(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】キャリブレータルシフェラーゼを用いるルシフェラーゼアッセイのレシオメトリック検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/532 20060101AFI20250114BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
G01N33/532 B
C12Q1/66 ZNA
(21)【出願番号】P 2021576408
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 NL2020050406
(87)【国際公開番号】W WO2020256558
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-03
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501276430
【氏名又は名称】テクニーシェ・ユニバーシタイト・アイントホーベン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】メルクス、マールテン
(72)【発明者】
【氏名】ニー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ファン イジェンドルン、レオナルドゥス ヨセフス
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0376332(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146794(US,A1)
【文献】特開2007-330185(JP,A)
【文献】Aldo Roda,Analytical Strategies for Improving the Robustness and reproducibility of Bioluminescent Microbial Bioreporters,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2011年,401(1),pp.201-211,doi: 10.1007/s00216-011-5091-3
【文献】Kazushi Suzuki,Five colour variants of bright luminescent protein for real-time multicolour bioimaging,Nat Commun.,2016年12月14日,7:13718,pp.1-10,doi: 10.1038/ncomms13718
【文献】Yan Ni,Ratiometric Bioluminescent Sensor Proteins Based on Intramolecular Split Luciferase Complementation,ACS Sens.,2019年01月25日,4(1),pp.20-25,Published online 2018 Dec 11. doi: 10.1021/acssensors.8b01381
【文献】Amanda C. Stacer,NanoLuc Reporter for Dual Luciferase Imaging in Living Animals,12(7),Mol Imaging.,2013年10月,12(7),pp.1-13,available in PMC 2014 October 01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質に反応して第1の波長で光を発し、所望の被検物質に反応する検出器ルシフェラーゼを含み、キャリブレータルシフェラーゼをさらに含む前記所望の被検物質のレシオメトリック定量化のための生物発光アッセイキットであって、前記キャリブレータルシフェラーゼは前記検出器ルシフェラーゼと同じルシフェラーゼドメインを有するルシフェラーゼからなる群より選択され、前記キャリブレータルシフェラーゼは同じ基質に反応して、第2の波長で光を発し、前記第2の波長は前記検出器ルシフェラーゼによって発せられる第1の波長と異なることを特徴とする生物発光アッセイキット。
【請求項2】
前記キャリブレータルシフェラーゼは、前記キャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインから蛍光受容体へのエネルギー移動が可能となるように前記蛍光受容体で官能化されている請求項1に記載の生物発光アッセイキット。
【請求項3】
前記蛍光受容体は、mNeonGreenタンパク質、蛍光のタンパク質、Cy3、蛍光の染料、蛍光の量子ドット、蛍光のナノ粒子、または炭素ドットからなる群より選択される請求項2に記載の生物発光アッセイキット。
【請求項4】
前記キャリブレータルシフェラーゼは前記所望の被検物質に反応しない請求項1~3のいずれかに記載の生物発光アッセイキット。
【請求項5】
前記生物発光アッセイキットは生物発光サンドイッチイムノアッセイキット、競合イムノアッセイキット、ルシフェラーゼ活性のアロステリック調節もしくはルシフェラーゼ阻害の可逆制御に基づくセンサタンパク質、転写制御アッセイキット、タンパク質間相互作用のためのアッセイスクリーニングキット、およびDNAまたはRNA検出アッセイキットからなる群より選択される請求項1~4のいずれかに記載の生物発光アッセイキット。
【請求項6】
前記検出器ルシフェラーゼおよび前記キャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインは、NanoLucルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、TurboLucルシフェラーゼおよびAlucルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインからなる群より選択される請求項1~5のいずれかに記載の生物発光アッセイキット。
【請求項7】
前記所望の被検物質は抗原、抗体、およびリガンドからなる群より選択される請求項1~6のいずれかに記載の生物発光アッセイキット。
【請求項8】
サンプル中の所望の被検物質を定量する方法における請求項1~7のいずれかに記載の生物発光アッセイキットの使用。
【請求項9】
サンプル中の所望の被検物質を定量する方法であって、
i)前記所望の被検物質を含むサンプルを提供するステップと、
ii)基質に反応して第1の波長で光を発し、前記所望の被検物質に反応する検出器ルシフェラーゼと、前記検出器ルシフェラーゼと同じルシフェラーゼドメインを有するルシフェラーゼからなる群より選択され、同じ基質に反応して第2の波長で光を発し、前記第2の波長は前記検出器ルシフェラーゼによって発せられる第1の波長と異なるキャリブレータルシフェラーゼを提供するステップと、
iii)ステップi)で提供されたサンプルについて前記検出器ルシフェラーゼの生物発光強度および前記キャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度を測定するステップと、
iv)前記検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度と前記キャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度との比率の数値を較正するステップと、
v)ステップiv)で較正した比率の数値に基づいて前記所望の被検物質を定量するステップと、を含む方法。
【請求項10】
前記キャリブレータルシフェラーゼは、前記キャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインから蛍光受容体へのエネルギー移動が可能となるように前記蛍光受容体で官能化されている請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記蛍光受容体は、mNeonGreenタンパク質、蛍光のタンパク質、Cy3、蛍光の染料、蛍光の量子ドット、蛍光のナノ粒子、または炭素ドットからなる群より選択される請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記キャリブレータルシフェラーゼは前記所望の被検物質に反応しない請求項
9~
