IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-摺動部品 図1
  • 特許-摺動部品 図2
  • 特許-摺動部品 図3
  • 特許-摺動部品 図4
  • 特許-摺動部品 図5
  • 特許-摺動部品 図6
  • 特許-摺動部品 図7
  • 特許-摺動部品 図8
  • 特許-摺動部品 図9
  • 特許-摺動部品 図10
  • 特許-摺動部品 図11
  • 特許-摺動部品 図12
  • 特許-摺動部品 図13
  • 特許-摺動部品 図14
  • 特許-摺動部品 図15
  • 特許-摺動部品 図16
  • 特許-摺動部品 図17
  • 特許-摺動部品 図18
  • 特許-摺動部品 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20250114BHJP
【FI】
F16J15/34 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022528824
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020702
(87)【国際公開番号】W WO2021246371
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020095899
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】内山 涼介
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】大沼 実憲
(72)【発明者】
【氏名】瀧ヶ平 宜昭
(72)【発明者】
【氏名】香取 一光
(72)【発明者】
【氏名】中原 信雄
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/032086(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167262(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1492152(CN,A)
【文献】特開2005-180652(JP,A)
【文献】実開平03-108972(JP,U)
【文献】米国特許第06152452(US,A)
【文献】国際公開第2020/162025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の相対回転する箇所に配置され他の摺動部品と相対摺動し、摺動面に被密封流体側の空間に連通し被密封流体を導入する複数の流体導入溝と、漏れ側から被密封流体側に延び動圧を発生させる複数の傾斜溝と、を備える環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、前記傾斜溝の被密封流体側に設けられ前記傾斜溝に対して逆方向に延び動圧を発生させる逆傾斜溝が備えられており、
前記傾斜溝と前記逆傾斜溝との間には、前記傾斜溝の被密封流体側で周方向に連続し径方向所定以上の幅を有する環状ランド部が設けられている摺動部品。
【請求項2】
前記傾斜溝は、漏れ側の空間に連通している請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記環状ランド部の径方向中心は、前記摺動面の径方向中心よりも被密封流体側に寄って配置されている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記逆傾斜溝は、前記傾斜溝と比べて延在距離が短い請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記逆傾斜溝は、被密封流体側の端部が先細りする溝である請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記流体導入溝は、動圧発生部を備えている請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封流体の漏れを防止する軸封装置として例えばメカニカルシールは相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の摺動部品を備えている。このようなメカニカルシールにおいて、近年においては環境対策等のために摺動により失われるエネルギーの低減が望まれている。
【0003】
例えば特許文献1に示されるメカニカルシールは一対の環状の摺動部品が相対回転可能に構成され、外空間に被密封流体が存在し、内空間に低圧の流体が存在している。一方の摺動部品には、被密封流体が存在する外空間に連通し、内径端が閉塞されている流体導入溝が設けられるとともに、低圧の流体が存在する内空間に連通し、内径端から外径側に向けて周方向に傾斜しながら円弧状に延び、相対回転方向の下流にて外径端が閉塞されている傾斜溝が設けられている。これによれば、一対の摺動部品の相対回転開始時には、流体導入溝には外空間に存在する被密封流体が導入されることで、一対の摺動部品の摺動面同士を潤滑させ、一対の摺動部品の高速回転時には、傾斜溝には内空間に存在する低圧の流体が導入されることで、外径端及びその近傍に正圧が発生して一対の摺動部品の摺動面同士を僅かに離間させることで低摩擦化を実現している。また、高速回転時には、外空間から摺動面間に流入し摺動面を内径側に向かう被密封流体は傾斜溝により吸い込まれるため、一対の摺動部品間から被密封流体が低圧の内空間に漏れることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6444492号公報(第9,10頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような摺動部品にあっては、傾斜溝は一方の摺動部品の漏れ側に配置され、正回転時において漏れ側の流体が導入されるように内径端から外径側に延びる構成であるので、低摩耗化かつ漏れ抑制が可能であるものの、逆回転時においては、流体導入溝から摺動面間に被密封流体が流出することで潤滑性に優れるものの、この被密封流体は一対の摺動部品間から内空間に被密封流体が漏れ出してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、正回転時及び逆回転時のいずれの回転時(以下、両回転時ということもある。)においても摺動面同士の摩耗を抑制でき、かつ被密封流体の漏れを抑制できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の相対回転する箇所に配置され他の摺動部品と相対摺動し、摺動面に被密封流体側の空間に連通し被密封流体を導入する複数の流体導入溝と、漏れ側から被密封流体側に延び動圧を発生させる複数の傾斜溝と、を備える環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、前記傾斜溝の被密封流体側に設けられ前記傾斜溝に対して逆方向に延び動圧を発生させる逆傾斜溝が備えられている。
