(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20250114BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20250114BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/54
(21)【出願番号】P 2022533813
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022631
(87)【国際公開番号】W WO2022004350
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2020112702
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
(72)【発明者】
【氏名】穐山 圭司
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-042208(JP,A)
【文献】特開2019-207359(JP,A)
【文献】特開2018-109780(JP,A)
【文献】特開2006-215297(JP,A)
【文献】特開2008-310091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜上に透過率調整膜を有し、
前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜を透過したArFエキシマレーザーの露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で
150度以上210度以下の位相差を生じさせ、
前記透過率調整膜の前記露光光の波長における屈折率をn
U、前記露光光の波長における消衰係数をk
U、厚さをd
U[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とするマスクブランク。
式(1) d
U≦-17.63×n
U
3+142.0×n
U
2-364.9×n
U+315.8
式(2) d
U≧-2.805×k
U
3+19.48×k
U
2-43.58×k
U+38.11
【請求項2】
前記透過率調整膜の前記屈折率n
Uは、1.2以上であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記透過率調整膜の前記消衰係数k
Uは、1.5以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜は、前記露光光を12%以上の透過率で透過することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記透過率調整膜の前記消衰係数k
Uと前記厚さd
U[nm]は、下記の式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
式(3) d
U≦8.646×k
U
2-38.42×k
U+61.89
【請求項6】
前記透過率調整膜は、ケイ素と窒素を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜と前記透過率調整膜との間に、ケイ素と酸素を含有する中間膜を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側とは反対の表面側に、ケイ素と酸素を含有する最上層を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記透過率調整膜の上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項10】
透光性基板上に、第1のパターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜上に、第2のパターンを有する透過率調整膜を有し、
前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜を透過したArFエキシマレーザーの露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で
150度以上210度以下の位相差を生じさせ、
前記透過率調整膜の前記露光光の波長における屈折率をn
U、前記露光光の波長における消衰係数をk
U、厚さをd
U[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とする位相シフトマスク。
式(1) d
U≦-17.63×n
U
3+142.0×n
U
2-364.9×n
U+315.8
式(2) d
U≧-2.805×k
U
3+19.48×k
U
2-43.58×k
U+38.11
【請求項11】
前記透過率調整膜の前記屈折率n
Uは、1.2以上であることを特徴とする請求項10記載の位相シフトマスク。
【請求項12】
前記透過率調整膜の前記消衰係数k
Uは、1.5以上であることを特徴とする請求項10または11に記載の位相シフトマスク。
【請求項13】
前記位相シフト膜は、前記露光光を12%以上の透過率で透過することを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項14】
前記透過率調整膜の前記消衰係数k
Uと前記厚さd
U[nm]は、下記の式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
式(3) d
U≦8.646×k
U
2-38.42×k
U+61.89
【請求項15】
前記透過率調整膜は、ケイ素と窒素を含有することを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記位相シフト膜と前記透過率調整膜との間に、前記第2のパターンを有する中間膜を備え、前記中間膜はケイ素と酸素を含有することを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側とは反対の表面側に、ケイ素と酸素を含有する最上層を備えることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記透過率調整膜の上に、第3のパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする請求項10から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
請求項9記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第1のパターンを形成する工程と、
前記第1のパターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記透過率調整膜および前記位相シフト膜のそれぞれに第1のパターンを形成する工程と、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第2のパターンを形成する工程と、
前記第2のパターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記透過率調整膜に第2のパターンを形成する工程と、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第3のパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項20】
請求項18記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び半導体デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光パターンを備えたバイナリマスクの他に、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト膜には、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料が広く用いられる。
【0004】
特許文献1には、透明基板2上にエッチング停止膜3、所定のパターンを形成する位相シフト層4が順次形成されており、領域Aに形成された位相シフト層4上にクロムからなる遮光性膜パターン5が形成され、領域Bに形成された位相シフト層4上にモリブデンシリサイドからなる半透光性膜パターン6が形成されたもので、レベンソン型位相シフトマスク及びハーフトーン型位相シフトマスクが同一基板上に形成されてなる位相シフトマスクが開示されている。
また、特許文献2には、透光性基板11の、遮光パターンが形成される部分、及び半遮光パターンが形成される部分に設けられたハーフトーン膜12と、ハーフトーン膜12のうち、遮光パターンが形成される部分にあるハーフトーン膜12上に設けられた遮光膜13とを備える位相シフトマスクが開示されている。半遮光パターンは、ハーフトーン膜12からなる第1の半遮光パターン、及び第1の半遮光パターンよりも寸法が小さいハーフトーン膜からなる第2の半遮光パターンを含み、この第2の半遮光パターンを含む領域の光透過経路32中に、この光透過経路32の光透過率を調整する元素を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-123961公報
【文献】特開2007-279441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年において、要求されるパターンの種類が多様化、複雑化してきており、ハーフトーン型位相シフトマスクに形成される転写パターンにおいても、より微細なパターンと比較的疎なパターンとが共存することがある。良好な位相シフト効果を得るために好適な透過率は、パターンの種類に応じて異なることがある。すなわち、転写されるパターンの種類やピッチ等によって、透過率を高くすることが好ましい場合と、透過率を抑えることが好ましい場合とがありうる。そして、転写領域において、相対的に高い透過率を有する領域と、相対的に低い透過率を有する領域とを、どのように設定するかは、転写対象の半導体デバイスに応じて異なるため、転写対象に形成されるパターンの種類に対応して所望の透過率を有する領域を設定することのできる設計自由度の高いマスクブランクが求められている。
【0007】
特許文献1に記載の位相シフトマスクは、領域Aにおいて遮光性膜パターンが形成され、他の領域Bにおいて半透光性膜パターン5が形成されており、この位相シフトマスク自体は有用ではある。しかし、この位相シフトマスクは、領域Aにレベンソン型位相シフトパターンが設けられ、領域Bにハーフトーン型位相シフトパターンが設けられているという、異なる位相シフト効果が生じるパターンが平面視で混在するものである。ハーフトーン型位相シフトマスクであって異なる透過率のハーフトーン型位相シフトパターンを設けるという要求に対応したものではなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の位相シフトマスクは、ハーフトーンマスクブランクに対して、Gaイオンをイオン注入することで、注入された領域の光透過率を減少させる処理を行うものである。このような処理は、通常のマスクを作成する際には行われるものではなく、マスク製造装置にイオン注入機構を備えておく必要があり、マスク製造処理が複雑化してしまう。そして、マスクブランクに注入されるイオンが所望の領域から拡散しうるため、微細パターンの製造の要求を満たすには困難なものであった。
【0009】
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、マスクブランクから位相シフトマスクを製造するときのプロセス(マスク製造プロセス)を複雑化させることなく、透過率の異なるパターンを所望の精度で作成することができるとともに、それぞれのパターンにおいて、所望の位相シフト機能を得ることのできる位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法を提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜上に透過率調整膜を有し、