11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記検出器ルシフェラーゼおよび前記キャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインは、NanoLucルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、TurboLucルシフェラーゼおよびAlucルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインからなる群より選択される請求項
9~
12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の被検物質に反応する検出器ルシフェラーゼを含む所望の被検物質のレシオメトリック定量化のための生物発光アッセイに関する。本発明は、本発明の生物発光アッセイを用いてサンプル中の所望の被検物質を定量する方法、およびサンプル中の所望の被検物質を定量する方法における本発明の生物発光アッセイの使用にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質バイオマーカーなどのバイオマーカーの検出は、疾患診断および治療のモニタリングに有用なツールをもたらす。ELISAなどの古典的なイムノアッセイは、多数の洗浄およびインキュベーションステップを伴う労力を要する手順に頼る。一工程の均質のイムノアッセイを与える代替の方法が、非熟練使用者による実験環境の外側で実施され得るポイント・オブ・ケア試験にとって魅力的かつ望ましい。
【0003】
スプリットタンパク質補完は、タンパク質間相互作用を調べるのに広く有効であり、抗原標的にそれぞれ結合する抗体の対にレポーター断片を配置することによってサンドイッチイムノアッセイを開発する興味深い代替法である。そのような方法では、抗原結合が断片を近づくようにし、活性レポーターを再構築させ、これが定量的に抗原の存在を示す。スプリットレポーター酵素、特にスプリットルシフェラーゼが、大きい感度により利益を得る有用な発光レポーターである。特定の有用なスプリットルシフェラーゼが、2つの断片(二元技術と呼ばれる(「BiT」とも呼ばれる))、18kDaラージBiT(LB)および1.3kDaスモールBiT(SB)に分割できる非常に安定かつ明るい青色光を生じるルシフェラーゼであるスプリットNanoLucであり、タンパク質相互作用を調べる二元補完レポーターとして設計されたものである。
【0004】
そのようなスプリットレポーター酵素、特にスプリットルシフェラーゼは、タンパク質間の相互作用およびハイスループット薬剤スクリーニングを調べる重要なレポーターシステムになっている。より一般的には、ルシフェラーゼを用いる生物発光検出は、生体内イメージングおよびポイント・オブ・ケア診断においての使用が増えている。異なった蛍光検出、生物発光は、外部励起を必要とせず、複合培地における敏感な検出に非常に適したものである。生物発光検出の難点は、信号強度が、ルシフェラーゼおよび基質の両方の濃度、生成物、並びに環境条件(温度、pHおよびイオン強度を含む)を含む多くの因子によって決定されることである。基質やがて反転されることから、信号は時間に依存し、それによって、定量的な測定が困難となる。
【0005】
生物発光活性に基づく定量測定では、活性酵素量、緩衝条件、基質濃度、温度およびインキュベーション時間など、アッセイの条件に近い条件下で検量線を測定することが必要である。しかしながら、多くの用途において、これらのパラメータは正確に知られていないか、あるいは容易に制御することができない。特に、発光シグナルの時間依存性は、特にルシフェラーゼ活性が高いと、制御が困難である。そのため、酵素濃度を低くするか、または活性基質を時間と共にゆっくりと放出するケージド基質を使用することによって、ルシフェラーゼ活性を低く保つようなアッセイ条件を選択することが一つの解決策となっている。しかしながら、前者ではルシフェラーゼ濃度およびシグナル強度の範囲が限定され、後者ではさらに別の時間依存的なプロセスに依存するため、理想的な解決策にはほど遠い。このため、生物発光アッセイはこれまで半定量的であり、スクリーニングベースのアプローチには適しているが、正確な分析アプリケーションには困難であった。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、(スプリット)ルシフェラーゼに基づく生物発光アッセイの内部較正を可能にする方法を提供し、これらのアッセイが定量的な測定に使用できるようにする。本発明は、第1のルシフェラーゼ(本明細書で「レポータールシフェラーゼ」または「検出器ルシフェラーゼ」とも称される)の生物発光強度を、同じサンプルに添加され、同じルシフェラーゼドメインおよび基質を使用するが、異なる波長で光を発する第2のルシフェラーゼ(本明細書で「キャリブレータルシフェラーゼ」とも称される)に較正することによって解決法を提供する。
【0007】
アイディアは、蛍光受容体によって官能化されているアッセイに使用されるルシフェラーゼのバリアント、すなわちキャリブレータルシフェラーゼをアッセイに含ませることである。このキャリブレータルシフェラーゼは、アッセイに使用されるが、そのエネルギーは蛍光受容体に移動し、アッセイに使用される検出器ルシフェラーゼと異なる波長で発光する同じルシフェラーゼドメインを含む。キャリブレータルシフェラーゼは標的被検物質に反応しないことから、その活性(蛍光受容体の波長で発光を測定することによって決定される)は、検出器ルシフェラーゼの発光を標準化するのに使用され得る。本発明は、異なる波長で検出したキャリブレータルシフェラーゼ発光に対して1つの波長での検出器ルシフェラーゼ発光のレシオメトリック検出を用いて、生物発光アッセイおよびイメージングをより定量的なものとする一般的な解決法を提供する。このアプローチの背後の前提は、基質濃度、生成物阻害、マトリックス組成および温度の差異が、検出器ルシフェラーゼおよびキャリブレータルシフェラーゼに同程度で影響を与えることである。
【0008】
(説明)
本発明は、所望の被検物質のレシオメトリック定量化のための生物発光アッセイを提供する。所望の被検物質の時間および濃度の独立した定量化を提供するために、本発明の生物発光アッセイは、基質に反応して第1の波長で光を発する検出器ルシフェラーゼを含み、検出器ルシフェラーゼは、所望の被検物質に反応するおよびキャリブレータルシフェラーゼ。本発明のキャリブレータルシフェラーゼは同じ基質に反応して、第2の波長で光を発し、第2の波長は検出器ルシフェラーゼによって発せられる第1の波長と異なる。本発明の変形例では、キャリブレータルシフェラーゼは検出器ルシフェラーゼのバリアントであり、検出器ルシフェラーゼと同じルシフェラーゼドメインを含有する。
【0009】
所望の被検物質に反応する検出器ルシフェラーゼと、検出器ルシフェラーゼと同じ基質に反応するキャリブレータルシフェラーゼとを含む生物発光アッセイを提供することによって、キャリブレータルシフェラーゼは、検出器ルシフェラーゼによって触媒される同じ基質の酸化を触媒することができる。例えば、検出器ルシフェラーゼが基質フリマジンの酸化(青色光を生成する)を触媒するNanoLucルシフェラーゼである場合、キャリブレータルシフェラーゼの対応するルシフェラーゼドメイン、例えばNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質が、同じ基質フリマジンの酸化を触媒する(緑色光を生成する)。同じルシフェラーゼドメインを有する検出器ルシフェラーゼおよびキャリブレータルシフェラーゼを用いることによって、例えば基質濃度の偏差は、検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度とキャリブレータルシフェラーゼの測定した生物発光強度との比率を較正することによって、自動的に訂正される。本発明に従う検出器ルシフェラーゼを用いることによって、検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度とキャリブレータルシフェラーゼの測定した生物発光強度との発光比率が経時的に安定なままであり、それ故に、検出器ルシフェラーゼおよびキャリブレータルシフェラーゼの両方によって十分な光が発せられる限り確実に検出され得る。
【0010】
検出器ルシフェラーゼと異なる波長で光を発するために、キャリブレータルシフェラーゼ蛍光受容体で官能化されて、キャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインから蛍光受容体へのエネルギー移動が可能となり得る。そのような蛍光受容体は、mNeonGreenタンパク質、蛍光のタンパク質、Cy3、蛍光の染料、蛍光の量子ドット、蛍光のナノ粒子、または炭素ドットからなる群より選択され得る。例えば、NanoLucルシフェラーゼ検出器およびキャリブレータルシフェラーゼが選択される場合、青色/緑色シフトされたキャリブレータルシフェラーゼを提供するために、好ましい蛍光受容体はmNeonGreenタンパク質である。代替として、青色/赤色シフトされたNanoLucキャリブレータルシフェラーゼを提供するために、好ましい蛍光受容体はCy3である。