これによれば、逆回転時において、傾斜溝よりも被密封流体側で逆傾斜溝内に進入した被密封流体が他の摺動部品の摺動面とのせん断により追随移動し逆傾斜溝の被密封流体側の端部から被密封流体側に向けて摺動面間に戻されることにより漏れ側の空間への被密封流体の漏れを減らすことができる。また、両回転時において摺動面同士を潤滑させて摩耗を抑制することができ、かつ一対の摺動部品間から被密封流体が漏れ側の空間に漏れることを抑制できる。
【0008】
前記傾斜溝は、漏れ側の空間に連通していてもよい。
これによれば、正回転時において、漏れ側の流体が傾斜溝に導入されやすくなることにより傾斜溝内で漏れ側の流体により正圧を発生させやすくなるため、動圧効果を高めることができる。
【0009】
前記傾斜溝と前記逆傾斜溝は、連続する溝であってもよい。
これによれば、逆回転時において、傾斜溝を通って漏れ側に向けて移動しようとする被密封流体を逆傾斜溝により被密封流体側に戻すことができるため、漏れ側の空間への被密封流体の漏れを減らすことができる。
【0010】
前記傾斜溝と前記逆傾斜溝との間には、前記傾斜溝の被密封流体側で周方向に連続し径方向所定以上の幅を有する環状ランド部が設けられていてもよい。
これによれば、逆回転時において、環状ランド部の被密封流体側において逆傾斜溝に被密封流体が捕捉されるため、傾斜溝に被密封流体が進入することを抑制できる。また、環状ランド部により傾斜溝と逆傾斜溝が分離されていることにより、両回転時において、傾斜溝と逆傾斜溝が互いの動圧発生に干渉することがないため、動圧効果を発揮しやすい。
【0011】
前記環状ランド部の径方向中心は、前記摺動面の径方向中心よりも被密封流体側に寄って配置されていてもよい。
これによれば、環状ランド部は摺動面において径方向被密封流体側に寄って配置されていることから、傾斜溝の延在距離を長く確保でき、正回転時において傾斜溝が逆傾斜溝よりも主たる動圧発生源となるので、被密封流体の漏れ側の空間への漏れを抑えることができる。
【0012】
前記逆傾斜溝は、前記傾斜溝と比べて延在距離が短くてもよい。
これによれば、逆回転時において、逆傾斜溝で正圧を早期に発生させることができる。
【0013】
前記逆傾斜溝は、被密封流体側の端部が先細りする溝であってもよい。
これによれば、逆回転時において、逆傾斜溝の先細りする端部に被密封流体を集中させて正圧を発生させやすくすることができるため、動圧効果を高めることができる。
【0014】
前記流体導入溝は、動圧発生部を備えていてもよい。
これによれば、動圧発生部により、動圧を生じさせて摺動面間を僅かに離間させ摺動面間に被密封流体を導入することができるため、摺動面同士の潤滑性を高めることができる。
【0015】
尚、本発明に係る摺動部品の摺動面において、傾斜溝は、傾斜溝の延在方向が径方向の成分と周方向の成分の両方を有しているものであればよい。同様に、逆傾斜溝は、逆傾斜溝の延在方向が径方向の成分と周方向の成分の両方を有し、相対回転時における上流から下流に向けて延びる周方向の向きが傾斜溝と逆であればよい。
【0016】
尚、被密封流体は、気体または液体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2】実施例1における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図3】実施例1における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図4】実施例1における静止密封環の摺動面について、正回転時における傾斜溝及び逆傾斜溝の流体の動きを軸方向から見た説明図である。
図5】実施例1における静止密封環の摺動面について、逆正回転時における傾斜溝及び逆傾斜溝の流体の動きを軸方向から見た説明図である。
図6】実施例1における変形例1の静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図7】実施例1における変形例2の静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図8】実施例1における変形例3の静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図9】本発明の実施例2における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図10】実施例2における静止密封環の摺動面について、正回転時における傾斜溝及び逆傾斜溝の流体の動きを軸方向から見た説明図である。
図11】実施例2における静止密封環の摺動面について、逆正回転時における傾斜溝及び逆傾斜溝の流体の動きを軸方向から見た説明図である。
図12】本発明の実施例3における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図13】本発明の実施例4における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図14】本発明の実施例5における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図15】本発明の実施例6における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図16】本発明の実施例7における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図17】本発明の実施例8における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図18】本発明の実施例9における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
図19】本発明の実施例10における静止密封環の摺動面を軸方向から見た拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールの外空間に被密封流体が存在し、内空間に大気が存在しており、メカニカルシールを構成する摺動部品の外径側を被密封流体側(高圧側)、内径側を漏れ側(低圧側)として説明する。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すこともある。
【0020】