前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜を透過したArFエキシマレーザーの露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせ、
前記透過率調整膜の前記露光光の波長における屈折率をnU、前記露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とするマスクブランク。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
【0011】
(構成2)
前記透過率調整膜の前記屈折率nUは、1.2以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記透過率調整膜の前記消衰係数kUは、1.5以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0012】
(構成4)
前記位相シフト膜は、前記露光光を12%以上の透過率で透過することを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記透過率調整膜の前記消衰係数kUと前記厚さdU[nm]は、下記の式(3)の関係を満たすことを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
式(3) dU≦8.646×kU
2-38.42×kU+61.89
【0013】
(構成6)
前記透過率調整膜は、ケイ素と窒素を含有することを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記位相シフト膜と前記透過率調整膜との間に、ケイ素と酸素を含有する中間膜を備えることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成8)
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側とは反対の表面側に、ケイ素と酸素を含有する最上層を備えることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記透過率調整膜の上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成10)
透光性基板上に、第1のパターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜上に、第2のパターンを有する透過率調整膜を有し、
前記位相シフト膜は、前記位相シフト膜を透過したArFエキシマレーザーの露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせ、
前記透過率調整膜の前記露光光の波長における屈折率をnU、前記露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とする位相シフトマスク。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
(構成11)
前記透過率調整膜の前記屈折率nUは、1.2以上であることを特徴とする構成10記載の位相シフトマスク。
【0016】
(構成12)
前記透過率調整膜の前記消衰係数kUは、1.5以上であることを特徴とする構成10または11に記載の位相シフトマスク。
(構成13)
前記位相シフト膜は、前記露光光を12%以上の透過率で透過することを特徴とする構成10から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0017】
(構成14)
前記透過率調整膜の前記消衰係数kUと前記厚さdU[nm]は、下記の式(3)の関係を満たすことを特徴とする構成10から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
式(3) dU≦8.646×kU
2-38.42×kU+61.89
(構成15)
前記透過率調整膜は、ケイ素と窒素を含有することを特徴とする構成10から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0018】
(構成16)
前記位相シフト膜と前記透過率調整膜との間に、前記第2のパターンを有する中間膜を備え、前記中間膜はケイ素と酸素を含有することを特徴とする構成10から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側とは反対の表面側に、ケイ素と酸素を含有する最上層を備えることを特徴とする構成10から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0019】
(構成18)
前記透過率調整膜の上に、第3のパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする構成10から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成19)
構成9記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第1のパターンを形成する工程と、
前記第1のパターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記透過率調整膜および前記位相シフト膜のそれぞれに第1のパターンを形成する工程と、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第2のパターンを形成する工程と、
前記第2のパターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記透過率調整膜に第2のパターンを形成する工程と、
ドライエッチングにより前記遮光膜に第3のパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
(構成20)
構成18記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマスクブランクは、マスク製造プロセスを複雑化させることなく、透過率の異なるパターンを所望の精度で作成することができ、それぞれのパターンにおいて、所望の位相シフト機能を得ることのできるマスクブランクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における位相シフトマスクの構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態における位相シフトマスクの構成を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【
図9】光学シミュレーションA1の結果から導き出された、位相差の増加量が所定値以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚と、屈折率nとの関係を示す図である。
【
図10】光学シミュレーションA1およびB1の結果から導き出された、位相差の増加量が所定値以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚と、屈折率nとの関係を示す図である。
【
図11】光学シミュレーションA2およびB2の結果から導き出された、透過率の比が所定値以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚と、消衰係数kとの関係を示す図である。
【
図12】光学シミュレーションA3およびB3の結果から導き出された、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光の透過率が所定値以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚と、消衰係数kとの関係を示す図である。
【
図13】本発明の第3の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
【
図14】本発明の第3の実施形態における位相シフトマスクの構成を示す断面図である。
【
図15】本発明の第3の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【
図16】本発明の第3の実施形態における位相シフトマスクの製造工程の要部を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本願発明者らは、位相シフト膜において、マスク製造プロセスを複雑化させることなく、透過率の異なるパターンを所望の精度で作成することができるとともに、それぞれのパターンにおいて所望の位相シフト機能を得ることのできる手段について、鋭意研究を行った。
まず、透過率の異なるパターンを作成するために、位相シフト膜上に透過率調整膜を有する構成を着想した。そして、位相シフト膜は、位相シフト膜を透過したArFエキシマレーザーの露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能(以下、適宜「所望の位相シフト機能」という)を有するものとした。このようにすることで、位相シフトマスク上の透過率調整膜が除去された部位において、ArFエキシマレーザーの露光光(以下、適宜「露光光」という)は、位相シフト膜を所定の透過率で透過し、また、上述した所望の位相シフト機能を得ることができるものとなる。
そのうえで、位相シフト膜と透過率調整膜を透過した露光光に対しても所望の位相シフト機能が得られるとともに、位相シフト膜を透過した露光光の透過率に対して有意に異なる透過率が得られるような透過率調整膜の構成について、さらに検討を行った。
【0023】
まず、位相シフト機能に関して、本発明者らは、位相シフト膜を透過した露光光に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下であることを満たすための条件を検討した。この検討において、本発明者らは、透過率調整膜の最大膜厚と、屈折率nとの関係に着目し、位相シフト膜および透過率調整膜について光学シミュレーションA1を行った。光学シミュレーションA1では、屈折率nを1.2から2.0の範囲において、透過率調整膜の膜厚を変えながら、位相差の増加量が20度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚を算出した。ここで、位相シフト膜の膜厚は60.4nm、屈折率nは2.61、消衰係数kは0.36とした。なお、上記の屈折率nおよび消衰係数kは、ArFエキシマレーザー光の波長(波長193nm)に対するものであり、特に言及しない限り、以降も同様である。
【0024】
また、光学シミュレーションA1では、位相シフト膜と透過率調整膜の間に中間膜を設定した。この中間膜は、透過率調整膜をドライエッチングでパターニングするときに位相シフト膜までエッチングされないようにすることを想定して設けた。この中間膜の膜厚は3nm、屈折率nは1.56、消衰係数kは0.00とした。中間膜はこのような光学特性を有するため、光学シミュレーションA1の結果に与える影響は軽微である。
【0025】
この光学シミュレーションA1の結果を元に、透過率調整膜の屈折率nと最大膜厚との関係を整理した。
図9は、光学シミュレーションA1の結果から導き出された、位相シフト膜を透過した露光光に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚と、屈折率nとの関係を示す図である。
図9における曲線A11、A12、そしてA13は、位相差の増加量が20度以下、15度以下、そして10度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚をそれぞれ示している。
【0026】
図9中に示される、位相差の増加量が20度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚の関係式(曲線A11の数式)は、以下のようになる。
d
Umax=-17.63×n
U
3+142.0×n
U
2-364.9×n
U+315.8
また、
図9に示されるように、位相差の増加量が15度以下および10度以下であることを満たす曲線A12、A13は、曲線A11よりも下側に位置している。位相差の増加量が15度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚の関係式(曲線A12の数式)は、以下のようになる。
