に透明な接着剤の分野に関する。特に、本発明は、光学的に透明な耐油性接着剤組成物である。
【背景技術】
【0002】
光学的に透明な接着剤(OCA)は、現在、様々な電子ディスプレイ用途で使用されており、ディスプレイの性能に重要な役割を果たす。OCAの主要な機能は、ディスプレイアセンブリの多構成要素層間のエアギャップを排除することによって光学品質を改善することである。層間エアギャップの存在は、光反射をもたらし、ひいてはディスプレイの輝度及びコントラストを意図せずに減少させる可能性がある。OCAの材料要件の多くは、急速に変化する構成要素層及びフィーチャと組み合わせて、ディスプレイ技術の絶え間なく進化する性質を考慮すると、非常に困難である。OCAは、アセンブリ内の隣接する層を構成する多数の基材との良好な接着結合を形成するために必要なだけでなく、アセンブリの様々なレリーフフィーチャの全てに対して優れた適合性を有する必要もある。
【0003】
携帯電話及びウェアラブルデバイスなどの多くの電子デバイスは、様々な状況に耐えるのに十分な耐久性を有する必要がある。様々な化学物質及び物質がOCAと接触すると、OCAを膨潤させ、最終的には、機械的又は光学的にのいずれかで、不具合を起こす可能性がある。機械的不具合の例としては、剥離/層間剥離(delamination)、又は気泡の存在を挙げることができる。光学的不具合の例としては、黄色縁部のムラ欠陥を挙げることができる。これらの不具合は、OCAの油への曝露及び接触から生じ得る。特に、トリグリセリド、ワックスエステル、スクワレン、及び遊離脂肪酸を含み、ヒトの皮膚に見られる皮脂腺から分泌されるとのことである皮脂との接触は、OCAの不具合に寄与し得る。したがって、OCAは、ヒトの皮膚によって分泌された油が混入し、経時的にOCAの不具合を引き起こす可能性がある。
【0004】
OCAを使用してディスプレイアセンブリの全ての構成要素を一体化した後、典型的には発泡テープ又は液体接着剤の形態の縁部封止テープが、ディスプレイアセンブリの縁部の周囲に適用される。しかしながら、発泡テープは、化学的侵入に対して封止する効果的な方法ではなく、その結果、OCAは、人間の皮膚の油、日焼け止め剤、及び調理油などの家庭用油などの化学物質によって汚染される可能性がある。液体接着剤がディスプレイアセンブリの縁部に適用されると、OCAは、最初は液体接着剤と直接接触する。しかしながら、一般に使用される液体接着剤の組成物は、典型的には、約40重量%~75重量%のポリウレタンアクリレートと、アクリレートモノマーと、光開始剤と、他の添加剤とを含む。液体接着剤と接触すると、OCAは膨潤して、液体接着剤のUV硬化後に白色又は黄色の縁部をもたらし得る。
【0005】
したがって、上記の潜在的な問題を防止するために、耐油性特性を有する光学的に透明な接着剤を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態では、本発明は、2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートと、光開始剤とを含む、耐油性接着剤組成物である。接着剤組成物を室温で7日間オレイン酸に浸漬した後、接着剤組成物は約10%未満の膨張百分率を有する。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートと、光開始剤とを含む、耐油性接着剤組成物である。耐油性接着剤組成物は、室温にてオレイン酸に浸漬して70℃のオーブンで4時間経過後、オレイン酸から取り出され、約5分間静置した後、約5%未満のヘイズを有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、耐油性の光学的に透明な接着剤(OCA)組成物である。OCA組成物は、人体の油、家庭用油、日焼け止め油、UV硬化性液体接着剤などの油に対して耐性である。耐油性OCAは、モバイルデバイス(すなわち、電話、ウェアラブルデバイス、ノートブックなど)の耐久性を向上させ、電子デバイスに機械的及び/又は光学的不具合を引き起こす可能性のある化学物質の侵入又は化学物質による汚染から保護するのに有用である。不具合の例としては、電子デバイスで使用される接着剤の膨潤に起因する気泡、接着性の減少、及び光学ムラを挙げることができる。したがって、本発明の耐油性OCAは、電子アセンブリのための直接結合用途に好適であり、油との接触を防止するために縁部保護を必要としない。本発明のOCAは、油に対する耐性を示すことに加えて、低いガラス転移温度(Tg)、効果的な接着性、及び光学的透明度も有する。
【0009】