図1に示される自動車用のメカニカルシールは、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封し内空間S1が大気Aに通ずるインサイド形のものである。尚、本実施例では、被密封流体Fが高圧の液体であり、大気Aが被密封流体Fよりも低圧の気体である形態を例示する。
【0021】
メカニカルシールは、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と共に回転可能な状態で設けられた円環状の他の摺動部品としての回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた摺動部品としての円環状の静止密封環10と、から主に構成され、弾性部材7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環20の摺動面21は平坦面となっており、この平坦面には溝等の凹み部が設けられていない。
【0022】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0023】
図2及び図3に示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が実線矢印で示すように反時計周りまたは点線矢印で示すように時計周りにそれぞれ相対摺動するようになっており、静止密封環10の摺動面11には、内径側に複数の動圧発生溝13が周方向に均等に配設され、外径側に複数の流体導入溝16が周方向に均等に配設されている。
【0024】
以下、実施例においては、実線矢印で示される回転密封環20の反時計周りの回転方向を正回転方向、点線矢印で示される回転密封環20の時計周りの回転方向を逆回転方向として説明する。
【0025】
また、摺動面11の動圧発生溝13及び流体導入溝16以外の部分は平坦面を成すランド12となっている。詳しくは、ランド12は、周方向に隣接する動圧発生溝13の間のランド部12aと、周方向に隣接する流体導入溝16の間のランド部12bと、径方向に離間する動圧発生溝13と流体導入溝16との間のランド部12cと、を有し、これら各ランド部は、同一平面状に配置されランド12の平坦面を構成している。
【0026】
図3に示されるように、動圧発生溝13は、内径側から外径側に向けて延び動圧を発生させる傾斜溝14と、この傾斜溝14の外径側に連続形成され傾斜溝14に対して逆方向に延び動圧を発生させる逆傾斜溝15と、から構成されており、L字状を成している。尚、傾斜溝14に対して逆方向に延びるとは、内径側から外径側に向けて正回転方向の成分を持って傾斜しながら延びる傾斜溝14に対して、逆傾斜溝15が内径側から外径側に向けて逆回転方向の成分を持って傾斜しながら延びることを意味している。
【0027】
詳しくは、動圧発生溝13は、内径端13A、すなわち傾斜溝14の内径端が内空間S1に連通し、内径端13Aから外径側に向けて回転密封環20の正回転方向に傾斜しながら円弧状に延びており、傾斜溝14の外径側の端部には、傾斜溝14に対して逆方向に延びる逆傾斜溝15が連続形成されている。逆傾斜溝15は、内径側の端部から外径側に向けて回転密封環20の逆回転方向に傾斜しながら直線状に延びており、外径側の端部、すなわち動圧発生溝13の外径端13Bが外空間S2と非連通状態となるように閉塞されている。尚、逆傾斜溝15は、傾斜しながら直線状に延びるものに限らず、円弧状に延びるものであってもよい。
【0028】
図3に示されるように、傾斜溝14は、延在方向に亘って平坦かつランド12の平坦面に平行な底面14aと、底面14aの両側縁からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる側壁部14c,14dと、から構成されている。
【0029】
逆傾斜溝15は、延在方向に亘って平坦かつランド12の平坦面に平行な底面15aと、底面15aの外径端13B側の端縁からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる壁部15bと、底面15aの両側縁からランド12の平坦面に向けて垂直に延びる側壁部15c,15dと、から構成されている。
【0030】
また、動圧発生溝13には、傾斜溝14の側壁部14dと逆傾斜溝15の側壁部15dとが成す鋭角部13Cと、逆傾斜溝15の壁部15bと側壁部15cとが成す鋭角部13Dと、逆傾斜溝15の壁部15bと側壁部15dとが成す鈍角部13Eと、が形成されており、鋭角部13Dは鋭角部13Cよりも外径側、かつ回転密封環20の逆回転方向の下流側に位置している。さらに、鋭角部13Dは、鋭角部13Cよりも角度が小さくなっている。
【0031】
また、逆傾斜溝15の延在距離は、傾斜溝14の延在距離と比べて短い。すなわち、逆傾斜溝15の側壁部15c,15dの長さは、連続する傾斜溝14の側壁部14c,14dの長さよりもそれぞれ短い。
【0032】
また、逆傾斜溝15の深さは、傾斜溝14の深さと同一である。すなわち、逆傾斜溝15の底面15aは、連続する傾斜溝14の底面14aと同一平面状に配置され平坦面を成している。尚、傾斜溝14の底面14a及び逆傾斜溝15の底面15aは、平坦面を成すものに限らず、傾斜や凹凸を有していてもよい。
【0033】
図3に示されるように、流体導入溝16は、外空間S2に連通する液体誘導溝部17と、液体誘導溝部17の内径側から回転密封環20の正回転方向に向けて静止密封環10と同心状に周方向に延びる動圧発生部としてのレイリーステップ18と、から構成されている。尚、液体誘導溝部17及びレイリーステップ18は、動圧発生溝13の深さ寸法と略同一の深さに形成されている。また、レイリーステップ18は周方向の長さが、液体誘導溝部17の周方向の長さや一つの動圧発生溝13の周方向の長さよりも長く形成されている。
【0034】
次いで、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時の動作について図4及び図5を用いて説明する。尚、本実施例においては、回転密封環20の停止時、正回転時、逆回転時の順に説明する。
【0035】
まず、回転密封環20が回転していない停止時には、被密封流体Fが流体導入溝16内に流入している。尚、弾性部材7によって静止密封環10が回転密封環20側に付勢されているので摺動面11,21同士は接触状態となっており、摺動面11,21間の被密封流体Fが内空間S1に漏れ出す量はほぼない。
【0036】
図4に示されるように、回転密封環20が静止密封環10に対して正回転方向に相対回転し始めた直後の低速時においては、レイリーステップ18内の被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の正回転方向に追随移動することにより、外空間S2の被密封流体Fが液体誘導溝部17に引き込まれる。すなわち、流体導入溝16内では、被密封流体Fが矢印H1に示すように液体誘導溝部17からレイリーステップ18における相対回転方向の下流側の端部18Aに向かって移動する。尚、図4の被密封流体Fや大気Aの流れについては、回転密封環20の相対回転速度を特定せずに概略的に示している。
