(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】電力変換装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20250114BHJP
【FI】
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2023567410
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2021046383
(87)【国際公開番号】W WO2023112231
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雪菜
(72)【発明者】
【氏名】河内 駿介
(72)【発明者】
【氏名】工藤 悠生
(72)【発明者】
【氏名】坂内 容子
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 廣次
(72)【発明者】
【氏名】三ッ本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】竹田 大輔
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-086560(JP,A)
【文献】特開2015-211617(JP,A)
【文献】特表2020-524970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から出力された直流電力を交流電力に変換して出力する変換部と、
前記変換部からの出力電圧の振幅及び位相を所定の設定値に維持する系統形成制御により前記出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第1変調指令を生成する系統形成制御部と、
前記出力電圧の振幅及び位相を所定の電力系統の電圧である系統電圧の振幅及び位相に追従させる系統追従制御により前記出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第2変調指令を生成する系統追従制御部と、
前記第1変調指令又は前記第2変調指令に基づいて前記出力電圧の振幅及び位相を変化させる変調部と、
前記第1変調指令又は前記第2変調指令のどちらか一方が前記変調部に入力されるように前記変調部への入力を切り替える切替部と、
前記変調部への入力が前記第2変調指令から前記第1変調指令に切り替えられる前に、前記第1変調指令の目標振幅と前記系統電圧の振幅との差分が閾値以下となり、且つ前記第1変調指令の目標周波数と前記系統電圧の周波数との差分が閾値以下となり、且つ前記第1変調指令の目標位相と前記系統電圧の位相との差分が閾値以下となるように、前記第1変調指令を補正する同期調整部と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記同期調整部は、
前記目標振幅と前記系統電圧の振幅との差分が大きいほど前記目標振幅に対する補正量が大きくなる振幅補正信号を生成する電圧調整部と、
前記目標周波数と前記系統電圧の周波数との差分が大きいほど前記目標周波数に対する補正量が大きくなる周波数補正信号を生成する周波数調整部と、
を含み、
前記第1変調指令は、前記振幅補正信号及び前記周波数補正信号に基づいて補正される、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記周波数調整部は、前記目標周波数に対する補正量が0以外の値となるように前記周波数補正信号を生成する、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
電源から出力された直流電力を交流電力に変換して出力する変換部を制御する情報処理装置に、
前記変換部からの出力電圧の振幅及び位相を所定の設定値に維持する系統形成制御により前記出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第1変調指令を生成する処理と、
前記出力電圧の振幅及び位相を所定の電力系統の電圧である系統電圧の振幅及び位相に追従させる系統追従制御により前記出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第2変調指令を生成する処理と、
前記第1変調指令又は前記第2変調指令に基づいて前記出力電圧の振幅及び位相を変化させる処理と、
前記出力電圧の振幅及び位相を変化させる変調部に前記第1変調指令又は前記第2変調指令のどちらか一方が入力されるように前記変調部への入力を切り替える処理と、
