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特許7618592選択的に切断可能なリンカーを有する二重特異性結合構築物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】選択的に切断可能なリンカーを有する二重特異性結合構築物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20250114BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250114BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250114BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20250114BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250114BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250114BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20250114BHJP
   A61K 47/65 20170101ALN20250114BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 T
A61P35/00
C07K16/28
C07K16/30
A61K47/65
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021571682
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020036474
(87)【国際公開番号】W WO2020247854
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】62/858,509
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/858,630
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロズィー,ヨハンネス
(72)【発明者】
【氏名】ガッティベンカタクリシュナ,パバン
(72)【発明者】
【氏名】アメール,ブレンダン
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510319(JP,A)
【文献】特表2017-529853(JP,A)
【文献】特開2017-163973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式VH1-L1-scFcサブドメイン1-L2-VH2-L3-VL1-L4-scFcサブドメイン2-L5-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は、免疫グロブリン重鎖可変領域を含み、VL1及びVL2は、免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、scFcは、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-2のサブドメイン1又はサブドメイン2及び免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-3を含み、且つL1、L2、L3、L4及びL5は、リンカーであり、L1は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L3は、少なくとも15個のアミノ酸であり、L4は、少なくとも10個のアミノ酸であり、及びL5は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L1、L2、L4及びL5は、少なくとも5個のアミノ酸のプロテアーゼ切断部位を更に含み、前記二重特異性結合構築物は、T細胞である免疫エフェクター細胞及び癌細胞である標的細胞に結合することができる、二重特異性結合構築物であって、
前記エフェクター細胞は、ヒトT細胞受容体(TCR)-CD3複合体の一部であるエフェクター細胞タンパク質を発現し、
前記二重特異性結合構築物は、少なくとも1つのシステインクランプを更に含み、及び
前記システインクランプは、VH1及びVL1サブユニット、VH2及びVL2サブユニット又はscFcサブユニット間の連結を促進する位置にある、
二重特異性結合構築物。
【請求項2】
前記scFcポリペプチド鎖は、Fcγ受容体(FcγR)の結合性を阻害する1つ以上の改変及び/又は半減期を延長する1つ以上の改変を含む、請求項に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項3】
前記VH1、VH2、VL1及びVL2は、全て異なる配列を有する、請求項に記載の二重特異性結合構築物であって、好ましくは
a.VH1配列は、配列番号65若しくは67を含み、及びVL1配列は、配列番号66若しくは68を含み、及びVH2配列は、配列番号75若しくは77を含み、及びVL2配列は、配列番号76若しくは78を含むか、又は
b.VH1配列は、配列番号75若しくは77を含み、及びVL1配列は、配列番号76若しくは78を含み、及びVH2配列は、配列番号65若しくは67を含み、及びVL2配列は、配列番号66若しくは68を含む、
二重特異性結合構築物。
【請求項4】
追加のリンカー(L0)で前記VH1に連結された追加の部分を更に含み、L0は、長さが少なくとも5個のアミノ酸である、請求項に記載の二重特異性結合構築物であって、
好ましくは前記追加の部分は、CD3ε、又はヒト血清アルブミン-リンカー-CD3(a.a.1~6)、又はヒト血清アルブミン-リンカー-CD3(a.a.1~27)、又はscFC-リンカー-CD3εであり、
好ましくは、L0は、プロテアーゼ部位を更に含む、
二重特異性結合構築物。
【請求項5】
前記リンカーは、異なる長さである、又は同じ長さである、請求項に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項6】
L1及びL2は同じ長さである、L1及びL3は同じ長さである、又はL2及びL3は同じ長さである、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項7】
L1のアミノ酸配列は、少なくとも10個のアミノ酸長であり、L2のアミノ酸配列は、少なくとも15個のアミノ酸長であり、及びL3のアミノ酸配列は、少なくとも15個のアミノ酸長である、請求項1に記載の二重特異性結合構築物。
【請求項8】
請求項に記載の二重特異性結合構築物をコードする核酸。
【請求項9】
請求項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項に記載の二重特異性結合構築物を製造する方法であって、(1)前記二重特異性結合構築物を発現するための条件下で宿主細胞を培養することと、(2)細胞集団又は細胞培養液上清から前記二重特異性結合構築物を回収することとを含み、前記宿主細胞は、請求項に記載の二重特異性結合構築物をコードする1つ以上の核酸を含む、方法。
【請求項12】
癌を治療するための医薬の製造における、請求項に記載の二重特異性結合構築物の使用であって、好ましくは、化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤及び/又は放射線が、前記二重特異性結合構築物の投与と同時に、その前に又はその後に患者に投与される、使用。
【請求項13】
請求項に記載の二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年6月7日に出願された米国仮特許出願第62/858,509号明細書及び2019年6月7日に出願された米国仮特許出願第62/858,630号明細書に対する優先権を主張するものである。上記で特定された出願のそれぞれは、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を包含し、その配列表は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2020年6月4日に作成された前記ASCIIのコピーは、名称がA-2406-WO-PCT_SL.txtであり、サイズが164,621バイトである。
【0003】
本発明は、タンパク質工学の分野におけるものである。
【背景技術】
【0004】
二重特異性結合構築物は、近年、将来性のある治療法であることが明らかとなってきている。例えば、二重特異性T細胞誘導(BiTE(商標登録))構成でのCD3及びCD19の両方を標的とする二重特異性結合構築物は、低用量でめざましい効果を示している。Bargou et al.(2008),Science 321:974-978。このBiTE(商標登録)構成は、2つのscFv’からなり、その一方がCD3を標的とし、その一方が腫瘍抗原であるCD19を標的とし、それらは、可動性リンカーで結合されている。この独自の設計により、二重特異性結合構築物は、活性化T細胞を標的細胞に接近させ、結果として標的細胞を細胞溶解的に殺傷することができる。例えば、国際公開第99/54440A1号パンフレット(米国特許第7,112,324B1号明細書)及び国際公開第2005/040220号パンフレット(米国特許出願公開第2013/0224205A1号明細書)を参照されたい。後に、CD3ε鎖のN末端において、文脈に依存しないエピトープに結合する二重特異性結合構築物が開発されている(国際公開第2008/119567号パンフレット;米国特許出願公開第2016/0152707A1号明細書を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第99/54440号
【文献】米国特許第7,112,324B1号明細書
【文献】国際公開第2005/040220号
【文献】米国特許出願公開第2013/0224205号明細書
【文献】国際公開第2008/119567号
【文献】米国特許出願公開第2016/0152707号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bargou et al.(2008),Science 321:974-978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイオ医薬品産業では、分子は、特に薬物が患者に投与されるときに活性である場合、治療を受ける患者において望ましくない有害な副作用を示す可能性がある。低分子医薬品では、例えば、代謝されると活性化する不活性なプロドラッグを投与することにより、これらの副作用を最小限に抑えることができる。細胞傷害活性を媒介する二重特異性結合構築物は、これらの望ましくない副作用のいくつかを示す場合がある。従って、治療的な有効性だけでなく、好ましい薬物動態学的特性を有し、効率的な生産性、向上した安定性及び最小限に抑えられた副作用をもたらす構成を有する二重特異性治療のための技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
二重特異性結合構築物のいくつかの新規の構成が本明細書に記載される。一実施形態では、本発明は、式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は、免疫グロブリン重鎖可変領域を含み、VL1及びVL2は、免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、且つL1、L2及びL3は、リンカーであり、L1は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は、少なくとも15個のアミノ酸であり、及びL3は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L1又はL3は、プロテアーゼ切断部位を含み、二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合することができる、二重特異性結合構築物を提供する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、式VH1-L1-Fc-L2-VH2-L3-VL1-L4-Fc-L5-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は、免疫グロブリン重鎖可変領域を含み、VL1及びVL2は、免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、Fcは、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-2及び免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-3を含み、且つL1、L2、L3、L4及びL5は、リンカーであり、L1は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L3は、少なくとも15個のアミノ酸であり、L4は、少なくとも10個のアミノ酸であり、及びL5は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L1、L2、L4及びL5は、少なくとも5個のアミノ酸のプロテアーゼ切断部位を更に含み、二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合することができる、二重特異性結合構築物を提供する。
【0010】
更なる実施形態では、本発明は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物をコードする核酸及びこれらの核酸を含むベクターを提供する。更に、本発明は、本明細書に記載のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0011】
更に他の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を製造する方法であって、(1)二重特異性結合構築物を発現するための条件下で宿主細胞を培養することと、(2)細胞集団又は細胞培養液上清から二重特異性結合構築物を回収することとを含み、宿主細胞は、本明細書に記載の任意の二重特異性結合構築物をコードする1つ以上の核酸を含む、方法を提供する。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、癌患者を治療する方法であって、治療上有効な量の、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0013】
他の実施形態では、本発明は、感染症疾患を有する患者を治療する方法であって、治療上有効な量の、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
他の実施形態では、本発明は、自己免疫状態、炎症状態又は線維性状態を有する患者を治療する方法であって、治療上有効な量の、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】HHLL構成A及びBの代表的な実施形態の代表的な図であり、プロテアーゼ切断部位、システインクランプ並びに任意選択のCD3ε(構成A及びB)及びscFc部分(構成A)が位置する場所を示す。
図2】HHLL構成C及びDの代表的な実施形態の代表的な図であり、プロテアーゼ切断部位、システインクランプ並びに任意選択のCD3ε(構成C)、任意選択のHSA-CD3a.a 1~6又は1~27(構成D)及びscFc部分(構成C及びD)が位置する場所を示す。
図3】HHLL構成Eの代表的な実施形態の代表的な図であり、プロテアーゼ切断部位、システインクランプ及び任意選択のscFc-CD3ε部分が位置する場所を示す。
図4】二重特異性構築物N4Jの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値である。
図5-1】二重特異性構築物N7Aの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図5-2】二重特異性構築物N7Aの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図6】二重特異性構築物V1Eの発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEであるが、予想よりも低い分子量を有している。
図7】二重特異性構築物B1Uの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図8】二重特異性構築物Z9Pの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図9】二重特異性構築物O7Hの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図10-1】二重特異性構築物W9Aの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図10-2】二重特異性構築物W9Aの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図11-1】二重特異性構築物B2Pの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図11-2】二重特異性構築物B2Pの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図12-1】二重特異性構築物T7Uの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図12-2】二重特異性構築物T7Uの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図13-1】二重特異性構築物L2Gの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図13-2】二重特異性構築物L2Gの適切な発現を示すクロマトグラフィーの読み取り値及びSDS-PAGEである。
図14A】組換えヒトMMP-9の存在下又は非存在下における二重特異性構築物(N4J、W2K、N7A、W9A及びB2P)のSDS-PAGEである。
図14B】組換えヒトMMP-9の存在下又は非存在下における二重特異性構築物(W2K、Z9P、V1E、B1U、T7U及びL2G)のSDS-PAGEである。
図15A-1】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N4Jによる、CD3発現細胞(図15A)及びメソセリン発現細胞(図15B)に対する結合性についてのFACS分析である。
図15A-2】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N4Jによる、CD3発現細胞(図15A)及びメソセリン発現細胞(図15B)に対する結合性についてのFACS分析である。
図15B-1】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N4Jによる、CD3発現細胞(図15A)及びメソセリン発現細胞(図15B)に対する結合性についてのFACS分析である。
図15B-2】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N4Jによる、CD3発現細胞(図15A)及びメソセリン発現細胞(図15B)に対する結合性についてのFACS分析である。
図16】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N7Aによる、CD3及びメソセリン陽性細胞に対する結合性についてのFACS分析である。
図17】プロテアーゼ活性のない二重特異性構築物W2K、V1E、プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物B1U、Z9Pによる、CD3及びメソセリン陽性細胞に対する結合性についてのFACS分析である。
図18】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物B2P、W9A及びN7Aによる、CD3陽性細胞に対する結合性についてのFACS分析である。
図19】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物B2P、W9A及びN7Aによる、メソセリン陽性細胞に対する結合性についてのFACS分析である。
図20】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N4J及びW2Kの、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図21】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N7A、W2K及び陰性対照の、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図22】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物Z9P、V1E、B1U及び陰性対照の、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図23】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物W9A、B2Pの、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図24】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物N7A、O7H及びB2Pの、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図25】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物T7U、L2G、N7A及びB2Pの、FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイである。
図26】プロテアーゼ活性のある及びプロテアーゼ活性のない二重特異性構築物ごとに実施したインビトロ細胞毒性アッセイのEC50の範囲の一覧、EC50値の移動係数(shift factor)及びアッセイ回数である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
二重特異性結合構築物の新規の構成が本明細書に記載される。図1~3は、これらの構築物の代表的な例示的構成(A~E)を示す。一実施形態では、この構成は、2つの免疫グロブリン可変重鎖(VH)領域、2つの免疫グロブリン可変軽鎖(VL)領域、プロテアーゼ切断部位及び任意選択によりFc領域からなる単鎖ポリペプチド鎖を含み、以下の順序で配置される:VH1-VH2-VL1-VL2(「HHLL」)であって、より具体的には第1の構成ではVH1-リンカー-VH2-リンカー-VL1-リンカー-VL2(任意選択によりVL2及びscFc又は他の半減期延長部分の後ろに別のリンカーを有する)及び第2の構成ではVH1-リンカー-CH2-CH3-リンカー-VH2-リンカー-VL1-CH2-CH3-リンカー-VL2。この二重特異性構築物のHHLL構成により、例えばHLHL構成と比較して、免疫エフェクター細胞及び標的細胞の所望の標的に結合する意図した機能を維持したまま、向上した安定性と、向上したインビトロでの発現との両方がもたらされる。従って、本HHLL構成により、より効率的に生成することが可能であり、且つより良好な安定性を有する二重特異性分子が提供される。この特性は、薬学的組成物に求められているものである。
【0018】
本発明によって提供される、特定の番号が付けられた実施形態として以下が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
1.式VH1-L1-VH2-L2-VL1-L3-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は、免疫グロブリン重鎖可変領域を含み、VL1及びVL2は、免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、且つL1、L2及びL3は、リンカーであり、L1は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は、少なくとも15個のアミノ酸であり、及びL3は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L1又はL3は、プロテアーゼ切断部位を含み、二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合することができる、二重特異性結合構築物。