【0037】
レイリーステップ18の端部18Aに向かって移動した被密封流体Fは、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍で圧力が高められる。すなわちレイリーステップ18の端部18A及びその近傍で正圧が発生する。
【0038】
レイリーステップ18の深さは浅いため、回転密封環20の回転速度が低速につき被密封流体Fの移動量が少なくてもレイリーステップ18の端部18A及びその近傍にて正圧が発生する。
【0039】
また、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍で発生した正圧による力により、摺動面11,21間が若干離間される。これにより、摺動面11,21間には、主に矢印H2に示す流体導入溝16内の被密封流体Fが流入する。このように摺動面11,21間に被密封流体Fが介在することにより低速回転時においても潤滑性が向上し、摺動面11,21同士の摩耗を抑制することができる。尚、摺動面11,21同士の浮上距離が僅かであるため、被密封流体Fが内空間S1に漏れ出す被密封流体Fは少ない。また、液体誘導溝部17が設けられているため、被密封流体Fを多量に保持することができ、低速回転時に摺動面11,21間が貧潤滑となることを回避できる。
【0040】
一方、動圧発生溝13においては、回転密封環20と静止密封環10との相対回転低速時には、大気Aが動圧発生溝13内において十分に密とならず高い正圧は発生せず、動圧発生溝13によって発生される正圧による力は、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍で発生した正圧による力よりも相対的に小さい。よって、回転密封環20の低速回転時では、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍で発生した正圧による力が主体となって摺動面11,21同士を離間させるようになっている。
【0041】
回転密封環20の相対回転速度が高まると、図4に示されるように、動圧発生溝13内の大気Aが摺動面21とのせん断により回転密封環20の正回転方向に追随移動するとともに、内空間S1の大気Aが動圧発生溝13に引き込まれる。すなわち、動圧発生溝13内では、多量の大気Aが矢印L1に示すように内径端13Aから傾斜溝14の外径側の端部に向かって移動する。
【0042】
傾斜溝14の外径側の端部に向かって移動した大気Aは、鋭角部13C及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部13C及びその近傍で正圧が発生する。
【0043】
このように、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍で発生した正圧による力に、鋭角部13C及びその近傍で発生した正圧による力が加わり、低速時と比べ摺動面11,21間がさらに離間する。これにより、摺動面11,21間には、主に矢印L2に示す動圧発生溝13内の大気Aが流入する。
【0044】
矢印L2に示す動圧発生溝13内の大気Aは、動圧発生溝13の鋭角部13C近傍の被密封流体Fを外空間S2側に押し戻すように作用するので、動圧発生溝13内や内空間S1に漏れ出す被密封流体Fは少ない。
【0045】
本実施例の摺動部品は、正回転の高速回転時において、傾斜溝14全体による正圧発生能力が、逆傾斜溝15全体による正圧発生能力及びレイリーステップ18全体による正圧発生能力よりも十分に大きく設計されているため、最終的には、摺動面11,21間には大気Aのみが存在した状態、すなわち気体潤滑となる。
【0046】
次いで、回転密封環20の逆回転時について図5を用いて説明する。図5に示されるように、回転密封環20が静止密封環10に対して逆回転方向に相対回転すると、レイリーステップ18内の被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の逆回転方向に追随移動し、相対回転方向の下流側の液体誘導溝部17に進入し、液体誘導溝部17内の被密封流体Fの一部は外空間S2に流出する。尚、図5の被密封流体Fや大気Aの流れについては、回転密封環20の相対回転速度を特定せずに概略的に示している。
【0047】
またこのとき、隣接する流体導入溝16の間のランド部12bや径方向に離間する動圧発生溝13と流体導入溝16との間のランド部12cに存在する被密封流体Fは、レイリーステップ18の端部18A及びその近傍に生じる負圧により矢印H2’に示すように流体導入溝16内に吸い込まれ、その傾向は端部18A近傍で顕著に現れる。
【0048】
このように、静止密封環10に対して回転密封環20が相対的に反時計回りに逆回転する場合には、流体導入溝16内に吸い込まれた被密封流体Fは、液体誘導溝部17に多量に保持され摺動面11,21間が貧潤滑となることを回避できる。
【0049】
一方、動圧発生溝13においては、図5に示されるように、動圧発生溝13の外径側に形成される逆傾斜溝15内に進入した被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の逆回転方向に追随移動する。すなわち、動圧発生溝13内では、被密封流体Fが矢印H3’に示すように逆傾斜溝15内を鋭角部13Dに向かって移動する。
【0050】
鋭角部13Dに向かって移動した被密封流体Fは、鋭角部13D及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部13D及びその近傍で正圧が発生する。
【0051】
また、鋭角部13D及びその近傍で発生した正圧による力により、摺動面11,21間が若干離間される。これにより、摺動面11,21間には、主に矢印H4’に示す逆傾斜溝15内の被密封流体Fが流入する。
【0052】
矢印H4’に示す鋭角部13Dから流出する被密封流体Fは、動圧発生溝13の鋭角部13D近傍の被密封流体Fを外空間S2側に押し戻すように作用するので、動圧発生溝13内や内空間S1に漏れ出す被密封流体Fは少ない。
【0053】
またこのとき、鋭角部13Cの周辺に存在する被密封流体Fは、鋭角部13C及びその近傍に生じる負圧により矢印H5’に示すように逆傾斜溝15内に吸い込まれる。逆傾斜溝15内に吸い込まれた被密封流体Fは鋭角部13Dから摺動面11,21間に戻されるようになっている。
【0054】