本発明の光学的に透明な耐油性接着剤組成物は、概して、一次モノマーと、二次モノマーと、任意選択的に連鎖移動剤とを含む。一次モノマーは、概して、耐油性に加えて接着性を提供するように機能する。一次モノマーは、アルキル基が2~4個の炭素を含有する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。これらは、一級又は二級ヒドロキシ基であり得る。一実施形態では、一次モノマーは、アルキル基が2~4個の炭素を含有する、ヒドロキシアルキルアクリレートである。好適な一次モノマーの例としては、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、耐油性OCA組成物は、約35~約80重量%の一次モノマー(又は一度重合したポリマー)、特に約40~約70重量%の一次モノマー、より具体的には約45~約60重量%の一次モノマーを含む。
【0010】
二次モノマーは、概して、接着性を提供するように機能し、また、耐油性OCAのガラス転移温度及び分子量の変更を助けることもできる。いくつかの用途では、分子量が小さくなると、典型的には、接着剤の流動(高tanδ)を改善することができるため、分子量が重要であり得、これは、インクステップを濡らす必要がある用途にとって重要であり得る。流動はまた、接着剤のガラス転移温度に関連し得る。二次モノマーは、アルキル基が6個以下の炭素を含有する、短アルキル(メタ)アクリレートである。好適な二次モノマーの例としては、n-ヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、2-メチルブチルアクリレート、及びヒドロキシプロピルメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、耐油性OCA組成物は、約20~約60重量%の二次モノマー、特に約30~約60重量%の二次モノマー、より具体的には約40~約55重量%の二次モノマーを含む。
【0011】
他のモノマーもまた、様々な目的のために、耐油性OCAに含まれてもよい。好適なモノマーの例としては、2-エトキシエトキシエチルアクリレート(2-EHA)、アクリルアミド、2-シアノエチルアクリレート、及びテトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
耐油性OCAはまた、一次モノマー及び二次モノマーを重合するための光開始剤を含む。いくつかの例示的な光開始剤は、ベンゾインエーテル(例えばベンゾインメチルエーテル若しくはベンゾインイソプロピルエーテル)、又は置換ベンゾインエーテル(例えばアニソインメチルエーテル)である。他の例示的な光開始剤は、2,2-ジエトキシアセトフェノン、又は2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(商標名IRGACURE 651でBASF Corp.(Florham Park,NJ,USA)から、又は商標名ESACURE KB-1でSartomer(Exton,PA,USA)から市販されている)などの置換アセトフェノンである。更に他の例示的な光開始剤は、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノンなどの置換アルファ-ケトール、2-ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド、及び1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシムである。他の好適な光開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(IRGACURE 184という商標名で市販されている)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819という商標名で市販されている)、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルエステル(IRGACURE TPO-L)という商標名で市販されている、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(IRGACURE 2959という商標名で市販されている)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン(IRGACURE 369という商標名で市販されている)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(IRGACURE 907という商標名で市販されている)、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(Ciba Specialty Chemicals Corp.(Tarrytown,NY,USA)からDAROCUR 1173という商標名で市販されている)が挙げられる。一実施形態では、耐油性OCA組成物は、約0.01~約2重量%の光開始剤、特に約0.02~約1重量%の光開始剤、より具体的には約0.02~約0.5重量%の光開始剤を含む。