d
Umax=-70.62×n
U
3+406.5×n
U
2-795.7×n
U+540.1
さらに、位相差の増加量が10度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚の関係式(曲線A13の数式)は、以下のようになる。
d
Umax=201.1×n
U
4-1407×n
U
3+3700×n
U
2-4356×n
U+1956
【0027】
これらの結果から、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、屈折率nUとが、
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
を満たすとき、位相シフト膜を透過した露光光に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下になることを見出した。
また、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、屈折率nUとが、
式(1-A12) dU≦-70.62×nU
3+406.5×nU
2-795.7×nU+540.1
を満たすとき、位相シフト膜を透過した露光光に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が15度以下であることを見出した。
さらに、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、屈折率nUとが、
式(1-A13) dU≦201.1×nU
4-1407×nU
3+3700×nU
2-4356×nU+1956
を満たすとき、位相シフト膜を透過した露光光に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が10度以下になることを見出した。
【0028】
さらに、本発明者らは、位相シフト膜の条件を変えて同様の光学シミュレーションB1を行ってみた。その位相シフト膜は、透光性基板側から第1層、第2層、および第3層が積層した構造とした。第1層は、膜厚を41nm、屈折率nを2.61、消衰係数kを0.36とした。第2層は、膜厚を24nm、屈折率nを2.18、消衰係数kを0.12とした。第3層は、膜厚を4nm、屈折率nを1.56、消衰係数kを0.00とした。なお、光学シミュレーションBでは、第3層が、上記の中間膜の機能も持ちうるため、位相シフト膜と透過率調整膜の間に中間膜を設けない構成とした。この光学シミュレーションB1の結果を元に、透過率調整膜の屈折率nと最大膜厚との関係を整理した。
【0029】
図10は、透過率調整膜の最大膜厚と、屈折率nとの関係について、光学シミュレーションA1と光学シミュレーションB1の結果を対比した図である。
図10に示されている曲線A11、A12およびA13は、光学シミュレーションA1の結果であり、
図9に図示したものと同じである。
図10に示されている曲線B11、B12およびB13は、それぞれ光学シミュレーションB1の結果であり、位相差の増加量がそれぞれ14度以下、11度以下、6度以下であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚をそれぞれ示している。
【0030】
図10において、曲線A11は、曲線B11(位相差の増加量が14度の閾値の曲線)よりも下にある。これは、曲線A11を基に導き出された式(1)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB1で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、位相差の増加量が14度以下になることを示している。同様に、曲線A12は、曲線B12よりも下にある。これは、曲線A12を基に導き出された式(1-A12)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB1で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、位相差の増加量が11度以下になることを示している。同様に、曲線A13は、曲線B13よりも下にある。これは、曲線A13を基に導き出された式(1-A13)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB1で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、位相差の増加量が6度以下になることを示している。これらの結果は、式(1)の関係を満たす透過率調整膜であれば、その下に設けられる位相シフト膜の光学特性に関わらず、上述した位相差の増加量が20度以下になることを意味する。
【0031】
一方、本発明者らは、位相シフト膜を透過した露光光の透過率に対して有意に異なる透過率が得られるものとして、位相シフト膜を透過した露光光の透過率Tpに対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光の透過率Tsの比(すなわち、Ts/Tp。以下、これを単に透過率の比ということがある。)が0.5以下であることを満たすため条件を検討した。この検討において、本発明者らは、透過率調整膜の最小膜厚と、消衰係数kとの関係に着目し、位相シフト膜および透過率調整膜について光学シミュレーションA2およびB2をそれぞれ行った。光学シミュレーションA2およびB2では、消衰係数kを1.5から2.0の範囲において、透過率調整膜の膜厚を変えながら、透過率の比が0.5以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚を算出した。なお、位相シフト膜に関しては、光学シミュレーションA2では、光学シミュレーションA1と同じものを用い、光学シミュレーションB2では、光学シミュレーションB1と同じものを用いた。
【0032】
その後、このシミュレーションA2およびB2の各結果を元に、透過率調整膜の消衰係数kと最小膜厚との関係を整理した。
図11は、透過率調整膜の最小膜厚と、消衰係数kとの関係について、光学シミュレーションA2と光学シミュレーションB2の結果を対比した図である。
図11に示されている曲線A21およびA22は、光学シミュレーションA2の結果であり、透過率の比がそれぞれ0.50以下、0.45以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚をそれぞれ示している。曲線B21およびB22は、光学シミュレーションB2の結果であり、透過率の比がそれぞれ0.50以下、0.43以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚をそれぞれ示している。
【0033】
図11中に示される、透過率の比が0.5以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚の関係式(曲線A21の数式)は、以下のようになる。
d
Umin=-2.805×k
U
3+19.48×k
U
2-43.58×k
U+38.11
また、
図11に示されるように、透過率の比が0.45以下であることを満たす曲線A22は、曲線A21よりも上側に位置している。透過率の比が0.45以下であることを満たすための、透過率調整膜の最小膜厚の関係式(曲線A22の数式)は、以下のようになる。
d
Umin=8.592×k
U
3-38.60×k
U
2+54.28×k
U-15.36
【0034】
これらの結果から、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、消衰係数kUとが、
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
を満たすときに、位相シフト膜を透過した露光光の透過率に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光の透過率の比が0.5以下であることを見出した。
また、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、消衰係数kUとが、
式(2-A22) dU≧8.592×kU
3-38.60×kU
2+54.28×kU-15.36
を満たすときに、位相シフト膜を透過した露光光の透過率に対して、位相シフト膜および透過率調整膜の積層構造を透過した露光光の透過率の比が0.45以下であることを見出した。
【0035】
図11において、曲線A21は、曲線B21(透過率の比が0.50の閾値の曲線)よりも上にある。これは、曲線A21を基に導き出された式(2)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB2で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、透過率の比が0.50以下になることを示している。同様に、曲線A22は、曲線B22(透過率の比が0.43の閾値の曲線)よりも上にある。これは、曲線A22を基に導き出された式(2-A22)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB2で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、透過率の比が0.45以下になることを示している。これらの結果は、式(2)の関係を満たす透過率調整膜であれば、その下に設けられる位相シフト膜の光学特性に関わらず、上述した透過率の比が0.50以下になることを意味する。
【0036】
このようにして、本発明者らは、式(1)および式(2)の関係を満たす透過率調整膜であれば、上述した位相差の増加量が20度以下であり、上述した透過率の比が0.50以下であることを突き止めた。本発明は、以上のような鋭意検討の結果、なされたものである。
【0037】
<第1の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明を行う。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマスクブランク10の構成を示す断面図である。
図1に示す本発明のマスクブランク10は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4、遮光膜5、ハードマスク膜6およびレジスト膜7がこの順に積層された構造を有する。
【0038】
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.5以上1.6以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
【0039】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上210度以下の範囲になるように調整されていることが好ましい。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、195度以下であることが好ましく、190度以下であるとより好ましい。
【0040】
位相シフト膜2は、露光光を12%以上の透過率で透過することが好ましい。近年、半導体基板(ウェハ)上のレジスト膜に対する露光・現像プロセスとしてNTD(Negative Tone Development)が用いられるようになってきていて、そこではブライトフィールドマスク(パターン開口率が高い転写用マスク)がよく用いられる。ブライトフィールドの位相シフトマスクでは、位相シフト膜の露光光に対する透過率を12%以上とすることにより、透光部を透過した光の0次光と1次光のバランスがよくなる。このバランスがよくなると、位相シフト膜を透過した露光光が0次光に干渉して光強度を減衰させる効果がより大きくなって、レジスト膜上でのパターン解像性が向上する。位相シフト効果による転写像(投影光学像)のパターンエッジ強調効果をより高めるために、位相シフト膜2は19%以上の透過率で透過することがより好ましく、28%以上の透過率で透過することがより好ましい。一方、位相シフト膜2のArF露光光に対する透過率は、50%以下であると好ましく、40%以下であるとより好ましい。位相シフト膜2のArF露光光に対する透過率が50%を超えると、サイドローブの影響が強くなりすぎるため、好ましくない。