【0011】
検出器ルシフェラーゼの検出器活性による干渉を避けるために、キャリブレータルシフェラーゼは所望の被検物質に反応しない。好ましくは、最適なシステムを提供するために、応答性を除いて検出器ルシフェラーゼが所望の被検物質に反応する際に、キャリブレータルシフェラーゼは分析すべきサンプルに含まれる同じ成分に反応する。そのようなキャリブレータルシフェラーゼを提供することによって、検出器ルシフェラーゼによるサンプルに含まれる他の検体または成分へのいずれの反応も、検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度とキャリブレータルシフェラーゼの測定した生物発光強度との比率を較正することによって自動的に訂正される。
【0012】
NanoLucルシフェラーゼドメインの使用がその明るい青色発光特性から好ましいが、他のルシフェラーゼドメインが同様に適し得る。例えば、検出器ルシフェラーゼおよびキャリブレータルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインは、NanoLucルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、TurboLucルシフェラーゼおよびAlucルシフェラーゼのルシフェラーゼドメインからなる群より選択され得る。
【0013】
分析すべきサンプルの所望の被検物質は、いずれの所望の被検物質であり得、診断または治療モニタリングに関連し得る。しかしながら、食物毒、水質および同種のものの検出などの他の用途も可能であり得る。所望の好ましい検体は、抗原、抗体、およびリガンドからなる群より選択され得る。
【0014】
生物発光アッセイのいずれのタイプも、本発明の時間独立および濃度独立定量化アッセイを提供するために使用し得る。検出器ルシフェラーゼの同じルシフェラーゼドメインを有するキャリブレータルシフェラーゼが選択される限り、分析すべきサンプルの所望の被検物質の検出および定量を確実に実施し得る。例えば、生物発光アッセイは生物発光サンドイッチイムノアッセイ、または他のタイプのイムノアッセイ(競合イムノアッセイなど)、ルシフェラーゼ活性のアロステリック調節もしくはルシフェラーゼ阻害の可逆制御に基づくセンサタンパク質、転写制御アッセイ、タンパク質間相互作用のアッセイスクリーニング、DNAもしくはRNA検出アッセイであり得る。
【0015】
本発明の態様では、本発明は、サンプル中の所望の被検物質を定量する方法における本発明に従う生物発光アッセイの使用に関する。
【0016】
本発明の更なる態様では、本発明は、サンプル中の所望の被検物質を定量する方法における本発明に従う生物発光アッセイのキャリブレータルシフェラーゼの使用に関する。
本発明の別の態様では、本発明は、サンプル中の所望の被検物質を定量する方法に関する。該方法は、
a)所望の被検物質を含むサンプルを提供するステップと、
b)本発明に従う生物発光アッセイを提供するステップと、
c)ステップa)で提供されたサンプルについて検出器ルシフェラーゼの生物発光強度およびキャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度を測定するステップと、
d)検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度とキャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度との比率を較正するステップと、
e)ステップd)で較正した比率に基づいて所望の被検物質を定量するステップと、を含む。
【0017】
既に上記で説明したように、上述した方法が、を提供するサンプル中の所望の被検物質を定量する着実で、信頼性のある、時間独立したおよび濃度-独立した方法を提供することを見出した。
【0018】
本発明は、サンプル中の所望の被検物質を定量する方法をさらに提供する。該方法は、
i)所望の被検物質を含むサンプルを提供するステップと、
ii)基質に反応して第1の波長で光を発し、所望の被検物質に反応する検出器ルシフェラーゼと、同じ基質に反応して第2の波長で光を発し、第2の波長は検出器ルシフェラーゼによって発せられる第1の波長と異なるキャリブレータルシフェラーゼ提供するステップと、
iii)ステップi)で提供されたサンプルについて検出器ルシフェラーゼの生物発光強度およびキャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度を測定するステップと、
iv)検出器ルシフェラーゼの測定した生物発光強度とキャリブレータルシフェラーゼの生物発光強度との比率を較正するステップと、
v)ステップiv)で較正した比率に基づいて所望の被検物質を定量するステップと、を含む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法で使用されるキャリブレータルシフェラーゼは検出器ルシフェラーゼのバリアントであり、検出器ルシフェラーゼと同じルシフェラーゼドメインを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1Aは、均質生物発光サンドイッチイムノアッセイの略図である。抗原の存在下、抗体結合したセンサタンパク質は抗原に結合し、活性NanoLucの再構成を駆動する。
図1Bは、TNFα結合抗体のスプリット-ルシフェラーゼに基づく検出を示す図である。NanoLucのSB断片は、セミフレキシブルリンカーを介して組み換え発現したTNFαに融合している一方で、LB断片は光架橋性Gタンパク質に融合しており、アダリムマブ-TNFα複合体に特異的に結合する検出抗体への結合を可能にしている。
【
図2】TNFα-SB精製および抗体-pG-LBの光架橋のSDS-PAGE分析を示す図である。
【
図3A】アダリムマブについてのインテンシメトリックイムノアッセイを示す図である。(
図3A)を用いる2.5nM抗AT-LBおよび25nMのTNFα-SB原理証明である。青線は、すべての成分を有するアッセイを示し、他の色はコントロールを示す。すべてのアッセイは500倍希釈したフリマジンを用いてPBS-BSA緩衝液にて行った。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図3B】アダリムマブについてのインテンシメトリックイムノアッセイを示す図である。(
図3B)抗AT-LBおよびTNFα-SBの異なる濃度を用いるアダリムマブ反応曲線である。すべてのアッセイは、500倍希釈したフリマジンを用いてPBS-BSA緩衝液にて行った。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図4】10nMの抗AT-LBおよび100nMのTNFα-SBを用いる1:3で希釈した血漿におけるアダリムマブについてのインテンシメトリックイムノアッセイを示す図である。青線はすべての成分を有するアッセイを示し、他の色はコントロールを示す。すべてのアッセイは、500倍希釈したフリマジンを用いて、1:3の比率で血漿と混合したPBS-BSA緩衝液にて行った。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図5A】10nM抗AT-LB、100nMのTNFα-SBおよび100pMのNanoLuC-mNeonGreenを用いる1:5で希釈した血漿におけるアダリムマブのためのレシオメトリックイムノアッセイを示す図である。異なるADL濃度での発光スペクトルを示す(
図5A)。青線はすべての成分を有するアッセイを示し、他の色はコントロールを示す。すべてのアッセイは、500倍希釈したフリマジンを用いて1:5の比率で血漿と混合したPBS-BSA緩衝液にて行った。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図5B】10nM抗AT-LB、100nMのTNFα-SBおよび100pMのNanoLuC-mNeonGreenを用いる1:5で希釈した血漿におけるアダリムマブのためのレシオメトリックイムノアッセイを示す図である。ADL濃度の関数としてプロットした発光比率を示す(