前記変調部への入力が前記第2変調指令から前記第1変調指令に切り替えられる前に、前記第1変調指令の目標振幅と前記系統電圧の振幅との差分が閾値以下となり、且つ前記第1変調指令の目標周波数と前記系統電圧の周波数との差分が閾値以下となり、且つ前記第1変調指令の目標位相と前記系統電圧の位相との差分が閾値以下となるように、前記第1変調指令を補正する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーを利用した発電機、蓄電池等の電源から出力される直流電力を交流電力に変換して出力するインバータ電源の利用が進められている。インバータ電源の制御方式として、系統形成(GFM:Grid Forming)型及び系統追従(GFL:Grid Following)型が知られている。系統形成型の制御(以下、GFM制御と記載する)は、インバータ電源の出力電圧の振幅及び位相を所定の設定値に維持する制御である。系統追従型の制御(以下、GFL制御と記載する)は、インバータ電源の出力電圧の振幅及び位相を所定の電力系統の電圧の振幅及び位相に追従させる制御である。上記のようなGFM制御及びGFL制御は、インバータ電源の使用状況等に応じて切り替えられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、GFL制御からGFM制御への切り替え時に出力電圧の位相や振幅が大きく変動し、インバータ電源の動作が不安定になる可能性がある。
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、制御方式の切り替え時における安定性を向上させることが可能な電力変換装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電力変換装置は、変換部と、系統形成制御部と、系統追従制御部と、変調部と、切替部と、同期調整部とを備える。変換部は、電源から出力された直流電力を交流電力に変換して出力する。系統形成制御部は、変換部からの出力電圧の振幅及び位相を所定の設定値に維持する系統形成制御により出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第1変調指令を生成する。系統追従制御部は、出力電圧の振幅及び位相を所定の電力系統の電圧である系統電圧の振幅及び位相に追従させる系統追従制御により出力電圧の振幅及び位相を変化させるための第2変調指令を生成する。変調部は、第1変調指令又は第2変調指令に基づいて出力電圧の振幅及び位相を変化させる。切替部は、第1変調指令又は第2変調指令のどちらか一方が変調部に入力されるように変調部への入力を切り替える。同期調整部は、変調部への入力が第2変調指令から第1変調指令に切り替えられる前に、第1変調指令の目標振幅と系統電圧の振幅との差分が閾値以下となり、且つ第1変調指令の目標周波数と系統電圧の周波数との差分が閾値以下となり、且つ第1変調指令の目標位相と系統電圧の位相との差分が閾値以下となるように、第1変調指令を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の電力システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態の電力変換装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態の電力変換装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態のGFM制御部における処理の一例を示す制御ブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態の同期調整部における処理の一例を示す制御ブロック図である。
【
図6】
図6は、実施形態の電力変換装置のGFL制御からGFM制御への切り替え時における処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。
【0009】
図1は、実施形態の電力システム1の構成の一例を示すブロック図である。電力システム1は、インバータ電源11、変圧器12、及び電力系統13を含む。電力システム1は、例えば、インバータ電源11等の複数の電源を含む分散電源を利用して自立した電力系統13を構成する、いわゆるマイクログリッドシステム等であり得る。
【0010】
インバータ電源11は、電源20及び電力変換装置21を含む。電源20は、直流電力を出力するユニットであり、例えば、再生可能エネルギー(例えば太陽光、風力等)を利用した発電機、蓄電池等であり得る。電力変換装置21は、電源20から出力される直流電力を交流電力に変換して出力する装置である。なお、1つの電力変換装置21に複数の電源20が接続されてもよい。
【0011】
本実施形態の電力変換装置21は、出力電圧の振幅及び位相を所定の設定値を維持するGFM制御(系統形成制御)と、出力電圧の振幅及び位相を電力系統13の電圧の振幅及び位相に追従させるGFL制御(系統追従制御)とを適宜切り替えて実行する機能を備える。
【0012】
インバータ電源11(電力変換装置21)から出力された交流電力は、変圧器12により昇圧された後、電力系統13に出力される。なお、インバータ電源11や電力系統13の特性によっては変圧器12が不要となる場合がある。