【0041】
位相シフト膜2の厚さは90nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましい。一方で、位相シフト膜2の厚さは40nm以上であることが好ましく、50nm以上であるとより好ましい。
【0042】
位相シフト膜2において、前記の光学特性と膜の厚さに係る諸条件を満たすため、位相シフト膜の屈折率nは、2.0以上であると好ましく、2.1以上であるとより好ましい。また、位相シフト膜2の屈折率nは、3.0以下であると好ましく、2.9以下であるとより好ましい。位相シフト膜2の消衰係数kは、0.9以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。また、位相シフト膜2の消衰係数kは、0.1以上であると好ましい。
【0043】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。その薄膜を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、貴ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタリングターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0044】
位相シフト膜2は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成される。ケイ素と遷移金属を含有する材料で形成された薄膜は、消衰係数kが高くなる傾向がある。位相シフト膜2の全体膜厚を薄くするために、非金属元素とケイ素と遷移金属を含有する材料で位相シフト膜2を形成してもよい。この場合に含有させる遷移金属としては、例えば、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。一方、位相シフト膜2は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることが好ましい。
【0045】
位相シフト膜2に半金属元素を含有させる場合、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の半金属元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
位相シフト膜2に非金属元素を含有させる場合、窒素、酸素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の非金属元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の貴ガスも含まれる。
なお、位相シフト膜2の全体の組成において、窒素及び酸素の合計含有量が40原子%以上であることが好ましく、50原子%以上であるとより好ましい。
【0046】
位相シフト膜2は、金属元素と酸素を含有する材料で形成してもよい。この場合に含有させる金属元素としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。この場合、位相シフト膜2の酸素の含有量は、40原子%以上であることが好ましく、50原子%以上であるとより好ましい。
【0047】
本実施形態では、位相シフト膜2と、透過率調整膜4との間に、ケイ素と酸素を含有する中間膜3を備える。この中間膜3は、位相シフト膜2に対するエッチングストッパー膜として機能するものであり、位相シフト膜2にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分である。また、特に限定されるものではないが、この中間膜3は、基板1と同じ材料で構成されることが好ましい。このようにすることで、ドライエッチングで位相シフト膜2にパターンを形成する際に、露出した透光性基板1の表面がエッチングガスの影響によりエッチングされた場合であっても、中間膜3も同程度の量エッチングされることになる。したがって、位相シフトパターンが形成されたときに、透光性基板1の露出した部位を透過する露光光と、位相シフト膜2(及び中間膜3)を透過する露光光との位相差は、上述した好適な範囲に確保されることになる。このように、本実施形態のマスクブランクは、中間膜3を設けることで、位相シフト機能の信頼性を高めることができる点で好ましい。中間膜3の酸素含有量は、50原子%以上であると好ましく、55原子%以上であるとより好ましく、60原子%以上であるとさらに好ましい。中間膜3の厚さは1nm以上であると好ましく、2nm以上であるとより好ましい。また、中間膜3の厚さは10nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。
【0048】
マスクブランク10は、中間膜3の上に、透過率調整膜4を有するものである。この透過率調整膜4は、露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
上述のように、式(1)を満たす透過率調整膜4であれば、位相シフト膜2を透過した露光光に対して、位相シフト膜2および透過率調整膜4の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下であるという条件を満たすことができる。そして、式(2)を満たす透過率調整膜4であれば、位相シフト膜2を透過した露光光の透過率に対して、位相シフト膜2および透過率調整膜4の積層構造を透過した露光光の透過率の比が0.50以下であるという条件を満たすことができる。
【0049】
そのうえで、透過率調整膜4の屈折率nUは、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。また、透過率調整膜4の屈折率nUは、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。一方、透過率調整膜4の消衰係数kUは、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。また、透過率調整膜4の消衰係数kUは、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
また、透過率調整膜4の消衰係数kUと厚さdU[nm]は、下記の式(3)の関係を満たすことが好ましい。
式(3) dU≦8.646×kU
2-38.42×kU+61.89
【0050】
この式(3)の導出の経緯について述べる。本発明者らは、12%以上の透過率を有する位相シフト膜2の上に透過率調整膜4を設けた場合において、位相シフト膜2および透過率調整膜4を透過する透過率(以下、これを積層体透過率ということがある。)が2%以上となる条件について検討を行った。この検討において、本発明者らは、透過率調整膜の最大膜厚と、消衰係数kとの関係に着目し、位相シフト膜および透過率調整膜について光学シミュレーションA3およびB3をそれぞれ行った。光学シミュレーションA3およびB3では、消衰係数kを1.5から2.0の範囲において、透過率調整膜の膜厚を変えながら、積層体透過率が2%以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚を算出した。なお、位相シフト膜に関しては、光学シミュレーションA3では、光学シミュレーションA1およびA2と同じものを用い、光学シミュレーションB3では、光学シミュレーションB1およびB2と同じものを用いた。
【0051】
その後、このシミュレーションA3およびB3の各結果を元に、透過率調整膜の消衰係数kと最大膜厚との関係を整理した。
図12は、透過率調整膜の最大膜厚と、消衰係数kとの関係について、光学シミュレーションA3と光学シミュレーションB3の結果を対比した図である。
図12に示されている曲線A31およびA32は、光学シミュレーションA3の結果であり、積層体透過率がそれぞれ2%以上、4%以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚をそれぞれ示している。曲線B31およびB32は、光学シミュレーションB2の結果であり、積層体透過率がそれぞれ2%以上、4%以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚をそれぞれ示している。
【0052】
図12中に示される、積層体透過率が2%以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚の関係式(曲線A31の数式)は、以下のようになる。
d
Umax=8.646×k
U
2-38.42×k
U+61.89
また、
図12に示されるように、積層体透過率が4%以上であることを満たす曲線A32は、曲線A31よりも下側に位置している。積層体透過率が4%以上であることを満たすための、透過率調整膜の最大膜厚の関係式(曲線A32の数式)は、以下のようになる。
d
Umax=5.101×k
U
2-22.46×k
U+38.44
【0053】
これらの結果から、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、消衰係数kUとが、
式(3) dU≦8.646×kU
2-38.42×kU+61.89
を満たすときに、積層体透過率が2%以上であることを見出した。
また、透過率調整膜の膜厚dU[nm]と、消衰係数kUとが、
式(3-A32) dU≦5.101×kU
2-22.46×kU+38.44
を満たすときに、積層体透過率が4%以上であることを見出した。
【0054】
図11において、曲線A31は、曲線B31(積層体透過率が2%以上の閾値の曲線)よりも下にある。これは、曲線A31を基に導き出された式(3)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB3で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、積層体透過率が2%以上になることを示している。同様に、曲線A32は、曲線B32(積層体透過率が4%以上の閾値の曲線)よりも下にある。これは、曲線A32を基に導き出された式(3-A32)の関係を満たす透過率調整膜は、光学シミュレーションB3で用いた位相シフト膜の上に設けた場合であっても、積層体透過率が4%以上になることを示している。
これらの結果は、式(3)の関係を満たす透過率調整膜であれば、その下に設けられる位相シフト膜の光学特性に関わらず、積層体透過率が2%以上になることを意味する。
【0055】
透過率調整膜4は、上記の光学特性を得られるのであれば、いずれの材料を用いてもよい。透過率調整膜4は、ケイ素を含有することが好ましく、ケイ素と非金属元素を含有することがより好ましい。また、透過率調整膜4は、ケイ素と窒素を含有することが、所望の特性を得られやすい点で好ましい。透過率調整膜4は、ケイ素と窒素の合計含有量が97原子%以上であることがより好ましく、99原子%以上であるとさらに好ましい。
【0056】
マスクブランク10は、透過率調整膜4の上に遮光膜5を備えた構成としている。遮光膜5は、透過率調整膜4にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜5は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜5を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
【0057】
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜5を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜5を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0058】
一方、遮光膜5として、透過率調整膜4側からクロムを含有する材料からなる層とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を備えてもよい。この場合におけるクロムを含有する材料の具体的な事項については、上記の遮光膜5の場合と同様である。
【0059】