【0020】
2.式VH1-L1-scFcサブドメイン1-L2-VH2-L3-VL1-L4-scFcサブドメイン2-L5-VL2を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド鎖を含む二重特異性結合構築物であって、VH1及びVH2は、免疫グロブリン重鎖可変領域を含み、VL1及びVL2は、免疫グロブリン軽鎖可変領域を含み、scFcは、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-2のサブドメイン1又はサブドメイン2及び免疫グロブリン重鎖定常ドメイン-3を含み、且つL1、L2、L3、L4及びL5は、リンカーであり、L1は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L2は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L3は、少なくとも15個のアミノ酸であり、L4は、少なくとも10個のアミノ酸であり、及びL5は、少なくとも10個のアミノ酸であり、L1、L2、L4及びL5は、少なくとも5個のアミノ酸のプロテアーゼ切断部位を更に含み、二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞及び標的細胞に結合することができる、二重特異性結合構築物。
【0021】
3.プロテアーゼ切断部位は、L1及びL3の両方に存在する、実施形態1の二重特異性結合構築物。
【0022】
4.少なくとも1つのシステインクランプを更に含む、実施形態1又は3の二重特異性結合構築物。
【0023】
5.システインクランプは、VH1及びVL1サブユニット、VH2及びVL2サブユニット又はscFcサブユニット間の連結を促進する位置にある、実施形態4の二重特異性結合構築物。
【0024】
6.少なくとも1つのシステインクランプを更に含む、実施形態2の二重特異性結合構築物。
【0025】
7.システインクランプは、VH1及びVL1サブユニット、VH2及びVL2サブユニット及び/又はscFcサブユニット間の連結を促進する位置にある、実施形態6の二重特異性結合構築物。
【0026】
8.VL2ドメインに連結された半減期延長部分を更に含む、実施形態1~7のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0027】
9.半減期延長部分は、追加のリンカー及びヒトIgG1、IgG2又はIgG4抗体をコードする単鎖免疫グロブリンFc領域(scFc)を含む、実施形態8の二重特異性結合構築物。
【0028】
10.追加のリンカーは、プロテアーゼ切断部位を含む、実施形態9の二重特異性結合構築物。
【0029】
11.scFcポリペプチド鎖は、Fcγ受容体(FcγR)の結合性を阻害する1つ以上の改変及び/又は半減期を延長する1つ以上の改変を含む、実施形態10の二重特異性結合構築物。
【0030】
12.VH1、VH2、VL1及びVL2は、全て異なる配列を有する、実施形態1~11のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0031】
13.a.VH1配列は、配列番号65若しくは67を含み、及びVL1配列は、配列番号66若しくは68を含み、及びVH2配列は、配列番号75若しくは77を含み、及びVL2配列は、配列番号76若しくは78を含むか、又は
b.VH1は、配列番号75若しくは77を含み、及びVL1配列は、配列番号76若しくは78を含み、及びVH2配列は、配列番号65若しくは67を含み、及びVL2配列は、配列番号66若しくは68を含む、実施形態1~12のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0032】
14.追加のリンカー(L0)でVH1に連結された追加の部分を更に含み、L0は、長さが少なくとも5個のアミノ酸である、実施形態1~13のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0033】
15.追加の部分は、CD3ε、又はヒト血清アルブミン-リンカー-CD3(a.a.1~6)、又はヒト血清アルブミン-リンカー-CD3(a.a.1~27)、又はscFC-リンカー-CD3εである、実施形態14の二重特異性結合構築物。
【0034】
16.L0は、プロテアーゼ部位を更に含む、実施形態14又は15の二重特異性結合構築物。
【0035】
17.リンカーは、異なる長さである、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0036】
18.リンカーは、同じ長さである、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0037】
19.L1及びL2は、同じ長さである、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0038】
20.L1及びL3は、同じ長さである、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0039】
21.L2及びL3は、同じ長さである、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0040】
22.L1のアミノ酸配列は、少なくとも10個のアミノ酸長であり、L2のアミノ酸配列は、少なくとも15個のアミノ酸長であり、及びL3のアミノ酸配列は、少なくとも15個のアミノ酸長である、実施形態1~16のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0041】
23.エフェクター細胞は、ヒトT細胞受容体(TCR)-CD3複合体の一部であるエフェクター細胞タンパク質を発現する、実施形態1~22のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0042】
24.エフェクター細胞タンパク質は、CD3ε鎖である、実施形態1~22のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0043】
25.実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物をコードする核酸。
【0044】
26.実施形態25の核酸を含むベクター。
【0045】
27.実施形態26のベクターを含む宿主細胞。
【0046】
28.実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物を製造する方法であって、(1)二重特異性結合構築物を発現するための条件下で宿主細胞を培養することと、(2)細胞集団又は細胞培養液上清から二重特異性結合構築物を回収することとを含み、宿主細胞は、実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物をコードする1つ以上の核酸を含む、方法。
【0047】
29.癌患者を治療する方法であって、治療上有効な量の、実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物を患者に投与することを含む方法。
【0048】
30.化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤及び/又は放射線は、二重特異性結合構築物の投与と同時に、その前に又はその後に患者に投与される、実施形態29の方法。
【0049】
31.実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物。
【0050】
32.疾患を予防、治療又は緩和するための医薬の製造における、実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物の使用。
【0051】
33.結合構築物のアミノ酸配列は、配列番号88、89、90、91、92、93、94、95、96、97又は98から選択される配列を含む、実施形態1~24のいずれかの二重特異性結合構築物。
【0052】
前述の概要及び以下の詳細な説明は、いずれも例示的且つ説明的なものにすぎず、特許請求される本発明を限定するものではないことを理解されたい。本出願では、単数形の使用は、特に断りのない限り、複数形を含む。本出願では、「又は」の使用は、特に断りのない限り、「及び/又は」を意味する。更に、「含んでいる」という用語の使用は、「含む」及び「含まれる」などの他の形態と同様に、限定的なものではない。また、「要素」又は「成分」などの用語は、特に断りのない限り、1つのユニットを含む要素及び成分並びに2つ以上のサブユニットを含む要素及び成分の両方を包含する。また、用語「部分」の使用は、部分の一部又は部分全体を含むことができる。
【0053】
本明細書では、別段の定義がない限り、本発明と関連して使用される科学用語及び専門用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。更に、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。一般に、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びに本明細書に記載のタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及び技術は、当技術分野でよく知られ、且つ一般に使用されているものである。本発明の方法及び技法は、様々な一般的な参考文献及びより具体的な参考文献に記載されるように、当技術分野においてよく知られた従来法に従って一般に実施される。
【0054】
ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、標準的な1文字又は3文字の略語を使用して示される。特に断りのない限り、ポリペプチド配列は、その左側にアミノ末端を、その右側にカルボキシ末端を有し、及び一本鎖核酸配列及び二本鎖核酸配列の上鎖は、その左側に5’末端を、その右側に3’末端を有する。ポリペプチドの特定の部位は、アミノ酸1~50などのアミノ酸残基番号又はアスパラギンからプロリンなどの部位における実際の残基によって指定することができる。特定のポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は、参照配列とどのように異なるかを明らかにすることによって説明することもできる。
【0055】
定義
分子(この場合、分子とは、例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、二重特異性結合構築物又は抗体である)に関する「単離された」という用語は、その起源又は派生源により、(1)その天然状態では、それに付随する天然に会合する成分と会合しないか、(2)同じ種由来の他の分子を実質的に含まないか、(3)異なる種からの細胞によって発現するか、又は(4)天然に存在しない分子である。従って、化学的に合成されるか、又はそれが天然に生じる細胞と異なる細胞系において発現する分子は、その天然に会合する成分から「単離されている」ことになる。分子は、当技術分野でよく知られた精製技術を使用して単離することにより、天然に会合した成分を実質的に含まないようにもされ得る。分子の純度又は均質性は、当技術分野でよく知られた多くの手段によって評価され得る。例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用し、当技術分野でよく知られた技術を用いてゲルを染色し、ポリペプチドを可視化することによってポリペプチド試料の純度を評価し得る。特定の目的のために、HPLC又は当技術分野でよく知られた他の精製手段を使用することにより、より高い分解能が提供され得る。
【0056】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、全体にわたって互換的に用いられ、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体を用いて生成されたDNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び天然に存在しないヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドを含む。核酸は、一本鎖又は二本鎖であり得る。一実施形態では、本発明の核酸分子は、本発明の抗体若しくはフラグメント、誘導体、ムテイン又はこれらの変異体をコードする連続的なオープンリーディングフレームを含む。
【0057】
「ベクター」とは、核酸であり、これに連結された別の核酸を細胞に導入するために用いることができる。ベクターの一種である「プラスミド」とは、直線状又は環状の二本鎖DNA分子を指し、これに追加の核酸セグメントを連結することができる。別の種類のベクターには、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)があり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムに導入することができる。特定のベクターでは、導入された宿主細胞中で自己複製が可能である(例えば、細菌複製起点を含む細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)では、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより宿主ゲノムと共に複製される。「発現ベクター」とは、選択したポリヌクレオチドの発現を誘導することができるベクターの種類である。
【0058】
調節配列がヌクレオチド配列の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング又は位置)場合、ヌクレオチド配列は、調節配列に「作動可能に連結」されている。「調節配列」とは、作動可能に連結された核酸の発現に影響を与える(例えば、発現のレベル、タイミング又は位置)核酸である。調節配列は、例えば、調節を受ける核酸に対して直接的に又は1つ以上の他の分子(例えば、調節配列及び/若しくは核酸に結合するポリペプチド)の作用を通して効果を及ぼすことができる。調節配列の例としては、プロモーター、エンハンサー及び他の発現調節エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。
【0059】
「宿主細胞」とは、核酸、例えば本発明の核酸を発現させるために用いることができる細胞である。宿主細胞は、原核生物、例えば大腸菌(E.coli)であり得るか、又は真核生物、例えば単細胞真核生物(例えば、酵母菌若しくは他の真菌)、植物細胞(例えば、タバコ若しくはトマトの植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞若しくは昆虫細胞)又はハイブリドーマであり得る。典型的には、宿主細胞とは、ポリペプチドをコードする核酸によって形質転換又は形質移入することができ、続いてこの宿主細胞に核酸を発現させることが可能な培養細胞である。「組換え宿主細胞」という語句は、発現する核酸によって形質転換又は形質移入された宿主細胞を表すために用いることができる。宿主細胞は、核酸を含むが、核酸と作動可能に連結されているような調節配列が宿主細胞に導入されなければ、所望のレベルで核酸を発現しない細胞でもあり得る。宿主細胞という用語は、特定の対象の細胞だけでなく、このような細胞の後代又は潜在的な後代細胞も指すことが理解されるであろう。例えば、変異又は環境の影響によって後の世代に特定の修飾が生じる可能性があるため、このような後代は、事実上、親細胞と同一ではない可能性があるが、それでもなお本明細書で使用するような用語の範囲内に含まれる。
【0060】
「単鎖可変フラグメント」(「scFv」)とは、VL領域とVH領域とがリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して連結され、連続的なタンパク鎖を形成する融合タンパク質であり、リンカーは、タンパク鎖がそれ自体で再び折り畳まれ、一価抗原結合部位を形成することを可能にするために十分な長さを有する(例えば、Bird et al.,Science 242:423-26(1988)及びHuston et al.,1988.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83(1988)を参照されたい)。他の追加の部分(例えば、Fc領域)と関連する場合、scFvは、例えば、VH-リンカー-VL又はVL-リンカー-VHに配置される。
【0061】
「CDR」という用語は、抗体可変配列内の相補性決定領域(「最小認識単位」又は「超可変領域」とも呼ばれる)を指す。このCDRにより、抗体又は二重特異性結合構築物が特定の目的の抗原に特異的に結合することが可能となり、本明細書で提供される二重特異性結合構築物には、重鎖及び/又は軽鎖由来のCDRが含まれ得る。3つの重鎖可変領域CDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)と、3つの軽鎖可変領域CDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)とが存在する。2つの鎖のそれぞれのCDRは、典型的には、フレームワーク領域によって整列され、標的タンパク質上の特定のエピトープ又はドメインと特異的に結合する構造を形成する。N末端からC末端までの天然に存在する軽鎖及び重鎖可変領域のいずれも、典型的には、以下のこれらの要素の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4に従う。こうしたドメインのそれぞれの位置を占めるアミノ酸に対して番号を割り当てるための番号付けシステムが考案されている。この番号付けシステムは、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(1987 and 1991,NIH,Bethesda,MD)又はChothia&Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883に定義されている。所与の抗体の相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、このシステムを使用して同定することができる。免疫グロブリン鎖のアミノ酸に関する他の番号付けシステムとしては、IMGT(登録商標)(international ImMunoGeneTics information system;Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.29:185-203;2005)及びAHo(Honegger and Pluckthun,J.Mol.Biol.309(3):657-670;2001)が挙げられる。1つ以上のCDRを共有結合的又は非共有結合的に分子に組み込んで、これを二重特異性結合構築物とし得る。
【0062】
「ヒト抗体」という用語には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当技術分野で公知のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変領域及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体が含まれる。本明細書で言及されるヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異導入により導入される変異又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基に置き換えられた少なくとも1、2、3、4、5つ又はそれを超える位置を有し得る。本明細書で使用する場合、ヒト抗体の定義は、Xenomouseが挙げられるが、これに限定されない、例えばファージディスプレイ技術又はトランスジェニックマウス技術などの当技術分野において公知の技術又はシステムを使用することによって誘導することができるような、非人為的且つ/又は遺伝子組換えされた抗体のヒト配列のみを含む完全ヒト抗体も想定するものである。本発明に関連して、ヒト抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0063】
ヒト化抗体は、1つ以上のアミノ酸置換、欠失及び/又は付加により、非ヒト種由来の抗体の配列と異なる配列を有する。そのため、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与した場合、非ヒト種抗体と比較して免疫応答を誘導する可能性が低くなり、且つ/又はそれほど重篤でない免疫応答を誘導する。一実施形態では、非ヒト種抗体のフレームワーク並びに重鎖及び/又は軽鎖の定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変異させて、ヒト化抗体を生成する。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメインのヒンジ、CH2及びCH3ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。別の実施形態では、ヒト対象に投与したときに非ヒト抗体の免疫原性を減少させる可能性が高くなるように、非ヒト抗体の1つ以上のCDR配列内の1つ以上のアミノ酸残基を変更するが、この変更されたアミノ酸残基のいずれも、その抗原に対する抗体の抗体特異的な結合性に対して重要なものではないか、又はアミノ酸配列に対して行われた変化が保存的変化であり、これにより、抗原に対するヒト化抗体の結合性が抗原に対する非ヒト抗体の結合性よりも大幅に劣化することがないようにする。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号明細書、同第5,886,152号明細書及び米国特許第5,877,293号明細書に見出すことができる。本発明に関連して、ヒト化抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0064】
「キメラ抗体」という用語は、1つの抗体に由来する1つ以上の領域と、1つ以上の他の抗体に由来する1つ以上の領域とを含む抗体を指す。一実施形態では、CDRの1つ以上がヒト抗体由来のものである。別の実施形態では、CDRの全てがヒト抗体由来のものである。別の実施形態では、2つ以上のヒト抗体に由来するCDRを混合して、キメラ抗体に組み合わせる。例えば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR1と、第2のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR2及びCDR3と、第3の抗体由来の重鎖に由来するCDRとを含み得る。更に、フレームワーク領域は、同一の抗体、ヒト抗体などの1つ以上の異なる抗体又はヒト化抗体の1つに由来するものであり得る。キメラ抗体の一例では、重鎖及び/又は軽鎖の一部は、特定の種からの抗体又は特定の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一であるか、相同的であるか又はこれらに由来するものである一方、鎖の残部は、別の種からの抗体又は別の抗体クラス若しくは抗体サブクラスに属する抗体と同一であるか、相同的であるか又はこれらに由来するものである。また、所望の生物学的活性を示すそのような抗体のフラグメントも含まれる。本発明に関連して、キメラ抗体由来の可変領域を、想定される二重特異性結合構築物構成に使用することができる。
【0065】
本発明は、HHLL構成からなり、プロテアーゼ切断部位を含むリンカーを更に含む二重特異性結合構築物を提供する。最も一般的には、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物は、共に連結されると2つの異なる抗原に結合することが可能な異なるアミノ酸配列を有するいくつかのポリペプチド鎖を含む。特にリンカーにプロテアーゼ切断部位を含む場合(例えば、図1及び2を参照されたい)、切断されていない形態の結合構築物は、所望の標的に対する結合性が低下しているか又はまったく結合しない。プロテアーゼにさらされると、リンカーが切断され、続いて結合構築物が所望の標的に結合することが可能となる。任意選択により、HHLL分子は、半減期延長部分を更に含む。いくつかの実施形態では、半減期延長部分は、Fcポリペプチド鎖である。いくつかの実施形態では、半減期延長部分は、単鎖Fcである。更に他の実施形態では、半減期延長部分は、ヘテロFcである。更に他の実施形態では、半減期延長部分は、ヒトアルブミンである。
【0066】
リンカー