尚、傾斜溝14は、内径端13Aが内空間S1に開放しているため、回転密封環20の逆回転時において傾斜溝14において生じる負圧は小さくなっている。さらに、傾斜溝14と逆傾斜溝15は、連続する溝であるため、回転密封環20の逆回転時において、動圧発生溝13内に進入した被密封流体Fは逆傾斜溝15内における被密封流体Fの流れにより鋭角部13Dから外径側に向けて摺動面11,21間に戻されることから、傾斜溝14を通って内空間S1に漏れ出す被密封流体Fを減らすことができる。
【0055】
以上説明したように、回転密封環20の静止密封環10に対する相対回転開始時には、流体導入溝16から摺動面11,21間に流出する被密封流体Fにより摺動面11,21同士が潤滑され、高速回転時には、動圧発生溝13内で大気Aにより発生される正圧により摺動面11,21同士が離間されるようになり、相対回転開始時から高速回転時に亘って摺動面11,21同士の摩耗を抑制することができる。
【0056】
また、回転密封環20の正回転時においては、動圧発生溝13の主に傾斜溝14で発生する正圧により外空間S2から摺動面11,21間に流入した被密封流体Fが吸い込まれ、外空間S2側に押し戻されるため、摺動面11,21間から被密封流体Fが内空間S1に漏れることが抑制される。一方、回転密封環20の逆回転時においては、傾斜溝14の外径側で逆傾斜溝15内に進入した被密封流体Fが回転密封環20の摺動面21とのせん断により追随移動し逆傾斜溝15の被密封流体F側の端部、すなわち鋭角部13Dから外径側に向けて摺動面11,21間に戻されることにより内空間S1への被密封流体Fの漏れを減らすことができる。このように、動圧発生溝13は、主となる動圧発生のための回転方向が異なる傾斜溝14及び逆傾斜溝15を備えているため、両回転時において摺動面11,21同士を離間させて摩耗を抑制することができ、かつ摺動面11,21間から被密封流体Fが内空間S1に漏れることを抑制できる。
【0057】
また、動圧発生溝13は、傾斜溝14と逆傾斜溝15によりL字状を成しているため、正回転時において、内径端13Aから傾斜溝14に吸い込まれる大気Aと共に、鋭角部13Dから逆傾斜溝15に吸い込まれる被密封流体Fを鋭角部13Cに集めて正圧を発生させることができる。また、逆回転時において、被密封流体Fを逆傾斜溝15内で発生する動圧により外空間S2側に押し戻すことができるため、傾斜溝14への被密封流体Fの侵入を抑制することができ、傾斜溝14を通した内空間S1への被密封流体Fの漏れを抑えることができる。
【0058】
また、傾斜溝14は、内空間S1に連通している。これによれば、正回転時において、内空間S1の大気Aが内径端13Aから傾斜溝14に導入されやすくなり、傾斜溝14内で大気Aにより正圧を発生させやすくなるため、動圧効果を高めることができる。
【0059】
また、逆傾斜溝15は、傾斜溝14と比べて延在距離が短い。これによれば、逆回転時において、逆傾斜溝15で正圧を早期に発生させることができる。
【0060】
また、逆傾斜溝15は、外径側の端部が先細りする鋭角部13Dを有する溝である。これによれば、逆回転時において、逆傾斜溝15内の被密封流体Fを鋭角部13Dに集中させて正圧を発生させやすくなるため、動圧効果を高めることができる。
【0061】
また、流体導入溝16は、動圧発生部としてのレイリーステップ18を備えている。これによれば、正回転時において、レイリーステップ18により、動圧を生じさせて摺動面11,21間を僅かに離間させ摺動面11,21間に被密封流体Fを導入することができるため、摺動面11,21同士の潤滑性を高めることができる。また、流体導入溝16は、液体誘導溝部17が外空間S2に連通しているため、液体誘導溝部17に被密封流体Fを導入しやすく、早期にレイリーステップ18により正圧を発生させることができる。
【0062】
また、レイリーステップ18は、逆回転時において、端部18Aの周辺の被密封流体Fを負圧により吸い込み、液体誘導溝部17に導入することができるため、被密封流体Fの内空間S1への漏れを抑制することができる。
【0063】
尚、静止密封環10の変形例1として、図6に示される摺動部品としての静止密封環110は、その摺動面111において、外径端113Bが周方向に隣接する流体導入溝16の間のランド部112bまで延設される動圧発生溝113が内径側から外径側に向けて延び動圧を発生させる傾斜溝114と、この傾斜溝114の外径側に連続形成され傾斜溝114に対して逆方向に延び動圧を発生させる逆傾斜溝115と、から構成されている。また、外径端113B’が流体導入溝16の内径側に配置される傾斜溝113’は、内径側から外径側に向けて延び動圧を発生させる。
【0064】
これによれば、実施例1の静止密封環10と比べて、被密封流体Fの漏れが少ない流体導入溝16の内径側に配置される傾斜溝113’については逆傾斜溝を形成せず、動圧発生溝113については周方向に隣接する流体導入溝16の間のランド部112bまで逆傾斜溝115を延設させることにより、全ての動圧発生溝113における傾斜溝114及び傾斜溝113’の延在距離を長く形成することができ、正回転時における大気Aによる動圧効果を高めることができる。
【0065】
また、静止密封環10の変形例2として、図7に示される摺動部品としての静止密封環210のように、その摺動面211において、外径端が流体導入溝16の内径側に配置される動圧発生溝として実施例1と同一の動圧発生溝13、外径端が周方向に隣接する流体導入溝16の間に配置される動圧発生溝として変形例1と同一の動圧発生溝113を組み合わせてもよい。これによれば、正回転時における大気Aによる動圧効果を高めることができる。
【0066】
また、静止密封環10の変形例3として、図8に示される摺動部品としての静止密封環310のように、その摺動面311において、内径側に複数の流体導入溝316が周方向に均等に配設され、外径側に複数の動圧発生溝313が周方向に均等に配設されることにより、摺動面311の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体Fを密封するアウトサイド形のメカニカルシールに適用できるようにしてもよい。尚、動圧発生溝313及び流体導入溝316は、実施例1における動圧発生溝13及び流体導入溝16を内外反転させて形成されたものである。また、上述した変形例1,2についても、変形例3のように動圧発生溝及び流体導入溝を内外反転させてアウトサイド形のメカニカルシールに適用できるようにしてもよい。
【0067】
尚、これら変形例1~3における動圧発生溝や流体導入溝の構成は、以降の各実施例の摺動部品の摺動面にも適用可能である。
【実施例2】
【0068】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、図9図11を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0069】