マスクブランク10において、遮光膜5をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜6を遮光膜5の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。ハードマスク膜6は、基本的に光学濃度の制限を受けないため、ハードマスク膜6の厚さは遮光膜5の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜7は、このハードマスク膜6にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分である。このため、レジスト膜7を従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜7の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
【0060】
このハードマスク膜6は、遮光膜5がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜6は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向がある。このため、ハードマスク膜6の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜6は、SiO2、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0061】
また、遮光膜5がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜6の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCN、などが挙げられる。また、ハードマスク膜6は、遮光膜5がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0062】
マスクブランク10において、ハードマスク膜6の表面に接して、有機系材料のレジスト膜7が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜6に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜7の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜7は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。なお、ケイ素を含有する材料でハードマスク膜6を形成している場合、レジスト膜を形成する前に、ハードマスク膜6の表面に対してHMDS(Hexamethyldisilazane)等を用いたシリル化処理を行うことが好ましい。
【0063】
位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4、遮光膜5、ハードマスク膜6は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましい。成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。また、レジスト膜7は、スピン塗布法によって形成される。
【0064】
このように、
図1を参照して本実施形態のマスクブランク10の構成を説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、中間膜3、ハードマスク膜6、レジスト膜7を有してない構成のマスクブランクであってもよい。また、基板1と位相シフト膜2との間にエッチングストッパー膜を設けた構成のマスクブランクであってもよい。この場合のエッチングストッパー膜の材料としては、例えば、アルミニウム、ケイ素および酸素を含有する材料、アルミニウム、ハフニウムおよび酸素を含有する材料、ハフニウムおよび酸素を含有する材料、クロムを含有する材料などが挙げられる。これらの点は、後述する第2の実施形態のマスクブランクにおいても同様である。
【0065】
[位相シフトマスクとその製造]
この第1の実施形態に係る位相シフトマスク100(
図2参照)では、透光性基板1上に、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2aを備え、この位相シフトパターン2a上に、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)4bを備えている。また、この位相シフトパターン2aと、この透過率調整パターン4bとの間に、第2のパターンを有する中間膜(中間パターン)3bを備えている。そして、この透過率調整膜4bの上に、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5cを備えている。
【0066】
すなわち、この第1の実施の形態に係る位相シフトマスク100は、透光性基板1上に、位相シフトパターン2aを備え、この位相シフトパターン2a上に、中間パターン3b、透過率調整パターン4b、遮光パターン5cを備え、この位相シフトパターン2aは、この位相シフトパターン2aを透過したArFエキシマレーザーの露光光に対してこの位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせ、この透過率調整パターン4bの露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とするものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
そして、この位相シフトマスク100における、透光性基板1、位相シフトパターン2a、中間パターン3b、透過率調整パターン4bおよび遮光パターン5cの具体的な構成については、マスクブランク10の場合と同様である。
【0067】
以下、要部断面模式図である
図3および
図4に示す製造工程にしたがって、この第1の実施形態に係る位相シフトマスク100の製造方法を説明する。
図1に示されるマスクブランク10においてスピン塗布法によって形成されたレジスト膜7に対して、位相シフト膜2に形成すべき第1のパターンを電子線で描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第1のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)7aを形成する(
図3(a)参照)。この第1のパターンには、位相シフト膜2に形成されて位相シフト効果を奏するための位相シフトパターンと、アライメントマーク用のパターン(
図2の左側の開口部)とが含まれている。
続いて、第1のレジストパターン7aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングをハードマスク膜6に対して行い、第1のパターンを有するハードマスク膜(ハードマスクパターン)6aを形成する(
図3(b)参照)。
【0068】
次に、第1のレジストパターン7aおよびハードマスクパターン6aをマスクとして、塩素系ガスと酸素系ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5に対して行い、第1のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5aを形成する(
図3(c)参照)。続いて、第1のレジストパターン7aを除去して洗浄処理を行い、遮光パターン5aおよびハードマスクパターン6aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを透過率調整膜4、中間膜3および位相シフト膜2に対して行い、第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)4a、第1のパターンを有する中間膜(中間パターン)3a、第1のパターンを部分的に有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2a’を形成する(
図3(d)参照)。このドライエッチングにより、ハードマスクパターン6aは除去される。なお、この位相シフト膜2に対するドライエッチングでは、後述の透過率調整膜4に透過率調整パターン4bをドライエッチングで形成する工程において、透過率調整パターン4bを形成し終えるときに、位相シフト膜2a’の残存している部分もほぼ同時に除去されるように、位相シフト膜2a’の残存する部分の厚さを調整することが好ましい。
【0069】
続いて、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、透過率調整膜4に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第2のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)8bを形成する(
図4(a)参照)。その後、レジストパターン8bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5aに対して行い、第2のパターンを有する遮光膜(遮光パターン5b)を形成する(
図4(a)参照)。
【0070】
そして、レジストパターン8bを除去して洗浄処理を行い、遮光パターン5bをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを透過率調整膜4に対して行い、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)4bを形成する(
図4(b)参照)。このとき、第1のパターンを部分的に有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2a’の露出した残存部分も除去されて、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2a’を形成する(
図4(b)参照)。
【0071】
そして、遮光パターン5bおよび透過率調整パターン4bをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチング(オーバーエッチング)を中間パターン3aに対して行い、第2のパターンを有する中間膜(中間パターン)3bを形成する(
図4(c)参照)。このとき、透光性基板1の露出部分がフッ素系ガスによって掘り込まれる場合があるが、上述のように中間膜3は透光性基板1と同等の材料で形成されているため、透光性基板1の露出部分と、位相シフトパターン2aの露出部分との間での所望の位相差を確保することができる。
【0072】
そして、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、遮光膜5に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第3のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)9cを形成する(
図4(d)参照)。その後、レジストパターン9cをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光パターン5bに対して行い、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5cを形成する(
図4(d)参照)。
その後、レジストパターン9cを除去してから洗浄工程を行う。このようにして、
図2に示される位相シフトマスク100を製造することができる。
【0073】
[半導体デバイスの製造]
第1の実施形態の半導体デバイスの製造方法は、第1の実施形態の位相シフトマスク100または第1の実施形態のマスクブランク10を用いて製造された位相シフトマスク100を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。このため、第1の実施形態の位相シフトマスク100を用いて半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写すると、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを形成することができる。
【0074】
<第2の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
図5は、本発明の第2の実施形態に係るマスクブランク20の構成を示す断面図である。