免疫グロブリン可変領域間にペプチドリンカーが存在し、このペプチドリンカーは、同一のリンカー又は異なる長さの異なるリンカーであり得る。二重特異性結合構築物の構造において、リンカーは、重要な役割を果たし得る。リンカーが短すぎる場合、単鎖ポリペプチド上の適切な可変領域が相互作用して抗原結合部位を形成するために十分な柔軟性を得ることができない。リンカーが適切な長さである場合、可変領域が同一のポリペプチド鎖上の別の可変領域と相互作用して、抗原結合部位を形成することが可能となる。特定の実施形態では、HHLL構成は、ドメイン内(H1、L1内)及びドメイン間(H1とL1との間)の両方でジスルフィド結合を含む。特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物の適切な発現及び立体構造を達成するために、様々な免疫グロブリン領域間に特定のリンカーを使用する(例えば、本明細書の図1を参照されたい)。例示的なリンカーを本明細書の表1に示す。特定の実施形態では、リンカー長を増大させると、タンパク質のクリッピングの増加という望ましくない特性をもたらす可能性がある。従って、適切なポリペプチド構造及び活性を可能としながら、クリッピングの増加をもたらすことのないように、リンカー長間で適切なバランスをとることが望ましい。
【0067】
「リンカー」とは、本明細書で意味する場合、2つのポリペプチドを連結するペプチドである。特定の実施形態では、リンカーは、二重特異性結合構築物に関連して、2つの免疫グロブリン可変領域を連結することができる。リンカーは、長さが2~30個のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、2~25個、2~20個又は3~18個のアミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、14、13、12、11、10、9、8、7、6又は5個以下のアミノ酸長のペプチドであり得る。他の実施形態では、リンカーは、5~25個、5~15個、4~11個、10~20個又は20~30個のアミノ酸長であり得る。他の実施形態では、リンカーは、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸長であり得る。例示的なリンカーとしては、例えば、アミノ酸配列GGGGS(配列番号1)、GGGGSGGGGS(配列番号2)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)、GGGGQ(配列番号6)、GGGGQGGGGQ(配列番号7)、GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)、GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)、GGGGSAAA(配列番号11)、TVAAP(配列番号12)、ASTKGP(配列番号13)及びAAA(配列番号14)が挙げられ、特に上述したアミノ酸配列又はアミノ酸配列のサブユニットの繰り返しを含む(例えば、GGGGS(配列番号1)又はGGGGQ(配列番号6)の繰り返し)。
【0068】
本発明のHHLL分子に関連して、特定の実施形態では、リンカー1のリンカー配列は、少なくとも10個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、10~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー1は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー1は、30個超のアミノ酸である。
【0069】
本発明のHHLL分子に関連して、特定の実施形態では、リンカー2のリンカー配列は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー2は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー2は、30個超のアミノ酸である。
【0070】
本発明のHHLL分子に関連して、特定の実施形態では、リンカー3のリンカー配列は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、15~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー3は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー3は、30個超のアミノ酸である。
【0071】
本発明のHHLL分子に関連して、特定の実施形態では、リンカー4のリンカー配列は、少なくとも5個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも10個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも15個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも20個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも25個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、少なくとも30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、5~30個のアミノ酸である。他の実施形態では、リンカー4は、5、6、7、8、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のアミノ酸である。更に他の実施形態では、リンカー4は、30個超のアミノ酸である。
【0072】
本発明のHHLL分子に関連して、特定の実施形態では、リンカー配列及び位置が下記の表1に記載されており、リンカーの位置は、図1に記載されるものに対応し、Fc領域が更にHHLL分子に結合している場合、任意選択によりリンカー4を使用する。
【0073】
【表1】
【0074】
3-3-2リンカーは、陰性対照として機能するように、意図的に最適でない長さで設計されていることに留意されたい。
【0075】
プロテアーゼ切断部位
特定の治療用途では、標的細胞と接近した際又はそれらの局所的な微小環境内でのみ活性化されるような方法で二重特異性結合構築物を設計することが有用であり得る。例えば、微小環境にプロテアーゼを産生する特定の癌、炎症性疾患、線維性疾患及び神経変性疾患では、二重特異性結合構築物は、疾患のある細胞の微小環境に存在すると活性化する。例えば、Broder and Becker-Pauly(2013),Biochem.J.450:pp.253-264を参照されたい。また、例えば、Metz et al.(2012),Protein Engineering,Design and Selection,Vol.25,Issue 10,pp.571-580も参照されたい。この種類の疾患状態では、二重特異性結合構築物は、疾患細胞によって産生されるプロテアーゼの存在下で活性化することができるが、それらが存在しなければ活性化しない。従って、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物は、疾患微小環境内で特異的に活性化し、身体の他の領域で活性が劣るか又は不活性となることが可能であり、療法を受ける患者によって経験されるネガティブな副作用を少なくすることができる。
【0076】
従って、特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、特定のドメインを結合するリンカー内にプロテアーゼ切断部位を含み、このプロテアーゼ切断部位は、標的細胞、例えば癌細胞又は感染細胞若しくは病原体によって産生されるプロテアーゼによって切断することができ、この切断により分子が活性化する。
【0077】
「プロテアーゼ切断部位」とは、本明細書で意味する場合、例えばメタロプロテイナーゼ(例えば、MMP2、MMP9、MMP11又はその他などのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP))、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、プラスミン又はプラスミノーゲン活性化因子(例えば、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)若しくは組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA))、線維芽細胞活性化タンパク質α(FAPα)又は任意のその他の中でも特にフーリンなどのプロテアーゼによって切断することができるアミノ酸配列を含む。リンカー内のプロテアーゼ切断部位の代表的な位置を本明細書の図1及び2に図示する。そのようなプロテアーゼ切断部位によって構成されるアミノ酸配列の非限定的な例として、本明細書の表2に列記されているものが挙げられる。
【0078】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼ切断部位は、例えば、プラスミンによって切断される部位を含み得る。プロ酵素のプラスミノーゲンは、u-PAによるタンパク質切断によって活性化され、結果として活性酵素であるプラスミンに転換される。セリンプロテアーゼであるプラスミンは、細胞外マトリックスの分解及び他の酵素、例えばタイプIVコラゲナーゼの活性化により、転移における役割を担う可能性がある。例えば、Kaneko et al.(2003),Cancer Sci.94(1):43-39を参照されたい。
【0079】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)MMP-2及びMMP-9は、卵巣、乳房及び前立腺腫瘍並びに黒色腫を含む様々なヒト腫瘍に過剰発現する。更に、浸潤性腫瘍増殖と、高レベルのMMP-2及び/又はMMP-9との間の関連性は、臨床試験及び実験研究の両方で観察されている。例えば、Roomi et al.(2009),Onc.Rep.21:1323-1333を参照されたい。MMP-2又はMMP-9の切断部位は、P4-P3-P2-P1|P1’-P2’-P3’-P4’と表すことができ、P1~P4及びP1’~P4’は、アミノ酸であり、垂直線は、切断部位を表す。MMP-2の切断部位については、ある程度一般化することができる。P1は、グリシン又はプロリンである可能性が最も高い。P2は、プロリンである可能性が最も高く、アラニン、バリン又はイソロイシンは、若干可能性が低くなる。P3は、アラニン、セリン又はアルギニンである可能性が最も高い。P4は、アラニン、グリシン、アスパラギン又はセリンである可能性が最も高い。P1’は、ロイシンである可能性が最も高く、イソロイシン、フェニルアラニン又はチロシンは、若干可能性が低くなる。P2’は、リシンである可能性が最も高く、アラニン、バリン、イソロイシン、又チロシンは、若干可能性が低くなる。P3’は、アラニン、セリン又はアルギニンである可能性が最も高い。P4’は、アラニン、リシン又はアスパラギン酸である可能性が最も高い。MMP-9の切断部位の場合、幾分より明確な優先度がある。P4は、グリシンである可能性が最も高い。P3は、プロリンである可能性が最も高い。P2は、リシンである可能性が最も高い。P1は、グリシン又はプロリンである可能性が最も高い。P1’は、ロイシンである可能性が最も高く、イソロイシンは、若干可能性が低くなる。P2’は、リシンである可能性が最も高い。P3’は、グリシン又はアラニンである可能性が最も高い。P4’は、アラニン、プロリン又はチロシンである可能性が最も高い。MMP-2又はMMP-9の任意の切断部位は、本明細書に記載の二重特異性結合構築物内(例えば、リンカー内)に位置することができ、表2又は例えばMetz et al.(2012),Protein Engineering,Design and Selection,Vol.25,Issue 10,pp.571-580又は例えばPrudova et al.(2010),Mol.Cell.Proteomics 9(5):894-911に開示される切断部位を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、リンカーに使用されるプロテアーゼ切断部位には、例えば、特定の癌、炎症性腸疾患、嚢胞性線維症、腎疾患、糖尿病性腎症及び皮膚線維腫などの疾患に関与する可能性があるメタロプロテアーゼ、メプリンα及びメプリンβに対する切断部位も含まれる。メプリンα及びβの切断部位は、これらのプロテアーゼの各々に対して単一の画定された配列に限定されるものではない。しかしながら、切断部位に対する特定のアミノ酸位置では、1つ又は少数の特定のアミノ酸に強い優先度がある。例えば、その一部が補足材料を含む特定の切断部位について記載しており、参照により本明細書に組み込まれるBecker-Pauly et al.(2011),Molecular and Cellular Proteomics 10(9):M111.009233.DOI:10.1074/mcp.M111.009233を参照されたい。メプリンα及びメプリンβを含む様々なプロテアーゼに対する公知の切断部位を選択したものの一部を本明細書の表2に示す。
【0081】
u-PAが通常レベルよりも高いことは、例えば、結腸直腸癌、乳癌、単球性白血病及び骨髄性白血病、膀胱癌、甲状腺癌、肝臓癌、胃癌並びに胸膜、肺、膵臓、卵巣及び頭頸部の癌を含む様々な癌に関連するものであることが知られている。例えば、Skelly et al.(1997),Clin.Can.Res.3:1837-1840;Han et al.(2005),Oncol.Rep.14(1):105-112;Kaneko et al.(2003),Cancer Sci.94(1):43-49;Liu et al.(2001),J.Biol.Chem.276(21):17976-17984を参照されたい。本明細書の表2では、u-PAによって切断することができる部分の一部のサンプルが報告されている。従って、本明細書に記載の二重特異性結合構築物は、u-PA及び組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)を含み、表2に列挙した切断部位のいずれかを含む、任意のセリンプロテアーゼに対する切断部位を含み得る。
【0082】
カテプシンBなどのいくつかのシステインプロテアーゼは、腫瘍組織に過剰発現し、いくつかの癌で原因となる役割を果たす可能性があることが分かっている。例えば、Emmert-Buck et al.(1994),Am.J.Pathol.145(6):1285-1290;Biniosseek et al.(2011),J.Proteome Res.10:5363-5373を参照されたい。メプリンα及びメプリンβに対する切断部位と同様に、カテプシンBの切断部位には、多くの多様性がある。カテプシンB(及び他のプロテアーゼ)の切断部位は、P3-P2-P1|P1’-P2’-P3’と表すことができ、P1~P3及びP1’~P3’は、全てアミノ酸であり、垂直線は、切断部位を表す。ある程度の一般化をカテプシンBの切断部位に適用する。P3は、ほとんどの場合、G、F、L又はPである(アミノ酸の1文字コードを使用する)。P2は、ほとんどの場合、A、V、Y、F又はIである。P1は、ほとんどの場合、G、A、M、Q又はTである。P1’は、ほとんどの場合、F、G、I、V又はLである。P2’は、ほとんどの場合、V、I、G、T又はAである。P3’は、ほとんどの場合、Gである。更に、協同的ないくつかのサブサイトが存在する。例えば、P2がFである場合、P3はGとなる可能性が高く、且つLとなる可能性が低く、P1’は、Fとなる可能性が高く、且つLとなる可能性が低い。サブサイトの協同作用の本例及び他の例は、Biniossek et al.(2011),J.Proteome Res.10:5363-5373に詳細に記載されている。従って、本明細書の表2の切断部位を含むが、これらに限定されないカテプシンBの切断部位の全てを、本明細書に記載の二重特異性結合構築物によって構成することができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、二重特異性結合構築物は、メタロプロテイナーゼによって切断することができるプロテアーゼ切断部位Gly-Gly-Pro-Leu-Gly-Met-Leu-Ser-Gln-Ser(配列番号45)、Gly-Pro-Leu-Gly-Ile-Ala-Gly-Gln(配列番号44)又はAla-Val-Arg-Trp-Leu-Leu-Thr-Ala(配列番号102)を含む。プロテアーゼ切断部位の他の例としては、フーリンによって切断されるArg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg(配列番号54)が挙げられる。
【0084】
プロテアーゼ切断部位における切断は、当技術分野において公知の様々なアッセイ、例えばSDS-PAGE及び/又はウエスタンブロットによって評価することができる。特定の実施形態では、結合構築物は、プロテアーゼ切断部位が本質的に完全に切断されるときにより効率的に標的に結合し、これは、例えば、SDS-PAGE及び/又はウエスタンブロットによって評価することができる。
【0085】
【表2】
【0086】
システインクランプ
「システインクランプ」とは、典型的には、特定の位置に現存するアミノ酸を置き換えることにより、システインを特定の位置のポリペプチドドメインに導入することに関し、これにより、特定の位置に導入されたシステインを更に有する別のポリペプチドドメインと接近した際、この2つのドメイン間にジスルフィド結合(「システインクランプ」)を形成することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼ切断部位を含むリンカー配列によりプロテアーゼ切断部位が切断されると、適切なポリペプチドドメイン間に共有結合がないため、所望の分子構造が生じない分子をもたらすことができる。従って、ある実施形態では、特定の位置(「システインクランプ」)に導入された1つ以上の改変されたジスルフィド結合によって共有結合がもたらされる。これらのシステインクランプの非限定的な例は、米国特許出願公開第2016/0193295A1号明細書、米国特許出願公開第2017/0306033A1号明細書及び米国特許出願公開第2018/0079790A1号明細書に見出すことができる。
【0088】
特定の実施形態では、抗体Fcドメインは、CH2及び/又はCH3ドメインなどのシステインクランプを含み得る。例えば、米国特許出願公開第2016/0193295A1号明細書を参照されたい。特定の実施形態では、scFCは、CH2ドメインの両方にまたがるジスルフィド結合を生じさせる少なくとも1つのシステインクランプを含む。更なる特定の実施形態では、scFCは、CH2ドメインの両方にまたがるジスルフィド結合を生じさせる少なくとも2つのシステインクランプを含む。
【0089】
特定の実施形態では、システインクランプを生成するようにCH2配列が変更されるアミノ酸残基は、1つ以上のアミノ酸をシステインで置換した以下のものから選択することができる:R72C、V82C、R329C、R339C。
【0090】
特定の実施形態では、残基の特定の対が互いにジスルフィド結合を優先的に形成するように置換され、それによりジスルフィド結合のスクランブルを制限又は防止する。これらの特定の対の非限定的な例としては、72C~82C、329C~339Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
他の実施形態では、結合構築物のVH及びVLドメインは、VHドメインとVLドメインとの間にジスルフィド結合を形成するようにシステインクランプを含み得る。これらのシステインクランプにより、抗原結合構成においてVH及びVLドメインが安定化することになる。例えば、米国特許出願公開第2017/0306033A1号明細書を参照されたい。
【0092】
特定の実施形態では、システインクランプを生成するようにVH及びVL配列が変更されるアミノ酸残基は、1つ以上のアミノ酸をシステインで置換した以下のものから選択することができる:抗MSLNの場合にはKabat VH44 VL100及び抗CD3の場合にはVH103 VL43。
【0093】
特定の実施形態では、残基の特定の対が互いにジスルフィド結合を優先的に形成するように置換され、それによりジスルフィド結合のスクランブルを制限又は防止する。これらの特定の対の非限定的な例としては、MSLN VH44-VL100、抗CD3 VH103-VL43が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
結合領域のアミノ酸配列
本明細書に記載される例示的な実施形態では、二重特異性結合構築物は、様々な所望の標的に対する所望の結合性を維持し、これは、適切な立体構造によってこうした結合が可能になるという仮定からもたらされる。免疫グロブリン可変領域は、VH及びVLドメインを含み、これらが会合して、所望の標的に結合する可変ドメインを形成する。
【0095】
可変ドメインは、所望の特性を有する任意の免疫グロブリンから得ることができ、これを達成するための方法が更に本明細書に記載される。一実施形態では、VH1とVL1とが会合してCD3εに結合し、VH2とVL2とが会合して異なる標的に結合する。別の実施形態では、VH2とVL2とがCD3εに結合し、VH1とVL1とが異なる標的に結合する。
【0096】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に列記した軽鎖可変ドメインの配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む。
【0097】
別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、本明細書に列記したポリヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下において、本明細書に列記した配列から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、軽鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下において、本明細書に列記した配列からなる群から選択される軽鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0098】
別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に記載の配列から選択される重鎖可変ドメインの配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、本明細書に列記した配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、中程度にストリンジェントな条件下において、本明細書に列記した配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、重鎖可変ドメインは、ストリンジェントな条件下において、本明細書に列記した配列から選択される重鎖可変ドメインをコードするポリヌクレオチドの相補体にハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0099】
置換
本発明の二重特異性結合構築物は、二重特異性結合構築物が同じ又はより良好な所望の結合特異性(例えば、CD3への結合性)を保持するのであれば、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し得ることが理解されるであろう。従って、二重特異性結合構築物の構造に対する修飾が本発明の範囲内に包含される。一実施形態では、二重特異性結合構築物は、本明細書に記載されるようなCDR配列から5、4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によってそれぞれ独立して異なる配列を含む。本明細書で使用する場合、本明細書に記載のCDR配列から全体で例えば4個以下のアミノ酸の付加、置換及び/又は欠失によって異なるCDR配列とは、本明細書に記載の配列と比較して4、3、2、1又は0個の単一アミノ酸の付加、置換及び/又は欠失を有する配列であることを意味する。これらは、結合構築物の所望の結合能力を損なうことのない、保存的又は非保存的であり得るアミノ酸置換を含み得る。保存的アミノ酸置換は、非天然起源のアミノ酸残基を包含し得、これらは、典型的には、生体系における合成によってではなく、化学的なペプチド合成によって組み込まれる。こうしたものには、ペプチド模倣体及びアミノ酸部分が逆転又は反転した他の形態が含まれる。保存的アミノ酸置換には、その位置におけるアミノ酸残基の極性又は電荷にほとんど又はまったく影響しないような、天然アミノ酸残基と標準残基との置換も含まれ得る。
【0100】