図5B)。青線はすべての成分を有するアッセイを示し、他の色はコントロールを示す。すべてのアッセイは、500倍希釈したフリマジンを用いて1:5の比率で血漿と混合したPBS-BSA緩衝液にて行った。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図6】種々のADL濃度での複合体形成の反応速度をモニターするレシオメトリックアッセイを示す図である。すべてのアッセイは、500倍希釈したフリマジンを用いて1:5の比率で血漿と混合したPBS-BSA緩衝液において10nM抗AT-LB、100nMのTNFα-SBおよび100pMのNanoLuC-mNeonGreenを用いて行った。
【
図7】pG-LBのDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。Strep-tag(灰色)、Gタンパク質(赤色)、アンバー停止コドン(黄色)、LB(シアン)、His-タグ(暗赤色)。
【
図8】His-SUMO-TNFα-SBのDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。His-タグ(暗赤色)、SUMO-タグ(黄色)、TNFα(桃色)、SB(シアン)、Strep-tag(灰色)。
【
図9】pG-SBのDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。Strep-tag(灰色)、Gタンパク質(赤色)、アンバー停止コドン(黄色)、SB(青色)、His-タグ(暗赤色)。
【
図10】pG-SBバリアントにおけるSBのDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。
【
図11】センサタンパク質の光結合を示す図である。UV照明によるGタンパク質媒介部位特異的な結合を示す(
図11A)。Gタンパク質は非天然アミノ酸BPA(赤色)を含み、セミフレキシブルリンカーを介してスプリットNanoLuc(LBまたはSB)に融合されている。抗体のFcドメインに結合し、UV光によって活性化された際、Gタンパク質融合タンパク質は抗体に共有結合する。1つまたは2つのGタンパク質アダプターをFcドメインに光架橋できる。精製した光結合した生成物のSDS-PAGE分析を示す(
図11B)。レーン1、抗cTnI19C7または4C2;レーン2、光結合した生成物;レーン3、精製した光結合したタンパク質。
【
図12】抗体に対するpGLB/SBの異なるモル比を用いる光結合した生成物のSDS-PAGE分析を示す図である。レーン1、抗体;レーン2、pG-LB/SBに対する抗体の等しいモル比を用いる光結合した生成物;レーン3、抗体:pG-LB/SBの1:2モル比を用いる光結合した生成物。
【
図13】cTnIのインテンシメトリックイムノアッセイを示す図である。
図13Aは1nMの19C7-LBおよび4C2-SBを用いるcTnI用量依存性を示す図である。インサートはサンプルの写真である。
図13Bは検出限界を示す図である。
図13Cは異なるセンサ濃度を用いるcTnI用量依存性を示す図である。(黒四角)0.1nMの19C7-LBおよび0.1nMの4C2-SB;(黒三角)0.1nMの19C7-LBおよび1nMの4C2-SB;(黒丸)1nMの19C7-LBおよび1nMの4C2-SB;(黒菱形)1nMの19C7-LBおよび10nMの4C2-SB。
図13Dは、異なる濃度のcTnIの存在下での発光信号の経時変化を示す図である。エラーバーは平均±SD(n=3)を表す。
【
図14】
図14Aは、キャリブレータルシフェラーゼとしてNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質を用いるレシオメトリックアッセイの略図である。
図14Bは、5pMのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をスパイクした1nMの19C7-LBおよび4C2-SBを用いるcTnI用量依存性を示す図である。インサートはサンプルの写真である。
図14Cは異なる濃度のcTnIの存在下での発光比率の経時変化を示す図である。
【
図15】CRPの生物発光イムノアッセイを示す図である。
図15Aは、1nMのC6-LBおよび10nMのC135-SBを用いるCRP用量依存性を示す図である。
図15Bは、異なる濃度のCRPの存在下での発光信号の経時変化を示す図である。
図15Cは、緩衝液中2pMのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をスパイクした1nMのC6-LBおよび10nMのC135-SBを用いるCRP用量依存性を示す図である。
図15Dは、異なる濃度のCRPの存在下での発光比率の経時変化を示す図である。
【
図16】ELISAおよび本発明者らのアッセイによって測定したCRP濃度の相関を示す図である。サンプルを、緩衝液に1/50希釈した血漿において調製し、緩衝液で得られた較正曲線を用いて定量した。エラーバーは、平均±SD(n=4)を表す。
【
図17】抗セツキシマブの生物発光イムノアッセイを示す図である。
図17Aは1nMセツキシマブ-LBおよびセツキシマブ-SBを用いるインテンシメトリックアッセイを示す図である。
図17Bは異なる濃度の抗セツキシマブでのインテンシメトリックアッセイの反応速度を示す図である。
図17Cは、1pMのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をスパイクした1nMセツキシマブ-LBおよびセツキシマブ-SBを用いるレシオメトリックアッセイを示す図である。
図17Dは異なる濃度の抗セツキシマブでのレシオメトリックアッセイの反応速度を示す図である。
【
図18】異なる濃度の赤色にシフトしたNanoLucの発光を示す図である。
図18A:デジタルカメラで撮影した写真である。
図18Bはプレートリーダーによって測定した発光スペクトルを示す図である。
【
図19】1nMの赤色にシフトしたNanoLucをスパイクした1nMの19C7-LBおよび4C2-SBを用いる心臓トロポニンIのレシオメトリックアッセイを示す図である。
図19Aはデジタルカメラで撮影したサンプルの写真である。
図19Bはプレートリーダーによって測定した標準化した青色/赤色比率を示す図である。
【
図20】K9C/D157C/G191CバリアントのDNAおよびアミノ酸配列を示す図である。Strep-tag(灰色)、NanoLuc(シアン)、システイン(赤色)、His-タグ(暗赤色)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態では、本発明は、洗浄またはインキュベーションステップのいずれもなしで溶液中で直接実施し得る生物発光サンドイッチ免疫アッセイに関する。そのようなアッセイでは、所望の被検物質における異なるエピトープを認識する2つの抗体が、スプリットNanoLuc部分に融合したGタンパク質ドメインの柔軟なペプチドリンカーを介した光架橋によって、スプリットNanoLucルシフェラーゼの大きい部分または小さい部分に結合されている。所望の被検物質の存在下で、三重複合体が被検物質と2つの抗体とから形成され、2つのスプリットルシフェラーゼ部分の補完およびルシフェラーゼ活性の再構成が可能となる。このシステムそれ自体が、再構成したルシフェラーゼによって発せられる青色光の強度被検物質の量の尺度であるインテンシメトリック信号を生じる。しかしながら、青色発光の強度は一定ではなく、特に高い被検物質濃度ではやがて低下する。青色光(460nm)を発しないが緑色光(515nm)を発する低濃度のNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質でのスパイクによって課題は解決された。緑色光および青色光の比率が時間において安定であり、発光比率が被検物質濃度の信頼性のある尺度として使用できるようにすることを見出した。スプリットNanoLuc補完と組み合わせたレシオメトリック検出は、現在使用される異種サンドイッチイムノアッセイの非常に魅力的かつ速い代替手段を提供する。方法は、心臓トロポニンI(心臓発作のマーカー)、C-反応性タンパク質および抗セツキシマブ抗体の検出に使用され得るが、他の抗体およびタンパク質バイオマーカーの検出を含めた方法の他の用途が同様に適し得る。
【0022】
スプリットレポータールシフェラーゼの他の興味深い用途は、タンパク質間相互作用のハイスループット検出である。一般に、方法は、いずれの生物発光アッセイも較正する簡便かつさらに着実な方法を提供する。
【0023】