【0013】
耐油性OCAは、ポリマー分子量及びレオロジーを制御するため、並びに高い流動特性を提供するための連鎖移動剤を任意選択的に含んでもよい。有用な連鎖移動剤の例としては、四臭化炭素、アルコール(例えば、エタノール及びイソプロパノール)、メルカプタン、又はチオール(例えば、ラウリルメルカプタン、ブチルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、エタンチオール、イソオクチルチオグリコレート、2-エチルヘキシルチオグリコレート、2-エチルヘキシルメルカプトプロピオネート、エチレングリコールビスチオグリコレート)、メルカプトプロパントリメトキシシラン、1,4-ビス(3-メルカプトブチルオキシ)ブタン、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。特に好適な連鎖移動剤の例としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。一実施形態では、耐油性OCAは、最大約0.5重量%の連鎖移動剤、特に約0.05~約0.4重量%の連鎖移動剤、より具体的には約0.1~約0.25重量%の連鎖移動剤を含む。
【0014】
特別な目的のために、例えば、分子量制御剤、カップリング剤、可塑剤、熱安定剤、接着促進剤、UV安定剤、UV吸収剤、硬化剤、ポリマー添加剤、光開始剤、架橋剤、表面改質剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、増粘剤、充填剤、チキソトロープ剤、加工助剤、ナノ粒子、及びこれらの組み合わせを含む他の材料を、耐油性OCAに添加することができる。
【0015】
本発明の耐油性OCAを作製するために、一次モノマー、二次モノマー、光開始剤、任意選択の連鎖移動剤、及び他の任意選択の材料を混合し、紫外(UV)線に曝露することにより部分的に重合させて、コーティング可能なシロップを形成する。一実施形態では、材料は窒素雰囲気中で紫外線に曝露される。一実施形態では、シロップは、約1000cpの粘度を有する。更なる光開始剤をシロップに添加し、シロップをローラーで混合することができる。得られたシロップを脱気し、基材上にコーティングする。一実施形態では、シロップを、2つのシリコーン処理された剥離ライナー間で150ミクロンの厚さでナイフコーティングする。次いで、得られたコーティングを、低強度の紫外線への曝露によって硬化させて、完全な変換を得る。一実施形態では、コーティングは、約300~400nmの最大UV出力を有するオーブン内の紫外線に曝露される。
【0016】
一実施形態では、使用前に、剥離ライナーを耐油性OCAに取り付けてもよい。本発明の意図される範囲から逸脱することなく、任意の好適な剥離ライナーを使用することができる。例示的な剥離ライナーとしては、紙(例えば、クラフト紙)又はポリマー材料(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン、及びポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル)から調製されたものが挙げられる。少なくとも一部の剥離ライナーは、シリコーン含有材料又はフルオロカーボン含有材料などの剥離剤の層でコーティングされている。例示的な剥離ライナーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にシリコーン剥離コーティングを有する、「RF02N」及び「RF12N」という商標名でSKC Haas(Rochester,NY)から市販されているライナーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
使用中に、剥離ライナーは、耐油性OCAを別の基材に接着させるために除去される(すなわち、剥離ライナーの除去によって、後で別の基材表面に結合され得る接着剤層の表面を露出させる)。多くの場合、耐油性OCAは、この他の基材に恒久的に結合されるが、場合によっては、ディスプレイの再加工が可能となるように、接着力を限定することがある。
【0018】