非保存的置換には、1つのクラスのアミノ酸又はアミノ酸模倣物のメンバーと、物理的性質(例えば、サイズ、極性、疎水性、電荷)が異なる、別のクラスに由来するメンバーとの交換も含まれ得る。特定の実施形態では、そのような置換残基を非ヒト抗体と相同なヒト抗体の領域又は分子の非相同領域に導入し得る。
【0101】
更に、当業者であれば、それぞれの所望のアミノ酸残基に単一のアミノ酸置換を含む試験変異体を生成することができる。続いて、この変異体を、当業者に公知の活性アッセイを使用してスクリーニングすることができる。そのような変異体を使用して、好適な変異体に関する情報を収集することができる。例えば、破壊されるか、所望しない還元を受けるか、又は不適切な活性が生じた特定のアミノ酸残基に対する変更を発見した場合、このような変更を有する変異体を避け得る。換言すれば、当業者であれば、そのような日常的な実験から収集された情報に基づいて、単独で又は他の変異と組み合わせて、更なる置換を避ける必要のあるアミノ酸を容易に判断することができる。
【0102】
当業者であれば、よく知られる手法を使用して、本明細書に記載されるような二重特異性結合構築物の好適な変異体を決定することができるであろう。特定の実施形態では、当業者であれば、活性に重要でないと考えられる領域を標的とすることにより、活性を損なうことなく、変更され得る分子の好適な領域を特定することができる。特定の実施形態では、本明細書に記載したように、類似のポリペプチド中に保存されている分子の残基及び部分を特定することもできる。特定の実施形態では、生物活性又は構造に重要となる可能性がある領域であっても、生物活性を損なうことなく又はポリペプチド構造に有害な影響を及ぼすことなく、保存的アミノ酸置換を行い得る。
【0103】
更に、当業者であれば、活性又は構造に重要となる、類似のポリペプチド内の残基を特定する構造機能試験を検討することができる。そのような比較を考慮することで、類似のタンパク質の活性又は構造に重要なアミノ酸残基に対応するタンパク質のアミノ酸残基の重要性を予測することができる。当業者であれば、そのように重要であると予測されるアミノ酸残基に対して化学的に類似したアミノ酸置換を選択することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、当業者であれば、必要に応じて向上した特性をもたらす、変更され得る残基を特定することができる。例えば、アミノ酸置換(保存的又は非保存的)により、所望の標的に対して増強された結合親和性をもたらすことができる。
【0105】
当業者であれば、類似のポリペプチドの構造に関する三次元構造及びアミノ酸配列を分析することもできる。当業者であれば、そのような情報を考慮することで、その三次元構造に関する抗体のアミノ酸残基のアライメントを予測することができる。特定の実施形態では、当業者であれば、タンパク質の表面に存在することが予測されるアミノ酸残基が、他の分子との重要な相互作用に関与する可能性があるため、そのような残基に根本的な変化が生じないような選択を行うことができる。二次構造の予測には、多くの科学刊行物が寄稿されている。Moult J.,Curr.Op.in Biotech.,7(4):422-427(1996),Chou et al.,Biochemistry,13(2):222-245(1974);Chou et al.,Biochemistry,113(2):211-222(1974);Chou et al.,Adv.Enzymol.Relat.Areas Mol.Biol.,47:45-148(1978);Chou et al.,Ann.Rev.Biochem.,47:251-276及びChou et al.,Biophys.J.,26:367-384(1979)を参照されたい。更に、現在、二次構造の予測支援にコンピュータープログラムを利用することができる。二次構造の予測方法の1つには、ホモロジーモデリングに基づくものがある。例えば、30%を超える配列相同性又は40%を超える類似性を有する2つのポリペプチド又はタンパク質は、多くの場合、類似した構造トポロジーを有する。タンパク質構造データベース(PDB)の発達により、ポリペプチド構造又はタンパク質構造内の折り畳みの潜在的な数を含む二次構造の予測精度が向上している。Holm et al.,Nucl.Acid.Res.,27(1):244-247(1999)を参照されたい。二次構造を予測する更なる方法としては、「スレッディング」(Jones,D.,Curr.Opin.Struct.Biol.,7(3):377-87(1997);Sippl et al.,Structure,4(1):15-19(1996))、「プロファイル分析」(Bowie et al.,Science,253:164-170(1991);Gribskov et al.,Meth.Enzym.,183:146-159(1990);Gribskov et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.,84(13):4355-4358(1987))及び「進化的リンケージ(evolutionary linkage)」(前掲のHolm(1999)及び前掲のBrenner(1997)を参照されたい)が挙げられる。
【0106】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物の変異体としては、親ポリペプチドのアミノ酸配列と比較してグリコシル化部位の数及び/又はタイプが変化したグリコシル化変異体が挙げられる。特定の実施形態では、変異体は、天然タンパク質よりも数が多い又は少ないN結合グリコシル化部位を含む。代わりに、この配列を削除する置換によって既存のN結合炭水化物鎖が除去される。また、1つ以上のN結合グリコシル化部位(典型的には天然に存在するもの)が削除されて、1つ以上の新しいN結合部位が生成される、N結合炭水化物鎖の再配置がもたらされる。更なる抗体としては、親アミノ酸配列と比較して、別のアミノ酸(例えば、セリン)によって1つ以上のシステイン残基が欠失又は置換されているシステイン変異体が挙げられる。システイン変異体は、不溶性封入体の単離後など、抗体又は二重特異性結合構築物が生物学的に活性な立体構造に再び折り畳まれる必要がある場合に有用であり得る。システイン変異体は、一般に、天然タンパク質よりも少ないシステイン残基を有し、典型的には不対システインから生じる相互作用を最小限に抑えるために偶数個のシステイン残基を有する。
【0107】
所望のアミノ酸置換(保存的か又は非保存的かにかかわらず)は、そのような置換を所望する時点で当業者が決定することができる。特定の実施形態では、アミノ酸置換を用いて、目的の標的に対する抗体若しくは二重特異性結合構築物の重要な残基を特定することができるか、又は本明細書に記載の目的の標的に対する抗体若しくは二重特異性結合構築物の親和性を増大若しくは減少させることができる。
【0108】
特定の実施形態によれば、所望のアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させるもの、(2)酸化に対する感受性を減少させるもの、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変化させるもの、(4)結合親和性を変化させるもの及び/又は(4)そのようなポリペプチドに対して他の生理化学的特性又は機能的特性を付与又は改変させるものである。特定の実施形態によれば、単一又は複数のアミノ酸置換(特定の実施形態では保存的アミノ酸置換)は、天然に存在する配列(特定の実施形態では、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分)内で行われ得る。特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、典型的には、親配列の構造的特徴を実質的に変化させることができない(例えば、置換アミノ酸により、親配列中に存在するヘリックスが破壊されるか、又は親配列を特徴付ける他のタイプの二次構造が破壊される傾向があってはならない)。当業者に知られているポリペプチドの二次構造及び三次構造の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al.Nature 354:105(1991)に記載があり、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
半減期延長及びFc領域
特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物のインビボにおける半減期を延長することが望ましい。これは、半減期延長部分を二重特異性結合構築物の一部として含むことによって達成することができる。半減期延長部分の非限定的な例としては、Fcポリペプチド、アルブミン、アルブミンフラグメント、アルブミン若しくは新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する部分、アルブミン若しくはそのフラグメントに結合するように改変されたフィブロネクチンの誘導体、ペプチド、単一ドメインタンパク質フラグメント又は血清半減期を増大させることができる他のポリペプチドが挙げられる。代替的実施形態では、半減期延長部分は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)など、ポリペプチドではない分子であり得る。
【0110】
本明細書で使用する場合、「Fcポリペプチド」という用語には、抗体のFc領域由来のポリペプチドの天然型及びムテイン型が含まれる。二量体化を促進するヒンジ領域を含有するこのようなポリペプチドの切断型も含まれる。本明細書に記載される他の特性に加えて、Fc部分を含むポリペプチドは、例えば、プロテインA又はプロテインGカラムによるアフィニティークロマトグラフィーによって生成できるという利点をもたらす。
【0111】
特定の実施形態では、半減期延長部分は、抗体のFc領域である。特定の実施形態では、Fc領域は、HHLL二重特異性結合構築物のN末端の端部に位置している。他の実施形態では、Fc領域は、HHLL二重特異性結合構築物のC末端の端部に位置している。更に他の実施形態では、Fc領域は、本明細書の図2に図示されるように、VHのサブユニットとVLのサブユニットとの間に位置し得る。HHLL二重特異性結合構築物とFc領域との間にリンカーが存在し得るが、そうである必要はない。本明細書で説明したように、Fcポリペプチド鎖は、ヒンジ領域の全て又は一部を含み得、その後、CH2及びCH3領域を含み得る。Fcポリペプチド鎖は、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒトコブラクダ又は新世界若しくは旧世界ザル)、鳥類又はサメ起源のものであり得る。加えて、上記で説明したように、Fcポリペプチド鎖は、限られた数の変異を含み得る。例えば、Fcポリペプチド鎖は、1つ以上のヘテロ二量体化変異、FcγRに対する結合性を阻害若しくは増強する1つ以上の変異又はFcRnに対する結合性を増大させる1つ以上の変異を含み得る。
【0112】
特定の実施形態では、半減期を延長するために利用されるFcは、単鎖Fc(「scFc」)である。
【0113】
いくつかの実施形態では、Fcポリペプチドのアミノ酸配列は、哺乳類、例えばヒトのアミノ酸配列であり得る。Fcポリペプチドのアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE又はIgMであり得る。ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のFcポリペプチド鎖のアミノ酸配列のアライメントを下記の表3に示す。
【0114】
使用可能なヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のFcポリペプチド鎖の配列を配列番号56~59に示す。配列の100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の欠失、挿入又は置換を含む他の類似変異体として、1つ以上のヘテロ二量体化変異、半減期を延長する1つ以上のFc変異、ADCCを増強する1つ以上の変異及び/又はFcγ受容体(FcγR)の結合性を阻害する1つ以上の変異を含有するこれらの配列の変異体も想定される。
【0115】
【表3】
【0116】
表3に示す番号付けは、IgG1抗体の定常領域の連続する番号付けに基づいたEU番号付けシステムに従う。Edelman et al.(1969),Proc.Natl.Acad.Sci.63:78-85。従って、この番号付けは、IgG3のヒンジの余分な長さに十分対応していない。それにもかかわらず、本明細書では、この番号付けを、Fc領域内の位置を表すために使用する。これは、Fc領域内の位置を指すために、依然としてこの番号付けが当技術分野で一般的に使用されているためである。IgG1、IgG2及びIgG4のFcポリペプチドのヒンジ領域は、およそ位置216からおよそ位置230に延びている。IgG2及びIgG4のヒンジ領域がIgG1ヒンジよりもそれぞれアミノ酸3個分短いことは、アライメントから明らかである。IgG3のヒンジは、かなり長く、上流に更なる47個のアミノ酸が延びている。CH2領域は、およそ位置231~340から延びており、CH3領域は、およそ位置341~447から延びている。
【0117】
Fcポリペプチドの天然に存在するアミノ酸は、わずかに異なり得る。そのような変形形態には、天然に存在するFcポリペプチド鎖の配列の100個のアミノ酸につき10個以下の単一アミノ酸の挿入、欠失又は置換が含まれる。置換が存在する場合、これらは、本明細書で定義したように保存的アミノ酸置換であり得る。第1及び第2のポリペプチド鎖上のFcポリペプチドは、アミノ酸配列内で異なり得る。いくつかの実施形態では、それらには、「ヘテロ二量体化変異」、例えば本明細書で定義したようにヘテロ二量体形成を促進する電荷対合置換が含まれ得る。更に、PABPのFcポリペプチド部分は、FcγR結合を阻止又は増強させる変異を含むこともできる。そのような変異については、本明細書及びXu et al.(2000),Cell Immunol.200(1):16-26に記載されており、その関連部分は、参照により本明細書に組み込まれる。また、Fcポリペプチド部分は、本明細書に記載したように、「半減期を延長するFc変異」を含むことができ、例えば米国特許第7,037,784号明細書、米国特許第7,670,600号明細書及び米国特許第7,371,827号明細書、米国特許出願公開第2010/0234575明細書及び国際出願PCT/米国特許出願公開第2012/070146号明細書に記載されるものを含み、その全ての関連部分が参照により本明細書に組み込まれる。更に、Fcポリペプチドは、本明細書で定義したように、「ADCCを増強する変異」を含み得る。
【0118】
PCT出願公開の国際公開第93/10151号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている別の好適なFcポリペプチドは、ヒトIgG1抗体のFc領域のN末端のヒンジ領域から天然のC末端に延びる単鎖ポリペプチドである。別の有用なFcポリペプチドは、米国特許5,457,035号明細書及びBaum et al.,1994,EMBO J.13:3992-4001に記載されているFcムテインである。このムテインのアミノ酸配列は、アミノ酸19がLeuからAlaに変更され、アミノ酸20がLeuからGluに変更され、アミノ酸22がGlyからAlaに変更されている点を除き、国際公開第93/10151号パンフレットに提示された天然Fc配列のアミノ酸配列と同一のものである。このムテインは、Fc受容体に対する親和性の低下を示す。
【0119】
1つ以上の変異をFcに導入することにより、抗体又は結合構築物のエフェクター機能を増大又は低下させることができる。本発明の実施形態には、エフェクター機能を増大させるように改変されたFcを有するIL-2ムテインFc融合タンパク質(米国特許第7,317,091号明細書及びStrohl,Curr.Opin.Biotech.,20:685-691,2009;双方共にその全体が本明細書に参照により組み込まれる)が含まれる。特定の治療指標では、エフェクター機能を増大させることが望ましい場合がある。別の治療指標では、エフェクター機能を低下させることが望ましい場合がある。
【0120】
増大したエフェクター機能を有する例示的なIgG1のFc分子としては、以下の置換基を有するものが挙げられる。
S239D/I332E
S239D/A330S/I332E
S239D/A330L/I332E
S298A/D333A/K334A
P247I/A339D
P247I/A339Q
D280H/K290S
D280H/K290S/S298D
D280H/K290S/S298V
F243L/R292P/Y300L
F243L/R292P/Y300L/P396L
F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L
G236A/S239D/I332E
K326A/E333A
K326W/E333S
K290E/S298G/T299A
K290N/S298G/T299A
K290E/S298G/T299A/K326E
K290N/S298G/T299A/K326E
【0121】
IgGのFc含有タンパク質のエフェクター機能を増大させる別の方法には、Fcのフコシル化を減少させることによるものがある。Fcに結合した二分岐の複合型オリゴ糖からコアフコースを除去することにより、抗原結合性又はCDCエフェクター機能を変化させることなくADCCエフェクター機能が著しく増大する。Fc含有分子、例えば抗体のフコシル化を減少又は消失させるためのいくつかの方法が知られている。これらの方法には、FUT8ノックアウト細胞株、変異型CHO株Lec13、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0、FUT8遺伝子に特異的な低分子干渉RNAを含む細胞株及びα-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII及びゴルジα-マンノシダーゼIIを共発現する細胞株を含む特定の哺乳類細胞株における組換え発現が挙げられる。代わりに、Fc含有分子を植物細胞、酵母又は原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli)などの非哺乳類細胞に発現させ得る。
【0122】
本発明の特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、エフェクター機能を低下させるように改変されたFcを含む。低下したエフェクター機能を有する例示的なFc分子としては、以下の置換基を有するものが挙げられる。
N297A又はN297Q(IgG1)
L234A/L235A(IgG1)
V234A/G237A(IgG2)
L235A/G237A/E318A(IgG4)
H268Q/V309L/A330S/A331S(IgG2)
C220S/C226S/C229S/P238S(IgG1)
C226S/C229S/E233P/L234V/L235A(IgG1)
L234F/L235E/P331S(IgG1)
S267E/L328F(IgG1)
【0123】
ヒトIgG1は、N297(番号付けシステム)にグリコシル化部位を有し、グリコシル化は、IgG1抗体のエフェクター機能に寄与することが知られている。例示的なIgG1配列を配列番号36に示す。アグリコシル化抗体を作製するためにN297を変異させ得る。例えば、変異により、N297を、グルタミン(N297Q)などの生理化学的性質がアスパラギンに類似したアミノ酸又は極性基を有さないアスパラギンを模倣したアラニン(N297A)で置換することができる。
【0124】
特定の実施形態では、ヒトIgG1のアミノ酸N297をグリシン、即ちN297Gに変異させると、その残基における他のアミノ酸置換と比較してはるかに優れた精製効率及び生物物理学的特性がもたらされる。例えば、米国特許第9,546,203号明細書及び米国特許第10,093,711号明細書を参照されたい。特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、N297G置換を有するヒトIgG1のFcを含む。
【0125】
N297G変異を有するヒトIgG1のFcを含む本発明の二重特異性結合構築物は、更なる挿入、欠失及び置換も含み得る。特定の実施形態では、ヒトIgG1のFcは、N297G置換を含み、配列番号36に記載されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一又は少なくとも99%同一である。特に好ましい実施形態では、C末端のリシン残基が置換又は欠失している。
【0126】
場合により、アグリコシル化されたIgG1のFc含有分子は、グリコシル化されたIgG1のFc含有分子よりも安定性が劣っている可能性がある。従って、Fc領域を改変して、アグリコシル化分子の安定性を更に増大させ得る。いくつかの実施形態では、二量体の状態のジスルフィド結合を形成するために1つ以上のアミノ酸をシステインに置換する。特定の実施形態では、配列番号56~59に記載されるアミノ酸配列の残基V259、A287、R292、V302、L306、V323又はI332をシステインで置換し得る。他の実施形態では、残基の特定の対合が互いにジスルフィド結合を優先的に形成するように置換され、それによりジスルフィド結合のスクランブルを制限又は防止する。特定の実施形態では、対合として、A287C及びL306C、V259C及びL306C、R292C及びV302C並びにV323C及びI332Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
リンカーの項において本明細書に記載したように、特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、特にFcをVL2に連結する、FcとHHLL二重特異性結合構築物との間のリンカーを含む。特定の実施形態では、FcとHHLLポリペチドとの間のペプチドの1つ以上のコピーは、GGGGS(配列番号1)、GGNGT(配列番号15)又はYGNGT(配列番号16)を含む。いくつかの実施形態では、Fc領域とHHLLポリペチドとの間のポリペプチド領域は、GGGGS(配列番号1)、GGNGT(配列番号15)又はYGNGT(配列番号16)の単一のコピーを含む。特定の実施形態では、リンカーGGNGT(配列番号15)又はYGNGT(配列番号16)は、適切な細胞に発現するとグリコシル化され、そのようなグリコシル化により、溶液内のタンパク質及び/又はインビボで投与されたときのタンパク質の安定化を促進させることができる。従って、特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物は、Fc領域とHHLLポリペプチドとの間にグリコシル化されたリンカーを含む。
【0128】
二重特異性結合構築物をコードする核酸
別の実施形態では、本発明は、本発明の二重特異性結合構築物をコードする単離核酸分子を提供する。加えて、核酸を含むベクター、核酸を含む細胞及び本発明の二重特異性結合構築物を作製する方法が提供される。核酸は、例えば、二重特異性結合構築物の全部若しくは一部又はそのフラグメント、誘導体、ムテイン若しくは変異体をコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドの発現を阻害するポリペプチド、アンチセンス核酸をコードするポリヌクレオチドを同定、分析、変異又は増幅するためのハイブリダイゼーションプローブ、PCRプライマー又はシークエンシングプライマーとして使用するために十分なポリヌクレオチド及び上記の相補的配列を含む。核酸は、所望の使用又は機能に適した任意の長さであり得、1つ以上の更なる配列、例えば調節配列及び/又はより大きい核酸、例えばベクターの一部を含み得る。核酸は、一本鎖又は二本鎖であり得、RNA及び/又はDNAヌクレオチド並びにその人工的な変異体(例えば、ペプチド核酸)を含み得る。
【0129】
ポリペプチド(例えば、重鎖又は軽鎖、可変ドメインのみ又は完全長)をコードする核酸は、抗原で免疫化されたマウスのB細胞から単離され得る。核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの従来の手順によって単離され得る。
【0130】
重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸配列が本明細書に含まれる。当業者であれば、遺伝暗号の縮重により、本明細書で開示されるポリペプチド配列のそれぞれが多数の他の核酸配列によってコードされていることを理解するであろう。本発明は、本発明のそれぞれの二重特異性結合構築物をコードするそれぞれの縮重ヌクレオチド配列を提供する。
【0131】