本発明の実施形態は、いくつかの他の興味深いバイオマーカーのためのアッセイおよびポイント・オブ・ケア診断を開発し、アッセイと、レシオメトリック検出が重要であるペーパーまたはスレッドベースの診断デバイスとを組み合わせるセンサ戦略として適用され得る。方法それ自体は、より赤色にシフトした発光信号(検出器ルシフェラーゼ)の信号とのより良好な分離)を有するキャリブレータバリアントを探すことによって、さらに改変できる。また、インテンシメトリック生物発光信号を較正する一般的な原理を提供することから、本発明は、生体外のアッセイ(ルシフェラーゼを有する)を超えてより広く適用され得る。考えられる用途としては、細胞ベースのハイスループットスクリーニング、転写レポーターアッセイ、(生体内)生物発光イメージング用途およびレシオメトリック生物発光センサタンパク質を開発する新規方法への使用が挙げられる。
【0024】
本明細書で提供される例はスプリットルシフェラーゼを含むが、検出器ルシフェラーゼは、活性または濃度が被検物質の存在によって調整されるいずれのルシフェラーゼでもあり得る。そう言って、本発明は、一部の非スプリットルシフェラーゼにも適用できる。
【0025】
本発明は、スプリットレポータールシフェラーゼの補完に基づく代替のレシオメトリック生物発光サンドイッチイムノアッセイ形式に関し、ルシフェラーゼの2つの断片が、標的分子の異なるエピトープをそれぞれ認識する一対の抗体に結合されており、溶液中の均質サンドイッチイムノアッセイを可能にする(Ni,Y.and M.Merkx,Ratiometric detection of luciferase assays using a calibrator luciferase.provisional patent application 62/864583,manuscript in preparation,2020も参照)。Gタンパク質媒介光結合戦略(Hui,J.Z.,et al.,LASIC:Light Activated Site-Specific Conjugation of Native IgGs.Bioconjugate Chem.2015,26,8,p.1456-1460も参照)が、天然抗体とスプリットNanoLuc断片との間の部位特異的な共有結合形成を可能にするように導入され(Dixon,A.S.,et al.,NanoLuc Complementation レポーター Optimized for Accurate Measurement of Protein Interactions in Cells.ACS Chemical Biology,2016.11(2):p.400-408も参照)、幅広い範囲の市販のモノクローナル抗体に適用できる一般的および直接的な方法を提供する(
図1A)。また、システムは、NanoLuc-mNeonGreen(Suzuki,K.,et al.,Five colour variants of bright luminescent protein for real-time multicolour bioimaging.Nature Communications,2016.7:p.1-10も参照)をキャリブレータルシフェラーゼとして導入して時間独立および濃度独立測定を可能にすることによって、レシオメトリックとされている。このシステムは抗体検出にも使用できる一方で、その場合、アッセイはルシフェラーゼ補完の比較的小さい増加および釣鐘状抗体反応曲線(フック効果としても既知)を示した。これらの性質は、同じ検出抗体内の2つの抗原結合部位を標的とする溶液サンドイッチイムノアッセイに固有であり、アッセイの分析性能を制限する(Ni,Y.and M.Merkx,Ratiometric detection of luciferase assays using a calibrator luciferase.仮特許出願62/864583,準備中の原稿,2020も参照)。代替のアッセイ形式はこれらの欠点をうまく対処する。この新しいアッセイ形式の鍵は、スプリットルシフェラーゼの1つの部分が標的抗原に遺伝的に融合されている一方で、補完部分が、抗体または抗体-抗原複合体を特異的に認識するモノクローナル抗体に融合されていることである。このアッセイ形式の原理の証明は、アダリムマブの検出のためのレシオメトリック生物発光アッセイを開発することによって提供される。
【0026】
更なる実施形態では、本発明は、TNFα結合抗体のためのレシオメトリック生物発光イムノアッセイに関する。TNFα、炎症疾患において過剰に発現される炎症性サイトカインに結合する抗体は、治療抗体の重要な例である。TNFαは溶液中でホモトリマーを実際には形成し、アダリムマブなどの治療抗体は、2つの単量体の接触面によって形成される複雑な不連続エピトープを認識することによって、TNFαに結合する。インフリキシマブおよびアダリムマブなどのTNFαを標的とする治療抗体は、リウマチ関節炎および炎症性腸疾患などの疾患を治療するのに非常に成功しており、ベストセラーの薬の一部である。
【実施例】
【0027】
実施例1.心臓トロポニンI、C-反応性タンパク質および抗セツキシマブ抗体の検出のための生物発光サンドイッチ免疫アッセイ
クローニング
G-SBタンパク質をコードするDNAを含むpET28a(+)ベクター(pG-SB)およびG-LBタンパク質をコードするDNAを含むpET28a(+)ベクター(pG-LB)をGenScriptに発注した。SB配列を変更する部位特異的な変異誘発を、QuikChange Lightning部位特異的変異誘発キットを用いて実施した(Agilent technologies)を用いて特異的なプライマー。すべてのクローニングおよび変異誘発結果をサンガー配列決定(StarSeq)によって確認した。
図7、9および10は、pG-SB(バリアント)およびpG-LBのDNAおよび対応するアミノ酸配列を示す。
【0028】
タンパク質発現
p-ベンゾイルフェニルアラニン(pBPA)を組み込むために、pG-LBまたはpG-SBをコードするpET28aプラスミドを、tRNA/tRNAシンテターゼ対をコードするpEVOLベクターと共にE.coli BL21(DE3)に共形質転換した。pEVOLベクターはPeter Schultz(Addgene plasmid#31186)からいただいたものであった。30μg/mlカナマイシンおよび25μg/mlクロラムフェニコールを含有する2YT培地(16gペプトン、5g NaCl、10g酵素抽出物/L)で細胞を培養した。タンパク質発現を、1mMのpBPA(Bachem,F-2800.0001)の存在下、0.1mMのIPTGおよび0.2%アラビノースを用いて誘導した。一晩発現後、細胞を回収し、Bugbuster試薬(Novagen)を用いて溶解した。製造者の説明書に従って、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーを用いてタンパク質を精製した後、Strep-Tactin精製を行った。タンパク質純度をSDS-PAGEによって確認した。pBPAの正しい組み込みをQ-ToF LC-MSによって確認した。精製したタンパク質を-80℃で使用まで保存した。
【0029】
NanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質を先に記載されているように調製した(Suzuki,K.,et al.,Five colour variants of bright luminescent protein for real-time multicolour bioimaging.Nature Communications,2016.7:p.1-10)。Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーおよびStrep-Tactin精製を用いて、タンパク質を精製した。精製したタンパク質を-80℃で使用まで保存した。
【0030】
光結合
心臓トロポニンI抗体19C7(4T21)および4C2(4T21)、およびC-反応性タンパク質抗体C6(4C28cc)およびC135(4C28)をHyTestに発注した。治療抗体セツキシマブをCatherina hospital pharmacy(オランダ国アイントホーフェン)によって入手した。光結合反応を、Promed UVL-30UV光源(4×9W)を用いて実施した。PBS緩衝液(pH7.4)中抗体およびpG-LBまたはpG-SBを含むサンプルを365nmの光で30~180分間照射した。サンプルを光結合中氷上で保持した。Ni-NTAスピンカラムを用いて、光結合した生成物をさらに精製した後、PDG10脱塩カラムまたはGタンパク質スピンカラムによって精製した。
【0031】
発光アッセイ