本発明の光学的に透明な接着剤は、高い耐油性性能を有する。高い耐油性性能とは、OCAが、使用される物品の寿命にわたって、光学的透明性、結合強度、及び層間剥離(例えば、膨潤)への耐性を維持することを意味する。本明細書で使用するとき、用語「光学的に透明」は、硬化させると約6%未満、特に約4%未満、より具体的には2%未満、最も具体的には約1%未満のヘイズ、約88%より高い、特に約89%より高い、より具体的には約90%より高い光透過率、及び、約98%より高い、特に約99%より高い、より具体的には約99.5%より高い光学的透明度を有する材料を指す。典型的には、透明度、ヘイズ、及び透過率は、接着剤が、ポリ(エチレンテレフタレート)(poly(ethylene terephthalate)、PET)などの2つの光学フィルムの間に保持される構造上で測定する。次いで、接着剤及び基材を含む構造全体で測定を行う。ヘイズ及び光透過率は共に、例えばASTM-D 1003-92を使用して測定することができる。透過率、ヘイズ、及び光学的透明度の光学測定は、例えば、BYK Gardner haze-gard plus 4725 instrument(Geretsried,Germany)を使用して行うことができる。BYK機器は、光源「C」源を使用し、そのスペクトル範囲にわたる全ての光を測定して、透過値を計算する。ヘイズは、入射ビームから2.5°より大きく偏位する透過光の百分率である。光学的透明度は、2.5°未満の角度で評価する。典型的には、耐油性OCAは、視覚的に気泡を含まない。一実施形態では、耐油性OCAは、室温にてオレイン酸に浸漬して70℃のオーブンで4時間経過後、取り出され、約5分間静置し、次いで測定した後であっても、これらの光学特性を維持する。
【0019】
接着剤が油との接触により膨潤すると、「ゲル」状になり、凝集破壊につながり、接着剤の機械的強度を弱め、ヘイズ、気泡、層間剥離、及び/又は過剰な膨潤を引き起こす可能性がある(これにより、ボンドラインが歪むことになる)。本発明の耐油性OCAは、油と接触したときに膨潤が最小限であるか全くない。一実施形態では、オレイン酸若しくはオレイン酸及びオレイン酸/オリーブ油混合物(40/60)のいずれかに室温で7日間浸漬した後、又は70℃のオーブンで4時間加速エージングした後、本発明の耐油性OCAは目立った膨潤を示さない。膨潤を測定する1つの方法は、オレイン酸若しくはオレイン酸及びオレイン酸/オリーブ油混合物(40/60)に室温で7日間浸漬した後、又は70℃のオーブンで4時間加速エージングした後、接着剤の膨張百分率を測定することである。膨張百分率は、OCAの長さ/元の長さの変化によって定義される。一実施形態では、耐油性OCAは、約10%未満、特に約5%未満、最も具体的には約3%未満の膨張百分率を有する。
【0020】
接着剤が膨潤するために、油は、接着剤の全て又は少なくとも一部においてある程度の溶解性を有する必要がある。本発明の耐油性OCAは、膨潤を最小限に抑えるか又は防止する溶解度パラメーターを有する。接着剤の総溶解度パラメーターは、化合物での分子間の相互作用の強度の考え方を提供し、組成物の溶解度の良好な指標である。水素結合溶解度パラメーターは、具体的には、いわゆる水素結合相互作用の強度の考え方を与える。総溶解度パラメーターは、分子相互作用エネルギー(凝集エネルギーと呼ばれる)の平方根を体積で割ったものとして定義される。一実施形態では、耐油性OCAは、約9.9~約14(cal/cm1/2の総溶解度パラメーターを有する。いくつかの実施形態では、総溶解度パラメーターは、約13、約12.5、約12、約11.5、又は約11(cal/cm1/2以下である。一実施形態では、耐油性OCAは、約4.9~約7(cal/cm1/2の水素結合溶解度パラメーターを有する。いくつかの実施形態では、水素結合溶解度パラメーターは、約6.5又は6.0(cal/cm1/2以下である。
【0021】
耐油性OCAはまた、良好な接着性を促進するレオロジーを有する。一実施形態では、本発明の耐油性OCAは、約-25℃~約10℃、特に約-25℃~約0℃、より具体的には約-20℃~約-5℃の硬化後ガラス転移温度を有する。一実施形態では、70℃における耐油性OCAのtanδは、高温でのOCAの流動性の尺度となり、約0.5超である。したがって、耐油性OCAは、様々なトポグラフィーを有する表面に、及びその周囲で流動することができる。したがって、耐油性OCAは、例えば、ガラスなどの基材上のインクステップにあてることができる。耐油性OCAの弾性率及びガラス転移温度は、例えば、TA Instruments(New Castle,Del.,USA)から入手可能なモデルDHR-3レオメーターなどのレオロジー動的アナライザを使用して測定することができる。
【0022】
本発明の耐油性OCAはまた、油に対して耐性を有するものであっても、効果的な接着性を有する。一実施形態では、室温にて50%相対湿度(RH)で24時間コンディショニングされた後、除去されるとき、耐油性OCAは、180度の角度で12インチ/分のクロスヘッド速度を使用して、約3N/cm超、特に約5N/cm超、特に約10N/cm超の接着力を有する。剥離接着強度は、例えば、IMASS SP-2100テスター(IMASS INC.(Accord,MA)から入手可能)を使用して評価することができる。耐油性OCAの剥離接着力が低すぎると、接着剤が破壊し、それを含む物品がバラバラになる(層間剥離する)場合がある。例えば、接着剤の一方の側に隣接して位置決めされた一方又は両方のいずれかの基材上に接着剤残留物が残っていると、接着剤は破壊と見なされる場合がある。