本発明は、特定のハイブリダイゼーション条件下で他の核酸にハイブリダイズする核酸を更に提供する。核酸をハイブリダイズする方法は、当技術分野においてよく知られている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.1989;6.3.1-6.3.6を参照されたい。本明細書に定義されるように、例えば、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)、0.5%のSDS、1.0mMのEDTA(pH8.0)を含む予洗溶液、約50%のホルムアミド、6×SSCのハイブリダイゼーション緩衝液及び55℃のハイブリダイゼーション温度(又は約50%のホルムアミドを含むような、42℃のハイブリダイゼーション温度での他の類似のハイブリダイゼーション溶液)並びに0.5×SSC、0.1%のSDS中で60℃での洗浄条件が用いられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、45℃の6×SSC中でハイブリダイズし、その後、68℃の0.1×SSC、0.2%SDS中で1回以上洗浄する。更に、当業者であれば、ハイブリダイゼーション条件及び/又は洗浄条件を操作して、互いに少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸が典型的に互いにハイブリダイズしたままで維持されるように、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを増加又は減少させることができる。ハイブリダイゼーション条件の選択に影響を及ぼす基本的なパラメータ及び好適な条件を考案するための手引きは、例えば、Sambrook,Fritsch,and Maniatis(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,chapters 9 and 11;及びCurrent Protocols in Molecular Biology,1995,Ausubel et al.,eds.,John Wiley&Sons,Inc.,sections 2.10 and 6.3-6.4)に記載されており、当業者であれば、例えばDNAの長さ及び/又は塩基組成に基づいて容易に決定することができる。核酸への変異導入によって変更を導入することができ、それにより、核酸がコードするポリペプチド(例えば、結合構築物)のアミノ酸配列に変更が生じる。変異は、当技術分野において公知の任意の手法を使用して導入することができる。一実施形態では、例えば、部位特異的変異導入プロトコールを使用して、1つ以上の特定のアミノ酸残基が変更される。別の実施形態では、例えば、ランダム変異導入プロトコールを使用して、1つ以上のランダムに選択される残基が変更される。実施方法にかかわらず、変異ポリペプチドを発現させ、その所望の特性をスクリーニングすることができる。
【0132】
核酸がコードするポリペプチドの生物活性を大きく変えることなく、変異を核酸に導入することができる。例えば、非必須アミノ酸残基位置でのアミノ酸置換を生じさせるヌクレオチド置換を実施することができる。一実施形態では、本発明の結合構築物の本明細書で提供されるヌクレオチド配列又はその所望のフラグメント、変異体若しくは誘導体を、本発明の結合構築物の軽鎖又は本発明の結合構築物の重鎖に関して本明細書に示されるアミノ酸残基の1つ以上の欠失又は置換を含むアミノ酸配列をコードし、2つ以上の配列が異なる残基となるように変異させる。別の実施形態では、この変異導入により、本発明の結合構築物の軽鎖又は本発明の結合構築物の重鎖に関して本明細書に示される1つ以上のアミノ酸残基に隣接するアミノ酸が2つ以上の配列の異なる残基となるように挿入される。代わりに、核酸がコードするポリペプチドの生物活性を選択的に変更する核酸に1つ以上の変異を導入することができる。
【0133】
別の実施形態では、本発明は、本発明のポリペプチド又はその一部をコードする核酸を含むベクターを提供する。ベクターの例としては、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳類ベクター及び発現ベクター、例えば組換え発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0134】
本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞に核酸を発現させるのに適した形態の本発明の核酸を含み得る。組換え発現ベクターは、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択される1つ以上の調節配列を含み、こうした調節配列は、発現する核酸配列に作動可能に連結されている。調節配列としては、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の恒常的発現を誘導するもの(例えば、SV40初期遺伝子エンハンサー、ラウス肉腫ウイルスプロモーター及びサイトメガロウイルスプロモーター)、特定の宿主細胞のみにおいてヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例えば、組織特異的調節配列;その全体が参照により本明細書に組み込まれるVoss et al.,1986,Trends Biochem.Sci.11:287,Maniatis et al.,1987,Science 236:1237を参照されたい)並びに特定の処理又は条件に応じてヌクレオチド配列の誘導性発現を誘導するもの(例えば、哺乳類細胞におけるメタロチオネインプロモーター並びに原核生物系と真核生物系の両方におけるtet応答性及び/又はストレプトマイシン応答性プロモーター(同文献を参照されたい)が挙げられる。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどの要因に依存する可能性があることを当業者は理解するであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、それにより、本明細書に記載されるような核酸によってコードされる融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチドを産生することができる。
【0135】
別の実施形態では、本発明は、本発明の組換え発現ベクターが導入された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であり得る。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性又はグラム陽性の微生物、例えば大腸菌(E.coli)又は桿菌(bacilli)が挙げられる。高等な真核細胞としては、昆虫細胞、酵母細胞及び哺乳類起源の株化細胞が挙げられる。好適な哺乳類宿主細胞株の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞若しくはVeggie CHOなどのそれらの派生株及び無血清培地で増殖する関連細胞株(Rasmussen et al.,1998,Cytotechnology 28:31を参照されたい)又はDHFRを欠損したCHO系統のDXB-11(Urlaub et al.,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-20を参照されたい)が挙げられる。更なるCHO細胞株としては、CHO-K1(ATCC#CCL-61)、EM9(ATCC#CRL-1861)及びUV20(ATCC#CRL-1862)が挙げられる。更なる宿主細胞としては、サル腎培養細胞のCOS-7株(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al.,1981,Cell 23:175を参照されたい)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、AM-1/D細胞(米国特許第6,210,924号明細書に記載されている)、ヒーラー細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株、アフリカミドリザル腎細胞株CV1に由来するCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL 70)(McMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821を参照されたい)、293、293 EBNA若しくはMSR 293などのヒト胚腎臓細胞、ヒト上皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常二倍体細胞、初代組織のインビトロ培養に由来する細胞株、初代移植片、HL-60細胞、U937細胞、HaK細胞又はジャーカット細胞が挙げられる。細菌、真菌、酵母菌及び哺乳類細胞宿主と共に使用するのに適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、Pouwels et al.(Cloning Vectors:A Laboratory Manual,Elsevier,New York,1985)に記載されている。
【0136】
ベクターDNAは、従来の形質転換技術又は形質移入技術によって原核細胞又は真核細胞に導入することができる。哺乳類細胞の安定した形質移入の場合、使用する発現ベクター及び形質移入技術に応じて、ごくわずかな細胞のみで外来DNAをそのゲノムに組み込みことができることが知られている。こうした組み込み体を識別して選択するために、一般的に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性のための)をコードする遺伝子が目的遺伝子と共に宿主細胞に導入される。更なる選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を与えるものが挙げられる。導入された核酸で安定的に形質移入された細胞は、他の方法の中でも特に、薬物選択によって識別することができる(例えば、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は、生存することになるが、他の細胞は、死滅する)。
【0137】
形質転換細胞は、ポリペプチドの発現を促進する条件下で培養することができ、そのポリペプチドを従来のタンパク質精製手順によって回収することができる。本明細書で使用することが想定されるポリペプチドは、内在性物質の混入を実質的に含まない実質的に均質な組換え哺乳類ポリペプチドを含む。
【0138】
本発明の二重特異性結合構築物をコードする核酸を含む細胞には、ハイブリドーマも含まれる。ハイブリドーマの生成及び培養が本明細書で述べられる。
【0139】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載されるような核酸分子を含むベクターが提供される。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書で記載されるような核酸分子を含む宿主細胞を含む。
【0140】
いくつかの実施形態では、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物をコードする核酸分子が提供される。
【0141】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1つの二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物が提供される。
【0142】
生成方法
本発明の二重特異性結合構築物は、タンパク質(例えば、抗体)を合成するための当技術分野において公知の任意の方法、特に化学合成技術又は好ましくは組換え発現技術によって生成することができる。
【0143】
二重特異性結合構築物の組換え発現には、二重特異性結合構築物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを構築することが必要となる。二重特異性結合構築物をコードするポリヌクレオチドが得られたら、二重特異性結合構築物を生成するためのベクターを組換えDNA技術によって生成することができる。発現ベクターは、二重特異性結合構築物のコード配列並びに適切な転写及び翻訳制御シグナルを含むように構築される。これらの方法としては、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術及びインビボ遺伝子組換えが挙げられる。
【0144】
従来技術によって発現ベクターを宿主細胞に導入し、続いてこの形質移入細胞を従来技術によって培養して、本発明の二重特異性結合構築物を生成する。
【0145】
様々な宿主発現ベクター系を利用して、これを本発明の二重特異性結合構築物を発現させるように容易に適合させることができる。そのような宿主発現系は、目的のコード配列を生成し、続いて精製することができる媒体を意味するだけでなく、適切なヌクレオチドのコード配列で形質転換又は形質移入した場合にその場で本発明の分子を発現することができる細胞も意味する。大腸菌(E.coli)などの細菌細胞及び真核細胞は、組換え抗体分子の発現、特に組換え抗体分子全体を発現させるために一般的に使用されている。例えば、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子のプロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳類細胞は、抗体にとって効果的な発現系である(Foecking et al.,Gene 45:101(1986);Cockett et al.,Bio/Technology 8:2(1990))。
【0146】
加えて、所望の特定の方法で挿入配列の発現を調節するか、又は遺伝子産物を改変及びプロセシングする宿主細胞株を選択し得る。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)及びプロセシング(例えば、切断)は、タンパク質が機能するために重要なものである。異なる宿主細胞では、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾に関して特徴的で特異な機構を有する。発現した外来タンパク質の正確な修飾及びプロセシングを確実なものとするために、適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。この目的を達成するために、遺伝子産物の一次転写物の適切なプロセシング、グリコシル化及びリン酸化のための細胞機構を有する真核宿主細胞を使用することができる。そのような哺乳類宿主細胞としては、CHO、COS、293、3T3又は骨髄腫細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
組換えタンパク質を長期間にわたって高収率で産生するために安定発現が好ましい。例えば、分子を安定的に発現させる細胞株を改変し得る。ウイルス性複製起点を含有する発現ベクターを使用する代わりに、適切な発現調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)で調節されたDNA及び選択マーカーによって宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAを導入した後、改変細胞を濃縮培地で1~2日間増殖させ、続いて選択培地に切り替え得る。組換えプラスミド内の選択マーカーによって選択に対する耐性が与えられ、細胞がそれらの染色体にプラスミドを安定的に組み込み、増殖して集積を形成することが可能となり、これらがクローニングされて細胞株に拡大することができる。本方法を使用して、分子を発現する細胞株を有利に改変することができる。そのような改変細胞株は、特に、分子と直接又は間接的に相互作用する化合物をスクリーニングし、評価する際に有用となり得る。
【0148】
単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,Cell 11:223(1977))、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska&Szybalski,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:202(1992))及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,Cell 22:817(1980))が挙げられるが、これらに限定されない多数の選択系を使用し得、遺伝子は、それぞれtk、hgprt又はaprt-細胞において使用することができる。また、以下の遺伝子:メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr(Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:357(1980);O’Hare et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527(1981));ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt(Mulligan&Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072(1981));アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるneo(Wu and Wu,Biotherapy 3:87-95(1991));及びハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygro(Santerre et al.,Gene 30:147(1984))を選択する基準として代謝拮抗薬耐性を用い得る。組換えDNA技術の技術分野において一般に公知の方法を通常通りに適用して、所望の組換えクローンを選択し得、そのような方法は、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NY(1993);Kriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990);及びin Chapters 12 and 13,Dracopoli et al.(eds),Current Protocols in Human Genetics,John Wiley&Sons,NY(1994);Colberre-Garapin et al.,J.Mol.Biol.150:1(1981)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0149】
分子の発現レベルは、ベクターを増幅することによって増加させることができる(確認のために、Bebbington and Hentschel,“The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells”(DNA Cloning,Vol.3.Academic Press,New York,1987)を参照されたい)。分子を発現するベクター系におけるマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養物中に存在する阻害因子のレベルが増加することにより、マーカー遺伝子のコピー数が増加する。増幅領域は、抗体遺伝子と会合するため、分子の生成も増加する(Crouse et al.,Mol.Cell.Biol.3:257(1983))。
【0150】
宿主細胞は、本発明の複数の発現ベクターで同時形質移入され得る。ベクターは、発現したポリペプチドの同様な発現を可能にする同一の選択マーカーを含み得る。代わりに、例えば本発明のポリペプチドをコードし、発現させることができる単一のベクターを使用し得る。コード配列は、cDNA又はゲノムDNAを含み得る。
【0151】
本発明の分子が動物により化学的に合成することによって生成されるか、又は組換えによって発現されると、免疫グロブリン分子を精製するための当技術分野において公知の任意の方法、例えばクロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、特にプロテインA後の特異抗原へのアフィニティークロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差又はタンパク質を精製するための任意の他の標準的な技術によってそれを精製し得る。加えて、本発明の結合構築物又はこれらのフラグメントは、本明細書に記載されるか又は他に当技術分野において公知の異種のポリペプチド配列に融合させて、精製を促進することができる。精製技術は、Fc領域(例えば、scFC)が本発明の二重特異性結合構築物に結合しているか否かに応じて異なり得る。
【0152】
いくつかの実施形態では、本発明には、組換え技術によってポリペプチドに融合するか又は化学的にポリペプチドにコンジュゲートする(共有結合及び非共有結合の両方によるコンジュゲートを含む)結合構築物が包含される。精製を容易にするために、融合又はコンジュゲートした本発明の結合構築物を使用し得る。例えば、Harbor et al.,前掲及びPCT出願公開の国際公開第93/21232号パンフレット;欧州特許第439,095号明細書;Naramura et al.,Immunol.Lett.39:91-99(1994);米国特許第5,474,981号明細書;Gillies et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.89:1428-1432(1992);Fell et al.,J.Immunol.146:2446-2452(1991)を参照されたい。
【0153】
更に、本発明の結合構築物又はこれらのフラグメントは、精製を促進するためにペプチドなどのマーカー配列に融合させることができる。好ましい実施形態では、マーカーのアミノ酸配列は、特に、pQEベクター(QIAGEN,Inc.、9259 Eton Avenue、Chatsworth、Calif.、91311)に設けられるタグなどのヘキサヒスチジンペプチド(配列番号103)であり、その多くは、市販されている。Gentz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821-824(1989)に記載されているように、例えば、ヘキサヒスチジン(配列番号103)は、簡単な融合タンパク質の精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグとしては、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する「HA」タグ(Wilson et al.,Cell 37:767(1984))及び「flag」タグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
二重特異性結合構築物の生成
本発明の二重特異性結合構築物は、一般的に、所望の抗体からVH領域及びVL領域を選択し、それらを本明細書で記載されるようなポリペプチドリンカーを使用して連結し、任意選択によりFc領域が結合されたHHLL二重特異性結合構築物を形成することによって構築される。より具体的には、VH、VL及びリンカー並びに任意選択によりFcをコードする核酸を組み合わせて、本発明の二重特異性結合構築物をコードするHHLL核酸構築物を生成する。
【0155】
抗体の生成
特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合構築物を生成する前に、所望の標的に対する結合特異性を有する単一特異性抗体を最初に生成する。
【0156】
本発明の二重特異性結合分子を生成するために使用される抗体は、当技術分野においてよく知られる手法によって調製され得る。例えば、動物(例えば、マウス若しくはラット又はウサギ)を免疫化することにより、続いて免疫スケジュールの完了後、この動物から採取した脾臓細胞を不死化することによる。脾臓細胞は、当技術分野において公知の任意の技術を使用して不死化することができ、例えば脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成することよって不死化することができる。例えば、Antibodies;Harlow and Lane,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1st Edition(例えば、1988からの)又は2nd Edition(例えば、2014からの)を参照されたい。
【0157】