心臓トロポニンI(8T53)およびC-反応性タンパク質(8C72)をHyTestに発注した。抗セツキシマブ(HCA221)をBio-Radに発注した。PerkinElmer flat white 384ウェルOptiplateにおいて合計容量15μLで、0.1~10nMのセンサタンパク質濃度でインテンシメトリックアッセイを実施した。センサタンパク質および検体の0.5時間のインキュベーション後、NanoGlo基質(Promega、N1110)を300~1000倍の最終希釈で添加した。100msの積分時間でTecan Spark 10Mプレートリーダーで発光強度を記録した。レシオメトリックアッセイでは、1~10pMのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をサンプルに添加し、398nm~653nm、ステップサイズ15nm、帯域幅25nmおよび積分時間1000msで、発光スペクトルを記録した。
【0032】
デジタルカメラを用いて発光信号も記録した。プレートを発砲スチレン箱に配置して、周囲の光を除いた。SONY DSC-RX100デジタルカメラを用いて、暴露時間30s、F値1.8およびISO値1600~3200で箱のホールを通して写真を撮影した。ImageJを用いて画像を分析して、絶対強度と、青色および緑色のチャネルの平均強度の間の比率の値を計算した。
【0033】
実施例1a.センサ設計および特徴付け(心臓トロポニンI)
概念実証を確立するために、標的抗原として、心臓障害の重要なマーカーであり、pM濃度での高感度な検出を必要とする心臓トロポニンI(cTnI)を選択した。スプリットNanoLucのLB断片およびKd2.5μMのSB断片を、それぞれセミフレキシブルリンカーを介してGタンパク質に融合した。N末端にHis-タグ、C末端にstrep-タグが含まれていて、融合タンパク質の精製を促進する。プラスミドは、Gタンパク質の位置24にTAGアンバー停止コドンを含み、直交tRNAシンテターゼ/tRNA対との共発現によって、光反応基である非天然アミノ酸p-ベンゾイル-フェニルアラニン(BPA)が望ましい位置で組み込まれるようにできた(Hui,J.Z.,et al.,LASIC:Light Activated Site-Specific Conjugation of Native IgGs.Bioconjugate Chem.2015,26,8,p.1456-1460も参照)。BPAが組み込まれたGタンパク質ドメインは、抗体のFcドメインに365nmの光照射で架橋できる。精製したpG-LBおよびpG-SBタンパク質を、サンドイッチイムノアッセイにおいて相性がよい一対の抗cTnI抗体、19C7および4C2に光結合した、(
図11A)。Gタンパク質ベースの結合の1つの特徴は、両方のIgG重鎖を改変できることであり、それ故に、モノ結合、ジ結合および非結合抗体並びにpG-LB/SBの混合物が得られた。抗体に対するアダプタータンパク質の種々のモル比を用いて、結合効率に影響を与えた(
図12)。pG-LBおよびpG-SBの存在がバックグランドシグナルに寄与することから、抗体に対するタンパク質の等しいモル比を使用して、混合物中の非結合pG-LBおよびpG-SBを最小限にした。Niアフィニティクロマトグラフィーのステップを使用して非結合抗体を除去した(
図11B)。
【0034】
1nMの精製した抗体結合センサタンパク質をcTnIとpM~nMでインキュベートした場合、記録された発光強度は、cTnIの非常に高い濃度でのフック効果によって釣鐘状のcTnI-依存曲線に従った(
図13A)。10nMのcTnIで見られた最大発光強度は、ブランクと比較して300倍高かった。検出限界が5pMであると決定した(
図13B)。信号応答を、センサタンパク質の濃度を変動させることによって変調できた(
図13C)。より高い濃度の4C2-SBを使用することで、「フック」を比較的高い被検物質濃度に効果的にシフトできた。1nMの19C7-LBおよび10nMの4C2-SBを用いて、50nMのcTnIで最大強度が得られた。これらの強度はデジタルカメラによって検出するには低すぎたが、0.1nMの19C7-LBおよび1nMの4C2-SBを用いて、低い被検物質濃度でのより高いS/B比率が得られた。したがって、1nMの各センサタンパク質を更なる実験で採用した。信号応答に対するスプリットNanoLuc相互作用親和性の効果をさらに調査した。この目的のためにKdが190μMおよび0.28μMである他の2つのSBバリアントを試験した。S/B比率が最も高いKd2.5μMのSBを用いて最も高い信号強度が得られた(
図14)。
【0035】
絶対発光強度を用いる1つの欠点は、信号強度が基質濃度、pH、温度およびイオン強度を含む多くの因子に依存し、基質ターンオーバーの結果として通常はやがて減少することである。実際に、30分間の絶対発光強度のモニタリングは、信号が時間内に変化することを明らかにした(
図13D)。これは、センサ濃度、基質ターンオーバーおよび環境条件の差異についてアッセイを注意深く較正するのが困難であり得るポイント・オブ・ケア用途にとって特に問題である。レシオメトリックシステムを、追加のキャリブレータルシフェラーゼを追加することによってさらに開発した。アッセイ混合物に、同じ基質フリマジンの酸化を触媒し得、緑色光を生じ得る生物発光NanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をスパイクした(Suzuki,K.,et al.,Five colour variants of bright luminescent protein for real-time multicolour bioimaging.Nature Communications,2016.7:p.1-10)。そのような方法で、抗原濃度の関数としての発光比率は、基質濃度および反応条件の影響を無効にする。
図14Aに示すように、レシオメトリックシステムは、インテンシメトリックアッセイによって得られたものと類似の抗原用量依存性を表した。より興味深いことに、発光比率は経時的に安定なままであり(
図14B)、したがって、十分な光が発せられる限り確実に検出できる。レシオメトリックシステムの時間独立は、実際の用途にとってセンサ性能の重要な態様を表す。
【0036】
実施例1b.センサ設計および特徴付け(C-反応性タンパク質)
例2のアッセイ形式も炎症マーカーC反応性タンパク質(CRP)の検出に適用された。pG-SBおよびpG-LBタンパク質を一対の抗CRP抗体C135(mIgG2b)およびC6(mIgG2a)に結合した。抗体とpG-SBおよびpG-LBとの光結合に成功し、一工程ニッケル親和性精製を行った後、CRPのためのインテンシメトリックアッセイを実施し、56の最大S/B比率を得た(
図15A)。NL-mNGキャリブレータの追加は、検出限界および計画に影響を与えることなく、アッセイを経時的な変動が少ないものとした(
図15Cおよび
図15D)。2pMのNL-mNGキャリブレータを追加することによって、18の最大比率変化および3pMのLODをレシオメトリックアッセイで達成した。
【0037】
アッセイ評価
アッセイの分析性能を、ヒト血漿中のCRPの定量のための市販のELISAと比較した。心臓血管リスク評価に臨床的に使用される高感度CRP(hsCRP)を指す低いmgL
-1レベルで試験CRPサンプルを調製した。発明者らのアッセイが高感度であるために、試験血漿サンプルを50倍に緩衝液で希釈し、その後、測定した青色/緑色比率を
図15Cで得られた較正曲線と比較することによって測定した。並行して、試験サンプル中のCRP濃度をELISAによって適切な希釈後に決定した。良好な相関(R
2=0.9906)がELISAと発明者らのアッセイとの間に見られ(
図16)、発明者らのアッセイの精度および臨床サンプルの分析のその優れた可能性を指す。発明者らのアッセイの単純な「混合および測定」ワークフローは、多数の洗浄ステップの必要性をなくし、それ故に、アッセイの合計時間をELISAより1時間少なくすることに言及する価値がある。
【0038】
実施例1c.センサ設計および特徴付け(抗セツキシマブ)
例1の一般的なセンサ形式を、抗抗体モニタリングに拡大できるかどうか調査した。癌または炎症治療のための治療抗体の投与は、免疫応答を誘導し得、治療の治療効果を不活性化する抗抗体の生成をもたらす。したがって、抗抗体を検出する単純かつ速いアッセイの開発が、治療抗体に対する免疫原性評価するのに重要である。抗癌治療の抗体セツキシマブを、pG-LBおよびpG-SBと別々に光結合した検出分子として選択した。その後、スプリットNanoLuc官能化セツキシマブを抗セツキシマブの発光検出に使用し、最大S/B比率が8である釣鐘状用量依存曲線が得られた(