図5に示すマスクブランク20は、位相シフト膜15を、第1層12、第2層13、第3層14を積層した3層構造で構成し、この位相シフト膜15の上に透過率調整膜16を備えている点が、
図1に示すマスクブランク10と異なっている。以下、第1の実施形態のマスクブランク10と共通する点については、適宜その説明を省略する。
【0075】
本実施形態における位相シフト膜15は、第1層12、第2層13、第3層14のArF露光光の波長におけるそれぞれの屈折率n1、n2、n3がn1>n2>n3の関係を満たし、第1層12、第2層13および第3層14のそれぞれの消衰係数k1、k2、k3が、k1>k2>k3の関係を満たすように構成されている。加えて、第1層12、第2層13、第3層14のそれぞれの膜厚d1、d2、d3がd1>d2>d3の関係を満たすように構成されている。
位相シフト膜15は、このような関係を満たす第1層12、第2層13、第3層14で構成され、これにより、第1の実施形態における位相シフト膜2よりも高い透過率を有する位相シフト膜とすることができる。なお、この位相シフト膜15の構成は、光学シミュレーションB1、B2、B3のシミュレーション時に設定した位相シフト膜の条件が含まれている。
【0076】
位相シフト膜15を構成する材料は、第1の実施形態の位相シフト膜2と同様のものを適用できる。また、位相シフト膜15の全体の組成において、窒素及び酸素の合計含有量が40原子%以上であることが好ましく、50原子%以上であるとより好ましい。
第1層12は、ケイ素および窒素を含有する材料で形成されることが好ましく、第2層13は、ケイ素、酸素、および窒素を含有する材料で形成されることが好ましく、最上層である第3層14は、ケイ素および酸素を含有する材料で形成されることが好ましい。
【0077】
また、透過率調整膜16は、位相シフト膜15の上に積層されており、この点が、第1の実施の形態における透過率調整膜4と異なっている。他に満たすべき条件については、第1の実施の形態における透過率調整膜4と同様である。
【0078】
以上のように、本実施形態におけるマスクブランク20は、位相シフト膜15の上に、透過率調整膜16を有するものである。この透過率調整膜16は、露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
上述のように、式(1)を満たす透過率調整膜16であれば、位相シフト膜15を透過した露光光に対して、位相シフト膜15および透過率調整膜16の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下であるという条件を満たすことができる。そして、式(2)を満たす透過率調整膜16であれば、位相シフト膜15を透過した露光光の透過率に対して、位相シフト膜15および透過率調整膜16の積層構造を透過した露光光の透過率の比が0.50以下であるという条件を満たすことができる。
【0079】
[位相シフトマスクとその製造]
この第2の実施形態に係る位相シフトマスク200(
図6参照)では、透光性基板1上に、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)15aを備え、この位相シフトパターン15a上に、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)16bを備えている。また、この位相シフトパターン15aは、透光性基板1側とは反対の表面側に、ケイ素と酸素を含有する最上層である第1のパターンを有する第3層14aを備えている。そして、この透過率調整パターン16bの上に、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5cを備えている。
【0080】
すなわち、この第2の実施の形態に係る位相シフトマスク200は、透光性基板1上に、位相シフトパターン15aを備え、この位相シフトパターン15a上に、透過率調整パターン16b、遮光パターン5cを備え、この位相シフトパターン15aは、この位相シフトパターン15aを透過したArFエキシマレーザーの露光光に対してこの位相シフトパターン15aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせ、この透過率調整パターン16bの露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とするものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
そして、この位相シフトマスク200における、透光性基板1、位相シフトパターン15a、透過率調整パターン16bおよび遮光パターン5cの具体的な構成については、マスクブランク20の場合と同様である。
【0081】
以下、要部断面模式図である
図7および
図8に示す製造工程にしたがって、この第2の実施形態に係る位相シフトマスク200の製造方法を説明する。
図5に示されるマスクブランク20においてスピン塗布法によって形成されたレジスト膜7に対して、位相シフト膜15に形成すべき第1のパターンを電子線で描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第1のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)7aを形成する(
図7(a)参照)。この第1のパターンには、位相シフト膜15に形成されて位相シフト効果を奏するための位相シフトパターンと、アライメントマーク用のパターン(
図6の左側の開口部)とが含まれている。
続いて、第1のレジストパターン7aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングをハードマスク膜6に対して行い、第1のパターンを有するハードマスク膜(ハードマスクパターン)6aを形成する(
図7(b)参照)。
【0082】
次に、第1のレジストパターン7aおよびハードマスクパターン6aをマスクとして、塩素系ガスと酸素系ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5に対して行い、第1のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5aを形成する(
図7(c)参照)。続いて、第1のレジストパターン7aを除去して洗浄処理を行い、遮光パターン5aおよびハードマスクパターン6aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを透過率調整膜16および位相シフト膜15に対して行い、第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)16a、第1のパターンを部分的に有する位相シフト膜(位相シフトパターン)15a’を形成する(
図7(d)参照)。この位相シフトパターン15a’は、第1のパターンを部分的に有する第1層12a’、第1のパターンを有する第2層13a、第1のパターンを有する第3層14aとで構成されている。このドライエッチングにより、ハードマスクパターン6aは除去される。なお、この位相シフト膜15に対するドライエッチングでは、後述の透過率調整膜16に透過率調整パターン16bをドライエッチングで形成する工程において、透過率調整パターン16bを形成し終えるときに、位相シフト膜15a’(第1層12a’)の残存している部分もほぼ同時に除去されるように、位相シフト膜15a’(第1層12a’)の残存する部分の厚さを調整することが好ましい。
【0083】
続いて、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、透過率調整膜16に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第2のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)8bを形成する(
図8(a)参照)。その後、レジストパターン8bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5aに対して行い、第2のパターンを有する遮光膜(遮光パターン5b)を形成する(
図8(a)参照)。
【0084】
そして、レジストパターン8bを除去して洗浄処理を行い、遮光パターン5bをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを透過率調整膜16に対して行い、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)16bを形成する(
図8(b)参照)。このとき、第1のパターンを部分的に有する位相シフト膜(位相シフトパターン)15a’の露出した残存部分も除去されて、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)15aを形成する(
図8(b)参照)。
【0085】
そして、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、遮光膜5に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第3のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)9cを形成する(
図8(c)参照)。その後、レジストパターン9cをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光パターン5bに対して行い、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5cを形成する(
図8(c)参照)。
その後、レジストパターン9cを除去してから洗浄工程を行う。このようにして、
図6に示される位相シフトマスク200を製造することができる。
【0086】
[半導体デバイスの製造]
第2の実施形態の半導体デバイスの製造方法は、第2の実施形態の位相シフトマスク200または第2の実施形態のマスクブランク20を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。このため、第2の実施形態の位相シフトマスク200を用いて半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写すると、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを形成することができる。
【0087】
<第3の実施形態>
[マスクブランクとその製造]
図13は、本発明の第3の実施形態に係るマスクブランク30の構成を示す断面図である。
図13に示すマスクブランク30は、位相シフト膜2の上に透過率調整膜41を直接設けた点と、透過率調整膜41と遮光膜5の間にエッチングストッパー膜31を配置した点が、
図1に示すマスクブランク10と異なっている。以下、第1の実施形態のマスクブランク10と共通する点については、適宜その説明を省略する。
【0088】
本実施形態における透過率調整膜41はクロムを含有する材料で形成されている。この透過率調整膜41は、位相シフト膜2との間で十分なエッチング選択性を有するため、第1の実施形態における中間膜3に相当する膜は設けていない。透過率調整膜41は、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料で形成されることが好ましい。また、透過率調整膜41は、遮光膜5に用いられているクロム系材料を用いることができる。この透過率調整膜41の露光光の波長における屈折率nU、露光光の波長における消衰係数kU、厚さdU[nm]は、前記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすように設計される。
【0089】
本実施形態におけるエッチングストッパー膜31は、遮光膜5を前記のクロムを含有する材料で形成した場合において、遮光膜5をドライエッチングでパターニングするときにエッチングストッパーとして機能する。エッチングストッパー膜31には、ケイ素を含有する材料を用いることができる。エッチングストッパー膜31は、ケイ素と酸素を含有する材料で形成されると好ましい。一方、エッチングストッパー膜31は、タンタルと酸素を含有する材料で形成することもできる。エッチングストッパー膜31の厚さは1nm以上であると好ましく、2nm以上であるとより好ましい。また、エッチングストッパー膜31の厚さは10nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。なお、本実施形態において、ケイ素を含有する材料あるいはタンタルを含有する材料で遮光膜5を形成する場合は、エッチングストッパー膜31を設けなくてもよい。