【実施例
【0023】
本発明について、単なる例示を目的とする以下の実施例でより詳細に記述しており、それは、本発明の範囲内の多数の変更及び変形が、当業者に明らかにされるからである。特に記載のない限り、以下の実施例で報告される全ての部、百分率、及び比率は、重量基準である。
【0024】
【表1】
【0025】
試験方法
耐油性試験:
準備された接着剤転写テープサンプルの各々から、0.5インチ×0.5インチ(1.27cm×1.27cm)の試験ストリップをスリットして切ることによって、光学的に透明な接着剤(OCA)サンプルを作製した。次に、サンプルの片側上の剥離ライナーを除去し、OCAの正方形サンプルをペトリ皿の底面に固定(固着)した。上部ライナーもまた、OCAの表面を露出させるために除去され、固定されたサンプルを入れたペトリ皿を室温(RT、約23℃)で15分間放置した。OCAサンプルを、オレイン酸若しくはオレイン酸/オリーブ油(40/60)のいずれかに室温で1週間浸漬、又は70℃のオーブンで4時間エージングした。オレイン酸に対する接着剤サンプルの耐性を、以下の指針を用いて評価し報告した。サンプルは、膨潤も変色も気泡も発生しなかった場合に「5」として評価し、サンプルの縁領域の周り又はバルクにヘイズが発生した場合に「3」と評価し、サンプルに膨潤、変色及び気泡が観察された場合に「1」と評価した。
【0026】
A.膨張試験
膨張試験は、サンプルを油に浸漬して室温で7日間エージングした後のサンプルの(XY)寸法変化を測定する。膨張は、OCAサンプルの長さ/元の長さの変化によって定義される。例えば、OCAの元の長さが1.27cmであり、7日間の化学浸漬後、長さが1.5cmになる場合、膨張は0.23/1.27100=18.1%である。OCAは、好ましくは、約10%未満、約5%未満、約3%未満の膨張百分率を有する。
【0027】
B.ヘイズ試験
ヘイズ試験は、油中に浸漬した後に、サンプルがバルクで曇るかどうかを測定する。2インチ×4インチのOCAサンプルストリップを作製した後、イージーライナー(RF02N)を除去した。OCAサンプルの上側をバインダークリップで挟み、次いでサンプルの下半分をオレイン酸に浸漬した。次いで、サンプルを70℃で4時間エージングした。サンプルを液体から取り出し、5分間静置した後、Haze-Guard Plusヘイズメーター(BYK-Gardner(Columbia,MD)から市販されている)を使用してサンプルのヘイズを測定した。
【0028】
初期剥離接着強度試験
接着テープサンプル試験ストリップは、イージーライナー、典型的にはRF02Nを除去し、接着剤上に2mil(50マイクロメートル)のプライム化PETフィルムを積層し、次いで、12.7mmの幅の長い試験ストリップをスリットして切ることによって作製した。各接着剤タイプ/パネルにつき2つの複製を準備した。密着ライナーを除去した後、次いで露出した接着剤表面をフロートガラス基材の長さに沿って接着し、2回ロール掛けした。室温にて50%相対湿度(%RH)で24時間コンディショニングした後。剥離接着強度は、180°の角度で12インチ/分のクロスヘッド速度を用いたIMASS SP-2100テスター(IMASS INC.Accord,MA)から入手可能)を使用して評価し、[N/cm]の単位で報告した。
【0029】
剪断貯蔵弾性率及びガラス転移温度(Tg)
接着剤サンプルの弾性率及びガラス転移温度(Tg)は、平行板モードのレオロジー動的アナライザ(TA Instruments(New Castle,Del.,USA)から入手可能なモデルDHR-3レオメーター)を用いて測定した。OCA層をおよそ1ミリメートル(0.039インチ)の厚さに積層することによってOCAサンプルを作製した。次いで、直径8ミリメートル(0.315インチ)の円形ダイを使用してサンプルを打ち抜き、剥離ライナーの除去後、それぞれの直径が8ミリメートルの2枚の平行板の間の中心に置いた。接着剤を有する板をレオメーター中に位置決めし、接着フィルムの端が、上部の板及び下部の板の各端と同等になるまで圧縮した。次いで、平行板を1ラジアン/秒の角振動数且つ10%の一定歪みで振動しながら、温度を2段階、最初に3℃/分で25℃から-65℃まで、そして、平衡化して25℃に戻した後、3℃/分で25℃から150℃まで昇降温させた。剪断貯蔵弾性率(G’)及び剪断損失弾性率(G”)を測定し、温度の関数としてのtanδ(TD=G”/G’)を計算するために使用した。tanδ曲線のピークをガラス転移温度とした。
【0030】
溶解度パラメーター