図17A)。レシオメトリックシステムへのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質の追加で類似のアッセイ曲線が得られたが(
図17C)、経時的に発光比率のより安定なセンサ信号が得られた(
図17D)。
【0039】
結論
スプリットNanoLucルシフェラーゼの補完に基づく一般的な均質イムノアッセイ形式を、溶液中のタンパク質バイオマーカーの直接検出のために開発した。pM濃度でのcTnIの検出に成功することによって、概念実証が得られた。センサ形式の高いモジュール方式は、スプリットNanoLuc断片を標的結合抗体に配置することによって、種々のタンパク質ターゲットのアッセイを可能にする。また、キャリブレータルシフェラーゼを追加することによって、時間および基質濃度の独立した測定を可能にするレシオメトリックアッセイシステムを開発した。
【0040】
実施例2.TNFα結合抗体のためのレシオメトリック生物発光イムノアッセイ
クローニング
pET28a(+)Gタンパク質-Large BitをコードするDNAを含むベクター(pG-LB)およびpET28a(+)His-SUMO-TNFα-リンカー-SBをコードするDNAを含むベクターをGenScriptに発注した。
図7および
図8は、それぞれpG-LBおよびSUMO-TNFα-SBのDNAおよび対応するアミノ酸配列を示す。
【0041】
タンパク質発現および精製
p-ベンゾイル-フェニルアラニン(pBPA)を組み込むために、pET28apG-LBをコードするプラスミドを、tRNA/tRNAシンテターゼ対をコードするpEVOLベクターと共にE.coli BL21(DE3)に共形質転換した。pEVOLベクターは、Peter Schultz(Addgene plasmid#31186)からいただいた。30μg/mlカナマイシンおよび25μg/mlクロラムフェニコールを含有する2YT培地(16g ペプトン、5g NaCl、10g 酵素抽出物/L)で細胞を培養した。1mMのpBPA(Bachem,F-2800.0001)の存在下、0.1mMのIPTGおよび0.2%アラビノースを用いて、タンパク質発現を誘導した。一晩発現後、細胞を回収し、Bugbuster試薬(Novagen)を用いて溶解した。Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーを用いてタンパク質を精製した後、Strep-Tactin精製を行った製造者の説明書に従って。タンパク質純度をSDS-PAGEによって確認した。pBPAの正しい組み込みをQ-ToF LC-MSによって確認した。精製したタンパク質を-80℃で使用まで保存した。
【0042】
pET28aSUMO-TNFα-SB融合タンパク質をコードするプラスミドをE.coli BL21(DE3)に形質転換した。30μg/mlカナマイシンを含むLB培地(10gペプトン、10g NaCL、5g酵素抽出物/L)で細胞を培養した。0.1mMのIPTGを用いてタンパク質発現を誘導した。一晩発現後に細胞を回収し、ベンゾナーゼ酵素を含有する結合緩衝液(40mMのトリス-HCl、125mMのNaCl、5mMイミダゾール、PH8.0)に再懸濁した。その後、振幅50%に設定した20sの5パルスでの氷上の超音波処理によって細胞を破壊した。タンパク質を最初にNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーを用いて4℃で精製した。1.5mlの溶出画分に2μLのSUMOプロテアーゼを添加し、5kDa透析膜を用いて、SUMOプロテアーゼ反応緩衝液(20mMのトリス-HCl、150mMのNaCl、1mMのDTT、PH8.0)に対して溶液を一晩4℃で透析することによってことによって、His-SUMO-タグをTNFα-SBから切断した。切断したHis-SUMO-タグを除去するのにNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーを用いて、切断したTNFα-SBが得られた。タンパク質純度をSDS-PAGEによって確認した。精製したタンパク質を-80℃で使用まで保存した。
【0043】
NanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質を先に記載されているように調製した(Suzuki,Kら,Five colour variants of bright luminescent protein for real-time multicolour bioimaging.Nature Communications,2016.7:p.1-10)。Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーおよびStrep-Tactin精製を用いて、タンパク質を精製した。精製したタンパク質を-80℃で使用まで保存した。
【0044】
光結合
抗アダリムマブ/TNFαモノクローナル抗体(AT抗体)はBioRad(HCA207)から入手した。光結合反応を、Promed UVL-30UV光源(4x9W)を用いて実施した。PBS緩衝液(PH7.4)中抗体およびpG-LBの2等価物を含むサンプルを365nmの光で2時間照射した。サンプルを光結合中氷上で保持した。光結合した生成物は、非結合pG-LBと、pG-LBタンパク質の1つまたは2つのコピーと結合したAT抗体との混合物を含み、更なる精製なしで使用した。
【0045】
発光アッセイ
アダリムマブはGentaur(A1048-100)に発注した。Greiner flat白色384ウェルプレートにおける15μLの合計容量で、2.5~30nMのHCA207-pG-LB濃度および25~300nMのTNFα-SB濃度でインテンシメトリックアッセイを実施した。センサタンパク質および検体の0.5時間のインキュベーション後、NanoGlo基質(Promega、N1110)を500倍の最終希釈で添加した。100msの積分時間でTecan Spark10Mプレートリーダーで発光強度を記録した。レシオメトリックアッセイでは、10~100pMのNanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をサンプルに添加し、398nm~653nm、ステップサイズ15nm、帯域幅25nmおよび積分時間100msで発光スペクトルを記録した。緩衝液(1mg/mlBSAを含むPBS、pH7.4)またはPBS/BSA緩衝液で希釈した血漿で実験を行った。
【0046】
センサ成分のセンサ設計合成
概念実証を確立するために、標的抗体としてアダリムマブ(ADL)を選択した。アダリムマブは現在、最も広く使用される抗TNFα抗体であり、インフリキシマブおよびそのバイオシミラー、並びにハイブリッドタンパク質を含有する非抗体受容体ドメインも含む炎症疾患を治療するのに広く使用されているTNFα阻害バイオ医薬品のファミリーの代表である。本実施例に従うセンサは2つの部品;(1)TNFαのC末端が柔軟なリンカーを介してSBに結合しているTNFα融合タンパク質と、2)先に報告された光架橋性タンパク質-リンカー-LB融合タンパク質を用いてLB断片で官能化されたADL-TNFα複合体に結合するモノクローナル抗体とを有する。天然TNFα三量体に対するADLの高い親和性(Kd=0.11nM)は、過剰なTNFαがアッセイに使用される場合、すべてのADLがTNFαと複合体を形成するのを確実にする。ここで使用される抗ADL-TNFα抗体は、67nMのKdで複合体に結合することが報告されており(https://www.bio-rad-antibodies.com/antiadalimumab-antibody-humira.html)、治療薬モニタリングにとって興味深い濃度範囲でアッセイがよく反応できるようにした(0.1~22mg/Lまたは1~200nM)。
【0047】
TNFαのDNA配列はHoffmannらから取得し(Recombinant production of bioactive human TNF-α by SUMO-fusion system-High yields from shake-flask culture.Protein Expression and Purification,5 2010.72(2):p.238-243)、Hoffmannらは、N末端His-SUMO-タグを使用して、高い収量の適切に折り畳まれたタンパク質を得た。このDNA配列をpET28aベクターにクローニングして、TNFαのC末端が長い柔軟なグリシン-セリンリンカーを介してSBバリアントにLB断片に対する中程度の親和性(2.5μMのKd)で融合している。タンパク質のC末端への結合によって、断片のいずれの立体障害もなしで天然三量体複合体が形成できるようになるべきである。また、十分な両方の断片の間の立体自由をもたらして、ルシフェラーゼ補完が生じることができるようにするのも重要であった。His-SUMO-TNFα-SB融合タンパク質をE.coliにて組み換え発現し、ニッケル-アフィニティクロマトグラフィーを用いて良好な収量で精製した(