一実施形態では、本発明の二重特異性結合分子を生成するために使用されるヒト化モノクローナル抗体は、マウス抗体の可変ドメイン(又はその抗原結合部位の全て又は一部)と、ヒト抗体由来の定常ドメインとを含む。代わりに、ヒト化抗体フラグメントは、マウスモノクローナル抗体の抗原結合部位と、ヒト抗体由来の可変ドメインフラグメント(抗原結合部位を欠損させた)とを含み得る。改変モノクローナル抗体を生成するための手順は、Riechmann et al.,1988,Nature 332:323,Liu et al.,1987,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 84:3439,Larrick et al.,1989,Bio/Technology 7:934及びWinter et al.,1993,TIPS 14:139に記載されるものが挙げられる。一実施形態では、キメラ抗体は、CDR移植抗体である。抗体をヒト化する技術は、例えば、米国特許第5,869,619号明細書;米国特許第5,225,539号明細書;米国特許第5,821,337号明細書;米国特許第5,859,205号明細書;米国特許第6,881,557号明細書,Padlan et al.,1995,FASEB J.9:133-39,Tamura et al.,2000,J.Immunol.164:1432-41,Zhang,W.,et al.,Molecular Immunology.42(12):1445-1451,2005;Hwang W.et al.,Methods.36(1):35-42,2005;Dall’Acqua WF,et al.,Methods 36(1):43-60,2005;及びClark,M.,Immunology Today.21(8):397-402,2000に記載されている。
【0158】
本発明の抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体でもあり得、これを使用して本発明の二重特異性結合分子を生成する。完全ヒトモノクローナル抗体は、当業者が精通しているであろう多くの技術によって生成され得る。そのような方法としては、ヒト末梢血細胞(例えば、Bリンパ球を含む)のエプスタイン・バーウイルス(EBV)形質転換、ヒトB細胞のインビトロ免疫化、挿入されたヒト免疫グロブリン遺伝子を有する免疫化したトランスジェニックマウス由来の脾臓細胞の融合、ヒト免疫グロブリンV領域のファージライブラリーからの単離又は当技術分野において公知の及び本明細書に開示されるものに基づく他の手順が挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
非ヒト動物でヒトモノクローナル抗体を生成するための手順が開発されている。例えば、様々な手段によって1つ以上の内在性免疫グロブリン遺伝子が不活性化されたマウスが作製されている。不活性化したマウス遺伝子を置き換えるために、マウスにヒト免疫グロブリン遺伝子が導入されている。この手法では、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座のエレメントが胚性幹細胞由来のマウスの系統に導入されるが、これには、内在性重鎖及び軽鎖遺伝子座を標的化して破壊することが含まれる(Bruggemann et al.,Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58(1997)も参照されたい)。例えば、ヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、ミニ遺伝子の構築物又はマウスリンパ組織のB細胞に特有のDNA再編成及び高頻度突然変異を受けた、酵母人工染色体上の導入遺伝子座であり得る。
【0160】
動物内で生成された抗体は、その動物に導入されたヒト遺伝子材料によってコードされるヒト免疫グロブリンポリペプチド鎖を組み込んでいる。一実施形態では、トランスジェニックマウスなどの非ヒト動物を好適な免疫原で免疫化する。
【0161】
ヒト抗体又は部分的なヒト抗体を生成するために、トランスジェニック動物を生成及び使用する手法の例は、米国特許第5,814,318号明細書、米国特許第5,569,825号明細書及び米国特許第5,545,806号明細書、Davis et al.,Production of human antibodies from transgenic mice in Lo,ed.Antibody Engineering:Methods and Protocols,Humana Press,NJ:191-200(2003),Kellermann et al.,2002,Curr Opin Biotechnol.13:593-97,Russel et al.,2000,Infect Immun.68:1820-26,Gallo et al.,2000,Eur J Immun.30:534-40,Davis et al.,1999,Cancer Metastasis Rev.18:421-25,Green,1999,J Immunol Methods.231:11-23,Jakobovits,1998,Advanced Drug Delivery Reviews 31:33-42,Green et al.,1998,J Exp Med.188:483-95,Jakobovits A,1998,Exp.Opin.Invest.Drugs.7:607-14,Tsuda et al.,1997,Genomics.42:413-21,Mendez et al.,1997,Nat Genet.15:146-56,Jakobovits,1994,Curr Biol.4:761-63,Arbones et al.,1994,Immunity.1:247-60,Green et al.,1994,Nat Genet.7:13-21,Jakobovits et al.,1993,Nature.362:255-58,Jakobovits et al.,1993,Proc Natl Acad Sci USA.90:2551-55.Chen,J.,M.Trounstine,F.W.Alt,F.Young,C.Kurahara,J.Loring,D.Huszar.“Immunoglobulin gene rearrangement in B-cell deficient mice generated by targeted deletion of the JH locus.”International Immunology 5(1993):647-656,Choi et al.,1993,Nature Genetics 4:117-23,Fishwild et al.,1996,Nature Biotechnology 14:845-51,Harding et al.,1995,Annals of the New York Academy of Sciences,Lonberg et al.,1994,Nature 368:856-59,Lonberg,1994,Transgenic Approaches to Human Monoclonal Antibodies in Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101,Lonberg et al.,1995,Internal Review of Immunology 13:65-93,Neuberger,1996,Nature Biotechnology 14:826,Taylor et al.,1992,Nucleic Acids Research 20:6287-95,Taylor et al.,1994,International Immunology 6:579-91,Tomizuka et al.,1997,Nature Genetics 16:133-43,Tomizuka et al.,2000,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 97:722-27,Tuaillon et al.,1993,Proceedings of the National Academy of Sciences USA 90:3720-24及びTuaillon et al.,1994,Journal of Immunology 152:2912-20.;Lonberg et al.,Nature 368:856,1994;Taylor et al.,Int.Immun.6:579,1994;米国特許第5,877,397号明細書;Bruggemann et al.,1997 Curr.Opin.Biotechnol.8:455-58;Jakobovits et al.,1995 Ann.N.Y.Acad.Sci.764:525-35に記載されている。加えて、XenoMouse(登録商標)(Abgenix、現在ではAmgen,Inc.)を含むプロトコールは、例えば、米国特許出願第05/0118643号明細書及び国際公開第05/694879号パンフレット、国際公開第98/24838号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット及び米国特許第7,064,244号明細書に記載されている。
【0162】
例えば、ハイブリドーマを生成するために、免疫化したトランスジェニックマウス由来のリンパ系細胞を骨髄腫細胞と融合させる。ハイブリドーマを生成する融合手順に使用される骨髄腫細胞は、好ましくは、非抗体産生細胞であり、高い融合効率を有し、且つ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、特定の選択培地での増殖を不可能にする酵素欠損を有する。そのような融合に使用するのに好適な細胞株の例としては、Sp-20、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7及びS194/5XXO Bulが挙げられ、ラット融合において使用される細胞株の例としては、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F及び4B210が挙げられる。細胞融合に有用な他の細胞株は、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2及びUC729-6である。
【0163】
リンパ系(例えば、脾臓)細胞及び骨髄腫細胞をポリエチレングリコール又は非イオン性界面活性剤などの膜融合促進剤と数分間混合し、続いてハイブリドーマ細胞の増殖を支持するが、ただし、骨髄腫細胞を、融合しない選択培地に低密度で蒔き得る。選択培地の1つは、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)である。十分な時間、通常、約1~2週間後に細胞のコロニーが観察される。単一のコロニーを単離し、当技術分野において公知であり、本明細書に記載の様々なイムノアッセイの任意の1つを使用して、細胞によって産生された抗体を所望の標的に対する結合活性について試験し得る。ハイブリドーマをクローニングし(例えば、限界希釈クローニング又は軟寒天プラーク単離によって)、所望の標的に特異的な抗体を産生する陽性クローンを選択して培養する。ハイブリドーマ培養液に由来するモノクローナル抗体をハイブリドーマ培養液の上清から単離し得る。従って、本発明は、細胞の染色体において本発明の二重特異性結合構築物をコードするポリヌクレオチドを含むハイブリドーマを提供する。これらのハイブリドーマは、本明細書に記載され、当技術分野において公知の方法に従って培養することができる。
【0164】
本発明の二重特異性結合分子を生成するために使用されるヒト抗体を生成するための別の方法には、ヒト末梢血細胞をEBV形質転換によって不死化することが含まれる。例えば、米国特許第4,464,456号明細書を参照されたい。所望の標的に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する、そのように不死化したB細胞株(又はリンパ芽球様細胞株)は、本明細書で提供されるような免疫検出法、例えばELISAによって同定することができ、続いて標準的なクローニング技術によって単離することができる。抗体を産生するリンパ芽球様細胞株の安定性は、当技術分野において公知の方法に従い(例えば、Glasky et al.,Hybridoma 8:377-89(1989)を参照されたい)、形質転換細胞をマウス骨髄腫と融合させてマウス-ヒトハイブリッド細胞株を生成することによって向上させることができる。ヒトモノクローナル抗体を生成するための更なる別の方法には、ヒト脾臓のB細胞を抗原でプライミングし、その後プライミングしたB細胞をヘテロハイブリッドの融合パートナーと融合させることを含むインビトロ免疫化がある。例えば、Boerner et al.,1991 J.Immunol.147:86-95を参照されたい。
【0165】
特定の実施形態では、所望の抗体を産生するB細胞を選択し、当技術分野において公知の分子生物学的手法(国際公開第92/02551号パンフレット;米国特許第5,627,052号明細書;Babcook et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7843-48(1996))及び本明細書に記載の手法に従い、このB細胞から軽鎖及び重鎖可変領域をクローニングする。所望の抗体を産生する細胞を選択することにより、免疫化した動物由来のB細胞を脾臓、リンパ節又は末梢血試料から単離し得る。B細胞は、ヒトの例えば末梢血試料から単離され得る。所望の特異性を有する抗体を産生する単一のB細胞を検出するための方法は、当技術分野においてよく知られており、例えばプラーク形成、蛍光活性化細胞選別、インビトロ刺激後の特異的抗体の検出などによるものがある。特異的抗体を産生するB細胞を選択するための方法としては、例えば、抗原を含む軟寒天中でB細胞の単一の細胞懸濁液を調製することが含まれる。B細胞によって産生される特異的抗体が抗原に結合すると複合体の形成が生じるが、この複合体は、免疫沈降物として目に見える場合がある。所望の抗体を産生するB細胞を選択した後、当技術分野において公知であり、本明細書に記載の方法に従ってDNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングし得、これを使用して本発明の二重特異性結合分子を生成し得る。
【0166】
本発明の二重特異性結合分子を生成するために使用される抗体を得るための更なる方法には、ファージディスプレイによるものがある。例えば、Winter et al.,1994 Annu.Rev.Immunol.12:433-55;Burton et al.,1994 Adv.Immunol.57:191-280を参照されたい。ヒト又はマウス免疫グロブリン可変領域遺伝子のコンビナトリアルライブラリーをファージベクター内で生成し得、これにより、TGF-β結合タンパク質又はその変異体若しくはフラグメントに特異的に結合するIgフラグメント(Fab、Fv、sFv又はそれらの多量体)をスクリーニングして選択することができる。例えば、米国特許第5,223,409号明細書;Huse et al.,1989 Science 246:1275-81;Sastry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5728-32(1989);Alting-Mees et al.,Strategies in Molecular Biology 3:1-9(1990);Kang et al.,1991 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4363-66;Hoogenboom et al.,1992 J.Molec.Biol.227:381-388;Schlebusch et al.,1997 Hybridoma 16:47-52及びその中で引用された文献を参照されたい。例えば、Ig可変領域フラグメントをコードする複数のポリヌクレオチド配列を含むライブラリーを、ファージコートタンパク質をコードする配列とインフレームでM13又はその変異体などの糸状バクテリオファージのゲノムに挿入し得る。融合タンパク質は、コートタンパク質と軽鎖可変領域ドメイン及び/又は重鎖可変領域ドメインとの融合体であり得る。特定の実施形態によれば、免疫グロブリンFabフラグメントをファージ粒子上にディスプレイすることもできる(例えば、米国特許第5,698,426号明細書を参照されたい)。
【0167】
重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリーは、λファージ、例えばλImmunoZap(商標)(H)及びλImmunoZap(商標)(L)ベクター(Stratagene,La Jolla,California)でも調製することができる。要約すると、mRNAをB細胞集団から単離し、これを使用して、λImmunoZap(H)及びλImmunoZap(L)ベクター内に重鎖及び軽鎖免疫グロブリンcDNA発現ライブラリーを生成する。これらのベクターを個別にスクリーニングするか又は共発現させて、Fabフラグメント又は抗体を形成し得る(Huse et al.、前掲を参照されたく;Sastry et al.、前掲も参照されたい)。その後、陽性プラークを非溶解性のプラスミドに転換させ得、これにより大腸菌(E.coli)由来のモノクローナル抗体フラグメントを高レベルで発現させることができる。
【0168】
一実施形態では、ハイブリドーマにおいて、ヌクレオチドプライマーを使用して、目的のモノクローナル抗体を発現する遺伝子の可変領域を増幅し、これらの遺伝子を使用して、本発明の二重特異性結合分子を生成することができる。これらのプライマーは、当業者によって合成され得るか、又は市販の供給源から購入され得る。(例えば、特にVHa、VHb、VHc、VHd、CH1、VL及びCL領域のプライマーを含むマウス及びヒト可変領域のプライマーを販売するStratagene(La Jolla、California)を参照されたい。)これらのプライマーを使用して重鎖又は軽鎖可変領域を増幅し得、続いてこれをImmunoZAP(商標)H又はImmunoZAP(商標)L(Stratagene)などのベクターにそれぞれ挿入し得る。続いて、これらのベクターを発現のための大腸菌(E.coli)、酵母菌又は哺乳類ベースの系に導入し得る。これらの方法を使用して、VHドメインとVLドメインとの融合体を含む大量の単鎖タンパク質を産生することができる(Bird et al.,Science 242:423-426,1988を参照されたい)。
【0169】
特定の実施形態では、本発明の二重特異性結合分子を生成するために使用される抗体は、「重鎖のみ」の抗体、即ち「HCAb」を産生するトランスジェニック動物(例えば、マウス)から得られる。HCAbは、天然に存在するラクダ及びラマの単鎖VHH抗体に類似するものである。例えば、米国特許第8,507,748号明細書及び米国特許第8,502,014号明細書並びに米国特許出願公開第2009/0285805A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0169548A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0307787A1号明細書、米国特許出願公開第2011/0314563A1号明細書、米国特許出願公開第2012/0151610A1号明細書、国際公開第2008/122886A2号パンフレット及び国際公開第2009/013620A2号パンフレットを参照されたい。
【0170】
上述した免疫化技術及び他の技術のいずれかを使用して、本発明による分子を産生する細胞が得られたら、本明細書に記載されるような標準的な手順に従い、そこからDNA又はmRNAを単離及び増幅することによって特異的抗体遺伝子をクローニングし得、続いてこれを使用して本発明の二重特異性結合構築物を生成し得る。そこから産生された抗体を配列決定し得、CDRを同定し、CDRをコードするDNAを前述の通りに操作して、本発明による他の二重特異性結合構築物を生成し得る。
【0171】
抗体結合部位の中央にある相補性決定領域(CDR)の分子進化は、親和性が増大した抗体、例えばSchier et al.,1996,J.Mol.Biol.263:551に記載されるような抗体を単離するためにも使用されている。従って、そのような手法は、本発明の結合構築物を調製するために有用である。
【0172】
ヒト抗体、部分的なヒト抗体又はヒト化抗体は、多くの用途、特に本発明の用途に好適であるが、特定の用途には他の種類の二重特異性結合構築物が好適となる。これらの非ヒト抗体は、例えば、任意の抗体産生動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ロバ又はヒト以外の霊長類(例えば、カニクイザル又はアカゲザル)若しくは類人猿(例えば、チンパンジー)などのサル由来のものであり得る。例えば、その種の動物を所望の免疫原によって免疫化することにより、又はその種の抗体を生成するための人工的な系(例えば、特定の種の抗体を生成するための細菌又はファージディスプレイに基づく系)を使用することにより、又は例えば抗体の定常領域を他の種に由来する定常領域で置き換えるか、若しくは他の種由来の抗体の配列に更に酷似するように抗体の1つ以上のアミノ酸残基を置換することにより、1つの種に由来する抗体を別の種に由来する抗体に転換することによって特定の種由来の抗体を生成することができる。一実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる種由来の抗体に由来するアミノ酸配列を含むキメラ抗体である。続いて、所望の結合領域配列を使用して、本発明の二重特異性結合構築物を生成することができる。
【0173】
上述したCDRの1つ以上を含有する、本発明による結合構築物の親和性を向上させることが望まれる場合、CDRの維持(Yang et al.,J.Mol.Biol.,254,392-403,1995)、鎖シャフリング法(Marks et al.,Bio/Technology,10,779-783,1992)、大腸菌(E.coli)の変異株の使用(Low et al.,J.Mol.Biol.,250,350-368,1996)、DNAシャフリング法(Patten et al.,Curr.Opin.Biotechnol.,8,724-733、1997)、ファージディスプレイ法(Thompson et al.,J.Mol.Biol.,256,7-88,1996)及び更なるPCR技術(Crameri,et al.,Nature,391,288-291,1998)を含む多数の親和性成熟プロトコールによって達成することができる。これらの親和性成熟方法の全ては、Vaughan et al.(Nature Biotechnology,16,535-539,1998)に述べられている。
【0174】
特定の実施形態では、本発明のHHLL二重特異性結合構築物を生成するために、まず、アミノ酸架橋(短いペプチドリンカー)を介して重鎖及び軽鎖可変ドメイン(Fv領域)フラグメントを連結することによって形成され得るより典型的な単鎖抗体を生成して、単鎖ポリペプチドを生じさせることが望ましい場合がある。そのような単鎖Fv(scFv)は、2つの可変ドメインポリペプチド(VL及びVH)をコードするDNA間のペプチドリンカーをコードするDNAを融合することによって調製される。得られたポリペプチドは、それら自体で再度折り畳まれ、2つの可変ドメイン間の可動性リンカーの長さに応じて、抗原結合性の単量体を形成することができるか、又は多量体(例えば、二量体、三量体又は四量体)を形成することができる(Kortt et al.,1997,Prot.Eng.10:423;Kortt et al.,2001,Biomol.Eng.18:95-108)。単鎖抗体を生成するために開発された手法としては、米国特許第4,946,778号明細書;Bird,1988,Science 242:423;Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879;Ward et al.,1989,Nature 334:544,de Graaf et al.,2002,Methods Mol Biol.178:379-87に記載されるものが挙げられる。これらの単鎖抗体は、本発明の二重特異性結合構築物とは区別され、また異なるものである。
【0175】