【0013】
図2は、実施形態の電力変換装置21のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。ここで例示する電力変換装置21は、電力変換回路31、高周波フィルタ回路32、及び制御装置33(情報処理装置の一例)を備える。
【0014】
電力変換回路31は、電源20から出力された直流電力を交流電力に変換する回路であり、例えば、コンバータ回路、PWM(Pulse Width Modulation)回路等を利用して構成され得る。高周波フィルタ回路32は、電力変換回路31の出力に対して高周波フィルタ(ローパスフィルタ)処理を行う回路(例えばリアクトル)である。制御装置33は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を含み、メモリに記憶されたプログラムに従って所定の演算処理や制御処理を実行する集積回路である。制御装置33は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を利用して構成されてもよい。
【0015】
電力変換回路31は、制御装置33から出力される変調指令に基づいて出力電圧の振幅及び位相を変化させる。制御装置33は、電力変換回路31からの出力のフィードバック信号、電力系統13の電圧に関する系統電圧情報等に基づいてGFM制御又はGFL制御を行い、電力変換装置21からの出力電力Pout(出力電圧VS)の振幅及び位相を変化させる変調指令を生成する。ここで例示する構成においては、制御装置33は、高周波フィルタ回路32を流れるリアクトル電流IL、高周波フィルタ回路32からの出力電流IS、高周波フィルタ回路32からの出力電圧VS等に基づいて有効電力及び無効電力を算出する。
【0016】
また、本実施形態の制御装置33は、GFM制御とGFL制御とを所定の条件に応じて切り替える機能、GFL制御からGLM制御への切り替え時における安定性の向上(例えば出力電圧の急変動の抑制等)を図るために変調指令を補正する機能等を有する。
【0017】
図3は、実施形態の電力変換装置21の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の電力変換装置21は、変換部101、GFM制御部102(系統形成制御部)、GFL制御部103(系統追従制御部)、変調部104、及び切替部105を備える。これらの機能的構成要素101~105は、例えば、
図2に例示したようなハードウェア要素と、制御装置33を制御するプログラム等のソフトウェア要素との協働により構成され得る。
【0018】
変換部101は、電源20から出力された直流電力を交流電力に変換した出力電力(有効出力電力)Poutを出力する。このとき、変換部101からの出力電圧VSの振幅及び位相は、変調部104により調整される。
【0019】
GFM制御部102は、出力電圧VSの振幅及び位相を所定の設定値に維持するGFM制御を実行し、当該GFM制御により出力電圧VSの振幅及び位相を変化させるための第1変調指令を生成する。GFL制御部103は、出力電圧VSの振幅及び位相を所定の電力系統(例えば電力系統13)の電圧(系統電圧)の振幅及び位相に追従させるGFL制御を実行し、当該GFL制御により出力電圧VSの振幅及び位相を変化させるための第2変調指令を生成する。
【0020】
切替部105は、所定の制御機構から出力される切替信号に応じて、第1変調指令又は第2変調指令のどちらか一方が変調部104に入力されるように、変調部104への入力を切り替える。変調部104は、第1変調指令又は第2変調指令に基づいて、出力電圧VSの振幅及び位相を変化させる。
【0021】
本実施形態のGFM制御部102は、電圧制御部111、位相制御部112、及び同期調整部113を備える。
【0022】
電圧制御部111は、GFM制御により演算される出力電圧VSの振幅の目標値を示す振幅指令を生成する。位相制御部112は、GFM制御により演算される出力電圧VSの位相の目標値を示す位相指令を生成する。第1変調指令は、電圧制御部111により生成された振幅指令と位相制御部112により生成された位相指令とに基づいて生成される。
【0023】
同期調整部113は、GFL制御からGFM制御に切り替わる際に、出力電圧VSの変動が抑制されるように第1変調指令を補正する。本実施形態の同期調整部113は、変調部104への入力が第2変調指令から第1変調指令に切り替えられる前に、第1変調指令の目標振幅と系統電圧の振幅との差分が閾値以下となり、且つ第1変調指令の目標周波数と系統電圧の周波数との差分が閾値以下となり、且つ第1変調指令の目標位相と系統電圧の位相との差分が閾値以下となるように、第1変調指令を補正する。
【0024】
図4は、実施形態のGFM制御部102における処理の一例を示す制御ブロック図である。電圧制御部111において、無効電力指令値Q
refから無効電力出力値Q