図2参照)。His-SUMO-TNFα-SBとSUMOプロテアーゼとを一晩インキュベーションした後、第2のニッケルアフィニティクロマトグラフィーステップでTNFα-SBをHis-SUMOおよび非切断HIS-SUMO-TNFα-SBタンパク質から分離することによって、His-SUMOタグを除去した。このカラムを通る流れは、予想した分子量(28kDa)の本質的に純粋なTNFα-SB融合を含んでいた。365nm、氷上でpG-LBタンパク質の2等価物で抗体を2時間光架橋することによって、抗ADL-TNFα抗体へのLBの結合を達成した。SDS-PAGE分析は、大部分の抗体が1または2コピーのpG-LBタンパク質と結合するのに成功したことを明らかにした。結合生成物はさらに精製せず、生物発光アッセイに直接使用した。
【0048】
センサ濃度の原理証明および効果
新しいセンサ原理の実現可能性を試験するために、2.5nM抗AT-LBおよび25nMのTNFα-SBを用いて、緩衝液中アダリムマブ滴定実験を実施した。発光強度の大きい、80倍増加が0.01~10nMのADLで見られ、その後、強度が一定なままであった。この発光の目覚ましい増加は、アッセイの原理が働き、TNFα-SBタンパク質が正しく折り畳まれ、それらの天然三量体構造に自己集合したことを実証する。次に、抗AT-LBおよびTNFα-SBの濃度を系統的に変化させて、信号増加およびADL感度の増加に関して最適なアッセイ条件を見つけた。
図3A、
図3Bは、動的範囲に顕著に影響することなく、抗AT-LB濃度の増加が信号およびバックグランド発光シグナル両方を増加させることを示す。TNFα-SBの濃度を100~300nMから増加させても、アッセイ性能に影響を与えなかった。
【0049】
希釈した血漿の測定およびレシオメトリック検出
理想的に、アッセイは、血漿中3~70nMのADL濃度で測定できるべきである。緩衝液中のアッセイが0.1~10nMのADLで最も感度高いことから、血漿サンプルを1:3の比率で(4倍希釈に対応)緩衝液で希釈したプロトコルを確立した。
図4は、希釈した血漿のADL滴定実験の結果を示し、X軸のADLの濃度は希釈後の最終濃度を表す。反応曲線および動的範囲は、純粋な緩衝液で得られたものと非常に類似しており、アッセイが25%(v/v)の血漿の存在によって影響を受けないことを示す。
【0050】
したがって、示されたデータは、青色発光信号の絶対強度を複合体形成のための信号として測定するインテンシメトリックデータを大いに表す。しかしながら、絶対信号強度は、ADLの量に依存するのみならず、pH、温度およびイオン強度などの環境パラメータによって影響を受ける。しかしながら、最も重要なことは、信号はフリマジン基質の濃度に依存し、これは、基質ターンオーバーの結果として、信号が、やがてより高いADL濃度で最も顕著に低下することを意味する。これは、センサ濃度、基質ターンオーバーおよび環境条件の差異についてアッセイを注意深く較正するのが困難であり得るポイント・オブ・ケア用途にとって特に問題である。最近、追加のキャリブレータルシフェラーゼを追加することによって、インテンシメトリックルシフェラーゼアッセイをレシオメトリックアッセイへ変換するといった新しいアプローチが報告された。アッセイ混合物に同じ基質フリマジンを使用でき、緑色光を生成できる生物発光NanoLuC-mNeonGreen融合タンパク質をスパイクした(Ni,Y.and M.Merkx,Ratiometric detection of luciferase assays using a calibrator luciferase.provisional patent application 62/864583,manuscript in preparation,2020)。このように、ADL濃度の関数としての発光比率は基質濃度および反応条件の影響を無効にする。
【0051】
図5A~
図5Bは、10nM抗AT-LBおよび100nMのTNFα-SBに加えて、キャリブレータルシフェラーゼとして100pMのNanoLuC-mNeonGreenを用いる、1:5で希釈した血漿におけるADL滴定実験を示す。
図5Aは、再構成したスプリットNanoLucの青色ピークをADL濃度の関数として増加させる一方で、キャリブレータルシフェラーゼからの513nmのピークが一定なままであることを示す。ADL濃度の関数として青色および緑色発光ピークの比率をプロットすることによって得られた滴定曲線は、生理学的に関連した濃度範囲における大きい応答を示し、発光比率およびおよそ25pM(血漿中0.15nMに対応)のLODにおける15~20倍の全体の変化を示す。
【0052】
また、レシオメトリック信号は、複合体形成の反応速度を確実にモニターできるようにして、最適なインキュベーション時間を確立する。
図6は、すべてのセンサ成分および基質を含む混合物への0、0.75、3または15nMのADLの添加後の発光比率の増加を示す。予想したように、複合体形成の反応速度は濃度依存的であり、より高い濃度では約10分で平衡に達した。ADLの非存在下で発光比率は一定である。
【0053】
結論
上述のように、TNFα結合抗体の直接検出のために、スプリットNanoLucルシフェラーゼの補完に基づく一般的な均質イムノアッセイ形式を開発した。25pMのLODおよび大きい動的範囲で希釈した血漿におけるアダリムマブのレシオメトリック検出に成功したことによって概念実証をもたらした。2つの抗体に基づくサンドイッチイムノアッセイ形式に対して、ここで導入されたアッセイ形式は、NanoLucルシフェラーゼのSB断片と、アダリムマブ-TNFα複合体に結合する単一の検出抗体であってNanoLucのLB断片に結合している検出抗体と、標的抗原との融合タンパク質を有する。この新しいアッセイ形式は、大きいおよび/または構造的に複雑な不連続エピトープに結合する治療抗体の検出に特に魅力的である。ここで報告されたアッセイは、標的抗体-TNFα-複合体に特異的な検出抗体を用いて、他のTNFα-結合抗体の検出のために容易に補正できる。センサ原理は、他の抗体にさらに拡大でき、抗原-SB融合タンパク質を生成でき、標的抗体に特異的に結合するか(抗原結合部位にではない)、または標的抗体およびその抗原の複合体に結合する特異的な検出抗体が利用可能である。
【0054】
実施例3.赤色にシフトしたキャリブレータルシフェラーゼの開発
赤色にシフトしたNanoLucルシフェラーゼを開発するために、NanoLucからフルオロフォアへ非常に効率的な生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)をするフルオロフォア標識NanoLucコンストラクトを開発した。Cy3フルオロフォアは563nmで発光が最大となり、その励起スペクトルは、NanoLuc発光と重複するスペクトルを有し、それ故に、NanoLucルシフェラーゼにマレイミド-チオールカップリングによって組み込むのに選択した。これを達成するために、NanoLucの天然システイン(Cys175)を最初にセリンで置換した後、部位特異的な変異誘発して、N末端近く、C末端近く、またはタンパク質折り畳みおよび生物発光適合が破壊されないと思われる利用可能なループにシステイン残基を導入した。その後、Cy3で標識した後、各変異体についてBRET効率を決定し、可能性のあるCy3結合部位としてK9C、D157CおよびG191Cを示した。次いで、BRET効率をさらに改善するために、これらの変異位置を組み合わせることによる二重および三重の部位変異体を、複数のCy3を1つのNanoLucタンパク質にカップリングするために構築した。三重変異体K9C/D157C/G191Cが、およそ140%の適切なCy3標識収量および高いBRET効率で最終的に得られた。K9C/D157C/G191Cバリアントは、デジタルカメラによって補足される橙色発光を発し(
図18A)、発光は568nmで最大である(
図18B)。
【0055】
次に、Cy3で標識したK9C/D157C/G191Cをキャリブレータルシフェラーゼとして使用して、19C7-LBおよび4C2-SBセンサタンパク質を用いてcTnIのレシオメトリックアッセイを実施した。この赤色にシフトしたキャリブレータは、緑色キャリブレータNL-mNGより優れている45の最大比率変化を可能にし、cTnIのレシオメトリックアッセイにおいて25の最大比率変化を与えた(
図19)。
【配列表】