抗体由来の抗原結合性フラグメントは、従来の方法に従い、例えば抗体をタンパク質分解性の加水分解により、例えば全抗体をペプシン又はパパイン消化することによって得ることもできる。例として、抗体をペプシンによって酵素的開裂させることによって抗体フラグメントを生成し、F(ab’)2と称される5Sフラグメントを提供することができる。チオール還元剤を使用してこのフラグメントを更に開裂し、3.5S Fab’一価フラグメントを生成することができる。任意選択により、ジスルフィド結合の開裂によって生じるスルフヒドリル基のブロック基を使用して、開裂反応を行うことができる。別の方法として、パパインを使用した酵素的開裂により、2つの一価Fabフラグメント及びFcフラグメントが直接生成される。これらの方法は、例えば、Goldenberg,米国特許第4,331,647号明細書,Nisonoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.89:230,1960;Porter,Biochem.J.73:119,1959;Edelman et al.,in Methods in Enzymology 1:422(Academic Press 1967);及びby Andrews,S.M.and Titus,J.A.in Current Protocols in Immunology(Coligan J.E.,et al.,eds),John Wiley&Sons,New York(2003),page 2.8.1-2.8.10 and 2.10A.1-2.10A.5に記載されている。一価重鎖-軽鎖フラグメント(Fd)を形成するために重鎖を分離するか、フラグメントを更に開裂させるか、又は他の酵素的手法、化学的手法若しくは遺伝子手法など、抗体を開裂させるための他の方法も、インタクト抗体に認識される抗原にフラグメントが結合する限り使用され得る。
【0176】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、抗体の1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む。CDRは、目的のCDRをコードするポリヌクレオチドを構築することによって得ることができる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、抗体産生細胞のmRNAを鋳型として使用して可変領域を合成するために、ポリメラーゼ連鎖反応を使用することによって調製される(例えば、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106,1991;Courtenay-Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166(Cambridge University Press 1995);及びWard et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,”in Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137(Wiley-Liss,Inc.1995)を参照されたい)。抗体フラグメントは、本明細書に記載の抗体の少なくとも1つの可変領域ドメインを更に含み得る。従って、例えば、V領域ドメインは、単量体及びVH又はVLドメインであり得、これらは、本明細書で記載されるように少なくとも10-7M以下に等しい親和性で所望の標的(例えば、ヒトCD3)に独立して結合することができる。
【0177】
可変領域は、任意の天然に存在する可変ドメインであり得るか、又はその改変されたバージョンであり得る。改変されたバージョンとは、組換えDNA改変技術を使用して生成されている可変領域を意味する。そのような改変されたバージョンとしては、例えば、特異的抗体のアミノ酸配列内における挿入、欠失若しくは変更又は特定の抗体のアミノ酸配列への挿入、欠失若しくは変更により、特異的抗体の可変領域から生成されるものが挙げられる。当業者であれば、改変に好適なアミノ酸残基を特定するために、任意の公知の方法を使用することができる。更なる例としては、少なくとも1つのCDR並びに任意選択により第1の抗体由来の1つ以上のフレームワークのアミノ酸及び第2の抗体由来の可変領域ドメインの残部を含む、改変された可変領域が挙げられる。抗体可変ドメインの改変されたバージョンは、当業者が精通しているであろう多くの手法によって生成され得る。これらのドメインが生成されると、本発明の二重特異性結合分子を生成するためにこれらを使用することができる。
【0178】
可変領域は、C末端アミノ酸において少なくとも1つの他の抗体ドメイン又はこれらのフラグメントに共有結合され得る。従って、例えば、可変領域に存在するVHが免疫グロブリンのCH1ドメインに連結され得る。同様に、VLドメインがCKドメインに連結され得る。このように、例えば、構築物は、抗原結合ドメインがVHドメイン及びVLドメインのC末端でそれぞれCH1及びCKドメインに共有結合した、会合したVHドメイン及びVLドメインを含有するFabフラグメントであり得る。CH1ドメインを更なるアミノ酸で伸長し、例えばFab’フラグメントに見られるようなヒンジ領域又はヒンジ領域ドメインの一部を提供し得るか、又は抗体のCH2及びCH3ドメインなどの更なるドメインを提供し得る。
【0179】
結合特異性
抗体又は二重特異性結合構築物は、10-7M以下の値の平衡解離定数(KD又は下記に定義するようにKDに対応するもの)によって求められるような高い結合親和性を有する抗原に結合する場合、抗原に「特異的に結合する」。
【0180】
親和性は、当技術分野において公知の様々な手法、例えば、これらに限定されないが、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA);KinExA,Rathanaswami et al.Analytical Biochemistry,Vol.373:52-60,2008;又はラジオイムノアッセイ(RIA))、又は表面プラズモン共鳴アッセイ、又は他の動態学をベースとしたアッセイの機構(例えば、BIACORE(登録商標)分析若しくはOctet(登録商標)分析(forteBIO))並びに間接的な結合アッセイ、競合的結合アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、ゲル電気泳動及びクロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー)などの他の方法を用いて測定することができる。これら及び他の方法では、検査する構成成分の1つ以上に標識を使用し得、且つ/又は発色性標識、蛍光標識、発光標識若しくは同位体標識が挙げられるが、これらに限定されない様々な検出法を使用し得る。結合親和性及び動態についての詳細な説明は、抗体と免疫原との相互作用に焦点を当てたPaul,W.E.,ed.,Fundamental Immunology,4th Ed.,Lippincott-Raven,Philadelphia(1999)に見出すことができる。競合的結合アッセイの一例には、非標識抗原の量を増加させた状態で標識抗原を目的の抗体とインキュベートし、標識抗原と結合した抗体を検出することを含むラジオイムノアッセイがある。特定の抗原に対する目的の抗体の親和性及び結合解離率は、スキャッチャードプロット分析によるデータから求めることができる。第2の抗体との競合は、ラジオイムノアッセイを用いて求めることもできる。この場合、非標識の第2の抗体の量を増加させた状態で、抗原を標識化合物にコンジュゲートした目的の抗体とインキュベートする。これらのアッセイは、本発明の二重特異性結合構築物に容易に適合させることができる。
【0181】
本発明の更なる実施形態は、10-7M未満、又は10-8M未満、又は10-9M未満、又は10-10M未満、又は10-11M未満、又は10-12M未満、又は10-13M未満、又は5×10-13M未満(値が低いほど、より高い結合親和性を示す)の平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)で所望の標的に結合する二重特異性結合構築物を提供するものである。なお、本発明の更なる実施形態は、約10-7M未満、又は約10-8M未満、又は約10-9M未満、又は約10-10M未満、又は約10-11M未満、又は約10-12M未満、又は約10-13M未満、又は約5×10-13M未満の平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)で所望の標的に結合する二重特異性結合構築物である。
【0182】
更に別の実施形態では、所望の標的に結合する二重特異性結合構築物は、約10-7M~約10-8M、約10-8M~約10-9M、約10-9M~約10-10M、約10-10M~約10-11M、約10-11M~約10-12M、約10-12M~約10-13Mの平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)を有する。更に別の実施形態では、本発明の結合構築物は、10-7M~10-8M、10-8M~10-9M、10-9M~10-10M、10-10M~10-11M、10-11M~10-12M、10-12M~10-13Mの平衡解離定数、即ちKD(koff/kon)を有する。
【0183】
分子安定性
特にバイオ医薬品の治療用分子に関連して、分子安定性の様々な態様が望まれる場合がある。例えば、様々な温度における安定性(「熱安定性」)が望まれる場合がある。いくつかの実施形態では、この熱安定性には、生理的温度範囲、例えば37℃若しくは約37℃又は32℃~42℃における安定性が包含され得る。他の実施形態では、この熱安定性には、より高い温度範囲、例えば42℃~60℃における安定性が包含され得る。他の実施形態では、この熱安定性には、より低い温度範囲、例えば20℃~32℃における安定性が包含され得る。更に他の実施形態では、この熱安定性には、冷凍状態、例えば0℃以下の間における安定性が包含され得る。
【0184】
タンパク質分子の熱安定性を測定するためのアッセイは、当技術分野において公知である。例えば、熱勾配中に内在性タンパク質蛍光及び静的光散乱(SLS)データを同時に取得することが可能である、完全に自動化されたUNcleプラットフォーム(Unchained Labs)が使用されており、更に実施例に記載されている。更に、示差走査蛍光定量法(DSF)及び静的光散乱(SLS)など、実施例において本明細書に記載の熱安定性及び凝集アッセイを使用して、熱融解(Tm)及び熱凝集(Tagg)の両方をそれぞれ測定することもできる。
【0185】
代わりに、この分子に促進応力試験を実施し得る。要約すると、この試験は、特定の温度(例えば、40℃)でタンパク質分子をインキュベートし、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって様々な時点で凝集を測定することを伴うものであり、この場合、凝集レベルが低いほど、より良好なタンパク質の安定性を示す。
【0186】
代わりに、以下のように分子が凝集する温度の観点から熱安定性パラメータを決定することができる:濃度250μg/mlの分子溶液を単回使用のキュベットに移し、動的光散乱(DLS)装置内に置く。測定した半径を常時取得しながら、0.5℃/分の加熱速度で40℃から70℃に試料を加熱する。半径の増大は、タンパク質の融解及び凝集を示し、これを用いて分子の凝集温度を算出する。
【0187】
代わりに、示差走査熱量測定(DSC)によって融解温度曲線を測定し、結合構築物の固有の生物物理学的なタンパク質の安定性を測定することができる。これらの実験は、MicroCal LLC(Northampton、MA、U.S.A)VP-DSC装置を使用して実行する。結合構築物を含有する試料のエネルギー取り込みを20℃から90℃まで記録して、製剤緩衝液のみを含有する試料と比較する。結合構築物を例えばSECランニング緩衝液中250μg/mlの最終濃度に調整する。それぞれの融解曲線を記録するために試料の全体温度を段階的に上昇させる。それぞれの温度Tにおける試料及び製剤緩衝液標準物質のエネルギー取り込みを記録する。試料から標準物質を差し引いたエネルギー取り込みCp(kcal/mole/℃)の差をそれぞれの温度に対してプロットする。融解温度は、エネルギー取り込みが最初に最大となる温度と定義される。
【0188】
更なる実施形態では、本発明による二重特異性結合構築物は、生理的pH又はおよそ生理的pH、即ち約pH7.4で安定する。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、低いpH、例えばpH6.0までで安定する。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、高いpH、例えば最大pH9.0までで安定する。一実施形態では、二重特異性結合構築物は、6.0~9.0のpHで安定する。別の実施形態では、二重特異性結合構築物は、6.0~8.0のpHで安定する。別の実施形態では、二重特異性結合構築物は、7.0~9.0のpHで安定する。
【0189】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物が非生理的pH(例えば、pH6.0)に対して耐性が高いほど、充填されたタンパク質の総量に対してイオン交換カラムから溶出される結合構築物の回収率が高くなる。一実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧30%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧40%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧50%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧60%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧70%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧80%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧90%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧95%である。別の実施形態では、イオン(例えば、カチオン)交換カラムからの結合構築物の回収率は、≧99%である。
【0190】
特定の実施形態では、分子の化学的安定性を測定することが望まれる場合がある。二重特異性結合構築物の化学的安定性の測定は、更に実施例において本明細書に記載されるような内在性タンパク質蛍光をモニタリングすることによる等温化学変性(「ICD」)によって実行することができる。ICDによってC1/2及びΔGが得られ、これらは、タンパク質の安定性に対する優れた測定基準であり得る。C1/2は、タンパク質の50%を変性させるために必要となる化学的変性剤の量であり、これを用いてΔG(即ちアンフォールディングエネルギー)を導出する。
【0191】
タンパク鎖のクリッピングは、生物学的製剤に関して慎重に観察又は報告される別の決定的な製品品質特性である。典型的には、長いリンカー及び/又はそれほど構造化されていないリンカーは、インキュベーション時間及び温度に応じてクリッピングの増大が生じることが予想される。標的ドメイン又はT細胞結合ドメインを接続するリンカーへのクリッピングは、薬剤の効力及び有効性に最終的に有害な影響を与えるため、クリッピングは、二重特異性結合構築物にとって重大な問題である。scFcを含む更なる部位へのクリッピングは、薬力学的/動態学的特性に影響を与える可能性がある。クリッピングの増大は、医薬品において回避されなければならない特性である。従って、特定の実施形態では、タンパク質のクリッピングを、実施例において本明細書で記載されるようにアッセイすることができる。
【0192】
免疫エフェクター細胞及びエフェクター細胞タンパク質
二重特異性結合構築物は、免疫エフェクター細胞(本明細書では「エフェクター細胞タンパク質」と称する)の表面に発現する分子及び標的細胞の表面に発現する別の分子(本明細書では「標的細胞タンパク質」と称する)に結合することができる。免疫エフェクター細胞は、T細胞、NK細胞、マクロファージ又は好中球であり得る。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体に含まれるタンパク質である。TCR-CD3複合体は、TCRα及びTCRβ又はTCRγ及びTCRδ、加えてCD3ゼータ(CD3ζ)鎖、CD3イプシロン(CD3ε)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖及びCD3デルタ(CD3δ)鎖の中からの様々なCD3鎖からなるヘテロ二量体を含むヘテロ多量体である。
【0193】
CD3受容体複合体は、タンパク質複合体であり、4つの鎖から構成されている。哺乳動物では、この複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖及び2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びいわゆるζ(ゼータ)鎖と会合してT細胞受容体-CD3複合体を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する、非常に近縁の免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内尾部は、TCRのシグナル伝達能に必須の免疫受容活性化チロシンモチーフ、即ち略してITAMとして知られる単一の保存モチーフを含有する。CD3イプシロン分子は、ヒトの第11染色体に存在するCD3E遺伝子によってコードされるポリペプチドである。最も好ましいCD3イプシロンのエピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27の範囲に含まれる。本発明による二重特異性結合構築物は、典型的且つ有利には、特定の免疫療法において望ましくない非特異的T細胞活性化をそれほど示さないことが想定される。これは、換言すれば、副作用のリスクを低減することになる。
【0194】
いくつかの実施形態では、エフェクター細胞タンパク質は、多量体タンパク質の一部であり得るヒトCD3イプシロン(CD3ε)鎖(その成熟したアミノ酸配列が配列番号40に開示される)であり得る。代わりに、エフェクター細胞タンパク質は、ヒト及び/又はカニクイザルのTCRα、TCRβ、TCRβ、TCRγ、CD3ベータ(CD3β)鎖、CD3ガンマ(CD3γ)鎖、CD3デルタ(CD3δ)鎖又はCD3ゼータ(CD3ζ)鎖であり得る。
【0195】
更に、いくつかの実施形態では、二重特異性結合構築物は、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル及び/又は旧世界ザル種などの非ヒト種由来のCD3ε鎖に結合することもできる。そのような種としては、以下の哺乳類種が挙げられるが、これらに限定されない:ハツカネズミ(Mus musculus);クマネズミ(Rattus rattus);ドブネズミ(Rattus norvegicus);カニクイザル(Macaca fascicularis);マントヒヒ(Papio hamadryas);ギニアヒヒ(Papio papio);アヌビスヒヒ(Papio anubis);キイロヒヒ(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ(Papio ursinus);マーモセット(Callithrix jacchus);ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus);及びリスザル(Saimiri sciureus)。カニクイザルのCD3ε鎖の成熟したアミノ酸配列は、配列番号41に示される。ヒト並びにマウス及びサルなどの前臨床試験に一般に使用される種において同等の活性を有する治療用分子は、薬剤開発を簡素化し、促進し、最終的に改善された成果をもたらすことができる。薬剤を市場に出すための長期で費用のかかるプロセスでは、このような利点が重要となり得る。
【0196】
特定の実施形態では、二重特異性結合構築物は、ヒトCD3ε鎖又は異なる種由来のCD3ε鎖であり得、特に本明細書に列記した哺乳類種の1つであり得るCD3ε鎖(配列番号43)の最初の27個のアミノ酸内のエピトープに結合することができる。エピトープは、アミノ酸配列Gln-Asp-Gly-Asn-Glu(配列番号104)を含有し得る。このようなエピトープに結合する結合構築物の利点は、その関連部分が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書に詳細に説明されている。抗体又は二重特異性結合構築物が結合するエピトープは、例えば、その関連部分が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0183615A1号明細書に記載されているアラニンスキャニングによって決定することができる。他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、CD3εの細胞外ドメイン(配列番号42)内のエピトープに結合することができる。
【0197】
T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、二重特異性結合構築物が結合することのできるエフェクター細胞タンパク質としては、CD3ε鎖、CD3γ、CD3δ鎖、CD3ζ鎖、TCRα、TCRβ、TCRγ及びTCRδが挙げられるが、これらに限定されない。NK細胞又は細胞障害性T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、NKG2D、CD352、NKp46又はCD16aがエフェクター細胞タンパク質であり得る。CD8+T細胞が免疫エフェクター細胞である実施形態では、例えば、4-1BB又はNKG2Dがエフェクター細胞タンパク質であり得る。代わりに、他の実施形態では、二重特異性結合構築物は、T細胞、NK細胞、マクロファージ又は好中球に発現する他のエフェクター細胞タンパク質に結合することができる。
【0198】
標的細胞及び標的細胞に発現する標的細胞タンパク質
本明細書で説明したように、二重特異性結合構築物は、エフェクター細胞タンパク質及び標的細胞タンパク質に結合することができる。標的細胞タンパク質は、例えば、癌細胞、病原体に感染した細胞又は疾患、例えば炎症状態、自己免疫状態及び/若しくは線維性状態を媒介する細胞の表面に発現することができる。いくつかの実施形態では、標的細胞タンパク質は、標的細胞に高度に発現することができるが、高レベルの発現が必ずしも必要とされるわけではない。
【0199】
標的細胞が癌細胞である場合、本明細書で記載されるような二重特異性結合構築物は、本明細書で説明したように癌細胞抗原に結合することができる。癌細胞抗原は、ヒトタンパク質又は別の種由来のタンパク質であり得る。例えば、二重特異性結合構築物は、数ある中でも特に、マウス、ラット、ウサギ、新世界ザル及び/又は旧世界ザル種由来の標的細胞タンパク質に結合し得る。そのような種としては、以下の種が挙げられるが、これらに限定されない:ハツカネズミ(Mus musculus);クマネズミ(Rattus rattus);ドブネズミ(Rattus norvegicus);カニクイザル(Macaca fascicularis);マントヒヒ(Papio hamadryas);ギニアヒヒ(Papio papio);アヌビスヒヒ(Papio anubis);キイロヒヒ(Papio cynocephalus);チャクマヒヒ(Papio ursinus);マーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)及びリスザル(Saimiri sciureus)。
【0200】
いくつかの例では、標的細胞タンパク質は、感染細胞に選択的に発現するタンパク質であり得る。例えば、HBV又はHCV感染症の場合、標的細胞タンパク質は、感染細胞の表面に発現するHBV又はHCVのエンベロープタンパク質であり得る。他の実施形態では、標的細胞タンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染細胞上のHIVによってコードされるgp120であり得る。
【0201】
他の態様では、標的細胞は、自己免疫疾患又は炎症性疾患を媒介する細胞であり得る。例えば、喘息におけるヒト好酸球が標的細胞であり得、その場合、例えば、EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体(EMR1)が標的細胞タンパク質であり得る。代わりに、全身性エリテマトーデス患者における過剰なヒトB細胞が標的細胞であり得、その場合、例えば、CD19又はCD20が標的細胞タンパク質であり得る。他の自己免疫状態では、過剰なヒトTh2 T細胞が標的細胞であり得、その場合、例えば、CCR4が標的細胞タンパク質であり得る。同様に、標的細胞は、アテローム性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、硬変症、強皮症、腎移植線維症、腎臓同種移植腎症若しくは特発性肺線維症及び/又は特発性肺高血圧症を含む肺線維症などの疾患を媒介する線維性細胞であり得る。そのような線維性状態の場合、例えば、線維芽細胞活性化タンパク質α(FAPα)が標的細胞タンパク質であり得る。
【0202】
治療方法及び治療用組成物
二重特異性結合構築物を使用して、例えば様々な形態の癌、感染症、自己免疫状態若しくは炎症状態及び/又は線維性状態を含む多様な状態を治療することができる。
【0203】
別の実施形態では、疾患を予防、治療又は緩和するための医薬の製造における、本発明の結合構築物(又は本発明のプロセスに従って生成される結合構築物)の使用を提供する。