outを減算した値に対するQ-Vドループ制御により、振幅指令オフセット値V
offsetを演算する。基準振幅設定値V
set、振幅指令オフセット値V
offset、及び後述する振幅指令補正値V
corr(振幅補正信号の一例)を加算した第1振幅設定値V
1を演算する。第1振幅設定値V
1からd軸系統振幅V
sdを減算した値に対する自動電圧調整処理(AVR:Automatic Voltage Regulator)により第2振幅設定値V
2を演算する。第1振幅設定値V
1と第2振幅設定値V
2とを加算することにより、d軸の振幅指令としてのインバータ出力d軸振幅指令値V
dref(目標振幅の一例)を演算する。また、q軸の振幅指令としてのインバータ出力q軸振幅指令値V
drefは、通常時(例えばGFM制御が所定の安定状態で実行されているとき)には0となる。
【0025】
位相制御部112において、有効電力指令値Prefから有効電力出力値Poutを減算した値に対するP-fドループ制御又はVSG(Virtual Synchronous Generator)制御により周波数ω1を演算する。周波数ω1と後述する周波数指令補正値Fcorr(周波数補正信号の一例)とを加算した値と、インバータ出力電圧周波数の基準周波数ω0との偏差Δωmを演算する。偏差Δωmと基準周波数ω0とを加算したインバータ出力電圧周波数ωm(目標周波数の一例)を積分要素の伝達関数1/Sで積分することにより、位相指令としてのインバータ出力電圧位相θGFM(目標位相の一例)を演算する。ここで、sはラプラス演算子である。
【0026】
インバータ出力d軸振幅指令値Vdref、インバータ出力q軸振幅指令値Vqref、及びインバータ出力電圧位相θGFMに基づいて、第1変調指令としてのインバータ出力電圧指令値Vref_GFMが生成される。GFL制御部103は、PLL(Phase Locked Loop)等を利用した所定のGFL制御により第2変調指令としてのインバータ出力電圧指令値Vref_GFLを生成する。切替部105は、切替信号に基づいて、出力電圧VSを変調するPWM120への入力を、インバータ出力電圧指令値Vref_GFM又はインバータ出力電圧指令値Vref_GFLのどちらか一方が入力されるように切り替える。
【0027】
同期調整部113は、系統電圧の振幅を示す系統振幅Vgrid、系統電圧の周波数を示す系統周波数Fgrid、系統電圧の位相を示す系統位相θgrid、及びフィードバック信号としてのインバータ出力電圧指令値Vref_GFMに基づいて、振幅指令補正値Vcorr及び周波数指令補正値Fcorrを生成する。振幅指令補正値Vcorrは、PWM120への入力がインバータ出力電圧指令値Vref_GFLからインバータ出力電圧指令値Vref_GFMへ切り替えられる際に、系統振幅Vgridとインバータ出力d軸振幅指令値Vdrefとの差分である振幅差分が小さくなるように生成される。また、周波数指令補正値Fcorrは、PWM120への入力がインバータ出力電圧指令値Vref_GFLからインバータ出力電圧指令値Vref_GFMへ切り替えられる際に、系統周波数Fgridとインバータ出力電圧周波数ωmとの差分である周波数差分が小さくなるように生成される。すなわち、振幅指令補正値Vcorrは、振幅差分が大きいほどインバータ出力d軸振幅指令値Vdrefに対する補正量が大きくなるように生成され、周波数指令補正値Fcorrは、周波数差分が大きいほどインバータ出力電圧周波数ωmに対する補正量が大きくなるように生成される。
【0028】
また、同期調整部113は、系統振幅Vgridとインバータ出力d軸振幅指令値Vdrefとの差分である振幅差分が閾値以下となり、且つ系統周波数Fgridとインバータ出力電圧周波数ωmとの差分である周波数差分が閾値以下となり、且つ系統位相θgridとインバータ出力電圧位相θGFMとの差分である位相差分が閾値以下となった場合に、条件達成通知信号を切替部115に出力する。切替部115は、条件達成通知信号の受信後に、PWM120への入力をインバータ出力電圧指令値Vref_GFLからインバータ出力電圧指令値Vref_GFMへ切り替える。
【0029】
図5は、実施形態の同期調整部113における処理の一例を示す制御ブロック図である。本実施形態の同期調整部113は、電圧調整部201及び周波数調整部202を備える。
【0030】
電圧調整部201において、系統振幅V
gridからインバータ出力d軸振幅指令値V
drefを減算した値に対して所定の時定数T
corrの一次遅れ要素の伝達関数が施される。ここで、
図5中のsはラプラス演算子である。そして、当該一次遅れ要素の伝達関数による処理後の値が振幅指令補正値V
corrとなる。振幅指令補正値V
corrは、GFL制御からGFM制御への切り替え完了後に0にリセットされる。
【0031】