図9に示されるように、本実施例2の静止密封環410における動圧発生溝413は、内径側から外径側に向けて延び動圧を発生させる傾斜溝414と、この傾斜溝414の外径側において径方向に離間して傾斜溝414に対して逆方向に延び動圧を発生させる逆傾斜溝415と、から構成されている。すなわち、動圧発生溝413は、傾斜溝414と逆傾斜溝415が後述する環状ランド部412dにより径方向に分離された構成となっている。
【0070】
詳しくは、傾斜溝414は、内径端414Aが内空間S1に連通し、内径端414Aから外径側に向けて回転密封環20の正回転方向に傾斜しながら円弧状に延びており、傾斜溝414の直線状の外径端414Bが逆傾斜溝415と非連通状態となるように閉塞されている。
【0071】
逆傾斜溝415は、略平行四辺形を成しており、内径端415Aから外径側に向けて回転密封環20の逆回転方向に傾斜しながら直線状に延びており、外径端415Bが外空間S2と非連通状態となるように閉塞されている。
【0072】
また、傾斜溝414と逆傾斜溝415との間には、周方向に連続し径方向所定以上の幅を有する環状ランド部412dが形成されている。尚、環状ランド部412dも他のランド部と同様に同一平面状に配置されランド412の平坦面を構成している。
【0073】
また、傾斜溝414には、外径端414Bにおける壁部414bと側壁部414dとが成す鋭角部414Cと、壁部414bと側壁部414cとが成す鈍角部414Dと、が形成されている。
【0074】
また、逆傾斜溝415には、内径端415Aにおける壁部415bと側壁部415dとが成す鋭角部415Cと、直線状の外径端415Bにおける壁部415eと側壁部415cとが成す鋭角部415Dと、が形成されており、鋭角部415Dは鋭角部415Cよりも外径側、かつ回転密封環20の逆回転方向の下流側に位置している。
【0075】
また、逆傾斜溝415の延在距離は、傾斜溝414の延在距離と比べて短い。また、逆傾斜溝415の深さは、傾斜溝414の深さと同一である。尚、逆傾斜溝415は、傾斜溝414と異なる深さに形成されていてもよい。
【0076】
また、外径端414Bと内径端415Aは、略平行かつ略同一長さで径方向に重畳する位置に配置されている。内径端415Aは、外径端414B以上の長さかつ径方向に重畳する位置に配置されていることが漏れ防止の観点からは好ましい。
【0077】
次いで、静止密封環410と回転密封環20との相対回転時の動作について図10及び図11を用いて説明する。尚、流体導入溝16における流体の動きは、実施例1と略同一であるため、本実施例においては動圧発生溝413を構成する傾斜溝414及び逆傾斜溝415における流体の動きを中心に説明する。
【0078】
動圧発生溝413においては、回転密封環20と静止密封環410との正回転方向への相対回転低速時には、大気Aが傾斜溝414内に十分に密とならず高い正圧は発生しない。また、逆傾斜溝415は、延在距離が短いため、逆傾斜溝415内に被密封流体Fが侵入していても高い正圧は発生しない。
【0079】
回転密封環20の相対回転速度が高まると、図10に示されるように、傾斜溝414内の大気Aが摺動面21とのせん断により回転密封環20の正回転方向に追随移動するとともに、内空間S1の大気Aが傾斜溝414に引き込まれる。すなわち、傾斜溝414内では、多量の大気Aが矢印L1に示すように傾斜溝414の内径端414Aから外径端414Bに向かって移動する。
【0080】
傾斜溝414の外径端414Bに向かって移動した大気Aは、鋭角部414C及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部414C及びその近傍で正圧が発生する。
【0081】
また、矢印L2に示す傾斜溝414内の大気Aは、鋭角部414C近傍の被密封流体Fを外空間S2側に押し戻すように作用するので、傾斜溝414内や内空間S1に漏れ出す被密封流体Fは少ない。
【0082】
一方、逆傾斜溝415においては、逆傾斜溝415内に進入した被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の正回転方向に追随移動するとともに、鋭角部415D近傍の被密封流体Fが逆傾斜溝415に引き込まれる。すなわち、逆傾斜溝415内では、被密封流体Fが矢印H5に示すように逆傾斜溝415の鋭角部415Dから鋭角部415Cに向かって移動し、鋭角部415C及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部415C及びその近傍で正圧が発生する。
【0083】
また、矢印H6に示す逆傾斜溝415内の被密封流体Fは、鋭角部415C近傍の被密封流体Fと共に矢印L2に示す傾斜溝414内の大気Aにより外空間S2側に押し戻される。
【0084】
次いで、回転密封環20の逆回転時について図11を用いて説明する。図11に示されるように、傾斜溝414の外径側に形成される逆傾斜溝415内に進入した被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の逆回転方向に追随移動するとともに、鋭角部415Cの近傍の被密封流体Fが逆傾斜溝415に引き込まれる。すなわち、逆傾斜溝415内では、被密封流体Fが矢印H3’に示すように逆傾斜溝415の鋭角部415Cから鋭角部415Dに向かって移動し、鋭角部415D及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部415D及びその近傍で正圧が発生する。
【0085】
矢印H4’に示す逆傾斜溝415内の被密封流体Fは、逆傾斜溝415の鋭角部415D近傍の被密封流体Fを外空間S2側に押し戻すように作用するので、傾斜溝414内や内空間S1に漏れ出す被密封流体Fは少ない。
【0086】
またこのとき、鋭角部415Cの周辺に存在する被密封流体Fは、鋭角部415C及びその近傍に生じる負圧により矢印H5’に示すように逆傾斜溝415内に吸い込まれる。逆傾斜溝415内に吸い込まれた被密封流体Fは鋭角部415Dから外径側に向けて摺動面411,21間に戻されるようになっている。
【0087】
以上説明したように、回転密封環20の正回転時においては、動圧発生溝413の傾斜溝414及び逆傾斜溝415でそれぞれ発生する正圧により外空間S2から摺動面411,21間に流入した被密封流体Fが吸い込まれ、外空間S2側に押し戻されるため、摺動面411,21間から被密封流体Fが内空間S1に漏れることが抑制される。一方、回転密封環20の逆回転時においては、傾斜溝414の外径側で逆傾斜溝415内に進入した被密封流体Fが回転密封環20の摺動面21とのせん断により追随移動し逆傾斜溝415の被密封流体F側の端部、すなわち鋭角部415Dから外径側に向けて摺動面411,21間に戻されることにより内空間S1への被密封流体Fの漏れを減らすことができる。このように、動圧発生溝413は、主となる動圧発生のための回転方向が異なる傾斜溝414及び逆傾斜溝415を備えているため、両回転時において摺動面411,21同士を離間させて摩耗を抑制することができ、かつ摺動面411,21間から被密封流体Fが内空間S1に漏れることを抑制できる。