【0204】
二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物が本明細書で提供される。これらの薬学的組成物は、治療上有効な量の二重特異性結合構築物と、生理学的に許容可能なキャリア、賦形剤又は希釈剤などの1つ以上の追加の成分とを含む。いくつかの実施形態では、これらの追加の成分としては、多くの可能性の中でも特に、緩衝液、炭水化物、ポリオール、アミノ酸、キレート剤、安定剤及び/又は防腐剤を挙げることができる。
【0205】
いくつかの実施形態では、ときに癌細胞が新しい領域に侵襲すること、即ち転移することを可能にする隣接組織の破壊と新生血管の成長とを伴う、調節されない及び/又は不適切な細胞の増殖に関与する癌を含む細胞増殖性疾患を治療するために、二重特異性結合構築物を使用することができる。二重特異性結合構築物によって治療することができる状態には、結腸直腸ポリープ、脳虚血、総嚢胞性疾患、多発性嚢胞腎疾患、良性前立腺肥大症及び子宮内膜症を含む不適切な細胞増殖に関与する非悪性状態が含まれる。二重特異性結合構築物を使用して、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍悪性病変を治療することができる。より具体的には、二重特異性結合構築物を使用して治療することができる細胞増殖性疾患は、例えば、中皮腫、扁平上皮癌、骨髄腫、骨肉腫、神経膠芽腫、膠腫、癌腫、腺癌、黒色腫、肉腫、急性及び慢性白血病、リンパ腫及び髄膜腫、ホジキン病、セザリー症候群、多発性骨髄腫及び肺癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、喉頭癌、乳癌、頭頸部癌、膀胱癌、卵巣癌、皮膚癌、前立腺癌、子宮頸部癌、膣癌、胃癌、腎細胞癌、腎臓癌、膵臓癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌及び食道癌、肝胆道癌、骨癌、皮膚癌及び血液癌並びに鼻腔及び副鼻腔、鼻咽腔、口腔、中咽頭、喉頭、下喉頭、唾液腺、縦隔、胃、小腸、結腸、直腸及び肛門部、尿管、尿道、陰茎、精巣、外陰、内分泌系、中枢神経系及び形質細胞の癌を含む癌である。
【0206】
癌療法のための手引き書を提供するテキストには、Cancer,Principles and Practice of Oncology,4th Edition,DeVita et al.,Eds.J.B.Lippincott Co.,Philadelphia,PA(1993)がある。癌の特定の種類及び患者の全身状態などの他の要因に従い、関連する分野で認識されているような適切な治療手段を選択する。癌患者を治療する際、他の抗悪性腫瘍剤を使用する治療レジメンに二重特異性結合構築物を追加することができる。
【0207】
いくつかの実施形態では、例えば、化学療法剤、非化学療法の抗悪性腫瘍剤及び/又は放射線などの癌の治療に広く使用されている様々な薬剤及び治療と同時に、その前に又はその後に二重特異性結合構築物を投与することができる。例えば、本明細書に記載の任意の治療前、その間及び/又はその後に化学療法及び/又は放射線を行うことができる。化学療法剤の例は本明細書に記載されており、シスプラチン、タキソール、エトポシド、ミトキサントロン(Novantrone(登録商標))、アクチノマイシンD、シクロヘキシミド、カンプトテシン(又はこれらの水溶性誘導体)、メトトレキサート、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ダカルバジン(DTIC)、抗悪性腫瘍性抗生物質、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)及びダウノマイシン並びに本明細書で述べられた全ての化学療法剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0208】
感染症疾患、数ある中でも特に、例えば慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症又はサイトメガロウイルス(CMV)感染症を治療するために、二重特異性結合構築物を使用することもできる。
【0209】
二重特異性結合構築物は、特定の細胞型を減少させるために有用である場合、他の種類の状態における更なる使用を見出すことができる。例えば、喘息におけるヒト好酸球、全身性エリテマトーデスにおける過剰なヒトB細胞、自己免疫状態における過剰なヒトTh2 T細胞又は感染症疾患における病原体感染細胞を減少させることが有益となり得る。線維性状態では、線維性組織を形成する細胞を減少させるために有益となり得る。
【0210】
治療上有効な投与量の二重特異性結合構築物を投与することができる。治療上の用量を構成する二重特異性結合構築物の量は、治療される指標、患者の体重、算出した患者の皮膚表面領域によって異なり得る。望ましい効果を得るために、二重特異性結合構築物の投与量を調節することができる。多くの場合、反復投与が必要とされ得る。
【0211】
二重特異性結合構築物又はそのような分子を含有する薬学的組成物は、実現可能な任意の方法によって投与することができる。ある特別な処方又はそのような特別な状況でない場合、経口投与では胃の酸性環境内でタンパク質の加水分解が生じるため、タンパク質治療薬は、通常、非経口経路、例えば注射によって投与される。可能な投与経路としては、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、動脈内注射、病巣内注射又は腹膜ボーラス注射がある。二重特異性結合構築物は、注入、例えば静脈内注入又は皮下注入によって投与することもできる。特に皮膚に関わる疾患に対して、局所投与も可能である。代わりに、粘膜と接触させることにより、例えば鼻腔内投与、舌下投与、膣内投与若しくは直腸投与又は吸入薬としての投与により、二重特異性結合構築物を投与することができる。代わりに、二重特異性結合構築物を含む特定の適切な薬学的組成物を経口投与することができる。
【0212】
「治療」という用語には、少なくとも1つの症状又は他の障害の具現化の緩和又は疾患重症度を低減させることなどが包含される。本発明による二重特異性結合構築物は、実行可能な治療薬を構成するために、完全治癒又はあらゆる疾患の症状又は発現の根絶をもたらす必要はない。関連分野で認識されているように、治療薬として使用される薬物は、所与の病状の重症度を減少させることができるが、有用な治療薬とみなされるために、疾患のあらゆる発現を消失させる必要はない。単に、疾患の影響を減少させること(例えば、その症状の数又は重症度を減少させることにより、又は別の治療の有効性を増大させることにより、又は別の有益な効果を生じさせることにより)又は疾患が対象において発症するか若しくは悪化する可能性を減少させることで十分である。本発明の一実施形態は、特定の障害の重症度を反映する指標がベースラインを超える持続的改善を誘導するために十分な量及び時間で、患者に本発明の二重特異性結合構築物を投与することを含む方法に関する。
【0213】
「防止」という用語には、少なくとも1つの症状又は他の障害の具現化などを防止することが包含される。本発明による二重特異性結合構築物を組み込んだ予防的に施される治療は、実行可能な予防剤を構成するために、状態の発症を予防するために完全に有効である必要はない。単に、疾患が対象において発症するか又は悪化する可能性を減少させることで十分である。
【0214】
関連分野において理解されているように、二重特異性結合構築物を含む薬学的組成物は、指標及び組成物に適切な方法で対象に投与される。非経口投与、局所投与又は吸入による投与が含まれるが、これらに限定されない任意の好適な手法によって薬学的組成物を投与し得る。注射の場合、例えば関節内、静脈内、筋肉内、病巣内、腹腔内若しくは皮下経路を介して、ボーラス注射により又は持続注入により薬学的組成物を投与することができる。吸入による送達には、例えば、経鼻又は経口吸入、ネブライザーの使用、二重特異性結合構築物をエアロゾル形態で吸入することなどが挙げられる。他の代替手段としては、丸薬、シロップ剤又はドロップを含む経口剤が挙げられる。
【0215】
生理学的に許容可能なキャリア、賦形剤又は希釈剤などの1つ以上の追加の成分を含む組成物の形態で二重特異性結合構築物を投与することができる。任意選択により、組成物は、1つ以上の生理学的活性剤を更に含む。様々な特定の実施形態では、組成物は、1つ以上の二重特異性結合構築物に加えて、1、2、3、4、5又は6つの生理学的活性剤を含む。
【0216】
本明細書で述べられる状態のいずれかを治療するために使用される、1つ以上の二重特異性結合構築物及びラベル又は他の説明書を含む、医師が使用するためのキットが提供される。一実施形態では、キットは、本明細書に開示されるような組成物の形態であり得、1つ以上のバイアル内にあり得る1つ以上の二重特異性結合構築物の無菌製剤を含む。
【0217】
投与量及び投与頻度は、投与経路、使用される特定の二重特異性結合構築物、治療される疾患の性質及び重症度、状態が急性であるか又は慢性であるか、及び対象の身長及び全身状態などの要因によって異なり得る。
【0218】
上記では、一般的な用語で本発明を説明してきたため、限定するものではなく、実例として以下の実施例を提供する。
【実施例
【0219】
実施例1
プロテアーゼ切断部位を有する二重特異性HHLL結合構築物の生成及び発現
異なる構成のオープンリーディングフレーム(図1~3)を遺伝子合成として注文し、これをIgG由来のシグナルペプチドを含む哺乳類発現ベクターにサブクローニングし、細胞培養液上清に分泌発現させた。配列が確認されたプラスミドクローンを293HEK細胞に一過性に形質移入するか又はCHO細胞に安定に形質移入し、細胞培養液上清を一過性発現の3日後又は安定な形質移入体では6日後に採取した。タンパク質を精製するまで細胞培養液上清を-80℃で保存した。
【0220】
図1~3は、MMP2/9の非存在下における単鎖プロ二重特異性結合構築物構成(即ちプロテアーゼ切断のない)及びMMP2/9の存在下で得られたフラグメントを示す。構成Aは、N末端からC末端に以下のドメインを含有する:CD3ε(a.a.1~6又はa.a.1~27)ペプチド-L0-抗CD3 VH-L1-抗MSLN VH-L2-抗CD3 VL-L3-抗MSLN VL-L4-HLEドメイン1-L5-HLEドメイン2であり、抗CD3及び抗MSLNの可変ドメインは、特定のVHドメインとVLドメインとの間の共有結合を構築する改変されたジスルフィド架橋を含む。この構成では、L0、L1、L3及びL4にMMP2/9の制限部位が含まれる(配列番号45)。構成Bは、N末端CD3ε(a.a.1~6又はa.a.1~27)ペプチド-L0-抗CD3 VH-L1-HLEドメイン1-L2-抗MSLN VH-L3-抗CD3 VL-L4-HLEドメイン2-L5-抗MSLN VLを含有し、抗CD3及び抗MSLNの可変ドメインは、特定のVHドメインとVLドメインとの間の共有結合を構築する改変されたジスルフィド架橋を含む。この構成では、L0、L1、L2、L4及びL5にMMP2/9の制限部位が含まれる。L3リンカー長は、構築物V1E(G4S)3、B1U(G4S)6、Z9P(G4S)12間で異なっていた。構成Cは、以下のドメインを含有する:N末端抗CD3 VH-L1-抗MSLN VH-L2-抗CD3 VL-L3-抗MSLN VL-L4-HLEドメイン1-L5-HLEドメイン2であり、抗CD3及び抗MSLNの可変ドメインは、特定のVHドメインとVLドメインとの間の共有結合を構築する改変されたジスルフィド架橋を含む。この構成では、L3にMMP2/9の制限部位が含まれる。構成Dは、N末端CD3εペプチド-L0’-ヒト血清アルブミン-L0-抗CD3 VH-L1-抗MSLN VH-L2-抗CD3 VL-L3-抗MSLN VL-L4-HLEドメイン1-L5-HLEドメイン2を含有する。CD3εペプチドを2つの異なる長さ(G2P AA1-6、W9A AA1-27)で使用しており、L0’はSGリンカーであり、L4は、G4リンカーである。この構成では、L0、L1、L3及びL4にMMP2/9の制限部位が含まれる。この構成の第2の構築物を、N末端CD3ペプチドを省いて生成した(O7H)。構成Eは、N末端CD3ペプチド(AA1-6又はAA1-27)-L0”-HLEドメイン1-L0’-HLEドメイン2-L0-抗CD3 VH-L1-抗MSLN VH-L2-抗CD3 VL-L3-抗MSLN VLを含有する。この構成では、L0、L1及びL3にMMP2/9の制限部位が含まれる。この構成の第2の構築物を、N末端CD3ペプチドを省いて生成した(T7U)。
【0221】
実施例2
クロマトグラフィー分析
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによってタンパク質精製を行い、その後、サイズ排除クロマトグラフィーを行った(図4~12)。OD280nmシグナル(青色)に従ってピークをプールし、MWをSDS-PAGEによって分析した。タンパク質の単量体のピークを10nMのクエン酸塩、75mMのリシン、4%のトレハロース中に配合し、分取して-80℃で保存した。以下の構築物の結果をそれぞれ図4~12に示す:N4J、N7A、V1E、B1U、Z9P、O7H、W9A、B2P、T7U、L2Gであって、各種構築物の発現を示す。
【0222】
実施例3
切断部位がインビトロで機能するかどうかを判断するためのゲル/ブロットによるサイズ分析
インビトロにおける二重特異性結合構築物の切断を判断するために、精製された二重特異性結合構築物を組換えMMP-9(又は対照としてPBS)と1:1のモル比において37℃で18時間インキュベートした。続いて試料を95℃で5分変性させ、非還元型SDS-PAGEにかけた(図13~14)。MMP9不在下(-MMP9)でのプロ(即ちプロテアーゼ切断のない)立体構造及びMMP9存在下(+MMP9)での活性化状態(即ちプロテアーゼによって切断された)における、二重特異性結合構築物の予想されるMWを示す。MMP9とインキュベートした試料は、その後、精製せず、更なるMMP9特異的なバンドで表される(67、82kDa)。V1E(-MMP9)は、予想よりも低いMWを示し、その活性化型(+MMP9)立体構造と差異がなかった。この結果を図14A及び14Bに示す。
【0223】
実施例4
インビトロFACS結合分析
精製した二重特異性結合構築物をフローサイトメトリーにかけ、CHO細胞に形質移入した標的抗原(MSLN+ CHO)又はヒトCD3陽性T細胞株(HPB-ALL)に対する結合性を測定した。未消化の二重特異性結合構築物及びMMP-9が消化された二重特異性結合構築物並びにBiTE(登録商標)-HLE構築物(W2K)を両方の条件で結合シグナルについて比較した(図15~19)。N4J二重特異性結合構築物をhuMMP-9又はPBSと1:1のモル比において37℃で20時間プレインキュベートした。図15~17において、3E5A5マウス抗(抗CD3 scFv)Ab(5μg/ml)及びPE抗マウスIgG(1:200)を使用して、二重特異性分子を染色した。100/10/1/0.1nMの二重特異性結合構築物でアッセイを4℃で30分間実施した。染色は、二次抗マウスFc特異的PEコンジュゲートポリクローナルAbによって染色された細胞のみを参照した。図18及び19において、二重特異性結合構築物をhuMMP-9又はPBSと1:1のモル比において37℃で18時間プレインキュベートし、50/4.2/1/0.35nMの二重特異性結合構築物でアッセイを4℃で30分間実施した。
【0224】
実施例5
FACSベースのインビトロ細胞毒性アッセイ
二重特異性結合構築物をインビトロTDCCアッセイにかけ、消化されていない構築物に対するMMP-9の消化された二重特異性結合構築物との活性の差異を測定した(図20~25)。二重特異性結合構築物を組換えMMP-9(又は対照としてPBS)と1:1のモル比において37℃で18時間インキュベートした。アッセイを設定する前に、標的抗原(標的細胞)で形質移入したCHO細胞をVybrant DiOを使用して標識化し、汎T細胞単離キット(Miltenyi)を使用して、自発的で健康なドナーによって提供されたヒトPBMCからヒト汎T細胞(エフェクター細胞)を単離した。標的細胞集団及びエフェクター細胞集団と組み合わせた二重特異性結合構築物希釈系列を、エフェクター:標的を10:1の割合としてインキュベートし、37℃、5%CO、95%の湿度で48時間インキュベートした。48時間後、細胞を遠心分離してヨウ化プロピジウム(PI)で染色し、フローサイトメトリーにかけた。Vybrant DiO及びヨウ化プロピジウム(PI)に対して陽性の細胞の百分率を、対応する二重特異性結合構築物の濃度と対比してプロットし、活性を比較するために用量反応曲線のEC50値を求めた。EC50値及びその係数(何倍の効力の差となるのか)を、MMP9とインキュベートした二重特異性結合構築物のEC50を、PBSとインキュベートした二重特異性結合構築物のEC50で除算することによって算出した。EC50値の範囲、アッセイした回数及び係数(PBSとインキュベートした二重特異性結合構築物とMMP9とインキュベートした二重特異性結合構築物との間で何倍の差となるのか)を図26に示す。基準としてMMP9が切断されていない二重特異性結合構築物(W2K)を使用した。
【0225】
本明細書に引用されるあらゆる文献は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0226】
本発明は、個々の本発明の実施形態の単一の説明並びに機能的に均等な本発明の方法及び構成要素として意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に図示され記載されるものに加えて、本発明の様々な変更形態は、上述の説明及び添付図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更形態は、特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0227】
配列
例示的なリンカー配列
GGGGS(配列番号1)
GGGGSGGGGS(配列番号2)
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号3)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号4)
GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号5)
GGGGQ(配列番号6)
GGGGQGGGGQ(配列番号7)
GGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号8)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号9)
GGGGQGGGGQGGGGQGGGGQGGGGQ(配列番号10)
GGGGSAAA(配列番号11)
TVAAP(配列番号12)
ASTKGP(配列番号13)
AAA(配列番号14)
GGNGT(配列番号15)
YGNGT(配列番号16)
【0228】
Fc領域(配列番号56~59)
【化1】
【0229】
配列番号60 成熟ヒトCD3εのアミノ酸配列
【化2】
【0230】
配列番号61 カニクイザルの成熟CD3εのアミノ酸配列
【化3】
【0231】
配列番号62 ヒトCD3εの細胞外ドメインのアミノ酸配列
【化4】
【0232】
配列番号63 ヒトCD3εのアミノ酸1~27
qdgneemgg itqtpykvsi sgttvilt
【0233】
配列番号64 ヒトCD3εのアミノ酸1~6
QDGNEE
【0234】
抗CD3 VH(配列番号65)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWAYWGQGTLVTVSS
【0235】
抗CD3 VL(配列番号66)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQAPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSNRWVFGGGTKLTVL
【0236】
W103Cシステインクランプ(Kabat)を含む抗CD3 VH(配列番号67)
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNKYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAVYYCVRHGNFGNSYISYWAYCGQGTLVTVSS
【0237】
A43Cシステインクランプ(Kabat)を含む抗CD3 VL(配列番号68)
QTVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTSGNYPNWVQQKPGQCPRGLIGGTKFLAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGVQPEDEAEYYCVLWYSNRWVFGGGTKLTVL
【0238】
抗CD3 VH CDR1(配列番号69)
KYAMN
【0239】
抗CD3 VH CDR2(配列番号70)
RIRSKYNNYATYYADSVKD
【0240】
抗CD3 VH CDR3(配列番号71)
HGNFGNSYISYWAY
【0241】
抗CD3 VL CDR1(配列番号72)
GSSTGAVTSGNYPN
【0242】
抗CD3 VL CDR2(配列番号73)
GTKFLAP
【0243】
抗CD3 VL CDR3(配列番号74)
VLWYSNRWV
【0244】
抗MSLN VH(配列番号75)
QVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMTWIRQAPGKGLEWLSYISSSGSTIYYADSVKGRFTISRDNAKNSLFLQMNSLRAEDTAVYYCARDRNSHFDYWGQGTLVTVSS
【0245】
抗MSLN VL(配列番号76)
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGINTWLAWYQQKPGKAPKLLIYGASGLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQAKSFPRTFGQGTKVEIK
【0246】
G44Cシステインクランプ(Kabat)を含む抗MSLN VH(配列番号77)
QVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMTWIRQAPGKCLEWLSYISSSGSTIYYADSVKGRFTISRDNAKNSLFLQMNSLRAEDTAVYYCARDRNSHFDYWGQGTLVTVSS
【0247】
Q100Cシステインクランプ(Kabat)を含む抗MSLN VL(配列番号78)
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGINTWLAWYQQKPGKAPKLLIYGASGLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQAKSFPRTFGCGTKVEIK
【0248】
抗MSLN VH CDR1(配列番号79)
DYYMT
【0249】
抗MSLN VH CDR2(配列番号80)
YISSSGSTIYYADSVKG
【0250】
抗MSLN VH CDR3(配列番号81)
DRNSHFDY
【0251】
抗MSLN VL CDR1(配列番号82)
RASQGINTWLA
【0252】
抗MSLN VL CDR2(配列番号83)
GASGLQS
【0253】
抗MSLN VL CDR3(配列番号84)
QQAKSFPRT
【0254】
scFc(配列番号85)
【化5】
【0255】
scFcサブドメイン1(配列番号86)
【化6】
【0256】
scFcサブドメイン2(配列番号87)
【化7】
【0257】
W2K(配列番号88)
【化8】
【0258】
N4J(配列番号89)
【化9】
【0259】
N7A(配列番号90)
【化10】
【0260】
B1U(配列番号91)
【化11】
【0261】
Z9P(配列番号92)
【化12】
【0262】
V1E(配列番号93)
【化13】
【0263】
B2P(配列番号94)
【化14】
【0264】
W9A(配列番号95)
【化15】
【0265】
L2G(配列番号96)
【化16】
【0266】
T7U(配列番号97)
【化17】
【0267】
O7H(配列番号98)
【化18】
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図14A
図14B
図15A-1】
図15A-2】
図15B-1】
図15B-2】
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【配列表】
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