周波数調整部202において、系統周波数Fgridからインバータ出力電圧周波数ωmを減算した値に対して所定の定数Kcorr_Pの比例ゲイン処理が施され、当該比例ゲイン処理後の値に対して所定の時定数Tcorrを用いた一次遅れ要素の伝達関数が施される。そして、当該一次遅れ要素の伝達関数による処理後の値と所定のバイアス周波数Fbiasとの加算値が周波数指令補正値Fcorrとなる。周波数指令補正値Fcorrは、GFL制御からGFM制御への切り替え完了後に0にリセットされる。バイアス周波数Fbiasを加算する処理により、GFL制御からGFM制御へ切り替わる前に周波数指令補正値Fcorrが0になることが回避される。これにより、系統周波数Fgridと出力電圧VSの周波数とが一致して両者の位相差(位相差分)が変化せず、上記「位相差分が閾値以下となる」という条件が満たされなくなる不具合を回避できる。
【0032】
図6は、実施形態の電力変換装置21のGFL制御からGFM制御への切り替え時における処理の一例を示すフローチャートである。同期調整部113は、GFL制御の実行中であるか(変調部104に第2変調指令が入力されているか)否かを判定し(S101)、GFL制御の実行中でない場合(S101:No)、本ルーチンを終了する。GFL制御の実行中である場合(S101:Yes)、同期調整部113は、GFM制御へ切り替える切替信号が受信されたか否かを判定し(S102)、GFM制御への切替信号が受信されていない場合(S103:No)、本ルーチンを終了する。
【0033】
GFM制御への切替信号が受信された場合(S102:Yes)、同期調整部113は、電力系統13から取得した系統電圧情報(系統振幅Vgrid、系統周波数Fgrid、及び系統位相θgrid)と第1変調指令(インバータ出力電圧指令値Vref_GFM)とに基づいて振幅差分ΔV、周波数差分ΔF、及び位相差分Δθを算出する(S103)。その後、同期調整部113は、振幅差分ΔVが閾値TV以下であり、且つ周波数差分ΔFが閾値TF以下であり、且つ位相差分Δθが閾値Tθ以下であるか否かを判定する(S104)。
【0034】
振幅差分ΔVが閾値TV以下であり、且つ周波数差分ΔFが閾値TF以下であり、且つ位相差分Δθが閾値Tθ以下である場合(S104:Yes)、GFL制御からGLM制御への切り替えが実行される(S105)。具体的には、同期調整部113が条件達成通知信号を切替部115に出力し、切替部115は、条件達成通知信号を受信すると、PWM120への入力をインバータ出力電圧指令値Vref_GFLからインバータ出力電圧指令値Vref_GFMに切り替える。
【0035】
一方、振幅差分ΔVが閾値TV以下であり、且つ周波数差分ΔFが閾値TF以下であり、且つ位相差分Δθが閾値Tθ以下であるという条件が満たされない場合(S104:No)、同期調整部113は、振幅指令補正値Vcorr及び周波数指令補正値Fcorrを生成し(S106)、これらの振幅指令補正値Vcorr及び周波数指令補正値Fcorrを用いてインバータ出力電圧指令値Vref_GFMを補正する(S107)。その後、補正後のインバータ出力電圧指令値Vref_GFMに基づいてステップS103が再度実行される。
【0036】
上記実施形態によれば、GFL制御からGFM制御へ切り替わる前に、振幅差分ΔV、周波数差分ΔF、及び位相差分Δθのそれぞれが閾値以下となるように、第1変調指令(インバータ出力電圧指令値Vref_GFM)が補正される。これにより、GFL制御からGFM制御への切り替え時における出力電圧の急激な変動を抑制でき、制御方式の切り替え時における安定性を向上させることができる。
【0037】
上述した実施形態の電力変換装置21の機能を実現するためのプログラムは、主に電力変換装置21が備える記憶装置に予め組み込んで提供されるものであるが、これに限らず、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成されてもよい。また、記憶媒体は、コンピュータ又は組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LAN、インターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶又は一時記憶した記憶媒体も含まれる。
【0038】
また、上記プログラムをインターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよく、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。
【0039】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1…電力システム、11…インバータ電源、12…変圧器、13…電力系統、20…電源、21…電力変換装置、31…電力変換回路、32…高周波フィルタ回路、33…制御装置、101…変換部、102…GFM制御部、103…GFL制御部、104…変調部、105…切替部、111…電圧制御部、112…位相制御部、113…同期調整部、120…PWM、201…電圧調整部、202…周波数調整部