【0088】
また、傾斜溝414と逆傾斜溝415との間には、周方向に連続し径方向所定以上の幅を有する環状ランド部412dが形成されており、この環状ランド部412dにより傾斜溝414と逆傾斜溝415とが分離されていることにより、回転密封環20の逆回転時において、被密封流体Fが環状ランド部412dの外径側において鋭角部415Cから逆傾斜溝415に吸い込まれて捕捉されるため、環状ランド部412dを越えて傾斜溝414に被密封流体Fが進入することが抑制されており、傾斜溝414を通って内空間S1に漏れ出す被密封流体Fをさらに減らすことができる。
【0089】
また、環状ランド部412dにより傾斜溝414と逆傾斜溝415が分離されていることにより、両回転時において、傾斜溝414と逆傾斜溝415が互いの動圧発生に干渉することがないため、動圧効果を発揮しやすい。
【0090】
また、傾斜溝414と逆傾斜溝415とを分離する環状ランド部412dの径方向中心は、摺動面411の径方向中心よりも被密封流体F側に寄って配置されている。これによれば、傾斜溝414の延在距離を長く確保でき、正回転時において傾斜溝414が逆傾斜溝415よりも主たる動圧発生源となるので、被密封流体Fの内空間S1への漏れをさらに抑えることができる。
【実施例3】
【0091】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、図12を参照して説明する。尚、前記実施例1,2と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0092】
図12に示されるように、本実施例3の静止密封環510における流体導入溝516は、外空間S2に連通する液体誘導溝部517と、液体誘導溝部517の内径側から回転密封環20の正回転方向及び逆回転方向に向けてそれぞれ静止密封環510と同心状に周方向に延びる動圧発生部としてのレイリーステップ518,518’と、から構成されている。
【0093】
これによれば、回転密封環20の正回転時において、流体導入溝516内の被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の正回転方向に追随移動することにより、液体誘導溝部517からレイリーステップ518側に移動するとともに、外空間S2の被密封流体Fが液体誘導溝部517に引き込まれる。また、逆回転時においても、流体導入溝516内の被密封流体Fが摺動面21とのせん断により回転密封環20の逆回転方向に追随移動することにより、液体誘導溝部517からレイリーステップ518’側に移動するとともに、外空間S2の被密封流体Fが液体誘導溝部517に引き込まれる。
【0094】
このように、流体導入溝516は、両回転時において、レイリーステップ518,518’により、動圧を生じさせて摺動面511,21間を僅かに離間させ摺動面511,21間に被密封流体Fを供給することで、摺動面511,21同士の潤滑性を高めることができる。
【実施例4】
【0095】
次に、実施例4に係る摺動部品につき、図13を参照して説明する。尚、前記実施例1~3と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0096】
図13に示されるように、本実施例4の静止密封環610における流体導入溝616は、実施例3の流体導入溝516と同一構成である。また、動圧発生溝613は実施例2の動圧発生溝413と同一構成である。
【0097】
これによれば、流体導入溝616は、両回転時において、摺動面611,21間を僅かに離間させ摺動面611,21間に被密封流体Fを導入することで、摺動面611,21同士の摩耗をより抑制でき、かつ動圧発生溝613において径方向に分離された傾斜溝614及び逆傾斜溝615により、被密封流体Fの漏れを抑制できる。
【実施例5】
【0098】
次に、実施例5に係る摺動部品につき、図14を参照して説明する。尚、前記実施例1~4と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0099】
図14に示されるように、本実施例5の静止密封環710における流体導入溝716は、外空間S2に連通する円の一部を切り取った略弓型形状の溝により構成されている。
【0100】
これによれば、流体導入溝716は外空間S2に連通する円の一部から成る溝となっているので、回転密封環20の回転方向に係らず被密封流体Fが流体導入溝716内に導入されやすい。
【実施例6】
【0101】
次に、実施例6に係る摺動部品につき、図15を参照して説明する。尚、前記実施例1~5と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0102】
図15に示されるように、本実施例6の静止密封環810における流体導入溝816は、外空間S2に連通する略矩形状の溝により構成されている。
【0103】
これによれば、流体導入溝816は略矩形状の溝となっているので、形成加工が容易であり、流体導入溝816内に被密封流体Fを多量に保持することができる。
【実施例7】
【0104】
次に、実施例7に係る摺動部品につき、図16を参照して説明する。尚、前記実施例1~6と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0105】
図16に示されるように、本実施例7の静止密封環910における流体導入溝916は、外空間S2に連通する略台形状の溝により構成されている。
【0106】
詳しくは、流体導入溝916は、回転密封環20の正回転方向の下流側の側壁部916aが外径側から内径側に向けて逆回転方向に向けて傾斜しながら直線状に延び、回転密封環20の正回転方向の上流側の側壁部916bが外径側から内径側に向けて径線に沿って直線状に延びている。また、流体導入溝916は、内径端における壁部916cと側壁部916bとが成す鋭角部916Aが逆回転方向の下流側の動圧発生溝913の鋭角部913Cと周方向に近接して配置されている。
【0107】
これによれば、流体導入溝916は、側壁部916aが周方向に沿うように傾斜しているため、回転密封環20の正回転時における静止密封環910と回転密封環20との相対回転開始時に流体導入溝916に被密封流体Fが導入されやすい。
【0108】
また、流体導入溝916は、鋭角部916Aが動圧発生溝913の鋭角部913Cと周方向に近接しているため、回転密封環20の逆回転時において、流体導入溝916の鋭角部916Aに集中して漏れ出す被密封流体Fを動圧発生溝913の鋭角部913C及びその近傍で発生する負圧により吸い込み回収することができるため、被密封流体Fの内空間S1への漏れをさらに抑えることができる。