ホモポリマー溶解度パラメーターは、D.W.van Krevelen,Properties Of Polymers,3rd ed.,1990,Elsevierに記載されているような原子団寄与法を用いて計算した。この計算は、Norgwyn Montgomery Software,Inc.(North Wales,Pa.)のMolecular Modeling Pro Plusプログラムを使用して実施した。次いで、コポリマー溶解度パラメーターを、ホモポリマー溶解度パラメーターの体積分率の加重平均として計算した。
【0031】
実施例
実施例1~3のモノマープレミックスは、表1に列挙した重量比に従って調製し、窒素雰囲気中で紫外線に曝露することにより部分的に重合して、約1000cpの粘度を有するコーティング可能なシロップを形成した。各シロップに、更なる0.25重量%のIrgacure651を添加し、シロップをローラー上で一晩混合した。得られたシロップを脱気し、2つのシリコーン処理された剥離ライナー(RF02N及びRF12N)間で、150ミクロンの厚さでナイフコーティングした。次に、得られたコーティングを、300~400nmの最大スペクトル出力を有するオーブン(総エネルギー1920mJ/cm)で低強度の紫外線に曝露した。硬化したOCAシートを回収した。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例1~3の耐油性試験の結果を表2に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例4~5のモノマープレミックスは、表3に列挙した重量比に従って調製し、窒素雰囲気中で紫外線に曝露することにより部分的に重合して、約1000cpの粘度を有するコーティング可能なシロップを形成した。各シロップに、0.25重量%のIrgacure651及び0.08%のHDDAを添加し、シロップをローラー上で一晩混合した。得られたシロップを脱気し、2つのシリコーン処理された剥離ライナー(RF02N及びRF12N)間で150ミクロンの厚さでナイフコーティングした。次に、得られたコーティングを、300~400nmの最大スペクトル出力を有するオーブン(総エネルギー1920mJ/cm)で低強度の紫外線に曝露した。硬化したOCAシートを回収した。
【0036】
【表4】
【0037】
実施例4~5の耐油性試験の結果を表4に示す。
【0038】
【表5】
【0039】
実施例6~10のモノマープレミックスは、表5に列挙した重量比に従って調製し、窒素雰囲気中で紫外線に曝露することにより部分的に重合して、約1000cpの粘度を有するコーティング可能なシロップを形成した。各シロップに、0.25重量%のIrgacure651を添加し、シロップをローラー上で一晩混合した。得られたシロップを脱気し、2つのシリコーン処理された剥離ライナー間で、150ミクロンの厚さでナイフコーティングした。次に、得られたコーティングを、300~400nmの最大スペクトル出力を有するオーブン(総エネルギー1920mJ/cm)で低強度の紫外線に曝露した。硬化したOCAシートを回収した。
【0040】
【表6】
【0041】
耐油性評価に従い、実施例6~9の配合物の全てを5と評価した。レオロジー試験、剥離接着力試験、及び膨張試験もまた、実施例6~9及びCE6で実施した。結果を表6に表す。
【0042】
【表7】
【0043】
実施例6~11の計算された溶解度パラメータも測定し、表7に記載した。
【0044】
【表8】
【0045】
実施例10~12及びCE6の耐油性試験結果を表8に示す。
【0046】
【表9】
【0047】
本発明の具体的な実施形態を本明細書中に示し及び説明してきたが、これら実施形態は多くの考えられる具体的な構成を単に例示しているにすぎず、構成は本発明の原理を適用して考案され得ることは理解されよう。当業者であれば、これらの原理に従い、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、多数かつ多様な他の構成を考案することができる。したがって本発明の範囲は、本願で述べた構造に限定されるべきものではなく、特許請求の文言により述べられる構造及びそうした構造の等価物によってのみ限定されるものである。
本願発明は、以下の態様を包含する。
(1)2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、
6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートと、
光開始剤と、
を含む、耐油性接着剤組成物であって、前記接着剤組成物を室温で7日間オレイン酸に浸漬した後、前記接着剤組成物は約10%未満の膨張百分率を有する、耐油性接着剤組成物。