【0090】
以上のように、本実施形態におけるマスクブランク30は、位相シフト膜2の上に、透過率調整膜41を有するものである。この透過率調整膜41は、露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
上述のように、式(1)を満たす透過率調整膜41であれば、位相シフト膜2を透過した露光光に対して、位相シフト膜2および透過率調整膜41の積層構造を透過した露光光に対する位相差の増加量が20度以下であるという条件を満たすことができる。そして、式(2)を満たす透過率調整膜41であれば、位相シフト膜2を透過した露光光の透過率に対して、位相シフト膜2および透過率調整膜41の積層構造を透過した露光光の透過率の比が0.50以下であるという条件を満たすことができる。
【0091】
[位相シフトマスクとその製造]
この第3の実施形態に係る位相シフトマスク300(
図14参照)では、透光性基板1上に、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2aを備え、この位相シフトパターン2a上に、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)41bを備えている。また、この透過率調整パターン41bの上に、第2のパターンを有するエッチングストッパー膜(エッチングストッパーパターン)31bを備えている。そして、このエッチングストッパー膜31bの上に、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5cを備えている。
【0092】
すなわち、この第3の実施の形態に係る位相シフトマスク300は、透光性基板1上に、位相シフトパターン2aを備え、この位相シフトパターン2a上に、透過率調整パターン41b、エッチングストッパーパターン31b、遮光パターン5cを備え、この位相シフトパターン2aは、この位相シフトパターン2aを透過したArFエキシマレーザーの露光光に対してこの位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせ、この透過率調整パターン41bの露光光の波長における屈折率をnU、露光光の波長における消衰係数をkU、厚さをdU[nm]としたとき、下記の式(1)および式(2)の関係をともに満たすことを特徴とするものである。
式(1) dU≦-17.63×nU
3+142.0×nU
2-364.9×nU+315.8
式(2) dU≧-2.805×kU
3+19.48×kU
2-43.58×kU+38.11
そして、この位相シフトマスク300における、透光性基板1、位相シフトパターン2a、透過率調整パターン41b、エッチングストッパーパターン31bおよび遮光パターン5cの具体的な構成については、マスクブランク30の場合と同様である。
【0093】
以下、要部断面模式図である
図15および
図16に示す製造工程にしたがって、この第3の実施形態に係る位相シフトマスク300の製造方法を説明する。
図13に示されるマスクブランク30においてスピン塗布法によって形成されたレジスト膜7に対して、位相シフト膜2に形成すべき第1のパターンを電子線で描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第1のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)7aを形成する(
図15(a)参照)。この第1のパターンには、位相シフト膜2に形成されて位相シフト効果を奏するための位相シフトパターンが含まれている。
続いて、第1のレジストパターン7aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5に対して行い、第1のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)5aを形成する(
図15(b)参照)。
【0094】
次に、第1のレジストパターン7aおよび遮光パターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングをエッチングストッパー膜31に対して行い、第1のパターンを有するエッチングストッパー膜(エッチングストッパーパターン)31aを形成する(
図15(c)参照)。次に、第1のレジストパターン7aを除去して洗浄処理を行う。続いて、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、エッチングストッパー膜31および透過率調整膜41に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第2のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)8bを形成する(
図15(d)参照)。
【0095】
次に、レジストパターン8bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5aに対して行い、第2のパターンを有する遮光膜(遮光パターン5b)を形成する(
図16(a)参照)。このとき、エッチングストッパーパターン31aをマスクとするドライエッチングも透過率調整膜41に対して行われ、第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)41aが形成される。次に、第2のレジストパターン8bを除去して洗浄処理を行う。続いて、透過率調整パターン41aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを位相シフト膜2に対して行い、第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)2aを形成する(
図16(b)参照)。このとき、遮光パターン5bをマスクとするドライエッチングもエッチングストッパーパターン31aに対して行われ、第2のパターンを有するエッチングストッパー膜(エッチングストッパーパターン)31bが形成される。
【0096】
次に、第2のレジストパターン8bを除去して洗浄処理を行う。続いて、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。その後、レジスト膜に対して、遮光膜5に形成すべきパターンを電子線で描画して、さらに現像処理等の所定の処理を行うことによって第3のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)9cを形成する(
図16(c)参照)。次に、レジストパターン9cをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを遮光膜5bに対して行い、第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン5c)を形成する(
図16(d)参照)。このとき、エッチングストッパーパターン31bをマスクとするドライエッチングも透過率調整パターン41aに対して行われ、第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)41bが形成される。その後、レジストパターン9cを除去してから洗浄工程を行う。このようにして、
図14に示される位相シフトマスク300を製造することができる。
【0097】
[半導体デバイスの製造]
第3の実施形態の半導体デバイスの製造方法は、第3の実施形態の位相シフトマスク300または第3の実施形態のマスクブランク30を用いて製造された位相シフトマスク300を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。このため、第3の実施形態の位相シフトマスク300を用いて半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写すると、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを形成することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものである。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、ArF露光光の波長における屈折率nが1.556、消衰係数kが0.00であった。
【0099】
次に、成膜スパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスおよび窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2(SiN膜 Si:N=34.8原子%:65.2原子%)を60.4nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および酸素(O2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、位相シフト膜2上に、ケイ素および酸素からなる中間膜3(SiO2膜)を3.0nmの厚さで形成した。そして、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、ケイ素および窒素からなる透過率調整膜4を12.0nmの厚さで形成した。
【0100】
位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、別の透光性基板上に位相シフト膜を同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が18.6%、位相差が180.0度(deg)であった。また、別の透光性基板上に位相シフト膜と透過率調整膜とを同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が180.0度(deg)であった。なお、中間膜3は、膜厚が3nmと薄く、透光性基板と同様に高い透過率を有するものであるため、中間膜3の有無による透過率と位相差への影響は無視できるものである。
【0101】
さらに、この位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4の光学特性を測定したところ、位相シフト膜2は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.36であり、中間膜3は屈折率nが1.56、消衰係数kが0.00であり、透過率調整膜4は屈折率nUが1.52、消衰係数kUが2.09であった。
これらの透過率調整膜4の膜厚dU[nm]と、屈折率nUと、消衰係数kUの値は、式(1)、式(2)、式(3)のいずれの関係も満たすものである。
【0102】
次に、成膜スパッタ装置内に位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、透過率調整膜4上にCrOCからなる遮光膜5を44nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4および遮光膜5の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0103】
そして、この遮光膜5が形成された透光性基板1に対して、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、酸素(O2)および窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングにより遮光膜5の上に、ケイ素、窒素および酸素からなるハードマスク膜6を12nmの厚さで形成した。そして、ハードマスク膜6の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜6の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜7を膜厚80nmで形成した。