【実施例8】
【0109】
次に、実施例8に係る摺動部品につき、図17を参照して説明する。尚、前記実施例1~7と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0110】
図17に示されるように、本実施例8の静止密封環1010における流体導入溝1016は、外空間S2に連通する四角形状の溝により構成されている。
【0111】
詳しくは、流体導入溝1016は、回転密封環20の正回転方向の下流側の側壁部1016a及び正回転方向の上流側の側壁部1016bが外径側から内径側に向けて逆回転方向に向けて傾斜しながら直線状に延びている。また、流体導入溝1016は、内径端における壁部1016cと側壁部1016bとが成す鋭角部1016Aが逆回転方向の下流側の動圧発生溝1013の鋭角部1013Cと周方向に近接して配置されている。
【0112】
これによれば、流体導入溝1016は、側壁部1016a,1016bがそれぞれ周方向に沿うように傾斜しているため、回転密封環20の正回転時における静止密封環1010と回転密封環20との相対回転開始時に流体導入溝1016に被密封流体Fがより導入されやすい。
【0113】
また、流体導入溝1016は、実施例7と比べて鋭角部1016Aの角度が小さく、かつ動圧発生溝1013の鋭角部1013Cと周方向により近接しているため、回転密封環20の逆回転時において、鋭角部1016Aに被密封流体Fが集中しやすく、流体導入溝1016の鋭角部1016Aに集中して漏れ出す被密封流体Fを動圧発生溝1013の鋭角部1013C及びその近傍で発生する負圧により吸い込み回収することができるため、被密封流体Fの内空間S1への漏れをさらに抑えることができる。
【実施例9】
【0114】
次に、実施例9に係る摺動部品につき、図18を参照して説明する。尚、前記実施例1~8と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0115】
図18に示されるように、本実施例9の静止密封環1110における流体導入溝1116は、外空間S2に連通する液体誘導溝部1117と、液体誘導溝部1117の外径側から回転密封環20の正回転方向に向けて静止密封環1110と同心状に周方向に延びる動圧発生部としてのレイリーステップ1118と、から構成されている。尚、液体誘導溝部1117は、実施例8の流体導入溝1016と略同一形状である。
【0116】
これによれば、流体導入溝1116は、動圧発生部としてのレイリーステップ1118を備えているため、正回転時において、レイリーステップ1118により、動圧を生じさせて摺動面1111,21間を僅かに離間させ摺動面1111,21間に被密封流体Fを供給することで、摺動面1111,21同士の潤滑性を高めることができる。
【実施例10】
【0117】
次に、実施例10に係る摺動部品につき、図19を参照して説明する。尚、前記実施例1~9と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0118】
図19に示されるように、本実施例10の静止密封環1210における流体導入溝1216は、外空間S2に連通する液体誘導溝部1217と、液体誘導溝部1217の内径側から回転密封環20の正回転方向及び逆回転方向に向けてそれぞれ静止密封環1210と同心状に周方向に延びる動圧発生部としてのレイリーステップ1218,1218’と、から構成されている。尚、液体誘導溝部1217は、実施例8の流体導入溝1016と略同一形状である。
【0119】
これによれば、両回転時において、レイリーステップ1218,1218’により、動圧を生じさせて摺動面1211,21間を僅かに離間させ摺動面1211,21間に被密封流体Fを供給することで、摺動面1211,21同士の潤滑性を高めることができる。
【0120】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0121】
例えば、前記実施例では、摺動部品として、自動車用のメカニカルシールを例に説明したが、一般産業機械等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールに限られず、すべり軸受などメカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【0122】
また、前記実施例では、動圧発生溝及び流体導入溝を静止密封環に設ける例について説明したが、動圧発生溝及び流体導入溝を回転密封環に設けてもよい。
【0123】
また、被密封流体側を高圧側、漏れ側を低圧側として説明してきたが、被密封流体側が低圧側、漏れ側が高圧側となっていてもよいし、被密封流体側と漏れ側とは略同じ圧力であってもよい。
【0124】
また、動圧発生溝における傾斜溝は内空間S1に連通していると説明したが、これに限らず動圧を発生させることができれば、連通していなくてもよい。
【0125】
また、動圧発生溝は、傾斜溝の外径側の端部に逆傾斜溝が連続して形成されるものに限らず、傾斜溝の延在方向の略中央部から逆傾斜溝が分岐して形成されていてもよい。
【0126】
また、動圧発生溝は、一つの傾斜溝に対して複数の逆傾斜溝が配置されていてもよい。
【0127】
また、傾斜溝は、周方向に傾斜しながら円弧状に延びるものに限らず、直線状に形成することにより形状を簡素化してもよい。
【0128】
また、動圧発生溝及び流体導入溝は略同一深さであると説明したが、流体導入溝は動圧発生溝よりも深くてもよい。
【0129】
また、本実施例において、被密封流体Fは高圧の液体と説明したが、これに限らず気体または低圧の液体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0130】
また、本実施例において、漏れ側の流体は低圧の気体である大気Aであると説明したが、これに限らず液体または高圧の気体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【符号の説明】
【0131】
10 静止密封環(摺動部品)
11 摺動面
12 ランド
12a~12c ランド部
13 動圧発生溝
13C,13D 鋭角部
14 傾斜溝
15 逆傾斜溝
16 流体導入溝
17 液体誘導溝部
18 レイリーステップ(動圧発生部)
20 回転密封環(他の摺動部品)
21 摺動面
410 静止密封環(摺動部品)
411 摺動面
412d 環状ランド部
413 動圧発生溝
414 傾斜溝
414C 鋭角部
415 逆傾斜溝
415C,415D 鋭角部
A 大気
F 被密封流体
S1 内空間
S2 外空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19