(2)前記2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)のうちの1つを含む、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(3)前記6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートが、n-ヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、及び2-メチルブチルアクリレートのうちの1つを含む、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(4)前記耐油性接着剤組成物が、光学的に透明である、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(5)前記耐油性接着剤組成物が、室温にてオレイン酸に浸漬して70℃のオーブンで4時間経過後、前記オレイン酸から取り出され、約5分間静置した後、約5%未満のヘイズを有する、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(6)前記耐油性接着剤組成物が、約9.9~約14(cal/cm 1/2 の総溶解度パラメーターを有する、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(7)前記耐油性接着剤組成物が、約4.9~約7(cal/cm 1/2 の水素結合溶解度パラメーターを有する、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(8)前記耐油性接着剤組成物が、約-25℃~約10℃の硬化後ガラス転移温度を有する、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(9)前記耐油性接着剤組成物が、180度の角度で12インチ/分のクロスヘッド速度を使用して、約3N/cm超の接着力を有する、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(10)連鎖移動剤を更に含む、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(11)前記耐油性接着剤組成物が、2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを少なくとも約35重量%含む、項目1に記載の耐油性接着剤組成物。
(12)少なくとも約35重量%の2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、
6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートと、
光開始剤と、
を含む、光学的に透明な耐油性接着剤組成物であって、前記耐油性接着剤組成物は、室温にてオレイン酸に浸漬して70℃のオーブンで4時間経過後、前記オレイン酸から取り出され、約5分間静置した後、約5%未満のヘイズを有する、光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(13)前記2~4個の炭素を含有するアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)のうちの1つを含む、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(14)前記6個以下の炭素を含有するアルキル基を有する短アルキル(メタ)アクリレートが、n-ヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、及び2-メチルブチルアクリレートのうちの1つを含む、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(15)前記耐油性接着剤組成物が、約9.9~約14(cal/cm 1/2 の総溶解度パラメーターを有する、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(16)前記耐油性接着剤組成物が、約4.9~約7(cal/cm 1/2 の水素結合溶解度パラメーターを有する、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(17)前記耐油性接着剤組成物が、約-25℃~約10℃の硬化後ガラス転移温度を有する、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(18)前記接着剤組成物を室温で7日間オレイン酸に浸漬した後、前記接着剤組成物が約10%未満の膨張百分率を有する、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(19)前記耐油性接着剤組成物が、180度の角度で12インチ/分のクロスヘッド速度を使用して、約3N/cm超の接着力を有する、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。
(20)連鎖移動剤を更に含む、項目12に記載の光学的に透明な耐油性接着剤組成物。