以上の手順により、透光性基板1上に、位相シフト膜2、中間膜3、透過率調整膜4、遮光膜5、ハードマスク膜6およびレジスト膜7が積層した構造を備えるマスクブランク10を製造した。
【0104】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク10を用い、実施形態1で述べた位相シフトマスクの製造方法の手順に従って、実施例1の位相シフトマスク100を作製した。
【0105】
作製した実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク100を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク100の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。この転写パターンは、比較的微細なパターンと、比較的疎なパターンとを含むものであった。
露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、いずれのパターンについても、所望の転写パターンが形成されていることが判明した。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0106】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
この実施例2のマスクブランク20は、位相シフト膜15を、第1層12、第2層13、第3層14を積層した3層構造で構成し、この位相シフト膜15の上に透過率調整膜16を備えている構成を除いて、実施例1のマスクブランク10と同様にして製造した。具体的には、この実施例2のマスクブランク20では、位相シフト膜15の第1層12aに、ケイ素および窒素からなり、波長193nmの光における屈折率nが2.61、消衰係数kが0.36である材料を用い、41nmの膜厚で形成し、第2層13aに、ケイ素、酸素および窒素からなり、波長193nmの光における屈折率nが2.18、消衰係数kが0.12である材料を用い、24nmの膜厚で形成し、第3層14aに、ケイ素および酸素からなり、波長193nmの光における屈折率nが1.56、消衰係数kが0.00である材料を用い、4nmの膜厚で形成した。そして、透過率調整膜16に、ケイ素および窒素からなり、波長193nmの光における屈折率nUが1.52、消衰係数kUが2.09である材料を用い、11.7nmの膜厚dUで成膜した。したがって、遮光膜5、ハードマスク膜6、レジスト膜7の材料や製法は実施例1と同じものである。
これらの透過率調整膜16の膜厚dU[nm]と、屈折率nUと、消衰係数kUの値も、式(1)、式(2)、式(3)のいずれの関係も満たすものである。
【0107】
位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、別の透光性基板上に位相シフト膜を同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が28.0%、位相差が180.0度(deg)であった。また、別の透光性基板上に位相シフト膜と透過率調整膜とを同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が178.0度(deg)であった。
【0108】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク20を用い、実施形態2で述べた位相シフトマスクの製造方法の手順に従って、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。
【0109】
作製した実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。この転写パターンは、比較的微細なパターンと、比較的疎なパターンとを含むものであった。
露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、いずれのパターンについても、所望の転写パターンが形成されていることが判明した。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0110】
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものである。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、ArF露光光の波長における屈折率nが1.556、消衰係数kが0.00であった。
【0111】
次に、成膜スパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスおよび窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2(SiN膜 Si:N=34.8原子%:65.2原子%)を60nmの厚さで形成した。続いて、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、位相シフト膜2の上にCrOCからなる透過率調整膜41を11nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および酸素(O2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、透過率調整膜41上に、ケイ素および酸素からなるエッチングストッパー膜31(SiO2膜)を3.0nmの厚さで形成した。
【0112】
位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、別の透光性基板上に位相シフト膜を同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が18.6%、位相差が180.0度(deg)であった。また、別の透光性基板上に位相シフト膜と透過率調整膜を同様に形成し、波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が191.0度(deg)であった。なお、エッチングストッパー膜31は、膜厚が3nmと薄く、透光性基板と同様に高い透過率を有するものであるため、エッチングストッパー膜31の有無による透過率と位相差への影響は無視できるものである。
【0113】
さらに、この位相シフト膜2、透過率調整膜41、エッチングストッパー膜31の光学特性を測定したところ、位相シフト膜2は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.36であり、透過率調整膜41は屈折率nUが1.82、消衰係数kUが1.83であり、エッチングストッパー膜31は屈折率nが1.56、消衰係数kが0.00であった。
この透過率調整膜41の膜厚dU[nm]と、屈折率nUと、消衰係数kUの値は、式(1)、式(2)、式(3)のいずれの関係も満たすものである。
【0114】
次に、エッチングストッパー膜31の上に3層構造の遮光膜5を78nmの厚さで形成した。具体的には、成膜スパッタ装置内に位相シフト膜2、透過率調整膜41、エッチングストッパー膜31が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、CrOCNからなる第1層を31nmの厚さで形成した。続いて、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、CrOCNからなる第2層を41nmの厚さで形成した。さらに、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、窒素(N2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリングにより、CrNからなる第3層を6nmの厚さで形成した。
【0115】
この位相シフト膜2、透過率調整膜41、エッチングストッパー膜31および遮光膜5の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.2以上であった。そして、スピン塗布法によって、遮光膜5の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜7を膜厚80nmで形成した。
以上の手順により、透光性基板1上に、位相シフト膜2、透過率調整膜41、エッチングストッパー膜31、遮光膜5およびレジスト膜7が積層した構造を備えるマスクブランク30を製造した。
【0116】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例3のマスクブランク30を用い、実施形態3で述べた位相シフトマスクの製造方法の手順に従って、実施例3の位相シフトマスク300を作製した。
【0117】
作製した実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク300を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク300の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。この転写パターンは、比較的微細なパターンと、比較的疎なパターンとを含むものであった。
露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、いずれのパターンについても、所望の転写パターンが形成されていることが判明した。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【符号の説明】
【0118】
1 透光性基板、2 位相シフト膜
2a 第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)
2a’ 第1のパターンを部分的に有する位相シフト膜(位相シフトパターン)
3 中間膜
3a 第1のパターンを有する中間膜(中間パターン)
3b 第2のパターンを有する中間膜(中間パターン)
4 透過率調整膜
4a 第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
4b 第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
5 遮光膜
5a 第1のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)
5b 第2のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)
5c 第3のパターンを有する遮光膜(遮光パターン)
6 ハードマスク膜
6a 第1のパターンを有するハードマスク膜(ハードマスクパターン)
7 レジスト膜
7a 第1のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)
8b 第2のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)
9c 第3のパターンを有するレジスト膜(レジストパターン)
10 マスクブランク
12 第1層
12a 第1のパターンを有する第1層
12a’ 第1のパターンを部分的に有する第1層
13 第2層
13a 第1のパターンを有する第2層
14 第3層
14a 第1のパターンを有する第3層
15 位相シフト膜
15a 第1のパターンを有する位相シフト膜(位相シフトパターン)
16 透過率調整膜
16a 第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
16b 第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
20 マスクブランク
30 マスクブランク
31 エッチングストッパー膜
31a 第1のパターンを有するエッチングストッパー膜(エッチングストッパーパターン)
31b 第2のパターンを有するエッチングストッパー膜(エッチングストッパーパターン)
41 透過率調整膜
41a 第1のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
41b 第2のパターンを有する透過率調整膜(透過率調整パターン)
100 位相シフトマスク
200 位相シフトマスク
300 位相シフトマスク